月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第23話 1930年 『金の亡者の・・・』

 中山道ベルト地帯

 街道が広げられ整備されていくにつれ、

 路線に沿って官庁のほか、重要施設が建設されつつあった。

 薩長藩閥政治は、政治的な中枢で主導権を取り戻したものの、

 経済の中枢は、大阪圏と東京圏に残され、

 名古屋圏経済も勢いを付けようとしていた。

 そして、高天原は政治的な中枢である事を保つため、

 日本海側の新潟に向かう路線も整備していた。

 また太平洋側に注ぐ天竜川と、

 日本海側に注ぎ込む信濃川の水運開発も始まる。

 政府関係者たちが浚渫護岸工事中の川を見下ろしていた。

 「金本位制に戻す話しは?」

 「お流れになったよ。紙幣を刷り過ぎて、紙幣を保障する “金” がないからな」

 「アメリカのドル不換金騒ぎの前に金に変えたんじゃなかったのか?」

 「土地取引が増えて、紙幣が足りねぇ。あれっぽっちの “金” じゃ足りねぇよ」

 「だよなぁ」

 「だけど、大工事になったな。またインフレが進むぜ」

 「んん・・・」

 「河川より陸上交通の時代じゃないの?」

 「船で海に出たがる人間も多くてね」

 「なんで?」

 「いけないことしたいのかな」

 「おいおい」

 

 

 

 東京は、大阪府と同様に東京府となり、

 政治的な束縛から解き放たれ、

 権力抗争の場から一定の距離を保つことになった。

 男たちは、旧宮城の江戸城を眺めていた。

 1657年(明暦3年) 明暦の大火によって、

 五層の天守閣を含めた城構の多くを焼失。

 政治的な問題で天守閣が再建されておらず。

 さらに関東大震災でも大きな損害を出していた。

 「江戸城再建か・・・」

 「実を失ったから名を取るんだよ」

 「政治的中枢から切り離されて、江戸城再建を求めるなんて短絡だな」

 「いやいや、幕府もなく、天皇陛下もいない」

 「東京再建の中心に江戸城再建を置くのは利にかなってるよ」

 「予算次第だけどね」

 「東京府の財政で何とかやれるだろう」

 「何とかねぇ」

 「5層6階の天守か、観光の名所にはなるよ」

 「観光ねぇ」

 「大阪城にも、名古屋城にも、姫路城にも負けてやらん」

 そう、天皇が離れ、政治的中枢からも切り離されたことで、

 東京市民は、代替する象徴を現実のモノに求めた。

 そして、耐震を含めた都市計画が進められていく。

 

 

 横須賀

 50000トン級タンカーが溶接ブロック建造方式で建造されようとしていた。

 薄っぺらな鋼板ながら高張力(ハイテン)鋼であり二重船殻だった。

 長期間ドックを塞ぐ軍艦より、

 短い時間で建造し、黒字収支で外貨を稼げぐ事を心がけていた。

 そして、次に建造する商船の準備も進められていた。

 これは、工程管理に部類することであり、高度な感性が求められた。

 日本海軍将校が見学に来ていた。

 「まったく、薄っぺらな鋼板だな」

 「だけど、数を作ったお陰で成形性と高強度が増しているから、良い傾向だよ」

 「分厚い装甲じゃないと軍艦は守れないぜ」

 「軍艦より外貨を稼げる商船なんだろう」

 「このタンカーなら日本の燃料需要も保ちやすくなる」

 「しかし、相も変わらずドイツ製機関じゃな」

 「部品の一部は日本で製造しているし、ドイツにも輸出してるよ」

 「ようやく認められたわけか」

 「簡単な部品はね」

 「それに船体は日本製の方が安く上がるから国際分業というやつだろう」

 「宝船ってやつか」

 「収入を上げる前に軍艦を建造されると、資本の減りが速いんだよ」

 「当て擦りで軍艦を引き合いに出すな」

 「まぁ 収益を上げたら、それで潜水艦の建造ドックを作れるよ」

 「だと良いがね・・・」

 軍艦を建造するには金がいる。

 軍艦を建造するドックを建設するにも金がいる。

 ドックを建造する外貨を稼げる商船を建造するにも金が必要だった。

 そして、商船を建造する資源を購入する外貨も必要だった。

 優先順位を間違えると手違いでは済まされないほどのロスを生み。

 無駄、ムラ、無理で国益が失われていく。

 少なかった工程管理のベテランは徐々に増え、

 効率よく商船を建造できるまでになっていた。

 無論、国防も重要であり、

 日英同盟関係と隣国との軍備状況のバランスに合わせた国防費が計上されていく。

 無論満足できたものではなかったものの、

 軍事力は、多くの国が共通して不足と不安に感じている事柄と言える。

 

 

 

 グジャラート州は、日中29度C、夜間12度Cと暑く乾燥している。

 日本人たちは、食堂でグジャラートターリーと呼ばれる定食を食べていた。

 いくつもの小皿に野菜や豆のカレー。詰め物とナン、サラダとデザートが置かれ、

 巡回するウェイターが次々と足していく方式だった。

 「他の州と比べて辛くないな」

 「だけどスパイスが面白いな。癖になりそうだ」

 「そろそろ来るんじゃないか。この道を通るんだろうな」

 「ああ、5、600人まで膨れ上がってるらしい」

 「塩の行進か・・・」

 イギリスの塩の専売に対し、

 マハトマ・ガンディーは、

 グジャラート州アフマダーバード(03/12)から、

 同州南部ダーンディー海岸(04/06)の約380kmを歩いて抗議していた。

 イギリスは、非暴力を訴えるガンディーを抹殺できないでいた。

 彼が失われれば、インド人は暴力による独立を選択する。

 売店の前

 「マンゴジュースは美味いな」

 「ヨーグルトもかなりいけるな」

 インドではガラスより、素焼の器が使われる。

 「天然だからな。日本の一流レストランでも、こんなに美味しくないよ」

 「ん? 来たのか?」

 「いや、日本人じゃないか」

 「よ!」

 「・・・・」

 「どうした? 慌てて」

 「インド人がジュースを飲んだあと、素焼の器を捨てて割ってんだよ」 泣きそう

 「はあ?」

 「何とか、回収しないと・・・」

 「そういえば、捨ててたな」

 「そういうの安く作るカーストがいるんだろう」

 「信じらんねぇ 何とか集めて日本人街で売る」

 「へぇ♪ 頑張れよ」

 「おー!」

 日本人が走って行くと、

 その後、ガンジーを先頭に集団が歩いてくる。

 「あ、来た。来た」

 「ちゃんと、背景に入れて写真を撮ってくれよ」

 「報告用は5枚くらいでいいだろう」

 「ちっ! ジャンケンで負けただけで、俺は歴史から埋没か・・・」

 日本人数人がポーズを取り、

 ガンジー行進を背景に写真を撮っていく。

 ジャンケンで負けた男は、最後、主役抜きの行進をバックに写し終える。

 「・・・だけど、塩より、電力の専売が問題になりそうだがな」

 「専売まで至らないよ」

 「だけど、インド人は発電ダムを造れない」

 「イギリスも作るんだろう」

 「金になるなら悪くないと思ったのだろう」

 「真似しんぼめ」

 「ふっ♪」

 「労働力は腐るほどあるし、照明を欲しがるインド人も多い」

 「いったん作ってしまえば、ポストは安泰。集金も楽だな」

 「問題は、独立運動だな」

 「イギリスでも植民地投資は意見が割れている」

 「だが投資しなければ、このままだとドイツ帝国に負けるだろう」

 「それがわかっていても気が進まないのさ」

 「インドはバラバラだからね」

 「欧州で戦争にでもならない限り、インド植民地は安泰だろう」

 「だけど、日本人街もバラバラだし、それが不安なんだがな」

 「ドイツだって、まだまだ、これからじゃないの」

 「だといいけど」

 

 

 ドイツ帝国東ゲルマニア

 行政機関、官僚機構が整い、

 発電施設、製鉄、鉄道、港湾、道路、工場など、

 基幹産業が整備されつつあった。

 東ゲルマニアから遼東半島を経由し、

 ホーエンツォレルン(山東)半島へも鉄道が施設されていく、

 欧州屈指の工業国家ドイツ帝国は、

 地の果て極東に近代的な工業地帯を顕現させようとしていた。

 第1回FIFAワールドカップ開催(〜7月30日)参加日本選手団が、

 東ゲルマニアのサッカーチームと対戦し、

 「・・ま、負けてる?」

 「日本代表が負けてる?」

 「スローインから3分もたたずに1点か?」

 「は、はい」

 「相手は、東ゲルマニアの地方チームだぞ」

 「ば、化け物か」

 日本代表チームは、1対12の大差でドイツ地方チームに大敗する。

 

 

 

 この年、日本は、食管予算の割り振りを超える豊作だった。

 余剰米は、東ゲルマニア、清国、ロシア帝国に流れ込み、

 辛うじて国内米の暴落を防いでいた。

 東ゲルマニア

 日本人たちがソウルブルグの街並みをキョロキョロ見回していた。

 「へぇ〜 木組みの家か・・・」

 「意外だな。ドイツといえば石造りだと思っていたけど」

 「ゴシック建築様式、ロマネスク建築様式、ロココ建築様式も良いけど木造りも良いね」

 「街人が街を愛せるような風景か」

 「でも、ドイツ人だけじゃないかな、こういう公益性で律せるのって」

 「日本は、街全体の風景を楽しむって感じじゃないからね」

 「うんうん、自分の庭、箱庭宇宙だからね」

 「町内会で掃除をすることはあっても街の美観は知らんぷり」

 「東京では是非。取り入れたいものだな」

 「「「「うんうん」」」」

 「あ、あった」

 ぞろぞろ × 4

 ごっくん! × 4

 「「「「おー これが噂のドイツパンか・・・」」」」

 日本は、豊になるにつれ、

 庶民はパン食に興味を持ち始めた。

 政府の国家戦略の思惑とは裏腹に、

 庶民の趣向は強まり、米離れは進み、

 国外の米市場開拓が求められていた。

 「非国民と言われても食べたいものは食べたいよな」

 「「「うんうん」」」 ごっくん! × 3

 

 

 清国

 同族相克の国、勝者と敗者の明暗が激しい国、

 冷酷な資本主義国家、歪曲された民主主義国家、

 批判する材料に事欠かないものの、

 清国は、勝った選挙区が負けた選挙区から収奪することで近代化していく、

 多くの国々が出来なかった事なのだが、

 資本、労力、資源の集約が近代化の原料であり、

 2分の1で訪れる運命に勝てば、

 庶民でさえが僅かながら、余裕のある人生を送れるのである。

 一般庶民が所得を倍増させる機会は、2分の1よりはるかに小さいのであり、

 匪賊から財産を守りきれる可能性と比較するなら、

 率の良い賭けといえた。

 無論、この制度は、新たな匪賊を大量の誕生させる、

 しかし、対匪賊軍が編成され、山狩りが行われるのだった。

 清国は借財を背負わされて半奴隷にされた選挙区民の犠牲によって、

 基礎になる社会基盤が作られ、近代化していった。

 日本人たち

 「なんか、凄いよね。清国の近代化って・・・」

 「選挙の概念が変わるというか・・・」

 「もう酷過ぎて真似できんよ」

 「だけど、近代化は早そうだ」

 「外征より内向きなのが嬉しいね」

 「国内分を国内資源で賄える間は大丈夫だよ」

 「でも産業が大きくなって外征できるようになると怖いよ」

 「攻めるなら陸続きの方だよ」

 「ロシア帝国と東ゲルマニアか、災難だな」

 「・・・あ・・インドもだ」

 「げっ!」

 

 

 イラク バスラ

 油田の塔の先端は炎を噴き上げ、

 風に沿って黒煙を棚引かせ、

 熱砂をさらに熱く感じさせる。

 油送管が油を欧州へと送り、

 水道管が水を砂漠へ運ばせていた。

 ドイツ帝国、

 オーストリア・ハンガリー帝国、

 ブルガリア、

 トルコ。

 4つの旗を飾った機関車が停まっていた。

 ドイツ人たちも郷に入れば郷に従う。

 ラクダを焼いたモノに野菜を付けたして食べ、

 食事が終われば、砂で皿を吹く。

 乾燥した砂は油を拭き取りやすく、汚れを落としていく。

 「・・・熱いなぁ」

 「石油が出ないなら、とてもじゃないが来たくない」

 「だけど、アラビア湾にUボートを配備できるのは悪くない」

 「Uボート艦隊を支える産業がないだろう」

 「だから作ってるだろう」

 「・・・熱過ぎるよ」

 アラビア海に面した港であり、

 クェートに陣を張るイギリス駐留軍と睨み合っていた。

 ドイツ帝国は、トルコを支援し、

 イギリスはアラブ・イスラムを支援していた。

 砂漠の民は国家の枠より、宗教が強く、

 宗教よりオアシスを中心に作られる族長が強い権限を握っていた。

 そこに両陣営から武器が密輸され、

 代理戦争が行われやすい情勢が作られ、

 隊商同士の銃撃戦が行われる事も珍しくなっていた。

 

 青い空と熱砂の狭間、

 アラブとトルコの隊商で銃撃戦が行われていた。

 銃声の度にラクダが脅えて駆け出そうとする。

 アラブの隊商に紛れ込んだ日本人たちは、

 エンフィールド銃を取りだし反撃する。

 「ちっ トルコの隊商じゃなくて、盗賊じゃないか」

 「積み荷を売った後か、買いに行く前の隊商を盗賊って言うんだと」

 「イギリスのアルバイトなんか引き受けるんじゃなかった」

 「もう、巻き込まれ!」

 「秘密基地になりそうなオアシスを見つけて来い、だから攻撃されて当然」

 「イギリスも飛行機があると、碌なこと考えねぇ」

 「しかし、本当に未発見のオアシスがあるのか」

 「ラクダは起伏の激しいところは苦手だからね」

 「当然、起伏の多い砂漠地帯は、良くわかってないよ」

 「ちっ!」

 「こんなことならアフガニスタンの方が良かったよ」

 「どっちも同じだろ。あっちはロシア人だよ」

 「トルコ人とロシア人。どっちが残酷だっけ?」

 「いい勝負じゃないの」

 「少なくともアフガニスタンなら焼け死なずに済む」

 「このままだと、焼け死ぬ前に撃ち殺されるぞ」

 「リ、リーダーがいるはずだ。リーダーを狙え」

 日本人たちは、熱砂に伏せ、エンフィールドを構え、

 それらしい男を狙い撃ち、

 ばぁ〜ん!

 銃声が轟き、標的の男が地に落ちた。

 男は起き上ったものの怪我をしたのかフラフラだった。

 状況は僅かに好転し、トルコの襲撃隊は、後退していく。

 「・・・やれやれ、腹が火傷したよ」

 「みずぅ〜」

 「飲んでも、良いけど、俺のはやらんからな」

 「あははは・・・」

 オアシスまで、まだ3日の距離があった。

 日本人たちがラバを引き連れたのは、

 高低差の多い地域でも秘密のオアシスを探索しやすいからだった。

 

 

 ドイツ帝国東ゲルマニアの存在は、日独同盟の可能性を危惧させ、

 アフリカのドイツ植民地は、イギリスの海洋支配を脅かしていた。

 結果、日英同盟は、イギリスにとって最重要な同盟条約となっていた。

 インドの日本都市は、日英同盟堅持の鎹であり、

 資源のない日本は、海外進出と海外就労が必然となってしまう。

 結果的にインドの内陸部に発電用ダムが建設され、

 一部では、鉱山を開発、製鉄所を建設させた。

 インドの近代化は、

 ドイツ帝国の脅威に脅えたイギリスの画策と

 ハングリーな日本によって、もたらされた結果と言えなくもなかった。

 戦闘機ブリストル ブルドッグ

 全備重量1475kg 全長7.54×全幅10.36×全高2.66 翼面積27.6u

 空冷498hp 最大速度300km/h 7.7mm機関銃×2 9kg爆弾×4

 イギリス空軍の戦闘機が日本人街上空を飛ぶ、

 この戦闘機の消耗品の6割を日本人街で製造していた。

 日本でも同型機がライセンス生産され、

 日英攻守同盟を担っていた。

 

 日本の建設関係者はドイツ建築の方が慣れており、

 英独建築の違いも、一般的でもなかった。

 イギリス貴族の伯爵は、ドイツ建築のコテージを批判的に見つめる。

 「・・・どうです?」

 「・・まぁ 少し狭いが収益が確保されるのは悪くないな」

 「インド人は、イギリス人に弱いですからね」

 「利害が一致しているのだから、イギリスの守備隊に口利きできるよ」

 「助かります」

 「あっ そういえば、伯爵」

 「ん?」

 「南米の軍需物資の移動が変なのですが・・・」

 「あ・・・あれはな・・」

 ごにょ、ごにょ、ごにょ

 「「・・・・・」」 にや〜 & 呆れ〜

 「しかし、発電ダムとはな」

 「日本人は、付加価値の高い商売をするのだな」

 「手を加える方が付加価値が高くなっていくだけです」

 「苦労の割に実入りは少ないですがね」

 日本人街は、イギリス貴族に格安で居住地を売却してしまう。

 農業収益に頼る貴族が近代的な生活を送ろうとすると維持費が困難となった。

 かといって貴族同士の付き合いは出費が嵩む。

 貴族は、商才があるとは限らず、

 基本的に武運の出であり、

 仮に商才があっても貴族である事を誇りにするため、

 えげつない商法は取れなかった。

 日本人街居住地のイギリス貴族への格安売却。

 経済基盤を弱体化させつつあったイギリス貴族にとって朗報であり、

 内陸に閉じ込められた日本人街が孤立を防ぐ事に繋がり、

 イギリス人貴族の所領があることで安全性が増すと考えていた。

 というわけで、日本人街の一等地にイギリス貴族の別荘が作られてしまう。

 

 日本人たちが建設中の鉄塔を見上げていた。

 「内陸でもできるもんだな。製鉄所」

 「製鉄で必要なのは、海水じゃなく、水だからね」

 「問題は、輸送だな」

 「鉄道か、川から持って行くしかなさそうだけど」

 「「「んん・・・」」」

 「臨海製鉄所の有利さが、今わかった気がする」

 「自動車でも作るか、あと自転車と日用品」

 「・・・だな」

 「しかし、碌に働かないイギリス人貴族のパトロンは辛いね」

 「イギリス領側に口利きが出来るのはイギリス貴族だろう」

 「そうなんだけどね」

 

 

 ブラジルの密林

 オンサと呼ばれる豹が出没し、

 人を飲み込むほどのアナコンダも棲むう。

 油断すれば、木の上から体ごと落ちて叩きつけられ、

 巻き付けられると骨折と窒息、

 一旦飲み込まれれば、体内で押し潰され、

 高熱と酸で融かされてしまう。

 アナコンダが小さなワニを食べたり、

 ワニが小さなアナコンダを食べたりと、

 食ったり食われたりの日常が繰り広げられ、

 人間も食うか食われるかのカテゴリーに入れられてしまう。

 大型に出会う機会は少ないものの、

 大型生物の生態系を支える中小型種も多く、

 植物体系も豊かだった。

 一旦雨が降れば洪水のような雨が降り、

 毒蛇、毒虫は多く、

 かなり危険な地域に日本人たちは、入り込んでいく。

 「またスコールだ」

 「少しは涼めるか」

 熱帯雨林でコウモリ傘は、通用しない。

 大粒の雨は、大地に叩きつけられると数十センチの高さまで飛沫を上げ、

 落ちてくる雨と交差し混ざって白い霧のように広がる。

 用心深く木の上を見上げ、アナコンダがいないことを確認する。

 スコールの時は、木の下で雨合羽を羽織るのが上策と言えた。

 「・・・お、カエルでけぇ〜」

 「角カエルだ」

 「20cmくらいだな」

 「気を付けないと、カエルも毒を持ってるぞ」

 「こええええ〜!」

 「ていうか、ワニ・・・」

 10mほど離れた藪の中からこちらを見ていた。

 「お、襲ってくるかな・・・」

 「む、向こうは一匹。こっちは、4人だ。大丈夫だろう」

 「ていうか、晩飯に・・・」

 「インディオに聞いたけど、もう一回り小さい方が美味いらしいけど」

 「それより、鉄鉱石の鉱脈って?」

 「あと、10km南・・・」

 「「「・・・・」」」 ため息

 「もう、無事付けるかな・・・」

 

 不況は、利益率の高い企業にとって有利に働きやすく、

 利益率の低い企業は、不利になり、

 大企業でさえ傾きやすくなった。

 日本海運は、低い運賃で利益率が小さいながらも、

 高給労働者の比重が小さく、賃金昇給が押さえられており、

 固定費が小さく、変動費で融通がきいたのか、国際競争力で競り勝っていた。

 アメリカではじまった不換金恐慌は、各国の輸送コストを押し上げ、

 採算悪化から貿易量を縮小させていた。

 その中で、抜群の低価格を誇る日本商船隊だけが輸送量を増やし、

 海上を行き来することができた。

 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ港

 40000トン級貨客船 “花咲じじい丸” 船橋

 「賃金昇給、据え置きだと」

 「物価が上がっているというのに老後が心配ですね」

 「老後は生かさず殺さず」

 「就労年齢を超えたらサッサと死ねって感じだな」

 「関東大震災で落ち込んでるのに無理するからですよ」

 「日本は、ロシア帝国、東ゲルマニア、清国、アメリカ合衆国に囲まれているからな」

 「無理もしたくなるだろう」

 「お陰で無理をさせられてますよ」

 「もう2年くらい日本に帰っていませんからね」

 「イギリスから軍艦を買うらしいからね」

 「昔は女工を働かせて買ってたのに、いまじゃ船員ですからね」

 「稼ぎ頭が変わったんじゃないか」

 「そういえば、ブラジルで、日本の山師が鉱山を当てたらしい」

 「山師なんて信用できませんよ」

 「あははは・・・」

 「当たってたら。また忙しくなるかもしれないな」

 「ブラジル人労働者は、どうも難ありですよ」

 「コンゴの労働者ほどじゃないさ」

 「まぁ おかげで日本人の労働者が好まれるのは良いんですがね」

 「ブラジル政府にとっては税金を払ってくれる国民が良い国民」

 「税金を払ってくれない国民は悪い国民なんだよ」

 「世界共通では?」

 「んん、封建社会もあるからな・・・」

 「ところで、積み荷の軍需品が多いけど?」

 「ああ、欧米列強がボリビアとパラグアイの軍事支援してるんだ」

 「なんで?」

 「確か、ボリビアとパラグアイの間のチャコで石油が出るって聞いたな」

 「本当か?」

 「たぶん、戦訓欲しさで戦争したいんじゃないか」

 「大丈夫なのか、セルビアも軍需物資が増えてるだろう」

 「まぁ あそこもやりそうだけどな」

 「しかし、戦訓か・・・」

 「戦場童貞じゃ いきなり壊滅もあるだろう」

 「日本も欲しいな。戦訓・・・」

 

 

 

 

 南ヴュルテンベルク (東アフリカ) 99万4996ku

 巨大なツェッペリン飛行船が行き来するたびに街が大きくなっていく。

 飛行船は、一度に100トンもの物資を空輸することができ、

 ドイツ植民地の産業を押し上げていた。

 もっとも、日本商船がダル・エス・ブルグ港に積み荷を降ろすからであり、

 南ヴュルテンベルクの内陸まで鉄道が敷かれていたからに他ならない。

 ビクトリア湖畔の植民首都ムワンガルド

 アフリカの大地に近代的な100万都市が作られ、

 ゲルマン人たちが闊歩していた。

 資源は、未開発が多く、金、ダイヤモンド、岩塩、石膏、貴石、鉄、

 天然ガス、燐、石炭、ニッケル、コバルトが見込め、

 地政学的な可能性は、ドイツ本国、東ゲルマニアを超えていた。

 また、日英同盟の急所であるインドとインド洋を押さえることができるため、

 ドイツ帝国の南ヴュルテンベルク投資は、年々増加している。

 そして、資本主義者は、自分の首を絞めるロープを敵国に売ると言われるが如く、

 日本資本は、目先の金と収益に目が眩んで、ドイツとの交易に邁進し、

 日本人労働者も、海外就労の地の一つとして働いたのだった。

 もっとも、そのおかげで、ドイツ製工作機械が日本国内に流れ込み、

 日本国内の近代化が進んだことも、いなめない事実であり、

 関東大震災後の日本の発展は、

 こうした敵性国家との交易によっても成し遂げられていた。

 推力発電ダム 建設現場

 日本人たち

 「ケニアのイギリス人たちが剥れてるぞ」

 「あとコンゴのベルギー人も・・・」

 「別にドイツに武器を売ってるわけじゃなかろう」

 「ドイツ植民地の近代化なんて武器輸出より怖かろう」

 「日本は、相手を選べる余裕がないんだよ」

 「まぁ 降水量が、いま一つなのが救いかな」

 「でも、火力発電所も建設してるぜ」

 「金がないと、おまんまの食い上げだからね」

 「しかし、英独同盟で目障りな日本。という可能性もある」

 「そん時は、そん時かな・・・」

 「無責任〜」

 「まぁ 本国が金をどう使うかだよ」

 「放漫財政で散在するか。国家基盤を整えるか・・・」

 「経済戦争で言うところの骨を切らせて肉を断つだな」

 「ドイツのダムの方が大きいんだから」

 「骨を切られるのは日本の気がしてきた」

 「「「あははは・・・」」」

 

 

 鉄は国家なり

 海外投資と移民のおかげか、

 ドイツ本国は人口が伸び悩み、流通量など鈍化している。

 とはいえ、一人当たりの生産力は伸び、

 欧州屈指の工業国である事に変わりなく、工業力を伸ばしていた。

 移民による本国弱体化は、西部のヒンデンブルク・ライン

 そして、東部のグンビンネン・ライン(1000km)の防衛線によって補われていた。

 西部国境(ヒンデンブルク・ライン)線

 ドイツ軍陣地

 「人も物も植民地に持っていかれたら、祖国防衛が思いやられるよ」

 「植民地強化で対英で強くなっても、対仏、対露で弱体化してちゃな」

 「ドイツ本国人口5200万で、フランス人口4100万に勝ってるけど」

 「ロシア帝国の1億5000万に負けてるからな」

 「結局、東ゲルマニアでロシア帝国を挟撃しても戦力差で各個撃破だよ」

 「オーストリア・ハンガリー帝国が頼りにならないからね」

 「それは言える」

 「もっと少数民族を国外に移民させればいいのに」

 「移民先は、裏切りの可能性の強いバルカン諸国民を嫌がる傾向にあるからな」

 「我が侭だな。こっちはフランス軍の正面に対して、半分以下の兵力なんだぞ」

 「もっと、機関銃と堡塁を高くするべきだよ」

 「まぁな。これ以上、植民地に肩入れするのはまずい」

 「でも、みんな植民地の特権が好きだからな」

 「そんなに良いの、植民地?」

 「金が流れ込んでるらしいよ。コロニー・ドリームだと」

 「本国より自由があるのは嬉しいけどね」

 「俺も行こうかな」

 「あははは・・・」

 「だけど、セルビアが軍備を増強してるからな」

 「そうえいば、南米のボリビアも傭兵を雇ってるぞ」

 「なに、戦争?」

 「さぁ」

 

 

 

 オーストリア・ハンガリー帝国は、移民政策によって、

 ドイツ人とマジャール人の人口比率が増していた。

 少数民族の離反とテロなどの不満を共産主義が吸収し、

 社会不安が増していた。

 共産主義の突き上げは、上層階級と下層階級の戦いであり、

 民族の枠に囚われない。

 労働者と農民の憎悪と蜂起は日常茶飯事で、

 皇帝どころか、貴族まで道を歩けなくなり、

 富裕層の殺害が相次ぐと、政治的な対処も求められた。

 そうゲルマン人とマジャール人の既得権を崩し、

 チェコ人、クロアチア人の権利と発言力を認めること、

 ドナウ帝国オットー皇帝(18)

 若い皇帝は、仕方なく、サインした証書を見つめる。

 オーストリア・ハンガリー帝国がドナウ帝国へと改称した瞬間だった。

 そして、ドイツ人とマジャール人の権利が縮小した日でもあった。

 まったく年が若いというのは舐められる。

 これは、能力の是非に関わりなく、年功序列的な慣習と言える。

 まぁ 慣習に逆らって良いことなどない。

 何人か歳老いた臣下を牢獄にぶち込み、殺せば別だが、

 それでは、媚び諂うモノが幅を利かせ、まともな政治などできなくなる。

 かといって、このまま舐められぱなしも面白くない。

 どこかのバカが横領でもしたら殺してやるか・・・

 「南のノビーサードで労働者のデモです」

 「代表者と交渉して最低限の譲歩を検討してくれ」

 「はっ」

 「・・・それほど、近代化を急がせたわけではないだろう」

 「貧富の格差を広げたわけでもないといのに、なぜこうも共産主義は強いのだ」

 「陛下。元々、帝国は、貧富の格差が大きく」

 「農作物を国外に輸出しても、工業製品の輸入で赤字ですから」

 「金が外国に流れ、お金持ちの懐は暖まり」

 「貧乏人は社会資本を失って、貧乏に転落か」

 「御意に・・・」

 「しかし、どうしたものかな、セルビアの動きも気になるし・・・」

 「ベオグラードとブルガリアの鉄道回路の回復気運は強まっています」

 「軍事費を増やしていいときじゃないのだが・・・」

 「軍事費増大は、工業への資本投下と労力を削ぎます」

 「しかし、工業増大は、社会資本を集めることになるのでは?」

 「貧困層を増やすことになるのではないか」

 「御意にございます。陛下」

 「それでは、八方塞では無いか」

 「日本は、そうしているようですが」

 「日本との交流を増やして、利用できるのなら利用すべきだろうな」

 「御意」

 チェコ人とクロアチア人の権利強化。

 この事によって、共産主義勢力の暴力は、僅かに収まり、

 代償として、ドナウ帝国統一性は遠ざかってしまう。

 

 

 日本政府は、ドナウ帝国に対し、

 政治的野心どころか、関心も示していなかった。

 しかし、クーデンホーフ伯爵と青山ミツの結婚と死別。伯爵領の相続。

 もう一つ、貴賎結婚ながら

 オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者、

 いまは亡きオーストリア=エステ大公の長女

 ゾフィー・フォン・ホーエンベルクが日本人と結婚。

 その事が継起になったのか、日本人留学生は増え、

 日本資本のドナウ帝国海外就労は急増していた。

 イツキは、妻ゾフィと小さな城に住んでいた。

 貴賎結婚の子は、皇位を失う、

 ハプスブルク=ロートリンゲン家は、財産を守るため近親相姦が続き、

 血統が衰えていた。

 そして、サラエボ事件後、

 暗殺されたオーストリア=エステ大公大公家族に同情が集まり、

 残された子供三人の状況が変わる。

 ゾフィの弟ホーエンベルク公マクシミリアンはハンガリー王となった。

 そして、イツキの家は、零落していたものの

 徳川一族ゆかりの華族(子爵)だった。

 ゾフィとの挙式前、

 辻褄合わせなのか、

 日本政府は、適当な功績をでっち上げ、

 イツキは伯爵を拝領。

 ハンガリー王国で、イツキ・松平・ホーエンベルク伯爵となっていた。

 日本で名ばかりだった爵位も、ハンガリーだと実利的だった。

 とはいえ、貴族は、どこの世界でも暴落している。

 そう、体面が職業選択の自由を制限し、

 世襲に胡坐をかいた権威が生産力を著しく押し下げている。

 この事は、ロシア帝国の急速な国力増強が証明していた。

 もう、貴族の時代ではなくなっていた。

 そう確信して留学していたところが伯爵で城持ち・・・

 子供たちは、庭園をはしゃぎ回り、

 メイドたちが心配そうに追いかけていた。

 どうやら貴賎結婚の子種のゾフィと日本人の血によって、

 子供たちの下顎は、目立たない程度だった。

 

 伯爵は、悪くない暮らしだったものの、悩みもあった。

 下賤の身ならできたことも、いまは、できないことがあり、

 日本贔屓ばかりするわけにもいかず。

 どうしたものか・・・

 せいぜい、日本の所領を口実にし、

 子供たちに日本語を教えるくらいだろうか、

 

 クーデンホーフ伯爵と松平・ホーエンベルク伯爵は、日系貴族として、

 ドナウ帝国で名を馳せることになった。

 両家とも日本資本と強いパイプを持ち、

 交易拡大に伴い利益は拡大していた。

 日本人観光客の温泉好きはハンガリーでも知られ、

 日本風旅館も作られていた。

 とはいえ、面白くないことも少なくない。

 クーデンホーフ伯爵家は、息子たち二人が貴賎結婚で光子を怒らせていた。

 こういう色恋沙汰は、親子でも上手くいかないものだと実感してしまう。

 何とか取りなそうとし、

 孫たちの日本留学を条件に、少しばかり状況を好転させたものの、

 一度拗れた親子関係は、修復困難であり、

 下手をすれば傷口を広げ、さらに悪化する。

 悪意で親子関係、夫婦関係を崩すのは容易であり。

 国の思惑や善意であっても人間関係修復は、困難極まりなく、

 海援隊も匙を投げていた。

 そして、もう一つ、

 ロシアのセルビア支援であり、

 セルビア軍の増強は、気にかかるところだった。

 「イツキ。日本に行くわよ」

 「ゾフィ。何しに?」

 「自分の足で街を歩くためよ」

 「仕事があるんだけど・・・」

 「そんなのは、バトラーにでも、海援隊にでも任せれば良いでしょ」

 「バトラーは城の中の仕事をする執事なんだよ」

 「僕の言ってる仕事は、伯爵領のことなんだけど」

 「そんなのまじめにやってる貴族なんていないわ」

 イツキは自分の能力を過信していない。

 共産主義の勢力は深く領民に浸透していた。

 領主と領民との関係を良好にしなければますます拗れる。

 労使関係が疎遠になれば社会主義運動が増し、

 労使関係が険悪になれば共産主義勢力が根を張る。

 経営者なら社員の生活を支える給与を支払い。

 それを上回る収益を上げなければ企業は立ち行かない。

 経営者は、社員の名前を覚え、時に声を掛け、

 生活にも気を配る。

 それでも貧富の格差を是正したがる社員は多い。

 領主は、広大な土地を持つ大家地主に過ぎず、ただ吸い上げるのみ、

 領民がどうなろうと知ったことではない。

 ここで、資本社会と封建社会の意識で決定的な差が出てくる。

 イツキは、領民の代表を城に呼び、労い。

 時に歓談し、産業の復興と公共地を増やした。

 これは、共産主義の膨張を防ぐ、気遣いなのだが・・・

 女ってやつは、想像力が欠如してるのか、

 いくら説明しても理解しやがらねぇ

 「ら、来月はどうだろう・・・」

 「来月〜」

 「街は逃げたりしないさ」

 「来月だからね!」

 「・・・・」 こくん、こくん

 ゾフィの嫌がる領民との会合を増やすしかなさそうだ。

 それと、日本へ持って行く、民芸品と特産品も・・・

 あと戦争がおきないと信じて・・・

 

 

 パラグルジャ島(全長1400m×幅200m。0.4209ku)

 鐘楼が標高90mの上に作られ、

 平らにされた大地に飛行場が建設され、

 飛行船の係留基地が作られていた。

 アドリア海ドイツ領3島で、もっとも小さいながら、

 アドリア海の中心に座した軍事拠点で有用だった。

 イタリアが狙っている未回収領土ダルマチアに含まれ、

 そのおかげか、要塞化も進んでいた。

 コンクリートが島を覆い、戦艦を撃沈できる大砲が洋上を睨んでいる。

 もっとも、イタリアが国家として狙っている領土であっても、

 イタリア国民は、自分と関係のない島のために死ぬのは御免であり、

 そういう意味で、イタリア人は、ドイツ人より命を大事にしていた。

 しかし、不換金不況は、イタリアも直撃していた。

 貧富の格差は広がっており、

 イタリアは共産主義が強まるか、

 外征で権力構造を守るか、

 二者選択を迫られていた。

 そいて、膨張政策の足枷となっていた教皇領の併合と、

 ヴァティカン市国成立。

 これによって、ムッソリーニ率いるイタリアは、外征が容易になると思われていた。

 「提督。イタリアは、危険な方向に向かっているようです」

 「リビアとドデカネス諸島で満足すれば良いモノを・・・」

 「イタリアは国内開発でさえ、出来ないのに・・・」

 「コーサ・ノストラの利権抗争で、ほかシマに産業投資されるのがいやなのでしょうか」

 「収入が違えば組織力で差が付いてしまうからな」

 「それもあるが非合法に躊躇しない国民性だし」

 「直接、利害関係ない外国と戦争するより」

 「同族同士で殺し合う方がシマが増えて好みなのだろう・・・」

 雲間から爆音を響かせ、黒い機体が降りてくる。

 飛行船全盛の時代にあっても、航空機戦力は高く評価されており。

 少なからず予算が投資されていた。

 ドイツの水上機は、パラグルジャ島を何度か旋回すると着水する。

 波静かなアドリア海は、水上機が有用であり、

 水雷艇と並んで運用されていた。

 「まぁ 戦争になるとしたら、セルビアだと思うがね」

 「そういえば、南米の噂は本当でしょうか」

 「戦争になる?」

 「ええ・・・」

 「戦争になる噂ならセルビアの方が怖いがね」

 

 

 イタリア

 雪が降り止むと雲間から光が差し込み、

 涼しげな風が流れる。

 蛇行する石畳の街路の一角にカフェテラスがあり、

 心地よい日差しが照らしていた。

 この国は、日本より古い歴史を持ち、

 一時は地中海世界を支配した事もあった。

 ローマ帝国滅亡後、何が変わったのか・・・

 高圧的で無能な公権力に屈さず、

 名誉を重んじ、誇り高く振る舞う男達がいる国。

 無論、コーサ・ノストラの言い分も事実であるのであるが、

 問題は、イタリア警察の言い分(犯罪者)も正鵠を得ている事だろう。

 もう一つの見方をするなら、

 国家権力をゴミとしか思っておらず。

 己が帝国を築かんとする輩が有象無象にいる世界と言える。

 マフィアの起こした非合法事件は数知れず。

 1877年 ジョン・フォスター・ローズ(イギリス銀行家)誘拐事件

 1893年 ノタルバルトロ侯爵殺害(国家権力無力化)事件は国際問題に発展し、

 果ては、イタリアの国家中枢と結託し、

 法と秩序を機能不全に陥らせる。

 そのおかげか、

 海援隊のイタリア進出も留学生からで用心深いものだった。

 日本人たちは、ナポリタンを頬張り、ピッザを銜える。

 「・・・およそ、近代国家としての体を成していない」

 「清国よりマシだろう」

 「清国の10倍マシだよ。それは認める」

 「イタリアが平均的な欧州諸国より見劣りするのは確かだよ」

 「日本にうまみはあるかな」

 「イタリア料理は、素晴らしいよ」

 「ファッションも、ワインも悪くない」

 「ちょっとした産業になるだろう」

 「日本は産業を大きくした後、数百万単位で移民すると店は潰れちゃうぞ」

 「移民政策は、テコ入れするらしいよ」

 「政府が社会運動やってどうするんだよ」

 「集票だろ」

 「集票か・・・日露戦争以降、毒気が無くなったな」

 「もう、国家権力で押し切るという風じゃないからな」

 「しかし、ドナウ帝国とセルビアが戦争になったら、イタリアはどうするかな」

 「状況次第だろうな」

 「でしょうね」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 東ゲルマニアは、いよいよ。近代国家ぽくなっていきます。

 日本は影響を受けることになり、

 一部、マイスター制度が取り入れられるだろうか、

 

 清国は立憲君主制、議会制民主主義に移行し、

 土地と労働者と資本の集約できて近代化の下地が作られています。

 近代化の術に長けた租界の白人を追い出しましたが

 清国の国土、人口、資源は、脅威でしょうか、

 問題は、日本より儒教が強く、官僚特権が強大な事、

 そして、利己主義と人間不信。

 一匹だと龍、二匹だと蛇、三匹以上だとミミズは、なんだ?

 の気質を克服し、

 最低限、利他的な信頼関係を構築出来るか、でしょうか。

 衣食住で余裕ができる20年後を目安に好転させるべきだろうか。

 

 

 

 なぜ子爵 松平家なのか、

 家数が多かった。

 それだけです。

 本当は、それらしい貴族と人物で、

 年頃の人がいれば良かったのですが (笑

 もし、情報があれば教えてください。

 

 

 

1930年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5200  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3000 800
遼東半島     3462+1万2500 10 300  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 800 600
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 300  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   10200 1400

 

 

  

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