月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第08話 1949年 『世の中、金といえなくもない』

 搾取が増大し、貧富の固定され広がると世相が荒れていく。

 思慮深い熟年層が変革を恐れ、老後の安寧を図る。

 経験豊富な中年層が保身と搾取に胡坐をかき始める。

 そして、突き上げようとする若者の芽を潰し想像力が失われていく。

 年功序列と権威主義で組織が膠着し、

 社会から想像力、競争力、活力、生産力と失われていく。

 既得権にすがり、活力が低下していくと利潤が小さくなり、経済が破綻する。

 マイナス成長になれば、貧民層が増え、打開策の一つで戦雲が高まる。

 しかし、思慮深い熟年層が変革に対し柔軟な姿勢を取り。

 経験豊富な中年層が現状に固執せず積極的な投資を検討し始める。

 老練で現実的な範囲で若者の想像力が発揮され、

 洗練されたモノが世に現れ、社会が活性化していく。

 

 負の悪循環に入り込む組織は、派閥と軋轢が大きくなり、

 業績が悪化し、利潤が縮小しやすくなり。

 正の良循環に入る組織は、意思疎通が容易になり、発展拡大していく、

 戦後の日本、恨み辛みも喉元過ぎれば忘れやすく、

 治安が安定すると人間不信も少しずつ回復していく、

 日本社会は、結核、日本風邪、ペスト、天然痘を克服するにつれ、

 社会は、信頼と勢いを取り戻していく。

 そして、1918年の人口から巻き直しで、民需主導に舵を切っていく。

 結果的に戦後の日本国防省は赤貧だった。

 それでも、最低限の最大公約数的な国防が検討される。

 貴族軍人が粛清と同時に民間人が登用され、大幅に人事刷新がされていく。

 国防費の削減に合わせて、合理主義が追求されてされていく。

 陸軍省と海軍省は国防省に統合され、

 規格も統合され、資金確保のため規格外品が国外に売却されていく。

 それでも国防費が足りない。

 妥協の産物として、立案されたのが隆盛を極める国土開発省と結託だった。

 必要最低限の海洋戦力、航空戦力を維持しつつ、国土防衛構想が検討されていく。

 穴熊引き籠り国防計画とか、陰口を叩かれながら・・・

 海に面した島国日本にあるまじき国防大綱が出来上がってしまう。

 日本軍は中国大陸から撤収。

 インドシナ、マレー、ボルネオ、セレベスも現地と融和的な関係を築き縮小していく。

 

 工場の多くが民需に流れ、

 よほど金を積まない限り軍需ラインに乗らない。

 いまある兵装・武器弾薬を使い潰すと国防が無力化されてしまう。

 限りある予算範囲で取捨選択がなされていく。

 そして、戦後、中国内戦は激化していたものの、

 武器弾薬の価格は戦後軍縮で下落していた。

 ソ連製シュパーギンPPSh41短機関銃は終戦まで1000万丁以上製造されて安かった。

 改良型シュパーギンPPSh43短機関銃でさえ100万丁が製造されている。

 戦後の日本陸軍は、将兵35万に削減されていたことからも、十分過ぎるほど。

  全長 銃身長 重量 弾薬 弾数 発射速度 初速
PPSh41 840 269 4.75 7.62×25 71・35 900  
PPSh43 830 241 3 7.62×25 35 700  
AK47 870 415 4.3 7.62×39 30 600 730

 そして、短機関銃は穴熊引き籠り戦術で有用だった。

 朝鮮半島 釜山

 「どうです? 今年生産に入ったばかりのAK47は?」

 「シュパーギン41の方が安いようですな」

 「そりゃあ 新期の主力小銃が出てくれば捨て値になってしまいますよ。威力も低いですし」

 「安い方が良いですな。弾薬はトカレフとも互換性がありそうですし」

 「しかし、有効射程が200mでは・・・」

 「長射程の99式小銃がまだ残っているので、AK47はおいおい換装していくことにしましょう」

 「なるほど・・・自動拳銃の方は使いやすい9mm×18のマカロフを開発していますが?」

 「いえ、日本軍で数を揃えたいのは短機関銃ですので」

 「それに大型自動拳銃も民間で使うわけではありませんし」

 ソ連は、独ソ戦の付け焼刃で大量生産してしまった短機関銃をどうにかしたかったらしく。

 中国共産軍に叩き売られ。

 揚子江戦線で、アメリカ製トミーガン、グリースガンと銃撃戦を繰り広げていた。

 ここで、日本がソ連製シュパーギン43短機関銃・トカレフ自動拳銃を採用してしまう。

 ソ連も、国際外交上の優位性を確保できると破格の価格で日本に売却。

 武器弾薬の売買が呼び水になって、日ソ蜜月時代が訪れていく、

 

 

 工場

 工業用ダイヤを握っていたのはイギリスだった。

 機械油はアメリカ。

 希少金属は、アメリカ、ソ連、イギリス、中国、

 工業用ダイヤ、機械油、希少金属などなど

 工業化しようとすると、多様な環境を整備しなければならない。

 国情と国際関係が制約されると戦略資源を高値で売りつけられたりもする。

 工業力もなく、現物を売りつけられる国は、いくら国民を搾取しても足りなくなってしまう。

 工業力があれば、必要なのは資源だけとなり、

 利潤の大きな工業製品を売却し、利益が大きければ、買い物できる幅も広がる。

 日本の国際的地位は資源がなく、ソコソコの工業力のある国でしかない。

 工場

 工業用ダイヤの代わりに工業用サファイアを代用で使っていたりする。

 機械油も蝋を加えたり、モリブテンを足したり。いろいろ。

 採算性は当然、悪化し、国際競争力も低下していた。

 一度、富が再分配された後、産業が回復するにつれ、

 富める国はますます富み、貧しき国はますます貧しくなっていく。

 現実を直視して聖書が書かれているのなら真実といえなくもない。

 「やれやれ、手間暇かかるな」

 「ソ連が日本に戦艦を発注したけど、どうなるやら」

 「戦艦の時代じゃないだろう」

 「航空機に撃沈されたのプリンス・オブ・ウェールズとローマだけだからな」

 「どこかの国に埋め立てて自分の領土にしようとしているのかも」

 「それがトレンドなのか?」

 「さぁ アメリカはモンタナ型2隻建造してるけど?」

 「ふ〜ん まぁ 受注すればソ連経由で戦略物資が入ってくるらしいけど」

 「工業用ダイヤは、イギリスから買えばいいだろう」

 「イギリスは戦争のせいで険悪だよ」

 「ブロック経済で意地悪するからだ」

 「アメリカも意地悪して、機械油を吹っかけるから歩留まりが悪い」

 「ソ連の戦艦を受注したらもっと険悪になるんじゃないのか。下手すると赤字だよ」

 「あいつら日本人の労力に胡坐を掻きやがる。少しは懲りれば良いんだ」

 「まぁ 戦前と変わらないということかな」

 「朝鮮の代わりにカムチャッカ半島、北樺太」

 「満州帝国の代わりにボルネオ、セレベス、マレー半島、インドシナだよ」

 「頭いてぇ〜」

 「仕様は、ロシア製の大砲で、大和型を巡航型にしたものだと」

 「ソビエトも羽振りが良いよな」

 「それで、日本を攻撃しないだろうな」

 「修理するドックを建設しているのは欧州側。欧州配備は、確約済」

 「不安だな。あいつら不渡りだしそうだし」

 「先に資源を送るらしいよ」

 「それなら悪くないけど」

 

 

 

 奇妙な軍隊が存在する。

 限られた予算で戦後日本軍(35万)の兵装を整えると、そうなっただけともいえる。

 赤レンガの住人たち

 「なんで、BT7戦車、T80軽戦車なの? スチュアート軽戦車にすればいいのに」

 「BT戦車とT80軽戦車の方が安かったらしいよ。いや本当に安かった」

 「国防を考えてないだろう」

 「97式中戦車より強力だよ」

 「それを言っちゃお終いよ」

 「予算で割り振るとそうなった。予算以上の国防はできないよ」

 「それは、政府、議会、国民も納得しているんだろうな」

 「工場は民需に転換しているし、納得できなくても我慢するしかないと思うよ」

 「空を飛ぶ航空機エンジンだけは国産を使っているよ」

 「ジェット機の時代だというのに・・・」

 というわけで政策的に西側寄り。

 しかし、価格的な理由でソ連製兵器・武器弾薬が日本に輸出され始める。

 そして、日本は、ソ連とほぼ同等の技術力があったらしく。

 スペックダウン(モンキーモデル)型をスペックアップ改良させることができた。

 ソ連側も日本が後進国ではないと気付いたのか、対応も変わる。

 兵器・南方資源を含めた取引量が増加するにつれ、

 戦略的パートナーとしての価値が向上。

 そして、冷戦で孤立感を深めるソ連は、日本を味方に引き込みたいという思惑も働く。

 国際情勢が変わると日本側の反発も怖く、

 同等スペックで等価交換されていく。

 

 

 呉海軍工廠

 乾ドックは、全長314m、幅45m、深さ11mがあった。

 大和を建造した乾ドックで建造されている戦艦は、ソビエツカヤ・シベリア

 排水量68000トン (全長280m×全幅38m×吃水10.4m)

 ディーゼル機関24基+電気駆動タービン3基3軸3基3軸推進17万7600馬力

 最大速度29ノット

 航続力18ノット/24000海里

 50口径406mm3連装砲3基

 56口径100mm連装高射砲16基

 68口径37mm4連装高角機関砲20基

 水上機 6機

 「日ソ混血戦艦か」

 「いや、日独ソ混血だよ。ディーゼル機関はドイツだからね。基幹技術はドイツ製かな」

 「どちらにしろ、世界最強の戦艦になりそうだ」

 「建造が早いほど日本側の利潤が大きくなる。建造年月は4年以内が良いそうだ」

 「ソ連にしては、前渡しが多くて、羽振りが良いな」

 「大和の全長を17m伸ばして、バルジ幅を1m減らしたけど。スマートになりそうだな」

 「406mm3連装3基なら全幅を少しくらい減らしても良いけどね」

 「しかし、大砲が寂しくないか」

 「50口径406mm砲なら4連装3基でもいけたぞ。モンタナ型と互角」

 「その分、防御力と航続力が大きいよ。たぶん、ソビエト海軍の海洋戦略だろうな」

 「海洋戦略ねぇ」

 「ソビエツカヤ・シベリアが成功すれば、ソビエツカヤ・ウラルも日本で建造するらしい」

 「豪儀だねぇ 仕様だと戦艦というより外洋移動基地だな」

 「総発電量150000kwは、大き過ぎないか?」

 「電気駆動だからそんなものだろう。電装品も増えるから余裕が欲しいそうだ」

 「しかし、食事で将官、士官、下士官、兵士の差別がないから合理的に建造できた」

 「平等も悪くないということかな」

 「食い物の恨みは怖いからな」

 「たぶん、戦後、日本の建造艦も、そうなっていくだろうな」

 「食い物の恨みで陸奥の爆沈だったら泣けて来る」

 「むかしは、貴族軍人だったから、ありそうだ」

 「しかし、日本でソ連の戦艦を建造する羽目になるとは、世も末だ」

 「潜水艦の技術だけは供給しないらしいけど。大型戦艦なんて外洋じゃ 孤立するだけだよ」

 「二式大艇を欲しがっていたよ。たぶん、それで物資と人員を交替させるつもりだろう」

 「輸出するのか?」

 「ミクーリン・エンジン2000馬力を4基装備だと」

 「ソ連製水冷エンジンって耐久性低いんだろう。大丈夫か?」

 「国内で使うのは火星だけど。最悪でも往復するだけは、大丈夫だそうだ」

 「もう、消耗品だな」

 七式大艇 (輸出用)

 ミクーリン・エンジン2000馬力×4基

 自重20000kg。全備重25000kg。最大重量40000kg。積載量15000kg。

 (全幅38m×全長28m×全高9.15m) 翼面積160u

 最大速度522km。航続力9000km。

 機銃う23mm×5

 「政策的に反ソなのによくやるよ」

 「なんか、日ソ同盟だな」

 「どうせなら、空母を発注すればいいのに・・・」

 「運用で自信がないんじゃないか。海岸に乗り上げても要塞にならないし」

 「まぁ 成功したら空母も発注するかも」

 「日本は、危なくないか?」

 「でも戦艦建造でレーダー技術を分けてくれるってよ」

 「アメリカより、遅れているだろう?」

 「レンドリースされていると思うよ。あとドイツのレーダーもパクっているはずだけど」

 「大丈夫かな」

 「アメリカが対日戦用に予算を振り分ければ、ソ連は割得だからね」

 「無節操・・・」

 「アメリカ海軍もモンタナ型を建造できて喜んでるかもね」

 「撃沈できるんだろうな」

 「酸素魚雷30本で確実に沈むよ」

 「・・・沈まねぇ」

 「大破させれば、修復に年月がかかり過ぎるはず」

 「修復ドックを建設しているのも大西洋側だし」

 「なるほど」

 

 

 戦後、日本のソ連寄りは、アメリカに波紋を投げかける。

 日本が政治的に反共でも、

 軍事・経済でソ連圏に組み込まれると由々しき問題になっていく。

 揚子江以南の中国合衆国の生殺与奪を奪われる可能性も出てきた。

 日本が米ソの狭間で、国際的な姿勢と地位を確立したのが、この時期といえた。

 

 クレムリン

 世界最大の国土を有する70過ぎの独裁者がグルジア・ワインを嗜んでいた。

 老い先短いと猜疑心が強くても、少しばかり丸くなったりする。

 「アジア側に大型海軍基地を建設できるのでは?」

 「満州・半島の確保が優先する。それ以外は後回しだ」

 「では、満州・半島は、完全併合ということですね」

 「ああ、いま、日本と対決して国力をすり減らしてしまうのは、おもしろくない」

 「すると日本とは、友好関係を?」

 「アメリカが、もっとも望ましい世界情勢が日ソ戦争だ。乗るやつは馬鹿だろう」

 「ソ連が、もっとも、望んでいる事も日米戦争ですがね」

 「まぁ アメリカも、しばらくは、乗らないだろうな」

 「日本人は、短絡と聞いてます。もう一度、日本の反米感情を煽れば、乗るのでは?」

 「まさか。日本の主戦派は軍部から排斥されている」

 「日本も、二番煎じが通用するほど馬鹿でも天狗でもあるまい」

 「戦前、日本の軍部と右翼を煽って対米参戦に持ち込めたのは、付いていましたがね」

 「まったくだ。それでも相当な馬鹿には違いないがな」

 「しかし、煽られた事に気付いていないかもしれませんが」

 「多少、オツムが悪くても経験すれば悟るものだ」

 「わからないとしたら、真性馬鹿だけだろう」

 「ですが、このまま、日本の国力が増強されてしまうのは面白くないですね」

 「ほかに何か手を考えた方がいいだろうな・・・」

 「過去はともかく。現状、日本の対ソ姿勢は良いといえません」

 「日本は、同志ではない。姿勢云々で批判できないよ」

 「ですが日本国内で共産主義者狩りが行われているようですし」

 「敵であれ味方であれ」

 「役に立たない共産主義者など、足手まといでしかなく、敵でさえある」

 「しかし・・・」

 「チトーに暗殺団を送ったかね」

 「はい」

 「共産主義の内部を混乱させ腐らせ破壊をもたらす者が真の敵なのだ」

 「日本は、敵だが真の敵とは言えない」

 「日本が共産主義者でなくとも、反米で役に立つのであれば友好関係を維持すべきだ」

 「敵に武器を輸出するのは、危険では?」

 「馬鹿を言うな。味方は裏切るが敵は裏切らない」

 「つまり日本は敵であり続け、裏切らないのだ」

 「敵の敵は味方ですか?」

 「愚か者 “敵の敵も敵なのだ”」

 「そして、敵と敵を戦わせる。それが我がソビエトの国策なのだ」

 

 

 ワシントン

 「アメリカ製の兵器は日本に売り込めないのか?」

 「既存の兵器を運用しながら兵器を換装していくようです」

 「価格面では、ソ連製が有利のはずです」

 「んん・・・」

 「日本の軍事経済の離反は、アメリカにとって、由々しき問題です」

 「トラックとビアクへの原爆投下で、狂犬どもが怒ったのだろうか?」

 「日本の主戦派軍属は、地位を追われているので、それほどではないと思います」

 「死傷者は軍人と軍属ですし、投下した場所も軍事拠点。非難される筋合いはないかと」

 「しかし、日本がソ連の戦艦を建造し、ソ連製の武器弾薬を購入するとは」

 「我が国の兵器・武器弾薬は高値ですから」

 「日本め。米ソ対立を天秤に掛けやがって忌々しい国だ」

 「日本で組合潰し、共産主義者狩りが進められているのは幸いですが」

 「組合潰しで反発は?」

 「設備は統廃合が進んで。人口減とインフレで雇用率は高く賃金も伸びているようです」

 「それに農地改革と生産増大と転売で好景気のようですし」

 「労働者の組合依存は、まだ小さいかと」

 「日本風邪の治療で助けてやったというのに恩知らずな国だ」

 「ですがトルーマン・ドクトリンは、日本に当てはまらず高値取引でしたし」

 「日本風邪は、栄養不足と偏りで誘発したので人口が減って抗体ができると治まるかと」

 

 

 揚子江戦線は膠着状態に陥っていた。

 埋めたてられている戦艦ネルソン 艦橋 (イギリス領区)

 「中黄連邦側に変化は?」

 「ありません。ネルソンの射程内で上陸は許しませんよ」

 「単純計算だと半径35km。直径70kmを守っている」

 「現実は、まばらですが戦艦12隻ですから、840kmは、戦艦の支援を受けられますね」

 「できれば、北向きでなく、南向きに艦首を向けたいがね」

 「ふっ 確かに・・・」

 「しかし、ネルソンまで埋め立てられるとは・・・」

 「日本のように利権になるのでしょうな」

 「さぁて、日本のように上手くいくかな。北も南も敵と変わらんよ」

 「まったくです」

 戦場

 国民軍兵士と共産軍兵士が群れを成して組み合っていた。

 小銃より兵士の方が圧倒的に多く、銃声はまばらだった。

 そして・・・・

 「やったある ばんざいある♪ 士官を倒したある〜♪」

 「良くやったある。自由を守った正義の戦士に、この腕章を与えるある」

 「へんしんある〜♪」 腕章をつける

 「「「「「おお〜!!!!」」」」」

 「羨ましいある〜」

 「駄目だったある〜 しょぼんある〜」

 「次は、きっとやれるある〜」

 そして、焦点は、中国西方部(チベット、ウィグル、チンハイ)の戦いに移っていく。

 中華合衆国は、パナマ運河再建までの時間稼ぎしなければならず。

 日本の工業力が採算の関係で必要であり政治的にも妥協する。

 中華合衆国の首都が広州に定められると、

 首都の港湾を押さえる香港、澳門が注目される。

 二つの地区が安全だったのは租借地であり返還が決まっているためでもあった。

 日本は、香港島(80.4ku)を残し、

 中華合衆国に租借地(1024ku)を返還してしまう。

 租借地の住民は、中華合衆国と一蓮托生となってしまうと反対。

 しかし、日本政府と中華合衆国は条約を強行し、

 日中基本条約調印。

 租借地(1024ku)分が返還されると中華合衆国の対日姿勢が改善され、

 中国資源が日本に流れやすくなった。

 中国市場が拡大する気配を見せると、

 日本の設備投資が増え、経済が活性化していく。

 日本で生産したモノを香港島に運び込むと、

 華僑は資源と商品を交換し、大陸で捌いた。

 日本と華僑の折衝は、香港島で行われる事が増え、

 米ソ冷戦と思想戦は、商取引の障害でしかなかった。

 日本人は、元軍属を中心に香港島に住み着き、日中貿易の中核になっていく。

 一方、香港市民は、不安のあまり国外脱出が相次ぎ、

 中華合衆国に媚び、猛然と応援する騒動も起こっていた。

 「おや、香港に移り住むあるか?」

 「日本の余剰人口を追い出すはずが、日本から追い出される側になってしまったわい」

 「随分、移民する日本人が多いある」

 「主戦派軍属の半分近くと取り巻きが国外に叩き出されたよ」

 「香港島は日本人ばかりになるよ」

 「それは残念ある」

 「これからもよろしく頼むよ」

 「しかし、租借地の返還は困るある」

 「必要なものがあれば日本から持ってこれるだろう」

 「対価も必要あるか?」

 「資源だけかな」

 「北にもルートを作れるあるか?」

 「遼東半島が残っているから、そこに北京の代理人がいる」

 「本当に北京の代理人あるか? ソ連の代理人じゃないあるか?」

 「どうかな。北京に案内してもらったらしいがね」

 「北京はスターリンの言いなりある」

 「広州もトルーマンの言いなりと思われているのでは?」

 「トルーマンと組まないと戦線を維持できないある」

 「だろうね」

 「日本人傭兵部隊も最強ある」

 「アメリカ製の武器を使えるなら人種に関係なく最強だよ」

 「アヘンは、どうあるか?」

 「いまの日本は駄目だ。白色テロに遭うぞ」

 「個人の自由を奪うなんて窮屈な国ある」

 「地主大家が殺され、軍貴族まで粛清されて半分共産化しているな」

 「こうなったら賄賂ある」

 「日本は賄賂が流行らないよ」

 「それは最低最悪ある、牢獄のような国ある」

 

 

 戦中、インドネシアは、日本の傀儡、独立義勇軍の独裁で独立するはずだった。

 しかし、アメリカ軍がスマトラ島、ジャワ島に上陸し、両島を占領した。

 アメリカ軍は、スマトラ・ジャワの制圧後、

 インドネシア独立義勇軍のゲリラ戦に悩まされ、

 戦況は、泥沼化。

 いくつかの国際情勢が絡み、アメリカは、日本と講和を結び、

 インドネシアは、アメリカ権益圏のスマトラ州、ジャワ州の2州と、

 日本権益圏のボルネオ州、セレベス州、マルク州の3州に分かれ、

 西イリア州は、日本・アメリカの共同権益圏として連邦制に組み込まれ、

 日米の折半案で、インドネシア連邦は独立してしまう。

 もっとも、インドネシアは、多民族国家で600近い言語が存在し、

 部族の連帯が強く。国家の概念は薄く、

 独立の中心となったジャワ語すらもインドネシア全域から見ると一握りでしかなかった。

 といった内情は、ともかく、

 インドネシア連邦は、独立し、

 スカルノを中心に国家としての体裁が整えられつつあった。

 インドネシア連邦6州は、5割自治、

 連邦直轄準州は、3割自治が認められていた。

 

 ボルネオ州 (725500ku)、

 日本列島の倍近い面積があり、

 石油が採れ、

 石炭、ダイヤモンド、金、銅、スズ・鉄などの鉱物資源があり。

 マンガン、アンチモン、ボーキサイトなど希少金属の産出も見込めた。

 日差しは暑く。雨は多く、熱帯雨林が生い茂る。

 人口が少なく、開発されていのは、自然環境がそれだけ厳しいことにあった。

 おかげで、文化的な発達も小さく、現地民の識字率も低く、

 中華思想のような傲慢さもなかった。

 そして、入植した元軍属系日本人は、資本家が多く、

 満州移民の数十倍の資本と、勢いで、この島に入植していた。

 発電所が建設され、鉄道が施設され、

 公共施設が建設され、街が建設されていく。

 「計画じゃ コロニーひとつで30万人。それが50個だけど、大丈夫かな」

 「河川のそばで、適当な広さは、限られるからね」

 「本土の方だよ」

 「元軍属富裕層は、国家基盤の移民、そのものだよ」

 「土木建設機械も多いし、満州鉄道より規模が大きい」

 「ボルネオ、セレベスは発展しそうだな」

 「満州移民は、国家の表層上の投資だったし」

 「あぶれ者やハネっ返りの移民だったからね」

 「資源が確認されているから。その差だろう。移民者の格も、資本力も違うよ」

 「スマトラとジャワの状況は?」

 「アメリカ資本が入り込んでいる」

 「たぶん、南米大陸のような経済植民地にするつもりだろうな」

 「日本人のように大地に根を張った移民にならないか」

 「アメリカ人は、文明のない世界には耐えられないよ」

 「フロンティアスピリットは、もうないね」

 「日本人もどうかな、いまのところ二重国籍だ」

 「人口が激減していなかったら、もっと移民が多かったかもしれないね」

 「いや、日本人の富裕層が動いたのは、命の危険に晒されたからだ」

 「富裕層が命の危険に晒されるだけの状況が作られない限り大規模な移民はないよ」

 「どこまでも利己主義な連中だな」

 「自分の利益や保身のために他人を犠牲にする人間を悪と言うんだろうな。良い気味だ」

 「他人を犠牲にしない人間は善人?」

 「そんな人間はいないと思うよ」

 「親子、夫婦でさえ怪しいから、度合いの問題だろう」

 「じゃ 遠慮なく、呪われた元主戦派軍属を犠牲にさせてもらうか」

 「うん、ボルネオ環状鉄道が完成すれば、この島も住みやすくなるかもしれないな」

 「どうかな。この島は、暑過ぎるよ」

 「日本は、開発するだけの技術があるよ」

 「犠牲にできる人間がいるのなら開発も早い」

 「欧米の資本家は、日本の国家予算並みの資本を投資できるのにな」

 「欧米と比較されると惨めになるよ」

 

 

 土建族の晩餐

 政官財の癒着は、時代によって移り変わっていく。

 殖産興業から軍需産業、

 そして、土建産業の時代へ移行し、

 戦後、日本を主導し誘導したのは土建族だった。

 この時期、民間活力を生かせるだけの想像力と資質が日本人になかったともいえる。

 農地改革で振り分けられた土地が転売され、

 土建業は、見込みがあり正しい選択ともいえた。

 「転地でごねる連中がいるから参るよ」

 「自分の土地を高く売りつけたいのは分かるけどね。国賊どもめ」

 「田舎を再開発する方が手っ取り早くもあるよ」

 「それやると既存の商店が売り上げが減るって嫌がる」

 「かといって、路線を延ばそうとすると反発と、土地の値上がりだろう。いやになるね」

 「戦後のドサクサで土地を収用できたけど、人間ってほとほとガメツクできてるよ」

 「議会が回復すると党利党略の派閥抗争、利権で足を引っ張り合うからね」

 「それより、広軌に変えるの?」

 「大量輸送するなら広軌じゃないの土地も収用できているし、できないことはないよ」

 「随分、死だからね。地価も低下している」

 「でも1520mmって、どうなの?」

 「北樺太からシベリア鉄道に連結するんじゃないの」

 「大丈夫かな」

 「資源が欲しいだけなんだけどね」

 「ソ連は、間宮州側まで線路を引っ張れるって?」

 「なんか、強制労働でバッと、やっちゃうらしいよ」

 「良いよな。潰しの利く労働者のいる国って」

 「ていうか、日本でも、それやれだよね」

 「最初から設備投資やってたら戦争しなくても済んだのに・・・」

 「まぁ 口で言うほど人殺しできるわけでもないし」

 「“人殺し” なんて言われたら泣きたくなるし」

 「満州と半島は、1000万単位で人口が消えてるらしいよ」

 「ふっ どこに行ったんだろう」

 「大粛清を越えてるよ」

 「死刑72万。餓死者総数700万だと」

 「じゃ 日本は、それ以上か・・・」

 「よく国家としての機能が保たれているもんだ」

 「とりあえず、日本縦断鉄道は良いとして、人口減で採算割れしそうな路線だな」

 「地下も多いし、電化も良いとして発電所の建設は、間に合いそうだっけ?」

 「なんとか。だけど機械化も必要だよ。アメリカが旋毛曲げなければ良いけど」

 「そうそう、国防費が貧相だからって、こっちが割食うのも、ちょっとな」

 「だけど、盛者必衰の理だからって、維持費すらままならないのは哀れ過ぎるよ」

 「でも共産化の心配は?」

 「日本の場合 “土地と人民は王の支配に服属する” で、律令制だよ」

 「日本は部分的に土地を取り上げているけど交換してるし」

 「それに私有財産を認めてるから、律令制じゃないだろう」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 政治的にアメリカ側、軍事的にソ連側。

 反ソのくせに兵器体系は、安価なソビエト製。

 無節操な戦後日本になりそうです。

 コウモリさん、コウモリさん、どこいくの?

 ぜぇえええ〜んぶ、貧乏が悪いんです。いや、ほんと。

 

 

 

 満州     面積 1133437ku。 

 ボルネオ島 面積 725500ku

 満州の方が大きいのですが、有力なのは、ボルネオの方でしょうか。

 

 

 大和改ソビエツカヤ・シベリア型は、巡航型の艦体で作戦能力で余裕がありそうです。

 費用対効果で怪しいのですが、将来的に垂直発射ミサイルのサイロを並べられそう。

 

 

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