月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

 

第29話 1936年 『私利私欲の大義』

 ニューヨーク発、不況が世界を駆け巡っていた。

 20世紀初頭、列強各国で産業革命が拡大し、苛烈な利権競争が始まる。

 各国は近代化のため企業と結び、国益を保とうとし、

 企業は、自己資金を増やし、利潤を捻出するため生産を拡大し、

 市場を席巻するため商品単価を切り下げた。

 そのため生産量は増えても労働者に割り振られる賃金比率は変わらず、

 経済戦争に勝ち残るため、労働条件の悪化に目を瞑る。

 貧富の格差は広げられ、

 弱者救済は、政治家の良識、資本家の善意、官僚の公平から得られることはなかった。

 労働者は、自存自衛のため、自ら救済を勝ち取ろうとし、社会運動を高めていた。

 拡大する産業は資本を欲し、

 また貧困層を底上げするため、

 インフレを起こさない程度の紙幣を増刷しなければならなくなっていた。

 金と交換を保障する兌換紙幣では、国内に流通させる最低限の紙幣量を賄えなくなり、

 各国は、兌換紙幣の停止へと向かっていく、

 それは、国際間貿易の兌換を保障する金本位制が崩れた事に他ならなかった。

 そして、資本主義の牙城であるはずのアメリカでさえ、不換金紙幣へと移行してしまう。

 海外取引で信用できる兌換紙幣が消え、

 金本位制が崩れた事で国際間の取引が減少してしまう。

 それは、国内経済にも波及した。

 資源の流通が滞り、

 物資不足は、国内経済に反映され、物価の高騰と失業を招いた。

 皮肉な事に無資源国家の日本は、海外貿易に依存するあまり、

 労働賃金を限界まで下げて海運立国へ移行していた。

 欧米諸国が費用対効果で割に合わない海運業から撤収するなか、

 日本海運は、運賃格差を利用して世界の海上輸送を支配していた。

 日本企業と海援隊は、日英同盟と賃金格差を利用した生産力で海外需要を集め、

 欧米諸国、清国、インドの市場に食い込んでいた。

 日本の国家予算の大半は、再生産可能な設備投資に投資され、

 発電、造船、鉄道、公共施設、道路など、社会基盤は、拡大していた。

 社会基盤を利用し、社会資本を回収する能力が高い者たちが出世し、

 近代化とともに新たな産業を広げ、競争を激化させていく、

 旧態依然な華族・豪商の権威は崩れ、

 実力者は、下剋上の如く伸し上がり、

 能力の高い者は、己が才覚に応じて努力し、欲する地位へと駆け上がろうとしていた。

 為替で低く設定している所得格差は、労働過剰となって現れ、

 貧富の格差は、さらに拡大傾向を示した。

 競争社会が激化することで一人当たりの生産力は多くなり、

 日本全体の生産量が増加するにつれ、単価は小さくなり、

 東ゲルマニア、清国、アメリカ、ロシア帝国、インドへの国外輸出が増えていた。

 高天原 (入笠山)

 中山道沿いの幹線道路は広げられ、

 江戸時代から続く宿場町は、近代化の波に押し流され移り変わっていく、

 線路沿いに政府機関官庁が並び、交通量も増えて行く、

 しかし、もたらされたモノは、目に見えるモノだけではなかった。

 それまで日本の歴史と伝統になかった価値観の多様化も広がっていた。

 それは、良い意味でも、悪い意味でも・・・

 役人たち

 「狭い中山道を行ったり来たりは、不便な気がするな」

 「迷う心配はない」

 「迷わせる方が我々の有難味が増す」

 「迷わせて無知な人間に権威を保つのは、近代化では不利だけどね」

 「近代化はいいことばかりじゃないよ」

 「新しい価値観は、騒動の火種になるからな」

 「押さえ込まれていた人間が新しい価値観で立身出世したいと思うのは自然だね」

 「そういうけど、強者に卑屈になったり、弱者に高飛車になったり」

 「庶民だって大同小異だから、人間もロクなもんじゃないよ」

 「それでも、日本人は、保守的で大人しい方らしいぞ」

 「もう少し、法を強くした方が良くないか」

 「しかし、アメリカのように個人を基準にした人権主義じゃな」

 「子供が親を訴えたり、妻が亭主を訴えたりは面白くないだろう」

 「日本は、家が単位だからね」

 「それは、それでいいと思うな。日本人は、家督主義が性に合ってる」

 「しかし、家が中心で人権で押さえ込まれるところもある」

 「警察や弁護士が家に踏み込んできたら、家長は嫌だろう」

 「まぁ 家長は情けないし、家も尊厳が失われるわな」

 「家族の生殺与奪権は、家長にあるべきじゃないのか」

 「それは、家長にもよる。善悪を問うべきじゃないと思うがな」

 「警察、弁護士、法の偽善で、家長と家を潰して国が巻き上げる手もあるがね」

 「法を強くして、家族がバラバラになるのは、問題だと思うぜ」

 「いや、強制された結束は軋轢が大きくなるだけ泣きもするね」

 「基本的に個人はバラバラの集団で、自由意思の結束がアメリカの考えじゃないか」

 「東ゲルマニアは、どうだっけ?」

 「ドイツは、日本と似てると思ったが?」

 「アメリカは未開地が多いから、均等相続でもありなんだろう」

 「清国もそうだ」

 「清国か、あそこ、また経済成長してるらしいぞ」

 「どちらにせよ。そういう国が近隣にあるなら、日本は少なからず影響を受けるよ」

 「価値観の相違で荒れるな」

 「海外取引が多過ぎた報いかな」

 「だからと言って、いまさら国を閉ざすわけにはいかないだろう・・・」

 小隊が8式小銃を担いで行進していた。

 「最近は、右翼と左翼の動きが激しさを増しているらしい」

 「金と権力に媚びるのが右翼で、大多数の民衆を糾合する方が左翼だな」

 「綺麗事ばかり言いやがって、権力と金が欲しいだけの強硬派だよ」

 「右翼は左翼を必要とし、左翼は右翼を必要とする」

 「いなければ誰彼構わず無理やり左翼にするし、右翼にするからな」

 「どっちもロクなもんじゃないよ」

 

 

 東ゲルマニア (21万0000ku) + 遼東半島(3462+1万2500)

 ドイツ人は3000万を超え、

 ドナウ帝国の入植者も800万を超えていた。

 元々住んでいた朝鮮人は、満州へ追いやられるか、

 アフリカ人が扱われるかのような扱い方をされており、

 それは、未開地の部族、土人に対する扱いだった。

 ドイツの移民需要は、日本経済に特需をもたらせたものの、

 東ゲルマニアで基幹産業が建設され、

 工業化が進むにつれ、国力が増していく、

 東ゲルマニアの軍事力の大半が対日ではなく、

 対清、対露である事が、日本に幸いしていた。

 もっとも、欧州ドイツ本国にとって対英、対露、対仏は、より重要な案件として残され、

 総論と各論の間で摩擦が生じていた。

 総督府ソウルブルグ

 ドイツ風の家屋が建ち並び、

 新しい様式の建築物も建設されていく、

 ヴィルヘルム2世は、欧州ドイツを丸ごと東ゲルマニアに移入させようとした。

 しかし、 産業基盤は増大しつつあり、東アジアの中心を清独日で争奪戦を繰り広げ、

 ドイツ本国との地政学的な違いは、外交上の優先順位を変え

 さらに自由主義者層だけでなく社会主義も強まり、

 ヒットラーを中心とした国家社会主義の台頭を許し、

 ドイツ本国にない独特な風土を作りだしていた。

 街の中にビアガーデンにパラソルが並び、

 その一つに日本人たちが集まっていた。

 注文した順番にビールジョッキが配膳され、ドイツ貴族たちを剥れさせていた。

 「次の選挙は、ヒットラーの国家社会党が伸びるらしい」

 「なんで? 東ゲルマニアは、民主主義者と自由主義者が強かっただろう」

 「票を握っているのは東ゲルマニアのドイツ国民だけど」

 「お金を持っているのはドイツ貴族だからね」

 「貴族は、階級が是正されることを望んでないし」

 「真中でバランスを取ろうとすると、ヒットラー・・・」

 「あそこは嫌だな。全体主義的だし、朝鮮人排斥の急先鋒だ」

 「そういえば、朝鮮人が随分少なくなったな」

 「文字と言葉を教えず、教育もせず、同化政策もしないからな」

 「社会的に浮かび上がれないだろう」

 「文字はあったはずだろう」

 「元々 識字率は低いよ」

 「漢字は両班階級の特権で難しいし、庶民に教えようともしなかった」

 「表音文字があるって聞いたが?」

 「一般的じゃなかったし、女子供の字って、馬鹿にされてたらしいな」

 「もう、朝鮮人を滅ぼす気なんだろうな」

 「日本に合併されたままだったら教育を受けられて、同化政策で日本人として扱われたのに」

 追加のビールが並べられていく、

 「・・・この前に来た時より、自由の風が強まってないか」

 「注文された順に並べられると、ドイツ貴族の居心地が悪そうだな」

 「個人の生産力と技能と価値が工業化で高まってる」

 「社会資本も増えてるし、貴族に媚を売るやつが減ってきた、というところか」

 「貴族という理由で馬鹿が上司になったんじゃ 嫌になるわな」

 「封建社会の既得権を破壊出来なければ近代化は難しい」

 「破壊が中途半端だと、創造と新生が低いレベルで押さえられるからな」

 「しかし、フランス革命のような王制廃止は失敗だと思うが」

 「イギリス名誉革命は、少し中途半端な立憲君主制か」

 「アメリカ独立戦争の自由資本主義は、既得権無しから組み立てられて有利だな」

 「日本は、明治維新で中央集権と立憲君主制でイギリス風だな」

 「ロシア帝国は、ラスプーチンの貴族粛清劇で貴族の勢力は実質半減してる」

 「いずれも封建社会を破壊してからの近代化と産業革命だ」

 「ドイツは、プロシアの統合戦争じゃないのか」

 「しかし、他の国と比べて貴族の既得権は大きいままだ」

 「あまり混乱が大きいと再編と再建に手間取るだろう」

 「だが、破壊が大きいほど再編成の過程で既得権益者が粛清され」

 「資産の再配分が進み、近代化の肥やしになってる」

 「それにドイツ本国より、東ゲルマニアの方が自由主義者が強くなってる」

 「ヒットラーの国家社会主義が強くなっているし」

 「そういえば、ヒットラーは、支持基盤のメッサーシュミットに固執していたし」

 「戦闘機の選定は、最後まで、もつれ込んでたらしい」

 「んん・・・摩擦が大きくなれば、本国と植民地のドイツ同士で衝突するかもしれないな」

 「そういえば南満州鉄道の利権でアメリカ合衆国と東ゲルマニアの関係が深くなってる」

 「アメリカのドイツ系だろう。関心を寄せてるのは・・・」

 「アメリカと東ゲルマニアの共闘か。意外と化けるかもしれないな」

 「東ゲルマニアで民主革命?」

 「いいねぇ 日本も少しは影響を受ければ良いんだ」

 「日本は、長いものに巻かれて卑屈過ぎるし、根回し事勿れで乗りが悪いからな」

 「もう少し民権が強くなって欲しいものだ」

 「でもな、ヒットラーは、どうも気に入らないな」

 「それは言える」

 しかし、ドイツ皇帝と貴族の関係は強いから、民主化は難しい」

 「民主化が難しいなら、国民全体でドイツ皇帝を支える国民主権にすり替えだろうな」

 「ドイツ皇帝も特権階級の貴族に支えられるより、国民全体に支えられる方が安定する」

 「日本の明治維新だって、そんな感じだろう」

 「政策的な妥協が悪いとは言えないさ」

 「フランス革命後のゴタゴタを見ると、ああいうのはノーサンキューだからね」

 「そういえば、ロシアで共産主義革命が起こりそうな状況は作られていたけど?」

 「ロシア帝国の共産主義勢力は、貴族粛清と道連れに潰えたと思うな」

 「ラスプーチン伯のせいで?」

 「まぁ そう思う」

 「ああいう保身抜きのノーガードで来られると共産勢力は、沈静化しやすいのか」

 「北風と太陽ってやつじゃないの」

 「しかし、どうだろう。逆に世界に拡散した共産主義が希望視されている風でもある」

 「どのくらいの貧困を我慢できなるか、じゃないのか?」

 「いや、貧富の格差の方だろう」

 「貧富の格差が広がらないとダイナミックな投機ができなくなり近代化で失速する」

 「国と国で負けると、資本が流出することになるし、損失が大きいからね」

 「そういえば、極東ロシアの工場が増えてたんで驚いたよ」

 「北満州の油田を見つけたのだろう。あれは大きいな」

 「山師なだけはある」

 「いや、ユダヤ人が力を付けると流通と金融が発展するんだな」

 「ユダヤ人は商人として優れていても、それだけでは産業で足りない」

 「ロシア人は、工員やセールスマンとしてどうかな」

 「権威主義は強いと思ったな」

 「それとコサックの発生も清国の馬賊の由来とそう変わらない」

 「そういえば清国の近代化が一番怖いな」

 「しかし、あの清国の民主主義は反則だろう」

 「アメリカが資本主義の独裁なら。清国は民主主義の独裁だな」

 「選挙で2分の1の確率で庶民が小金持ちになれるのなら悪くない」

 「列強の中では、高確率じゃないか」

 「一般庶民は嬉しいと思うぞ」

 「2分の1が極貧奴隷じゃな」

 「8割以上がジリ貧貧乏よりマシ」

 「結局のところ、政府は税金で金を取り上げ、公共事業という名で、誰かに金を渡す」

 「清国は、勝った候補者が負けた選挙民から金を取り上げ、買った選挙民に金を渡し」

 「社会資本を集約させ、近代化させていく」

 「ディーラーの政府筋が確実に懐に入れているのは、同じだけどな」

 「効率は、ともかく、形の上では、資産を再分配しているわけだ」

 「いや、なんか、納得したくない」

 「というより、真似したくない」

 「だが現に清国は、近代化している」

 「そこが問題だな」

 「この状況が続けば、日本は、近代化で清国に負ける」

 「東ゲルマニアもな」

 「ロシアも負けるんじゃないか」

 「清国が強大になれば、東ゲルマニアとロシア帝国の脅威は相殺される」

 「組まれると脅威が加重されるな」

 「ロシアも東ゲルマニアも、陸地を接しているのなら清国が利する様な事はしないはず」

 「ドイツ本国は欧州だよ。東ゲルマニアの地政学が適応されるとは限らないよ」

 「それでも、うまくバランスを保つことぐらいできるだろう」

 「それならいいが、人口比で言うなら清国は、数千万人がお金持ちの国だ」

 「お金持ちに靡かない奴がはたして、どれくらいいるものなのかな」

 「「「「・・・・」」」」

 「それはいえる」

 

 

 19世紀以降、国民の意識下で国家の認識が変質していた。

 国家が王制のため存在していた封建社会は近代化で崩れ、

 国家が有力貴族の連合ため存在していた共和制へと移行する。

 しかし、台頭する軍と資本家は共和制に干渉し、

 工業化に伴い一人当たりの生産力は高まり、

 民衆の力を糾合することで権力基盤を得る者が現れ、

 民主化の波は抗いようもないほどが強まっていく、

 利権基盤の継承を背景とした資本主義が生まれ、

 それと同時に国民の大多数を占める農民と市民は民主主義の声を強めていた。

 遂には、選挙結果で多数が少数を搾取する投機性の強い民主制が清国で発生していた。

 20世紀、国家は、誰のモノなのか、

 そういった根本的なイデオロギーで世界は揺らぎ、

 まだ、生まれていない共産主義は、貧困層に未知の希望を与え、

 隠然たる広がりをみせていた。

 

 

 欧州大陸

 近代化で遅れた社会が残っていた。

 公私混同と私利私欲で私腹を肥やす者が横行し、

 人が己が利益のみを追い、他者の利益を踏み躙る、

 不信とエゴが人と人の絆を破壊し、憎しみと妬みが社会を崩壊させる。

 列強諸国ならば、官僚・企業組織を構築できる人間を得られるものの、

 後進国では、ザルで水をすくうように公費が消えていく、

 そして、人間社会を構築するため必要な信頼関係が弱く、

 工業社会を構築し難い、中間的な国々も存在する。

 領地支配を基盤にした封建的な社会であり、

 実力と能力を取捨選択し選抜できる資本主義でもなく、

 民間活力を最大限に活用できる民主主義でもなく、

 領地領民丸抱えで、忠誠心と恭順を優先して評価される封建的な世界だった。

 列強の多くは、産業革命と商品経済の発達と土地の囲い込みを強行し、

 資本、労働、土地の集約させ、貧富の格差を広げ、

 間接的な経済支配へと移行していた。

 忠誠心と恭順は、成果主義的に評価されるようになり、

 上意下達な世界は、艦船や軍隊など限られたカテゴリーに押しやられていた。

 しかし、領地領民支配の既得権益を守り、近代化に抵抗する勢力も存在した。

 無論、地主、大家稼業は、リスクが低く、安定収入を目指すなら悪くないといえた。

 ただ、そこそこの資源が国土にあり、

 国家規模で既得権益権が残されており、

 産業革命で現れるであろう資本家を恐れ、出現を妨害した場合・・・

 スペイン

 総選挙で共和主義左派のマヌエル・アサーニャを首班とする人民戦線政府が成立。

 スペインに左翼政権が誕生する。

 権力者、資本家、地主、大家は、左翼政権出現で既得権を奪われかねない状況に至り、

 己が権力基盤と財産を守るため立ち上がる、

 欧米諸国は、権力基盤を揺るがしかねない共産主義の台頭を恐れていた。

 マドリッド 某ホテル

 日本人たちが新聞を見つめていた。

 「今度は、人民政府側が保守派の要人を暗殺だと」

 「政府は、一応、テロを非難してるよ」

 「いやだね〜 強硬派はバカ過ぎて敵ばかり作りやがる」

 「強硬派は、右にも左にもいるからね」

 「右派も左派も、強硬派を押さえられないようじゃ どうにもならないだろう」

 「右派は、国防大臣の椅子を蹴ったのか?」

 「蹴るだろう。合意に達したら強硬派に八つ裂きにされるよ」

 「こりゃ 収まらんな。骨肉の階級闘争から、いよいよ、内戦か」

 「右派は誰が仕切るんだろう」

 「フランコ将軍じゃないか」

 「左派も民兵組織を編成してる」

 「やれやれ、頭の悪い強硬派を抱え込むと、亡国だな」

 「自業自得だろう」

 「日本は、どうするかな」

 「産業は、踏み台なるなら需要に沿えるらしい」

 「相変わらず、無節操な連中だな」

 「軍部は、どっちでもいいから戦訓を欲しがってるよ」

 「戦訓って言われてもな。8式小銃の評判はいま一つだからな」

 「7.7mmは、大き過ぎると?」

 「騎兵隊は減少傾向にあるし」

 「装甲車は確かに増えているが、対装甲車用ならもっと大口径を別に開発した方が良い」

 「それは良いとしても、分隊配備できるだけの金はないだろう」

 「まぁ どこの国も不況だからな」

 「日本だって薄利多売で回しているだけに過ぎない」

 「一歩間違えば赤字転落だよ」

 「それに社会運動は、日本にも波及している」

 「確かに労働条件は、列強中最下位だからな」

 「清国より上のはずだが」

 「清国は入れない方が良い。あそこは、別の世界の国だよ」

 「追い抜かれるんじゃないか」

 「ん・・・可能性は高い」

 「・・・ん? マドリッドの繊維工場でストライキだとよ」

 「左翼政権でストライキも勢いが付いたわけか、産業は潰されるかもな」

 「相続税が上がるんじゃないか、あと農地解放・・・」

 「神父、地主、大家たちは戦々恐々だ。どうするんだろうな」

 「ふっ♪ 荒れそうだな」

 「総選挙で決まったことだ。いまさらゴタゴタ起こしてどうする」

 「多数決が国家国民のためにならないこともあるよ」

 「国民にとって良くても国は弱体化する」

 「日本も、そう言えなくもないがね。大多数は国権強化より民権強化を望みやすい」

 「お陰で予算不足で、イギリスの払い下げ軍艦ばかりだからな」

 「しかし、経済状態は悪くないだろう。就業率は高いし、そこそこ生活できてる」

 「そこそこか・・・」

 「生活水準も労働環境も決していいとは言えない。白人なら市民革命ものだがな」

 「スペインは、それなりに資源があるんだから、もう少し近代化してもおかしくなさそうだがな」

 「封建制度が強過ぎるし、既得権益も大き過ぎる」

 「あと、カタルーニャとバスクの分離独立も絡んでるな」

 「他の国は?」

 「ハゲタカか、ジャッカルだな。どの国もスペインに借用書を書かせて武器弾薬を売り出してる」

 「不良債権にならないか?」

 「勝率2分の1で、利益の上乗せ分5割。さらに戦後の取引も含んだひも付き支援」

 「馬券を買うより確率が良いのに、止めろっていうのが無理な相談だろう」

 「他国と結託するほど、同族嫌悪とは、恥っ晒しだな」

 「利害が直結して、僻みやっかみの対象を毎日見ないといけない身内ほどむかつくモノはないさ」

 「そこまで揉める前に収めないとな」

 「妥協できず、支配もできず、治められなかったのだろう・・・」

 !?

 銃撃戦がスペイン内戦の始まりを告げる。

 

 

 

 帝政ドイツのオリンピックスタジアムは、ロココ調で装飾されていた。

 自由主義者が人権が緩やかな植民地へ移民していくと、

 本国は、恭順しやすい人材によって体制が作られていく、

 「格調高い建物は、入り難いな」

 「ゴシック様式ほどじゃないよ」

 「ドイツは、不況で低迷していると思ったが・・・」

 「移民経済で資産の再分配が上手くいってるんじゃないのか」

 「それにドイツ製機械は、精度と耐久性が桁違いだからな。あと飛行船も強い」

 「ドイツ本国は、人口減で国情は、苦しいと思ったがね」

 「世相が苦しいのは、貴族が強くなって、馬鹿が出世するようになったからだろうな」

 「元々 ドイツ人の気質は、職人風だけど、軍隊風でもあるからな」

 「貴族も軍も、実力や能力より、忠誠心と従順が評価の対象になる」

 「自分で考えるより、上の評価で行動するようになったら想像力が奪われ社会は停滞する」

 「まぁ ドイツ帝国は、共産主義勢力を追い立てたばかりだ。反動だろうな」

 「共産主義者と自由主義者まで追いたてたら、確信犯だろう。保身だよ」

 「自由資本主義と民主主義は支配より、搾取を望むし」

 「取捨選択も自由だから、実力と能力重視になりやすい」

 「ドイツ本国は、そうでも外地は隆盛を極めようとしている」

 「ドイツ本国より貴族が弱いからね」

 「それでも日本の華族より強い気がするね」

 「日本だって苦しいよ」

 「しかし、日本も、まともな海軍すらないというのにインド投資は常軌を逸してるよ」

 「インドの日本人街は、発電を起こしているし資源地でもある要衝だし、城塞だよ」

 「それに在インド日本人人口も増えてるし、イギリス貴族の溜まり場にもなってる」

 「日本の資産を根こそぎ取られたりしないだろうな」

 「インドの独立運動を牽制して押さえているのは日本だし」

 「イギリスは、インド抜きじゃ大国でいられない」

 「カナダと豪州は、文句ばかり言ってる親類みたいなものだ」

 「イギリスと利害が一致して共闘してるのは、日本とインドだけだよ」

 「イギリスも保身に走っているようじゃ 落ち目だな」

 「イギリスは、インド産業を足して、アメリカ、ドイツ、ロシアと並ぶからね」

 「日本だって、対清を考えるならインド依存は選択の余地がない」

 「そういえば清国も近代化しつつあったな」

 「清国の近代化が一番怖いよ」

 

 

 

 

 英印日防衛協定調印

 インド大陸は、第17代副王ウィリンダン総督の時代から、

 総督第18代副王ヴィクター・ホープ総督の時代へ向かう。

 それは、インド民族運動弾圧が終焉を迎え、

 英印日の協調へと向かう幕開けともなった。

 それは搾取経済からの脱却であり、

 日英資本がインドの基幹産業を支配したから起きた表面的な妥協に過ぎなかった。

 そう生産力と流通は日英資本が握り、

 生産物だけがインド人へと流されていた。

 生産すれば生産するほど、消費すれば消費するほど、

 その収益が日英資本へと転がり込んでいく、

 そういった経済構造が作られていた。

 日本人街で起こした発電は、インドに産業革命を起こそうとしていた。

 人権無視で無理の効く労力は、利潤を上げ、生産力に転嫁された。

 増築の進む工場から出荷される工業製品は、急速に増え、

 国外だけでなく、国内市場にも流れだし、

 植民地と思えないほどの社会基盤が作られ、

 商品が店頭に溢れだしていた。

 日本人たちがイギリス領側を歩いていた。

 「なんか、いつでも独立できそうな雰囲気だな」

 「商品が流れ込んでいるだけだろう」

 「インドの社会基盤は、ルピー建てじゃなく、ポンドと円建てだからね」

 「社会基盤が膨れ上がるほど、基幹産業の回収は困難になるはずだよ」

 「インド産業と独立の最大の障害は言語の不統一だな」

 「あと、ヒンドゥーとムスリムの宗教対立もだ」

 「まぁ イギリスを巻き込んだ世界大戦でも起きなければ、大丈夫だろう」

 「あははは・・・」

 「いくら不況だからって、近代国家同士が簡単に戦争なんかするもんか」

 「しかし、ムカつくのはイギリスだな」

 「日本をインドの大きな藩王並みに考えている節がる」

 「やっぱり海軍で退いたからだろう」

 「予算がなかった。それだけじゃないのか」

 「予算はあったさ、利権抗争で軍部が負けたんだよ」

 「半島で退いたからな」

 「ドイツが戦艦をロシアと清国に売却したからだろう」

 「まぁ 制海権が維持できないのならしょうがないとは言えるがね」

 「最悪なのが細かく分け過ぎたカーストだな」

 「膠着した社会だと、まともな軍編成もできない」

 「もし、日本のムラ社会だったら村長ごと長連中を焼き払いたくなるほどだけどな」

 「何千年も続いてきたんだろう」

 「・・・まぁな」

 

ヒマラヤ山脈 東西 インダス川 平城京  
ガンジス川 ヤムナ川 平安京  
ゴマティ川 飛鳥京  
ヴィンディヤ山脈 東西 ヤムナー川 因幡京  
    ナルマダ川 青龍京  
サトプラ山脈 東西 タープティー川 白虎京  
東ガーツ山脈 南北 ゴーダヴァーリー川 玄武京  
西ガーツ山脈 南北 マハナディ川 朱雀京 黄龍京
クリシュナ川 鳳凰京 瑞亀京
カヴェリ川 麒麟京  

 玄武京

 南インド、ベンガル湾側のガーツ山脈を源にするゴーダヴァーリー川上流、

 そこに建設機械が投入され、人海戦術で発電ダムが建設されていた。

 送電線が伸びるに従って基幹産業が拡充され、収入は増え、

 鉄道によって日本人街12市が連結されると各都市の財政は潤い始めた。

 日本語を覚えるインド人も急速に増え、日印交易は急速に膨れ上がっていく、

 都市防衛する守備隊もマチルダI歩兵戦車が配備されるようになっていた。

 重量11.2t 全長4.85m×全幅2.29m×全高1.87m

 70馬力 速度12.9km/h 行動距離129km

 主砲 7.7mmヴィッカーズ重機関銃×1(銃弾4000発)

     or 12.7mmヴィッカーズ重機関銃×1

 装甲65mm 乗員 2 名

 玄武京守備隊たち

 「なんとも、こじんまりとした戦車だな」

 「対人用重装甲車として見るなら悪くないさ」

 「機動力を生かして歩兵陣地を蹂躙できる攻めの戦車が欲しいけどな」

 「インドの日本守備隊に巡航戦車は必要ないとさ」

 「ちっ 警戒してやがる」

 「イギリスは、日印で組まれるのも嫌なんだろうな」

 「絶妙なバランスってやつか」

 「しかし、日本とイギリスが大国との戦争に巻き込まれたらインドの産業で巻き返すしかない」

 「それだけの産業基盤はまだないだろう」

 「そうはいってもイギリスの植民地防衛は、移民させたインド人守備隊で成り立ってる」

 「英印日同盟でなければ、アメリカ、ドイツ、ロシア、清国の一国にも適し得なくなるよ」

 「それなら、もっとインド産業を大きくしないとな」

 

 

 脅威が自国に直接影響し難い国家群は、他国の軍事的支援に躊躇しない。

 そして、対価次第で、軍事バランスを崩しかねない情勢も起こりえた。

 清国では、旧式化したドイツ帝国と旧オーストリア・ハンガリー帝国の艦船の退役に伴い、

 新型艦艇の購入と建造が検討され、

 紆余曲折を経て、フランスとイタリアから旧式戦艦を購入していた。

 上海

 イタリア製28800t級コンテ・ディ・カブール型戦艦

  江蘇(コンテ・ディ・カブール)、安徽(ジュリオ・チェザーレ)、河北(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

 

 フランス製25200t級ノルマンディー型戦艦

  山西(ノルマンディー)、山東(フランドル)、

  広東(ガスコーニュ)、広西(ラングドック)、江西(ベアルン)

 清国艦隊は、戦艦8隻を購入し就役させ、北洋艦隊を再建させてしまう。

 

 そして、さらに仏伊兵器が陸揚げされていた。

 フランス製戦闘機 ニューポール28型、スパッドXIII

 イタリア製戦闘機 フィアット CR.32

 

 イタリア製 M11/39戦車、L3軽戦車

 フランス製 ルノー FT17軽戦車、

 貨物船から兵器と武器弾薬が降ろされ、

 遠くから日本人、イギリス人、ドイツ人、ロシア人が溜め息交じりに見つめていた。

 「あいつら金と資源が入ると遠慮せずだな」

 「清仏伊同盟か、なに考えてるんだか・・・」

 「イタリアはエチオピア内戦で日本人の率いる連隊に怒ったんじゃないか」

 「・・・・」

 「フランスは金欲しさと、癪に障るイギリスへの嫌がらせだな」

 「大枠で言うなら、対英印日、対露、対独、対米の同盟だろう」

 「潜在能力の高さは認めるけど、即効性はないな」

 「しかし、科学技術力のある国が資源のある国と結託するのは悪くない考えだよ」

 「フランスとイタリアは、ともかく、清国の潜在能力は世界一だよ」

 「国力が増強されると軍事バランスが狂う」

 「バカたれが、清国にインドシナを占領されちまえばいいんだ」

 「アメリカは、どうするって?」

 「南満州鉄道があるから、少しばかり躊躇してるよ」

 「いやだねぇ 清国も、ちょっと国がまとまると軍事力を増強させて外征を企もうとするから」

 「一人当たりの生産力がいくら低くても、人口が多ければ相当な軍事力になるからな」

 「総乞食だろう」

 「まさか、清国を普通の国と同じと思ったら駄目だよ」

 「8割の下層階級が使い捨ての奴隷」

 「中層階級から列強でいう一般人で、列強の総人口に匹敵する」

 「それでいて、立憲君主制で民主化しているし」

 「選挙のたびに資産を再分配して軋轢を解消している」

 「上層階級は、左団扇の資本家だから、列強の資本家より、お金持ちだよ」

 「まぁ それが、我々が戦々恐々と様子を監視してる理由だろうな」

 「清国内の軋轢で内紛とかないのかね」

 「内ゲバ染みた権力闘争はあるが、内戦には足りなさそうだな」

 「ほら、アレだよ」

 「近代化で貧富の格差を広げてるから、貧困層の不満を外征で誤魔化そうとしてんじゃない」

 「ちっ 国内問題は自業自得だろう。外征で誤魔化すなよ。迷惑な」

 「だから周辺諸国は、清国が冒険できない程度の軍備を整えろってことだろう」

 「「「そんな金ねぇ」」」

 

 

 エチオピア

 イタリア軍によって、首都アジスアベバは占領されていた。

 だぁ〜ん!

 高原に銃声音が響きわたるとイタリア人の士官が大地に崩れ落ち、

 周りの兵士たちは、慌てふためいて散開し、物陰に飛び込む、

 広瀬中佐率いるエチオピア独立連隊は、抗戦を継続し、

 エチオピア人も武器を手にするとゲリラ戦でイタリア軍の占領軍を悩ませていた。

 当初、血迷った日本人士官と、

 彼に付き従うエチオピア人の無法集団と思われた抗戦は、泥沼の様相を見せ、

 イタリア軍の士気を挫かせていた。

 岩陰にエチオピア連隊が潜み、広瀬中佐が双眼鏡で見下ろしていた。

 「中佐。やはり、密告されたようです」

 「ふっ 期待通りだな」

 イタリア人は、エチオピア人に賄賂を渡して、イタリア連隊の位置を聞き出そうとし、

 エチオピア人も賄賂を貰えば、知っていることを残らず話した。

 そして、海援隊上がりの広瀬中佐は、密告されることを承知で常に嘘情報を流し、

 別の場所、それも地の利の得られる場所に潜んだ。

 月下の山道をイタリア軍が縦列に進んでいた。

 「撃て!」

 号令とともに8式小銃数千丁が隊列に撃ちかけ、

 誘い出されたイタリア追討部隊は、夜襲と奇襲で降伏してしまう。

 広瀬中佐率いる連隊は、イタリア軍の補給物資を散々に奪い続け、

 奪った装備でエチオピア人を雇い、イタリア軍への襲撃を続けた。

 そして、戦果を上げるほど、列強の関心は高まり、

 戦訓を得たいだけでなく、

 エチオピア解放後の利権も含んだ支援がなされようとしていた。

 「中佐。上手く行きましたね」

 「はぁ〜 エチオピア人を見たら泥棒と思え、イタリア人を見たら強盗と思え」

 「どっちも、どっちなんだがな」

 「助けて、解放してもいいことなさそうですがね」

 「まぁな・・・」

 広瀬中佐は、エチオピア人に失望しており、少しばかり後悔していた。

 そう、エチオピア人の良心と価値は、疑われており、

 利他的な目的では、やってられない。

 解放後は、それなりの地位と財産を求めなければ、釣り合わない状況も生まれる。

 無論、それは彼だけの思いではなく、

 エチオピアに残存し、解放軍に参戦した海援隊のほとんどが同じ気持ちだった。

 

 

 

 

 南アメリカ大陸

 アミーゴ社会であり、アミーゴでない者は、搾取の対象でしかなかった。

 工業社会は、人と人を機能的に組み合わせることで成り立つ成り立たち、

 富裕州であるコーヒーを生産するサンパウロ州の農園主と、

 畜産・酪農州ミナスジェライス州の農園主たちは連合し、

 交互に連邦の大統領を出すカフェ・コン・レイテ体制(1894年〜)が作られていた。

 この体制は、二州のブラジル支配を強め、他州の反発を招き、

 たび重なるクーデターを引き起こしていた。

 1930年、ミナス・ジェライス州は、限界を知るとカフェ・コン・レイテ体制の離脱を決め、

 リオ・グランデ・ド・スール州とパライバ州と連合し、自由同盟を結成する、

 三州は武装蜂起を辞さず、他州も機を見て自由同盟に賛同する。

 リオ・グランデ・ド・スール州のジェトゥリオ・ドルネレス・ヴァルガスは、軍の支援を得ると、

 1930年革命を起こした。

 ヴァルガスは、独裁的な権力を会得すると外国勢力を排斥し、

 ブラジルの国粋主義を高めようとした。

 1932年、サン・パウロ州で反ヴァルガス勢力が立ち上がり、

 護憲革命を起こした反乱は鎮圧され、

 ヴァルガスは、ブラジル全土の支配を確立する。

 この時期、ブラジル北東部の日本資本は、発電と鉱物資源の採掘で力を付け、

 日本資本の街は、サンパウロ州、ミナスジェライス州に次ぐ資金力があった。

 とはいえ、日本人のブラジル開発は、ブラジル北東部に集中し、

 緑の大海原によって、政治と経済の中枢から切り離されていた。

 また、日本人の海外入植は、インド大陸の12自治都市が主流であり、

 ブラジル開発移民は、コンゴ開発移民、ドナウ帝国開発、イギリス植民地開発と同程度でしかなく、

 資本力は、大きくても入植人口が小さかった。

 実力不足に合わせ、生来の保守的な気質が邪魔をしたのか、

 千載一遇の機会にも関わらず政治的野心を持てず、

 日系自警隊も成り行きに任せたままだった。

 もっともブラジルの発電と鉱物資源を核にした日系利権に興味を示した外国勢力も存在した。

 イギリス人は、インド人を入植させ、

 日印勢力圏という形でブラジル北東部に地歩を固めようとしていた。

 酒場

 「ったく、あったまにくる連中だよ」

 「こんなことならクーデター側に付けば良かった」

 「やれやれ、一緒にいるより、殺し合った方がマシという関係だな」

 「それ、日本人とブラジル人? それとも日本人とインド人?」

 「両方・・・」

 「ふっ ブラジル人とインド人も、そうだろうけどな」

 「人間関係なんて、そんなもんだよ」

 「利害が一致したとき結束し、利害が分かれたとき殺し合う」

 「自分の手を汚すことなどないだろう」

 「みんなが、そう思ってくれるのなら、勢力均衡が成り立って平穏だがね」

 「見せ掛けの平和だろう。飲む打つ買うでストレスを発散しないとやってられないな」

 「日本人街は金持ちで、シード入りしてるはずだよ」

 「だと良いがね。ヴァルガス大統領は、国粋主義で日本文化を滅ぼそうとしてるぞ」

 「それはちょっと困るがな」

 「ブラジルは、文化融合型だよ。日本文化も混入しやすい」

 「混血が過ぎて、分けわからなくなるね」

 「どこの国でもそうらしいけどな」

 「もっと日系人の移民が増えれば主導権が執れるんだがな」

 「インドが主流だから無理だろう」

 「はぁ〜」

 

 

 チャコ戦争 (1932年〜)

 欧米列強は、戦訓と戦後の利権を得るため、

 お古の兵器・武器弾薬と軍需品を輸出していた。

 対価は、国債であり、国益すらも抵当に入れられる、

 ボリビアとパラグアイの国民は、国家が発行した手形の支払いをしなければならず。

 外国資本に吸い上げられた金は国外へと流れ、回収されることはなかった。

 灼熱の大地に砲声が轟き、銃声が響き、爆音が広がる。

 パラグアイ軍は、緒戦の苦境から立ち直り、失地を奪い返すとボリビア領へと流れ込んでいた。

 パラグアイ 首都アスンシオンに外資ホテルが建ち並ぶ。

 外国資本勢力の足場に外国人たちが集まっていた。

 プール & ラウンジ

 アルコールの混ざったフルーツジュースが悪巧みをしている人々の間を縫い、配られていく、

 「もっと両国に借金を押し付けないと航空機産業の踏み台にできないな」

 「パラグアイとボリビアは厭戦気運が高まりつつあるよ」

 「勝った時に得られる利権を宣伝して戦意を煽らないと・・」

 「しかし、そうそう、借金を押し付けられたりしないだろう」

 「それでも相当儲かったけどね」

 「本国に資本を置くと税で取られるけど、外国だと税を取られずに済むから助かるよ」

 「まったく、国ってやつは、アホな国民を丸抱えで福祉をやりたがるから困る」

 「民主主義が強いと国民をすぐ甘やかすし、そうなるんだよね」

 「甘やかされた国民は、権利ばかり主張するし、始末に負えないよ」

 「問題は、後進国の政体が信用できないことかな」

 「利害が一致している間は大丈夫だし、同族が多いと資本は守りやすいんだけどね」

 「ブラジルは、国粋主義が強くなってるからヤバい気がするな」

 「元々 新大陸は、移民ばかりで人間関係が孤立している」

 「民族主義と国粋主義は、起こり難い国情だけどね」

 「ヴァルガスのやつ〜 ムカつく」

 「その点、パラグアイとボリビアは多国籍企業に余裕がある」

 「余裕はあるけど、市場がいま一つだな。収入が少ない」

 「どうせ余りモノで得た権益だからね。もっと戦争すれば良いんだ」

 「もっと大きな戦争をしないかな」

 「日本は、期待してたんだけどな」

 「あの国は、国民を馬車馬みたいに働かせられそうだけどね」

 「しかし、日本は、軍事的独立から退いて、イギリスと結託してる」

 「イギリスは最新兵器で国軍を固め」

 「インド支配を継続するなら、日本と同盟を継続するしかないからな」

 「イギリスは、パラグアイにもインド人を入植させるの?」

 「まぁ 権益があるなら、そこを守るためインド人を入植させるのは悪くないよ」

 「印橋が強くなるな」

 「華僑と違って、印橋は言語が違うから結束力ないよ」

 「それは、まぁ そうだけどね」

 「まだ和橋の方が言語と民族的な結束で強いかも」

 「そういえばイギリスは、植民地に日本資本を入れてるじゃないか」

 「その方が日英で共同防衛しやすいだろう」

 「よほど、日本をドイツに取られたくないんだな」

 「日独で手を組まれたら、イギリス帝国は、半壊するからね」

 「しかし、パラグアイとボリビアの日本資本は少ないようだが?」

 「南アメリカの日本資本は、ブラジルに集中してるみたいだな」

 「リスクを分けた方が安全だと思うんだがな」

 「地球の裏側だから不安なんだろう」

 「不安だから分けるんだよ」

 「日本の貧富の格差はまだ小さいからね。分けられるだけの資本はないよ」

 「まだ近代化しきれてないわけか」

 「というより白人に対する不信感かな」

 「ふん! 近い人種か・・・同属嫌悪ってやつが分からないのかね」

 「英独関係も、日清関係と、それほど変わらない」

 「「むしろ近いほど腹が立つ」」

 

 

 

 

 20世紀初頭、列強の産業が増大するに従い、

 工業力は増し、輸送力は増え、作戦能力の向上は、軍事力の展開力に比例した。

 近代化に伴い、外交戦略と同盟戦略の敗北は、悪夢となり、

 列強にとって、勢力均衡は、国家戦略の基本となる指標であり、

 外交戦略の重要性は高まり、軍事力以上に神経を研ぎ澄まされていく、

 ロシア帝国

 ドイツ本国と東ゲルマニア間の移動と物流は、ロシア帝国のシベリア鉄道産業を拡充させる。

 シベリア鉄道の複々線化は進み、ロシア産業は、欧州からシベリア側へと発達していく、

 同時にドイツ本国と東ゲルマニアに挟撃されると、潜在的な脅威は東側にも広がり、

 ドイツと清国の共闘は、ロシア帝国の悪夢とった。

 イルクーツーク駅は、地上階が駅構内と施設で、二階以上が大聖堂と宮殿を兼ねていた。

 これは、外国人、特にドイツ人に見せつけるためであり、

 シベリア鉄道が近代化ロシア帝国の象徴であると同時に、

 皇帝とロシア正教を基盤にした権力の象徴でもあった。

 グリゴリー・ラスプーチン伯爵(65)は、建設された駅を見上げる。

 老いていることを自覚しているのか、

 シベリアに開発を進めることに予算を割いても、

 細々とした開発は、後人に任せており、

 六十60才にして耳順(したが)う地位と心境に至る。

 早い話しが細かいことに口を出すな、といえた。

 「・・・機関車が行き来しているが安全性は、確保されているのかね」

 「象徴として存在しているだけですし、皇帝が来られた時は、総浚いで警護します」

 「あと、別に離宮を建設しているので問題はないかと」

 「開発は、これで精一杯なのか?」

 「農奴の開放が進んでますし。帝国では、これが限度でしょう」

 「あまりやり過ぎると、革命が起こりかねないか・・・」

 「はい、欧州から離れるにつれ、自主独立勢力も顕在化しているようです」

 「まぁ だから皇族と正教の施設を駅に併設させたのだが・・・」

 「アメリカ合衆国では、合理的な建築物を並べているようです」

 「アメリカは、資本主義帝国だ」

 「凝った造りの建築物は費用対効果で不利だからな」

 「しかし、それは、長所でもあり、弱点でもある」

 「古い形式の建築物は、ロシア民族の高揚と一体感で効果がある」

 ラスプーチン伯爵は、ふらふらと歩く、ロシア人労働者を見て剥れる。

 そして、そういったロシア人の労働姿勢は、通過するドイツ人の目にも映っていた。

 平均的なロシア人を人数で掛けた数値が生産力に反映される。

 ロシア人は、権威主義で労働を避けたがり、酒に溺れやすく、

 近代化に必要な気質に欠けており、ロシアの先行きは不安だった。

 そう、シベリア開発の多くは、ユダヤ人商人に負うところが大きかった。

 駅周辺にネオ・ロシア様式、ロシア・モダン様式と呼ばれる建築物が建ち並びつつあった。

 シベリア鉄道の中継地点に過ぎなかった他の地域も近代化の兆しが現れ、

 駅を中心に地平線に向かって都市が伸びて行こうとしていた。

 人口は、徐々に増え、ロシア人の服装も垢抜けしたモノに変わっていく、

 そう、シベリア内陸にも白人世界の歴史が綴られ、

 寒冷文明と呼べるような兆候が姿を現していく、

 澄み渡る青空と白く棚引く積雲の下、

 ロシア・モダン様式の駅ビルを中心にココーシュニク(半円ドムの屋根)を持つ建物が並び、

 街が形成されていく、

 

 ドーム状の屋根に覆われたホームに機関車が止まると、

 ホテルに寝泊まりする乗客が降りていく、

 乗客は、ロシア人だけでなく、ドイツ人も多かった。

 「今夜は狭いベットじゃなく、広いベットでゆっくり寝られそうだな」

 「複々線化が進んで、駅周辺の産業も広がってるのか・・・工場も作られてる」

 「シベリア鉄道の貨車を増やし、産業を助けているのがドイツなのが皮肉だ」

 「ドイツ帝国は、海路ばかりに頼っていられんよ」

 「シベリア開発は、南部域の穀倉地帯から食料が滞りなく供給されるなら軌道に乗るだろう」

 「しかし、ロシアは、農奴解放で労働力が低下しているはず」

 「だがシベリアの内陸にまで産業革命が届くとはな」

 「清国も怖いが、ロシア帝国も怖いか・・・」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 産業の主流は海外貿易と民需産業なので、

 軍部は、民衆から支持されておらず、2.26事件は不発。起きませんでした。

 

 不況下の国際情勢、

 ボリビアとパラグアイのチャコ戦争、イタリアのエチオピア侵攻、スペイン内戦が焦点です。

 あと、高まりつつあるセルビアの軍事力でしょうか。

 アメリカ合衆国は、第一次世界大戦の利権がなく、列強からの移民は減少、

 ドイツ系アメリカ人は、アイディンティティを保持したまま、

 真面目な労働者が不足して、モラルが伸び悩み、工業も少しばかり落ちます。

 またロシア革命もないのでロシア系ユダヤ人のアメリカ移民も僅かです。

 

 そして、ロシア帝国は、貴族の半粛清に成功し、既得権の一部を破壊、

 資産を再分配しユダヤ商人が強くなり、資本主義が進みます。

 

 

1930年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5200  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3000 800
遼東半島     3462+1万2500 10 300  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 800 600
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 300  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   10200 1400

 

 

 

  口径 銃身/全長 装弾数 重量g 初速 発射速度 射程距離
エンフィールド 7.7mm×56R 640/1130 10 3900 744m/s   918m
ヴィッカース重機関銃 7.7mm×56R 720/1100 250 50000 760m/s 450〜600 740m
8式小銃 7.7mm×56R 640/1100 10 3700 700m/s   618m
               

 

 

 

 

  

 

HONなび 投票    NEWVEL 投票

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ 

第28話 1935年 『物狂ほしけれ』
第29話 1936年 『私利私欲の大義』
第30話 1937年 『果報は寝て待て』