月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第09話 1950年 『国是は反共親露』

 中華国民軍と中黄共産軍の中国内戦は拡大していた。

 アメリカ合衆国は、近代兵器の戦訓と余剰兵器・武器弾薬の解消ため、

 台湾人を傭兵として雇い、中華国民軍を支援する。

 一方、ソビエト連邦は、満州・朝鮮の併合するため、

 邪魔になった漢民族と朝鮮人を大陸へと追いたてていた。

 ソビエト軍督戦隊に脅える漢民族・朝鮮民族は、中国共産軍に圧力をかけ、

 中国大陸の内戦は、激しさを増していく、

 ソビエトとアメリカは、さらなる戦果を望み、

 ソビエト連邦は、日本人傭兵部隊に朝鮮人部隊を隷属させ、

 揚子江戦線に投入させてしまう。

 アメリカも負けじと日本人傭兵を雇って揚子江戦線へと送り込む。

 日本人傭兵部隊が増えると航空機、戦車を運用出来るため、

 戦場は、組織的、立体的になり、激しさを増し、戦線は、拡大していく。

 そういう意味では、日米ソ3ヵ国共同の中国弱体化といえた。

 この日本人傭兵部隊は、無思想の戦争屋だとか、

 無節操だとか言われながらも、戦力向上のため雇われやすく、

 日本は、米ソを核とする国際社会で立場を確立させていく。

 そして、中国・インド内戦特需が日本経済を活性化させ、

 国家再建を果たす切っ掛けになった。

 

 売上金の多くを仕入金に入れる経営を自転車操業という。

 この時の日本産業は、紛れもなく “それ” だった。

 発注過剰に対応し、借金設備投資で、人材不足から青田買いが横行してしまう。

 日本で飢え死にを逃れるため人身売買が起きていたのは数年前で、

 それも、遠い過去の話し、

 アメリカのパナマ運河再建が手間取っている間。

 日本はアジア最大の工業国であり、

 アジア全域に市場を拡大し、飛躍的に産業を成長させていた。

 安い原料は利潤を拡大させ、研究・開発予算を捻り出した。

 一人当たりの国民総生産は増大し、国内開発に転嫁されていく。

 

 

 

 ソ連にとって日本は敵国。

 しかし、国際情勢だと敵の敵になった。

 戦時中、ソ連にとって “敵の敵はアメリカ” だった。

 戦後、冷戦が始まるとソ連にとって “敵の敵は日本” になってしまう。

 もっとも、スターリンは “敵の敵は味方” といった無知蒙昧な宗教を持ち合わせていない。

 彼にとっては “敵の敵も敵” なのである。

 スターリンにとって日ソ関係は、敵(アメリカ)と敵(日本)を衝突させ、

 消耗させる外交手段でしかない。

 戦前戦中、日独と米英を衝突させ消耗させた謀略が終わっても、

 戦後は、日米衝突で消耗させる謀略を継続していた。

 冷戦というマクロな国際情勢は、敵国同士の日ソ関係を融和的なものに変えてしまう。

 どちらにしろ、この時期の日本は、反共親ソな関係が進む。

 正確にいうとソビエト民族もソビエト人も存在しない。

 ソビエトの意味は “社会主義者を中心とした労働者・農民・兵士の評議会” であり、

 ソビエト連邦の国民は、ロシア人だった。

 とはいえ、日本もアメリカの圧力を恐れるあまり反共親露政策を執り、

 日ソ間交易は増大していく。

 シベリアで採掘された資源が日本産業を拡大させ。

 日本の産業は、ソビエト領となった満州・朝鮮を近代化させていく。

 少なくとも、日本の朝鮮半島南岸領の巨済島要塞は釜山基地化を阻む点で有効だった。

 ソビエトは、釜山港に海軍基地を建設できず、

 仁川に海軍基地を建設していた。

 

 

 ソビエトの満州・朝鮮の軍事力は強まっていた。

 日本は、ソ連製兵器を購入し、多少なりとも日ソ戦争の可能性を遠ざけようとしていた。

 さらに日本海から東シナ海にかけて哨戒網を構築していく。

 水際防衛から内陸防衛に切り替え、

 軍事費に見合った防衛計画にシフトしていく。

 上陸後のゲリラ戦が国防の根幹だった。

 最初から本土決戦とする事で日本国民を恐れさせ、挙国一致させやすかった。

 おかげで地下鉄建設も国民的な要求となり比較的容易に進んだりもする。

 

 日本人のビジネスマンが半島南岸から歩いて国境を越え、ソ連領内へと入っていく。

 朝鮮半島が占領されてから、わずかな年月しか経ていないにもかかわらず。

 アメリカの目が届いていないと見るや、

 朝鮮民族をシベリア、中央アジア、中国大陸へ追い立て、

 ソビエトの苛烈な半島支配の結果、朝鮮人は少数民族になっていた。

 

 日ソ間の軍事的な対立は、程度の低い緊張以上のものでなく。

 互いに顧客であり、経済的、軍事的補完関係がなりたっていた。

 日本人が半島でT34戦車の運用を覚え、揚子江戦線へと向かっていく。

 ソ連との貿易はアメリカと比べ、総量の大きさにかかわらず利潤が低かった。

 それでも、工場が民間の設備投資に取られている昨今、

 価格の安いソ連製兵器は、国防で有用だった。

  全長 銃身長 重量 弾薬 弾数 発射速度 初速
PPSh41 840 269 4.75 7.62×25 71・35 900  
AK47 870 415 4.3 7.62×39 30 600 730

 「どうです。AK47は?」

 「良いですな。すぐとは行きませんが価格次第で次期主力小銃として採用しましょう」

 「ハラーショ! それは良かった」

 

 戦後、戦勝国、債権国のアメリカが国際情勢を主導していく。

 対抗勢力は、共産主義という強い毒性を持ったソビエト連邦。

 アメリカが余勢を駆ってソビエトを打倒しなかったのは、国際的な信条と、

 厭戦気運が挙げられる。

 そして、冷戦は、軍事費の維持で都合が良かった。

 ソビエト共産主義の脅威が人種の寄せ集めで作られたアメリカ合衆国を結束させる。

 敵の存在が内政の失態を誤魔化し、

 不正腐敗を抑制するワクチンになり得た。

 政治的、経済的、宗教的な引き締めに敵性国家が使われる。

 これは、アメリカだけでなく、ソ連、日本も同じ。

 執権者にとって、敵は保身として利用しうる価値のあるものだった。

 叩き潰せば良いというものではなく、執権者の保身のため国際外交が作られてしまう。

 それは、内外情勢に合わせた都合に過ぎなかった。

 そして、戦後の反共親露は、日本の執権者にとって好都合な要素があった。

 

 

 厚木基地

 MiG15戦闘機が滑走しながら勢い良く上昇していく。

  推力 空/通常/最大kg 全長×全幅×全高m 最大速度 航続距離km 武装
MiG15 2700kg 3582/4960/6105 10.11×10.08×3.70 1045km 1200〜19376 37mm×1 23mm×2

 ソビエトがMiG15の日本売却を決めた理由は、米ソ冷戦の過程でしかない。

 アメリカが日本にF80シューティングスターを売却する動きを見せた反作用に他ならない。

 日本も震電のジェット戦闘機化を画策していた。

 しかし、ジェットエンジンの技術で劣っていた事が災いする。

 「どうです、MiG15戦闘機は?」

 「実に素晴らしいですな。これならB29爆撃機も撃墜できる」

 「500機ほど、どうです?」

 「そうですな。100機単位で様子を見ながら購入していくことにしましょうか」

 ライセンス生産も可能だった。

 しかし、日本で製造するより安いため大人買いしてしまう。

 基本ラインは、生産補修ラインであり。

 改良ラインは、軽量化、燃費、電装品など改装していくためのラインだった。

 どちらもまだ、本格的なものではなく。細々といえた。

 

 

 戦艦ニューヨーク

 356mm連装砲5基から砲声が轟いた。

 「・・・提督。提督、標的に着弾。敵の司令部は壊滅です」

 「よろしい。撃ち方やめ」

 「撃ち方やめ」

 「敵機を近付けさせるな」

 「了解」

 南京から漢口までの戦線は、戦艦12隻の埋め立てで、

 中国共産軍の渡河を防ぐことができた。

 しかし、漢口から西方、宜昌(イーチャン)の800kmの戦線は苦戦する。

 そして、この時期になるとアメリカ製、ソ連製の武器弾薬が増え始める。

 問題は、武器を渡していい兵士が信用できるか、だったりする。

 槍と弓の時代なら腕っ節の良い人間に限定される組織。

 しかし、銃器になると腕っ節は二の次になり、組織は拡大していく・・・

 「・・・う、裏切ったある」

 「そ、その腕章を盗って、北に行って、へんしんするある」

 「うぅあああ〜!」

 国民軍も、共産軍も、裏切りやら再裏切りで混乱し、

 そして・・・・

 「やったある ばんざいある♪ 士官を倒したある〜♪」

 「良くやったある。平和を守った正義の戦士に、この腕章を与えるある」

 「へんしんある〜♪」 腕章をつける

 「「「「「おお〜!!!!」」」」」

 「羨ましいある〜」

 「駄目だったある〜 しょぼんある〜」

 「次は、きっとやれるある〜」

 

 対空砲火を受けたヤク9戦闘機が急旋回しながら降下していく。

 共産軍陣地

 ソ連の将校と日本人士官が白け気味にヤク戦闘機の行方を追う。

 「・・・ファビョったかな」

 「ストレスに弱過ぎますね」

 ヤク9戦闘機は、大地に叩きつけられ盛大に爆発四散する。

 「やはり、朝鮮兵士を乗せるとしたら戦車か」

 「統制が利かなくなって味方を砲撃したとか、報告を受けてますよ」

 「日本人の新規傭兵が減っているので不安だな」

 「最近、日本の景気が良いもので・・・」

 「ほぉ ほんの3年前の日本は、餓死か、病死か、人身売買と聞いてたのに・・・」

 「2週間も食べなければ餓死ですから、年月を遡っても仕方がないかと」

 「げんきんなものだな。日本人の主戦派軍属は、もっといると思ったがね」

 「忘れっぽい国民性でして、恨み辛みを世代を越えて持ち越す人間は少数派ですよ」

 「朝鮮人は、360年前から始まるから15世代くらい記憶が遺伝するぞ」

 「日本人より記憶力が良いな」

 「それは羨ましい」

 「ですが、もっと有用な記憶を遺伝させるべきでしょうな」

 「朝鮮人は必ず、日本攻略を進言する」

 「日本侵攻計画のレポートを書いてきた奴もいる」

 「それは、それは、さぞ練り上げられた計画でしょう」

 「死ぬのが朝鮮人なら全然困らないがね」

 「しかし、ソ連の国家財産を磨り潰されたくないものだ」

 「ソ連は、費用対効果で有用な財産が多いようで・・・」

 「日本はT34戦車を購入しないのかね」

 「上陸されそうな場所に要塞を建設していますし」

 「設備投資がもう少し進んでからになりそうです」

 「アメリカ軍は、輸送ヘリで強襲揚陸をするらしいぞ」

 「それならBT7戦車、T80軽戦車で対応できますよ」

 「島国は、良いなぁ ソビエトは、陸地からの侵攻に対し常に備えなければならない」

 「出来れば日本海側は、お互いに防衛的であって欲しいものですな」

 「まぁ それは、日ソと日米関係にもよるでしょう」

 「「・・・・」」

  

 

 

 ベトナム帝国

 日本は予算不足でベトナム帝国から駐留軍を撤収させていた。

 日本の利権は、メコン川流域の中州、越島(100ku)日本自治区。

 鉱物資源のスズ、原油、石炭が残される。

 日本の傀儡だったバオ・ダイ帝は、実質ベトナム帝国を治めることになり。

 日本人の移民はボルネオに集中したため、

 ベトナム帝国は、日本の友好国として取り残される。

 北部のホーチミン共産主義勢力は、支援を得られず地下活動を余儀なくされていた。

 アメリカは、国力と資金力に任せ、

 ベトナム帝国と国交を回復し、利権に食い入ろうとしていた。

 アメリカは、ベトナム帝国とフィリピンを押さえられれば、日本の南シナ海ルートをいつでも封鎖で来た。

 もっとも、アメリカの対日戦略は、そのまま日ソ友好を深めてしまうため、

 軍事的色彩が低かったりする。

 

 

 ビルマ国

 

 バー・モウ総理

 資源は豊かだった。

 石油、銀、鉛、亜鉛、銅、ニッケル、錫、タングステン、ルビー、サファイア

 日本軍がこの地に固執したのは、英印軍と直接、戦線を構えたからにほかならず。

 鉱物資源の大きさにあった。

 日本軍は、イラワディ川中州の毘島(100ku)日本自治区に守備大隊を駐留させていた。

 もっとも、軍の利権は縮小され、民間投資は増えていく。

 日本ビルマ河川大隊司令部

 丙型海防艦10隻。

 「大隊規模で何するの?」

 「まぁ 行き掛かり上だよ。日本人の居留民も多いし」

 「要請があればビルマ第一師団の要請で出動するよ」

 

 

 自由インド

 

 アンダマン・コタバル諸島を国土とするインドの独立自治州だった。

 イギリスがインドの独立を承認すると、

 ガンジー派とチャンドラーボース派の間で衝突がおこった。

 ガンジー派も、チャンドラーボースも、インドの内戦を恐れ、

 アンダマン・コタバル諸島をインドの独立自治州という形で内戦を治める。

 しかし、印パ紛争が激化すると、

 アンダマン・コタバル自治州は、地方に過ぎず、

 インドの政局から取り残されてしまう。

 

 

 ホワイトハウス

 日本の反共親露政策によって、

 アメリカのアジアにおける代理人は中華合衆国になっていた。

 とはいえ、独裁的で不正腐敗な社会への投資は、アメリカ国民が拒絶反応を起こしやすく、

 かといって、中国大陸の投資と足場を失いたくもなく、

 中黄連邦と中華合衆国の内戦のおかげか、

 工業力のある日本と、資本のあるアメリカの取引は続けられる。

 「なぜアメリカの対中国戦略拠点が香港島に作られるのだ?」

 「住み易いのが理由かと」

 「返還した租借地側は、どうした?」

 「中国人官僚の質は、世界最凶だそうです」

 「香港島の方がマシだと言うのか?」

 「かなりマシです。というより、アメリカよりマシといえますよ」

 「不便だな」

 「融通は利きませんがね」

 「香港島の日本銀行は、私腹を肥やした中国官僚の金が溜まり始めていますよ」

 「アメリカが送った軍資金じゃないのか、それは?」

 「ええ、日本は、租借地返還を利用し、香港島を綺麗さっぱり掃除してしまったようです」

 「国民軍は、なぜ、中国国内の銀行に入れないのだ」

 「行員に持ち逃げされると困るからでは?」

 「そこまで・・・」

 「利己主義極まれりですかな」

 「国際関係は、損得を越えた信頼関係で成り立っているのだ」

 「損なえば交易すら成り立たない」

 「国際関係を信頼関係とするのか、利害関係とするのかは、アメリカが決めているようですが・・・」

 「・・・・」

 「どちらにせよ。返還された租借地は、商業活動が低迷」

 「賄賂が横行して寡頭制が進むはずです」

 「CIAのポケットも膨らむというわけか」

 「ええ、中国官僚の接待攻勢と賄賂攻勢は、露骨ですからね」

 「透明度が低いほど栄養価が高いのでしょう」

 「元をただせば、アメリカの対中工作資金なのだぞ。悪徳が流行しては困る」

 「中国人は、人を食ったようなところがありますからね」

 「戦う相手を間違えたかな」

 「日本の反共親露政策は、変わらないと思われます」

 「反共親米にしてもらいたいものだが」

 「アメリカ製の武器弾薬の方が高いですから。それが元凶かと」

 「そういえば、日本で建造している戦艦は?」

 「戦艦ソビエツカヤ・シベリア。改大和型のようです」

 「モンタナ型の方が砲力が上のはず」

 「それは助かるな」

 「ですが作戦能力は、シベリアの方が上でしょう」

 「日本は、ソ連海軍のため本気で建造しているのか?」

 「欧州側配備だそうで、」

 「キャンセルされれば自国用で使うはずですから本気だと思われます」

 「少なくともモンタナ型建造は支障ない」

 「しかし、空母が主力だと思ったが」

 「アメリカ機動部隊の攻撃からトラック、ビアクを守り」

 「アメリカ軍の侵攻作戦をインド洋側に遠回りさせ」

 「シンガポール、ブルネイ、バリクパパンを日本に譲渡させた力は戦艦ならではでしょう」

 「空母に出来ない芸当ですよ」

 「んん・・・戦艦に価値がある、ということか。日本で戦艦の建造は?」

 「自国で持つ気はないようです」

 「意外だな」

 「同じ予算で同等の要塞をいくつも建造できますからね」

 「日本経済は好景気だと聞いたが?」

 「設備投資の方が儲かると考えているのでしょう」

 「軍事費の伸びは感じられません」

 「日本の新型艦は?」

 「主力は3000トン級潜水艦60隻。6000トン級巡洋艦20隻を計画」

 「まだ建造されていないようです」

 「潜水艦が主力か。随分、のんびりしているな」

 「あの予算では、維持費がやっとのはず」

 「上澄み分も電波兵器とソナーに予算を取られているようです」

 「戦中の経験則か。相当懲りたようだな」

 「日本は、電子計算機にも関心を見せているようです」

 「本当かね」

 「農地改革が進んで農地転売で新規産業が増えて、税制が複雑化しているためでしょう」

 「人海戦術で計算するより電子計算機と考えるのは当然か」

 「日本のボルネオ移民は?」

 「500万を越えて現地人の人口を越えた模様です」

 「このままだとボルネオ島は、日本になってしまうではないか」

 「インドネシアは、スマトラ・ジャワ圏とボルネオ・セレベス圏に分断されているといえます」

 「インドネシア独立の闘志はジャワ島出身が占め」

 「日米利権分けは、日本に有利に働いているようです」

 「つまり、アメリカも日本も、インドネシア独立の阻害という目的を達しつつも」

 「分け前は、日本が大きいというのか?」

 「そのようです」

 「もちろん、スマトラ・ジャワの経済植民地化は進んでいます」

 「しかし、天秤は、入植人口の多い、日本に傾いているようです」

 「日本の移民が、これほど早いとは思わなかった」

 「移民しているのは、富裕層の主戦派軍属ですから」

 「地主大家が命からがら日本本土から逃亡したともいえます」

 「富裕層が追い出されてか。まるで共産主義革命じゃないか」

 「日本では戦後の改革を “昭和の改新” と呼んでいるようです」

 「改新ねぇ」

 「1300年ぶりの大改革とか」

 「政治的決断で意図したものでなく」

 「天災と事勿れの自然発生を政治改革にしていいのか?」

 「日本人は自然と調和を求めやすい気質ですから」

 「自然を従える気骨がないのなら猿と同じだ」

 「それは “生めよ。ふえよ。地を満たせ。地を従えよ”」

 「“海の魚、空の鳥、地をはうすべての生き物を支配せよ”」

 「という神の言葉を知らないからと思われます」

 「愚かな。そんなことだから、文明のないジャングルに移民できるのだ」

 「しかし、愚かな日本人を攻めきれなかったのも事実では?」

 「・・・多少なりとも認めてはいるよ。日本人は、猿よりマシだ」

 

 

 

 戦後、公職から排除された旧軍属勢力は、海外州でも排斥されていく。

 高位にあった権力者、富裕層が低位の被支配層、貧民層と立場が入れ替わる。

 この事をヨシとしない主戦派軍属は、海外州からも押し出され、

 ボルネオ州へと向かっていく。

 そして、戦前・戦中の軍属から政局の中枢利権を奪ったのは土建族だった。

 日本最大の政官財癒着構造が完成し、

 大規模で理不尽な土地収用が行われていく。

 戦後拡大した領土と人口減が土地収用費を大幅に削減し、

 日本縦断鉄道を可能にした。

 1520mm広軌は鹿児島から樺太まで日本列島を縦断。

 間宮海峡を越え、沿海州を南下してシベリア鉄道と連結する壮大なものだった。

 ソ連側も反対ではなく、

 むしろ日本を足場にして外洋に向かう構想を進める。

 日本が反共だったとしても後回しにすればよいことだった。

 そして、日本での労働運動は、起こりにくい状態にあった。

 日本は1日8時間。1週間の労働時間40時間。

 労働組合がない代わりに超過した場合の賃金割り増しなど整備されていた。

 もっとも、あくまでも、それなりだったりする。

 時勢によって雇用側が強くなったり、

 労務者側が強くなったりで、どっちといえなくもない。

 いまの日本は、好景気の人手不足で、

 労働者を他者に引き抜かれて潰れた会社もあるほどで、日本の労働者は、優遇されていた。

 

 

 土建族たちの晩餐

 「建設しても採算が合わないのは辛いね」

 「人口が減ったからね」

 「沿線に人口が集中するのは悪くないよ」

 「車が増えると収入が減るよ」

 「その辺は、後回し根回しで調整しようよ」

 「人口は、これから増えていきそうだから前もってやるのは悪くないよ」

 「どうかな、人口がボルネオに流れているぞ」

 「元軍属の子供は、学校でいじめられているらしいからね」

 「日本人は、一度、そうなっちゃうと引き摺っちゃうからな」

 「だけど、それは、それで、ボルネオの資源採掘に反映するから良いよ」

 「ボルネオの自治は、どの程度進んでいるの?」

 「5割自治というところかな」

 「教育、州軍、地方行政は日本語でも良いようだけど」

 「インドネシア人も悪くないか」

 「あっちの方が鉄道建設が簡単そうだな」

 「採算は日本以上に厳しいけど」

 「人口が少ないからね。でも資源を輸送できるなら黒字だよね」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 『国防戦記』は、反共親露でしょうか。

 ちょっと、綱渡りでヤバ系の戦後です。

 

 この時期のインドネシアの総人口は8300万。

 史実、独立後の人口増加を見ると、

 植民地からの独立で外国から搾取されなくなり、

 近代化しやすくなると、生きやすくなったと分かりやすい。

 

 

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