月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第25話 1966年 『博打は駄目よ』

 青海とアフリカ大陸の紛争は、拡大していた。

 国際情勢が地域紛争を起こしている見方もあり、

 地域紛争が国際情勢を作っている見方もあった。

 国家の安寧は、国力や軍事力の強弱より、

 内政の不和や差別をいかに小さくするか、だった。

 

 

 北大西洋の中央、

 風の凪がれない波静かな海域が広がる。

 輸送船が往復し、巨大な構造物に物資を荷揚げする。

 世界的に孤立しているソビエトも、反共の日本と友好関係を続けていた。

 その証明としてウラジオーナに日本区画が存在する。

 むろん、ソビエトの軍事的覇権一色を誤魔化すためのフェイクであり、

 それがフェイクであっても理事国の独立区画が存在するのだから各国とも難癖をつけにくかった。

 

 選りすぐられたエリート部隊は、モラルを保つために相応しい場に前進してくる。

 ウラジオーナのソビエト軍は、最新鋭の装備と最精鋭の部隊で構成されていた。

 そして、艦隊勤務の家族が住む居住区画があるほど巨大だった。

 母親と子供たちがプールで泳ぐ。

 当人たちは、気付いていても気付かなくても、人質的な意味合いの強い家族だった。

 ビーチパラソルの日陰

 リクライニングチェアで、八頭身の金髪白人女性がくつろいでいた。

 そこに日本人のエージェントがボーイの恰好で近付く、

 「セレン夫人。何か、ご用立てが、あるそうで?」

 「・・・ヤーポン。シベリアで押さえたい鉱山があるの。いろいろと調達してもらいたいわ」

 「分かりました。こちらもトルコのルート確保の件で調停を求められているのですが・・・」

 「そう、あのグルジアの? 跡目争いで仲違いしていたわね」

 「ええ、内部分裂の調停です」

 「分かったわ、仲介してみましょう」

 国家的な目的と違う、非合法で派閥的な取引も行われやすかったりする。

 その多くが国内に騒乱を起こし、他国の付け込む隙を与え、利敵行為となることが多かった。

 

 

 ウラジオーナの避難所と化した日本区画で、日本人とソビエト将兵がチェスを囲む。

 「・・・キト(ノヴェンバー)型原子力潜水艦が事故を起こしたって?」

 「ああ、13人が被曝したよ。去年の話しだがね」

 「大丈夫か?」

 「やっぱり、日本みたいに通常型潜水艦で固める方が良いのかもしれないな」

 「西側じゃ ソビエトの原潜乗りは、闇夜でも体が光って見えるって陰口を叩かれているぞ」

 「閉鎖的な社会は人の目を気にせず、それを可能にしてしまう」

 「日本人がソビエトにいると、ボルシェビキを牽制するからロシア人のためにもなるね」

 「むかしの日本も、そういうところがあったからね」

 「軍財閥に義理立てするからだ」

 「いまじゃ 土建業に義理堅くしてるよ」

 「ふっ まぁ 国に義理立てするか、企業に義理立てするか。選択できるのも悪くないか」

 「国が愚かな時でも、企業がマシな場合もありますし」

 「国より酷い企業は少なくない。共産主義運動は、そうやって起こる」

 「選択肢は多い方がいいですよ」

 「日本の原子力は?」

 「人口4900万。火力発電所も、ウラジオストック共和国の油田で足りている」

 「まだ、原子力でなくても良いわけか」

 「原子力潜水艦だよ」

 「さぁ まだ研究中じゃないか」

 「ところでバイオエタノールの研究はどこまで?」

 「海藻は、この海域に集まって来るので取り敢えず、それを集めて抽出するだけです」

 「本格的に生産しようとするなら、もう少し、バイオリアクター区画を大きくした方が良い」

 「増築すれば抽出は可能かもしれないか。しかし、予算が厳しいかもしれないな」

 「ウラジオーナが自家発電燃料を自給自足できれば、ソビエトにとっても大きいのでは?」

 「そりゃ ここで発電の燃料を補給できるのなら、通常型潜水艦でも・・・」

 「やっぱり、原子力機関は、怖いですからね」

 「戦時で命がけなら我慢もするが平時で命懸けは辛いな」

 「しかし、嘘から出たバイオエタノールが意外と行けそうですかね」

 「ここで海藻を増産すれば効率は良くなるだろうな」

 「日本連邦でも本格的に研究し始めましたよ」

 「フェイクでしたが可能性がないわけじゃない」

 「日本の省エネ戦略も転換かね?」

 「どうでしょう。アメリカの属国なら別でしょうけど。内燃機関より電力機関は、戦陣訓ですからね」

 「日本がアメリカの属国なんて、ゾッとするよ」

 「ユーラシア大陸鉄道網が完成すれば、ソ連陣営にかなり近づきそうですけどね」

 「随分とソビエトの資源を使ったそうじゃないか」

 「物を作る時は、資源を使わないと」

 「まぁ ロシア人は教条主義的だからね」

 「現場に任せて吸い上げる側面は、日本人の方が得意か」

 「そんなに酷い搾取はしてないと思うよ」

 「日本人が農業政策を助けるとフルシチョフの寿命が延びているって知っているか」

 「作付面積は大きくすればいいというものじゃないし」

 「党が口出しして現場のやる気を削いでもねぇ」

 「確かに農業だけでなく、軍でも、それはあるな」

 「おかげで農業も、軍も回復傾向にある」

 「しかし、ソビエトの農業が回復傾向だと、日本の農業輸出が困るか」

 「党上層部は、日本やボルネオの食品を気に入ってるから買い続けると思うぜ」

 「ソビエトがアメリカの穀物を買うよりマシかな」

 日ソ両国は、弱点となる分野を克服し、

 余剰能力を増しながら経済成長していく。

 ソビエト連邦の経済成長と成功は、軍事的な覇権より脅威となっていた。

 

 

 黒海

 造船所で大型巡洋艦が建造されていた。

 ソビエト海軍最大の弱点は、建造に至るまでの年月だった。

 起工1962/12/15 〜 395日 〜 進水1964/1/14 〜 1442日 〜 竣工1967/12/26

 15000トン級モスクワ型巡洋艦を起工から竣工まで5年近く。

 これでは、お話しにならなかった。

 アメリカ海軍の15000トン級ロングビーチ型原子力巡洋艦。

 起工1957/12/02 〜 589日 〜 進水1959/07/14 〜 788日 〜 竣工1961/09/09

 原子力機関というハンディを外しても建造期間が短かった。

 それほどアメリカの工業力は大きかった。

 そして、日本の15000トン級巡洋艦 志摩(しま) 伊賀(いが)。

 起工1961/11/11 〜 500日 〜 進水1963/03/26  600日 〜 竣工1964/11/15

 採算性を重視すれば、建造までの日数も工業力の力だった。

 そして、日本人技術者がソビエトの軍事機密のど真ん中にいるのも、

 その日数短縮と関わっていた。

 経緯は

 “もっと早く建造しろ” “無理”

 “では、日本に発注する” “それは、困る”

 で、今回の派遣。

 党主導、勤労意欲、非合理性など、根本的な問題は、さて置き。

 あまり、根本問題に首を突っ込むと生きて帰れなくなる問題もはらんでいた。

 搬出搬入、いくつかの並び替えを行って作業効率を向上させる。

 問題の深刻さがどこにあるかというと、

 現場が分かって、そうしたがっていた事柄ばかり。

 党主導部が耳を貸さなかった事ばかり。

 日本という外圧と、3分の1程度のロシア人専門家が結束し、

 問題を一つ一つをひっくり返していく。

 「・・・洒落にならねぇ」

 「いゃあ、助かりましたヤーポン」

 「テクノクラートは強いと聞いていたがね。他も、そうなのか?」

 「テクノクラートといっても現場レベルだとねぇ」

 「全階層というわけじゃないし。どこも同じですよ」

 「ボルシェビキの特権意識には呆れかえりますよ」

 「農業技術者から噂を聞いていたがね。やれやれだ」

 「日本の製造関係は、もっと進んでいるのでは?」

 「メガフロートの建造は、凄かったけどね」

 「あそこまで行かなくても、ウォッカをやめてくれれば、もっと速く造れる」

 「まぁ それは、後回しで・・・」

 「ふ こう、寒くて楽しいこともなければ、酒の消費も増えるか」

 「そうそう、ヤーポンが来てくれたおかげで自殺者の数も、少し減るでしょう」

 「減りそうかね?」

 「仕事のストレスが減るだけで、望みが出てきますからね」

 「むかしは、日本も自殺が多かったからね」

 「日本は、良い国だと聞いてますよ」

 「一度見に来ると良い。新幹線で繋がっているよ」

 「自由に旅ができる日本人が羨ましい」

 「自由は、お金で買うモノですから。それほど、自由とはいえないがね」

 「ソビエトは、お金があっても、自由がないですからね」

 「そうそう、スターリン時代は、言葉一つが命取り、即シベリア送りでしたよ」

 「巡洋艦モスクワは、太平洋配備とか?」

 「さぁ 上の決めることですから」

 

 

 

 日本は、国力が増強し余力が増えても、穴熊引き籠り戦略を継続していた。

 空中巡洋艦ベアは、潜水艦隊と並んで、唯二領外で威力哨戒ができる戦力だった。

 西太平洋上空のベア編隊。

 クズネツォーフ・エンジン4基の奏でる独特の低音が機内に響く。

 空対艦ミサイルを搭載し、

 西太平洋を巡回するベアをアメリカは、どう見るだろうか。

 もっとも、日本のベア編隊を戦前戦中より脅威と見るかは微妙と言えた。

 アメリカ機動部隊は常時の空中索敵を行っており、範囲は500kmに及ぶ。

 ベアが装備している対艦ミサイルの射程が100kmなのだから接近する前に撃墜される。

 ソビエト空軍は、飽和攻撃を目指していた。

 日本も飽和攻撃といきたかったものの、予算を土建屋に取られて無理だった。

 次期空対艦ミサイルは、自律誘導型100km+レーダーホーミング100km。

 合計200kmの射程を誇るらしい、

 もっとも、命中精度は、期待できないという。

 当たり前といえば当たり前で、F4ファントムの要撃を仮にかわせたとしても、

 アメリカ機動部隊は、強力なECMを持ち、

 妨害波・誤誘導波に狂わされた対艦ミサイルが命中するなど運任せに近く。

 さらに迎撃ミサイル、対空機関砲など何重もの防御壁に守られていた。

 「現実を知ると、土建屋が強くなるから、黙っておきたいね」

 「まったく、戦前戦中の軍属も横暴だったらしいけど、戦後は、土建族か」

 「バジャーを買えば、もう少し、行けそうだけどね」

 「バジャーか、でかいし、遅いし、燃料食うし。もうちょっと、何とかして欲しいね」

 「あまり強くても上陸してくれないから、いやだったりしてな」

 「結局、日本も国民が怒らないと戦争できない国になったんだな」

 「まぁ ベア空中巡洋艦艦隊はハッタリ。ブラフというところかな」

 「しかし、これだけ、レーダーが発達すると、山本長官のような博打はないか」

 「博打ねぇ 長官や社長に博打で勝つなんて、普通の士官や平社員はできないよ」

 「あぁ・・・」

 「普通は、わざと負けるもんだ」

 「あはは・・・」

 「権威主義が強いと、下の者は力や能力を控えさせられ。上は裸の大将になってしまうもんだ」

 

 

 

 戦艦シベリア

 ウラジオーナで休息が取れるためか、戦艦シベリア、ウラルの活動範囲も広がる。

 元々、戦艦としての戦力より、

 威力誇示を目的として建造されただけあって、作戦能力は高かった。

 そして、インドのムンバイに入港していた。

 砲艦外交で戦艦ほど効果的な艦艇は存在しない。

 強大な艦体に高い鐘楼。巨大な砲塔。長い砲身が9門。

 どんな強力な対艦ミサイルを持った巡洋艦でさえ、見た目の強さでシベリアに劣る。

 先進国の国民でも、そんな気がする。

 インド国民の戦艦シベリアを見つめる表情も畏敬以上だったりする。

 シベリア 艦橋

 「バラモンたちは、帰ったかね」

 「ええ、先ほど」

 「しかし、暑い〜」

 「この辺の季節は、こんなものだそうです」

 「もっと涼しくならんのか」

 「そうですね。いまは、三段階の “暑い” ですから」

 「それは、運が悪い時に来たな」

 「いえ “暑い” は、一番いい時期ですよ」

 「何でだ?」

 「その上に “もっと暑い” その上は “もっと、もっと暑い” ですから」

 「・・・ユーラシア大陸鉄道に何か意味があるのか?」

 「さぁあ、北は寒いそうですし、互いに不足なものを交換すれば豊かになるのでは?」

 「はぁ〜 金儲けの上手い日本の誘導としか思えん。東南アジアも回るんだぞ」

 「日本まで行けば涼しくなるでしょう」

 「この戦艦にとっては、懐かしい生まれ故郷になるな」

 「不調があれば整備してくれるそうですから、いまのうちに整理しておきましょう」

 「久しぶりに羽をのばせるな」

 「ウラジオーナのおかげでお役御免どころか、シベリアとウラルばかり動いてますからね」

 「まぁ 目立つ戦艦だからな」

 

 

 志摩型の同型艦2隻が新たに就役する。

伊予(いよ) 甲斐(かい)
排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速力 航続距離 火砲 60口径155mm砲×1
対空ミサイル 2基48発
15000 210×22×9 120000 34 20kt/12000海里 対潜ロケット 4基48発
機関砲 37mm連装×6

 

  排水量 艦齢          
大鳳 30000 22年 大鳳       1隻
瑞鶴型 26000 25年 瑞鶴 翔鶴     2隻
志摩型 15000 2年 志摩 伊賀 伊予 甲斐 4隻
最上型 12300 31年 最上 鈴谷 熊野   3隻
利根型 8500 28年 利根 筑摩     2隻
阿賀野 6650 24年 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 4隻
大淀 8200 23年 大淀       1隻
               
秋月型 2700 24年         12隻
夕雲型 2000 25年         12隻

 巡洋艦 最上は、艦齢31年

 妙高型4隻、高雄型4隻が廃艦となっていた。

 最上型も一線級ではなく、余生を過ごしているだけの艦艇だった。

 艤装の多くが剥ぎ取られ、いまや、哨戒任務すらも稀。

 ライバルだったブルックリン型巡洋艦も解体されたり輸出されたりだった。

 最上型3隻は、艦首に60口径155mm砲2基を換装配置。

 軽量化した重量でレーダーとソナーを装備。

 対空ミサイル4基、対潜ロケット4基を装備。

 艦尾甲板に二重反転ローターのカモフKa25ホーモン4機を搭載。

 最上は、ヘリ巡洋艦に改装され、未練がましく、生き恥を晒していた。

 そして、利根型2隻、大淀1隻、阿賀野型4隻も似たような運命で・・・

 待機訓練中・・・

 新型巡洋艦の志摩(しま) 伊賀(いが) 伊予(いよ) 甲斐(かい)の4隻は、真新しい姿を見せつける。

 「やっぱり、代艦はディーゼルエレトリックか」

 「騒音と振動は、防音耐震隔壁で何とかするらしいですよ」

 「ソ連の技術が参考になったとか」

 「どうかな。主力じゃないから経費節減が優先だな」

 「巡洋艦 志摩型4隻に乗りこめた連中が羨ましいですがね」

 「乗員は350人だそうだ。あまり少ないと交替勤務で厳しいな」

 「最上も兵装剥がして員数制限されて600人でしたから、それより少ないですね」

 「余程、合理的にやったのだろう」

 「むかしは、将校は食事も別で軍人貴族だったがな」

 「いまじゃ 食事で差別なしですから」

 「昭和の改新とシベリアとウラルの建造で刺激を受けたんじゃないですかね」

 「しかし、秋月型も夕雲型も消えていくだけか。ベアに海軍の仕事を取られてしまうとはね」

 「お国も員数を削減したがっているようですし」

 「最近は、賃金も上昇しているからな」

  日本海 東シナ海 オホーツク海 太平洋 南洋 南シナ海 合計
ベア 8 8 8 60 8 8 100
巡洋艦 2 2 2 6 2 2 16
潜水艦 6 6 6 30 6 6 60
補助艦艇             30

 「ベアでも十分か」

 「というより、電子装備を更新しながら、追加発注で150機体制でいくんじゃないですかね」

 「水上艦艇は、まったくないと不安だから、とりあえずという感じなんだろうな」

 「栄光の連合艦隊は、脇役どころか、チョイ役ですかね」

 「新型艦は、対艦ミサイルのせいか」

 「装甲の高張力鋼は、対機銃弾、弾片防御程度で薄いらしい」

 「元々、薄かったですからね。装甲・・・」

 「アメリカも薄くなるそうだぞ」

 「やはり、対艦ミサイルに狙われると、お終いなのでしょう」

 

 

 青海省争奪で血で血を洗う内戦が繰り返されていた。

 しかし、揚子江を境にした中黄連邦と中華合衆国は戦争未満。

 それどころか、金が動く事で障壁に抜け道が作られ、

 規制が崩れ、軋轢が溶け、淀みが流れだす世界、

 国際河川の揚子江を各国の商船が上り下りし、

 両岸を艀が行き交っていた。

 ありとあらゆる値札の付くモノが敵対国間で取り引きされてしまう。

 セカンド・ニューヨークは、漢口を臨む最西の権益地にあった。

 各国の代理人が中国大陸の資源を求めて、ここに支店と代理店を並べていた。

 ロシア人と日本人も、セカンド・ニューヨークに来るのだから無節操であり。

 無節操だからこそ、権益地が守られているともいえた。

 そう、世界中が中国大陸の資源と労力を搾取し、

 余剰商品を売り込むため、ここに集まる。

 何を隠そう、中国官僚の中に各国の代理人が潜み、

 台湾人、朝鮮人、少数民族と私腹を肥やし、

 欲に眼が眩んだ醜い人間の巣窟と化していた。

 青海で使われているはずの兵器・武器弾薬も、ここで売られ、

 中国華衆国や中黄連邦を守るはずの兵器・武器弾薬も、ここで売られる。

 「A4スカイホークの電子部品ある、買わないあるか」

 「・・・・」

 「だ、大丈夫なのか? そんなの売って」

 「模造品を代わりに付けたある。飛ばなくなったら、壊れたことにするある」

 「か、漢民族は、最強だよ」

 

 

 

 日本連邦 樺太州

 キューバ事件以降、核シェルターの需要が急増していた。

 しかし、国家が補助金を出し、

 基幹産業と結びつき地下施設を拡大しているのは世界で日本だけだった。

 軍民兼用の地下施設で機密漏洩が問題になっていた。

 戦後の日本は、昭和の改新で人権が強化され、

 特高警察は、一新されたのち命脈を保ちつつ縮小され、

 監視は緩やかになっていた。

 そして、怪しいと思われるフィンランド女性を追っている。

 情報を得ようとする国が緊密であるほど、第三国の国民を情報収集で使う。

 これは、良くある事で日本もやっていた。

 「随分と白人が増えたな」

 「ええ、新幹線で大陸と繋がりましたから増えましたね」

 「これだけ、繁栄すると豊原オリンピックも成功だろうか」

 「ですが、まさか、豊原とは・・・」

 「たぶん、北に産業を誘導したかったのだろう」

 「危険では?」

 「利益が大きいのだろう」

 「でしょうね」

 「宗谷海峡トンネルと津軽海峡トンネルが完成すると、日本の産業は、一気に北に行くな」

 「白人も一気に北海道に来ますよ」

 「白人が皆スパイとは限らんだろう。それに、こっちも得られる情報が多い」

 「お互い様ですか?」

 「しかし、軍民併用の地下施設も規模が大きく広範囲だと機密も薄れるな」

 「ですが、これだけ、軍事と経済で結び付くと同盟と変わらないですね」

 「まったく、政治的判断で有耶無耶にされることがあるから、やり難くてしょうがないよ」

 「それも、お互い様だったりして」

 日本の産業も、地下施設と機密が薄まるほど規模が拡大し複雑多様になっていた。

 そして、日ソ関係蜜月のおかげか、

 日本在住のロシア人も国際結婚とともに増えていた。

 国民のモラルの把握だけなら、

 役所、警察、公共機関の職員の仕事ぶりを見れば見当が付いた。

 識字率、知的水準なら学校の教育内容を見るだけでも把握できる。

 売春やっている女性から経緯を聞けば、庶民の道徳観と差別も推測がついた。

 宗教団体。伝統的な神社仏閣、博物館に行けば倫理観、価値観も想像がつく。

 第一次、第二次、第三次産業の利潤の差で、国家が向かう方向も検討が付き。

 店先の棚卸と店主店員の関係を見れば、経済と信頼の度合も分かり、

 組織が硬直化しているか、柔軟で融和性の高い組織か、見えてくる。

 およそ、必要とする情報の7割以上は、庶民の中に転がっていた。

 国家の命運を左右するような重要度の高い機密は3割どころか、1分もなかった。

 結局、その国に住むだけで、必要とする国情が掴めた。

 実のところ、命がけのスパイ活動などしなくても、だいたいの事が理解されてしまう。

 「・・・接触したぞ」

 フィンランドの女が東洋系の男と接触。

 「そこまでだ」

 「「・・・・」」

 5人で周りを囲んで、2人を確保する。

 「やはり、潜水艦の技術ですね」

 「こいつばかりは、教えるわけにいかないな」

 

 

 青海省

 平均標高3000m。

 酸素不足のため可能な限り低い高原で戦闘が行われる。

 4000mに近付くと高山病になるものが続出。

 それ以上になると酸素ボンベを背負っての戦いとなり、

 走って突撃など、できない世界。

 チベット高原では、銃撃戦のほとんどが突撃銃の射程外で行われ、

 アフリカ諸国では、これしかないはずの突撃銃が不利になった。

 中黄連邦はソビエト製のドラグノフ狙撃銃とシモノフM1936(7.62mm×54)を使い。

 中華衆国軍は、古きアメリカ製のM1ガーランド(7.62mm×51)。

 新装備のM14スプリングフィールド(7.62mm×51)が集められる。

 そして、M14を狙撃銃に特化したM21も使われた。

 アメリカ軍のブローニングM2 50口径12.7mm機関砲による狙撃も行われる。

 ソビエト、アメリカの両陣営はチベット兵を傭兵とし、

 軽戦車を山岳に上らせ戦線を維持していく。

 チベット族は、双方の傭兵需要によって同族同士で殺し合っていた。

 青海紛争に賛成しようと、反対しようと、

 銃を取るチベット人は次から次へと現れた。

 チベット族は、成功するための自己資本と、

 自己防衛のための戦訓と武器を入手してしまう。

 「ダライ・ラマの様子は?」

 「金のため殺し合う同族を嘆いておられたよ」

 「4000m級の高原地帯でまともに動けるのは、チベット族くらいだからね」

 「いや、ソビエト連邦でキルギス師団が準備しているらしい」

 「アメリカもグルカ族を雇いつつある」

 「ソビエトとアメリカは、伝統的な生活している部族に銃を持たせて人殺しにするのだから罪作りだね」

 「だけど、環境が整えられたからって誘惑に駆られて武器を持つのだから、どっちもどっちだよ」

 「チベットの自治は守れそうだけど、チベット内の犯罪が増えなきゃいいけどね」

 「同族同士傭兵で殺し合うと人心も荒れてくるからね」

 「いっそのこと、宗教容認の合衆国側に付けば良かったのに」

 「チベット族挙げての参戦は、ラマ教にとってまずいだろう」

 「まぁ 不決断の結果だよ。自業自得」

 

 

 ワシントン 白い家

 「日本の哨戒網は?」

 「ベアで西太平洋全域をカバーできるはずです」

 「しかし、それほど、積極的に動いていないようです」

 「新型艦艇を建造したと聞いてるが?」

 「電子装備は、1世代から2世代ほど遅れているようです」

 「新型艦が15000トン級巡洋艦なのも、それが原因と言えます」

 「志摩は、強力なのかね?」

 「いえ、強力なのは潜水艦の方でしょう」

 「日本の水上艦艇は潜水艦を支援するような機構です」

 「空母は?」

 「3隻とも、待機調整中というところです」

 「ん・・・潜水艦を除くと装備も練度も、あまり精強と言えないな」

 「日本は、まず上陸させて、ですからね」

 「なんて、いやな国だ」

 

  

 

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 月夜裏 野々香です。

 史実の日本は、総人口1億を突破。

 この戦記の日本は、総人口4900万。1911年レベル

 世界情勢は冷戦。

 ですが、日本がソ連寄りなので、

 アメリカと西側諸国はパンチに欠けているようなです。

 

  

 

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