月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第22話 1929年 『武器を売る方がマシ』

 ロシア帝国の改易・厳封改革で、

 貴族の所領は、1/3に縮小したといわれていた。

 ラスプーチン伯爵は、貴族諸侯にとって紛れもない怪僧であり、

 悪魔の手先だった。

 貴族の憎しみの対象はラスプーチンに向かい。

 ニコライ二世は、貴族諸侯の反感から逃れられていた。

 この手法は、帝王学的に用いられており、

 民間企業でも応用されていた。

 企業経営は、努力だけで、どうにもならない事があり、

 社員に犠牲を強いなければならない時があった。

 社長は、嫌われ役を重役に付けることで身を守り、

 本丸の社長と会社を守る。

 両者とも確信犯で表裏一体だった。

 そして、魔王ラスプーチンの貴族潰しが功を奏し、

 貴族の所領が公有地・私有地として振り分けられ、

 大多数の農奴・労奴は、貧困から立ち直り、一息つく事が出来た。

 反ロマノフ勢力と共産主義勢力は、影が薄まり、

 ロマノフ王朝は、延命してしまう。

 貴族の既得権の一角が破壊され

 封建主義、貴族主義、権威主義的な要因が縮小していく、

 社会資本が増大すれば、

 まじめに働く者は、自己資本を増やしやすくなり、

 民衆の間に勤労意欲と競争意識が生じやすくなった。

 社会資本が潤えば、働く者は余計にチャンスが与えられ、

 自由と希望が増えるのである。

 もっとも、自由と希望の奪い合いで、争いが生じたりもする。

 私財を巡って庶民同士で奪い合いも起こりやすくなり、

 強い司法制度と警察組織が求められた。

 結局、貴族同士の派閥争いから、

 次元の低い、家と家のレベルで富を賭けた争奪戦が始まっていく。

 もちろん、ロマノフ王朝を支える土台の貴族構造を破壊してしまうのだから、

 ロシア庶民の時代が来たと言えなくもない。

 国家は、特権階級による縛りがなくても変革に乗り、

 貴族から官僚に切り替わった者も少なくなく、

 変貌しつつ機能していく、

 少なくとも上からのトップダウン(取り潰し))改革は功を奏し、

 最悪のボトムアップ(共産)革命は防がれ、

 秩序ある社会機構が形造られていく、

 貴族の先鋭化と民権強化は、地方分権の時代となり、

 商業工業の利益誘導と、一体となった権力基盤構築が求められた。

 シベリア鉄道など大多数の庶民を味方に付ける組織が強くなり、

 生き残った貴族官僚と

 民衆から社会資本を集める才能があるユダヤ人は結託しつつ力を付け、

 産業投資を促進していく、

 その中の一つ、

 カフカスの油田を利用した自動車産業が注目された。

 そう、広大な国土を統合するため、

 交通、流通、情報統制の通信が重要性を増したのだった。

 帝国議会は、貴族院、聖職院、平民院に3分割されたものの、

 ロマノフ王朝の基幹産業投資で専制は、逆に強化された向きもあった。

 そして、大打撃を受けたのは、

 産業投資でロマノフ預金を引き抜かれたアメリカ、イギリス、フランス、スイス銀行といえた。

 もっとも、引き抜かれた資産は、土木建設機械などに形を変えてロシアに渡ったため、

 各国の工業群は、各種産業機械と機材の発注騒ぎが起こり、

 空前産業好景気を起こした。

 ドイツ帝国は、地続きの大国ロシア帝国の近代化に消極的であり、

 アメリカもロシアの近代化を警戒、

 イギリスとフランスも、ロシア帝国の脅威を恐れていた。

 しかし、国産産業のためなら、

 自国を滅ぼす武器すら売る新興工業国の島国が存在し、

 赤字国債で設備投資中だった日本産業は、ロシア帝国の発注騒ぎに便乗する。

 モスクワ ホテル

 郊外に工場が建設されていた。

 日本人たちが双眼鏡で見ていた。

 「頬の赤いのが5分の1。フラフラしているのが5分の1か・・・」

 「前に来たときは半分以上が酔っ払っていたのに・・・」

 「少しは飲まないと風邪引くだろう」

 「まぁ その分量を越えた人間だよ」

 「随分、ロシア人の勤労意欲が上がってきたじゃないか」

 「皮革産業ばかりだと思っていたのに」

 「ロシア帝国の産業基盤が増大してしまうな」

 「基幹産業の機材を売るより」

 「消耗品の武器弾薬を売る方がマシなんだがな」

 「ロシアの資源が工業力と結びついたら大変だぞ」

 「工業化してロシア製品が日本に流れ込めば、日本市場が荒らされ」

 「日本産業は伸び悩むことになる」

 「日本政府には警告しているがね」

 「しかし、産業界は、目先の利益で動くよ」

 「借金先送りの赤字国債で産業投資しているのに」

 「いまさらロシアの受注を、やめましょうなんて言えるか」

 「仮に言えても、ロシアが近代化すると限らないし」

 「日本産業を傾かせるわけにいかないよ」

 「みんなの職場、みんなの生活のためには、目を瞑れってか」

 「見ざる、言わざる、聞かざるは、処世術だよ」

 「それよりユダヤ人は?」

 「ああ、資源、皮革、燃料だろう」

 「とにかく、あいつらは詐欺師と思え、すぐサインするなとお達しだ」

 「あははは・・・」

 

 

 アメリカ合衆国

 資本主義の牙城、民主主義の砦、自由主義の旗印の国。

 民衆が主役であり、

 法は、上から押し付けられるものではなく、

 国民の最大公約数によって決められると信じられている国。

 政治的に民主主義でも、

 経済的に自由資本主義は、封建主義的な寡頭制戦国時代だった。

 情報を制し、人を操り、

 資本と生産力を持つ者が支配する弱肉強食の世界。

 これに異を唱え、

 反逆する者たちを全体主義、社会主義者、共産主義者と呼ぶ、

 彼らは、拝金主義を否定し、

 それぞれの方法でフィルターを構築し、貧富の格差を薄めようとしていた。

 全体主義は、権威主義的で独善的な硬直した世界であり、

 社会主義は、穏健であるものの活力を削ぎ、停滞していく世界であり、

 共産主義は、経済的な民主化であり、

 人間の自由と野心と希望を殺してしまうのである。

 そして、残念というべきか、幸運といべきか、

 アメリカ合衆国は、自由資本主義の牙城だった。

 とはいえ、現実の消費・需要と生産・供給バランスは、歪で粗だらけであり、

 未開拓な分野も少なくなかった。

 近代になって、より大きな生産力と投資が求められ、

 投資と配当のシステムが構築されていく。

 ローカルで私利私欲な企業情報と企業戦略は、

 より大規模な資金提供を受けるため株式化し、

 株市場とネットワーク構築のため、

 より透明で汎用な情報公開が要求された。

 多種多様な企業情報が公開されたことで、

 歪で粗だらけだった需要と供給が開発され、

 付属する再生産産業、隙間産業も肥大化していた。

 モノと人の間でサービスと流通が育ち、

 再生産産業の開拓も連鎖的に進んでいく。

 株式は、消極的な保身で守られた銀行預金より、リスクが大きいものの、

 情報さえ確実なら、地道な高配当収入だった。

 しかし、時代を経るに従い、

 株は積極的で堅実な投資から、より即興的な投機となり、

 株価操作は、現実の企業の命運すら左右し支配していた。

 アメリカ合衆国 ニューヨーク証券市場

 生産・価格調整は、飽和状態に達しつつあった。

 生産量が過剰になっているのにもかかわらず消費先が見えない。

 イギリス連邦は採算効率の良い日本との取引を増加させており。

 ドイツ帝国も圧倒的な国力を持つアメリカに力を付けさせたくないのか、

 同じレベルの商品なら取引先を日本にシフトしていた。

 ロシア帝国も産業が育ち始め、

 アメリカの農作物は余り気味だった。

 工業製品の輸出も鈍り、

 お得意様は日本であり、清国は、まだ育っていなかった。

 金の亡者たち

 「どうも、利潤が伸び悩みだな」

 「生産力があっても過剰供給の物余りだと利潤は小さくなるし」

 「賃金上昇と合わせると、懐も企業純利益も小さくなる」

 「このままだと、貧富の格差が縮まる」

 「庶民の底上げが進むと、我々の価値と地位も、半分以下だ」

 「物価高騰、株価高騰を仕掛けるにしても国内は価格競争が多く、無理が多い」

 「船舶生産が縮小気味だな」

 「海運は、日本が強いからな」

 「誰だって、利潤が大きい日本商船に積み荷を載せるからね」

 「ほかの工業は?」

 「航空機産業は、日本も後進国だ」

 「飛行機じゃ ツェッペリンの飛行船に勝てないよ」

 「飛行機は、費用対効果が悪過ぎる」

 「大戦争でもない限り難しいな」

 「企業価値を高め、株価を押し上げ、モノの値段を押し上げるのは、戦争か」

 「いまのところ、戦争したがる国はなさそうだな」

 「ドイツ帝国は、植民地の同化政策で国力を増大させている」

 「自由主義、民主主義を信じて移民してきた者としては・・・」

 「ドイツ帝国を見返したいか?」

 「ああ、自分たちが正しかったという証明をしたいものだ」

 「だが、オーストリア・ハンガリー帝国は、持ち直しつつあるし」

 「ロシア帝国は、最悪の状態を脱している」

 「しかし、日本の海運が邪魔だな」

 「日本海運をじゃますれば、アメリカ資本も二つに割れるぞ」

 「日本商船を使って利益を上げている資本家層は急増中だからな」

 「ちっ! 紙屑の円札で国民を扱き使いやがって」

 「このままだと、日本に金が集まるぞ」

 「いっそアメリカも不換金に・・・」

 「不換金紙幣にすると、ドルが暴落する」

 「それほどでもないだろう。アメリカの生産品は大きく需要がある」

 「我々の利益が減るだろう」

 「逆に言うなら換金して “金” を集めたあと・・・」

 「ふっ」

 「「「「・・・・・」」」」」 にゃぁ〜

 

 

 

 清国

 貧富の格差が大きい国、

 過去において資本・自由・民主の牙城アメリカ合衆国が代表だった。

 この時代を経て、清国は、その代表となっていた。

 もっとも、自由を尊重する横の関係の強いプロテスタント型資本主義・民主主義ではなく、

 秩序を尊重する縦社会の儒教型資本主義・民主主義だった。

 清国国会の議席は、

 集金(資本主義)と集票(民主主義)の方法で得られた。

 二つの権力基盤は、全く違う手法によって得られる。

 集金は、資金を集めることで権力の座を手にするのであり、

 集票は、票数を集めることで権力の座を手にするのである。

 前者は、積極的な産業誘致と投資で利潤を上げることを目標とし、

 金権政治の権化と言えるものになっていた。

 後者は、国民福祉、公共福祉優先、農民層重視、労働者重視で、

 票数を稼ぐことに専念する。

 資本主義と民主主義も水と油であり、

 清国国会と中国社会は、二つの利権闘争により、

 勝者と敗者の間で、明暗が分かれることになった。

 欧州諸国、ロシア、日本は、君主制、貴族、官僚、既得権益者が幅を利かせ、

 そういった直接的な民主主義、資本主義に対し、

 ワンクッション置いたり、緩和させたり、ぼかしたりしていた。

 どちらが優れているというより、

 どちらにもメリットとデメリットが存在し、

 風土と権力構造と歴史的な趨勢が関わっており、

 国情によって作られたもので、

 多くの権力者は、保身のため社会変革より、現状維持を望んだ。

 そして、大半の庶民は、未経験な社会構造に対し、

 想像力が湧かず、気遅れするのであり。

 生活が脅かされ、鬼気迫らなければ惰性のまま埋もれ、

 月日が流れ過ぎて行くのだった。

 

 清国は、欧米列強に主権を侵害されたことで、

 前時代的な封建社会、権力構造が崩され、

 庶民は、列強の資本家層と与することで、

 清国の封建的な支配構造に歪を入れ、社会変革を進めた。

 封建的な権力構造は、半壊したもものの、

 いまの清国は、国家再建で資本主義と民主主義を取り入れ、

 膠で接ぎ直した制度といえた。

 そして、確かに庶民の意見は、国政に反映された。

 しかし、選挙は、投機的な賭けに近く、

 勝者に良く、敗者は、惨めな社会となっていく。

 それは、勝者が敗者から奪い、社会を再構築するのに似ていた。

 ホテル

 日本人たちがいた。

 「何ともまた。選挙の勝ち負けの落差が激しい社会だ」

 「キリスト教社会だと、神の前に兄弟姉妹という建前があるし」

 「施しは、富める者の義務だ」

 「しかし、儒教の清国社会には、そういうのないからね」

 「なに? 欧米じゃ施しを受けるのは権利なのか?」

 「おうよ。特に南米とラテン系は、それが強くてな」

 「当然のように手を出して金を要求しやがる」

 「あははは・・・」

 「しかし、富裕層の義務的な施しもないとなると、悲惨だな」

 「だけど、西洋的な近代科学産業も育ってる気がするな」

 「問題は、学校教育じゃないの」

 「学制制度が成り立たなければ、近代国家とは言えないよ」

 「いくら産業を起こしても、付加価値の高い労働力が育てられていない」

 「人口が多いからね」

 「学校を作るだけで一苦労だろうな」

 「教育者を育てるのも鼠算で計算しても随分先の話しだな」

 「効率性を考えると、人口密集地に作るべきだろうけど」

 「そうなると農村は犠牲になるな」

 「まぁ 日本もだけどね」

 「予算比率を見ると、日本は沿線経済で線」

 「中国は都市経済で点だな」

 「選挙の勝ち負けが激しいからだろう」

 「日本は、そういったモノをぼかして、田舎にも学校を建設できる」

 「日本型は調和を重視する傾向があるからね」

 「営利型と同好会型の違いのように思えるし」

 「良いのか、悪いのか、疑問だね」

 「まぁ いろいろやりようはあるさ」

 

 

 

ヒマラヤ山脈 東西 インダス川 平城京  
ガンジス川 ヤムナ川 平安京  
ゴマティ川 飛鳥京  
ヴィンディヤ山脈 東西 ヤムナー川 因幡京  
    ナルマダ川 青龍京  
サトプラ山脈 東西 タープティー川 白虎京  
東ガーツ山脈 南北 ゴーダヴァーリー川 玄武京  
西ガーツ山脈 南北 マハナディ川 朱雀京 黄龍京
クリシュナ川 鳳凰京 瑞亀京
カヴェリ川 麒麟京  

 インド

 ロシア帝国、清国と並び、

 遅れた大国の一つだったインドも、

 時代の潮流によって、産業革命が起こりつつあった。

 日本人街と発電ダムが建設され、

 市街に送電し、利権を押さえるようになると、

 電力を利用した工業が起こり始める。

 イギリスも慌てて、水力発電用地を押さえて、資源帯を押さえたものの、

 インドに入植したがるイギリス人は少数派だった。

 そう、欧米諸国でも植民地入植は、棄民であり、負け犬と言えた。

 とはいえ、日本が大規模開発を賭けて、予算を投資すると、

 金と利権に引き寄せられ、イギリス人の入植も増えて行く。

 そう、語学が通じ、

 近代的で利便性の良い生活が送れるのであれば地方も国外も悪くないのである。

 ヒマラヤの山脈の麓、

 インダス川の源流近くの元寒村。

 巨大なダムが建設されつつあり、

 付属する街が建設され、

 “平城京” と標識が立てられていた。

 日本人たちが見上げる。

 「富士山より高い・・・」

 「倍以上の高さで連なっているらしい」

 「登ったら、名前が残るかも」

 「あははは・・・」

 

 

 アメリカ合衆国がドルの金本位制を停止。

 換金ドル紙幣としての支えを失ったドルは下落していく。

 持っていたドル札は、タダの紙切れとなり、

 各国とも対ドルレートでサービス価格を押し上げてしまう。

 アメリカ合衆国のドル下落、

 資本家たちは、一斉に換金可能な欧州紙幣に飛びついて行くものの、

 欧米諸国も金の流出を押さえるため、

 一斉に金本位制を廃止していく。

 このアメリカ合衆国の資本が仕掛けた金本位制停止は、

 事前に “金” を集めていたアメリカ資本家にとって、莫大な利益になっても、

 それ以外の国家と資本家は、大損だった。

 不換金紙幣は、どうしても紙幣の価値を落とし、

 物価高騰のインフレを招いてしまう。

 結果的にアメリカ庶民の生活も苦しい状態に追いやられていく。

 当然、アメリカ国内産業も大打撃となってしまうものの、

 賃金昇給で豊かさを満喫していたアメリカ人の所得は大きく減らされ、

 富める者との格差は数倍に広がってしまう。

 人工的な不況は、アメリカ産業を低迷させつつあったものの、

 資本の集約は進み、

 富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなり、

 格差が広がったのだった。

 

 

 

 首都 高天原 (入笠山)

 公有地と私有地の区画整理が進んでいく。

 私有地は、ほとんどなく、

 法人所有。

 この新首都のコンセプトがあるとしたら “調和” だった。

 

 仮総理官邸

 「参った。外貨が全部、紙切れにされてしまったぞ」

 「日本の “金” の保有量は、アメリカ、イギリス、ロシアに次いでドイツ帝国と並び」

 「4位と思われます」

 「へぇ〜 随分と健闘したじゃないか」

 「海援隊情報のおかげで “金” の流失を防いでいましたし」

 「一部は “金” に換金してましたから助かりましたね」

 「ちょっと微妙に怪しげな情報だったがな」

 「ちっ 列強お金持ちクラブで結託して巻き込みやがって」

 「情報を制す者が不幸や難から逃れられるか・・・」

 「外務省費も無駄じゃなかったわけか」

 「日本海運と懇意だった資本は、根こそぎ打撃を受けたそうです」

 「じゃ 対日で狙い撃ちか?」

 「出る杭は打たれますし、かもしれません」

 「しかし・・・紙幣価値が下がっても海外就労の価値が下がったわけじゃないだろう」

 「はい」

 「不換金紙幣じゃ 労働意欲は減退かな」

 「外貨は、庶民と、あまり関係ないかと」

 「外貨相場は、富裕層の都合で決まることがありますから」

 「庶民の懐事情も、富裕層の思惑で変わるよ」

 「貧困層はバカにされ、成り上がりは出る杭で打たれるか」

 「微妙な舵取り加減かな」

 「海運業は、値上げを考えているようですが」

 「不換金じゃ仕方がないかもしれないが・・・」

 「交易の低迷は、産業の停滞と孤立を招き。戦争に繋がるのでは?」

 「それは困る」

 「他国の運賃との差で修正すればいいかと」

 「日本は、資源がないのだぞ。同じ土俵に上ってはジリ貧だ」

 「海外就労を縮小しますか?」

 「こういう、テーブルをひっくり返されたような」

 「伸るか反るかの決断の時は、どういう人物に助言を聞いたらいいんだろうな」

 「そうですね。知識人と懇談を用意しましょう」

 「そうだな。時間はあるだろうか」

 「どの道、すぐに動かせるような資本は、政府にも、財界にも、ありませんよ」

 「引っ越しで忙しいからな」

 「しかし、状況が悪化するようなら手を打たないと」

 

 

 ミクロネシア最大の島ポナペ (約330ku) ナーナラウト山(標高798m)

 島は80000人が住み、

 自給自足と零細産業が作られていた。

 日本が海軍力重視であれば、トラック環礁が海軍基地となるが海軍力は少なく、

 外地は、軍事主導でなく、商業ベースで開発がかけられていた。

 関東大震災で開発が低迷すると思われていた島だったものの、

 供給を断たれても、産業がぽしゃるほどの投資でなく、

 供給が断たれて、廃れるほど小さな投資でもなかった。

 なので、幸か不幸か、

 勢いが付いた状態で放り出された資本で細々と開発が掛けられていた。

 桟橋

 真っ黒に日焼けした子供たちが浜辺を走り回り、

 どこからともなく持ってきた流木に掴まって、泳いでいた。

 「イギリス製のライフジャケットだ。いいだろう」

 「浮き輪を着込んでいるみたいなものか」

 「国産で海軍に納入されているやつより防水性に優れて、はるかに良いぞ」

 「はぁ〜 日本は、国力が大きくなっても付け焼刃で粗が多いな」

 「日本の基礎産業は、裾野がまだね」

 「造船と土木建設機械ばかり、技術と予算と人材が集中してだろう」

 「こういう。細々としたところで負けているんだよ」

 「なかなか、総合力で列強になれないものだな」

 「こういう島だと、ライフジャケットも良いやつじゃないとな」

 「良く見つけたな」

 「海援隊情報は伊達じゃないさ。いいモノはリークされるし。買い安い」

 「外貨があるうちに購入かと思ったけどな」

 「金本位制が崩れたから売り買いが微妙なんだよな」

 「値段が上がるのか」

 「んん・・・見通しが立たんな」

 「海援隊で、ユダヤ人を見て決めようとしているモノもいるけど・・・」

 「ユダヤ商人は、一癖も二癖もあるからな」

 「そうなんだよ」

 「国外で成功しようとすると」

 「あいつらが壁になってるだろう」

 「交流しないと道は開けないわ、取引できないわ」

 「取引すると損させられる気がするわ・・・」

 「あははは・・・」

 「まぁ 国内で売れるかなんだけどねぇ」

 「国産は?」

 「小さな町工場で、まだ微妙だな」

 「思案のしどころだな」

 「まぁな。海軍が買ってくれるなら弾みがつくんだけどな」

 「んん・・・まだまだ、命より国内産業だからな」

 

 

 

 アメリカ合衆国、ロシア帝国、

 ドイツ帝国、イギリス連邦、

 4ヵ国は、世界四大強国と呼ばれていた。

 軍事一辺倒の視野だと腑に落ちなくても、

 それぞれ国情で特性を持ち、

 包括的な概念で勢力均衡を保っていた。

 ドイツ帝国

 国民から集めた国家予算をどこに投じるか。

 国内に投じるのであれば、利権構造の比重が変わるだけだった。

 しかし、国内資本を持ち出しての海外投資は一歩間違えるなら、

 国内の資本を流出させた売国行為であり、

 国内予算増加を求める声は、年々大きくなっていた。

 そして、アメリカの金本位制脱退は、ドイツ帝国にも波及する。

 国家として金本位制が有利か、不利かではなく。

 利権構造にとって金本位制が有利かどうかと言える。

 因みに、国民にとって金本位制が有利か不利か、

 それは、あまり考慮されない。

 権力者は中央集権を望み、

 有力者は権利の拡大と議会の権限を強化したがり、

 庶民は、衣食住と自由と人権と老後の保障を望んだ。

 ドイツ帝国内の各派閥で権力抗争が起こっているところで、

 アメリカが金本位制から脱退。

 ドイツ帝国も、金本位制脱退の前、

 金相場が上がり、

 不意に乱高下してしまう。

 ユダヤ人の介入と情報操作によって引き起こされた為替操作であり、

 金相場の底値と高値の利用した利鞘が、ユダヤ商人の懐に入っていた。

 そうユダヤ人は、経済の世界で世界最強だった。

 ベルリン

 ホクホクのユダヤ人と溜息の日本人

 「助かったよ。タカハシ」

 「酷い商売があったものだ」

 「なぁに、タカハシは言うのが遅れた」

 「あるいは、言わなかっただけだ」

 「誰も騙したわけじゃないだろう」

 「だけどな」

 「日本の50000万トン級客船の建造でドイツの “金相場” を操作するなんて・・・」

 「ふっ いくつかの情報が積み重なるとな。株や金が上下するんだ」

 「これがタカハシの取り分な」

 「あははは・・・」

 「スイス銀行だから本国に分からないぜ」

 「欧米諸国は、日本と違って小賢しい奴が多いから助かるよ」

 「状況さえ作り出せば、みんな。そっちに行っちゃうんだ」

 「日本人は、そんなに鈍感かね」

 「ん・・・海外就労している割に、対人で無関心だな」

 「調整役は良いけど、想像力が乏しい」

 「想像力が乏しいから、構想力に欠ける」

 「構想力に欠けてるから、いい部品を作れても」

 「なにを作っていいか分からない」

 「なるほど・・・」

 「しかし、専念する力と器用さは本物だから」

 「上にいる人間は楽かもしれないな」

 「なるほど・・・」

 『日本人か、土着思考のくせに世界に出てくるとは・・・鴨だな』 ふっ

 

 

 

 呉

 金剛(ライオン)、比叡(プリンセス・ロイヤル)、

 榛名(クイーン・メリー)、霧島(タイガー)

 排水量28000t 全長224×27×吃水8.4

 10000馬力、32kt、航続距離10kt/10610海里

 45口径343mm連装砲3基 50口径102mm砲16基

 改装された巡洋戦艦4隻が並んでいた。

 水中発射管と艦尾第4砲塔を剥がし、

 機関を向上させ、速度と航続距離が増していた。

 イギリスの中古でありながらも、高速巡洋戦艦である事に変わりなく、

 日本の海洋戦略を担う。

 そして、軽巡洋艦もイギリス製を購入し、改装したものだった。

 4200トン級 全長147.5×全幅14.2×吃水4.67

 40000馬力 29kt 航続距離10kt/5900海里。

 152mm砲6基、76.2mm砲2基、魚雷8門。

 カロライン型

  カロライン、カリスフォート、クレオパトラ、

  コーマス、コンクエスト、コーデリア

 カライアピ型

  カライアピ、チャンピオン

 8隻が小改装されて並んでいた。

 旧式のものだと本体のほか、

 治具一式がイギリスから届けられ経費が浮く。

 日本は軍事技術上の独立を捨てていた。

 とはいえ、軍事予算に投資しても列強に余計に警戒され、

 貿易上の不利益になる可能性が高く、

 例え、軍事予算に投資しても心臓部の機関部と砲塔部は模倣の域を出ず。

 せいぜい、歩留まりの悪い装甲を一生懸命作って疲弊していくだけに思えた。

 無論、VC装甲自体造れないことはなく。

 歩留まりの悪さと、採算効率の悪さでイギリス任せとなった。

 そして、イギリスは日本に旧式艦艇を売却することで、

 常に新型艦艇を編成できる美味しさがあった。

 そして、日本側も、うまみがないわけでなかった。

 もっとも、軍事より、

 国際外交戦略上の優位と、海運業と海外就労に転嫁されたものといえた。

 金剛(ライオン) 艦橋

 「・・・外国製の戦艦か」

 「いくら改装しても、中古だ」

 「艦主と艦尾の50口径406mm連装固定砲は強力ですよ」

 「当たればな」

 「敵が艦首と艦尾方向で大人しくしてるとは限らん」

 「イギリスが406mm砲の実験をしていて良かったですよ」

 「借り物で国を守るのが気に入らん」

 「固定砲は、イギリス製の砲身をさらに包み込んで左右から押さえ付けてますから」

 「命数も命中率も高いと思われます」

 「しかし、中古は変わらんよ。イギリス人の古女房を貰ったようで、面白うない」

 「金髪ですよ。きっと」

 「ふん! 日本男児なら初婚で、漆黒髪の大和撫子だろう」

 「生憎、お目にかかったことがないので」

 「最近は、どいつもこいつも金、金、金」

 「そんな眼つきで道を歩いてやがるからな」

 「列強が金本位制を捨てたので不安なのでしょう」

 「ポンド札が急に心細くなりましたからね」

 「日本と同じになっただけだ」

 「そういえば、外貨預金していた友人は換金で泣いてましたよ」

 「ふっ 拝金主義者め。少しは懲りればいいんだ」

 「艦長の義弟殿ですよ」

 「あ・・あんのやろう・・・」

 「工面の口添えも頼まれてますよ」

 「あ・・・あんのやろう・・・」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 史実では、株価高騰のババ抜きが引かされたのか、

 世界大恐慌。

 しかし、史実と違って、第一次世界大戦は、無し。

 なので大規模な産業開発も泡銭もなく。

 株投機は、史実の半分と言ったところ。

 代わりにアメリカ合衆国が金本位制からの脱退。

 国際共通通貨の金本位制による保障なので、さぁ大変。

 欧州諸国も金本位制を脱して、世界中が金融恐慌です。

 物価が上がるのはインフレ。

 貨幣価値が下がると・・・

 

 

 

    領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     4720  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 2800 500
遼東半島     3462+1万2500 10 200  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 700 500
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 200  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   9290 1000

  

 

 

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第21話 1928年 『就賊産業』
第22話 1929年 『武器を売る方がマシ』
第23話 1930年 『金の亡者の・・・』