月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第06話 1913年 『軍を増強しても、国は近代化しない』

 日本領西サモア(2944ku)

 サバイイ島(面積1700ku) + ウポル島(面積1115ku)の2つの島。

 そして、7つの小島から成り立っていた。

 二つの島は20kmほどしか離れていない。

 そして、アメリカ領東サモア(199ku)と71kmほど離れており、

 アメリカ合衆国と豪州を遮断できる位置にあった。

 日本は、この遠方の島に艦隊を派遣できないと要塞砲の設置を進めていた。

 アビス港

 装甲と主兵装を減らされ装甲巡洋艦にランク落ちした相模と周防が停泊していた。

 全長が150mに増したことで15000トン、

 機関が増して25000馬力となり、25ノット。

 45口径152mm3連装2基、40口径80mm連装砲8基。

 弱兵装は各国から軽んじられつつも、遠方での作戦で都合がよかった。

 運用面に限れば立派な通商破壊艦艇であり、商船狩りで有用な艦艇ともいえた。

 そして、列強は艦首と艦尾に50口径305mm連装砲が埋め込められていることは機密であり、

 列強が気付かず、油断すれば艦首50口径305mm砲に狙撃され、

 真後ろから追撃すれば、自ら50口径305mm砲の射線に飛び込むことになった。

 装甲巡洋艦 相模 艦橋

 赤レンガの住人たち

 「大きな島じゃないか」

 「サバイイ島(面積1700ku)はオアフ島(1600ku)より大きい」

 「日本のハワイという感じかな」

 「まぁ パラダイスではありますね」

 「自給自足できるのであれば、要塞を建設しても問題ないだろう」

 「問題は採算ですかね」

 「最近は世知辛くなったからな」

 「むかしは、もっと、なぁなぁで予算の不法流用だってやれたじゃないか」

 「もう、大陸から撤収しましたし、脅威をダシにした軍事費増大は、いい加減駄目でしょう」

 「んん・・・こうなったら国民と国家を人質に予算をよこせと・・・」

 「艦長・・・」

 「いやいや。それより、ドックは?」

 「建設中です」

 「軍艦は防錆のため、半年ごと塗装し直さなければならないからな」

 「日本製の塗装は大丈夫なのか?」

 「んん・・・買う方がいいかも・・・」

 「いい加減、そういう技術も向上させろよ」

 「取り敢えず、ドックも作らず、艦隊を前進させるわけにいかない」

 「どこぞのバカは、軍艦さえ作れば戦争できると思ってやがるから始末に負えんよ」

 「内地と外地を半年ごとに行ったり来たりしていたら戦争にならんからね」

 「まぁ ドックを建設すると財源不足で軍艦を建造できなくなるのが痛いけどね」

 「まぁね」

 

 

 

 05/30

 バルカン同盟諸国とオスマン帝国との間でロンドン条約締結(第1次バルカン戦争終結)

 

 

 

 06/13 軍部大臣現役武官制撤廃

 「くっそぉ〜 なぁああにが留学制度だ。バカが!」

 「ただの我田引水だろう。毎度毎度、ムカつくわ、国賊どもめ」

 ブスくれた軍人たちが首相官邸から出て行く。

 首相官邸

 「交換留学制度か・・・」

 「バルカン戦争が飛び火で、欧州戦争拡大の懸念があるというのにかね?」

 「むしろ、交換留学によって戦争を抑制できるかと」

 「日本の技術も高まったと思ったがな」

 「学生時代、知恵がついたと天狗になり、教科書を読まなくなった者から落後していきます」

 「科学を技術に転化し、技術を工業として軌道に乗せるには、もっと、多くの技術者が必要ですし」

 「既得権を得た先任技術者が、後塵の技術習得を妨害している節があるようです」

 「んん・・・交換留学のリストは、列強でない国もあるようだが」

 「資源を有する国もありますし、草の根的な民間交流と資本投資も必要かと」

 「資源開発か、山師的な投機は難しいぞ」

 「そういった知識とノウハウも、謙虚に習得すべきかと」

 「しかし、留学も投機に近いからな・・・成功率は?」

 「富くじより高いかと」

 「富くじねぇ 当たったことないぞ」

 「買わないと当たりませんし」

 「まぁ そうだけどね」

 「もっと日本民族を信じ、民族に投資すべきかと」

 「・・・信じれん」

 「総理!」

 「・・・・」

 総理大臣は、花瓶から一本の白いシャクヤク(芍薬)を抜き取ると、

 一つ一つ花弁を抜いて行く、

 日本民族の可能性は、古典的な花占いに委ねられてしまう。

 

 

 

列強各国の鉄鋼生産(100万トン)
アメリカ ドイツ イギリス ロシア フランス オーストリア・ハンガリー イタリア 日本
31.8 17.6 7.7 4.8 4.6 2.6 0.93 0.25
127.2倍 70.4倍 30.8倍 19.2倍 18.4倍 10.4倍 3.72倍  

 軍を増強しても国家は近代化しない。

 国力の指標となる鉄鋼の配分先によって国の性質が変わっていく。

 近代化は、鉄道、港湾、道路、橋、発電所、工場、学校、役所の集約が求められた。

 日本の鉄鋼生産量は少なく、社会基盤は、悲しいほど遅れていた。

 掻い摘んで言うと、戦争している場合じゃねぇ であり、

 如何にギリギリの無理で、国家を近代化させるかといえた。

 黒部ダム建設が始まり、

 1000万の人工雇用が作られていた。

 「あっちもこっちも水力発電建設、鉄道建設、港湾建設じゃないか。よく金があるな」

 「金本位制が崩れたからね」

 「金本位制を止めると円が紙屑になって、外国製品を買えなくなるじゃないか」

 「そん時は金の延べ棒で外国製品を買うしかないね」

 「貿易用の金・銀の回収で不利でも国内経済は回転させられる」

 「米英独の発注で外資を稼いでいるみたいだけど」

 「どちらにしろ、金が流出するじゃないか」

 「高い軍艦を買ってるわけじゃないから、大丈夫でしょう」

 「金持ちの列強と我を張ってもいいことないからね」

 

 

 06/29 第2次バルカン戦争勃発

 ブルガリア VS ギリシャ、セルビア、モンテネグロ、ルーマニア、オスマン帝国

 オーストリア帝国は、ひそかにブルガリアを支援していた。

 単にロシア系の浸透を恐れ、スラブ系が気に入らなかっただけである。

 ウィーン シェーンブルン宮殿

 「どうやら、ブルガリアは負けそうですな」

 「そうか。潮時だな」

 「最近の少数民族の動きは?」

 「移民枠の土地が確認されたのでしょう。少しずつ増えている模様です」

 「一番人気のあるのは、東ゲルマニアなのかね」

 「はい、気候が良く、シベリア鉄道で繋がっているのが好まれたようです」

 「日本も損な取引をしたものだ」

 「経済は成長しているとのことです」

 「いまのうちだけだろう」

 

 

 07/12

 中国各地の軍閥代表が清国議会に集結する。

 「日本と同様に清国も近代化するある」

 「製鉄所を建設し、発電所を建設し、造船所を建設し、戦艦を建造するある」

 「中華は世界の中心ある。まず、国内の安定を図るある」

 「なに言うある。近代化ある」

 「内政ある」

 「そんなのどうでもいいある。袖の下を欲しがる官僚をもっと殺すある」

 「そうある。排他的特権と規制を作って私腹を肥やす奴も殺すある」

 「でも、一定の規律は必要ある」

 「とにかく、数を減らさないと、近代化は上手くいかないある」

 「だいたい、権威主義で受け身過ぎるのが駄目ある」

 「アメリカ合衆国は積極的に成功を求めて働くし」

 「日本は、一揆と打ちこわしが減って上々ある」

 「でも、代わりに犯罪は増えるある」

 「そんなの構わないある」

 「犯罪は市民生活を脅かしても、権力体制を脅かさないある。平気ある」

 「でも、選挙で議員が選ばれるようになれば、少しは前向きに働くある」

 群雄割拠の戦国時代である清国で議会染みたことができた。

 これは、孫文が革命を諦め、立憲君主制に妥協した結果に過ぎない。

 上海を基盤に軍閥を結集させた孫文は最大勢力であり、

 北京の軍を押さえた袁世凱も強く、孫文の対抗馬となった。

 そして、袁世凱は、第1党党首の孫文に手柄を立てさせたくないためだけに反対する。

 清国海軍・国民党 孫文  VS  北洋軍閥 袁世凱。

 各地の軍閥は、離合集散しながら2大政党制に近付く。

 飲茶会での軍属議員たち、

 「中国の歴史は専制の奪い合いある。話し合いなど無駄ある」

 「そうある。匪賊の世界では、軍事力を握る者が中国大陸を支配するある」

 「議員は軍事力を手放せないある」

 「トップになった者が対抗勢力を次々と潰していったある。それが中国ある」

 「孫文の立憲君主制への移行は、歴史への裏切りある」

 「でも袁世凱の傍若無人は嫌いある」

 「こ、こうなったら、第3政党を作るある」

 「それいいある」

 ちょっとだけ、いろんな意見が反映され、民意が高まったりする。

 

 

 08/10 ブカレスト条約締結(第2次バルカン戦争終結)

 

 呉

摂津型戦艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離 兵員
26000 180×25×8.2 25000 23 10kt/10000海里 764
50口径305mm砲連装4基 45口径120mm単装砲8基    
摂津、河内

 

薩摩型戦艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離 兵員
22000 160×25×8.2 21600 22 10kt/10000海里 664
45口径305mm砲連装3基 45口径120mm単装砲8基    
薩摩、安芸

 

鞍馬型巡洋戦艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離 兵員
18000 160×23×8 24000 23 10kt/10000海里 564
45口径305mm砲連装3基 45口径120mm連装砲8基    
鞍馬、伊吹

 ド級型戦艦4隻、ド級型巡洋戦艦2隻が並んでいた。

 イギリス、ドイツ、アメリカのド級型戦艦、巡洋戦艦に比べ、

 トン数の割に兵装が少なめに見えたものの航洋性が高く。

 北東ニューギニアまで往復で来た。

 少なくとも太平洋域では最強と言っても過言ではなく、使える艦艇と言えた。

 戦艦 摂津 艦橋

 「これだけの陣容であれば対中対露は、問題なかろう」

 「問題は、香取以下の艦艇でしょうな」

 「全艦、兵装を落として、装甲巡洋艦とすべきでしょう」

 「しかし、国家予算が増大しているというのに、本当に資金繰りがつかないので?」

 「北ニューギニア開発で貧民層を一掃するそうだ」

 「貧富の格差で近代化できるのでは?」

 「食管法で内需が育ちつつあるからね、そうもいかないよ」

 「近代化に対しては、足枷だな」

 「それに国民の大半は、貧民層の存在で優越感を得ているというのに・・・」

 「優越感を得させるため競争させて、経済を活性化させたいのだろう」

 「貧富格差を広げて、大規模投資する方が効果的なのでは?」

 「山東半島、ゲルマニア(朝鮮)のドイツ帝国の公共投資の外需で底上げされている」

 「それに極東ドイツが隣国で、汲み取りが恥ずかしいんだと」

 「あと舗装されていない道とか」

 「そんな、ちんけなプライドを守るために下水処理場かよ」

 「ちっ バカどもが天然の良質肥料を恥ずかしがる」

 「見栄張って国防を疎かにするとは日本人も嘆かわしくなったものだ。死ねばいいのに」

 「そんなに近いドイツと比べられるのが嫌かね。気取り屋が」

 「大砲があれば、面子は保てるのに・・・」

 

 

 この時期の日本帝国が極東ドイツに影響され、近代化が優先されたのも、

 東ゲルマニア(朝鮮半島)、山東半島の公共投資の外需に乗ったのも事実であり。

 玄界灘の向こう側に建設されているヨーロッパは、日本を後進国であると認識させる。

 日本民族は、朝鮮人、漢民族と比較し、優越感に浸っていた気分が吹き飛び、

 貧民層の存在が日本の国威を貶める。

 軍事費より、公共投資の意識が強まり、

 軍事費は必然的に削減されていく。

 「軍事費は?」

 「だって、水洗じゃないと恥ずかしいじゃん」

 「舗装されてないと恥ずかしいし」

 「線路だって標準軌に変えないと」

 「オペラハウスとか、劇団とか、世界に通用させたいし」

 「江戸時代の貧乏長屋なんて見せられねぇ」

 「・・・・」

 

 

ドイツ帝国軍 巡戦 戦艦 装巡 軽巡 駆逐艦 潜水艦 軍(万)
北欧 ドイツ帝国 2   2 4 16 30 200
朝鮮半島 東ゲルマニア   2 2 2 8 30 100
遼東半島   10
山東半島 ホーエンツォレルン 20
トーゴランド 南バーデン   1 1 2 8 30 10
カメルーン 南ザクセン 10
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 1   1 2 8 20 10
南西アフリカ 南バイエルン   1 1 2 8 20 10
 
合計 3 4 7 12 48 130 370

 

 ゲルマニア(朝鮮半島)

 ドイツ人は、朝鮮人の学ぶ機会を与えず、文盲率の比率を増やしていく。

 元々、両班など一部の貴族しか漢字を知らず、

 それも支配が目的であるため、識字率は1割以下と低かった。

 中国事大は根強く、

 ハングルが公文に採用されたのものの、

 甲午改革(1894/11)の勅令1号公文式以降であり、

 東北、西北、中都、西南、東方、済州島など6方言は統一されておらず、

 ドイツ帝国に併合され混乱していた。

 ここで朝鮮民族は、朝鮮語、ハングルどころか、

 ドイツ語を覚える道までも閉ざされ、

 朝鮮人は、労働階級として隷属させられていく。

 インチョンガルト(仁川)港

 ドイツ極東艦隊が配備されていた。

プリンツ・アーダルベルト型装甲巡洋艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
9087 186.5×29.5×8.98   25.5  
40口径210mm砲連装2基 40口径150mm砲10基 35口径88mm12基 550mm魚雷4基
プリンツ・アーダルベルト、フリードリヒ・カール

 

コルベルク型小型巡洋艦 4隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
4362 130×14×5.58 30400 26.3 3520海里
45口径105mm砲12基 55口径mm砲4門 500mm魚雷2基
コルベルク、マインツ

    

 装甲巡洋艦2隻、小型巡洋艦2隻、駆逐艦8隻、潜水艦30隻。

 寡兵と言えたが潜水艦30隻は、脅威と言えた。

 そして、海軍工廠の完成に伴い戦艦2隻も来航してくる、

 プリンツ・アーダルベルト 艦橋

 「また、朝鮮人の強姦事件だそうですよ」

 「ったくぅ〜 朝鮮人というのは、ちょっと親切にすると突け上がるし、どうしようもないな」

 「上下関係とか、力関係で判断するからね。相手が親切にすると弱いと認識するようだ」

 「犯罪を起こすたびに数百倍の朝鮮人がいなくなるのなら悪くないがね」

 「ゲルマニアが完全にドイツ帝国になるのも近いでしょう」

 「やれやれ、被害者が不幸だよ」

 「ところで日本の巡洋艦は、いつまでいるのかな」

 「領事館への連絡らしいけど、巡洋戦艦が気になるのでしょう」

 「まぁ 興味あるだろうね」

 「しかし、何で本国の巡洋戦艦をゲルマニアに?」

 「イギリスが前ド級戦艦を日本に買わせたがっているらしくてね」

 「ドイツ海軍がそれに乗る理由があるのか?」

 「まぁ 交易上の便宜を図られたんじゃないの」

 「やっぱり、制海権を握っているイギリスはえげつない」

 「しかし、日本人は、中国人や朝鮮人とは毛並みが違うようだ」

 「ロシア帝国と戦って負けなかったんだから、それは言えるね」

 「その上、ドイツ帝国を極東に引き摺りこんで緩衝地帯にしてしまうなんてな」

 「まぁ こっちが本気で朝鮮半島を併合するとは思わなかったようだが」

 「だが、ロシア帝国やアメリカを利用して、微妙にバランスを保ってやがる」

 「イギリスの同盟国でもあるよ」

 「そうだった。さすがにイギリスと戦争はまずいな」

 

 

 日本海軍の3366トン級防護巡洋艦 新高が入港していた。

 「インチョンブルグ港か・・・あっという間に近代化していくんだな」

 「朝鮮人をあれだけ酷使すれば近代化も早いだろう」

 「本当にボロ雑巾のように使ってやがる。かわいそうに・・・」

 「ドイツと権益交換したからだ」

 「まさかドイツ帝国が朝鮮を併合すると思わないだろう」

 「中国、ロシア、アメリカよりドイツの方がマシだから、黙っていたけどね」

 「ほかの国も、そう思ったんじゃないの」

 「朝鮮も災難だな」

 「大使を殺したんだから自業自得だよ」

 「支離滅裂だし、媚びが上手過ぎてというか、卑屈過ぎるよ」

 「儒教を美しいと考えているようだけどね」

 「儒教は、権威者、権力者にとっては楽だよ」

 「最低限、年上を敬うとか、城医者の発言を聞くとか、儀礼的で程々で良いと思うよ」

 「あ・・来たよ」

 前ド級艦特有の艦首砲塔1基と両舷の中口径砲・・・

 ドイツ戦艦特有の背の低い艦橋。

ナッサウ型戦艦 4隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
18570 137.7×26.9×8.1 22000 19.5 10kt/8000海里
45口径283mm砲連装6基 45口径150mm砲12門 450mm魚雷5基
ラインラント、ポーゼン

 「ドイツ帝国海軍のナッサウ型戦艦2隻か」

 「装甲巡洋艦2隻と合わせて東アジアも一波乱かな」

 「何で東アジアに派遣したのかな」

 「日本が摂津、河内を建造したからじゃないの」

 「ゲルマニアと山東半島にドックを建設したからだろう」

 「すげぇ 戦艦2隻を運用できる社会基盤を構築したんだ」

 「極東ドイツ軍100万は伊達じゃないわけか」

 「どっちかというと、あの潜水艦の方が注目なんだけどねぇ」

 「んん・・・まだ、30隻くらいだから通商破壊をされると、やばいな」

 「だよねぇ」

 「やっぱり要塞砲もだけど、軍艦も必要だよねぇ」

 「さて、ドイツ戦艦来航を確認したし、帰るか」

 「ええ」

 

 

 アメリカ・ドイツ植民地 遼東半島

 アメリカ商船が入港し、物資を降ろしていく。

 アメリカ合衆国の売れ残りであり、

 中国に持って行くだけで、捌く事が出来た。

 清国は海軍力を整備することで、白人世界の浸透を防いだものの、

 ドイツ帝国は、三半島に地歩を固め、

 日本人労働者を雇えるためか、

 白人資本は、参入しやすくなっていた。

 そして、満州は穀物資源だけではなく、鉄、石炭、石油が産出し、

 アメリカとドイツ資本に富をもたらそうとしていた。

 撫順

 「土人どもめ、これだけの鉄、石炭、石油を眠らせるとは、愚かだな」

 「沿線沿いに工業地帯を伸ばして、中国市場に輸出すれば、莫大な金になりそうだ」

 そう、資本家の考えることは、私腹を肥やす事であり、

 海外利権は、支配と脱税の牙城でもあった。

 アメリカとドイツ資本に雇われた馬賊は、私兵となって、荒野を行き来し、

 反白勢力を一掃していく。

 

 

 呉

 日本は、大型商船需要に合わせ、30000トン級商船の建造を開始していた。

30000トン級 飛鳥
排水量 全長×全幅 HP 速度 乗員 1等 2等 3等
30000 240×25 70000 26ノット 700 400 500 1000

 高速船仕様であり、極東ドイツ移民に合わせたものだった。

 同時に同盟国のイギリス植民地を巡り、

 日本の南洋移民も兼ねているため、採算率は期待できそうだった。

 そして、港の隅に海中321トン級ハ3型潜水艦が並んでいた。

 イギリスから購入した海中321トン級イギリス製C1型潜水艦を国産で建造したものであり、

 ホランド型潜水艦に続く、日本潜水艦の雛型になるものだった。

 堤防に日本海軍将校が集まっていた。

 「どうよ。役に立ちそう?」

 「相手が止まっていたらね」

 「あり得ねぇ」

 「港湾に停泊しているところに忍び込んで撃沈すれば」

 「まぁ そんな感じかな」

 「ドイツ製潜水艦は1200トン級で性能良いらしいよ」

 「4倍かよ。科学技術じゃ勝てんな」

 「んん・・・ドイツが建艦競争をやめただけで、英独関係は微妙だからな」

 「潜水艦は可能性が高い。もっと大きな改装をしたいけどね」

 「予算がないよ」

 「・・・予算を流用してぇ〜」

 「小栗孝三郎は、中佐の時、それやって休職させられたじゃないか、小将になったけどね」

 「山本権兵衛は、不正流用して三笠買って大将になってるよ」

 「朝鮮半島権益と北ニューギニアを交換したからな」

 「もう、やっちゃえ空気が白い目で見られるから」

 「アレで、陸軍が退いたのがいけない」

 「ていうか、ロシア極東艦隊と清国艦隊が復活したら朝鮮半島防衛なんてやってられないだろう」

 「ドイツと権益交換するのが適当だったんだよ」

 「清国が近代化のため造船所、発電所、鉄道を作ろうとしているだろう」

 「このままだと産業で負けるってよ」

 「中国人は、どんな器作っても人材育てるより潰すからね」

 「それ言うと、軍事費も減らされるから・・・」

 「・・・・」 はぁ〜

 

 

 

 オーストリア=ハンガリー帝国(1867年〜)。

 面積676615ku。

 人口5100万を超える堂々たる帝国と言えた。

 しかし、その内実は、

 16民族が人権と権利を巡ってせめぎ合い、

 9言語の分裂が不和と混乱を起こし、

 5宗教の確執で精力を使い果たしていた。

 汎ゲルマン(ドイツ)、大セルビア(地場)、汎スラヴ(ロシア)の主義者が暗躍していた。

 そして、ドイツ人(27パーセント)=ハンガリー人(22パーセント)が支配する世界であり、

 既得権益を失えば、楽な生活も誇りさえも失う。

 そして、権利を委譲すれば、空中分解しかねない大国だったのである。

 権謀術数が渦巻く農業を中心にした前時代的な封建社会であり、

 近代化から取り残されていた。

 とはいえ、オーストリア・ハンガリー帝国は、不穏分子勢力を移民により縮小させつつあった。

 オーストリア・ハンガリー帝国(旧式艦艇) → ドイツ帝国 → 清国(旧式艦艇)、

 清国(資源) → ドイツ帝国(武器弾薬) → オーストリア・ハンガリー帝国(武器弾薬)。

 この一連流れで、清国は旧式艦隊を得て独立、

 そして、オーストリア・ハンガリー帝国は、武器弾薬を得て、治安回復を図り、

 ドイツ海外地へ少数民族を移民させ、状況を緩和させている、

 とはいえ、帝国を安定させる根本的な解決は、諸国民の自治を認めることであり、

 公平な社会を構築することだった。

 

 ウィーン ホーフブルク宮殿

 オーストリア皇帝・ハンガリー王フランツ・ヨーゼフ1世(83歳)は歳老いており、

 争いを避け、安逸に余生を過ごす気でいた。

 ところが国際情勢は、老人の気持ちなど考慮せず、

 逆に機会と捉えるのだった。

 新しく創設した5個師団は、膨大な鉄を必要とする。

 帝国は、国防においても、社会生活において、

 これほど、鉄を必要とした事がなかった。

 そのくせ、国の礎を農業に頼っているのだった。

 「陛下。最近、日本人がクーデンホーフ伯爵の元へ行っているようですが」

 「日本人か」

 「小賢しいな、中国大陸から追い出され、ほかの大陸と関わろうとしているのだろう」

 「農業器具か、あるいは部品を降ろしているそうです」

 「農業器具と部品・・・どうせロクでもないものだろう」

 「ドイツ製より、劣りますがドイツ製より安いようです」

 「それにたいした技術がなくても、作りやすい部品はありますし」

 「ふん、捨て置け、ドイツ帝国ばかり、儲けさせる気はない」

 

 ドイツ帝国の客人たちは状況を面白がっていた。

 「この帝国を統一させるには、どこかの国に攻めてきてもらう以外になさそうだな」

 「帝国から攻めて敵を作れば結束できるのでは?」

 「そんな事をすれば、利敵行為が増えて本当にバラバラにされてしまうだろうね」

 「最悪でもセルビアを取りこまないと」

 「セルビアとは、もう、確執が広すぎて駄目だろう」

 「まぁ そうだろうがね」

 「問題は、ロシアがバルカン半島を狙っていることだよ」

 「極東のゲルマニアと山東半島が自己防衛できるまで介入しない方がいいね」

 「極東は、まだ足枷だが中国の権益は大きいから・・・」

 「極東は、やはり、有望なのか?」

 「ああ、4000万から5000万くらい移民できるよ」

 「ドイツ本国でも6500万だろう。そんなに移民が出来るわけがない」

 「んん・・だがドイツ人の民主主義者、自由主義者は多いからね」

 「彼らがアメリカ合衆国に移民するよりいいだろう」

 「アメリカ合衆国を弱体化させるのに丁度良いよ」

 「アメリカ合衆国のドイツ系を東ゲルマニアに移民させれば、もっと弱体化するかな」

 「だけど、ドイツ帝国は、パイが膨れ上がって富裕層も増加しているよ」

 「それは、どうだろう。いまのドイツ帝国は予算も資産も海外地に取られて苦しいよ」

 「時間を掛ければ巻き返せるさ。戦争が起きなければね」

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 ドイツ前ド級戦艦部隊の来航で、東アジア情勢は、騒がしくなりそう。

 海外留学制度、まぁ その気になって予算を投じれば可能だと思われます。

 因みにシャクヤク(芍薬)の花言葉は “恥じらい” “はにかみ” “内気” “清浄”

 もう、気質的な暗雲を証明してます。

 さて、留学と帰国後の成功率は、予算次第でしょうか、

 もう、なんでも予算ありき、前例ありき、時間ありき、

 戦艦 金剛は? 扶桑は? 伊勢は? 長門は? 大和は?

 建造されるのでしょうか。

 なんて、非常識なお役所戦記でしょう。

 いえ、仮想歴史でした。

 

 

 さて、ドイツ帝国の海外移民が増え、

 自由主義者・資本主義者・民主主義者も自由市へと移り住みます。

 なので、ドイツ系アメリカ人は2分の1で計算します。

 アメリカ合衆国のモラルと工業力低下で、数パーセントラテン系側に傾きます。

 

 

 国際情勢は、いろんな組み合わせがありそう。

 日英同盟、英仏露協商

 独墺同盟

 あと、清国を軸として、ドイツ、アメリカ、ロシアと組むかで変わったり、です。

 

 

  

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第05話 1912年 『東西、古き封建社会の延命』
第06話 1913年 『軍を増強しても、国は近代化しない』
第07話 1914年 『労奴か、侵略か』