第24話 1931年 『第三十七計 不戦の計』
高天原(入笠山) 首相官邸
「現在、日本は軍事的な危機状態にあると言えますが」
「軍事的危機というが、どこの国が攻めてくるというのだ?」
「国防で責任を執れないと言ってるのです」
「まず、どこの国がどうやって日本を攻撃するのか、聞かせてくれんか」
「ロシア帝国は南下をうかがっており」
「アメリカは、満州支配を拡大せんとし」
「ドイツ帝国は、東ゲルマニアにおいて着実に近代化しております」
「また、清国は、民主制資本主義を取り入れ、近代化に向かっておりますし」
「いずれは、日本に対し、害を企てるかと」
「日本を占領するには、どのくらいの船が必要で」
「何個師団を上陸させる必要があるのかね?」
「また、それができる国は?」
「そして、何を得るというのかね」
「港と労働力を・・・」
「占領民の労働力が当てになるのか?」
「日本人は、そこまで犬畜生ではなかろう」
「いえ、危険が及ぶ前に対処すべきかと」
「日本軍は存在すればよろしい」
「日本に上陸する国家が現れるなら、海援隊から情報があるだろう」
「偶発的に突然、戦争に至る可能性があるのでは?」
「そんな偶発的なモノのため、銃を取って殺し合う国民がいるのかね」
「よっぽど間抜けな行政で、対外侵略をせねば共産化しそうな国だな」
「いまのところ、そんな国は、近所にないよ」
「だいたい、軍事費を工面するのに、日本国が貧しくなったら」
「日本が対外侵略せねばならなくなるわ」
「しかし・・・」
「とにかく、軍事的脅威より、国民の衣食住と生活を守るのが優先だよ」
「しかし・・・」
「それより、就労人口を押し下げている結核、胃腸炎、肺炎を何とかしたいものだ」
「医療予算より、社会福祉関連を充実させるべきでは?」
「それでは、いつまでも欧米医療の風下だろう」
「欧米諸国から購入する医療品。戦艦が買えるぞ」
「予算がないのに割り振れと?」
「土建屋が取り過ぎでは?」
「土木建設機械は必要ですよ」
「国家基盤を造成した後で良いのでは?」
「もう一度優先事項を練り直した方が良いかも」
「いや、もう充分・・・」
「」
「」
「」
東京―甲府―高天原(入笠山)―名古屋―京都―大阪の鉄道が敷かれていた。
東ゲルマニアと欧州諸国の影響を受けたのか、
蛇行した石畳の街路も少なくなく、
政治文化重視の中山道首都圏が形成されていく。
麓には花弁をお辞儀させたスズランが群生し、
ズミの並木が白い花を咲かせ、周囲を緑の木々が覆っていた。
その一角にドナウ帝国ハンガリー王国の別荘。
というより松平・ホーエンベルク伯爵の別荘がある。
イツキは、華族と散策しながら片手に報告書を持っていた。
ハンガリー料理は、まだ際物だったものの、日本に浸透しており、
ハンガリー料理店で欠かせないモノになっている。
固定客が増え、日本とハンガリー間の観光が増えるなら
日本とハンガリーの関係は、安定するだろう。
「冬の入笠山も良いけど、この季節も悪くないわ」 とゾフィ
ハンガリーは、街を含めて美しい国だが、日本も決して劣ってはいない。
中山道ベルト首都圏に並ぶ街並みを見ると、そう思えてしまう。
東京とは、偉い違いだ・・・
「みて、イツキ。名物スズラン団子だって」
ゾフィは、団子茶屋ののぼりを読んだ。
適当な日本語のくせに食べ物だけは、漢字でも読む。
子供らは黒髪と金髪がいて、片言の日本語を話していた。
二つの国を行ったり来たりするのは、交易の収入が大きいためだった。
不換金恐慌によって欧米列強のGDPは低迷し、
日本、清国のGDPが伸びてしまう。
※インドのGDPは、日本街のGDPを含む
1930年代 |
||||||||||
日本 | 英国 | 米国 | ドイツ | フランス | イタリア | インド | 清国 | ロシア | ドナウ | |
GDP | 284,290 | 338,270 | 769,215 | 365,233 | 186,778 | 116,411 | 282,245 | 454,280 | 352,333 | 184,792 |
1/GDP | 3,880 | 7,195 | 6,220 | 7,049 | 4,489 | 2,854 | 754 | 786 | 2,048 | 2,792 |
東京湾
27500トン級イギリス戦艦ヴァリアント、マレーヤ
ヴァリアント 艦橋
イギリス海軍将校たち
「東京の再建が進んでいるじゃないか」
「ええ、日本もですが、清国も急成長を遂げそうな勢いがありますね」
「ふっ 日本も少しは懲りれば良いんだ」
「いつもいつもイギリスとドイツの漁夫の利を狙いやがって」
「そうも言ってられませんよ」
「日本資本の参入がなければイギリス植民地は赤字転落ですからね」
「日本とインドの経済にイギリス海軍が支えられているのが問題だな」
「つまりイギリス本来の国力ではないと?」
「それがイギリス最大の問題だよ」
清国
立憲君主制へと移行した清国は、近代化の芽生えを迎えていた。
選挙で負けた方は次々に奪われ、共有地として差し押さえられていく、
人海戦術で鉄道、道路が建設され、造船ドックが掘り進められて行く。
日本の場合、小規模で曲がりなりにも手続きを踏んで行使される人で無し的な事業も、
清国の場合、大規模で手続きなしの奇襲で行使される殺人的な事業となって展開される。
この両者の違いは、圧倒的な結果として現れる。
各国の見学者たち
「凄い数だな」
「人だけは多いですな」
「しかし、君主制民主主義とは思えない搾取ですよ」
「一応、選挙はいてますよ。勝ち負けの落差が大きいようですが」
「いやはや、新しい形態の政治体制と言えますな」
「資本民主独裁政治ですな」
「清国は、国権が強いのでしょう。国権9と民権1ですな」
「清国に比べたらアメリカ合衆国は国権1、民権9ですよ」
「ロシア帝国は国権8、民権2かな」
「ドイツ帝国も国権7、民権3くらいですな」
「日本は国権6で、民権4くらいですよ」
「イギリスは、国権5、民権5くらいか」
「フランスは、国権4、民権6くらいですな」
「近代化は、知識と想像力。資本の格差、労働力、土地、資源の集中でなされる」
「清国の近代化は目を見張るものがありますね」
「あと不正腐敗のマイナス分をどう計算するかでしょう」
「利己主義なら、ユダヤ人といい勝負ですよ」
「残虐性なら最高峰では?」
「衣食住が安定すれば、信頼関係を回復して、急速に近代化するのでは?」
「50年先では?」
「んん・・・日本の大政奉還は1867年。1930年で逆算すると、63年」
「清国の立憲君主制移行を1912年でプラス63年だと1975年頃・・・」
「識字率で計算すべきでは?」
「清国の識字率は3割くらいかな」
「就学率と識字率は違うのでは?」
「日本は就学率より識字率の方が高かったそうだ」
「清国は漢字ばかり、就学率と識字率は同じか、低いと考えるべきだな」
「まぁ 1980年以降、列強に仲間入りと考えても良いだろう」
「国力はアメリカを超えそうですな」
「順当に、いけば、ですな・・・」
ドイツ帝国 南ザクセン(カメルーン) 79万0000ku
ドイツ帝国 南バーデン(トーゴランド) 8万7200ku
大航海で先行していたポルトガル、スペインが根を上げ、
イギリス、フランス、オランダも植民の意欲を失う。
南ザクセンと南バーデンの熱帯雨林と湿度は、それほど高かった。
北欧民族のゲルマン人は、なおさら耐えられるものではなく、
ドイツ帝国は、飛行船を使って内陸の保養地に入植し、
日本人に沿岸部を開発させていた。
そして、ドイツ領に挟撃されたイギリス領ナイジェリアも、
このままでは、いつ占領されるかわかったものでなく、
数に任せたインド人と、技能のある日本人に開発させるものの、
ドイツ帝国の鉄鋼生産はイギリスの3倍に達し、
それを海外植民地に振り分ければどういう結果になるか、
火を見るより明らかと言えた。
イギリスが鉄鋼生産で対独、対米、対露の国力差を縮めるため、
植民地搾取から、植民地産業開発に力を入れ、
日本人の植民地就労を望んだ背景でもあった。
またイギリスは飛行船開発で失敗しており、
空輸力で劣っているため、ドイツより植民地開発で遅れていた。
南ザクセン(カメルーン)
熱帯雨林気候特有の土砂降りの雨が降る。
作業員たちは、一時、屋根の下に入り、
一部は、服を脱いで体を洗う。
膨大な降水量を利用した発電ダムが建設されていた。
「よく降るな日本人」
「ええ、まったく、発電も大きいでしょう」
「南ザクセンの黒人は、450万ほどしかいない」
「ナイジェリアの黒人が流れ込むのは面白くない」
「できれば働き者の日本人に入植してもらいたいものだな」
「イギリスからも、似たような申し出があったそうです」
「日本を戦争できない状態にできるなら、ドイツとイギリスの戦争はないだろう」
「日本が要ですか?」
「ドイツ本国は、フランスとロシア帝国に挟撃されて苦しいのだ」
「これ以上、本国の労力を引き抜けないなら、有望な労力を国外から得るしかないな」
「ドナウ帝国は?」
「ドイツ人もだが。あいつらも暑いところが嫌いなのだ」
「なるほど・・・」
スコールシャワーを浴びても数分で汗が滲み出るほど暑い世界。
水力発電が完成したら、冷房を付けられるかもしれない。
イギリスはドイツの植民地開発競争で苦戦していた。
イギリスの大国としての地位と海洋支配は、
同盟日本の協力とインド支配と開発にかかっていた。
そして、日本も拡大する鉄鋼消費と産業保護のため、
インド鉄鋼に頼らざるを得ない状況に近付く、
ニューデリー イギリス総督府
世界情勢の分析が行われていた。
アメリカ合衆国は世界最大の国力でも国内に未開地が多く、
人材不足であり外征する意欲は小さい。
ロシア帝国は、南下政策の意図はあるものの、
経済成長が進んでおり、戦意は低い。
ドイツ帝国は、植民地開発によって本国が危機に晒されており、
戦争する意欲は小さい。
フランスは、イギリスと敵するだけの海軍力はなく、鉄鋼生産量も低い。
イギリスが仮想敵とする4カ国は、
いずれも戦運が低いとみられていた。
そして、イギリスを含め、白人世界は、有色人種に対し神の如くであり、
日露戦争でロシア帝国に黒星を付けた日本を除けば、
白人の神通力は失われていない。
何より、イギリス人が日本人を使っているところを見せつければ、
植民地独立運動は消失する。
日英会議
「日独同盟で組めば、インド植民地は万全」
「インド人のイギリス領入植が進めば、他のイギリス植民地防衛も成功するだろう」
「しかし、日本のドイツ帝国への貢献はいただけないな」
「通商行為ですよ」
「その通商行為がドイツ植民地を栄えさせ」
「イギリス海洋支配を苦境に追い込んでいるのだが」
「しかし、日本は関東大震災で痛手を受けていますし」
「再建には金が必要ですし」
「日本の財政は余裕がありそうだが?」
「いえいえ、欧米諸国に比べ、社会基盤は脆弱そのもの」
「日本の道路、鉄道、鉄橋、港湾は、これからですよ」
「そういえば、日本は水稲農林1号を開発したそうじゃないか」
「東北でも米が作れるようになれば、日本人の人口が増えるな」
「い、いや、まだ、実験段階ですから・・・」
「清水トンネル開通で関東平野と新潟平野がトンネルで結ばれたな」
「え、ええ、流通は良くなるかもしれませんね」
「・・・戦争になった場合、日本は本当にイギリスにつくのであろうな」
「む、無論ですとも」
「日英同盟を破れば、国際間の信頼を損ない」
「日本経済は落ち込んでしまうでしょう」
「だと良いがね・・・」
「ところで、南米の噂は・・・」
「えっ・・・」
「チャコですよ」
「あ・・・そういう噂があるが噂に過ぎんよ」
「・・・そうですか」
ヒマラヤ山脈 | 東西 | インダス川 | 平城京 | ||
ガンジス川 | ヤムナ川 | 平安京 | |||
ゴマティ川 | 飛鳥京 | ||||
ヴィンディヤ山脈 | 東西 | ヤムナー川 | 因幡京 | ||
ナルマダ川 | 青龍京 | ||||
サトプラ山脈 | 東西 | タープティー川 | 白虎京 | ||
東ガーツ山脈 | 南北 | ゴーダヴァーリー川 | 玄武京 | ||
西ガーツ山脈 | 南北 | マハナディ川 | 朱雀京 | 黄龍京 | |
クリシュナ川 | 鳳凰京 | 瑞亀京 | |||
カヴェリ川 | 麒麟京 |
ヒマラヤに向かう途上、
ベンガル湾に注ぎ込むガンジス川を河川砲艦が遡上していた。
ヤムナ川の上流に平安京が建設され、
ゴマティ川の上流に飛鳥京が建設されていた。
船上
「ブラマプトラ川に発電ダムを建設すれば大きいけどな」
「水源の半分がチベット。清国側を通るのが不安だよ」
「清国は、力を付けたら水源を太平洋側に捻じ曲げるからな」
「我田引水か、やりかねんな」
「それより、イギリスがエベレスト登頂で日本に協力して欲しいらしいよ」
「エベレストか、あいつら、高いとこ好きそうだからな」
「どうせ、日本人は途中までで、自分たちだけで登る気だな」
「ちっ ズルイやつらだ」
フランス パリ
エリゼ宮の隣に迎賓館オテル・ド・マリニーがあった。
フランスの大統領に呼ばれた黄色人は、キョロキョロと豪華な調度品を見回す。
「日本人は、イギリス、ドイツとばかり組んで、ずるくないかね」
「イギリスとは同盟関係ですし、ドイツとは通商関係にあります」
「日本は、もっとフランスと交易を増やすべきではないかね」
「魅力的な商品がありましたら、日本の財界に紹介できますが」
「一流の白人国家であるフランスが日本と交易してやろうというのがわからんとはな」
「大した田舎者だ」
「・・・では、田舎者ですので、これで、引き取らせていただきます」
「・・・・」
日本人の代表が退席すると、
第12代フランス大統領ガストン・ドゥメルグは怒りまくる。
その後、フランスは、清国がいくら強国になろうと構わなくなったのか、
仏清協定を結ぶことになった。
フランスは、漢民族を植民地開発に投入していく、
「大統領。清国の強化は、インドシナを危機に晒しますが?」
「構わん、アフリカのフランス領を開発できなければ、イギリス、ドイツに後れを取る」
「フランスは列強の地位を守らねばならんのだ」
しかし、フランス人の清国テコ入れは上手くいかず。
「我がフランス民族が清国を助けてやろうというのに」
「漢民族が無知で野蛮人なのだ」 フランス大統領 談
漢民族労働者をアフリカ領に入植させる船舶も、
運賃の関係で日本商船しかなかった。
「我がフランスの高貴な客船に漢民族を乗せられるか。汚らわしい」 フランス大統領 談
シャンゼリゼ通りのカフェテラス
日本人たち
エスカルゴ(カタツムリ)が皿に載せられていた。
「・・・貝みたいな味だな」
「おれは、最初に食ったやつを尊敬するね」
「お腹が空いてたんじゃないか」
「ほかの獲物を探すよ」
「まぁな」
「しかし、日本とフランスとの交易は上手くいかないな」
「実入りが少なそうだからね」
「でもフランスもインドシナで清国と接している。ドイツと利害が一致してないか」
「その事に気付いてもすぐ忘れるよ。フランス人はドイツが嫌いだからね」
「ふっ」
「フランスは、清国と組むんじゃないか?」
「「「あははは・・・」」」
「性格の不一致で分かれるに一票」
「清国にインドシナが侵略されるに一票」
「でも、フランス戦艦を清国に売られるとまずいんじゃないかな」
「噂の23000トン級ブルターニュ、プロヴァンス、ロレーヌか・・・」
「ドイツは、清国の近代化で、戦艦の売却を警戒してる」
「フランスも清国と陸続きでインドシナがある」
「戦艦は売らない気がするけどね」
「そうだよ。むかしと違って清国は、自前の大型ドックを持ってるし」
「建造できなくても、補修はできるはず」
「でも、旧式戦艦を売ればフランスは新型戦艦を建造しやすいだろう」
「フランス本土重視じゃないか」
「んん・・・南米で欧米列強が動いてる噂もあるからな」
「なに戦争?」
「ドナウ帝国とセルビアじゃなく?」
「んん・・・わからんが軍需物資が南米に移動してるし」
「フランス軍の一部も動いてる」
「どちらにしろ戦訓は欲しいだろうね」
「まぁ 戦争は装備だけじゃ片付けられないからね」
「東ゲルマニアが大陸の防波堤だから上手くやってくれるんじゃないかな」
「だといいがね」
「清国が陸続きの強国を放って、海洋侵略なんかするものか」
「独清戦争になるか、仏清戦争になるか、露清戦争になるか、賭けるか」
「「「いいねぇ」」」
満州
遼東半島から北に向かって米独南満州鉄道が伸びて南満州経済を支配し、
満州の東西をロシア帝国の東清鉄道が横切って北満州を影響圏に入れていた。
満州を舞台にアメリカ系ユダヤ資本とロシア系ユダヤ資本が陰謀を巡らせ、
華僑資本が謀略を仕掛け、
麻薬、密輸、人身売買が日常化していた。
馬賊、匪賊、朝鮮民族は、悲喜交々な惨劇ドラマを演じさせられていた。
それでも清国で生活するよりマシな敗選挙難民は、満州に押し寄せた。
そして、ロシア帝国によって大慶油田が発見される。
ロシア側でも羽振りを利かせているのはロシア系ユダヤ商人だった。
彼らの取引は、国外の相場だけでなく、国内物価も操った。
時には商品高騰を当て込んで、穀物を輸出し過ぎてしまい、
国内で餓死者を出すほど貧富の格差を広げつつ、
ロシア帝国を近代化させていた。
ロシア人たち
「なんか、泥みたいな油田だな」
「本当に燃えるのか?」
ロシア人は、コップに重油をすくうと火を点けると、
黒い煙と弱々しい炎が立ち登り・・・
「酷い匂いだな」
「原油だからね」
「南のドイツとアメリカが攻めてきそうだな」
「じゃ 駐留軍を増やすか」
「あまり極東に肩入れすると欧州側のロシア帝国が危なくならないか」
「ドイツ帝国は植民地開発で、弱体化してるから大丈夫だろう」
「だと良いけどね」
アメリカ合衆国
海援隊が建設土木機械を見つめていた。
1923年、トラクターに排土板が造られて以降、様々な試行錯誤、
1928年、ブルドーザーの初期型と言えるものが登場していた。
1930年、その後、補修を重ね、
より完成度の高い土木建設機械が製造されていた。
日本でも海援隊の報告で模造品を製造していたものの完成度で及ばず、
アメリカ製を購入することが多く、
貨物船の積み荷が全て土木建設機械という事も少なくなかった。
海援隊たち
「さすがアメリカだな」
「技術者を支える市場の大きさじゃないかな」
「貧富の格差が広過ぎる帰来があるけど、やっぱり、開発力で負けるね」
「おかげで外貨がアメリカに流れてるじゃないか」
「しょうがないよ」
「国産がすぐ壊れて、いまいちな上に開発力で劣ってるんだから」
「模倣は投資だけど、開発は投機だからね」
「担保経済の日本資本じゃまだ無理だ」
「船ばっか造ってるからだ」
「船は、上手に作れるから・・・」
「しばらく、土木建設機械は、買いかな・・・・」
種明かしをするなら外国から高価な土木建設機械を購入し、
賃金の安い日本人労働者で海外就労することで
日本は、利益を得ていた。
そして、列強も、他の列強に負けまいと
日本に植民地開発を発注するよりなく、
日本以上に賃金の安い海外就労国が現れるか、
列強の賃金を低くしない限り、経済構造は変わらないように思われた。
アメリカ領フィリピン
マニラ
日本人たち
「フィリピンの近代化は流石に気に入らないな」
「そうそう、フィリピンをアメリカ領のまま近代化させたら、日本は万事休すだよ」
「しかし、どうしたものか・・・」
アメリカとの取引は莫大であり、
日本も近代化に必要な資金、工作機械、燃料、資源が鼻の先にぶら下げられていた。
それだけあれば日本の近代化は加速する。
「アメリカ本土から10000kmも離れているのでは?」
「アメリカの国力は大きいよ」
「1000km前進で戦力半分なら、アメリカの国力の500分の1は日本に到達する」
「それでも十分脅威だな。4、50万は上陸させられる」
「日本も軍艦を建造しないからだ」
「軍艦を建造すると商船の総トン数が減って、外貨収入も減る」
「わかりきったことでも不平は言いたくなるよ」
「フィリピンの海外就労をしたくないのと同じだ」
「軍であれ、民であれ、一々、不平に耳を傾けていたら政治にならんだろう」
「フィリピンの独立運動は?」
「まず、フィリピン人が信用できないからね」
「いっそ内戦でもしてくれれば、反米で信用できるのだがな」
「フィリピン海外就労の収益分は、対米軍事費で引き飛ぶと思うよ」
「それでも軍事費は税金からだし、財界は、実入りの良い仕事がしたいのさ」
「我々のポストも増えるしな」
「「「「・・・・・」」」」 ため息
アメリカ不換金不況は、列強の紙幣も不換金へと押しやり、
カナダは、不換金不況の直撃を受けていた。
そのカナダも、ウエストミンスター憲章で独立が承認されていた。
総人口1000万人。
日本なら1500年室町時代の頃の人口であり、
広大な国土と莫大な資源を有しながら人口の集約がなせず、
近代化は遅れていた。
日本人たち
「不況か・・・」
「おかげで日本資本もカナダ開発で参入できてよかったけどね」
「まぁ 単純にカナダの国力が増せば、相対的にアメリカの国力は低下する」
「日本がカナダの底上げをすれば、代償でインドの日本利権が増えるわけか」
「悪くはないけど割り振り悪いし」
「イギリスは、いま一つ信用できないし」
「取引も現実的と言えるかな」
「むしろメキシコを支援したいね」
「メキシコの人口は1600万くらいだったな」
「少ないな」
「どちらにしても1億1000万越えのアメリカ合衆国には勝てないよ」
「戦争してなくても多いな」
「移民が多いのは、法律と気候じゃないかな」
「メキシコはドイツ帝国が動いてるらしいけど」
「あと油田があるからベネゼエラもだ」
「んん・・・メキシコ開発は、米独対立に巻き込まれそうで嫌だな」
「しかし、カナダに住んで思うのは、人権の強いアメリカが魅力的ということかな」
「まぁ 人種差別されても、法的に惹かれるのは確かだね」
「というか、イギリス系とフランス系の対立が煩わしい」
「ケベックは独立するのかな」
「さぁ イギリス系もフランス系もアメリカ人が嫌いだから」
「日本人だってエコノミックアニマルで嫌われてるだろう」
「どちらにしろ、カナダ強化は日本の国益に適うと思うよ」
「それで、イギリス系としては、ケベック以外で国力を稼ぎたいわけか」
「ケベックに独立されるのは面白くないんだろう」
「石油が出るのなら喜んでだけどね」
「だからインドの利権と交換なんだろう」
「「「「・・・・」」」」 ため息
「あっ ボリビアとパラグアイの間にあるチャコで石油が出るかもしれないから」
「投資しないかってよ」
「あ・・・あれな・・・」
耳打ち、
ごにょごにょ ごにょごにょ・・・
「げっ・・・」
イギリス保護領クウェート
日本で養殖真珠(1918年〜)が成功すると、
それまで天然真珠のメッカだったクウェートは税収で伸び悩んでしまう。
この日、トルコ帝国に半包囲された小さな国で、油田が噴き出した。
日本人技術者たちはニンマリ微笑み、
作業員たちははしゃいだ。
そう日本が石油メジャーの仲間入りを果たした瞬間だった。
「・・・大型タンカーを建造しないとな」
「これで日本は燃料で自給自足できますよ」
「ますます、南ヴュルテンベルク(東アフリカ)が脅威になるじゃないか」
「まったく・・・」
日本がクウェートで油田を掘り当てた噂は、アメリカ合衆国に伝わった。
石油をほぼ独占していたアメリカ石油メジャーは、
先の大慶油田採掘で株が2ドル下がっており、
今回、日本資本のクェート油田の採掘で8ドル暴落してしまう。
アメリカ経済は、不換金不況で燃料消費が落ち込んでおり、
アメリカの資産家は、泣きっ面にハチの状況に陥る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です。
架空歴史 『風が吹けば・・・・』 の日本は、史実と違って、
海外貿易と海外就労で莫大な利益を上げているようです。
欧州列強は、戦艦建造競争ではなく、植民地開発競争に移行しているようです。
史実で1945年以降、アメリカ VS ソビエトの冷戦構造が、
この戦記では、1908年以降、
イギリス連邦とドイツ帝国の冷戦構造が縮小された形で展開されてます。
日本は、いまのところ、上手く立ち回っているかもです。
あと、戦争の噂。
まぁ 戦争は何かと入りようですから、
金が動いたり、物が動いたりするわけです。
なので、疑わしいと、なんとなくわかったりです。
第三十七計 不戦の計
「日本は、イギリスと日英同盟を結びつつ、
植民地開発競争でイギリスと敵対するドイツ帝国との交易を増大させ、
英独を疑心暗鬼に陥らせる、
英独両国は、遠方にある日本と妥協を重ね。
そのたびに日本は、漁夫の利を得てしまう。
1908年以降の日独権益交換、
英独冷戦、植民地開発競争で顕著になった」
1930年 | 領有 | 利権 | 軍 | 人口 | 墺 | |
面積(ku) | 面積(ku) | (万) | (万) | (万) | ||
北欧 | ドイツ帝国 | 54万0857 | 5200 | |||
朝鮮半島 | 東ゲルマニア | 21万0000 | 100 | 3000 | 800 | |
遼東半島 | 3462+1万2500 | 10 | 300 | |||
山東半島 | ホーエンツォレルン | 4万0552 | 11万6700 | 20 | 800 | 600 |
カメルーン | 南ザクセン | 79万0000 | 10 | 200 | ||
東アフリカ | 南ヴュルテンベルク | 99万4996 | 10 | 300 | ||
南西アフリカ | 南バイエルン | 83万5100 | 10 | 200 | ||
トーゴランド | 南バーデン | 8万7200 | 10 | 200 | ||
ドイツ帝国 | 350万2167 | 12万9200 | 10200 | 1400 |
第23話 1930年 『金の亡者の・・・』 |
第24話 1931年 『第三十七計 不戦の計』 |
第25話 1932年 『英独冷戦』 |