月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第20話 1927年 『軍艦造っても金になんねぇ』

 月夜の下、塔の鐘が鳴り響いていた。

 城壁の上を人影が入り乱れ、

 金属音が響き、苦痛に歪んだ声が漏れた。

 太刀が弧を描いて一閃し、

 襲撃者を西洋サーベルごと断ち斬った。

 襲撃者たちの中から、黒装束の男が現れる。

 「・・・名も無きサムライよ。一人で何ができる」

 「サムライ殿」

 「王女、御心配めさるな」

 白刃の剣先だけが襲撃者たちを気圧していた。

 “近日、公開 「女王陛下のサムライたち」”

 震災後、再建の進む銀座に垂れ幕が掲げられていた。

 通行人たち

 「ったくぅ〜 最近の金になるなら何でもする考えが気に食わん」

 「なんか、昔の慎ましさがなくなっていくなぁ」

 「金なんて生きて行くための道具に過ぎんというのに」

 「金に使われるバカモノばかりが増えよる」

 「そうそう、何でも楽をすることばかり覚えて、こらえ性もがなくて」

 「もっと、己を律し洋々と死んでいくぐらいの気構えでなくてはならんというのに」

 「頭でっかちの理屈屋ばかりが、のさばりやがる」

 「出来合いのモノばかりが売れて、何一つできん、人間を造りやがる」

 「そういう、頭と手を働かせない馬鹿ばっかりの消費者で産業を成り立たせてしまうですかね」

 「まぁ みんな自分で味噌を作れるようになったら味噌屋は潰れるわな」

 「しかし、それはそれで怖いですよ」

 「そうじゃの・・・」

 「最近は、護憲運動に婦人参選まで絡んで、ますます、女も増長してますからね」

 「しかし、女の力を借りんと護憲運動も進まんのが辛い」

 「やっぱり、食管予算で薩長藩閥政治巻き返しですかね」

 「んん・・・全国レベルの政治をせんとな。いつまでも薩長強しではな」

 「入笠山遷都も大きかったですかね」

 「んん・・・お・・・来月の日曜が初上映じゃ」

 看板が立て掛けられた。

 「行きましょう、行きましょう」

 「そうじゃの、見てから反対せんとな」

 「そうですとも、そうですとも」

 

 

 日本の3万トン級30隻、4万トン級16隻、5万トン級4隻、

 総トン数174万トンの大型客船が世界の海を走り回り、

 客を乗せ、物資を載せ、情報を運び、ドル、ポンド、マルクを掻き集めていた時代、

 日本経済は、空前の貿易黒字、財政黒字を上げていた。

 経済は、勝ったモノが市場を支配し、利益を独占し、独り勝ちする。

 この時期の日本海運商船は、外国製機関だったものの、

 不換金紙幣の円で船体を建造し、運用も日本人だった。

 価格差は採算性の差となり、

 世界の海を日本商船隊が制していたと言っても過言ではない。

 不換金紙幣で日本人船員を働かせ、

 換金紙幣のドル、ポンド、マルクを集めていたのだから当然と言える。

 外貨で購入した工作機械と資源で製造した土木建設機械が日本の設備投資を更新し、

 需要を興し、食管予算を引き下げ、兼業農家を増やしつつ、

 近代化を押し進めていた。

 無論、東ゲルマニアの近代化が気になるものの

 賃金格差は歴然としたものであり、

 後塵の清国の近代化が気になるものの、

 清国の不正腐敗率は、桁違いに多く、

 脅威となるまで年月を稼げそうに思えた。

 もっとも、経済的な収入が必要でも進行形の帝国主義世界に違いはなく、

 設備投資、維持費、回転資金を除く余剰資本で、

 国家の攻防力を整えなければならない、

 無論、余剰資金が残っていれば、だが・・・

 

 ロンドン

 日英同盟軍事協定

  艦歴 高速戦艦 空母 巡洋艦 駆逐艦
イギリス 12年以前 8 8 80 80
日本 12年以降 8 8 80 80

 3年で2隻建造すれば、12年で8隻。

 3年で20隻建造すれば、12年で80隻の計算だった。

 日本海軍は、まともに建造すると、

 高速戦艦・空母5000万で8億。

 巡洋艦2500万で20億、

 駆逐艦1200万で9億6000万

 12年間で、ざっと38億の買い物となった。

 しかし、12年以降の旧式艦艇で購入すれば補修部品を含んで半値となった。

 「やっぱり、潜水艦は別格になったか」

 「耐久年数が短いですからね、12年じゃ無理でしょう」

 「イギリス海軍は、最新鋭の艦隊で艦隊を整備でき、新艦艇の補填を得られ」

 「日本海軍は、旧式でも一定水準の艦艇と、同盟維持という利点があるわけだ」

 「問題は、清国がアメリカと結ぶか、ドイツと結ぶかで国際情勢が変わりそうです」

 「同盟関係が不利な方が、軍事費が増えそうなんだがな」

 「外務省は、戦意を低くする方に舵を持って行きやがりますからね」

 「ちっ 中古品をあてがわれるし、まったくいいことないよ」

 「取り敢えずライオン、プリンセス・ロイヤルを確保か・・・」

 「26270トン級ライオン型は、良い巡洋戦艦ですよ」

ライオン型戦艦 4隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
26270 213.4×27×8.4 70000 27 10kt/5610海里
45口径343mm連装4基 50口径102mm砲16基 47mm砲×4 533mm魚雷×4
ライオン、プリンセス・ロイヤル、クイーン・メリー、タイガー

 「国産で建造しないと、軍需産業が育たんだろう」

 「海運省は商船で儲けていますからね」

 「軍需産業の台頭を面白く思っていないのでしょう」

 「魚雷発射菅はいらないとして、艦首砲と艦尾砲を装備するだけでいいか」

 「重量配分を考えると50口径305mm連装4基に落とさないと艦首艦尾砲は無理かと」

 「火力を落とすのは気が進まんがな」

 「ですが、米独戦艦とまともに打ち合っても勝てないかと」

 「だが、343mm砲なら清国艦隊、ロシア艦隊に通用する」

 「第一級の米独海軍、第二級の清露海軍の両方に対応するのは困難では?」

 「最新最強の戦艦を数と量の双方で維持すると、日本は破産だそうです」

 「それくらいわかっとる」

 「要塞砲頼りですかね」

 「艦首砲と艦尾砲頼りだな」

 「381mm砲か、356mm砲になるのか」

 

 

 清国の民主化と近代化が進むにつれ、

 中華思想などのナショナリズムと軍事的独立が高まっていく、

 欧米列強資本家は、清国資本家より中国民衆の人権を有利にしており、

 租界が形成された経緯は、ともかく、

 列強の租界権益返却が決まると、

 清国国内での排他的権益を喪失し、一部の華僑資本と民衆は失望する。

 もっとも、困ったのは、華僑資本であり、

 巡り巡って冷酷な清国支配に組み込まれる中国民衆たちと言えた。

 清国は、まだ、初期の資本主義であり、

 中国民衆のナショナリズムは、自らの墓穴を掘るが如く、己の首を絞めていた。

 

 日本商船

 各国の商人たちは、既に租界地で元が取れているものの、

 将来得られたであろう利益を惜しんでいた。

 中国民衆は、立ち去る列強商人を見て喜び、勝ち名乗りを上げるものの、

 内心は、冷酷な官吏と強欲な商人しか残っていないと気付いて脅えていた。

 そう、清国民主主義は、政治献金を行った者と票数を集めた者が実権を握り、

 反対票を入れ、負けたの地域を食い物にする世界だった。

 最も悪しき民主主義と揶揄され、

 自制のない、露骨で正直な多数決主義と批評されていた。

 船上の各国の商人たち

 「租界地が消えて、残された列強の足場は、租借地だけになったな」

 「香港、マカオ、遼東半島と南満州鉄道。山東半島か」

 「東ゲルマニアからは朝鮮民族を追い出してるし」

 「山東半島からは漢民族を追い出している」

 「人口比からすると、山東半島は、完全にドイツのモノになるよ」

 「ああ、それに移民者はドイツ帝国だけではない」

 「オーストリア・ハンガリー帝国の移民も殺到してる」

 「この分だと、中国大陸に取り付いて独り勝ちしたのはドイツ帝国ということになるな」

 「あんな採算性も、面白みのない民族がアジアに取り付いても迷惑をかけるだけだ」

 「少なくともドイツは、ニッケルとタングステンの不安がなくなる」

 「日英露の三ヵ国同時に敵に回さなければだろう」

 「それほど愚かでもなかろう」

 「年月がドイツ帝国の味方をするよ」

 

 

 02/07 大正天皇大喪。大赦97669名、減刑26138名。

 

 

 この時期、

 日本帝国は、列強の諸国民地支配に加担し、利益を上げていた。

 その最大は、イギリス領インド帝国であり、

 他にもベルギー領コンゴ、ドイツ帝国植民地などの海外就労が続く、

 そして、後進国での最大投資先はブラジルだった。

 日本の軍事的脅威が及ばない地域は警戒されず、

 契約通りの投資と配当が得られた。

 これらの地域で利益を可能にさせたのは日本の大型商船の採算性の良さであり、

 列強諸国の賃金と日本人の賃金格差に他ならない。

 

 ベルギー領コンゴ (234万5410ku)

 ベルギーの植民地経営は、日本の台湾経営と似ていた。

 鉄道、港湾、道路、鉱山、農園、工業団地が建設され、

 近代化が推し進めれていた。

 日本資本参入がベルギーの植民地投資を増大させ、

 コンゴ領開発と近代化を加速させていた。

 日本商船によってもたらされる利益が増大するにつれ

 ベルギー人移民も増加し、

 黒人との緩衝で日本人の入植も増えて行く、

 障害があるとすれば、ベルギーの言語であり、

 オランダ語フランデレン人58パーセント、

 フランス語を話すワロン人31パーセント、

 その他11パーセントだった。

 近代国家と思えない難問を抱え、

 オランダ語とフランス語の両方がコンゴ領に持ち込まれていた。

 日本の留学制度は、多くの通訳者を生み、

 日本の海外開発事業を辛うじて可能にさせていた。

 日本が鉱山や都市を建設しても、

 有望であれば、買い戻し契約によってベルギーに売却される。

 無論、その場合の日本資本の収益も莫大であるが、

 ベルギーの富は増していく、

 

 コンゴ川下流の港湾都市キンシャサ

 日本料亭 “もみじ”

 日本人たち

 「おい、ドイツの代表団が迎賓室に来てるぞ」

 「へぇ なんだろう」

 「ドイツ帝国の南ヴュルテンベルク(東アフリカ)が隣だろう」

 「ああ・・・」

 「ダルエスサラームからコンゴ領キンシャサまで鉄道を敷きたいらしい」

 「へぇ〜 ベルギーは、どうするんだろう」

 「ドイツは強国だからね」

 「鉄道で連結するのはベルギーも怖いと思うよ」

 「まぁ 鉄道が敷いてある方が便利ではあるね」

 「鉄道より、日本商船の方が安い」

 「それは言える」

 「それにイギリスの3C政策とぶつかる」

 「まぁ 一応、日英同盟だから辛いところではあるね」

 「なんか、アフリカも白人の世界になってしまいそうだな」

 「ドイツ領側の日本人労働者とも会えるかもしれないし」

 「それで金になるのなら喜んでだけどね」

 

 

 長春

 南満州鉄道は、ハリマン鉄道とプロイセン鉄道のドル箱なっていた。

 アメリカ人とドイツ人は、呉越同舟と言える気質だったものの、

 米独共闘すれば無敵に近く、

 南下を諮るロシア帝国を防いでいた。

 半島にいた朝鮮人は、満州の原野に追いやられ、

 多くが野垂れ死に、

 ある者は非合法な手段によって生き延び、

 定着すると合法的な側へと生活手段を切り替えて行く。

 

 朝靄の繁華街で犬の鳴き声が聞こえる。

 犬を叩くと肉が締まって上手いという。

 なので朝鮮人は、肉にする前に犬を吊るし、棒で叩く伝統があった。

 「朝鮮をドイツに売り渡した日本人め、許さないニダ」

 きゃいん!

 「ドイツ人め、よくも半島を奪ったな」

 きゃいん!

 「悔しいニダ」

 きゃいん!

 「万年恨むニダ」

 きゃいん!

 「補償させてやるニダ」

 きゃいん!

 「祟ってやるニダ」

 きゃいん!

 「日本人も、ドイツ人も きゃいん! きゃいん! 言わせてやるニダ」

 きゃいん! きゃいん! 

 

 そして、長春にも、外貨を求める日本人就労者たちがいた。

 「おっ 焼肉か、ここに入ってみるか」

 「おお〜!」

 焼肉屋

 「よく来たニダ。日本人にはサービスするニダ」

 「おお〜! 悪いね」

 「いいニダ。日本は頑張ってアジアの盟主になるニダ」

 「め、盟主ねぇ」 苦笑い

 「日本と清国でドイツ、アメリカ、ロシアを打倒して、白人からアジアを取り戻すニダ」

 「あははは・・・豪儀だな」

 「世界最強の日本人ならできるニダ」

 「清国と一緒にドイツ人から朝鮮半島を取り戻すニダ」

 「そして、日本は、世界最強の帝国になるニダ」

 『朝鮮人は、漁夫の利狙い決め込む気だな』

 『乗るやつは、よっぽどの花丸お天気頭ですかね』

 『まぁな』 苦笑い

 

 

 

 日本が軍事力に頼った正面戦力から非対称浸透戦略による国防へと移行したとき、

 白人列強の傲慢、強欲、暴食、色欲、怠惰と直面し、

 被支配者の憤怒、嫉妬と遭遇する。

 どちらにせよ、利己主義から派生した相対的な側面であり、

 個々の人間性と関係のない民族主義的な比較論であり、

 属している集団の強弱に過ぎない、

 多かれ少なかれ、人が持つ悪徳に変わりなく、

 日本人は、イギリス人の傲慢に辟易することになった。

 元々日本人は、阿吽の呼吸めいた和の精神による、

 なあなあの解決を好み、

 この種のパフォーマンスを含めた活動が苦手であり、

 国権と企業資本をバックに活動することが多かった。

 無論、主体性喪失、独自性無しとか、官僚的とか、

 宮使えの限界といった壁があるものの、

 植民地開発と防衛で、独英帝国主義と組みしており、

 時には、経済的な生存圏保護保障でユダヤ人と組んだり、

 詐欺、ペテンなど、カモにされつつ、

 日本資本は、外地で足場を築いていた。

 欧米諸国の白人は、

 白人至上主義とキリスト教選民主義で尊大さで避けようとする職業が多く、

 中国の中華思想と同様、産業構造の弊害となっていく、

 そして、この時期の日本人は、仕事を選ぶといった尊大な側面が小さく、

 国際的な産業構造を安定化させやすく、有利に働いていた。

 この時期、日本の国際派は、予算上でドメ派より強く、

 移民者の多くは、棄民というより貴民に近かった。

 武器を持たない浸透戦略では、

 個人の持つ人間力を発揮した方が有利だった。

 

 

 異国の地ブラジル (851万1965ku)、

 この国も、日本資本と日本人の最前線と言える。

 この頃、ブラジルで発言力のある州は、

 サン・パウロ州(コーヒー農主)と、ミナス・ジェライス州(畜産酪農主)の二つであり、

 二つの州が相互に大統領を選出するカフェ・コン・レイテ制が取られていた。

 それ以外の州の不満は高まっていたものの、

 サン・パウロ州とミナス・ジェライス州は、経済力の強さで押し切っていた。

 日本の移民は、当初、サンパウロのコーヒー園だったものの、

 日本資本は、他州へと投資し、

 日本人移民団も、そちらへと移籍していく、

 ブラジルは、ラテンな国民性に悩まされながらも、

 資源はアメリカ合衆国を超えていた。

 惜しむらくは、人災と言えるほどモラルが低かったことにある。

 国民性と言ってしまうと是非もないものの、

 日本資本は、北部から北東部に投資され、成果を上げていた。

 水力発電で水と電力を押さえ、農業を成功させると、

 鉱物資源の開発を行い、

 産業を興し、収益を上げていた。

 

 サンパウロの教会

 権力層と結託する宗教界と、偽善を求める貧困層。

 人種差別らしい光景は露骨に見られることはない。

 しかし、白人は豊かであり、混血は普通、黒人は貧しいように見えた。

 ポルトガル圏でありながら、時折、スペイン語が話され、

 現地インディオのグアラニー語も話され・・・

 無秩序な社会が作られていた。

 日本人たち

 「カトリックらしいというか、ラテンの根底の気質ですかね」

 「どんな組織でも、一旦、主流になると聖域を作って膠着化する」

 「己が利権を保ちたいあまり、選民主義に走ったり」

 「地位と保身を守るため教条主義に陥っていく」

 「教条主義に陥ると、後は、組織だけでなく人間としての力を失って劣化していく」

 「例え、一見、盤石の権力、地位、収入があってもだ」

 「自ら変革する力を失った個人と組織的は死んだも同じ」

 「そういう観点からすると聖域は棺桶と言えるし」

 「プロテスタントで宗教改革が興ったのも歴史の必然といえるね」

 「新大陸のアメリカ合衆国がプロテスタントの結実なら」

 「ブラジルは、カトリックの結実だろうな」

 「しかし、なんとも、無秩序な国だな」

 「国家の体を成してない気もする」

 「お陰で助かるがね」

 「だけどここに住む日系人だって苦労しそうだな」

 「堪え抜けば、日系人の大統領だって現れるさ」

 「あり得ない気がするな」

 「上層部はやはり白人だよ」

 「どうかな。数の力は大きいはずだ」

 「アメリカ合衆国だって、忍耐すれば黒人大統領だって誕生するかもしれない」

 「ブラジルだって、耐え忍べば日系人の大統領が誕生するかもしれない」

 「どっちもあり得ない気がするがね」

 「まぁ 日本人が少しくらい殺されたからって」

 「キレて軍艦派遣するのはどうかと思うよ」

 「そりゃ 軍艦ばかりが国力でもないし」

 「血を流しても根付いてしまえばこっちのものだろう」

 「根付くのが大変だと思うよ」

 「欧米と日本の国力比は、9対1以上だ」

 「正面から戦線を構築して戦うより、搦め手の浸透戦略の方が有利だよ」

 「どいつもこいつも斬った張ったの日本民族にできると思うか、浸透戦略」

 「浸透戦略というのなら、ヤクザの抗争だろう。丁度いいよ」

 「しかし、大半の日本人は、農家の息子で堅実だよ」

 「少なくとも、本国がしっかり独立しているから、黒人より有利だ」

 「日本は、個を犠牲にして、家を残すが伝統だからな」

 「清国は、家を崩しても子を残すから、こういう草の根的な浸透戦略は得意そうだな」

 「組織力は日本の方が上だよ」

 「全体と個人の社会関係でいうと」

 「清国とインドが個体。日本と西欧が液体なら、ブラジルは気体ですかね」

 「アメリカ合衆国との違いはなんだろうな」

 「・・・気候では?」

 「まぁ 確かに暑いわな」

 「熱過ぎますよ」

 「日本が資本投資している北は、もっと熱いでしょうがね」

 「だが金にはなる。アメリカもラテン系になれば良いのに・・・」

 日本資本はブラジルの水力発電を基盤とし、

 農業を成功させ、鉱物資源の開発を行い、

 さらなる産業を興しブラジルでの発言力を持ちつつあった。

 

 

 サラエボ事件後、

 高まりつつあった欧州戦争の流産は、軍需産業を落ち込ませた。

 日本資本の商船流通、植民地・後進国の開発の煽りで、

 民需が優勢になっていく、

 そして、軍備拡大を喜んでいない勢力にドイツ帝国も含まれていた。

 そのため、列強といわれる国家で軍事費は伸び悩み、

 貧窮でハングリーな日本は、移民需要に乗って利益を上げていた。

 先に金本位制を放棄、

 掛け捨て軍事保険の半分を切り捨て軍縮していた。

 もっとも、戦争需要がなかったことで、

 航空技術は伸び悩み航空産業は低迷していた。

 ドイツ飛行船を除けば、大型客船を脅かす脅威はなかった。

 40000トン客船 “はなさかじじい丸”

 キャビンの日本人たち

 「清国でも客船を建造するらしいよ」

 「げっ ヤバい」

 「清国の方が乗員を安く上げられるらしいけど、どうかな」

 「んん・・・中国人は商人って感じだけど」

 「客室乗務員って感じじゃないよね・・・」

 「だって、船乗りとしての特性も必要だし」

 「中国人って組織作ると足を引っ張り合って崩れるだろう」

 「よくよく考えると、そういう打算の強い中国人を統合するって、凄い王朝だと思うよ」

 「まぁ 外道をまとめ上げた頭目みたいなものだからね」

 「理不尽な社会になると思うよ」

 「しかし、清国も近代化しているみたいだから、やばいかも」

 「んん・・・他の国はともかく、清国の近代化は不安だよ」

 「日本は南洋だけじゃなく、インド、コンゴ、ブラジルにも人材取られてるしね」

 「だって、日本は人材だけだし、資源がないと話しにならないだろう」

 「昔は、軍隊だって強かったのに」

 「いまは、どこの国も軍縮に向かっているよ」

 「経済戦争の時代かな」

 「負けると酷いよ。戦闘だけを戦争と思っている単細胞も多いし」

 「経済で負けると、国産産業がズタズタにされて農業国に押しやられてしまうから」

 「むしろ、経済戦争の敗北を避けるため、仕方なく、戦争と言えなくもない」

 「日本の戦争準備は?」

 「元々の鉄が少ないのに戦争準備なんて、まともにできないでしょう」

 「まぁ イギリス、ドイツ、フランスは、植民地開発で楽しみがあるし」

 「アメリカ、ロシア、清国も国内開発で発展がある」

 「日本だけが海外開発就労で、利銭を稼がねばならないとはね」

 「だけど、勢いはあるし」

 「上手く利益誘導できれば海外移民と利益誘導でのし上がれるかもね」

 「だと良いけど・・・・」

 不意に影がキャビンを覆い、

 巨大な飛行船が上空を越えて行く、

 「ったくぅ〜 あいつら、いい気になりやがって」

 「日本も飛行船を造れないのかね」

 「駐船場だけは建設してるよ。ドイツの飛行船が留まれる方が利益になる」

 「ちっ 空はドイツの独占か・・・」

 一度、産業を興し、信頼と安全性が確認されたとき、

 他者の追随を排し、市場を支配し、利益を独占する。

 「ツェッペリン社が分裂するか、自滅しない限りか」

 そう、一旦、後塵を拝し、引き離されたとき、

 対抗する産業すら興せない、

 

 

 

 ドイツ帝国は、植民地への移民と投資によりグローバル化が進む、

 工業力は、倍になる勢いを見せ、

 本国と植民地の交易と、多国間貿易の相乗効果は大きく、

 国際的地位も増大する傾向を見せていた。

 その優れた工業製品で清国市場を席巻できるなら

 対外貿易黒字は、さらに加速した。

 資本の回収速度が増すならドイツの設備投資は、さらに進み、

 さらなる高品質を目指せた。

 

 

 この頃、イギリスの海洋支配は、ドイツ帝国潜水艦隊によって圧迫され、

 危機的状況に陥っていた、

 日本とドイツの海運の追い抜きで、国際的地位も失墜していく、

 イギリスが巻き返せるとしたら、国内生産だけでなく、

 海外領の生産を含めなければならず、

 そのため、植民地支配の強化と同時に植民地の生産力向上が求められた。

 イギリスは、いくつかの選択肢の中で、同盟国の日本を利用する。

 そして、日本も国力の増強を成そうとするなら、

 傲慢なイギリス人に従うよりなかったのである。

 

 人は、理想や約定に従わず、力に屈服する。

 個人のエゴが強くなるほど支配者は、格差を必要とし、

 権力構造は独裁へと近付いていく、

 多くの人種と言語が集められたインド大陸で、

 宗教によって階級が固定されていた。

 カースト以前のインド人を知る者は存在しない、

 イギリスに支配されたことでインド大陸は、統一され、

 イギリスのインド支配は、

 インド独立を望まない日本人移民に補完されようとしていた。

 日本は、成長を欲して間接的な生産力を求め、

 イギリスは、生産力より、直接的な富を求めた。

ヒマラヤ山脈 東西 インダス川 平城市  
ガンジス川 ヤムナ川 平安市  
ゴマティ川 飛鳥市  
ヴィンディヤ山脈 東西 ヤムナー川 因幡市  
    ナルマダ川 青龍市  
サトプラ山脈 東西 タープティー川 白虎市  
東ガーツ山脈 南北 ゴーダヴァーリー川 玄武市  
西ガーツ山脈 南北 マハナディ川 朱雀市 黄龍市
クリシュナ川 鳳凰市 瑞亀市
カヴェリ川 麒麟市  

 日本人街 青龍市

 北のヴィンディヤ山脈と南のサトプラ山脈に挟まれた地域に青龍市があった。

 青龍市も他の日本街と同様、

 巨大な水力発電ダムが完成すれば洪水を抑制し、

 膨大な発電によって生み出される電力は、工業力と家庭に電力を供給し、

 生み出された富で資源が購入され、

 産業が興り、物資の集積所となって、サービスが造り出され、

 人々が集まってくる。

 そこは、日本であり、日本の街であり、日本の法が施行されていた。

 広場でカラリパヤットと呼ばれるインド剣術が披露されていた。

 打撃技、組技と剣、盾、棒、短棒などの総合格闘術であり、

 体にオイルを塗る事で捕らえにくい、特徴があった。

 しばらくすると、新陰流と討ち合いが始まる。

 新陰流の竹刀は、インド人の竹刀を弾き、頭上に打ち下ろされた。

 「へぇ〜 横に薙ぎ払って斬るなんて、器用だな」

 「真剣でも、あんなことできるの?」

 「日本刀ならいけそうだけど」

 「実戦でああいう、無茶な打ち下ろしができるのは日本刀だけですよ」

 カラリパヤットの術者が剣を打ち下ろすと、

 新陰流の術者は剣を外し、

 突き出した竹刀は、カラリパヤットの術者の目の前に・・・

 「剣術に関しては、新陰流の方が上か、体術はどうだろう」

 「一応、総合格闘技だけど、オイルを塗った相手と戦った事はないはず」

 そう、組み打ちが始まると新陰流は敗北する。

 「やっぱり、無手を基本にした武術から、剣術に発達した方が有利かも・・・」

 今度は、柔道とカラリパヤットの異種格闘技が始まる。

 互いに相手が良く分からないのか、用心深く牽制し合い、

 打撃ちが始まり、組み打ちへと変化していく。

 「・・いい勝負か」

 「そういえば、イギリスが港湾税を上げたぞ」

 「おまえのモノは俺のモノ、俺のモノも俺のモノか・・・」

 「ますます、インド国内産業全盛になっていくな」

 「まぁ そのつもり投資していたとはいえ、釈然としないねぇ」

 「日本人街は、そのうち獅子身中の虫になるよ」

 「というより、日本人の英語人口が少な過ぎる」

 「イギリスの植民地経営に入り込めてないじゃないか」

 「英語に慣れれば浸透戦略で不戦の構えになるんだがな」

 「だいたい、イギリス人は傲慢なんだよ。けったくそ悪い」

 「そういえば、おまえ、この前、英語の発音注意されただろう」

 「むかつくぅううう〜〜!」

 「しかし、インド人に数学で馬鹿にされたのは悔しいというより呆れる」

 「数学だけは、万国共通の真理だからね」

 「バラバラのインドをまとめるために追及してるんだよ。数学」

 「インド人用の学校を作るの?」

 「都市建設で働かせている連中の子供だな」

 「日本語を教えれば、少しは役に立つだろう」

 「だと良いけどねぇ」

 柔道家は、オイルまみれのインド人を打撃で倒してしまう。

 「へぇ〜 危なかったね」

 「むしろ、空手の方が有利か」

 「んん・・・オイルを塗っているのがずるくない?」

 「それが当然なら、認めるべきじゃないの」

 「それを前提に技が構築されていわけだから」

 「もちろん否定はしないよ」

 「ただ、日本人の気質では難しいかな」

 「まぁ 気質なんて、インドにいたら変わるよ。毒も強いし」

 「アジアの協調なんて嘘だね」

 「腹が立つことばかりだし、思い込みだったと思うよ」

 「日本人同士だって、切磋琢磨しつつ協調している」

 「そのバランスで国は豊かになると思うよ」

 「協調する部分が少ない」

 「切磋琢磨が増えるだけか」

 「あまり殺伐とした世界は困るな」

 「だけど、日本人街は、結束しやすい」

 「バラバラにされると支配されるよ」

 「包囲された中で内紛?」

 「そこまで、おバカじゃないだろう」

 「日本史くらい勉強しろよ」

 「ここはインドの腹の中だよ」

 「無機質な海に囲まれているわけじゃない」

 「タフな日本人が作られるかもね」

 「問題は、都市を活性化させるための、金集めだ」

 「インド人相手に税は取り難いな」

 「だからサービスとか、商品とかで資金を集めるんだよ」

 「税は取られるが、商品やサービスなら払うだろう」

 「ていうか、インド商人って詐欺師だろう。商才じゃ勝てねぇ」

 「中国人、インド人、アラブ人、ユダヤ人と商売するな」

 「100対1でも賭けをするな、だよ」

 「健康な人間の目を潰したり、足を切ったりで同情で金を集めるからね」

 「日本でも昔、やっていたけど、規模が大きくなると洒落にならないからな」

 「でもなぁ ばったくられて経済で負けると戦争したくなるぜ」

 「だから領土と水力発電を押さえたんだろう」

 「近代化できないは、国内問題が9割だね」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 そう、インド大陸もまた、中国大陸と同様、魑魅魍魎の住まう世界だった。

 救いがあるとすれば、多民族多言語多文化の中、

 日本人が混じっても、

 その中の一つであるということだった。

 そして、インド人は、ほかのイギリス領へと移民させられ、

 イギリス海外植民地支配の礎にされていく。

 

 

 イギリス人はイギリス人である事を誇りとしており、入植は進まない、

 仮にイギリス人が入植するとしたら、カナダ、オーストラリアであり、

 利権が大きく金回りの良いはずのインド、南アフリカは、別の方法で支配が進む。

 そして、日本の大型客船は、採算性でイギリスの謀略を可能とし、

 日本造船業は、米英独の需要によって支えられ、

 さらに建造トン数が増えていた。

 南アフリカ

 インド人 VS アフリカ人

 イギリス人は、南アフリカ支配のためインド人の入植を足していた。

 黒に黄色を足すと、くすんだ緑となる。

 人種的には、くすんだ緑にならず、黒が薄まり、黄色人種の特徴が出るだけ、

 白にはならない。

 しかし、イギリスの利害を保つため

 南アフリカの人種的混乱は進められていく、

 

 

 世界の空を支配していたのは、ツェッペリン飛行船で、ドイツ帝国の独占だった。

 欧州で戦争が起こっていたら飛行機はもう少し、発達していたかもしれない。

 航空会社も飛行機で採算が取れず、

 軍に収める機体か、

 命がけの民間郵便機と旅客機だった。

 各国とも制空権の軍事的優位性は、想像しうることらしく、

 決して安い買い物ではなかったものの、

 部隊を廃止しても必要と思われる機体を製造、あるいは、購入していた。

 無論、一定数を超えると、軍隊内でも衝突が起こるのか、

 配備数は徐々にというところだった。

 そして、南洋の日本領サモアでも飛行場が建設され、

 イギリスの複葉機をライセンス生産した機体が飛ぶ。

 複葉機がどの程度、島の防衛に関わるのか不明だった。

 しかし、戦艦1隻分の費用を掛け、

 防衛拠点を建設するだけの予算は捻り出されていた。

 鋼材は鉄筋、鉄芯として使われ、

 砂利とセメントと水で強化コンクリートとして水増しされていた。

 防衛拠点は、兵員数さえ十分であれば旅順要塞を超え、

 山岳地に配置された343mm要塞砲は、海上を睨んでいた。

 経済学者に言わせれば、その金で産業投資した方がマシ。

 しかし、安心はより多くの投資を促しやすく、

 移民と産業を確保しやすかった。

 そして、面積あたりの防衛力では瑞樹州より、サモアの方が有利であり、

 移民も少なくなかったのである。

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 この戦記の日本も、天皇を中心とする国体を守る軍隊です。

 なかなか、政治思想の民主主義を守る軍隊。

 あるいは、いまの自衛隊みたく、国土を守る軍隊と割り切れませんね。

 

 02/07 史実 大正天皇大喪。大赦137669名、減刑46138名。

 02/07 戦記 大正天皇大喪。大赦67669名、減刑26138名。

 いやはや、日本人の品行方正と勤労勤勉を疑いたくなるよな数字です。

 しかも、科学捜査なんてない時代ですし、

 冤罪バリバリでしょうか、

 暗い世相を反映してます、

 さてさて、この戦記では、

 食管予算の底上げと好景気の影響で人数を減らしました。

 因みに平成18年の刑務所収容人数は、81255人です。

 人口比で言うと、いまより暗いものの、同時代の諸国と比べると良い方でしょうか、

 

    領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     4720  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 2800 500
遼東半島     3462+1万2500 10 200  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 700 500
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 200  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   9290 1000

 

 

  

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第19話 1926年 『強者は格差を強要し、弱者は公平を願う』
第20話 1927年 『軍艦造っても金になんねぇ』
第21話 1928年 『就賊産業』