第18話 1925年 『首都 高天原』
鳳凰宮、高天原、扶桑京、天照、天皇園、聖都・・・
多種多様な公募の中から “高天原” が選択され、
山の頂が切り崩され、平地が造成され、
支柱が深く掘られ、切り広げられた大地が押し広げられ、
政府機関と関係機関が建設され新首都が建設されていた。
高天原 仮宿舎
東京の喧騒と利権から離れた避暑地、
高天原(入笠山)開発計画と
中山道枢軸ラインベルト構想計画が練られていた。
その対価は、海運と海外就労、東ゲルマニア特需、
増大しつつあるイギリス植民地需要と、アメリカと清国需要。
これらの外貨収入を得ることで、ようやく成り立っていた。
都市再建事業を進めて行けば、好都合な事もあった。
しかし、不都合も同時進行してしまう。
海外移民が進むにつれ、
土地は下落の一途をたどり、消費市場はやせ細り、
生産品と商品は、買い手を求めて、路線に沿って郊外へと流れて行く、
大震災と首都の移転で駄目押し、
育ちつつあった内需のテコ入れが低迷していく。
「物価高騰をどうやって押さえたものか」
「地位や昇給を望めば自動的に格差が広がるからね」
「だれでも地位と名誉と財産の格差を広げたがる、既得権は消えないな」
「ロシアじゃ貴族潰しやってるぞ」
「いいねぇ 日本も外地以外の既得権を潰す気でやらないと駄目って事か」
「でも既得権潰しは、独裁と言われそうだな」
「まぁ これから大規模開発を掛けるとしても」
「学校での人間が増えたからね」
「頭の良い人間に社会資本を分配するのは悪くないよ」
「頭の良い人間が世の中を明るくするとは限らないよ」
「近代化だろう。多少、難ありでも、行け行けでやっちゃうべきだろう」
「まぁ そうなんだろうけどね」
東京
長年、政治中枢だった東京は、関東大震災の痛手が生々しく残っていた、
首都機能移転が重なり、アイデンティティを喪失したのか、活気が失われていく、
地価の下落は、押さえられず、地主と大家が泣こうと喚こうと
政府が一旦決めたことは、変わらず、
失われていく既得権は、
関東が権力の中枢だったことで得られていた利権であり、
東京再建を望むなら自らの力で新たな価値を見出し、
開発しなければ目処が立たなかった。
ロンドンの過密都市を見聞した者は、将来の東京を見越し、
関東大震災に直面した者は、
狭い路地と公園不足で、もたらされた災厄を憎んだ。
そして、広い路地と共有地の公園を増やした計画都市を望み始める。
東京の再開発は、海外移民と、地震の被害と、
首都機能移転の人口減が加わったことでなされていく。
関東大震災は、地震という側面だけでなく、
首都炎上といった一面もあった。
焼け野原となった大地が区画整理されていく。
個人より、長子制で家を重んじる日本社会の悲喜劇があった。
日本の某工場
水力発電所が建設されると電力が安定する。
日本製工作機械が並び、
形の単調な製品と部品が製造され、出荷されていく。
高品質が求められる武器より、
品質と材質さえ確実なら歩留まりの良い民生品が製造される。
円の不換金を利用した為替調整によって、
日本製品は、外国製品より安く造って売ることができた。
欧米諸国も国産の鍋より日本製の鍋が安ければそれを買い、
部品が安ければ、それを買った。
完成品でなくても造り易い部品を造り、
利益になりやすいモノを造って海外に輸出していく
そこには、タネも仕掛けもなかった。
国や企業がいくら円札を払っても不換金紙幣の紙切れであり、
欧米諸国の換金紙幣と連動されていないのである。
そして、本物の価値ある外資を得ようと思うなら海外労使であり、
海運業投資で配当を得るのである。
留学生上がりの海外就労の成功も、投資の有無にかかっていた。
「これは、ブラジル行きなのか?」
「ああ、県と、その他の移民団の支援でね」
「大震災後なのに余裕があるのな」
「外国に恵んで貰うのは乞食みたいでムカつくし」
「大震災後でも外貨は欲しい」
「というわけで現物が支援なんだろうな」
「ブラジル移民は尻切れトンボだろう。上手く行ってるのか」
「移民団が少ない方が投資しやすいからね」
「ブラジルも、インドと似た方式を使うんだと」
「水力発電を確保して、資源開発から、工業化」
「なに? 移民者名義で、実態は日本資本?」
「まぁ だいたい、そんなところだ」
「定期船が行き来できるようになると違うな」
「なんか、政治的に荒れそうな雰囲気らしくて」
「上手く立ち回れば、足場ができそうなんだと」
「イギリス植民地の足場と、どう違うんだ?」
「イギリスの植民地じゃない、という違いが大きいんだ」
近代化の下地は、工業と商業によってもたらされる。
もっとも、インドの近代化を阻害したのは、よりメンタルな側面が強く、
相互不信と不統一といえた。
イギリス人は、インド人を南アフリカへと送り、
日本人のインド入植を急がせ、インド植民地を確固たるモノにしていく、
日本に譲渡された行政区内は、インド内陸部であり、
水源を押さえた高原域だった。
日本から鉄筋とセメントが送られくる、
そして、インドでもセメントが採掘され始めていた。
日本の建設師団は、最新の土木建設機械を有し、堡塁を造成をしつつ、
区画整理を行い、灌漑し、家屋を建設。
水力発電ダムを建設していく、
また、紅い鳥居が造られ、城郭神社仏閣も建設されていく。
日本人街は、貧富の格差、学歴・職業上の差別意識があるものの、
世襲的な差別は小さく、表面化し難い。
しかし、カースト制のインドにあって、日本民族の相対的地位は問題視される。
無論、それは、日本の行政区画の外であり。
支配者は、強者であるが故、地位を安泰にさせたがり、
被支配者は、弱者であるが故、公正と公平を求めたがる。
無論、弱者は、より弱者に対し、格差を求め、彼らの生殺与奪権を手放さず。
支配、権力の逆転など許すはずもないのである。
なぜ、この世に階級があり、階層があるのかは、些事な疑問に過ぎない、
それが善悪を超えた人間の欲するところであり、本性と言えた。
とはいえ、己が欲望を固定させ得た究極の世界が最高の世界というわけでもない、
ある意味地獄であり、人間の欲望が地上に地獄をつくったとも言える。
とはいえ、ごく少数の数パーセントは、世襲で、この世の天国を味わい続けることができ、
それは、それで、他の世界の権力者にとり、羨望な世界だった。
もっとも理性の声を聞き、人間の欲望を最大公約数的に集め、
国内を安定させる民主主義もあり、
格差を資本主義のみに限定する手法もある。
しかし、それは、政治形態の一つの側面であり、
最大公約数的に万民が幸福になれる万能薬とは限らないのである。
工事中の堡塁の向こう側は、カーストの世界だった。
インド商人とまとも交渉できる日本人は少なく、基本的にイギリス人を間に入れる。
無論、イギリス人が信用できるかというと、そこそこと言える。
日本人の僧侶の周りにインド人たちが集まり、
イギリス人の通訳で説教をしている。
カーストのない仏教徒になりたがるインド人は少なくなく、
ヒンズー教徒、イスラム教徒との間で物議を起こしていた。
インド人は、日本の仏教が権力・支配階級から切り離され、
政教分離で形骸化して倫理上の存在となり、
冠婚葬祭用になっていることをインド人は知っているのだろうか、
そう、日本の仏教は、心のあり方だけにとどまっており、
権力構造とは結びついていないのだ。
しかし、それでも、日本の仏教僧の周りにインド人は、集まってくる。
日本の一部、特に軍部と結びついた仏教系・・・
敢えて言うなら日蓮系の分派は、正義感が強いのか強硬意見を出しやすく、
朱雀京
数万人の日本人が入植し、道路と水路を広げ、田畑を作っていた。
孤立していることで共同体意識と結束が高まり、公益性が高くなっていく。
発電ダムが完成し、鉱物資源を掘り当てられるなら、工業化も難しくなかった。
装甲列車は、頼もしく、
貧弱そうな装甲車が並んでいた。
赤レンガの住人たち
「何か暑いな」
「これでも高原地なんだけどね」
「どうでもいいけど、単細胞の日蓮系軍人を黙らせてくれ」
「力を付けていない段階でヒンズーとムスリムを敵に回したくない」
「まぁ 教祖が教祖だからね。日蓮も黙っていたら殺されなかったモノを・・・」
「そういう問題か、まだ、都市防衛も上手くいってないというのに」
「イギリス行政区内なら他の藩王国から攻撃されないと思うがね」
「孤立した内陸部だぞ。安心できるものか」
「イギリスはインド独立を恐れているし」
「孤立した内陸部で生殺与奪可能な間はイギリスも見逃すよ」
「だと良いがね」
「もっと強力な装甲車が欲しいな」
「まだ、堡塁で良いよ。あと、資源と発電所」
東ゲルマニアの近代化は、清国と日本によって底支えされていると言っても良かった。
無論、労働力としてであり、
東ゲルマニアの主人はあくまでもドイツ人だった。
ソウルガルト
日本人たちは、ドイツ人の街をキョロキョロ見回しつつ歩いていた。
「紅いレンガの家並みと、ベンツとBMWが走ってる」
「やれやれ、日本とドイツの工業力は、圧倒的だな」
「まるでドイツ帝国だ」
「景福宮は、どこにあるんだ」
「壊されたらしいよ。ドイツの城を建てるらしい」
「思いっ切りがいいことだ」
「昔の掘っ立て小屋は、ほとんど消されて朝鮮人居留地に残るだけだ」
「どこまでも被支配者を惨めな思いにさせる気だな」
「良い方法だよ」
「良い方法? 日本の未来にならないだろうな」
「日本が占領されなければな」
「際どいと思うがね」
「いくらドイツ軍でも、200万の将兵を徴兵できる国と戦うのは勇気がいるだろう」
「本当に、そう思ってくれるなら良いがね」
傲慢そうなドイツ人たちが歩いていた。
「ビールとウィンナーは自給自足に向かっているな」
「地方はジャガイモとキャベツ畑が多いらしい」
「しかし、ドイツ人って、本当に美男美女が多いよな」
「そんな人種的な容姿より、東ゲルマニア工業の成長率だよ」
「いや、直接対すると見かけも含めて、知能指数とか、創造性って大切だと思うよ」
「どうしようもないモノは、諦めるべきだと思うね」
「東ゲルマニアの成長率は高いけど、日本人労働者の方が効率が良いだろう」
「鉄の量が違うのだから、いまのうちに日本も成長させないと」
「インドなんか放っておいて、南の瑞樹州を開発しろよ」
「日英同盟の需要と供給のバランスだと」
「ったくぅ〜 イギリスめ」
「ドイツと組みたくなったよ」
「そうさせないためのインドの権益地譲渡なんだろう」
「日本とドイツに組まれたらイギリスの海洋覇権は終わるからね」
「作為的というか、イギリスの謀略だろう。乗るなよ」
「えげつねぇ国だな」
「少なくとも現状のバランスを保ちながら、日本の権益を拡大していくしかないね」
「バランスねぇ」
「朝鮮人は思ったより少ないな」
「満州側に追いやられたんじゃないか」
「学校とか作って、字とか教えないのかな」
「根絶やしするのに字なんか教えるわけがない」
「ひでぇ」
「白人同士の暗黙の了解で文盲は、サル人扱いじゃないの」
「日本人もそれに近いだろう」
「日英同盟がなければ、日本は安全保障もままらないか・・・」
「戦艦造ればよかったんだ」
「客船の方が簡単に建造できるし、移民需要に当たってやめられないよ」
「まぁ インドは、有望株だし自給体制が確立できれば大きいよ」
「だけどね。東ゲルマニアの成長ぶりを見ると不安でたまらないよ」
「むしろ、山東半島側の資源が大きいと思うが」
「ドイツ帝国が日本側でなく、中国・満州側を向いてるのなら好都合だよ」
「やっぱり、清国の近代化を助けながら、アジアのバランスを取るか」
「分が悪いというのに危険なパワーゲームだな」
「弱小国は、姑息に慎ましく生きて行くんだ」
「日本人は短気だ。ストレスに耐えられない人間には辛いな」
「貧困層が減っているなら大丈夫だろう」
貴族社会、オーストリア・ハンガリー帝国の屋台骨は、
言語、宗教、民族、で軋み、
共産主義の武装蜂起と鎮圧で悲鳴を上げていた。
名門貴族でさえがテロを恐れ、
気ままに城から出られず。
小貴族、騎士候、富裕層は、命の保障すらも危うく感じ世情が作られていた。
帝国警察
「民主主義者どもが銃と資金をテロリストに供給しているとしか思えないな」
「共産主義者ではないのか?」
「金を持ってるのは、資本家だろう」
「じゃ アメリカか?」
「あとフランスも怪しいな」
「君主制と民主制の思想戦か・・・」
帝国の支配者は、ハプスブルク・ロートリンゲン家だった。
出自は、古代ローマのユリウスから端を発しているとも言われ、
神聖ローマ帝国皇帝に選出された名門、
盛者必衰の理の激しい欧州事情なのか、
場を制した覇者は、次に望む歴史の継承で、
長久の家系、名門ハプスブルク家は、尊ばれた。
そして、各国の王族の覇業の仕上げ需要に応じたのか、
“戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ”
と、政略結婚により、大帝国が形成されていく。
結婚戦略がハプスブルク家を栄えさせ、
結婚戦略がハプスブルク家を衰えさせた。
矛盾しているようでも、
ハプスブルク家は各付けを守る為と、
富の集中と所領安堵のため、
貴賤結婚を禁じたことで、血族結婚と近親相姦が進み過ぎた。
華やかさを余所に、障害者が生まれ、奇形が生まれ、
ハプスブルク一族の家系は閉じつつあり、血も衰えていた。
オーストリア・ハンガリー帝国トリエステ港
アドリア海をそよぐ潮風が心地よかった。
20000トン級フィリブス・ウニティス型戦艦
フィリブス・ウニティス、テゲトフ、
プリンツ・オイゲン、シュツェント・イストファンの4隻が威並ぶ。
兵装は45口径305mm三連装砲4基。
内情を知らなければ強そうな戦艦であり、
知らなくても、オーストリア・ハンガリー帝国海軍の手を離れることが決まっていた。
代艦で新たに建造された29000トン級エルザッツ・モナルヒ型戦艦4隻は、
45口径381mm連装砲4基。
これまた内情を知らなければ強そうな戦艦が並んでいた。
代艦建造による増強だったものの、
国力比からすると海軍力は整理されつつ、削減され、
陸軍と空軍が増強されている。
器は強くても、器を運用する海軍将兵が悩みの種だろうか。
同じ日本人でも性格に差があるものの、
大抵は、電車が遅れ、バスが遅れるとイラつく。
そう、国情と歴史的、文化的背景と、
教育から来る民族的気質は、大きく違い。
口があっても耳のないクロアチア人。
温厚なオーストリア人。
内向的なハンガリー人
と、こんな奴らと狭い艦内に一緒にいたくないとか、
人間の方が大問題と言えた。
とはいえ、海に浮かべる戦艦は、国家の威信を賭けたモノであり、
戦艦シュツェント・イストファンの甲板に立ってみる光景は、
オーストリア・ハンガリー帝国の誇りであり、栄光に思えた。
45口径305mm三連装砲を背に、
白いドレスを着た女性(24歳)が立っていた。
「ゾフィー。この軍艦で行くのかい?」
「そうよ。イツキ。凄い軍艦でしょう」
「でも4隻とも、売るんだろう」
「清国にね。イツキ。困る?」
「どうかな」
「日本は軍艦を建造しないの?」
「イギリスの戦艦を買うんじゃないかな」
「中古を?」
「そう、中古を」
「日本は、この軍艦より大きな客船を作れるのに?」
トリエステ港に日本の40000トン級客船 “わらしべ長者丸” が入港していた。
『あっちに乗った方が沈む心配がなさそうだし』
『娯楽施設もあるのに・・・』
「・・・客船の方が造りやすいんだよ。きっと」
「ふ〜ん」
『ドル箱だからね』
「日本はどんなところ?」
『もう、何度目の質問だろう・・・』
「・・・蒸し暑いよ。地震が多くて、台風と津波が来る」
「木造家屋が多いから火事になると大変」
「なんか、ものすごく刺激的なところね」
「でも、なんで日本なんかに?」
「・・・気まぐれよ」 目が冷ややか
「少なくとも、治安は良いと思うけど」
「天災が多くて、人災が少ない国ね」
「そういえば、地震で、日本の首都が変わったのね」
「新首都は、山の上らしいから、涼しいかもしれないな」
「そう、東洋の新興工業国家がどの程度か、見てみましょう」
この舷側の低い海防戦艦染みた戦艦で、
インド洋を越えるのかと思うと、気が重くなった。
どう考えても “わらしべ長者丸” の方が快適で、
スイスイ帰還できそうに思えた。
彼女の名は、ゾフィー・フォン・ホーエンベルク
貴賤結婚の申し子は、
ハプスブルク・ロートリンゲン家特有の下顎が付き出ていない。
血統的な遺伝が少ないせいか、
継承問題から外され、
悠々自適な御身分なのか、
社会不安で、身の危険を感じているのか、
東洋から流れ着いた華族崩れの留学生が
偶然居合わせた事件で、空手を披露し、
仲良くなって、日本観光。
彼女は、ポケットマネーで、軽井沢に別荘を購入しており、
オーストリア・ハンガリー帝国が落ち着くまで、日本に居付くらしい。
日本の華族は、明治維新後430家ほどで、
その後、時代に取り残され、持ち崩したり、
分家や功績を上げて爵位を賜わったり、
増減があって、やや増加傾向を示していた。
なので、華族は、それほど珍しいわけではない。
というわけで、慌てたのは、日本本国で、
落ちぶれていたはずの家は、
何処からか、入金されたお金で持ち直し、
箔付けなのだろうか、
自分は、どこかの企業の相談役という身分が、
知らない間に決まっていた。
このまま、恋愛関係に発展するならと、思惑でもあるのだろうか、
それも立身出世に繋がり、良いのだが・・・
同時に、一抹の不安も感じる。
贅沢慣れしたお嬢さんと一緒になるなど、
御免蒙りたい気もする。
イギリス 霧の都ロンドン
工場の煤煙が立ち登り、
2階建てのバスの群れが街を走り、
地下鉄の乗客も多かった。
産業革命のしわ寄せは、富める者と貧しき者との格差を広げる。
イギリスが初期資本主義から脱却しつつあったとしても、
お金持ちは自らの資産価値を格差として維持したがり、
貧しい者らは、貧富の格差を縮めようとする。
そして、より近代化し、国力を増強するには、国家全体の資産価値を高め、
同時に労働価値を高めなければならなかった。
日本人たち
2階建てバス
ごほん! ごほん! ごほん!
「・・・やれやれ、酷い空気だな」
「2階に登るからだ」
「乗りたかったんだよ」
「2階にも屋根を作るべきだな」
「俺は、10秒で堪能し切ったよ」
「衛生が人口集中についていけないみたいだな」
「イギリスも、入笠山みたいな田舎に遷都すれば良いのに」
「権力構造の土台から造り直しだから、簡単にいかないよ」
「しかし、イギリスの鉱物資源で目ぼしいのは石炭」
「これでは、必死に生産しても限界が見えてくるよ」
「むしろ、資源地に近い、日本が有利でもある」
「それもどうかな。カナダ、オーストラリアは資源国だ」
「それに累積された富と蓄積された工業力。まだまだ奥が深い」
「だけど、人口は、郊外に拡散すべきだね」
「東京の方が酷かったと思うよ」
「まぁ それも、大震災で変わるだろう」
「イギリスの開発がカナダ・オーストラリアに向かうか」
「それとも、インド・南アフリカに向かうか、気になるところだな」
「イギリス人が移民しやすいのはカナダ・オーストラリア」
「しかし、金になるのはインド・南アフリカという気がするね」
「まぁ ゼロサムしやすいのは、インド・南アフリカだからね」
ロシア帝国
国家を国家として成さしめるには強靭な権力基盤が必要であり、
強い組織力と利害関係。
そして、有形無形の共同意識と郷土愛が必要とされる。
ロシアは、戦争回避の是非で、悶着があったのは確かと言える。
戦争で国家の権力土台を破壊してしまうと言った可能性は低く、
むしろ、外敵を作ることで内の和を成す、内の名を成すため外敵を作るのである。
そして、権力基盤を強固にするための戦争でもあった。
貴族であり、領民であれ、戦争による功績により、
地位の上昇、領地安堵を画策していたのである。
事実、封建社会における出世は、戦争しかなかったのである。
戦争回避は、民族共産主義を発生させる、
しかし、ロシア国民を安堵させたのは、宮廷闘争からラスプーチン伯爵が勝ち残り、
貴族潰しと人民救済が始まった事にあった。
生ぬるいと思われつつも、大貴族が潰され、
所領の一部が公共の場として解放される。
貴族服に身を包んだラスプーチン伯爵は、不承不承に善意を施し、
その資本の一部を工業化のため、開発に投入し始める。
ズィームニイ・ドヴァリェーツ (冬の宮)
「陛下。近代化のため、資産を拠出していただきたい」
「しかし、失敗した場合・・・」
「いえ、陛下は、親で保障するだけなのです」
「仮に失敗するとすれば、貴族ですから・・・」
「んん・・・・」
某貴族の館
「父上、これからは、工業化の時代です」
「土地の半分を売った資本を元手に工業化だと、バ、バカな事を言うな」
「わしの目の黒いうちは、断じてそんな事は許さん」
「父上・・・」
ばぁあ〜〜〜ん!!
「ぅぅ・・・」 がくっ!
地主・大家にとっての近代化は、賭けに近い投機といえた。
小遣い帳から、貸借対照表・損益計算書への移行であり、
才覚と気質の乏しい貴族は、不可能に近い所業と言える。
資源の開発と、それに伴う工業化は、徐々に進むものの、
ロシア皇帝の所領は増え、
落ちぶれた貴族も増え、
経営に長けたユダヤ人の工場は、増えて行く、
結局、近代化は、どこの国でもあるように世代交代であり、
大地主・大家の覚悟によるところでも、
その実を得るのは、別人だったりする。
ロシアが急速に近代化し、
やはり不承不承ながら、社会主義的な労働者・農民保護が行われると、
鉄道を基盤とする産業が東西に広がっていく。
ズィームニイ・ドヴァリェーツ (冬の宮)
ラスプーチン伯爵と秘書ア・シマノウィッチ
「やはり、ユダヤ人は、目敏いな。ほとんどの産業がユダヤ人の手に落ちている」
「私もユダヤ人です」
「まぁ ロシア全体で国益になっているのであれば、我慢するよりなかろう」
「そうですとも」
「しかし、もう少し、労働環境を良くしてもよいのでは?」
「ある程度、軌道に乗らなければ、産業は成り立ちませんよ」
「・・・・」
「少なくとも、貴族どもに支配されるより、マシな社会になるでしょう」
「ロシア帝国をアメリカ資本主義の様にするつもりじゃないだろうな」
「まさか、そこまでは・・・」
ロシア人を搾取していたのは、移民族でもなく、怪しげな怪僧でもなく、
ロシア人であり、ロシア貴族だった。
ロマノフ王朝危機の際、多くのユダヤ人がアメリカへ避難しようとしていた。
しかし、危機が去ると、ユダヤ人は、そのままロシア帝国に居残り、
ラスプーチンの改革に沿って、ロシア産業と資本主義を支配していく。
ロマノフ王朝でさえ、ユダヤ人へ投資することで利益を拡大しており、
ユダヤ人の資本主義は、ロシア社会の根底を変えようとしていた。
ブラジル サンパウロ港
19282トン級ミナス・ジェライス型戦艦
ミナス・ジェライスとサン・パウロが遊弋していた。
ブラジルは大国でありながらも工業力で遅れ、
日本は、身を切りつつも、工業化を推し進め、結果を出していた。
日本とブラジルの定期航路は、需要と供給を安定させ、
いくつかの取引を成功させる。
如月(きさらぎ)型 | |||||||
排水量 | 全長×全幅×吃水 | hp | 速度 | 航続距離 | 砲 | 魚雷 | 爆雷 |
1315 | 102.7×9.1×2.9 | 38500 | 37 | 14kt/4500海里 | 45口径120mm砲×4 | 533mm3連装2基 | 2×24 |
艦橋
「この大きさで、対艦と対潜の両方は、無理だと思うね」
「効率を考えると、対艦と対潜に分けたい気もする」
「ブラジル海軍次第だけどね」
「少なくとも、ブラジルの鉄鉱石が輸入できるのなら悪くはない」
「できるなら、資源開発も成功させたいね」
「発電と水を確保できれば、利便性の高い生活と、農業はまずまず上手くいくだろう」
「資源開発と結び付かない限りは、難しいと思うよ」
「まぁ 軍艦を買ってくれるのならブラジルは、良い国だよ」
「近な広い国に3000万くらいしか住んでいないらしい」
「贅沢だなぁ」
「それでも土地を争っているから笑えるよ」
「価値のある土地か、価値のない土地か、だろう」
「資本さえ積めば、価値のある土地に変身させられるよ」
「しかし、日本も気前が良くなったもんだ。棄民のために軍艦を売るなんて」
「結果として、そうなっただけで、ブラジルの資源を押さえたいのだろう」
「大型商船のおかげで気前が良くなったもんだ」
「日本商船隊が安く建造されて、安く運営されている間は、列強も便利だから利用するし」
「下手に軍事的脅威を煽って、流通を妨げるより都合がいいからね」
「上手くいけばいいけど・・・」
ユダヤ人資本の侵食
彼らは、情報を握っていた。
リンゴが値上がりするのか、値下がりするのか知っていた。
どこのリンゴが安く買え、どこのリンゴが高く売れるかも知っていた。
どこへ、どうやって運び、誰に売っていいかも知っていた。
そして、知っていたのはリンゴだけでなかったのである。
さらに彼らのペテンで騙される者が現れるなら、
その利鞘は、ゼロサムゲームの如く跳ね上がり、
ユダヤ人の懐を潤わせたのである。
国家法あるいは、ユダヤ人排斥の差別がなければ、
か弱い諸国民は、取引するたびに騙され続けるしかないのである。
ユダヤ人の浸透を防いでいる国家が存在する。
一つが国家の枠組みでユダヤ資本を排斥している日本であり、
もう一つが民族的な気質で、成し得ている清国だった。
まず言語体系が異質であり、
文化的背景と人種的な違いが大きく、
いかに欧米式の資本主義が導入されていようと表面的な者であり、
ユダヤ資本も、清国と日本の中枢に浸透できないでいた。
そして、情報不足がさらにユダヤ人の浸透を防ぐ盾になってた。
ドイツ領 青島駅
ユダヤ人商人たち
「次の列車でエージェントが行くけど大丈夫だろうか」
「同族に家族を殺された漢民族と朝鮮民族だ」
「我々を裏切るとは思えないがね」
「我々の報酬を、だろう」
「しかし、清国の人脈、金脈が全く掴めないのがいたいな」
「民主化で複雑化しているからな」
清国
対ドイツ領山東半島国境
清国最強の師団が配備されていた。
その装備の多くが外国製であり、日本製も増えていた。
装備が不統一なのは、国産できず。
兵器・武器弾薬を購入することで国軍を編成し、
議員が代わるたびに、購入する兵器体系が変わったからに過ぎない。
鉄鉱石、石炭、希少資源を満載した貨車が師団の脇を抜け、通り過ぎて行く。
ドイツ、日本、欧米列強と取引しなければならないモノがあり、
清国政府は私利私欲と国権のため、
資源だけでなく、
同族の漢民族を餓死させても、庶民の食料でさえ輸出してしまう。
私腹と国益の比重は、言及しないものの、
清国はまさに後進国だった。
しかし、食料売却による飢餓は、
江戸時代の日本でも行われており、
自分さえ食えるのであれば、お家のため、
藩のため領民を飢えさせるなど、珍しいことではない。
明治維新後、そういった傾向はなくなっていたものの、
清国は、縮小しながらも現在進行形で継続しており、
民主化前より僅かに好転しただけで、
漢民族国民の大多数は、飢えるまま取り残され、
“賊のいない山はなく、匪のいない湖はない”
といわれるほど、匪賊の跳梁跋扈は続くのだった。
清国の役人たち
「中立地帯は、治安が悪いある」
「しかし、ここに資産を隠せれば大きいある」
「中央を狙えない時は、ここで災厄を逃れるある」
「本当に清国は人災の国ある。日本人に生まれたかったある」
「日本は、関東大震災ある。天災の国ある」
「人災の方が理不尽で我慢できないある。天災の方がマシある」
「東ゲルマニアの口座は、どうあるか?」
「東ゲルマニアは戦争になる可能性。高いある」
「日本の方が安全そうある」
「日本は狂犬みたいに噛みついてこないあるか?」
「日本は、インド投資で大変ある」
「清国と戦争したくないある」
「何でも良いから、私腹を肥やした金を守るある」
「東南アジアの華僑とも結託するある」
「そういえば、次の列車に中国人が乗っている」
「大陸に家族がいるあるか」
「いるのもいるし、いないのもいる」
「清国内に身内のいない者は干すある」
「確かに危険ある」
上海のドックで駆逐艦が組み立てられていた。
ドイツか、イギリスから機関と大砲を買い。
日本から設計図と鉄板と、その他の部品を購入し、
組み立てると駆逐艦が完成する。
もっとも、安上がりな駆逐艦建造法であり、
一定の技術に達した貧乏な国家は、この手法で駆逐艦を建造する。
清国以外にもブラジル、アルゼンチン、トルコ帝国、インドが採用していた。
南ザクセン (カメルーン) 79万0000ku
南バーデン (トーゴランド) 8万7200ku
1000km進むごとに前線部隊は半分に減少する。
これは、戦時であり、
平時なら、もう少し余裕があった。
しかし、本国でさえ過剰な軍事力は、維持が困難であり、
それが派兵であれば、遠方になるほど維持が困難となる。
遠征は、本国がいかに国力を有し、
いかに気前がいいか、にもよる。
この時期、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、海外領に対し、
無謀なほど、気前が良い主君であり、
民主主義、市場主義、資本主義的な国内欲求を無視し、
ドイツ人らしく、偏狭的な投機と自己満足に酔いしれていた。
詰まるところ、ドイツ人の夢、日のあたる場所である。
その海外領土が、どうしようもないほど、外れであっても、
ドイツの工業力は、開発を可能にさせた。
日本の商船隊が採算を高めたことと、
ツェッペリン飛行船による内陸開発は、ドイツ帝国の海外領に100万都市を建設させ、
海外領の100万都市は、自動的に増幅するだけの余力を見せ始める。
ドイツ本国でさえ、100万都市は、ハンブルク、ベルリン、ミュンヘンなど、数えるほどしかなく、
如何に海外領への投資が本気だったかの証明にもなった。
無論、この時期は、イギリスの植民地支配強化と重なっており、
ドイツ人、イギリス人の有識者に世界大戦の方がマシと言わせるほど、であり、
両国が自らの商船隊だけでは足りず、
採算面から日本商船隊に頼ってしまい、
日本の外貨収入を加速させ、日本の国力を押し上げてしまう結果になってしまう。
少なくとも、日本は、あくまでも成り上がり中の貧相な国家であり、
海軍力も失速しつつあって、脅威として低い部類に入っており、
最大の脅威たるアメリカ合衆国とロシア帝国の国力を押し上げるよりマシだったのである。
日本人たちが客船から降りてくる。
「ドイツ海外領の開発を手伝うのか・・・」
「外貨収入、外貨収入」
「現地人を酷使して、ボロ雑巾のように使い捨てるんじゃないの?」
「しかし、条件がいいのは嬉しいね」
「日本資本を人質にしたいみたいだね」
「なんじゃ そりゃ!」
「ほら、ドイツがイギリスと戦争になっても日本が中立政策をとるような」
「ひでぇ〜」
「なに? どこかで、ぶつかっているの?」
「んん・・・中東かな」
「ドイツ帝国がトルコ帝国側で、イギリスがアラブ・イスラム側だからね」
「それにロシア帝国も経済と工業が強くなって、近代化しつつあるから」
「なに? ロシア人って農奴だったんじゃないの?」
「ラスプーチン伯爵が貴族潰しで得た余剰資金でユダヤ人が工業化を進めたらしい」
「つぅ〜 最悪」
「誰が国家の主導権を取るかで、国はガラッと変わるよね」
「とりあえず、開発すれば、株の4割は、確保だから」
「日本を戦争できなくしているんだよ」
「ドイツもえげつな」
ロックフェラーが東京帝大図書館へ400万円を寄附
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月夜裏 野々香です。
首都の名前は、高天原に決まりました。
山の中で世俗と既成勢力から離れて、こじんまりとです。
中山道は、整備されていきそうです。
政治は関東と関西で上手く釣り合いを取りつつ、
外交は日英同盟とインド入植、
国防は要塞、
経済は公共投資、労働輸出、商船、国土開発。
第一次世界大戦を防いで、ドイツ人のアメリカ移民を押さえ、
アメリカ合衆国のドイツ系アメリカ人は半分以下。
さらにロシア革命を防いで、ロシア貴族とユダヤ人のロシア居残り、
アメリカ合衆国のロシア人、ユダヤ人も半分以下です。
アメリカはラテン化が進んで国力は2分の1という感じでしょうか。
ロシア帝国の国力はユダヤ人効果で2倍。
ドイツ帝国の国力は、まぁ 総合で3倍。
オーストリア・ハンガリー帝国は安定して国力が、3倍増し。
清国の国力は、民主主義効果で5倍くらい跳ね上がりそう。
イギリスは、必死に植民地支配をするでしょうけど、微妙。
フランスも、日本商船の採算性に助けられて、ボチボチ。
イタリアは、駄目ポ。
トルコ帝国は、最前線になりそうです。
史実より勢力均衡が問われます。
やはりドイツ帝国が変わると歴史の変革率も大きい。
日本で、一生懸命にやってもさざ波ですから、
はてさて、風が吹いて儲かるのは・・・・
領有 | 利権 | 軍 | 人口 | 墺 | ||
面積(ku) | 面積(ku) | (万) | (万) | (万) | ||
北欧 | ドイツ帝国 | 54万0857 | 4720 | |||
朝鮮半島 | 東ゲルマニア | 21万0000 | 100 | 2800 | 500 | |
遼東半島 | 3462+1万2500 | 10 | 200 | |||
山東半島 | ホーエンツォレルン | 4万0552 | 11万6700 | 20 | 700 | 500 |
カメルーン | 南ザクセン | 79万0000 | 10 | 200 | ||
トーゴランド | 南バーデン | 8万7200 | 10 | 200 | ||
東アフリカ | 南ヴュルテンベルク | 99万4996 | 10 | 200 | ||
南西アフリカ | 南バイエルン | 83万5100 | 10 | 200 | ||
ドイツ帝国 | 350万2167 | 12万9200 | 9290 | 1000 |
第17話 1924年 『入笠山遷都』 |
第18話 1925年 『首都 高天原』 |
第19話 1926年 『強者は格差を強要し、弱者は公平を願う』 |