仮想戦記 『国防戦記』
第06話 1947年 『外平かにして・・・』
民主的な国家であれば、政府の行政、議会の立法、裁判所の司法が独立し、
独裁、独善、暴走を権力の分権で防いだ。
この時期の日本は、軍事国家で、いささかバランスを欠いた国情だったことはいなめない。
どちらにせよ。国家の基盤は、身近なものから構築されていく。
家族と人と人が良心的な倫理道徳観で有機的に結ばれ、
高い知的水準で教育がなされる。
主権、国土、国民、法律、風土、資源、言語、宗教、歴史、文化が複雑に絡む。
派閥確執内紛が激しかったり、
社会基盤が脆弱であったり、
利己的であり過ぎたり。
内部に問題があれば、長期戦に耐えられるはずもない。
総力戦は、個人の生活経費を除いた余剰生産力を引き抜き軍事力を敵国に叩きつける。
軍事力の総量が大きい方が有利であり。
より効率良く社会構造を構築した方が勝ちやすく、
歯車の一つが損なわれても全体が挫けてしまう。
一部の特権者を除くと個人の生活経費さえ切り詰める。
特権者でさえ弱い順に生活経費を失い、
一般庶民は、社会生活を維持できなくなっていく。
軍国主義、全体主義特有の恐怖、
過酷な労働、押し潰される重圧と不満。
食糧不足と悪化する衛生状態から結核患者は急増。
風邪に似た症状が医療の劣る日本で流行していく。
日本風邪と総称され、
発病すると数週間の高熱後、3割近い致死で命が失われていく。
中国大陸
中国共産軍は、揚子江の北岸に達し。
日本軍は、武器弾薬を消耗し、南京へと追い詰められていく。
そして、揚子江南岸でもドミノ倒し状態で共産勢力が力を付け、
国民軍と内戦状態に入っていた。
東南アジアの日本軍は、基地上空の制空権だけ維持できるていど善戦していた。
もっとも、アメリカ側の事情があった。
アメリカ太平洋艦隊は、震電の体当たりを恐れて動けず。
占領したスマトラ・ジャワの傀儡化も進まない。
そして、日本社会は崩壊しつつあると見切っており、
日本は、年月とともに弱体化すると踏んでいた。
そこで、欧州で始まった冷戦で米ソ対峙が強まっていくと事情が変わる。
日本の打倒は、ソ連共産主義勢力の拡大につながるため戦線に妙な停滞が生じていた。
インド大陸
非暴力・非服従を標榜するガンジー派と自由インドのチャンドラ・ボース派の抗争。
ヒンズー教・インドとイスラム教・パキスタンの分離独立闘争は複雑に絡みながら独立戦争が始まる。
イギリスは、ガンジー派と妥協しながらも独立を認めようとしていた。
しかし、自由インドのチャンドラ・ボース派に寝返るインド軍が反乱を起こした。
さらにカースト制最下層以下アチュート(不可触民)もドサクサに紛れて略奪が横行。
インド大陸に紛れ込んだ自由インド軍兵士テロが英印軍の不和を広げる。
そして、混乱するイギリス軍は、流れ弾から疑心暗鬼となって、インド兵を攻撃してしまう。
インドの離脱は、大英帝国の自立再建を不可能なほどの打撃になった。
イギリスは行き詰まりアメリカと協議しつつ・・・・
「リバティー船の脆性破壊は、深刻なのでは?」
「まぁ 2700以上も建造すれば、問題もありでしょう」
「46年の4月まで1031件の脆性による破損事故は?」
「・・・・」 むすっうう〜
「既に200隻以上が戦闘以外で沈んでいるか、使用不能。今後も増えるのでは?」
「そ、そういうこともあるでしょうな」
「そろそろ。ぼろが出る前に検討されてはどうです?」
「まぁ 戦時急造船ですからね」
スペイン マドリード
日本大使館
「・・・講和ですと?」
「ええ」
「どうしてまた?」
「国際情勢に伴った処置と言えますな」
「こちらとしては、望むところですが・・・」
「無論、そちらにとって、条件は厳しいものとなりますがね」
「伺いましょう」
3月15日
日米英マドリード講和条約調印。
日本は、宣戦布告以前の攻撃の賠償をアメリカ、イギリスに対し行う。
日本は、
香港1104ku、シンガポール3000ku、ブルネイ1万ku、
バリクパパン1万ku、ビアク2000kuを領有する。
日米英は、東南アジア独立を推進する。
日米英は、開戦後の損害賠償、領土返還の要求をしない。
日米英は、国交回復と正常化を行う。
日米英は、捕虜交換を行う。
日米英講和条約は、比較的公平に調印された。
もっとも、日米英の国情は、公平ではない。
日本は、歳入歳出をはるかに超える赤字で国家財政が破綻していた。
軍属者たちの宴会
「戦争が終わっても国家財政は危機的状態だな」
「軍を最大の利権団体にしてしまうからだ」
「朝鮮と満州の資産を守るために予算を奪われ、敵を作り過ぎた」
「痛いのは軍事費だよ。収益より維持費が大きいのは駄目だろう」
「制御不能になるまで軍の予算を大きくするからだ」
「産業基盤を軍事力に偏らせたからだろう」
「だけど、分家を大きくしたら本家を乗っ取られたからね」
「組織の自己防衛は国さえも乗っ取るよ」
「だけど状況は開戦前より酷い。国民の愛国心は限界だ」
「事勿れはあったが、愛国心なんてあったかな」
「軍人は給与と仲間のために戦う。戦場で頼るものは仲間だけだ」
「というより仲間に殺されないように結びつきが強くなってくのだろう」
「まぁ 財政が破綻しているのに軍事費は捻出できないよ」
「だけど、軍事力は必要だよ」
「軍部は、愛想を尽かされているし、無理をし過ぎた報いかな」
「積極財政は血税だけじゃ足りない、借金に借金を重ねての投資だからね」
「列強と張り合おうとすれば、それくらいの軍事力が必要だよ」
「軍事力は保険。破産するほど保険金を掛けるなんて、大き過ぎたと思うよ」
「じゃ 保険金を貰おうとして戦争し掛けるなんて、保険金詐欺みたいなものか」
「だけど、いままで投資した財産が消えてしまうと困るだろう。無理したくなる」
「我々は、借財を守るため無理を押し付けた方だろう。無理をしたのは庶民」
「金と命を吸い上げる人間。金を出す人間。命を出す人間は違うからね」
「投資の質が問題だな。軍部と結託した利権で収益を守ろうとすると侵略になる」
「だけど、せっかく投資した満州帝国も、朝鮮半島も破算だな」
「国債は、国家の利権とからんで、利回りの良い財産だったのに・・・」
「不良債権は痛いよ」
「投資が成功すれば利息を払いながら元金も返せたんだけどね」
「国富磨り減らしながら私腹を肥やしていたけど、収入より維持費が多かったからね」
「満州帝国は解体。朝鮮半島もソ連に奪われたし、もう、権益がだいなしだよ」
「もう侵略の道は塞がれたし、追加の国債は買えないだろう」
「別の税収で赤字を補填するか」
「国民は、ボロボロだよ。貨幣経済まで巻き込んで破綻するかも」
「本土が爆撃されていたら国民の憎しみは軍官僚じゃなくてアメリカだったのに・・・」
「油田が当てになればいいけど」
「シンガポール、ブルネイ、バリクパパン、ビアク領有の代わりにスマトラ、ジャワ支援をやめるって、どうなのよ?」
「武器弾薬を製造するのも辛いらしいよ」
「そんなに鍋釜、日用品が重要かね」
「持っていない人には、重要なんじゃないの」
講和が国民を一時的に平穏にさせただけだった。
安心した軍属たちの判断を鈍らせる。
そして、中国大陸。
アメリカに支援された重慶の国民軍と、
ソ連に支援された北京の共産軍は揚子江を挟んで衝突。
優勢だった中国共産軍の南進を食い止めたのは、日本軍が使った手だった。
米英戦艦部隊は、講和を結んだことを口実に南シナ海を北上。
台湾海峡を抜けると揚子江河口へと入って輸送船団とともに遡上していく。
海洋に比べ波静かな河川。
吃水10mを越える戦艦は、武器弾薬・燃料を下ろし、
曳航船に引っ張られて上流へと登っていく。
そして、河口から内陸1000km上流の漢口まで、戦艦12隻が点々と埋め立てられていく。
着底後、輸送船から戦艦へと物資が搬入させられていく。
戦艦ニュー・ヨーク (吃水7.92m) 艦橋
「補給は?」
「終了しました」
「やれやれ、転覆するかと思ったよ」
「本艦ニュー・ヨークは揚子江の最上流です」
「日本と同じ手を使うことになろうとはな」
「名称から、一番西だと決まってたのでしょう」
「それはいえる」
「敵性国家に囲まれているので状況は、日本戦艦より悪いはずです」
「南京から漢口まで12隻も戦艦を埋め立てれば、何とかなるだろう」
「それより西は、危ないかもしれませんが」
「撤収中の日本軍は?」
「揚子江より北にはいないようです。南京で撤収待ちのようです」
「日本とは講和を結んでいる。問題だけは起こさないよう将兵に徹底させてくれ」
「はっ!」
アメリカ戦艦
ニュー・ヨーク、テキサス、ペンシルヴァニア、ネヴァダ。
イギリス戦艦
ネルソン、ロドニー、クイーン・エリザベス、ウォースパイト、
ヴァリアント、マラヤ、リヴェンジ。レナウン
米英戦艦12隻は揚子江南岸に着底、埋め立てられ、
共産軍の侵攻は食い止められていく。
南京
日本軍駐留部隊
アメリカ軍の艦船が揚子江を遡っていた。
「すごい船の数だ」
「講和が済んだら、これか」
「日本が中国の利権を放棄した途端、中国に取り付きやがる」
「だけど、戦艦を埋め立てるなんて、日本の真似じゃないか。ずるいよ」
「・・・大佐。香港から通信です」
「国民軍が揚子江以南で反撃。共産勢力を掃討しているそうです」
「やれやれ、勢いがついて・・・」
赤レンガの住人たち
講和条約は、秘密協定を含めても、それほど酷くはなかった。
「これだけなのか?」
「グアム、ウェークの返還を求めなかったのは、カムチャッカ半島の返還をさせないためだそうだ」
「だけど、グアム、ウェークの被占領地は、アメリカに売却するんだろう」
「秘密協定はあるけど、国際情勢によってだよ」
「揚子江の権益でグアム、ウェークの元はとれるらしい」
「しかし、経済的にはアメリカの影響圏か」
「元々、日本経済はアメリカとの交易で成り立っていたのだから、そう言われてもね」
「アメリカが日本に余り物を売ってくれるんだと」
「ちっ! 足元見やがって」
「しかし、揚子江での軍事行動だろう。アメリカ軍に余裕があるのが信じられないよ」
「んん・・・」
「しかし、政治的には、どんなものだ」
「共産軍に宣戦布告されていない。それなのに戦争している」
「国民党と同盟関係にあるから、その経緯で支援できるんじゃないか?」
「しかし・・・揚子江に12隻も戦艦を沈めるなんて・・・」
「日本が埋め立てた戦艦の利権を認めたのは、こういう事なんですかね」
「日本も米英の権益地を認めざるを得ないね」
「そうしないと油田の利権を失う。相互保障という奴だ」
「秘密協定だと、マレー半島、ボルネオ島、セレベス島の利権は、日本だよな」
「フィリピン。スマトラ島とジャワ島の利権はアメリカだ」
「インドネシア連邦か。アメリカが親父で日本が母親か。上手くいくと思えないのが問題だな」
「インドネシア人の民族感情は日本が有利だ」
「しかし、資金力はアメリカだ。日本が搾取を続けたら・・・」
「貧乏人は戦争するなってことか・・・」
「だな。しかし、1000万単位の日本人が食糧不足で南に移民していけば・・・」
「行くかな・・・」
「行くのは食いっぱぐれじゃなく」
「身の危険を感じている軍属富裕層だよ。それにボルネオ島は、人口密度が低い」
「軍部は、武力行使で、くれくれ体質だからな」
「結局、日本国民が日本軍を養っているのであって」
「日本軍が日本国民を養っているのではないということだよ」
「日本国民が日本軍を養えなくなれば、お終いと言えるね」
「日本全体からすると日本軍もヤクザで重荷でしかない。嫌われて当然か」
そして、日米英講和条約調印は、日ソの戦争終結をも誘発させる。
冬季明けで日本の北東シベリア侵攻を恐れたためともいえる。
4月15日
ストックホルムで日ソ講和条約が調印された。
講和の内容は、日米英講和条約とほぼ同じだった。
日本人捕虜の方が圧倒的に多く、
人命無視のソ連の捕虜返還が行われたのは理由があったらしい。
日本軍のアムール川河口の塞き止め。
米ソ対立に対し、
日本の満州・半島のソ連領承認は、国際政治上の利益になったためと言える。
またソ連は、アメリカの目が極東に及んでおらず。
国際社会の批判を受けないと朝鮮人・漢民族の強制労働が行われた反動らしかった。
日本の餓死数が目立たない程度の強制労働者が駆り出され、
シベリア鉄道建設とシベリア開発に送り込まれていた。
日ソ協議
「あの件は、見ざる言わざる聞かざるという事で」
「共産主義が有色人種排斥とはね」
「まさか、粛清は人種にかかわりなく国策で行われてます。共産主義者は平等ですから」
「まぁ 日本人捕虜を返還してくれるのでしたら・・・」
ソ連は、朝鮮人、満州帝国の人口を把握している日本の口を捕虜返還で塞いでしまう。
そして、日本人捕虜の数十倍の漢民族・朝鮮民族がシベリアで強制労働させられることが決まる。
日本
排他的な民族性と閉塞的なムラ社会で生かさず殺さず。
高い識字率を保ちながらも勤労勤勉を封建的に強要される世界。
大衆は村八分を恐れ、
強いモノに巻かれ、事勿れ意識が国民全体に広がっていた。
列強の脅威と圧力から愛国心が鼓舞され、
国家財政が軍事費に注ぎ込まれてしまう。
内政は追い詰められ、
外征で大陸の利権を得て財政を立て直そうとする。
しかし、財政は破綻し、
内政の失態を誤魔化すため強圧的な軍政を敷き、敵国を作って挙国一致。
外交の選択は失われ、
荒廃していく社会で国民の暴発を恐れた軍部は、暴走を続け開戦。
国家基盤が脆弱な日本は行き詰まり、
貧民層から衣食住が喪失していく。
戦争末期には配給制度も失われていた。
食糧不足は結核患者を増やし、病傷者の命を削り、
社会秩序を失わせ闇市を形成する。
財政破綻で企業が倒産し、銀行が潰れていく。
戦争が終結すると同時に貧民層の集団強盗殺人が多発していく。
そして、数が多ければ、軍隊も、警察も守り切れず。
弱小大家・地主から襲われていく。
某大家・某地主の家。多数
「な、なんだ。なんだ」
「お、親父」
「お、御父さん」
「あ、あなた」
「お、お前たちは、何だ!」
「「「「うるせぇ 金と食い物をよこせ」」」」
「ふ、ふざけるな。お前たち、下賤の者にやるものなどないわ」
「ふざけんな。俺たちの子供を戦場から返せ」
「娘を慰安婦に追いやりやがって返せ」
「ふざけるな。俺たちの知ったことか」
「そうよ。あんたたち、戦場に行きなさいよ」
「そうだ、そうだ」
「もう、俺たちは、何もないんだよ」
「子供は、戦場で死んで、母親も、親父も、餓死だ」
「娘は、奉公先で殺された」
「お前たちだけ、こんな大きな家で上手いもの食いやがって子供は、金で徴兵拒否か?」
「ふ、ふざけんな。徴兵が嫌なら金を出せばいいんだ」
「ふざけんな。散々、良い思いしやがって、殺してやる」
「うぅああ、まて、石とか、クワやカマは、やめろ、せめて日本刀にしてくれ」
「「「「ふざけんな。死ね〜!!!」」」」
うぎゃあああああ〜!!!!
「あなた〜!」
「おやじ〜!」
「おとうさん〜」
「「「「兵役逃れの息子も殺せ〜!!」」」」
「「「お〜!!」」」
「やめてくれ。なんでもするから、止めてくれ〜!!!」
「「「「「死ね〜!!!!」」」」
「や、やっぱり、日本刀にして〜」
うぐぅわぁああああ〜!!!
「お兄ちゃん〜」
「ああ、太郎」
「お前たちは、金と食い物を奪う代わりに×××をくれてやる〜!!!」
「そ、そんな。いりません」
「くじ引きで、順番を・・・」
「「「「・・・・・」」」」 どきどき どきどき
「「・・・・・」」 どきどき どきどき
「「「「えい!」」」」
「わぁあ〜い! 一番〜♪ 娘だ」
「げっ ババァだ」
「「二番目だ〜」」 しょぼ〜ん
「「こっちも選ぶ権利が」」
「「「「うるせぇ そんなものはない!」」」」
「「きぁやああ〜 脱がさないで〜」」
「ひん剥け〜!!!」
「「やめて〜!!!」」
「「うるせぇ お前らだけ良い思いしやがって、これでも食らえ」」
きゃああああ〜!!!
「「えい!」」
「「・・あ・・・」」
そして、温暖多湿な日本で衛生状態が悪化する。
「ネズミを殺せ!」
「ついでに大家と地主も殺せ」
「「「「おおおおお〜!!!!」」」」
日本人が狂気に取り憑かれたようにネズミを駆り立てて駆除していく。
ついでにドサクサに紛れて、暴徒になったりもする。
結核患者、日本風邪(新種)
さらに天然痘とペストが発生する。
東京湾に日本海軍艦艇が威並んでいた。
空母9隻
(大鳳、瑞鶴、翔鶴)(飛鷹、隼鷹、龍鳳)(瑞鳳、千代田、千歳)
重巡17隻
(古鷹、加古、青葉、衣笠)
(妙高、那智、羽黒、足柄)(高雄、愛宕、摩耶、鳥海)(最上、鈴谷、熊野)(利根、筑摩)
軽巡5隻
(阿賀野、能代、矢矧、酒匂)(大淀)
駆逐艦65隻
(吹雪、白雪、初雪、白雲、浦波、綾波、敷波、朝霧、天霧)
(初春、若葉)
(白露、時雨、村雨、春雨、五月雨、海風、江風、涼風)
(朝潮、満潮、朝雲、山雲、峯雲)
(陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、初風、雪風、天津風、時津風、浦風、谷風、野分、萩風、舞風、秋雲)
(夕雲、巻雲、長波、巻波、清波、玉波、涼波、藤波、浜波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜)
(秋月、照月、涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、花月)
大鳳 艦橋
「陸地は、疾病で酷いらしい」
「疾病で死んでいくのは天災で良いよ。人を憎まずに済む」
「日本人が日本人を殺すよりはるかに良い」
「日本の国土で7500万人も生きて行けませんからね」
「軍は食糧を増産しながら解体していくらしい」
「戦争が終わってからの方が人は死ぬんだな」
「元々、財政破綻を戦争で挙国一致で誤魔化しでしたからね」
「それがなくなれば・・・」
「大本営はどうですかね?」
「現地軍の厭戦と国民の突き上げの狭間で軍上層部は戦々恐々だな」
「開戦前より衣食住の困窮が酷い」
「国民の暴走を食い止めようと思えば・・・」
「・・・しかし、随分、寂しくなったな」
「戦艦を埋め立てちゃいましたからね」
「燃料。なかったですからね」
「埋め立てた戦艦を囮にムスタングを撃墜していたようなものか」
「ボロボロの割に艦隊は残ったのかもしれません」
「戦艦を埋め立てて基地を守れば、駆逐艦の消耗も減るだろう」
「最初から要塞を建設すれば良かったのにバカなことをしたものです」
「エリートがな。辺境の地に配備させられるのが嫌だっただけだ」
「霞が関が良いですし。辺境は面白みがないですね」
「大型輸送機があれば人員交替もしやすかろう」
「なるほど」
「しかし、軍事費は削減されて要塞どころか、もう鼻血も出ないよ」
「開店休業中ですかね」
「戦争反対だよ。もう、毒気が抜かれた」
伝令の兵士が電文を持ってくる。
「・・・軍将兵の家族まで暴徒に襲われているらしい」
「銃後もあったものじゃないな」
「将兵も浮足立ってしまいますね」
「軍で治安維持するか、軍を縮小して警察権力を強化するしかないか」
「軍部は予算縮小に耐えられるだろうか?」
「将兵の家族が襲われれば、軍紀は保てないだろうな」
東京
日本風邪で大量死。結核患者の増大。ペストの蔓延。
貧民層は喘ぎながら死んでいく。
しかし、世の中、良識派が勝てるとは限らなかった。
国会で農地解放政策が反対多数で否決され。
赤字返済のため弱者見殺しのインフレ政策が採決。
日本の世相は一気に荒廃して凶暴化していく。
飢えが日本国民を暴徒にさせ略奪は増加の一途をたどっていく。
一般庶民にとって日本軍は、可愛さ余って憎さ百倍だった。
軍部は戒厳令を敷き、
治安維持のため軍に出撃を命じ暴徒を押さえつけようとする。
エリート意識、特権意識に毒された軍官僚も家族が襲われて真っ青になり、
日本軍将兵は、国民から憎悪されたことで士気を低下させていく。
そして、暴徒を鎮圧しようとしていた兵士がついに発砲してしまう。
暴動はたちまち日本全土に波及し、
暴徒は富裕層を襲撃、略奪し虐殺していく。
手近な親類縁者が狙われ、
国家権力と共謀して搾取していた大家、地主、軍属など狙われやすく。
農地改革に反対した議員は、真っ先に血祭りにあげられた。
軍部の一部は、将兵の家族に対する略奪と殺害を天皇に対する反逆と決めつけ。
国家反逆罪で力付くで暴徒を捻じ伏せようとするも、下級将兵と国民の支持は得られず。
天皇の反発で主流から外されていく。
軍部の縮小は決定的で減少するポストを巡り、
軍上層部で醜い抗争が始まり派閥が生まれる。
利権を失っても国体を維持する軍上層部の穏健派閥。
利権を守るため国体を犠牲にする軍上層部の強硬派閥。
天皇は、玉音放送を行って指導力を喪失した軍部上層部を更迭。
一度否決された農地改革は、臨時閣議で農地改革の強制執行が決まる。
強硬派だった軍官僚と富裕層が家族ごと暴徒に惨殺され、
国外へと逃亡していく。
そして、議会の強硬派が淘汰され、穏健派が首位を占めてしまう。
失われた秩序は、天皇を中心に再構築されていた。
理由は共産主義勢力が国家組織を作れないほど弱く、
小さい労働組合の集まりにしかいないこと。
日本全体で支持され代表になりそうな人物が存在しなかったこと。
軍部は縮小し、
実質、治安維持軍と言える状況で国民に銃口を向けて秩序回復。
それでも、食糧は足りず暴動と犯罪と餓死者が増大。
日本社会は慢性的に混乱する。
日本の戦後は、議会制民主主義と警察国家から秩序が回復が求められた。
衣食住が乏しくなれば社会秩序は、崩壊していく。
日本で小規模な一揆や暴動は珍しくなかった。
しかし、戦後の日本は、日本史上初めて下層階級が上層階級を淘汰してしまう。
集約された労力と資本を軍部の膨張に浪費させられた民衆の怒りを買い。
日本官僚組織を脅えさせる。
富裕層が金目の物を持ち出し、台湾、ボルネオ島へと逃亡させていく。
この過程で投資された資本は、満州鉄道の数十倍に達し・・・
富裕層の命の代価の大きさといえた。
ホワイトハウス
日本の疾病、混乱、動乱に驚いたのはアメリカの首脳部だった。
「そんなに死んでいるのか?」
「チャンスでは?」
「ペスト、天然痘、日本風邪が流行している日本に軍隊の派兵は不味いだろう」
「パナマ爆撃で反日は強まっているのでは?」
「アジア輸送が低下して費用の負担が大きくなっている」
「それに上陸作戦に使える旧式戦艦は、全部使ったよ」
「最大は、講和が終わって戦意が保てないことだろうな」
「ペスト、天然痘、日本風邪のドサクサで占領するのも道義的に問題が大きい」
「それに攻撃すれば、日本人は結束するのではないか」
「もう一つ、兵員への発病は困る」
「アメリカ本土にペスト、天然痘、日本風邪が伝播すると危険ですし」
「厭戦気運を巻き返せなくなります」
「ペスト、天然痘は、ともかく」
「日本風邪は、栄養不良で発病するらしい。まともに食べていたら発病しないそうだ」
「どちらにしろ、天然痘やペストを生物兵器でアメリカのせいにされては困る」
「軍は、やってないだろうな?」
「化学兵器はともかく。細菌兵器なんて使いませんよ」
「化学兵器でさえ、限定された使い方しかしていませんし」
「しかし、戦後日本の窮地は、日本風邪。ペスト、天然痘が守ったのだろうな」
「面積あたりの人口が減って、膨張政策もできないだろう」
「日本は昔から天災に対する脅威に備え、謙虚と和を尊び、被害が技能を修練させてきました」
「それで、今度も天災に守られた、ですかな?」
「どちらとも言えないが、これ以上の攻撃は、ソ連を利するだけだ」
「共産化の動きは?」
「小さな動きはあるようですが、日本全体を統制できるだけの力があるか、微妙です」
「んん・・・」
「皺寄せは台湾にも及んでいるようです」
「台湾は、皇民化するのか?」
「朝鮮半島の代わりに同化政策が進むそうです」
「軍属富裕層も逃げ出しているようですし」
「それと日本の富裕層、軍属の一部がボルネオ島へ逃亡している節もあります」
「軍国強硬派か」
「ええ」
「ふっ バカだな、軍国主義など搾取される側になれば消し飛ぶよ」
「日本がシンガポール、ブルネイ、バリクパパンの領有を強行に求めたのも」
「油田を押さえたかったのでしょう」
「日本の富裕層の逃亡先ですかな」
「戦艦を埋め立てたとしても無理やりな主張だな」
「アメリカ、イギリスも同じ手法が使えるはずです。現に12隻揚子江に埋め立てています」
「軍艦は国土の延長。軍艦の価値を肯定するのは、損ではないでしょう」
アメリカ政府は、日本の共産化、日本風邪、ペスト、天然痘の拡大を望まなかった。
日本の輸出規制を解除、現物と食糧を売却し始める。
この時、日本政府が書いた借用書は、配給制度を復活させ。
冬に凍死する人間を減らし、最悪の事態を免れさせる。
しかし、日本の混乱が収まったのは、単純な理由だった。
7500万だった日本民族の人口が5500万にまで減少したことにあった。
親兄弟、夫婦の骨肉で殺し合い人肉が市場に流れる。
食糧不足の飢餓、傷病、犯罪、暴動。
それだけの人口が失われハードランディングしてしまったに過ぎなかった。
昭和の暗黒期とか、大飢饉とか、大狂慌とか、大自滅とか、大殺戮とか。
人口が減少し、食糧自給率が向上していくと、この大狂行は自然消滅していく。
辛うじて国家官僚機構が保たれたのは、日本民族の気質だったのか、幸運だったのか不明。
日本政府は、農政改革を強行しつつ破壊と略奪する暴徒を鎮め。
斜陽経済で日本経済を立て直しつつ荒廃する社会を辛うじて制御。
一時的に間引きで利用したヤクザも、強くなり過ぎたヤクザは白色テロで抹殺し、
無法社会を排斥できたのも僥倖。
日本で衣食住が維持されるようになると復讐劇も沈静化、秩序も回復傾向を見せた。
この時期、アメリカが日本を攻撃しなかったのは日本の共産化を恐れてのことであり。
当事者になって憎まれるより、
無秩序化したのち、日本人に恩を売れば御しやすいと様子を見ていただけといえた。
しかし、日本の官僚機構と富裕層は辛うじて生き残り、
日本の国家は再建されていく。
銃後の国民に家族を殺された将兵は失意のどん底に陥る。
そこには、皇軍や国軍という権威も誇りも失われ、なくなっていた。
人と人との絆が失われ近隣が強盗に見えると安心して働くことも出ない。
家族や兄弟が敵になれば、生きた心地はせず。
人心が乱れては、外征もままならず。
しかし、政府と国民も、日本風邪、結核患者、ペスト対策で食糧を増産しなければならなかった。
そして、衣食住で安定させなければならず、
掃海艇が国営の漁船に改造されていく。
「家が不安だな」
「だけど、魚を捕ってこないと、飢え死にだぞ」
「魚を獲るより、強盗で奪う方が楽なんだろうな」
「国を守って家に戻ったら家族が殺されて、強盗に居座られていたなんて冗談じゃないよ」
「人間不信が大きくなると外征どころか、家を空けることもできなくなる」
「後進国真っ逆さまだな」
「特に軍属富裕層は、国外に逃亡している。もう、駄目だろうな」
「ブルネイ、バリクパパンの燃料があるだけでもマシか」
「鉄と石炭は?」
「武器弾薬を国民軍と共産軍に売って、資源を買ってるよ」
「最近は、少しましになったんじゃないか」
「大家と地主が殺されて略奪されきったんじゃないか」
「バカが農地改革に反対するからだ」
「しょうがないよ」
「既得権を守るため命を賭けるのは当り前だし、過ぎれば殺される」
「まぁ 力付くで民衆の不満暴発を押さえるため陸軍が肥大化した経緯もある」
「それが人材を社会から奪い」
「日本の近代化を阻害し、経済活動を破綻させた原因でもある」
「悪循環だな」
「分かっていた。しかし、村八分を恐れ、誰も体制を批判できなかった」
「総理でさえ、見せしめで殺されたんだ。当然だろうな」
「しかし、随分と死んだな」
「しかも身内同士、富裕層を巻き込んで津山事件の大量発生か?」
「焼け野原にされなかっただけマシだったと思うよ」
「ドイツは戦死者500万。民間人は50万で総数550万」
「日本は、戦死・行方不明100万か」
「しかし、飢えと疾病と動乱で民間人が2400万。焼け野原より良かったと言えないよ」
「だけど2400万だぞ」
「ほとんどが疾病と飢餓なのが救いだ」
「集団暴走と犯罪は100分の1程度だが歯止めが利かなかったんだな」
「欧米の評価だと赤化しなかったのが奇跡だったらしいよ」
「国民性だろう」
「無謀な国策に国民を引き摺りこんだ結末が間引きだよ。間引き」
「だけど貧富の格差を広げて、近代化はしたいよ」
「子供を5人産んで3人を国家的な奴隷というのも独り善がり過ぎるよ」
「国は、何かを犠牲にしなければ近代化できないよ」
「日本は犠牲にできる資源がなかっただけだ」
「欲の皮突っ張らせた報いか」
「どうせなら、実のあるものに投資すれば良かったものを・・・」
「強さを自慢し惹かれる。マッカーサーに12歳以下の精神年齢と言われる所以だな」
「攻めきれなかった負け惜しみじゃなかったの?」
「アメリカは14歳の精神年齢だよ」
「五十歩百歩だな」
「頭が良くても能力が高くても、高潔な聖人になれるわけじゃないってことだ」
「治安は落ち着いてきてるけど、聖人は、まだ生き難いよ」
「人の良い人間って、損するからね」
骨肉で殺し合い。
大家地主が暴徒に殺されたりする。
同時に一時的に浮いた借地土地は、借家人借地人のモノになったりする。
しかし、役所は灰になっておらず、登記はしっかりしており。
犯人は捕まえられたりする。
某大家・地主家族たち
「さぁ 早く。船に乗るんだ」
「なんで、私たちが」
「食い物がないからって、大家と地主が襲われているんだ」
「いまのうちに財産を持って逃げないと」
「親父、だ、大丈夫なのか?」
「軍隊が現地を押さえて家族を呼び寄せている」
「次郎ちゃん。大丈夫?」
「おねえちゃん。俺だって軍隊にいたのに・・・」
「そうね」
「太郎も、次郎も、後方の事務職勤務だったからな」
「日本に残っていたら殺される」
「土地や家は?」
「国に売ったから、しばらくは、保護してくれるだろう」
「「「はぁ〜」」」
大人しい国民が怒ると歯止め知らずで怖かった。
政府が介入して区画ごと、
再開発を掛けたりするので目論見通り成功すると限らず。
この時期、政府が祭りの元締め、つまりヤクザのように場所決めを行っていた。
中央政府の集権が強く、
庶民間の力関係に無頓着で比較的杓子定規に公平だったり。
それが有力者の不満の種だったり。
もっとも政府の庇護をうけず、
暴徒に血祭りにされると思えば、中小有力者も少しばかりの遠慮もしたりする。
この年、暴徒による変革を日本史上初の市民革命と記す歴史家は少数派だった。
日本民族は、思想に殉ずるような高潔な気質は持ち合わせておらず。
共産主義革命と結びつけるには、あまりにも思想からかけ離れていた。
同じ飢餓に誘発されたフランス革命や清教徒革命、名誉革命と比べても統制が執れていない。
財政破綻と衣食住の喪失で暴徒は多発的に起き、犯罪的なものであり。
実のところ日本全国で多発的に起きた一揆、打ちこわしに近く。
死者のほとんどが弱者であり、餓死、日本風邪、結核、ペストの類だった。
とはいえ、結果的に軍人貴族の家族と軍属富裕層が襲われたことに違いがなく。
大家地主が殺され、農地解放が行われ、
資産の再配分が行われたことに違いがなかった。
そして、まことに情けない日本型の革命らしく、天皇に及ばず。
最低限の衣食住を得ると、暴徒は縮小し沈静化してしまう。
あまりにも自然発生的に起こり、あまりにも事勿れに終わった現象だった。
実質、公共資源、個人資財の再配分が強行され、
結果的に革命に近い処理が政府でなされた。
その後、この消極的で事勿れな行政改革を日本史上初の日本の市民革命と記すか。
日本のみならず、世界中の歴史学者を悩ませる。
戦後、日本の政治制度は、奇妙で脆いバランスで保たれていた。
軍事費削減で陸軍が解体していくと、
日本国民の軍部に対する憎しみと嫌悪感は強くなっていく。
おかげで、再建された議会制民主制度は、紆余曲折の失策があっても辛うじて存続し続けた。
南京
大陸の日本軍は、南京と香港に集結し、帰還を待っていた。
急いで帰還できなかったのは、国家間の思惑が働いていたためだった。
この日本軍が、重慶の国民軍に失望したアメリカとイギリスの権益代理人であり仲介人だった。
リバティ船が着岸して、国民軍支援用の物資が荷揚げされていく。
アメリカが投資した相手は蒋介石国民軍であり。
それを無駄にしないためにさらに投資させられる。
ほかにもいろいろ・・・
情報収集も色々あって、一般将兵の感覚も有用な情報源だった。
日本社会のベクトルの強さは、人それぞれ能力や実力で変化する。
しかし、ベクトルの方向性は、対多数の雰囲気、世相、気質に引っ張られ、
肝心な情報は、日本社会が向かっていく惰性的なベクトルだったりする。
実力や能力の強弱は、二次的な要素で予測の範囲内で計測できた。
「日本で革命が起きたって?」
青い眼をした代理人がビールを振舞いながら日本軍将兵に尋ねる。
「・・・どうかな、犯罪が増えているらしいから早く帰らないと」
「アメリカ軍の攻勢から日本を守りきった軍属の家族なんだろう」
「どうかな・・・力付くで統制していたから弱ってしまうと村八分だし」
「ふ〜ん」
「日本社会は、弱い人間や主流から外れると辛いから・・・」
日本人の感性が日本の方向性を決めていた。
東南アジア
独立が決まると日本軍とアメリカ軍は、現地政府と利害を修正し撤収していく。
アメリカと日本も、東南アジアを欧州諸国から独立させたという事で体面を保ってしまう。
日本主権が認められた南方占領地はシンガポール。ブルネイ。バリクパパン。ビアクだけ。
それ以外の利権は名目上、御破算にさせられ、
独立国と対等な交易にさせられる。
結果的に東南アジアは、植民地支配から解放され、
対日包囲網の一角は消えてしまう。
もっとも、お金持ちのアメリカが損を覚悟で現地資源を高騰させるだけで日本経済は破綻してしまう。
つまり、日本の生殺与奪権は、アメリカに握られていると言っても過言ではなかった。
そして、アメリカが損を覚悟で資源高騰するかといえば、躊躇したりする。
日本が守られたのは、面子だけ。
細々と資源を買入、日本国内で加工し、東南アジアへと輸出し、余剰資源を買い入れる。
現地に押し付けた軍票は、日本経済に重くのしかかり。
インフレを起こそうとしても、日本の貧民層の暴徒化は怖い。
日本は近代的な生活は求めるべくもなく、
売国的な対米依存の道も閉ざされる。
最悪の状況を乗り越えても不況が続いていた。
外国製の工作機械は、警戒され、輸出規制が掛かっていた。
アメリカ軍機に太刀打ちできないゼロ戦すらも製造できない。
そんなのモノを少数配備するくらいなら機関銃、擲弾筒、墳進砲の数を揃え、
地下に潜って抵抗した方がマシ。
政府は国家財政再建のため開発投資、公共投資、設備投資に予算を注ぎ込み。
予算を縮小された軍は機械化した国防が困難になると、
官民一体で地下防衛構想へと移行してしまう。
そして、戦後の予算は、軍部への反発のせいか、
国防から、産業投資へと移行していく、
設備投資で最大級のモノは、日本各地で建設する水力発電で、これだけで、
1000万人を超える雇用を起こした。
ブルネイ港
船から夜逃げ大家・地主が降りてくる。
日本軍が区画票を大家・地主家族に渡していく。
「ここ暑いよ」
「そんなこと言うものじゃないよ。兵隊さんたちが必死で守ったところなんだからね」
「何もないんだね」
「命があるだけマシだよ。日本じゃ いつ殺されてもおかしくない」
「もっと、大きい軍人貴族だっているのに・・・」
「もう少し、区画整地が進んでからだろうな」
「工場は、移民用の民需品に切り替えているし」
「病気が怖いよ」
「兵隊をこういうところに追いやったんだ」
「まさか自分たちが住まわされることになるなんてな」
「家も財産もあったのに・・・」
パラフィン系、ナフテン系、混合中間係、芳香族系、天然アスファルト系、ワックス系など、
原油の油質はピンからキリまである。
エンジン機械にとって最高の油質は、ペンシルバニア産パラフィン系。
蘭印の油田は芳香族系。
日本の利権で残されたブルネイ油田も芳香族系の軽質油。
機械油、切断油、潤滑油で不利。
日本は、原油の生産量以上に油質の差でも不利だったといえる。
良い機械オイルがあれば、静粛性、回転数増大、馬力増大、燃費向上、オイルの長命が見込める。
日本の某大企業
「ブルネイは、硫黄分、不純ロウ分を取り除くとして、あとは鉱物油と合成油の比率だな」
「良質のロウを混ぜれば機械油でも・・・・」
「オイルは、ペンシルバニア産がいいよ」
「ブルネイとバリクパパンの油田は国際競争力で弱いからね」
「硫化マグネシウムとモリブテン、アンチモンを増やすべきだけど」
「まぁ パラフィン、ナフテン、ゼンゼンも基礎研究からやるべきだろうな」
「先にコストダウンを優先すべきじゃないか、利潤が増える」
「問題は、工作機械だよ」
「やっぱり、熟練工を必要としない単能工作機械じゃないの?」
「単能工作機械は、電力量、工場の広さ、人件費の問題があるからね」
「戦時のドサクサで強制的に統廃合できて良かったけど、失われた外国製機械は多い」
「オリジナルより精度の良い工作機械が製造できるのは、万に一つだよ」
「いや、統廃合を妨害していたのは陸海軍の確執だから地道にやれば・・・」
「地道ねぇ」
「結局、財政破綻、飢餓、疾病の大量死でようやく規格統合か」
「日本って、自浄能力、自助能力が無いからな」
「利権が崩壊しないと体質が変えられないなんて、どうしようもないな」
「しかし、良いモノを良いと認められないからって戦時体制時くらいは協力すべきだろう」
「良識より我を通す方が強く見えて人気がある」
「例え無駄でも可能性を広げられるのは、悪くないよ」
「それに取捨選択は、質の転換を強いる」
「価値転換や意識改革は、実入りが減って身を切る思いだからね」
「だいたい日本は労働資源しかないから、投資ができても投機は難しいと思うよ」
「やっぱり、清濁合わせて量の増大が楽か」
「衣食住で楽になって、ブルネイの燃料が入って、軍縮ならカツカツで行けそうだけどね」
「市場が小さいと採算とか、生産に響くよ」
「富裕層が多い方が市場は活性化すると思うよ」
「だと良いけど、海外輸出が厳しいとな」
バリクパパン
海軍将校たちが複雑な表情で武蔵を見上げていた。
46cm砲9門は、確かに海を睨んでいたが限定された海域に対してのみ。
荒海を疾駆しながら敵戦艦に向けて砲撃する光景は永遠に見ることができない。
艦内隔壁のほとんどが鉄筋コンクリートで埋められ。
外も鉄筋コンクリートと土嚢で埋められ惨めな姿をさらしていた。
救いがあるとすれば、領土と認められたことだろうか。
海軍力で覇を競うアメリカ、イギリスは主張しやすい道理かもしれない。
輸送船が入港して来る。
空船でなく移民団を乗せての入港。
出航時に重油を載せてなら採算は得られやすかった。
「家族は?」
「全員来たよ」
「やれやれ、酷い時代になったものだ」
「家族が襲われそうになるわ、親類縁者も白い目で見るわ」
「あいつらも、軍属なんだから持ちつ持たれつだったのに・・・」
「結局、憎悪されても割り切れない、技術者や官僚組織は国家に必要だよ」
「しかし、軍人は特に割損だな。慣れない仕事に就くことになりそうだ」
「当面は、バリクパパン、ブルネイ、シンガポールだけだろう」
「だが、ボルネオ島は人口密度が低い、領外も入植はできるよ」
「大丈夫か?」
「まぁ 5割自治で日本語が使える、州軍も揃えられるし、税金を払えるか、だろうね」
「5割はインドネシア政府に持っていかれるということだね」
「関税は一律原則だし、無茶されそうだったら、独立するよ」
「まぁ いまのところ、統一された国家としての認識がないから付け込めそうだが・・・」
「絡めてで行ければ良いけど」
「大きな店を作れば商品欲しさ、金欲しさで土地を売り始めるよ」
「だと良いけどね」
「主権はないよ。中国以上に文盲が多いのが突け込みどころかな」
「日本人と違って人が良いとは限らないよ」
「アメリカが妨害しなければね」
「アメリカもスマトラ、ジャワの権益があるから、お互い様だよ」
「向こうは、ゲリラ戦が続いているから大丈夫そうだけど」
「ボルネオやセレベスだって、人口密度が少ないだけで反発はあるよ」
「アメリカが中国国民党を支援しているのなら、それなりに見返りもあるし、何とかなるだろう」
「国民軍は、揚子江の南側にまで後退」
「南側でも離反者続出で粛清が続いている。危ないかもしれないな」
「しかし、フィリピンは、アメリカ側に付きそうだけど、大丈夫だろうか?」
「反米ゲリラも、反日ゲリラも強い、しかし、英語圏だからアメリカ資本が有利だよ」
「欧米諸国は、植民地には何も作らない。その点が有利かもしれないな」
「だけど、投資の割には利益が低いよ」
「それでも資源が入ってくれば日本産業は回るよ。人口でも余裕がありそうだし」
「・・・司令。バリクパパンで日本風邪らしい症状です」
「げっ!」
シンガポール
軍属たちの晩餐
「とりあえず。命拾いで油田を押さえて安心だよ」
「それはどうかな」
「我々は地位も権力も名誉も失って、手足をもぎ取られたようなものだ」
「人はパンのみに生きるだろう」
「そのパンのみに生きて欲に目が眩み過ぎて、国民と部下に追い出されたんじゃないか」
「世代交代か。もうちょっと頑張れると思ったんだがな」
「年老いても地位、名誉、財産にしがみ付くなんて醜悪だな」
「いや、歳とると地位、名誉、財産しかないから・・・」
「子供も人も裏切るけど。金は裏切らないからね。執着したくなるよ」
「だから醜悪で嫌われるんだろう」
「嫌われるどころか、命を狙われているよ」
「まぁ 連中だって似たようなものだ。こういう下克上は連鎖するからね」
「そういえば、東條とか、歴代総理も逃げ出してきたじゃないか」
「とりあえず。子飼いの連中だけ集めてやりなおせるよ」
「主戦派の軍属家族たちは?」
「彼らも命からがら、こっちに来たよ」
「収奪、簒奪で土地と労力を奪って私腹を肥やしたからだ」
「飛行場や工場は必要だよ」
「日本風邪で救われたな」
「暴徒が失速してなければ、我々は、袋叩きにされていたよ」
「負けなかったのに酷い扱いだな」
「煽ったといえば煽ったし、報いといえば報いだけどね」
「奪わなければ、飢え死になのだから、しょうがないと言えなくもないけど」
「あの連中だって、鬼畜米英で万歳していたし、酔っていたじゃないか」
「酔いから目を覚ませば、俺らが憎しみの対象になるよ」
「やれやれ」
「だいたい、日本の権力者とか、富裕層は、アメリカ資本と比べたら慎ましい方なんだよ」
「しかし、軍事国家はコリゴリだよ」
「だよな」
「それに民生品の方が売れそうだ」
「鉄がないよ。まともな工作機械もね」
「トラックの引き揚げ船は90隻以上だそうだ」
「ボルネオの油田があれば、経済くらい回るだろう」
「細々とね」
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月夜裏 野々香です。
戦後、長期化し疲弊した日本で、日本風邪、結核患者、ペスト、天然痘が発生。
権威主義と軍事力と歪に捻じ曲げられた日本社会は崩壊。
帝国議会政治が再建されていきます。
しかし、利権体質と党利党略で農政改革が頓挫すると飢餓状態の国民が暴動。
軍の出動と銃撃事件が発生し、
内閣は総辞職、農政改革が実行されていく。
日本の主権売国は行われず、アメリカの経済支援はなく。
弱肉強食で生き残った日本人5500万は、貧富の格差を埋め、一時的に重農主義に移行。
その後、田畑の転売が行われ、経済が活性化、貧富が拡大していきます。
史実の戦死行方不明230万。民間80万。
仮想の戦死行方不明100万。犠牲者2000万。
この犠牲者の数が主権と独立の等価交換でしょうか。
小心者なので「五分後の世界」みたいに殺せず、犠牲者の数は、これが限界。
史実、日中・太平洋戦争〜1945年8月15日の戦費2036億3634万
戦記、日中・太平洋戦争〜1947年3月15日の戦費2836億3634万
史実より大きな赤字財政です。
人口減少の余波と、軍属富裕層の追い出し。
農地改革で土地を転売させつつ、財政再建です。
バリクパパン、ブルネイ、シンガポールの海外領土、
そして、北樺太とカムチャッカ半島は、重荷になりそうです。
第05話 1946年 『薄 氷』 |
第06話 1947年 『外平かにして・・・』 |
第07話 1948年 『冷 戦』 |