月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第23話 1964年 『天 元』

 ソビエト連邦ウラジオストック共和国(満州・朝鮮)は、満州油田のおかげか、経済成長していた。

 コンビナートは、原料・燃料・工場・流通施設を効率良く有機的に結び付けた工業地帯であり。

 語源は、ロシア語で “結合” という意味だった。

 日本人は、このコンビナート建設と成長を底支えしていた。

 ロシア人と日本人が集まってコンビナートを見物していた。

 「すごいな。日本もコンビナートを取り入れたいものだ」

 「日本の工業力のおかげで、ここまで大きくできましたよ」

 「こりゃ 負けそうだな」

 「日本は、大切なお客ですよ」

 「ロシア人が無理に営業用スマイルすると怖いな」

 「やっぱり、日本人みたいに上手くできませんか・・・・」

 『まぁ ウラジオストック共和国から買うのは良いとしてもだ』

 『工業製品を満州・朝鮮に頼るのは、面白くない』

 『ええ、原料を買うのは良いとしても、工業製品を買うのは・・・』

 『まずいな』

 『日本も化学工場を建設すべきでしょうね。コンビナートで・・・』

 『問題は、ここで買うより安く作れるかだ』

 『飲んだくれ労働者の生産力には負けませんよ』

 『これまでも、そうでしたから』

 『その辺が付け込めそうだな』

 「・・・というわけで、我々が成果を上げようとすると、モスクワが邪魔をするのです」

 「そりゃ 独立されると困るからね」

 「ウラジオストック共和国は、今後も、日本と仲良くやっていきたいです」

 「お互いに必要なものを交換できると思いますよ」

 「こちらでも、極東防衛のため、兵器と武器の自主生産が進むので、日本にも・・・」 にやり

 「ええ、助かります。こちらも牛肉の飼料や工業部品を持って来れそうです」 にやり

 そして、コンビナートの周囲には、牧畜業が進められ。

 牛肉が日本へと供給されるはずだった。

 ソビエトは、アメリカの対日牛肉輸出攻勢を切り返し、

 日本の牛肉・豚肉市場を奪おうとしていた。

 それは、アメリカの牛肉・豚肉業者に打撃を与え、

 アメリカ経済にも打撃を与えることに繋がる。

 そして、日本は、ウラジオストック共和国の牛肉生産を手助けしていた。

 

 

 

 北大西洋サルガッソー海域。

 戦艦ウラルがメガフロート・ウラジオーナの建造を護衛していた。

 メガフロートは、不凍港を持たないソビエト連邦にとって有用と考えられていた。

 そして、日本区画が存在し、サルガッソー(海藻)のバイオエタノールを研究していた。

 表向きの平和志向は、アメリカの追及を逃れる方便であり、

 アメリカが反発すれば国際的に悪者にできた。

 もっともウラジオーナを効率良く運用できるかは、ロシア人のモラル次第だった。

 戦艦ウラル

 「日本にチタン製造法を伝えたのは、まずいのでは?」

 「ウラジオーナを長持ちさせるためだ」

 「しかし、ここまで日ソ関係が進むなんて」

 「チタン製造はソビエトだが」

 「メガフロートの船郭にチタンを凝着させる技術は日本だな」

 「まぁ ウラルとシベリアも長く使いたいらしいから、チタン凝着させるらしいがね」

 「日本の高張力鋼製法も得られたそうですが」

 「製法を教わっても上手く作れるか、別の話しだ」

 「そういえば、新幹線システムも日本人任せでしたね」

 「まぁ 監視は付けているし、大丈夫だろう」

 「建造中のアンチャール(パパ)型潜水艦も日本の部品が使われているそうですが?」

 「比較した上での話しらしい。信頼できる部品を使う方が安心だからね」

 「日本に原子力の技術を教えてしまったのでは?」

 「ウラジオストック共和国の勢力拡大は分離独立に繋がるらしいからな」

 「日本が原爆を保有してる方がソビエト連邦は結束しやすい」

 「日本に圧力をかけて、極東ソビエトと日本の間に溝を作っては?」

 「そんなことをすると、今度は、生活物資で困ることになる」

 「日本資本主義帝国は過剰生産で、余剰製品がソビエトに流れ込んでますからね」

 「日本に資源を渡せば、便利な製品が流れてくる」

 「衛星国家の国々は、ソビエトの重荷でしかないというのに・・・」

 「反共の日本と結託して対米政策とは、皮肉ですかね」

 「一番の敵は、資本主義国家でなく、アメリカだな」

 「アメリカを打倒できれば、日本は後回しでもいいですからね」

 「ロシア国民がそう思えるならな」

 「極東ロシア分離独立を押さえるため、対立するのでは?」

 「アメリカを打倒した後でも、そう思えるのなら良いがね」

 

 

 国連議会場

 偽善を伴ないエゴは排斥される世界。

 “大丈夫です。必ず支援予算を確保して見せますよ”

 “よろしくお願いします”

 “信ずる者は救われます”

 ソビエト連邦は、貧乏後進国を味方につけながら子飼いの味方を増やしていく。

 理事国であろうと最貧民層国であろうと、1票しかなかった。

 つまり、大多数の貧民国を味方すればアメリカに拒否権を発動させ、孤立化させられる。

 アメリカの分担金が国連最大なのだから、ソビエトは、ずるいといえる。

 もっとも、アメリカもドルを基軸通貨とし、

 国外の資源と利権を買い漁って、相当なうまみがあるのだが・・・

 「世界の富を一度、平準化させるべきだ」

 「ソビエトと日本の経済成長を見れば、それは明らかである」

 「日本は、資本主義経済の法則にしたがって、急速に再建しているに過ぎない」

 「西ドイツもそうだ」

 「ソビエト経済は、日本の治具やサービスに助けられているだけだろう」

 「資本主義の優位性は変わらない」

 「それは違う、日本の再建は、ソビエトの資源供給によってなされたものであり、ソビエトの力だ」

 「では、なぜ、東欧、中国で発展が抑制されているのだ」

 「ちっ 中国を抑制しているのは、アメリカとイギリスではないか」

 「」

 「」

 ・・壁際に裏方の男たちがいた・・・

 「いつまで、続くんだろう」

 「日本がソ連の味方をするからだ」

 「味方をするからって・・・」

 「君たちだって、日本経由でシベリア情報を得ようとしているじゃないか」

 「ダイヤがどこから来ているのか、気になるんだよ」

 「ロシア人は、教えないと思うよ」

 「日本ばっかり、うまみがあるじゃないか。ずるいぞ」

 「良く言うよ。対日輸出規制しているじゃないか」

 「それは、日本がソ連と組んでるからだろう」

 「機密は漏らさないよ」

 「ソビエトのチタン製法を教えてくれよ」

 「機密は教えないっていってるだろう」

 「それは、ソビエトにもか」

 「国家間は信頼関係で成り立っているだろう。機密なら機密にするよ」

 「日本は機密を守れなくても、高給官僚を守るために有耶無耶にする体質だからな」

 「法改正で村八分にされるよ。たぶん、死ぬより辛いだろうけどね」

 「ボルネオに逃げる落ちじゃないだろうな」

 「ボルネオでも生きていけないと思うけど」

 「ボルネオ州は独立しないのか?」

 「まさか。紛争は、もう、ごめんですよ」

 「ところで、ウラジオーナの件・・・」

 「ウラジオーナの核武装に反対しますよ」

 「あなた方がウラジオーナを攻撃しないのであればね」

 「まぁ 一応、平和利用を兼ねているようですし」

 「しかし、配備されている潜水艦の方は知りませんよ。日本の関知し得ないところだ」

 「これは、潜水艦は、ともかく、ウラジオーナは、世論の問題ですから」

 「財産を持つ者は、戦争を避けたがりますからね」

 「共産国がそれなりに豊かでも良いと思いますよ」

 「それはどうかな」

 「搾取や内政の失態を誤魔化すため、貧民層の敵愾心を国外に向けさせますから」

 「いまのところ、双方で敵愾心が低いということは搾取も、失態も少ないということですかな」

 「というより、戦後再建で力をつけたいときでして、植民地の独立は困るんですよ。本当に・・・」

 「イギリスとフランスは、植民地に頼り過ぎて、自ら働くことを忘れてしまったのでは?」

 「開発の9割は無駄なのです」

 「近代化で余剰資本を得るには、植民地が必要なのですよ」

 「まぁ そのことは重々に・・・」

 「ところで、インドですが」

 「お互いに手間取っていますな」

 「新幹線の方が優位のようですが?」

 「欧州・中東と中華合衆国の分断。いつから計画を?」

 「さぁ どうでしょう。インドは、日本と友好関係を考えているようです」

 「むかしの日本人は、矮小短絡で、なにを考えているのか、すぐわかって可愛げがあった・・・」

 「平和は好きですよ。随分と死にましたからね」

 「戦わずに勝てるのでしたら、戦うこともないでしょう」

 「良い御身分で・・・」

 

 

 公民権運動は、アメリカ国民がアメリカ合衆国憲法を批准するか、

 批准しないかの戦いだった。

 ワシントン DC

 「サインをするので? プレジデント」

 「私は、差別を残したまま連邦を救う事が出来るなら、そうする」

 「しかし、差別をなくさなければ、連邦を救えないのならば、そうする」

 「しかし・・・」

 「アメリカ合衆国は、真に個人の自由と権利を守ることで独立したのだ」

 「これ以上、内部矛盾を抱えていられない」

 「それに国際紛争が始まる」

 「ここでサインしなければ徴兵できない」

 「仮に徴兵してもモラルを保てない」

 「青海(チンハイ)戦域は、高山病で将兵に辛いのでは?」

 「アフリカ戦線の方が良いだろうか」

 「部隊編成は、準備できています」

 「そうか。これでキング牧師を孤立させることができるが黒人は実質に自由になるな」

 「法的にはですね」

 「法は厳正だよ」

 「アメリカ合衆国憲法は、個人の自由と権利を認める世界最高の国家なのだ・・・」

 07月02日 ジョンソン大統領は公民権法に署名

 

 

 東京

 豊原を飛び立ったアントノフAn12カブとAn24コークが北海道、東北を縦断し、

 羽田飛行場に着陸する。

 「アントノフ24コークか。かっこ良いじゃないか」

 「双発機で使いやすそうだよ」

 「デザインが日本人好みだね」

 「部品の5割は日本で生産するらしいよ。3割はソビエトにも逆輸出」

 「ふ〜ん。日本の国産も近いかな」

 「どうだろう。穴掘り悪代官が怖いから」

 「・・・安全性とか、性能が安定すれば良いか」

 「ロシア人って、仕事が、おおらかだからね」

 「でも愛想笑いがないから、わかりやすいと言えば分かりやすいね」

 「日本人の方が偽善で嘘ぽい」

 「無理して、自分で首を絞めるような人付き合いも、あるからね」

 「ピエロだね」

 「うん」

 宗谷海峡トンネルと津軽海峡トンネルは、まだ完成していなかった。

 日本の大地にニキータ・フルシチョフ書記長が足を踏み入れると、

 盛大な歓迎式典が執り行われる。

 田舎者で激情家のフルシチョフ書記長は、日本国民の大歓迎ときめ細やかな接待に安堵したのか、

 ほろ酔い気分で観光を楽しみ始める。

 この時期、フルシチョフ政権は、キューバから退いて危ない兆候にあった。

 もっとも、経済・農業政策は、日本の底支え。

 そして、新幹線システムとインド・パキスタンの1520mm線路化のためか、持ち直し。

 彼が日本に来日したのは、政権堅め。

 もう一つ、ブレジネフ率いる敵対勢力の思惑。

 ソビエト連邦の国家主席代表が安全に来日できる国なのか、調査が目的だった。

 つまり、ソビエトの権力派閥の双方の思惑から日本行きが決まり、

 押されるように羽田に到着する。

 日本側の大歓迎でフルシチョフ書記長は、賭けに勝ち、

 政権の安定強化に成功し、ブレジネフ一派は、政権奪取を見送る事になった。

 「どうやら、日本人の歓迎は、本心のようで・・・」

 「フルシチョフ書記長は日本の理事国入りの恩人」

 「感謝こそすれ、非礼な事はしませんよ」

 「リットン調査団の時のような、毒殺を期待したのですが」

 「まさか。ブレジネフに、よろしくお伝えください」

 「日本は、ソビエトの友好国ですと」

 「ブレジネフでも構わないと?」

 「正当な政権交替であれば、我が国は、ソビエトの友好国であることをやめません」

 「・・・日本との関係は大切にすべきでしょうな」

 「日本国も、そう考えています」

 「その割には、組合がないようですが?」

 「労働条件は、可能な限り法的に善処していますので・・・」

 「恵んでやるから、労働者は戦うなと?」

 「外交政策上、仕方がないのです」

 「まぁ バランス的には、ありでしょうが・・・」

 「何か問題でも?」

 「痛し痒しですな」

 「ソビエト社会主義国家が非共産主義国家は、反共国家とも友好関係を結べる」

 「対外的には、良いのでは?」

 「ソビエト国内では、微妙ですな」

 「そうでしょうか?」

 「ご存じですか?」

 「我が国の工業製品より日本の工業製品の方が好まれている」

 「このままですと、ソビエトは第一次産業の収益で成り立つ国家になり」

 「日本は第二次、第三次産業で成り立つ国家となる」

 「第一次あっての第二次、第三次産業ですよ」

 「それに兵器・武器弾薬はソビエトから購入していますし」

 「しかし、日本規格がGOST(ワルシャワ)規格に食い込み過ぎと思えるが」

 「優性遺伝的な規格だと思いますよ。エゴを押し通すより、余程未来のためになる」

 「・・・だと良いがね」

 “日ソ両国は、主義思想違いを越え”

 “人類の恒久的な幸福と、世界平和のため協力し合うための・・・”

 日ソ共同宣言が出される。

 フルシチョフ書記長の来日は、アメリカ大統領に先んじてしまい。

 日ソ関係はさらに緊密となっていく。

 そして、日米関係は、ギクシャクしたものとなっていく。

 

 

 数人の男たちが、囲碁盤を囲む。

 「んん・・・中国東部の地(じ)は、ほぼ、定まって・・・」

 「残っているのが中国中央部から西部にかけてか」

 「確かに青海は、焦点の天元だ。押さえれば優位だよ」

 「この状態で天元を取った陣営は、西部だけでなく。東部へも睨みをきかせられる」

 「これまでの戦況は?」

 「山岳地帯だからね。両陣営とも、どうにも・・・」

 「高山病か」

 「天元の青海に拘らず、隅のウィグルを押さえ、チベットを落とす方が良いのでは?」

 「どちらにしろ、天元は気になるよ」

 「それはそうだね」

 中華人民共和国のほぼ中央。

 標高3000m以上の山岳・高原地帯が広がっていた。

 青海(チンハイ)省は総面積72万999kuほど

 高原中央の青海(チンハイ)(4573km²)は、中国大陸最大の湖であり、

 世界第2位の塩水湖だった。

 北は黄河源流。南に揚子江源流が流れていた。

 ここを押さえれば、チベットへも、ウィグルへも、

 中国東部へも圧力を加えることができた。

 漢族50パーセント。

 そして、チベット族、モンゴル族、回族、サラール族など、

 少数民族30以上が50パーセントを占めた。

 この広大な土地の人口は300万人に過ぎず。

 未開発の地下資源は、有望とされた。

 そして、高山少数民族のチベット族は、即戦力となった。

 チベットが一つにまとまっていたのであれば、大国といえど介入し難い。

 しかし、人間社会らしい営みと感情と確執は、万国共通で存在し付け込まれた。

 チベット教にも宗派があり、

 ニンマ派、サキャ派、カギュ派、カダム派、ドゥク派、ゲルク派。

 自派の勢力を拡大させるため、外国勢力と結託。

 アメリカ、ソビエト、中黄連邦、中華合衆国は、傭兵としてチベット族を雇い始める。

 当然、チベット教の教えで心が救われても、生々しい生活は別だった。

 大枚積まれるたびにチベット教の派閥抗争は激しさを増し、

 チベット族も、妻を娶るため。妻を養うため。子供を育てるため。

 少し贅沢をしたいばかりに銃を取った。

 そして、派閥抗争は激化し、血で血を洗う内戦と化していく。

 もちろん、非戦を望むチベット人も少なくない。

 しかし、支配欲、財欲を望む気持ちが強まれり、

 派閥勢力が争えば状況も変わる。

 及び腰ながらも同族同士が衝突し戦い。

 銃口が向けられ、チベット人が倒れ、憎しみの連鎖が拡大していく。

 派閥抗争で窮地に陥れば、勝つため大国に頼り、内戦は激化していく。

 ばちっ!

 !?

 黒石が碁盤の中央に打たれ、

 相手と観戦者が考え込む。

 

 

 北の中黄連邦。

 南の中華合衆国、

 この青海(チンハイ)を巡って、軍を進め、自衛軍を組織。

 内戦状態となっていた。

 他の省に飛び火しないのは、漢民族の保身。

 青海(チンハイ)のため全ての利権を賭けるつもりがない、という意思の表れでもある。

 というわけで、この省を巡って、バカげた係争戦争が激しさを増していく。

 「メーデー、メーデー。こちらアメリカ空軍機」

 「現在の飛行は、非戦闘行為である・・ブツー・・・」

 B52爆撃機がミグ21に撃墜される。

 08月02日 青海(チンハイ)事件

 撃墜された空域と係争地がどこの領土なのか、

 中黄連邦と中華合衆国の間で抗争がはじまり。

 青海(チンハイ)争奪戦争が激化していく。

 アメリカは、世界反共人民戦線を構築。

 共産主義勢力の封じ込めと、紛争解決を口実に積極介入を露わにし、

 標高3000の山岳戦が展開されていく。

 アメリカ軍は、軍事顧問団を青海(チンハイ)に送り込み、国民軍を積極的に支援していく。

 

 

 青海

 中黄連邦軍司令部

 「アメリカ資本主義帝国は、南の匪賊軍と手を結び」

 「我が中国連邦の領土、青海(チンハイ)省を簒奪しようとしている」

 「何としても、これを防がねば中ソ鉄道」

 「ひいては、インドまでのルートが危機に晒されてしまうだろう」

 「我々、共産軍は、この青海に平和の塔を建設し」

 「世界革命の足掛かりとしなければならない」

 

 

 中国合衆国司令部

 「ソビエト共産主義は、北の反乱軍と結託し」

 「我が中国合衆国の領土を脅かそうとしている」

 「現在、共産主義世界は、ソビエト、日本、インドと」

 「反乱軍でユーラシア鉄道計画なる不届きな計画を進めている」

 「断固として、粉砕しなければならない」

 「我々、国民軍は、この青海に自由の塔を建設し」

 「世界の自由を守るため戦うのである」

 

 

 標高3000mを越える青海省

  重量トン 馬力hp 全長×全幅×全高 速度   航続力
T55 36 580 9.2×6.45×3.27 50 56口径100mm 460km
M48 52 810 9.3×3.65×3.10 48 48口径90mm 463km
M47 46 810 8.51×3.51×3.35 48 48口径90mm 130km
             
M41 23.3 500 8.2×3.2×2.7 72.4 60口径76.2mm 161km
62式 21 430 6.23×2.26×2.85 60 54口径85mm 450km

 この高山地帯では、酸素不足で性能が格段に落ち込んでしまう。

 スペック上では、軽量なT55戦車が有利に見えた。

 しかし、T55戦車はディーゼルエンジンで、空気が薄いと馬力が落ちてしまいやすく。

 M47・M48戦車の初期型は、好都合な事にツインターボチャージャーガソリンエンジンであり、

 比較的、高山に強かった。

 そして、初期型は中華合衆国に大量に売却されていた。

 機動性と火力で有利なはずのT55戦車が待ち伏せで戦わなければならず。

 鈍重な防御力を誇るはずのM48戦車が機動性を生かして戦う。

 そして、旧式のM47戦車は、46トンと軽量で、まだ戦いやすかった。

 「おい! M41軽戦車を左翼側から突撃させろ!」

 アメリカ製M41戦車が戦場を機動し。

 主力戦車は、酸素不足で待ち伏せ用となっていた。

 「少尉! 連邦の62式だぞ」

 「連邦ないある。反乱軍ある」

 「あ、あのなぁ」

 ソ連製で適当な軽戦車がなく、

 中黄連邦の62式軽戦車が投入され活躍する。

 双方の軽戦車が機動し、

 主力戦車がノロノロと撃ち合う光景が至る所で見られた。

 

 

 「少佐。地下だ・・・」

 「ちっ ソ連も同じことを考えていたな」

 「ど、どうします?」

 「国民軍に突入させろ」

 「了解です」

 アメリカ将兵の多くは、エリートではなく中産階級以下。

 そして、公民権で復権を果たした黒人たち、

 環境的に厳しかったものの、金に惹かれて参戦していた。

 公民権が採択され、生まれながらの人種差別がされなくても貧富の差別は存在する。

 黒人は、貧しさから逃れるため、成功するため、戦わなければならなかった。

 そして、アメリカ軍将兵の隷下に国民軍とチベット傭兵軍が存在した

 

 

 連邦と合衆国の青海省争奪戦は、いくつもの実験的な試みも含み、

 限定された戦線となっていく。

 各国の観戦将校たちが戦場を見下ろしていた。

 「中国大陸は偉大ですな」

 「国内で限定的な戦場を作って、実験しているのですから」

 「戦場は、戦訓を得るための存在ある」

 「M16は、どうです?」

 「AK47より、随分遅れましたから、比較するとM16が上になるのでは?」

 「問題は、戦車の支援が得られない地下戦闘で、上手く戦えるかです」

 「「「「「「・・・・・」」」」」」 興味津津

 「しかし、穴熊引き籠り戦術というより」

 「“穴に入って来い” は、少々、いやらしい戦術ですな」

 「「「「「「・・・・・」」」」」」 妄想中

 「そう言われると、なんとなく勝ち目がないような・・・」

 「バンカーバスターは?」

 「お互い急ごしらえですから、やめておきましょう」

 「欲している戦訓は、歩兵部隊で地下基地を占領できるか、ですから」

 「とりあえず。歩兵だけの攻撃で失敗したら、反発の少ない催涙剤、嘔吐剤の順番で・・・」

 「糜爛(びらん)剤は?」

 「んん・・・あれは、証拠が体に残るから・・・」

 「確かに、まずいよね。いろんな意味で・・・」

 「「「「「「・・・・・」」」」」」 妄想中

 「・・・でも、守備側も使うよね。当然」

 「外にいる側の方が有利だと思うよ。地下は籠もるから」

 「日本の場合、浄化システムがあるんじゃない?」

 「紫外線と赤外線を当てたり。強酸性、アルカリ性の洗浄液も使うよな」

 「地下で熱を膨張させて蒸気圧で、外に毒ガスを外に押し返すかもしれないね」

 「十分に準備している地下要塞は、厄介かも・・・」

 「厄介かは、これから分かると思うよ」

 「しかし、実に有意義で好都合な戦場ですな」

 「アフリカ諸国も共産勢力が大噴火ですよ。あっちでも試してみたいですな」

 「アフリカ大陸が真っ赤になってしまうと、面白くないのでは?」

 「自由を求めて立ち上がる者が出ると思いますよ」

 「ソビエトにも現れませんか?」

 「平等になれば、富と自由を求め」

 「自由になれば、不公平を嫌って平等を求める」

 「それが人間ですよ」

 「まぁ こっちは、必要とする資源が入ればいいですよ」

 「この青海の資源。いかほどでしょうな」

 「先ほど調べさせたところ、冬虫夏草、枸杞、麻黄、柴湖。鹿茸、麝香、大黄」

 「あと、カリウム塩、マグネシウム塩、ホウ酸、天然ソーダ、銀、カドミウム」

 「鉄鉱石、石炭、石油、天然ガスもありそうですな」

 「中国大陸の草原総面積の7割で、牧畜も行けそうです」

 「実に素晴らしい」

 「上手いこと入手したいものだ」

 「合法的に?」

 「もちろん。兵器・武器弾薬の輸出はできますし」

 「なんとか、チベット人と組んで青海コネクションを作るある」

 「うちを仲介して欲しいある」

 「頼りにしていますよ。黄大人」

 「任せるある♪」

 

 

 カシミール

 数人の男たちが集まっていた。

 「そうですね。ヒマラヤ山脈の地下を貫いてインドとつなげられれば、大きいでしょうが」

 「大変な工事になるのでは?」

 「全長は1000kmもないと思いますよ」

 「大変では?」

 「ユーラシア大陸鉄道は、それだけの価値があるのでは?」

 「そうですな。達成できれば、巨大な市場が誕生しますが・・・しかし・・・」

 「日ソ共同宣言は、お聞きになられたはず」

 「インドとも同じ宣言をしても良いと考えています」

 「それは、望ましいことだと思います」

 「しかし、大変ですな。それに日本語が堪能でないと扱えないとか」

 「そうですな。将来的には自動化走行を検討しています」

 「可能なのですか?」

 「電車は、電圧以上の速度は出せません」

 「んん・・・」

 「つまり、駅周辺の電圧を制御できれば電車は自然に止まり、また走り出します」

 「なるほど・・・」

 「世界の未来のために有益な計画だと思われますよ」

 「確かに・・・」

 3者とも、本音は、世界の未来より、

 相手にいくら使わせて、いくら自分のポケットに入るかだった。

 「「「・・・・・」」」 苦笑い

 そして、アチュート(不可触賎民)。自称ダリットが穴掘り仕事に投入させられていく。

 

 

 

 10月10日 ブリュッセル・オリンピック開催

 「ブリュッセル・オリンピックか。ベルギーに取られちゃったな」

 「68年は、豊原オリンピックだろう。悪くない」

 「東京オリンピックにすれば、もっと、集客があったのに・・・」

 「それを言うなよ。外国人に来て欲しかったんだよ」

 「まぁ 東欧は来やすいけどね。冷戦中だから仕方ないか」

 「でも、日本経由で亡命ルートがあるから」

 「欧州側で亡命されるよりマシだろう」

 「それに日本のサービスと商品で共産圏は、それなりじゃないか」

 「おかげで、資源が入って、共産圏全域に消費地があるのが嬉しいね」

 「宗谷海峡トンネルと津軽海峡トンネルを建設しないとな」

 「それにはもっと、資本がいるよ。外資を稼いで、もっと資源を購入しないと」

 「最近、社会資本を欲しがっているやつが多いから」

 「余りやり過ぎると、企業同士が乱戦状態で潰し合ったり、癒着したり・・・」

 「積極財政で政官財で結託、浪費で私腹を肥やされるより良いんだと」

 「民間企業は軌道に乗るまでが大変だからね」

 「軌道に乗った後なら良いとしても軌道に乗る前に邪魔すると殺傷沙汰になるよ」

 「くわばら、くわばら」

 「自由も共産も、人間性とか、モラル次第か・・・」

 大歓声が上がる

 「げっ! 日本女子バレーボール。ソビエトに勝っちまいやがった」

 「信じられん・・・」

 金メダル16。銀メダル5。銅メダル8。計29

 「・・・・」 ぶち! フルシチョフ

 

 

 10月14日 ニキータ・フルシチョフ不信任決議。

 失脚し掛けたフルシチョフが僅かな票差で持ち直す。

 しかし、権限が大幅に縮小していく。

 

 

 日本で旧式化しつつある艦隊では、砲艦外交にもならず新型巡洋艦が建造された。

志摩(しま) 伊賀(いが)
排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速力 航続距離 火砲 60口径155mm砲×1
対空ミサイル 2基48発
15000 210×22×9 120000 34 20kt/12000海里 対潜ロケット 4基48発
機関砲 37mm連装×6

 あくまでも、外交訪問用の艦艇であり、

 対艦用兵器は155mm砲2門と、お粗末なものだった。

 これは、水上艦艇同士の戦闘より、

 航空機や潜水艦の方が脅威となっていたためであり。

 日本が空中巡洋艦構想で空に逃げたのも、

 航空攻撃と潜水艦の攻撃を避けやすいからといえた。

 巡洋艦 志摩 艦橋

 「艦長。周波数を同調しました」

 「では、こちらから発信」

 レーダー索敵は、電波を発信し、

 その反射を受信することで、目標の位置を割り出した。

 それなら、同じ波長の電波を逆に発信すれば、距離を測り損なう。

 無論、相手が人間であれば、騙せない。

 しかし、ミサイルであれば、目標を誤認する可能性があった。

 そして、模擬ミサイルが海上に落下する。

 数人の将校がホッとしたり、面白くなさそうだったり。

 「んん・・・良いようで、不安になるな」

 「ええ、敵も同じ方法でミサイルに当たらない可能性がありますからね」

 「まぁ 15000トン級だから出来るかもしれないという程度か」

 「アメリカと比べると微妙なところですね」

 「精度と重量比の問題になってしまいますから・・・」

 「ソ連のカシン型も、グロズヌイ型巡洋艦も4400トンだから志摩型巡洋艦は、3倍以上か」

 「それくらいないと、電子戦は厳しいのでは?」

 「しかし、随分と大きな巡洋艦を建造したじゃないか? の割に兵装が少ない」

 「曳航式のケーブルを潜水艦まで垂らすから潜水母艦みたいなところも、あるからね」

 「いっそ、ヘリ空母型でも良かっただろうに」

 「ベアが多いから・・・ヘリ空母は、別に建造する方が効率が良いよ」

 「潜水艦の活動範囲を広げる方が良かったのだろう」

 「そういえば、ソビエトは、モスクワ型ヘリ巡洋艦を建造していたぞ」

 「日本に発注すれば速く建造できて良いものを」

 「太平洋に配備する気じゃないか」

 「なるほど、手の内は見せたくないか」

 「どうせ、水上艦は、外交訪問用の艦艇だよ」

 「どちらにしろ、対艦ミサイルがないのが寂しい」

 「対艦用ならベア爆撃機にやってもらうさ」

 「威力哨戒はベア頼みか。いやだねぇ」

 「対空砲もソ連製か、役に立つのか?」

 「レーダーと連動させようとしているが、まだ精度があやしいらしい」

 「日本の電子制御はアメリカと比べて劣ってるからな」

 「大型化したのもそれが原因か」

 「あとは、警備保安隊が頑張ってくれるんじゃないか、500隻以上建造するらしい」

 「あそこ、商船構造だからな」

 「37mm砲を積んでいるから、大丈夫じゃないか」

 「そういえば、青海でドンパチやり始めたからソ連製が安くなったそうだ」

 「横流しじゃないの」

 「いや、日本海軍相手にアメリカ海軍を消耗させて、ソビエト海軍は、大西洋って腹だよ」

 「そんなところか・・・」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 『国防戦記』では、ミッドウェー海戦のあと』と違って、

 青海省が戦場になりそうです。

 たぶん、アフリカ諸国全域でも自由と共産の戦いが始めると思います。

 地図は検索でお願いします。

 いや、最近、色塗りに疲れまして。

 

 アントノフAn24コークとYS11

 性能は似ているようですが、乗客は、46人VS64人。

 微妙にYS11の方が大きく性能が良いようです。

 しかし、スタイルはアントノフ24の方が上。

 改良すれば、名機になりそう。

 

 

 さて、そろそろ、種明かし、火葬をシリアス風にする方法。

 といっても、限度がありますが取捨選択です。

 大事なモノを捨てる代わりに別のモノを得る。

 というわけで、悪夢の日ソ印3国同盟が・・・

 

  

  

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第22話 1963年 『平和が良いねぇ』
第23話 1964年 『天 元』
第24話 1965年 『それはそれ、これはこれ』