月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 

 第03話 1944年 『トラック島攻防戦』

 01月31日フランクリン

 日米の海軍戦力は、完全に逆転していた。

 赤レンガの住人たち

 「空母建造より、飛行場だと?」

 「飛行場と航空機を配備できれば、機動部隊の救援は不要ですよ」

 「艦隊の夜襲を防ぐため水雷戦隊は必要かもしれませんが」

 「迂回されたら、どうする」

 「トラックは潜水艦隊の基地でもありますから、どうしても無力化する必要があります」

 「迂回なんかさせませんよ」

 この論法で空母信濃が解体させられ、

 雲龍型空母の建造計画もお釈迦にさせられていく。

 20万トンの艦隊を建造するくらいなら、

 最初から20万トンの鋼材を前線の島に投資しろ、も頷ける。

 

 ビアク島

 鉄筋、セメント、生産力が幾つもの島に分散させられていく。

 動くことができない島は地下が使え、鉄筋コンクリートで防弾を水増しできた。

 重量制限のない地上であれば、戦艦の主砲弾すら弾き返せる砲台も配置できる。

 強靭な砲台が一つあれば侵攻軍を躊躇させられる。

 砲塔を破壊するか、使用不能にするか、

 弾切れまで我慢するまで上陸作戦を阻むことができた。

 それが埋め立てられた伊勢だった。

 地上でも、半地下に対中口径防弾のトーチカ建設するだけで対戦車戦で有利になった。

 装甲板、鉄筋コンクリート、土嚢の順番に防弾が強く。

 被弾面は傾斜であるほど避弾性が高い。

 銃眼は、内側に向かうほど小さくなって、機関砲が並べられる。

 トーチカーは、小銃の有効射程内で、アメリカ軍に戦車砲以上の火力を強要できた。

 

 ビアク司令部

 「M4戦車52口径76.2mm砲の通用しないトーチカを並べれば、アメリカ軍にとって最悪だろうな」

 「戦車の侵攻を防いで歩兵同士の戦いで有利になれば少しくらいの戦力比は引っくり返せる」

 「小銃で射的の的だ」

 「トーチカを破壊するとしたら精密爆撃、艦砲射撃。155mm榴弾砲か」

 「英雄的なアメリカ軍兵士もいる」

 「そんなのは1000人に一人くらいだ」

 「10万上陸したら100人はいることになるな」

 「「「「・・・・」」」」

 「問題は補給だよ。兵士が栄養不良だと守れない」

 「毎日、毎日、握り飯2個と漬物か、栄養摂取カロリーより消費カロリーが高いよ・・・」

 「カロリーが少なくなると栄養が頭に回らなくなってバカになるってよ」

 「突撃バカの方が扱いやすかったりして」

 「ハングリー精神は必要だけど、腹減って歩兵戦闘は厳しいな」

 「しかし、軍令そっちのけで田畑作って、まだこれだけとはね」

 「一応、最低限必要な田畑はできたらしいけど、次の稲刈りから握り飯3個になるらしいよ」

 「たまには、ソバとか、うどんとか、食べたいよ。病気になるぜ」

 「それに赤道だからな、食中毒と脱水症状で寝込んでいるやつも増えてる」

 「戦力にならねぇのは、内地に帰ってもらうか」

 「病気の振りして帰還するやつが増えるから内地でも持て余しそうだな」

 「じゃ 間引きで死んでもらいたいね」

 「環境が劣悪過ぎて自然とそうなりそうだ」

 「病兵か、明日は我が身だよ・・・」

 「こんな場所に送り込みやがって作戦を考えたやつが来ればいいんだ。バカめ」

 「ニューギニアから退いたんだから少しはマシかも」

 「まぁ トーチカもずいぶん増えたから少しは涼しくて楽なんだがな」

 「亜熱帯だと蒸し暑いだけかも。それにトーチカというより家」

 「午後になったら、新しいトーチカ造りだと」

 「田畑作りにしたいよ。握り飯4つ。大根、ニンジン、玉ねぎが入った味噌汁も飲みてぇ」

 「病兵じゃ アメリカ軍に勝てないよな」

 「もう少し衛生的だと良いんだけどな」

 空襲サイレンが鳴り、隼3型が出撃していく。

 時折、飛燕と疾風が飛び立っていくが稼働率で隼が主力だった。

 東の空からゴマ粒のような戦爆連合が現れる。

 「おっ 昼間の空襲なんて珍しい」

 「パイロットだけだ。まともな飯食べてるの」

 「良いよな。飛行場でブラブラしているのに良いもの食べてんだぜ」

 「防空任務ばっかりだろう。攻めるか、少しは働けばいいのに」

 「俺もパイロットになりてぇ」

 「車輪に括りつけられてクルクル回されても大丈夫じゃないとな」

 「甲種で若くて、さらに選ばれた人間だと」

 「良いよな」

 「でも、身体が総合平均でパイロットを決めてしまうのって、どうよ」

 「まぁ 個人の身体特性を生かした戦い方ってあると思うよ」

 ビアク上空の轟音は大きくなり、

 隼3型とムスタング、サンダーボルトが飛び交い。

 隼3型が撃墜される。

 「あ・・・負けてるぞ」

 「やろう・・・美味いもの食って、負けるんじゃね。踏ん張れよ」

 「と言いながら食い扶持が増えるかも」

 「あはは・・・」

 空気を切り裂く音が響いて、爆弾の雨が降ってくる。

 ジャングルの森林が爆発で引き裂かれ、青く茂る稲も吹き飛ぶ。

 「あっ 水田に爆弾落としやがった」

 「なんて、卑劣な」 涙ぐむ

 

 

 1944年になると、ムスタング、サンダーボルトD型が戦線に現れる。

 それまで、ポナペから700kmのトラックが標的になっていた。

 さらにアメリカ軍は、ニューギニアを西進してビアクから500kmのジャヤプラに達する。

 ムスタング、サンダーボルトD型の航続力は長く。

 ジャヤプラから1300kmのパラオまで爆撃圏内に入る。

 パラオ(488ku)

 日向は5番砲塔を修復し、速度性能を捨て、

 増装された装甲と強力なディーゼル機関と発電機を配置していた。

 錆び止めの塗装も多く、

 埋め立てるために改造されたとしたら日向こそ最強の要塞といえた。

 パラオには、連合艦隊が配備され、基地の造成も続いていた。

 日向 艦橋

 「日向だけでも空母に改造すればいいものを」

 「陸奥爆沈で空母に改造されると思ったがな」

 「どいつもこいつも戦艦の埋め立てに賛成しやがる」

 「連合艦隊も随分と寂しくなったな」

 瑞鶴、翔鶴、千代田、千歳、瑞鳳

 比叡、霧島、

 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡4隻。

 駆逐艦32隻。

 輸送船34隻。

 「ローテーションが厳しいな。せめて駆逐艦クラスの乾ドックを建設すべきだろう」

 「このままだと攻撃されても反撃できる艦隊は半分以下。3分の1になる。本当に見殺しだぞ」

 「それは、島礁防衛次第だろう」

 「散々、我が儘を押し通して金と物資を持っていったんだ」

 「結局、金と士気は比例するのかな」

 

 

 

  馬力 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続力 武装 武装
ゼロ戦52型甲 1130hp 2140kg/2424kg 9.12×11×3.57 21.3u 569 600km〜1600km 20mm×2 7.7mm×2
ゼロ戦52型乙 1130hp 2140kg/2424kg 9.12×11×3.57 21.3u 569 600km〜1600km   7.7mm×6
ゼロ戦52型丙 1130hp 1890kg/2824kg 9.12×11×3.57 21.3u 559 1600km〜2600km 20mm×2 7.7mm×2
                 
ヘルキャット 2000hp 4190kg/5714kg 10.24×13.63×4.11 31u 612 1520km〜2500km 12.7mm×6  
ムスタング 1695hp 3460kg/5490kg 9.83×11.28×2.64 21.65u 703 〜3350km 12.7mm×6  
サンダーボルトD型 2540hp 4850kg/8800kg 11.02×12.42×4.47 27.87u 697 〜3060km 12.7mm×6  
                 

 トラック防空戦

 B17爆撃機編隊がコンバットボックスを組み軌道修正しつつ目標にトラックに迫っていた。

 アメリカ爆撃部隊は、小さい島を爆撃するため、

 進入コースが限定され、密集隊形を取らざるをえず被害も大きくなっていく。

 また、優れたノルデン爆撃照準器を使っていても、

 水平爆撃は、高々度であるほど爆撃精度が低下し、代わりに爆撃機の損失が減る。

 低空爆撃であるほど爆撃精度が上がり、爆撃機の損害も増えていく。

 アメリカ軍で爆撃精度の高い低空爆撃も検討された。

 しかし、日本の迎撃機は、低空で迎撃するため、そうもいかない。

 そして、トラックの対空砲火は、艦艇から剥がした艦砲をトラックに設置していた。

 地上は、艦上と違って重量制限がなく、進入コース上に向けるだけでよく、

 小さな防衛拠点に対空砲火を集中し、弾幕を厚くすることもできた。

 

 

 護衛のムスタングとサンダーボルトは、ロッテ戦術を駆使。

 高々度からのサッチウィーブで有利に戦うことができた。

 しかし、アメリカ軍に自由に爆撃させて良いのならゼロ戦52型も切り返す戦法があった。

 地表や海面スレスレの低空を飛ぶと、

 ムスタングもサンダーボルトも、サッチウィーブが使えない。

 ムスタングとサンダーボルトが旋回しながら低空にいるゼロ戦の背後に回り込んで機銃掃射。

 ゼロ戦も4機編隊のロッテ戦法を採用していた。

 零戦は、ムスタングの掃射をかわしつつ乱戦に持ち込んでいく。

 低空での航空戦になれば、背後に付かれた状態でも反撃の機会があり、

 なにより数がモノをいった。

 ゼロ戦編隊の群れ同士が低空で機銃掃射を受けながら交錯する。

 正面から交錯するゼロ戦編隊と、

 衝突を恐れたムスタング、サンダーボルト編隊は、バラバラに崩れてしまう。

 あとは、低高度での乱戦。

 低空に誘い込まれたムスタング、サンダーボルトは、ゼロ戦とほぼ互角。

 ランチェスターの法則が適応され、多数側が有利になった。

 「けっ! バカ正直に戦うとでも思ったか」

 ゼロ戦52型乙の7.7mm6丁の機銃弾がサンダーボルトへ吸い込まれていく。

 サンダーボルトの機体に小さな穴が開いていくが落ちる気配は、まったくない。

 しかし・・・

 「おっ!」

 サンダーボルトが上昇しようとしたとき、7.7mm弾がコクピットに命中。

 そのまま、放物線を描いて、海面に激突していく。

 「ラッキー」

 ムスタングとサンダーボルトは、海面近く低空域から上昇して逃げようとする。

 ゼロ戦は、上昇力で辛うじて追いかけることができた。

 上昇力は空気抵抗や機体設計で誤差があった。

 機体重量÷馬力=馬力過重

 機体重量÷翼面積=翼面過重

 しかし、この二つで、だいたい決まってしまう。

 サンダーボルトD型 2540hp 機体重量4850kg+(燃料+弾薬)3950kg。

 ムスタング 1695hp 機体重量3460kg+(燃料+弾薬)2030kg。

 ゼロ戦52型甲・乙 1130hp 機体重量2140kg+(燃料+弾薬)284kg。

 ここで燃料・弾薬の4分の1を消費したと仮定すると。

 サンダーボルトD型 2540hp 機体重量4850kg+(燃料+弾薬)2962kg  5502kg   馬力過重2.166kg/hp

 ムスタング      1695hp 機体重量3460kg+(燃料+弾薬)2030kg  4982kg   馬力過重2.939kg/hp

 ゼロ戦52型甲・乙  1130hp 機体重量2140kg+(燃料+弾薬)284kg   2353kg   馬力過重2.082kg/hp

 ヘルキャット     2000hp 機体重量4152kg+(燃料+弾薬)2848kg  6288kg  馬力過重3.144kg/hp

 ゼロ戦は1馬力当たりの重量で軽く微妙に有利だった。

 しかし、垂直上昇するわけでなく、旋回しながら上昇するため揚力、翼面過重も計算に入った。

 サンダーボルトD型 5502kg/27.87u  翼面過重197.4kg/u

 ムスタング      4982kg/21.65u  翼面過重230.1kg/u

 ゼロ戦52型甲・乙  2353kg/21.3u  翼面過重110.4kg/u

 ヘルキャット     6288kg/31.03u 翼面過重202.6kg/u

 揚力当たりの重量が軽い零戦の上昇が速くなっていく。

 パイロットの技量次第でサンダーボルトの横合いから機銃掃射を浴びせたり。

 ムスタングに追いついて掃射できたり。

 追いつけなかったり。

 「げっ 弾切れだ」

 未熟なパイロットが乗る乙型の7.7mm6丁は、サンダーボルト、ムスタングを撃墜できず。

 全弾撃ち込んで退避していく。

 ベテランの乗る甲型20mm2丁。7.7mm2丁は、サンダーボルト、ムスタングをなんとか撃墜できた。

 しかし、20mm弾は1丁125発しかなく、すぐに弾切れし、退避していく。

 弾薬を撃ち尽くしたゼロ戦部隊は逃げ回るしかなく。

 生き残ったムスタング、サンダーボルトに追いかけまわされたりで、

 ベテランで52型乙に乗りたがるパイロットも少くなく、

 的確にコクピットやエンジンを狙い撃ちして撃墜したりする。

 そして、ゼロ戦は、トラックを爆撃された後でも有利なことがあった。

 離着陸距離の短いゼロ戦は、偽装されて生き残った飛行場に離着陸ができた。

 トラック春島飛行場

 将校たちが見守る中、

 三式指揮連絡機は、滑走路の大穴を避けて離陸していく。

 「だから、紫電も疾風もいらないって」

 「しかし」

 「見ろよ、この爆撃あと、ゼロ戦じゃなければ、離着陸できないだろう」

 「紫電と疾風で撃退して爆撃を防げば・・・」

 「馬鹿か。紫電や疾風でムスタングやサンダーボルトに勝てるか」

 「それに下手くそが増えている」

 「紫電も疾風も機体が重過ぎて主脚が折れるだけだ。52型の甲と乙で十分」

 「んん・・・」

 「とにかく。52型甲と乙の数だけ揃えてくれ、同数以上なら負けないぞ」

 「あとコマツブルドーザーG40もだ。忘れるな」

 「んん・・・」

 一台のブルドーザーが飛行場を整地し、

 人海戦術で滑走路の穴を埋めていく。

 時々、不発弾が爆発し爆音が響き渡る。

 滑走路は、さらに押し広げられ、

 滑走路に準ずる誘導路がいくつも伸ばされていく。

 そして、誘導路の先は半地下格納庫に繋がる斜坑へと入っていく。

 トラック基地が単発機ばかりを求めたのは、この半地下格納庫に格納するためともいえる。

 通常の補給や整備は、地上駐機で行い。

 被弾機は、半地下格納庫で修復する。

 航空戦が終わると、数人のパイロットが喜んでいたりする。

 5機撃墜でエース。

 地上と僚機から撃墜確認がされると待遇が良くなった。

 元々、基地防空に徹しているため、

 戦果確認は容易で正確で疑心暗鬼も少なかった。

 偽証が減ると情報が正確になり作戦も立てやすくなる。

 ゼロ戦部隊が低空で待ち伏せるようになったのもキルレートで有利なだけでなく、

 戦果確認も公平で正確、それだけの理由だった。

 「飛行場をもっと広げるべきだろうな」

 「少しくらい爆撃されても、迎撃戦に支障がなければ、何とか戦えるでしょう」

 北西の空から黒いゴマ粒が迫ってくる。

 航続距離の短いゼロ戦52型甲・乙は、空母を使ってグアムか、ウルル島まで輸送する。

 空母による輸送は惜しい使い方でも、

 パイロットは疲労が少なく楽な方法だった。

 

 

 03/07 空母 大鳳

 

 空母 瑞鶴 艦橋

 色違いの軍服を着た将校が並んでいた。

 「提督、発艦準備完了しました」

 「発艦速度に達し次第。発艦させろ」

 「はっ!」

 「空母で隼を発艦させられるとはね」

 「海軍さんの協力には、感謝しますよ。艦砲も素晴らしいですし」

 「陸軍さんは、無事にビアクに到達できるだろうか」

 「航法ができるベテランが引っ張れば150km真南ですから」

 「戦艦を埋め立てられてから陸上に都合が良いように引っ張られてしまうな」

 「あのバカたれ二人のせいで空母まで輸送部隊にさせられる」

 「楽ですが武人としては辛いですな」

 「しかし、大鳳が完成して、日本機動部隊も形になるよ」

 「南洋で水雷戦隊を消耗してないのが救いでは?」

 「艦隊編成で苦労しなくて済みます」

 「軍艦から副砲や高角砲を剥がして、なにが苦労しなくて済むだ。苦労ばかりだよ」

 「旧式艦艇ですから、それほど痛くないでしょう」

 「アメリカの攻撃を島礁防衛で吸収してくれるのなら好都合ですよ」

 「“島長” は雷電と紫電の開発でイチャモンを付けやがるし」

 「おかげで海軍はゼロ戦ばかりですな」

 「次の62型は層流翼にして自動空戦フラップ装備だと」

 「層流翼は失速しやすいそうですから、自動空戦フラップでバランスを取るのでしょう」

 「陸軍は、もっと高性能のエンジンを選びますよ」

 「稼働率の関係だと栄エンジンでしょう」

 「栄エンジンはともかく、層流翼の加工は怪しいですな。工作機械を消耗する」

 「どちらにしろ潤滑油も切断油も尽きる」

 「そうなったら海軍も陸軍も終わり、ですな」

 「46年末で日本の工作機械は、航空機を製造できなくなる。ゼロ戦もだ」

 「南方で防空戦に徹してくれたおかげでエンジンオイルは、それなりに残っているようですが・・・」

 「・・・いや、厳しいな」

 

 04月15日 ハンコック

 05月08日 タイコンデロガ

 05月13日 バターン

 

 

 1944年6月

 ポナペ島は、アメリカ軍の建設で侵攻用の兵站基地と化していた。

 そして、アメリカ太平洋艦隊が上陸作戦の準備を終える。

 

 トラック 司令部

 伝令の兵が電文を持ってトラック基地司令に手渡した。

 「・・・アメリカ機動部隊が出撃したらしい」

 「じゃ いよいよか」

 「連合艦隊は、来るかな」

 「当てにしていないだろう」

 「全然、当てにしてないよ。来なくてもいい。電文を送ってくれ」

 陸長が切れっぱしを副官に渡す。

 「・・・・・」 ヒク、ヒク、ヒク

 無線がアメリカ爆撃部隊の接近を知らせる。

 「ゼロ戦部隊を出撃させろ」

 「はっ!」

 「それと護衛艦を付けて船舶をパラオに後退させてくれ」

 「はっ!」

 「それとトンボ釣りの艦艇と漁船も所定の場所に・・・」

 ポナペ航空部隊(ムスタング212機、サンダーボルト226機、B17爆撃機300機)

 トラック航空部隊(ゼロ戦52型甲204機、乙244機)

 トラック防空戦は、いつになく激しさを増していた。

 ムスタングは、空気抵抗の少ない水冷エンジンで高速機動が可能だった。

 サンダーボルトも強力なエンジンと重防弾で圧倒できた。

 どちらも降下速度を足した運動エネルギーを生かす戦法を得意とした。

 ムスタングとサンダーボルトの編隊が低空を飛ぶゼロ戦隊に向かって殺到する。

 いつもの手だった。

 ムスタングも、サンダーボルトも、最初、後方に付き優位に機銃掃射を繰り返した。

 数で負けなければ、低空の横旋回はゼロ戦が有利だった。

 ムスタングもサンダーボルトもゼロ戦に内側に入り込まれる。

 そして、ゼロ戦部隊の一部が2式大艇に従って、100kmほど離れた西の空域を旋回していた。

 空中戦の戦況を確認しながら上昇しつつ高々度から好位置に就くと増漕タンクを投下。

 低空に集まっているムスタング、サンダーボルトに襲いかかって、乱戦になっていく。

 低空に降りたアメリカ軍機は、優位性を確保するために上昇するしかなく、

 上昇すればゼロ戦に追い立てられ20mm弾、7.7mm弾を叩きこまれた。

 ムスタングやサンダーボルトは速度差と重防弾を頼りに危機から脱しようと加速する。

 機体を持ち上げようとすると上昇力で有利なゼロ戦に銃撃を食らう。

 そのまま、まっすぐ高速で振り切るしかなかった。

 ゼロ戦は防空できれば任務完了。

 ムスタング、サンダーボルトは、攻撃できなければ、任務失敗だった。

 

 

 そして、トラック沖

 第58任務部隊(空母7、軽空母8)

 第1機動群

  空母(リプリサル、ヨークタウンU) 軽空母(ベロー・ウッド、バターン)

  重巡:ボストン、キャンベラ、ボルチモア 防空巡:オークランド、サンファン 駆逐艦14

 第2機動群

  空母(バンカーヒル、 ワスプU) 軽空母(モントレー、カボット)

  軽巡:サンタフェ、モービル、ビロクシー 駆逐艦12

 第3機動群

  空母(エンタープライズ、レキシントンU) 軽空母(プリンストン、サン・ジャシント)

  重巡:インディアナポリス 軽巡:バーミンガム、クリーブランド 防空巡:レノ 駆逐艦13

 第4機動群

  空母(エセックス、ホーネット) 軽空母(カウペンス、ラングレー)

  軽巡ビンセンス、マイアミ 防空巡:サンディエゴ 駆逐艦14

 

 第7機動群

  戦艦ワシントン、アイオワ、ニュージャージー、

     サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、ノース・カロライナ

  重巡ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、ウィッチタ 駆逐艦14

 

 第51任務部隊

  ペンシルヴァニア、ニュー・メキシコ、ミシシッピ、

  テネシー、カリフォルニア、コロラド、メリーランド、

  護衛空母14、護衛艦21隻、輸送船72隻、LST40隻。

  (将兵71034、155mm砲180門、75mm48門、高射砲8、戦車150両)

 

 出撃した航空部隊は、F6F ヘルキャット443機、戦闘機F4U コルセア3機。

 急降下爆撃機SB2C ヘルダイバー174機。

 急降下爆撃機SBD ドーントレス59機。

 雷撃機TBF アヴェンジャー188機。

 F6F3N ヘルキャット24機、計891機

 

 

 パラオ

 大鳳 艦橋

 「出撃準備を急げ。アメリカ機動部隊はトラックに向かっているぞ」

 「・・・長官。トラックから電文です」

 通信兵が恐る恐る山本長官に電文を手渡す。

 ヒク、ヒク、ヒク

 「トラック基地司令から、連合艦隊司令長官宛て・・・・」

 ヒク、ヒク、ヒク

 「“邪魔だから来るな” だと〜!」

 びりっ!

 

 

 トラック沖

 巡洋艦4隻、駆逐艦16隻、護衛空母3隻、護衛艦16隻、

 工作艦1隻、潜水母艦5隻、水上機母艦2隻、輸送船23隻、

 青葉 艦橋

 「いよいよ、トラックから逃亡か・・・」

 「船団を脱出させれば、夜襲を掛けても良いと」

 「あの陸長が夜襲の合図を忘れてなければな」

 「まさか」

 

 

 

 トラック上空は、ムスタング、サンダーボルト、B17爆撃機だけでなく。

 艦載機のF6Fヘルキャット、 ヘルダイバー機が飛び交うようになり。

 ゼロ戦部隊は、数に圧倒されて、次第に劣勢になっていく。

 駆逐艦 沢風 艦橋

 「今度は艦載機です・・・450機以上」

 「やれやれ、今度という今度は、駄目かな」

 「120mm砲3門と魚雷を降ろされたからな」

 「120mm砲1門。25mm機銃20丁と爆雷だけでは・・・」

 「機関全速。回避運動だ」

 沢風、灘風、矢風、羽風、汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風。

 トラック環礁に取り残された10隻の駆逐艦は、アメリカ軍機を低空へと降ろす囮に過ぎない。

 ヘルダイバーとドーントレス爆撃機が駆逐艦に向かって降下していく。

 岩礁に配置された25mm機銃が低空から侵入するアベンジャーに向けて弾幕を張り。

 駆逐艦部隊は、環礁内を駆け回る。

 ゼロ戦甲・乙群が、ヘルキャット群と空中戦を展開し、

 ゼロ戦がヘルダイバー、ドーントレス、アベンジャーの横合いから機銃掃射していく。

 扶桑 艦橋

 「こりゃ駄目かな」

 「アメリカ上陸作戦部隊が接近してきます」

 「扶桑、山城と砲撃戦をするつもりか」

 「アメリカ戦艦は7隻。負けますね」

 「・・・確かに撃ち負けるな」

 「どうします?」

 「Z旗を揚げてくれ」

 「・・・・・」

 扶桑にZ旗が揚がると基地航空部隊に緊張が走った。

 

 戦艦ペンシルヴァニア、ニュー・メキシコ、ミシシッピ、

    テネシー、カリフォルニア、コロラド、メリーランド。

 戦艦7隻の艦砲射撃が始まる。

 356mm砲50門、406mm砲16門から砲弾が扶桑、山城に降り注ぐ。

 1門100発と計算すれば、256mm砲弾5000発。406mm弾1600発。

 扶桑、山城からも360mm12門が撃ち返されるが火力が全く違う。

 扶桑、山城は、ズタズタに引き裂かれ破壊されていく。

 アメリカ戦艦の砲弾5分の1を扶桑、山城に使わせ、

 戦艦を埋め立てた目的を果たしたと言える。

 戦艦ペンシルヴァニア 艦橋

 「大きな島には500発ずつ主砲弾を撃ち込め、それと目障りな駆逐艦も沈めろ」

 沈黙するトラック島に向けて、アメリカ戦艦が砲撃する。

 356mm砲弾の被害半径20m。

 1256u=0.001256ku

 これが、356mm主砲弾5000発だと計算上、被害面積約6.28kuが吹き飛ぶ。

 さらに406mm砲弾1600発が加算され、9ku近い面積が砲撃されたことになった。

 トラック環礁の総面積100uだとするなら、島の1割近い面積が砲撃を受けた計算になった。

 被害面積が重複し、重防御のトーチカで耐えたり、

 海中に落ちたり、ムラがあったり。

 それ以外は、砲撃と爆撃で施設が破壊され、

 滑走路に大穴が開き、森林を禿島にしていく。

 ヘルキャットが対空砲火を潜り抜け、森に隠されたゼロ戦を掃射していく。

 「くっそぉ〜 良いように機銃掃射しやがって」

 「曹長。給弾と給油完了しました」

 「よし、ペラ回せ!」

 「まだ危険です」

 「・・・いや、友軍機だ」

 ゼロ戦がヘルキャットの後方に回り込むと飛行場から追い立てていく。

 「いまだ」

 給油を受けたゼロ戦が滑走路に開いた穴を避けるように離陸していく。

 しかし、爆撃と砲撃。機銃掃射は繰り返され飛行場は、完全に破壊されていく。

 そして、環礁内の駆逐艦も、次から次へと撃沈され

 「総員、退艦!」

 全滅する。

 

 アベンジャーを撃墜したゼロ戦52型乙がトラック上空を旋回する。

 「こりゃ駄目かな。機銃も使い果たしたし、行くか」

 ゼロ戦は、トラック環礁とコンパスで方位を確認。北西に向かって逃亡する。

 ゼロ戦は、燃料に余裕があれば、北西280kmのウルル島に辿り着く。

 トラック守備隊は、艦砲射撃と爆撃で大打撃を受けていた。

 トラック守備隊

 将兵30000

 短200mm砲100門、149.1mm51門

 75mm58門、48口径47mm砲234門、

 迫撃砲381門、高射砲44門、戦車50両。50口径140mm172門

 

 深夜

 トラック環礁の透明度は12m〜15m。

 それを超えた深度に潜航すると上空から発見できない。

 そして、敵の空襲が始まると所定の場所に潜航する。

 環礁内で潜航すると便利なことがあった。

 基地の発電機でコンプレッサーを回し、

 潜水艦に空気や電力を送り込むことができた。

 伊号 発令室

 「司令はなんと?」

 そして、有線も・・・

 「作戦に変更ありません。環礁に侵入した敵艦隊への雷撃。第一目標は輸送船です」

 「ちっ! 呂号20隻と一緒にお留守番か」

 「環礁内の伊号は10隻ほどのはず」

 「見つかったら、助からんな」

 「ええ」

 

 

 パラオ 日本海軍 連合艦隊

 改装、改修、整備、補給、休息など、正規の艦隊編成を維持できないこともある。

 電探を装備したり、島礁防衛に大砲を取られ運用できなかったり、いろいろで稼働率は7割。

 基本は、速度や航続力など加味して空母部隊3群の護衛艦隊を編成していく。

 (大鳳、瑞鶴、翔鶴) (飛鷹、隼鷹、龍鳳) (瑞鳳、千代田、千歳、龍驤)

 大和、武蔵、長門、金剛、比叡、榛名、霧島

 妙高、那智、足柄、羽黒

 高雄、愛宕、摩耶、鳥海

 最上、鈴谷、熊野

 利根、筑摩

 古鷹、青葉、衣笠、加古

 阿賀野、能代、矢矧、酒匂。

 夕張

 大淀

 吹雪、白雪、初雪、叢雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷波、

 朝霧、夕霧、天霧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電

 初春、若葉、初霜、有明、夕暮

 白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、江風、涼風

 朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、

 陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、初風、雪風、天津風、

 時津風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、秋雲

 夕雲、巻雲、風雲、長波、巻波、高波、清波、玉波、

 涼波、藤波、早波、浜波、沖波、岸波、朝霜、

 秋月、照月、涼月、初月。

 島風

 

 

 翌朝

 第51任務部隊

 護衛空母14隻から発艦した艦載機はトラックを爆撃し。

 ペンシルヴァニア、ニュー・メキシコ、ミシシッピ、テネシー、

 カリフォルニア、コロラド、メリーランドは、艦砲射撃を続けながら南水道から侵入する。

 さらに12.7cm砲を撃ち込む。

 

 トラック基地内は、有線で各砲台と連絡を執り合うことができた。

 集計が入ってくる。

 「少将。南水道側で生き残ってる大砲は、140mm砲57門、149.1mm5門です」

 「やはり、金曜島に上陸するつもりだな。南水道側を重点的に攻撃したわけか」

 「計算通りでは?」

 「金曜島の守備隊は?」

 「将兵6000ですが艦砲射撃と爆撃を受けているので、集計は、まだ・・・」

 「射線だけ合わせて、まだ、撃つなよ」

 「各砲台には通達済みです」

 「しかし、こんなことなら120mm砲。127mm砲。152mm砲も貰うべきだったかな」

 「ビアク、パラオ、マリアナに取られましたから」

 第51任務部隊が南水道から侵入して環礁に入っていく。

 そして、アメリカ上陸作戦部隊が金曜島に迫る。

  ペンシルヴァニア、ニュー・メキシコ、ミシシッピ、

  テネシー、カリフォルニア、コロラド、メリーランド、

  護衛空母14、護衛艦21隻、輸送船72隻、LST40隻。

  (将兵71034、155mm砲180門、75mm48門、高射砲8、戦車150両)

 

 「撃てぇ!」

 金曜島、月曜島、秋島で、南水道側に向けていた砲台が火を噴いた。

 50口径140mm砲の生き残り57門と149.1mm5門が輸送船72隻、LST40隻を砲撃。

 吃水線下に命中した砲弾は、船腹に大穴を開け、海水が流れ込むと、

 船は重みで沈み始める。

 戦艦ペンシルヴァニア 艦橋

 「・・・大砲が、まだ生き残っていたのか、砲撃を加えろ」

 「艦長、もう、砲弾が・・・」

 「かまわん、上陸部隊を守る。撃ち尽くせ」

 隠していた砲台を砲撃すれば、位置が知られ反撃される。

 トラックの砲撃に気付いた第51任務部隊は支援砲撃を開始。

 トラック環礁の外側で緩慢な砲撃で様子を見ていた第7機動群も慌てて砲撃する。

 戦艦ワシントン、アイオワ、ニュージャージー、

    サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、ノース・カロライナ

 重巡ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、ウィッチタ 駆逐艦14隻。

 砲撃と爆撃がトーチカに覆われた大砲群に集中し、

 次から次へと破壊していく。

 

 

 アメリカ駆逐艦が沈没する輸送船、LSTから将兵を救出しようと走りまわる。

 アメリカの弾薬補給船が大爆発を起こし、

 環礁内に爆炎を上げ、大音響を響かせた。

 火薬混じりの衝撃波が環礁を震わせる。

 呂105号 艦橋

 送電線・空気供給ホースを切り離した潜水艦が移動していた。

 「ん? なんだ。戦艦が1隻だけで孤立してるぞ」

 「駆逐艦は沈んだ輸送船の救助でしょう。しかし、狙いは輸送船では?」

 「う、撃ちたい」

 「しかし・・・艦長・・・」

 「そうだ、水雷長。お前の計算ミスで戦艦に当たったことにしとけ」

 「そ、そんなぁ」

 

 戦艦ミシシッピに魚雷4本が命中。

 さらに輸送船6隻に魚雷が命中して沈んでいく。

 駆逐艦や護衛艦が駆け回り、沈む輸送船から乗員と陸軍兵士を救出していく。

 生き残った艦船は、甲板まで将兵を満載しなければならず戦闘力が低下してしまう。

 アメリカ機動部隊から駆逐艦の半分を上陸作戦に派遣し、

 環礁内で潜水艦狩りが始まる。

 潜水艦は、機雷源のあるエバリッテ水道、北東水道側に配置されていることが多く。

 そちら側に回り込もうとする駆逐艦は沿岸の140mm砲に砲撃され、

 砲撃されたアメリカ駆逐艦は炎上し、誘爆を繰り返した。

 

 

 トラック司令部

 「ん? なんだ・・・まだ夜になってないぞ。どこの潜水艦が動いた?」

 「砲撃で第6発電機、コンプレッサー・送電線が破壊されています」

 「・・・呂104号、呂105号、呂106号、呂107号、呂108号のどれかです」

 「あんのやろう〜」

 「少将。南側の対艦砲台が全滅しました」

 「戦果は?」

 「輸送船39隻、LST23隻撃沈です」

 「だいたい、半分を沈めたか」

 「艦隊から大砲を剥がした成果が、あったようです」

 「鉄筋とセメントもだ」

 「それくらいの戦果を挙げないと、大本営も剥くれるだろう」

 トラックの地下壕は、戦艦の主砲の直撃を受けても一度だけなら耐えることができた。

 

 

 戦艦ミシシッピ 艦橋。

 「艦長。左舷艦尾、浸水が止まりません」

 「誘爆は?」

 「艦長。残念ながら本艦は、主砲弾を撃ち尽くして誘爆不能です。副砲の弾薬も・・・」

 「不幸中の幸いだな」

 「艦長。傾きが10度を越えました」

 「しょうがない・・・」

 戦艦ミシシッピは、沈没を免れるため金曜島に乗り上げてしまう。

 

 レキシントンU 艦橋

 「輸送船39隻、LST23隻撃沈です。残った輸送船は43隻、LST17隻です」

 「・・・・・」 絶句。

 「提督・・・」

 「作戦を続行する。旧式戦艦は、主砲弾の補給を急がせろ」

 「提督。上陸部隊は半数を失っています」

 「第7任務部隊に金曜島を砲撃させろ。全上陸部隊を上陸させる」

 「ですが、日本機動部隊が来れば・・・」

 「パラオの日本機動部隊は、戦艦3隻、空母4隻、巡洋艦8隻。駆逐艦38隻か・・・」

 「機動部隊は補給を完了しています。戦艦が主砲弾を使い切っても負けはせん」

  護衛空母14、護衛艦21隻、輸送船43隻、LST17隻。

  (将兵41034、155mm砲80門、75mm28門、高射砲4、戦車70両)

 アメリカ上陸作戦部隊は、攻撃されず金曜島に上陸した。

 

 夜

 アメリカ上陸部隊は、航空支援を受けられず、

 地下壕に潜む日本軍の襲撃が始まると70両のM4中戦車が頼りになった。

 金曜島 司令所

 「残った砲は?」

 「金曜島では10門です」

 「そうか・・・」

 そして、45度逆円錐状の地下壕の底。

 監視所から指示で12口径200mm砲 (最大射程6500m) の砲身が動く。

 小さな島では射程を必要としない。

 金曜島の中央に12口径200mm砲を置けば島の全周に砲弾を撃ち込むことができた。

 直撃、至近弾ならM4中戦車でさえ、一たまりもない。

 「・・・仰角そのまま、3度ほど左だ」

 「3度・・・と」

 「てぇ!」

 塹壕から12口径200mm砲弾が撃ち出され、

 放物線を描いてアメリカ軍の橋頭堡を襲う。

 地下壕の底に配置された砲台は、生存率が高かった。

 艦砲射撃と爆撃を受けてもトラック全体で半分の50門。金曜島で10門が生き残る。

 アメリカ軍橋頭堡は粉砕され大混乱に陥っていく。

 「大本営は、この大砲を対潜用とか、対空用に使おうとしたらしい」

 「馬鹿だねぇ」

 そして、塹壕から81mm迫撃砲(射程2800m)、

 90mm迫撃砲(射程3900m)、擲弾筒(射程670m)がアメリカ軍の橋頭堡に撃ち込まれ、

 死傷者続出。

 日本将兵が塹壕からアメリカ軍陣地を覗き込む。

 「あの陸長、連合艦隊に “邪魔だから来るな” って、言ったんだと」

 「あはは・・・しょうがねぇな」

 なぜか、士気が上がる。

 「・・・おっ! 戦車から士官が体を乗り出してるぞ。よ〜し」

 「おい、兵隊を狙えって言われただろう。戦車なんかほっとけよ」

 「兵隊を狙ってやるよ」

 擲弾筒から発射された砲弾は放物線を描いていく。

 そして、戦車のハッチから体を出した士官を吹き飛ばしてしまう。

 「げっ!」

 「やった〜♪」

 「おまえ、真似するやつが出てきたらどうするんだよ」

 「あはは・・・」

 38年式機関銃、96式軽機関銃、3年式機関銃の掃射で、

 アメリカ軍陣地は大混乱となっていく。

 

 

 夜になると25隻の潜水艦が動き出した。

 潜水艦の雷撃は潜望鏡深度まで浮上する。

 昼間は航空機に発見されやすくなり、すぐに撃沈される。

 しかし、夜間なら撃沈されるまで数度の雷撃が可能になった。

 呂100号型の魚雷本数は5本。

 夜間であれば、雷撃後、退避して生き残るための時間稼ぎができた。

 伊号になると17本〜24本で発射管6門。3〜4回の攻撃が可能だった。

 駆逐艦フレッチャー 艦橋

 「大口径砲で攻撃されている上陸部隊から。島の中央付近を砲撃して欲しいそうです」

 「なんで、あんな大口径砲が生き残っているのだ」

 「被害が多過ぎて大混乱ですね」

 「ソナーは?」

 「海底が浅く沈没艦船が多過ぎて・・・潜水艦は、着底していると思われます」

 「レーダーは?」

 「墜落した機体がまだ浮いているので・・・」

 「紛らわしい・・・」

 「艦長。8時方向、距離1200でレーダーに反応。動いています。潜望鏡です」

 「き、機関全速。救助活動を中止だ。爆雷の準備だ」

 アメリカ機動部隊は、駆逐艦を環礁内へと送り込んで沈没艦船の将兵救出と潜水艦狩り。

 同時に地上戦の支援砲撃も要請され混乱していく。

 そして、ドサクサにまぎれ、隙だらけの戦艦を狙う不届きな潜水艦も出てくる。

 魚雷4本がカリフォルニアに命中する。

 カリフォルニア 艦橋

 「艦長。このままでは、沈没します」

 「・・・・」

 カリフォルニアも沈没を恐れ金曜島に乗り上げた。

 

 

 戦艦ワシントン、アイオワ、ニュージャージー、

   サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、ノース・カロライナ

 新型戦艦7隻の砲撃が轟き、

 闇のトラック環礁を赤黒い爆炎が照らした。

 主砲弾が同じ場所に落ちない限り、地下壕は無事だった。

 

 トラック 司令部

 「っくそぉ〜 輸送船を狙え、というとるのに・・・」

 「輸送船を沈めると駆逐艦は、将兵の救出で対潜攻撃が困難になると伝えているはずです」

 「地上戦で苦戦すれば支援砲撃の要請も増えて砲弾も底を尽くはずなのに」

 「潜水艦乗りに理屈は通用しないのでしょう」

 「軍法会議にかけてやる」

 「覚悟の上では?」

 「もう殴る」

 「生きて戻れば、ですがね・・・」

 「うぬぬぅ〜 どいつもこいつも・・・」

 悪夢の夜が明けるまで、メリーランド(6本)、護衛艦4隻、輸送船33隻、LST7隻が撃沈。

 アメリカ上陸作戦艦隊

 ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、護衛艦17隻、輸送船10隻、LST10隻。

 ペンシルヴァニア(2本)は、上陸作戦部隊を残して後退していく。

 

 第7機動群

  戦艦ワシントン、ノース・カロライナ、アイオワ、ニュージャージー、

     サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、

  重巡ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、ウィッチタ 駆逐艦14隻

 戦艦アイオワ 艦橋

 「提督。第51任務部隊が環礁から出ました」

 「第7機動群は、トラック環礁内に進入。上陸作戦部隊を支援する」

 「ペンシルヴァニアは、ポナペまで後退できるそうです」

 「潜水艦は?」

 「ほとんど片付けたそうです」

 「まさか、この第7機動艦隊が上陸作戦の支援に送り込まれるとはな」

 「機動部隊も補給を受けなければ、作戦不能になります」

 「パラオの日本機動部隊に動きは?」

 「トラック発パラオ宛て暗号によると “邪魔だから来るな” と」

 「トラック側の返信は?」

 「パラオ発トラック宛で、こちらも暗号で “泣いても助けてやらん” です」

 「な、なに考えてるんだ。トラック基地は、パラオの連合艦隊とケンカでもしてるのか?」

 「本当は逆の意味かもしれませんが」

 「基地に、まだ余裕があるのでは?」

 「ちっ パラオ沖に潜水艦隊を潜ませているというのに・・・」

 「日本は、1式陸攻で対潜哨戒しているので潜水艦も撃沈されているようです」

 「日本機動部隊に潜水艦の包囲網を破されたら厄介ですよ」

 「VT信管があれば、撃退できるのでは?」

 「VT信管は、当てにしてるよ」

 「駆逐艦を上陸作戦取られて、輪形陣も隙間だらけだがな」

 「・・・・」

 

 

 トラック環礁 金曜島

 トラックの森林は破壊され、木材と枝葉が島を覆っていた。

 金曜島に上陸したアメリカ上陸軍将兵30000は、圧倒的な戦力で昼間の地上を制圧。

 仮設飛行場を建設し、離陸距離の短いドーントレスとワイルドキャットを運用しようとしていた。

 一方、艦砲射撃と空爆でボロボロの日本軍将兵4500は、頼りになる火器がなく、

 戦線を構築して戦うことはできず、

 生存の道は、生き残ったトーチカを除けば、地下壕しか残されていなかった。

 それでも、地下を利用した姑息な夜襲と反撃を試み、

 戦況を膠着状態へと引き戻していく。

 塹壕の下、木材の間から日本兵が這い出した。

 上空を飛ぶ艦載機の目を盗むように38式小銃を構え、

 指揮官らしいアメリカ将校に向けて銃撃。

 アメリカ軍は、銃声の方に向って機銃掃射。

 さらに迫撃砲が撃ち込まれる。

 そして、ヘルキャットの機銃掃射に晒される。

 アメリカ軍の反撃は10倍返し、100倍返しといった規模だった。

 火炎放射の炎が塹壕の中に送りこまれる。

 トラック司令部

 「地上はアメリカ軍に制圧されつつある」

 「アメリカ軍の仮設飛行場が大きくなると厄介なことになるな」

 「ですが、金曜島のトーチカと大砲は・・・」

 「ほとんど破壊されて残ってない」

 「火炎放射機で塹壕の穴を燃やしている。穴が全て発見されると全滅だな」

 「ですが昼間のアメリカ軍を小銃、機関銃。擲弾筒で食い止めるのは至難の業です」

 「・・・艦砲射撃と空襲が減ってるのが救いか」

 「艦砲射撃は1門当たり約100発ほど」

 「ポナペからの波状攻撃も続かないだろう」

 「しかし、金曜島に上陸とはな」

 「機雷源のあるエバリッテ水道、北東水道側を突破すると思っていた」

 「月曜島、水曜島、日曜島から夜にランチで増援部隊を送るとのことです」

 「まだ不味いだろう。的になるだけだ」

 「しかし、金曜島の地上は、ほとんど制圧されていますよ」

 「それにミシシッピとカリフォルニアは主砲弾が残ってなくても副砲はまだ・・・」

 「戦艦じゃなく、輸送船を沈めれば良いものを・・・」

 「このままでは金曜島を占領され。トラックは制空権も制海権も失ってしまいます」

 「んん・・・仕方がない・・・」

 

 

 6月12日

 トラック環礁を艦隊が一周する。

 青葉、加古、古鷹、衣笠、

 吹雪、白雪、初雪、叢雲、白雲、磯波、浦波、綾波、

 敷波、朝霧、夕霧、天霧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電

 トラック巡洋艦隊は、PT魚雷艇8隻を撃沈、5隻を駆逐してしまうと、

 静かな暗夜の海が広がるだけだった。

 「・・・敵艦隊は、どうした?」

 「・・・いませんね」

 「アメリカ艦隊なら電探があるはず。こちらが先制攻撃を受けてもおかしくない」

 「あのボケが、やっぱり夜襲の合図を忘れてやがったな」

 「どう考えても一日余計な待機をしたようですね」

 「環礁内へ入ってアメリカ軍の橋頭堡に向けて砲撃を射かけろ」

 「ミシシッピ、カリフォルニアに魚雷を撃ち込め」

 ミシシッピ、カリフォルニアは、魚雷を受け、浸水した状態で干潮時に乗り上げていた。

 そして、満潮時、数十本の61cm魚雷が命中。

 ミシシッピ、カリフォルニアは、完全に破壊されてしまう。

 青葉 艦橋

 「目標、アメリカ軍橋頭堡。撃てぇ!!!」

 そして、橋頭堡で野営するアメリカ軍上陸部隊(将兵30000)を203mm砲弾が襲う。

 「提督、主砲弾の3分の2を消費したそうです」

 「かまわん、全弾撃ち尽くせ。127mm砲も全て橋頭堡に撃ち込め」

 600発がアメリカ軍の橋頭堡を粉砕していく。

 さらに127mm砲弾10000発が撃ち込まれ戦意喪失。

 アメリカ軍は、夜明けとともに日本軍に降伏してしまう。

 

 

 翌朝

 日本機動部隊

 (大鳳、瑞鶴、翔鶴) 妙高、那智、足柄、羽黒、利根、

   秋月、照月、涼月、初月。

   陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、初風、雪風、天津風、時津風、浦風、磯風、浜風、

 

 (飛鷹、隼鷹、龍鳳) 高雄、愛宕、摩耶、鳥海、筑摩

   大淀

   夕雲、巻雲、風雲、長波、巻波、高波、清波、玉波、涼波、藤波、早波、浜波、沖波、

 

 (瑞鳳、千代田、千歳、龍驤) 最上、鈴谷、熊野、阿賀野、能代、

   朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、秋雲

 

 大和、武蔵、長門、金剛、比叡、榛名、霧島

   矢矧、酒匂。

   夕張

   初春、若葉、初霜、有明、夕暮

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、江風、涼風

   岸波、朝霜、

   島風

 

 大和 艦橋

 日本機動部隊は、出撃準備を整え出撃できる状態にあった。

 「全艦隊。出撃する」

 電文が届けられた。

 「・・・長官。トラックのアメリカ軍上陸部隊が降伏しました」

 「なんだと?」

 「どういうことだ」

 「昨夜未明。トラックの巡洋艦隊が金曜島の艦砲射撃を行い」

 「アメリカ上陸軍は戦意喪失したと思われます」

 「アメリカの機動部隊は、何をしていた。戦艦部隊は?」

 「ポナペ域に後退中だったようです。補給の間隙を突かれたのかと」

 ひく、ひく、ひく、ひく

 「アメリカ軍め。トラック守備隊に良いように手玉に取られおって、なんたる。ボケなすだ」

 「連合艦隊も、良いところないですな」

 

 

 トラック巡洋艦隊は、夜明け前にパラオに後退していく。

 弾薬を撃ち尽くしたトラック艦隊は、身軽さだけが最高の武器だった。

 夜明けに襲って来たB24爆撃機の散発的な空襲を回避しつつ逃げ切っていく。

 

 

 トラック環礁

 金曜島は、アメリカ軍将兵30543人の武装解除が行われていた。

 「ほぉ アメリカ軍に日本人がいるぜ。この裏切り者が」

 「・・・・」

 「おまえ、祖国を裏切って平気なのか」

 「家族を守るためだ」

 「家族を守るために祖国を犠牲にか」

 「お前らは、捕虜じゃないから、殺しても大丈夫だよな」

 日本軍一等兵が38式小銃を日系アメリカ軍兵士に向ける。

 「・・・やめろ」

 「・・・大佐」

 「名前は?」

 「草加ヨシオ」

 「アメリカ軍の情報を聞きたいな」

 「言うと思うのか」

 「日本人なんだろう。草加一等兵」

 「日本人ということで甘えるつもりはない。アメリカは法によって人権が守られている」

 「人権? 日本人はアメリカ人から人権を奪われているような気がするがね」

 「日本は、アメリカの法に縛られたいのか? 女々しいことを言うな」

 「ふっ アメリカは、金持ちを守るための法だろう」

 「金持ちになれるチャンスのある法だよ」

 「有色人種は差別される。金持ちになれる可能性は白人より少ないだろうな」

 「可能性なら日本の貧民層と変わらないよ。アメリカの方が可能性が高い」

 「せいぜい、金持ちになれるように頑張るんだな」

 「ああ」

 「もういい」

 「良いんですか? 大佐」

 「敵地で、これだけ突っ張れるやつは日本軍将兵でも少ない。殺すのも惜しい」

 「しかし、こいつは、祖国を売り、日本を裏切った」

 「好きで売ったとは言えまい」

 「それに日系アメリカ軍将兵が無様なのは、もっと気に入らん」

 「・・・確かに」

 

 

 昼ごろ到着したアメリカ機動部隊と戦艦部隊にトラック環礁は包囲されてしまう。

 レキシントンU 艦橋

 「艦砲射撃を受けたぐらいで降伏しやがって、根性無しが」

 「いえ、武装解除のあと。食料と水だけで、橋頭堡に放置されているだけのようです」

 「・・・降伏していないということか」

 「降伏していないのであれば、戦闘になれば巻き込まれるということです」

 「じゃ 再上陸を強行すれば?」

 「上陸部隊は、負傷者多数で戦闘に巻き込まれ、放置すれば・・・」

 「ちっ!」

 「日本側も、この機会を利用して負傷者を入れ替える気でいるようです」

 「ばかめ、備蓄が減るだけだ」

 「日本軍守備隊の抵抗は激しく。こちらの物資は、予定より早く消耗しましたから」

 「・・・提督。トラックの日本守備隊から通信です」

 「なんだ?」

 「トラック島周囲100kmの10日間の停戦と」

 「輸送船10隻分の物資で橋頭堡のアメリカ兵士の帰還を許しても良いと」

 「なんだと」

 「こちらの輸送船、LSTの船番を指定しています」

 「やろう、人の弱みに付け込みやがって・・・」

 「提督。船団は、増援部隊というより、上陸部隊への補給物資ですから」

 「武器弾薬、食糧も根こそぎですよ」

 「・・・・」

 トラック環礁から白旗を上げたランチがでると、

 アメリカ機動部隊の横をすり抜けていく。

 そして、輸送船に乗り付ける。

 「・・・物資の確認を急がせろ。罠が仕掛けられているはずだ」 日本軍将校

 「筒内爆発。毒入りの食糧もある。必ず確認するんだ」

 「はっ」

 「上陸部隊は、無事に帰還できるのでしょうな」 アメリカ軍将校。

 「重傷者から先に乗せますよ」

 監視で数人の日本軍将兵が輸送船に乗り込むと輸送船は、トラック環礁に入港。

 物資を春島に降ろすと金曜島に向かい。

 アメリカ軍捕虜3000人を乗せて離脱する。

 翌日、夏島に物資を降ろすと、

 金曜島に向かってアメリカ軍捕虜3000人を乗せて離脱する。

 あとは、その繰り返しで島を回っていく。

 

 LSTが春島にM4戦車、M3軽戦車、水陸両用戦車を降ろしていく。

 トラック守備隊は、M4戦車を動かし、所定の場所に移動させていく。

 吹き飛ばされた木材と枝葉ばかりの小島で隠れる場所もない。

 訓練する時間もなかった。

 「1隻当たり中戦車20両か、大したものだ」

 「これだけ、森林が吹き飛ばされているとM4中戦車も、M3軽戦車も隠れることもできませんね」

 「艦砲射撃で開いた穴がある」

 「砲塔だけ出して全部埋めたてろ。砲塔だけ地上に出せるはずだ」

 「脱出が困難になるのでは?」

 「それもそうだな。地下壕の上に置いて、戦車の床を打ち抜こう。地下壕に逃げられるだろう」

 「エンジンの吸気と排気は?」

 「砲塔を手動で回せるなら、全部埋めても良いよ」

 「おっ これは?」

 「水陸両用戦車のようです。日本の内火艇と似てますね」

 「こいつも埋め立てる方が良いだろう」

 「どうせ、地上においても爆撃と艦砲射撃でやられてしまうだけだ」

 訓練していなくても、完全に動かせなくても、砲塔の操作だけなら可能だった。

 艦砲射撃で開いた穴に戦車を配置すると日本兵が土嚢を投げ込んでいく。

 

 

 トラック環礁に二式輸送飛行艇 “晴空” が着水すると将兵が降りてくる。

 「来生シロウ少尉以下60名。春島に着任しました」

 「御苦労。途中で妨害はなかったかね」

 「いえ、アメリカ機動部隊は、停戦明けを狙っているそうです」

 そして、一人の上級将校が降りてくる。

 「・・・木下少将、小畑少将」

 「これは、これは、南雲中将。こんな最前線に何ようで?」

 「詰問だ。二人とも連合艦隊長官に対し “邪魔だから来るな” など、無礼であろう」

 「現場判断で不要だと進言しただけですよ」

 「これだけの損害を出してもか。勝手にアメリカ軍と停戦を行うなど越権行為だ」

 「ミッドウェー海戦ほど大きな損害ではないですな」

 「くっ・・・そんなことを言ってるのではない。手続きを踏めと言ってるのだ」

 「手続きを無視していません」

 「寝ぼけたことを言うな」

 「アメリカ機動部隊の攻撃は、本格的なものではなく。日本機動部隊の支援は無用と」

 「これだけ破壊されたではないか、それに上陸されたであろう」

 「撃退しましたよ」

 「いったい何を考えておる」

 「補充をお願いしますよ。トラックが必要なのは補充ですよ」

 「何を都合の良いことを・・・」

 「トラックの攻防で連合艦隊を擦り減らして、どうやって日本本土を守るというのです」

 「・・・・」

 「迫撃砲、擲弾筒をお願いしますよ」

 「・・・・」

 晴空が負傷兵を乗せて飛び去っていく。

 負傷者1人に3人が付くと計算すれば、弱小国日本は、それだけで危機に陥る。

 それでも、二式大艇を改造した晴空20機が停戦の間パラオとトラックを往復する。

 「南雲司令は、帰還しないので?」

 「次の便で帰る」

 

 

 将校たちがランチに乗って座礁した戦艦ミシシッピに向かう。

 「停戦の間は、無事帰還できると思いますよ」

 「有用な情報はあるかね」

 「観測員は必要ですが短20cm砲は良いようです」

 「ほう・・・」

 「塹壕の底に隠して撃ち上げれば、射程6500mの範囲を掃討できますよ」

 「あれは、対潜、対空用だと思ったが」

 「初速が小さく、射程が短すぎますね」

 「塹壕を狭くすれば射程が短くなりますが、空襲や艦砲射撃でも生存率が高くなります」

 「・・・マリアナでも有用かもしれぬな」

 「しかし、一番良いのは、地下道を移動させられる迫撃砲、擲弾筒でしょう」

 「アメリカ製バズーカは良くできてますよ」

 「戦車を撃破できるのかね」

 「当たり所が良ければでしょうか」

 「地下でのゲリラ戦は有効かね?」

 「要塞と地下壕が整備されていれば水際よりは良いようです」

 「ほかに有用なものは?」

 「やはり火力ですかな」

 「んん・・・」

 「もう、まともな大砲を作れなくなっているのでは?」

 「短20cm砲くらいなら国産工作機械でも製造できる」

 「製鉄所や発電機を動かす部品もですか?」

 「社会生活すら維持できなくなるのでは?」

 「厳しいな」

 「それに性能だけでなく、生産量を言ってるんですよ。火力は数ですよ。数」

 ミシシッピは酸素魚雷数十発で艦腹に大穴を開けられ、

 海岸に横たわっていた。

 「・・・酷いやられ方だ」

 「魚雷4本で海岸に乗り上げ、さらに15本以上が命中しています。こんなものでしょう」

 「穴を塞げば、それなりに使えるかもしれないな」

 「ええ、使えそうなものは、剥ぎ取ってます」

 「カリフォルニアは、20本以上命中して、もっと酷いようですが、使えそうです」

 「メリーランドは?」

 「魚雷を6本受けて乗り上げる前に横倒しで沈んでいます」

 「海面に出ているのは3m程度です」

 「扶桑、山城は?」

 「あちらは、魚雷による被害はなく。900kg爆弾と戦艦の砲撃で主砲塔が全壊です」

 「主砲で撃ち合う機会は、ほとんどなかったのだな」

 「ええ、ですが艦内もコンクリートと土嚢を入れてたので区画の3分の2は、使用可能です」

 「ほう・・・」

 「扶桑と山城にアメリカ戦艦の主砲弾を使わせられたので基地の損失を減らせました」

 「・・・マリアナに埋めた立て用の側溝を浚渫させている」

 「では、戦艦を?」

 「まだ準備中だ。機動部隊の護衛だけなら巡洋艦と駆逐艦でも間に合う」

 「確かに戦艦を守る護衛艦を空母の護衛に振り分けた方が有利ですがね」

 「埋め立てると攻勢で使えなくなる。砲台だけを設置したいがね」

 「その時間はないでしょう」

 「アメリカが損害の大きさに戦争終結を望んでくれれば、それでいい」

 「埋め立てた戦艦に数万発の砲弾を使わせれば、割特ですよ」

 

 

 トラック司令部。

 日本軍将校がテーブルを囲み、Cレーションが並べられていた。

 「・・・罠はないだろうな」

 「アメリカ兵士に毒見させているので大丈夫かと」

 「武器弾薬の方があやしいか」

 「いまのうちにガーランドとカービンに慣れておけよ」

 「しかし、停戦の間に飛行場を直しても、砲撃と爆撃を受けるだけでは?」

 「それにM4戦車、M3軽戦車はともかく、155mm砲まであるのは、どういう気ですかね」

 「金曜島から近くの島を砲撃するつもりだったのだろう」

 

 10日目

 最後の金曜島に物資が降ろされ。

 アメリカ軍捕虜の残り全てが輸送船に乗せられ、トラック環礁を離脱していく。

 トラック守備隊は、10日間で、アメリカ軍の軍事物資を使い基地を補強してしまう。

 

 

 アメリカ機動部隊と攻略部隊は、一時的にポナペまで後退。

 補充と修理を進め、再編成しつつ再度、トラック爆撃を開始する。

 ムスタング、サンダーボルトとB17爆撃機がポナペから出撃する。

 トラック基地は、10日間の停戦でも飛行場の再建が間に合わない。

 トラック爆撃が再開すると昼間爆撃でも反撃もままならず。爆撃されるがまま。

 軍事拠点としての機能は日に日に弱体化していく。

 そして、アメリカ機動部隊と上陸部隊がトラック沖に現れた。

 第1機動群

  空母(リプリサル、ヨークタウンU) 軽空母(ベロー・ウッド、バターン)

  重巡:ボストン、キャンベラ、ボルチモア 防空巡:オークランド、サンファン 駆逐艦14

 第2機動群

  空母(バンカーヒル、 ワスプU) 軽空母(モントレー、カボット)

  軽巡:サンタフェ、モービル、ビロクシー 駆逐艦12

 第3機動群

  空母(エンタープライズ、レキシントンU) 軽空母(プリンストン、サン・ジャシント)

  重巡:インディアナポリス 軽巡:バーミンガム、クリーブランド 防空巡:レノ 駆逐艦13

 第4機動群

  空母(エセックス、ホーネット) 軽空母(カウペンス、ラングレー)

  軽巡:ビンセンス、マイアミ 防空巡:サンディエゴ 駆逐艦14

 

 第7機動群

  戦艦:ワシントン、アイオワ、ニュージャージー、

      サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、ノース・カロライナ

  重巡:ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、ウィッチタ 駆逐艦14

 

 上陸作戦艦隊。

  アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニア、

  護衛空母16、護衛艦60隻、輸送船80隻、LST30隻。

 

 

 パラオ。

 大鳳 艦橋

 電文を持つ長官の手が小刻みに震える。

 「長官・・・」

 ひく、ひく、ひく

 「この期に及んでも “邪魔だから来るな” だと〜」

 

 

 トラック北西266km。ウルル島 (南北4.8km。幅20m〜700mのく字形)

 トラック航空部隊の残存機233機は、トラックから西北266kmの小島に避難していた。

 整備能力も兵站能力も乏しい小島は中継基地であり、対潜哨戒の基地。

 恒久基地と言えず。一時的な避難地に過ぎない。

 攻撃されると一たまりもない。

 少ない整備士、少ない治具、少ない燃料で、一度、飛ばせれば、恩の字。

 深夜

 「・・・やっと一通り飛ばせるようになったな」

 「機体よりパイロットの方が多いから。クジ引きで決めるそうだ」

 「そうか・・・」

 二式大艇4機に誘導されゼロ戦52型甲112機、ゼロ戦52型乙121機が出撃。

 南東へと飛び立っていく。

  

 

 レキシントンU 艦橋

 「発艦準備は?」

 「爆装で準備完了です」

 「上陸作戦部隊は、陽が昇れば、いつでも作戦可能なはずです」

 「パラオの日本機動部隊は?」

 「出撃する動きは、ないようです」

 「トラックは、孤立無援か。これで、チェックメイトだな」

 「日本が埋め立てているM4中戦車60両、M3軽戦車60両は、厄介ですが」

 「艦砲射撃の命中率は、あやしく。B17爆撃機も命中は見込めない」

 「しかし、艦載機の急降下爆撃なら撃破できるよ」

 「軍艦より小さな標的ですよ。当たるかどうか・・・」

 「数撃てば当たるだろう。夜明け前から爆撃してやる」

 東の空がうっすらと明るくなり始めていた。

 「発艦させろ!」

 「はっ」

 東の水平線から陽が昇ろうとしていた。

 その反対側から日本の零戦の編隊が現れた。

 そして、深緑色のワイルドキャット、ヘルキャットも押し寄せてくる。

 艦橋付近の高さにあるレーダーだと水平線は約25km先。

 その向こうに隠れた空域は感知できない。

 飛行高度が低ければ、発見されにくい。

 そのためにピケット艦と呼ばれる索敵用の艦艇を艦隊の周囲に配置していた。

 ピケット艦の数で哨戒域は変動し、

 前回の作戦の後遺症でピケット艦は少なかった。

 アメリカ機動部隊は、戦闘機を含め全機爆装で発艦しつつあった。

 日本のゼロ戦部隊、深緑のワイルドキャット、ヘルキャットは、最悪の状況で現れたと言える。

 アメリカ機動部隊がゼロ戦の編隊に気付くと空襲警報が発令される。

 「日本軍機だ。トラックの飛行場に爆弾を落としてやれ」

 「砲撃も開始だ。着陸させるな」

 アメリカ軍は、零戦が航続距離を落とし、ほかの性能を向上させていると見抜いており、

 アメリカ機動部隊は、日本軍機飛来の目的をトラックへの着陸と勘違いしてしまう。

 空母から発進した戦闘爆撃機は、艦隊防空よりトラックの飛行場に爆弾を投下していく、

 このタイムラグが致命的なほどアメリカ機動部隊を窮地に追い込んでしまう。

 ヘルキャットが爆弾を早々にトラックに投下。

 迎撃のため機動部隊上空へと引き返していく。

 しかし、日本軍機は、機動部隊を無視。

 向かってくるヘルキャット群も無視。

 上陸作戦部隊へと突入していく。

 上陸作戦部隊(護衛空母16、護衛艦60隻、輸送船80隻、LST30隻)186隻の半数が、

 トラック環礁に入り、上陸を開始しようとしていた。

 上陸作戦部隊の弾幕は、機動部隊のそれより弱く、

 ゼロ戦部隊の船団突入は容易だった。

 ゼロ戦が一番外側のピケット艦に体当たり・・・

 爆発する。

 さらにピケット艦の吃水線近くのやわらかい船腹に大穴が開くと海水が流れ込んで傾き始める。

 そして、日本軍機は、次々と、護衛艦、輸送船、LSTに体当たりしていく。

 その光景が続く。

 “何かの間違いでは”

 アメリカ軍将兵の視線が、まっすぐ輸送船に突入する深緑色のヘルキャットを追いかけ、

 そして、戦慄する。

 日本軍機は、輸送船に体当たりして爆発。

 日本軍機は、250kg爆弾を抱え気違い染みた体当たりを続ける。

 アメリカ軍将兵は、上陸輸送船団の壊滅を目の当たりにする。

 「Already stop it!!! (もう止めてくれ!!!)」

 アメリカ軍将兵は、狂気と恐怖で叫んだ。

 日本軍機233機のうち195機がアメリカ軍艦船に突入。

 日本軍機の体当たりで上陸作戦の全艦が阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 アメリカ海軍は30分に満たない攻撃で、

 艦船186隻と一緒に将兵26万を艦船ごと沈められる。

 南水道上の輸送船が沈むと艦船は出入りが不能になってしまう。

 アメリカ機動部隊は、環礁外の上陸作戦部隊の救助だけで身動きがとれない。

 アメリカ軍将兵26万人は、沈没する輸送船から海に投げ出されていた。

 アメリカ上陸作戦部隊も機動部隊も、

 武器弾薬から兵器まで投げ捨てなければ救助不可能な規模になっていた。

 レキシントンU 艦橋

 「・・・こんなバカな」

 「爆弾を抱えて自殺するなんて・・・」

 「急いで、将兵を救助を急がせろ、ポナペに撤収する」

 「提督。輸送船を南水道で沈められ」

 「環礁内のアイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニアは脱出できません」

 「環礁に閉じ込められました」

 「何と言うことだ・・・」

 

 トラック沖

 アメリカ機動部隊は、次から次へと弾薬を捨て、

 艦隊の周りに漂うアメリカ軍を救いあげていく。

 

 

 トラック司令部

 数人の将校が双眼鏡を覗き込み、沖合のアメリカ機動部隊を見ていた。

 二百数十本の黒煙が夜明けの空を焦がしていた。

 「良かったのですか? 爆弾を抱えての体当たり攻撃」

 「意地を張り過ぎたかな」

 「一騎当千のパイロットだったのですよ」

 「後退させてマリアナ防衛に注ぎ込んでも良かったのでは?」

 「キルレートでは勝ちだろう」

 「少なくとも日本軍は233人しか死んでない。アメリカ軍は十数万が失われる」

 「・・・少将。近海にいた伊号8隻が時間までに配置につけるそうです」

 「また5隻がトラックからポナペまでの航路上に到達できると」

 「そうか、夜までに救助できないと伊号の夜間攻撃だ。地獄だろうな」

 「甲板まで将兵を満載。救出を重視すれば、爆雷を捨てる事になります」

 「人命尊重ができるアメリカ軍が羨ましいな」

 「空母も艦載機を捨てる事になるかもしれません」

 「それは、楽しみだな」

 「パラオまで700kmです」

 「最大戦速で帰還すれば、潜水艦の測定は間に合わず、雷撃を免れるはずです」

 「まぁ 潜水艦戦は、当たるも八卦、当たらぬも八卦かな」

 空襲警報が鳴り始める。

 アメリカ機動部隊の空襲が終わってもポナペ島航空基地からの爆撃は、継続する。

 「やれやれ、爆撃か」

 「しかし、環礁内に何隻ぐらい沈んでいるんだ」

 「100隻くらいかと」

 「アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニアは、どうするんだろうな」

 沈没する輸送船100隻以上から溢れ出したアメリカ軍将兵16万が、

 アメリカ戦艦5隻の周りに集まっていく。

 武器弾薬輸送船が吹き飛ぶと、

 環礁内に紅蓮の炎を立ち昇らせ衝撃波が広がり、

 浪間に浮かぶアメリカ軍将兵を引き裂いて戦傷兵を漂わせてしまう。

 

 

 トラック環礁内

 アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニア、

 戦艦の周囲は、アメリカ軍将兵を満載した救命艇とアメリカ軍将兵が漂っていた。

 浅瀬に沈む輸送船やLSTは、甲板まで海水に浸かり。

 ほかの輸送船から泳いできたアメリカ軍将兵と、場の取り合いになっていた。

 押し合い溢れ返る甲板で、武器を所持すれば救助ができず。

 武器を捨てれば、その分だけ多くの将兵を狭い甲板に乗せられた。

 武器を所持していない状態で上陸作戦は自殺行為に等しかった。

 水陸両用戦車でさえ、救助したアメリカ兵の重みで沈みかけていた。

 

 戦艦コロラド 艦橋

 戦艦の広い甲板が救助したアメリカ軍将兵で溢れていた。

 「提督。最低4隻の輸送船が南水道を閉塞。完全に環礁内に閉じ込められています」

 「なんということだ・・・」

 「それと・・・将兵を救助した状態では、主砲を撃てません」

 「それくらいわかっておるわ」

 「しかし、爆弾を抱えたまま、飛行機に体当たりさせるなど信じられません」

 「・・・提督、日本側から通信です」

 「なんだ?」

 「周囲100kmの1ヵ月停戦と戦艦5隻を引き渡せば、将兵を救助してやるだそうです」

 「それと捕虜返還の方式は、前回に準ずるそうです」

 「いやだと言ったら」

 「潜水艦とか。小型艦艇が通過できる水道はあるそうです」

 「・・・・」

 「本艦も撃沈され、魚の餌でしょうか」

 「・・・・」

 B17爆撃機とムスタング、サンダーボルトの爆撃は続いていた。

 しかし、地下壕内に潜む、日本軍にまで届かず。

 撃沈された輸送船から溢れ出すアメリカ軍将兵は無力だった。

 

 

 トラック沖、アメリカ軍将兵9万の救出活動は、日が暮れるまで行われる。

 22:00 トラック沖

 第4機動群

  空母(エセックス、ホーネット) 軽空母(カウペンス、ラングレー)

  軽巡:ビンセンス、マイアミ 防空巡:サンディエゴ 駆逐艦14

 アメリカ機動部隊第4群は、伊号8隻の雷撃を受けた。

 伊号の接近をソナーで知っても救出作業中だった。

 しかも甲板はアメリカ軍将兵で溢れ、邪魔。

 さらに爆雷を捨てた駆逐艦は、速度を上げて逃げ回るしかない。

 そして、逃げた先にたまたま6隻の伊号がいた。

 たまたまというか、本能的なものと言える。

 西方側で、2隻の伊号をソナーで探知、速度を上げる。

 東側に逃げようとしたらポナペ側に回り込んでいた6隻の伊号に艦腹を見せただけ。

 ホーネット3本。エセックス5本、カウペンス4本、ラングレー3本の魚雷が命中。

 沈没していく。

 

 

 パラオ。

 大鳳 艦橋

 電文を持つ長官の手が小刻みに震える。

 「長官・・・」

 ひく、ひく、ひく

 「ゼロ戦233機に250kg爆弾を抱えさせて、アメリカ上陸部隊の艦船に体当たりさせただと・・・」

 「なんという、無茶を・・・」

 「護衛空母、護衛艦、輸送船180隻以上を撃沈」

 「環礁内に閉じ込められた戦艦5隻を除き、敵艦隊は撤収したそうだ」

 「長官」

 「それと、未確認だが空母2隻、軽空母2隻を撃沈したらしい」

 「・・・トラックは、この期に及んでも救援艦隊を要請しないのか」

 「沈没船をサルベージしたいから可能な限り掃海艇を送って欲しいそうだ」

 「手の開いている船は回せそうですが・・・」

 「それと、南水道が閉塞されているのでトラック守備艦隊はしばらくパラオに留め置きたいだと」

 びりっ

 

 

 トラック環礁

 日本軍のランチがアメリカ軍将兵を引き揚げて陸地へと運んでいく。

 戦艦コロラド 艦橋

 日本軍将校が海図を見て指示する。

 「戦艦5隻も奪うおつもりか。少佐」 提督

 「ええ、提督」

 「アメリカ軍将兵16万を無事、アメリカに帰国させたいのではないですか?」 日本軍将校

 「割に合わんな」

 「こっちもです。16万もの将兵を食べさせるだけの食糧も水もないというのに・・・」

 「Cレーションは缶詰。海の底から引き揚げれば、しばらくは生きていけるでしょう」

 「とりあえず。武器の所持は禁止」

 「区画の中にいれば、こちらは、攻撃しません」

 「あとは、アメリカ輸送船の物資。水、食糧、医薬品とアメリカ軍将兵を交換しましょう」

 「・・・日本軍にとって、都合の良い話だな」

 「それと提督。捕虜ではなく、武装解除している段階です」

 「アメリカが、輸送機に武器弾薬を搭載して、それをトラックに投下した場合・・・」

 「それが地上に届く前に大変な被害を受けると」

 「ハワイの司令部に伝えておいた方が良いでしょう」

 「それは、ご丁寧に・・・」

 「ところで、この艦のレーダーが壊されているように思えましたが」

 「きっと落雷でしょう。こっちに来る前に落ちましたから」

 「ほう〜 戦艦5隻ともレーダーが破壊されて、そばにハンマーが置いてあるのも偶然ですか?」

 「まったくの偶然ですな」

 「他にもいろいろと破壊されているようですが」

 「落雷でしょう」

 「・・・・」

 アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニア

 満潮時にトラック環礁内の浅瀬へと乗り上げさせられてしまう。

 アメリカ軍乗員は、退艦させられ、日本軍が乗り込んだ。

 捕虜と水の食糧の交換は、小型船舶で行われる。

 

 

 

 海底から引き揚げられた部品と武器弾薬の類は、一度、粗油の器に投げ込まれる。

 その後、海水を完全に拭き取って日干ししていく。

 こうしないと錆びるためで人海戦術でやるしかなかった。

 二式輸送飛行艇の晴空がトラック環礁に着水すると将兵が降りてくる。

 「臼井ゴロウ少尉以下60名春島に着任しました」

 「御苦労。途中で妨害はなかったかね」

 「いえ、アメリカ機動部隊は、マーシャルにいるそうです」

 そして、一人の上級将校が降りてくる。

 「・・・木下少将、小畑少将」

 「これは、これは、南雲司令。このような最前線に何ようで?」

 「貴様〜!!」

 南雲中将が木下・小畑の襟首をつかむ。

 「この人殺しが〜!」

 「南雲提督〜 軍人を人殺しと責めるのは、理不尽でしょう」

 「ふざけんな!」

 「戦闘機に爆弾を抱えさせて敵艦に体当たりさせる将校がどこにいるか!」

 「いや、パイロットたちは話せばわかってくれましたよ」

 「防空戦ばかりで後ろめたかったのだろうな」

 「わざとそういう風に持っていったのだろう!」

 「そんなぁ 酷いですよ、南雲提督」

 「トラック航空部隊の戦死者は、ビアク航空隊より少ないですよ」

 「迎撃ばかりで攻撃させなかったからだ!」

 「今度の戦死者を含めても、まだトラック航空部隊の方が少ないはずですよ」

 「と、とにかく、あのような体当たり命令は許さんぞ」

 「そ、それはともかく。補充は?」

 「停戦の間に可能な限り、将兵を入れ替えてやるそうだ」

 「それは良かったですな」

 「お前たちは、どうするのだ?」

 「どう、といいますと?」

 「最前線も長かろう。正規空母2隻、軽空母2隻の撃沈も確認した」

 「「・・・・」」

 「赤レンガに行ってもかまわんということだ」

 「いやあ、敵艦船にパイロット233人も体当たりさせて、いまさら赤レンガに行けませんよ」

 「・・・そうか」

 「1ヵ月あれば、トラックも再建できるはずですよ」

 「アメリカの戦艦5隻は?」

 「浅瀬に乗り上げました。いま、土嚢で埋め立てています」

 「セメントがあれば、艦内もコンクリートを入れられるのですが」

 「本気で5隻も埋め立てるつもりか?」

 「ええ」

 「・・・爆弾を仕掛けているということはないだろうな」

 「弾薬庫にはありませんでした。残りの区画も現在調べています」

 「だと良いがな。使えるのか?」

 「使い方は教わっていませんが大砲だけならなんとか」

 「トラックは、1ヵ月でどこまで再建できる?」

 「大型艦船は、環礁内に入れる水道がないので微妙ですね」

 「沈んだアメリカ軍の輸送船は、御宝の山なんですがね」

 「小型船舶は送り込める。セメントと鉄筋ぐらいは、運び込めるだろう」

 「停戦は周囲100kmですよ。南雲提督」

 「わかっておる」

 

 

 トラックの将兵が30000を超えたのは、久しぶりで60000に増強されていく。

 基地増強の工期は、可能な限り早くを終わらせる方が良かった。

 エバリッテ水道の機雷源を掃海し、新たな主要出入り口にしてしまう。

 そして、環礁内で沈んだアメリカ輸送船から物資を引き揚げると、

 トラックの戦力増強に直結する。

 戦艦コロラド 艦橋

 「どうかね。アメリカ戦艦の乗り心地は」

 「動かせないのが辛いです」

 「タダの要塞だよ」

 「艦内にもコンクリートを流し込むので?」

 「そのつもりだ」

 「惜しいとは、思われないのですか?」

 「“陸長” だからな」

 「日本の戦艦よりタフそうに思えますが」

 「コンクリートを隔壁に流し込めば、もっとタフになるだろう」

 「トラックは、最強の要塞になりそうですね」

 「防空ではどうかな」

 「あるだけの対空砲台を持ってくるそうです」

 「ほとんど破壊されていたから助かるね」

 「ゼロ戦62型が来るはずです」

 「使えるのか?」

 「自動空戦フラップ、層流翼、3式13mm機銃を採用しています」

 「機体も再設計されて、本格的な迎撃型と言えますね」

 「層流翼は失速しやすいと聞いたが」

 「自動空戦フラップは失速防止で良いようです」

 「ですが、馬力はそのままですので、速度はほとんど変わりません」

 「ですが13mm4丁は良いようです」

 「爆撃機相手だと微妙だな」

 「500機がこちらに配備されるはずです」

 「ちゃんと飛ぶだろうな」

 「南方資源の輸送は何とかうまく行ってますが、工作精度は低下しているようです」

 「沈んだアメリカ輸送船が宝船に思えるよ」

 「エンジンオイルとプラグ、無線機くらいはあるだろう」

 「浮上できる船も多いとか」

 「50隻くらいは浅瀬に沈んでいる」

 「船腹に直径3m程度の穴があいているだけだ」

 「穴を塞いで海水を外に捨てれば浮くだろうな」

 「よくもまあ、これだけの戦果を出したものです」

 「空母と戦艦は狙わないのですか?」

 「狙わせたのは、成功率の高い護送船団だ」

 「防御力の高い戦艦や空母を狙っても無駄死にだよ」

 「ベテランパイロットを突入させたことを上層部が怒っているようです」

 「重要なのは損失比だよ」

 「1機で1艦ならアメリカ軍の攻勢は躊躇する」

 「素人パイロットで成功率が低いと舐められる」

 

  馬力 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続力 武装 武装
ゼロ戦52型甲 1130hp 2140kg/2424kg 9.12×11×3.57 21.3u 569 600km〜1600km 20mm×2 7.7mm×2
ゼロ戦52型乙 1130hp 2140kg/2424kg 9.12×11×3.57 21.3u 569 600km〜1600km   7.7mm×6
ゼロ戦52型丙 1130hp 1890kg/2824kg 9.12×11×3.57 21.3u 559 1600km〜2600km 20mm×2 7.7mm×2
ゼロ戦62型甲 1130hp 2180kg/2600kg 9.10×11×3.57 21.3u 570 600km〜1600km 13mm×4  
ゼロ戦62型乙 1130hp 1900kg/2900kg 9.10×12×3.57 21.3u 560 1600km〜2600km 13mm×4  
                 
                 
ヘルキャット 2000hp 4190kg/5714kg 10.24×13.63×4.11 31u 612 1520km〜2500km 12.7mm×6  
ムスタング 1695hp 3460kg/5490kg 9.83×11.28×2.64 21.65u 703 〜3350km 12.7mm×6  
サンダーボルトD型 2540hp 4850kg/8800kg 11.02×12.42×4.47 27.87u 697 〜3060km 12.7mm×6  
                 

 

  

 重慶から飛び立ったB29爆撃機が八幡製鉄所を爆撃50戸が被災に遭う。

 

 

 赤レンガの住民たち

 「艦砲射撃とか、空爆って、そんなに酷いのか?」

 「トラックじゃ トーチカや塹壕内の大砲の大半が上陸作戦前に吹き飛ばされてしまったらしい」

 「んん・・・やはり、橋頭堡を吹き飛ばせるような大砲が良いな」

 「命中精度に拘っていないなら。だいたいで良いんじゃないのか。臼砲は?」

 「だけど、アメリカと違って、日本は無駄弾撃てないよ」

 「当面、必要なのは、パラオ、ビアク、グアム、サイパン、ロタ、テニアン、硫黄島の7島だろう」

 「一つの島に短20cm100門と計算すると、700門」

 「トラックに空輸している墳進砲が良いかもしれない」

 「しかし、ゼロ戦も必要だし」

 「対空砲台も欲しがっているし、そんなに予算ないよ」

 「無駄な物を造り過ぎたかな」

 「それは言える」

 「信濃も雲竜型も建造できず、資材を島礁要塞に注ぎ込んでいるぞ」

 「鋼材だけでも5万トン。コンクリートは、その10倍近い。何を考えているんだか」

 「沈まなければ良いというものでもないがな」

 「輸送船が、それなりに残っているのが良いと思うよ」

 「しかし、日本の輸送船と潜水艦の被害は増えている」

 

 

 08月06日 ベニントン

 

 アメリカ軍将兵が返還用の輸送船に乗せられ、日に日に減少していく。

 ブルドーザーが滑走路を整地すると、

 ウルル島からトラック航空部隊が飛来して再編成されていく。

 日本海軍がさして強力でもないゼロ戦に拘ったのは迎撃戦闘機に改造したこと。

 軽量な艦載機は離着陸距離が短くて済み、

 滑走路が爆撃されても継戦能力を維持できたことがあげられる。

 トラック航空部隊再建は、アメリカ軍にとって脅威だった。

 しかし、人質返還で攻撃が見送られる。

 そして、トラック最大の障害は、アイダホ、ニュー・メキシコ、

 テネシー、コロラド、ウェストバージニアの戦艦群が埋め立てられていたことだった。

 地下壕は広げられ、

 M4戦車を埋めた強靭なトーチカが造成され、

 トラックの防衛力は著しく向上していた。

 

 引き上げられた部品は粗油で洗われ、海水が拭き取られていく。

 天日干しのあと同じ部品、同じ武器弾薬に振り分けられ、地下壕へと運び込まれていく。

 日本軍将兵が集まって魚を焼き。

 輸送船から拾い上げたCレーションの缶詰を開けて食べる。

 Cレーションの肉食は日本人に喜ばれた。

 魚料理は、水没者が多く、気持ち的に微妙だったりする。

 「次の便で帰還しろだってよ」

 「もう、飯がないってか」

 「随分、米を運んだはずだがな」

 「毎日、消費するからね。こんな島じゃ自給自足は辛いし、将兵を減らしたいんだよ」

 「やっぱり、3万人くらいが限界かな」

 「だけど、配備されたパイロットたちは青い顔してたぜ」

 「そりゃ 爆弾抱えて敵艦に突っ込め、じゃな」

 「目標が戦艦や空母なら気分も良いけど、護衛艦や輸送船だぜ。泣きたくなるんだと」

 「250kg爆弾じゃ 戦艦や空母は撃沈できないから無駄死にだろう」

 「体当たり向きは、ゼロ戦より、ワイルドキャットとヘルキャットらしいよ。頑丈だから」

 「だけど、あの攻撃は、軍上層部から詰問受けたそうじゃないか」

 「でも司令官はトラックに在任だぞ」

 「軍上層部が、そのまま陸長を在任させるのは、戦果があるからだろう」

 「それに “陸長” 二人は、あの体当たり攻撃命令を出さない、と言ってないぞ」

 「南雲中将は言ってたけどね」

 「士気を鼓舞して自分の首を絞めちゃ駄目だろう」

 「そりゃ 南雲提督は、パラオに帰れば自分の首じゃなくなる」

 「最前線に残る “陸長” は体当たり命令を出さない、なんて口が裂けても言わんよ」

 「大本営は、ええ格好しいだな」

 「汚い仕事を現場にやらせて自分の成果にするんだ」

 「この順送りを続けられたら人格が拗けそうだよ」

 「まぁ ちょっと、どうかなって気もするが “陸長” は、二人とも、まともだよ」

 

 

 トラック飛行場

 数人の日本軍将校が見守る中、

 三式指揮連絡機とゼロ戦62型が飛び立っていく。

 「62型は、少し離着陸距離が長くなってないか」

 「重量が増したのにエンジンの馬力が同じだからだよ」

 「なに考えているんだか」

 「層流翼の弊害ですよ」

 「重量が増しても時速が1kmほど上がったのは、そのせいです」

 「微妙だな」

 「格闘性能は、自動空戦フラップのおかげで素人向きです」

 「ベテランは?」

 「手動でやりたがるでしょうね」

 「兵器と武器弾薬は、平均的な部隊に合わせて作るものだ」

 「子会社じゃあるまいし、ベテランに合わせて戦争ができるか」

 「どちらにしろ、低空戦に引き込んで、上昇力で反撃する戦法だと微妙ですかね」

 「13mm4丁は悪くないです」

 「捕獲したアメリカ製の部品と燃料、エンジンオイルで、どこまでやれるかだな」

 「2、3kmは増速できるそうですね」

 「最大速度より、エンジンの噴き上がりが全く違う。当然、機体の機動でも無理が利く」

 「なるほど、アメリカ輸送船は、宝船ですか」

 「ええ」

 「それより彗星爆撃機を配備してはどうです。体当たりしなくても戦果が挙げられる」

 「ビアク航空部隊は、戦果がありましたかな?」

 「・・・・」

 「アメリカはレーダーとソナーで、こちらの動きを把握している」

 「こちらから不利な戦場に飛び込むのは愚策ですよ」

 「しかし、アメリカ軍は増強され続けている」

 「このままだと戦力差が広がり過ぎて、一気呵成でやられてしまうのでは?」

 「そういう作戦が望みでしたらパラオ、マリアナでやればよろしかろう」

 「トラックではやりませんな」

 「ポナペに攻撃を仕掛けるなど、飛んで火にいるなんとやら」

 「戦果を拡大できるのでは?」

 「キルレートで負けては、戦果と言わんでしょう」

 

 

 アメリカ太平洋艦隊は、二度のトラック上陸作戦失敗で用心深くなっており、

 停戦明けでも、すぐ攻勢を仕掛けてこなかった。

 なにより体当たり攻撃で、輸送船団が壊滅したショックは大きく戦意を保てない。

 艦隊は強靭な戦艦や空母だけで構成されていない。

 吃水線下に250kg爆弾が命中すると沈没する艦船が多く、

 駆逐艦、護衛艦、輸送船、LSTの乗員は怖じ気づく。

 当然、上陸作戦部隊も同様だった。

 救助できた将兵がもっと少なければ、さらに戦意が低下し、

 上陸作戦遂行が不可能と思えるほどだった。

 

 ポナペ 司令部

 日系兵士が質問されていた。

 「トラックの防衛戦術をどう思うかね」

 「・・・王を射んとすれば飛車を射よ、ですかね」

 「トラック守備隊の次の手は、思い付くかね」

 「さぁ 戦艦5隻を埋め立てて、ゼロ戦で防空できれば、それでヨシなのでは?」

 「発想は、穴熊でしょうか」

 「アナグマ・・・」

 「日本将棋の定石です」

 「特徴は?」

 「防戦に徹して、相手の陣形が崩れたときに反撃です」

 「その戦法は使われやすいのかね」

 「いえ、普通は攻守のバランスが取りやすい矢倉囲いとか、美濃囲いが主流です」

 「戦力の少ない日本軍が穴熊を選択するのは定石かね」

 「あり得ると思います」

 「・・・わかった。下がってくれ」

 日系兵士が敬礼すると下がっていく。

 「・・・あの体当たり攻撃は参ったな」

 「近くの小島に避難させていたトラック航空部隊のようです」

 「しかし、あれほどの被害を出してしまうとは・・・」

 「ベテランパイロットだったそうで的確に吃水線下に突入されました」

 「おかげで将兵が脅えて、戦意を維持できん」

 「どれだけ多くの戦力と兵站を維持できても・・・」

 「前線で小銃を構えるのは兵士ですからね」

 

 

 09月15日シャングリラ

 

 

 トラック諸島

 蒼空が広がっていた。

 いくつもの小さな白い点が島を通過していく。

 高度が高過ぎるとエンジン音も聞こえない。

 何の前触れもなく環礁内の海面が爆発して海水を噴き上げ、

 それが環礁内で連続して起こる。

 高度1万メートル以上から投下された爆弾は加速がついて音速に近づく。

 大気を切り裂く音が聞こえても逃げ出す前に爆発に巻き込まれる。

 島にこの爆弾が落ちると大地にめり込みながら爆発する。

 地下30メートルの大穴を空け、

 周囲に土砂を撒き散らし、木々を薙ぎ倒した。

 そして、砂塵と粉々の木片を島全体に散らばせてしまう。

 日本軍将兵は、恐怖に脅えながらも鉄筋コンクリート製トーチカを建設していた。

 日本軍兵士がコンクリートを叩く。

 コツ! コツ!

 「どうだ?」

 「んん・・・まだ7割くらいかな。コンクリートが完全に固まるまで1ヵ月くらいかかるよ」

 「鉄筋も、セメントも、持ってくるのが遅すぎるよ」

 「それまで直撃を受けたくないな」

 「最近は、夜間爆撃か、1万メートル以上からの爆撃で。それも900kg爆弾だ」

 「数が少ないと当たらないよ」

 「なに考えているんだか」

 「1万メートル超えるとゼロ戦隊は手も足も出ないってよ」

 「逆に爆撃機に撃墜されるらしい」

 「戦艦5隻を狙っているんじゃないか、大半が海に落ちてるし」

 「聞いた話しだと排気タービンとか、2段過吸器を装備しないと高度1万メートルまでいけないそうだ」

 「夜もレーダーがないと駄目」

 「何で造らないんだ」

 「造れないそうだ」

 「こりゃ 駄目かな」

 「爆弾が直撃だと地下壕も破壊されるかもな」

 「地下壕の底を削って、天井にコンクリートを補強しているらしいよ」

 「しかし、酷いよな。島の反対側が見えるなんて破壊され過ぎだよ」

 「森が広がっていたなんて信じられないね」

 「そういや、3式高射砲を持ってくるとか、言ってなかったか」

 「八幡がB29に爆撃されて、迷っているんじゃないか」

 「こっちに持ってこいよ。進入コースは限られているし、その分、当たりやすいし」

 「都市は、大き過ぎて対空砲火の弾幕は薄くなる、守り切れないよ」

 

 

 

 10月09日ランドルフ

 

 アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニア。

 アメリカ戦艦は鉄筋コンクリートで覆われ、土嚢で埋め立てられていく。

 内隔壁は、鉄筋とコンクリートが流し込まれて扶桑・山城以上に強化されていた。

 アイダホ 艦橋

 50口径356mm3連装4基は、扶桑型より優れた海上要塞になろうとしていた。

 あちらこちら壊されていたが、ほぼ修復、砲塔も自由に動かせる。

 「電気式駆動タービンをようやく把握か」

 「工業レベルの差を思い知らされますよ」

 「どの道、的で破壊されるはずだから技術だけで手に入れられればいいよ」

 「時々、投下される900kg爆弾は、怖いです」

 「アイダホは、舷側 343mm、艦橋406mm、主砲防盾457mm、天蓋127mmだが甲板は89mmだ」

 「まともに当たれば、一発で大破だろうな」

 「艦底から空き区画を鉄筋コンクリートで詰め込んでいる」

 「甲板上も天蓋も鉄筋コンクリートを張って、甲板上だけでも2mから3mの厚みになるはず」

 「艦内区画の鉄筋コンクリートの厚みを足せば装甲を挟んで5mから6mの鉄筋コンクリートでしょうか」

 「防御力だけなら大和以上になるはずだ」

   ※ 大和 舷側 410mm 艦橋500mm 主砲防盾 650mm 甲板 200mm〜230mm

 「イギリスがトールボーイという徹甲爆弾を開発しているそうだ」

 「それで破壊されるのですか?」

 「爆弾の種類にもよるがね」

 「重要なのはアメリカ軍の攻撃手段を狭め、高々度からの爆撃を強いる、それだけで成功だよ」

 「ですが、爆撃されるがままというのが悔しいですね」

 「高々度戦闘機のしわ寄せで、ゼロ戦の数が減らされると数に任せて押し切られる」

 「それなら高々度から好きなだけ爆撃させればいい」

 「反発されそうですよ」

 「嫌がらせされただけでキレて、自滅するよりマシだ」

   

  

 11月26日ボンノム・リチャード

 

  12月07日 東南海地震が発生。

  12月10日 日本軍、大陸打通作戦を完了。

 日本は、南方資源を輸送できても製鉄、加工、生産の段階で精度を落としていく。

 

 

 軍属たちの晩餐

 「海軍はゼロ戦62型ばかりか」

 「陸軍も隼3型が稼働率が良いようだ。疾風は稼働率が低い」

 「地震のせいで、工作機械の割り振りが利かなくなっている」

 「トラックの “陸長たち” は、大和、武蔵、長門、金剛型4隻も埋めてしまえ、だとよ」

 「あの “陸長たち” が言いそうだな」

 「海軍は、踏ん切りがつかないから後回しにしているだけで準備しているがね・・・」

 「まぁ 日本を守るために戦艦があるのであって、戦艦を守るために日本があるわけじゃなし」

 「セメントは?」

 「鉄筋とセメントはトラックを優先しているよ」

 「微妙に遅れているのは嫌がっている戦艦の艦長たちのせいだろうけど」

 「トラック守備隊がアメリカ旧式戦艦7隻を片付けているだろう」

 「艦隊戦ができるかもと、期待してるかもね」

 「内5隻は奪ってるし」

 「よくよく考えると凄いな。人質も多い。返しているけど・・・」

 「対米戦で人質は有用だよ」

 「工作艦明石の工作機械もトラックに取られたらしいよ」

 「しわ寄せがこっちに来ている」

 「沈没船を引き揚げを急がせたいからだろう。こっちにもうまみはある」

 「しかし、一番良い工作機械を盗んでいきやがる」

 「戦果をあげたから文句は言いにくい」

 「トラック守備隊単独であそこまでやれるとは・・・」

 「あそこ、アウトローだから評価対象外にされやすいけど対米戦の戦果で最大級」

 「認めたくないものだな。保身ゆえの過ちというものは・・・」

 

    

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 月夜裏 野々香です。

 やれやれな戦局、

 じり貧ですが日本本土は、どうなって行くのでしょう・・・

 

 

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第02話 1943年 『もう、縮み思考たい』
第03話 1944年 『トラック島攻防戦』
第04話 1945年 『取捨選択』