月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第08話 1915年 『戦争と、平和と・・・』

 年が明けてもオーストリ帝国とセルビアは戦っていた。

 ドイツ帝国は、露仏同盟に対し睨みを利かしている状態を保ち、

 実情は、外地に士官・下士官を大量に取られて、大規模な攻勢をかけられない。

 ドイツ、ロシア、イギリス、フランスは戦端を開いておらず、

 ドイツ海運とドイツ海軍は、自由航行で大洋を行き来していた。

ドイツ帝国軍 巡戦 戦艦 装巡 軽巡 駆逐艦 潜水艦 軍(万)
北欧 ドイツ帝国 2   2 4 16 30 200
朝鮮半島 東ゲルマニア   2 2 2 8 30 100
遼東半島   10
山東半島 ホーエンツォレルン 20
トーゴランド 南バーデン   1 1 2 8 30 10
カメルーン 南ザクセン 10
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 1   1 2 8 20 10
南西アフリカ 南バイエルン   1 1 2 8 20 10
 
合計 3 4 7 12 48 130 370

 ドイツ帝国は、外地への投資が進むと、修復用ドックを建設、

 艦隊の外洋配備しており、

 ドイツ海軍はイギリス海軍が強大であるためであり、

 本国艦隊より、活動しやすい外洋艦隊の方が強力だった。

 これは、艦隊を本国に配置しても戦えないとの判断だった。

 

 ドイツ帝国ウィルヘルムスハーフェン海軍基地

モルトケ型巡洋戦艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
22979 186.5×29.5×8.98   25.5  
50口径283mm砲連装5基 45口径150mm砲12門 500mm魚雷4基
モルトケ、ゲーベン

 海軍縮小は、植民地の増資と公共投資の増大として跳ね返り、

 ドイツ帝国経済は好景気と言えた。

 巡洋戦艦モルトケ艦橋

 「戦艦を建造しなくなって戦争近しか、どうにも戦えないな」

 「北海に閉じ込められるより、外洋に出た方がいいのでは?」

 「海外の港にもっと全長の長い建造すれば良いのに・・・」

 「潜水艦建造に予算を取られましたからね」

 「まぁ それでも、出撃命令が出れば・・・」

 「しかし、沿岸から本土が艦砲射撃をされても面白くない」

 「Uボート艦隊は無制限作戦を行えばイギリスを日干しにできると」

 「そうあって欲しいな」

 「本艦隊も大型ドックが建造されたら外洋配備だそうです」

 「植民地に全長300m級の修理用ドックか・・・」

 「客船も修復できます。ドイツの植民地をカナダや豪州並みにする気なのでしょう」

 「投資の大きさだと、それ以上だろうな」

 「相乗効果が得られるならいいがな、その前に叩き潰されそうだ」

 「ドイツ帝国は、いまが一番脆弱かもしれないな」

 

 

 フランス沿岸

 独墺同盟と露仏同盟の戦雲が高まると、

 フランス海軍は対潜水艦能力に欠けていたことが明るみになった。

 潜水艦に対する脅威を訴える将校は確かにいたのである。

 この場合、フランス海軍が無能だったのでなく、予算がなかったと言える。

 無論、予算の振り分けを変えれば対潜兵器を開発し、量産し得たかも知れない。

 しかし、既得権侵害は、どの世界でも同じで、殺される可能性を秘めていた。

 フランス海軍 21400トン級戦艦クールベの横っぱらにUボートが浮上すると、

 クールベは慌てて逃げ出していく。

U71 排水量 全長×全幅 速度 航続距離 魚雷 武装 機雷 乗員
水上 1163 82m×7.4m 14.7 25715km/8kt 4×14 150mm×2 2×42 40
水中 1468 8 64.8km/4.5kt

 艦橋

 「・・・撃沈できたんだけどなぁ」

 「フランスもドイツに攻撃してこないとは意気地がないですね」

 「総動員を掛けて睨み合うだけか、まだまだ、平和だなぁ」

 

 

 

 01/13 イタリア王国アヴェッツァーノで大地震(M6.8、死者約3万人)

 

 01/18

 ドイツ、オーストリア、フランス、ロシアは総動員により、軍需物資が生産され、

 生活物資の生産効率が低下していく。

 4ヵ国の生活物資を支えたのは周辺国であり、

 雪の吹き荒ぶプサンガルド(釜山)港に日本商船が入港すると物資が降ろされる。

 社会基盤の弱いゲルマニア、ヴィルヘルムスラントの日本発注は急増しており、

 そして、この光景はウラジオストック港でも見られた。

 日本商船 船橋

 私服の将校たち。

 「ドイツの潜水艦を見たか」

 「ああ、撃沈したと言わんばかりに横っぱらに浮上しやがった」

 「日本潜水艦は350トン級だというのに、ドイツ潜水艦は1000トン以上の大きさだな」

 「大きな潜水艦は建造できるよ。予算さえあれば・・・」

 「装甲巡洋艦より、潜水艦の方が重要じゃないのか」

 「太平洋の領土を守るには装甲巡洋艦の方がいいんだよ」

 「・・・ゲルマニアと青島に何隻いるんだ?」

 「さぁ 30隻くらいだと思うが、もっと多くてもおかしくないな」

 「こりゃ 商船は全部、撃沈させられるぞ。日本は戦争不可だな」

 「ドイツだって、ロシアと事を構えてからシベリア鉄道が使えないはず」

 「商船の航行は重要なはずだ。そうそう、撃沈できるはずがない」

 「捨鉢になっている可能性はあるね」

 「大西洋でもフランス海軍は戦争不可と言ってる」

 「装甲巡洋艦に爆雷を積んだ方がいいな」

 「それと潜水艦の開発・・・」

 

 

 

 01/19

 バルカン半島。

 セルビアの山岳地帯に潜むセルビア軍陣地が吹き飛ばされていく。

 「これほどの戦力は列強といえど持っていないだろう」

 「ええ、敵の陣地が眼下の下ですからね」

 小銃の弾が届かない高度だった。

 「オーストリア第5、第6軍が計画通り動いてくれれば勝てるはずだ」

 「ええ」

 ドイツ軍のツェッペリン飛行船団がセルビアを爆撃する。

 LZ25、LZ27、LZ28、LZ29、LZ30、LZ31、LZ32、LZ33、LZ34、LZ35、LZ37 × 11隻

 全長158m×直径15m 時速80km 積載重量9トン

 空からの攻撃でセルビア軍は士気を乱し、崩壊していく。

 オーストリア軍は、セルビア軍の抵抗を挫いて、山岳地帯を制圧していく。

 

 

 

 日本 国会

 国家が国民を動員しても将兵に戦う動機が形成されていなければ戦意は保てない。

 自らの私財がある者は、それが気になって戦えず、

 むしろ、資材のない者が立身出世を望んで戦いやすかった。

 しかし、一旦不利となれば、総崩れとなりやすく、

 自らの私財を持つ者の方が失うモノの大きさを恐れ、粘り強く戦いやすかった。

 とはいえ、それも、どうしても戦わなければならない将兵一人一人の戦意に掛っているのである。

 低い戦意では規律が保てず、戦線を維持するのは困難と言える。

 戦争は、反対勢力を潰し国権を統合する手法で古今東西で用いられやすい。

 無論、これは、侵略する側であり、

 侵略される側は、反対勢力と分裂するか、結束するかの瀬戸際でもある。

 「戦争の脅威が・・・・」

 しかし、戦争の脅威が全体の利権と結び付いていない場合、戦時糾合は失速するのである。

 「日本は、大陸に利権はないよ」

 「・・・・」

 

 通常の国は、共産主義を排除するため軍事力を持ちいない、

 まっとうな権力構造で穏便な行政であればよく、

 日本民族が共産化を願い、

 ちょっと突いただけで共産化するといった軽挙蒙昧な発想は、湧かないのである。

 しかし、そういう、共産主義の恐怖を持ち上げ、

 軽挙蒙昧な発想をしたがる勢力も存在する。

 「共産主義の増大が・・・」

 自らの存在意義を保ち、権力を集めたがる国権側、右翼側と言える。

 むしろ、彼らに権力と資本を集約することで、

 権利と私財を奪われる民権側、左翼側が凶暴になり、

 共産主義を蔓延させている。

 「地上の共産主義の国家は存在しないよ」

 「・・・・・」

 そう、右翼は自らの牙城を形成する口実を失っていた。

 食管予算は、いく分、減らされる傾向にあり、

 完全労働者は伸び悩んでいるものの、兼業農家は増えて生産力は増し、

 大正デモクラシーは、続いていた。

 そう、国権と貧富の格差を強め過剰投資で近代化するには、世情が安穏過ぎており、

 国民は社会資本を奪い、国権主導の過度なカンフル剤を求めていなかった。

 無論、基幹産業に限っては、税制融資がなされつつあり、

 社会資本は、基幹産業以外の想像性の高い職種とサービスを増大させ、

 海援隊の組織と海外留学者は、海外投資と移民を足し、

 インド自治都市、コンゴ開発、ブラジル移民は、日本人の精神を修養させ、

 新規雇用と合わせ、日本の成長を足していた。

 

 

 

 海軍工廠

 戦艦三笠は、兵装を減らされ、装甲巡洋艦へと改造されていく。 

 艦首砲内部、

 巨大な歯車が回ると閉鎖機のある側の2段重ねの砲身が上がったり下がったり、

 砲身が穴の空いた円柱であるという常識が消え、

 長方形の角ばったモノになっていた。

 「艦首砲の砲口が軸になって固定され」

 「砲身を支える砲架、揺架は下だけでなく、左右壁面にもある」

 「普通の大砲と違って、仰角を上げようとすると閉鎖機側の砲身の方を下げることになる」

 「定位置に戻すと自動装填できる」

 「砲身を2段重ねにすると、命数切れの時は両方とも駄目になるのか?」

 「それはしょうがないと思うよ。繋げていた方が長持ちしそうだし」

 「初瀬みたいに機雷一発で沈まないだろうな」

 「注排水と区画は、まぁ それなりかな・・・」

 「機関室が大きくなれば、区画なんて造れないだろう」

 「吃水が深いだけで、装甲巡洋艦だな。まるで・・・」

 「三笠はクルップ鋼(クルップ・セメントクロム・ニッケル鋼)で良いと思うよ」

 「敷島と朝日はハーヴェイ鋼(ハーヴェイ・ニッケル鋼)で弱ってことだろう」

 「巡洋艦を建造するより、攻撃力と防御力が高いよ」

 「しかし、改装なんかしている場合か?」

 「どうせ戦艦のままでも、役に立たないよ」

 「ランク落ちで役に立つのだろうか」

 「装甲巡洋艦の方が使いやすいと思うよ」

 「しかし、中途半端というか、変わり果てた姿になったな」

 「役に立たなそうな中口径砲を前ド級戦艦と一緒にイギリスから買ったからね」

 「ていうか押し付けられた」

 「まぁ 巡洋艦を建造するより、安い買い物だったと思うよ」

敷島型装甲巡洋艦 3隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離 兵員
17000 160×23×8.2 27000 26 10kt/10000海里 564
50口径234mm3連装砲2基 45口径120mm連装砲6基   艦首・艦尾50口径356mm連装砲2基
三笠、朝日、敷島

 「対潜兵装と水上機も追加しないとな」

 「予算が微妙だな」

 「艦首砲はばれてないだろうね」

 「将兵も工員も機密を厳守させてるけど・・・」

 「それも微妙だな・・・」

 「艦首と艦尾側で20mずつ使うから40mを誤魔化さないと」

 「幅を取っているわけでもないし、いまのところは、大丈夫だと思うよ」

 「まぁ 蛇行して射線から逃げるより、回頭する方が速いと思うけどね」

 

 

 南バイエルン(南西アフリカ)、835100ku

 弱点があるとすれば、大規模な港湾設備がないこと、

 砂漠が広がり水がないことだった。

 銅やダイアモンドが採掘され、

 1908年海軍戦力縮小に合わせて海外植民地へと投資が増えた。

 リューデリッツ港湾が浚渫され、

 南米アマゾン川、カメルーンのサナガ川から土砂と水が運び込まれ、緑化が進む。

 都市は徐々に大きくなり、目標の100万都市になりそうな気配をみせていた。

 飛行船の格納庫が建設されると、2隻から3隻が内陸へと物資を運びこむ。

 独墺同盟と露仏同盟が総動員を掛けても、いまのところ平和だった。

 フランスの装甲巡洋艦が沖合に現れる事があった、

 しかし、潜水艦が静かに潜航しつつ近付いて行くと逃げだしていく。

 それだけだった。

 両陣営で臨検合戦の様な事も起きた。

 それも、偶発的な戦闘が戦争に発展する危険性から、いまでは行われていない。

 「こんな場所を攻めて来るんだろうか」

 「価値無いよ。水ないし、暑いし、砂漠だし・・・」

 「南バイエルンは地政学的に良いけど、水がないから駄目だな」

 「北のバイエルンは、名水の産地なんだぞ」

 「そういえば、バイエルン王は剥けれてたっけ」

 「苦労の割に報われない場所だな」

 「まったく水源がないわけじゃないよ。カプリビ回廊から水を引けば・・・」

 カプリビ回廊は、標高900m以上の高地で、450kmの細長い台地が伸びていた。

 クアンド川、リニヤンティ川、チョベ川、ザンベジ川に接し、

 水源にひかれ、ドイツ人移民も集まりやすく、飛行船を使った入植が行われていた。

 そのうち、ザンベジ川(2750km)は大河であり、インド洋に注ぎ込む。

 これらの河水を合わせて、南大西洋側向けて支流を作れば安定した水源になった。

 もっとも、南バイエルン(南西アフリカ)は標高1000m近い大地が海岸まで続くため、

 掘削工事も並々ならぬ、予算が必要であり、

 我田引水は、水戦争という事態も起こしかねなかった。

 「やっぱり、南ヴュルテンベルク(東アフリカ)が一番有望かな」

 

 南ヴュルテンベルク(東アフリカ) 994996ku

 イギリスに要衝ザンジバル島を押さえられていた。

 しかし、投資が進み、内陸への地歩が確保されると急速に発展していく。

 ビクトリア湖、タンガニーカ湖、マラヴィ湖など大きな湖水があり、

 鉄鉱石、石炭が有望であり。ダイヤも産出した。

 高原地帯であれば涼しく乾燥した生活を送ることができた。

 10ヵ所以上に発電用ダムが建設され、

 ドイツ帝国にとっては、三半島に次ぐ可能性を秘めた植民地だった。

 軍隊なのか、土方なのか、良く分からないドイツ人が作業をしていた。

 「何か戦争になるらしいよ」

 「相手は?」

 「ロシアとフランスだと」

 「なんか、いやだな」

 「戦争か・・・随分と銃を扱ってないな・・・」

 「イギリス領ケニアは、それほどじゃないけど、ザンジバルが厄介だね」

 「弾薬が尽きるまでなら守れるんじゃないかな」

 

 

        ※ 地図の枠よりもっと大きいです。

 南ザクセン (カメルーン) 790000ku

 フランス領に包囲されていたものの、

 周辺部より強力な軍隊を持ち、ドイツ国民も多数住んでいた。

 ドイツの植民地のほとんどがそうであり、

 オーストリア・勝数民族の移民も進んでいた。

 そして、比較的近い、南バーデン (トーゴランド) 87200ku。

 ここもドイツ人の都市が建設され、開発が進んでいた。

 イギリス、フランスの植民地が搾取目的であるとするなら、

 ドイツ帝国と日本の植民地は投資する領土だった。

 国家安全保障とも密接に絡んでおり、

 戦争が始まれば、本国で防衛策を取り、

 植民地で攻勢をかける選択も可能にしていた。

 この時期、ドイツ帝国植民地の社会基盤は、本国に比べ低かったものの、

 英仏植民地より優勢になりつつあった。

 

 

 アメリカ・ドイツ租借地 遼東半島(3462ku、租借期間1898年〜1997年)

 正確にいうと、遼東半島の南端の半島であり、

 半島の一部でしかなく、遼東半島全域に中立地帯が造られていた。

 清国の主権が及ばない治外法権であり、

 遼東半島から延びる南満州鉄道株も、ハリマン鉄道が6割、プロイセン鉄道が4割を握っていた。

 そして、ドイツ領東ゲルマニア(朝鮮)半島とドイツの権益地の山東半島に挟まれていた。

 大連港

 27243トン級戦艦ワイオミング、アーカンソー

 50口径305mm連装砲6基

 戦艦ワイオミング 艦橋

 アメリカ軍将校たち

 「戦争にならないだろうな」

 「イギリス、ロシアと組んで資本防衛しつつ、極東ドイツを打倒し、権益を奪う方がいいか・・・」

 「ドイツと組んで、極東権益を拡大した方がいいか・・・」

 「まだ、微妙なバランスだし、15万の将兵じゃ 戦いたくない」

 「動員は?」

 「アメリカ人は、国家権力に殺されても良いと思うほど捨鉢にはなっていないよ」

 「可能ならこの遼東半島をアメリカの領土にしたいがね」

 「清国は民主化しつつあるし、近代化していきそうだ」

 「大陸も日本も属国化は、難しいかもしれないな」

 「ドイツが売却した戦艦9隻のせいでとんでもないことになりましたね」

 「イギリスが邪魔をすると思ったがな」

 「競売に負けて、邪魔をすると、海賊と同じですからね」

 「それに戦艦を購入しても、旧式ですし、戦力化するまで数年は必要ですし」

 「いまさら、口実もないのに海賊なんてしたくないでしょう」

 「しかし、戦艦と海防戦艦を張り付けさせられては、採算性が悪化する」

 「対抗して戦艦を派遣すると、山東・遼東半島以外のうまみは消えますからね」

 「まぁ アメリカの資源が高く売れるから嬉しいがね」

 「清国は、戦艦15隻、海防戦艦11隻が戦力中に近代化できると限らないのでは?」

 「中華思想様々だな」

 「むしろ、太平洋は、日本海軍の方が怖い」

 「ドイツ帝国も、東ゲルマニアの防衛費負担が増えているので、権益交換は失敗だったかも知れませんね」

 「ドイツ帝国は採算性などという軟弱な思考は持ち合わせていないよ」

 「問題は、社会整備が進んだ時ですかね、東西ドイツは日の沈まない国になります」

 「当面は、沖縄列島の要塞砲台の方が怖いがな」

 「通過したくない海峡が増えただけで通過できないわけじゃないさ」

 「安心して通過できそうなのは久米島と宮古島の間だけです」

 「太平洋の島々も、日本に開発されると肩身が狭くなるかもしれないな」

 「ドイツ領じゃないだけマシですかね」

 「鉄が日本の百倍近いからな」

 

 

 

 05/26 

 セルビアはドイツ飛行船団の支援爆撃を受けて混乱し、

 春が開けるとオーストリア軍の大攻勢で崩壊していく。

 セルビア王国セルブ・クロアート・スロヴェーン王(71)は、前線を訪問中、

 ドイツ軍の飛行船団の爆撃とオーストリア軍の攻勢に巻き込まれ戦死。

 露仏同盟と独墺同盟の焦点となっていたセルビアが占領されて降伏してしまう。

 しかし、緊張状態は続いており、

 総動員の解除は進まない。

 「新兵が互いに銃を向け合って固まってる状態」 チャーチル

 彼の毒舌は彼だけの感想でなく、多くの列強の国民がそう感じていた。

 総動員を解いた瞬間は、もっとも危険な状態であり、

 相手が撃たないと信用できるまで銃を降ろせないのだった。

 

 06/26

 オーストリア帝国・セルビア王国講和条約

 セルビア王国アレクサンダル1世は、

 ルーマニアとの国境に沿った3km幅で、

 オーストリア・ハンガリー帝国とブルガリアの180kmの回廊と、

 ベオグラードの譲渡、

 オーストリアの要求が大幅に後退したのはロシアから最後通牒を受けていたからであり、

 経済損失は、累積的に大きくなっていたからであり、

 同盟国のドイツ帝国も矛を収めたがっていたのだった。

 そして、オーストリアも不良民族をこれ以上抱え込みたくないだけと言えた。

 何はともあれ、セルビアの首都を降し、

 オーストリア・ハンガリー帝国からブルガリアまで鉄道を敷けるのだった。

 

 

 中国大陸

 世界で文明を興した民族は、いくつか存在する。

 メソポタミア、エジプト、インダス、ギリシャを興した民族は、混血が進み変質していた。

 しかし、古代中国文明を起こした漢民族は存続し、

 国土、人口、資源などなどで推測するなら、これからも存続し続けた。

 世界が中華を中心に回る思想は、広く漢民族に根付いており。

 外国勢力が中国と覇権を争っても、一時的な災厄と認識される。

 中国人と夷蛮戎狄(いばんじゅうてき)の時間に対する観点は神の如く離れており、

 欧米諸国人と日本人が、はるかに及ばない観念や意識下の思考も存在する、

 中国人は、近代化すれば欧米列強を押し返せると中華思想を根拠に自信を持っていた。

 北京

 紫禁城に清国全土から議員が集結する。

 上院は、税金(100万テール)を納めた議員200人ほどであり、

 下院は、100万票以上を集めた議員300人ほどだった。

 これは、候補者・議員視点の見方であり、

 庶民、いわゆる、有権者・投票者の見方ではない。

 民主的な国であるなら議員は、有権者の利益代表であるため、

 国民に政治献金(100万テール)された議員と、

 100万人以上の国民に選出された議員となる。

 しかし、清国憲法での議員選出での書き方であり、

 清国社会の実情がそうであるため、そのまま、使うことにする。

 結局、国政を預かるのは、都市の代表者ばかりであり、

 一部、共産主義者が入っていた。

 とはいえ、上院は資本主義であり、下院は民主主義の住分けがなされ、

 最大多数政党が政府を構成し、

 国家予算と国軍を握ることができた。

 日本と欧米諸国の記者が清国議会の様子を記録し、本国へと送る。

 「どうやら、清国軍も軍閥軍も中立を保つようだ」

 「清国直属の海軍と海軍師団が怖いのだろう」

 「戦艦15隻と海防艦11隻と海軍10師団だからな・・・」

 「しかし、本当に民主化するのか?」

 「清朝もついに拝金主義者と名声狂いに権力を明け渡すとは嘆かわしいね」

 「民主化で最大公約数が必ずしも良い行政とは思えんがね」

 「まぁ 曲がりなりにも民意は反映されるし、反清勢力が収まって、平均的な国になるのだろう」

 「清政府は、民衆から集めた予算をどこに使う気かな」

 「軍事費なら軍需産業だし」

 「衣食住産業なら、生産業者か」

 「大規模開発なら土木建設」

 「学校、役所、商工、鉱山開発という場合もある」

 「日本みたいに食管法なんてやらないだろうな」

 「だよねぇ 釣った魚に餌をやるな」

 「農民は生かさず殺さずが鉄則なのにな」

 「資本を回収できなかったらどうする気だろう、日本政府もバカな事をする」

 「・・・・・」 むっすうう〜

 「日本経済は、いまのところ、海外移民需要に助けられているよ」

 「貯蓄率が高いから怪しいな」

 「銀行家が頑張るさ」

 「だといいけどね」

 「まぁ 軍需予算に使い込むより経済が回りそうだし、一息なんだろうが・・・」

 「東ゲルマニアの脅威は?」

 「戦力は十分でも、東ゲルマニアの国力は、これからだからね」

 「日本人に発電ダムやロココ調家屋を作らせているのか?」

 「上手いもんだぞ。少なくとも朝鮮人や漢民族より仕事が速いし丁寧で真面目」

 「対価は工作機械で払えばいいし、日本経済は当分、回るはずだよ」

 「・・・・・」

 

 

 上海

 清国海軍、前ド級戦艦15隻と海防戦艦11隻が、欧米列強の戦艦と威並んでいた。

 清国海軍艦艇は、旧式で見劣りするものの、至近距離での撃ち合いなら支障がなく。

 欧米列強の各国商人も力付くの取引は出来なくなる。

 清国は、それで十分だった。

 欧米列強が戦艦を派遣した時点で損益収支と採算性は赤字であり、

 欧米列強は、利権の浸透拡大を諦め、

 現状の租界地、租借地でとどまり、希少金属を輸入し、消費材を輸出する。

 欧米各国は資源購入のため、

 中国国内で公共設備工事をしなければならず、

 清国は、徐々に国力を付けようとしていた。

 ホテル

 各国の商人たちが集まっていた。

 「なに? 戦争するの?」

 「さぁ 両陣営とも総動員を解いてないから」

 「戦争は困るけど、総動員が続いている方が儲かるから、もっと続いて欲しいな」

 「セルビアが降伏して終わったんじゃ・・・」

 「収まってないじゃないか」

 「オーストリア皇太子暗殺の仕返しで、セルビア王の戦死でいいんじゃないの」

 「あれは、前戦視察の巻き込まれだろう」

 「不可抗力だろう」

 「皇太子暗殺だってセルビア王の差し金と思えないけどね」

 「まぁ 王様だからって、はねっかえりの責任までとらされるのは、たまったものじゃないよ」

 「これに懲りて要人暗殺が行われなくなればいいと思うよ」

 「それより、清国がまとまってきてないか?」

 「清国の資源と人口で近代化されたら、あっという間に追い抜かれる気がするな」

 「まだ、識字率は低いよ。権力者のための漢字文化だからね」

 「だが、これから高くなるだろう?」

 「簡易漢字を考えているらしいから識字率は増えるかもしれないけど」

 「やっぱり、中国人は匪賊だからね」

 「インドみたいにバラバラにしたいが・・・」

 「ドイツが戦艦を売るから・・・」

 「ドイツだって、東ゲルマニアに入植したばかり」

 「器を作っただけでは駄目なんだ」

 「本当に戦力になる人間が育つというのはね」

 「入植2世からだよ。影響を考えると3世から4世後だろうね」

 「なるほど・・・」

 「つまり、東ゲルマニアで生まれ育った人間が東ゲルマニアの国防を真剣に考える」

 「20年以降か、一世代以降だと100年後かな」

 「そんなところか。気の長い話しだな」

 「入植なんてそんなものだ」

 

 

 10/11

 モスクワ

 ニコライ2世は、ぶつぶつ呟きながら天候を見ていた。

 「陛下、現状のまま、総動員体制は、不利です」

 「わかっている・・・こちらが先に総動員体制をやめるしかないだろう」

 「ですが・・・」

 「冬将軍が来れば戦争が困難になる」

 「ドイツ人の移民政策に歯止めをかけ、一定の成果を得た事にしよう」

 「戦わない状態で戦時下にあるのは苦痛だ。外交で、そういう処理をせよ」

 「御意」

 「時に農民たちは?」

 「不穏な動きを見せています」

 「武器は全て取り上げよ。多少の妥協はせねばならないか」

 「農民の既得権を認め過ぎると諸侯との貧富の差が縮まります」

 「農民の反乱の恐れが強まるかと」

 「生活で精一杯の方が反乱が起こり難いと思うが、そうでもなさそうだ」

 「今回の動員で種蒔きと収穫を台無しにしている」

 「冬季になったら余計に給金を支払って総動員を解こう」

 「御意」

 血の日曜日事件(1905年)以降、

 ロシア正教におけるロシア皇帝=神の代理人の概念は崩れていた。

 これは諸侯にとって皇位簒奪のチャンスであり、下剋上の可能性もありえた。

 そして、ロシア帝国は広大で人口も多く、

 社会資本が増えると体制が危険に晒される、

 ロマノフ朝ニコライ2世皇帝より資財を集める貴族が現れただけで大勢が引っくり返る。

 諸侯は保身と見栄のため互いに我を張り、農民や労働者から税を絞りとっていた。

 それは、農民の下剋上を恐れてと言えるし、

 貴族諸侯は機会があるなら皇帝の座を窺うのである。

 また、富農が増えると反領主、反政府勢力に投資することも容易になった。

 また徴兵と労働力を作りだすため、一定数の貧民層は必要だったのである。

 帝王学は、国際外交政治より、国家統治が優先されており、

 貧苦の格差の上限と下限は、天候や社会情勢によって変化していく。

 

 

 11/10

 ロシア帝国が総動員体制の終結を宣言。

 

 11/07

 オーストリア・ハンガリー帝国が総動員体制の終結を宣言

 

 11/14

 フランスが総動員体制の終結を宣言。

 

 11/21

 ドイツ帝国が総動員体制の終結を宣言、

 サラエボ事件が起こした欧州危機が去る。

 この時、日本の留学生が発した “バンザイ” が広がり、

 皇帝ヴィルヘルム2世にも気に入られ、

 あちらこちらで、挨拶がかわされたとか。

 

 

 スイス

 銀行家たち

 「なんだ? 終わっちゃったじゃないか」

 「世界大戦になると思ったのにな」

 「アメリカは、欧州共倒れで世界最強の国家になる機会を失ったな」

 「せっかく投資してたのに・・・」

 「良識が勝ったってところだよ。人間、捨てたものじゃないね」

 「良識は食えねぇ」

 「ドイツ帝国は、東ゲルマニアという楽しみがあったからね」

 「それが戦争防止になったんだよ」

 「それにアフリカのドイツ領もだ」

 「結局、戦争するしないも打算か・・・」

 「でも、今回の総動員でドイツは、国防で不安になったはず」

 「海外投資は、押さえられるんじゃないか?」

 「どうだろう。海外領の潜水艦隊が戦争の抑止となったと考えるかもしれない」

 「ドイツ帝国の総人口は7000万か」

 「2000万くらい、植民地に移動していた方が戦争抑止になるということか」

 「戦争抑止ね・・・サラエボ事件も戦争未満だっただけじゃないの」

 「しかし、人口が増えても “金” は簡単に増えないからね」

 「気になるのは、オーストリア帝国とロシア帝国の内政かな」

 「オーストリア帝国は、辛うじて安定を保っている」

 「ロシア帝国は徴兵した兵員への給金を増やし、少し持ち直したように見えるな」

 「でもロマノフ王朝は、威信が低下しているから、きっと、革命になると思うよ」

 「共産革命で、王国、貴族、資本家は、慌てるんじゃないの」

 「かもしれないが、脅威は金になるんだな、これが・・・」

 「しかし、一旦、膨れ上がった軍事力は、どうなるだろう」

 「軍部の縮小は命懸けだからね」

 「各国の右翼を支援したら、金づるになるかも」

 「ふっ あいつら、後先考えず、国庫から金を持ち出してくるから」

 「金の生る木だな」

 「それに右翼は利権を守るためなら」

 「民主主義も共産主義もまとめてアカで潰しにかかるだろう」

 「だが、軍部は、国民に選出されていないし、国民を代表していない」

 「まぁ 政治が不正腐敗続きでも、軍政が綺麗と思うのは勘違いだからね」

 「軍部主導の政治は、いつまでも持たないのでは?」

 「非生産の軍備一辺倒で国力を浪費させる方が相対的な利益が大きいよ」

 「いずれ財政破綻で息切れして侵略を始めるのでは?」

 「だが日英独とも戦意が低く、アメリカも侵略せずとも土地は余っている」

 「んん・・・なんか、緊迫感がないとな・・・利潤の良い兵器関連は軌道に乗らないし」

 「大規模生産体制も構築できないな」

 「じゃ 民需で行くか」

 「諦めきれんな」

 「大局を葬って利益調整できない人間は、一流の政治家になれない」

 「敵を作って組織を再構築する人間は、一流の官僚になれない」

 「売国、搾取、詐欺のできない人間は、一流の商人になれない」

 「支配欲と性欲を抑えられる人間は、一流の軍人になれない」

 「政治と官僚と商人と軍人を信じる人間は、一流の市民になれない」

 「そして、全て一流だと、植民地にされる」

 「じゃ 希望はあるわけか」

 「あるな」 にやり

 

 

 日本で組織された海援隊は、万能な人間を育て上げるだけの時間も余力もなく、

 通訳者、経営者、法律家、武芸家、ヤクザなど才覚に特化された者たちで構成される。

 彼らを敢えて言うなら悪の組織ではない、

 国外に日本人の足場を作る民間組織であり、

 大は、水力発電を含む大事業から、

 小は、柔道場、華道、商店など事業を起こし、

 安定させるだけの資金が供給されていた。

 そこに存在することが目的であり、

 イギリスも、日本にドイツに靡かれまいと考え、就労ビザを容易に発行する。

 日本人は、事業を興し、社交界に顔を出し、取引を行い、

 時に貧困層に対し、僅かな善幸を振り撒いていく、

 そして、日本の留学生の受け皿ともなった。

 国家的浪費と揶揄されつつも、才覚のある人間なら事業に成功し、

 イギリスも同盟国日本と敵対したくないと、

 違法でないのならと、お目溢ししていた。

 ロンドンの路地裏

 フェイントだろうか、

 作為的に素人と見せているのか、

 しかし、どうしても、そう思えないバカそうな顔・・・

 若いイギリス人は、ナイフを大振りに振り回し、面喰わせる。

 日本人留学生は、軸足を回しつつ、刃先を避け、

 前に出ると、

 そのまま、後ろに回り、手刀を落とし、

 一人を倒した。

 連れのインド人が感嘆の声を漏らした。

 ナイフは、刃の丈と軌道が決まっている、

 大振りするほど軌道が読まれやすく、

 懐に入られたとき、肘を余計に曲げなければならず、

 素人がナイフを持つと自由度が狭くなった。

 通常、ナイフは小刻みに使うものだ。

 総合格闘術を学んでいると、こういった場合の対処も教わり、

 数度、立ち回った後、

 「おい、行くぞ」

 「ああ・・・」

 「「・・・・」」

 イギリス人たちは、後退していく。

 勝てるわけでもなく、

 負けるからでもない、

 狩ろうとした外国人二人が予想以上に手強く、

 費用対効果でやめただけと言える。

 「や、やるじゃないか」

 「空手だよ」

 藩王の妾の子は、驚くばかり。

 「カラテ・・・」

 「しかし、大英帝国ギャングもピンキリだね」

 「総動員が終わって、除隊組が増えたかな。しばらく治安は悪化だな」

 「まともに訓練されてないじゃないか」

 「命令一下、引き金を引いて、突撃できれば良いんだろう。生き残った奴がベテラン」

 「弾避けか」

 「個人を埋没させる大衆の時代なんて、そんなもんだ」

 「しかし、無事に戦時体制から脱却とは、イギリスも大したものだ」

 「日本で軍縮は命取りだったからね」

 「まぁ 軍人は農作業しなくても3度3度まともに食えるからね」

 「国を潰しても軍に居残りたいと思うだろうし」

 「日本は、食管予算がなかったら反政府軍事クーデターだったな」

 「でも、本当は、農業改革したかったのだろう」

 「良く知らんが、いろいろあったんじゃないか」

 「どちらにしろ、藩王国じゃ考えられないね」

 「いいねぇ カーストで地位が決まっていると楽だろう」

 「まぁ 上の階級に生れたらな」

 「藩王国は、近代化を考えないのか?」

 「んん・・・カーストを壊すと、近代化しそうだけど、自分の権力基盤を壊してしまうからな」

 「どの道、カースト以上の難題を抱えているから、近代化は難しいけどね」

 「日本が支援してくれるなら、近代化しやすいかもしれないな」

 「インドは、軍事的な独立を考えないのか?」

 「ほとんどの藩王は権力を保ち、外敵から国を守る以上の軍事力を求めないよ」

 「軍人に主導権を渡すと、生産性ゼロで負担ばかりが増す」

 「どこの国でも軍の手綱を押さえておかないと、国権を奪いにかかる」

 「軍事的独立を認めたら最後、国家的危機だな」

 「我田引水の国権支配で国を潰すか」

 「文民無能で暴走して戦争して、国権争奪するしかないからね」

 「資本主義は利権。民主主義は利益誘導と偽善で成り立って、紆余曲折あるからね」

 「だけど、文民政治より、独り善がりな軍人が綺麗と思っているやつは、馬鹿だけだよ」

 「イギリス、ドイツ、ロシアとも軍縮で、ソフトランディング成功なら悪くないよ」

 「まぁ 自由航行だけが日本の採算性を安定させているからね」

 「いまのところ、英独仏とも意地の張り合いより、植民地固持だし」

 「アメリカも貿易で利益を上げているし、自由航行に支障はないだろう」

 「日本は今のところ安泰だよ」

 「だといいがね」

 「日本を味方につけた方が採算性が良くなり、他の列強より有利になれる」

 「外交戦略的な考え方としては悪くないよ」

 「軍事的に不安だけどね」

 「万能な国家なんてあるもんか」

 

 イギリスは、少しくらい、言葉を流暢に話せても、ようやく、珍しいサル扱いだった。

 貴族のキングス・イングリッシュを話せても2流の扱い、

 悪いことに方言があって、キングス・イングリッシュが通用しない時もあり、

 逆にバカにされたりする。

 かというと、店で、小銭のペンスを余計に渡し、

 丁度良いポンドを貰おうとしてもイギリス人は、簡単な足し算と引き算も出来ず、

 インド人と一緒に苦笑いしなければならなかったりで、

 まったくもって、イギリス人の傲慢ぶりには呆れる。

 

 イギリス人の視点と視野に立つなら、イギリス人の領土欲は小さい。

 既に世界の多くを領土として支配欲より、富を集めることに夢中になっている。

 しかし、いくら富を集めたところで、貧富の格差は広がり、

 社会の安定性は欠き、アイルランド系ギャングも生まれる。

 ベルギー、オランダ、ドイツの留学生と手紙のやり取りで比較すると、

 イギリスの傲慢さはトップレベルだろう、

 料理はまずい上に最悪の場所に来たものだ。

 とはいえ、貧富の格差が広がれば、貧民層を味方につけやすい。

 あるグループは、対日貿易商、

 あるグループは、数学の私塾、

 あるグループは、柔道場、

 あるグループは、商店を営み、

 あるグループは、日本料理店を営んでいた。

 多くのグループは、初期投資によって、経済的に自立し、

 創業と事業に失敗したグループは、本国へと帰還していく。

 

 

 サラエボ事件を端に発する軍事的緊張で、危惧された戦争は未遂に終わる、

 しかし、イギリスの海洋支配は、ドイツ帝国の気分次第で破綻すると思い知らされる。

 無論、ドイツ帝国は、海洋交通路の平和利用を望み、軍事的な色彩は低減していた。

 日本も軍事力より、賃金格差とハングリーな供給で産業を増大させていた。

 ドイツ帝国と日本は軍事的に縮小していたものの、

 両国の国力は、増大傾向にあり、

 その産業は、代替できる資源、市場さえあれば、いつでも軍事力に転嫁できた。

 イギリスは、日独経済交流の増大により、日英同盟が破棄され、

 日独同盟が結ばれることを恐れた。

 結局、国家間の結びつきも利害関係によるところ大なのである。

 ロンドン・ダウニング街10番

 「インドの日本自治都市建設計画か・・・」

 「ほかの場所じゃ駄目なの、もっと日本から遠いところ」

 「日本から遠いと日本人が嫌がるだろう」

 「コンゴ、ブラジルよりインドの方が近いだろう」

 「・・・それに日本は、インドの独立運動抑制と植民地維持に使える」

 「だと良いがね」

 「産業人口を考えると、これ以上、生産から非生産部門の兵力にイギリス人を取られたくない」

 「んん・・・日本人のインド入植は良いとしてもだ。海岸線は困る」

 「内陸だと、日本は、生存圏欲しさで余計に土地を欲するだろう」

 「日独同盟よりマシだよ。すでに利害関係では日本はドイツ寄りになっている」

 「それは言えるが・・・」

 「知ってるか、日本人は、足し算引き算だけでなく、掛け算割り残ができるらしい」

 がたっ! がたっ! がたっ! がたっ!

 「「「「ま、まさか・・・」」」」

 「我々は、インド人の算出を真に受けなくても良いことになるな」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 第一次世界大戦は起こりませんでした。

 ちょっと珍しい戦記かも・・・

 

 

 イギリス、日本、インドで三国同盟でしょうか。

 それとも移民需要でドイツ帝国に引っ張り込まれるか、

 清国は、国境を接する対独で、アメリカ、ロシア、日本のどこと連携するでしょうか、

 勢力均衡はどうなるでしょう。

 

 

 イギリス人の数学力に対する逸話は枚挙に尽きません(笑)

 因みに数学力は日本人よりインド人が上です。

 暗算で20×20、40×20を平気でやる国民ですから正気を疑います、

 まぁ いろんな理由で日本人がイギリス植民地に入植していくということで

 

  

 

 

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第07話 1914年 『労奴か、侵略か』
第08話 1915年 『戦争と、平和と・・・』
第09話 1916年 『離合集散の予感』