月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第17話 1924年 『入笠山遷都』

 ドイツ帝国の全長245m級ツェッペリン飛行船が山岳地に物資を降ろし、

 日本の建設師団と建設会社が無地主の原野を整地していく。

 建設師団

 「飛行船でひとっ飛びか、羨ましいねぇ」

 「一度に100トンくらい運べるらしいよ」

 「すげぇ」

 「アメリカがヘリウムを輸出してから飛行船の建造数が増えたらしいからね」

 「アメリカは、よくヘリウムを輸出する気になったな」

 「ヘリウムをドイツに輸出したら」

 「独英対立が大きくなってアメリカは漁夫の利だろう」

 「へぇ〜 本当に漁夫の利なのか?」

 「少なくとも、アメリカは、軍艦を建造する口実になるからね」

 「アメリカは余程、鉄の使い道が欲しいんだな」

 ドイツ製、イギリス製、アメリカ製の土木建設機械が大量に並び・・・

 製造国を見るだけで日本が欧米列強諸国の狭間で上手く舵取りしており、

 収益を上げていると推測できた。

 長野県 入笠山(標高1955m)は、

 入笠山は、五街道 中山道 下諏訪の諏訪湖の南、

 南アルプス(赤石山脈)の最北端にあった。

 山頂から南を向くと、

 同じ南アルプスに属する仙丈ヶ岳(3033m)と甲斐駒ケ岳(2967m)が構え。

 その奥に富士山が控えていた。

 北東に八ヶ岳(赤岳2899m)の峰々が南北に伸び、

 西は、中央アルプス(木曽山脈)が南北に連なっていた。

 山頂に登ると、ほぼ全周を見渡すことができ、

 既得権益者は、ほとんど存在せず。

 日本政府は、要衝となる土地を国有地として買い占めてしまう。

 

(入笠山 ピンのある場所)

 建設現場

 「見晴らしは良いが、随分な山に首都を建設するもんだ」

 「風水的にはどうなの?」

 「平地より、人は死んでないし」

 「しがらみや恨みの少ない場所が一番いいんだよ」

 「まぁ 首都防衛なら悪くないけど・・・」

 「関東と関西のほぼ中央だし、世俗から離れて過ごせそうだな」

 「皇居は?」

 「200万uほどの山城を作って、政府施設は、その周辺になるな」

 「天皇のいる処が首都か、天皇制は便利だねぇ」

 「そのための天皇制かな」

 「地盤は?」

 「ボーリングの結果は、悪くないよ」

 「各国外交施設の移転は?」

 「区画整理はしているし」

 「造成と首都機能移転が進めば自然と移るだろう」

 「首都の名称は、どうするって?」

 「んん・・・鳳凰宮とか、高天原とか、扶桑京とか、天照とか」

 「まぁ なんでもいいや、金になるなら」

 

 

 245m級飛行船

 この時期、飛行機は命懸けの危険な乗り物であり、

 飛行船全盛時代と言えた。

 そして、飛行船団を保有し、

 世界の空を支配していたのは、ドイツだけだった。

 アメリカとイギリスは、飛行船建造で苦戦しており、

 日本は、諦めていた。

 ドイツ軍将校たち

 「こんな山岳に遷都するとは日本人も酔狂だな」

 「関東と関西の中間だそうだ。少なくとも、防衛は容易だな」

 「飛行船ならひとっ飛びだがな」

 「ふっ いくらヘリウムでも撃墜されるよ」

 「しかし、日本の商船隊とドイツの飛行船隊で」

 「ドイツ植民地経営は軌道に乗りそうだな」

 「ドイツだけじゃないだろう」

 「イギリス。フランスも日本商船隊を利用している」

 「あとは、どっちの経営が伸びきるかだな」

 「バスラまで鉄道を敷いたせいで、石油は支障ないとか」

 「イギリスがアラブ・イスラムの独立に手を貸しているようだが」

 「まぁ タダの嫌がらせだよ」

 「インド独立を押さえるのに日本人を使っているくらいだ」

 「日本も急成長気味だな」

 「工場が増えている」

 「資源もないのに工場を建設しても仕方がなかろう」

 「しかし、安い労働力があるし、日本に発注した方が利益になる」

 「東ゲルマニア産業が軌道に乗るまで、日本と、上手くやっていくさ」

 「東ゲルマニアは地政学的に不利だ」

 「状況は変わらんよ」

 「東西からロシア帝国を挟撃できる戦略上の強みはあるよ」

 「いまのところ、各個撃破されそうだがな」

 「なぁに、鉄の生産で変わるさ」

 「日本産業の生産力に頼っているのに?」

 「工作機械の心臓部は、ドイツ製だよ」

 「日本が作っているのは、鉄板の組み立てだよ」

 「まぁ 日本は、資源が少ないからな」

 「せいぜい、鉄筋コンクリートで水増しするか」

 「船を建造して客と物を運んで小金を貯め込むのが関の山だな」

 

 

 イギリス貴族社会は生産性の低い従者を大量に雇用し、

 貴族の多くは、大家地主意識が強く、保守的で、

 流動的なはずの資本投資で消極的だった。

 有識者は、植民地搾取経済が行き詰まっていることも理解していた。

 付加価値の低い植民地は、タダの原料地でしかなく、

 工業化の進むドイツ帝国、アメリカ合衆国に敵対し得なくなっていた。

 急成長を遂げる日本にさえ後手に回りかねず、

 植民地経営を搾取型から投資回収型経済へ移行しなければ、

 太刀打ちできなくなっていた。

 そして、日本は、イギリス植民地への投資を行っており、

 その収益の一部をイギリスに支払い、

 さらに植民地防衛も担っていた。

 

ヒマラヤ山脈 東西 インダス川 平城京  
ガンジス川 ヤムナ川 平安京  
ゴマティ川 飛鳥京  
ヴィンディヤ山脈 東西 ヤムナー川 因幡京  
    ナルマダ川 青龍京  
サトプラ山脈 東西 タープティー川 白虎京  
東ガーツ山脈 南北 ゴーダヴァーリー川 玄武京  
西ガーツ山脈 南北 マハナディ川 朱雀京 黄龍京
クリシュナ川 鳳凰京 瑞亀京
カヴェリ川 麒麟京  

 

 インド大陸の最北部をヒマラヤ(2400km)と

 カラコルム山脈(500km)が東西に連なり、

 その南側を肥沃なヒンドスタン平野が広がる、

 その南側をヴィンディヤ山脈(北、1100km。標高1100〜1500m)と、

 サトプラ山脈(南、900km。平均標高1200m)が

 東西に連なってインドを南北に分断し、

 逆三角形のデカン高原(1900ku・標高300〜1500m)の北辺を形造り、

 西ガーツ山脈(1600km、平均標高915m)は

 アラビア海側を南北に縦断し、

 東ガーツ山脈(1100km、平均標高460m)は

 ベンガル湾側を南北に縦断して、

 デカン高原を囲む。

 日本街は、山脈に近い水源域に建設され、

 ヒマラヤ(2400km)山脈からアラビア海側に流れるインダス川に1ヵ所。

 ヒマラヤ山脈からベンガル湾側に流れ、

 ガンジス川に合流するヤムナ川とゴマティ川に2ヵ所。

 ヴィンディヤ山脈を水源とし、

 ガンジス川に流れ込むヤムナー川に1ヵ所。

 ヴィンディヤ山脈とサトプラ山脈の間を

 アラビア海側に流れるナルマダ川に1ヵ所。

 サトプラ山脈の南側を

 アラビア海側に向かって流れ込むタープティー川に1ヵ所。

 東ガーツ山脈からは、

 ベンガル湾側に向かって3つの河川が発生し、

 それぞれ、北からマハナディ川・クリシュナ川・カヴェリ川に1ヵ所ずつ、3ヵ所。

 西ガーツ山脈からは

 内陸から周りこんだゴーダヴァーリー川がベンガル湾に流れ、そこに1ヵ所。

 合計10ヵ所に日本人街が建設され、

 さらに8ヵ所に日本人街が建設されつつあった。

 広大な面積に占めるインド人口は3.4億人ほどであり、

 人口密度は、日本より少ない。

 建設機械が投入され、

 残りの作業をダリットの人海戦術でやっつけてしまう。

 山岳地に堡塁が作られていく、

 堀を造り内側に向かって上乗せし、固めて行く、

 異種族を排斥するもっとも単純な手法と言えた。

 もっとも、この時期のイギリス行政は強力であり、

 インド人の多くは洪水と崖崩れに悩まされており、

 面積に対し、人口も余裕があったことから、

 条件さえ合えば、日本の土地造成やダム建設に協力的でさえあった。

 ここでも、ドイツ帝国のツェッペリン飛行船が物資を運び、降ろしていく。

 イギリス領であり、イギリスの監視はあったものの、

 積み荷の中さえ、確かであれば見逃された。

 イギリスにとって日本は、最重要同盟国であり、

 日本は、アメリカと同様、英独対立を上手く利用し、

 国際的な利益を勝ち得ていた。

 

 ガンジス川を日本の河川砲艦 桜 が遡上していた。

 遡っていけば、飛鳥京(ゴマティ川)と平安京(ヤムナ川支流)に達する。

 ヒマラヤ山脈を源流とする清水も、

 上流で削られた土地と人の生活水が増し加わっていく、

 お金持ちは、死体を灰にしてガンジスに流し、

 貧乏人は、生焼けで遺骸をガンジスに流すと言われている。

 河口に近付くにつれ河も濁っていく気がした。

 半裸の老若男女が川に入り、入浴している。

 岸辺の日常が日本と違う事を物語る。

 日本人は、あまり沐浴したくない川に思え、

 上流でありながら上下水道を完備させ、

 水質浄化施設を建設する予定だった。

 河川砲艦 桜 艦橋

 「日本の店は意外と人気があるようです」

 「定価式だからね」

 「インド商人の吹っ掛けには、辟易しますよ」

 「買い叩く時間が無駄です」

 「インド人も、そう思ってくれたらいいがな」

 「50倍くらい吹っ掛けますからね。なに考えてるんだか」

 「ふっ インドの生産、加工、流通が分かれば適正価格も見当が付いてくる」

 「いずれ、定価式が優位になるだろうな」

 「ですが文化的な違いのショックは、大きいですね」

 岸辺に集まった人々が灰を撒いていた。

 「・・・河口近くの川魚は、気持で、ちょっと勘弁かな」

 「上流に養殖場を作ったらいいかもしれませんね」

 「そうだな・・・」

 !?

 「あ・・・虎・・」

 「「「「・・・・・」」」」

 刹那、血達磨にされたインド人が岸辺に転がり、

 虎は、そのまま、インド人に覆いかぶさる。

 「「「「・・・・」」」」 ごくん!

 衝撃の一瞬、周りのインド人は逃げまどい、

 襲われたインド人は、虎に銜えられ、悠々と運び去られていく。

 「「「「・・・・・」」」」 呆然

 「マジ!?」

 「あ、ありえねぇ・・・」

 「人間が喰われてるよ〜」

 「日本でも熊に襲われて食われたりとか聞くけど」

 「助けなくていいの?」

 「もう手遅れだよ」

 「最初の一撃で致命傷だな」

 「こえぇ〜」

 「植民も大変だな」

 「たしか、目を逸らしたらやられるんだと」

 「「「「こえぇ〜」」」」

 

 

 朱雀京 (1000ku)

 「これだけの規模の開発をするなら」

 「日本の内地か、植民地ですれば良いのに」

 「何でインドの内陸なんだ」

 「日英同盟上の都合なんじゃないの」

 「身捨てられそうだな」

 「1000kuもあれば、自給自足はできるよ」

 「それに周囲の地価も高くなって、イギリス人が買い始めているし」

 「便乗か」

 「植民地に投資するのって日本とドイツくらいだからね」

 「それって潰しの効く、国民がいるかいないかじゃないの」

 「・・・でも、イギリス人が増えてないか」

 「イギリスの貧富の格差は、広がっているからね」

 「イギリス人は日本資本を利用して成り上がりたいのだろう」

 「不換金の円は、魅力がないはずだが」

 「日本の圏内なら十分な価値があるさ」

 

 

 

 ベルリン−ウィーン−ソフィア−イスタンブール−バクダット−バスラ

 ドイツ帝国からオーストリア・ハンガリー帝国、

 ブルガリア、トルコ帝国を結ぶ鉄道が完成する。

 ドイツ帝国の工業力はイギリスを抜いていた。

 ドイツの工業力はイギリスの二倍弱。

 しかし、半分の鉄が海外領地へ輸出されており、

 ドイツ本国自体の成長は、鈍化していた。

 海外植民地の回収分でようやく、経済を回していたものの、

 採算性は悪化しており、日本商船によって、辛うじて利益を保っていた。

 ドイツ帝国 ベルリン宮殿

 「植民地はどうかね」

 「東ゲルマニアへの移民。製鉄、発電、公共設備は、順調に伸びています」

 「いずれは工業で自立し」

 「本国と東ゲルマニアで海外植民地を活性化できるかと」

 「そうか、イギリスめ、カナダ、オーストラリアで安心し切っているようだが」

 「鉄材は、ドイツ帝国の方が勝っている」

 「いずれはイギリスを追い抜けよう」

 「はい」

 「時に日本に船を発注するのかね」

 「はい、心臓部はドイツ製でも、船体は日本人に作らせる方が得かと」

 「ふっ 紙切れで船を作るとは、日本は羨ましい列強だな」

 「不換金紙幣では、ドイツ国民が納得しませんから」

 「特に海外を行き来する貴族は、そうだろうな」

 「はい」

 「潜水艦の建造は?」

 「現在、耐久年数15年で年間16隻を建造。定数240隻の配備を目指してます」

 「そうか、潜水艦240隻体制を維持できれば、イギリス海軍など恐れることはない」

 

 

 トルコ帝国

 バスラ市を流れるシャトル・アラブ川は、アラビア湾に注いでいた。

 係争地のイギリスの保護領クェートと近く、

 ドイツ帝国からの鉄道がバスラに到達していた。

 トルコ帝国は、強まりつつあるアラブ・イスラムの独立運動を牽制するため、

 ドイツ軍の進駐を認めると、イギリスと緊張状態となっていく。

 ドイツ軍は、シャトル・アラブ川の南岸を造成すると、

 ドイツ海軍基地 (3000m×600m)は、を建設する。

 さらにバスラから海軍基地まで鉄道を伸ばそうとしていた。

 そして、ドイツ権益あるところツェッペリン飛行船ありであり、

 アルミパイプ網の巨大な傘が基地を覆う。

 「砂嵐は大丈夫だろうな」

 「ピラミッド状だから下に押し付けられる。屋根が飛んでいくことはないよ」

 「まぁ 直射を防げるなら、そこそこ涼しいがね」

 「しかし、これほど油田が出るとはな」

 「鉄道に沿って油送管を伸ばせば莫大な利益になりそうだ」

 「ドイツ帝国は、産業を動かすエネルギーを得ることになるな」

 「特に海外植民地は産業を興しやすくなりそうだ」

 「問題は、イギリスの保護領クェートとの対立か・・・」

 「ドイツ車は、イギリス車より砂塵に強いよ」

 「だがラクダに負けてる。それにアラブ・イスラムの独立運動は手強い」

 

 

 る〜 る〜 る〜 る〜 ♪

 る〜 る〜 る〜 る〜 ♪

 る〜 る〜 る〜 る〜 ♪

 ヘタレな政府のおかげで、配属されるはずの軍艦が縮小され、

 栄光のエリート艦隊士官候補が本国から、はるかに遠い左遷の地、

 電力があり、余暇に過ごせる場所があり、

 兵舎が広いことを除けば暑く、雨ばかり、

 中央から切り離されたつまらない僻地だった。

 そして、要塞は建設途上で民間に移管され、

 日本の10個建設師団は、インドに移動している。

 金に目が眩んだ愚かな政治家は、

 驚くべき方向へ日本を追いやっていた。

 一時的に海軍戦力で窮地に陥ったからといって、

 白人に中国大陸をくれてやるなど国家100年の愚策。

 日本国と日本国民を犠牲にしてでも

 白人から黄色人世界を守るべきなのだ。

 それに才のない農民上がりに金を持たせても持ち腐らせてしまうだけ、

 そもそも、客船や貨物船で、国家が守れるものか、

 首都が地震で壊滅したからといって、

 軍事費を削減するなど愚かしいばかり、

 海洋国家を守る術は、海軍をおいて他にない、

 こんな雨ばかり降る南半球の島に何がある。

 海上に向かって砲を延ばしている50口径305mm連装砲台も、

 しずくを垂らして泣いている、

 もはや日清・日露を戦い抜いた海軍の名声もなく、

 陸軍も腑抜けと化していた。

 「・・・・」

 薄まりつつあった雨雲が微かに切れ、

 数条の光の束が緑の大地と蒼い海を照らした。

 ぼんやりと虹が作られ、

 その下を先任将校が自転車に乗ってやってくる。

 「おーぃ! 三上兵曹長。タロイモの収穫だぞ」

 「はっ! 大尉。三上兵曹長、タロイモ収穫に出頭します」

 

 

 東京

 震災後の東京は、瓦礫の平野が広がっていた。

 入笠山遷都が決まると、政府用地は、仮のものとして機能していた。

 「普通の国は平地に首都機能を置くんだがな」

 「便利だからね」

 「普通、遷都といえば関西だろう」

 「んん・・・薩長の意見は、まだ強いからな」

 「関西に首都を持って行くと既得権が強くて面白くない」

 「今回の遷都で主導権を握るつもりだろう」

 「それで山の上か」

 「さぁ 交通網は発達するだろうし、電話線も増えている」

 「公共投資は喜ばれるし、海運事業で外貨収入も目算が立つし」

 「何とかなるだろう」

 「関東と関西で戦争にならないか?」

 「まさか」

 「どちらにしろ、中山道投資は、増えそうだな」

 「どっちにも行きやすいのなら良いけどね」

 

 

 

 清国

 紫禁城

 「・・・我が大アジア主義を実現するには」

 「我々は何を以て基礎としなければならないかと言いますと」

 「それは我が固有の文化を基礎にした道徳を講じ」

 「仁義を説かねばなりません」

 「仁義道徳こそは我が大アジア主義の好個の基礎であります」

 「清国と日本は、大アジア主義に基づき、王道を歩まなければなりません」

 「決して、西欧列強の覇道を歩んではならないのです」

 「アジア全体が手を取り合い」

 「一つとなって、王道楽土を成していくのです・・・」

 資源の売却益と、労働搾取と、

 市場の大きさは、諸外国の数十倍に達し、

 清国の官僚と富裕層は、強圧的な権益で着実に力を付けていた。

 それは、組織のモノではなく、

 あくまでも個人所得であり、

 その莫大な富は、他国の富裕層を圧倒する。

 国益の多くが私腹に消えたため、清国の近代化は、徐々に進み、

 代わりに独善的な華僑資本家が世界中を闊歩していた。

 彼らは私利私欲のため、国益を他国へ売り渡した国賊であったものの、

 個人の判断で巨額の資本を動かせる油断できない資本家となったのである。

 腐敗官僚たち

 「みんな、お金を欲しがっているある」

 「しかし、列強は賄賂を受け取る者が少ないある」

 「列強の人間は、法律に縛られた飼い犬ある」

 「法律は国民を支配するためある、利用するためある」

 「自分まで法律に縛られるとは、馬鹿ある」

 彼らは、そのポケットマネーで先端企業を買収でき、

 利権を売る、売らないは、個人の良識に頼ることになった。

 各国の記者たち

 「良いこと言うねぇ」

 「日本は、イギリスと組み、インド支配を手伝っているだろう」

 「少しは身に摘まされて、反省したらどうかね?」

 「いえ、日本が開発しているのは」

 「イギリス行政区から譲渡された地区ですから」

 「それに、洪水や崖崩れ対策も兼ねてますし」

 「そういうドイツは、どうなのかね」

 「東ゲルマニアは、産業が安定するとアジアで覇権に出るのでは?」

 「ま、まさか、ドイツ帝国は平和主義ですよ」

 「清国は、インド人を味方につけ、我々を牽制しているのでは?」

 「兵器とか、武器を売り過ぎたのでは?」

 「むしろ、工業力を整備される方が怖い」

 「そういえば清国産業も大きくなっているような・・・」

 

 

 ニューヨーク

 30000トン級客船 “ちとせ丸”

 日本海運であっても北大西洋航路を走る。

 単に船賃が安いからであり、

 そこそこのサービスが得られたからであった。

 デッキ

 日本人客たち

 「すげぇ〜 魔天楼だ」

 「自由の女神も・・・」

 「自由資本主義と民主主義の国か」

 「善きにつけ、悪しきにつけ、国民の最大公約数の国だな」

 「自己主張と個人の権利が強い国なのに」

 「国民の善意を信じているのだろうか」

 「三権分立しているのだから、そうでもないだろう」

 「少なくとも日本は、民意を上げないと真似できないね」

 「要は排他的特権の制限と」

 「あと、独裁をやりたがる奴が権力を握らなければいいんじゃないか」

 「日本人は、長いモノに巻かれて右翼化しやすいからな」

 「それを口実にして政敵を売国奴、国賊扱いで失墜させる連中も多いし」

 「権威を嵩に成り上がるなら、なんだっていいからね」

 「食管予算と好景気で次男坊以下に所領をやれなかったらどうなっていたことやら」

 「だけど、縁をぶった切って動かさないと、日本経済も動きにくいんだよね」

 「んん・・・おらが村の長老格か」

 「安定している時は良いがね、激動の時は、邪魔なんだよな」

 「まず、そいつらを動かさないとね」

 「でも、お年寄りだからね」

 

 

 ロシア帝国 首都ペトログラード

 ラスプーチン伯爵は、ロシア貴族の無嗣廃絶(むしはいぜつ)と、

 国民救済でロマノフ王朝の延命に成功していた。

 その場しのぎで、既得権を破壊し、

 貧富の格差を縮められるのなら、なんでも良かったのである。

 もっとも、お金持ちを消したからといって、

 貧乏人がお金持ちになれるわけでもなく。

 余剰資本を工業化と設備投資に回し、

 産業を復興させ、近代化を進めて行く、

 無論、貴族の望むようなサービスは廃れ、

 金を持ち始めた庶民向けの生産品が街に溢れ始める。

 ボリショイ劇場

 新作のバレエの内容は、ユスポフ公とドミートリー大公が悪魔と契約し、

 ラスプーチンを暗殺する話しだった。

 「・・・くだらん、ただ、己の保身と皇帝の信を得ようと邪魔者を殺そうとしただけだ」

 「血の日曜日事件も彼らの策略にされてしまいましたね」

 「そうやって、何でも敗者のせいにせねば帝国は守れんのか」

 「ラスプーチン伯爵」

 「あなたが殺されていたら、あなたが悪魔の契約者666にされ」

 「ユスポフ公とドミートリー大公が神の使徒になっていたのですよ」

 「ふっ きっと、似合っていただろうな」

 「また、他人事のように、その服の方がお似合いですよ」

 「このくだらない服装は、私から自由なロシアの大地を奪ったのだ」

 「一人歩きもままらなくなったわ」

 「御車の内装は一流のはずですよ。外より暖かいですし」

 「ロシアの自由な風も奪いおったわ」

 「少なくとも、ロシア人の顔色は良さそうですよ」

 「ユダヤ人たちが、庶民向けの製品を作り始めたのだろう」

 「貴族向けの商品の方が割がいいですからね」

 「結局、金を持っている者に余計サービスをする」

 「当たり前といえば当たり前だな」

 「皇帝は臣下が減ったと剥れてましたよ」

 「宮廷ばかりがロシア帝国ではないのだ」

 「臣下を減らすか、臣下の分け前を減らすか」

 「等しく臣下の分け前を半分減らせば、貴族の反乱」

 「話して分かりあえるわけもないし」

 「それなら、口実を付けて臣下を減らすよりない」

 

 

 

 

 南ヴュルテンベルク (東アフリカ) 99万4996ku

 ビクトリア湖畔ムワンザガルトは、

 南ヴュルテンベルクの首都となろうとしていた。

 赤道に近いものの、

 標高は1000m以上の大地で、比較的涼しかった。

 ドイツ本国のヴュルテンベルク王国(シュトゥットガルト)と似ても似つかない、

 とはいえ、ドイツ風の家屋が建ち並び、

 緑の木々が植えられて行くにつれ、

 ドイツの都市らしく見えはじめる、

 ドイツ風の服装を着た黒人は妙に様になり、

 生きて行くためにドイツ語を話す黒人も増えていた。

 全長240m級の飛行船が上空を支配し、

 ドイツ帝国が世界の空を制していると現地人に見せつけていた。

 

 

 

日本海軍 大綱
艦種 排水量 速度 主兵装

 

戦艦 1 26000 23 50口径305mm連装4基

固定50口径356mm連装2基

摂津、

2 22000 22 50口径305mm連装3基

固定50口径356mm連装2基

薩摩、安芸
巡洋戦艦 2 18000 25 鞍馬、伊吹
装甲巡洋艦 前ド級戦艦改造⇒装甲巡洋艦 15隻
2 22000 26 50口径234mm3連装2基

固定50口径305mm連装2基

姫神、白神
10 20000 26 香取、鹿島
妙高、那智、足柄、羽黒、
高雄、愛宕、摩耶、鳥海
7 17000 25 敷島、朝日、三笠、
装甲巡洋艦改装 1隻
1 18000 28 50口径234mm3連装2基

固定50口径305mm連装2基

生駒、
  25        
装甲巡洋艦 → 空母
  5 17000 28 50機 鳳翔、瑞翔、燕翔、蒼翔、龍翔

 日本が空母に対し、関心をよせ、

 その可能性を高く評価していることは、見てとれた。

 単に空母と潜水艦が新艦種であるため、

 スタートラインが近く、予算次第では、並べるという発想といえた。

 赤レンガの住人たち

 「やっぱり、予算が足りねぇ」

 「っそぉ〜 遷都に金取られた」

 「遷都で日本の防衛力が向上するんだと」

 「大砲が首都に届かないだけじゃないか、そんなの国防とは言えん」

 「そういえば、新幹線を中山道に通すんだろう。非常識な」

 「しかし、いくら紙切れだからって札束作り過ぎじゃないのか」

 「物価はそれほど上がっていないから外貨収入でやりくりしている感じかな」

 「まぁ 経済が上手く回転しているみたいだけどね」

 「建設機関車の作り過ぎじゃないのか」

 「100両以上必要らしいよ」

 「何考えているんだか、軍艦を作れ軍艦を」

 「このままだと、ロシア海軍、清国海軍、東ゲルマニア海軍に負けそうだな」

 「アメリカにもな」

 「もっとも、軍艦建造は、あまり熱心じゃないらしいけど」

 「それどころじゃないというのが正直なところだろうな」

 「このままだとシナリオBになりそうだな」

 「要塞砲と巡洋艦と潜水艦ばかり建造するのか?」

 「そりゃ 景気がいいからって、国防を等閑にされちゃかなわんな」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 第一次世界大戦がなかったので、機関銃の威力は不明、

 塹壕戦はなく、戦車も開発未遂で、装甲車止まりでしょうか、

 でも別の進化の装甲列車は、鉄道建設に伴い、進化しそう。

 あとヘリウムを売ってもらったドイツ帝国は、巨大飛行船団を建造しそう。

 

 

 あと “天皇制” は、不敬な表現だそうです。

 当時は “天皇制” を “国体(くにがら)” と呼んでいました。

 歪曲というか、獏然というか、曖昧で、遠回しな表現というか、

 簾政(れんせい)極まれり、という感じです。

 しかし、現代だと、さすがに “国体” は、わかりません。

 作者も知りませんでした。

 たぶん、大半の読者も知らず、違和感を感じる気がします。

 なので “天皇制” と記載しておきます。

 

 

 日本

 遷都先は、オーストラリアと同じキャンベラ方式で、

 入笠山になってしまいました。

 名称は、次か、次当たりで決めるかも、

 

 

 

    領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     4720  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 2800 500
遼東半島     3462+1万2500 10 200  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 700 500
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 200  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   9290 1000

 

 

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ 

第16話 1923年 『大英帝国植民地補完計画』
第17話 1924年 『入笠山遷都』
第18話 1925年 『首都 高天原』