月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第20話 1961年 『動かざること・・・』

 01月20日 ケネディ大統領就任演説

 “強大な2つの陣営は、現状路線を進む限り安心できない”

 “現代兵器の膨大な費用に苦しみ”

 “原子の火が死の恐怖を着実に拡散させてバランスを崩し”

 “人々は、人類最終戦争を押し止めようと争っているのである”

 “我々 両陣営は、新たな関係を構築しなければならない”

 “礼儀正しい交渉は、弱さではなく、誠実は、常に証明しなければならない”

 “恐怖を交渉の材料にすべきではなく”

 “恐怖のために交渉するのではない・・・”

 “専制、貧困、疫病、戦争など、人類の共通の敵に対し”

 “世界的な同盟を結び闘えないものだろうか”

 “アメリカ人よ。国家が何をしてくれるかではなく”

 “あなたが国家のため、何をできるか、問おうではないか”

 “世界の市民よ。アメリカが何をしてくれるかではなく”

 “我々と共に人類の自由のため、何ができるか、問おうではないか・・”

 ワシントンDCからポトマック川を渡ると、

 バージニア州アーリントン国立墓地が存在する。

 日本人とロシア人が墓地の中をなんとなく歩いていた。

 なぜここなのか、というと、

 霊前を歩く人間を証拠もなく、不用意に詰問したりしない。

 見晴らしが良く、盗聴されているような兆候があれば、すぐわかる。

 読唇術ができる人間がいると微妙でも、注意して話せば、わかり難い。

 「・・・ケネディ大統領は、どうするつもりだろうか?」 ロシア人が鼻歌混じりに面白がる。

 「あのスケコマシの病人が意地を見せると核戦争ですよ」 日本人が不安げに応える。

 「わかっているよ」

 「だと良いのですが」

 「アメリカの民主主義は、よく病気持ちのスケベェを大統領にしたものだ」

 「力量を確認してもよかろう」

 『恩人とはいえ、フルシチョフといい勝負だよ』

 「・・・藪蛇にならなければ良いのですがね」

 「共産主義の宗主国であるソビエト連邦が、もう一つの世界の雄を試すのだ」

 「悪い事はあるまい」

 「適当に退いてくださいよ」

 「わかっている。ユーラシア大陸鉄道は、我々にとって、希望だよ」

 「ひょっとして、ケネディが退くと淡い期待を持っているのでは?」

 「さぁて、あのスケコマシ病人が、どうする気やら・・・」

 「同じ症例の患者と話したのですが自殺したくなるとか」

 「なるほど、栄誉の花束となるか。死に花となるか。ケネディの力量次第というわけか」

 「程々に・・・」

 「ふっ」

 

 

 インドネシア連邦の総人口1億1200万。

 インドネシア連邦議会は、上院と下院に分かれた大統領制だった。

 6州で50人ずつ300人選出する上院。

 人口比で300人を選出する下院でインドネシア連邦議会を構成していた。

 ボルネオ州の総人口2400万人のうち日系人1800万人、現地民600万人。

 そのボルネオ州予算がインドネシア連邦予算の8割を捻り出していた。

 アメリカ資本は、スマトラ・ジャワ州の経済植民地化を進め。

 日系人はボルネオ州を中心に居ついていた。

 インドネシア系華僑は570万ほど。

 インドネシア全域で根を張って第3勢力を占めていた。

 日米とも、インドネシア連邦全体に支配権を拡大しようとする。

 アメリカ資本は、基本的に南米に似た経済植民地化で搾取を目指し。

 日系人は、ボルネオ州を核にして、インドネシア全域に支配権を広げようとする。

 アメリカ資本は圧倒的に強く、同じ資本力のある華僑と結びつこうとし。

 一方、日系人も現地民と結託して巻き返していく。

 「ボルネオ州は、連邦予算の8割を捻り出している」

 「しかし、上院の票数は6分の1。下院は、5分の1の発言権しかない」

 「だから、ボルネオ州とセレベス州を好きにさせているじゃないか」

 「・・・7割自治よこせ」

 「い、いや、それはちょっと・・・」

 「だったら連邦予算で、アメリカ製を買うな」

 「脱税の方法は、いくらでもありますよ」

 「そういう問題じゃないだろう。連邦で相応の権利の要求をしたいものだ」

 「いぁあ〜 あはは・・・」

 ボルネオ代表議員は、州が連邦に納める予算比で発言力があった。

 

 

 アメリカ合衆国にとって、キューバ共産化は喉元に突きつけられたナイフだった。

 それまで、アメリカ本土に脅威が届かなかった事で得られた経済成長の鈍化もありえた。

 アイゼンハワー前大統領とCIAは、キューバ亡命部隊による、

 キューバ反革命作戦を進めていた。

 しかし、ケネディ大統領が就任すると引き継ぎが行われず。

 反キューバ革命計画だけが曖昧な状態で残された。

 この政権交代の節目、比較的短い国策の断絶が民主主義国家の弱点といえた。

 とはいえ、キューバ共産化は、アメリカ安全保障上の懸念事項であり、

 計画が実行される。

 04月04日 ピッグズ湾事件

 アメリカ人は、謀略を仕掛けるより、

 攻撃を受けた時に戦意が発揮されやすく、

 亡命キューバ人部隊(2000人)の上陸作戦は、キューバ軍20万に撃退される。

 

 

 04月12日 ガガーリン 有人宇宙飛行。

 

 モスクワ

 「日本が建造している “アレ” は、役に立つのかね」

 「対潜・対空でしたら十分、利用価値があると思われます」

 「防衛力は?」

 「気持ち程度かと思われます」

 「費用対効果は?」

 「工作機械の精度が低くても建造可能」

 「平時であれば、利用価値があると思われます」

 「んん・・・」

 「ソビエト海軍にとっても有用かもしれません」

 「建造できるのか?」

 「検討してみますが日本の方が得意かもしれません」

 「日本は、信用できるかね?」

 「ソビエト海軍で戦艦シベリア、ウラルの稼働率は最高です」

 「そうか・・・・」

 「ところで、同志」

 「どうして、アフリカ、東南アジアに流しているはずの武器弾薬が日本に流れているのだ?」

 「えっ!」

 「崇高な共産主義の精神が毒されているのではないか?」

 「い、いえ、そのような事はないかと」

 「現地の共産ゲリラには、きちんと売却しているはずですので・・・」

 「まさか、日本の生活用品と武器弾薬を交換しているのではないだろうな?」

 「す、すぐ、調査してまいります。同志」

 「本当に日本は信用できるのかね」

 「利害が一致していれば、信用できるかと・・・」

 「・・・」

 

 

 ワシントン

 「民主勢力に引き渡したはずの武器弾薬が消えている報告を受けているが・・・」

 「食糧、日用品と交換に日本へ流れているという報告を受けています」

 「ちっ 国産で兵器体系、武器弾薬を固めないかと思えば、今度は、我々の邪魔をしやがる」

 「そんなに食糧や日用品が大切か?」

 「日本の工作機械はやわですから、そういうモノを大量生産する方が良いのでしょう」

 「あの “アレ” は、やわと言えないだろう」

 「構造はしっかり作っているようですがね、戦争用ではありませんし・・・」

 「原子力空母エンタープライズより、つかえそうだな」

 「まさか、弱点が大き過ぎますよ」

 「艦隊を建造するかと思えば、あんなものを・・・」

 「電子戦能力で劣っている弱点を補ったのでしょう」

 「大は小を兼ねるかね」

 「下手に艦隊を建造するより戦えると踏んだのでしょう」

 「戦えるのかね」

 「破壊は可能ですよ。簡単に無力化できるでしょう。脅威となりえません」

 「では、何のために建造したのだ?」

 「平和な間は、有用ですし、開発中の核兵器を誤魔化していると思われます」

 「あんな、資源も出ないような国を、どこの国が攻めるか、バカバカしい」

 

 

 05月31日 南アフリカがイギリス連邦を脱退。

 

 ケープタウン沖

 戦艦シベリア 艦橋

 「ようやく、ここまでたどり着きましたな」

 「ソビエトは、他国に依存していないから駄目だな」

 「横柄過ぎて交渉事が進まんよ」

 「本国は、資源がありますから必要なモノが少ない」

 「それは、他国に依存する必要性が低いという事でしょう」

 「海外では不利だな性格だな」

 「軍艦を動かそうとしても、食糧がようやく揃うと水がない」

 「水が揃ったと思ったら、燃料が半分足りないですからね」

 「燃料が来たと思ったら、今度は、ウォッカだと・・・何やってんだか」

 「おおらかな性格ですから」

 「日本を見てみろ、国外に依存することが多過ぎて、他国との人脈、金脈の幅と層の厚いこと」

 「やる事に卒がないですからね」

 「ったく、ソビエトも、もう少し、上手く、やりくりしてもらいたいものだ」

 「・・・来た」

 「元々 陸軍国ですし、いま頃、到着しても、遅いのでは?」

 「遅いのは確かだがね」

 「南アフリカの連邦脱退は、KGBと関連あると思わせることができるだろう」

 「ないので?」

 「なくはない」

 「微妙な言い回しですな」

 「諜報活動なんて、そんなものだよ」

 「ベーキングパウダーのようなものだ。パンを大きくできる」

 「実態は、もっと小さいので?」

 「何をいう。ベーキングパウダーを入れないパンが美味いと思うかね」

 「なるほど」

 「上手く膨らませられる諜報活動ができる諜報機関が優秀なのだ」

 「つまり、祖国の諜報機関は優秀ということですな」

 「そういうことだ」

 「反共の日本と組むのは、良いので?」

 「国際共産主義が不利でもロシアの国益で有益なのだ」

 「“アレ” を日本に発注するとか?」

 「まだ本決まりではないがね」

 「核兵器や戦車ばかりでは、物足りなかろう」

 「それに外海の航路を閉ざされた国にとって有用だろうね」

 「だと良いのですが」

 

 

 06月03日 ベルリン危機

 ソ連は、ウィーン会談で東ドイツと平和条約を結び、

 ベルリンより軍隊を撤収させるべきと主張。

 アメリカは、西ベルリンを見捨てないと反発。軍事的緊張が高まる。

 08月13日 ベルリンの壁建設。

 

 

 インド

 ソ連、日本、中黄連邦は、1520mm広軌鉄道でユーラシア大陸鉄道を計画していた。

 当然、印パ紛争は、不利益でしかなく日ソ揃って、印パ調停を勧める。

 そして、ソ連、日本、中黄連邦、インドのユーラシア大陸鉄道網構想が西側に発覚し、

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、西ドイツ、中華合衆国を刺激する。

 「インドは、鉄道を1435mmに切り替えていただきたい」

 「インド鉄道は1676mmのはず。内政干渉はやめていただきたい」

 「中華合衆国と欧州をユーラシア大陸を南周りで結べば、インドにも有益なことですよ」

 「ソビエトも、似たような意見を言いますがね」

 「もっとも、ソビエトは、南周りでなく、北回りで1520mmですが・・・」

 「インドに共産主義が入り込めばカースト制は、終わりですぞ」

 「日本は、反共ですがソビエトと仲良くやっているではありませんか」

 「・・・・」

 「それは、ソ連がインドをユーラシア鉄道に組み込むまでのこと」

 「インド共産化を狙っていることは明らかです」

 「まず、パキスタンを説き伏せてはいかがですかな」

 「仮にインドが1435mmに切り替えたところで、パキスタンが1520mmでは、同じこと」

 「むろん、そのことは理解しています」

 「しかし、アジアの雄インドが1435mmで先行しなければ、恥をかくのでは?」

 「まぁ 無論、そういうことも、ありましょうが・・・」

 

 

 

 香港島

 租借地部を返還したため残された香港島は80ku。

 桜島とほぼ同じ大きさだった。

 この島は、中黄連邦と中華合衆国の両方から富が集まる。

 香港島の日本人が特別、実力があるわけでもなく、能力があるわけでもなかった。

 中国人にとって楽して稼ぐ人間は成功者であり。

 苦労して稼ぐは馬鹿だった。

 香港に資本が集まるのは約束が守られたからであり、

 金を預けても、大丈夫だったからだった。

 皮肉な事に日本人が軽蔑されるほど、気真面目に苦労して働いていただけだった。

 それだけで、地価当たり日本最高の利潤を上げてしまう。

 古めかしい中国船が船場に着くと積み荷を降ろし始める。

 特に珍しい光景ではなかったものの、

 その日に限っては、いつもより人数が多かった。

 「これかね」

 「これある」

 小口径・高初速突撃銃の走り、M16A1の初お目見えだった。

  全長 銃身長 弾薬 弾数 重量
AK47 870mm 415mm 7.62mm×39 30 4.30kg
シュパーギン41 840mm 269mm 7.62mm×25 71・35 3.50kg
           
M16A1 999mm 508mm 5.56mm×45 30・20 3.5kg
ガーランド 1100mm 600mm 7.62mm×63 8 4.37kg
カービン 904mm 457mm 7.62mm×33 15・30 2.49kg
トミーガン 813mm 267mm 11.43mm×23 20・30 4.74kg
           

 香港島の地下にも大きな地下空間があった。

 M16A1の試射の後・・・

 「造りが良いねぇ さすがアメリカ製」

 「シュパーギン41じゃ勝てんね。AK47は、どうだろう」

 「AK47より軽いよ。弾数が多く持てそうだ」

 「小口径は、貫通するだろう」

 「当たりどころじゃないの尖突形状弾は、体内でヨーイングするし」

 「なにより、数撃ちゃ当たる」

 「これで、ガーランドとカービンが値崩れ起こして、こっちに回ってくるかな」

 「混乱しないか?」

 「敵の武器も理解していた方が有利だよ」

 「アメリカが敵とは限らないだろう」

 「どっちも知っておくべきじゃないの。どっちも使えるのは、有利だから」

 「しかし、カービンはともかく。ガーランドは大き過ぎないか?」

 「いいよ、待ち伏せ側だから」

 「待つのが辛いけどな」

 「戦訓だよ」

 「敵に先制攻撃させ、反撃する方が敵に憎しみを向けやすく、士気を保ちやすいからね」

 「そういう心理面って、ほんと、不文律だからねぇ」

 「しかし、数に頼るのは、日本人に向かないよね」

 「むかしは、一航戦、二航戦だけで戦おうとして負けたからね」

 「当時は、総力戦の意味も知らないバカ軍人が多くて、部隊内差別も大きかったからね」

 「傲慢でバカな本妻の子が資産を持ち出してトン死」

 「妾の子の5航戦が火の車の家を立て直そうと頑張ったわけだ」

 「良くある話しだな」

 「しかし、少数精鋭主義の反動が平均向上主義か」

 「結果が予算不足でゲリラ正規軍だと辛いな」

 「既成事実にも、歴史にも、昔の偉い人にも、媚びるつもりはないよ」

 「想像力を優先するのは良いけど、それ “昭和の改新” のおかげだろう」

 「そうだけど、最初から日本国民を戦禍に巻き込まないと、戦意を保てないだろうね」

 「本土決戦こそ、軍民合わせた、総力戦だからな」

 「でも素人に銃を振り回されるのが怖い」

 「予備役なら射撃訓練くらいするよ」

 『人間に向けて撃ったことがあるやつは、年々減って行くからな・・・』

 

 

 10月30日 ツァーリ・ボンバ(史上最大の水素爆弾)。

 

 11月25日

  原子力空母エンタープライズ。 建造費 4億5000万ドル(円為替280円=1260億)

  日本メガフロート洋上基地 北の“八島” 南の“厳島” 建造費 800億

 戦前・戦中の旧式艦艇が退役していくにつれ、

 日本海軍の主力は潜水艦隊へと移行していく。

 日本の国防戦略が穴熊引き籠り戦略になると攻撃力がなくなり、

 国際的発言力が低下する。

 その穴埋めが日ソ中印まで含めた大陸鉄道1520mm軌網構想であり。

 基地の抗堪性と持久性を高くし、輸送を軽減させたことにあった。

 日本潜水艦部隊に攻撃力が集中し、

 潜水艦を支援する艦船も大きくなっていく、

 そして、海上戦力は、いくつかの取捨選択の結果、

 13万9000トン。全長1200m×全幅120m×吃水10mの

 メガフロート “八島” “厳島” を建造。

 奇しくも原子力空母エンタプライズ

 75700トン。全長336m×76m×吃水10.7と同じ日に就役。

 おかげで、アメリカ原子力空母エンタープライズと、

 日本洋上基地 “八島” “厳島” は、全く違うコンセプトでありながら対比される。

 

 八島 (北ピンのある海域 日本から、ほぼ1000kmの洋上)

 空母に似た洋上の構造物は、拘束具で海底に固定される。

 計算上15mの高波に耐えられる構造が求められ、

 何重もの消波装置に囲まれていた。

 移動用ウォータージェット推進機関が念のため装備されて自力航行速度は12ノット。

 黒潮の最大速度4ノットに逆らう事もできた。

 管制塔と大型レドームが洋上高くそびえ、

 航空機用の格納庫が滑走路に沿って並ぶ。 

 潜水艦用ドックが艦尾側にあって、4隻を格納できた。

 そして、浮力に余裕があり、さらに増築拡張できるようになっていた。

 八島 艦橋

 「同じ時期に就役したからとって、エンタープライズに勝てるわけなかろう。迷惑な話しだ」

 「潜水艦の補給基地と対潜哨戒の洋上基地ですからね・・・」

 管制塔要員は、緊張した趣で滑走路に進入してくる大型機を見つめる。

 アントノフAn12カブ輸送機 ターボプロップ3945hp×4発が八島の滑走路に着陸する。

 「ほぉ 着艦できるようだな」

 「橋梁計算なら100トンは行けるそうです」

 「橋梁を足すとか、隔壁内の空気圧を高めれば、もっといけるとか」

 「装甲が薄くても隔壁区画数だけならシベリア以上か・・・」

 「着陸は良いとして、離艦は、どうでしょう」

 「滑走路は1000m。積載重量を調整できれば、離着陸できるだろう」

 「とりあえず、輸送機で交替要員を入れ替えられそうです」

 「しかし、ロシア製がこうも増えるとはな、そんなに安いのかね」

 「いろいろ裏があるようです」

 「輸送機を買ってくれたら、武器弾薬をあげるから、とか?」

 「日本に航空機を輸出できれば、国際的にも大きな顔ができますからね」

 「ソビエト製輸送機が太平洋を飛べばソビエトも気分が良いだろう」

 「ですが八島は、タダの箱ですし、戦争が始まれば、一巻の終わりですかね」

 「そうだろうな。しかし、積荷を調整しての離着艦だと困る」

 「機体は、軽量化する必要があるだろう」

 「いざという時の脱出用ですからね」

 「この八島も、潜水艦と洋上哨戒の中継基地で適当なら良いのだろう」

 「攻撃されたら助かりませんけどね」

 「哨戒レドームは、エンタープライズのフェーズドアレイレーダーより高い位置にある」

 「質はともかく、索敵条件は有利ですね」

 「質より量だよ。直径18mの陸上施設用レドームなら精度で負けないだろう」

 「哨戒機を飛ばせば周囲600kmは、最大哨戒圏になると思われます」

 「八島があるからって本土側のレーダーサイトが手抜きされると困るがね」

 「そこまでは、怠けてないと思いますが」

 「メガフロート基地を2基建造して、洋上に配置か。なに考えているのかね」

 「ですから、外洋に島の代わりに配置して、哨戒機と潜水艦の基地なのでは?」

 「むかしは、大海軍国だったのに・・・」

 「オホーツク海、日本海、北太平洋、東シナ海にも1基ずつ配備するそうです」

 「周囲に島がないのなら、有用かもしれないがね」

 「耐久年数は、120年だそうですから」

 「軍艦の30年未満より長いですし。元は取れるかもしれませんね」

 「海軍の華は砲艦外交だ」

 「砲艦外交用の巡洋艦を15隻ほど建造するそうです」

 「どうしても空中哨戒と潜水艦の作戦能力を高めたいようだな」

 「栄光の艦隊運用が遠ざかりますね」

 「政府は、巡洋艦を運用するより良いと考えているのでしょうか?」

 「メガフロートなら高度な艦隊運用や技能を必要とされない」

 「それにコレだけ大きいとストレスもたまり難い」

 「日本は、海洋国家であるべきだと思いますが」

 「民間船は増えているし、政府が燃料をケチりたがっているのだろう」

 「満州油田が入手できるのに・・・」

 「アラビアの油田の方が安くて良質らしいな」

 「そっちから購入すべきでは?」

 「発電所の燃料だけなら満州油田で足りるらしい」

 「政府は、燃料消費より、電化ですか」

 「戦時中は、燃料で泣いたから、ソ連に依存し過ぎるのを嫌っているのだろう」

 「電化で軍の侵略性を抑制したいのでしょうか」

 「本当は、北太平洋で4基ほど欲しいのだがね。嫌われたもんだ」

 「土建屋に言わせると、国防に隙がなくなり、内地が聖域化すると軍属の腐敗温床になると」

 「どっちが腐敗しているんだか」

 「軍部は冷や飯ぐらいですからね」

 「見てろよ。次は、土建屋が墓穴を掘る番だからな」

 

 

 

 製鉄所

 装甲は、炭素鋼(スチール)。

 それに希少金属のニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)が加わる。

 製銑、製鋼、圧延、焼き入れ、焼き戻しなど、

 複雑な作業工程で鍛えられた鋼は、強靭さが増していく。

 硬性を追求したマルテンサイト組織は、ガラスと同じだった。

 そして、粘り強さ、靭性を追求したトルースタイト組織も重視される。

 さらにマルテンサイト組織を焼き戻し、

 粒状化させ靭性を含んだソルバイト組織も製造される。

 日本が戦前、VC装甲(ビッカース社)、KC装甲(クルップ社)を習得した技術が基本だった。

 戦前、戦中、戦後は、借り物の冶金技術をマニュアル通り製造していた。

 当然、蓄積されたノウハウも薄っぺらなものであり、

 ちょっとした手違いを収拾できず無駄になったり。

 一枚製造するのに1か月を要し、品質は、安定せずピンからキリまであった。

 当然、研究の余地も残されていた。

 複雑な構造を要求されないメガフロートは、冶金技術を向上させることで有益だった。

 日本は、特定の構造物を多数製造し、

 各種の高張力鋼を製造し、比較検証する。

 “八島” “厳島” の建造は、実験的な要素が多分に含まれ、

 日本の冶金技術を向上させた点で評価された。

 結局、冶金技術は、経験を蓄積し優性遺伝的に累積した技術の結晶であり。

 上げ底を履いた借り物状態では、採算と品質は安定しない。

 日本が冶金技術を工業レベルで安定供給できるようになり、

 列強と肩を並べたのも、

 このメガフロート建造によるところが大きかった。

 

 

 ハルピニスク

 ソビエト連邦が国力を増強させた要因の一つとして、満州・朝鮮の併合があった。

 日本にとっての救いは、ソビエトの矛先が中国大陸、印パ、中東に向けられていたことにあった。

 ソビエトにとって日本との交易は、それだけ有意義であり、有益だったと言える。

 そして、ウラジオストック共和国と改称された満州・朝鮮域は、急速にロシア人の人口を増していた。

 この地域だけでも日本の国力に準ずるか、

 追いつくだけの潜在的可能性を有していた。

 「日本のメガフロート技術ですが。どうでしょう、我が国でも検証させて頂きたい」

 「無論、対価は支払います」

 「誤解のないように言っておきますが、あれは、要塞ではありません」

 「構造は半軍用と言えるものです」

 「どのような代償が良いでしょうか?」

 「そうですねぇ やはり、安全保障上のことですから、核技術など・・・」

 「核技術ですか・・・」

 「むろん、日本独自でも核技術は予算さえ、投じれば、可能ですが・・・」

 「まぁ お互い、無駄な投資をしても良い事は、ないでしょうが・・・」

 「日本海と東シナ海に一基づつ配置する予定です」

 「ソ連側は、アジア太平洋側で遠慮していただくこと」

 「そして、ソ連がメガフロートを建造する折は、北大西洋側か、インド洋にお願いしたいですな」

 「随分、日本に都合が良すぎますな」

 「大西洋側に配備するのでしたら、日本で建造を助けても良いかもしれません」

 「大西洋は遠いですぞ」

 「八島、厳島で培った技術は、さらに向上していますよ」

 「日本の誠意と日本製の品質は、戦艦シベリアとウラルで確認していますよ」

 「鉄道の相互乗り入れの件でも日ソ友好は進んで、利益も大きくなっている」

 「日本の、でしょうな」

 「公平なはずですよ」

 「ええ、日本の新幹線が不公平なほど優良なだけでしょう」

 「新幹線がシベリアと中国大陸を走れるとは、我が国の技術者も感無量です」

 「まぁ 我が国の航空機が日本の空を飛べるのなら、それは、それで嬉しい限りですがね」

 「出来れば、日本の新幹線も、ソビエトの航空機も、インドまで伸ばしたいものですな」

 「ええ、同感です」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 戦艦建造後、設備投資分をどうしようかと思いましたが・・・

 史実と違って、電子戦で不利。

 大は小を兼ねるで、メガフロートと潜水艦。

 巡洋艦は、おかざり、というか外交訪問用でしょうか (笑)

 国防が穴熊引き籠り戦略のため、かなり攻撃的な海軍になってしまいました。

 穴熊将棋という奴でしょうか。

 核兵器も開発していますから、とりあえずという感じです。

 

 

 史実のエンタープライズは、1ドル=360円なので、1620億円くらいでしょうか。

 為替変動性の関係で、日本の成長率も微妙に違うかもです。

 

 レーダーですが精度は当然、探知範囲、解像度共にアメリカの方が優れています。

 もっとも、水平線より上はともかく、水平線の影になった先は見えません。

 あとは、三平方の定理(113×√目の高さ(km)×1.06)でしょうか。

 エンタープライズの飛行甲板までの高さは海面から20m。

 レーダーの高さは、海面から40m(探知範囲約30km)くらいでしょうか。

 八島のレドームが海面から100mほど高い位置なので探知範囲(約37km)で有利です。

 なので、精度で負けていても、水平線の先がちょっとだけ余計に探知できます。

 なぜ、日本海軍がメガフロートを建造したのか、

 レーダーの精度で劣っているので、高さと発電能力の力技で・・・・

 

 

 冶金技術

 科学技術レベル。工業レベル。採算レベルなどなど、

 いろいろ、レベルがあるかと思います。

 日本の冶金が、ようやく、列強の水準。

 “同じ品質で大量生産できますよ” に、近付いたという感じです。

 シリアス系の戦記なので、アニメのように突然、高性能兵器が出てきたりはしません。

 

 

 ツァーリ・ボンバは、広島型原子爆弾の3300倍だそうです。

 なに考えているのでしょう。

 そんなにギネスに載りたかったのでしょうか。

 

 

 

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