月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第14話 1955年 『理想と現実』

 東西冷戦の狭間、どちらにも属さない勢力が芽生え始めていた。

 その筆頭は、日本で、東南アジア諸国、アフリカ諸国、インド、中東などは続く。

 自由と共産で分断された中国でさえ、

 中華思想に思想色を塗っただけの大同小異。

 それが大同団結できれば第3勢力になれると思いきや、そうもいかない。

 個人から国家間の国際関係に至るまで、金持ちにや暴力に屈する。

 我田引水な私利私欲で国益を優先するのが世の常。世の習い。

 米ソの狭間で離合集散で行ったり来たり。利用したり利用されたり。

 皺寄せでバカを見るのが弱者であり、国民だった。

 国民を比較的、犠牲にせず済むのが強国の証し、

 地理的条件の悪い弱小国は、国民を犠牲にしなければ成り立たたず、

 インドネシア連邦のバンドンで行われたAA国際会議は、日米ソの利害が介入。

 第3世界の統合より利害調整に費やされていく。

 

 

 ミル1ヘアが着陸すると山を刳り貫いた格納庫へと押し込まれていく。

 武装無しだったが利便性に優れ、

 軍民合わせて数百機が購入され運用されていた。

 日本の国防が地下を利用した迎撃防御が主体になると。

 地対空、地対地関連兵器の予算比率が増えていく。

 兵器・武器弾薬は、比較的安いソビエトから購入することが多く、

 ライセンス生産も細々としたものだった。

 「積荷は確認しました。日本国内に別荘が建てられますよ」

 「それは良かった。T54戦車はどうです?」

 「いや、T54戦車で、日本のトーチカを破壊できませんし」

 「購入するなら、RPG2の方が良さそうですな」

 「では、開発中のミグ19は、どうでしょう」

 「そうですね。中国内戦でセイバーに比べて、ミグは劣勢だったはず」

 「購入するとしても価格は、検討していただきたい」

 「ミグ19は、ミグ15より強化されているで制空権は問題ないかと思いますが」

 「日本の基幹産業は、地下へ移動しているので、それほど制空権に拘っていないのですよ」

 「・・・土建業者は儲かっているようですな」

 「建設費は高くつきますが国防費で手抜きして、民間防衛で負担してもらっているだけです」

 「なるほど・・・」

 手抜きができた理由は、いくつかあった。

 ソ連・中黄連邦 & アメリカ・中華合衆国の軍官僚が原価未満で武器弾薬を日本に横流し、

 私腹を肥やしていただけに過ぎない。

 他にも世界各国の不良軍官僚、軍属が日本への密売ルートを構築しており、

 日本に武器弾薬を叩き売っていた。

 国家と軍産企業は武器弾薬を横流しされ、国外に叩き売られて大損。

 不良軍官僚・軍属は、これに手を染めると私腹を肥やせ、

 国外に別荘を建て、悠々自適の安楽生活が可能だった。

 「これは何です?」

 「X線検査機です。武器弾薬の計測をこれで確認しているのです」

 「ほぉ 便利なものがありますな」

 「アメリカ製ですよ」

 

 

 銃撃の反響が坑道を木霊する。

 「スタンダース軍曹。右から来るぞ」

 「了解です」

 標的のマネキンが千切れながら削られていく。

 坑道の中で振り回すガーランド自動小銃は、実弾演習以前、経験で最悪とわかる。

 これは、威力の問題ではない。

 坑道の中では、強力な武器を生かせず、むしろ邪魔になった。

 全長1100mm自動小銃は、手かせ足かせとなって、アメリカ軍将兵を悩ませる。

 「やっぱり、ガーランドより、カービンの方が良いな」

 「ええ、思った通り。こちらが不利です」

 「日本軍が使う、AK47は全長870mm。シュパーギン41は全長836mm」

 「カービンか、トミーガンじゃないと制圧できそうにないか」

 M20バズーカが坑道の薄暗い奥へ撃ち込まれ、爆砕する。

 大音響が坑道内に籠り、坑道内に塵粉が漂う。

 「ちっ 天井が落ちそうだな」

 「地下坑道なら、M79グレネードランチャーやショットガンですかね」

 「まぁ 対日戦なら、その二つを増やしてもらわないと」

 「地下専用の武器が欲しいですよ」

 「それとマスクがないと気管支炎ですよ」

 

  全長 銃身長 弾薬 弾数 重量
AK47 870mm 415mm 7.62mm×39 30 4.30kg
シュパーギン41 840mm 269mm 7.62mm×25 71・35 3.50kg
           
ガーランド 1100mm 600mm 7.62mm×63 8 4.37kg
カービン 904mm 457mm 7.62mm×33 15・30 2.49kg
トミーガン 813mm 267mm 11.43mm×23 20・30 4.74kg
           

 アメリカ軍は、国内に地下坑道を建設し、

 対日作戦の研究を行っていた。

 それを馬鹿げた事と思う将兵もいれば、重要な事と思う将兵もいる。

 どちらにしろ、日本の国防戦略を理解する手段として有用といえた。

 「地表は、航空戦力の支援を受けて戦車部隊で押し進められても」

 「地下は、歩兵戦闘のみを強いられる」

 「化学兵器か、細菌兵器でも使わない限り、不利ですかね」

 「どっちも使いたくないね。自分の身が危ない」

 「自ら墓穴に飛び込むようなものですかね」

 「現状の兵装ではバカげている」

 「もっと地下戦闘に使える武器がないとな」

 「武器? 坑道ごと連隊が圧し潰されるだけですよ」

 「軍上層部が連隊を墓穴に押し込めようとしたら、まず、生きて帰れませんよ」

 「そ、それはそうだな・・・」

 地下坑道を侵攻する不利さを知る歩兵は、対日作戦を渋り始める。

 

 

 

 ワシントン

 「日本の国防は、地下施設に引き篭もりなのかね」

 「はい」

 「仮に攻撃したとして、成功率は?」

 「バンカーバスターに原子爆弾を仕込んで直撃させたとしても」

 「日本アルプスは吹き飛ばせません」

 「そんなに強固なものなのかね?」

 「仮に山を吹き飛ばせたとしても、軍施設は山のさらに地下にあるので」

 「事実上、外部からの破壊は不能です」

 「んん・・・では、地上を制圧して、歩兵部隊による地下への侵攻作戦かね」

 「地表を制圧できるかも疑問ですし、死にに行くようなものです」

 「まだ、潜入して原子爆弾を破裂させるか、化学兵器、生物兵器を使う方がマシでしょう」

 「それは、反発が大き過ぎる」

 「仕返しも怖い。世界をそういう世相にしてしまうのも気に入らない」

 「日本軍が引き籠りであれば、アメリカに対する脅威は低下するのでは?」

 「そ、それはそうだが日本の外征用兵器は?」

 「日本の潜水艦艦隊は、60隻を上限にしているようです」

 「戦争が始まれば、簡易型潜水艦を大量生産するのでは?」

 「最新機器は、練度成熟まで年月を必要とするので」

 「それほど脅威とはならないかと思われます」

 「んん・・・当面は、日本の軍事力を気にすることもないかもしれないな」

 「問題は、ボルネオ州、セレベス州の日系人が1000万を越えて事実上、最大勢力といえます」

 「独立できそうだな」

 「日本側は州の自治が保たれているのであれば、独立の必要はないと」

 「詭弁だな」

 「ですがボルネオの税収でインドネシア連邦は潤っていますし」

 「アメリカ資本もその税収を当てにしていますから」

 「ボルネオ州軍は?」

 「州軍は防衛に特化されていますし」

 「インドネシア連邦軍は外征・支援に特化された装備です」

 「士気の高さと地の利で、ボルネオ州軍が有利と言えるでしょう」

 「気に入らないな」

 「気に入られていないのは、成長率の遅れているスマトラ・ジャワ両州の方です」

 「ボルネオとの貧富の格差が大きくなれば、スマトラ・ジャワ行政が攻められます」

 「アメリカ利権州から離脱する動きがあるのかね?」

 「はい」

 「バカめ、ボルネオとセレベスの日本人に働かせて、その税収で安楽に食っているのだ」

 「アメリカの利権から離脱した途端、ボルネオは独立」

 「インドネシア連邦経済は失速。破綻しますね」

 「後進国は、人間不信しやすい国情ですし」

 「社会制度とか、勤勉勤労で怪しい国が多いですからね」

 「ボルネオ州の自治権に食い込めれば、日本の思惑は破綻させられそうだがね」

 「昔と違って、いまは、ボルネオの方が住みやすいようですし」

 「連邦の有力者は、ボルネオ州側に比重を移しているので難しいかと」

 「やはり、日本のおかげで独立できたと思っている人間が多いのか」

 「アメリカ人と日本人では、インドネシア人に対する姿勢が違いますからね」

 「アメリカは、華僑と組んで日本を押さえてもインドネシア人は日本人に靡きやすい状況だ」

 「日本国はともかく、日本人は、覇気が小さいせいで、好まれやすいのかもしれませんね」

 「日本人は、相変わらずか。市民革命が起きた割に個人主義が小さいな」

 「あれは、伝染病と飢餓に誘発されたもので、自然発生に近い状態です」

 「世界中の市民革命は飢餓で誘発されているよ」

 「貧富の差が欧米より小さかったので、やや不発気味だったかもしれません」

 「戦艦ウラルの建造は?」

 「進んでいるようです」

 「ソ連は、購入しそうなのか?」

 「戦艦シベリアの稼働率は高く」

 「戦艦ウラルを就役させられるならソ連海軍は、大西洋に常時、戦艦1隻を遊弋させられます」

 「ソ連は、主力戦車3000両分の予算を注ぎ込んだ成果があると思っているだろうか」

 「時化で煽られる米英戦艦の横合いをシベリアがゴボウ抜きした事件は、印象的でしたから」

 「思いだすだけで腹が立つ」

 「二番艦のウラルは、もっと出来が良いようです」

 「忌々しいな」

 「種明かしをすれば、火力を減らして作戦能力に転嫁させた結果ですが」

 「いまの時代は、経済性と作戦能力を求められるよ」

 「戦艦シベリアとウラルは、それがある」

 「空母を建造されるより良いかもしれませんが」

 「どうかな」

 「戦艦を埋め立てさせて領有権を確保は、国際的に既成事実だし、捨てたものじゃないよ」

 「アメリカ海軍も張り合いにはなりそうです」

 「モンタナ型2隻、アイオワ型6隻、サウスダコタ型4隻、ワシントン型2隻」

 「戦艦を維持する口実にはなりそうだ」

 「ソ連海軍は3番艦を追加発注するだろうか?」

 「国産で同型艦を建造するかもしれません」

 「ソ連に外洋艦隊を建造させる工廠を建設させるのは、利益になるのかね」

 「建造する設備と補修用設備とでは投資する予算が違います」

 「ソ連は経済的に無理をしているので厳しいかもしれません」

 「戦艦の射程などたかが知れている。大型艦を日本に建造させた方が合理的ではある」

 「ソ連軍内の陸海軍抗争でいうと陸軍の方が優勢のはずです」

 「3番艦建造は、いまのところ微妙なようです」

 「日本は科学技術と工業力で失速していると思うが、どうかね?」

 「余剰資本があれば、研究開発に資本を投機できます」

 「輸入した日本製工作機械で確認してます」

 「中程度の機械類では、むしろ、耐久性と品質精度が安定している模様です」

 「規格が安定している?」

 「民間主導で採算ベースを優先しているため、無理をしていないというところです」

 「穴掘り機械は、それほど無理がいらないだろうか」

 「品質、精度、耐久性を調べれば、だいたいの工業力は、検討が付きます」

 「向上は見られても徐々に。のようです」

 

 

 

 赤レンガの住人たち

 「ソ連から流れてきた。これは、使えるのか?」

 「AIP機関クローズド・サイクル・ディーゼル。CCD方式・・・・」

 「液体酸素タンク。あるいは、高圧酸素タンクで海中でもディーゼル機関を動かすか・・・」

 「危なくないか?」

 「酸素魚雷と同じ手法だな。もちろん危ないに決まってる」

 「水素を燃やすよりマシだろうけどね」

 「ソ連潜水艦で酸素を使ったAIP機関は、採用されているんじゃないか?」

 「らしいね」

 「んん・・・蓄電池・モーターの代わりに酸素でディーゼル機関を回せば、そりゃ 速いだろうが・・・」

 「過酸化水素より、毒性が少なくてマシかもしれんが艦内爆発が怖いな」

 「外燃機関のスターリングエンジンもあるが?」

 「どれも技術的に成熟されてないな」

 「CCD方式の技術は流れてきてるのか?」

 「そりゃ 潜水艦の乗員が家に食事を持ち込んで家族と食べているくらいだ」

 「有用な技術も流れてくるよ」

 「ソ連軍は将兵が多過ぎるよ」

 「ソ連に野心があるのは確かだが国境線が長すぎるのだろう。当然だろうな」

 「ソ連に攻め込もうなんて国はないよ」

 「ドイツや日本は例外か?」

 「そういえば、侵攻したことがあったっけ」

 「ソ連が日本に武器弾薬を売りやすいのは、日本が侵攻能力で欠けているからだろう」

 「それは言える」

 「しかし、穴掘りが多いよな」

 「1300億の3分の1が土木建設に使われている」

 「1km10憶なら穴掘り40km分かな」

 「民間分が加わるから良いけど。なに考えているんだか」

 「軍事費でよこせばいいのに・・・」

 「戦前戦時中、やり過ぎて見限られたんだよ」

 「そりゃそうだがね。もう、ちょっと、何とかならんものか・・・」

 「経済政策で失敗した挙句、各国とのお付き合いで揉め事起して、隣家から略奪だろう」

 「総スカンくらって、村八分に癇癪起して、お金持ち宅を襲撃だろう」

 「いや〜 痛かった」

 「日本全土が焼け野原にされなかっただけでも幸いか?」

 「今の経済政策も含めて、反省しないと」

 「こういう、みっともない歴史は、繰り返したくないね」

 「土建屋も税政融資で、相当、馬鹿になっていると思うよ」

 「お役所仕事は、建前とか、杓子定規とか、前例ありきとか、想像力が阻害されるからね」

 「うんうん、その通り」

 

 

 ブルネイ領の防衛戦略も日本の内地と同様で民間の物流・交通が主線で延び。

 要衝に防衛拠点が支線で連結され建設される。

 深度50m以下に地下壕が張り巡らされ、

 アーチ状の通路とドーム状の空間が広がっていた。

 天窓の明かりを誘導できれば、それなりに明るく、

 湿気さえ取り除けば涼しかった。

 そして、民間の主線はシールド工法で掘削が行われ、

 国境を越えて、インドネシア側へと延びていく。

 「ダイヤモンドが採れたって?」

 「ああ、ほかにメノウも採れた」

 「大深度法を採択させることができたから、このまま、バリクパパンまでつなげると元がとれるかも」

 「1km掘るごとに80カラットのダイヤモンドが掘り出されたら元が取れるだろうよ」

 「あり得ねぇ シールド工法より、人海戦術の方が安上がりかも」

 「シールド工法は、電力がいるからね」

 「水力発電のダムは建設しているよ」

 「ボルネオは熱帯雨林だから推力発電は効率が良いよ」

 「しかし、そんなに建設ラッシュで良いんだろうか」

 「ボルネオは、資源があるから、元はとりやすいよ」

 「もっと工業国らしく、発展させられないものかね」

 「7割近い工作機械がボロボロでね」

 「ツルハシとか、スコップとか、精度が荒くてもいいモノしか作れないよ」

 「精密機械は?」

 「しばらくは無理。ヤスリがけは、手間も暇もいるし、採算が合わなくて駄目だよ」

 「酷いね」

 「戦後すぐは、9割の工作機械が精度不良だったからね。随分良くなった」

 「戦争が終わって一息か」

 「ソ連製とアメリカ製の工作機械を買って、不良工作機械を後進国に売りつけたからだよ」

 「一息付けたのはね」

 「酷いことするな」

 「賃金が高くなってね」

 「ヤスリで削って手間暇かけて無理やり製品に合わせていたら会社が潰れる」

 「結局、国産マザーマシンを持たない限り、駄目ってことか」

 「日本は、ヤスリで調整した部品で組み立てた工作機械を使っていた国だからね」

 「少しはまともになったの?」

 「じり貧じゃなくなったのは、外交と政治がまともになったからだろうね」

 「インドネシア連邦が日本とアメリカで利権分けされているのが将来的に怖いが」

 「日本人の移民は多い」

 「人口も増えていくし、現地民との混血も進んでいる」

 「数がモノを言うよ」

 「まぁ 準日本人という感じだろうか」

 「そんなところだろうな」

 「しかし、資源が採掘できるとこうも違うんだな。アメリカが強い理由が分かるよ」

 「インドネシアも、これだけの資源と人口があって近代化が遅れているのが問題だけどね」

 「おかげで日本の権益が食い込めるから助かっているよ」

 「まぁね」

 ボルネオ州の同化政策は進んでいた。

 朝鮮半島と違って反発は少なく、むしろ好意的でさえあった。

 アメリカやインドネシア連邦の予測を越え、

 日本人の入植と混血が進み、人口増加が続いていく。

 

 

 旧満州帝国は、ソ連領に併合されていた。

 結局、日本人、ロシア人の抗争は、ロシア人に軍配が上がったといえる。

 ソビエト連邦満州共和国の首都ハルビン。

 各国の領事館が集まって、情報操作、工作など行われていた。

 BAR “マトリョーシカ”

 ロシア人と日本人がキャビアとカラスミを肴にウォッカと清酒を楽しんでいた。

 「香木は、良いのが手に入りましたか?」

 「ええ、ボルネオ産の龍脳と伽羅が」

 「こちらもミシンが入荷できたよ。組み立てると別のモノになるがね」

 二人とも既に顧客が決まっている表情で、にんまりとする。

 「それはそうとソビエトは、アメリカ、イギリスとなにやら共闘中のようですな」

 「まぁ ソビエトは満州。アメリカとイギリスは揚子江の権益地」

 「どちらも後ろめたい面がありますからね」

 「なるほど、米ソ互いに権益を認め合っているわけですか」

 「日本も、そうではないですか」

 「カムチャッカ半島、ボルネオなどの利権をアメリカに認めさせ」

 「我がソビエトを牽制している」

 「ソビエトも、満州と朝鮮半島併合を日本に承認させて」

 「中国とアメリカを牽制させているではありませんか」

 「ふっ まぁ お互い様でしょうかね」

 「ある程度、権益が馴染むまでは、中黄連邦と中華合衆国に対し、共闘関係ですかね」

 「そうなるでしょう。一番の皺寄せは中国ですから」

 「中国人は、さぞ、剥れているでしょうな」

 「中国と陸地を面しているソビエト、アメリカ、イギリスは不利では?」

 「日本も香港があるのでは?」

 「租借地は返還済み。香港島は正式に譲渡されたものを日本が領有したものですよ」

 「なるほど、日本が一番、負担が小さい。そのくせ、利益は莫大ときている」

 

 

 銀色に赤い星のミグ17編隊

 深緑に赤い太陽のミグ15編隊

 玄界灘上空で日ソのミグ戦闘機が鍔迫り合い並行する。

 日本空軍の能力を確認するためで攻撃する意図はない。

 それでも、ここで日本機が退けば、ソ連機が日本の領空内に侵入することになった。

 ソ連領釜山から福岡まで210km。広島まで320km。大阪まで600km。

 西日本の大部分がソ連空軍の爆撃圏内にすっぽり収まり。

 無理をすれば、日本全土がソ連空軍の爆撃圏に入る。

 ソ連空軍ミグ17戦闘機

 「日本空軍も反応が早いな」

 『巨済島のレーダーサイトのせいでしょう』

 「仮に日本空軍を出し抜けたとしても、戦略目標が地下の奥底では痛手にならんだろうな」

 『攻撃できても上陸する手段がないのでは、うまみもありませんよ』

 「それ以前に領土上空に侵入して標的を確認できないのであれば、もっと無理だな」

 『ミグ15を売るからです』

 「ソ連が売らなければ、日本は、ほかの国から買う。アメリカから買う方が気に入らないな」

 『南中国は、セイバーを使っているようです』

 「・・・そろそろ、引き揚げるとしよう」

 『了解』

 ソ連空軍の戦闘機群がバンクしながら引き返していく。

 

 

 巨済島 レーダーサイト

 点滅するレーダーがソ連空軍の編隊を追う。

 「ソ連軍編隊機が釜山に引き上げていきます」

 「引き揚げたか。ご苦労なこった」

 「挨拶だろう。日本人に拗ねられて、アメリカ製の兵器を購入されても困るはずだ」

 「他国の兵装で国防をするのは、いい加減、危険な気がしますよ」

 「ソ連はミグ19を開発しているのに・・・」

 「日本は、ミグ15とミグ17か・・・」

 「穴掘りに予算を掛け過ぎでは?」

 「国力、科学技術力、工業力、財力の差だろう。日本が投資できる分野は限られる」

 「レーダーは、追いつけたのでしょうか?」

 「どうかな。ソ連とは、良い勝負のようだが・・・」

 「民間に予算を取られ過ぎているのでは?」

 「金くれ軍隊で国民を養うことはできないよ。民間に国防の一端を担がせる方が良い」

 「白い目で見られてますよ。国民に白い目で見られながら、その国を守るというのは辛いですよ」

 「戦前戦中の反動だからしょうがないよ」

 「欲張り過ぎたんでしょうか」

 「傲慢過ぎたのだろう」

 「士気が落ちますよ」

 「純粋に国防を思う人間だけで担う方が良いよ」

 「利権や権謀術数に振り回されるのはうんざりだ」

 「そんなに酷かったんですか?」

 「餓死寸前の庶民の標的にされたのは傲慢な軍属家族、地主、大家だったからね」

 「良く覚えていますよ。お腹が空き過ぎて、みんな、血走ってましたから」

 「まぁ 食料を溜め込んで高値で売ろうとした連中は血祭りだったな」

 「無論、彼らは普通に商売をしていただけだがね。あまり思いだしたくないが」

 「でも、急に食い物が食べられるようになりましたけどね」

 「軍が船舶を民間に払い下げて人口が減って食い物が増えた。それだけだったな」

 「な、なるほど・・・」

 「戦後直後とは言え、日本国内で “嘘をつく” “盗む” “殺す” が横行するとは思わなかったよ」

 「子供の教育に困ったね」

 「まぁあ 厚顔無恥な、よくある話しだよ」

 「いいですけど・・・」

 

 

 揚子江

 自由圏と共産圏の休戦ラインで揚子江沿岸ほど華やかに発展している地域はなかった。

 主義主張は、民衆を統合し中国を統一するための方便にすぎない。

 清国滅亡後、孫文を引き継ごうとした袁世凱、蒋介石、毛沢東の権力闘争の結果。

 北の中国連邦と南の中国合衆国に分離独立したに過ぎなかった。

 揚子江のアメリカ、イギリス権益も、その過程で付け込まれ、奪われただけ。

 結果的に揚子江の米英権益が、

 中国の需要と供給を拡大させ中国人の商魂を振るい興した。

 そう、東西欧州に敷かれた鉄のカーテンも、

 南北揚子江で竹のカーテンとなってしまう。

 欧米人が融通の利かない教条主義なのか。

 アジア人が無分別な現実主義なのか。

 利己主義が蔓延し、不正と腐敗が倫理観を押し潰す世界。

 物も金も人も自由に行き交う。

 資本が投資され、労働が集約され、

 資源が採掘され、商品が店に並べられていく。

 そして、その数倍の価値のモノが国外へと流れていく。

 工業力を持たない国の有力者は、労力や国内資源をすり減らしても近代化を望み、

 欲するモノを得ようともがいた。

 漢口の対岸。

 戦艦ニューヨークの見える街は、セカンド・ニューヨークと呼称され、

 東西冷戦のもう一つの顔。

 そして、中国西方の利権まで絡み、最も繁栄する街となっていく。

 アメリカ人と日本人

 「浚渫工事の見積もりは、問題ないかね」

 「ええ、大型船の輸送も可能になるでしょう」

 「護岸と造成工事の方も頼むよ」

 「氾濫予防と大型船着岸と、さらに領土防衛までですか?」

 「地下防衛も取り入れたいと思っている」

 「地下防衛は、どうでしょう」

 「河川に近過ぎて水没させられてしまうのでは?」

 「日本でも海岸近くは避けている」

 「河川の浚渫は伊達じゃないだろう」

 「まぁ それでも海抜よりも低くはできませんから、限度がありますよ」

 「中国合衆国側からも守りたいからね」

 「しかし、気合いを入れて建設したのに、だんだん、魑魅魍魎が巣食う街になっていくようで・・・」

 「おいおい、整理された計画都市のはずだよ」

 「大家・管理人がアメリカ人で、借家人が外国人で、中国大陸を搾取ですか」

 「きっと、人間が整理されていないんだな」

 「アメリカの法律が施行されているとは思えませんね」

 「汚く濁っている方が利益が大きいからね」

 「サービスが悪いと借家人に見限られて逃げられないようすべきですよ」

 「管理人を日系アメリカ人に変えるか」

 「日本人の管理人は、几帳面ですから、白人にも容赦しないと思いますよ」

 「公民権運動は、黒人だけでいいよ」

 「とはいえ、まじめに働いてくれる人間も稀少資源といえるね」

 「法的公平性が発展の礎ですからね」

 「香港島は、そうだな」

 「おかげで不正腐敗は、旧租借地側に集まって大変らしい」

 「揚子江の権益地としても理想的ではある」

 「香港島は日本の法律ですよ」

 「アメリカの法でも同じだよ」

 「管理人がまともなら、テナントに貸し出して安定収入の方がいい」

 「随分、退いてるようで、儲け過ぎて倦怠期ですか?」

 「まさか。揚子江の暑さにバテテしまってな。白人には辛すぎる」

 「イギリス権益権側は、元気そうですが?」

 「インド人に管理人をやらせてアメリカ資本と日本市場で底支えているんだよ」

 「実態は火の車さ」

 「余裕がないイギリスを揚子江に引っ張り込むからでしょう」

 「おかげで石炭・鉄鉱石を輸入できて助かっていますがね」

 「アメリカだけだと外交戦略上、支障があるからね」

 「イギリスと利害を一致させておきたい」

 「それがいまでは、多国籍で中国大陸を食い荒らしているわけですか」

 「人聞きの悪い言い方をするなよ。中国官僚と二人三脚だ」

 「踏み荒らされている中国貧民層に同情しますね」

 「中国貧民層も法の公平性を求めてセカンド・ニューヨークに集まってくるよ」

 「そして、失望して去っていく」

 「いや、それでも大陸よりマシだよ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 冷戦の狭間で生じた第三勢力。

 筆頭の日本が国益に傾倒して大同団結ができず失速気味。

 第3世界を結束させられるだけの視野、意識、国力、財力がないようです。

 島国根性という奴でしょうか、

 日本人がボルネオに根付いて意識が変わるまで待ち状態です。

 

 

 大深度法で黒字。深度の深さで赤字。

 いろいろ足したり引いたりで1km10億は、史実に近い数字です。

 後年になると、もっと建設費が高騰するのですが、大深度法で建設費は抑えられるかもです。

 因みに松代大本営

 総延長5853.6m。概算採掘土量59635㎥。床面積23404uの地下要塞

 10年前の45年完成として、建設費2億円は、かなり無理をさせて建設させているような・・・

 

  NEWVEL 投票        HONなび 投票

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第13話 1954年 『ファジィやけん』
第14話 1955年 『理想と現実』
第15話 1956年 『身土不二だべっちゃ』