月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第26話 1967年 『金を使うな頭を使えは、禁句』

 日本で大規模な土木建設が進んでいた。

 収益より赤字が多ければ、国債で埋めていく。

 これほど無責任で楽な仕事はない。

 しかし、国防も兼ねた土建業で食べている国民が多く、

 大義名分で公共福祉と言い訳しやすく、

 親方日の丸で甘え体質になりやすかった。

 保身と自己防衛のためテリトリーが肥大化していく。

 権威を重んじて縦割りになり、事勿れになったり、

 硬直化しやすく杓子定規になったり、非情報公開で隠匿したり・・・

 官僚機構が陥りやすい状況に近付いていく。

 

 

 沖ノ鳥島

 この島を埋め立てるのは、レドームと飛行場の建設が目的だった。

 一旦、建設すると員数も少なく、

 巡洋艦より哨戒域が広く、巡洋艦を維持するより安上がり。

 東西4300m×南北360mの滑走路が海抜20m程度の高さで建設されていく。

 レドームは、さらに高く海抜150mに建設されていた。

 「ここに飛行場を建設すると、良いことでもあるのかね」

 「沖縄・台湾とマリアナの中間に中継基地があると便利だろう」

 「それにビアクから内地までの中継にもなる」

 「まぁ 何かあった時には便利だな」

 「いや、土建屋の利権でね。部署を増やしたいんだと。あ・ま・く・だ・り」

 「こんな僻地に?」

 「島流しの間違いじゃ・・・」

 「だから、台湾とマリアナの中継基地で飛行場を作るから交通の便が良くなって収益になるかも、だろう」

 「か、皮算用?」

 「一旦予算が付くと、そういうもんなんだよ」

 「巡洋艦を建造する連中のポケットに入るか」

 「基地を建設する連中のポケットに入るかだからね」

 「航空機は、どのくらい配備できるの?」

 「いざという時、輸送機で機材と人員を運び込むだけだから、基本はレドームの職員だけかな」

 「南沙群礁でも、やってるだろう」

 「あそこも、ボルネオ島と台湾を結ぶという。重要な意味があるんだよ」

 「本当かな」

 「たぶんね」

 

 

 自動改札口が設置される。

 

 

 米英は、必死に日ソ離反工作を進めるが、いまのところ成功していない。

 ソビエトは、アメリカに利用されるより、日本と組んだ方がマシ。

 日本もアメリカに利用されるより、

 ソ連と友好関係を維持した方がマシになっていた。

 カザフスタン バルハシ湖

 数人の日本人が西側諸国が情報を入手したいと思うような場所に入り込み、

 湖水に向けて釣竿を立てていた。

 遠巻きにKGBが監視しているせいか、ヤクザな恐喝にあった事がない。

 新幹線はシベリア鉄道だけでなく、

 中央アジアからインド大陸に至る計画だった。

 この地域はカザフスタン人もいれば、ロシア人、イスラム系もいて、

 よくわからない少数民族もいた。

 そして、朝鮮人もいた。

 「よう、釣れるか?」

 「ウナギが釣れたな」

 バケツにウナギが入っていた。

 「カザフスタンの状況は掴めたかい?」

 「牧畜業はね。牧草地面積に対する牛の数。あと治水」

 「それと栄養価の高い牧草と農薬の関係と牛の予防注射だな」

 「それが複雑に絡む。要はバランスだよ」

 「じゃ 栄養価の高い牧草と農薬を使えば・・・」

 「それやると最初は良いけどな」

 「土地が一気に痩せて力を失う。いまのソビエトが、それ」

 「フルシチョフの農業政策ね」

 「アメリカのバイオ作物だけどね」

 「バイオ中毒か・・・忠告してなかったのか?」

 「その時、日本は、ソビエト中枢に食い込んでなかったからね」

 「まぁ フルシチョフ以前から無茶な農業生産の傾向があったから、騙されちゃったんだな」

 「やれやれ」

 「一旦バランスが崩れると砂漠化が始まる」

 「えりも岬みたいに」

 「そう、そう、あそこ。一部ならともかく、国全体で、そっちに行ったらまずいでしょう」

 「砂漠化を押さえろと?」

 「うんにゃ 生産増大」

 「そりゃ 無茶な」

 「だよねぇ バランスを取り戻さないと駄目なのに・・・」

 「とりあえず。牛の数を減らさないと」

 「いや既に砂漠化傾向で牛が減っているから、緑化だろう」

 「しかし、この状況だと・・・」

 「だよねぇ」

 「アメリカは、喜んでいるかもしれんな」

 「状況が、わからないだろう」

 「衛星で緑地が減ってるのは、丸分かりだろう。何が起きているか、見当は付くよ」

 「アメリカの農業戦略と直結か・・・」

 「ソビエトの農業がこれだと、子供の飯を人質に取られたも同じ」

 「それはまずい」

 「いまのところ、ウラジオストック共和国とボルネオ島と日本からの輸入で何とかな・・・」

 「ソビエト連邦は、ウラジオストック共和国の離脱を恐れているよ」

 「シベリア鉄道の路線を増やすのも、それか」

 「KGBが目を回すかもしれないな」

 「極東の離脱なんて、もう、軍事機密、軍事費とどころじゃないよ」

 「日本に資源を投げ売りで新幹線の延長と増便を発注してきたからな」

 「また儲かりそうだな」

 「また、土建屋のニヤつく顔が目に浮かぶね」

 「良い傾向だよ。資源が安ければ中流品でも採算性を伸ばせて国際競争力がつく」

 「あとは、余剰資金に任せて優良工作機械を買うか、自費開発だな」

 「しかし、ソビエトの農業は、これほど悪くなってるのか・・・」

 「ソビエトが強過ぎるのも怖い」

 「しかし、アメリカに食料を握られた状態のソビエトも面白くない」

 「それは言える。米ソのパワーバランスが狂うと日本が困る」

 

 

 日ソ協商条約が調印される。

 実利的な既成事実を文書にして調印しただけに過ぎない。

 西側からは、既に準同盟関係と思われていた。

 そして、日ソ協商が調印されると現実に直面し、より警戒された。

 ホワイトハウス

 「我々、アメリカ合衆国の対華国合衆国支援は大きい」

 「しかし、中華合衆国より日本連邦が経済成長している」

 「中国支援は、浪費というより、中国官僚の蓄財ですかね」

 「無意味な投資ではないのかね」

 「ですが、金さえ渡せば、利権が入るので・・・」

 「安い資源や市場は魅力的だがね」

 「しかし、それと同盟に足る信義は別だろう」

 「戦後、日本と組まなかったのが痛手なのでは?」

 「世界地図を見たまえ」

 「中華合衆国と日本連邦を比べて、どっちと組むか、客観的に判断してみたまえ」

 「まぁ 確かに常識的な判断ではあります」

 「とにかく、中華合衆国を手懐けて、アジアでの反共の拠点にすべきなのだ」

 「むしろ、反共は中国より、日本では・・・」

 「・・・・」 むすぅうう〜

 

 

 インドネシア連邦ボルネオ州

 日本人と言えば日本人で、

 日本人でないと言えば、日本人ではないような日系人。

 日本人とインドネシア人の混血は増えていた。

 彼らは、インドネシア人よりモラルが高い傾向にあった。

 実力者は支配を求め。

 能力の高い者は成功を求めた。

 そういった者を選ぶと、公費で自分の家を建設し、

 公私混同の自家用車を買ったりと、モラルが低下していく。

 当然、権力者同士で結託し、

 闇系列と安全保障を結び、テリトリーを拡大しつつ保身を図りやすい。

 もちろん、その風潮を望まない勢力もあった。

 日系人は、几帳面で融通が利かない。

 しかし、都合の良い駒として、インドネシア連邦全域に雇用が広がっていく。

 「モラルはともかく、日系人は、日本人より柔軟性があるよ」

 「そりゃ ちょっとした不正腐敗なら目を瞑るけどね」

 「・・・そんなに酷いか?」

 「ライバルと手を組んでとか。抹殺してとか」

 「庶民から根こそぎ騙し盗れは、日系人でも、やりたくないよね」

 「んん・・・」

 「後進国は先進国になれない自己矛盾を抱えてるから」

 「先進国は自己矛盾が小さいだけ」

 インドネシア連邦のあちらこちらで正道と不正が衝突していた。

 日系人が警察権力を手に入れると、闇系列の組織を摘発。

 公職がモラルの高い者に回りやすい土壌が作られていた。

 結局、アメリカ資本と華僑資本も少しくらい利益が目減りしても強者と手を結ぶ。

 日系人は、インドネシア連邦全域で根を張り、比較的高い地位に就き始めていた。

 無論、日系人だからといって、聖人君子ではない。

 比率が小さいだけで悪党もいる。

 ただそれだけのことだった。

 それでも公共事業における贈収賄の比率が減るだけで、

 公共工事の進捗が増していく。

 ジャカルタ アメリカ資本

 「結局、日本人に任せていた方が儲かるという寸法だよ」

 「そんなもんかね」

 「我々の投資が贈収賄でインドネシア官僚のポケットに入る」

 「こちらに見返りがあっても成果がない」

 「だが、贈収賄が少なくても成果が上がれば我々が買った株は数倍に上がる」

 「売れば、こっちは大儲け」

 「まぁ そう言えなくもないがね」

 「英語はお金持ち語、日本語は労働語だよ」

 「連中に働かせると効率が良くなる」

 

 

 ジャワ島 (東西約1050km、幅は約204km。面積約12万6520ku、人口6471万)

 日本より小さな島に人口が密集していた。

 もっと大きいなスマトラ島(面積約47万3600ku。人口2119万)より人口が多い。

 ジャカルタは、戦後、70万くらいの人口で、

 いまや200万人都市だった。

 しかし、その強いジャワ島も、少しずつ、陰りが見え始める。

 それほどボルネオ島(75万11000ku。人口3000万)の政治経済力が増していた。

 インドネシア連邦の実権を握っているのは、現地民で最大多数派のジャワ人。

 しかし、全体でみると一握りに過ぎない。

 小さなジャワ島でさえジャワ語、スンダ語、マドゥラ語が混在し。

 ジャワ語にも3つの方言が存在する。

 そういう国だった。

 多くのインドネシア人が急速に力を付けている日本語圏に靡き、

 日本のコロニー都市に住みたがる者は増加していく。

 

 

 第三次中東戦争

 イスラエル軍がシナイ半島を制圧する。

 

 

 北大西洋の中央にソビエト連邦の基盤が作られていた。

 メガフロート ウラジオーナ

 ミグ21とスホーイ15の4機編隊がウラジオーナ上空を駆け抜ける。

 そして、ターボプロップ4発のベアと双発ジェットのバジャーが発艦を待っていた。

 ウラジオーナは航空機の規模と数の運用でアメリカ原子力空母を圧倒していた。

 高くそびえる大型レドームは、いかなる艦艇も探知し得ない遠くまで探知することができた。

 惜しむらくは “動けない” こと。

 「スホーイ15は良いようですな」

 「燃料消費が大き過ぎることが弱点ですよ。どうです?」

 「日本も購入を考えられては?」

 「そうですなぁ 良い機体だと思われますが・・・」

 貧乏省の悩みの種は経費節減。

 国防省は空手形を切れるほど有望株でもなかった。

 「日本はターボファンエンジンを開発中とか」

 「ええ」

 「どうです。お互いに補えるのでは?」

 「そういう事も、あるかもしれませんな」

 すべては日米ソのバランス。

 そして、日本の国益と直結して判断がなされそうだった。

 

 

 EC欧州共同体発足。

 

 

 白人警官による黒人への暴力。黒人暴動

 ホワイトハウス

 「ニュージャージー州とミシガン州の暴動は、拡大する勢いを見せています」

 「はぁ〜 青海争奪で忙しいというのに・・・」

 「チベット族の取り込みはダライラマの妨害がなければ、もっと上手くいくのですが」

 「宗教団体なのだから反共であるべきだろう」

 「ダライラマが合衆国側につけば、一気に蹴りがつくんだ」

 「どうも、平和主義者のようで・・・」

 「どっち付かずだから国が割れるのだ」

 「もっとチベット傭兵を雇って青海を取ってしまえばいい」

 「青海省を押さえ、ソビエトの内腹に食い込もう」

 「ウラジオーナで北大西洋に押し入られたパワーバランスを取り戻せる」

 「ウラジオーナですが、南米との空路を計画しているようです」

 「なんだと! 南米に革命を輸入する気か!」

 「アメリカもメガフロートによる対抗を検討した方が良いかと」

 「B52爆撃機は同盟国の基地を使えば、世界中のどこに対しても爆撃が可能だよ」

 「ソビエトも、支援国の飛行場に降りられるはずですが・・・」

 「ウラジオーナと相乗効果を狙っているのだ」

 「ソビエト海軍は巨大なメガフロートで北太平洋に居座っている」

 「そんなソビエトは強い。だから組もうとな」

 「なるほど・・・」

 「日本人め・・・ロクなことしやがらねぇ」

 

 

 

 日本の人口は増加していた。

 しかし、まだ5000万。

 戦前より少ない人口でも一人当たり生産力、

 GDPは、急速に増えていた。

 戦前との相違は、国民が陸海軍を国家と考えず。

 陸海軍将兵も陸海軍を国家と認識していないこと。

 日本人の権力者、強者に対する不信感、警戒観は根強く、

 体制に恐怖心を与え、暴走を僅かに抑制していた。

 ヤクザに邪魔者を抹殺させようとしたとき、

 逆にヤクザに諌められ、通報された官僚や財閥もいた。

 過去の苦い記憶は、土建屋と軍属の体質に似たような印象を与え、

 一般的にも認識されていた。

 白色テロが困難になると、国家の主導性に暗い影を落としてしまう。

 しかし、公明性という形で、日本の風潮を明るいものに変えていた。

 赤レンガの住人たち

 「戦車が欲しいな・・・」

 「ソビエトがT62戦車を売りたがってるぞ」

 「T62も良いけど。国産戦車が欲しいね」

 「土建屋に予算を取られるだけだよ」

 「最近、穴掘りも高騰してるだろう」

 「大深度法で土地収用価格がいらないからね」

 「土建屋も味方を作ろうと勤労者の所得を増やしているわけよ」

 「外国みたいに地下鉄反対で小金を稼ぐ連中がいないから効率性は良いよ」

 「足を引っ張る連中はどこにでもいるよ」

 「反対しても利用はするけどね。実のところ、そう誘導したいねぇ」

 「俺たちね。その足を引っ張りたがるの」

 「それで、地下防衛より、戦車配備が良い、と思わせれば良いけど、大深度法があるからな・・・」

 「いまキロ当たりいくら?」

 「160億くらいだっけ・・・」

 「戦車の方がいいよ。1両8000万くらいで製造できる。160億なら200両は作れるぞ」

 「政府は、補助金出しても雇用の方を取るからね」

 「赤字じゃないか」

 「沿線沿いの人口も増えているし、乗用車も制限している」

 「戦車部隊を維持するのと大して変わらんそうだ」

 「ちっ!」

 「アラブの油田も安いから、それも大きいか」

 「アメリカの自動車業界も、その方が売れると踏んだのだろうか」

 「日本と違って、アメリカは市場に敏感だからな」

 「ていうか、中国に市場を作ろうとしているんだよ」

 「自動車を輸出しようとしているの、モロわかりだね」

 「なるほど・・・」

 開発を絞って集中する。

 10の開発力を10個に分けるより、

 2つに絞る方が、資本、人材、資材も集中しやすかった。

 既存の技術に集中して予算を投じるとリターンは、それだけ早く見込まれた。

 戦後の日本が行った手法は、種も仕掛けもない。

 もっとも、それも、社会設備が多様化していくとニーズが広がり限界に近づいていく。

 土建屋が地下鉄の駅の上にエア・コミュター飛行場を建設したり。

 日本と離島の連絡空路をアントノフAn12カブ、An24コーク、An2コルトに誘導したり、

 我田引水や自派閥の拡張に利用する体質は、戦前と変わらなかった。

 

 

 揚子江の南側に建設される地下鉄も日本のシールドマシンだった。

 もっとも、1435mm標準軌であり、

 走っている電車は、アメリカ製の複製電車だった。

 費用対効果で日本で製造された車両が海を越え、中国合衆国でも走る。

 国際競争力は、力であり敵味方の垣根を曖昧にしていく。

 もっと曖昧なのは青海省争奪戦で、

 同族同士で血で血を洗い、国境線を奪い合っているにもかかわらず。

 北と南、どっちの漢民族か不明な中国人が一緒に並んで商売していた。

 そういう理不尽な大陸。

 アメリカ権益地セカンド・ニューヨークは、アメリカ合衆国政府が大家だった。

 テナント代や家賃を払えば、外国人が住み、利益をあげることができた。

 諸外国の支持を得ることが揚子江の権益地を守るための布石であり。

 ハワイからセカンド・ニューヨークまで直行便が飛んでいた。

 ここに中国大陸から資本が集まり、資源が運び込まれ、加工も始まる。

 ゼネラルモーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーの工場が軒を並べ。

 ここで生産された乗用車が中国合衆国に売られ。

 なぜか、中国連邦側にも流れていく。

 結局、燃料を食うアメリカ車が中国大陸全域を走ることになり、

 アメリカの石油戦略に中国大陸も組み込まれていく。

 ソビエトのボルガ車、東ドイツ製のトラバント車は、安かろう悪かろうの見本でしかなく、

 日本の奇天烈電気自動車も盗難防止効果があったものの大都市内専用だった。

 とはいえ、大多数の中国人の移動は、まだ自転車であり、

 性能の良い日本製自転車が好まれた。

 中国の工場、日本人整備士がタイヤに仕込んだモーターの配線を交換していた。

 「・・・日本は、もっと大衆車を作るべきある」

 「電気自動車は、悪くないよ」

 「日本は、沿線沿いに町が繋がって全然困らないある」

 「中国大陸は、未開地ばかり、電力なんてないある」

 「アメリカの石油戦略に巻き込まれたくないからね」

 「自国の権益を守ろうとすると、どうしても、我を張らないと・・・」

 「我を張るより、欲を張るある」

 「まぁ そう言えなくもないけどね」

 「日本人は自動車を作るある。自転車は中国人に任せるある」

 「そうだねぇ」

 「日本人はエアコンを作るある。扇風機は中国人に任せるある」

 「そうだねぇ」

 「日本人はテレビを作るある。ラジオは中国人に任せるある」

 「そうだねぇ」

 日本の電気自動車が西側で販路を得られない反動か、

 日本は、中級品から低級品の電化製品に傾倒し、中国市場に流通させていた。

 丈夫で信頼できる日本製が大量に出回り。

 怪しげな中国国産電化製品を中国市場から淘汰しつつあった。

 そして、電気自動は、都市内交通という事で共産圏で使われ、

 少しずつ輸出されていく。

 

 

 中華合衆国

 香港島

 “日本人に教えてはならない” 詠春(えいしゅん)拳が香港島に伝播していた。

 中黄連邦系の北派(外家拳)拳法が遼東半島経由で日本に伝わった反動といわれていた。

 連邦と合衆国は、1年交代で理事国が交替する。

 自国こそ、中国大陸の正統政府であり、

 優位性を証明するため拳法が国外に流出したともいわれる。

 日本も “交替で理事国にしたら” という意見を出したためか、

 外交上、社交辞令が必要だったのか。

 中黄連邦に “公正の門” を送ったり。

 中華合衆国に “自由の塔” を送ったり。

 「こういう、良くできたモニュメントなら日本に造ればいいのに・・・」

 「まぁ 両国にエールを送ったという事で・・・」

 日本は、豊原オリンピックを来年に控えているのか、

 気を使ったり、頭も使ったりしていた。

 

  

 樺太 豊原

 来年のオリンピックに備え、公共設備工事が一気に進められていく。

 「宗谷海峡トンネルが完成していればな」

 「津軽海峡トンネルもね」

 「どっちも、斜坑は終わったんだろう」

 「だいたいかな」

 「経済優先で地面側を先にやっても、最終的には海峡トンネルを連結させないとね」

 「満州油田とアラブ油田が安い間にやっちまった方がいいね」

 「なに? ヤバいの?」

 「第3次中東戦争は、イスラエルが6日間で勝ったけど、上がる気配を見せたからね」

 「長引くと・・・」

 「なるほど、原油が安いうちに作っちまえか」

 「しかし、また土建屋の横暴とか、叩かれそうだな」

 「野心的な奴ほど社会資本を欲しがるからね」

 「そりゃ ちょっとは反省してるけどさぁ やんなきゃいけないモノはやんないとねぇ」

 「しかし、日本人で、一国一城の主になれるような」

 「そんなに力のあるやつ増えたかな」

 「戦前・戦中より増えたかもね」

 「津軽海峡トンネルで15年」

 「宗谷海峡トンネルで28年くらいかな」

 「営業開始はそのあと・・・」

 「国防という観点なら海峡トンネルは大きいよ」

 「ファントムだろうとF100系戦闘機だろうと、地下に潜った日本軍に手を出せないからね」

 「まぁ 国防という口実で作っているけどね・・・」

 「日本列島がシベリア鉄道と連結なら経済波及効果も大きいだろう」

 「大きいよ。樺太経済は、豊原オリンピックが弾みになって一気に東京・大阪と並ぶかも・・・」

 「既成の地場勢力が小さかったから計画都市で行けたのが良かったよ」

 「ちょっと活気に欠けるけどね」

 「計画都市が強いと市民も親方日の丸任せで、そうなっちゃうんだよねぇ」

 「適当なところで退いた方がいいよ」

 「民間活力を削いで、人口増加の足を引っ張ってる気がしないでもない」

 「人間って混沌とか、無秩序が好きだから、矛盾してるよねぇ」

 「とりあえず。我田引水で法整備を進めて、金を掛けてもトンネルを作っちまうのが良いよ」

 

 

 

 ウィグル族が多く住むタリム盆地は、東西1100km。南北500km。面積53万ku。

 北端は、氷河をのせた山々が東西2500kmに渡って連なる、

 4000m〜6000m級の天山山脈がそびえ、

 南端は、長さ3000kmに渡って200も山々が連なる、

 6000m級の崑崙山脈がそびえていた。

 その南にも4000級の山岳地帯が広がるチベットがあり、

 頂は万年凍土によって塞がれていた。

 雄大、壮大、いろんな形容詞が使われる中国西部。

 こういう大自然に住む者は、人間同士が殺し合う殺伐とした世界に向かない。

 とはいえ、大地に埋蔵されていると思われる鉱物資源は、注目を浴びていた。

 空挺部隊が海抜4000m級の山岳に基地の建設を目論み、

 上空をソビエト義勇軍のミグ19、ミグ21と、

 アメリカ義勇軍のファントムU、F105サンダーチーフが空中戦を繰り広げ、

 中黄連邦軍のミグ17と中華合衆国軍のF104スターファイターが空中戦を繰り広げていた。

 ファントムUは、レーダーの索敵範囲、索敵距離でミグ戦闘機を上回っていた。

 ファントムUはレーダーの優位性を利用し、

 ミグの死角に回り込み、ミサイルを発射していく。

 しかし、まだ敵味方識別装置がはっきりしていないため、

 同士撃ちを恐れるあまり、有視界まで接近する。

 しかし、それが仇になりやすかった。

 ファントムがミグの後方につくことができても、有視界だと発見されることがあった。

 後方に気付いたミグ17が太陽に向かって、急上昇しつつ反転。

 サイドワインダーは、ミグ17から逸れて、熱源の太陽に向かって飛んで行く。

 ミサイルを撃ち尽くしたファントムが逃げ出し、

 ミグ戦闘機編隊がファントムを追いかけ、

 そこに20mm機関砲4丁装備した旧式F8クルセーダーが割り込んでいく。

 ミサイルに頼り切ったアメリカ航空戦略は、戦果が思わしくなかった。

 同士撃ちを避けるため敵機の視認が求められたこと。

 標高が高い分だけ空戦域が狭められたこと。

 ミサイルの命中率が低かったこと。

 ミサイルより敵機が多いこと、

 また、音速戦闘機とはいえ、常時アフターバーナー全開で飛べるわけでないこと。

 以下のような理由でミサイル万能は、後退していく。

 そして、互いの基地を爆撃しては、粉砕し、

 地上でも敵と味方の戦車部隊が国境を余計に削り取ろうと走り、砲撃し、撃破されていた。

 もっとも、4000m級山岳地帯に簡単に飛行場を建設できるはずもなく。

 双方の基地は、まだ、東寄りであり青海の一部に過ぎなかった。

 

 狙撃用スコープに映し出される美しい大自然。

 そこに不似合いな二足歩行生物を始末していく、

 『良いコミュニストは、死んだコミュニスト。良いコミュニストは、死んだコミュニスト』

 そう口ずさみながら、自己正当化していく。

 もちろん、相手も・・・

 『良い帝国主義者は、死んだ帝国主義者。良い帝国主義者は、死んだ帝国主義者』

 スコープに映る邪魔な人影を葬っていく。

 実のところ、漢民族の場合、コミュニストでもなく、帝国主義者でもなく。

 どっちも同類、利己主義者でしかない。

 

 

 東西両陣営のどちらの側にも日本人の傭兵パイロットがいた。

 戦場を経験してきた日本人パイロットが日本に帰国し、教壇に立った。

 「いいか。戦訓、その1。先に敵を見つける」

 「うんうん」

 「戦訓、その2。先に敵を見つける」

 「・・・・・」

 「戦訓、その3。先に敵を見つける」

 「・・・・・」

 「戦訓、その4。先に敵を・・」

 「もういいよ」

 とはいえ、戦訓は、生かされていく。

 ミサイルの命中率は、2割から6割と不安定だった。

 また日本は、まだアメリカのような小型で高性能レーダーを開発できていない。

 仕方なく、空中巡洋艦ベアにレドームを搭載し、空対空長距離ミサイルを装備させる。

 先に見つけた方が勝ちならありと言える。

 ソビエトがTu95ベアにレドームを装備し、

 早期警戒機Tu126モスとしたのと同様の手法だった。

 そして、ソビエトより新規開発能力の乏しい日本は、空中巡洋艦ベアを改良し軽量化していく。

 

 太平洋上空

 Tu95ベア機体下部からミサイルポットがせり出され、

 横に並んで飛ぶ、標的に向けられる。

 「標的ロック。確認」

 「撃てぇ」

 ロケット噴射で撃ち出されたミサイルがベアの誘導にしたがって、

 旋回しつつ、標的に向かって流れていく。

 標的との相対速度、相対距離、

 気流の流れに逆らうように蛇行しつつ標的に向かい、外れてしまう。

 「駄目か」 落胆

 「自爆させます」

 「ああ、フレアを使ったり、太陽に逃げるとかあるからな」

 「普通に飛んでも当たらん時は当たらんな」

 「やっぱり、空対空ミサイルより、戦闘機を誘導する方がマシかな」

 「それは、ミグの航続力内だろう」

 「いまやってるのは、外洋での自衛用だよ」

 「ベアの大きさだとフレアや妨害電波も、ミサイル攻撃を防げないからな」

 「先に発見して長距離空対空ミサイルが一番だろうね」

 「問題は、ベアが探知した方向にミサイルが向かってくれるか、だよ」

 「ミサイルはUターンさせられそう?」

 「そりゃ 後ろから来た敵機にミサイルを向けることはできるけどね」

 「そこからの精密誘導は別だからねぇ」

 「それによって、母機の改良項目が変わってくるからね」

 「後尾の23mm機銃座より、空対空ミサイルを置く方がいいよね」

 「んん・・・そっちの方がいいか・・・」

 軽量化で浮いた積載量でレドームと電子装備を載せ空対空ミサイルを装備。

 自重は、ほとんど変わらなくなってしまう。

 「ソ連は、原子爆弾を空中で爆発させて、国土を守る気らしいよ」

 「そこまでやるかな」

 「日本みたいに地下が広がっていないからね」

 「・・・さてと、そろそろ降りるか」

 「今夜は、運試しの暇潰しで、アレ、行くか」

 「んん・・・離島の景気対策でカジノ公認は良いけど、ちょっとなぁ」

 「議会で保留にされたらしいけど、外資優遇策もあったらしいよ」

 「離島は、そういうのがないと発展し難いからね」

 ベアがトラックの飛行場に降りて行く。

 東方700km先のポナペ島は、アメリカ軍機が配備されており、

 日米が直接対峙する空域だった。

 米ソ冷戦は、自由陣営と共産陣営の思想戦という構造があった。

 国益や国家主義を前面に出してしまうと同盟関係が破綻しかねず。

 日本連邦は、私有財産を認めているため自由資本主義国家。

 しかし、アメリカの対日姿勢が敵対的になってしまうと冷戦構造の根幹を揺るがしかねず。

 イデオロギー上、仕方なく、融和的なものに成らざるを得ない。

 離島のカジノ公認は、私有財産を認めている象徴にもなっていた。

 もちろん、離島工事を進めやすいように土建屋が政策誘導したものだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 ようやく、日本人の人口は5000万です。1912年の総人口です。

 海洋法の制定は、まだ先です。

 一応、拒否権もあるので沖ノ鳥島は、制定以前の既成事実として領土を認めさせられそうです。

 

 土建屋が地下鉄の赤字を恐れて、モータリゼーションを妨害。

 不便でも自動車事故が少なく良し悪しは微妙。

 史実よりモータリゼーションが遅れそう。

 

 

 とりあえず中国拳法の大まかな目安。

 

 北派(外家拳)  少林拳。査拳。翻子拳。八極拳。蟷螂拳(螳螂拳)。鷹爪拳(鷹爪翻子拳)

 北派(内家拳)  太極拳。八卦掌。形意拳

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 揚子江

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 南派武術(南拳)  洪家拳。詠春拳。白鶴拳。蔡莫拳。蔡李仏拳。

 

 伝統武術の四大源流は、華拳、峨媚拳、武当拳、少林拳。

 いまは、400〜600ほどの門派。

 

 

 

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第25話 1966年 『博打は駄目よ』
第26話 1967年 『金を使うな頭を使えは、禁句』
第27話 1968年 『豊原オリンピック』