月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第16話 1957年 『戦車がないよ』

 戦車を保有していない国は珍しい。

 この時代、BT7やT60軽戦車を戦車に含まないとしたら、

 日本は戦車を保有していない珍しい国だった。

 戦車がないことで国民に危機感を持たせ、

 国防に対する意識と理解を高めているなら正解といえる。

 堡塁に囲まれた高台。

 戦車の代わりに存在するのがドーム状の60口径155mm砲装備要塞砲台。

 最大射程30km。

 装甲35トン。

 強化コンクリートの厚みを含めると200トンを越える。

 この砲台を5基から10基でグループを作っていた。

 サイレンが鳴ると射撃訓練が始まる。

 砲弾は、民間の土地を飛び越え、所定の着弾場へと降り注ぎ、標的を破壊する。

 この砲台は、現在、最強の戦車砲で破壊できなかった。

 しかし、バンカーバスターのような破壊力で直撃を受けると破壊される。

 当然、対処する側も複合装甲などの防御策が検討され。

 さらに積極的な近接防御。

 レーダー・赤外線と連動した機関砲迎撃が研究され始める。

 弾頭の進入角をずらせればバンカーバスターでさえ、威力を大幅に減じることができた。

 侵攻側も、この砲台を突破できなければ山道を越え、

 戦線を拡大できず効果が認められる。

 もう一つは、地対地ロケット弾サイロ。

 こちらも対侵攻部隊用対地制圧で有用と思われた。

 日本軍は大型固定砲に兵装を集中し、

 地下を利用した遊撃的なゲリラ戦術を支援させる計画を立てていた。

 敵性国家に過剰な重量の爆装を強い、

 そのための研究、労力などの負担を強いる。

 ともあれ、国民を巻き込んだ戦闘を前提とし、

 国軍に対する国民の意識を改めさせていた。

 訓練場

 アメリカから払い下げられたM20バズーカーの試射実験が行われようとしていた。

 引き金を引くと後方に噴煙、前方に砲弾が飛び出す。

 無反動砲と対戦車誘導弾の開発が進むとバズーカーは廃れ始めた。

 そして、暴落した兵器ほど値崩れするモノはなく。

 値崩れしたモノでも地下で地の利を生かせれば、まだ有用なモノが多かった。

 砲弾が標的に弾着。

 対人榴散弾が爆圧と一緒に四散し、辺りのマネキンをズタズタにしてしまう。

 対戦車バズーカーで使いにくいのであれば、対人バズーカーと割り切ってしまう。

 予備役者たち

 「擲弾筒とか、迫撃砲の方が良くない?」

 「地下だと天井に当たるから、バズーカーが良いよ」

 「擲弾筒は壁に当てて使えるだろう」

 「壁に当てないと使えないのが、ちょっとね」

 「これも良いぞ。弾薬を気にしなくても良い」

 刃渡り15cm程度の小太刀を取りだす。

 「刃物は、やめようよ」

 「日本刀より凄い超硬合金だぞ」

 「狭い地下坑道に入り込むと、断然、刃物が使いやすくなる」

 「飛び道具があるから素材はともかく、微妙だな」

 「シュパーギンもトカレフも、咄嗟の場合は遅れるよ」

 「マカロフにしろよ。何で、こんなにシュパーギンやトカレフがあるんだ」

 「泣きたくなるほど、あるからだろう」

 「軍隊が武器弾薬を持って移動するのを毛嫌いする人間も多いから、余計に置いとくんだろう」

 トラックが基地に入ってくる。

 荷台にAK47、シュパーギン41、トカレフ、RPG2が満載されていた。

 「また来たよ・・・」

 「どこから武器弾薬を調達してくるんだ」

 「さぁ」

 「これだけあると、戦争になったら、予備役だけじゃなく、民間にも回せるよ」

 「敵と味方さえ分かって “撃て” と言った時に撃ってくれれば良いけどね」

 「まぁ 味方に足を引っ張られたり、味方に撃たれたりは怖いからね」

 「おっ SG43重機関銃も入荷だ」

 「また、安物買いの何とかじゃないのか」

 「穴蔵の中で地の利を生かせるなら、古くても戦えそうだけどね」

 「ひょっとして、ソ連が新型重機関銃を開発したのかも?」

 「んん・・・凄い開発力だ」

 「昔の日本は、欧米から伝え聞いた情報だけで、レーダー作れだの、ソナー作れだの」

 「設計図なし、協力者なし、資本なし、経験なしなのに酷かったからね」

 「軍隊に入ると無茶苦茶言うからな」

 「そうそう、部品が壊れるたびに取り寄せようとすると機械が止まるだろう」

 「来たら、来たらで、ヤスリがけしないと合わないし。不良品山済みだし」

 「それで、時々、停電するのにオンボロ工作機械だろう」

 「ダイヤがないから、サファイアとか、ルビーで研磨させられるし。機械油は代用品」

 「熟練工は、賃上げと徴兵逃れでノウハウを出し渋って一子相伝にするし」

 「ドリルは折れるし、工具も酷いし、ネジもヤスリがけしないと入らないし」

 「機械が動いている時間より、止まっている時間の方が長かったっけ」

 「女工が作ったのは酷かった〜」

 「良いこともあったけど」

 「「・・・・」」 にや〜 × 2

 「軍人になると想像力、経験、人情がなくなるから、いくら説明しても伝わらないしな」

 「国情も考えず、旧日本軍の正面装備だけで、一流と自惚れているだけだったし」

 「そういや、最後は、みんなで穴掘りか、風船爆弾だったな」

 「ふ 生きていくのにも大変だったのに戦争なんてするからだ」

 「末期に飢餓と日本風邪で2000万も死んだっけ」

 「おかげで、軍人貴族を追い出せたじゃないか。土地も増えたし」

 「でも、結局、貧富の格差を広げて、過重労働を強制しないと近代化できないんだよな」

 

 

 農地改革から土地の転売による社会資本増大。

 政府主導の積極的な設備投資で社会基盤が大きくなると民間活力が大きくなっていく。

 政府・官僚・大企業などの背景を嵩に着ると、消極的になりやすく。

 年功序列、権威主義、慣例主義、杓子定規が横行するとハングリー精神が薄れてしまう。

 公共福祉を盾に規制が増えて利潤が低下していく。

 これが強くなり過ぎるとソ連の共産主義体制に近付く。

 一方、民間。

 弱肉強食の世界で勝ち残るため、

 良い意味でも、悪い意味でも、積極的な行動を求められた。

 たとえ違法でもトラックは満載で安全性より効率を求められた。

 一人当たり生産力が速く大きければ、それだけ、回収と利潤が大きくなっていく。

 これが強くなるとアメリカの資本主義体制に近付く。

 どちらにも長短があり、各国とも適当な線引きで迷いつつ規制が作られていく、

 日本政府もまた、適当な線引きで妥協し、民間活力の手綱を緩めたり締めたり。

 法的に矛盾が大きければ軋轢が大きくなり、無理を押し通せば、人権も蹂躙されていく。

 某工場

 「車の規制が納得できんよ」

 「地下鉄の旅客と貨物で無理やり集客を延ばそうとしているのでしょう」

 「けっ 我田引水で自己正当化しやがって」

 「何でもかんでも駅とつなげれば良いと思っているのか」

 「沿線に人口と産業を集約させて無理やり利益を上げようとしているのが見え見えですかね」

 「国防と妙に絡んでいるのが強みだよな」

 「基幹産業だけでも地下に隠したいのでしょう」

 「それで電気自動車か、嫌がらせにもほどがある」

 「電気自動車なら、ダム発電で充電できて地下にも入れますからね」

 「アホか、道路法で幅5mだぞ」

 「4mくらいならともかく、狭い日本で、そんな道をポンポン作れるか」

 「それは、そうでしょうけどね」

 「おのれ、土建屋め〜 お上の意向を嵩に着やがって、卑怯者が」

 「自動車は、軽量化してインホイールモーターで6輪以上なら、それなりに行けそうですよ」

 「モーターの同調に手間取っているだろう」

 「それはそうですが」

 「味方は、車社会が好きなアメリカのようだが政府と土建屋が突っぱねている」

 「人口が減って、衣食住で余裕ができましたからね」

 「いっそ、負けていれば、もう少し合理的でしたが」

 「まぁ モーターと蓄電池の性能次第なんだがな」

 「ですよね」

 

 

 中国大陸

 中国連邦がウィグル。

 中国合衆国がチベットへと勢力を伸ばしていた。

 国境線定まらぬ付近では、当然、紛争と軍事衝突が繰り返される。

 しかし、その紛争は休戦ラインまで、北と南で睨み合い。

 さらに上海に近づくほど曖昧で融和的でさえある。

 中国の大地を太古の昔から支配していたのは、利己主義、実利主義であり、

 資本主義も、共産主義も覇権の過程で利用された表層面の対立に過ぎない。

 そして、ここは中国大陸の腹の中であり、強硬手段はとれず。

 慣れ合いの世界で落ち着いていた。

 揚子江 ウォースパイト 艦橋

 北と南を行き来するはしけは多く。

 積み荷を気にすることがバカバカしくなるほどだった。

 「ソビエト連邦の国力が計算より向上している?」

 「はい、情報局では、まだ、正確な統計は取れていません」

 「朝鮮半島、満州を合わせて7000万ですからね」

 「つまり、その生産力が加算されたわけだな」

 「ええ、シベリア開発、満州開発、中国内戦で男手を酷死させれば、残るのは女子供ばかり・・・」

 「・・・そんなに?」

 「同族のスラブ民でさえ、700万だそうですからね。異民族であれば、なおさら・・・」

 「どこも、国際問題にせずか・・・」

 「日本は、日本人捕虜返還と絡んで見逃したのでしょう。中黄連邦も内戦中でしたし」

 「絶滅ということはないだろうな」

 「さぁ ですが、極東油田開発、沿海州線路、シベリアダイヤの発見」

 「酷使された内容も想像できますよ」

 「満州と半島のアイデンティティは、失われると思います」

 「キーセン外交で日本人を誑し込んでいたようだが、ロシア人には通用しなかったか」

 「朝鮮族は、中央アジアで散り散りバラバラのはずです」

 「しかし、ソ連が国力増強だとアメリカも深刻だろうな。しわ寄せが来なければ良いが」

 「皺寄せを喜んでいるのは、中国人かもしれませんね」

 「南北に分裂させられているのに?」

 「中国人の利己主義は、愛国心をはるかに超えていますからね。思想すら利用しますよ」

 「・・・欧米人は思想に利用され、中国人は思想を利用していると?」

 「恐るべきは、自分の利益のため思想すら利用する中国人の民族性でしょうね」

 「んん・・・その割には、旧態依然だがね」

 「過ぎた利己主義は弊害で、騙されやすい国民性の方が近代化が早いものですよ」

 「したたかが幸せとは限らないということか」

 「現に日本は、急速に国力を回復させていますよ」

 「飢餓で余剰資本を作り」

 「島という牢獄に閉じ込めて人口を増やし」

 「労力を強制的に吸い上げていくだろうな」

 「最近は、ボルネオに移民は、多いようで、そうでもないようです」

 「良くあれだけの規模で祖国から逃れられるものだ」

 「主戦派の軍属が大量に逃げ出しましたからね」

 「資産を持っている上層部が移民しなければ、あれほどの規模にならないか」

 「富裕層は、2割で8割の資産と言いますからね」

 「1割が逃げ出しても4割の資産で固定資産を失っても、日本から2割は持ち出していますよ」

 「満州と半島で同じ規模で行われていたら、今頃・・・」

 「まぁ 権力者なんて支配地を広げたがっても、自分は動きたくないゲス野郎が多いですからね」

 「既得権益者は身内が殺されてようやく逃亡か」

 「幸か不幸か、それが日本の国益を広げていますよ」

 「癪なことだがね」

 「むかしは、イギリスも海外移民を恐れませんでしたがね」

 「イギリス人も地主や大家で楽隠居を考えるようになると、お終いだな」

 「インド人の方が働かせやすいですし、日本人の方がサービスが良いですからね」

 「ハングリー精神を失うと大英帝国も衰えが激しいな」

 「まだ蓄財が残っていますよ」

 「植民地にしがみ付くのは、ちょっと、みっともないですが」

 「蓄財に頼るほど怠け者になり、いやしくなっていくよ」

 「蓄財のない日本人の方が真剣に働く」

 「そこまで悲観することもないでしょう」

 「インドを失った代償を中国市場で補わないと」

 「揚子江権益は、アメリカ人、日本人、インド人頼みだ」

 「イギリスは、水爆を開発しましたし、利益が上がる間は、協力し合えるのでは?」

 「水爆か・・・」

 「我々は、彼らの居心地が良いように環境を整え、家賃と地代を貰っているに過ぎんよ」

 「ある程度、地歩を固めることができれば」

 「その時は、中国大陸の国力も大きくなっている」

 「結局、我々は、善良な大家であり続けるしかない」

 「そういえば、日本は、インドに近付いているようですが」

 「自由インドを足場にしてインド大陸と交易しているようだ」

 「しかし、インドは複雑すぎて、事情がわからないだろうな」

 「どちらにしろ、インドも、アメリカ資本が入り込み、イギリス資本が追われる」

 「アメリカの天下ですかね」

 「元植民地が偉そうに・・・」

 「アメリカは、戦中の利益と利権で誤魔化していますが長くない」

 「貧富の格差が広がれば、労働意欲も低下しますよ」

 「法的に公平でも金持ちの道楽産業が大きくなっていくだろうな」

 「チマチマ、庶民から吸い上げるより」

 「金持ちのお目溢しの方が収益になりそうですしね」

 「どうせ、金を吸い上げ過ぎて大恐慌を起こすに決まっている」

 「食べきれないほど食べ物を作っても、売れませんからね」

 「アメリカ人なら無理やり口に押し込んでも利益を上げるだろうよ」

 「飽食死ですか?」

 「企業が潰れたら路頭に迷うだろう」

 「その辺に付け入る隙があるのでは?」

 「アメリカに生殺与奪権を握られているから当分は無理だな」

 「まだ、日本の方がイギリスより主権を維持している」

 「羨ましいですね」

 「どうかな、化学技術も工業力も2流のものしか得られない。自力では無理だろうな」

 「研究開発には投機ですからね。余裕のある国しかできないでしょう」

 「国民を酷使しているから、意外と研究開発費を絞り出すかもしれないな」

 「ボルネオに逃げ出すのでは?」

 「それは、それで、都合が良いのだろうな」

 

 

 中国人が南北に分断され。

 日本人もまた南北に分断されていた。

 北の日本連邦。

 そして、南のインドネシア連邦ボルネオ・セレベス両州は、別の国だった。

 人口が少なかったことを付け込んで日本人は1500万に達し、人口比でも多数派。

 実質、日本人が支配する州に、インドネシア人が入植する。

 しかし、日本人が開発していない場所は、むかしのままで劣悪な原始の世界が広がる。

 インドネシア人は、日本人が良い場所を占拠したと言い出す。

 もっとも、日本人が汗水たらして、無理やり良い場所に造り替えただけだった。

 結果的に開発の真似ができないインドネシア人は、囲い込みでスラム化し、減少し、

 日本人移民は、増えていく。

 

 

 厚木飛行場

 アメリカ製の土木建設機械が飛行場を拡張していた。

 そして、国際外交上の理由、経済的な理由。

 いくつかの要素が絡んで、滑走路にソ連製ミグ19が翼を並べていた。

 

  ミグ19 ミグ15 スターファイター F4ファントムII
全長×全幅×全高 12.54×9.00×3.89 10.11×10.08×3.70 16.7×6.69×4.11 19.20×11.71×5.02
翼面積 25 20.60   49.2
重量/最大重量 5447kg/7560kg 3582kg/4960kg /12490kg 13757kg/28030kg
推力 3250kg×2 2700 7170 7962kg×2
最大速度 1452km 1045km M2.2 M2.23
航続力 1390km/2200km 1200km/1976km /2920km /2600km
武装 30mm×3 37mm×1 23mm×2 20×1 20×1
ロケット・ミサイル弾 6   4 8
爆弾 250kg 100kg 3400kg 7258kg
        初飛行1958年

 ソ連航空機は迎撃主体であり。

 アメリカ航空機は攻撃主体といえた。

 ソ連は、あっさりと日本に新型戦闘機を売却する。

 これは、アメリカから戦闘爆撃機を購入されるよりマシと考えたからに他ならない。

 そして、日本も国防政策上、迎撃機が好都合なだけだった。

 新型戦闘機を前に日本人とロシア人の外交筋が立ち話ししていた。

 「中華合衆国にスターファイターが配備されているそうですね」

 「台湾は、脅威にさらされるでしょうな」

 「確かに防空戦闘機の配備は、求められそうですが正面は北のはず」

 「それは、どうでしょう。南北中国の癒着腐敗は酷いものですよ」

 「ソビエトは、その癒着腐敗で北の権益を得ているのでは?」

 「ソ連は朝鮮・満州。日本は台湾。それぞれ、中国から守るべき地があるはずです」

 「まぁ 最低限の戦力は、必要でしょうが、北の大動脈は、どうです?」

 「中黄連邦のソ連鉄道権益は、朝鮮民族と少数民族に任せていますよ」

 「彼らは、ソ連権益と身を守っているわけですか?」

 「中華連邦でも台湾民族と少数民族が同じようにやっていますよ」

 「ウィグルまでの鉄道は、標高の低いソ連が早そうですな」

 「ええ、南中国もチベットまで鉄道を延ばそうとしていますが、いまのところ、優勢ですよ」

 「ソ連は、満州・朝鮮を併合して、相当に羽振りが良いようですな」

 「ええ、日本の国際的承認は大きかったですよ。ミグ19をもっと買われてはどうです」

 「残念ながら、国防費の関係で、難しいですな」

 「戦車はどうです? T55戦車は、良いと思いますよ」

 「いや、もっと難しいですな」

 「戦前、戦中の日本軍は、もっと羽振りが良かったですのに、実に残念」

 「ところで、戦艦シベリアは、上手く運用されているようですな」

 「ええ、見栄えが良いですからね」

 「しかし、日本で建造してもらうと、割安で済むのが嬉しいですな」

 「建造期間が短いからでしょう」

 「出来れば、あまり価値が高くなくて、シベリア、ウラルを支援しやすい艦船を建造したいと考えているのです」

 「価値が低いとは、少し妙ですな」

 「まぁ 西側に奪われるようなことになっても惜しくないような・・・」

 「なんとなく、わかりますな」

 「お察しいただけて、恐縮ですな」

 「日本が修復改装したリバティ船はしばらく使えるはずですよ」

 「給油・補給艦に改装してみましょう」

 「古いのでは?」

 「修復代の代わりにアメリカから貰い受けた船舶でしてね」

 「構造上は問題ないはずです」

 「んん・・・」

 「リバティ船だけでなく、高速改良型のビクトリー船を含めると300隻くらいありますよ」

 「そんなに・・・」

 「日本とインドネシア連邦の間で貿易が増大していましてね」

 「造船は利益になりそうです」

 「資源もないのに随分と豊かですな」

 「資源は、採算の関係で生産性の高いところへ流れていきますからね」

 「国民を搾取して生産性の向上とは、随分な牢獄ですな」

 「国民に国が豊かになれば、お金持ちになれる幻想を抱かせることです」

 「一生懸命に働く動機を個人に与える。資本主義はそういうものでしょう」

 「国全体の利益を優先すべきでは?」

 「国民総役人では採算性でマイナスでは?」

 「おや、戦後、軍人貴族を破綻させて、貧富の差を一時的に解消した」

 「日本の発展は、自由でも共産でもなく、その軋轢の解消ではないですか?」

 「それは、どうでしょう。人口減による資財の再配分もありますし」

 「再配分? お笑いだ」

 「2割の富裕層が8割の資産を握っているのは常識」

 「硬直した利権に胡坐をかいた階層が崩れ、国民全体に資財が流れて再分配された」

 「これは、明治維新の時の武士階級の破壊と同じ」

 「既得権の破壊が日本の高度成長の正体ですよ」

 「それを国是にはできませんな」

 「せっかく、再構築された社会体制が崩れてしまう」

 「創造には、常に破壊が付きまとうものです」

 「節目は適度に長い方が良いのですよ。その方が社会基盤を大きくできますし」

 「・・・どうやら共産主義は、日本に根付かないかもしれませんな」

 「共産主義体制のソ連で、もう一度、破壊が起きては困るのでは?」

 「まぁ それは、そうですがね」

 

 

 

 国防の手抜きで外交、諜報が重視されやすくなる。

 日本は、まだ消極的に情報を収集する段階でしかなかった。

 これが欧米になると、より積極的になる。

 情報を盗むとか、スパイ能力とか、工作能力が高いとかいうレベルではない。

 人生を買い取るだけの大枚をはたける、という意味だったりする。

 情報を一つ売るだけで外国で、一生遊んで暮らせる。

 宮仕えで一生を終わる人間だと、そういう誘惑は辛い。

 国家公務員の給与の過剰と思える高給。

 ある階層以上の地位の者に支払われる賃金の大きさは、実のところ、これだったりする。

 結局のところ、他国より自由で裕福で利便性が良く、住み易い国は誘惑に強く。

 そうでない国は、監視社会にしたり、家族を人質にとったり、死の制裁で圧力をかけたり。

 日本で公共投資が繰り返され、

 国民の権利である民主・自由が強くなったのも裏切り防止に近く。

 設備投資と民間活力が増大し、

 社会資本が流動的に動き、景気も良くなっていく。

 ある程度、豊かになり、自由を謳歌できるようになると、

 日本国内に別荘が作られ、白人が住み始めたりする。

 東北に共産圏外国人別荘地帯があった。

 日本人の情報関係者たちが峠から村を監視する。

 「日本に外国人が住むというのは、どうだろう」

 「主義主張は気にしなくても良いと思うよ」

 「少なくとも利害関係でいうと彼らの行為は、売国行為に近いからね」

 「祖国に帰ると危ない連中ということか」

 「口は便利だよ。共産主義を拡大させるためと言いつつ。武器弾薬の密売をしてくれる」

 「どうせ、兵装の換装で余った武器弾薬が流れてきているだけだろう」

 「地の利さえあれば旧式であっても勝てると思うよ」

 「問題は、満州・朝鮮の国力だよ」

 「どう考えても、カムチャッカ半島、ボルネオ島を合わせたより大きい」

 「ところがソビエト連邦は、満州・朝鮮の連邦離脱を恐れ始めているのさ」

 「本当に?」

 「モスクワから離れた場所に欧州以上の潜在能力を秘めた州を抱え込むと・・・」

 「自主独立を求めたくなる?」

 「自主独立を求めようとすると、必然的に日本との友好関係を保ちたくなる」

 「そう上手くいくかな」

 「内政がうまくいかなくなれば必然的に分離独立を検討し始めるよ」

 「なるほど・・・」

 「特に失敗した場合、日本に亡命したくなるような環境があれば・・・」

 「なるほど、名目上は、共産圏村で実は、亡命村か・・・中国人は?」

 「中国人は別の場所が良いな。遠目だと日本人と見分けがつかないからね」

 「でもさぁ 日本人って、こういう、諜報関連って、弱いんじゃないの」

 「自分で戦うのが好きだからね」

 「他者同士戦わせてシードに納まるという発想がないから」

 欧州では主義主張で殺傷沙汰だった。

 しかし、アジアでは、南北中国人の利己主義が冷戦を有名無実なものにしていた。

 もう一つ、反共親露を国是とする日本の国策も米ソ冷戦の根拠を薄れさせる。

 人間は、主義主張で憎み合い、殺し合えるのだろうかと。

 本当は、利害関係で憎み合い、殺し合うのではないだろうかと。

 このアジアの中国人と日本人から突きつけられるアンチテーゼが米ソ冷戦構造を綻ばせていた。

 米ソ超大国の利害を主軸とした国際秩序に組み込めるか、

 組み込めないかで緊張の度合いが変わる。

 緊張の度合いが薄まれば、特定勢力は、利権構造を保てず収益が減る・・・

 

 

 ワシントン

 「南北中国の癒着腐敗、日本の反共親露は、米ソの利害体制の障害になっている」

 「共産主義は、人類にとっての災厄ですよ。覚醒剤のようなものだ」

 「いや、むしろ、無気力と怠惰な症状を起こす共産主義がアヘン」

 「幻覚症状と一時的な心身の活性化は、資本主義に近いですな」

 「そういう、自虐はやめたまえ」

 「能力がある者は、資本、資源、労力を集約して社会を前進させる。合理的だよ」

 「能力が世襲するとは限りませんよ。創業の能力と持続の能力は明らかに違う」

 「企業は、社会から必要とされているなら生き残れるよ」

 「どうだか、醜く生き残る輩も出てくる」

 「2代目3代目が馬鹿であるのは不幸だがね」

 「それで企業が潰れてしまうのなら資源の再配分で健全だよ」

 「巻き込まれる社員は、どう思うかね」

 「子供は、無知で視野が狭い」

 「大人は硬直化して視野を広げられない」

 「まともに育てば、まともな選択をするよ」

 「だと良いけどね」

 「しかし、我々は、大多数の人間に兵士であることを求める」

 「将軍であっては困るのだ」

 「我々は、無慈悲でないとしてもだ。弱肉強食が資本主義の根幹だよ」

 「弱肉と強食を間違えるべきではないよ」

 「弱肉が多く、強食が少なくならなくては、また大恐慌だぞ」

 「わかっちゃいますがね」

 「本題に戻ろう」

 「中国と日本を冷戦構造に組み込まないと、我々の収益が目減りするということだよ」

 「第二次世界大戦で膨れ上がった軍産複合体を維持するため」

 「冷戦構造で同盟体制を構築し利権を吸い上げる。手っ取り早いよ」

 「日本がソ連兵器というのが面白くないよ」

 「兵装がソ連製でも。民需関連はアメリカ製だよ」

 「利益構造で言うと、それほど困らないがね」

 「国際社会で冷戦を幻想と臭わされるだけで迷惑だよ」

 「黄色い猿どもは、高潔な主義思想で死ねないのだ」

 「“笛を吹いても踊らず” だな。キリストの悩みが骨身に染みるよ」

 「アジアが、我々の思想で踊ってくれないだけだろう」

 「幸福と不幸を食い物にする宗教もあれば、平和と戦争を食い物する産業もある」

 「喰われる側にとっては、嘆かわしいことだ」

 「とにかく、米ソ冷戦構造は、維持しなければならない」

 「工作が進んでいない原因は?」

 「中国人でしょうな。あいつらは、主義思想では殺し合わない」

 「次が日本人か、民米・軍露の枠組みは困る」

 

 

F-8J クルセイダー

 

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 月夜裏 野々香です

 国産兵器はわずか。

 戦車無し、国民巻き込み戦略で、軍部の失権回復が微妙に進みそうです。

 積極財政、消極財政。

 盲目的に、どちらの味方をするつもりはないです。

 メリット・デメリットは、どちらにもあるようです。

 

 日本は、アメリカの属国ではないので、高利潤で産業を大きくできず。

 構造上問題ありのリバティ船、ビクトリー船の改修で疑似的に経済を立て直しています。

 規格品質の向上は、戦訓の我流で、国際競争力は微妙。

 しかも、軍事は、ソ連がお得様で、なんとなく、東よりだったり。

 

 

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第16話 1957年 『戦車がないよ』
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