月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第12話 1953年 『憎しみは、捨てなきゃ』

 中国内戦は世界から注目されていた。

 アメリカとソ連は、中国大陸の利権と支配堅めで、中華合衆国と中黄連邦を戦わせていた過ぎない。

 そして、中華合衆国と中黄連邦は、保身と体制固めのため将兵を戦わせていた。

 中黄連邦人民が中華合衆国を憎み。

 中華合衆国人民が中黄連邦を憎む。

 米ソ両国の中国利権は、北と南の憎しみが大きいほど食い込み、強固になっていく。

 中国主導者層は、国益を手放し、国民を酷使しても、己が権力と保身と支配維持を望む。

 大局的な視点と視野に目聡い中国軍兵士は肌でそのことを感じる。

 中国人兵士の戦意が失われつつあり戦場は膠着状態に向かっていた。

 そして、北はウィグル方面。南はチベット方面へと戦線を伸ばしていく。

 

 

 戦艦モンタナは、給油艦から補給を受けつつ北大西洋を航行していた。

 モンタナ艦橋

 提督が食事を終えて艦橋に上がってくる。

 「・・・艦長。あの艦は、どうしてる?」

 「モンタナ型戦艦2隻を建造させた恩人なら2時方向10km先を航行しています」

 「ありがたいがケツは見あきた」

 「この位置は優位ですよ。あと5時間でオハイオと交替。先行になります」

 「モンタナは、シベリア型より主砲が3門多い並行戦でも勝てるぞ」

 「この距離では、どちらも轟沈です」

 「大西洋の新しい住人をエスコートしているのだ」

 「いくら田舎者でも、そんな無粋なことはしないだろう」

 「イギリス漁船は逃げ出したようですが」

 「ふっ 乗員がロシア人ならスペックから3割引きだな」

 「ここまで、座礁させられないか心配でしたからね」

 「日本人が搭乗しているのなら大丈夫だろう。大和型の延長だとしてもな」

 「シベリアのスペックは良いですよ」

 「埋め立てられた大和を見てきたがね」

 「無理に機能を詰め込んだ余剰浮力の少ない戦艦だと思ったよ」

 「全長が伸びているようですし、砲口兵器は小さく」

 「捕獲したアメリカ戦艦の設計も一部模倣していると思われます」

 「日本人の良いとこ取りは、無節操なサル真似だな。ポリシーが感じられん」

 「性能が良ければ、プライドは後回しにしたいものです」

 「アメリカ戦艦の電気推進と」

 「ドイツのディーゼル機関を取り入れたディーゼル・エレクトリック採用か・・・」

 「シベリア型は、モンタナ型より一世代進んでいるかもしれません」

 「艦の大きさに比べ武装が小さい、航続力と作戦能力は高そうだな」

 「艦尾にカタリナ3機を格納しているのは、羨ましいです」

 「大西洋では窮屈だろうな」

 「ええ、ですが、イギリス、フランスは、大型艦の建造を検討しているようです」

 「ほぉ シベリア建造の効果があったわけだ」

 「できれば2番艦ウラルも建造して欲しいですな」

 「そうだな。アメリカ海軍は、そうしてもらう方が助かるよ」

 「・・・提督。イギリスのヴァンガードとフランスのリシュリューも来たようです」

 「大変な歓迎だな。喜んでいいものか、悲しんでいいものか」

 「萎縮して二番艦建造をやめなければ良いのですが・・・」

 「戦艦にはノスタルジーがあるよ・・・」

 「提督。給油完了しました」

 「そうか、離れろ」

 

 戦艦ソビエツカヤ・シベリア

 排水量68000トン (全長280m×全幅38m×吃水10.4m)

 ディーゼル機関24基+電気駆動タービン3基3軸3基3軸推進17万7600馬力

 最大速度29ノット

 航続力18ノット/24000海里

 50口径406mm3連装砲3基

 56口径100mm連装高射砲16基

 68口径37mm4連装高角機関砲20基

 双発水上機 3機

 

 史上最大最強の戦艦が太平洋、インド洋、南大西洋、北大西洋・・・を航行していく、

 北海

 戦艦ソビエツカヤ・シベリア 艦橋

 なんとなくウォッカ臭い艦橋。

 シラフは、日本人士官だけだった。

 “なぜウォッカなのか”

 と聞くと、頬を赤く染めた政治将校が馬鹿にしたように答える。

 “防寒対策だ” と

 “危ないじゃないか”

 “バカをいうな。工業用アルコールを隠れ飲みされる方が危ない”

 世界最狂の海軍に操艦される戦艦シベリアが哀れでならない。

 「大西洋の戦艦が総でで囲まれたな・・・」

 「提督。大変な歓迎ですな」 日本将校

 「歓迎?」

 「新しい隣人への挨拶です。主役です」

 「歓迎か・・・コサックダンスでも見たいのか」

 酔っているのか、甲板上でやりかねない。

 「少しくらいの芸はすべきでしょう」

 「何をすればいいのだ?」

 「もうすぐ。時化るはずです。ゴボウ抜きしましょう」

 「出来るのか?」

 「ええ、耐波性は最良ですよ。海図は確かでしょうな」

 「ああ・・・オランダから買ったものだ」

 戦艦シベリアは、アメリカ、イギリス、フランスの戦艦を時化を利用し、振り切った。

 シベリアは、時化で煽られるオハイオを横目に磨り抜け、

 その光景は、映像ニュースで世界中を駆け巡り、ロシア人をして歓喜させた。

 そして、北海、バルト海へ入っていく。

 レニングラードに入港したのは、1月18日。

 猜疑心の強いスターリンが感動して乗り込む戦艦となった。

 代価は、既に日本に支払われており。

 引き渡しのサインが調印されていた。

 

 

 呉

 海軍工廠

 戦艦ソビエツカヤ・シベリアの二番艦ソビエツカヤ・ウラルの建造が決まる。

 「建造は大丈夫なんだろうな?」

 「対価は、モノで払われているよ」

 「どうやらスターリンに気に入られたらしい」

 「燃料を計算して身重のモンタナとオハイオを振り切っただけだろう」

 「スターリンの遺産になりそうだな」

 「ソビエトは、日本と利害関係を一致させ、国際情勢で優位になろうとしているだけだろう」

 「ソビエト海軍は、戦艦シベリアで国際的地位を上げている」

 「おかげで日本もお金持ちだけどね」

 「空母を建造すればいいのに・・・」

 「一人前の海軍なら同型艦くらい欲しいよ」

 

 

 

 第一次世界大戦は、機関銃の脅威のため塹壕戦となり。

 第二次世界大戦は、戦車の機動力、火力、防御力で塹壕戦より機動遊撃戦になりやすかった。

 中国戦線・・・人海戦術を食い止める効果的な手法は、昔懐かしい堡塁だった。

 漢口

 北と南から押し寄せる共産軍と国民軍の双方が肉弾戦で衝突していた。

 「「「「漢口を落とすある。共産軍の力を見せるある〜!」」」」

 「「「「漢口を守るある。国民軍の橋頭堡ある〜!」」」」

 そして・・・・

 「やったある ばんざいある♪ 将官を倒したある〜♪」

 「良くやったある。自由を守った正義の士官に、この腕章を与えるある」

 「へんしんある〜♪」 腕章をつける

 「「「「「おお〜!!!!」」」」」

 「羨ましいある〜」

 「駄目だったある〜 しょぼんある〜」

 「次は、きっとやれるある〜」

 弾薬が勿体無い。

 そういう戦線が揚子江を境に広がり散発的に銃撃戦が行われていた。

 アメリカ軍陣地

 「中国軍は世界最強だよ」

 「敵将兵より小銃弾の方が惜しいのだから無敵だね」

 「何であんなにうじゃうじゃいるんだ」

 「頭いてぇ 原爆落としちまおうぜ」

 「あれ落とすと中国人の反米機運が高まって統一されるんだと」

 「政治かよ。いつも、それで将兵を犠牲にする」

 「もうちょっと戦線を縮小できたら堡塁なんか使わなくても・・・」

 「縮小どころか、チベットまで伸びそうだけどな」

 「機甲師団も人民の海に呑まれてしまうからな」

 「人民で深縦陣地なんて正気の沙汰じゃない」

 「ソ連側もそう思っているだろうよ」

 「もう、話しは付いたって?」

 「中国が南北に分割されて対立している方が都合がいいってことだろう」

 「アメリカも、パナマ運河が再建されるから、そろそろらしいよ」

 「だけど、戦略的パートナーとしてはどうかな。中国人が約束守らないと・・・」

 「だよね」

 

 

 3月5日

 「もっと、中国人を戦わせよ・・・もっと中国人を戦わせるんだ・・・がくっ!」

 スターリン 死亡

 

 

 スペイン沖

 戦艦シベリア

 日本人技術士官がロシア人将校と甲板に立って西側の艦艇を眺めていた。

 頬を赤く染めたロシア人と、なんとなく気が合う。

 なんとなく互い監視されているようで弱みを握っているのか、

 危険で面白い関係だった。

 目立つ戦艦だけあって、外洋に出るたびに西側の艦船に追いかけられた。

 シベリアは、大型輸送船と率いて潜水艦の移動補給基地のような活動をしていた。

 政治将校だけでなく、KGBの直轄支部もあって、さながら動く海洋暗躍機関。

 もっとも、目立つソ連艦隊は、威力艦隊であり、

 見せるための戦力に過ぎない。

 並走している輸送船から1900トン級ズールー航洋型潜水艦が給油を受けていた。

 派生型のズールーX型は、弾頭2基搭載戦略潜水艦の走りで、

 性能以上に脅威を西側諸国に与える事ができた。

 もっとも、ソ連海軍で航洋型艦艇は流行らない。

 艦艇の性能向上は、亡命の土産物の価値の高まりを意味し、

 ソビエト軍の政治将校は、艦艇ごと国外に亡命されることを恐れ、警戒していた。

 艦尾からカタリナ飛行艇が滑り降り、

 海面を滑空しながらスペインへと向かっていく。

 ソビエト艦隊に慣れてくると、あれも、タダのパフォーマンス。

 スペインのソ連大使館と中身のない連絡と思えた。

 そう、西側の不和をと疑心暗鬼を煽り、相互不信させるための外交政治行動。

 神経質な日本人なら胃が痛くなるような行為。

 しかし、アメリカ側も、ロシア側も斜に構え、ゲーム感覚の様にやっていた。

 「・・・ミハエル少尉。今回の作戦も、随分と監視されているね」

 「外国が優しく温かだったら、ソビエトは空中分解を起こすよ」

 「な、なるほど」

 「・・・結局、軍事力の根底に存在するのは強制された愛国心ではなく、自然な愛国心だよ」

 「恐怖によって支配される祖国からの亡命は、自然な感情ですか?」

 「ソ連は犯罪も自殺者も多い」

 「内政の不満を外敵によって支えている」

 「戦前戦中の日本も多かったですよ」

 「戦後直後は、空中分解を起こしかけましたがね」

 「まぁ 西側が攻めてくる分には困らんがね」

 「それほど新型戦車に自信がお有りで?」

 「新型戦車? あはは・・・ ソビエト最強の戦力は、戦車じゃない」

 「・・・では、戦術爆撃?」

 「まさか。無敵の冬将軍と督戦隊、囚人部隊さ」

 「西側諸国の高度な兵站も、物量戦略も、督戦隊と囚人部隊の突撃には、泣きべそかくしかないだろう」

 「な、なるほど」

 「・・・二番艦ウラルの建造は、あるかもしれないがね」

 「同志スターリンが亡くなったから機動部隊は厳しいだろうな」

 「やはり、陸上兵器が優先ですか?」

 「まぁ 世界最大の国土の割に兵力は少ないからね」

 「ですがソ連は、自給自足できる十分な国土がありますよ」

 「ふん、目先の穀物生産に追われて、土地を痩せさせているだけだ」

 「本当に?」

 「農業を理解している官僚が戦艦に乗り」

 「農業を知らない官僚が農業政策をやっているとしか思えんね」

 「面白い現象ですな」

 「将来、日本から、食料を輸入するようになったら、笑えんよ」

 「生産性低下は、私有財産が認められないためと思っていましたが」

 「ほかにも理由があるようで・・・」

 「共産党の世襲官僚制は国力を消耗させる」

 「日本は飢餓と引き換えに軍官僚の世襲を破壊できた。良かったな」

 「当時は、軍部が農業用の肥料、燃料、流通を滞らせて酷かったですから」

 「犠牲者の数を思えば、不幸中の幸いと言えませんね」

 「日本の軍官僚とソ連の共産党官僚。国庫を食い潰す事にかけては同類だな」

 「なるほど」

 スターリンが死んで気が緩んでいるのか、危険な話しをしたりもする。

 シベリアの機関は、時々、問題があると呼ばれるだけで深刻なものはなかった。

 逆にソ連製艦艇の故障で悩まされ、足手まといだったりする。

 ロシア人は、感覚的におおらかであり、感情的でなく理知的。

 そのくせ、ケンチャナに近い大雑把さがあった。

 日本人にも大雑把な人間はいる。

 しかし、ロシア人は、桁違いで艦隊勤務に向かない気質と言えた。

 

 

 7月27日 中国で停戦が成立。

 国境線は、中立河川の揚子江となり、

 双方の軍関係者が実地に国境線を確認していく。

 米英戦艦の南岸半径35kmの領有が承認される。

 揚子江より北側が共産主義体制となり、南側が資本主義体制となった。

 もっとも、中身は、どちらも強圧的な独裁国家に過ぎず。

 主義思想は体制維持の口実でしかなかった。

 そして、中国の南北分断を喜んだのは、アメリカであり、ソ連であり、日本といえた。

 書かれた借用書は、主義思想に関係なく南北中国経済を悪化させ、

 生活苦で暴動を起こそうとする中国人民を権力側がアヘンと軍事力で抑え込んでいく。

 

 

 中華合衆国

 アメリカ合衆国は、蒋介石国民党をアジアの代理人にしたてようと画策しようとしていた。

 アメリカ政府は、戦前、戦中、戦後も、そのつもりだった。

 しかし、現場の状況がアメリカ本国に伝わるにつれ、幻想が破壊されてしまう。

 アメリカ人の中国人に対するイメージも悪化し、悪い形で定着してしまう。

 そう、アメリカは、アジアの代理人を失いつつあり、

 膨大な投資を浪費をした現実に直面する。

 救いがあるとすれば、利権が揚子江に沿って存在することだった。

 戦艦ニュー・ヨーク、テキサス、ペンシルヴァニア、ネヴァダ。

 そして、イギリスの揚子江利権。

 戦艦ネルソン、ロドニー、クイーン・エリザベス、ウォースパイト、

 ヴァリアント、マラヤ、リヴェンジ。レナウンとも連携できた。

 ソ連が中黄連邦の鉄道を利権を手中にし。

 米英も中華合衆国の鉄道利権を手中に収めていた。

 欧米諸諸国のアジアに対する食指は、中国内戦終結(1953年)で、終息してしまう。

 それは、ロシア・ソ連のネルチンスク条約(1689年)から264年

 イギリスのアヘン戦争(1840年)から114年

 列強か介入した義和団の乱(1900年)から53年。

 列強の中国覇権戦争は、米英ソの利権分割で定まってしまう。

 

 

 9月16日 パナマ運河再建

 太平洋と大西洋の海抜差の潮流を利用した発電型ダムとなり、

 閘門の通過幅は100mに拡大する。

 発電は運河の電力をまかない維持費を軽減させていた。

 慌てたのは日本の朝野であり、

 アメリカの軍事力の矛先が日本に向けられると予想し動揺する。

 帝国議会

 「アメリカは、パナマ運河を再建して太平洋艦隊を増強している」

 「日本は危機に晒されているのでは?」

 「ソビエトは、満州と朝鮮半島で国力を付けていますし」

 「極東の米ソ勢力は変化がないと思われます」

 「日本がソ連と結べば、アメリカを余計に挑発するのでは?」

 「いや、ここはアメリカと融和的な交渉を行って、アメリカの反日感情を押さえるべきかと」

 「それでは、ソ連との関係が悪化する」

 「そういったどっちつかずは、米ソ両国に対し、不信感を抱かせるのでは?」

 「反共親露政策は、そういう政策ですよ」

 「日本は資源がない。そういった外交姿勢は危険では?」

 「中国が分断されたとはいえ、日本は、米ソに挟撃されているのですよ」

 「寄らば大樹は搾取されるだけです」

 「米ソ間で、バランスはとるべきでしょう」

 「パナマ運河の規模拡大に伴い、日本の国防を、どう、お考えで?」

 「潜水艦の通商破壊と地下要塞の内陸戦で撃退できると思われます」

 「国民の安全は?」

 「内陸部の開発は進んでいます」

 「戦争被害による経済的損失をどうお考えで?」

 「どういった戦争であっても、戦争になれば経済的損失は免れません」

 「国民生活を守るため、外洋で戦うべきではありませんか?」

 「軍事費を増大させればアメリカ艦隊の上陸作戦を未然に防ぐことができるかもしれませんが」

 「・・・・」

 軍国時代の嫌悪感は強かった。

 日本とソ連の間は、さらに友好的になりアメリカを警戒させてしまう。

 この悪循環は、謀略とか、工作などで断ち切られ、

 日米間の交易も微妙に増大していく。

 これは、中国合衆国が信頼できない事が大きかった。

 太平洋のアメリカ海軍基地は真珠湾、ポナペ島でとどまってしまう。

 南京、広州、バンドンは、駐留基地で恒久的な基地といえなかった。

 これは、移民できる日本人と、

 軍レベル、商用レベルの進出しかできないアメリカ資本の限界でもあった。

 国内に余剰地の多いアメリカ合衆国と、

 余剰地が少ない日本の違いともいえた。

 そして、この時期、日本の優柔不断な外交政策は、米ソ外交政策の干渉を防いだ。

 つまり

 アメリカの外交政策は “日ソを戦わせよ” であり

 ソ連の外交政策は “日米を戦わせよ” だった。

 

 

 

 大慶油田発見

 極東ソビエトは、満州・朝鮮半島の潜在的な可能性に引き摺られ、

 開発が進められていた。

 町並みはロシア風に作り替えられ、ロシア人の入植が進んでいく。

 州都平城は満州から大豆、トウモロコシ、資源、キャビアが流れ込み。

 半島南岸からも日本製品が流れ込んでいた。

 ソ連の高官たち

 「日本に武器弾薬や資源を売却するのは、危険では?」

 「日本が購入しているミグ15もミグ17も迎撃機だ」

 「それに旧式戦車や軽戦車ばかりで恐れることはない」

 「しかし、日本の国力は大きくなっています」

 「日本の国防は、内陸防衛に向いている。むかしとは違うよ」

 「大慶油田の重油を日本に売れば、日本の国力が増強してしまうのでは?」

 「だが誰でも温暖な都会に住みたがるし」

 「日本から購入する商品でロシア人の流入を増やせる」

 「では、日本を気にすることはないと?」

 「脅威は、むしろ、地続きの中黄連邦の方だろうな」

 「中黄連邦は、南の中華合衆国と対峙しているので、こちらに向ける戦力はないのでは?」

 「そう追い込んだがね」

 「ソ連の満州朝鮮併合は、中国の赤化統一の足かせになっている」

 「中黄連邦は、大陸赤化のため満州の回復を考えるだろう」

 「しかし、ソビエト連邦は、それを望まないというわけだ」

 「現状で日本との敵対は、好ましくないということですね」

 「満州と朝鮮を合わせた州は年月さえかければ、日本の国力を上回る」

 「現状維持でもソビエト有利です」

 「まぁ 失策待ちだな。中国人は人間不信で利己主義」

 「日本人は軽挙妄動で短慮暴発しやすい」

 「日露戦争の場合もあります」

 「日本人の暴発がソビエトのプラスに働くとは限りませんよ」

 「それはいえる」

 

 

 国際連合

 中国内戦が終わると、中国の代表権が問題になってくる。

 そして、もう一つ、重要な未加盟国が、存在した。

 日本連邦をどうするかだった。

 「日本を国際連合に加盟させるべきだと思うが?」

 「気が進まないだけで誰も反対せんよ」

 「日本は何と?」

 「常任理事国の椅子だよ。欲しがっている」

 「「「「・・・・」」」」

 アメリカとソビエトは、日本を取り込み味方にしたがり。

 国際連合加盟に反対していない。

 むしろ賛成。

 もっとも、常任理事国入りは、消極的に反対する。

 敵国条項から外すくらいは、何ともなかった。

 しかし、常任理事国は、まずいと、どこも考える。

 しかし、なのである。

 米ソに属していない日本は、地理的な要因と潜在的可能性で大き過ぎた。

 「中国の代表は?」

 「北だよ」

 「「「「南だ!」」」」

 ソ連は、国際外交政治で分が悪いと分かると拒否権を出すことができた。

 そして、ソビエト本国からソ連代表に電報が届く。

 「ソビエト連邦は、正式に日本の国際連合加盟と常任理事国入りを要求する」

 「「「「・・・・」」」」

 国際外交上、

 日本の存在は、中立勢力。

 バランサーとして有用だと客観的に理解されていた。

 しかし、それと国益とは別の話しだった。

 

 

 土建屋たちの晩餐

 純粋な国防費は列強でも最弱だった。

 しかし、施設分を加算すれば、日本本土の防衛力は、高いと言える。

 幸運だったのは中国内戦でアメリカ軍が消耗してしまったこと。

 アメリカとイギリスは、揚子江に埋め立てた戦艦の利権を承認させるため、

 日本の利権を追認しなければならなかったこと。

 そして、大陸権益維持のため、日本の協力を持続的に必要としたことだった。

 国際情勢の変化に伴い、

 日本の利権は保障され、安全は、確保されていく。

 「遼東半島と香港島から流れ込む武器弾薬の量は多いらしい」

 「ソ連製は正式採用兵器だからいいとして、香港のアメリカ製はどうしたらいいんだ?」

 「買うからだろう」

 「いや、正規のルートで買うより安いから・・・」

 「あれだけあると、国土防衛は、楽なんじゃないか」

 「中国軍の横流しは良いとして、ソ連正規軍の横流しってどうなの?」

 「給与が足りないんじゃない。兵力を4倍に増やせるらしいよ」

 「給与を払えるくらいに兵隊を減らせばいいのに」

 「膨張主義を捨てたら兵隊を減らすしかないからね」

 「減らせなければ国民を恐喝しかないし」

 「むかしの日本軍と同じだろう」

 「二等兵なんか、子供作れないどころか、結婚もできん」

 「身の丈超えた軍事力は、生き地獄だからね」

 「今度は、身の丈を越えた公共設備で生き地獄かな」

 「資源は増大。産業も市場も拡大して就業率も高い」

 「せいぜい、生殺しくらいでしょう」

 「人手をサービス業や製造業に回せるように農業機械がもっと欲しいね」

 「漁船も改良すべきだろう」

 「ソ連が食料難になるというのは、本当なのか?」

 「ソ連の国土の大きさから、にわかに信じられないけど」

 「いや、ソ連で飢餓は起きているらしいけど、それは、外国製品を買うためだったし」

 「ぅ・・それ、日本もだよ」

 「労働者を酷使した金を軍事費に注ぎ込んだからね」

 「今度は鉄道を伸ばさないと」

 「反共親露は良かったね。国策の反動で組合潰せたし」

 「でも、やり過ぎると、また怖い事になるよ」

 「命からがら逃げ出した主戦派もいたし」

 「人間、老いも、若きも、麻痺すると死ぬ思いするまで突っ走るからね」

 「一度、暴徒になって殺戮と略奪やった人間は、またやるよ」

 「俺らも、逃亡用の別荘をボルネオに用意しとこう」

 「うんうん」

 

  

 

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 月夜裏 野々香です。

 戦記の戦後は、軍事経済でソ連に近いため、

 史実のような高度な発展はなく、質より量でしょうか。

 代替地が多いので、区画整理は、史実よりいいかもです。

 自動車産業はトラック、商用車中心が史実より長く続いて遅れそうです。

 農地改革が進み、人口当たりの領土が大きくなっているので、富農が増えているようです。

 さらに農地転売で経済は活性化。

 犯罪は、戦後の貧しさを動機としたものから脱却。

 暴徒の略奪の復讐とか、私憤とか多いかもです。

 

 因みに史実では1ドル360円。

 この戦記では、負けてないので、変動為替相場です。

 この年、1ドル、320円くらいです。

 

 

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