月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『キミンの時代』

    

  

 第04話 『日ノ本 島原の乱』

 海里と永未ヨヘイが船を降りると、江戸の町。

 「ここが日本か・・・」 物珍しそうに見渡す。

 「海里。覚えていないんだな」

 「ああ・・・懐かしい気もするが本当の名前も思い出せないな」

 「噂だと幕府は鎖国する動きになっているらしい」

 「なに考えているんだか」

 「キリシタンが、いやなんだそうだ」

 「まぁ 金銀の流出と諸藩が外国と組むことも嫌だろうな」

 「東南アジアの日本人町の半分はキリシタンだ」

 「南蛮との貿易でバランス上、その方が都合が良いし」

 「日本人町で、それやったら海外の日本社会は激減、縮小するな」

 「とにかく、味方を探すしかなかろう」

 「ああ、しかし、廃刀令は、考え物だな、軟弱だぞ」

 「平和な証拠だよ」

 「けっ! 飼い犬が」

 「この世の権力、世間体、しがらみは切っても、切れないからね」

 「世のしがらみに抑え付けられた親父が権威で若者を押さえ込む」

 「そして、しがらみの小さい若い者は権威に歯向かって世を変えるか」

 「世代闘争の歴史は繰り返されるな」

 「永未。親のところに行かないのか?」

 「5男坊は予備の予備。邪魔にされるか、疎まれるか、良いように使われるか」

 「野垂れ死に結構。好きに生きろだから・・・」

 「兄弟は他人の始まりだな。俺も、そんなものだろうな」

 「海里は、読み書きとか、言葉使いとか、しっかりしている・・・」

 「どこか、良家の遺児とか、妾の子じゃないか」

 「関が原とか、天下泰平で、いろいろ、あったかもしれないな」

 南国から来た二人は、独特な空気を作って注目を浴びる。

 町民の多くは、武器を携帯していない。

 二人の若者(26〜28)が歴史に、どういう影響を与えたのか、定かではない。

 南蛮貿易で莫大な利益を得る商人や藩が二人の後ろ盾に付いた。

 どちらかというと、山田長政がナコーンシータンマラートを制圧。

 日本人の国を建設している影響が大きかったかもしれない。

 小賢しい、さざなみより、山田長政のネームヴァリューは大きい。

 幕府の鎖国気運が次第に強まっていく。

 反発するかのようにキリシタンや豊臣家残党。

 そして、改易された所領の浪人たちが海外雄飛に惹かれ始める。

  

  

 1635年

 徳川家光の対外政策は、日本の歴史を変えた。

 キリスト教及びキリスト教徒の国外排除。

 異国人非居住地・未開地への領地拡大の保障。

 500石以上の船は、全て徳川家が借り受け、利益折半、荷揚げ降ろしを直轄港のみがする。

 キリスト教の侵入さえ防ぐ事ができれば、東南アジアへの交易が可能。

 とある料亭。

 「・・・わかっておろうな」

 「おぬしらの役目は、キリシタンと不穏分子など豊臣残党を海外へ放逐することじゃ」

 「はい、日本に戻る道はない、ということですね」

 「その通りじゃ」

 「しかし、それ相応の撒き餌がないと日本人は動かないのでは?」

 「飴と鞭なら使い分けられる」

 「よろしく、お願いします」

 「あとは、金と銀の流出を抑えたい。時化で船ごと沈むなど言語道断」

 「南蛮船の洋式を取り入れるのが良いかと」

 「それはわかっておる」

 「よしなに・・」

 「まぁ 別段、海外の日本人が、どうなろうと日ノ本が磐石なればこそ」

 「不逞の輩、不穏分子を送ってやるから日ノ本のため、せいぜい、励むんだな」

 “魔が差した”

 なんと、恍惚に魅了される響きだろうか。

 若気の至りで殺傷沙汰を起こしたくなるのを堪える。

 これが大人というものだろう。

 幕府上層部の反応から日本が海外に対して引き篭もり始めたのが容易に伺える。

 そう、彼ら保守層の目からすると戦国の世は、少ない土地を奪い合い殺し合った。

 権力者の側から見れば、海外雄飛者は、負け犬、逃亡者、棄民だった。

 しかし、字を変えれば、貴民にもなる。

   

 鎖国が段階的に行われると海外の日本人は救われる。

 キリスト教徒の改宗強要も残忍に殺す事無く、国外に追放。

 精神衛生上の障害も最小限。

 この処置によって、朱印船は滞る事無く、東南アジアへ向かう。

 そして、当時、30万といわれる日本のキリシタンも、信教の自由を求めて国外退去へと舵を切っていく。

 幕府は参勤交代など藩の財政を削ぎ。生かさず殺さず。

 外様など、適当な口実があれば取り潰し、

 そして、不穏分子放逐が基本的な幕政となってしまう。

 各藩とも、財政を安定させるため、朱印船を建造し、徳川家に直轄港を献上。

 徳川幕府の船検分役を乗せて雄飛する。

  

  

 ナコーンシータンマラートは、朱雀と名付けられ、

 集まった日本人は、7000人を超える。

 山田長政が物見矢倉から見下ろすと、およその戦場が見渡せた。

 象の雄叫びと、振動が戦場に響き渡る。

 「・・・タイの像兵は圧倒的だな。数で押し破ればいいのに」

 「出世しなくても食べていけると死にたくないのか及び腰、のんびり小競り合いという感じですかね」

 「一気呵成に物事を成し遂げる、というのを知らんのか」

 「それで、助かっているのですがね」

 「二期作とか、三期作だから気質で闘争心が弱くても仕方がなかろうな」

 「日本民族の良さが、二期作、二毛作に慣らされ、失われるのが心配ですよ」

 「そういうことも起こりえるな」

 日本で象兵と象兵の戦いは起こりえない。

 象を駆る軍隊は圧倒的に強く、

 タイ軍の士気が高ければ数に任せて戦線を突破されるほど。

 しかし、土地柄からくる人の気質は大きい。

 数百人の日本人傭兵部隊がアユタヤ最強の軍団となってしまうのも、

 日本人のハングリーな精神状態を根底にしていた。

 「・・・南のバタニは、様子見のようですな」

 「少し前までは戦っていたのだ。共倒れを狙っているのだろう」

 「山道は?」

 「堀が、まだ・・・」

 「ったく。象は歩幅が違いすぎる」

 歴戦の日本傭兵部隊は、防衛線を構築して数倍するタイ軍を防ぐ。

 「この前、船で来た。忍びの者達。後方撹乱で使えますな」

 「ふ 武力と財力に任せて、タイ王宮の主流だった日本人も権力闘争で敗れ」

 「ついには、居直り強盗に成り下がったか」

 「とはいえ、平和のため、身を退くのは、嫌ですな」

 「自らのため、他人を退かせる方が気分がよい。たとえ、血を流そうとも・・・」

 「正当化のための口実なら、いくらでも作れますよ。タイは混沌の世になりそうですな」

 「いや、この世は既に混沌なのだ。人は自ら望む秩序のため戦う」

 「他人にとって、それが混沌で、あっても、ですか?」

 「野に降った者は従うか、ふて腐れるか、滅びるかだ」

 「運が良ければ生存権を維持したまま対立とか、友好とか・・・」

 「ふ・・・では潔く、人の宿業に殉じ、アユタヤを落として天下を狙おう」 涙

  

 

1637年

 伊達家は、地理的な条件から南方交易を不利と判断。

 メキシコとの交易は距離の関係からリスクが大きく、北方交易へと変えていく。

 この頃の蝦夷地は、1599年に徳川家康に服して支配権を認められ、

 海産物は豊富だったが米が取れず。

 石高なしで蝦夷島主の客臣扱いに過ぎなかった。

 伊達藩は、南への交易が不利と判断したのか、

 北海道開拓に興味を示していく。

 徳川幕府は、北海道と交易する伊達藩が脅威となる可能性を秘めていた事から、

 諸藩の北方開拓を役として課していく。

 夏は、北方開拓。

 冬は、南方交易。これだと、合理的に思える。

 しかし、帆船だとそうも行かない。

 南蛮貿易は、偏西風を利用する、

 春になると東風。秋になると西風。風と潮流を利用し、片道30日から35日ほど。

 この季節風を逃すと運任せとなって大損。

 

 というわけで海里ツカサと、永未ヨヘイは、島原にいる。

 苛酷の取立てと苦役は痛ましいほど。

 「海里。噂通りの酷さだ」

 「だけど、もっと取立てを厳しくしないと反乱は起きそうにないね」

 「・・・・しかし、島原のバカ領主のおかげで仕事が弾むな」

 「元領主の有馬晴信はキリシタン大名だったからね」

 「転封で取り残されたキリシタン領民は不憫だよ」

 「そういう領地を掴まされたのが最悪のバカ代官か、確信犯の代官か」

 「ふ 宮使えの辛さだな。上に尻尾を振ると下に呪われる。下に合わせると上に睨まれる」

 「どっちかというと、根絶やし狙いの幕府の犬で恨まれ役だな」

 「生皮で絞めるよう領民を飢え死にさせ、領民の反乱を誘発し、抹殺する」

 「俺達の仕事柄だと、もっと、やれって、感じだけどな」

 「幕府側は、なんと?」

 「キリシタンの国外追放は、賛成だが朱雀庄への合流は渋っている。まぁ 当然かな」

 「しかし、島原で反乱が起きても篭城戦だろう、そうとう、死ぬ」

 「一揆を起こして死ぬか。未開の地で死ぬか、だよ」

 「さて、噂の子供は、どこかな・・・」

 村を探索すると、キリシタンの一揆派と慎重派が、ぶつかっていた。

 “・・・このままでは、生きていけん”

 “しかし・・・”

 「ぉ・・・やってる、やってる」

 「見つかるなよ」

 “一揆を起こさなければ、やっていけんぞ”

 “だが無事では済まされんぞ”

 “幕府は、キリシタンを全部殺すつもりなんだ”

 “このまま、惨めに踏み躙られて飢餓地獄で死んでいくか、戦って死ぬかだ・・・”

 天草四郎、少年は、どことなく光るものがあり、

 超然とした風格を見せる。

 「・・・お前たちは、何者だ?」

 こっそり覗いていた海里と永未が見つかる。

 「え、いや」

 「幕府の間者だな」

 「違う」

 「では、何者だ?」

 「南蛮貿易をやっている商人だ」

 「それが、ここに何用だ!」

 「実は、オランダでチューリップの球根が高く売れると聞いて、日本で栽培できるかどうか降りただけだ」

 「チューリップ?」

 海里が球根を取り出す。

 見つかったときの言い訳のため、最初から懐に入れていたものだった。

 「なぜ、ここに来た? ここでなくても良かろう」

 「ご禁制の物だろう。お互いに後ろめたい事があると手を組みやすい」

 「我々は、そんなものより、食べられるものが必要なのだ」

 「オランダでは、この球根が、馬と交換できるらしい」

 「うそば付け!」

 ざわめく。

 「いや、本当だ」

 「そんなものが売れるわけがない」

 「あ・・・待ってください」

 ポルトガルのカトリック神父が割って入る。

 「その話しは、嘘ではないようです」

 「オランダではチューリップの球根が高く売れているとマカオで聞いたことがあります」

 「「「「「・・・・」」」」」

 「もちろん、間者なのか、わかりませんが球根の話しは本当です」

 「日本の土で作れたら、もっと、高く売れるかもしれない」

 「・・・・」

 海里と永未は、チューリップの球根で交渉の切っ掛けを作り。

 球根を渡して有耶無耶のまま、危機を逃れてしまう。

 金のなる種だと扱いも変わって客分扱い。

  

 村の隠し田。

 菜園の一つ。

 「こんなものが高く売れるの?」

 村娘のチヨが球根を畑に植える。

 「高く売れるのは確実だが利益が出るか、まだ、わからないね」

 藁にも縋りたくなる状況なのだろう。

 チューリップが献上品になれば年貢の一部を割り引けるかも、と植えたりもする。

  

 そして、この島原周辺を歩いても、あまり疑われなくなってしまう。

 「あのチヨとかいう娘。かわいかったな」

 「少し若いが、そろそろ、良くない?」

 「あはは、駄目元で誘ってみるか」

 「南蛮の砂糖飴でも、あげれば、やらせてくれるかも」

 なんとなく、2人で微笑む。

 貧しい村娘が砂糖飴を食べることなどない。

 この国の庶民が甘いもの、といえば柿くらい・・・・

 「しかし、代官屋敷の方は、せっかく、砂糖を上げたのに歯切れが悪いな」

 「年貢だろう」

 「まあ、隠し田を暴いて年貢を増やして、一揆を起こさせるとしても時期がな・・・」

 「んん・・・一揆が稲の刈り取りと年貢の時期から逆算すると、偏西風と合わないな」

 「どうする?」

 「季節風に合わせないと、まずいよ」

 「じゃ 幕府軍の動員まで、2ヶ月。篭城戦で2ヶ月から4ヶ月とみて、ぼちぼち、やらないとな」

 「俺たちで、お膳立てしてやるか」

 「そうだな・・・しかし、他所者の俺たちがやっても微妙だな・・・」

 

 稲が育ち、刈り入れ・・・

 そして、年貢・・・・・

 1637年10月25日、苛酷な取立てと労働にキレた領民たちが立ち上がる。

 そして、代官・林兵左衛門を殺害。

 

 島原の乱(1637年12月11日〜1638年4月12日)が勃発。

 農民軍は天草四郎を中心に集まり原城に籠城。

 幕府は討伐軍の編成を始める。

 

 とある城下町。

 海里と永未は、茶店の “粟の菓子” を買って腹ごしらえしながら悪巧み。

 「・・ちっ! 代官殺しか。間が悪い。季節風を考えて一揆を起こせよ。バカが」 海里

 「いや、普通、一揆は年貢を取られてか、それを前後するだろう」 永未

 「こうなったら、幕府軍の攻勢を遅らせるか、天草軍を助けるかだな」

 「あの隠し田を教えるか?」

 「ご禁制の球根を栽培。口実になる」

 「いや、球根を持ち込んだ俺たちまで吊るし上げられるぞ」

 「それにチヨちゃんに恨まれるだろう」

 「ま、そこまで、極悪になれないか・・・」

 「ふっ」

 「・・・おい、まて!」

 振り返ると、侍が3人。

 「なんだ?」

 「お前ら、ここで何をやっている?」

 「幕府の仕事だろう」

 「本当にそうなのか?」

 「おいおい、お前たち、公儀隠密だろう。同業者に突っかかるなよ」

 「・・・忍者の出でない、お前たちが公儀隠密など片腹痛いわ」

 「ふん、忍者の格好はしていないのか?」

 「そんな格好で昼、日なか、歩けるか」

 「そりゃそうだ。じゃ・・・」

 「待て!」

 「・・・偽名でも、名前ぐらい名乗るものだろう」

 「・・・葵(あおい)」

 「流(ながれ)」

 「水面(みなも)」

 「俺は、海里ツカサ。昔の記憶がなくてな、本名は知らん」

 「俺は、永未ヨヘイ。本名だ」

 「お前たち、無分別に大名取り潰しを行っておろう」

 「それが公儀隠密の仕事だろう」

 「我々は、内紛の過程で取り潰しと相成る」

 「お前たちは内紛を作ろうとしているように思うが」

 「分担できて、よかったな」

 「ふざけるな!」

 「わざと、年貢の上乗せを画策して、一揆をあおり」

 「今度は、それを調整しようとしている。こんなことが許されるか!」

 「年貢の取り立ては大名の仕事。一揆は領民の領分だろう。責任転嫁は、いけないな」

 「待て!」

 「断る。俺たちは、忙しいんだ」

 「お前たちの悪事、いつか、突き止めてやる。非道は、許さんぞ」

 「はい、はい、正義の味方の隠密さんね。覚えておくよ」

 

 表向きキリシタンの反乱という事になっていた。

 実は、目障りなキリシタンに対する幕府の弾圧と対する反発。

 鶏が先か、卵が先かという話しにもなる。

 原城に篭城する領民は、2万7000〜3万7000人。

 朱印船から海里ツカサと永未ヨヘイが戦況を見ていた。

 もちろん、朱印状なしの朱印船は存在せず。

 一応、朱雀の庄との連絡船扱いとなっている。

  

  

 1638年

 島原の乱 (1637年12月11日〜1638年4月12日)

 幕府軍と同行して海里ツカサと永未ヨヘイは、九州諸藩を回る

 「だから、殺せばそれだけ、一人当たりの食料が増えるだろう。包囲するだけで良いんだよ」

 「しぇからしか。武士はな、攻めて、何ぼ、手柄を立てて何ぼじゃ」

 「」

 「」

 表向き、幕府側に所属している2人は調整で苦心惨憺する。

 月明かりが大地を照らされていた。

 高台に立つ海里と永未は天草軍が立て篭もる原城を眺める。

 不意に背後に気配がする。

 「・・・二人に内々で話しがしたか」

 「何です?」

 「戦って死ぬ者が出るたい」

 「・・・・」

 「しかし、生き残った者は手柄を立てて禄を増やせる」

 「もう、大名が与えられる禄も少ない。それは、死んだ者たちの禄たい」

 「覚悟の上だと?」

 「もう戦国じゃなか。みんな、これが最後の報奨になると、わかっておるたい」

 「家運を賭けようと思っとるたい」

 「女子供まで殺して報奨にして欲しくないのですが?」

 「戦場での事。約はできん」

 「しかし、その辺は、言って聞かせられることたい・・・」

 「そういうことなら・・・」

 「」

 「」

 原城は、包囲され次第に痩せ細っていく。

 海里ツカサと永未ヨヘイが乗る朱印船とオランダ船デ・ライプ号が併走。

 「あいつら高みの見物か」

 「しかし、オランダ船か、良い船だな〜」

 「大砲を向けるだけで押し黙らせるのは、いいね」

 「海里。オランダと話しはついているんだろう」

 「ああ、なんとか、そのまま、高みの見物だそうだ」

 天草四郎の反乱軍は、幕府軍の包囲にあって苦戦していた。

 適当なところで声をかけ、新天地へお引き取りが計画。

 単純計算で篭城戦の戦費と輸送費の天秤。

 この費用の相殺は、人身売買も含み、

 幕府も残りのキリシタンが南蛮に行きやすいのなら悪い話しでなかった。

 「じゃ あとは、天草四郎しだいか」

 「かな。しかし、好都合なことに幕府軍もヘタレな攻めだな。天下泰平でボケたかな」

 「九州諸藩と連携が取れていないんだろう」

 「滅私奉公で、一番槍とか、出し抜きで手柄を立てれば、取り立てもある」

 「そういう時代じゃないだろうが・・・」

 「手柄を立てて出世すれば禄が増えて家族も養える」

 「サンピン侍も子供が作れる。久しぶりの戦いだから勇み足だな」

 「惜しいな、どうせなら朱雀で死ねよ・・・」

 「先祖の土地にしがみ付くしか能のない地縛霊どもさ」

 「そういえば剣豪がいるんじゃなかったか?」

 「ああ・・・宮本武蔵か・・・しかし、攻城戦で剣術じゃな・・・」

 餓死寸前の原城。

 幕府軍と天草軍の和睦がなって、

 朱印船が原城に押し寄せ、一揆を起こした領民が乗せられていく。

 海里と永未は、累々と転がる死体を見渡す。

 数は少なく。ほとんど餓死。

 城攻めは、殺さず兵糧攻めする方が食料が尽きるのも早く。降伏も早い。

 秀吉が好んで使ったのも、やさしいからというより、

 兵站の財政で苦しくても子飼いの有能な将兵を残し、

 敵に犠牲だけを強いれる。

 合理的だからといえる。

 「海里。いないな。チヨちゃん」

 「ああ」

 不意に背後から足音が聞こえ、刃物と刃物がぶつかる。

 薄汚れた格好をした少女は誰かわからないほど憎々しげな形相で、二人を睨みつける。

 村娘のチヨ。

 「おお、生きてたよ」

 「あ、あんたたちが、みんなを殺したのね」

 「ん・・・いや、戦場には出なかったけど」

 「嘘だ! 私たちをこんな目に遭わせて、人でなし〜!!!」

 「ちょっと、まった、まった。チヨちゃん」

 向かってくる女を避けて、永未が、みねうち。

 「チヨちゃん・・・」

 「可愛かったのにな。興ざめ」

 「うん」

 「どうする?」

 「危なく、殺されそうになったんだから所有権は、当然、俺たちにあるよね」

 「うん」

 「寝ている間に船に乗せて朱雀に連れて行っちゃおう」

 「うん、どうせ、ここにいても野垂れ死にだしね」

 「まぁ 広い世界を見るのも悪くないよ」

 「井戸の中の蛙。村娘で死んで逝くより、いいかも」

 「そうそう、起きたら “異世界のチヨちゃん” だ♪」

 頭を撫でる。

 

 

 岸壁に付く小船。

 沖に停泊しているガレオン船へと向かう予定だった。

 「天草四郎。こっちだ」

 小柄な男が船に乗り込んだ。

 「まて!」

 振り返ると侍が3人。

 「・・・何だっけ?」

 「葵だ」

 「そうそう、葵、流、水面ね、じゃ・・・」

 「待て!」

 「なんだ?」

 「そいつをどこに連れて行く?」

 「だから評定を聞いただろう。こいつは島流し」

 「ふ、ふざけるな!」

 「どこの世界に乱を起こした首謀者を島流しにする」

 「だから、評定のとき聞いただろう。聞いていた通りだ。俺たちが決めたことじゃないぞ」

 「そうそう、決めたのは、徳川幕府」

 「・・・・っ・・・くっ!」

 「じゃあな」

 島原の乱は、そのほとんどが島流しで決着が付いてしまう。

 幕府がやさしかったわけではない。

 天草四郎を追ってキリシタンが国外に出て行けば、徳川幕府にとって好都合だっただけの話し、

 永未ヨヘイの朱印船を先導に偏西風と潮流に乗った船団が南下していく。

 朱雀庄に到着する朱印船から島原農民が降りる。

 しかし、天草四郎と幹部は、いなかった。

  

  

 その頃、オランダ船1隻、朱印船3隻は、海里ツカサと天草四郎とその取り巻きを乗せ、

 ひたすら太平洋を南下する。

 「ツカサ。この子供が天草四郎なのか?」

 「ああ」

 「子供じゃの・・・」

 カレン・マルダーは、面白がる。

 「日本だと歴史に残るな、一揆は、少なくないが領民が反乱を起こすのは珍しい」

 「というより、一揆だと、上が困るからキリシタンの反乱にしたのだろうけど・・・」

 「まぁ 金になるのなら、なんでも、構わんがね」

 「海里殿。私をどこへ連れて行くのだ」

 「己を救おうとする者を神は救う。無人島で自分の力を試してみるといい」

 「本来、晒し首の身。如何様な処断でもかまわん」

 「いい覚悟だ」

 「島原の乱の折、なにやら画策していたようじゃが、お主からは悪意を感じられなかった」

 「何をしていたのだ?」

 「南蛮貿易で日ノ本勢は苦戦している」

 「徳川幕府の藩潰しを手伝って、日本人を南蛮貿易に駆り立てている」

 「なぜ、そのような事をする?」

 「なぜ? 俺は、海で拾われる前の記憶がない」

 「だから祖国といわれた日本も馴染めない」

 「・・・・」

 「俺の祖国は、海と南蛮貿易だからだ」

 「そうか・・・南蛮貿易を守るために・・・・日ノ本を犠牲にする・・・内憂外患じゃの・・・」

 「天草四郎・・・俺たちが画策した事、恨んでいるか?」

 「いや、お前たちと島原の乱は、まったく関係ない」

 「そりゃ 俺たちの苦労と労力を全面否定どころか、存在まで否定じゃないか」

 「あいつら以上に酷いやつだな」

 「ふっ 生きる機会をくれたことだけは感謝する」

 「それは、どうも・・・」

 オランダ帆船は風で帆が張らみ、勢いよく進んでいく。

 オランダ船に一度乗ると朱印船もジャンク船もかなり怖い。

 初めてオランダ船に乗る天草四郎は、大船に乗って、くつろいでいた。

 そして、神通力があるのか、魚を釣り上げ、船員に喜ばれる。

 「釣りが上手いものだ」

 「そうなのか、良く釣れる」

 「南の海の魚は日ノ本の魚と違う。良く焼くか、煮た方がいいな」

 「そうか、ありがたい」

 「陸だぞ〜!!!」

 マストから声が響くと乗員にどよめきが広がる。

 新鮮な水や食料は寄港しなければ得られなかった。

 「・・・海里。島の名前は?」

 「ニューギニア島だ」

 数百人の日本人がニューギニアの大地に降りていく。

 そして、数日後、補給を終えた船団が去っていく。

    

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 サンピン侍は、年に三両一分の給金を貰っていた身分の低い武士です。

 たぶん “御用だ! 御用だ! 御用だ!” の人たちだと思うのですが確認していません。

 大人一人が一年間生きていくのに必要な米が一石(150kg)、約一両です。

 親がいたり、夫婦だと米を2石消費して・・・もちろん、御代わりなし。

 1石分で生活必需品を買えるだろうか・・・・

 かなり溜め込んで祝言を挙げたのでしょうか。

 まして、子供が・・・・

 傘作りや妻の内職は、とても大切になりそうです。

 現代人だと男女問わず自殺レベルの生活でしょうか。

 悲惨なのは、お取り潰しで浪人にされた武士でしょうか。

 収入ナシで放り出されることに・・・・

 お侍さんの一所懸命は、死活問題と直結、命がけで戦ったのだろうな・・・と思ったりです。

 一人者なら家を売って、朱雀に賭けるとか、

 あと庄屋さんとか、商店で、アルバイトするとか・・・

 家族持ちだと、どうするんだろう・・・

 これで飢饉が起きたら悲惨この上なし、

 

 

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