月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第21話 1962年 『キューバは燃えているか』

 北大西洋を時計周りに大きく海流が流れ、

 無風無潮の淀んだ海域が中央に生まれる。

 帆船時代は、魔の海域。

 外輪船時代でさえ、難所の海域であり。

 強力なエンジンでスクリューを回し、

 海藻を引き千切れる現代も採算ベースで航路を避けたい海域。

 サルガッソー海と呼ばれる海域は、浮遊性の海藻(サルガッスム)に由来する。

 アメリカ沿岸地域から数世紀掛けて漂った海藻は行くあてもなく、

 その海域に溜まる。

 そして、不凍港を欲するソビエト連邦は、サルガッソー海に目を付けた。

 計画は、全長342m×全幅50mの20万トン級の高張力鋼の箱物を60個横に連結。

 完成すれば全長3km。全幅342mの巨大メガフロートになった。

 それは、人類史上最大級の人工構造物でも、現実は小さな島に及ばない。

 このメガフロートが真価を発揮するとしたら近くに島のない大洋の真ん中しかありえない。

 「これが新型メガフロートですか」

 ロシア軍将校がケースの中のメガフロートと戦艦シベリア、ウラルの模型を比較して驚く。

 一つのユニットでさえ、シベリア型戦艦に勝る。

 それが60個。

 模型でも呆れる。

 「八島、厳島より大きいので、こんなものでしょうか」

 「んん・・・大型機の離着陸はできるのでしょうな?」

 「ええ、橋梁計算上も、十分、余裕を持たせましたから」

 「海藻のホンダワラは、活用できそうですか?」

 「バイオエタノールの可能性はあるかもしれません」

 「産業にまで育つかというと、まだ微妙ですな」

 「出来れば日本と共同研究と行きたいですな」

 「悪くない提案ですが、何か含みでも?」

 「対米戦略上の理由ですよ」

 「世界平和と貢献のため日ソ共同で新規事業を計画・・・」

 「あはは・・・」

 「北大西洋の中央にメガフロートを配置する公式的な口実が必要ですからね」

 ソ連は、費用対効果の関係で日本にメガフロートを発注建造させる。

 反共と言いながら、その実、利敵行為と言えなくもない。

 もっとも、経済力のある側に従っただけであり。

 お金持ちのアメリカ資本も揚子江利権を確実にするため、

 日本企業に土木建設事業を発注していた。

 総合的にお金持ちのアメリカが得である、といえなくもない。

 そして、キューバのカストロの動きと合わせ、

 アメリカは、日ソ関係に神経質になり始めていた。

 北大西洋 中央付近

 日本の調査船 白鳳丸

 船員たちが海面を漂う海藻を見つめる。

 「風と海流は、ほとんどない。栄養になるミネラルも少ない。酷い海だね」

 「透明度60m以上だ。潜水艦にとっても、いやな場所だな」

 「200m以下の深層水は、イギリスに向かって、北東に移動している」

 「んん、1時間に1、2mでは、刺激がないな」

 「本当にこんな場所にメガフロートを建造するのか?」

 「それで、シベリアからパイプラインで石油が入ってくるのなら悪くないよ」

 「アラブ石油の方が安そうだけどね」

 「アラブは、アメリカとイギリスに押さえられているから入り難い」

 「鉄道に集中し過ぎだろう。自動車にしろよ」

 「国策とはいえ、電気自動車は運用がどうもな」

 「公用車だけガソリンエンジンを使いやがって」

 「どうでも良いけど、アメリカの自動車会社と石油会社が険悪になっているぞ」

 「アメリカとイギリスが意地悪するからだ」

 「相対的な関係だろう。ソ連と仲良くするからだ」

 「生きていくために無節操に食い散らすのが人間だよ」

 「とはいえ、ひがみ、やっかみな、不良と組んでも良いことないのだがな」

 「少なくとも共産圏という市場があるのは悪くないよ」

 「それにユーラシア大陸鉄道で可能性も広がる」

 「インド、パキスタンが、こちら側につけば、大きいけどね」

 「うん」

 

 

 

 北硫黄島 面積5.57ku。海岸線長8km。最高標高792m。

 硫黄島  面積23.16ku 最高標高169m。

 南硫黄島 面積3.54ku。海岸線長7.5ku。最高標高916m。

 一番、小さく不便な南硫黄島にレーダーサイト基地が建設したのは、標高916mの高さにあった。

 ここにレドームを建設すれば、周囲海域114kmを監視できて都合が良く。

 小笠原諸島、硫黄島、マリアナ諸島のラインを監視する上でも好都合だった。

 とはいえ、まともな湾もない島だったため岸壁を無理やり掘削していく。

 土建屋業の最盛期なのか40m幅の洞穴が掘られていく。

 「火山島なのに危ないよな」

 「硫黄島は海岸線があるけど、南硫黄島と北硫黄島は、海岸線がないから難攻不落だな」

 「兵站線を確保できればね」

 「ヘリ装備の巡洋艦を建造する方が良いと思うがね」

 「仮に火山が爆発するとしても、基地は、巡洋艦より寿命があると思うよ」

 「しかし、山頂のヘリポートは、霧が多くて微妙だな」

 「だから、岸壁を刳り貫いて港を作ったんだろう」

 「落盤しないだろうな」

 「コンクリートと凝固材は、しっかり入れているよ」

 「補給をたたれたら、お終いだな」

 「備蓄は軍艦より大きいし、どうせ、100人しかいないだろう」

 「・・・の割には、対空・対艦・対潜と大規模だな」

 「地上だから、軍艦より載せられるからね」

 「いざという時の事を考えると、漁礁と田畑くらい欲しいよ」

 「まぁ それに緊急時は、500人くらい増援しないと」

 

 

 ソビエト地上軍は戦力的に優位だった。

 西側諸国は、戦力の不足を中距離弾頭ミサイルで補い。

 ソビエトも、中距離弾頭ミサイルを向けることで対抗する。

 西側の中距離核弾頭はソビエトにまで届き。

 東側の中距離核弾頭は欧州を納めるてもアメリカ大陸まで届かない。

 ソビエトは、中距離弾頭をキューバに配備し、

 東西の軍事バランスを釣り合わせようと画策する。

 

 10月13日

 ワシントンDCからポトマック川を渡るとバージニア州アーリントン国立墓地が存在する。

 ロシア人と日本人が墓地の中をなんとなく歩いていた。

 「・・・ケネディ大統領は、どうするつもりだろうか?」

 「あのスケコマシの病人が意地を見せると核戦争ですよ」

 「わかっているよ。キューバで退く」

 「代わりにインド鉄道とサルガッソ海のメガフロートで押し通す」

 「最初からキューバで退けばいいのに」

 「共産主義の宗主国であるソビエト連邦が新興共産主義国家キューバを見捨てられるか」

 「まぁ 落とし所は必要でしょうが適当に退いてくださいよ」

 「わかっているよ」

 「希望のユーラシア大陸鉄道を進めようとしているのにキューバで足をすくわれてたまるか」

 「ひょっとして、ソビエトは、ケネディが退くと淡い期待を持っているのでは?」

 「あのスケコマシの半病人が、どうする気やら・・・」

 「ったく。激情家の、ど田舎爺さんといい勝負かもしれませんな」

 「同志フルシチョフは、色狂いの半病人ケネディが退くことを期待してますよ」

 「工作はしているので?」

 「ふ 演出家のケネディが、どう出るかくらい、予測済みですよ」

 「超大国同士の危険なゲームですか」

 「同志フルシチョフは、色狂いの半病人の演出に花を添えているだけですよ」

 「世界の二大超大国の主導者が揃いも揃って、問題ありとは・・・」

 「神は、ロシア人にアネクドート (滑稽な風刺) を作らせるために、この世界を作ったのでしょうな」

 

 

 1962年10月15日

 プレジデント一行が血相を変え、慌ててホワイトハウスへ戻ってくる。

 「閣下、風邪の具合は?」

 「演説ドタキャンの口実など、どうでも良い。全員、集まっているだろうな」

 「はい」

 ホワイトハウスの閣議室は、主要閣僚、東郷参謀本部議長。

 安全保障の高官。議会指導者、CIA長官など、そうそうたるメンバーが集められていた。

 「さっそく始めよう」

 「・・・では、ソ連の港でミサイルが船積みされ、キューバに向かっています」

 「この中距離核弾頭ミサイル群は、アメリカ本土全域を射程に収めます」

 「そして、現在、キューバには、ミサイルの発射基地が完成しています」

 「大した価値もないキューバが、我が合衆国の喉元に短剣を向けているわけだ」

 「大統領は、合衆国に対し、合衆国国民に対し、責任を負わなければならない事態です」

 「合衆国の安全保障を守るため核戦争も辞さないと、証明すべきでは?」

 「・・・極めて深刻な状況が目前に迫っている」

 「「「「・・・・・」」」」

 そして、情報が刻々と集まってくる。

 「・・・現在、キューバには、14基の中距離弾道ミサイルが、配備されています」

 「・・・ソ連は、60基の中距離核弾頭ミサイルの配備を計画しています」

 「アメリカ海軍と空軍に対し、キューバに対する海上封鎖を命令する」

 「そして、いかなる艦船も臨検に応じなければ撃沈する」

 どういった意見が出ようと、大統領が方針を決める。

 アメリカ合衆国大統領に従う。

 それがアメリカ合衆国のシステムだった。

 その夜、アメリカ大統領ケネディが、キューバ危機に対する方針を全世界に公表。

 ソ連側は、アメリカの “海賊行為” を非難。

 ソビエト全軍に臨戦態勢に入るように通達が出され、

 アメリカとの対決姿勢を強めていく。

 アメリカとソ連は、キューバで、一触即発の危機。

 世界中が核戦争に恐怖していた時期。

 アメリカとソビエトは、核戦争を回避するための直接交渉ができない事にハタと気づく。

 

 

 キューバ沖

 ソビエト戦艦シベリア、ウラルと、

 アメリカ戦艦モンタナ、オハイオが並走していた。

 シベリア 艦橋

 「・・・どうやら、本気で海賊行為を働くようだ」

 「独立国への海上封鎖なんて、本来なら宣戦布告ものですよ」

 「こっちが正当なはずだがな」

 「撃ち合うとまずいのでは?」

 「この距離なら、砲数は関係ない。どっちも、第一斉射で沈むな」

 「主砲を相手に向けるべきでは?」

 「アメリカが主砲を向けてからだ」

 互いに主砲を動かさず定位置で、艦隊機動をしていた。

 米ソ首脳部が心配した妄動、挙動、錯乱するようなバカ将兵はおらず、統制が保たれていた。

 もっとも、アメリカ艦隊は、モンタナ型2隻のほか、

 アイオワ型4隻も別に並走する大艦隊であり。

 さらに上空に艦載機が飛びまわる。

 ソビエト艦隊は、戦艦シベリア、ウラルを除くと、弱小艦隊といえた。

 「提督・・・このままでは・・・」

 「戦えば、ソ連艦隊は全滅するな」

 

 

 戦艦モンタナ 艦橋

 アメリカ人が豪胆な神経なら、

 ロシア人は無神経と言える。

 しかし、撃ち合えば、まず助からない近距離では、誰しも青ざめ、

 戦艦シベリアとウラルを見つめる。

 「・・・良く見ると、シベリアも、ウラルも、かっこ良い戦艦だな」

 「私には、死神のように見えますが」

 「撃つかな」

 「まさか。互いに沈めあっても、アメリカ海軍は残りますよ」

 「海中は、どうかね。ソビエト潜水艦隊も展開しているはず」

 「潜水艦の生存率の方が高いでしょうな」

 「もっとも、焦点はキューバ沖だ」

 「そして、本当の戦線は、北極圏をまたいでいる」

 「両方の戦略爆撃機が北極上空で待機中ですか」

 「戦力では、圧倒的だ。アメリカは勝つだろう」

 「ですが大統領も、正念場なのでは?」

 「核戦争を起こした大統領になりたくないだろうな」

 

 

 日本連邦

 キューバ危機は、米ソ全面核戦争を予兆させ、マスコミが騒いでいた。

 帝都 東京

 「むふっ 株価が上がってる♪」

 「穴掘り効果ですか?」

 「全面核戦争になっても日本連邦は、基幹産業が生き残る」

 「回復は早いかもしれませんがアメリカが勝つと思いますよ」

 「だが、政治的混乱は、避けられまい」

 「アメリカがミサイルの矛先を日本に向けなければ良いのですが」

 「ソ連の核ミサイルの方が日本を狙っていたりしてな」

 「どっちも、あり得るから怖いですよ」

 「まぁ ソ連高官の別荘もあるから、そうはならないと思うが・・・」

 「一般市民は、微妙なんですがね」

 「これが一段落すれば、ガッポリだな。地下トンネルの公共事業が増えるぞ」

 「嬉しい悲鳴ですか」

 「そりゃそうだ」

 「やり過ぎないでくださいよ」

 「軍人貴族みたいに日本から追い出されたくないですからね」

 「まぁ 前向きに善処するよ」

 

 

 メガフロート敷島

 雨曇りの空、風速22m。波高11m。

 小さな艦船は、あまり居たくない海域だった。

 消波装置に周りを囲まれメガフロート敷島は、時化の中でも揺れを感じさせない。

 巨大な人工構造物が潮風を跳ね返し逸らせていた。

 大自然に対する冒涜に抗議する風音が耳に伝わり、

 親に反抗した恐れ多い気分にさせる。

 向かい風に対し、メガフロートの艦首を向けるのは、離着陸のためだけでなく。

 音を小さくしたい気分も、たぶんに含む。

 メガフロートが便利なのは、風上向けて艦首を向けられること、

 急な横風でもない限り、航空機の離着艦は可能だった。

 「周囲に艦船と航空機は?」

 「半径200kmは、ありません」

 「まぁ 高波だ。あまり居たくないだろうな」

 「3週間前の台風22号は、ベーリング海に向かって北上しましたからね」

 「それに比べれば、まだ小さいですよ」

 「消波装置は、上手く働いているようだ」

 「ソ連の将校が感心していましたよ」

 「北大西洋にメガフロート建設。本決まりになるかな」

 「キューバ危機の最中ですよ。ありますかね」

 「一応、平和目的らしいがね」

 「信用できないでしょう」

 「キューバより離れているからね。核攻撃で、いつでも破壊できるし」

 「キューバも、そうなのでは?」

 「軍事拠点に原爆を撃ち込むのと、キューバ国民に原爆を撃ち込む重圧は、別モノだろう」

 「確かに軍事拠点なら、核を落としやすいですがね」

 「しかし、この時化で作戦可能は、どうかと思うね」

 「潜水艦はともかく、アメリカ艦隊は、港に入ってますよ」

 「金龍と銀龍は?」

 「定位置です」

 「アメリカ潜水艦の接近は?」

 「Nフィールドの銀龍が2隻を確認し、1隻を見失ったそうです」

 「Sフィールドの金龍は、動かせんか・・・基地があっても、潜水艦がな」

 「8隻体制だと、穴がないのですがね・・・2隻では・・・」

 「送電ケーブルを切れば、潜水艦は、もっと自由なのだがね」

 「ケーブルを切ると電力を失って、孤立してしまいますよ」

 「潜水艦は本来そういうものだろう」

 「原子力潜水艦でないと・・・」

 「AIPも悪くないさ」

 「SOSUS網を強化すべきでは?」

 「潜水艦の性能が向上すると、設備更新が微妙でな」

 「それで、潜水艦曳航式のS-TASSが検討されているわけですか」

 「全長1kmの曳航式ソナーを垂らして囮にする。アクティブソナーで丸分かりだ」

 「海蛇みたいですかね」

 「アメリカやソ連だって、似た様な事をしているだろう」

 

 

 アントノフ An12 “カブ” コクピット。

 「機長。離陸許可が出ました」

 「そうか。行こう」

 航空機にとって重要なのは対地速度ではなく、対気速度だった。

 風速1m/s = 時速3.6km

 向かえ風22mなら駐機状態でも時速79.2kmと同じ揚力を稼いでいた。

 そして、カブが離陸できる速度は、重量比も含めると、だいたい決まる。

 向かい風が強いと、それだけ、離陸しやすく、着陸もしやすかった。

 これが三式指揮連絡機であれば、失速速度が40km/h。

 向かい風に向けてホバーリングどころか、バックも可能だった。

 もちろん、突然、風向きが変わらなければの話しである。

 カブは、見事に離陸し、

 敷島上空を大きく旋回した後、交替要員を帰還させていく。

 米ソが安全保障上の衝突で、北極海やカリブ海で臨戦態勢でも日本は中立国だった。

 過剰に反応する方が危険と判断されていたのか、

 警戒が高まっただけで通常任務だった。

 

 

 そして、キューバ危機で少しばかり溜飲を下げた部隊もあった。

 日本艦隊は、待機調整中とか、待機訓練中から、久しぶりの警戒体制となった。

  排水量 艦齢          
大鳳 30000 18年 大鳳       1隻
瑞鶴型 26000 21年 瑞鶴 翔鶴     2隻
妙高型 13000 33年 妙高 那智 足柄 羽黒 4隻
高雄型 13300 30年 高雄 愛宕 摩耶 鳥海 4隻
最上型 12300 27年 最上 鈴谷 熊野   3隻
利根型 8500 24年 利根 筑摩     2隻
阿賀野 6650 20年 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 4隻
大淀 8200 19年 大淀       1隻
              18隻
秋月型 2700 20年         12隻
夕雲型 2000 21年         12隻

 既に現役と言えない艦隊が、出航準備を進める。

 主砲塔と魚雷が剥ぎ取られ、

 浮いた重量でレーダー、ソナーが装備されていた。

 艦尾は、対潜魚雷、対空ミサイル、対空機関砲、チャフロケット発射機。

 そして、巡洋艦は、水上偵察機の駐機場。

 いずれ、ソビエトが開発するカモフKa25ホーモンが搭載される予定だった。

 それまでの主砲塔が外されたのは、レーダー射撃が可能になったからに過ぎず。

 その他諸々の重量を捻出するために過ぎない。

 巡洋艦の新型60口径155mm砲2基は、24000m先の標的に命中させる事ができ。

 駆逐艦の新型65口径100mm砲2基は、19000m先の標的に命中させる事ができた。

 魚雷が外されたのも対艦隊戦より、

 対潜水艦戦、対空戦の脅威が増大したからに過ぎない。

 ほとんどの艦艇が、次期艦艇の試金石のため実験艦のように改良されていた。

 そして、万が一に備えて待機状態の艦隊の一部に命令が届いた。

 妙高 艦橋

 「・・・この老いぼれに最後のご奉仕の機会が与えられたわけか」

 「父島と母島に医薬品を届けて、戻ってくるだけだそうですよ」

 「やれやれ」

 

 

 ユーラシア大陸鉄道

 新幹線は1520mm広軌。

 高速運転のため、直線、高低差が少ない路線で建設されている。

 新幹線が時速250kmで大陸を滑走していた。

 揚子江の北側で共産勢力が唯一誇れるモノが日本製の新幹線だった。

 高速のため信号機の目視確認は困難。

 自動列車制御装置 (ATC) が路線状態を知らせていた。

 新幹線の全運行は、列車集中制御装置 (CTC) で一括管理。

 複雑な運行システムは、日本式だった。

 システムごと買ったはずが、ロシア人も中国人も使いこなせず

 日本人がユーラシア大陸鉄道を運行させていた。

 もしくは、日本語の分かる者で几帳面マニュアル型人間によって運行されていた。

 そして、几帳面マニュアル型人間は、大陸で少数派で、

 訓練が終わるまで年月を必要とした。

 因みに几帳面を悪く言うと神経質といえる。

 車内レストラン

 3人の高官が揚子江を眺め食事を楽しんでいた。

 白人と一人の黄色人種は、美味しそうに食べ、

 もう一人の黄色人種は、食欲不振。

 「・・・核戦争が間近に迫っているのに大陸の人間は、豪胆ですな」

 「美味い物を食べながら死ねるなら天国ある」

 「ふっ 駅には落とすかもしれませんが、走っている列車には落とさないでしょう」

 「日本の基幹産業は、大地の底。原子爆弾も大丈夫ある」

 「被害が小さいだけですよ。直撃を受けると危ない」

 「日本の場合、核ミサイルを地面に直撃させなければならない」

 「被害半径は少ないですな」

 「そうある。普通は、空中で核爆発させるある。それが世界の常識ある」

 「費用対効果なら地中の基幹産業ではなく、街を狙うと思いますがね」

 「それでも核戦争後、日本の基幹産業が残る。実に大きいですな」

 「そうある。中国も、ソビエトも、日本人を守るため資源を輸出しているある」

 「お二人の別荘は、準備させていますよ」

 「それなら、核戦争が起きても安心ある♪」

 「いま、ここに落ちなければ・・・ですけどね」

 「そんな心配は、我々が中国貧民層に襲撃される可能性より小さいある」

 「中国も、貧富の格差が大きくなりましたからね」

 「中黄連邦は、本当に共産主義国家なのかね」

 「中国は、昔から君子による徳地政治ある」

 「君子ねぇ 気のせいか、利口な人間の方が殺されている気がするがね」

 「自分より頭の良い人間は危険ある。知識を与えてはいけないある」

 「大衆は、労働させるべきある」

 「中国人が中国人で良かったですな」

 「中華思想がなければ、ロシアも、日本も、中国に征服されるところだったよ」

 「元は、シベリアも支配したある〜♪」

 「あれは、モンゴル人だったのでは?」

 「元も中華思想に支配されたある〜♪」

 「中国人に支配される大多数の中国人が哀れでならんよ」

 「中黄連邦は、中華合衆国より公平ある」

 「その違いが、ほとんど、感じられないのは、なぜだ?」

 「さぁ 新幹線は質で勝っていますよ」

 「しかし、ハリマン鉄道は、路線距離で勝っている」

 「アメリカは、お金持ちある。南の国民党の方が羽振りが良いある」

 「そういう問題か?」

 「自動車も欲しいある」

 「土木建設機械やトラックとバスは得意ですよ」

 「しかし、自動車は、生憎、後進国でしてね」

 「お金持ちのステータスは自動車ある。それに気付かないのは後進国ある」

 「日本のお金持ちは、ベンツ、BMW、キャデラックに乗りますよ」

 「いくら中国民衆から搾取できても、少し高いある」

 「の、割には、日本より、たくさん走っているようで・・・」

 「中国共産党は、日本のお金持ちより、お金持ちある〜♪」

 「高級バスを検討してみましょう。道を広げれば、自動車より、伸び伸びできますよ」

 「それ良いある。是非、お願いある〜♪ いくらでも道を広げるある」

 「なぜ、中国共産党より、日本の官僚の方が共産主義者のように見えるのだ?」

 「ソビエト共産主義は、古いある」

 「なんだと〜!」

 「酒池肉林を準備したある〜♪」

 「「・・・・・」」

 

 

 ニューヨーク国連本部

 キューバ危機は米ソ超大国の独善場。

 その他の国々は、観客でしかなかった。

 日本も当然その一つに組み込まれている。

 「日本は、アメリカとソ連の、どっちの味方か!」

 「そうだ。なぜ、ソビエトの友好国の日本は、アメリカの敵の味方をしている」

 「違う! 日本はアメリカの友好国だ」

 「ああ・・・両国とも日本を友好国と仰る」

 「「そうだ!!!」」

 「日本の友好国であるはずの米ソ両国は、なぜ、我が日本国の友好国に対し」

 「敵対せよと仰られるのです?」

 「「・・・・」」 ぶっすうぅ〜

 「友好国と言いながら国家元首同士の交流さえない」

 「「・・・・」」 ぶっすぅう〜

 とはいえなのである。

 日本の基幹産業の多くが地下に収められている現実は大きかった。

 無論、直撃させれば済むことだった。

 しかし、潜在的に敵であっても中立国の日本への核攻撃は、国際問題となった。

 ニューヨーク市民は、買い溜めに走り、庭に防空壕を掘り始める。

 もっとも、庭を持たない大多数の市民は

 “我々は、大統領を支持する!” と声高々に宣言。

 

 国連ビル

 「キューバ危機でニューヨークにいるのは心臓に悪いですな」

 「“お使い” に行かれたので?」

 「国連事務総長は、アメリカに封鎖の中止」

 「ソビエトに武器輸送の中止を呼び掛けたよ」

 「国連本部といっても米ソ超大国の核戦争は、指を銜えて見守るばかりですな」

 「カストロは “祖国か、死か。我々に勝利を” と叫んでいるようです」

 「キューバ国民は?」

 「アメリカ打倒を叫んでいますよ」

 「いやはや、当事者だけあって、温度差ですかね」

 「それより、実利的な話し合いができるのでは?」

 「まぁ 火事場泥棒のようにニューヨークに残っているわけですし・・・」

 「日本の土木建設機械を売っていただきたいですな」

 「はて、アメリカと技術的な差異はないはず。自前で掘れるのでは?」

 「この場合、技術レベル云々ではないでしょう。産業レベル。採算レベルの話しですよ」

 「まぁ 輸出できなくもないですよ」

 「こちらも、いろいろ輸出規制を引き上げる事にするでしょう」

 「それは助かります。日本が突出している技術は、一分野に過ぎませんから」

 「むかしは、軍隊。いまでは、土木建設ですか」

 「造船と新幹線も強いですよ」

 「アメリカは航空機社会、自動車社会ですからね」

 

 

 アメリカ証券取引所

 目先の利いた人間、自らの才覚と私財を投機する人間が集まっていた。

 当然、価値ある情報も集まる。

 「フルシチョフは、国連事務総長の提案を受け入れたらしい」

 「プレジデントは?」

 「ミサイル基地の撤去が先と突っぱねた」

 

 

 キューバ沖の上空のアメリカ軍機は、数百機に及んでいた。

 戦艦シベリア 艦橋

 「このレーダーに映る機影は、全て、アメリカ軍機です」

 「やれやれ」

 「苦しいですね」

 「ソビエト艦隊の全滅は、見たくないが・・・」

 「それどころか、ソビエト連邦そのものが、焦土と化します」

 「同志フルシチョフも、それくらいの判断はつくだろう」

 「だと良いのですが・・・」

 「チェスと同じだ。体面を保つ体裁だけは作るよ」

 「ロシア人は、政治的ですからね」

 提督のそばで伝令が敬礼し、電文を渡す。

 「・・・米国の封鎖海域に入るなだと」

 ホッとしたような空気が流れる。

 「まだ粘りますか」

 「退き際を間違えてくれるな・・・」

 

 

 

 アメリカ証券取引所

 「フルシチョフがキューバのミサイル基地を1カ月以内に撤去すると公約したそうだ」

 「プレジデントは?」

 「まだだ・・・」

 「おい! 連絡が入った。大統領は “いま直ぐ、撤去しろ” だそうだ」

 「「「アーメン」」」

 天を仰いで、胸に十字を切る者が続出。

 

 

 国連本部

 「事務総長。キューバに行かれるので?」

 「カストロ首相に晴れ舞台に誘われたのでね」

 「協議期間中はミサイル基地を拡張しないそうだ」

 「強気ですな。お大事に・・・」

 「・・・そういえば、カストロは、アメリカと戦った日本人にも会いたがってたな。君も来たまえ」

 「軍事的には、役に立ちませんよ」

 「そうでもなかろう。日本人がユーラシア大動脈網を管理しているのだろう」

 「行き掛かり上・・・ですかね」

 

 

 10月27日

 S75地対空ミサイルが発射され、

 U2偵察機が撃墜される、

 米ソは極度の緊張状態に陥る。

 「バカな。撃墜したのか?」

 「はい、領空侵犯です」

 「何と言うことを・・・」

 そして・・・・

 

 10月28日

 「キューバのミサイル基地を撤去する」

 フルシチョフの歴史的決断が静かに下された。

 

 

 国連事務総長がキューバに訪問。

 「アメリカ帝国主義は、キューバの主権を脅かし」

 「力付くで捻じ伏せようとしているのだ!!」

 「・・・・」

 「こんな、非道が国際社会で許されるのか!!」

 「・・・・」

 と散々、喚き散らかすと・・・

 「・・・ミサイル基地を解体し、機材を船積みしよう・・・」

 ポツリ

 

 

 証券取引所

 状況は、楽観的になりつつあった。

 「フルシチョフとカストロも折れた」

 空気がなごみ始める

 「ホワイトハウスは?」

 「“口約束では信用出来ない” そうだ」

 「「「やれやれ」」」 天を仰ぐ

 

 

 戦艦シベリア

 「どうやら、引き揚げのようだ」

 「海賊野郎に負けましたか」

 「まぁ 同志フルシチョフは辞任の書類にサインをしたようなものだがね」

 「他にも、いろいろ問題あり、でしたからね」

 「世界の命運を田舎者の癇癪爺と、スケコマシ病人に握らせるのも考えものだよ」

 「神の奇跡に感謝したくなりますね」

 「いや、次の米ソ両国首脳が “まとも” だったら、まで、お預けだな」

 「では、首脳交替のわずかな間だけ、しか、感謝できそうにありませんね」

 米ソの艦隊が離れて行くに従い、カリブ海のエメラルドグリーンが輝きを増していく。

 その後、アメリカ軍機がキューバ上空で核ミサイルの撤去作業が終わっているのを確認。

 10月15日から13日間続いたキューバ危機が去り。

 キューバの海上封鎖が解かれていく。

 

 

 アメリカ大統領ケネディの演説

 “アメリカと同盟国とソ連と同盟国は、相互に軍拡防止で責任を持ち”

 “公正な平和を確立しなければならない”

 “今後、結ばれる協定がアメリカだけでなく、ソ連も利益になるのなら”

 “条約義務を遵守できると期待してよいだろう”

 “米ソ両国は、相違点に対し盲目であるべきではなく”

 “相違点を解消するため両国共通の利益を確認すべきである”

 “今すぐ相違点をなくすことはできないかもしれない”

 “しかし、そうであったとしても”

 “この世界の多様性を互いに認め合い安全に存在できるだろう”

 

 

 キューバ危機後、

 米ソの間で行われた文化交流は、警戒厳重だった。

 シカゴ

 アメリカ国民は勝利と平和を喜んでいた。

 そして、ソビエトの交響楽団のコンサートが始まる。

 「・・・ケネディ大統領は、キューバ危機を乗り切って歴代大統領の中でも人気絶頂か」

 「まぁ 結果は、悪くないな」

 「・・・大統領の具合は?」

 「慢性的な脱力、疲労、全身倦怠感、筋力低下」

 「嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹痛の胃腸症」

 「体重の減少。皮膚の色素沈着」

 「そんなに酷いのか」

 「もう、色欲より、健康だろう。あと消化器系の不良と骨盤、股関節のズレ」

 「心理面を聞いたつもりだが?」

 「アジソン病は、数十例しかないよ。推測するしかない」

 「そりゃ 一般人ではなく、大統領として死にたくなるだろうね」

 「んん・・・」

 「ところで、日本の掘削機械だが・・・」

 「まぁ 値札は付いてるけどね。ほら、最近、発注が多くて・・・」

 「日ソ関係は、重要だと思うがね」

 「もちろん。水は低き所へ流れ、金は高き所へ昇る、ですかね」

 「・・・儲かりまっか」 日本語

 「・・・・」 苦笑い

 そして、拍手喝采。

 レニングラード・フィル交響楽団の演奏は、大盛況のうちに終わる。

 

 

  

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 月夜裏 野々香です。

 まぁ 軍事力ばかりが国力じゃない、というところです。

 日本、ソビエト、中国連邦を新幹線が走り、

 インド・パキスタンも乗り入れを目指します。

 共産圏も経済的な成長が求められるのなら、

 背伸びをしなくても良いというところでしょうか。

 中国の毒牙は、共産主義よりおぞましかったりです。

 

 

 とりあえず、キューバ危機で、

 日本はアメリカとソ連から良い買い物ができるようになりました。

 ライセンスとか、ライセンスとか、ライセンスとか

 

 日本人の総人口4673万で1907年レベル。フランスと同じくらい。

 ブルネイ州の日系人は、1700万程度で1630年レベルくらいでしょうか。

 カナダと同じくらい。

 因みに少ない人口で工業力を大きくする方法は・・・外国の市場を奪う、です。

 

 なんとなく、良い感じで終わったので・・・このまま・・・ん・・・どうしよう・・・

 

 

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第20話 1961年 『動かざること・・・』
第21話 1962年 『キューバは燃えているか』
第22話 1963年 『平和が良いねぇ』