月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第07話 1948年 『冷 戦』

 日本は太平洋戦争で粘り勝ちしたといわれる。

 国体と交換で2000万の犠牲者を出したともいえる。

 戦前、数万の軍部上層部と軍属を粛清していたら、

 犠牲は、はるかに少なくて済んだかもしれない。

 しかし、その選択肢は、遠い過去に閉ざされていた。

 事勿れに悪化した治安は、農地改革が進み、

 冬が過ぎ、温かくなると衣食住で最悪の状態を乗り越えていく。

 そして、上に向けられていたはずの怒りも軍属の逃亡で終息していく。

 もっとも、農地改革も、水利権とか、道路とか、土壌が絡み。

 あいつの方が恵まれて良いとか、

 あいつの分を俺によこせとか、

 色々あったりする。

 

 日本 首相官邸

 「随分とリバティ船の修復受注が多いようだな」

 「修復して使えるようになった船の一部が日本の所有になるのは助かります」

 「リバティ船の改装は、戦後再建で悪くはないですよ。移民にも使える」

 「しかし、戦前になかった発注がこれほどあるとは・・・」

 「日本で修復改装した方が安上がりですからね」

 「そりゃそうだが・・・宣戦布告以前の損害賠償は?」

 「例のあれと。500億円で、ぼったくり」

 「アメリカにしては控えめなんじゃないの」

 「物損より。人的被害の方が大きくないか?」

 「日本でも見舞金とか、遺族年金がもらえないとモラルが保てないよ」

 「国内の遺族年金総額は20兆円だから犠牲者の割に少ないな」

 「2000万の死因が疾病、飢餓、内輪の殺し合いなら引き受け人も減って、遺族年金は無いし・・・」

 「もう、悪魔に魂を売ってるよ」

 「例のあれは?」

 「売ります」

 「即断かよ」

 「物価が上がっている。貧しい者は購入する力もない。選ぶ権利は政府にない」

 「奪うか、首を吊るか、大陸で殺すか、ですか?」

 「金持ちには勝てないよな」

 「そういえば、ソ連も同じ申し出があったぞ」

 「売った!」

 「良いのかよ」

 「国を売るわけじゃないから、それに元主戦派が生きていくのは大変だろう・・・」

 

 

 イギリスがインド・パキスタンの分離独立を承認。

 

 

 中国は、米ソの狭間で南北に分断され内戦が激化していく。

 日本は、統一国家としてバランスを保つことができた。

 厭戦機運と冷戦の始まり。

 パナマ運河破壊は、太平洋の輸送力低下と採算悪化。

 米ソの力関係の空白地帯に日本が収まったともいえた。

 日本発の伝染病が原因ともいえた。

 日本政府と帝国議会は、戦後の反動で軍部を縮小。

 国民の衣食住、社会基盤、経済主導に移行していく。

 赤レンガの住人たち

 「軍事費。すくねぇ〜」

 「半島までソ連に取られているのに、なに考えているんだか」

 「半島で止まって、一息ついてると思うけど」

 「ソ連は、満州と半島を完全に併合するつもりだな」

 「ソ連が極東で国力を付けるとヤバいよ」

 「半島南岸と対馬、日本海沿岸の防衛強化を考えないとまずいのに・・・」

 「2000万ぽっち死んだからって軍事費ケチるなよ。国防をなめてんのか」

 「ったくぅ 天然痘対策とか、ペスト対策とか、後回しにしろよな」

 「天然痘はまずいだろう。飛沫感染、接触感染で致死率2割から5割」

 「ペストも致死率で変わらんよ。ネズミを介しても肺ペストだと飛沫感染もある」

 「結核で弱って、日本風邪、さらに天然痘とペストじゃ 泣きっ面に蜂だよ」

 「大人しく負けていたら、こんな事にならなかったかも」

 「飢餓で暴動で暴徒に国家要人、軍属が殺されるようになったら世も末だ」

 「野心が無いだけ2・26より同情できるよ」

 「食べ物の恨みは怖いからね」

 「しかし、当分は工作機械で都合がつかないから。生産は、携行兵器と穴掘りだよ」

 「穴掘りか・・・カムチャッカ半島が重荷だな」

 「しかし、ゼロ戦も造れないなんて、もう末期」

 「工作機械を民間に取られたら駄目だよ」

 「船も漁船とか、輸送船ばっかりだし、そんなに食べ物が大切かね」

 「発電所建設で人材取られたらのも痛いよな」

 「冬の時代だな」

 「あ・・・軍部が取られてない工作機械がある」

 「ん?」

 「トラック要塞」

 「あそこか・・・」

 

 

 米英両国は、戦艦部隊を揚子江に投入し、埋め立て利権を確保する。

 その事が中国大陸と中国民衆にとって、幸いなのか、災いなのか

 赤化しつつあった中国大陸の共産勢力の勢いを削ぐ事に成功し、

 揚子江を境に北の共産勢力と南の資本主義勢力に分断してしまう。

 北京で毛沢東・共産党が “共産中黄連邦” を名乗り独立を宣言すると、

 広州で蒋介石・国民党が “自由中華合衆国” を名乗って独立を宣言。

 両国は、互いに独立を認めず。

 中黄連邦はソビエトに支援され、中華連邦はアメリカに支援され、

 内戦を激化させていく。

 戦後と冷戦で余った武器弾薬が南北中国に輸出され、

 中国大陸の資源が米ソに輸出されていく。

 貧しい国が近代化しようとすると資源、土地、労力の集約が始まり、貧富の格差が拡大する。

 富める者はますます富み、

 貧しい者はさらに貧しくなる。

 中黄連邦は、全て私有財産を奪って、土地を人民公共のものとし、貧富の格差を解消し、

 共産党一党独裁によって、国家運営を行い。

 中華合衆国は、既得権の私有財産を保持させたまま、貧富の格差を増大させ、

 資本家群に南中国の繁栄を委ねてしまう。

 

 

 朝鮮半島の貧しい村。

 「善良で平和を愛する諸君! 大陸は、凶悪な拝金主義によって毒されようとしている」

 「親子、夫婦、親類縁者が財産を醜く奪い合い殺し合う世界が生まれようとしている」

 「我々は、断固として、それに立ち向かい、戦わなければならない」

 「そして、平和を愛する我々は、諸君を平和を守る戦闘員として選んだ」

 「「「「「アイゴ〜」」」」」

 「変身して、平和を守る戦士として戦うのだ。これが戦闘員の腕章だ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!」」」」」

 「敵士官を10人倒して戦功を上げれば、この腕章で士官に変身できる」

 「「「「「アイゴ〜!」」」」」

 「戦闘員に命令する能力が得られるのだ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!!」」」」」

 「敵将校10人倒して戦功を上げれば、この腕章で将校に変身できる」

 「「「「「アイゴ〜!」」」」」

 「戦う者は、平和が与えられ、老後も安心だ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイゴ〜!!!!」」」」」

 中国戦線は、シベリアより生還率が高そうであり、出世できそうだった。

  

 

 「息子よ。どうしても行くのかい?」

 「俺は・・俺は・・・世界の平和のため戦う」

 「変身!」 腕章を付ける。

 「「アイゴ〜!!!」」

 

 

 

 台湾の貧しい村。その2

 「善良で自由を愛する諸君! 大陸は、凶暴な全体主義によって毒されようとしている」

 「全ての人間が財産を奪われ、国家の奴隷にされ自由を失うだろう」

 「我々は、断固として、それに立ち向かい、戦わなければならない」

 「そして、自由を愛する我々は、君たちを自由を守る戦闘員として選んだ」

 「「「「「アイヤ〜」」」」」

 「変身して、自由を守る戦士として戦うのだ。これが戦闘員の腕章だ〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!!」」」」」

 「敵士官10人倒して戦功を上げれば、この腕章で士官に変身できる」

 「「「「「アイヤ〜!」」」」」

 「戦闘員に命令する能力が得られるのだ〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!」」」」」

 「敵将校10人倒して戦功を上げれば、この腕章で将校に変身できる」

 「「「「「アイヤ〜!」」」」」

 「戦う者は、財産を得て本物の自由を手に入れられる〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!!!」」」」」

 「自分を信じて戦うぞ〜!!!」

 「「「「「アイヤ〜!!!!」」」」」

 

 

 「息子よ。どうしても行くのかい?」

 「俺は・・俺は・・・世界の自由のため戦う」

 「変身!」 腕章を付ける。

 「「アイヤ〜!!!」」

 

 

  

 明日、食べる物のない貧しい者たちにとって、雇用は、魅惑的なものだった。

 政府が収奪した社会資本の多くを軍事費に費やしているとしたら、

 貧しい者は、糧を得るため男は兵士で雇用され、

 女は娼婦で売られていく。

 人並みの土地や財産、才格があれば逃れられる。

 しかし、そういったものがなかったとしたら・・・

 選択枝は非合法な犯罪か、

 いかなる形であれ、死しかない。

 男は男らしく、女は女らしくを理不尽に強要させられる世界。

 ソ連の代理人に強制徴収され世界平和の先兵とされる朝鮮軍。

 アメリカの代理人が金に目が眩んだ自由世界を守る台湾軍。

 どちらも日本語のマニュアルがあれば、兵器と武器弾薬を扱うことができた。

 そして、どちらの陣営の士官クラスにも元日本軍将兵がいたりする。

 日本政府は、財政再建のため軍部を縮小し、

 日本政府は、軍縮であぶれた元日本軍将兵の傭兵化を制度的に認めてしまう。

 元日本軍将兵は、家族を守るため、

 傭兵として、米ソ代理戦争に組み込まれていく。

 そして、日本は、得られた外貨で、

 内地から追い出された主戦派軍属・家族の移民経済を軌道に乗せていた。

 

 

 国民軍陣営 アメリカ系外人部隊

 白人は少数派。

 黒人、混血、漢民族、スパニッシュ、インディオ、台湾人、日本人が多かった。

 戦争が終わり、余った兵器と武器弾薬の消化。

 死んでいいよ的に不良民の一掃を目的としていた。

 交換で得られるのは、中国大陸の資源だった。

 戦争が儲からなくなったと言われる昨今。

 資源と交換で武器弾薬が中国大陸に流れ込んだ。

 砲声が轟くと、竹林を進むM4中戦車の側面が撃ち破られ破壊される。

 白人将校たち

 「な、なんだぁ M4がやられたぞ」

 「T34のようです」

 「ついにお出ましか、連携しながら撃破させろ」

 「難しい連携は、できそうにないですが・・・」

 「ったく。寄せ集めはしょうがないな。ネヴァダに支援砲撃を要請しろ」

 「はっ!」

 「敵の正面は朝鮮軍のようです」

 「ソ連に強制徴兵されたのだろう」

 「日本を打倒できていたら、朝鮮半島もアメリカが押さえていたはずですが」

 「戦艦を埋め立てられて抵抗されたら、簡単には落ちないだろう・・・」

 急速に接近したM4中戦車3両がT34中戦車を撃破する。

 「おっ! やるじゃないか」

 「日本兵の乗ったM4です」

 「ほう、さすがだな」

 「敵のT34にも日本兵が乗っているかもしれませんね」

 「本当に?」

 「噂ですが、すぐにわかるでしょう」

 「貧乏人が人身売買か」

 「ソ連からは資源。アメリカからは工作機械と金ですかね」

 「航空機と戦車をまともに動かせるのは、いまのところ元日本兵くらいなものか」

 「日本は、主戦派の軍属関係者が排斥されたので、雇われやすい状況なのでしょう」

 「国を危うくしたのも軍なら、国を守ったのも軍だ。自業自得とはいえ同情するね」

 「日本を攻撃するのなら今ですがね」

 「どうかな。アメリカは、厭戦気運が強過ぎて、正規軍は動かせないそうだ」

 「やはり、あと10年は戦争不能ですか・・・」

 「そのくらいは必要だ。ソ連もそんなところだろう」

 「元日本軍将兵に航空機、戦闘車両を運用させるのは・・・」

 「大陸の戦禍を拡大できるということだよ」

 「中国が弱体化するほどアメリカは有利になっていく」

 「タングステンをたくさん、得られそうです」

 「航空機で輸送船に体当たりするような民族と戦争しなくてすむのなら良いよ」

 「しかし、日本が力を付けてしまうのは、まずいのでは?」

 「どうかな。産業基盤を積極財政で整備しても、人口減で市場が縮小している」

 「赤字先送りで、失速しますかね」

 「親が贅沢して、その借金を子供に払わせるようなものだ。親孝行を強制できる国は羨ましい」

 「利益が上がれば、何とかなるのでは?」

 「東南アジアの利権と市場は小さく、利潤も少ない」

 「アメリカは、反日が強くて市場に食い込めないだろうな」

 「傭兵稼業が一番儲かる、ですか」

 「潰しが利いて、戦闘力が高いのなら日本兵は雇い甲斐があるよ」

 「なるほど」

 爆音が近付き上空でも航空戦が始まる。

 ヘルキャットの群と、ラボーチキンの群が乱れ舞う。

 シュトルモビクが低空から近付いて爆弾を投下し、

 M4戦車を撃破していく。

 「おいおい、ソ連空軍パイロットも、えらく命中率が良いじゃないか」

 「おそらく、日本人パイロットでしょう」

 「同士撃ちかよ」

 「それだけ、外貨と資源が欲しいのでは?」

 「まぁ 死んでもアメリカ軍士官より安く済むけどね」

 

 

 共産軍陣営 ソ連系外人部隊

 朝鮮人兵士が多かった。

 しかし、士官クラスは戦術と兵器運用に長けた日本人が多かった。

 穴だらけのシュトルモビク爆撃機が失速ギリギリで、滑走路に進入し、着陸する。

 パイロットが降りてくると、呆れたように機体の穴を調べる。

 そこにソビエト軍将校が現れる。

 「どうだったね?」

 「ヘルキャットの機銃掃射を受けても平気でしたよ。立派立派」

 「米国資本主義の機銃など、どうという事はないでしょう」

 「確かに落ちずに済んだ」

 「日本もシュトルモビク爆撃機を購入してはどうです」

 「まぁ こいつなら確実に体当たりできるでしょうな」

 「ハラショー 有人対艦誘導爆弾を保有しているのは、世界で日本だけです」

 「ですが、埋め立てられた戦艦の撃破は不可能でしょう」

 「バンカーバスターを搭載できるような機体はソ連空軍にない」

 「またバンカーバスターもない」

 「渡河作戦は、漢口より西の方が良いのでは?」

 「んん・・・それでは、中国大陸の赤化が出来ない」

 「満州・朝鮮の併合のせいでは?」

 「失地の補填をしたくなるのが人情だ」

 

 

 世界の列強で爆撃を受けていない国は、アメリカと日本だけだった。

 アメリカは、栄光の戦勝国。

 日本は、戦勝国といえない。

 人口が減って衣食住で余裕ができたのが救い。

 一時的に大家・地主が減って、不満が解消したのが救い。

 バリクパパン、ブルネイの油田を確保できたのも救い。

 北樺太、カムチャッカ半島を占領できた事も負担に見合う国際情勢を構築できて救い。

 とはいえ、富の集中で近代化が促進されるなら、

 貧富の格差は、広がっていく趨勢にあった。

 人口減で縮小した生産力は、より近代化した生産効率が求められ、

 人口減で縮小した市場は、国外に市場が求めるよりなかった。

 企業群は、国家が統制する計画経済に従い産業を統廃合して行くしかなかった。

 戦後の日本は、好むと好まざるとにかかわらず共産主義的な要素が強くなり、

 白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫が良い猫となった。

 軍官僚組織主導が崩れ、土木建設官僚主導となっていく。

 遠い将来において利権塗れの政治家、官僚、財界が結託し、

 国潰しの要因になるやもしれず。

 しかし、現時点において設備投資は、最良の猫と思われた。

 大量死で無地主となった地域が代替用地として利用され、

 国家による強制接収と区画整備が進む。

 鉄道路線が建設され、道路建設予定地、公共施設が定められる。

 焼け野原と、どっちが良いか、と言えなくもない。

 少なくとも、日本国民は国家基盤の脆弱性に対する恐怖心が強く。

 公共設備投資は政府も官僚も民衆の支持を得られて追い風。

 税収を取りやすい政策だった。

 

 

 帝都東京

 船を降りたアメリカ人の集団が大きな顔をして帝都を歩いて行く。

 少なくとも日本人で彼らを害する者はいない。

 日本の担当官がヒョコヒョコ付いていく。

 「これほど高い医療技術を供与していただけるとは思いませんでした」

 「人類にとって日本風邪は共通の脅威です」

 「借用書さえ書いていただければ、いくらでも医療品を供給しますよ」

 「それはもう・・・」

 「衛生には気を付けてください」

 「それと食糧不足の解消と栄養バランスは重要です」

 「なるほど・・・」

 「アメリカは、日本で生産するより安く、牛肉と小麦粉を供給できるはずです」

 「し、しかし、人口が減っているので、自給自足体制は維持できそうです」

 「重要なのは栄養バランスですよ」

 「なるほど・・・」

 「栄養を付けないと、いくら抗生物質があっても病気は良くなりません」

 「日本人は、もっと肉を食べるべきです」

 太平洋戦争、日本は、軍事力で国防に成功する。

 しかし、医療技術の差は、軍事力の差以上に開いていた。

 日本医学は、アメリカの医師団に制圧されてしまう。

 医食同源は、アメリカにもあるのか、

 それとも、医療技術と貿易と対になっているのか、

 日本の食卓にパンや肉が増え始める。

 安価な食糧輸入が農業生産者を淘汰。

 余剰生産者が工業や商業に流れ、日本の産業を助けてしまう。

 

 そして、入れ替わるように一つの家族が日本から脱出していく。

 軍属富裕層は、飢餓の憎まれ役を買い、

 土地を売却して逃亡しなければ命の保証もない。

 警察は、犯罪が起きなければ動いてくれず。

 殺されてからでは遅かった。

 「おやじぃ 貧民層を満州に追い立てて、俺たちの土地を増やすんじゃなかったのか」

 「もう言うな。日本に残っていたら殺されるぞ」

 「けっ バカな大衆どもだ。貧乏人が正しいと思っているところが馬鹿なんだよ」

 「数が多くて強い方が正しいのだ」

 「そして、俺たちは、数が少なく。弱い立場になっている」

 「おやじぃ シンガポールでは、まともに生活できるんだろうな」

 「ああ、贅沢はできないが、何とかな」

 「貧乏人が何人死んだって、良いじゃないか」

 「農地解放と転売で、日本の貧民層は減ったよ」

 「泥棒に田畑を根こそぎ奪われて、日本から追い出されてか」

 「戦争なんてするんじゃなかったな」

 「へいへい。元長官殿の仰られる通りです、てか、戦争する前に気付けよ」

 

 

 自由インド(アンダマン・ニコバル諸島:8100ku:総人口73000)

 アンダマンはシャヒード(殉教者)。

 ニコバルはスワラージ(自治)と改名されていた。

 自由インドはチャンドラ・ボースを首席として安定する。

 ポートブレアに東栄丸が入港した。

 「この島、地政学上の戦略的価値以上のモノは、存在しないと思っていたがね」

 「印橋資本は、この島に1万トン級の輸送船を入港させるだけの財力があるようです」

 「インド大陸の混乱は、自由インドを繁栄させるかもしれないな」

 「インドの状況は?」

 「大陸から戻った者によるとイギリス軍は撤収しつつあるようです」

 「あと、ヒンズー・イスラムの宗教対立」

 「ガンジー派とチャンドラ・ボース派の対立も収拾がつかないとか」

 「独立のタイミングが悪いと大混乱か」

 「どちらにしろ、資源や財宝があれば、なんでも輸出できるよ」

 「中国が自由と共産の内戦なら、インドはヒンズー教とイスラム教の内乱でしょうか」

 「おかげで、お金になるのだから悪くないが・・・」

 汽笛の音が迫る

 「・・・アメリカの輸送船です」

 「ハゲワシは、どこにでも現れるな」

 「アメリカの国鳥はハクトウワシですよ」

 「貪欲さはハゲワシだよ。トルーマンも前が禿げてる」

 

 

  

 土建族たちの晩餐

 収入と税収が得られやすいなら魂も売り渡される。

 正当化できる口実ならいくらでもあった。

 法律が整備されていくと国家予算の多くが土建屋に流れていく。

 元軍属だった者たちも世代交代が終わると土建業に鞍替え。

 政官財の癒着構造と利権体制が構築されていくと、

 軍部は昼行燈で一新されていく。

 「再開発が必要だな。人口が減っているから今のうちに片付けてしまおう」

 「ドイツみたいに爆撃されていたら楽だったのに。一度居つくと動きゃしない」

 「年寄りが減ったから何とかなるよ」

 「田舎に新都市を作って、そこに居住者を集めていくか」

 「まず、基幹になる鉄道、港湾、飛行場、工場、学校、商店街は、効率良く配置すべきだろう」

 「歴史的建造物もあるから、その辺も考慮しないと」

 「半島をソ連にとられているのだから防衛的な要素も必要だろう」

 「軍事費をケチっているから土木建設は、防衛的な要素も必要になるよ」

 「だけど、生産が小銃と噴進砲。経費ばかりって、どうなの?」

 「当分は、厭戦気運があるからいいとして、いまある兵器で頑張ってもらおうよ」

 「そうそう。軍事保険を掛けておく余裕はないよ」

 「傭兵を出しているから、その代金で、アメリカとソ連から購入すれば良いんじゃないか」

 「陸戦兵器がソ連製で、航空兵器がアメリカ製? 共有部品で悩まされそうだな」

 「その辺は、融合できるんじゃないか、そういうの得意だし」

 「だけど、中国内戦に回されている兵器は、中古品ばかりのようだ」

 「戦中の軍用品の一掃処分じゃないのか」

 「戦死する人間は自国民じゃないし。資源も獲得できる」

 「しかし、アメリカもソ連も中国大陸に必要なものがあったか?」

 「中国資源を得ても、国内資源が暴落するだけだろう」

 「違うね、資本家は、恐慌が怖いんだよ」

 「狙いは中国市場だよ。アメリカは戦後も好景気だろうな」

 「アメリカが羨ましいね。世界中から権益を手に入れて市場も広がっている」

 「それに比べて、東南アジアが独立しているとはいえ、日本は微妙だな」

 「民生品に予算と工場を取られるから、兵器開発は遅れをとると思うよ」

 「そうそう、この際、兵器開発は棚上げ、数を揃えるべきだと思うね」

 「アメリカも、ソ連も顧客を攻めることはないだろう」

 「やれやれ」

 「人口5500万では、市場が小さくて、生産量が得られにくい」

 「自給自足率は良いとしても、人口5500万は、1918年代の市場規模だな」

 「蓄積された資財を振り分ければ、相当な富裕層だが、市場が小さいと・・・」

 「しかし、いまのうちに開発を進めれば、破局を引きのばせると思うがね」

 「設備投資は、軍事費より長持ちするけど。それだけだ」

 「積極財政は、投資に見合うだけの見返りがないといずれ破局するからね」

 「やはり、元日本軍の米ソの傭兵は、ありなのかね」

 「それで、安価に工作機械と資源を得られるなら、採算が得やすい」

 「それを使って国土開発ができるよ」

 「国土開発できても市場がな・・・」

 「小さな家じゃなくて、大きな家を建てろってことだろう」

 「物価を上げると、購買力がな・・・」

 「土地を売らせるしかないね。再開発掛けられるなら。軍の施設も助かるし」

 「戦うしか能のない連中もいるから傭兵も増えそうだな」

 「我々が死地に追いやるみたいに言うなよ」

 「あはは・・・」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 史実と違って、戦記の日本は、米ソ対立の狭間で中立しています。

 疾病による人口減少と暴動による国家政策の変更。

 おかげで、財政破綻中でも何とか乗り切りでしょうか。

 大国であれば国益も国民も守れそうです。

 しかし、日本は、小国。

 国益と国民で、国益を守ったという感じです。

 借金先送りのケインズ経済を成功させるには、いくつかの条件がありそうです。

 弱者切り捨てのインフレとか。国外に搾取できる市場があるとか。

 累積赤字を権益ごと切り捨てる目算があるとか。

 金のなる木、打ち出の小槌(資源・労力)があるとか。

 収入以上の借金は、並みの神経だとなかなかできません。

 国家だと他人のお金で無茶できたり。善意を大義名分に私腹を肥やしたり。

 一度、利権を手に入れてしまうと赤字でも手放さなかったり。いろいろ。

 台湾人、日本人の傭兵稼業がどの程度の外貨と資源を稼ぐことができるか、微妙です。

 

 

 牛肉とパン。

 作者は、どっちも好きなので輸入です。

 

 

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