月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

 

第28話 1935年 『物狂ほしけれ』

 地下に巨大燃料タンクが建設されていた。

 直径100m×深さ50m。

 1基39万2699m3であり、それが20基並んでいた。

 満杯で貯蔵することはないものの、

 燃料消費量に合わせて、日本各地に石油タンクが建設されていく、

 恐れるべきは燃料漏れと気化であり、

 寒冷地は、安全性が高まり、温度を安定させやすい地下が好まれた。

 赤レンガの住人たち

 「軍艦を作らず、石油タンクか、何が悲しゅうてこんなもんを見なきゃならんのかね」

 「4億バレル分を日本国内で貯蔵したいらしい」

 「何で国の管理なんだ」

 「軍の管理にしてくれよ」

 「軍に管理させると石油タンクより軍艦造るからな」

 「しかし、ほとんど民間に取られちゃうじゃないか」

 「勝手に戦争させたくないんじゃないか」

 「ちっ 信用ないねぇな」

 「しかし、国内産業を拡大させて年間の燃料消費量が増えると貯蔵分も、か細く見えるからな」

 「クェートの油田を一つ押さえてるから日本は石油メジャーだろう」

 「輸送が大変だろう」

 「それにインドでも燃料消費が増える傾向にある」

 「インドか、あんなクソったれな国のどこが良いんだか」

 「日本人街は悪くないぞ」

 「クソったれなのは街の外だよ」

 「あははは、外国が嫌だからって引き籠っていたら孤立してしまうよ」

 「わかっちゃいるけど腹が立つ」

 「日英印同盟ならアメリカ、ロシア、ドイツに対抗できるからね」

 「将来の清国にも対応できる」

 「清国は、そんなに近代化するのか?」

 「日本と同じ、立憲君主制になったのが運のつきだよ」

 「いっそのこと立憲君主連合でも形成するか」

 「あははは」

 「アメリカは、いまのところ脅威ではないと思うがね」

 「アメリカの市場がないと日本経済が風邪を引くだよ」

 「そうだった」

 

 

 帝都 高天原(入笠山)

 周囲の山頂にアンテナが建設される。

 帝都防空は、レーダーによってなされると考えられており、

 赤レンガの住人たちの間でもレーダーは注目されていた。

 「これが噂のレーダーか」

 「さすがイギリスは進んでいるな」

 「航空機の配備数が少ないですからね」

 「九州、中部域の防空は、レーダーに頼ることになりそうです」

 「しかし、索敵範囲をカバーしようとすると、大変な予算になりそうだな」

 「んん・・・闇雲に戦闘機を配備するより、レーダーで確実に捉えるべきだろうな」

 「ところで、説明書は翻訳できてるんだろうな」

 「ええ・・・だいたい・・・」

 「なんだ? 微妙だな」

 「この時折出てくるYAGIという単語が・・・ちょっと・・・」

 「んん・・・何か、専門的な略称じゃないのか?」

 「・・・それが・・・それらしい・・・記述がなくて・・・」

 「イギリスに問い合わせるしかないな」

 「ええ・・・」

 

 

 

伊6型潜水艦
  排水量 HP 全長×全幅×吃水 速度 航続距離 魚雷   乗員 深度
水上 1900 4800 98.50×9.06×5.31 14kt 12kt/20000海里 4×2 24本 50口径100mm砲 58 110
水中 3000 4800 14kt 6kt/280海里  

 赤レンガの住人たち

 諸事の事情により、潜水艦だけは国産だった。

 そして、日本海軍も潜水艦の建造に力を入れていた。

 「水上機を載せなくて良かったのか?」

 「艦長たちがなるべく浮上したくないんだと」

 「まぁ わからなくもないがね」

 「問題は、索敵だよ」

 「問題は、数だよ」

 「数か、一番無理な話しだな」

 「索敵は、ドイツみたいに飛行船を腐るほど持っていたらどうにでもなるのだが」

 「飛行船を独占しやがって」

 「いまさら飛行船産業を始めても採算性で追い付けないと思うがな」

 「そういえば、アメリカとイギリスも飛行船から引いてたっけ」

 「しかし、潜水艦も随分静かになったものだ」

 「ゴムで艦体と機関部を覆ったからな」

 「しかし、この人数で、この大艦と建造費か、信じられんな」

 「時代の流れは恐ろしい」

 「だが、戦艦より維持費は安く済むぞ」

 「まぁ 人の数だけ、手間も煩わしさも増える」

 「大型の戦艦が鈍重になってしまうのは否めない」

 「整備は潜水艦の方が煩わしいがな」

 「300隻もあれば、制海権は大きいと思うが」

 「残念ながら、その10分の1の規模でやっとこだよ」

 「ちっ ケチが」

 

 

 チャコ戦争

 戦場跡がフィルムに収められていく、

 戦車の搭乗口から煙が立ち昇り、

 手榴弾を放り込まれたのだろうと、簡単に予測が付いた。

 周囲は、パラグアイ兵士とボリビア兵士が累々と転がり、

 死臭のようなものが漂っている。

 そして、勝っているはずのパラグアイ軍将兵も疲労が隠せないのか、

 木蔭に座り込んでいた。

 一度、戦意の低下した将兵を奮い立たせるには、攻撃を受けるか、

 強い士官、下士官が必要になった。

 各国の関係者がマテ茶を銜えていた。

 下品な味だとか、気品が感じられないとか文句を言いつつも効用はあった。

 「これだけ暑いと搭乗口も開けたくなるか」

 「脱水症と熱中症を合併するより、マシかもしれんが」

 「いや死ぬより良いだろう」

 「死ぬ方が楽という事もあるよ」

 猛暑のチャコ地方を舞台にした戦場も終息しつつあった。

 兵力と装備で優勢だったボリビア軍は、戦意を喪失させつつあり、後退していく。

 

 

 東アフリカ 南ヴュルテンベルク (99万4996ku)

 ドイツ帝国領 南ヴュルテンベルク上空をツェッペリン飛行船が浮かび、

 積み荷を内陸へと降ろしていた。

 ダルエスサラーム港を起点にして、鉄道が海岸線に沿って南北に延び、

 さらに内陸のビクトリア湖、タンガニーカ湖、マラウイ湖へと線路が伸びて行く、

 青い空の下、繊維作物のサイザルアサが線路の両側に広がっていた。

 ビクトリア湖に近付くにつれ、ドイツ風の家屋が連なり、

 緑の木々が散らばった赤茶けた街が出現する。

 ドイツ人は、昔から住んでいたように闊歩し、

 石畳で舗装された道をワーゲン、ベンツ車が行き来していた。

 鉱山が掘られ、発電所と工場が建設され、

 産業は第一次産業から、第二次、第三次産業へと拡大していた。

 飛行場

 680馬力 備重1680kg/全備重2250kg

 全長9m×全幅11.5m×全高3.7m 翼面積23.2u

 速度488km/h 航続距離1100km 7.92mm機銃×3

 He112戦闘機は、逆ガル楕円翼が採用されていた。

 ドイツ軍将校たち

 「ようやく、航空機戦力の拡充か」

 「ツェッペリンばかりだったからな」

 「戦闘機じゃ 物を運べないだろう」

 「そりゃ 内陸に線路や街を建設したのは、飛行船だけどね」

 「一旦、鉄道が敷かれたら、もう、航空機の時代だろう」

 「まぁ 欧州や極東じゃ周りを強国に囲まれて守勢にならざるを得ないけど」

 「アフリカ大陸なら攻勢に出られそうだな」

 「欧州と極東で守勢を保てるなら、南ヴュルテンベルクで攻勢に出て戦争には勝てるよ」

 「まぁ 現状でもコンゴと南アフリカを押さえられそうだけどな」

 「スエズと喜望峰の航行を制限できたら、イギリス帝国も終わりだろうな」

 「「「「・・・・」」」」 にやぁあ〜

 「しかし、イタリアがエチオピアに侵攻しそうな節があるぞ」

 「イタリアが不況なのはイタリア人に原因があるのであって、領土の広さは関係ないよ」

 「「「「あははは」」」」」

 

 

 イタリア王国は、国家統合後、急速に人口が増加していた。

 アメリカ合衆国への移民は、進んでいたものの、

 イタリア国民の保護を考えるのなら、

 イタリア国境の拡大が望ましいとムッソリーニは考えていた。

 リビアを植民地化したイタリアは、さらにエチオピア帝国の侵略を推し進め、

 紅海側のエリトリアから正規軍5個師団、黒シャツ隊5個師団の16万がエチオピアへ侵攻し、

 インド洋側のソマリランドから正規軍1個師団と黒シャツ隊数個大隊も5万2000が侵攻した。

 第二次エチオピア戦争(10/03〜)

 イタリア軍は将兵22万、

 装備は火砲700門、豆戦車150両、航空機150機、マシンガン7000丁だった。

 エチオピア軍は、将兵35万人だったものの、練度は低く、

 装備は、火砲200門、対空砲50門、戦車数両、飛行機3機と劣っていた。

 イタリアのエチオピア侵略は前科があって2度目であり、

 エチオピアは、自衛のため装備を整え、

 各国も少なからず支援しており。

 日本も8式小銃(7.7mm×56R)数千丁と武器弾薬をエチオピアに売却していた。

 高台の将校たち

 「8式小銃の連隊は、頑張っているじゃないか」

 「あの連隊は、日本人が指揮をとっているんだろう?」

 「海援隊出身でね。アムハラ語が分かるのは、彼だけだったから」

 「とりあえず、中佐という事にしている」

 「期無しでか?」

 「大抜擢だな」

 「軍制は余裕あるから・・・」

 「それに外国語を覚えるより、即興で士官教育の方が楽だからね」

 「尉官を付けたから何とかやれるだろう」

 「しかし、あの山道を押さえても、他は崩壊寸前」

 「逃げ支度したくなるような戦況じゃないか」

 「まぁ 即席の大佐だし、付けてるのは尉官だし、それほど惜しくないよ」

 「8式小銃の戦訓なら悪くない戦況というわけか」

 「山岳戦に持ち込めば射程より、減装弾で命中率ですからね」

 「しかし、戦場を選ぶのは弱点だろう」

 「多かれ少なかれ武器は戦場を選びますよ」

 「それにヴィッカース重機関銃もセットで売ってますから・・・」

 「大砲は?」

 「2、3門は、買っていたはずですが、何分、エチオピアの予算は、不足でしたからね」

 「んん・・・しかし、イタリア空軍の爆撃と砲撃は、いま一つ精彩に欠けるな」

 「山岳戦だと、遮蔽物が多過ぎて投射面積で粗が出ますし」

 「航空機も低空飛行を恐れますしね」

 「しかし、エチオピア軍もいま一つだな。テコ入れしても陥落は時間の問題か」

 「まぁ 独立国の国防は自己責任でしょう」

 「しかし、戦訓を考えると、もう少し、サービスした方が良かったかな」

 「!? お! 来たL3豆戦車」

 「「「おお〜」」」

 「こういうとき、エンフィールド小銃で強装弾が良かったと思うんだよな」

 「しかし、小銃は敵兵の進攻を食い止めるものだろう。そういのは命中率だ」

 「機銃を増やして対処すれば良いだろう」

 「機銃は値段が高いからね・・・」

 「「「「・・・・・」」」」

 「ちっ エチオピア兵士が浮足立ちやがった」

 戦力で圧倒的なイタリア軍は、苦戦しつつもエチオピア軍を撃破し、

 エチオピア全土を制圧してしまう。

 

 日本に帰還するための飛行機が着陸していた。

 「中佐。乗れ、日本へ帰還するぞ」

 「・・・・・」

 「広瀬中佐。帰還だ」

 「少将。自分は、残ります」

 「・・・・」

 そこから日本人の率いるエチオピア連隊の反撃が始まった。

 日本人が率いる連隊は、アジスアベバ占領で気が抜けたイタリア軍をゲリラ戦で翻弄し、

 補給部隊を襲撃しては、軍需物資を強奪していく、

 海援隊上がりの素人中佐は、国家間同士の正規戦を基準にした戦術など意に介さず、

 国際的に違法な非対称戦争を展開した。

 戦訓が欲しいだけの各国軍需産業は、細々と武器弾薬を供給し、

 エチオピア紛争を遠巻きに窺い始めた。

 

 

 

 ツェッペリン飛行船は、長大な航続距離と、

 乗員40〜61+乗客50〜72 or 100tも積載能力と滞空能力を有し、

 航空機にない、大きなキャパシティを持っていた。

 また、ヘリウムガスの供給で可燃の恐怖からも脱していた。

 軍事的な脆弱性は、依然として大きいものの、

 経済的に飛行船の存在価値を脅かす航空機が現れることはなく、

 ドイツ帝国のツェッペリン飛行船は、世界の航路を独占的に支配しており、

 各国は、ツェッペリン社と協定を結び、

 空路を開く事で利益を上げていた。

 ツェッペリン飛行船は、乗客と貨物を乗せるたびに外貨が転がり込み、

 ドイツ帝国の飛行船産業を巨大化させていった。

 外貨が国外に流れて行けば、社会資本は、引き抜かれ、

 どこの世界でも、皺寄せは、弱者からと決まっていた。

 特に資本主義のメッカたるアメリカ合衆国は、貧富の格差が激しくなり、

 会社の周囲は、労働争議を繰り広げる労働者たちが集会を開き、

 別の場所では、職場を求める失業者達の集会が開かれていた。

 

 アメリカ合衆国、ダグラス社

 DC3が初飛行に成功すると、

 世界の空路を独占していたツェッペリン飛行船を取り巻く情勢も変わる。

 DC3の人員輸送能力は、3列席21人。

 または、4列席28〜32人であり、

 貨物輸送は4、.5tと、それまでの航空機性能を超えていた。

 DC3は、速度と運用で飛行船に勝り、経済的な面でも飛行船に迫っていた。

 飛行場

 関係者たちがDC3の初飛行を眺めていた。

 「DC3なら、5機も飛ばせば乗客数を超えるし、25機も飛ばせば貨物量で追い抜ける」

 「無論、運用面でも圧倒的にDC3が勝っている」

 「もう、飛行船の時代ではないな」

 「実に素晴らしいねぇ・・・」

 「異議がありそうだな」

 「いや、ないよ・・・飛行船の方が長く飛べるだけだ」

 「まぁ 航空機産業を盛りたてるだけの予算があれば飛行船を圧倒できるさ」

 「既に飛行船に差を付けられているからな」

 「各国とも飛行船用の係留飛行場が作られているし、格納庫も多いだけだ」

 「ジャガイモ野郎に空を奪われたままは面白くないだろう」

 「面白くなくても工場を拡張できるだけの予算が増えるとは限らんだろう」

 「ツェッペリン飛行船の安全性は高いからね」

 「ヘリウムガスを売るからだ」

 「ドイツが戦艦の建造をやめたからバランスを取るためだよ」

 「アメリカ海軍は、イギリス海軍とまともにぶつかると不利だ」

 「いや、工業力で勝てるだろう」

 「漁夫の利って知ってるか? 何でもかんでも自国が戦えばいいってもんじゃない」

 「ドイツとイギリスが疲弊したところで叩く、それで、アメリカの独り勝ちだ」

 「まだまだアメリカは、農業国なんだがな」

 「ドイツ人の移民がいま一つだからな」

 「イタリア人の移民が増えているだろう」

 「イタリア人の移民より日本人の移民の方がましだ」

 「低賃金で利益を上げてくれる日系人の移民は、合衆国を近代化で助かるんだがな」

 「産業がそう思ったからって、仕事を奪われる大多数の白人は困るだろうよ」

 「アメリカの労働者は、賃金格差を埋めようと騒動起こすし」

 「日本商船隊は、賃金格差を利用して世界の海を走り回っている」

 「モラルの低い国民を抱え込んだ国家は、どぶに金を捨てるようなものだし」

 「モラルの高い国民を抱える国家は、足りない中でも何とかしようとするものだ。勝てないな」

 「もう、円高にしよう」

 「お金持ちは、円安が好きなんだよ」

 「おかげで、日本産業は伸びに伸びて、我が国の失業は増える一方か」

 「DC3の生産が軌道に乗れば、ツェッペリン飛行船を押し返せるし」

 「外貨の流出が止まれば、アメリカ航空産業も持ち直せるはずだ」

 「だといいがね」

 「しかし、日本との賃金格差が埋まらない限り」

 「日本商船隊に流れる外貨は止まりそうにないな」

 「だから為替を上げろと・・・」

 「日本人より賃金が低いのが嫌だというアメリカ人が多くてな」

 「「「・・・・」」」

 

 

 ロンドン

 ホーカー・エアクラフト社 飛行場

 1030馬力 備重2560/全備重3740kg 全長9.55×全幅12.19×全高3.98

 速度529km/h 航続距離750km 7.7mm×8

 ホーカー ハリケーンMk1は、上空を旋回する。

 日本は、ホーカー・ハリケーンのライセンス生産を検討していた。

 政府代表と日本人将校たち

 「ホーカーハリケーンか・・・純軍事学的に、どう思う?」

 「そうだな・・・国産が一番だが」

 「日英同盟は、インド大陸を含めたイギリス植民地全域の利権も含んでいる」

 「それは、日本の国益防衛とも重なっているから無理だ」

 「国土防衛は、政治の犠牲になれってか?」

 「どうやって、国防予算を捻りだしていると思ってるんだ」

 「ライセンス生産で国防ができるか疑問だね」

 「戦争が始まってもイギリス、インド、日本産のホーカーハリケーンは規格が同じ」

 「稼働率の心配はないぞ」

 「撃墜されなければな」

 「東ゲルマニアの戦闘機とそれほど変わらないだろう」

 「東ゲルマニアはHe112戦闘機。有利とはいえなんよ」

 「政治的な見解で、ハリケーンで対応して欲しいな」

 「ロールス・ロイスマーリンエンジンは、大丈夫なのか?」

 「ああ、量産はできるよ。好みに合わせた改良も少しはできるだろう」

 「新機軸のスピットファイアの方が好みだがな」

 「そっちとも話しは付いてる」

 「しかし、どちらにしても航続距離の短さは如何ともしがたい」

 「国情に合わせた軍事力を考えるべきだ」

 「航空戦は、半島と九州から中部にかけてになるのだろう?」

 「海峡の制空権を取った方が有利だからな」

 「そういうことなら航続距離を落としても、ほかの性能に転化する方が良い」

 「まぁ・・・増漕タンクで航続距離を増やせばいいだろう」

 「それに船便で運んでも良い」

 「船便か・・・Uボートがウヨウヨしているかと思うと泣きたくなるよ」

 「イギリスも、長距離戦闘機を開発すりゃいいのに」

 「どちらかというと大型輸送機が欲しいな」

 「大型輸送機か。日本も飛行船が建造できれば良いんだけどな」

 「ドイツは飛行船を売らないだろうな」

 「「「「・・・・」」」」

 「まぁ 君らの純軍事学的な視点はともかくとしてだ」

 「東ゲルマニアの戦力は懸念すべき正面戦力には違いない」

 「しかし、東ゲルマニアは極東で孤立している」

 「対日攻勢は、ないと考えていいだろう」

 「政治家筋らしい手前勝手な意見だ」

 「いやいや、東ゲルマニアは、日本より清国を恐れている」

 「正面戦力も対中国側だ」

 「それと、ロシアとアメリカがどっちにつくかにもよるね」

 「こういった勢力均衡を総括的に判断した結果」

 「少しくらい不都合でもライセンス生産で間に合うと・・・」

 「ちったぁ 現場の意見を聞けよ」

 

 

 

 日本海軍は、国産による艦隊建造計画をやめ、

 イギリスの払い下げ艦隊の改装で誤魔化しつつ、

 世界の海軍戦力でいうところの2流海軍と評価されていた。

 俗に海運一流、海軍二流という奇妙な捻じれが生まれていた。

 もっとも、世界的な建艦競争は、沈静化しており、

 ドイツ海軍は、植民地開発と潜水艦増強に傾倒。

 イギリス海軍も、植民地防衛艦隊の建造に移行し、

 アメリカ海軍も不換金不況から立ち直れず、

 フランス海軍も、大陸沿岸国家であって、

 陸海空軍を揃えると中途半端になら座得るを得ず。

 野望を抱いているイタリアでさえ、

 不況のせいで満足な軍事力は揃えられてなかった。

 ただ、ロシア帝国は、共産革命の危機を乗り越えると海軍戦力の拡充を検討し、

 清国も立憲君主制移行後、余裕が生まれたのか、海軍戦力の国産化を検討していた。

 

 新たに払い下げられた巡洋戦艦4隻の戦力化なされていた。

ライオン型戦艦 4隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
26270 213.4×27×8.4 70000 27 10kt/5610海里
45口径343mm連装4基 50口径102mm砲16基 47mm砲×4 533mm魚雷×4
ライオン、プリンセス・ロイヤル、クイーン・メリー、タイガー

 金剛(ライオン)、比叡(プリンセス・ロイヤル)、榛名(クイーン・メリー)、霧島(タイガー)

 旧式化した巡洋戦艦で砲撃戦は困難だとされ、

 全長は224mに延長し、主砲は50口径305mm連装砲4基へ換装。

 魚雷発射管は廃止され、

 艦首と艦尾固定で50口径410mm連装砲2基を配置する。

日本海軍 大綱
艦種 排水量 速度 主兵装

 

戦艦 4 30000 28 305mm連装砲4基

固定50口径410mm連装2基

金剛、榛名、比叡、霧島

戦艦 1 26000 23 50口径305mm連装4基

固定50口径356mm連装2基

摂津、

2 22000 22 50口径305mm連装3基

固定50口径356mm連装2基

薩摩、安芸
巡洋戦艦 2 18000 25 鞍馬、伊吹
装甲巡洋艦 前ド級戦艦改造⇒装甲巡洋艦 12隻
2 22000 26 50口径234mm3連装2基

固定50口径305mm連装2基

姫神、白神
10 20000 26 香取、鹿島
妙高、那智、足柄、羽黒、
高雄、愛宕、摩耶、鳥海
装甲巡洋艦改装 1隻
1 18000 28 50口径234mm3連装2基

固定50口径305mm連装2基

生駒、
  28        
装甲巡洋艦 → 空母
  5 17000 28 50機 鳳翔、瑞翔、燕翔、蒼翔、龍翔

 

 

 相模湾

 金剛(ライオン) 艦橋

 「305mm砲は、50口径の長砲身にしたところで風で流されるばかりで当たらん」

 「そりゃ、343mm砲に比べたら弾頭が軽いから、そう思えるだけだろう」

 「実質、弱体化したようなものか」

 「艦首を敵艦に向けられたら、一撃必殺だろう」

 「いま時、艦首と艦尾に大砲を固定させた方なんて・・・」

 「ばれていないなら有効だよ」

 「だといいけどな」

 

 艦首50口径410mm縦列連装砲

 それは、箱型2連装の砲身だった。

 甲板上なら重量軽減のため円柱の筒に削り出される砲身が、

 25mほどの箱状の四角注となって、艦体に埋め込まれていた。

 砲口側が固定され、

 閉鎖機と揺架を含めた砲架が上下することで、仰角と伏角を調整した。

 縦列に並んだのは、艦首を狭め、波切りを良くするためだった。

 最大仰角になると砲架は、喫水線の下まで下がる、

 砲撃時は、砲栓が外され、

 艦首から爆炎が噴き上がり、

 砲弾2つが僅かな時間差で撃ち出された。

 「流石、50口径の410mm砲だな。305mm砲が副砲に思える」

 「最大仰角45度。初速800m/s 最大射程43000m 砲弾重量1020kg」

 「世界最大最強の大砲と言えるでしょう」

 「問題は、全速航行だと海水が砲口から入ってしまうことか」

 「球状艦首でもまだまだだな」

 「艦尾側は、そうでもないが、艦首側は、使い難いな」

 「艦首と艦尾側が重くなると、少し、安定性に欠かないか」

 「まぁ 305mm連装砲に換装しても、そう感じるな」

 「レーダーやら無線関係が増えて、重くなるモノはあっても軽くなるモノはないからな」

 「軽くできるのは兵装くらいものか」

 「兵装が削減されるのが一番辛いよ。戦艦とは思えんよ」

 「しかし、作戦海域は広がってる、あれこれ積み込むと、どうしても兵装が犠牲になるよ」

 「インドに肩入れするからだ」

 「インドに利権があるんだからしょうがないだろう」

 「それだって、イギリスが、日独接近を嫌っての利権じゃないか」

 「外交戦略でイギリスのいいようにやられているのが面白くない」

 「引っ込みがつかないくらいの投資をしてんじゃないか」

 

 

 

鳳翔(マイノーター)型空母 1隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
17000 200×25×7.92 54000 28 10kt/10000海里
艦載機50機 50口径76.2mm連装砲8基    
鳳翔(シャノン)、瑞翔、燕翔、蒼翔、龍翔

 鳳翔 艦橋

 将校たちが憮然と飛行甲板を見下ろしていた。

 「こんな艦上機で戦えってか!」

 「・・・勝てん」

 「くっそぉ〜 人殺しが・・・」

 「第一仮想敵国は、東ゲルマニアの通商破壊だから、ハズレじゃないと思うけど」

 「「「「ハズレだ」」」」

 

 戦闘機ホーカー・ニムロッド

 全備重1841 630hp×1 全長8.09m×全幅10.23m×全高3.00m

 速度311km/h 航続距離300km 7.7mm機銃×2 1人

 

 雷撃機フェアリー・ソードフィッシュ

 備重2130kg/全備重3406kg 750hp×1 全長11.22×全幅13.9×全高3.8 翼面積56.39

 時速222km/h 航続距離880km 7.7mm機銃×2 雷爆680kg 乗員3人

 

 「ブリテン野郎・・・こんな艦上機しか作れんのか」

 「戦闘機は、グロスター・グラディエーターが初飛行で飛んだらしいよ」

 「複葉機だろう」

 「ホーカー・ハリケーンを艦上機にしろよ」

 「もっと大きな空母じゃないとな」

 「それに対潜哨戒ならフェアリー・ソードフィッシュの方が・・・」

 「外国製の、しかも、複葉機じゃ気持ちが掻き立てられねぇ」

 「インド投資にお金を取られたんじゃないかな」

 「国防は国家の大事だろう」

 「まぁ 国防も大切だけどさ」

 「頭いてぇ〜」

 

 

 

 イギリス ロンドン

ネルソン型戦艦 4隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離 兵員
34000 227×32.3×8.8 90000 28 16kt/7000海里 1200
45口径356mm砲3連装3基 53口径120mm連装16基 CMB40ft×2 水上機×6
ネルソン、ロドニー、ドレーク、スミス

 ネルソン型高速戦艦は、日本の圧力によって設計が変更され、

 艦首主砲2基、艦尾主砲1基とオーソドックスな形式の戦艦として建造されていた。

 日本の下取り価格を含めれば、数を上澄み出来、

 奇を衒わずともアメリカとドイツに対抗できると計算されていた。

 ネルソン 艦橋

 「高速戦艦は、悪くないな」

 「日本の横やりは、怪我の功名と言えるな」

 「ですが、27年就役ですから、4年後の39年には日本に下取りになります」

 「艦齢12年だと、働き盛りだ。惜しい気もするな」

 「余計に建造できて、後続艦を保有できる方が得なはずです」

 「イギリス海軍は、新鋭艦だけで、艦隊を編成できるわけか」

 「だが、商船の建造数では、日本に負けている」

 「インドの造船が軌道に乗れば逆転できるのでは?」

 「インドは、イギリス本国ではない」

 「それはそうですが・・・」

 「軍艦ばかりとらわれると、イギリスが弱体化することにもなりかねんぞ」

 「カナダと豪州がもう少し、国力を増強できればいいのですが」

 「身内ほど厄介なモノはないがな」

 「あははは・・・」

 

 

 

 

 サモア (2935ku)

 熱帯海洋性気候。年間平均気温26〜27℃。

 乾季(5〜10月)、雨季(11〜4月)年間降水量は2500〜3000mm、

 雨季の湿度は高く、山間部の降水量は、5000mmを超える。

 膨大な雨量は、溜め池を満水にし、小規模な水力発電を可能にさせていた。

 日独権益交換後、日本人のサモア入植は進み、現地民の人口を超え、

 近代的な生活と南国の風情の狭間で、のんびりとした時間が流れて行く、

 日本軍将校たちが地図を広げて、駒を動かし、サイコロを振っていた。

 敵の駒は、アメリカ海軍であり、

 英豪艦隊の来援までサモア守備隊が持ち堪えるものだった。

 戦況は、双方で集結させられる戦力に幅があり過ぎるのか、

 現実味の乏しい作戦が繰り広げられていた。

 軍人たちは、可能性が乏しくても図上演習をしなければならず・・・

 「毎日毎日、雨ばっかりだな」

 「アメリカ空母は雨天でも活動可能なのだろうか」

 「雨量次第じゃないかな」

 「飛行場はもっと欲しいな」

 「潜水艦用の施設もな」

 「だけどさ、本当にアメリカやドイツと戦争になるのかな」

 「軍隊なんて、戦争になるかもしれないで、存在してるだけだけどね」

 

 

 

 欧州危機(セルビア事件)を乗り越えた欧米世界だった。

 しかし、国家間の戦雲は常に存在し、

 陸地を接する欧州諸国の軍事的な緊張は高かった。

 科学技術の発達と産業の拡大に伴い、各国の国力は増し、

 自動車産業も時とともに進歩していた。

 そして、地上戦の研究は、装甲車を生みだした。

 その初期のモノは、各国とも同じ系統を辿った。

 自動車に装甲板を張り、機関銃を載せ、

 不整地でも機動でき、さらに塹壕を乗り越えるため、キャタピラを装備していく、

 結果的に攻守、速度ともインフレが続き、

 キャタピラと大砲と装甲を持つ戦車へと発展させてしまう。

 大きな戦場でなくてもチェコ戦争、エチオピア戦争で戦車が使用されており、

 例え、戦訓が乏しくても想像力と科学技術力が組み合わされて補われた。

 そして、発展を阻害するモノがあるとしたら、くだらない過去の常識だった。

 

 

  

 セルビア

 小国セルビアにBT5戦車、T37水陸両用戦車が並び始めていた。

 ロシア軍将校たち

 「よく、BT戦車をセルビアに輸入できたものだ」

 「元々 セルビアとルーマニアの陸路を阻害しない約束でドナウ帝国に譲渡した回廊だからね」

 「それにドナウ帝国のドイツ領アフリカ移民が進んで、ドイツ系、ハンガリー系、チェコ系が増えただろう」

 「ドナウ帝国が少数民族の意見を黙殺できるようになると、ドナウ帝国の脅威が増す」

 「それで、バランスを取るため、ルーマニアのルートができたらしい」

 「ふっ ルーマニアも大変だな」

 「ロシア帝国と陸地を接して。ドナウ帝国とブルガリアに挟撃されてるからな」

 「まぁ ルーマニアにもBT戦車を売ることになったが、それはしょうがないことと言えるね」

 「次の戦いは、バルカン半島の奪い合いだろうか」

 「ロシア帝国はドイツ帝国に挟撃されている」

 「戦力を東西に動かしやすいロシア帝国の方が有利でも、同盟戦略で負ける事もあるだろう」

 「問題は、どうやって、ドナウ川を渡河するかだな」

 「T37水陸両用戦車があるだろう」

 「重機関銃で撃破されるような戦車じゃ 話しにならんと思うな」

 「ドナウ帝国の戦車は?」

 「ドイツ製の25トン戦車を使っているらしい」

 「40トン級のKヴァーゲン4号戦車じゃないのか」

 「25トン級のA10V突撃戦車だろう」

 「ドイツ帝国は、内線戦略と外線戦略で中途半端だからな」

 「ふっ ドイツ本国も極東の東ゲルマニアも内線戦略だよ」

 「国力を外線戦略に分割し過ぎて、攻勢でに出られず内戦戦略を取らざるを得ない」

 「そんなところだろう」

 「どちらにせよ。ドナウ・ブルガリア回廊さえ、閉ざしてしまえば、中東の油田は止められる」

 「中東の油田さえ止めれば、ソビエトの戦車部隊でドイツ帝国は圧倒できるだろう」

 「だといいがね」

 

 

 ベオグラード

 ホーエンベルク・松平・イツキ伯爵

 彼は、ひょんなことから神聖ローマ帝国の貴族となり、

 多言語社会の中で苦労していた。

 言葉が道を閉ざす事もあれば、道を切り開く事もあった。

 言葉が人と人を憎み遭わせ破壊する事もあれば、人と人を繋ぎ、新しい産業を起こす事もあった。

 幸い、海援隊の居留民は、少なくなく、

 何人か分担して通訳を試み、災厄を防ぐ事もできた。

 チェコ戦争の戦訓から戦車は、それなりに発達しており、

 ドナウ帝国は、ドイツ戦車のライセンス生産に成功し、

 ベオグラードにも配備していた。

 「伯爵。どうです? 戦車は?」

 「悪くはないが、歩兵と共同歩調を取り難そうだな」

 「ドイツでは、どういう風に使う気なんだ」

 「内線戦略で使う分には、支障ないはずです」

 「突破されそうな陣営に即席のトーチカーを配置できるわけですからね」

 「40トン級のKヴァーゲン4号戦車は、強力な布陣になりそうだが」

 「25トン級のA10V突撃戦車は、敵陣を切り崩すような使い方になりそうだな」

 「ええ、ドイツ参謀本部でもそう考えているようです」

 「セルビア軍だけが相手なら支障はないが・・・」

 「問題は、ロシア帝国です」

 「ロシアと戦争になれば、フランスとイタリアも攻勢に出る可能性は高いな」

 「はい、ドイツの総人口の半分は外地に入植していますし」

 「ドイツ帝国に残っているのは、老人、若者の方が多いですからね」

 「どうしても守勢になるかと思われます」

 「対仏戦でも危ないわけか」

 「はい」

 「そうなるとドナウ帝国は、単独でロシアと事を構えなければならない事態もあり得るわけだ」

 「そういう事になります」

 「少数民族に後ろから撃たれるようなことになれば、ドナウ帝国の防衛線は、崩壊する」

 「まったくです」

 「少数民族の移民を促進すべきだろうな」

 「少数民族は、右翼化、左翼化している節がありますが」

 「生き残りを賭けてるのだろうな」

 「大義名分と民衆を味方に組織拡大を狙っているわけか」

 「どちらも、暗殺とテロも辞さない強硬派ですからね」

 「ふっ 人を虫けらのように踏み躙る連中が、国家のため民衆のためか、口は上手く出来てるものだ」

 「ですが、ドナウ帝国の封建社会も・・・」

 「確かにドナウ帝国の封建社会は、近代化の弊害になってる」

 「しかし、多民族を平等にすると市役所も教科書も増えて、財政負担が増してしまうな」

 「そうなれば、帝国としての統一性も失われ弱体化してしまうはずです」

 「それは困る。これ以上、情勢が悪化すれば世界大戦になる」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 改変された世界が戦いもせず、淡々と流れて行く、

 そんな、世界観です

 

 

1930年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5200  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3000 800
遼東半島     3462+1万2500 10 300  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 800 600
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 300  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   10200 1400

 

 

 

  口径 銃身/全長 装弾数 重量g 初速 発射速度 射程距離
エンフィールド 7.7mm×56R 640/1130 10 3900 744m/s   918m
ヴィッカース重機関銃 7.7mm×56R 720/1100 250 50000 760m/s 450〜600 740m
8式小銃 7.7mm×56R 640/1100 10 3700 700m/s   618m
               

 

 

 

 

  

 

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第27話 1934年 『内も外も相克だよ』
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第29話 1936年 『私利私欲の大義』