月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第25話 1932年 『英独冷戦』

 アメリカ合衆国は、移民国家であり、

 民族的なアイデンティティが弱く、個人主義を背景にしていた。

 国土が広く、資源も足りており、国民の総意はモンロー主義と厭戦気運が強かった。

 ロシア帝国は、ユダヤ商人がロシア人を養い始め、

 寒冷地ながら未開地が多過ぎた。

 フランスは、王制が潰え、帝政も去り、民権が強くなり、

 工業化で失速しつつあった。

 国際情勢で言うなら、広大な植民地と利権を持つイギリスと、

 工業力で勢いのあるドイツ帝国が植民地開発競争を展開し、

 世界を舞台にしたパワーゲームを繰り広げていた。

 権力層と富裕層は、国民を貧しい状態に置く事で貨幣価値と労力を維持し、

 己が支配層と権力構造を維持しする。

 貧富の格差を広げる事で、国民の目を海外の代償地に向けさせる、

 やり過ぎれば国家への反発と革命となり、

 不足すれば海外覇権への意欲が損なわれた。

 日本は、人口が多く、国土が狭く、元々、貧しい国でもあったものの、

 海外就労に向かう程度、貧しい状態で利益誘導されていた。

 

 

 ドイツ帝国

 フリードリッヒ通りを騎兵隊に護衛された6頭立ての馬車が移動していた。

 沿道は観衆が見守り、多くは手を振っている。

 不意に黒い物が馬車に向かって投げられ、炸裂した。

 幸運にも爆殺を逃れたドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は、犯人を捕らえさせた。

 最初、日本人だと言い張っていた李奉昌は日本語が話せず。

 朝鮮人とバレてしまう。(フリードリッヒ通り事件)

 東ゲルマニアの朝鮮人は、殺されるか、満州追放の二者選択となり、

 東ゲルマニアはドイツ民族の国家となっていく。

 

 

 

 首都 高天原 (入笠山)

 外国人たちが、建設されている中山道首都圏を見回していた。

 「沿線集約型の首都か」

 「しかも電化か・・・」

 「戦争を考えないのなら電化は悪くないよ」

 「石畳が増えてるし、町並みが綺麗だな」

 「東ゲルマニアの影響だろうか」

 「東京はゴミゴミしていたからな」

 「東京も江戸城を中心に都市計画が進められているようだぞ」

 「実利を失って、見栄に走ったか、単純な思考だ」

 「象徴があるのは、悪くないさ」

 「薩長系が半分ほど押さえているようだが、経済基盤を背景にしていないな」

 「もう、地方が主導する時代でもなさそうだぞ」

 「しかし、島国で引き籠りの土着で、内陸に首都が作られているのに海外就労とは・・・」

 「臆病で内輪で保身が強いから、外国戻りは排斥されると思ったがな」

 「いったん、利権が作られたからだろう」

 「んん・・・不自然な気もするがな」

 「意外と新しもの好きなんじゃないか。明治維新と文明開化になったし」

 「どうかな。明治維新は内圧の既得権潰しが元々あったし」

 「社会構造としては、いまの日本の方が強い気がするね」

 「封建社会を一部残したままの民主化だろう」

 「封建社会が悪いとは言えないよ」

 「限度をわきまえていれば拝金主義よりマシ」

 「アメリカ人は、信教の自由を求めて船出したんだぞ」

 「ふっ 貴族の代わりに資本家に支配されるなんて」

 「ピルグリム・ファーザーズもさぞ嘆いてるだろうよ」

 「信教は自由さ」

 「しかし、日本も随分と近代化したな」

 「油田を当てて、自動車産業にも力を入れ始めてるようだ」

 「イギリスが日本を懐刀に入れるからだ」

 「軍艦を下取りしてくれるし、植民地を開発してくれるなら悪くないさ」

 「ドイツ植民地もな」

 「ちっ 無節操が」

 「イギリスとドイツが日本を近代化させて国力を上げさせたわけだ」

 「少なくともアメリカを近代化させるより3倍マシだし」

 「清国を近代化させるより2倍はマシだね」

 「それは言える」

 

 総理官邸

 「海外就労していた海援隊の死傷者数か・・・」

 「大変な数だな」

 「ですが、戦争するより死傷者は少なく、国益も得られています」

 「国に殉じた英霊だ。靖国で頼むよ」

 「はい」

 「彼らの死が海外派の権力基盤と発言権なのだから」

 「1000人に1人もいない有能で勇敢なエリートより」

 「有象無象の将兵を前線に立たせる方が楽なのですがね」

 「日本は、戦争する資源がなさ過ぎるよ」

 「国策の選択肢が限られているとは残念です」

 「そうだな・・・」

 

 

 南樺太 豊原

 周囲は白樺の山林に囲まれていた。

 国策で作られた都市は、共有地も含めて整然と並び、画一的だった。

 人が石垣というものの、寒冷地であり、

 対ロシアの最前線であるためか、人が寄り付きにくかった。

 守備師団はあるものの武器弾薬の貯蔵庫であり、

 いざという時、街の人間を徴兵して守る計算だった。

 日本軍将校たちは、演習の様子を見つめ、

 一部は、ロシアとの国境線を見守っていた。

 ML3インチ(81mm)迫撃砲が炎を噴き出すと弾頭は、放物線を描いて、

 目標近くに着弾し、爆発する。

 最大射程1463m、

 精密射撃は、期待されていない。

 それでも上手い兵士が調整すると標的のそばに落ち、

 標的の人形を粉砕する。

 他にもBL60ポンド(37口径127mm)砲と、

 QF18ポンド(28口径84mm)砲が配備されていた。

 「豊原が100万都市なら、半分が男で、3分の2が戦力なら30万くらいか」

 「女にも武器を渡せば60万ですよ」

 「まぁ 武器弾薬はあるがね」

 「しかし、8式小銃(7.7mm×56R)の扱いを1週間で習得すると計算して・・・」

 「問題は指揮系統と、敵味方の誤射か」

 「そればっかりは、訓練より実戦じゃないと」

 「不安だな」

 「小銃より、ヴィッカース重機関銃の方が安心では?」

 「んん・・・数を揃えるならルイス軽機関銃も悪くないがな」

 「イギリスは、軽機関銃を更新するらしいですよ」

 「じゃ 軽機関銃は大量に余りそうだな」

 「確かに・・・」

 「しかし、戦争が始まって徴兵で揃えるって、未知数過ぎて不安だな」

 「失業率小さいですからね。予備役の定期射撃訓練もままなりませんよ」

 「戦争が始まっても員数を揃えやすいのが特典かな」

 「そうですね・・・・」

 戦争で怖いのは前の強兵より、

 後ろにいる味方の新兵だったりする。

 そう、砲弾が雨のように迫り、

 足元を機銃掃射されれば、何が起きるのかわからない。

 “正気を失わず機敏であれ”

 戦場で将兵に求めたとしても、得られるか不確かな鉄則だった。

  

 

 

 宝くじで家が当たった家族は、あまりの大きさと庭の広さに驚く、

 ただ単に家を建てる金を宝クジで集め、

 当選者に家を振り分けているだけだった。

 子供は庭ではしゃぎ、家の中を走り回った。

 「壁が厚いわねぇ」

 「それだけ、雪が降って寒いんじゃないかな」

 「野菜は育てられるみたいね」

 主婦は、隣の家の畑を見つめる。

 「公園は遠いけど、学校はそれなりか、自転車がいるわね」

 「職場は、決まってるから、まぁ 何とかなるだろう」

 「ええ」

 「家具は、買わないとな」

 「持ってきた方が良かったんじゃない」

 「売った方が良いよ。家具やもあったし」

 「工具はあるから、山から木を集めて何か作ればいいさ」

 「ちゃんと作れるんでしょうね」

 「あははは・・・」

 「これだけ大きい家だと引っ越してきて良かったと思うわね」

 「大家が泣いてたっけ」

 「寂しいでしょうね。借家人も減ってるみたいだし」

 「大家は、借家人がいなくなると働かないといけなくなるからね」

 

 

 着実に近代化していく日本人街は、イギリスにとって計算外の脅威であり、

 周辺に広がっていく新規産業を含め、

 そこから上がる収入は、莫大だった。

 イギリスの問題は、その収益分を足さなければドイツ帝国に敗北することであり、

 米独に挟撃されたイギリスは、カナダ、豪州に、その収益分をシフト。

 振り分けなければ将来設計も見込みも立たないことだった。

 インド ニューデリー 総督府

 イギリス、ドイツ、アメリカ、ロシアの資源獲得図。

 国家成長と国勢推測線が表に描かれていた。

 「・・・どうも、日本に都合が良いようにしか、国際情勢が流れていないな」

 「日本の国力は5倍になっても恐れることはない」

 「しかし、ドイツ、アメリカ、ロシアは、1割上昇しても、イギリスの勢力圏は脅かされる」

 「そういうことだろう」

 「つまり、イギリス5割配当、日本5割配当でも、続けるしかないわけか」

 「だいたい生活力のないイギリス貴族が日本資本に飼われているのが問題なんだよ」

 「だけど、利益になるよ」

 「貴族は、バイタリティーとハングリー精神が欠落して駄目だな」

 「日本にも華族がいるだろう?」

 「8割は、名ばかりの華族だよ」

 「それに皇族、豪商、官僚と血縁を結んで日本を支配してやがる」

 「ふっ 基本的にはイギリスと同じか」

 「ああ、しかし、華族の地位は、はるかに弱い」

 「しかし、ステータスにはなるだろう」

 「オーストリア・ハンガリー帝国の貴族階級と結びつきを強めてるぞ」

 「だからってイギリス貴族も付き合うことはないだろう」

 「貴族と華族の婚姻がいくつか結ばれてるじゃないか」

 「日本人街の銀行がスイス銀行の真似をしているからな」

 「お陰で情報が漏れまくっているから、もう歯止めがきかんよ」

 「そういえば南米のこと、どこから漏れたんだ」

 「みんな日本商船使ってたらばれるだろう」

 「ブラジルの日本銀行も大きいし」

 「くっそぉおお〜 黄色い猿の分際でムカつくな」

 「しょうがないさ。誰でも生活が保障されると弱いからね」

 

 

 

 第10回 ロサンゼルスオリンピック

 日本人+海援隊の人たち

 「なんか、随分寂しいオリンピックだな」

 「不換金不況なんかやるからだ。バカが」

 「仕掛け人はどう思ってるのかな」

 「利権を増やせて、社会資本を巻きあげて、ホクホクなんじゃないかな」

 「酷いことするよな」

 「どの道、紙幣が不足するのはわかっていたから、時間の問題だったんだよ」

 「クライシスまで粘ってバカを見るか、誰かにババを引かせるかの違いじゃないの」

 「やれやれ・・・」

 「だけど、賃金の安い日系人労働者の社会進出は進むよ」

 「日系人って言っても、半分アメリカ人だろう」

 「だけど、殺し合いたいなんて思わないはずだよ」

 「利害が一致している間はね」

 「利害が一致していなかったら、親子夫婦だって・・・」

 「まぁ 可能な限り避けようとするさ」

 「そして、ちょっとした歯車の違いで戦争を回避できることもあるだろう」

 「そのちょっと歯車の違いが日系人の社会進出と人口の差?」

 「そう思いたいね」

 「だといいけど」

 

 

 

 

 呉

 多くの国の海軍が注目している艦種があり、

 当然、日本も注目していた。

 そして、その艦種こそ、国産建造であり、

 日本海軍も、その艦種に力を入れる。

 艦艇の先進性は、国家予算、産業基盤、技術輸入の三つの手段によってなされた。

 日本は、それら三つの結実させ、国産潜水艦を建造する。

海大5型伊165型潜水艦
  排水量 HP 全長×全幅×吃水 速度 航続距離 魚雷   乗員 深度
水上 1705 3800 97.70×8.20×4.70 14kt 12kt/10000海里 4×2 14本 50口径100mm砲 62 85
水中 2330 3800 14kt 6kt/250海里  

 赤レンガの住人たち

 「VC鋼で建造したと思ったら潜水艦か・・・」

 「ディーゼルとモーターを半分半分なんて。これで良かったのかな」

 「現場の意見だろう」

 「撃沈される可能性が低ければ練度が高まり、再出撃で戦果に繋がりやすい」

 「初戦で撃沈されるような潜水艦を建造してもジリ貧だよ」

 「移動が遅くならないか」

 「どうせ、経済速度で走るし、浮上して高速移動なんて、やられに行くようなものだ」

 「だけど、待ち伏せオンリーは辛くないか」

 「だから数を作るんだろう」

 「30隻体制で、数ねぇ」 ため息

 「数作れないのが問題なんだがね」

 「ドイツは300隻体制だぞ。戦争が始まれば、簡易型を大量生産だ」

 「問題は、商船相手に無制限潜水艦作戦が出来るかだよ」

 「それが出来なければ、潜水艦は真価を発揮できない」

 「非人道的だからな」

 「軍艦に絞り込んだら、今度は潜水艦の数が少な過ぎるか」

 「日本は民間が鉄を取り過ぎなんだよ」

 「その鉄だって、鉄筋コンクリートで水増ししても不足なんだと」

 「そういえば、すげぇ恨めしげに見られたな。潜水艦」

 「鉄筋コンクリートで水増ししたら4倍だろう。6000トン分の建造物だよ」

 「やめてくれよ。せっかく建造したのに」

 「日本って、さぁ 外貨稼げない人間に、凄ぇ〜 冷たいから・・・」

 「ちっ 金の亡者が」

 「酷い国になったなぁ」

 

 

 この時期、戦争が起こる候補は、三つあった。

 一つは、バルカンの火薬庫、ドナウ帝国とセルビア。

 もう一つは、南米大陸で石油獲得のボリビアとパラグアイ。

 そして、もう一つあるとしたらスペインであり、

 こちらは、内乱の可能性を秘めていた。

 ミゲル・プリモ・デ・リベラ将軍の独裁政権(1923年-1931年)後、

 1931年、スペイン系ハプスブルク・アブスブルゴ朝

 アルフォンソ13世の国外脱出で君主制は崩壊し、

 スペイン第二共和政が成立した。

 共和国はバスク国、カタルーニャ州そしてガリシア州に自治権を与え、

 また女性参政権も認められるなど改革が進められていく。

 しかし、右派の富裕層と左派の貧困層の対立は激化しており、

 内戦前夜といった様相になっていく。

 各国とも興味津々であり、

 武器を調達して、借金を背負わせていた。

 スペイン マドリード

 ホテル 

 日本人たちがいた。

 本国の要人は、定期航路があると定期連絡しやすく、

 平時なら暗号も控えられた。

 「どっちに付いたら得か本国に聞かれたぞ」

 「おいおい、国策に大義はないのかよ」

 「足場が欲しいんだと」

 「足場ねぇ〜」

 「豊かな国なんだがな」

 「亜炭、石炭。水銀、マグネシウム鉱、鉄」

 「あと金、銀、亜鉛、銅、鉛、錫もあるな」

 「豊かなのに科学技術で後ろ向きなのは謎だな」

 「資源に頼っているのだろう」

 「近代化は、国民の知性と権利と社会資本と関わってくる」

 「産業革命は、封建社会が崩れるから邪魔していたんだよ」

 「貴族意識か・・・」

 「それものアルフォンソ13世逃亡で終わった」

 「じゃ これから近代化か」

 「だが右派と左派の抗争は激しさを増してる」

 「大資本で基幹産業を整備した後、徐々に社会資本を増やしていく」

 「近代化の常道だけど、スペインは、チグハグな感じだな」

 「スペインは、イスラム的な資質が強いのではないか」

 「そういえばスペインは、一度、イスラム圏に占領されている」

 「しかし、バルカン諸国とは違う気がするな」

 「近代化で、伸び長んでいるところは似てるよ」

 「ラテン系の気質じゃないか」

 「権限の委譲が嫌のだろう」

 「しかし、右派と左派。どっちが良いと言われてもね・・・」

 「足場を作るなら鬼になれってことじゃないの」

 「鬼外交は、選択肢が狭くなるよ」

 

 

 ドナウ帝国ハンガリー王国

 イツキ・松平・ホーエンベルク伯爵領。

 日本からの定期船が来るたびに日本の特産が流れ込み、

 町の店に日本製品が並ぶ。

 セルビアの軍備増強が国民を脅えさせ、

 治安の安定に向かわせているのは皮肉な事に思えた。

 復讐に燃えるセルビアは、ロシアからの支援を受けており、

 ロシアの産業と国力は、ドイツを越えようとしていた。

 もっとも、それは、沿線状に細く、

 そして、薄くロシア帝国の大地に広がるため、

 ドイツ帝国の成長ぶりより、実感で小さい。

 しかし、ロシア帝国の総量は確実に増えていたのだった。

 伯爵の城

 海援隊の訪問者がいた。

 ホーエンベルク伯爵は、ハンガリーの基盤が大きく、

 日本の関係は、ウィンウィンの関係以上ではなくなっていた。

 とはいえ、言語、民族、文化的な共感は大きく、太いパイプで繋がっている。

 伯爵は、日本製の部品とドイツ製の部品を見比べ・・・

 日本製を放る。

 品質の差は縮まっていたものの優劣は明らかであり、

 金があるならドイツ製を買う。

 金がなければ日本製を買う。

 「ロシア帝国とセルビアと陸続きで国境を接していると思うと気が気じゃないね」

 「いまのところ、ロシア帝国は内向きのようです」

 「ドイツ帝国と東ゲルマニアに挟撃されていてはな」

 「各個撃破の恐れもありますし、予断は許されないのでは?」

 「しかし、どこの国も社会運動が強くなって、貧富の差を埋めたがってる」

 「封建社会は辛いですかね」

 「セルビアの背後にロシアがいるように思えるが」

 「ロシア帝国もドナウ帝国も皇帝の国」

 「自分の足場を危うくするような策は取らないよ」

 「アメリカとフランスが黒幕だろう」

 「民主主義の正当化ですか?」

 「民主主義の国民は民主主義に自信を持ちたい」

 「だから民主勢力を支援するのだ」

 「できるなら民主化は、段階を経てやっていきたいものだな」

 「海援隊が足場を作れる機会があれば協力しますよ」

 「余り大っぴらには、出来ないがね」

 「発電用ダム建設で日本資本を押してるよ」

 「助かるよ」

 「まぁ 土木建設は実績がある。上手くやってくれ」

 「迷惑はかけませんよ」

 

 

 ロシア帝国

 世界最大の国土が広がっていた。

 とはいえ、人口気薄な寒冷地に過ぎず、

 国防の観点でいうと穴だらけといえた。

 ロシアで起こった改革は、

 ロマノフ皇帝の立場でソフトランディングであり、

 所領と権益を奪われたロシア貴族にすればハードランディングだった。

 貴族の既得権は狭められ、

 代わりに財力を増やしたユダヤ商人、

 利権を伸ばした貴族官僚、軍官僚、議会の力が増していく、

 軍演習場

 この時期、各国で戦車の研究がされていた。

 簡単なモノは、トラクター、自動車、バスを改造し、装甲を増やし、

 機関銃を載せたものであり、

 その方向性は、自走砲、騎兵型戦車、重装甲歩兵型戦車へと向かおうとしていた。

 師団の機械化、機甲化は、将兵一人当たりの鉄材を著しく増やすことになり、

 鉄生産と燃料生産で余裕のある国でしか、成せないように思えた。

 しかし、イギリスが初期の菱型戦車を開発させると、

 フランスが砲塔を載せた戦車を開発し、

 戦車の基礎設計となった。

 その後、各国とも戦車、装甲車を試行錯誤しながら戦車の開発を進める。

 もっとも予算上、1両造ると1個小隊が消えるでは、中小国家は二の足を踏む。

 ロシア帝国は改革以降、国力が増していたものの、

 膨れ上がる産業は、常に資本を欲しがっていた。

 ロシア帝国は、71個師団を配備しており、

 それとは別に街の警護隊から興ったウクライナ・コサック隊と、

 毛皮を求め、東方シベリア遠征と開発を推し進めたロシア・コサック隊があった。

 二つを合わせると1000個中隊に達していた。

 如何に大国とはいえ、

 師団を、そのまま、機械化するのは不可能であり、

 予算上、兵力は激減する。

 しかし、戦車は、大砲の直撃を受けない限り、戦場を暴れ回る事が出来た。

 そして、その脅威は、誰しもが目を見張る。

 「・・・量産すべきだろうな」

 38歳になったニコライ二世は、そう呟く、

 「予算は・・・」

 「少しは増やせるが・・・兵力も減らしてくれ」

 「御意」

 

 

 

 南アメリカ大陸

 ボリビアがパラグアイに宣戦布告。

 ボリビア軍25万がチャコに向かって侵攻したのだ。

 チャコ戦争勃発。

 パラグアイ軍(15万)も迎え討ち、

 双方とも近代戦争を経験することになった。

 欧米列強の各策があったものの、

 ボリビアとパラグアイとも独立国家であり、

 列強の思惑に乗る必然性は、まったくない。

 そして、戦争が起きた理由は、

 ボリビアとパラグアイ両国の問題として処理されていたのだった。

 曰く、戦争が起きた理由は “チャコと呼ばれる一帯に石油がある” という噂だった。

 この噂の出元の真意は、不明だったものの、

 欧米諸国は、戦訓を欲していた。

 如何に訓練されても実戦経験のない将兵と軍組織は不安であり、

 政府と国民から戦場童貞扱いされかねず。

 欧米諸国は、事前にボリビア(25万)と

 パラグアイ(15万)の軍事力増強に一役かっていた。

 そう、双方の軍が総力をあげ、

 戦えるように兵站を準備したのは列強の後押しであり。

 何はともあれ、

 常夏のチャコの空を試作機が飛び回り、

 水の乏しい大地を作戦車と将兵たちが歩き続けることになった。

 大空を列強の航空機が舞い、

 砲弾が飛び交い、戦車同士が互いを目標に定めて撃ち合う。

 そして、機銃掃射が兵士の突撃を食い止めていた。

 高台のパラソルの下に数人の男たちがいた。

 「暑い、暑い、暑い、暑い・・・」

 水筒の水を手放せない。

 「・・・ボリビアが押してるな」

 「先制攻撃だもの」

 「パラグアイ軍は、どうするのかな?」

 「兵站を考えると内陸に引き込んで戦った方が良いと思うよ」

 「後退すると負けてると錯覚して、士気が落ちる」

 「それは、将校次第だよ」

 「しかし、面白いように戦訓が入るな」

 「だけど、訓練が行き届いてない気がするよ」

 「精鋭部隊を中心に考えるのは、弱小国の証拠だよ」

 「数を揃えられる方は押し潰せるから、そうだろうね」

 「弱小国家は、貧乏だから、少数精鋭の一点突破で状況を打破したくなるんだよ」

 「ふっ でも負ける」

 「「「あははは・・・」」」

 「もっとトラックと水タンクがいるな」

 「日本に発注しよう」

 「日本は来てないの?」

 「気付いてないやつはいいよ。変に凶暴になられても困るし」

 「「「あははは・・・」」」

 

 

 

 タイ王国

 タイ王国の近代化は、4人の王と深くかかわっていた。

 ラーマ4世(モンクット)(在位:1851年〜1868年)

   自由貿易と仏教改革。

 

 ラーマ5世(チュラーロンコーン)(1868年〜1910年)

   国王が立法、行政、司法の三権を掌握し、

   官僚を派遣することで、それまで委任されていた地方自治を破壊し、

   中央集権を確立することで教育制度、奴隷解放、軍事の近代化、

   交通と通信の整備を推し進めるなどチャクリー改革を行った。

 

 ラーマ6世(ワチラーウット)(1910年〜1925年)

   義務教育、公共投資、衛生、文化・芸術で成果を上げ、多妻制を廃した。

 

 この頃、タイ王国の絶対王制は、その役割を終えようとしていた。

 独裁的な中央集権の地ならしは、終わっており、

 個人の才覚に頼るムラの多い専制君主の時代から、

 国民の支持を得やすい議会制民主制、

 そして、官僚の才覚を用い適材適所に配置し、

 行政を委任する時代になっていた。

 

 ラーマ7世(ポッククラオ) (1925年〜1935年)

   ラーマ7世王位を継承すると絶対王制への批判が高まり、

   1932年、フランス留学官吏よって結成された人民党のクーデターが勃発、

   絶対君主制から立憲君主制へと移行してしまう。

   この民主革命、立憲革命は、ラーマ7世を脅えさえ、

   イギリスへと逃亡させてしまう。

   この立憲君主制で王の逃亡は、タイ王国を機能不全へと追いやり、

   タイ政府の正統性を困窮に陥れていた。

 

 タイ王国 首都バンコク

 日本人たちがいた。

 タイ王国は、フランスとイギリスが強い影響力を持ち、

 独立を保てたのは、歴代タイ王の功績と、

 英仏の緩衝地帯でいいや、といった安閑とした外交戦略に他ならない。

 「タイ王国も立憲君主制か」

 「立憲君主制が良いわけじゃないさ」

 「本当に優れた王なら専制君主の100倍マシだ」

 「優れた王の出現率からするとタイ王国は絶望的だな。既に3代も使い果たした」

 「まぁ 立憲君主制は頃合なんだろうな」

 「まぁ 国境は侵食されているが、独立国には違いないし」

 「近代化できるんじゃないか」

 「だが貧乏そうだ」

 「だけど、外交的なパイプだけは作らないとな」

 「しかし、あまりいい目で見られてないな」

 「しょうがないよ」

 「イギリスとドイツの下請け商人みたいに見られてるからな」

 「まぁ 事実だけどね」

 「ラーマ7世をタイ王国につれ戻せば、タイ王国に利権が作れるかな」

 「そうだな・・・」

 「ところで南米のチャコ戦争は、どうなってるの?」

 「さぁ 海運は、仕事が増えたみたいだけど」

 「日本資本はブラジルに集まってるから・・・」

 「まぁ いいや・・・」
 

 

 

 南バイエルン (南西アフリカ)

 主な産業は南部のカラス州で、リューデリッツ港があり

 ダイヤモンド、ウラン、亜鉛など鉱業と、牧畜が行われていた。

 商船が到着すると積み荷が降ろされ、

 積み荷は飛行船に載せられると、

 飛行船はホマス州中央のウィントフック(標高1655m)か、

 水源のある内陸カプリビ州とカバンゴ州へと向かう。

 南バイエルンでは、水は命であり、

 ドイツの輸水船は、アマゾン川の水を運び込み、

 リューデリッツ港付近は、貯水路・用水路を張り巡らし、

 貯め込んだ水路に蓋をしていた。

 そのため、周囲が砂漠でも、リューデリッツ港郊外は緑が溢れ、

 木々が潤っていた。

 40000トン級貨客船 “ももたろう丸”

 日本人たち

 「船長・・潜水艦。Uボートです」

 「飛行船とUボートの組み合わせで暴れられたら、日本商船隊は壊滅だな」

 「ええ・・・」

 「内陸の調査をしてるんだろう?」

 「ポルトガル領のアンゴラ側から」

 「川のある内陸のカプリビ州を調査したそうですが、発達しているそうです」

 「水の問題さえ、解決できれば、発展できる要素は多分にありますね」

 「しかし、緑に対しては、凄い執着だな」

 港の周辺は緑の林が作られていた。

 「土砂はアマゾンの川底のものだ」

 「このまま水路が内陸に伸びて行けば相当なものになりそうだな」

 「流れない水は腐るんだがな」

 「一部は、水車で高台側へ戻してるそうですよ」

 「微妙だな」

 無線が入る。

 「船長。一度、リオデジャネイロ港で積み荷を載せて」

 「ブエノスアイレスに行って欲しいそうです

 「また戦争か・・・」

 「列強の旧式兵器と試作兵器が流れ込んでるそうですよ」

 「やれやれ、給料袋の円札が赤く染まってなければ良いがな」

 「やめてくださいよ」

 「それで、家族を養ってるんですから」

 「まぁ 外貨が入る間は、日本国内は大人しい気がするね」

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 世界大戦がないと、代理戦争が増える。

 一揆がなくなると、犯罪が増える。

 犯罪が減ると陰湿なイジメが増える。

 暴力は、欲求不満のガス抜きでしょうか、

 綺麗事を聞くと、

 人間ってそういう生き物じゃないと反発したくなる、この頃でしょうか。

 スポーツ、芸術への転換が図れるか微妙です。

 総論賛成ですか?

 

 まぁ どこかの予算が崩されて、そっちへ流れるってことです。

 各論の反対が始まります。

 

 

 

1930年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5200  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3000 800
遼東半島     3462+1万2500 10 300  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 800 600
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 300  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   10200 1400

 

 

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第24話 1931年 『第三十七計 不戦の計』
第25話 1932年 『英独冷戦』
第26話 1933年 『清華思想で、どんどん』