月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第13話 1954年 『ファジィやけん』

 ソ連の日本の国連加盟要求と常任理事国推薦。

 そして、どちらが求めるでもなく “天皇の人間宣言” は、対。必然性といえた。

 国際的に孤立しているのならともかく。

 国際的に開かれている国家として現人神は、不都合極まりなかった。

 それだけの話しと言える。

 

 

 中国大陸は、内戦の結果、

 中黄連邦と中華合衆国に二つに分離独立。アジア太平洋で冷戦が始まる。

 揚子江に埋め立てられた米英12隻の戦艦群は、対中黄連邦の矢面に立たされる。

 埋め立てられた12隻の戦艦は、国家として承認されていた。

 中華合衆国側に対し、戦艦を中心にした半径20km圏は、米英利権の象徴となった。

 そして、米英の利権だけでなかった。

 中立地帯を国際河川としたため、

 日本、ソ連、華僑の船舶が行き交う華やかな国際外交の舞台ともなる。

 戦艦ニューヨーク 艦橋

 「まったく蒸し暑い場所に埋め立てたものだ」

 「漢口は、上海、重慶と並んで三大ストーブだそうです」

 「サウナの間違いだろう。白人に辛い場所だな」

 「上層部は地図を見て喜んでいるだけでしょうけどね」

 「机上の空論か。現場のわからん、馬鹿どもが」

 「エアコンを入れるそうですから、少しは考えているのかもしれませんが」

 「エアコンは熱を外に出すんだ」

 「つまり、外がますます蒸し暑くなるということだな」

 「たしかに・・・」

 「日本が地下を掘って湿気を外に出している方法が一番良さそうだ」

 「また真似するんですか?」

 「戦艦の埋め立ては、補給さえ続けば悪くないだろうよ」

 「どちらにせよ。外に出ると蒸し暑いということですかね」

 「成功して欲しいやら、失敗して欲しいやら、複雑だな」

 「我々の代理人が稼いでくれれば良いのですが・・」

 「一番稼いでいるのは日本人かもしれません、日本製品が流れ込んでます」

 「利幅を稼ぐなら日本製品を購入して、ここで売る方が儲かるよ」

 「日本人に発電所と上下水施設を作らせるそうです」

 「中国に電気と水道を依存するのは危険だからね」

 「中国に電力と水道を売って利益にするのでは?」

 「その方が利益になるし、日本企業に任せた方が早い」

 「本国の建設会社は採算面で来たがらない」

 「米英で日本の中国権益を奪ったとたん」

 「その権益を守るため日本に利するのですから皮肉ですかね」

 「世の中っていうのは、そういうものだ」

 「大陸が赤化統一されるより揚子江の河川経済は潤っているよ」

 埋め立てられ鉄筋コンクリートで覆われた戦艦。

 洋上を疾駆していた頃の面影はなかった。

 アメリカも、イギリスも、戦艦を中心に領土と権益圏が定められていた。

 国境線に沿って鉄筋コンクリートの壁と堀が作られ中国領と遮断され、

 壁の内側に街が建設されていく。

 住人は、インド人、黒人、台湾人、フィリピン人、少数民族などが多く、

 白人と漢民族は少なかった。

 そして、揚子江の権益を存続させるため、

 日本人、ロシア人も増えたりする。

 アメリカとイギリスの利権は、収入と建設費・維持費の差額で利潤を得る足場に過ぎなかった。

 突き詰めると大家・地主・管理人でしかない。

 

 中国官僚たち

 「石炭収益で愛人3人ある」

 「鉄鉱石収益で、曜日別の愛人7人ある。毎日大変ある」

 「住宅建設で国の予算をピンハネし、建設業の贈収賄で儲けて、住民からの家賃で儲けるある」

 「あと道路建設、電気、水道の贈収賄でも儲けられるある」

 「北と南の情報を交換して、また儲けるある」

 「武器と機密の横流しも良いある。日本人、買ってくれるある」

 「それでまた住宅建設ある」

 「それ、とても良いある」

 「規制をもっといっぱい作って贈収賄ある」

 「でも五月蠅いのがいるある」

 「どんな奴ある?」

 「まじめな奴ある」

 「そいつにアヘンを送って冤罪で失脚ある」

 「中国官僚は世界最強無敵ある〜♪」

 「問題は、預ける場所ある。心配ある」

 「中国人の銀行は駄目ある。信用できないある」

 「やっぱり、金、宝石で持つか、アメリカ人、イギリス人、日本人の銀行ある」

 私腹を肥やした資金は、南ばかりではなく、北からも入ってくる。

 

 

 

 北大西洋上

 戦艦シベリア 艦橋

 「提督。北西220kmでアメリカ空母ミッドウェー級、ほか12隻を視認したそうです」

 「うむ、ご苦労なことだ」

 「ついて来る気でしょうか」

 「本命の工作は商船でやるのが分かっていても、ついて来るだろうな」

 「おかげで、世界赤化の工作が進みますね」

 「世界赤化か・・・」

 「欲に目が眩んだ世界より良いかと」

 「人間に欲望がなければ良かろうがね」

 「欲に目が眩めば、共産主義者でも買収されますからね」

 「人を殺す武器を売っても食べられないけどな」

 「武器と交換に食料を得て、武器で人が死ねば、その分、食い扶持が増え、餓死しなくていいですよ」

 「人口調整能力なら武器より自動車の方が上だろう」

 「産業を拡大して富を集約している日本は、貧富で人口を抑制していますよ」

 「生活を豊かにしたいのならそうなるだろうな」

 

 

海龍型 潜水艦 (改龍号)
排水量 全長×全幅×吃水 ディーゼル・モーター 航続力 速力 魚雷 本数 深度
水上 3500 122×12×7 5000 32000 16 8/4 30 200
水中 6500 8000 340 20

 呉海軍工廠

 赤レンガの住人たち

 「トン数を減らして数を揃えた方が良いような気もするが・・・」

 「6500トンを半分の3200トンにしたからって、予算上は倍の120隻にならないよ」

 「せいぜい60隻が80隻になる程度か。それなら個艦性能で余裕がある方が良い」

 「蓄電池を増やして、もっと航続力を減らしても良いような気がする」

 「でも、通商破壊能力が高ければ、アメリカ太平洋艦隊を散らせる」

 「しかし、製造費が、また上がったな」

 「品質を上げようとすると、製造費が上がるよ」

 「道理だな」

 「潜水母艦の方は?」

 「島の潜水艦基地を拡充する方が先決じゃないか」

 「掃海艇を優先したいね」

 「ソ連の潜水艦しだいだよ」

 「ソ連海軍は、数で勝負している。潜水艦運用の定石だな」

 「潜水艦は高価だ。数を建造すると返って割高になって財政破綻するよ」

 「粗製濫造になりそうではある」

 「大綱の60隻を最大公約数で建造すべきだろう」

 「戦時中みたいに人件費が払えなくなると悲惨だからね」

 「軍人が自殺したり、犯罪したり・・・酷かったよ」

 「携行兵器が安く手に入っているせいで、随分、助かるけどね」

 「横流し品で正規装備を賄うなよ。情けない」

 「電装品も横流しで入ってくるよ」

 「やっぱり、ソ連製で良かったよ」

 「安かろう悪かろうで、演習用の実弾は事欠かないよ」

 「しかし・・・練習しても着弾偏差が酷過ぎて、どうかと思うよ」

 「だいたい、当たればいいと思うよ」

 「ていうか、だいたい、当たらないから問題にしているんだよ」

 「突撃銃なんて、そんなもんだよ。99式じゃあるまいし」

 「国内メーカーは、もっと精度の良い突撃銃を作れるらしいよ」

 「同じ値段じゃ作れないだろう。買った方が安い。横流し品はもっと安い」

 「その銃に命を預ける兵隊は嬉しくて、泣きたくなるだろうがね」

 「銃が微妙でも、戦友が増える方が嬉しいに決まってる」

 「まぁ 狙撃がしたいのなら99式を使えばいいだろう。まだ、いっぱい残ってる」

 

 

 トラック環礁

 戦後7年、爆撃の後遺症は薄れ、木々は回復していた。

 「機長。予定通り、3番滑走路へ着陸だそうです」

 「ちっ 3番滑走路以降は、迷彩色で紛らわしい」

 「滑走路まで迷彩は、まずいのでは?」

 「戦時中、トラックが一番やられたから、その反動だろう」

 「交替要員の往復が順調なら基地は大きくできだろうけどね」

 大型4発輸送機が着陸する。

 2500馬力×4 自重20000kg 最大重量40000kg 

 全長30m×全幅40m×全高9m 翼面積160u

 最高速度500km 航続力9000km。

 戦後、残された高性能工作機械は、民需に転用されていた。

 生産の多くは精度の低い工作機械でも支障のない造船、土木建設、民需品に集中していた。

 ようやく、余裕が生まれ、

 最初に開発された航空機は、4発輸送機 「白鳳」 だった。

 軍も、高性能兵器より、器となる基地建設に集中。

 トラック環礁に修復用乾ドックと潜水艦用基地が建設されていた。

 全長230m×全幅30m 2基。

 ブンカー 全長200m×全幅200m 潜水艦10隻。

 「巡洋艦クラスの修復も可能か・・・」

 「ポナペ島に近いのにまずくありませんか?」

 「構うもんか、ポナペ基地は、もっと凄いらしい」

 「グアムを返還しなくて良かったのが幸いですよ」

 「人口が減れば、賠償金くらい払えるだろう」

 「それに返還すると揚子江の利権まで怪しくなる」

 「ですが基地を拡充しても艦隊が縮小では寂しい気がします」

 「基地が難攻不落の要塞であれば、艦隊はいらんよ」

 「原爆の直撃を受けるとまずいと思うぞ」

 「原爆を使えば、原爆による報復を受けても良いということだよ」

 「日本に原爆がないのが悲しいな」

 「予算ないよ」

 「穴掘りに使うからだ」

 「産業の裾野が広がっているのに、まともな工作機械がないからだよ」

 

 

 巡洋艦古鷹、加古、青葉、衣笠。吹雪型駆逐艦6隻が浮かんでいた。

 古鷹の艦齢は28年、二線級となった軍艦の練度を維持するための訓練ばかり。

 対空・対潜装備ばかり更新されていた。

 古鷹 艦橋

 「次期主力艦は、大淀クラスだそうだ」

 「随分とこじんまりしてしまいますね」

 「まだ、仕様で荒れているけどね」

 「スチームタービン、ガスタービン、ディーゼルのどれにするか、もめているとか」

 「いや、艦型すらまとまっていないかもしれん」

 「それと特性があるから機関派閥もあるだろうね」

 「ガスタービンは強いのでは?」

 「強いけど、燃料費がね・・・金持ちじゃないと維持できない」

 「ディーゼルは、経済的ですけどね」

 「弱いし振動と騒音がな。対潜で不利だし」

 「スチームが一番安定しているわけですか」

 「一番古いから、わかりやすい」

 

 

 

 日本のトーチカは、いくつかの種類があった。

 地下に格納されエレベーター式にせり上がるもの。

 山岳からせり出すもの。

 地表で砲塔と砲身が偽装されているもの。

 対空対地両用60口径155mm砲は射程24000m以上を誇った。

 砲塔は、203mm砲弾の直撃でも破壊されず。

 地の利を生かした台地と山岳地に配置され、

 山道や要衝を射程内に押さえていた。

 樺太に新装備が陸揚げされてくる。

 赤レンガの住人たち

 「全長10m。全幅2.50m。4輪駆動240馬力。アルミ製モノコック構造」

 「寒冷地対応。海外にも売れている」

 「ディーゼルなのに意外に静かだな」

 「大戦中の反省で、静粛性重視だよ」

 「実に素晴らしいね」

 「起伏が大きく雪が積もるから装輪式より、装軌式の方が良いのに・・・」

 「民生用を改良しただけだろう」

 「流行の装甲兵員輸送車ぽく、窓を塞いでるだけじゃないか」

 「温かいのだけは良いけどね」

 「戦車がないと心が寒いんですよ」

 「んん、軍用バスでは士気が上がらないな」

 「だいたい、歩兵携帯装備ばかりだと軍隊っぽくないよ。夢も希望もないって感じだな」

 「そうそう、モラル保つのって、見栄えだよね」

 「やっぱり、良い人材を揃えようと思えば国産戦車だよ。志願兵も増えるし」

 「キャタピラは土木建設機械に取られてるよ」

 「それはいいとして、雪が積もるから6輪とか、8輪にして欲しいね」

 「装甲車じゃあるまいし。軍用バスなんだから」

 「そういえば、ソ連がBTR152を売りたがってるよ」

 「流行りの装甲兵員輸送車か・・・あれでも良いよな」

 「いま、各国で開発してるから日本も自主開発したいね」

 「それより、四式小型貨物車。あれもっと何とかして欲しいよ。かっこ悪い」

 「そうそう、屋根がないと寒いし」

 「ソ連の方が寒冷対策が進んでるかも」

 「国産が良いよ」

 「でもソ連から買うと戦争が遠のくよ。お客と戦争したがるやつはいない」

 「アメリカからもっと買うべきじゃないの」

 「アメリカ製は、高いから重要度の高い工業機械が多い」

 「最近、買える工業製品のレベルが上がったらしいよ」

 「揚子江の利権を守るために妥協したんじゃないの。良い傾向だね」

 「それより、水上艦艇は、どうするって?」

 「んん・・・ソ連の発注次第だろうね」

 「良いのか?」

 「日本製が欧州・地中海・北海配備。ソ連製がアジア・太平洋配備だろう」

 「ソ連製が太平洋なら何とかなりそうだ」

 「そこまで酷くないだろう」

 「発注が止まった時が恐ろしいよ」

 「レーダーで負けているからね。ソナーでも」

 「中型艦を建造しても、レーダー、ソナーはアメリカの小型艦と同じレベルか」

 「沈めてくれと言ってるようなものだな」

 「じゃ 大型艦を・・・」

 「ソ連の発注次第だろう。それに大型艦は、数作れないよ」

 「じゃ・・・」

 

 

 

 ワシントン

 アメリカは、アジアの拠点、中華合衆国の権益を維持するため日本、ソ連と妥協していた。

 「揚子江での損益収支は?」

 「捨てたのは旧式戦艦ですし」

 「揚子江の権益さえ確保すれば、中国官僚は保身で金を預けると思われます」

 「休戦ラインなら、治外法権も得やすい。需要もある」

 「問題は、中華合衆国が民主主義的でないことだろう。なんで、あんなに抑圧的なの?」

 「トップが世襲でないだけで本質は、歴代王朝と変わらないな」

 「あそこは・・・自由と共産。冷戦の象徴となり難いよ」

 「そうそう、権威不自由階級制だし」

 「あそこまで底抜けに国庫食い潰されると手の施しようがないよ」

 「科挙制が悪いんじゃないか。特権意識の強いエリートが交替で利権を分け合っている」

 「政府と財界で短く大きく稼ぐアメリカが良いとは限らないのでは?」

 「結果的にアメリカ社会が中国社会よりマシなら、制度的にマシということだよ」

 「製造した兵器と武器弾薬を輸出しないと資金回収で困難になり、軍産複合体がむくれる」

 「産業を大きくし過ぎたんだ。軍を縮小した方が良いよ」

 「でも一度、利権を手にすると増長したがるし、退職するまでやりたがるから」

 「冷戦は、軍産複合体を維持するのに好都合だからね。集票にもなるし」

 「それには、共産主義の脅威だけじゃなく」

 「核の恐怖を向け合うくらいじゃないと支持を得られないよ」

 「危ない橋だな。制御不能で軍が暴走すると日本の二の舞だよ」

 「共和党と民主党は支持基盤が違うから政権交代で打ち消し合うと思うよ」

 「それに大統領権限で官僚なんて飛ばせるし」

 「じゃ 大丈夫ということで・・・」

 「米ソのどちらとも組みしてない日本も気になるね」

 「軍事的側面は気にしなくていいと思うよ。陸海空軍で手抜きだし」

 「地下施設は、増殖中だよ。地下40m以下を自由に広げてる」

 「軍の地下施設は、それほどでもない」

 「ほとんどは民間の交通とか、物流の施設じゃないの」

 「だから、戦争になれば、軍民の地下施設を合わせて使うんだよ」

 「戦車で地表を押さえても、地下は、日本側が有利に戦えるのか・・・」

 「戦車は下部装甲と上部装甲が弱いよ」

 「たいした技術じゃなくても、要塞砲に狙われたら、お終い」

 「それに地下にトーチカを作られたら航空機、砲兵、戦車の支援を受けられない歩兵なんて・・・」

 「通商破壊で絞め上げれば」

 「日本は、海底トンネルでソ連と連結するつもりだよ」

 「それに人口が減っているんだから絞め上げるの無理だろうな」

 「逆に日本の潜水艦部隊に上陸部隊が絞め上げられるよ」

 「んん・・・日本人に辛い現実を認めたがらない民族主義者や軍国主義者はいないのか」

 「軍国主義者は一掃されましたから」

 「もう真珠湾に突撃かますような単細胞は、いないでしょうな」

 「我々は、闘牛士のように日本を追い詰め、翻弄し、いたぶり、勢力を削ぎ落しながら止めを刺すはずだった」

 「しかし、トラック攻防戦以降、闘牛にされたのは、我々の方だったかもしれないな」

 「ミッドウェー海戦で痛手を受けた闘牛が間合いを保った、ということでしょうね」

 「今度は、日本列島そのものを使った深縦陣地か・・・」

 「上陸する軍隊は、馬鹿を見ます。ソ連にやってもらいたいものです」

 「ソ連も、そう思っているだろうよ」

 「もちろん、アメリカに上陸してもらいたいと・・・」

 

 

 

 松代大本営は、戦中に完成していた。

 その後、トラック、ビアクへの原爆投下に触発され、より深く、より広く拡張を続けていく。

 山に囲まれ、四方の山にも地下道が伸びていく。

 当時、働いていたのは、日本人3000人、朝鮮人7000人。

 機密上は守られないと思われたが、戦後の飢餓で秘密を知る者が減少。

 国際情勢の変化も加えて神経質になる事もなくなる。

 単純に拡張を続ければ、原爆であろうとトールボーイであろうと、

 運次第で身を守ることができた。

 政策誘導と積極財政で国家予算が地下掘削技術を向上させ、

 シールド工法を一般化させてしまう。

 とはいえ、シールド工法技術は、それほど新しい技術といえない。

 1818年、イギリスで発案され。

 1825年、テムズ川水底トンネル建設で採用。

 1917年、日本でも、羽越本線折渡トンネル建設で採用されていた。

 もっとも、技術を向上させ、

 より洗練されたモノにするため予算を投じなければならず。

 戦後日本は、国家予算をカンフル剤のように注ぎ込み成果をあげていた。

 無駄と浪費で無理やり掘削技術を押し倒すがごとく、向上させてしまう。

 積極財政の経済政策の良し悪しは、ともかく、

 日本の国力では、欧米財閥の資本金程度の国家予算しか絞り出せない。

 富裕層は、蓄財に精を出し。

 特権階級は、働き以上の賃金と年金を求め始め採算性が低下していく。

 戦後の悲劇も、ここでプラスに働く。

 土建族は、少しばかりの気遣いと遠慮を見せた結果、

 経済波及効果で再生産性が高くなった。

 そして、松代を臨む山岳標高600mの山裾。

 「随分と掘削機械が増えたじゃないか」

 「機械が進むと犠牲者も減って、作業効率が向上していくよ」

 「周りの山は?」

 「掘削は進めているよ」

 「松代のほかに5ヵ所に仮本営を建設するって?」

 「北海道に一つ、本州に四つ、四国に一つ、九州に一つ、カムチャッカ半島に二つ」

 「多いな。クーデタの拠点にされたらどうするんだ?」

 「結局、主幹線路は民間主導」

 「民と軍の地下面積比は100対1。防衛拠点といえど支線だから孤立してしまう」

 「外国軍を引き入れて、クーデターを起こされても長くはもたないか」

 「基本的に内陸側に防衛拠点が置かれているからね」

 「海路と空路で補給路を確保できない限り、無理かな」

 「だけど、相当な規模になりそうだ」

 「これだけ金を掛けて、建設しているのだから攻めてきて欲しいよ」

 「侵攻軍側でシミュレーションをやったけど、萎えたよ」

 「そりゃ 守る側は、地下に対人装甲砲台を配置できるからね」

 「攻める方は、泣きたくなるだろうよ」

 「だけど、対地上戦でも悪くない」

 「ミグは迎撃機で良い機体だよ」

 「対地ロケットサイロも、要塞砲台もそれなりに役に立ちそうだし」

 「地下戦闘とか、潜水艦とか、地味なのがいやだよ」

 「国防費をケチるからだ」

 「しょうがないよ」

 「一度、国民に見限られた軍部は、国民巻き込み型防衛で意識してもらわないと・・・」

 

 

 インドネシア連邦 ボルネオ州

 日本人の移民が増えるに従って、税収が増大していく。

 当初、農業、採掘など第一次産業から製造業、商業へと職種も広がり、

 所得は急速に伸びていた。

 インドネシア連邦の税収の半分がボルネオ州から得ており、

 他州に比べ、成長率も群を抜いていた。

 いかなる世界でも、一旦既成事実を作ってしまうと金の力は強かった。

 キナバル山 (標高4101m) 山麓は避暑地として路線と飛行場が整備され、

 人口も増えていく。

 「インドネシア連邦の地域格差が広がっているが、大丈夫だろうか?」

 「最下位だったボルネオ島が他州をゴボウ抜きですからね」

 「独立時の中心メンバーはジャワ人ですからね。面白くないでしょう」

 「別荘を与えているよ。たぶん、こっちに本拠地を移すかもしれないな」

 「ついでにボルネオ島に遷都もありでしょう」

 「スマトラとジャワに権益を持つアメリカは嫌がるだろう。足を引っ張ろうとしている」

 「いい加減、日本と共闘しても良いのに・・・」

 「反共親露政策だと、一線を引きたくなるのだろう」

 「どうでしょう。国際情勢も権謀術数ですから。出る杭は打たれると思いますよ」

 「日本は、出る杭か・・・」

 「アメリカがスマトラ、ジャワで搾取政策を継続する限り」

 「ボルネオ州との格差は広がり続けるでしょう」

 「セレベス州の成長率は、いま一つだがね」

 「日本人の移民が進んでいませんから」

 「結局、人が石垣か」

 「アメリカ人は、スマトラ州とジャワ州を経済植民地としか考えていない」

 「第一次産業どまりだろうね」

 「同じ経済植民地でも、人種的に南米諸国より分が悪そうだ」

 「白人は、有色人種を人間扱いしない時があるからな」

 「アメリカ資本がフィリピンに取り付いてアメリカ軍を進駐させているのが気になる」

 「フィリピンは英語圏だから日本より有利だよ」

 「スマトラとジャワも英語圏にしたがっている」

 「日本もボルネオとセレベスを日本語圏にしたがっているよ」

 「人口比次第かな」

 「日本人の方が裕福だから、日系人の人口比は大きくなる傾向にある」

 「日本からの移民が減っているのが問題だけどね」

 「それでも主戦派軍属のほとんどが、こっちに逃げてきたから、日本人が一番多いよ」

 「他州からの流入が増えているから、いつまで持つやら」

 「人口が増えれば収入が増えて悪くないよ」

 「ますますボルネオ州が強くなっていくな」

 「だと良いけどね」

 

 

 

 土建族たちの晩餐

 税金で吸い上げた予算で法整備を行いつつ、

 特定の産業に投資、経済活性化の呼び水にする。

 短期、長期、業種などいろいろあるものの、

 政府誘導の積極財政がケインズ経済学の骨子だった。

 過去において日本軍属。

 現在においては土建族。

 政官財が癒着、国家ぐるみで巨大な利権体制が構築されていく。

 「せっかく農地解放で膨らんだ社会資本をがめつく集め過ぎるのは、不自然過ぎると思うよ」

 「だけど、高く買ってくれるところに売るだろう」

 「政府の後押しで免税があれば、高確率だし」

 「そうそう、国家予算を足せば、産業で弾みがつくし」

 「しかし、日本は、化学技術で負けている」

 「その差を埋めることも必要だろう」

 「どうかな。地下空間の床面積が広がっていけば、爆撃は怖くないし、海上封鎖でも耐えやすい」

 「とりあえず。我々が場所を広げなければ、そういった投資も進むのではないか?」

 「それはそうだが自制するところは自制しないと」

 「今度は、我々 土建屋がボルネオ島行きだぞ」

 「ボルネオ島にも足場はあるよ」

 「まぁ 掛け捨て軍事保険より寿命が長いと思うよ」

 「鉄筋コンクリートの寿命か?」

 「採算が取れれば、何とかなるよ。人口も増加傾向だし」

 「だと良いけどね」

 

 

  

 

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 月夜裏 野々香です。

 中国内戦が終わったものの、

 中国南北問題は、東西冷戦の象徴として微妙だったりする。

 色違いの服を着た双子のようなもので、

 格差が生まれるのは、もう少し先になりそう。

 日本は、国防で内陸に引き籠りです。

 

 

 ファジィ集合論

 1965年 ロトフィ・ザデーが提唱。

 境界が曖昧な集合(ファジィ集合)

 欧米で認知される以前から日本はファジィな存在のようなところがありです。

 この “NO” と言えない気質が、どうなっていくのやら・・・

 

 

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