月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第29話 1970年 『ば・ん・ぱ・く』

 アフリカ諸国の共産圏

 コンゴ人民共和国  エチオピア人民民主共和国 

 アンゴラ人民共和国  モザンビーク人民共和国

 ベナン人民共和国  ソマリア民主共和国 

 マリ共和国  ギニア人民革命共和国

 ギニアビサウ共和国  アルジェリア民主人民共和国 

 ガーナ共和国 社会主義人民リビア・アラブ国。

 独立時、共産主義を選択した国々は、経済成長で伸び悩みを見せた。

 そして、非共産圏で独立した国も、共産ゲリラの破壊工作で経済的に追い詰められていく。

 西側であれ、東側であれ、考えることは一つ。

 欲しいのはライバルでなく傀儡。

 市場であること、資源の供給源であること。

 独立して農業を成功させたり、工業力を発達させたり。

 先進国の農業と工業を脅かすような国になって欲しくないと考える。

 我田引水やミスリードを誘い都合の良い農業肥料を使わせる。

 基礎工業力を身につけさせるより、完成品を渡して工業化を断念させていく。

 アフリカの年(1960年)から歳月が流れて早10年。

 アフリカ諸国の共産圏にも日本人が降り立っていた。

 軍に護衛されたトラックが集落の中に入っていく。

 伝道所

 共産圏にも伝道所が残っており、

 神父や牧師が教会で子供に勉強を教えたりしていた。

 教室

 「ハンプティ・ダンプティが 塀の上 ハンプティ・ダンプティが おっこちた」

 「王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも ハンプティを元に 戻せなかった・・・」

 「・・・牧師さん」

 「やあ、来たね」

 「今週の品物を持ってきたよ」

 「随分、品数が増えたね」

 「日本も業者間競争が激しくなってね。みんな、血走ってるよ」

 「ストレスで、胃が痛くなりそうな話しだ」

 「軍国主義が失墜してから、大義名分より実利を取りやすい時代になったよ」

 「金に目が眩んで、法を捻じ曲げそうだね」

 「軍人が法を潰して暴走するより良いかも」

 「世俗は、なかなか、上手くいかないようで」

 「いつの時代も権力者が法を作って。実力者は法を捻じ曲げて」

 「能力の高い者は法を利用して。弱者は法に縛られる」

 「そうだったね。ずっと、天の法に従ってきたから忘れていたよ」

 「モノは?」

 「そうだったね。じゃ みんな!」

 「トラックの荷物を載せ変えてくれ」

 牧師がいうとアフリカ人たちが商品を降ろし、

 鉱物資源をトラックに積み込んでいく。

 アフリカ共産圏は、ソビエト連邦と日本から品物を購入。

 政府専売で、国民の生殺与奪を握り始める。

 ソビエトからの供給は武器弾薬でムチであり。

 日本からの供給は日用品、雑貨、食糧でアメだった。

 日本は、比較的、信用ができ、健全な集団と組みたがり、

 伝道所を売店と集積地に利用したのは、必然と言えなくなかった。

 伝道所に集積された鉱物資源が代価として支払われ。

 港から日本の船に載せられ、世界中へと輸出されていく。

 この光景は、アフリカだけでなく、ほかの共産圏でも同じだった。

 「ああ、農業用品は、これかい?」

 「注文のモノだよ」

 「日本人のおかげで助かったよ。共産化で命も危なかったからね」

 「農業をやるのかい?」

 「食料で自立したいからね」

 「んん・・・食料で自立されると鉱物資源がインフレ起こされそうだな」

 「どうせ、食料を作っても軍隊が来て持って行ってしまいそうだがね。それでも、やらないとね」

 「土地が広いから収穫は見込めそうだな」

 「作付面積じゃなく、水利で見るんだよ」

 「それによくサボるし、盗むし、嘘を言うから私有財産じゃないとね」

 「作物を育てるのは手間暇かかるからね」

 「作物も人間も育てるのは手間暇かかるよ」

 「本当は、まだ狩猟民族なんだ。農耕はこれからかな」

 「あ、珍しい石は拾ってきてもらえた?」

 「ああ、珍しい石だね」

 「一応、石と場所は、書いてあるけど、正確じゃないかもしれない」

 地域別に区分けされた籠の中に石が入っていた。

 注目できそうな石を選別し、拾った場所を確認していく。

 レアメタルを確認できれば、大きかった。

 「金とか、宝石でも探しているのかい」

 「まぁ 珍しい石だよ。土でも良いけどね」

 アフリカを貧しくしている元凶は、アフリカ人の識字率の低さにあった。

 文字で知識を共有できなければ、知的に孤立するしかなかった。

 高い視点と多角的で広い知識を得られなければ、

 情緒の発露も、倫理観も、個人の意識に埋没し消えていく。

 力不足、能力不足といった表面的な事ではなく知的孤立。

 そして、先に英語、フランス語を覚えた者は、中間管理層として同族から搾取していた。

 そうする方が楽であり、自らのテリトリーを拡大し、主になれた。

 そして、みすみす、ライバルを作ってしまうような真似はしない。

 出し抜いて生きていく世界が広がる。

 もっとも、そういう人間は信用できず。

 ソビエトや共産政府が目くじらを立てても、日本は伝道所の人間を頼ったりする。

 

 

 樺太 豊原

 オリンピック後も樺太の設備投資は続いていた。

 主流でない業者が役人に対し剥れる。

 「デタラメな設備投資をいつまで続ける気だ。戦前の二の舞にしたいのか」

 「借金先送りの積極財政は、特定産業が喜ぶからね」

 「もっと、社会資本を増やすべきではないか?」

 「戦後、農地改革で社会資本を作っただろう」

 「社会資本を集めたのが土建屋だったんだよ」

 「政府誘導でだ。不自然過ぎる」

 「まだ人口増加で余裕がある」

 「国内で不足な市場と資源も共産圏に得られている。悪くない」

 「いまのうちに軌道修正すべきでは?」

 「土建屋の力は相対的に弱まっているよ」

 「だと良いがね」

 

 

 03/14 豊原万国博開催 〜09/13

 世界各国から先端技術が集まっていた。

 日本もなけなしの技術で自慢できそうなモノが披露される。

 欧州からシベリア鉄道を越えて日本へ来る外国人観光客は多く。

 外国人用の入場期間も定められ、

 日本国内だけでなく、国際的にも大盛況となっていく。

 「・・すげぇ 月の石だ」 目がキラキラ

 「だけど、先端技術は、微妙に負けてるね」

 「でも動く歩道は面白いぞ」

 「既存の技術で作れそうなものばっかりだ」

 「貿易黒字なんだから、開発費ぐらい捻り出せばいいのに」

 「穴掘りに予算取られ過ぎてるんだよ。きっと」

 休憩所

 「疲れた〜」

 「思ったより混んでないけど」

 「400haも使えばね」

 「ソビエトの税関が日本に入り込もうとしていた赤い旅団を捕まえたってよ」

 「ソビエトのおまわりさんも、意外とやるね。しかし、何しに来るんだ」

 「来日しているイタリアの社長を殺しに。だって」

 「日本で、やるなよ」

 「国家資産が外国に流れているのが嫌なんだよ。日本も西側から見ると悪役だな」

 「嫌っていうか、国内問題なんだから自業自得」

 

 

 

 フランスとイタリアは、共産主義運動とゼネストで荒れていた。

 政府は共産革命を押さえ込もうと画策し、

 労働運動を弾圧するほど反発し、共産テロが大きくなり強くなっていく、

 イギリスは “揺り籠から墓場まで” 政策で経済成長が低迷しつつあったものの、

 社会主義と似ていたことから耐性があるのか、難を逃れ、

 アメリカは、リベラルが勢いを増していく、

 一方、共産圏もプラハの春以降、民主化、自由化の波が広がり、

 タダでは済まない状態になっていた。

 

 西側と東側は、国家権力構造が打倒されかねない状況でギリギリの妥協を強いられていた。

 資本家と共産党員は保身に走って、反政府勢力を弾圧すると、

 味方である敵国の反政府分子を殺してしまうジレンマに陥る。

 この状況下では、核ミサイルも、通常兵器も、飾りに過ぎず気休めにしかならない。

 モスクワ クレムリン大宮殿 ウラジーミルの間

 ワルシャワ条約機構の代表たちが集まっていた。

 「書記長。チェコの民主化が我が国にも波及していますぞ」

 「どうしろというのだ?」

 「鎮圧しなければ、我々 共産主義政権が倒閣されてしまいます」

 「鎮圧すれば、イタリア、フランスの同志を失望させ、窮地に陥れる事になる」

 「保身あっての国家です」

 「書記長。警察は、国家権力を国民から守るためにあり」

 「軍隊も外国から国家権力を守るためにあるのですぞ」

 「我々 共産圏は負けていない。フランスとイタリアは、共産化の一歩手前だ」

 「東欧も自由化の一歩手前です!!」

 「「「「・・・・・・・」」」」 むっすぅううう〜

 「ヤーポン。何か、良い策でもないかね?」

 「そうですねぇ ガス抜きで、多党制への移行と私有財産に上限を付けては?」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「そう・・・たとえば・・・一人の私有財産の上限を100万ドルくらい・・・」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「あくまでも、最悪の状態を避けるためのガス抜きですし」

 「それぞれの国で判断すべきだと思います」

 

 

 ワシントン ホワイトハウス

 NATO(北大西洋条約機構)諸国の代表が集まっていた。

 「大統領。フランスとイタリアは、ゼネストによる損失で経済が破綻し掛けています」

 「ご存じですかな?」

 「無論、知っておるよ。それで集まっているのだからな」

 「プラハの春でなく。チェコの嵐ですかな」

 「チェコの民主化運動が自由資本主義国家の共産主義運動に火をつけてしまうなど誰が思う」

 「計画だとプラハの春は、ソビエト軍に踏み躙られるはずだったのでは?」

 「それで、西側の共産主義運動を失墜させるんでしたな」

 「どこでシナリオが間違ったのでしょうな」

 「共産圏の政府は、軒並み日本商品を専売。体制を補強して庶民の不平を紛らせている」

 「だが、自由がないのに不平を紛らわせるはずがない」

 「昨日より今日の物資が多ければ喜べるでしょう」

 「労力より多くの物資が店先に並んでいるのですから」

 「資源売却で得ている物資だ。国家が、そんな不健全な状態で良いわけがない」

 「アメリカも、そうなのでは?」

 「我が国は、高度な科学技術を有している」

 「日本の賃金が低いのも不健全ですな」

 「日本の労働者が、いつまでも大人しくしていられるわけがない」

 「あの国は、共産党どころか、組合さえないのですぞ」

 「本来なら・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 「・・・こちら側でしたな」

 「あの頑固田舎親父が日本を理事国に推薦したからだ」

 「黄色人種だからと仲間外れにしたのが、まずかったのでは?」

 「もっと、日本に圧力をかければ良かったのだ」

 「圧力をかけた結果が現在の状態なのでは?」

 「日本人は、もっと賃上げを要求すべきなのだ。遊ぶべきなのだ」

 「なぜ、資源のない国に資源が集まるのだ」

 「なぜ、我々は、理不尽にも日本から資源を買い取らねばならないのだ」

 「植民地独立を妨害したからでしょう」

 「黒人に国家など運営できるものか、文字も知らない狩猟民なのだぞ」

 「欲張り過ぎ。自業自得だな」

 「そんな事を言ってる場合か! フランスは、軍を動かすつもりだ」

 「それは、まずい。これ以上、国民に銃を向けるべきではない」

 「コミュニストがフランス政府に銃を向けているのだ。フランス政府ではない」

 「軍を動かすと、ますます。こちらが不利になるぞ」

 「イタリアも、これ以上、忍耐できなくなっていますぞ」

 「同じ国民同士で殺し合って、どうする。NATOを崩壊させるつもりか!」

 「その前にイタリアの治安がテロで崩壊してしまう」

 「どいつも、こいつも、国家として自立もできんのか」

 「そいう問題ではなかろう」

 「植民地を失い収入が減れば、分け前を巡って内紛が始まる」

 「まぁ 立場の弱い労働者が不利になるのは自然だな」

 

 

 厚木基地

 深緑色のミグ21戦闘機が急上昇しながら駆け昇っていく。

 数人の関係者が見上げていた。

 「なんとか様になったじゃないか。ミグ21J」

 「Su7Jも、何とか戦闘爆撃機らしくなったよ」

 「ターボファンエンジンは苦労したよ」

 「上手く機体に収まったじゃないか」

 「ユニット構造にして外板一体型エンジンだよ。チタンを使ったから熱が外に伝わりにくい」

 「し、支障がなければ良いか」

 「支障があるとしたら、製造単価が上がったことかな。でもユニット単位で更新しやすい」

  推力 自重/通常/最大重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続距離 機関砲 ミ・爆
  kg kg m u km km mm kg
MiG21J 7000 5000/8300/9400 14.10×7.15×4.71 23 2430 1400 23×1 1300
Su7J 10400 8490/12570/15210 16.80×9.31×4.99 34 2350 1950 23×1 2400
 
MiG21SM 6490 5250/8300/9400 14.10×7.15×4.71 23 2230 1050 23×1 1300
MiG23 13000 10200/14700/17800 16.71×13.65×5.77 37.35 2500 1750 23×1 3500
MiG25 10210×2 20350//41000 19.75×14.02×6.5 61.4 2981 1865 23×1 1600
Su7 9600 8890/13570/15210 16.80×9.31×4.99 34 2150 1650 30×2 1500
Su15 7000×2 10760/17200/17900 21.41×9.43×4.84 36.6 2230 1780 23×1 600
                 

 「アメリカはF14を開発してるし」

 「ソビエト空軍はミグ23、ミグ25、Su15を開発してるというのに・・・」

 「少ない予算で軽量化とターボファンジェットの開発は恩の字だよ」

 「相手がF4ファントムか、F100系戦闘機なら戦えるだろう」

 「取り敢えず、ソ連から購入した機体を改造していこう」

 「しかし、迎撃機と戦闘爆撃機を揃えてもレーダーがね」

 「新装備のトランジスターで向上できたけど、ソ連は何で真空管なんだ?」

 「モンキーモデルでもなさそうだし、核爆発には強いらしいよ」

 「機体全部開発するのと、数か所改良するのと、その違いじゃないの?」

 「欧米に比べて、単純に科学技術で後れを取っているからな」

 「航空機の将来性を考えるとカーボン、強化複合材も力を入れたいけど」

 「土建屋に聞いてごらん。なんて言うか」

 「あはは・・」

 「日本が欧米に追いついているのって、家電レベルだからね」

 「んん・・・こうなったら精神力で補って」

 「精神力は否定しないけど、物量とは別の次元だよ」

 「穴熊引き籠り戦略だとハリアなんだけどな」

 「すぐ、撃墜されるじゃないか」

 「敵地で、航空戦力を臨戦態勢で維持する負担は相当なものだよ」

 「つまり、使わなくても良い。持っているだけで敵に大損させられる」

 「でも、イギリスは、売ってくれそうにないぞ」

 「だよねぇ」

 「ソビエトが開発しているかもしれんが」

 「んん・・・ちょっとだけ期待するか」

 

 

 フィンランド ヘルシンキ

 駅に新幹線が到着する。

 フィンランド、ソビエト、日本は、相互不信も絡んで複雑な関係といえた。

 しかし、プラハの春の成功と民主化で煽りを受けたのか、天秤が傾いてしまう。

 感情的な思惑と打算は違う。世の中、金だったりする。

 新幹線から降りてきた日本人の団体がフィンランドの名所へ向かう電車に乗り換え、

 ツアー先の湖畔。

 コテージ・ホテルへと向かっていく。

 「フィンランドも、カレリア側とあまり変わらないね」

 「フィンランド人の雰囲気も、ロシア人よりカレリア人に近い」

 「日本がソビエトと友好関係を結ぶと、フィンランド人は警戒するけど、現実は、どうかな」

 「共産圏の資本主義国家フィンランド。状況は日本と似ているはずだよ」

 「いまは、西欧と東欧は荒れているから、フィンランドも影響があるかもしれないな」

 「西と東は、軍事的に均衡状態だから動けないと思うけどな」

 「でも、シベリア鉄道でソビエトの東西の結びつきが強くなっているから」

 「軍事的に余力が生まれそうだけどね」

 「逆だよ。モスクワは中央集権に戻れなくなりつつある」

 「そういえば、ロシア人の半分は、アジア側に移動したんだっけ」

 「アジア側は、その気になれば独立できるから、ソビエト連邦は無茶できない」

 「プラハの春を見逃したのは、それか」

 「ソビエト連邦が穏健になるのは、悪くないよ」

 

 

 北大西洋の中央 ウラジオーナ

 動けない巨大な構造物の近接防御は効率的といえない。

 それでも、一種のバリアであり、ないより、あった方が良いと住人たちは考えてしまう。

 ソビエトで開発されたばかりの近接防御火器システム(CIWS)AK630が設置されていた。

 54口径30mm6連装ガトリング機関砲。

 初速1000m/s。射程2500m。発射速度3000発/分。俯角10度仰角90度。

 日本軍の武官がその様子を見つめる。

 「1基の火器管制装置で2基のAK630を制御ですか。素晴らしい」

 「そういえば、日本側が飛び付いたのは、初めてですな」

 「日本でも開発が検討されていましたからね」

 「ずっと予算不足で、後回しにされていたんですよ」

 「まだ、穴掘りですか?」

 「ええ、残念ながら」

 「日本を侵略する国は馬鹿です。保証しますよ」

 「日本は、安心を買うため、かなり大きな借金を後孫に背負わせていますからね」

 「通常、兵器は世代が変われば、価値が半減されていきますがね」

 「地下空間は防衛力で累積される。悪くありませんよ」

 「まぁ それくらいですかね。国防省は、面白くないですが」

 「将兵は、戦闘艦、戦闘機、戦車に憧れて、喜びますからね」

 「それが通じないような場所は敬遠したがりますよ」

 

 滑走路からベアが飛び立っていく。

 この機体が多用されるのは、巡航速度での経済効率の良さにあった。

 13600トン級スヴェルドロフ型軽巡洋艦2隻が周囲を護衛していた。

 全長210m×全幅21.6m×吃水7.2m。110000hp。32kt。800名

 182mm3連装砲4基、450mm対潜魚雷8基、AK630(CIWS)4基

 第二次世界大戦型の巡洋艦として世界最後に建造され、

 同型艦24隻建造のはずだった。

 しかし、占領した満州・朝鮮の設備投資に予算を取られ。

 シベリア型戦艦2隻の建造とユーラシア大陸鉄道に予算を食われ。

 同型艦は4隻だけ。

 時代遅れと言われながらも、大砲は、印象値で影響力があった。

 スヴェルドロフ 艦橋

 「どんよりとして、面白みのない海域だな。モスクワ型巡洋艦と交替したいね」

 「モスクワ型2隻がウラジオーナに配備されたのち、スヴェルドロフ型4隻は、極東に回されるとか」

 「極東の方が良い。日本に寄港したいものだ」

 「・・・艦長、スクリューに絡まった海藻は全て、取り除きました」

 「御苦労。こんなオンボロ巡洋艦を北大西洋のど真ん中に引っ張り出すとはね」

 「戦艦の海外出張が増えたせいかと思われます」

 「どちらにしろ、ウラジオーナは、もう少し、娯楽施設が必要だな」

 「チリ共産化になれば、観光に行けるかもしれませんね」

 「そうだな」

 

 

 チリ サンチアゴ TVでコマーシャルが流れる

 “奴らが私の子供を殺したのよ! 共産主義者たちが!!”

 “共産主義が、国民に提供できるのは流血と苦痛だけである”

 “チリを牢獄にしないため、選挙はエデュアルド・フレイを大統領に選ぶべきだ”

 “赤がチリで勝った時。どんな宗教的活動も不可能になる”

 “私は、チリの母親たちが、自分の子供たちを共産主義圏に送りこまないと信じている”

 とある場所

 「陸軍総司令レネ・シュナイダー将軍閣下」

 「チリ軍は共産主義に反対しているのではないかね」

 「軍だけでなく。個人的にも、そうだが・・・」

 「共産主義者の下で働くつもりかね?」

 「・・・・」

 「どうだろう・・・」

 「断る。軍は、政治的に中立であるべきだ」

 キューバの状況は知られていた。

 もちろん、プラハの春の成功も知られ、

 フランス、イタリア政府が過激化した労働運動を軍隊で押し潰している事も知られていた。

 しかし、チリの大多数はテレビを見ることもできないほど生活に困り、

 希望すら無くしていた。

 結局、キューバ、チェコ、イタリア、フランスがどうなろうと知ったことか、という空気が流れる。

 チリの社会資本は権力者と地主に寡頭化し、

 大多数の庶民は、明日の食べ物すら事欠いていた。

 

 

 サンチアゴ

 「レネ・シュナイダー将軍」

 「何だね。君たちは?」

 ば〜ん!!

 ガクッ!

 陸軍のビオー将軍がレネ・シュナイダー将軍の暗殺に関与したとして逮捕される。

 

 

 09/04 チリ大統領サルバドール・アジェンデ選出

 正当な選挙で社会主義政権が誕生する。

 チリ沖サンチアゴに近いヴァルパライソ港町の沖

 戦艦シベリアが停泊していた。

 排水量68000トン (全長280m×全幅38m×吃水10.4m)

 ディーゼル機関24基+電気駆動タービン3基3軸3基3軸推進17万7600馬力

 最大速度29ノット

 航続力18ノット/24000海里

 50口径406mm3連装砲3基

 56口径100mm砲2基

 S300F(SAN6)4連装艦対空ミサイル8基

 SSN14 4連装450mm対潜魚雷4基

 AK630(CIWS)8基

 カモフKa25対潜ヘリ3機

 双発水上機 2機

 対艦兵器は、406mm3連装砲3基(射程45.6km)だけだった。

 P15テルミート対艦ミサイル(80km)を装備した駆逐艦より対艦能力で劣る。

 しかし、対空対潜能力で及第点の大型戦闘艦だった。

 攻撃より防御に重点を置かれて、ソビエト艦艇よりアメリカ艦艇に近い。

 艦体の中心部にCIC(戦闘指揮所)があるが四六時中いると息が詰まった。

 戦艦シベリアの艦長は、艦橋にいる事が多く。

 ぼんやりとチリ沿岸を見つめる。

 交渉事は、全て外交交渉権を持つ者か、政治将校が行っていた。

 艦長は、艦の安全を確保しつつ、チリ国民にシベリアを見せびらかすだけだった。

 戦艦シベリア 艦橋

 「ミズーリは、相変わらずしつこいね」

 「向こうは6隻。こっちは2隻。作戦能力で勝ってもローテーションを考えると逃げられんよ」

 「おかげでチリ沖の戦艦は2隻で、観衆が海岸に集まっているよ」

 「戦艦は人気があるけど、時代遅れの艦砲じゃね」

 「上は、滑空有翼誘導砲弾を検討していたよ」

 「なんか怪しいな。撃ち出した瞬間、衝撃で壊れないか?」

 「ロケットブースターで射程は倍」

 「命中率はレーダーホーミングの仕様で、爆薬は3分の1だったかな」

 「微妙に良さそうだな」

 「自爆しなければね」

 「日本に作ってもらえよ」

 「あははは・・・」

 「KGBの連中の話しだと、CIAは、チリ共産化のワクチンで軍国主義化を考えているらしい」

 「共産主義のワクチンで軍国主義は大戦前と同じ発想か。帝国主義者も進歩がないな」

 「分別無し、思慮無し、短絡思考の腕力馬鹿に頼るようになったらアメリカも、お終いだな」

 「権力が集中すると、そうなりやすいからね」

 「ボルシェビキも似たようなところがある」

 「ボルシェビキは、まだ政治的だよ」

 「戦う・戦わない、の選択肢がある。軍国主義は戦うしかないよ」

 「同志フルシチョフは、どうするって?」

 「さぁ 南米じゃ アメリカに勝ち目がないよ」

 「チリ人を傭兵で雇ってチベット戦線に送り込んでいる」

 「帰国させてアジェンデ大統領親衛隊にするつもりらしいけど」

 「ほぉ チリの反共コマーシャルに流れていた通りか。KGBもロクな事をしないな」

 「チリの国軍がアメリカに買収されるか、どうかだろうね」

 「金の力は強く。支配は魅惑的だからね」

 

 

 チリ サンチアゴ

 大統領アジェンデの就任演説を日本人たちが見上げていた。

 「ありゃららら、本当に大統領になっちゃったよ」

 「国民は大喜びだよ」

 「CIAが暗躍しているらしいよ」

 「国民が喜んでいるんなら様子見だろう。やだねぇ 思想で殺し合いなんて」

 「フランスとイタリアが社会主義化しそうだから、焦っているんじゃないの」

 「日本以外、全部赤化すれば、大儲けだけどね」

 「あははは・・・」

 「漁夫の利が得られればいいけど、ソビエト、退いてるし」

 「だけど、これだけ国民が喜んでいたら・・・」

 

 

 国連 

 国際議場では軍事力より、口角砲がモノを言い。

 ダーティイメージは集票力で影響力があった。

 共産圏の プラハの春 に対する姿勢は好意的に見られ。

 フランス・イタリアのゼネスト鎮圧 に対する姿勢は侮蔑的に見られた。

 前者は、共産圏の不介入により民衆の力で民主化が進み。

 後者は、政府が軍事力と警察権力を動員して民衆を踏み躙っていた。

 同志フルシチョフの説教が議場に響き渡る。

 「フランスとイタリアは、資本家と権力者と国軍が結託し」

 「善良で無垢な国民に対し発砲している!」

 「これほど、愚かな政府と国軍は、歴史上存在しない!」

 「ソビエト連邦と共産主義諸国は、金に目が眩み」

 「無垢な国民を搾取する帝国主義を断固として非難する!」

 「国民の希望を戦車で押し潰すような非民主的。非人道的な国家を許すべきではない」

 「我がソビエト連邦と同盟国は不当に国民を弾圧するイタリアとフランスに対し」

 「経済制裁を要求する!」

 歴史を知る者は、滑稽と厚顔無恥な言いように呆れかえり。

 現地で状況を確認している者は、ため息混じりに頭を抱え。

 アメリカ代表は、チェコとフランス・イタリアの交換だと割に合わず、苦虫を噛み潰し、

 西ドイツ代表は、フランス・イタリア共産化でチェックメイト確実。プラハの春が恨めしく。

 フランス代表とイタリア代表は、白い目で見られているせいか憮然とするばかりだった。

 自由と共産の思想戦で冷戦構造が成り立っているため、

 自由資本主義圏の打撃は大きかった。

 日本代表は、フランス・イタリア経済制裁のシミュレーションを思い浮かべつつ、

 東西のバランスを気にする。

 日本の穴熊引き籠り防衛戦略に突撃かませる国は、この世界で米ソの2カ国しか存在せず。

 米ソ両国とも疲労感が大きいのか、その気無し。

 そして、日本も米ソと交易が滞ると経済が落ち込んでしまうため、日本も、その気無し、

 フルシチョフはさらに叫ぶ。

 「アメリカ帝国主義は、民主的、かつ、正当な選挙で選出されたチリ政府を転覆させようと画策しているのは明白・・・」

 「い、意義あり!」

 「証拠もある」

 それらしい文書、テープがテーブルの上に置かれる。

 世界中でアメリカとソビエトが暗躍しているため、どっちもどっち。

 しかし、情勢的にソビエト連邦と共産圏が正義に思えてくる。

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 日本代表は、米ソ冷戦も米ソ対立も、天秤としか思っておらず、

 情勢の変化に戸惑う。

 考えている事といえば、米ソ冷戦に隠れ、

 市場拡大と資源獲得を狙う戦争未満の経済戦争だった。

 

 

 揚子江 セカンドニューヨーク

 日本の浚渫船が上流の川を浚う。

 浚った土砂が権益地の造成に使われ防御力は大きくなっていく。

 揚子江の浚渫が進み、大型船が上流まで乗りいれられれば、利益が増す。

 また両岸が造成されれば洪水がなくなり、安全保障も増す。

 中国連邦も、中国合衆国も揚子江を挟んで戦いたくないのか、悪くなかった。

 中国連邦と中国合衆国の分断が始まって23年。

 狭い権益地に魔天楼が建設されていた。

 北京語と南方語を相互理解する者は減少し、

 国際河川を挟んだ中国官僚と華僑は利権争奪を繰り広げる。

 そして、中国マフィア同士の利権を巡る抗争で銃声が聞こえない日は珍しかった。

 

 

 白人が中国人を集めていた。

 「中華合衆国は、昆明(クンミン)に原子爆弾を製造する施設を秘密裏に建設しているらしい」

 「リー中尉。君たちは、そこで騒ぎを起こして、建設を妨害してくれないか」

 「成功報酬は?」

 「おいおい、君たちは、中国連邦の軍人だろう」

 「中華合衆国が核兵器を保有して良いと思っているのか?」

 「・・・あんたたちも、いい加減、中国人の気質を理解してくれても良いと思うある」

 「・・・・」

 「何で中国人が世界を支配できなかったか。理解できないとは呆れてものも言えないある」

 「・・・悪かった」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 史実の日本は おおすみ 打ち上げ成功。

 戦記では、史実よりロケット開発で遅れているので、お待ちくださいという感じです。

 日本は共産圏と仲が良いので、よど号事件もありません。

 日立でLSIが開発されていますが、こちらも、遅れるはずです。

 史実より、西側から輸出規制を受けているので、科学技術総合で遅れています。

 市場と資源が得られ、

 中級品で国際競争力を付けているので、いずれ史実並みに追いつけると思われます。

 

 揚子江の米英権益地は、史実で言うところの香港でしょうか。それが点々と12ヵ所。

 アメリカ権益地4か所

   セカンド・ニュー・ヨーク、セカンド・テキサス、

   セカンド・ペンシルヴァニア、セカンド・ネヴァダ。

 イギリス権益地8か所

   セカンド・ネルソン、セカンド・ロドニー、セカンド・クイーン・エリザベス、

   セカンド・ウォースパイト、セカンド・ヴァリアント、セカンド・マラヤ、

   セカンド・リヴェンジ。セカンド・レナウン。

 

 

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第28話 1969年 『勝ち馬はどっちだ』
第29話 1970年 『ば・ん・ぱ・く』
第30話 1971年 『100万ドルの悲喜劇・・・』