月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

 

第30話 1937年 『果報は寝て待て』

 獲たモノ、生産したモノを均等に頭数で分ける、

 これを祖にするなら共産主義は古く新しい概念といえた。

 そして、強いモノが強さに応じ、獲たモノ、生産したモノを多く取っていく、

 これも古くからある資産の分配方式であり、古くから存在した。

 生態系に当てはめるなら前者は共存共生。後者は弱肉強食だった。

 前者は、集団社会を維持し構築するため分配が行われなければならず、

 後者は、集団社会の統一と意志を構築するため不可欠だった。

 そして、前者と後者の間で妥協が生まれ、規則が生じた時、

 人類史に文明が築かれ、国家の統一と枠組みが作られた。

 闘争と共栄の歴史は、階級と職種と社会基盤を膨らませながら王国が作られ、

 共和制が生まれ、民主制が作られた。

 国家機構は、時代を経るに従って強大になり、

 社会のシステムも単細胞生物から人体のように複雑化していく、

 結果、社会全体の流れの前に個体の価値が埋もれ、

 階級の上層部は、有力な支持基盤を持つ権力者が立ち、

 権力と支配を巡る原始的な闘争は、遺伝子レベルで刷り込まれていた。

 国家を一つとして見る見方もあれば、地域、人種、文化、階級、言語で見る見方もあった。

 事、物事を判断する見方は、多元的であり、

 主権者が一つの視野に囚われると国家の興亡の要因ともなった。

 

 主権者にとって権力基盤の破壊は、真の敗北であり、戦争に敗北する以上に恐怖だった。

 近代、共産主義の発生と波及が懸念され、

 主権者は、共産主義の台頭を恐れ、

 貧困層は、ペテン師を見るかのように共産主義を見守り、

 民権を拡大できるのであるなら、利用できるものを利用したいと考えはじめた。

 

 スペイン人民政府誕生は、国際社会に様々な波紋を起こしていた。

 周辺国は、国情が違うため対応に差が生まれる。

 あくまで反共に拘る政策の国家群が存在する一方で、

 共産主義を誕生させ、失敗させ、

 国内の社会運動と労働運動の希望ごと葬ろうと考える国家群も存在した。

 前者は、国権が強く、民権を押さえている国家が多く、

 後者は、国権が弱く、民権に妥協を強いられる国家が多かった。

 相反する政策は、権力基盤と国情の違いで生じたモノでしかなく、

 どちらの主権者も共産主義潰しを目的としていた。

 もっとも、当事者であるスペイン主権者は、左翼政権によって追い詰められていた。

 つまり、生皮で絞められ、合法的に利権が奪われていく、

 これには、紳士淑女然としていた有力者も武器を取らざるを得ず、

 そして、共和国政府に対し反乱を起こした。

 政権を追われた反乱側に救いがあるとするなら、

 共和派は、いくつもの主義主張の連合政府であり、

 社会党、共産党、無政府主義者、バスク独立派、カタルーニャ独立派とバラバラだった。

 もっとも、反乱を起こした右派、

 こちらも陸軍右派、ファシスト、王党派、教会の連合でバラバラだった。

 ここで右派と左派の権力闘争に巻き込まれ、

 望んでもいない戦いに巻き込まれた大多数の庶民に目を転じるなら、

 明日を生き残り、家族を養うため、共和派と反乱軍のどちらかの選択が強いられ、

 敵対する側から命を狙われ、

 所属する側から人権を奪われる世界に取り残された。

 

 

 スペイン海軍

 戦艦2隻、軽巡5隻、駆逐艦15隻、潜水艦12隻、スループ5隻、旧式水雷艇13隻を保有し、

 重巡2隻、駆逐艦2隻、敷設艦4隻、スループ1隻を建造していた。

 右派の反乱と同時に右派将兵は反乱を起こして、革命側将兵と撃ち合いとなった。

 結果

 共和国艦隊

  戦艦1隻、軽巡3隻、駆逐艦14+2隻、潜水艦12隻、スループ1隻、水雷艇8隻

 反乱軍艦隊

  戦艦1隻、重巡+2隻、軽巡2隻、駆逐艦1隻、スループ4+1隻、水雷艇5隻、敷設艦+4隻

 とほぼ拮抗して分裂してしまう。

 

 共和国 16450t級ド級戦艦ハイメ1世

 速力19.5kt、305mm×8門、102mm×10門

 戦艦ハイメ1世 艦橋

 艦長と副長が海図を見つめる。

 「やはり共和国派は、下層階級の多い駆逐艦と潜水艦が多いな」

 「ええ、大型で新型艦は、富裕層の乗員が多いですからね」

 「軍は、政治に対し、中立的であるべきなんだがな」

 「権威や権力に媚びたがる右派も、自由や権利を主張したがる左派も、問題ありなんですがね」

 「スペインの近代化失速は、人間不信と結束力の欠乏」

 「そして、温暖な気候とほどほどに安定した資源にあるな」

 「スペインは世界初の共産政権になりますかね」

 「共産党は、共和国政府の一部に過ぎん」

 「ですが右翼勢力への反乱は、左翼を硬化させ。共和派を共産主義へと押しやるのでは?」

 「まぁ いくら民主主義でも、艦隊への人民委員会の干渉は困るがな」

 「中央から来た議長と乗員の人民委員会で艦の士気は、弛みっ放しです」

 「船は、独裁と専制でなければ運用できないのだがな」

 「その辺は、血を流さないと理解されないかもしれませんね」

 「流すのは、我々の血だ」

 「そして、政権の基盤が揺るがない限り理解しようとしないだろうな」

 「特権に収まった素人貴族が艦長になるのと変わりませんね」

 「ふっ まったくだ」

 

 

 

 高天原(入笠山)遷都後、

 薩長藩閥政治は、閨閥の中に埋もれ表舞台からは薄れていた。

 元々 小さな地域の全国支配は無理があり、

 政治の表舞台は、全国的な代表戦となっていた。

 この時期、日本の政治は、立憲政友会と立憲民政会の二大派閥が作られ、

 権力抗争が繰り広げられていた。

 政友会は、資金力のある主権者寄りで国権側であり、

 民政会は、集票集めのため多数寄りで民権側だった。

 どちらが善というわけでもなく、どちらが悪というわけでもなく、

 どちらも存在しないことが悪であり、

 反全体主義の歯止め、

 あるいは個人主義増大による空中分解の押さえ、とも言えた。

 もっとも、彼らの醜悪な権力抗争と、埒の明かない足の引っ張り合い、

 くだらない上げ足とりに観客は呆れ、庶民も辟易していたのではあるが、

 何はともあれ、腐ってんじゃないのな世相は、適度な冗長性と反動する復元力を時折見せ、

 平穏無事に流れていた。

 5層6階の天守閣は、関東平野を一望でき・・・なかった。

 天守閣は、石垣を含めて全高58mほどであり、

 建築法100尺(30m)以下のビル群が周辺に乱立しつつあったからだ。

 また200mを超える電波塔も建設されており、全てを

 一般人や観光客が思い思いに江戸城に入城し、一時を過ごしていた。

 「江戸城再建か、関東大震災のおかげかな」

 「むしろ、高天原遷都だろう」

 「そう云われると、複雑な心境だね」

 「政治的中枢でなくなると、かなり寂しいよ」

 「大坂方と違って、文化的遺産が少ないのが弱点だな」

 「向こうは、京都と名古屋が付いて強いからね」

 東京が首都でなくなると、計画都市、美観都市、文化都市としての性格を一時強めた。

 江戸城が再建され、

 環状線が外周に向かって幾重にも伸びて行くにしたがい、

 しかし、やはり、世の中金と、大阪を中心とした西域経済圏と競いはじめる。

 どちらが優勢とも言えず、東京は、関東全域に設備投資を拡大し、

 東北、北海道、樺太へと北へ重心を押し上げ、日本の中心であり続けようとしていた。

 一方、大阪を中心とした西域も、高天原(入笠山)との交通を拡張し、

 名古屋、京都、さらには呉、福岡へと交通を整備し、

 日本産業の中心であろうと、関東圏と予算を奪い合っていた。

 高天原(入笠山)遷都は、資本と集票の政治権力構造と、

 関東と関西の経済利権構造の明確化し、競争を激化させてしまう。

 

 大阪帝大でサイクロトロン完成する。

 「博士、大変な予算を掛けたんだがね。役に立つのだろうな」

 「これは、他国に後れを取っていいものではありません」

 「自慢じゃないが、日本は、あらゆる分野で列強に遅れている」

 「優先順位の事を言ってるつもりだったが、自己満足に予算を使われては困るのだ」

 「物質を構成する原子を研究するものですよ」

 「それで? 土建、造船、軍部とも、予算取りで命がけなんだぞ」

 「そうですね・・・」

 「原子の研究が進めば医療技術や新エネルギーにも応用できるかもしれません」

 「また、強靭な装甲、火力に反映できるかもしれません」

 「・・・かもしれません・・・か・・・ま・・・よろしく頼むよ」

 「はい」

 「清国もサイクロトロンの予算を検討してるらしいからな」

 「あの国だけには、負けないでくれ」

 「はい」

 

 

 

 この時期、東アジア圏は、近代化と社会基盤の成長と裏腹に貧富の格差が広がり、

 人権は低下していた。

 清国は、投機的な民主選挙によって、人口の4分の3は、財産が増え。

 4分の1は、合法的に借金を背負わされて、最貧民層へと転落していた。

 そして、もう一つ、

 東アジアの雄、日本は、産業こそ増大していたものの、

 国際競争力に対抗するため薄利多売となり、投資に対する収益が少なく、

 余剰資産が捻出できないため、大規模な投機と開発は困難となっていた。

 また基幹産業が増えるに伴い、杓子定規な官僚も増え、労に対する報いが低下していく、

 それは、生皮で首を絞めるが如きであり、生殺しでもあり、

 社会運動は、潰され、総労働庶民といえる社会が作られていた。

 

 

 満州 長春

 北満州は、ロシア帝国権益

 南満州は、アメリカ6割権益、ドイツ4割権益に分かれていた。

 漢民族は、ロシア、アメリカ、ドイツの庇護を求め流入が絶えなかった。

 そう、漢民族は、漢民族に搾取されるより、

 露米独列強に搾取される方が僅かにマシで、生活も僅かに安定していた。

 

 山東半島

 資源開発が進んでいた。

 まだ本格的な開発に至っていないながら、金、天然イオウ、石膏、

 石油、ダイヤモンド、マグネサイト、コバルト、ハフニウム、花崗岩、

 塩化カリウム、石墨、滑石、ベントナイト、石灰岩、

 石炭、天然ガス、鉄、重晶石、ケイソウ土、ジルコン、ボーキサイト、耐火粘土が期待され、

 豊かな土地は、豊な作物の実りももたらそうとしていた。

 ドイツ風のレンガと赤い屋根の街並みは急速に拡大し、

 近代化を支える基幹産業も急速に拡充されつつあった。

 しかし、愉快なことばかりとは言えなかった。

 ドイツ帝国は、東ゲルマニアの近代化のため、下請け企業が必要であり、

 社会基盤を整備する資源を欲した。

 望むと望まざるとに関わらず、日清との貿易量は増え、

 半島開発が進むほど日本産業は成長し、清国財政も潤い、成長を足し、

 東ゲルマニア防衛の負担を増していた。

 

 渤海と黄海を望む煙台にリンゴ畑が広がり、

 飛行場から飛行船と飛行機を融合させたような機体が滑空していく、

 ドイツ人たち

 「ほぉ 速度は遅いし、機体は大きいし、積載量が小さく、中途半端な機体だな」

 「具体的に言うとだ。飛行船より小さく速く。飛行機より積載量が大きいだろう」

 「DC3より上だな」

 「価格もだ」

 「アメリカは、ヘリウムガスの輸出を渋り始めてるぞ」

 「だからヘリウムガスの使用量の少ない融合型を開発したんだろう」

 「しかし、飛行船と飛行機の融合機は、もう少し、何とかならんものかな」

 「んん・・・」

 世界の空の市場を巡る戦いは熾烈を増していた。

 200隻以上のツェッペリン飛行船は世界の空を飛び、

 航空機産業と覇を競っていた。

 そして、ダグラス社がDC3貨客機を開発し、航空機産業を採算ベースに乗せてしまう。

 各国航空機産業は、DC3のライセンス生産を決め、

 それまで世界の空を支配していたツェッペリン飛行船の市場を狭める趨勢を見せた。

 対するツェッペリン社は、飛行船と飛行機の長所を取り入れた機体を開発、

 しかし、それは、どちらの短所も継承していた。

 「飛行船は、戦争向きじゃないな。予算を取られるのは面白くない」

 「だが、経済効果は大きい」

 「それもDC3で怪しくなった」

 「飛行船は、アフリカ大陸開発で有力だよ」

 「山籠りでもする気かね」

 「勾配のある大地は、地の利があるよ。1対1なら負けないはずだ」

 「孤立気味だがね」

 「鉄道は施設させてるし、飛行船もある」

 「それにドイツ航空機産業も、他の列強に後れてないだろう」

 「だが清国と日本の成長は脅威だよ」

 「まぁ 山東半島は、東ゲルマニア半島より、資源が多くて有望だからな」

 「だが山東半島は、東ゲルマニア半島と違って国土ではなく、権益に過ぎない」

 「清国が強くなるほど、山東半島は圧力を受けるぞ」

 「かといって、清国に戦いを仕掛けるのは得策とは言えないな」

 「ドイツ帝国が清国に負けると?」

 「清国は内政戦中だよ。わざわざ、外圧を仕掛けて統一させてやることもなかろう」

 「それに周辺国の日本、ロシア帝国も厄介だ」

 「何より、欧州ドイツ帝国が本国であり最大の安全保障だよ」

 「ドイツ本国の救援は期待できそうにないがな」

 「皇帝が戦艦より潜水艦を重視しているからだろう」

 「まぁ どの道、戦艦であっても簡単に行き来できるものではないよ」

 「海軍戦力に期待するならアフリカ植民地に艦隊基地を建設すべきだろうがね」

 「南ヴュルテンベルク(東アフリカ)は内陸に引き籠りがちだし」

 「南ザクセン(カメルーン)は水のある場所に移動するし」

 「南バイエルン(南西アフリカ)は標高の高い涼しい場所行く」

 「なにより、住みたがるやつは少ない」

 「アフリカで大きな海軍基地は期待できそうにないか」

 「結局、皇帝の思惑通り、海軍は潜水艦が主力になりそうだ」

 「むかしの皇帝は戦艦、戦艦だったらしいが、どうしたんだろうな」

 「さぁ しかし、半島防衛を成功させるには、もっと基幹産業を大きくしないとな」

 「国防もな」

 「金がな。ないらしい」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 インド洋

 滞空する飛行船からホースが伸び、海上のUボートに繋がれていた。

 飛行船で軍用のモノは10分の1の20隻に過ぎず、

 これらの飛行船も平時は、輸送に使われることが多かった。

 ドイツ帝国は、海上戦力でイギリスと張り合う事をやめ、

 飛行船と潜水艦を組ませていた。

 280m級飛行船 ブレーメン

 将校たち

 「艦長。補給完了しました」

 「そうか、離脱しよう」

 「飛行船の補給能力では高が知れているというのに・・・」

 「飛行船に求められているのは、索敵能力だからな」

 「飛行船の方が補給してもらいたいものだ」

 「そうはいっても、潜水艦を往復させるより飛行船を往復させる方が楽らしい」

 「それは、ケースバイケースなのでは?」

 「飛行船に補給できる大型巡洋艦を建造するか」

 「氷山を北に移動させて中継基地を建設するか、検討しているらしい」

 「中東の石油が絡んでようやく、水上艦艇にも力を入れ始めたわけか」

 「むしろ、飛行船の大型化を進めるべきだと思うね」

 「飛行船の設備が大変なのだろう」

 「もう、谷に蓋をして格納庫にしても良い大きさだからな」

 「オスマントルコ領に油田があるんじゃしょうがないさ」

 「東ゲルマニアとか、アフリカのドイツ領に石油資源はないのか?」

 「あるかもしれないし、ないかもしれない」

 「どこを掘ったらいいのか、わからないのが最大の問題だがな」

 「それに浅いところじゃないと掘るのが大変だそうだ」

 「まぁ 期待はされても掘削は投機だからね」

 「あそこに予算を取られ過ぎると、飛行船建造が縮小される」

 「戦艦建造の予算を取り崩せば、何とかなろう」

 「あまりやり過ぎると戦艦派に刺されそうだがな」

 「ふっ」

 

 

 暗黒大陸、未開のアフリカ大陸

 ユーカリの木を組み合わせた傘を作り、壁を作っていく、

 土壁を塗り固めて補強し、屋根に藁を被せる、

 3週間から4週間ほどで住居が完成する。

 人類史上、最もポピュラーな形式の家屋であり、

 基本的な構造は、日本の竪穴式住居に近く、

 東北域では室町時代まで使われていた。

 人類は、50000年ほど、この種の住居の御世話になっており、

 人類史的な観点で言うなら、

 この家屋から近代的な家屋に抜け出しはじめたのは、つい最近、

 紀元前5000年頃、先進的な文明が現れてからの話しだった。

 白人と黄色人種の一部は、国家を築き、他を出し抜くことに成功し、

 基盤を全地球的に広げ、

 世界で唯一残された最後の黒人国家エチオピア帝国は、イタリア軍に制圧されていた。

 長いスパーンで見るなら弱者の淘汰であり、

 ある意味、出遅れた者の辿る運命であり、歴史と自然の流れともいえた。

 アフリカ大陸は、ドイツ領を中心に近代化し、

 オランダ領コンゴ、イギリス領、フランス領も支配圏を強化し、黒人を淘汰しつつあった。

 そして、北アメリカ、南アメリカの文明と同様、

 アフリカ大陸の黒人の国家文明も大成することなく、世界から消え失せようとしていた。

 イタリア軍の砲弾がエチオピア人村に降り注ぎ、

 ユーカリの木で作った住居を吹き飛ばし、

 エチオピア人の反撃を粉砕する。

 イタリア軍は、反乱軍の追撃を続け、

 村人たちは逃げさり、集落は、完全に破壊されてしまう。

 「広瀬中佐・・・連隊が向かうといった方向に追撃していきましたね」

 「やはり、村人から情報が漏れてるな」

 小さな木片を組み合わせた人形が拾われ、

 足の部分がもげた。

 「・・・また村が一つ死んだ」

 「行こう、ここも、じきイタリア軍本隊に飲み込まれる」

 「先遣隊の背後を突いて反撃しますか?」

 「ふっ どうせ先遣隊に過ぎない」

 「本隊を前進させ、弾薬を消耗させ、本隊を強襲した方がいいな」

 「しかし、我々に戦う意味があるのでしょうか?」

 「エチオピア人がろくでなしなら、イタリア人はならず者だ」

 「我々が血を流す価値はないかもしれないが、いい勝負だな」

 イタリアはエチオピアの制圧戦で消耗していた。

 各国は、植民地で独立運動が起こることを恐れ、

 公式的にエチオピアは滅んでおらず、内戦中という事にしていた。

 そう、白人のアフリカ支配と先住黒人の抵抗ではなく、

 イタリアと日本の代理戦争という形なら植民地独立運動でなく、

 アフリカ大陸の植民地独立運動で波及しない。

 そう時は、帝国主義。

 国際情勢で、嘘が捏造され、公式に認められ、

 各国は、それらしい体面を作るため、

 日本が支援していない広瀬中佐の連隊に武器弾薬を供与する、

 そして、エチオピアが独立を勝ち取るなら、

 列強は、広瀬中佐から利権を得ることになっていた。

 

 

 メキシコ

 メキシコの緯度は低く、鹿児島より南がメキシコの北辺に当たる。

 この国の大部分は、中央域のメキシコ高原が占めており。

 標高1800m級の起伏の激しい高原地帯は、比較的涼しく、

 同時に近代化を阻害する環境的な要因ともなった。

 もっとも人口は2000万にも満たず、

 また、 “働くことを罪の結果” とするカトリック教・ラテン(南欧)的な気質も一因と考えられた。

 ともあれ、メキシコは近代化で遅れており、

 アメリカ合衆国の経済植民地と言えるような情勢にあった。

 この日、メキシコ上空をツェッペリン飛行船が飛び、

 メキシコ高原へと物資を運び込んでいた。

 そして、メキシコの港にドイツ製の300馬力の23t級戦車と8t級装甲車が船から降ろされていく、

 この時期、メキシコは、アメリカの経済植民地の立場から脱したがっており、

 ロシアとドイツのメキシコ輸出が増えていた。

 場末の屋台

 ドイツ人たちがテキーラを片手に、

 パストールの肉をタコスに挟んで頬張っていた。

 「不倶戴天のドイツとロシアが、メキシコでは競合か・・・」

 「どっちの皇帝も、南米のメキシコ、アルゼンチンと共闘する気らしいな」

 「そんな世界地図見て適当に選んでもな」

 「アメリカの反発の方が怖いからね」

 「モンロー主義は、アメリカ合衆国は欧州に手を出さない。代わりに欧州は南北アメリカに手を出すな、だからな」

 「そういう、国際外交政治はともかくとしてだ」

 「現場の意見で言わせてもらうと、メキシコ人と組むのは気が進まない」

 「メキシコ投資は、浪費だよ」

 「というより、DC3旅客機の皺寄せで、飛行船が開発事業に回されてる気がするね」

 「ドイツ、ロシアのメキシコ兵器輸出で、アメリカ合衆国がどう出るかだな」

 「メキシコに輸出した戦力は、それほど多くないよ」

 「アメリカは貿易上のお得意様だし、ヘリウム売るのをゴネたら事だ」

 「ドイツ系アメリカ人の比率は減ってるから、その辺の押しが効かなくなるかもしれないな」

 「だけど、アメリカ合衆国は成長率がペースダウンしてる」

 「ラテン系と清国人のアメリカ移民が増えて、アメリカの足を引っ張っているんじゃないか」

 「アメリカを打倒するのに武器はいらない、ラテン人と清国人の移民を増やせか」

 「ロシアの成長率は、メキシコに輸出できる程度、高そうだな」

 「ロシアは、貴族の力が弱まって、社会資本が増えつつある」

 「ロシアは、貧富の軋轢が収まっても、地域差の軋轢は残ってる」

 「地域的な分離運動が起こるかもしれないな」

 「国民の積極的な労力を得るなら分離覚悟の民主化はしょうがないよ」

 「ドイツ帝国も、入植地の民主化を見逃してる」

 「おかげでドイツ帝国の結束も崩れ気味だな」

 「どちらにしろ、アメリカを相対的に低下させるには、メキシコの増強は必要だよ」

 「近くに強国があればアメリカは無茶しなくなるからね」

 

 

 

 パラグアイ

 チャコ戦争は、列強の底上げ戦争といわれていた。

 カンフル剤を打たれたかのように軍需物資が流れ込み、

 庶民の多くは、参戦以外の生活手段が取り上げられていた。

 戦場は、列強が貯め込んだ旧式装備の減価償却場ともなった。

 そして、パラグアイとボリビアは、双方とも膨大な人命と武器弾薬がチャコの大地に削られ、

 ついに戦意を喪失してしまう。

 戦争は、パラグアイ勝利で推移し、

 終局に向かっていたものの、

 パラグアイとボリビアに残されたモノは、莫大な借財でしかなかった。

 両国民は、生きながら列強に莫大な借財を背負わされ、

 見返りの少ない労動を強いられることとなった。

 資本家たちは、本国に財を置けば税金で取られ、

 公共福祉に使われるとわかっていた。

 無論、公共福祉産業でも懐は暖まり、

 さながら未だ存在しない永久運動機関の如く、掌の上を利権が転がり続けた。

 しかし、いつ豹変するとも限らないヤクザな国家に税金が取られ続けることも変わらない。

 そして、緊急避難的に国外に利権を置くなら相乗効果で安全性は高まり、

 税をもっと取られずに済むと考え、実行する。

 各国のお金持ちたち

 「パラグアイとボリビア双方合わせて死者40万くらいか」

 「50人に3人くらい死んだかな。どうしよう」

 「労働者が必要だね」

 「日本人か、インド人か、中国人が良いかな」

 「そうだな・・・質の日本人、数の中国人、言語のインド人かな」

 「しかし、効率的に恒久的に利益を得るにはどうしたものかな」

 「インド方式は良いような気がするな」

 「完全な自治都市を認めるの?」

 「そうそう。本国から遠いし、内陸なら怖くないよ」

 「「「んん・・・・」」」

 

 

 イギリス スピットヘッド沖

 エドワード8世に代わり、新国王となったジョージ6世の戴冠式を記念し、国際観艦式が行われ、

 イギリス海軍艦艇145隻、外国艦艇20隻が参列していた。

 ダンケルク型戦艦ダンケルク (フランス)

 ヒンデンブルグ型戦艦シャルンホルスト (ドイツ)

 ニューヨーク型戦艦ニューヨーク (アメリカ)

 ガングート型戦艦マラート (ロシア)

 リバダビア型戦艦モレノ (アルゼンチン)

 江蘇(コンテ・ディ・カブール)型戦艦 江蘇 (清国)

 エルザッツ・モナルヒ型戦艦エルザッツ・モナルヒ (ドナウ) 

 スヴァリイェ型海防戦艦ドロットニング・ヴィクトリア (スウェーデン)

 イルマリネン型海防戦艦ヴァイナモイネン (フィンランド)

 ニールス・ユール型海防戦艦ニールス・ユール (デンマーク)

 装甲巡洋艦イェロギオフ・アヴェロフ (ギリシャ)

 ジャワ型軽巡洋艦ジャワ (オランダ)

 キューバ型軽巡洋艦キューバ (キューバ)

 リゲーレ・フェルディナント型駆逐艦レジナ・マリア (ルーマニア)

 チュルカ型駆逐艦シスカル (スペイン)

 ウィッチャー型駆逐艦バーザ (ポーランド)

 コカテーペ型駆逐艦コカテーペ (オスマントルコ)

 スループ艦バーソロミュー・ディアス (ポルトガル)

 カレフ型潜水艦カレフ (エストニア)

 

 28000t級巡洋戦艦 金剛(ライオン)

 全長224×27×吃水8.4

 10000馬力、32kt、航続距離10kt/10610海里

 45口径343mm連装砲3基 50口径102mm砲16基、

 艦橋

 「新型は、フランスのダンケルクとドイツのシャルンホルストだけのようだ」

 「興味のあるのは、ロシアのマラートかな」

 「イギリスの植民地経済と連結されているせいか、どこと戦争になってもおかしくないからな」

 「というより、多角的に貿易してますから、どこと戦争になっても日本はヤバいですよ」

 「戦争で失業したら軍で引き取ればいい」

 「いまは、戦意、低いですから・・・」

 「はぁ〜 どいつもこいつも国防をぞんざいに考えてやがる」

 「残された有色人種の国家は、日本、清国、シャムだけなのに日和見ですからね」

 「不利にもかかわらず、日本、清国、シャムの黄色人種はバラバラか・・・」

 「個人的に付き合いたいのは、シャム人の方でしたよ」

 「近親憎悪ってやつか、世の中そんなものだろうな」

 「ええ・・・」

 「しかし、この金剛も見劣りするな」

 「そうでもないでしょう、巡洋戦艦ですから」

 「イギリス、アメリカに比べるとな」

 「商船は日本国が大きいそうですよ」

 「何が商船だ面白くない」

 「機関部をドイツで造って、船体を日本で作るのが一番安く上がるそうです」

 「おかげで軍艦が作れないではないか?」

 「ですが日本の造船所で建造中の客船は60000t級ですから」

 「日本の造船技術が列強に認められたのでは?」

 「せいぜい自慢すると良いんだ。日本海軍とは関係ない」

 「インドに大型造船所が作られると、日本は造船で不利になるかもしれませんね」

 「インドの資本を押さえているんだろう」

 「産業として縮小させられるって聞きましたよ」

 「つまり、失業者が増える」

 「軍に回ってくればいいんだ」

 「老後を考えると、そうなんですけどね」

 「ドイツが建造中の空母が気になるな」

 「イギリス海軍でもドイツ空母の詳細は掴んでないようです」

 「大本営もアークロイヤル型空母の下取りを検討してるらしいが」

 「国産は考えてないんですかね」

 「インドの利権を維持したいのだろう」

 「配備するのは、アフリカ大陸だと思いますが」

 「インドを海上封鎖されたら、イギリスだけでなく、日本経済も、ぽしゃるよ」

 「ですが、ドイツ帝国も海上輸送が不可能になるのでは?」

 「まぁあ、そうだが、一旦戦端が開かれたら、肉を切って骨を断つ闘いになりそうだな」

 

 

 イギリス空軍 飛行場

 新型戦闘機の飛行訓練が行われていた。

 まだ試作量産の段階ながら完成度の高さが見て取れる。

備重/全備重 馬力 全長×全幅×全高 翼面積 航続距離 速度 武装
1854kg/2434kg 1030 9.12m×11.23m×3.86m 22.48u 562km 562km/h 7.7mm×8

 イギリスの売人と日本軍将校

 「東ゲルマニアのハインケルHe100戦闘機に勝つには、この機体しかありません」

 「ホーカーハリケーンより、スピットファイアMk.Iの方がいいはずです」

 「ええ・・・」 惚れ惚れ

 「後はライセンス生産の値段ですかな」

 「そうなりますね」

 「機体に余裕があるので、将来性も高く改良できますし、いい物件です」

 「ですが、爆撃機の方もあるので・・・」

ビッカース ウェリントン
備重/全備重 馬力 全長×全幅×全高 翼面積 航続距離 速度 武装 乗員 爆弾
1854kg/12910kg 1000×2 19.68m×25.26m×5.31m 22.48u 3540km 378km/h 7.7mm×6 6 2000kg

 「お互い、予算では悩まされますな」

 「まったく。不換金不況以降、海運業が口うるさくて、軍の機種選定が絞られてますよ」

 「海運業は、初期投資が大きい割に回収が低迷してますからね」

 「社会資本に余裕がないと成り立ちにくいですから」

 「イギリスは建造費高騰でインド造船に期待してるようですが、それだとイギリス本土の造船が空洞化する」

 「問題は、英印日同盟がドイツ海軍とアメリカ海軍に対抗しようとすると、インド産業に期待するしかない」

 「しかし、インド産業の育てるとイギリス産業どころか、日本産業の空洞化も避けられない」

 「安全保障のため、イギリスと日本産業を空洞化させ、失業率を上げてるようなものですよ」

 「イギリスはまだいいですよ。利潤の大きな軍艦を建造できますからね」

 「日本海運は、インド造船だけでなく、清国造船にも追いかけられそうです」

 「国民を奴隷のようにこき使えるインドと清国は有利ですからね」

 「日本もそちらに近いのでは? 日本経済は好景気のようだ」

 「ま、まさか・・・イギリスは植民地全域に航空部隊を配置するので?」

 「ドイツは、33000t級グラーフ・ツェッペリン型空母を建造してアフリカ植民地に配備する動きを見せている」

 「アメリカも27000t級ヨークタウン型空母の建造を考えている」

 「イギリスも25000t級アークロイヤル型空母の建造を進めているが質、量とも不足だ」

 「下手をするとインド空軍は日本頼りという事態も起こりえるな」

 「水冷のスピットファイアは機首が長く。視界不良は空母運用で不利では?」

 「空冷も機首周りが太い、視界不良は空冷と大して変わらないだろう」

 「しかし、より大型空母の建造を検討すべきだろうな」

 「航続距離の不足は問題になりそうですが」

 「それに関しては、同意だ。しかし、ハインケルの戦闘機に対抗するため、本土防空が優先されている」

 「今後は、戦艦より空母建造に比重を移すべきでは?」

 「日英航空畑で協力関係を築いていくべきだろうな」

 「そう思います」

 

 

 フランス

 不換金不況で不利な交易を強いられていた。

 人口4400万ほどで高齢化が進み、

 出生率は伸び悩み、産業は低迷していた。

 人口の伸び悩みは、戦争による人口減だけに起因しない、

 個人主義が進み、

 子供を産むことが人生にとって不利である社会が構築される場合もあった。

 そして、フランスの文化的な背景で、そういった傾向が強かったに過ぎない。

 経済は低迷し、

 欧州随一の穀倉地帯も輸出先に余裕があると、貿易収支は低迷する。

 そして、購入しなければならない資源と製品は、高価になっていく、

 一旦、生産力で負けると、状況が解消されるまで慢性的に継続された。

 そういった状況下で、フランスは、清国に武器を売却し、資源を購入し、貿易収支を保っていた。

 パリ万博

 日本人たち

 「なんだ? フランス館が開いてないな」

 「ストライキで遅れたんだと」

 「へぇ〜 ストライキか、いいな、日本でもやりたいな」

 「「「あははは・・・」」」

 「フランスは少し、停滞気味か」

 「白人は全般的に勢いがあるよ。威張り散らしてるし」

 「勢いか、海外に出て思うのは、白人の傲慢振りが鼻に突く事ばかりだな」

 「力の信望者ならどこの世界にもいるし、腐るほどいるよ」

 「日本人だって、強者に媚び、弱者の弱みを握って搾取するだろう」

 「だけど、外国人にやられると、別の感情も湧くからな」

 「それを利用して、国民を搾取してるやつを見るともっとムカつく」

 「しかし、現実の国力差は厳しいか」

 「ああ、技術で言うならドイツとイギリスは、突出してる」

 「ドイツは職人気質が強くて、イギリスは少し構想が強い」

 「アメリカは採算重視、成果主義で安定してマーケティング力と想像力で強いな」

 「ロシアも封建的な部分が削がれて技術的に向上してないか」

 「んん・・・日本だって、余裕があれば・・・」

 「余裕がない限り、大きな開発はできないよ」

 「造船と土建ばかりに金を使ってるからだ」

 「まず、公共設備を拡張しなくちゃ」

 「天下りの糞ったれ官僚にいい思いをさせるだけって気がしてきた」

 パリ万国博覧会で日本館が設計賞を受賞  

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 ヴィルヘルム2世の気まぐれのおかげで、戦争もせず淡々と歴史が流れていきます。

 第一次世界大戦も、軍縮条約もない仮想歴史ですが、

 33000t級グラーフ・ツェッペリン型空母は、史実に近く、

 27000t級ヨークタウン型空母は、エセックス型に近く、

 25000t級アークロイヤル型は史実より少し大きく、という感じでしょうか、

 英印日同盟は、どこへ行く・・・

 

 

1930年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5200  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3000 800
遼東半島     3462+1万2500 10 300  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 800 600
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 200  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 300  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 200  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 200  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   10200 1400

 

 

 

  口径 銃身/全長 装弾数 重量g 初速 発射速度 射程距離
エンフィールド 7.7mm×56R 640/1130 10 3900 744m/s   918m
ヴィッカース重機関銃 7.7mm×56R 720/1100 250 50000 760m/s 450〜600 740m
8式小銃 7.7mm×56R 640/1100 10 3700 700m/s   618m
               

 

 

 

 

  

 

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第29話 1936年 『私利私欲の大義』
第30話 1937年 『果報は寝て待て』
第31話 1938年 『世は全てこともなし』