月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第15話 1956年 『身土不二だべっちゃ』

 日本は地下路線を毎年100km近く拡張させていた。

 経済性を考えると非効率的でも民間利用に国防が絡むと少しばかり天秤が傾く。

 バンカーバスターや核の直撃も通用しない地下深く、

 基幹産業が潜り込み、国防上の利点は計り知れない。

 米ソとも、日本が内陸防衛に引き籠るのなら困らないのか、貿易量も増えていく。

 日本は、元々、社会基盤も、社会資本も小さく、

 大規模な積極財政はてきめんな効果があった。

 大規模なニューディール(新規まき直し政策)は、国内総生産を急速に押し上げていた。

 もっとも、負の遺産が影のようにまとわりつく、

 積極財政は、不正腐敗が大きくなれば劇薬となり、

 不正腐敗が小さければ良薬にもなった。

 とはいえ、民間人でも、時折、AK47、トカレフを撃てるというのなら・・・

 少しぐらい余計に税を納めても良いような気もするのか。

 陸軍基地の地下弾薬庫は、軍の移動が必要最小限で済むほどの武器弾薬が格納され、

 政府と軍で厳しく管理されていた。

 「弾数は40発です」

 「ありがとう」

 予備役となった民間人が二人、射撃場でトカレフを構えた。

 「トカレフの初速は速く、体を貫くけど、威力は、どうかと思うよ」

 「寒冷地向けだろう。防弾チョッキも貫ける」

 「弱装にして、体の中に弾を残す方が敵に医療費を使わせられるよ」

 「おっ 命中率は、悪くないぞ。当たりかな」

 「マカロフにしろよ。初速は315m/sで遅いけど9mmだし。730kgで軽いし」

 「ソ連軍がマカロフに切り替えたからトカレフが安く大量に手に入ったんじゃないの」

 「でも854gは重いよね」

 「うん」

 「二線級の、それも中古武器弾薬で国防って、どうなのかな」

 「まぁ 安上がりに数を揃えられて。地下で戦うのなら地の利を生かせて悪くないかも」

 「穴掘りねぇ」

 「・・・土建族の横暴で積極財政依存症が中毒症状にならなければ良いけどね」

 「そのまま、寝たきり廃人で安楽死なら良いけど」

 「税金からカンフル剤を抜き取られる方は気に入らんよ」

 「押しが強いだけの省は、日本経済を巻き込んで腐らせるからな」

 「母親は土建屋に歯向かうなんてバカだとか、非国民みたいに小言を言うし」

 「まぁ うちもそうだけどね」

 「世間体重視で長いモノに巻かれるのが処世術ではあるよ」

 「政府支出に頼らず拡大できる分野が本物だけどね」

 「しかし、地下が大きいと、心理的に悪さをしやすくなるよ」

 「お日様が見えないところで暗躍する輩は、出てくるだろうけどね」

 「日本の闇経済との相互関係があるかも」

 「地下は健全じゃないよ。精神を不健康にする」

 「中国と付き合うからだ」

 「あそこに商品を持っていけば在庫を片付けられるのだから付き合うな、は、無茶だろう」

 「むかしの日本は、自給自足が信条だったけどね」

 「自給自足は他者に依存しない。精神的に独善で横暴だったりするよ」

 「つまり、相互協力、協調性で洗練されず。人間関係で研磨されていない」

 「すれていないと言えよ」

 「どちらにしろ、非主流のハグレ組は、余計に苦労して利益を上げないとな」

 「電子関連は、重要だよ」

 「穴蔵に入り込むと、わからなくなってしまうんじゃないか」

 「日本人は、穴蔵に引き籠ってアメリカ軍の攻勢を防げると思い込んでしまったからね」

 「鉄筋コンクリートで水増しするのは良いけど攻撃力がないのは、駄目だろう」

 「もうちょっと、電子関連に予算を掛けて欲しいものだ」

 「しかし、土建屋に言わせれば、迎撃率99パーセントの対空ミサイルを開発するより」

 「地下に基幹産業を隠す方が有利だそうだ」

 「けっ! 国賊が我田引水しやがって」

 「まぁ 理に適っていると言えなくもない」

 「俺らに赤字補填させないでくれるなら賛成してやっても良いがね」

 「それは無理だろう。軍官僚と同じだよ」

 「最後にババを掴まされるのが誰か、わからんけどね。破綻するよ」

 「国家権力を背景にした権威と保身の塊だからね」

 「民営化で合理化させられると思うよ」

 「でも、最後まで赤字国債で補填しながら、見苦しく利権にしがみ付くだろうね」

 「うんうん、有りがち、有りがち」

 「国防を兼ねているのが、厄介で曲者だよ」

 「いやだよね。そういうやり方」

 「でも、軍人貴族も自分の命を惜しんで兵士の命を虫けらのよう消耗させていたからね」

 「まぁ 権威を嵩にきた卑劣な上官はたくさんいたから・・・」

 「ドサクサに紛れて後ろから撃たれた上官もいたっけ」

 「うんうん、どう考えても後ろから6.5mmで撃たれてたよな」

 「そういうのが多くなると疑心暗鬼で敵より、後ろにいる味方の方が信用できなくなるし」

 「だから、部下を死に追いやったのかもしれんが」

 「末期頃は、ヤバかったよな」

 「うんうん、もう、戦争はしたくないよ」

 この時期の日本軍は30万。予備役は60万に達していた。

 そして、武器弾薬は、その数倍の量とも言われていた。

 

 

 ソビエツカヤ・シベリア型戦艦2番艦ウラル。

 排水量68000トン (全長280m×全幅38m×吃水10.4m)

 ディーゼル機関24基+電気駆動タービン3基3軸3基3軸推進17万7600馬力

 最大速度29ノット

 航続力18ノット/24000海里

 50口径406mm3連装砲3基

 56口径100mm連装高射砲16基

 68口径37mm4連装高角機関砲20基

 双発水上機 3機

 

 呉海軍工廠

 戦艦シベリアと同型で、質的に向上した戦艦ウラルが就航する。

 日本人の傍観者も多かったりする。

 「ソ連に売ってやるのが勿体無い戦艦だな」

 「シベリアは、ソ連海軍で評判が良いよ。3番艦建造もありかも」

 「どうかな。あまり良い戦艦だと手土産代わりに亡命されるかもね」

 「ソビエト海軍は共産党特権の将校が多いし」

 「家族を人質にしているから、そこまで酷くならないだろう」

 「そういう特権を嵩に着ているやつ奴ほど操艦が下手っぴなんだよね」

 「シベリアもそうだけど、ウラルも座礁させられると困るよな」

 「それより、ソ連海軍が質で劣った小型艦で数を揃えるのって、亡命を恐れてのことだろう」

 「だよねぇ あまり高価なオモチャを持たせるのも、考えものだよ」

 「ロシア人は艦隊向きの気質に欠けているし、日本製戦艦の評判を落とされても困るよ」

 「搭載する双発水上機は、新型にするのか?」

 「ソ連将校の話しだと、そうなりそうだけど。艦載型ホバークラフトも検討しているらしい」

 「上陸作戦用ホバークラフトだと、ヤバくないか」

 「戦艦の艦尾格納庫だけだとたいした兵力にはならないよ」

 「日本を落とすなら1000隻以上で上陸しないと」

 「後進国で悪事を働く程度かも」

 「それくらいなら、いいけど。あまり酷いと日本に皺寄せがくる」

 戦艦ウラルは、給油艦を引き連れ、バルト海へと回航されていく。

 そして、戦艦シベリアに続き、ウラル建造で日ソ交易に弾みがついた。

 ソ連から日本へ戦略物資が輸出され。

 日本からソ連へと日用品、食糧が輸出されていく。

 

 

 戦艦イリノイ 艦橋

 「戦艦ウラルの就航か。本艦より強力なのが気に入らんな」

 「ウラルが日本製でも乗員がロシア人ですし」

 「イリノイとケンタッキーで2対1なら勝てるでしょう」

 「今度は出し抜かれたくないものだ」

    アイオワ型。212000馬力/48500トン  4.371hp/t

    モンタナ型。172000馬力/60500トン  2.842hp/t

    シベリア型。177600馬力/68000トン  2.611hp/t

 「日本人が乗艦しておらず、時化でない限りアイオワ型が有利なはずです」

 「ウラルが192000馬力に向上している噂は?」

 「基本的な仕様は、海上機動要塞で高速性能は二の次かと思われます」

 「短命な機関強化策より、長命な基礎運用なら平時で有利だ」

 「・・・提督。ウラルの推進音は、シベリアより低いようです」

 「ディーゼルの静粛性能を向上させているのか。ホーミング対策のつもりか」

 「電気推進ならディーゼル機関の馬力より蓄電池とモーターの容量になる」

 「あまり気になくても良いのに・・・」

 「3番艦の建造があると思うかね?」

 「ソ連の金払いが良いのは信頼関係というより、利害関係が一致しているからと思われます」

 「んん・・・外交戦略だけで戦艦は買えまい」

 「新装備が詰め込まれているかもしれませんね」

 「ウラルが可変ピッチプロペラとか、二重反転プロペラとか、本当だろうか?」

 「噂だけなら、ウォータージェット型サイド・スラスターも流れていますね」

 「操船の怪しいロシア人には有用かもしれん」

 「しかし、新装備は、冒険的だな。どこまで本当なのかわからん」

 「日本は、ソビエトの金で実験的に製造したのでは?」

 「んん・・・日本は、大型艦を建造する意図があるのかもしれないな」

 「3番艦も狙っているかもしれません」

 「いまのところ、3番艦の発注はないようだが・・・」

 ウラルが座礁しないか心配されているのか。

 アメリカ海軍のアイオワ型戦艦イリノイ、ケンタッキーが追随していく。

 

 

 

 

 第二次世界大戦以降、

 地上軍の戦略は、航空支援、火力支援を包括的に投入する電撃作戦が主流になっていた。

 ソビエト連邦は、世界最大最強の陸軍を抱え、地上戦で圧倒的に優位だった。

 もっとも世界最大の国土を守る悩みも同時に抱える。

 国境線が長いため兵力が分散しやすく、

 局地的に投入できる戦力が薄まることがあげられる。

 正面戦力は欧州。

 しかし、満州・半島のGDPが高まるにつれ、

 アジア側の価値は急速に高まり、

 兵力が東西に分散される悩みも抱える。

 欧州と違って、日本は、島国で上陸作戦で躊躇。

 しかも、戦略目標と日本軍が地下に潜ると、

 空爆効果も得られず対日作戦の対処に窮する。

 地下は戦車が入り込めない。

 仮に坑道入り込めても機動力が失われ的になるだけであり。

 日本の土木建設造成は地下だけでなく、

 海岸線に対しても推し進められていた。

 たとえ、世界最強の戦車を数万両揃えたとしても、

 登坂能力を越えた傾斜は登れない。

 また車両の全長を越えるような対戦車塹壕と堀も越えられない。

 どんなに歯噛みしようと、こればかりは、どうしようもない事柄だった。

 平時の日本は、その造成工事を押し進めて、侵攻ルートを狭め、

 地下空間を伸ばしていく。

 ハルピン司令部で行われる図上演習は、戦車で侵攻できるルートが毎日のように狭まっていく。

 そして、キルレートは、悪化の一途をたどっていく。

 もう一つ、対処に苦慮するのは、ウスリー川河口を埋め立てられる可能性だった。

 これをやられたらハバロフスクが洪水で溢れてしまう。

 それなら河川を浚渫し堤防を建設すれば良いのだが、そんな余裕はなかった。

 また癪な事に日本に侵攻能力がないことがソ連軍をして安心させてしまう。

 戦後、ソ連軍の兵装は、新規開発で戦力的に向上していた。

 日本は、新規の兵装に対抗しようとはせず。

 旧式武器弾薬を買い漁り、それで済ませてしまう。

 それなら旧式装備の日本軍は、弱体化すると思いきや、そうもいかない。

 地の利を生かせて、安物買いで武器弾薬だけは豊富で天秤が吊り合う始末。

 日本に横流しする不届き者は多く。後を絶たない。

 なにより日本商品は人気があり、シベリア鉄道を東へと流れていく。

 

 

 イルクーツーク

 シベリア沿いの駅に外国人専用商店という名目で日本商店が出店していた。

 日本資本を引き込んだのは対米戦略上の都合だった。

 しかし、思わぬ効果をもたらしてしまう。

 外国人専用と言いながら客は共産党幹部ばかり。

 党幹部の子供たちが銀玉鉄砲を親に買って貰うと撃ち合って遊んでいる。

 洒落にならないのか、驚愕した警察が駆け込んできたものの、

 しばらくすると面白がって、引き揚げていく。

 日本人の営業用スマイルが好まれているのか、評判が良く。

 ボイラー・水道・電気補修工事関連のサービスを始めると仕事が舞い込み始める。

 また、物品の購買を始めると急速に商売が拡大していく。

 スパイ容疑とか、逮捕されたりもするが口添えで無罪放免が多くなり、

 情報工作は、利益より不利益が多いことから行われておらず。

 市民生活を検分するだけで必要な情報を入手できた。

 日本との交易量が増すにつれてシベリア鉄道の電化も進められ、

 輸送量も増えていく。

 日本もシベリア鉄道と同じ1520mm広軌であることから流用できる部品も多く。

 シベリア鉄道を動かしているのは日本の機材とまで囁かれるようになっていた。

 そして、ソ連は、渋々、日本資本の国内市場の浸透に目をつぶる。

 これは、中黄連邦が停戦後、ソ連の満州併合に抗議し始めたことに由来する。

 中黄連邦より、日本資本の方が安心だったこと。

 満州・朝鮮域の経済成長と比重が増し、

 東西を結ぶシベリア鉄道の価値が高くなったこと。

 いくつかの国際情勢と国内事情が絡み、

 日ソ関係は、経済的な結びつきを強めていた。

 日本商店では、ラーメン、うどん、ソバ、ちゃんぽん、寿司などが作られ、

 テーブルに並べられ。

 共産党官僚が子連れで、過ごしていた。

 私有財産の認められていない国で、独特の利権取引が行われ採算性があってしまう。

 党幹部家族への利権と日本国内までの輸送の安全性の確保が絡んでいた。

 店が拡張されていくのは、党の後ろ盾があってのことであり、

 同志フルシチョフのおかげといえる。

 コルホーズ(集団農場)、ソフホーズ(国営農場)とも目的の生産量に達せない、

 にも拘らず、私物とされた軒下栽培作物と混ざって、

 横流し品が日本商店に流れ込んでしまう。

 山菜作物も山の如く・・・

 また、価値のありそうな原石らしき物まで集まってくる。

 日本商店の敷地は次第に広げられ、工場が建設され、現金と物資が行き交う。

 日本から持ってこなくても、工場で加工し、販売するだけで資本が拡大されていく。

 賃金不払いの多いソビエト国営企業の中、

 国営食糧店が閑散としているのに日本商店は違った。

 日本資本の店は、賃金を払い効率良く稼働し利益を上げていた。

 日本人の店長が自称、軒下栽培の作物に値を付けていく。

 「やれやれ、自分の敷地で作っている野菜の方が生き生きしているよ」

 「随分、利己主義だな」

 「ロシア人も人間ということじゃないか。それよりさっきの原石は大きかったな」

 「うん、あれ、加工したら100カラット超えるよね。儲け儲け」

 「ダイヤもガーネットもたくさんあるんだな」

 実のところ、日本商店を潰しにかかろうとする政治局員や共産主義者はいた。

 しかし、日本商店を失うと生活苦に陥るため、できないジレンマにも陥っていた。

 何しろロシア人でさえ、国内旅行できない国であり、

 娯楽もなく、ウォッカばかりが消費されていく。

 一旦、国の内外の情勢で日本との関係が有意されてしまうと、

 意外に手続きが進み易くなり。

 遊園地建設を提示すると、あっさりと認可されてしまう。

 そういう国だった。

 

 

 

 電子戦能力で劣る日本軍は、毎年のように地下を広げていた。

 これは、迎撃能力の不足で先制攻撃を受ける事を前提に戦略を立てたに過ぎない。

 例え、バンカーバスターや核爆弾が強力でも、

 破壊できないほど地下深く建設すれば済んだ。

 二段攻撃、三段攻撃でも地下空間が広範囲なら危険が分散され生存率も高くなった。

 そして、地下が大きくなるほど、

 敵に大規模な攻撃と高度精度な爆撃を強制させる事ができた。

 バンカーバスターのような大型爆弾を搭載できる大型爆撃機の量産は至難の業であり。

 いかに探知能力が低くても大型機の大規模攻撃になれば、奇襲効果も小さくなった。

 

 戦後、国防政策は、土建屋の陰謀説が巷で囁かれていた。

 しかし、戦前、有力者の多くが軍事費で食べていたように、

 国民の大多数が土建業で食べていた事も事実で、利害関係の結果ともいえる。

 グアム (549ku)

 日本の海軍基地が断崖を刳り貫き、ブンカー型潜水艦基地が建設されていた。

 凝固材が地表から地下にまで浸透し、

 地下施設は厚い鉄筋コンクリートで守られていた。

 天井のあるドックがいくつも区分けされ、最大10隻の潜水艦が並ぶ。

 日本の記者が集まっていた。

 「潜水艦で液体酸素と液体水素を検討するのは、いくつかの利点があるからです」

 「海中の潜水艦で発電できること」

 「もう一つ、余分な酸素が得られるからです」

 「ですが、酸素水素が有機物を酸化させやすく」

 「また、酸素を機関に使う危険性があり」

 「安全のための予算が投じられています」

 「艦内酸素として利用でき、モーターを回さなければ、10日間以上、潜っていられます」

 「また、外燃機関スターリングエンジンの研究も進められています」

 「しかし、当面は、液体酸素を艦内で消費しています」

 「どの程度の効果がありますか?」

 「状況によって変化しますが10日以上は、潜っていられます」

 「液体酸素が漏れ出して、危険な状態になった場合は?」

 「小さなタンクに区分けしているので危険な状況にならないようにしています」

 「」

 「」

 最高レベルの軍事機密を教えるのは命懸けで致命的だった。

 しかし、まったく教えないと期待値が低下して予算にも響いた。

 国民に総スカンを食らう恐れがあり、反軍意識の強い日本だと致命的。

 妥協しつつ適当に情報を流して

 “日本軍は、ちょっと凄いぞ”

 くらいの認識を持たせたい。

 というわけで、各国でも研究されている事柄で基本的な情報しか伝えない。

 実のところ、軍人筋の流す情報は、曖昧で大本営発表並みの眉唾が多く。

 ミスリード、詐称、虚飾、過小、過大のオンパレードだったりする。

 「記者の連中は、行ったか」

 「ああ、帰っていったよ」

 「いやだね。あの裁判官気取りの態度。なに様だ」

 「社会問題を論って、自分は偉いと思い込んでいる偽善者たちだよ」

 「どうせ、頭が悪過ぎて、検事、弁護士、警察、官僚になれなかった連中だろう」

 「やっかみ半分で綺麗事とか、正義を振りかざしているんだよ」

 「いやだねぇ〜 ああいうのにはなりたくないね」

 「でも、あいつら大衆を扇動するからね」

 「マスコミ同士で思想をぶつけ合うくらいが面白いのに変に慣れ合いやがるし」

 「そうそう、癒着ならマスコミだってやってるだろうが、我が振り直せ」

 

 

 

 カムチャッカ半島

 地下施設の拡張の恩恵を最も受けたのは、北方といえた。

 地表が雪と氷に覆われても地下は、湿気と熱が籠もって温暖だった。

 オイルヒーターは備えられていたものの、余り使わずに済んだりもする。

 北のカムチャッカと半島と南のボルネオ島が日本の未来を保障していた。

 もっとも投資は継続しなければならず。

 投資というより、スパーンの長い投機といえた。

 通常、賭けに近い投機は短期で回収し、

 よりリスクの低い投資は長期で回収するのが常。

 しかし、日本国民を引き受けとする長期投機は、棄てバチに近い国防感覚で行われていた。

 海外の交易の利益と国民の労働の多くが地下建設に費やされ。

 回収の見込みの低いこの投機に使われていた。

 日本全体でも設備投資は、点と線で進み、

 面への投資は、著しく制限されていた。

 利便性の関係から都市と田舎の貧富は拡大し、

 資本はさらに都市部へと集約していく。

 そういった側面で言うと、日本国は、再建途上、開発途上の後進国であり。

 個人より、全体利益を優先する全体主義国家であり。

 個人の欲望を優先できる自由資本主義ではなかった。

 国防省開発研究所

 「滑空式25mm対人赤外線誘導弾だ。凄い発明だぞ」

 「指揮官を狙い撃ちで費用対効果は抜群」

 「人体の熱源を特定して弾道を変えるだけだろう」

 「しかし、国際法で叩かれそうだな発明だな」

 「何を言う、最小限の犠牲で敵軍の動きを止める」

 「とっても善良な省エネ兵器なんだぞ」

 「やっぱり最先端の戦闘機とか、戦車の方が良いのに」

 「そんな大きな開発予算はないよ」

 「地下坑道を利用した超音波兵器とか、マイクロウェーブ兵器も凄いぞ」

 「敵に利用されたらどうするんだよ」

 「反響の関係で有利な構造だし、相殺用電磁波も開発してるよ」

 「地表を制圧されても戦い続けるのって大変じゃないのか。国民に辛すぎる」

 「国民の軍人嫌いの自業自得だよ」

 「まぁ 技術者にとっては楽だけどね」

 「そりゃ 軍人が威張っていないから表面上は、昔のような恐怖はないよ」

 「だけど、土建族に逆らうと、おまんまの食い上げなのが痛いだけだな」

 「結局、社会的な抑圧や軋轢を利用して軍国主義を一掃して」

 「代わりに土建族が居座っただけだな」

 「国家レベルのピンハネは、いつまで続くやら」

 「社会主義的ではあるよ」

 「制度上は、反共だから自由資本主義だよ。眉唾だけどね」

 「騙された振りして生きていくのが大人だよ」

 

 

 北大西洋

 戦艦シベリア 艦橋

 大西洋でのソ連海軍の活動は、名目上、戦艦シベリアを基点にしていた。

 この非常に目立つ戦艦は、西側海軍の監視対象であり、

 水平線の範囲内に5隻の艦船が浮かんでいた。

 そして、提督以下の乗員は、横付けされているタンカーを注視していた。

 フランス国籍のタンカーから給油しているディーゼル油はアメリカから購入したものだった。

 因みに船主はイタリア人。依頼主はギリシャ人。

 米ソ冷戦とはいえ、世の中、お金だった。

 そして、買い物は燃料だけとは限らない。

 「カストロがキューバに上陸。ゲリラ作戦を開始したそうです」

 「そうか、本艦がアメリカの意識を引きつけたと思いたいものだ」

 「・・・提督、あと、いくつか情報を入手しました」

 提督は、タンカーから秘密裏に送られてきた文書に目を通す。

 「・・・どうやら、科学者は、東も西も同じだな」

 「原子力の平和利用ですか?」

 「目を付けていた科学者は協力を拒否するそうだ」

 「水爆の開発以降、同志クルチャトフも核兵器から退いているようです」

 「アメリカの原子力関係者も核兵器に非協力的らしい」

 「情報部の工作も徒労に終わることが多いようです」

 「諜報戦で負けているのではないか?」

 「東側に亡命しても遊べる場所がないですからね」

 「諜報も金次第か」

 「金の価値を発揮できるのは西側の繁華街であって、コルホーズではないですからね」

 「崇高な共産主義に身を委ねようとする者が西側にいるかもしれないだろう」

 「ボルシェビキがいなければ、そう思うかもしれません」

 「あいつらは、共産主義を失望させてくれるからな」

 「原子爆弾に資金を取られない方がソビエト海軍は助かるのですが・・・」

 正面水平線上に艦影が現れる。

 「・・・提督、1時方向に2番艦ウラルです」

 「ようやく、合流できたな」

 「こうなると、3番艦も欲しくなりますね」

 「そういえば、3番艦の話しは出てこないな」

 「仕事柄、金のかかる戦艦でなくても良いと言えますからね」

 ウラルを確認したソビエト水兵がはしゃぎ始める。

 ソ連艦隊は、シベリア、ウラルほか7隻の艦隊。

 アメリカ、イギリス、フランス艦隊を合わせた15隻が集まってしまう。

 「大西洋も騒がしくなるな」

 「大西洋上で長期作戦が可能なソ連艦船は、少ないですから」

 雲間から双発飛行艇がダイブして降りてくる。

 「て、提督・・・」

 「チェルニコフ・・・またか・・・」

 飛行艇は、シベリアの後方に回り込みながら、

 海面近くで機体を持ち上げ水平飛行に移り着水。

 そのまま、シベリアの艦尾格納庫へと滑り込む。

 「どうして、ああいう奴がパイロットに選ばれるんだ」

 「上手いのは認めますが、冷や汗ものですよ」

 「海軍同士は、我の張り合いでもある」

 「腕の良いパイロットを抱えておくのも悪くない」

 「しかし、気質がな」

 「気質と腕は比例するものですから」

 「スターリン以降は、同志フルシチョフのおかげで粛清の恐怖も薄れているせいだろう」

 「海上にいると特にそうかもしれません」

 「ふっ しかし、あまり長く家を空けると浮気されそうで、いやだな」

 「まったくです」

 「ソ連海軍が流行らない理由だろうな」

 ソ連海軍の実情は独身者が多いと亡命される可能性が高くなった。

 下手をすれば、家族を捨てて亡命されることもあり、

 そして、長期、家を留守にできるだけの海軍将兵を維持するため家庭的なモラルも求められた。

 家族的な絆、愛国的なモラルが得られなければ、大ソビエト海軍は、夢の彼方に去ってしまう。

 時折、7式大艇が着水し、将兵を入れ替えるのも、そういった背景を含んでのことだった。

 

 

 

 沿線沿いを中心にケーブルテレビが発達していく。

 

 

 日本は敵国条項の廃止と合わせ、

 常任理事国として国際連合に加盟していた。

 ニューヨーク国連本部

 「日本は、国連でどのような役割を果たすつもりで?」

 「国連憲章に沿うつもりですが」

 「「「「「・・・・」」」」」

 「これで本命、対抗、穴馬が、揃ったわけですかな」

 「問題は、焦点の中国をどう扱うか、でしょうな。日本の考えをお聞きしたい」

 「南北に分断された中国は、基本的に望ましいと思われますし、加盟させることに賛成です」

 「二つの中国の常任理事国入りは?」

 「両国同時の常任理事国は、望ましくありません」

 「統一中国による常任理事国入りは、大陸の統一を誘うため危険です」

 「同時加盟で、1年任期の交代制で拒否権を有する理事国とすればよいかと」

 「「「「「・・・・」」」」」

 「・・・し、支障ないと思うがソ連代表はどうけね」

 「まぁ 落とし所でしょうな」

 そして、中国の国連加盟が決まり1年交代で拒否権を有することになった。

 「今後も期待したいものですな。日本代表」

 「ええ、国連憲章に沿うつもりですよ」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 基幹産業をイージス艦で守るか、

 基幹産業を地下深くに隠して守るか。

 そういう命題です。

 どうせ科学技術力で、欧米諸国に及ばないのならと、開き直りました。

 最強戦闘機、最強軍艦、最強戦車は出てきません。

 身土不二(しんどふに)あるいは(しんどふじ)。

  人間と土は一体で切り離せないとか。

  地元の食材が体を作っているとか。

  そんな排他的で地元主義な意味です。

 この戦記だと国防的な意味になりそう。

 土建屋万歳戦記です。

 

 

 あとソビエト連邦のおかげで、日本は、常任理事国入り、敵国条項もなくなりました。

 中国は、交替で拒否権ありの理事国です。

 

 

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