月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第30話 1971年 『100万ドルの悲喜劇・・・』

 チェコの民主化がポーランド、ハンガリー、ブルガリアに波及していた。

 モスクワ クレムリン大宮殿 ウラジーミルの間

 ワルシャワ条約機構(WTO)の面々 + オブザーバーの日本代表。

 「いま直ぐ、軍を出して群衆を鎮圧すべきだ!」

 「軍隊は国を守るために存在するのであって」

 「国民を威圧するために存在するのではない」

 「詭弁だ!」

 「国民から権力者を守るために軍隊は存在するのだ」

 「権力を守るため国民を力でねじ伏せるべきだ」

 「それは警察を使うべきで、軍隊を使うべきではない」

 「警察だけでは押さえられないから軍を出そうというのだ」

 「ならんぞ。それに警察であろうと国民への発砲はならん」

 「そんな事で国家権力機構が守れるか!」

 「国民が望むなら妥協すべきなのだ」

 「はっ! ソビエト連邦の首席のあんたが、それを言うのか」

 「と、とにかく、国民へ向けての軍の出動は反対だ」

 「ふざけんな! 2割の共産党幹部が国家権力の8割を握っているんだぞ!」

 「だから、警察で・・・」

 「「「それでは、国民を抑えきれないだろう!!!」」」

 「国民に吊るし上げられて殺されるぞ」

 「「「・・・・」」」

 「・・・妥協しつつ、戦争で誤魔化すか」

 「「「・・・・・・・」」」 ため息

 肉を切って骨を断つようなギリギリの選択が行われていた。

 西欧と東欧の交換ならソビエト連邦にとってはプラス。

 まして、東方のウラジオストック共和国は、いつ独立しても良いほど強大になっていた。

 東欧諸国は軍に出動命令を出すがソビエト連邦が発砲を禁じたため、事態は収まらない。

 日本の商品が流れ込み、国民の満足度は上がり、サービスも向上しつつあった。

 資源さえ日本に輸出すれば、住宅公団の建設も早かった。

 しかし、東欧の国民は、力付くで押し付けられた共産主義を嫌い多党制への移行を望む。

 共産党は最悪の事態へと向かいつつあった。

 「100万ドル以下の私有財産を認めることで」

 「国民の労働意欲工場と民需活性を狙うべきだろうか」

 「それでも済まぬ場合は?」

 「段階的に多党制への移行を検討するしかない」

 「し、しかし、軍で押さえれば・・・」

 「軍が政府の味方をするとは限らん」

 「軍隊を巻き込んで、暴動を起こされたら、我々は、お終いだ・・・」

 共産圏マフィアは武器弾薬、人身、麻薬の売買だけでなく、

 日本製品の代理販売まで手掛けようと、裏で動いているのか、

 日本代表の思惑に近付いていく。

 

 

 もっとも、状況は、西欧諸国も同じだった。

 チェコの共産主義国から民主化回帰。

 チリの選挙による共産化。

 この二つで、西欧諸国の共産勢力は勢力を増し、

 反体制運動が一気に盛り上がっていく。

 ワシントン

 北大西洋条約機構(NATO)の面々が集まっていた。

 「コミュニストを打倒すべきだ」

 「打倒しようとすれば、返って国民の反発を招くことになるのではないか」

 「労働者の要求は、あまりにも法外だ」

 「そうだ。まるで泥棒だぞ」

 「わかっている。我が国でも労働者のゼネストが起きている。共産化も辞さない構えだ」

 「戦車を投入して踏み潰せばいいんだ」

 「労働者をか」

 「そうだ!」

 「国民だぞ」

 「だからどうした。我々は、権力と権益を守る義務がある」

 「義務じゃなくて、権利だろう」

 「ここで国民が共産主義に流れてみろ目も当てられんぞ」

 「ちっ! ソビエトがプラハの春を踏み躙っていたら、こんなことにならなかったのだ」

 「フルシチョフのヘタレが」

 「国内問題を共産主義の脅威で誤魔化すのは、他力本願では?」

 「五月蠅い。あんたが最初に言い出したんだろう」

 「56年のハンガリー動乱のときは、戦車で踏み潰したじゃないか」

 「あの時とは、ソビエトの状況が全く違うだろう」

 「いまじゃ 東部離脱と独立がソビエト連邦最大の懸念だからね」

 「それに当時の日本は、東欧の影響力が小さかったよ」

 「日本人は、随分と変わったな」

 「日本人は、大局的な見識も持ち合わせていなかった」

 「視野の狭い近視眼が多かったはずだ」

 「そういえば、派閥争いで個々の小さな問題に振り回され、総合的な判断力はなかったはず」

 「それが、なぜ、これほどまでに変わる?」

 「昭和の改新以降と、それ以前の日本人の間でメンタルな相違でもあるのか?」

 「いや、個々の日本人は、近視眼だよ」

 「おかげで、商品の質は良くなっているがね」

 「と、ともかく。ソビエトが力尽くでプラハの民主化を捻じ伏せたら西側の反体制勢力は失墜するって。あんただって、賛成したじゃないか」

 「東欧に生活物資が流れ込んでいるなんて思わなかったんだよ」

 「チリは?」

 「チリなんか知ったことか!」

 「バカを言うな。チリは、正当な選挙で共産化したんだぞ」

 「我々は、ナイフを突き付けられたようなものだ」

 「そ、そうだった・・・」

 「と、とにかく、国民へ向けての軍の出動は反対だ」

 「ふざけんな! 2割の資本家が富の8割を握っているんだぞ!」

 「だから、警察で・・・」

 「「「それでは、国民を抑えきれないだろう!!!」」」

 「国民に吊るし上げられて、殺されるぞ」

 「・・・妥協しつつ、戦争で誤魔化すか」

 「「「・・・・・・・」」」 ため息

 こちらもアメリカ合衆国が圧力をかけて軍の発砲を禁じてしまい。

 欧州全体が自由と共産で荒れ狂う。

 

 

 ユーラシア鉄道の1520mm広軌コンテナと1435mm標準軌コンテナは幅が違う。

 東ドイツの巨大な集配所にコンテナが降ろされていく。

 ここで西ドイツ向かう列車に積荷が乗せられるか、トラック運送になる。

 西と東のドイツ人

 「“Made in Japan” か、東ドイツは、いつから日本の販売店になったんだ?」

 「販売員は、西ドイツだろう。さっさと西欧諸国に流してくれよ」

 「欧州全域が自由と共産で荒れている間に “Made in Japan” が流れ込みか」

 「いい気なもんだ」

 「働かなくても日用品は、消費するからね」

 「以前は、西ドイツの商品が東ドイツに流れていったのに今は逆になったな」

 「何で西欧諸国は軍隊でゼネストを鎮圧しないんだ?」

 「解散させて働かせればいいのに」

 「やったり、やらなかったりだし、東欧が民衆を戦車で踏み潰さないからさ」

 「だけど反体制勢力は、政府を打倒して共産主義政権を立てようとしているんだろう」

 「お金持ちの方が経済的に余裕があるからね。労働者側が仕事に戻るんだよ」

 「大変だな。東欧も相当ヤバいけどね」

 「お互いに権力の座から追い出されそうだな」

 「何でこんなことになったんだ?」

 「だから、チェコを踏み躙れば良かったんだ」

 「チェコを煽った西側が悪い」

 「「・・・・・」」 むっすぅうう〜

 東ドイツに集積された物資が西ドイツから西欧諸国へと流れていく。

 ゼネストによる生産力低下を埋めるように日本製品が欧米諸国に流れ込み。

 対価が日本に支払われていく。

 

 

 ワルシャワ 共産党本部

 ポーランド警察が群衆を押し止めていたが限界に近付いていた。

 「ぐ、軍を出すべきだ」

 「いけません。ソビエトは支持しませんぞ」

 「このままでは、ポーランドの共産党は、権力の座から追い出されるのだぞ」

 「多党制を容認すべきです」

 「「「「・・・・・」」」」

 ポーランドが共産党は100万ドル以下の私有財産を認めてしまう。

 ポーランド人は制限付きでも私有財産を認められた事に気勢を削がれた。

 群集は動揺しつつ縮小、沈静化していく。

 そして、民主化の波に気圧されたハンガリー、ブルガリアも100万ドル以下の私有財産を承認。

 国民は、私有財産の枠が広がった事に驚いたのか、安心したのか、

 急速に勢いが失われていく。

 

 

 フランス 第5共和国 大統領官邸

 フランス警察が群衆を押し止めていたが、限界に近付いていた。

 「ぐ、軍を出すべきだ」

 「いけません。アメリカは支持しませんぞ」

 「このままでは、共産党が勢力を増し、権力の座から追い出されるのだぞ」

 「民衆の力で共産化も民主化も可能だと国民が幻想を抱いているのです」

 「幻想? 事態は、もっと深刻だ。チェコも、チリも既成事実だ」

 「・・・・・」

 そして、フランスとイタリアも共産党が躍進し、

 政府閣僚に入閣させなければ収まらない状況だった。

 西側諸国が喉元に付きつけられたナイフは、財閥解体か、持ち株制だった。

 

 アメリカ合衆国 ワシントン

 ゼネストは、アメリカ社会にも波及し、

 白人を含めた群衆がプラカードを持って歩く、

 そして、共産圏で100万ドル以下の私有財産が認められた事が分かると、

 アメリカ国内の労働組合も勢いがついた。

 国民の力で共産圏を変革できる事が証明されたのだった。

 国民の私有財産が認められれば、多党制への移行も可能に思えてくる。

 ホワイトハウス

 「東欧が100万ドル以下の私有財産を認めるだと・・・」

 「余計な事を・・・」

 「バカな。東欧諸国は、なぜ、軍で民衆を鎮圧せんのだ」

 「なぜ、権力を守ろうと戦わんのだ」

 「このままでは、西側の労働運動を反体制運動にまで大きくさせてしまうだけです」

 「それが狙いなんだろう」

 「賃金を上げて人件費が大きくなれば、新規開発で余力を失うぞ」

 「所得に対する累進課税を大きくしては?」

 「財閥を敵に回す気か? どうせ抜け道を考えるだけだ」

 「ドイツは、時短と副業斡旋を検討しているようだが」

 「アメリカは、向かないな。リストラすれば、よかろう」

 「失業者を増やして、治安を悪化させるつもりか」

 「民衆は、リベラルに向かいつつあるし、共産主義に希望を抱いている」

 「共産主義に対する希望と幻想を打ち砕かねばならない」

 「資本主義と社会主義に絶望されると、ヒッピーが増えるだけでは?」

 「負け犬がどうなろうと構うものか」

 「国民に共産主義に対するダーティイメージを植え付けるんだ」

 「しかし、ソビエトは乗ってこないようですが」

 「青海・アフリカ大陸の対共産戦争がある」

 「反共意識が弱まっている」

 「殺し合わせるには共産主義に対する恐怖がなければ・・・」

 「フルシチョフのバカが戦車でチェコの民主化を踏み躙っていたら。こんなことにならなかったのだ」

 「もっと東欧やソビエト国内の民主化を煽って共産圏の軍を動かさせるべきでは?」

 「共産圏の支配者を日本製品が支えている」

 「日本人め。余計な事を・・・」

 「日本の労働運動は?」

 「あいつらばっかり儲けているじゃないか。ずるいぞ」

 「あいつら、変に几帳面だからな」

 「国民が全部、飼い犬なんだよ。忌々しい」

 「日本の資本家に生まれたかったよ」

 「トップとヒラとの格差は10倍以下」

 「き、共産主義国家じゃないか・・・」

 「そりゃ 中級品は数を売らないと利潤は得られませんから」

 「チリでのソビエトと日本に動きは?」

 「特にありませんが民族自決権は守るべきと」

 「ちっ 厭味な連中だ」

 「日本側は条件次第でチリから退くとか」

 「・・・・」

 

 

 

 モスクワ クレムリン

 フルシチョフは、カザコフ館の窓から外を見ていた。

 人通りは少なく、安堵するが気が気ではない。

 東欧の民主化の波は、まだソビエトには届いていない。

 TVでアメリカ、イギリス、フランス、イタリアの労働運動を流し、

 共産主義の優位性を宣伝していた。

 フランス軍が戦車で労働者のデモを威圧する光景が流れる。

 チリ共産主義政権誕生が劇的なナレーションで謳われていた。

 「早く、冬将軍が来ないかな」

 「冬が好きでしたかな。同志フルシチョフ」

 「冬になれば群集は家に戻るだろう」

 「いまのところ、群集は集まっていないようですが」

 「も、もっと、日本から商品を購入させろ。店の棚を一杯にするんだ」

 「それと、日本に公共公団も建設させろ。ロシア人の不満を解消させる」

 「分かっているのですか同志。代価の資源が日本に流れているのですよ」

 「だからどうした。我々は、共産主義を存続させねばならんのだ」

 「資源の少ない東欧は日本に利権を売り」

 「日本製品を買い求め店の棚を埋めているのですぞ」

 「貧乏だな。資源さえ売れば、政府専売のモノを買うためロシア人は、党を支持する」

 「我々は、労働が不足した状態で糧を得ているのですぞ」

 「ロシア人を怠け者にするつもりですか?」

 「ふっ ロシア人がアル中で怠け者なら、ソビエト社会主義連邦は安泰だな」

 「同志・・・」

 「同志コスイギン。わたしは疲れた。次は君が書記長になってもらえないだろうか」

 「え・・・」

 「スターリンのように死ぬまで書記長職にしがみ付くというものでもあるまい」

 フルシチョフ書記長は、公正で発展的な世代交代のためと称し、書記長職を辞任。

 後任はアレクセイ・コスイギンが付いた。

 世界中は、動揺したがソビエトの政策に変更はなかった。

 

 

 ワシントン 白い家

 ソビエト連邦の権力移行は、アメリカを苦境に立たせる

 「フルシチョフは、自ら権力の座から退いたのか」

 「残念ながら」

 「反スターリンとはいえ、そこまでやるのか・・・」

 「頑固爺だそうで・・・」

 「まずい、ソビエト連邦の評価が上がる」

 「でしょうな」

 

 

  排水量 艦齢(以下)          
大鳳 30000 27年 大鳳       1隻
瑞鶴型 26000 30年 瑞鶴 翔鶴     2隻
利根型 8500 33年 利根 筑摩     2隻
阿賀野 6650 29年 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 4隻
大淀 8200 28年 大淀       1隻
志摩 15000 7年 志摩 伊賀 伊予 甲斐 6隻
      蝦夷 飛騨      
               
潜水艦
赤龍 6500 1年1隻         12隻
鋼龍 6500 1年3隻         9隻
               

 日本海軍は、ベア空中巡洋艦隊が拡充していくに従い、急速にその数を縮小していく。

 まともに活動しているのは、15000トン級志摩型巡洋艦ばかりとなっていた。

 巡洋艦 蝦夷

 60口径155mm砲1基。

 P15対艦ミサイル4基。

 艦対空ミサイル連装2基(72発)。

 対潜ミサイル4連装2基(8発)

 AK630(CIWS)4基。

 

 

 埋め立てた沖ノ鳥島の滑走路からカモフKa25ヘリが飛び立っていく。

 新型巡洋艦 “蝦夷” “飛騨” が遊弋していた。

 赤レンガの住人たちは、潮風に当たりながら周りの海を見渡す。

 「志摩型も随分、様になってきたじゃないか」

 「対艦で不安だな」

 「155mm砲は悪くないよ。だいたい当たるしね」

 「でも、射程がね」

 「対空・対艦両用砲にするからだよ」

 「空母どうする?」

 「西太平洋で活動するだけなら、ベアの哨戒圏だからね」

 「基地に配備した対空・対艦・対潜ミサイルだけで防衛線を守れる、中華合衆国だって封鎖できる」

 「ベアが見つけて、巡洋艦のP15対艦ミサイルを誘導するだけなら」

 「プラットフォームは高価な巡洋艦じゃなくても良いくらいだがね」

 「島礁基地が多いから巡洋艦のヘリ甲板は、プラットフォームだけだ」

 「空母が退役したら寂しいよ」

 「単純に対潜ヘリを運用するだけならリバティ船でも良いんだけど」

 「リバティ船の代艦も建造しないとまずいよね」

 「遠征する機会があれば良いけど、なさそうだよ」

 「インドは? 荒れてるよ」

 「東パキスタン独立か。ユーラシア大陸鉄道網を邪魔したがってる連中が煽ってるんだな」

 「アメリカ合衆国は、貧富の格差が広がり過ぎて勤労意欲が低下している」

 「貧富の差で社会が荒れてるし、諦めて無気力化している人間も少なくない」

 「ユーラシア大陸鉄道の足を引っ張りたい気持ちは分かるけどね」

 「アメリカ合衆国も、だんだん、程度が知れて、一流国から二流国になり下がりだよ」

 「むかしは高潔な部分があったけどね。資本家が金に目が眩んじゃ お終いだな」

 「2代目とか、3代目になるとね。金を作れなくなるから、金にしがみ付きやすいんだよ」

 「民主主義は衆愚政治になりやすいからね」

 「小数の腐敗した権力者とどっちが良いか、という選択だからね。どっちもなぁ」

 「貧富の格差を一度埋めないとね」

 「昭和の改新から24年。既得権は広がっていても、まだ余裕がある」

 「日本人は横並びは好きだから貧富の差が低過ぎても、勤労意欲がね・・・」

 「いま貧富の格差が広がろうとしているから、格差を広げられないように必死に働いているじゃないか」

 「格差を広げないと大規模開発ができないんだけどね」

 「程度の低い既存の開発なら格差は、それほどでもないよ」

 「道理で国産が進まないと思ったよ」

 

 

 青海

 先制攻撃で優位だったのは、レーダーで優れたファントムU、F100系戦闘機だった。

 しかし、いったん、乱戦模様の有視界戦闘に入ると小回りの利くMiG戦闘機は有利だった。

 たちまち、ファントムU、F100系戦闘機が翻弄される。

 B52爆撃機が中黄連邦側陣地に爆弾を投下していく。

 ソビエトと日本がジェットプロップ4発機。

 アメリカはジェットエンジン8発。

 これが国力の差だった。

 『ミハイル。俺が戦闘機の相手をしてやる』

 「頼む!」

 MiG21がファントムの追撃をかわして、B52爆撃機に突撃していく。

 「バカめ、大き過ぎてレーダーじゃなくても見える」

 そのB52爆撃機にMiG21戦闘機が絡みながら、空対空ミサイルを発射。

 白煙を曳くミサイルがB52爆撃機に吸い込まれていくと胴体の半分が破壊され。

 燃えながら弾薬に誘爆。

 薄い大気を震わせながら青海の大地に激突し爆発四散する。

 

 

 地上では、地下施設を制圧できない手詰まりな部隊が頭を抱える。

 青海争奪戦争において、ここだけは違う様相を見せていた。

 中華合衆国軍陣地 軍事顧問団

 「ソビエト軍の地下施設への補給は?」

 「終わったようです」

 「そうか、じゃ もう一度、初めからだな」

 「やはり、毒ガスを使うしかないのでは?」

 「それは駄目だ。政治的に敗北する」

 「だいたい、日本だと圧縮空気と火炎放射器で出入口までガスが吹き飛ばされるよ」

 「それに日本は地盤を崩して、別の出入り口で戦争できる」

 「あと洗浄剤、殺菌剤、赤外線・紫外線・ガンマー線・放射線まで用意してる」

 「歩兵だけで要塞に侵入なんて、馬鹿ですよ」

 「だから、中国軍にやってもらってるじゃないか」

 「実験用の装甲兵も施設備え付けの機関砲で撃破されていますから、打つ手なしでは?」

 「人海戦術で突入させても、二酸化炭素を送り込まれて窒息させられたからな」

 「我が軍の地下トンネルでは、水素と炭塵を送りこんで誘爆させましたが」

 「どちらにしろアメリカは人的損失に堪えられない、人海戦術なんてできないでしょう」

 「いや、中華合衆国軍と連合して攻めた場合の可能性だよ」

 「水攻めですかね」

 「日本は地震と津波が多いから対処済みだろう。蓋をするか、地下へ流すか・・・」

 「・・・八方塞がりでは?」

 「実のところ、そうなんだ」

 「この実験をアメリカ軍将兵でやってたらクビが飛んでたね」

 「軍法会議だと死刑確定ですよ」

 「取り敢えず。報告書は?」

 書類が渡される。

 「・・まとめました」

 「やれやれ、どうしたものか・・・」

 

 

 北海

 イギリス領北海油田    フォーティズ  ブレント

 ノルウェー領北海油田  エコフィスク   スタットフィヨルド

 日本商船がイギリス・ノルウェーの油田を観察していた。

 船橋

 「ノルウェー側は、見せてくれるらしいよ」

 「助かるね」

 「海上油田か、やろうと思えば、できるんだな」

 「東シナ海も、期待できそうな油田があるが」

 「青海紛争で中国が荒れている間にやってしまうか」

 「問題は予算だよな」

 「バレル当たりの単価が下がれば、掘削の費用も小さくなるよ」

 「もう、なんでも穴掘りからみだな」

 「土建族は強いからね。保身が強くなると、だんだん公益性が失われていくよ」

 「一般市民からみると無知無策無能無力でも、本人たちは牙城を守っているだけだから」

 「それでも “昭和の改新” の最大の功績は、民意で官僚を粛清できる事だよ」

 「法的に生かしにくいのが問題だがね」

 「法を作っているのが官僚だからね」

 「紙切れと印紙で作った自分の城みたいなものだし」

 「自分の聖域を崩して首を絞めるようなことはしたくないさ」

 「それでも、生殺与奪を民意に任せられるから戦前・戦中より良いと思うよ」

 「しかし、油田か・・・当たり外れがあるからね。日本人って、そういうのに弱いし」

 「山師なんて、そんなものだよ」

 「しかし、東シナ海の宝の山を見逃す手はないよ」

 「それは、そうだ。そろそろ、メガフロート建造も悪くないし」

 「んん・・・リバティ船の大量退役と重なっているのが辛いねぇ」

 「共産圏から資源を大量に輸入しているから大丈夫だよ。たぶん」

 

 

 上空、いくつもの爆音が響いていた。

 数条の白煙が曲線の軌跡を描いていた。

 ソ連空軍のMiG23が旋回しつつ、降下し、

 日本製のMiG21が捻り込みながら、MiG23の内側へと回り込む、

 Gが加重され、背が座席に押し付けられ、ビリビリと機体が揺れ、

 MiG23がターゲットスコープに入り始める。

 『神田。右だ!』

 「おうよ。栗田」

 天と大地が何度もひっくり返り、その度に血が上がり、血が下がる。

 軌跡が絡み、標的が何度も入れ替わり、

 機体に真っ赤なマーキングが描かれていく、

 

 厚木基地

 ソビエトの戦闘機が駐機していた。

 日本空軍とソビエト空軍の合同訓練が行われていた。

 日本製MiG21は、ソ連製MiG23、MiG25に模擬弾を浴びせ、

 新型機売却が狙いだったソビエト外交官は、真っ赤になり。

 ソビエト空軍将校を真っ青にさせていた。

  推力 自重/通常/最大重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続距離 機関砲 ミ・爆
  kg kg m u km km mm kg
MiG21J 7000 5000/8300/9400 14.10×7.15×4.71 23 2430 1400 23×1 1300
Su7J 10400 8490/12570/15210 16.80×9.31×4.99 34 2350 1950 23×1 2400
 
MiG25 10210×2 20350//41000 19.75×14.02×6.5 61.4 2981 1865 23×1 1600
MiG23 13000 10200/14700/17800 16.71×13.65×5.77 37.35 2500 1750 23×1 3500
                 

 渋い顔をした日本人技術者がMiG23、MiG25戦闘機を見つめる。

 機首が流線形で尖っている方がカッコいい、

 しかし、機動性だと尖っていない方もありだった。

 「MiG23は、可変翼で機構が怪しいな」

 「いくら、F14戦闘機が開発されたからって、慌ててMiG23、MiG25は駄目だろう」

 「非有視界から始めると哨戒機の誘導で勝てる」

 「有視界戦闘でもMiG21は、格闘戦で優位か」

 「日本製は、マメに改良していたかいがあったね」

 「MiG23のツマンスキーR15BD300。推力11000kgか、手間取りそうだな」

 「んん・・・ターボファンジェットと換装して・・・」

 「いまあるターボファンジェットと換装するか」

 「ツマンスキーR15BD300をターボファンジェットにするかだね」

 「ツマンスキーR13・300J(推力7000kg)。リュルカAL7F1J(推力11000kg)のどっちか換装する方が早くないか」

 「んん・・・推力が落ちても、どっちかに載せ変える方が良いよ」

 「軽量化しないとね」

 「いくらなんでも、燃料搭載量14570kgは、ちょっと火達磨で危なくないか」

 「旧軍と違って人命軽視は、反感買うよ」

 「燃費悪いのも、いやだよ」

 「人件費が上がっている。単機当たりの性能と単価が上がってもペイしそうだけどね」

 「んん・・・だけど、予算がないし。見送りたいけど」

 「人件費、上げないとヤバいと思うよ」

 「んん・・・訓練では、こっちが勝っているから価格交渉次第だね」

 「ぶっちゃけ、いまあるターボファンエンジンを2基並べて胴体を国産で開発すれば良いだけ、なんだけどね」

 「日本の軍需産業は狭いからね」

 「それに国策でね。資源が欲しいから、母機をソビエト製にしたいんだと」

 「ちっ! 国策で国防をないがしろにしやがる」

 「ソビエト外交使節団の慌て振りからすると、たぶん、部品の輸出でなんとかなるかも」

 「戦闘機をMiG21からMiG25。戦闘爆撃機をSu7からSu17か、MiG27が良いかも」

 

 

 チッタゴン沖

 戦艦ウラル 艦橋

 「また暑いところに呼び出しやがって」

 「ヒンズーとイスラムの調停なんて、やってられませんよ」

 「見たか、あの野郎。詐欺師のくせしやがって、聖人みたいな事を言いやがる」

 「共産主義の理念に反しますよ」

 「そうはいっても、ユーラシア大陸鉄道網で西側を圧倒するためだろう」

 「そりゃ分らないわけじゃないですが、日本が儲けるだけでは?」

 「国営企業を押さえているマフィアの圧力でな」

 「性質の悪い連中ですからね」

 「軍部を縮小するから押さえが利かなくなっているのでは?」

 「軍部を縮小してシベリア鉄道を増強しないと、ウラジオストック共和国に独立されそうだし」

 「ユーラシア鉄道網も維持できないだろう」

 「「「・・・・」」」 はぁ〜

 「シベリア鉄道の複々線が進んでから経済ばっかりですかね」

 「長距離だけでなく、中距離運行も、東西統一で重要になってきたらしいからね」

 「ウラジオストック共和国がインドルートも失いたくないと思えば、メデタシメデタシなんだよ」

 

 インド・パキスタン 係争地 東パキスタン

 インド・ヒンズー教、パキスタン・イスラム教の代表たちの前に、

 赤い国の代表コスイギンが立つ。

 「人は、見ることも聞くことも歩くこともできない金、銀、銅、石、木に心を奪われてはならない」

 「殺人、策士、不品行、盗みを喜ぶべきではない」

 「・・・憎しみからは何も生まれない。人は、一人では生きていられない」

 「互いに協力しながら社会生活を営んでいくのが人、本来の姿なのだ」

 「視野を広く持ち手を取り合い。愚かしい諍いや競争を避けるべきなのだ」

 「アメリカ帝国主義の如く、金に目が眩んで人民を踏み躙ってはいけないのだ」

 「人は、良心に反して、自らの魂を汚してはならないのだ」

 「虚ろな物欲に支配されず、心の平安を求め渇望するあなた方は幸いである」

 「天の国はあなた方のものだ」

 「悲しみに堪え忍ぶ強い意志を持つあなた方は、地の塩」

 「強者が弱者を虐げる、この世界を癒やしている存在なのだ」

 「誰しもあなた方の様に困難に強い人間になりたいと思うだろう」

 「わたしは、悪に染まろうとせず善を貫く、ヒンズー教とイスラム教を尊敬している」 涙々

 「「・・・・・」」

 「わたしは、物欲し支配されず」

 「天道を切り開いているヒンズー教とイスラム教を敬愛して止まない」 泣々

 「「・・・・・」」 涙々

 「わたしは、自ら自身の心を律し」

 「憎しみや暴力を自制するヒンズー教とイスラム教を自分の命のように思う」 泣々

 「「・・・・・」」 泣々

 「わたしは、心の底から、あなた方と手を取り合い、共に生きていきたいのだ!!」 泣々

 拍手喝采 握手 包容

 「「「・・・・・」」」 涙々 泣々

 同志コスイギンは、印パ戦争終結させ、

 バングラディッシュの自治権を確立させる。

 ソビエト連邦と日本のインド・パキスタンの調停が進み。

 東パキスタンは軍事外交以外の自治権を手に入れていた。

 

 

 欧州の混乱でウラジオーナの役割は大きくなっていく。

 とはいえ、そこに存在しているだけで、役割の半分を果たし。

 残りも哨戒機のベア、モスで北大西洋を周回するだけだった。

 ウラジオーナ

 最上甲板の一角。人だかりが作られていた。

 タレの浸み込んだ串刺し肉が備長炭の熱で焼かれ、肉汁が炭火に滴り落ち蒸発していく。

 風がないせいか、酸味の利いた香ばしい匂いが辺り籠もる。

 シャシリク (ロシア風バーベキュー) の発祥は、カフカス地方のケバブ。

 酢はウラジオーナ産の海藻酢。

 ワイン、オリーブオイルにニンニク、タマネギ、

 黒胡椒、クローブ、ハーブ、塩を加えてマリネを作り、

 ラム、マトン、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉、チョウザメ(魚肉)を長時間漬け込む。

 テーブルには、ウォッカ、グルジアワインと海藻酒が並び、

 ソビエト軍将兵は、コサックダンスを楽しみ。

 海に張り出した台座からロープを使って滑空、海に飛び込んでいく。

 将兵個人個人は、自由・共産の争いより、

 目の前の出来事を楽しむ方が良かった。

 

 日本区画で海藻酒、海藻酢が製造されていた。

 「あ、海藻ってさ。化粧品とか使えないかな。石鹸とか」

 「んん・・・ためしにやってみるか・・・」

 「無理に燃料にしなくても海藻酒と海藻酢。副産物で燃料と交換した方が・・・」

 「あははは・・・」

 日本人研究者に交じって、チリ人が愚痴る。

 「あいつら、堕落し切っているんだ」

 「まぁ ソビエトは、既に共産主義国家だから」

 「俺たちは、理想と希望を持って、ソビエトに留学しようとしているのに・・・」

 「モ、モスクワに行けば寒いし。きっと、真剣じゃないかな」

 「そうだよ。共産主義のメッカだし。権力の座もかかってるし」

 「日本人は、ここで何やっているんだ」

 「海藻の研究だよ。食用に使える部分は少ないからね」

 頬の赤いロシア人将校がシャシリクを皿に乗せて研究室に入ってくる。

 アールコールの匂いをさせた将校は嬉しそうに皿をテーブルに置くと

 「・・ヤーポン。今日の研究の成果は?」

 日本人に聞く。

 「そこにあるよ。少佐殿」

 「じゃ ちょっと味見。持って行っていいよな」

 「昨日、いっぱい持って行ったじゃないか」

 「俺の血に変わった」

 「の、飲んでも良いけど、泳ぐなよ。何人も溺死しているんだからな」

 「幸せな死に方だな〜♪」

 チリ人は、泣きそうな顔になっていく。

 「「「・・・駄目だこりゃ」」」

 ロシア人将校が日本区画を出入りし、危ないことにサルガッソーの海を泳ぐ。

 “飲んで泳ぐな” 

 注意書きがあったがウォッカは軍が管理できても、研究中のモノは別だった。

 ソビエト軍の士気が低いわけではない。

 ウラジオーナのソビエト軍将校は間違いなくエリートであり。

 他の部隊は、もっと低いと言えた。

 

 

 チリ

 30パーセントの白人が支配者。

 65パーセントが白人系メスティーソ(白人とインディオの混血)。

 15パーセントがインディオ系と僅かな黒人。

 チリ国民880万のは、共産政権を選択してしまう。

 この選択は、他の南米諸国にも影響を与えていた。

 アジェンデ大統領は、アメリカ資本の国有化でチリの経済的独立と自主外交を進めていく。

 第三世界との外交関係の多様化。

 キューバとの国交回復。

 ペルーのベラスコ政権との友好関係確立。

 農地改革による封建的大土地所有制の解体などの改革を行っていく。

 アメリカ合衆国は、CIAの工作で、チリの資本家と右翼と結託させ、

 反アジェンデ勢力で巻き返していく、

 物流、金融、交通を寸断され、スト、デモを起こし、チリ経済を大混乱に陥らせていく。

 サンチアゴの酒場、

 漁夫の利狙いの日本人たちが集まっていた。

 「なんとも、酷い状況になったね」

 「軍部はいまのところ良識を保っているようだ」

 「前任は殺されちゃったし。カルロス・プラッツ陸軍総司令官も長くないと思うよ」

 「殺されるかな」

 「CIAに “クーデターを起こさなければ殺してやる” くらいは、脅迫されていると思うよ」

 「いつまで、その信念が通じるかな」

 「民衆の意に反して軍国主義化すると恐怖政治になる」

 「反対者を殺しまくるからね。目に見えてるよ」

 「なんか、デジャブ」

 「まぁ 災難だな」

 「ワシントンは、なんて?」

 「日本が不介入ならチリ権益で、いくつか譲歩をするらしいよ」

 「ふっ それらしい素振りをしただけで譲歩するなんてアメリカも焦ってるね」

 「問題は、どこまで譲歩するかだね」

 「やっぱり、鉱山の株も欲しいよね」

 「でもさぁ チリが軍国主義国家になったらアメリカの飼い犬だろう」

 「日本の利権を奪うんじゃないか」

 「確かに信用できないよね。アメリカとチリ」

 「そうそう。民族自決で不介入とか言いながら、思いっきり介入しているし」

 「ここは、チリじゃなくてアメリカの利権で払ってもらわないと」

 「そうそう、輸出規制をもっと緩めて欲しいよね」

 「まったく、まったく」

 「でもアメリカ太平洋艦隊に封鎖されたらチリは、一巻の終わりだよ」

 「それは言える・・・」

 !?

 がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ! 

 銃撃音が連続して起こると日本人たちが倒れていく。

 

 

 “本日未明、狂信的なコミュニストが日本人旅行者を多数を殺傷”

 “犯行は極左左翼の者たちであり”

 “背後関係でチリ政府が動いていたと関係筋の密告がありました”

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 フルシチョフは、71年で死去でした。

 この戦記では、コスイギンに書記長を譲り、もうしばらく生きます。

 まぁ クーデターでなく、自ら退いたので、気持の問題で長生きします

 

 鉄道もですが、この頃から、コンテナ船が使われ始めます。

 荷役業者の反対を押し切って、コンテナ輸送が導入されていきます。

 荷役効率は40倍前後で物流革命と言えます。

 先行したのは、もちろん、組合のない日本。ソビエト。共産圏。アメリカと欧州が続きます。

 戦中のリバティ船が軒並み廃船となる頃ですので、コンテナ船も一気に増えていきます。

 幸運にも日本産業が力を付ける頃と一致。

 この頃の日本人の総人口5350万(1916年レベル)では考えられないGDPになっています。

 

 

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第29話 1970年 『ば・ん・ぱ・く』
第30話 1971年 『100万ドルの悲喜劇・・・』
第31話 1972年 『弱り目に祟り目』