月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第19話 1960年 『ゲージ大戦の兆候』

 戦後、1947年から1949年まで起こった “昭和の改新”

 大量の餓死者と暴徒による富裕層の殺戮、人間不信が影のように付きまとう。

 総人口7500万は、1918年レベルの5500万に減少。

 それまで、我が世の春を謳歌していた軍人貴族、軍属富裕層は、排斥されていく。

 そして、1500万がボルネオ島に逃亡。

 残った日本の人口は、1890年レベルの総人口4000万。

 領土拡大で国家生存圏を確保したものの、

 軍属富裕層と取り巻きを淘汰で人的労働力が薄めれてしまう。

 農村置き去りで貧富の格差を増大させても都市と沿線で国家再建を進めていくしかなかった。

 しかし、それまで累積、蓄積された資財が振り分けられて富農が急増。

 そして、規格が統合され、軍事費の削減。

 中国内戦の特需と

 米英の揚子江権益維持と存続のための需要が日本経済を好景気にさせ。

 日ソ関係が好転したことで資源が得られやすくなり採算性が向上する。

 余程のボンクラ執権者でも、なければ失策はなく。

 日本の官僚機構も、それなりに機能し、

 土建族にとって理想的な利権体制が構築されていく。

 そして、1960年、日本の総人口は、1905年レベルの4500万に増加する。

 この時期の各国の総人口。

 アメリカ・ソ連1億7000万。イギリスの5200万。

 フランス4500万。ドイツ6600万。イタリア5000万。

 ボルネオの日系人1700万を除けば日本の人口は、フランス並みだった。

 

 ドイツは、敗北したことで政治的ペナルティを負って国土縮小。

 資本主義西ドイツと共産主義東ドイツに分断、

 自由と共産の思想の優位性を賭けた焦点となった。

 米ソ冷戦構造の下で、戦後の困窮と混乱の後、低迷期から徐々に回復していく。

 敗戦で、国家生存圏を捨てさせられ、

 戦勝国に足枷手枷の雁字搦めにされていた。

 戦後は、国家戦略で取捨選択が狭まり、

 資本、労力、資源を高密度で効率良く集中させて国際協調を進め。

 アメリカ資本の増資を受け、

 1950年から1960年にかけ急速に復興、国家産業を再建してしまう。

 軍事費で手抜きした事が幸いしたものの、国情は日本と異なっていた。

 西ドイツの平均成長率は、日本に次ぐ。

 国民総生産もフランスとイギリスを抜いてしまう。

 日本が量の拡大で成功し、西ドイツは質の向上で成功したともいえる。

 この時期、日独両国とも補完し合える要素があった。

 もっとも、経済的な誘惑で取引が行われるのであり、

 政治的には疎遠だった。

 そして、揚子江の米英権益地にドイツ商人が居つき始める。

 日本は工作機械を欲し。ドイツは資源を欲していた。

 米英権益地に日独の商館が作られ、

 繁雑に取引が行われるようになっていく。

 

 

 01月01日 フランス領カメルーン独立。

 

 04月04日 フランス領セネガル独立。

 

 04月27日 フランス領トーゴ独立。

 

 06月26日 フランス領マダガスカル独立。

 

 06月30日 ベルギー領コンゴ(現在のコンゴ民主共和国)独立。

 

 06月 イギリス領ソマリランド独立。後にソマリアと統合。

 

 07月01日 イタリア領ソマリア独立。旧イギリス領ソマリランドと統合

 

 東京

 戦後、古い街並みが崩され、

 上下水を含めた再開発が進められていく。

 餓死2000万と領土拡大は、再開発を容易にさせた。

 主戦派軍属1500万人の公職追放と村八分でボルネオ州に移民したため。

 町並みは、古さと新しさを混ぜ合いながら再建されていく。

 道路は拡張され、

 荷を満載したトラック、客を乗せたバスが増えていく。

 「随分、トラックが増えたじゃないか」

 「むかしは荷車だったからね。舗装されていないから辛かったな」

 「仲間が徴兵されたからね」

 「少ない人数で馬車馬のように荷車を押していたっけ」

 「そうそう、赤紙逃れとか影口叩かれてサイダー飲まなきゃ やっていられなかった」

 「それでも、配給品を届ければ喜ばれたよ」

 「結局、機械は鉄道まで。あとは、人力だったからね」

 「しかし、車を電気で走らせると使い古した蓄電池が溜まるし、充電も時間がいる不便だな」

 「沿線に人を集めたいのだろう」

 「それに舗装されていなくても電気自動車は、それなりに強いよ」

 「舗装されていないと6輪より、8輪が欲しくなる」

 「ガソリン自動車は?」

 「アメリカと疎遠だから、ガソリン自動車は後回しだと」

 「アメリカに依存してでも、アメリカの技術が欲しいよ」

 「依存すると、良いように誘導されるから、突っぱねているんじゃないか」

 「アメリカ石油資本を敵に回すと厄介だと思うよ」

 「どうせ、ソ連と組んで、睨まれているよ」

 「人口が減ったおかげで、自給率が高いのが強みだけどね」

 「安く買い叩き過ぎると農村と都市部の貧富の差が激しくなる、また暴動になるぞ」

 「まさか。飢えるほどじゃないよ」

 「どうかな。一度、暴走を覚えると、味をしめて、またやりたくなるものだ」

 「富農が増えているからね。そこまではやらんだろう」

 「富農といってもな。機械化しないと」

 「このままだと労力を農業に取られて、農業国家になってしまうぞ」

 「そうだった」

 「農業は、基本だけど土着で自給自足で自己完結な連中は、どうもなぁ」

 「庭付きの家で菜園があるくらいで十分だと思うけどね」

 「副収入があると、残業しなくなるから困るよ」

 「だよねぇ 余暇の事とか考えられても困るし、仕事に意識を集中してもらわないと・・・」

 「もっと、沿線に設備投資して人口を都市に集中させるべきだろうね」

 「それで田舎の土地を売らせるんだね」

 「そうしないと土地を売らないし、都市に人が集まらない」

 「それは言えるけど。いまのところ、元主戦派軍属の土地が使えるから、何とかなるだろう」

 「でも、主戦派軍属って、曖昧だよね」

 「良いんだよ。レッテル貼りで利用しているだけなんだから。同和と同じ」

 「軍部と軍属に餓死者2000万の責任をおっ被せているだけか、不憫」

 「驕れる平家ってやつかな」

 「おかげで、国内の軋轢も減って、衣食住の問題も粗方片付いたよ」

 「追い出そうとしていた側が追い出されたわけね」

 「その方が移民速度も速かったのでは?」

 「満州は、31年から45年の14年間に85万」

 「ボルネオ州は、47年から60年の13年で1500万。移民船も満載。金持ちが動くと違うねぇ」

 「しばらくは、移民の必要がないのでは?」

 「もう、レッテル貼りは必要ないよ。人手が足りないくらいだ」

 「元主戦派軍属。怒ってなきゃいいけど」

 「怒ってると思うよ」

 「命懸けで戦って戻ってきたら家族ごと殺されて家財奪われて」

 「飢餓の代償で殺意向けられたんじゃね」

 「理不尽だったな」

 「理不尽なことなんて腐るほどあるよ」

 

 

 戦艦ウラル 艦尾格納庫

 ソビエト政治将校がアフリカ革命軍の代表たちを見送る。

 PBYカタリナ飛行艇をライセンスした飛行艇が艦尾から滑り降り、

 海面を滑走しながらアフリカ大陸へと向かっていく。

 アフリカ独立運動の裏にソビエト戦艦シベリア、ウラルが潜在的に存在する。

 沖に現れた巨大戦艦がアフリカ諸国の独立を助けると知ると、独立機運も奮い立った。

 もっとも、実利で言うと武器弾薬の供給は別の商船で行う。

 シベリアとウラルは、目立つだけの陽動に過ぎなかった。

 戦艦ウラル 艦橋

 「・・・政治将校殿。客人は、引き揚げたかね」

 「少しは、独立に弾みがつくだろう」

 「独立は、植民地経営が採算割れした時点で確実でしたよ」

 「重要なのはソビエトの親派になれるか、でしょう」

 「この勇ましい戦艦を見せれば、少しはソ連寄りになるだろう」

 「ウラルとシベリアは、今世紀もっとも活躍した戦艦として名を残すでしょうな」

 「戦わずにかね」

 「戦っていますとも、彼らの独立のために戦いたいという衝動とね」

 「そして、戦わずに勝つのが戦略の常識でしょう」

 「政治将校殿からは、戦いたいという衝動を全く感じないがね」

 「戦いが始まれば、軍の発言力が強くなる」

 「我が祖国は、文民統制ですから」

 「ふ・・・口は便利だ」

 「差別と不公平感は、いかなる世界にもある」

 「我々は武器弾薬を支援して、それを増長すれば良いだけ」

 「上に立つ者を引き摺り落としたい気持ちは誰にでもある」

 「ソビエトは勝てますよ」

 「上に媚びて、引き揚げてもらいたい気持ちも誰でもあるだろうね」

 「むろん、否定はしませんがね」

 「アフリカは、ずっと踏み躙られてきた。共産主義は有利でしょうな」

 「では、せいぜい、アメリカ、イギリス、フランスの足を引っ張りますか」

 

 08/01 フランス領ダオメ(現在のベナン)独立。

 08/03 フランス領ニジェール独立。

 08/05 フランス領オートボルタ(現ブルキナファソ)独立。

 08/07 フランス領コートジヴォワール独立

 08/11 フランス領チャド独立。その後、チャド内戦でリビア、フランスなどが介入。

 08/13 フランス領中央アフリカ独立。

 08/15 フランス領コンゴ(現在のコンゴ共和国)独立。

 08/17 フランス領ガボン独立。

 08/  イギリス領キプロス独立

 

 

 戦後、日本の外交戦略は、漁夫の利。

 自ら戦うことを避け、大国同士をいがみ合わせ、利益を攫う。

 戦術では、ランチェスターの法則を軍事・商業に転用することができた。

 第一法則 「A0−A=E(B0−B)」 同数対峙。

 第二法則 「A02−A2=E(B02−B2)」 集中効果の法則、(確率戦闘の法則)

 強者側も、弱者側も、勝ちやすい戦略は一つ。

 あらゆる謀略、兵站、戦略、戦術、機動が “多数 VS 1” を目指す行動だった。

 無論、同じ兵体系・兵装を使っていた場合が大前提であり、

 仮に日本軍が、アメリカ軍、または、ソ連軍を穴熊引き籠り戦略に引き込んだ場合。

 第二の法則が適応されにくくなり、

 逆に弱者側の数値が上回ってしまう可能性も出てくる。

 日本海海戦のT字戦も不可能ではない。

 そして “E” の部分、兵装の部分で違ってくる。

 航空支援、海上支援による圧倒的な電撃作戦は、地上制圧に対し有効だった。

 しかし、地下施設に対し航空戦力、艦隊戦力、戦車戦力は、効果が小さく薄くなる。

 航空戦力、機甲戦力、砲兵部隊が遊兵化され

 守備隊 + 要塞  VS  侵攻軍(歩兵)  の戦い。

 防衛側は、地上が制圧されて代償が大きくなり、

 基幹産業の地下移転が重要になっていく。

 

 白レンガの住人たち 図上演習

 将校たちが渋い顔しつつ、図上のコマを見つめていた。

 九十九里上陸作戦に成功した後、

 世界最強の艦隊は、日本近海を遊弋し封鎖するだけ。

 海峡は突破できず、遊兵化していく。

 そして、戦車陸揚げしても、地下を制圧できない。

 「毒ガスとか、細菌兵器を使わないとね」

 「そんなものが使えるか」

 「水攻めは? ポンプで地下に海水を流し込む」

 「内陸までポンプを守れれば良いけどね。だいたい、入口がわからん」

 「それに内壁を閉めたら海水の浸入ぐらい防げるだろう」

 「展開の利かない地下戦闘なんて、陸軍はやりたくないだろう」

 「というより、陸兵だけが苦戦するのがまずい。不公平感は、軍全体の士気にかかわる」

 「しかし、ミグ17、19、21戦闘機って、こんなに強いものなのか?」

 「山刳り貫いて飛行場建設するなんて汚いよね」

 「日本は天候が良いから、平均するとソ連空軍より飛行時間が長いだろう」

 「日本は、人口が減っただけで、こんなに強くなるのか?」

 「島国のくせに海上封鎖も平気って、なんだ」

 「その前に軍民混在のゲリラ正規戦って、卑怯過ぎるだろう」

 「部隊に民間人も撃ち殺せって命令するのか?」

 「だ、誰が命令するんだ?」

 「・・・と、ところで、シュパーギン41とトカレフの数は、本当にあってるの?」

 「密輸分は、推測だよ」

 「もうAK47の方が多いよな」

 「ソ連軍は、削り出しのAK47から、プレス加工のAKMが主力になっているだろう」

 「じゃ 日本への密輸分が増えていないか。計算が違ってくるぞ」

 「地下出入口の穴を塞ぐだけじゃダメなのかな」

 「どこに出入り口の穴があるんだ」

 「民間の地下施設でさえ、規模が大き過ぎて、把握できん」

 「まして、軍施設になったら、どうなっているやら・・・」

 「セメントか・・・日本の石灰石って、そんなに良質なのか?」

 「元がサンゴとか生物の殻とかだろう。内陸より炭酸カルシウムの純度が高いからね」

 「そんなに集まるのか」

 「海洋プレートが日本海溝に流れ込んでいるらしいから、純度は高いと思うよ」

 「工作機械は大したことないし、鉱物資源の少ない日本向きの戦略ということね」

 「そういえば、アメリカ製の武器弾薬も流れているよな」

 「アメリカ軍産複合体は、国家主義じゃなくて資本主義の牙城だからね。流しているだろうよ」

 「中国を経由させられると、いくらでも日本に入るだろうな」

 「機密性の高い最新兵器じゃなくて、歩兵携行兵器だから、やすいもんだ」

 「日本は、ほとんどの装備を既存の技術で、安物買いで済ませている」

 「日本の潜水艦は?」

 「水中で6500トン級。こいつだけは、国産で金を掛けているようだ」

 「通常型潜水艦に限定すると、世界最強のような気がするな」

 「今年から年間3隻ずつ建造していくらしい」

 「艦齢20年で計算しているから、海軍大綱は60隻になるな」

 「潜水艦の艦齢なんて、潜航深度でどうにでもなるよ」

 「水上艦艇は?」

 「潜水母艦を建造しているだけで、まだ大戦中の艦艇を使っているよ」

 「潜水母艦って海底送電チューブで、潜水艦に充電させるやつだろう」

 「大型潜水艦なのに潜水母艦が必要なのかな」

 「潜水母艦と同一行動か、別行動か、わからないって事じゃないのか?」

 「どうせ、まともな水上艦艇はないのだから、海上封鎖できるだろう」

 「だから、こちらの海上封鎖艦隊を攻撃するための潜水艦隊だろう」

 「んん・・・」

 「日本基地は要塞化しているから抵抗力と持久性は高いよ」

 「輸送機が往復すれば足りる」

 「日本軍は、もう暴走しないのかな」

 「農地解放だろう。地主も、家主も、権力者も一掃されたからね」

 「毒気が抜けているみたいだな」

 「日本は、なんで、軍国主義に走ったんだ?」

 「軍隊に入ったやつが初めて肉と卵と一緒に食って」

 「もっと食べたいって思ったからって、誰が責められる?」

 「こ、根本的に貧しかったんだな」

 「背伸びし過ぎたんだろう」

 「“昭和の改新” 以降、貧富の差も、それなりに収まってる。」

 「日本人って意外と共産主義向きかもしれんな」

 「思想じゃ生きてないよ」

 「事勿れも、長いモノに巻かれるも島国の処世術だろうね」

 

 

 09月22日 フランス領マリ独立。

 

 

 ニューヨーク国連会議場

 ソビエト代表は “植民地主義非難決議” を出すと。

 “ソ連の東欧諸国支配こそ、植民地主義であり、非難されるべきだ”

 と言い返されてしまう。

 議場でソビエト批判が高まりを見せようとしていた。

 ソビエト代表は、発言を求めるが無視される。

 激しい音が議場に響いた。

 発言を無視され、

 怒った同志フルシチョフ(66歳)がテーブルを靴で叩くという行為だった。

 国際会議で、これだけの蛮行が出来る爺さんは稀と言える。

 経緯がどうであれ、56年、フルシチョフのおかげで日本は、理事国入り。

 日本にとって同志フルシチョフは、恩人だった。

 『もう、頼むよ・・・』

 しかし、この時ばかりは他人の振り・・・

 

 

 日本とソビエト連邦の国境地帯が白銀に染まり、

 両国の国境警備兵が行き来していた。

 アムール国境駅は、その性質上、大きな駅になっていた。

 日ソの鉄道が国境線ホームを挟んで停車する。

 貨物車用ホームと客車用のホームは、効率上の問題で分かれていた。

 事前に積荷の検査とパスポートの確認がなされているため、

 手続きは簡略化されている。

 日本の列車は航空機のような流線形車両。

 ソ連の列車は箱型。

 日ソとも、同じ1520mmゲージだった。

 電圧の問題さえ、クリアされれば、そのまま、ソ連領側、日本領側に乗り入れることができた。

 しかし、日ソ双方とも、いまのところ積み替え、乗り換えしていた。

 日本は人口減、国土増加。

 富裕層の需要に応えているのか、

 海鮮類の缶詰工場が建設されて、食糧輸出国となっていた。

 日本の余剰食糧が冬になろうとする極東ソビエトに流れていく。

 日本の新幹線は、大きく回り込みなら樺太へと戻り。

 ソ連の列車は後戻りしながら引き返していく。

 日本人とロシア人の鉄道代表が黒テンの毛皮を被って、乗り換えの様子を見ていた。

 「日本食もそうですが、食糧が美味いですな。アヘンのように癖になる」

 「日本は、観光に良いところですよ」

 「まぁ 確かに侵略すると、お・も・て・な・しは、受けられませんからね」

 「働けば収入も増え、日本で観光ができるなら楽しみも増えて生産性も上がるのでは?」

 「ウォッカばかりが人民の楽しみでは、国家のモラルも怪しくなるからね」

 「日本とソ連は、補完し合える関係だと思いますよ」

 「だと良いが日本が反共ではね・・・」

 「利害関係が同じなら、協力し合えるのでは?」

 「たとえば?」

 「たとえば・・・ソ連、日本、中黄連邦が1520mm。中華合衆国と欧州・中東側が1435mm」

 「ふむ」

 「インド・パキスタンの1676mm鉄道が1520mmになるとユーラシア鉄道の優位性が変わってきますな」

 「国防上の問題で同じゲージを使いたくないのですが・・・」

 「経済も戦争なんですよ」

 「採算で負ければ鉄道の貨客が低下して利益が縮小する」

 「負担は国家と国民が負うことになります」

 「・・・なるほど」

 「つまり、経済で一旦、不利になれば、ペナルティを課金され続ける」

 「賠償金ですか?」

 「戦争で負けるのと変わらないですな」

 「ええ、文句を付けられないくらい合法的にね」

 「では、インド・パキスタンの鉄道を1520mmゲージにできれば・・・・」

 「欧州と中華合衆国の鉄道を一端、1520mmゲージで分断させて、2度、乗せ変えさせられますな」

 「んん・・・」

 「そのため、欧州と中華合衆国の鉄道利用は廃れ」

 「ソ連、日本、中黄連邦、インドで鉄道網が栄える」

 「・・・なるほど・・・有利でしょうな」

 「しかも日ソ印パで大陸鉄道網を構築」

 「大西洋・インド洋・大西洋の海運とも連結させられる」

 「良いかもしれませんな」

 「さらにベトナム、タイ、ビルマのゲージは1000mm」

 「これを1520mmに変えてもらえたら南中国の標準軌1435mmは国際的に孤立させることができる」

 ロシア人が共産主義者らしく微笑み。

 日本人も金に目が眩んで、ほくそ笑む。

 日本としては、ソ連がアメリカと付き合って軍拡競争をするより。

 国家間の経済効率を高めた方が将来性が良かった。

 日ソ両国のユーラシア大陸鉄道網計画に対し、米英は足並みが揃わない。

 新大陸のアメリカ合衆国は自動車社会であり、旧大陸と陸地で連結されていない。

 鉄道の重要性は低く見られ、

 船舶より航空機が意識されるようになっていた。

 さらにトランジスターが量産され、電子情報産業も予算を割かれていく。

 イギリスは島国で直接的な利害が薄く。

 フランス、イタリア、東ドイツ、中華合衆国は力不足。

 さらに軋み合うような不協和音でシンフォニーを奏でていた。

 

 10月01日 イギリス領ナイジェリア独立。その後、ビアフラ紛争が発生

 

 戦後、日本の国防は、トラック攻防戦とスマトラ・ジャワのゲリラ戦の戦訓が使われた。

 機能を精鋭化させるより、抗堪性が追求され地下に潜る選択をする。

 しかし、戦勝国でさえ戦訓は重要視され、敗戦国ならば尚更。

 何とか引き分けた国でも、戦中、苦戦した分野は手を出したくなる。

 トランジスターの開発は、戦中、真空管の不良で悩まされた日本人の戦陣訓とも絡んでいた。

 「ようやく、トランジスターも国産か・・・」

 「真空管より良いね」

 「空気の入った真空管は、真空管と言わないよ」

 「よくフィラメントが焼き切れたっけ。酷かったからねぇ 戦時、戦後の規格」

 「というより、なかったからね。規格」

 「そういえば、メートル法も “昭和の改新” のおかげか」

 「軍需系は、反動で一気だったけど。民需系は、まだ尺貫法が根強いよ」

 「そりゃ 土建屋じゃ 坪、畳は、当り前、度量衡を現役で使っている業者もあるよ」

 「新しい工業品と違って、伝統的なのは、生活に密着に絡んでいるからね」

 「次は、あいつらだな。良い気になりやがって」

 「まぁね どうせ、増長するに決まってる」

 新規開発は、予算配分の事で、それなりの割り振りを受けた。

 貧民層から地主、大家、企業が吸い上げた金に税を掛けていた時代と違い、

 企業が多様化し、中富農の激増で税収体系が複雑化する。

 官僚を増やせばいいのだが、それだと、増えた官僚を養わなければならない。

 国家は、規制という手綱で国民を御し、

 税収を確保できるなら国民ほったらかしが楽だった。

 社会基盤が作られていくと業種の多角化に備えなければならず。

 計算能力が求められ、真空管よりマシなモノを求められた。

 地下の某工場

 外光を集光させて地下に誘導し、足りない光源を電力に頼っていた。

 発熱電球が消え、蛍光灯の技術が進んだのも他国より必要とされたからだった。

 そして、地下施設の良いところは、外から見られず、

 関係者以外立ち入り禁止も侵入も困難で防諜関係で優れていた。

 「シリコンもゲルマニウムも、ようやく及第点か」

 「ちっ インチなんて使いやがって、不良品はいい加減、泣かされたよ」

 「もっといい、工作機械が欲しいよ」

 「資源も欲しいけどね」

 「資源があったら資源を売って生計を立てようとするから、日本は近代化しなかっただろうね」

 「それは困る」

 「資源がなければ工作機械で加工貿易で生計を立てるよ」

 「日本の近代化は、当然の帰結」

 「貧しき者は幸いなのか」

 「貧し過ぎても、ひねくれそうだな」

 「土建屋に予算を取られ、社会資本も奪われている」

 「そんなに穴に潜るのが良いのかね」

 「重厚長大の時代でもないだろうに」

 「海軍が建造している “アレ” を思うと、軽薄短小の時代とも言えないだろう」

 「“アレ” か・・・ウドの大木だな。価値があるのか」

 「ソ連が新規建造を出さないから、しょうがないという感じかな」

 「ソ連も欲しがるかもな」

 「それはあるかもしれん」

 「どちらにしろ、電子産業の力不足が招いた結果だよ」

 「質で負けたからって、量で補う態度はどうかと思うけどね」

 「開発コストは、当たりはずれが多いから、余力がないとかけられないよ」

 「・・・いずれ、そうなるよ」

 「ソ連の工作機械は、どう?」

 「ん・・技術云々より、希少金属をふんだんに使った力技が羨ましい」

 「いまのソビエト連邦の隆盛は、満州と朝鮮半島の住人を採掘で酷使させた事にあるな」

 「トータルバランスは、アメリカ製だろう」

 「しかし、ドイツ製は良いぞ、耐久年数も長く、長く使っても精度も落ちにくい」

 「部品番号が同じなら問題なく使える。使い勝手は最高だよ」

 「それは、それとして、ソ連の希少金属のおかげで、日本の工業化は、上手くいきそうだよ」

 「ソ連の真似して、希少金属をふんだんに使ってか。有難味が薄れるな」

 「通貨や工作機械に希少金属を余計に使っていれば、イザというときの戦略資源になるよ」

 「しかし、戦前戦中より土地が増えているのに穴に籠もるって、どうかと思うよ」

 「防空で手抜きした予算がこっちに回ってくるのなら良いよ」

 「まぁ 地上が爆撃し甲斐のないものばかりだと、爆撃もやる気がうせるだろうけどね」

 「地下40mに地下フロンティアがあるのは、悪くないよ」

 「採算が合えばね」

 「国防は保険だよ。地下も保険」

 「上陸や空襲にさらされる国民がどう思うやら」

 「戦略目標のほとんどが地下だと、空襲は国民の敵愾心を煽るばかり」

 「上陸作戦も躊躇するだろうよ」

 「だと良いけどね」

 

 

 11月28日 フランス領モーリタニア独立。

 

 

 トラック

 アメリカ旧式戦艦アイダホ、ニュー・メキシコ、テネシー、コロラド、ウェストバージニア。

 5隻は、トールボーイの直撃を1発から3発ほど受けていた。

 重厚なコンクリートと装甲を粉砕したが内部構造にまで被害が及ばず。

 修理が終わると要塞であり続けていた。

 ミシシッピ、カリフォルニアは、座礁後、酸素魚雷で穴をあけられていた。

 戦後は悲惨な状態で野晒しだったが解体されつつあり。

 メリーランドも浮上させられたあと一時、記念艦として残されそうになった。

 しかし、これも予算の関係で解体されつつあった。

 トラック環礁は、環礁内の掃除が終わると、海軍基地であり続けた。

 もっとも、基地の規模が拡張されていたにもかかわらず、兵力は3000に縮小。

 巨大な環礁に艦船10隻、潜水艦5隻が環礁に浮かんでいるだけだった。

 戦艦テネシー 艦橋

 「最前線の島というのに平和だな」

 「揚子江にアメリカとイギリスの利権がある間、太平洋は大丈夫なのでは?」

 「それはどうかな。不落のトラックでも、こうも、人手がないとな」

 「戦争が起これば、すぐ予備役を召集できますし、AK47も十分足りますよ」

 「しかし、ポナペの方が基地として大きくなってる」

 「ポナペの方が大きいですからね」

 「ですが、ポナペも大軍を置いておく余裕はないようです」

 「まぁ お互い様なんだろうな」

 「張り合って、浪費するより、安く済ませたいでしょうからね」

 「ソ連がターボファンエンジンの開発に成功すれば良いんだがね」

 「ターボジェットは燃費の問題がありますから・・・」

 巨大ヘリが艦橋をかすめるように飛び立っていく。

 テネシー要塞に沿って飛行場が建設されていた。

 そのおかげで、巨大な空母の艦橋ようにも見ることができた。

 ミルMi6フック

 全長33.18m×直径35m×全高9.86m。

 重量26500kg/最大重量41700kg。

 4100馬力。最大速度250km。航続距離500km。

 乗員5人+61人。または積載量6000kg〜12000kg。

 世界最大のヘリは、定期便で島を回るため軍民にかかわらず利用していた。

 そして、基地には、最新型のミグ21戦闘機も配備されている。

 時折、離着陸を繰り返していた。

 「“アレ” は、役に立つのだろうか」

 「さぁあ、何ともいえませんね」

 「少なくとも、質より量で、電子戦で対等以上だと聞いてますよ」

 「そりゃ あれだけのモノを建造したら、対等かもしれないがね」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 『国防戦記』も少し長くなりそう。

 点(戦場)、線(補給線)、面(戦略)、立体(国家)、

 架空戦記も、視点と視野の違いで範囲も複雑さも広がりそう。

 さらに仮想歴史に近付くと歴史的な慣性とか。

 4次元的な事象も含めて考察していくことになるので、神視点。

 とはいえ。とはいえ、なのである。

 日本の社会基盤の低さ、社会資本の乏しさ、

 ソ連と組むと科学技術で後れを取りそう。

 なので先端技術の取捨選択は厳しく。

 穴熊引き籠り戦略は継続です。

 人口増加は、仕事が忙しいと計算、史実のプラス12年と同じにしています。

 

 

 日本の工作機械は、1950年前半にアメリカで開発され、

 NC(数値制御)工作機械が軌道に乗り。

 工場に行き渡る1970年以降まで、日本は、ドイツ、アメリカに太刀打ちできません。

 もっとも、このNC(数値制御)工作機械。

 削ったり、切ったり、穴を開けたり、曲げたりは同じなのですが・・・

 旧式のドイツ製工作機械の切り口、切れ味の良いこと。

 削り出されたクズの綺麗なこと、裁断された反動の静かなこと。

 なんで、こんなに長持ちして、同じ機能で、この差は、なに? って、くらいです。

 年代の新しいコンピューター制御の日本製工作機械が、

 旧式ドイツ製工作機械に負けるな!

 コンピューター制御は便利なだけか。

 長く使っていくと微妙に狂ってるぞ。

 ハードは、しっかり作りやがれ。

 日用品だとシェーバーがわかりやすいかも、

 最近は、個人差もあって日本製シェーバーも悪くないのですが・・・

 まぁ 日本製を贔屓したくても、ドイツ製を使ってますね。

 私用でそうなのだから、不良品抱え込み、採算割れで赤字経営の工場なんて・・・

 やっぱ、高くてもドイツ製が・・・

 

 

 工作機械は、製造する工作機械以下の精度しか製造できません。

 しかし、工作機械の精度は、年々、向上している。

 実のところ、工作機械の向上は、トンビが鷹を生む。

 たまたま、偶然、本体より精度の良い工作機械が生まれる。

 そして、それが新しいマザーマシンとなる。

 この繰り返しで工作機械の精度が向上していく。

 なので、累積され蓄積された優良工作機械の総数と厚みが勝負。

 日本の工作機械の歴史は短く、層も低く、量も少ない。

 まともなフライス盤が作れなかったとか。

 改良しようとすると軍人に邪魔されたりとか

 その辺が不利でした。

 

 

 トランジスター

 1947年

 日本 NHK技術研究所の内田秀男がトランジスタに相当する増幅回路の発明を報告。

 しかし、GHQの検閲で揉み消されたという説あり。

 当時の日本は、トランジスターに必要な高純度のシリコンとゲルマニウムの結晶を入手できず。

 

 1948年6月30日

 AT&Tベル研究所のウォルター・ブラッテン、ジョン・バーディーン、ウィリアム・ショックレーらの

 グループが発明。1956年 ノーベル物理学賞受賞。

 史実の日本も、真空管で苦戦した反動で、それなりに電子関連に力を入れていらしく。

 この戦記も、同様ですが、史実より土建族が強いので微妙かも。

 

 この頃、インドネシアの総人口は1億を突破です。

 

 

 

  NEWVEL 投票        HONなび 投票

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第18話 1959年 『気休めにはなるね』
第19話 1960年 『ゲージ大戦の兆候』
第20話 1961年 『動かざること・・・』