月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 

 第04話 1945年 『取捨選択』

 

 01月13日 三河地震

 01月28日 アンティタム

 アメリカ・イギリス連合軍がアンダマン諸島占領

 

 

 トラック諸島

 双発哨戒機 東海 が環礁の周りを旋回していた。

 磁気探知機を装備し、

 上手く上空を通過できれば潜航中の潜水艦を発見できた。

 窓ガラスが大きいため見晴らしがよく、

 低速での運動性も上々、爆撃の命中率も見込めた。

 「この機体は悪くないと思うがね」

 「悪くないよ」

 「しかし、アメリカは電探を装備した4発爆撃機で潜水艦の潜望鏡を探知できる」

 「こっちは、ほぼ真上を通過しないと駄目だし、負けてるかもな」

 「まぁ 味方の伊号を撃沈しなければ良いよ」

 「しかし、環礁の内も外も、いっぱい沈んで反応ばかり、よくわからんな」

 「環礁の外も浅ければ、船をサルベージするらしい」

 「よっぽど、資材に困っているんだな」

 

 

 トラック諸島。

 弾薬と鉄錆の臭いが漂い。

 魚が腹を見せ重油の混ざった海面に浮かぶ。

 タロイモ、ヤムイモ、バナナ、キャッサバ、サトウキビ、ココヤシ(コプラ)、

 ココナッツ、ベテルナッツ、カヴァ・・・

 作物の多くが壊滅していた。

 永久磁石を付けた棒を捕獲したジープが引っ張っていくと鉄材が集まっていく。

 日本軍将兵と慰安婦が廃材、破弾片を集め、作物の種を埋めていく。

 長期戦になると重要になるのが衣食住で健康第一。

 さらに戦闘に必要な兵站も確保しなければならない。

 兵站の弱い日本軍は、好むと好まざるとにかかわらず、自給自足を目指した。

 掃海艇16隻がアメリカの輸送船22隻、護衛艦13隻をサルベージし、浮上させていた。

 その物資が日本軍の兵站を支える。

 潜水ヘルメットを被った数体の潜水服が海面に浮上する。

 「どうだね」

 『深度は23m。30から40m以内であれば潜水服で潜ってサルベージできますよ』

 『鉄板で穴に蓋をして空気を送り込めば、浮上できるでしょう』

 「中身は?」

 『M4戦車です』

 「LSTか。悪くないな。本当は、輸送船の方が良いが穴を塞いで浮上させよう」

 数体の潜水服が潜っていく。

 「250kg爆弾で良かったな。穴が小さい」

 「上陸作戦前で満載だったから沈みやすかったのだろう。不幸中の幸いかな」

 「確かに不幸だがね」

 「敵艦隊に233機も体当たりさせたんだ」

 「形見と思って、可能な限り引き揚げてやろう・・・」

 護衛船団が入港してくる。

 「大本営からの輸送も増えているようだ」

 「浮上させた船と資材が欲しいのだろう」

 「トラック輸送の見返りがあるわけか。大本営もゲンキンだな」

 「輸送船が減っているのにトラックに物資を輸送するのは、そういうことだろうな」

 「しかし、日本や南方にM4中戦車を持っていくとしてもだ。重すぎて使いにくいだろう」

 「だよな。M3軽戦車の方が軽くて使いやすい」

 「明石から工作機械をトラックに降ろさせたのだからトラックの自立能力も高いだろうな」

 「爆撃されても良いように夏島の山を刳り貫いて工場とか、格納庫を建設しているらしい」

 「修理用ドックも建設するだろうな。平時にやっておけばいいものを・・・」

 「戦艦を5隻も埋め立てて要塞にしているくらいだから」

 「大本営もトラックの防衛に期待しているかもね」

 「トラックの防衛に甘えて大本営が根腐れしなければ良いが・・・」

 「いや、それ、手遅れだから」

 

 

 

  2月

 クリミア半島ヤルタで英米ソ首脳会談(ヤルタ会談)。

 事務レベルの会話

 「アメリカとイギリスも、日本軍相手に梃子摺っていないか?」

 「日本は政治・経済・外交全てで追い詰められている。長くないよ」

 「政治戦略の劣勢を戦術レベルで覆すことはできない。時間の問題だ」

 「時間? 年月の問題では?」

 「戦術で墓穴を掘らなければ時間稼ぎはできるさ。だが、年月の問題だ」

 「日本はともかく、いつまで戦えますかな。アメリカは・・・」

 「・・・・」

 

 

 産業を維持する資源も、社会基盤も、科学技術も、工業力もない砂上の楼閣。

 それが日本だった。

 近代化で背伸びするほど、余計に資本を必要とし、

 人権蹂躙、搾取、簒奪など間引きしないと、衣食住が不足し、社会が崩壊する。

 そんな国、

 そして、例え、貧しくても、

 さらに資本、資材、人材、土地、食糧を集約しなければ社会基盤を整備できず。

 貧富と階級格差が拡大し、

 貧しい国であるほど、爪を灯すほど追い詰められてしまう。

 公共設備に投資すれば延命を図れた。

 しかし、軍部と軍属は結託して利益誘導で勢力を拡大。

 抹殺テロで恐喝し、暴走を繰り返して権益を拡大。

 借金先送りの軍事費が増大し財政破綻。

 自己矛盾を解決することもできず自暴自棄で大陸侵略。

 日本社会は、餓死するか、病死するしかない状態にまで追い込まれ、

 無謀な対米英ソ連合相手の戦争で、最悪の国際情勢を解決しようとしていた。

 航空機開発と生産は、高度な工業力を必要とするあまり、

 資本、技術、工業力の粋を極度に集約し、

 日本の国力を擦り減らし、疲弊させてしまう。

 高度な外国製工作機械は失われ、精密加工は不可能になっていく。

 そして、トラック航空戦術の影響は、兵器生産にも影響を与えていた。

 貧しいゆえの少数精鋭思想より、

 最大公約数的な質と量で機体を揃える趣向が強くなっていた。

 海軍は、栄、金星、火星のエンジンに集中し、

 機体も生産性の向上が図られていく。

 おかげで、ゼロ戦62型は、高い稼働率と生産量を保っていた。

 一方、日本陸軍は、順調に航空機開発を進めていた。

 技術者と工員が違うように技術力と工業力も別モノだった。

 開発能力に工業力が追いつかず稼働率を維持できなくなる。

 

 トラック 春島飛行場

 内地で不良機体だった疾風が快調に飛び立っていく。

 陸軍は、疾風の稼働率の低さに業を煮やしてトラックに配備。

 海軍預かりとなってしまう。

 そして、アメリカ製の燃料、部品、オイルを流用しただけで疾風の性能が跳ね上がる。

 もっとも、翼面過重185.24kg/u。馬力過重1.972kg/hpは、離着陸距離で問題大ありだった。

 数人の陸海軍将校が見上げる。

 「ほう・・・悪くない。ムスタングみたいだ」

 「疾風が性能を発揮できるのはトラックだけでしょう」

 「機体重量に対し、主脚が弱くないか」

 「あと、離陸で300から400m。着陸で700から800mか」

 「駄目だな・・・」

 「ゼロ戦は、その半分以下で済みますからね」

 「山を刳り貫いた滑走路が使えれば、爆撃されても離着陸できるでしょう」

 「せいぜい、格納庫の段階だよ。まぁ 防空の足しになりそうだが・・・」

 「日本最高の戦闘機です」

 「しかし、高々度からサッチウィーブを受けると疾風でも危ないだろう」

 「それでも、一方的にやられることはないと思います」

 「トラックでは基地を爆撃させて」

 「低空に降りたムスタング、サンダーボルトと戦う戦術を執っている」

 「そうそう、低空性能や離着陸距離が問題になるよ」

 「エンジンの調子さえ良ければムスタングと高々度で張り合えて、サッチウィーブも防げますよ」

 「迎撃機で使うなら疾風の燃料を減らして軽量化、もう少し速度が上がるでしょう」

 「プロペラが3.05mでゼロ戦と同じか」

 「馬力が大きいのだから大きなプロペラにした方が良くないか」

 「速度より、加速を取ったので・・・」

 「トルクが小さいから、プロペラが小さいのも選択のうちだけどね」

 「加速より、離着陸距離をとれよ。着陸できずパイロットに死なれると惜しい」

 「飛行場の爆撃も軽減できるはず」

 「アメリカ軍機の狙いが的の小さな戦艦に向いているのなら。低空に降りてくると思うが」

 「いまは、嫌がらせの高々度爆撃か、夜間爆撃ですよ」

 「高々度爆撃なら疾風は有用かと」

 「嫌がらせは、上陸作戦部隊の準備が遅れているからじゃないか」

 「この前回、前々回の失敗で懲りているのかもしれません」

 

  馬力 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続力 武装 武装
ゼロ戦62型甲 1130hp 2180kg/2600kg 9.10×11×3.57 21.3u 570 600km〜1600km 13mm×4  
ゼロ戦62型乙 1130hp 1900kg/2900kg 9.10×12×3.57 21.3u 560 1600km〜2600km 13mm×4  
                 
疾風 1825hp 2698kg/3890kg 9.92×11.24×3.38 21u 689 1400〜2500km 20mm×2 13mm×2
                 
                 
ヘルキャット 2000hp 4190kg/5714kg 10.24×13.63×4.11 31u 612 1520km〜2500km 12.7mm×6  
ムスタング 1695hp 3460kg/5490kg 9.83×11.28×2.64 21.65u 703 〜3350km 12.7mm×6  
サンダーボルトD型 2540hp 4850kg/8800kg 11.02×12.42×4.47 27.87u 697 〜3060km 12.7mm×6  
                 

 そして、内地で、もう1機種が開発されていた。

 福岡飛行場

  馬力 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続力 武装 武装
震電 1850hp 3525kg/4950kg 9.8×11×3.5 20u 720 1000〜1600km 20mm×2 13mm×4

 海軍は、無理せず火星エンジンを採用したことでエンテ・カナード型戦闘機の開発が進む。

 細めの機体中央に左右の吸気口が機尾の空冷エンジンに送られエンジンを冷却する。

 日本海軍の希望ともいえる震電は、疾走し加速しながら上昇していく。

 「ほぉ〜 さすが爆撃機のエンジンだけある」

 「問題は数だね。脱出はどうするの?」

 「いまは、プロペラの付け根を爆破する」

 「弾が当たったら落ちるな」

 「射出座席も検討している」

 「エンジンは、アメリカ製のダブルワスプ、サイクロン、パッカードがある」

 「それで造っても良いかもしれないな」

 「トラックは、モノがあるからね」

 「アメリカ製エンジンだけで1500基くらい持ってきた」

 「現地で使う分は問題ないけどね」

 「軍属派閥とか、利権とか、面子とか、風当たりが強くなるからな」

 「面子や利権で国を滅ぼすなよ」

 「敵国の力を削いで自国の力を上げる一番の早道は、海賊行為なんだけどね」

 「トラックは、つまらないナショナリズムに支配されていないからな」

 「村八分も怖くないとか、社会的投身自殺できる気質って良いよね」

 「嫌われやすい性格だな」

 「戦果があると何でもできるよ」

 「地下工場を広げて海底から物資を引き揚げるからって」

 「工作艦明石の工作機械も盗ってしまうし・・・」

 「日本は、戦争で負けるより、村八分の方が怖いからね」

 「日本人は、粘り強く戦うより、威勢良くパッと散る方が好まれるから」

 「花火か?」

 「なんか、堪え性無しでキレやすい気質だな」

 「戦争に負けそうな性格だよ」

 「しかし、こいつの雷撃機型も欲しいな」

 「プロペラが邪魔になるんじゃないか」

 「速度を落としながら投下すればいいんじゃないか」

 「んん・・・翼面積が足りな過ぎる」

 

 

 ポナペ島

 サンゴ礁を破壊して港湾を整備、巨大な軍事拠点が建設されていた。

 飛行場にはB17、B29爆撃機。ムスタング、サンダーボルトが翼を連ね。

 離着陸を繰り返していた。

 穴の開いたB17爆撃機の回りにアメリカ軍将校が集まり、

 眉間にしわを寄せていた。

 「フランクのトラック配備で戦闘機や爆撃機の損失が増えている」

 「ビルマ戦線、ビアク戦線のフランクは、もっと弱いと聞いたが。信憑性があるのか?」

 「いま、パイロットを交換させて確認させている」

 「司令は、トラック周辺に爆撃機や潜水艦を哨戒させ、封鎖作戦に移行していくつもりのようだ」

 「もっと、踏ん張れば、勝てるような気もするがな」

 「それが、マッカーサー将軍の軍が北ニューギニアのビアク対岸まで到達したらしい」

 「マッカーサーは、フィリピン代わりに北ニューギニアの利権を手に入れようとしているのか?」

 「いや、問題は、軍事上、侵攻ルートの選択になっていることだよ」

 「しかし、利権は気になる」

 「マダンからビアク対岸まで鉄道を引っ張るということは、そういうことだろうな」

 「マッカーサーは、陸軍だけで戦う気だな」

 「北ニューギニアからフィリピンに侵攻ルートが決まると海軍は困るよ」

 「だけど、B24爆撃機と潜水艦でトラックを封鎖してもトラックの自給力は高い」

 「作物を植えていたな」

 「養殖漁業の兆候も確認している。漁礁と餌は困らないはずだ」

 「「「「・・・・」」」」

 「いまのトラック兵力は?」

 「35000弱だそうだ」

 「衣食住は?」

 「まだ余力があるよ」

 「精密爆撃ができれば、埋め立てた戦艦を破壊できると思うがね」

 「精密爆撃は、高度を落とさないとな」

 「ゼロ戦部隊に低空で絡まれるとムスタングやサンダーボルトも食われる」

 「新型の13mm4丁装備のゼロ戦は、厄介だな」

 「疾風もだ」

 「どちらにせよ。戦艦5隻を埋め立てられて要塞化だと魚雷も通用しない」

 「侵攻するならビアクが良いのも頷けるが」

 「頷けるか? ビアクの方が日本軍の兵力が多い」

 「さらに輸送航路が伸びて護送船団は不利になる」

 「だからポートモレスビーからビアク対岸まで、鉄道を敷いたのだろう」

 「どの道、フィリピンを落とせば日本は終わりだ」

 通信兵が電文を持ってくる。

 「・・・提督。日本が金剛型4隻をビアクに埋め立て始めたようです。偵察機が確認しました」

 「ほお♪ ビアクの対岸に物資が集まる前に戦艦を埋め立てたか」

 「ビアクに伊勢、金剛、榛名、比叡、霧島を埋め立てか・・・」

 「これでトラック諸島5隻。ビアク島5隻で条件は同じだな」

 「兵站を考えればトラック諸島から侵攻が妥当だろうな」

 「マッカーサー将軍の怒った顔が浮かぶね」

 「残った日本戦艦は大和、武蔵、長門の3隻。海軍は有利だな」

 「その戦艦3隻も埋め立てるかもしれないぞ」

 「やはり、トラックとビアクを飛び越して、直接マリアナ、フィリピンを狙うか」

 「どちらにしろ、ヘルダイバーが搭載できる爆弾は900kgだよ」

 「Uボート・ブンカー並みのトーチカを建設されたら、空母艦載機じゃ お手上げだな」

 「兵站線を潰せば飢餓状態で兵力を維持できないはず」

 「ビアク島は、自給自足が可能になる程度に大きいよ」

 「それに武器弾薬と燃料の輸送を防いでも建設される鉄筋コンクリートのトーチカは残る」

 「鉄筋コンクリートなら高度な工業技術も必要ないか」

 「M4中戦車の52口径76.2mm砲で撃ち抜かれない鉄筋コンクリートと土嚢でも十分脅威だよ」

 「単純に相対距離でM4中戦車が先に撃破できれば良いだけか」

 「そう、少しくらい弱い砲でも勝てる」

 「北アフリカでは対空砲を対戦車砲代わりに使って戦果をあげていた」

 「爆撃を防げるなら、真似くらいするだろう」

 「問題は、日本機の体当たり攻撃だよ。キルレートが悪過ぎる」

 「・・・あの時は、状況が悪過ぎた」

 「ピケット艦で索敵域を拡大」

 「艦載機も戦闘機の比率を増やし、VT信管の弾幕で迎撃できるはずだ」

 「だがもう一度、同程度の損害を出せば、本当にクビが飛ぶぞ」

 「・・・・」

 

 

 04月05日

 ソ連は、日本に対し、翌年期限切れとなる日ソ中立条約を延長しないと通達。

 

 

 ビアク島

 伊勢 艦橋

 甲板上は鉄筋コンクリートで覆われ、

 艦内区画の大半も鉄筋コンクリートで塞がれていた。

 金剛、比叡、榛名、霧島も艦舷から甲板まで土嚢が積み上げられ、

 同じように要塞化されている。

 アメリカ爆撃部隊の攻撃は、ほとんど命中せず。

 命中しても被害は小さかった。

 「高速戦艦を埋め立てるとはね。日本海軍も末期だな」

 「しかし、魚雷を防いで900kg爆弾に耐えれば良いは、開き直りだろう」

 「本土を直接攻撃されたら。俺たちは遊兵だな」

 「制空権が維持できればいいがね」

 「制空権? B17とB29に爆撃されて周囲は封鎖され」

 「防空に成功しているのは基地上空だけだ」

 「トラックも、ビアクも、輸送は至難の業だな」

 「ビアクは、トラックと違って疾風の稼働率が低いのが問題だな」

 「トラックは、環礁内にアメリカ輸送船100隻近く沈んで、部品や燃料を引き上げて利用できる」

 「トラック環礁に墜落している米軍機も2000機を超えているらしい」

 「それを引き揚げれば、戦力になるわけか、良いな」

 「機械と部品の不良原因は埃と汚れ、精度維持の基本は清掃だよ」

 「それ以外は、電圧、オイル、歪みを調整できれば融けたり、摩耗したり」

 「金属疲労で破壊されるまで稼働率は維持できる」

 「実情は貧乏くさいな」

 「軍部も、政府も、国民も、将兵も、臭いモノに蓋をして実情を握り潰しているだけだ」

 「自分で自分を騙して自己満足な面子と国威高揚のためだろう」

 「それで正確な実情を伝える者を非国民、売国奴で排斥して抹殺か」

 「悪貨良貨を駆逐するだな」

 「国民と将兵は村八分を恐れ、軍国主義に流れ込んだ。自業自得だな」

 「どうするんだろうな」

 「政治外交戦略で最悪のまま、占領地の搾取を続け、軍縮して財政再建させていくしかない」

 「無理なんじゃないか?」

 「自国内権益で、やり繰り出来ない無能な執政者と、無知な国民は国外権益を奪い始めるよ」

 「しかし、腕っ節が強いからって身勝手に眼を潰したり、耳を潰したり、頭を潰したりじゃな」

 「腕が頭に従いたくなければ自分の頭を無能扱いして、自分で頭を潰してしまうんだよ」

 「無駄に将兵を殺して、一部の特権者と利権者を肥え太らせるための体制維持か、腐ってるな」

 「人口が減れば、資産の再分配で分け前が増える」

 「平和が良いよ」

 「平和でもな・・・」

 「子供のうちは仲良しでも大人になれば有利な生存圏を確保するため潰し合い、殺し合いになる」

 「強い種を残すのなら生存競争の原則で間違っていないがね」

 「だけど、やり過ぎると親子・夫婦で殺し合いで家系断絶だろうな」

 「そこまで利己主義で狂うかね」

 「そこまで狂ったから国を守るはずの皇軍が暴走して、大日本帝国を滅ぼしかけている」

 「貿易立国って駄目だったのかな」

 「それだと軍部は、おまんま食い上げ」

 「政府も国民も無能扱いしないと予算も減る」

 「・・・たいして変わらないのに救われんな」

 「そうだな」

 

 

 

 アメリカ軍にとって太平洋戦線は、極めて戦況が悪かった。

 真珠湾でアリゾナ、オクラホマ。

 第一次トラック上陸作戦で、

 ミシシッピ、カリフォルニア、メリーランドを失い。

 ミシシッピ、カリフォルニアは、雷撃を受けてトラックに座礁していた。

 そして、第二次トラック上陸作戦で、

 アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニアも奪われていた。

 真珠湾 白レンガの住人たち

 「・・・残存戦艦は、ワシントン型2隻、サウスダコタ型4隻、アイオワ型4隻」

 「あと、ニュー・ヨーク、テキサス、ペンシルヴァニア、ネヴァダ・・・」

 「兵站が不安な上に戦艦が少ないと上陸作戦も微妙だな」

 「イギリス海軍が来るよ」

 「ネルソン、ロドニー、クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ、リヴェンジ」

 「あと・・レナウン、キング・ジョージ5世、デューク・オブ・ヨーク、アンソン、ハウ」

 「フィリピン、マリアナは戦力が集まってる」

 「トラック、ビアクを飛び越しての上陸作戦は、かなり不安だな」

 「戦艦で不安でも上陸作戦は、ロケット弾で代用が利くだろう」

 「マッカーサーは、フィリピン狙いだぞ」

 「それは困る」

 「しかし、マリアナも苦戦を強いられるかもしれないな」

 「んん・・・」

 「まぁ アメリカ軍といえど、非合理的な派閥論理が働くこともあるか・・・」

 

 

 

 04月12日

 アメリカ大統領のルーズベルト大統領急逝、

 後継に副大統領ハリー・S・トルーマン。

 

 04月16日ボクサー

 

 04月01日レイテ

 

 04月30日 ドイツ総統ヒトラー自殺。

 

 

 05月02日

 ベルリン防衛軍司令官降伏(ベルリン陥落)。

 

 05月07日

 ドイツ大統領カール・デーニッツ無条件降伏を受諾、ナチス・ドイツ滅亡。

 

 

 半島某所 電話中

 『上層部の意向を無視するのだな。少将』

 「半島と満州の食糧を全部奪うなんて、できるわけがないじゃありませんか」

 『そうせねば、禍根になるというておるだろう』

 「そんな。命令を部下に出せ、と仰るのですか?」

 『そうだ』

 「満州と半島の人間を餓死させようというのですか?」

 『そうだ。そうしなければ、日本人が餓死することになる』

 「大東亜共栄圏はどうするのですか? 五族協和は?」

 『日本はもう限界なのだ。日本国民が餓死しようとしているのだぞ』

 「そ、それでも嫌です」

 『日本軍が日本国民を養っていると思っているのか君は?』

 『日本国民が日本軍を養っていることを忘れるな』

 「た、大量虐殺をおこなって皇軍が成り立つわけがない」

 『日本国が成り立たなくなろうとしているのだ。わかってくれ。少将』

 「そんなに大量虐殺がしたいのなら、あなたが直接命令すれば良い」

 『私の権限でそれを行えば軍の暴走では済まんのだ』

 『少将。君、一人で処理したまえ』

 「お断りです」

 「どうしてもそんな命令を出して欲しいのであれば、勅命として、命令書を渡していただきたい」

 『そのような。勅命が出されるわけがなかろう』

 「わたし一人に罪をかぶせようというのですか。お断りです」

 『いまの日本を救うには、それしかないのだ』

 「お断りです!」 がちゃ!

 少将の鼻息は荒い。

 怒りながらも、ふすまの向こうへと行く。

 若い美しい娘は朝鮮人。

 一進会からあてがわれた妓生(キーセン)。

 弱者には弱者の戦いがあった。

 どういう経緯であれ、強者の驕り、弱者の卑屈によって、社会のバランスは保たれる。

 無論、事の是非は、ともかく、

 皇軍による満州・朝鮮の大量死は免れた。

 彼女、妓生(キーセン)たちが、

 現地の日本軍士官たちの感情に影響を与えたことはいがめない。

 そう、狡猾であっても朝鮮民族は、身を守る権利があり、

 それを実行したに過ぎない。

 

 

 トラック 司令部

 「ドイツが負けたか」

 「日本は孤立無援だな。このままだと世界中から総スカンで潰される」

 「もう、まともな工作機械は、残っていないぞ」

 「鉄筋コンクリートと土嚢くらい作れるだろう」

 「戦車砲以上の大砲なんて、そう多くない」

 「鉄筋コンクリートと土嚢で、どのくらい持つかな」

 「生身で直接、砲撃や爆撃を受けるよりマシだろう」

 「歩兵同士のキルレートで勝てば良いだけだ」

 「しかし、上陸作戦は、まだなのか」

 「トラック、ビアクを飛ばして、マリアナかフィリピンだと思うが」

 「飛ばして失敗すれば、損失は、計り知れないはず。躊躇しているんじゃないか」

 「アメリカは、原子爆弾を開発しているらしい」

 「1発で半径2kmが全焼というのは、信憑性があるのか?」

 「どうだろうな。春島全部が1発で全焼だと、トラックは7発で壊滅だな」

 

 

 

 

 

 05月20日

 スマトラ島、ジャワ島は、アメリカ機動部隊、イギリス機動部隊の強襲を受けた。

 日本のスマトラ航空部隊、ジャワ航空部隊と増援部隊は、アメリカ機動部隊に突入。

 ヘルキャット群に食い荒らされ、VT信管の弾幕に削られて消滅していく。

 それでも近場の日本船団を脱出させる程度粘って壊滅させられる。

 日本軍は、アメリカ太平洋艦隊の動きを掴んでおらず。

 気付いた時は、手遅れだった。

 アメリカ戦艦、

   ワシントン型2隻、サウスダコタ型4隻、アイオワ型4隻。

   ニュー・ヨーク、テキサス、ペンシルヴァニア、ネヴァダ。

 イギリス戦艦、

   キング・ジョージ5世型4隻。

   ネルソン、ロドニー、

   クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ、リヴェンジ。レナウン。

 アメリカ上陸作戦部隊、艦船1500隻、

 兵員52万8000人(上陸作戦部隊18万)がスンダ海峡沖に現れる。

 アメリカ軍9万がスマトラ島(スマトラ守備隊62000 + スマトラ義勇軍60000)上陸、

 アメリカ軍9万がジャワ島(ジャワ守備隊48000 + ジャワ義勇軍36000)上陸。

 このときの戦況は、日本軍のマレー電撃戦の裏返しが展開される。

 日本軍にアメリカ戦車部隊の進撃を食い止める術はなかった。

 日本機動部隊は、パラオから慌ててブルネイへと入港するが時すでに遅し。

 スンダ海峡はアメリカ軍の手に落ちていた。

 大和 艦橋

 「やれやれ、金剛4隻を埋め立てたあとにスマトラ、ジャワに来るとは・・・」

 「確信犯ですな」

 「策源地を奪われては、敗北必至」

 「長官、シンガポール、バンジャルマシンがB29爆撃機に空襲されてます」

 「油断させて、いたわけか。こっちにも来るな」

 「ゼロ戦隊だけは、数を配備できてます」

 「低空からの精密爆撃を防げばいい」

 「木下少将、小畑少将のおかげで大変なことになりましたね」

 「“陸長” は、現地民に小銃と弾薬を渡すだけで勝手に戦ってくれると・・・」

 「理想論だな」

 「日本は東南アジアの権益が欲しいのだ」

 「東南アジアに独立して欲しいわけではない」

 「一応、独立だけはさせていますが・・・」

 「名目上だ。連中に武器を渡すとアメリカ側に寝返る可能性もある」

 「アメリカ軍に降伏した日本軍将兵は、簡単に寝返っているようです」

 「日本軍は降伏した日本兵に厳しいからな」

 「捕虜にされた日本軍将兵が日本で生きていくのは辛かろう」

 「日本を負けさせなければ無理でしょうね」

 「座して降伏させるくらいなら、出世のため万歳突撃で戦死強要ですか?」

 「ふっ 日本人は神経質で小心者が多い」

 「まぁ 間引きにもなるし。軍国主義は、人を馬鹿野郎にしてしまうな」

 「ですがインパール作戦を中止させて良かったです。兵力で余裕がある」

 「トラック、ビアクの善戦があったからだろう」

 「防戦で戦果をあげると効率が良い」

 「ですが、戦艦3隻だけでは・・・」

 「ともかく、アメリカ軍が物資を集める前に防空部隊を再編成するしかないな」

 「アメリカ機動部隊がスンダ海に入ってこないのは、助かります」

 「んん・・・確かに攻め足が遅いな。増援が間に合えばいいが」

 「空母と護衛空母でゼロ戦と疾風を最優先で輸送しています」

 「疾風は稼働率が低いだろう」

 「誉がまともに動くのは、内地か、トラック航空隊だけのようです」

 「稼働率を維持できる火星の震電の生産を優先すべきだろうな」

 「全力で生産していますが、先尾翼ですので転換訓練に時間がかかりそうです」

 

 

 シンガポール上空

 航空機の性能は、エンジン、機体特性、重量配分で、ほとんどが決まってしまう。

 最初からドックファイトの選択は愚策だった。

 ロール、ターン、ループなど急激な機動は、運動エネルギーと高度を喪失する。

 高性能な機体でも何度も複雑な旋回を繰り返せば、運動エネルギーと高度を失い、

 カモになってしまう。

 航空戦術の王道は、先制発見、先制攻撃、先制撃破による一撃離脱。

 効率が良いのは、高々度から先に敵を発見し、

 背後に回り込んみ、急降下で一撃。

 そのまま、降下速度を生かして戦場を離脱するスマートな戦法だった。

 他の要項を削っても上昇力、高速性能を求める。

 双方とも高々度性能で張り合えるようになると、他の複雑な要素が絡んでくる。

 勝率を上げ、生存率を上げるなら、

 ロッテ戦法、相互支援可能なコンバットボックスが確立される。

 というわけで、数百機の敵味方が入り乱れる航空戦は忌み嫌われる。

 高度と運動エネルギーを失うのは、それほど危険だった。

 ムスタングが震電の背後から12.7mm機銃を掃射していく。

 「ちっ!」

 プロペラが12.7mm機銃の一部を弾いた。

 プロペラを掻い潜った銃弾が震電の機体を掠め流れていく。

 機体に穴が開く音と振動が伝わる。

 背後のムスタングからビリビリとした殺気が刺して、冷や汗が流れる。

 剣豪になったような気分で舵を不規則に小刻みに動かす。

 震電は、ムスタングの射線を外そうと700kmを超える速度で細かなバンクを繰り返す。

 背後のムスタングも震電を射線に納めようと小刻みにバンクを合わせて来る。

 高度と運動エネルギーを保つため最小限の機動で、

 紙一重で機銃掃射を避ける。

 後尾翼のムスタングと先尾翼の震電の機動は、運動特性とタイミングが違い、

 双方のパイロットに違和感をみせた。

 震電の不意のロールと急激な旋回が利いたのか、ムスタングを出し抜いてしまう。

 次の瞬間、運動エネルギーを喪失した震電の横合いからコルセアが割り込む。

 気付いた震電が急降下で逃げる。

 バチ! バチ! バチ! バチ!

 機銃弾がプロペラに弾かれ、機体に機銃弾が命中していく。

 しかし、穴が開くだけで震電は落ちない。

 互いの僚機が割り込み、もつれながら、空に軌跡を描き。

 軌跡がいくつも縺れ合い、火達磨が大地に叩きつけられた。

 航空戦は、高度な計算と柔軟な感性の切り替えと機転が求められ、

 野性的な勘も必要とされた。

 

 

 アメリカ機動部隊

 レキシントンU 艦橋

 「・・・12.7mm機関砲が先尾翼の新型機に通用しないのは、確認されたのか?」

 「コルセア隊が確認しました」

 「・・・大変なことになったな。数は?」

 「30機が確認されましたが、もっと配備されているかもしれません」

 「んん・・・」

 「提督。スンダ海峡の向こう側には、行かないので?」

 「体当たり攻撃は、まずかろう」

 「トラックと同じような損害を受けたら上陸部隊は、戦意を保てなくなる」

 「しかし、このまま、インド洋側だと時期を逸してるような気もしますが」

 「違う見方をすれば、こちらは戦力を増強しつつ」

 「日本軍がしゃしゃり出てくるまで、待ちでいられる」

 震電の出現が、アメリカ艦隊のスンダ海峡侵入を躊躇させていた。

 その要因は、震電の航空性能ではなかった。

 12.7mm機銃弾が命中しても簡単に撃墜されない防弾能力と体当たりの恐怖に帰結された事だった。

 

 

 06月02日 レイク・シャンプレーン

 

 アメリカ軍がスマトラ島占領

 

 アメリカ軍がジャワ島占領

 

 アメリカ軍のスマトラ・ジャワ島占領は、要衝、都市部に限られ、

 農村部は取り残されていた。

 小さなトラック諸島、ビアク島が強固な拠点防衛となっていったのに対し。

 大きな島であるスマトラ、ジャワは、柳に風。

 日本軍とスマトラ・ジャワ義勇軍は、ゲリラ戦を仕掛け、アメリカ軍を苦しめていく。

 そして、潜水輸送艦の伊361号〜伊372号の12隻が真価を発揮できた時期でもあった。

 75トンから100トンの物資を積載できた。

 運び込むのは、小銃(3.8kg)、擲弾筒(4.7kg)、弾薬・・・・

 アメリカ戦車部隊は、ゲリラ掃討のためジャングルの中を進撃。

 日本軍と現地義勇軍は、コソコソ、陰険な反撃をする。

 

 海岸に伊366号が浮上すると日本軍に物資を供給する。

 代わりにニッケルなど戦略物資を潜水艦に運び込んで格納庫に入れる。

 「今回は、擲弾筒が多いな」

 「こいつも、使ってみてくれ」

 「なんだこれ?」

 「74mm墳進砲、有効射程100m。203mm墳進砲、射程2400m」

 「使えるの?」

 「たぶん」

 「試しに使ってみろ、ってことか」

 「トラック防衛戦で試作品が使えたらしい」

 「まぁ、トラックと違って食料を輸送しなくて良いのが有利だな」

 「現地調達しているんだよ。やり過ぎると嫌われて、現地人と戦争になる」

 「下手すると三つ巴か?」

 「最悪だと日本軍だけが敵になる」

 「それだけはやめてくれ」

 「いまのところ、日米戦争じゃなく、インドネシアの独立戦争になってる」

 「それくらいが妥協点かもしれん」

 「インドネシア独立戦争の大義名分は、大東亜共栄圏より良いだろう」

 「大義名分なんて、方便に過ぎんよ」

 「俺に朝飯よこせじゃなく、独立のために朝飯をよこせと言ってるだけで同じ人間の腹に入るだけだ」

 「直接じゃなくて、間接なのがミソだろう」

 「だけど、石油が奪われて、日本は、困っているんじゃないのか」

 「連合艦隊の作戦地がブルネイなら、そうでもないらしい」

 「戦艦を埋め立てるって?」

 「大和をシンガポール。長門をブルネイ。武蔵をバリクパパンに埋め立てている」

 「随分、思いっきりが良いな」

 「日本は、油を失えば戦争に負ける。しょうがないよ」

 

 

 パレンバン アメリカ軍司令部

 「将軍。パレンバンの石油は、質的に微妙です」

 「設備投資して、もっと精油能力を強化した方が良いだろうな」

 「利権としては悪くないのでは?」

 「悪くはないがね」

 「海軍め、マリアナ攻略を拒否したらフィリピンを拒否して」

 「スマトラ、ジャワ攻略にすり替えやがった」

 「スマトラ、ジャワとも制圧していますが、ゲリラ攻撃で被害が増えているようです」

 「ちっ さっさと制圧してしまえ、ドイツを降伏させて厭戦気運が高まっている」

 「太平洋側からの侵攻の方が良かったのでは?」

 「太平洋側からだと、日本は、日本、策源地、防衛拠点の3往復」

 「策源地上陸だと日本、策源地の2往復だけで済んで無駄も少ない」

 「いままで撃沈した輸送船が帳消しだな」

 「しかも、アメリカは輸送航路が伸びて、兵站で不利です」

 「現地民は、もう一度、白人に植民地支配されてしまうと思っているらしい」

 「インドネシア義勇軍の戦意は高く」

 「日本軍の兵力は倍に増えたと考えていいだろう」

 「本国は、増援を50万ほど送るそうです」

 「それだけいれば、スマトラ、ジャワを完全に制圧できるだろう」

 「これで、日本は日干しだ」

 

 

 06月26日 国際連合発足(加盟50カ国)

 

 07月16日 アメリカが原子爆弾の実験に成功し、マンハッタン計画完成。

 

 

 パレンバン近郊

 義勇民兵は、武器を持っているだけでインドネシア人とそれほど変わらない。

 凌辱される農村からアメリカ兵5人が出て、背伸びをしたとき、数発の銃声が響いた。

 3人が負傷し、2人が反撃で撃ちながら村へと戻っていく。

 戦線のない不正規戦、ゲリラ戦で役に立つのは消音銃、拳銃の類だったりする。

 少しでも減音効果を求めて、布や綿を38式小銃に巻いて使ったり。

 現地民は侵略者を殺す事に躊躇がない。

 しかし、侵略者側は現地民の協力を得ようとするため躊躇する。

 侵略軍と被支配者の負の連鎖は、次第に増長し、

 歯止めが無くなり、虐殺戦に移行していく。

 この光景は、日本の中国戦線に近く、

 同じ光景が、このスマトラ、ジャワで展開される。

 

 

 

 07月26日 ドイツのポツダムで英米ソ首脳会談、ポツダム宣言発表、日本これを黙殺。

 厚木

 着陸に失敗した1式陸攻からエンジンが剥がされていた。

 「ったく。最近は、事故が多いな」

 「もう、精度を保てる工作機械が残ってないらしいよ」

 「ヤスリが手放せんな」

 「とりあえず、一度バラして部品を取り換えて試運転しよう」

 航空機は、戦闘で失われる機体より、非戦闘で失われる事が多い。

 機体でもっとも価値があるのはエンジンで消耗する度合いは部位、部品によって違う。

 前線各地からエンジンが名古屋に運ばれてくる。

 同じ火星エンジンでも1460hp、1530hp、1820hp、1850hpなど新旧で馬力と重量が変わる。

 部品を交換して調整し、ヤスリがけで仕上げ、

 再利用で使える火星エンジンが出来上がる。

 同じ製造番号でも合わないのに新旧エンジンで合うかといえば、合わない。

 もっとも、それも数が揃うと確率の問題となり、あったりする。

 「旧式エンジンだと100kg以上も機尾が軽くなるから逆に機首の機動が重くなる」

 「厚みを増やしたプロペラで重量バランスを保って、ついでに12.7mmを弾くとか」

 「んん・・・後方の防弾を増やすとか、燃料タンクを増やす方が楽だよ」

 「あと、パイロットは命がけだから脱出用で射出座席つけたがってる」

 「射出座席は研究中」

 「プロペラに仕掛けた爆薬は?」

 「脱出のタイミングが微妙らしい」

 「震電は脱出が問題だからな」

 「格闘性能もね」

 「爆撃を妨害できて撃墜されなければ実害は少ないよ」

 「パイロットが慣れて腕が上がれば反撃できるだろう」

 震電は、再利用の旧式火星エンジンを搭載しても性能が良く、

 生産が優先されていた。

 

 

 真珠湾 白レンガの住人たち

 室内に焦燥感が漂っていた。

 「対ドイツ戦が終わって厭戦気運が大きくなっているから対日戦も早く終わらせろだと」

 「日本は、パレンバンの燃料を失えばじり貧。無理攻めすることはないのに・・・」

 「1941年12月からだから、もう3年と7ヵ月か・・・」

 「南北戦争は4年だったな。対外戦争は5年が限度じゃないか」

 「独立戦争は8年続いたぞ」

 「独立戦争とか、内戦は生存権と関わっているから別格だろう」

 「これ以上の継戦は、アメリカの戦争目的と国益に反する」

 「戦争を始めたのは日本だから戦争目的は日本にあるよ」

 「いや、そもそも日本を追い詰めたのはアメリカの産業再建だろう」

 「失業者対策、不況脱出、海外利権の会得にあるだろう」

 「アメリカもアジアの利権が欲しい」

 「アジア利権は欲しいとして、それだけじゃ 厭戦気運を排斥して戦争継続は弱いだろう」

 「失業対策が済んで世界中に債権を押し付けて再建需要も大きい」

 「衣食住が満たされたら戦争なんてしたくないからね」

 「真珠湾攻撃でなければ戦意を保てないか」

 「日本本土で油田、石炭、鉄鉱石でも出れば、食指も動くけどね」

 「5年を限度にしたら1946年12月だな」

 「タイムスケジュールで厳しくないか?」

 「イギリス、フランス、オランダ、ドイツ、中国の利権会得で赤字国債は負担できるけど」

 「戦争で儲かるのは軍産複合体だけだ」

 「挙国一致で国民の権利と生命を奪い、弱体化させるし」

 「アメリカ政府だって軍部に主導権を奪われ、選択肢が狭められてしまう」

 「戦争が長引くとヤバいよ」

 「大きな戦力を太平洋に維持するのも負担だぞ」

 「その戦力を最前線に張り付けるのは、さらに大きな負担を強いられる」

 「早く終わらせたいね」

 「だけど費用対効果だと、潜水艦と4発爆撃機でトラック、ビアクの封鎖だよ」

 「それが一番いい」

 「だけど、日本の輸送艦は、20ノット以上の速度で夜間に哨戒圏に突入してトラック、ビアクに入港してしまう」

 「封鎖の成果は期待できないよ」

 「輸送艦は経済性が低すぎて赤字だろう」

 「続けさせれば日本の国力の方が擦り切れる。スマトラ、ジャワに集中すべきだ」

 「だがトラック潜水艦の通商破壊で護送船団方式を強いられて不利だ」

 「トラック空襲は爆撃コースが制約されて対空砲火の密度も高くて撃墜されやすい」

 「それにゼロ戦は、一撃離脱できない低空か、雲の中に隠れている事が多いからな」

 「埋め立てた戦艦を撃破するなら被害を顧みず低空から900kg爆弾で精密爆撃だよ」

 「飛行場の破壊なら高々度から225kg爆弾で絨毯爆撃だろうな」

 「まず飛行場攻撃で制空権奪取だろう」

 「トラックは、大型飛行場が13個以上」

 「ゼロ戦は離着陸距離が短いから飛行場爆撃の成果は微妙だな」

 「それに山を刳り貫いた滑走路もあるらしい」

 「埋め立て戦艦を潰せば、艦砲射撃ができるかもしれないが・・・」

 「埋め立てた戦艦は装甲を挟んで鉄筋コンクリートが5mから6m以上だよ」

 「んん・・・900kg爆弾でも戦果を期待できない。トールボーイでも貫通できそうにないな」

 「それにゼロ戦が多過ぎる」

 「一撃離脱ができない低空戦闘に引き摺り込まれるのはまずいよ」

 「ムスタングも、サンダーボルトも急降下からの引き起こしはカモになる」

 「いままで、それでやられている」

 「最悪なのが、体当たり攻撃だよ」

 「戦艦は攻撃されなくても護衛の駆逐艦が狙われる」

 「駆逐艦は艦腹に250kg爆弾で沈没する可能性がある」

 「駆逐艦がやられたら、次は潜水艦の雷撃か・・・」

 「日本の大本営は体当たり攻撃を否定しているぞ」

 「だがスマトラ・ジャワ上陸後は、体当たりを批判してないぞ」

 「制空権を確保してから艦隊を南シナ海に入れるべきだな」

 「損失の大きさで評価されるとまずい」

 「日本軍は損害度外視の戦果で評価される。羨ましいね」

 「アメリカは大統領権限で簡単にクビが飛ぶ」

 「日本は上級官僚のクビを切れない有耶無耶にされてしまう。その違いだよ」

 「あっ そういえば、あれを使いたいらしいけど」

 「使いたくても日本本土はまだ遠い。費用対効果だと都市に落とすべきだよ」

 「ソ連が東ヨーロッパを押さえて、共産主義が浸透しているってよ」

 「外交戦略上、使いたいそうだ」

 「日本の艦隊基地に落とすのは?」

 「ブルネイ?」

 「現地民に原爆を落とすのはまずいよ」

 「ブルネイ、シンガポールは震電を優先的に配備している」

 「それに被害が出るとスマトラ・ジャワのゲリラ戦が激しくなる」

 「そういえば大和をシンガポール。武蔵をバリクパパン。長門をブルネイに埋め立てているらしいが」

 「ついに新鋭戦艦も埋め立てか」

 「空襲は?」

 「震電の配備でうまく行ってない」

 「艦隊で砲撃するか」

 「大和、武蔵、長門は、日本でも最強クラスの戦艦だ」

 「埋め立てられたら、米英の戦艦部隊でも勝てないだろう」

 「ちっ! 原爆でも落としてやるか」

 「東南アジアに原爆投下はまずいだろう」

 「対日戦の戦略的勝利のために対アジア戦略の敗北は容認できないよ」

 「スマトラ・ジャワ占領は、十分に失態だよ」

 「平均すると毎日100人近い将兵がゲリラの狙撃と襲撃で死傷者を出している」

 「年間に換算すると36500人か」

 「まだアメリカ人の人口増加の方が多いよ」

 「そういう問題じゃないだろう」

 「そうそう、交通事故じゃあるまいし、国民感情を無視してはいけない」

 

 

 08月06日

 爆撃手がノルデン照準器を睨みB29爆撃機の高度と速度を調整していく。

 爆弾の種類、速度、高度、角度、風速方向を入力すると予測投下地点がスコープに映る。

 アメリカ軍は、ベテランでなくても爆撃精度が高くなるノルデン照準器の補獲を恐れていた。

 撃墜された時、破壊することを命じる。

 日本軍がノルデン照準器を手に入れたのは17年頃で模倣できたのは19年頃。

 もっとも、回避運動を執る艦船攻撃に使い難く、

 爆弾数に余裕がないため対地爆撃を好まず、

 アメリカ軍の心配は杞憂だったりする。

 日本は、ノルデン照準器を模倣できても戦略爆撃を模倣できず宝の持ち腐れだった。 

 高度3000m。

 B17爆撃機56機はムスタング188機、サンダーボルト213機を率いてトラック上空へ到達する。

 ゼロ戦521機、疾風69機が全周200kmのトラック環礁の上空を旋回していた。

 「隊長、ゼロ戦隊は、例の如く、海面と地表近くを飛んでいます」

 「高度と速度が有利でも一撃離脱はできないか」

 「ゼロ戦が多くて、反撃も厳しいですからね」

 「航空戦力をスマトラ、ジャワに持っていかれたからな」

 「低空戦闘に巻き込まれたら苦戦します」

 「爆撃が済むまで高度1000で頭を押さえろ。まだ攻撃するなよ」

 「3時方向のゼロ戦隊が上昇しています」

 「こっちに向かってこないのなら引っ掛かるな。低空戦闘に引き摺り込まれるぞ」

 「爆撃隊が投弾に入ります」

 基地から弾幕の中、

 対要塞900kg爆弾×4発。56機だと201トン以上、224発の爆弾が投下されていく。

 「よし、散開する。各隊ともゼロ戦を環礁外に叩き出させ」

 ムスタングとサンダーボルトが散開しながら降下するとゼロ戦も低空へと逃げていく。

 ムスタングは割り込んでくるゼロ戦に妨害されながら、

 海面スレスレのゼロ戦の背後に回り掃射。

 ゼロ戦が海面に叩きつけられ水柱を上げる。

 トラック環礁全域で航空戦が繰り広げられていた。

 低空戦に引き摺り込まれるとムスタングも、サンダーボルトも急降下で逃げることができない。

 横旋回と上昇はゼロ戦に分があった。

 ムスタングとサンダーボルトは、速度差を発揮できずゼロ戦に内側に回りこまれ撃墜されていく。

 さらに雲の中に隠れていた疾風隊がサッチウィーブで乱入。

 上昇して逃げようとするムスタングとサンダーボルトを撃墜していく。

 『保坂機、三好機。爆撃機2機が南側から高々度で進入している。見に行ってくれ』

 「偵察だろう。戦闘機をやらせてくれよ」

 『航空戦の指揮を執っているかもしれないだろう』

 『目障りだから行って追い払ってくれ。高度は9600』

 「わかったよ」

 日本軍機も2機一組で4機編隊を採用していた。

 疾風が2機、上昇していくと対空砲の爆炎に包まれるB29爆撃機2機を視界に入る。

 B29爆撃機の機内

 「隊長。11時です」

 「は、疾風だ!」

 「ん? 待て、まだ早い」

 「し、しかし・・」

 「あ・・・友軍機が巻き込まれるぞ」

 疾風が銃撃しようと近づいていくとB29が爆弾を投下。

  

 

 疾風

 「なんだ? 爆弾を落としたぞ」

 『嫌がらせか』

 「撃墜してやる」

 B29爆撃機2機の弾幕を掻い潜って、疾風2機が銃撃を繰り返す。

 次の瞬間、環礁全域を巨大な閃光が照らした。

 太陽数千個分の閃光が蒼空を貫き、

 爆炎と爆音が立ち昇り、

 海水を蒸発させ、

 強大なキノコ雲が立ち昇っていく。

 爆心地の近くにいたムスタング、サンダーボルト、

 ゼロ戦が衝撃波で木の葉のように吹き飛ばされた。

 そして、海面や地表に叩きつけられていく。

 疾風と対空砲に妨害されたのか、爆心地は秋島沿岸の海上で高度500m。

 被害域は直径6km圏に及び、秋島の半分が焼かれてしまう。

 しかし、都市部でなく軍事拠点であった事。

 そして、ほとんどの将兵が地下に潜んでいたため、

 最初の死亡は243人で収まってしまう。

 アメリカが20億ドルの開発予算をかけて得た、最初の戦果だった。

 

 

 トラック春島からキノコ雲が見えた。

 「被害はゼロ戦117機、疾風28機」

 「戦果は、ムスタング104機、サンダーボルト97機。B17爆撃機16機です」

 「原爆を落としたB29は?」

 「逃げられました」

 「しかし、酷いな」

 「秋島の中央に落ちなくて良かったですよ」

 「いや、狙いは、夏島か、春島だろう。陸軍の疾風のおかげで助かった」

 「まともに落ちてたら島一つ、全滅だったな」

 「どうします?」

 「すぐに無線封鎖しろ」

 「パラオに連絡機を飛ばし、トラックが全滅した事にしてアメリカ軍を引き付けると伝えろ」

 「それで、アメリカ機動部隊をこちらに引き付けるのですか」

 「スマトラとジャワに上陸され、トラックは、最前線から一気に後方だ。面白くない」

 「それはそうですが・・・陽動作戦ですか?」

 「アメリカ海軍を二分させればスマトラ、ジャワも戦い易かろう」

 「また原爆を落とされるのでは?」

 「原爆を内地に落とされるよりマシだ」

 「・・・しかし、敵機も味方機も随分と海面に叩きつけられてますね」

 「味方機の被害が少ないのが幸いのようだ」

 「爆撃させて迎撃が、幸いしたということでしょうか」

 「島上空は対空砲火でゼロ戦と疾風の迎撃は、周囲から包み込むように迎撃させていたからな」

 「とりあえず。拾い上げよう」

 

 

 

 08月08日

 日ソ中立条約破棄、ソ連対日宣戦布告。

満州・朝鮮 将兵 戦車 航空機 火砲
ソ連軍 174万 5000輌 5000機 24000門
日本軍 74万 200両 200機 1000門

 極東ソ連軍が満州国と朝鮮半島に侵攻、満州帝国は崩壊し。

 関東軍は日本人を守り切れず敗走していく。

 満州帝国

 アジア号が満州を南下していく。

 途中下車したのち、海軍将校らが兵士たちと一緒に乗り込んだ。

 「おや、閣下。取り巻きたちと、どちらへ」

 「あ・・ああ、まぁ そろそろ、帰郷しようと思ってね」

 「故郷に錦を飾るですか? 随分と儲けられたようで・・・」

 「いやぁ それほどでもありませんな」

 「日本は、満州国に百数十億の国費を投棄して、得られた利益は数十億」

 「元々、満州で採算を取れるだけの力が日本になかった。ということでしょうね」

 「偽札やアヘンを売って採算を取ろうとしても埋められず」

 「いまでは、アジア号か、アヘン号か、ですかな」

 「何を言いたいので?」

 「しかし、一部の軍属は、私腹を肥やして大儲けですな」

 「うまみは、海軍にも分けていたはずですよ」

 「日本の国力不足を自覚していながら」

 「アヘンや偽札の利益で主戦派を買い支えて満州国を維持」

 「良識派と非主戦派を根絶やしにして、ですか?」

 「何が言いたい?」

 乗り込んだ海軍将兵と陸軍将兵、私服との間で険悪な空気が漂い始める。

 「・・・いえ、別に、しかし、我が帝国の戦局も情けないですな」

 「まぁ 危ないですね」

 「私腹を肥やすため国政を誘導して、国庫を散財させ」

 「利権を守るため開戦で危うくなれば逃亡とはね」

 「・・・・」

 「その上、アヘンを内地に密輸ですか?」

 「満州は合法でも、日本国内は非合法のはず」

 「・・・・」

 「あなたのような人間を非国民とか、売国奴と言うんでしょうな」

 海軍将校が右手を上げると、

 車両内の将兵と私服軍属が拳銃を抜く。

 がちゃ!  がちゃ!  がちゃ!  がちゃ!  がちゃ!  がちゃ! 

 陸軍兵士と海軍兵士が拳銃を突きつけ合う。

 「ま、待て、分け前が欲しいのか?」

 「いや、責任を取ってもらいたいだけだ」

 「責任だと、戦費を稼ぐためのアヘンだ。国益のためにやったことだ」

 「アヘンが先か、国難が先かですか?」

 「しかし、私利私欲の権益ため、国費散財で赤字収支」

 「そして、戦線拡大では国害でしたな」

 海軍将校が腕を振り下ろすと銃撃戦が始まる。

 閣下と呼ばれた男が真っ先に撃ち殺され。

 機先を制した海軍将兵たちが撃ち勝ち、

 生き残った陸軍将兵と私服が手を上げる。

 「中尉・・・」

 「は、腹をやられたな」

 「すぐに手当てを・・・」

 「頼む・・・」

 「死亡6名。負傷8名です」

 「そうか・・・自業自得だな」

 「これが欲に目が眩んだ国の報いなのだろうな」

 「ど、どうしますか?」

 「約束通りだ。アヘンは、全て焼き捨てろ」

 「金目のモノは、皆で分けてくれ、害虫駆除代だな」

 「はっ!」

 「ふ しかし、正道の法で裁けず」

 「こういった強盗紛いの非法でなければ、将兵も動かんとは・・・」

 「戦死扱いされない代償ですよ」

 「アヘンを焼き捨てで、これまでの経緯がないだけマシでは?」

 「そ・・だな・・少しだけでもマシになれば・・・」

 「中尉!」

 日本は、日露戦争後、朝鮮併合と南満州鉄道権益を手に入れる。

 事の是非はともかく、

 この選択で日本も列強の末席に立つことになった。

 とはいえ、日本は、国内開発さえ遅れ力不足。国力拡充さえ後回しで分不相応。

 アヘン、偽札に手を染めたのも、損益収支を埋めたいがためと言える。

 あとは、日本の国風で自浄能力もなく強者に屈する。

 事勿れと馴れ合いで、悪徳が必要悪としてのさばり、悪貨が良貨を駆逐していく。

 しかし、ソ連侵攻と満州帝国崩壊のドサクサで、

 闇のフィクサーに隙が生じ・・・

 

 

 ソ連の侵攻で関東軍が崩壊しても航空戦と海戦で逆転する。

 ゼロ戦21型30機、99艦爆130機はウラジオストックとペトロパブロフスクカムチャツキーを強襲。

 ソ連艦隊、巡洋艦2隻、響導艦1隻、駆逐艦・掃海艇12隻、揚陸艇16隻を撃沈。

 南樺太と千島防衛に成功してしまう。

 赤レンガの住人たち

 「満州の関東軍を後退させるしかない。このままだと関東軍は全滅してしまう」

 「ソ連海軍は?」

 「ソ連艦隊は空襲で撃破した」

 「残っているのは潜水艦78隻。未確認だが10隻を撃沈しているはずだ」

 「残りは出撃した後か、危ないな」

 

 

 08月09日 ビアクに原爆投下。

 B29爆撃機は、レーダー観測、逆探。

 無線輻射を利用して夜間にビアク上空に侵入する。

 月光が迎撃してきたがブラックウィドウの迎撃でたちまち撃墜されてしまう。

 投下された原子爆弾は、高度300mで爆発。

 閃光と衝撃波と炎の津波がビアクを覆い、水平線のかなたにまで闇を押し広げていく。

 ビアク基地の中枢こそ外したものの2000人の被爆者を出した。

 いちばん近い榛名は、1kmの距離。

 装甲と厚い鉄筋コンクリートに覆われた要塞は、対原爆の効果があることが確認された。

 

 

 バリクパパン

 世界最強の戦艦武蔵は埋め立てられていた。

 油田と戦艦のどちらが重要かという比較になった。

 日本海軍は、油田権益を選択したに過ぎない。

 アメリカの上陸作戦が始まって戦艦部隊を迎撃で投入するより。

 最初から上陸地点に戦艦を埋めてる方が防衛しやすかった。

 また、戦艦を埋め立てたことで現地部隊の士気が向上し、

 航空部隊の配備数も増加していく。

 武蔵 艦橋

 「ついにこの最新鋭戦艦も埋め立てか、何のために武蔵を建造したのやら」

 「バリクパパン油田権益のためと開き直れば良いのでは?」

 「はぁ〜 急いで鉄筋コンクリートを流し込んで完全に要塞にしてしまえ」

 「はっ!」

 

 

 大本営会議

 トラックから “陸長” が呼ばれる。

 対米戦のキルレートで黒星戦果を上げている将校は少なく。

 どうしても、意見を求められる。

 「現状は良くない」

 「戦線を朝鮮半島と遼東半島にまで縮小すべきでしょう」

 「中国大陸は?」

 「撤収して、講和を結ぶべきでしょうな」

 「資源を失えば、日本は終わりだ」

 「大陸は、要衝だけ押さえれば良いでしょう」

 「・・・朝鮮半島すら守れない戦況なのだが」

 「では守りやすい南部域まで後退すべきですな」

 「朝鮮人を盾にしながら後退すれば良いでしょう」

 「なっ!」

 「人口2000万人なら一人100発使わせれば20億発くらい引き受けてくれますよ」

 「それで弾切れ」

 「ソ連軍の小銃弾が切れれば、逆襲もできる」

 「また、無茶なことを・・・」

 「だったら、損害を出す前に半島からも撤収すべきでしょうな」

 「どうせ、ソ連海軍は壊滅して海を渡れませんし」

 「沿岸部の島を抑えれば海峡は維持できる」

 「朝鮮半島を守ろうと思わんのか!」

 「守れないのなら後退すべきでしょう。皇軍を無駄死にさせるよりマシです」

 「しかし・・」

 「満州のように民間人見殺しでは、皇軍は威信を保てませんな」

 「せめて、半島の日本人は無事に帰還させて欲しいものです」

 「・・・・」

 「日本軍から民意が離れ、国家の威信も保てず」

 「このままだと、清国の様に崩壊ですぞ」

 「・・・・」

 「まぁ 代償として、北樺太とカムチャッカ半島を占領すればいいでしょう」

 「それなら、犠牲を払っても朝鮮半島を維持すべきだろう」

 「朝鮮人の同化政策は失敗ですよ」

 「それなら朝鮮半島をソ連にくれてやって」

 「しがらみのないカムチャッカ半島と交換すればいいでしょう」

 「朝鮮半島より守りやすいはず」

 「対米戦は?」

 「いまアメリカ軍は、スマトラ、ジャワに集中しているはず」

 「まっ正面から、ぶつかっても負けるだけです」

 「だが東南アジアを奪われたら日本は継戦能力を失う」

 「戦力を磨り潰すよりマシです。現状の戦線を維持すべきですな」

 「ところで陸長殿。満州鉄道で貴下の将兵が陸軍将兵と殺傷事件を起こしたと聞いてますが?」

 「ほぉ なにか証拠でも」

 「いえ。しかし、軍閥の根は深いですよ。あなたが思うより、もっと深くね」

 「しかし、権益を守るためにアヘンを国内に入れようとするとは万死に値しますな」

 「満州では国営でやっていたことですよ」

 「国内では重罪ですよ」

 「まぁ 外地ですし、情状酌量があったはず」

 「満州を失えば、アヘンを扱う必要もないでしょう」

 「アヘンは国家再建の邪魔になるだけですよ」

 「人が正義に惹かれるとは、限りませんぞ」

 「人が惹かれるのは力でしょうな」

 「しかし、正道が力を持てば正道に惹かれるのでは?」

 「資本の集約がなければ、近代化は困難ですよ」

 「アヘンが蔓延すれば、近代化どころか、清国と同様。亡国ものです」

 「「「「「・・・・」」」」」

 

 

 08月26日 満州での戦闘が終わる。

 極東ソ連軍の侵攻は早く、

 半島の日本軍は民間人を見捨てて総撤収していく。

 そして、辛うじて、満州南端を維持。

 日本が保有していた大陸と半島の利権が崩壊していく。

 しかし、戦略的後退によって余剰戦力を確保すると反撃できたりもする。

 ソ連参戦に合わせて日本海軍は、出撃して北樺太を砲撃。

 南樺太の日本軍はソ連軍を押し返して、北樺太を占領。

 そして、対岸の一角にも上陸して占領してしまう。

 天龍、球磨、多摩、木曽、長良、名取、由良、鬼怒、阿武隈、

 五十鈴、川内、神通、那珂、大井、北上、五十鈴。

 艦砲をトラックに取られた軽巡はディーゼル機関(13000hp)に改装しつつ、

 127mm砲7基と爆雷を搭載。

 格納庫を広げて対潜輸送艦といった艦種に改造されていた。

 これまで、軽巡16隻が時間をかけて改造されていたのはドックが空かなかったこと、

 人員・資材不足が原因と言えた。

 

 モスクワ

 日本の大使がクレムリンに入っていく。

 「これは、日本の大使。何か御用ですかな?」

 「日ソ間の戦争は、既に終局に向かっていると思われますが」

 「ほぉ 日本軍の北樺太とアムール域の占領。高く付きますぞ」

 「日本は、アムール川の河口を船舶や土嚢などで埋め立てる計画です」

 「・・・・」

 「水位が上がれば・・・」

 「そ、それで、日本が戦争に勝てるとでも?」

 「戦車や飛行機だけで戦争することもないでしょう」

 「来年の雪解けまでにハバロフスクを水没させて見せますよ」

 「・・・・」

 「日本は、堤防を高くしていくだけで良い」

 「それまでソ連軍の攻撃に耐えられますかな?」

 「大砲を並べて待ちますよ。ところで、ソ連の戦車は、川を渡れましたかな」

 「ご存じないですか?」

 「冬になれば、アムール川も間宮海峡も凍るのですよ」

 「水位の上がった川が凍るわけですね。湿地が増えて、さぞ薄くなるでしょうな」

 「日本にそのような余裕があるとは思えませんが」

 「大陸、満州、半島から戦力を後退させていますし」

 「東南アジアから採掘した資源は少なくないと思いますが」

 「日本の敗北は決まってるはず」

 「いまさら、どう足掻いても無条件降伏以外にないのですよ」

 「ソ連は船団を持っていない」

 「極東で、これ以上得るモノがありますかな」

 「欧州にはありますな」

 「確か・・・アメリカとの秘密協定では、ソ連の取り分は満州、南樺太、千島のはず」

 「秘密協定などありませんよ」

 「おや、外れましたか?」

 「「「・・・・」」」

 「それくらいの協定は結ばれていると思っていました」

 「日本がソ連の朝鮮半島の併合を承認したらどうでしょうか?」

 「ああ・・・」

 「しかし、まぁ 確かに船がないのでは、これ以上の進撃はできません」

 「では・・・」

 「しかし、足掻いてみることはできそうですな」

 「まだ、漁夫の利が得られると思いで?」

 「ええ、アメリカ海軍、イギリス海軍は強大ですよ」

 「良く分かっていますよ。良くね」

 

 

 日本の窮地を救ったのは震電だった。

 シンガポールに埋め立てられた大和艦橋からも上空を急上昇していく震電は、頼もしく思えた。

 しかし、いかんせん、数が少ない。

 高々度性能でムスタングと互角に張り合えると、

 機体数、パイロットの技量、兵站、戦術の問題になる。

 「・・・まぁ それが問題なんだけどね」

 「アメリカと比べたら世界中の国が貧相だよ」

 「アメリカを独立させたイギリスが悪い。アメリカの独立ぐらい抑え込め、根性無しが」

 「だよね・・・」

 「救いがあるとすれば、アメリカの航空部隊も少ないことだな」

 「アメリカ本土は遠いからね」

 アメリカ西海岸−4400km−ハワイ−5000km−

 ポナペ−2300km−ジャヤプラ−3700km−バンドン。

 空路は15400km。

 船舶で輸送されてくる戦闘機部隊が現地で活動に入るまでのタイムラグもあった。

 航空機は、訓練、輸送、事故、天候で6割が失われ、

 戦闘で失われる4割より多い。

 ともかく、航空機は、贅沢な兵器で、敵に無駄、無理を強いれば、その分だけ有利に傾く。

 日本は、アメリカに長大な距離を非効率な船団護衛を強いることに成功し、

 戦艦を埋め立てる事で、アメリカの進攻ルートを遠回りさせてしまう。

 高価な航空機と爆弾で手軽な標的を爆撃させれば、コスト的に勝ちと言えた。

 そのためトタン板で大きな人工物を建設したり。

 小さな爆弾で破壊できない強靭なトーチカを建設したり。

 基地や標的を囮にしてゼロ戦、疾風、震電で迎撃したり。

 スマトラ・ジャワ義勇軍に武器弾薬を供給したり・・・

 

 

 トラック諸島は、通商破壊作戦の基地として重要だった。

 しかし、アメリカ軍のスマトラ・ジャワ上陸と占領と、

 そして、ソ連参戦で最前線から後方に追いやられてしまう。

 正常な神経の持ち主で正気な軍人は、戦艦5隻を埋め立てた要塞諸島に上陸作戦を強行しない。

 トラック 司令部

 「どうやら、B17、B29爆撃機の主力は、アンダマン、バンドンに配備されてしまったようだ」

 「原爆でトラック壊滅は、通じませんでしたね」

 「だろうな」

 「ポナペは攻勢から防衛のようです。攻撃する機会かもしれません」

 「日本軍に攻撃させて消耗させようとするだろうな」

 「巡洋艦隊だけでは難しいかもしれません」

 「策源地を押さえれば日本の生命線は立たれてしまう」

 「震電がなかったらリンガ泊地、シンガポール、ブルネイ、バンジャルマシンは守れなかっただろうな」

 「アメリカ機動部隊が震電の体当たり攻撃を恐れ」

 「インド洋側にいるのが救いです」

 「だが南シナ海全域はB29爆撃機の哨戒圏に入って、船団は、港に入る前に爆撃される」

 「B29、B17、B24は、4発爆撃機で的が大きいですからね」

 「船舶攻撃の命中率が低いことも幸いです」

 「エンジンが貧弱で工業力も不足で数も揃えにくい」

 「米軍機に勝とうと思えば航続力を減らして基地防空用になる」

 「当然、航路帯防空は不可能になる」

 「アメリカ航空部隊が通商破壊に投入されるのも自然です」

 「それでも、旧式爆撃機を潰して、震電を製造すべきだろうな」

 「基地上空の制空権を失う方が怖い」

  

 

 朝鮮半島の日本軍はソ連軍の進撃を遅らせながら日本人の避難民を守って後退。

 そして、半島南岸沿岸部を守り切った。

 

 

 

 インド

 非暴力・非服従を標榜するガンジーは非現実的と囁かれながらも他の者より妥協できた。

 他の者とは、自由インドのチャンドラ・ボース。

 あるいは、どこかのバラモン(ネルー)だったり、大藩王だったりする。

 パキスタンのアリー・ジンナーだったり。

 イギリスがガンジーと妥協しないのなら、もっと不利な者と戦うことになり。

 イギリスの名誉も失われてしまう。

 インドの対英戦争協力は代償が伴った。

 第一次世界大戦で自治国となり。

 第二次世界大戦で独立国になろうとしていた。

 実質、インド独立は、第一次・第二次大戦によって確立される。

 そして、例によってイギリスは対独戦が終わっても対日戦が残っていると、インド独立をゴネ始める。

 ビルマ戦線 チッタゴン司令部

 マウントバッテン司令は、粘土のようなビルマ戦線に辟易しつつ、後方を気にしていた。

 本人も認識しているのか、

 周りも戦略家の資質を疑われている不足な司令官といえた。

 しかし、時勢に通じ、外交・統治を見分けるバランス感覚は、優れ足りていたといえる。

 もし、最大の戦功がインド統治であれば、彼は十分能力を発揮しており。

 余力だけでビルマ戦線を支えていたのだとしたら名政治家で名将といえた。

 「司令! チェンナイで暴動です」

 伝令が通信文を持ってくる。

 「・・・規模は約2万・・・包囲して、交渉相手と会談する用意があると伝えよ」

 「鎮圧は?」

 「拡大するようなら攻撃すると通達してくれ」

 「はっ!」

 「・・・やはり独立を認めるべきだろうな」

 「対日戦が終わっていないとゴネ過ぎたのでしょうか?」

 「イギリス本国は、インドを踏み台にしても再建を望んでいる」

 「しかし、このままでは・・・」

 「わかっておるよ。チャーチルめ、頑迷にもほどがある。醜悪なだけだ」

 「インド人がガンジーでなく、チャンドラ・ボースを選択するかもしれません」

 「そうなれば、内乱となり、イギリスは名誉を失う」

 「最悪でもイギリスの名誉は守られるべきだ」

 「チャンドラ・ボースを試すのも良いかもしれません」

 「そうではあるな」

 英印連合軍の大攻勢は、アラカン山脈を盾にして戦う日本軍の迎撃に合い頓挫させられていた。

 インド独立を標榜する自由インド軍の勇戦は、隷属するインド軍を浮足立たせる。

 大英帝国にとってチャンドラ・ボース率いる自由インド軍は、危険極まりない存在だった。

 ビルマ戦線で戦局が好転しないイギリスは、スマトラ・ジャワ戦線で一息着くと、

 予備戦力をかき集める。

 そして、コロンボ港から機動部隊が出撃した。

 イギリス機動部隊(空母4隻、戦艦5隻、巡洋艦6隻、駆逐艦16隻、輸送船13隻)

 戦艦が主砲を発射し、空母を発艦したドントーレス爆撃機が爆弾を投下する。

 自由インド(アンダマン・ニコバル諸島:8100ku:総人口73000)

 そこにチャンドラ・ボース主席とする国家が建設されていた。

 この国が守られたのは、自由インド軍が日本の武器弾薬を有していたこと。

 スマトラ・ジャワ上陸作戦で兵力的な余力がなく上陸作戦が不可能だったこと。

 イギリス機動部隊が日本の体当たり攻撃を恐れ、

 攻撃が不徹底だった。など挙げられた。

 またイギリス海軍がインド内政を深刻と受け取ってないことも挙げられる。

 戦艦キングジョージ5世 艦橋

 「提督、コマンド部隊の撤収を完了しました」

 「うむ、死に甲斐のない島だな」

 「ですがインド総督はインド独立の不安材料になりかねないと・・・」

 「カースト制で細切れの国だ。ハネっ返りの戯言くらいで改心するものか」

 「しかし、独立機運が高まるかもしれません」

 「インドの代表になれる者はいるまい」

 「それにこんな島で拗れる方が大英帝国にとってマイナスだ」

 「得られる物より失う物が多ければ攻め甲斐もないでしょうな」

 「日本列島と同じだな。資源といえるものは何もない。労働力だけだ」

 「油田でも出るのならもう少し粘っても良いのですが・・・」

 「採算割れするくらいなら引き揚げるとしよう」

 「連中の意志の強さを確認したかっただけだ」

 「では、ビルマ戦線に兵を移動させますか?」

 「そうだな」

 

 

 

 軍属たちの晩餐

 焦燥感が漂っていた。

 「ソ連参戦で全ての大陸投資が無駄になった」

 「国家財政も破綻する」

 「我々が積極財政で食い潰した赤字を国民に頭割させても無理そうだな」

 「軍と組んだのが失敗だったかな」

 「我々は、資産を全て奪われる」

 「政官財の癒着は日本の伝統だよ」

 「どこの省と組んでも見境なく暴走していく運命だ」

 「利権を追いかけ過ぎて身の破滅か」

 「後悔、先に立たずだな」

 「軍の暴走で情にほだされたからだ」

 「それは庶民。我々は、そこに利益が見出せた」

 「軍事費は最大のスポンサーだったからね」

 「どの程度、国民に犠牲を強いれば我々は地位を保てるだろうか」

 「国内状況は最悪だけど戦況は悪くないよ」

 「国民の愛国心は擦り切れて、憎しみは我々に向きかけている」

 「もう、限界じゃないのか?」

 「国内をまとめるスケープゴートが必要だよ」

 「保身のため他者を犠牲にするのかい?」

 「保身は誰にもあるだろう文句を言われる筋合いじゃないよ」

 「弱者は失策の犠牲にさせられる」

 「やり過ぎると革命かも」

 「共産勢力は、小さ過ぎて軍と組まない限り、日本を統括できないな」

 「軍も自分で国を御したくなるほどだ。いまさら貧乏人とは組まないだろう」

 「しかし、庶民はともかく」

 「一定以上の階層を犠牲にすると手足をもぎ取られるようなものだぞ」

 「利害関係で相互に補完し合っていたからね」

 「体質を変えると国内が混乱するよ」

 「少なくとも、議会制民主主義に戻す方が安心できるよ」

 「国際社会に制服組が出ていくなんて恥ずかしい。背広組が常識だよ」

 「だけど、議会制は党利党略で混沌だよ」

 「もう、軍の暴走、独善、偽善、大本営発表にはうんざりだよ」

 「しかし、どうしたものか。飛行機を製造できなくなれば敗北は、確実だろう」

 「アメリカがどの程度、我々の利権を保証してくれるか。それが問題だな」

 「せめて自給自足できる程度、人口が減ってくれたらな」

 「自給自足が増えると近代化が遅れるよ」

 「借家人を増やして国民を働かせないと」

 「固定資産税でも十分だろう」

 「資産家が土地、資本、労力を占有して国家産業を大きくするんだ」

 「固定資産税を取られ過ぎると産業投資が抑制される」

 「やれやれ、誰もが幸せに生きていける世界はないものかね」

 「欲望は衝突するからね。無理だろう」

 「渇望がなくなると意欲が低下して、国力も低下する」

 

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 面白い記事を見つけました。

 日中戦争・第二次世界大戦中について三笠宮崇仁親王の言及

 「偽りを述べる者が愛国者とたたえられ、真実を語る者が売国奴と罵られた世の中を、私は体験してきた」

  (『日本のあけぼの――建国と紀元をめぐって』光文社 1959年刊 「はじめに」より)

 当時の日本を端的に現わしているような気がします。

 局地戦なので日本全体の行き末は不明です。

 軍国主義が続くと栄達、支配欲、権力、利権を見境なく求め侵略と支配を続けるしかなく。

 軍国主義を滅ぼすと国際情勢で国家存亡の危機。

 このジレンマは、国民の技量不足、資源不足、困窮、自分本位、弱肉強食、派閥抗争。

 事勿れ、権威主義、年功序列など膠着した悪循環な要素が作られた結果でしょう。

 

 

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第03話 1944年 『トラック島攻防戦』
第04話 1945年 『取捨選択』
第05話 1946年 『薄 氷』