月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第11話 1952年 『つ・な・わ・た・り』

 揚子江戦線上空をミグ15戦闘機とF80シューティングスター戦闘機が飛び交う。

 それは、資源の採掘、採算性が軌道に乗った後、

 さらに管理部隊、補給部隊の進出など、複雑な過程を踏んだのちだった。

 つまるところ “信用できない戦場に新鋭機を送り込みたくない” は、米ソ共通認識だった。

 結果的には、ミグ15戦闘機はF80戦闘機シューティングスターを撃墜。

 ミグ15戦闘機は揚子江上空の制空権を握ってしまう。

 慌てたアメリカは、F86戦闘機セイバーを投入し、制空権の回復を図る。

 ソ連もミグ15の改良機ミグ17戦闘機フレスコを投入して、対抗。

 アメリカ資本の代理人となった台湾人の大陸入植が増えるにつれ、

 中華合衆国の利権体制が構築されていく。

 同じようにソ連も朝鮮人を使って中黄連邦の利権体制を整備しつつあった。

 アメリカ人やソ連人は、航空機や戦車に搭乗する事が多く。

 朝鮮軍と台湾軍は懲罰部隊として、国民軍と共産軍の背後にいることが多くなり、

 戦場で直接撃ち合うのは、漢民族同士が増えて行く、

 

 しかし、日本人傭兵部隊は、国内とボルネオ州の好景気に惹かれ始めていた。

 契約が切れると内地やボルネオに帰還することが多くなっていく。

 

 

 揚子江北岸 ソ連外人部隊

 蒸し風呂のような長江流域は、ロシア人を苦しめ思考能力を低下させる。

 「戦闘機をケンチャナで整備するな!!!」

 朝鮮人の整備士にスパナが命中する。

 「アイゴ〜!!!」

 ソ連軍は熱中症、熱射病、日射病など蒸し暑さ、

 朝鮮軍将兵の気質に悩まされて戦いにくく。

 アメリカ軍は、ロシア人より暑さに強く、

 台湾軍兵士は使いやすく、戦いやすかっただけだった。

 ロシア人将校と日本人の代表が双眼鏡で前線を覗き込む。

 「ミグ17がF86より劣っていることはないでしょうな」

 「まさか、機体性能で互角以上ですよ」

 「それで?」

 「朝鮮人より日本人を雇いたいと思っているのですが」

 「日本本土は人手不足ですからね。傭兵部隊の進出は、嫌われていますよ」

 「揚子江の南側では、日本人が働いているのでは?」

 「台湾人ですよ。日本人と気質が似ているだけです」

 「どちらにしろモラルの低い民族は、私腹を肥やしますし」

 「消耗が激しいばかり、徒労が増えるでしょうな」

 !?

 韓国人下士官が、突然、中国軍兵士に襲いかかり、逆に取り押さえられる。

 火病は、良くある事と認識されるようになっていた。

 「・・・暑いですからね」

 「日本軍は、こんな大陸で良く10年以上も戦えたものだ」

 「もう戦う気にはなれませんな」

 「どうでしょう。日本人が鉄道など物資管理部門、整備を引き受けるのは?」

 「戦場で戦うこともない」

 「戦うのは、ソ連軍ですか?」

 「航空部隊と戦車だけは、ロシア人将兵でないと、近代戦闘はできないでしょうな」

 「日本軍兵士の戦闘力の高さで巻き返したいものだが・・・」

 「どうでしょう。漢民族や朝鮮人は、日本人の失敗を針小棒大であげつらいますし・・・」

 「連中の狡すっからい気質は十分に理解していますよ」

 

 

 揚子江北岸

 河川砲艦で優勢なアメリカ軍は揚子江の制河権を握っていた。

 シュトルモビクが爆弾を投下し、

 立ち昇る水柱の間を渡河楊陸船団が北上していく。

 至近弾が河水を噴き上げ、艦体に水の混じった爆風を叩きつけて濡らす。

 上空でミグ17とF86が旋回、もつれるように機銃掃射を繰り返していく。

 輸送艦152号 艦橋

 「日本の艦船を買い取って荷を運ばせるなんて、アメリカって、お金持ちだね」

 「弾が飛び交うような戦場は、日本人にやらせたいのかも」

 「危険手当に人生を賭けるのも悪くないよ。命がけで働いて、老後は安心」

 「それは怪我がなければでしょう」

 「ソ連側の輸送は、黄河だから楽かも・・・」

 「ソ連側は、資源と交換ですか?」

 「あと武器弾薬もだろうな」

 そして、揚子江の河川権益を得るため対岸側へと上陸する。

 M26戦車とM4戦車が橋頭堡を守るためT34戦車に向けて砲撃を加え牽制する。

 そして、中国共産軍の人海戦術に対し、

 中国国民軍の人海戦術と国民軍が戦線で衝突。

 橋頭堡に現れたT34戦車に向けて40口径127mm砲が撃ち込まれていく。

 小さな地峡を守れば、北岸側の半島を占領し、優位になれた。

 そして、橋頭堡を蹂躙するかに思われたT34戦車が破壊される。

 輸送艦152号は、僚艦とともに物資を降ろし始める。

 将兵の9割9分は漢民族であり、1分は台湾人、日本人、アメリカ人だった。

 「食料と弾薬が来たある!」

 「早く持ってくるある!!」

 上陸用舟艇が往復して武器弾薬を置いていく。

 台湾軍が脱走兵を後ろから狙い。日本人が物資を運び入れる。

 漢民族が日本人を追い出し、輸送部隊をしたことがあった。

 “埋めて隠すある”

 “戦争が終わって、売ればお金持ちある”

 “敵に横流しるある”

 “軍閥の方が実入りが良いある”

 途端、輸送物資が滞り、数が減り、横流しが増えてしまう。

 漢民族は、誰が補給部隊なっても地下に隠し、闇市場に流そうとする。

 そして、仕方なく、日本人に輸送物資を運ばせてしまう。

 状況は、北も南も同じだった。

 アメリカも、ソビエトも、勢力圏を延ばしたくても厭戦気運で戦いたがらず。

 来ている部隊も主流の支配民族ではなく、あぶれ者ばかり。

 そのおかげで武器弾薬の一掃。代理戦争になってしまう。

 

 

 日本領 遼東半島

 「こ、これは・・・」

 「AK47、RPG2、トカレフある。日本に売るある」

 「す、すごい数だな・・・」

 「もっと持ってくるある」

 「そ、そりゃ 日本の正規装備だし、嬉しいけど」

 「日本に口座と預金が欲しいある」

 「そ、そりゃまあ・・・」

 

 日本領 遼東半島

 「こ、これは・・・」

 「ガーランド、カービン、ガバメント、バズーカ、手榴弾ある。日本に売るある」

 「げっ! 最新の90mmM20スーパーバズーカー・・・」

 「買って欲しいある」

 「す、すごい数だな・・・」

 「もっと持ってくるある」

 「そ、そりゃ どうせ、地下に格納するのだから、ばれることはないし、嬉しいけど」

 「日本に口座と預金が欲しいある」

 「そ、そりゃまあ・・・」

 

 

 揚子江北岸の漢口

 国民軍橋頭堡

 「あ・・・あれは何あるか?」

 巨大な戦車はM26戦車の50口径90mm砲弾を弾いて撃ち返した。

 爆発が戦場を響かせる。

 「M26戦車が破壊されたある」

 46.3口径122mm砲装備のスターリン重戦車は、M26戦車より強力だった。

 「対戦車バズーカーが足りないある〜!!!!!」

 「ニ、ニューヨークに砲撃を頼むある!」

 そして・・・

 「やったある ばんざいある♪ 将官を倒したある〜♪」

 「良くやったある。平和を守った正義の士官に、この腕章を与えるある」

 「へんしんある〜♪」 腕章をつける

 「「「「「おお〜!!!!」」」」」

 「羨ましいある〜」

 「駄目だったある〜 しょぼんある〜」

 「次は、きっとやれるある〜」

 

 

 中国内戦

 アメリカは中華合衆国。ソ連は中黄連邦。

 米ソ両国とも中国大陸の点と線を確保しつつあった。

 ソ連は、満州と中央アジアから揚子江近辺にまで路線を延ばそうとし。

 アメリカも広州・香港と上海から揚子江へと路線を伸ばし、

 大陸の利権体制を構築していた。

 毛沢東率いる共産党の中黄連邦も、

 蒋介石率いる国民党の中華合衆国も状況は同じだった。

 毛沢東も、蒋介石も、保身のため国益を売り渡しても国家を存続させる。

 その利権体制に日本人が組み入れられたのもソ連の妥協であり。

 アメリカへの対抗処置だった。

 米ソの妥協は、高まる厭戦気運と気候(蒸し暑さ)に負けたためといえる。

 蒋介石も毛沢東も、米ソの軍事力を頼りにしなければ国家防衛ができず。

 米ソの対立の狭間で日本は日中戦争で、奪おうとしてできなかった利権を得てしまう。

 揚子江の北側は広軌1520mm路線が伸び。

 南側は標準軌1435mm路線が伸びていく。

 ソ連の装甲列車が揚子江北岸を進む。

 装甲列車はT34戦車を積み、必要ならば降車して戦う事もできた。

 航空母艦ならぬ装甲母列車。

 戦車大国のソ連は、装甲母列車を大量に製造していた。

 軍閥対策、匪賊対策の治安だけならBT7戦車、T80軽戦車でも十分過ぎた。

 T26戦車は8.5トン級、37mm砲、7.62mm機関砲装備。

 12000両というとんでもない生産量を誇る。

 ほかにT60軽戦車は6000両。T70/T80軽戦車は8000両。

 BT5/7は7000両が生産されていた。

 大戦の生き残りは、少なからず存在し、

 これらの戦闘車両が大陸支配に投入される。

 日本の旧軍属たちがソ連の装甲列車を整備していた。

 「日中戦争なんて、やるんじゃなかったよ」

 「最初からこうしていたら、お金持ちだったのに」

 「どちらにしろ、漢民族は災難だな」

 「しかし、ソ連は、何でこんなに戦車を持っているんだ。整備しても整備して現れる」

 「大陸の点と線を戦闘車10000両で支配するんだと。豪勢だな」

 「戦車の中って暑いのに。ロシア人は、暑がりなのに良くやるもんだ」

 「でも日本製のエアコン車両が売れるらしいよ。前線基地も地下に造り始めているし」

 「ロシア人の生活が容易になれば戦争は続くわけか」

 「まぁ 地下なら戦車の侵攻に強いし、地下防衛線の効用が認められたのだろう」

 「んん・・・避暑じゃないの」

 「しかし、暑いからって戦車を埋めて守りに入っちゃお終いだな」

 「城塞を建設するまでの繋ぎだろう。城塞建設でも儲かるらしいけど」

 「しかし、ソ連の利益になるとは、何か、亡国ものの仕事だな」

 「モロに墓穴を掘っているって感じだ・・・」

 B29爆撃機が南からやってくると中国連邦軍陣地に爆弾を投下していく。

 「なんだ? がんばってるじゃないか」

 「しかし、戦況はどうなんだろうな」

 「南でも同じらしいよ。日本人が整備したり管理したり・・・」

 「前線から退いても、戦場にいることは変わらないか」

 「しかし、中国軍を空襲するなんて、燃料とか爆弾の方が惜しいと思うぞ」

 「昔からそうだったよね。弾を撃つのが勿体なかった」

 「アメリカ軍も、ソ連軍もお金持ちだからな」

 「いまにわかるさ」

 

 

 

 赤レンガの住人たち

 戦後、日本経済は再建が進むにつれ、

 それと同時に軍事費もわずかに増えていく。

 国民の信頼を失った日本軍も国が富めば兵も拡充していく。

 主戦派が淘汰された軍部は、政治的な野心と覇権から後退し、

 予算内で国防を納めていく。

 「侵略されても国防で責任は取れないよ」

 「だけど、ミグ15、ミグ17は悪くない。軽量化が進めば、性能も向上するだろう」

 「国防の主力は、まだシュパーギン43、AK47、RPG2だよ」

 「いやだねぇ 国民を巻き込んだ国防大綱なんて」

 「予算をくれない国が悪い」

 「国土防衛だと死活問題だからね。国民が日本軍に味方しやすいと思うよ」

 「むしろ、敵に内通しないか?」

 「ぶっちゃけ、半島が共産化すると自動的に日本が共産化すると思ったり」

 「軍国主義者の方が日本人の愛国心を信用してないからね」

 「日本人って神経質で島国処女だからね」

 「ドサクサに権力闘争で倒閣に走ったり、欲に溺れて下剋上したりが怖いんだよ」

 「どっちかというと、航路帯防衛とか、考えるべきなんだけどね」

 「シベリア鉄道が当てにできたら、航路帯がなくなっても、大丈夫だと」

 「アメリカと戦争がはじまったらソ連に依存か。良いように支配されそうでいやだな」

 「アメリカもそう思うなら、日本侵攻を躊躇するよ」

 「じゃ 逆にソ連から攻撃されたらアメリカ側か」

 「日本人は外交バランス感覚と語学力が低いから」

 「天秤の中心に日本を置くのは好みじゃないよ」

 「こういうのが得意なのは陸地でいくつもの国と繋がっている小国民だよ」

 「島国の日本人は厳しいね」

 

 

 日本海側の某所

 国防費削減で民需と軍事が絡んだ施設が建設される。

 バンカーバスター、トールボーイ、原子爆弾。

 どれもこれも通用しないほど地下深く、地下鉄が伸びていく。

 「山の向こう側に行くのは便利になったけどね」

 「ここで戦うとしたら港も街も守る気がないよな」

 「戦争がはじまったら民間人は内陸側へ逃げろだと」

 「だけど、民間人に配るAK47とか、保管してるらしいよ。怠慢だね」

 「家が占領されてしまうよ。もっとましな国防ってないのかな」

 「んん・・・だけど、戦前戦中みたいに殺伐とした社会はいやだよ」

 「戦後直後なんて殺し合いだったから。良く、信頼関係が持ち直せたもんだ」

 「ちょっとギクシャクしているけどね」

 「でも転売とか、土地交換が増えて、政府は良かったらしいよ」

 「なかった事にしましょってか・・・いいけどね。でも本当は、忘れたいだけかも」

 「軍人が戦地でやっていたことだよ。それを国内でやっただけだ」

 「まぁ 反軍国で国防意識が低下しているから。こういう国防政策になったのだろう」

 「AK47とか、トカレフが撃てるのは、楽しいけどね」

 「でもむかしみたいに信頼できる社会って、一世代後かもね」

 「むかしから、信頼なんて怪しかったよ」

 「隣組なんて密告推奨だったし、村社会で窮屈だった」

 「隣組は、良し悪しだったけどね」

 「農地解放の転地で、嫌な思い出と、窮屈なムラ社会が薄まった」

 「その点が良かったと思うよ」

 

 

 贈収賄が通用しやすい世界があった。

 貧しさとか。人権を踏み躙られたとか。人を踏み躙るためとか。

 満たされていないとか。倫理的な意識。歴史的な趨勢。社会不安とか。

 文化的な資質。家族的な慣性。地域的なつながりとか。復讐とか。いろいろ。

 列強は資本の集約が進み、

 余剰資金で後進国の人間と取引を行い足場を作っていく。

 内憂外患で、余所者を嫌うとか、警戒するとか、村が排他的だとか、良くあることだった。

 しかし、新しい血が発展の礎になったりもする。

 戦後、独立国は、後進国から列強の一角に上り詰めた日本を手本にした。

 総じて、近代化のため開国し、模倣していく。

 開国は国家と民族にとって良薬にもなり、猛毒にもなり、

 アレルギーや副作用があった。

 国民のモラルが強ければ成功しやすく。

 モラルが低ければ国家と民族を半身不随にしてしまう。

 ともあれ、後進国、新興国家は、不利な状況で国家運営を強いられていく。

 そして、日本は列強より有利な条件で独立国に取引を持ち掛け、足場を築いていた。

 ボルネオ島

 ブルネイ、バリクパパンの入植が進むにつれ、経済力が高まっていく。

 日本資本は、ボルネオ州5割自治を利用する。

 現地への経済的利益と交換でボルネオ島全域に経済進出できた。

 元々、スマトラ・ジャワのアメリカと利権分けしていたため、

 日本人のボルネオ入植と利権確保は進み易く。

 アメリカの “こんな熱帯のジャングルに人が住めるか” の予想を越えていた。

 また、世界中の目が中国内戦に向けられているため、

 アメリカのボルネオ対応が後回しにされていた節もあった。

 それでも、アメリカは、ゲリラと海賊に日本資本を攻撃させようとした。

 しかし、ボルネオ人は、中華思想もなく、反日意識が低かった。

 次第に日本人は、ボルネオ島に発展と利益をもたらし、

 アメリカ人は、ボルネオに暴力と破壊をもたらす構図になってしまう。

 独立の主導権を握ったジャワ人は、アメリカの影響圏で失速。

 戦後、インドネシア連邦を主導しそうなのは日系ボルネオ人になりそうだった。

 

 

 呉海軍工廠

 戦艦ソビエツカヤ・シベリア

 排水量68000トン (全長280m×全幅38m×吃水10.4m)

 ディーゼル機関24基+電気駆動タービン3基3軸3基3軸推進17万7600馬力

 最大速度29ノット

 航続力18ノット/24000海里

 50口径406mm3連装砲3基

 56口径100mm連装高射砲16基

 68口径37mm4連装高角機関砲20基

 水上機 6機

 ソ連海軍士官が常駐し建造を見ていた。

 日本で建造した戦艦にソ連から運び込まれた艤装が施されていく。

 「日ソ合作ですか・・・なかなか、壮感ですな」

 「これほどうまくいくとは思いませんでしたよ」

 「同列の技術と言うところですかな」

 「しかし、日本側の方が丁寧な仕上げだ」

 「いえいえ、戦艦というより、海上移動要塞といった仕様は参考になりますね」

 「ソ連は、海に拠点がないのですよ」

 「戦艦ソビエツカヤ・シベリアは、潜水艦を支援する強靭な兵站にもなるはずです」

 「潜水艦ですか・・・」

 「ええ、ドイツ海軍以上のことができます」

 「大佐。やはり、カタリナ飛行艇を装備するのですか?」

 「ええ」

 戦艦シベリアの艦尾に大きな格納庫と扉があった。

 この機構により、クレーンを使わなくても水上機を艦尾から乗り入れられた。

 GST(PBYカタリナ双発飛行艇のライセンス機)。

 全長19.47m×全幅31.70×全高6.15m。翼面積130uを3機を搭載。

 「確かに双発機は、居住性が良いようですが」

 「居住性だけではありませんよ」

 「質量がないとシベリアの航跡に呑まれてしまいますからね」

 「なるほど」

 「しかし、GSTは、原型機と違って性能が低いようですが。零式水上偵察機が良いのでは?」

 「搭載機用はドイツ製水冷エンジンを装備しますよ」

 「航続力は5000kmを越えるはずです」

 「ソビエト海軍が外洋艦隊となるわけですか」

 「同志スターリンが存命の間に形にしたいものです」

 「空恐ろしいですな」

 「ソビエトの陸軍と海軍の比率が変わるだけで、軍事費の総量は変わりませんよ」

 「日本の利権を脅かさないでいただきたいですな」

 「配備は西側諸国が多い大西洋側ですよ」

 「圧力を効果的にかけやすいですからね」

 「2番艦ウラルは、どうなりそうですか?」

 「1番艦シベリアの出来次第です。たぶん、大丈夫でしょう」

 「嬉しいような。悲しいような不思議な気分ですな」

 「この戦艦は良い」

 「経済性。戦闘能力。双発水上機3機を装備できる柔軟性。長寿戦艦になりますよ」

 「戦艦だけでは、寂しいかもしれませんな」

 「日本もT54戦車か、T34戦車を購入されてはどうです」

 「スターリン戦車は、M46パットンより強いですよ」

 「戦車は移動するだけで道を痛め、戦争になれば田畑と町を壊しますからね」

 「いつまでもBT7戦車やT80軽戦車じゃ不足でしょう」

 「いまのところは、間に合ってますよ」

 「日本は、市場が広がって生産力が増している。随分と発展しているようですが」

 「どうでしょう。拡大した領土に対する投資は薄くなる」

 「投資は沿線に集中するしかない」

 「ソ連も、そうですよ。しかし、人口減は痛いですな」

 「利権体制を民需に切り替えるための必要な処置でしょう」

 「軍部には辛いですな」

 「ええ、ですが、この戦艦の建造は良い啓発になりますよ」

 「なるほど、ソ連海軍にとっても日本海軍にとっても、意義のある戦艦と言うことですかな」

 「利害が一致しない限り、こういった事は、起こりえませんよ」

 惚れ惚れとするような戦艦が建造されていた。

 

 パナマ地峡を挟んで太平洋側の海面は、大西洋の海面より24cm高かった。

 そして、パナマ運河の標高は、ガトゥン湖25.9m。ミラフローレス湖16.5m。

 艦船を通過させるため山の上にある人工湖の湖水を汲み上げ、

 汲み降ろす必要があった。

 パナマ運河爆撃の後、アメリカは、パナマ運河の拡張工事を進めていた。

 湖は湖水を失い、土木工事の跡が広がっていた。

 関係者たちは、軍事的な興味と経済的な効率の決着を緊張したように見守る。

 全長約80kmの運河の地下深く海抜に20個もの核爆弾が埋められていた。

 カウントダウンが終わると一斉に爆破。

 地震、地響きの後、土砂が吹き上げられる。

 「「「「おお〜!!!」」」」

 まったくの力技でパナマ地峡が砕かれた。

 そして、太平洋と大西洋を繋ぐ運河の標高がほぼなくなり、

 運河幅が押し広げられる。

 「「「「凄い〜」」」」

 「工事再開は、いつになりますかな」

 「来年でしょう」

 「多少なりとも放射能残留物を押し流してからでしょうな」

 「軍は、すぐに調査を始めますぞ」

 「人権問題で訴えられると、こちらまで迷惑する。穏便にお願いしたい」

 「財界には、迷惑をかけないよう、調整しますよ」

 「これで経済的な問題は、片付きそうでな」

 「軍事的には、問題ありませんよ。もっとも、国民感情の方が・・・・」

 「厭戦機運は高いですが、反日感情は強く残ってますよ」

 「しかし、中華合衆国が怪しいですからね」

 「正直いうと中国は、同盟軍として信頼できかねますよ」

 「同感です。経済的パートナーとしても微妙です」

 「いまのところ、日本に都合が良いようですな」

 「まったく・・・」

 

 

 土建屋の晩餐

 インフレが進むと労働できなくなった老人は収入が得られず、

 生きていけなくなっていく。

 仕方なく社会保障が整備されていく。

 もっとも、人口減と農地転売で社会保障の必要性が低下。

 さらに土建屋の反発で縮小し。

 政府機構としてより民間機構となりより、

 直接的な老人ホーム建設会社となってしまう。

 そして、物価統制が功を奏し、

 それなりな老後を送れそうだったりする。

 「結局、子供でなくても誰かを働かせて楽隠居できればいい」

 「しかし、ほとんどの人間は、それもままならないということだな」

 「体力が落ちてくると保身のため猜疑心ばかり強くなる。醜くなっていくからね」

 「いまは老人が少ないから良いけど」

 「老人が増えると負担が大き過ぎて経済成長が抑制されるだろう」

 「まぁ 拝金主義が進んでいるからといって」

 「インフレ対策で社会保障を強くするのは危険過ぎる」

 「老後保障は、共産主義的ではある。」

 「人間は、独り善がりな生き物だ。共産主義ばかりと言えないよ」

 「理想なら、もっと潔く死にたいものだが、そうもいくまい」

 「それに国のために働く人間より」

 「介護してくれる人間に遺産を渡したいと思うのが人間だよ」

 「まぁ それを利用するのも手かも」

 「老後保障で資金を集める方が良いと?」

 「運用では有利だね。老人が増えると困ることになるけど」

 「いまは有利でも、刹那的に使う人間が多い。微妙だな」

 「日本の貯蓄率は高いぞ」

 「もっと高くなるよ。そっちの方が使いやすいけどね」

 「社会保障も貯蓄のうちだよ。使いやすい社会資本。銀行みたいなものだ」

 「でも、あまり国に頼られても困るよね。軍部みたいに破局したら大変」

 「もうちょっとモラルが欲しいよ」

 「モラル低下は、大陸の影響じゃないか?」

 「官吏の不正腐敗なら一七条憲法の時代からあるよ」

 「悪化の原因を大陸のせいにしたいね」

 「しかし、賄賂で外国と有利な取引ができるのなら有利ではある」

 「あまりなじめないがね」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 戦後、日本は、米ソ冷戦の狭間で反共親露でバランスを取ろうとしているようです。

 中国内戦を利用して、収益の多くを財政再建と設備投資に振り向けて経済成長してます。

 思想対立より、利害関係で戦争でしょうか。

 価値観が違って殺し合いになるより。権力、利権が絡んで殺し合いが常識。

 情勢次第で、日ソ同盟の可能性もあったりです。

 いや、それだけは避けたい。

 

 

 

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第10話 1951年 『カインの末裔たち』
第11話 1952年 『つ・な・わ・た・り』
第12話 1953年 『憎しみは、捨てなきゃ』