月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第35話 1976年 『東西と南北』

 クレムリン宣言。

 暴力革命の否定は、共産圏に亀裂を起こした。

 しかし、資本主義圏、非共産圏の容共シンパを増殖させてしまう。

 コスイギンのクレムリン宣言で直撃を受けたのは欧米諸国の資産家たちだった。

 貧富の格差が大きな自由資本主義国家群は、取捨選択を突き付けられ。

 資産家は、国家に奪われる前に不動産を切り売り、

 土地転がしで不動産価格を下落させていく。

 また、不動産を切り売りして得た資本を国外へ持ち出していく。

 中には “100万ドルでは困る。私有財産は1000万ドル以下制が好ましい”

 と妥協する資産家も現れる。

 それまで、資産家に畏敬の念を送る者たち。

 おべっかたち、御用商人の態度が不自然に変わっていく。

 資産家が戦々恐々と周囲を見渡せば、遠巻きに白眼視されていた。

 富裕層は、いつの間にかカジュアルで質素な服装に変わり、媚び産業が廃れていく。

 中には、私兵を集める富豪も現れる。

 しかし、元々、銃の所有が認められている国。

 例え大富豪でも、アメリカ市民全てを敵に回せば、殺される。

 

 

 第二次日ソ協商協定調印。

 ソビエト連邦の暴力革命の否定は、日ソ関係をより深めた。

 関税が緩やかなものに変更され、事業進出も容易になっていく。

 信頼するため結ばれた調印ではなかった。

 既にマフィアとの利害関係で不文律に築かれていた上で結ばれた調印であり。

 “なにをいまさら” と言えなくもない。

 調印が大々的に祝われたのは、ソビエト国内の共産党の反発を削ぐためであり、

 ウラジオストック共和国の連邦離脱を防ぐ布石でもあった。

 また、ソビエト共産党に対する日本人の警戒感を削ぐ意味もあった。

 同盟でなく協商なのは、最大最強最悪の超大国アメリカ合衆国を警戒させたくないためであり。

 膝を屈さなくて済む実利的な日ソ関係といえた。

 

 

 クレムリン 

 ごっくん!

 冬季明け、コスイギンは、カザコフ館の窓から恐る恐る赤の広場に目を落とす。

 恐怖政治を捨てた超大国ソビエト連邦は、仮想敵国の第一位をアメリカ合衆国としていない。

 何より、民衆の民主化運動を恐れ、国民に媚を売る。

 もし、なにがしかの反応があれば、私有財産100万ドル以下制への移行も準備していた。

 「ブ、ブレジネ〜フ! ブレジネ〜フ!!!」

 「なんです。同志コスイギン」

 「ロシア人はいないぞ。集まっているのは、観光客だけだ♪」

 「アニメが始まっていますから」

 「そうかそうか。もっと、遊園地や娯楽施設を作らねばならんな」

 「日本に発注するので?」

 「屋内モノは日本が得意だろう。積雪にも十分耐えられるし」

 「天井が落ちないならロシア人も安心して遊びやすい」

 「ご存じですか。我々の資源の多くが日本に向かっていることを」

 「だから、なんだ?」

 「我々ソビエト共産党が権力を握り続けるには、それしかなかろう」

 

 

 空母 大鳳

 艦齢32年の空母に対潜哨戒ヘリKa27、対空哨戒ヘリKa28が着艦する。

 ベア空中巡洋艦の配備が増えたいま、重い艦体、重油を大量消費し、

 大量の人員を必要とする旧式艦を無理して保有する意味は低い。

 アメリカ海軍の弾薬消費を余計に強要する以上のモノではない。

  Hp 自重/全備重 全長×全幅×全高 ローター 最高速度 航続距離 積載
Ka27ヘリックス 2225×2 6100/12000 12.25×3.80×5.40 15.90 291km/h 1000km 5000kg
SH60シーホーク 1800×2 5118/9979 15.26×2.79×5.19 16.36 276km/h 584km 4000kg

 仕様で無茶な言い方をすれば、Ka27の重量プラスアルファが離着艦できればよかった。

 軽量の艦体で、少ない燃料消費、必要最小限の人員で充分といえる。

 大鳳 艦橋

 「久しぶりの航行か」

 「大鳳も渉外用か、新兵訓練用にされてしまったからな」

 「キエフ型でもいいですから欲しいですね。あるんですよね。補修部品」

 「まぁ あるだろうがね」

 「敷島、八島の代メガフロートを建造しているから、難しいかもしれないな」

 「消波装置も良くなって吃水を浅くできるらしい」

 「そんなにベア空中巡洋艦隊が良いですかね」

 「キエフ型巡洋艦が1500人。ベア空中巡洋艦が7人」

 「国防省じゃなくても常識的な判断をするよ」

 「「・・・・」」 ため息

 練度を上げると艦数が減る。

 訓練すれば、手当が上がり。燃料、部品、弾薬を大量に消費してしまう。

 経費が増え、予算を食われてしまう。

 旧日本軍の月月火水木金金の訓練も、一部の精鋭部隊を除いてあり得ず大ウソ。

 戦後日本も同様だった。

 まともに動いているのは、戦後建造した潜水艦と新型艦艇だけ、

 ベア3機がMiG21バラライカ8機を率いて、大鳳の上空を通過していく。

 日本空軍は、敷島、八島の消えた穴を埋めるため、空中給油で洋上を巡回していた。

 単純な話し、早期警戒管制機型ベアは、アメリカ機動部隊を捕捉しているだけで良かった。

 長距離から発射した地対艦ミサイルを誘導する中継機であり。

 バラライカは、Su7フィッターと地対艦ミサイルがアメリカ機動部隊に到達するまで、

 ベアを護衛するのが任務だった。

 とはいえ、穴熊引き籠り戦略が一次戦力、示威は第二次戦力だった。

 上陸させてからの反撃作戦が期待されており。

 アメリカ機動部隊に対する対艦ミサイルの飽和攻撃も戦力的に困難であり。

 洋上巡回飛行は、領空・領海を確認するだけで示威以上ではない。

 

 

 大鳳 艦橋

 「バラライカは、新型F14トムキャットからベアを守れるのか?」

 「射程100kmのフェニックスミサイルは6発」

 「トムキャット30機だとバラライカ180機を撃墜できるはず」

 「んん・・・」

 「誘導方式はアクティブレーダーホーミングで自らレーダー索敵を行って命中するタイプです」

 「ベアがフェニックス・ミサイルを探知し」

 「ECMを掛けながら離脱できれば脱出できる可能性もあります」

 「バラライカだけで突撃しても的になるだけか」

 「ええ、MiG25くらいの速度があれば振り切れそうですがね」

 「あれは、止めとこう。ソビエトもチタンで作ればいいものを・・・」

 

 

 アリューシャン沖

 4760トン級スタージョン型原子力潜水艦クィーンフィッシュ

 艦橋

 海中では、誰しも音に敏感になる。

 空中での音速は340m/s。

 海中での音速は水温、水圧、塩分濃度で変化するもののおよそ、1500m/s。

 音速の4倍以上の速度で情報を伝達できた。

 発見する、発見されないも、この音に対する資質であらかた決まる。

 「・・・距離2500m。15ノットで南下しています」

 「反応からすると、報告にあったヤンキー型のようです」

 「音響探知、赤外線探査、磁気探知の全部で反応があると嬉しくなるねぇ」

 「大人しく、北極海にいれば良いものを・・・追いかけよう」

 「水中発射ミサイル16発は、大きいですからね」

 「発射しないとは思うが、しばらく追い駆けっこになるな・・・僚艦は、いないな」

 「はい、ベーリング海峡の網に引っ掛かったのは、1隻だけです」

 「だが北大西洋では、原潜が2500トン級フォックストロット型ディーゼル潜水艦を曳航しているそうだ」

 「電力さえ供給してもらえれば、通常型潜水艦でも、水と酸素を作れますからね」

 「北大西洋には、ウラジオーナがあるから、通常型潜水艦を進出させるのも悪くはないさ」

 「どちらにしろ、担当がソビエト潜水艦だと、楽ですよ」

 「日本潜水艦の非磁性無反響タイルは優れているのだろう」

 「大きい割に見つからないからな」

 「原子力機関をケチって、ほかの装備に金を掛けていますからね」

 「日本とソ連。潜水艦で組まれると厄介だな」

 「・・・艦長! ソナー音に変化です」

 「どうした!」

 「・・・前方、距離1500m。潜水艦です。ヤンキーとの間です」

 海中で距離1500mは、音速で1秒先の世界だった。

 「なんだと」

 「・・・日本の潜水艦のようです」

 「割り込まれたのか。どこから・・・」

 「温度境界層に隠れていたようです」

 「後方のソビエト艦が増速しました」

 「ちっ 取り舵20。深度270。ヤンキーを逃がすな」

 「日本の潜水艦が、こちらの動きに合わせて、前を塞いでいます」

 「なんて嫌なやつだ。速度を上げて振り切れ。どうせ通常艦だ。付いて来れん」

 「しかし、これ以上速度を上げると、ソビエト潜水艦に位置を知られます」

 「かまわん」

 「」

 「」

 

 

 大鳳 艦橋

 「・・・提督、3時方向、距離2200m。ヴィクターU型潜水艦浮上しました」

 「予定通りだな。横須賀まで、案内してやれ」

 「小さく感じますな」

 「音は大きい」

 「ヴィクターU型の水中排水量は5670トンらしい。日本潜水艦の6500トンより小さい」

 「もう一つのアルファ型潜水艦は、3100トン級だそうです」

 「日本潜水艦が原子力機関以外、勝っているというのは、信憑性があるのか?」

 「アレだけ音が五月蠅いなら、撃沈するのは、難しくない。追い駆けられればだけどね」

 「騒音は原子力機関共通の悩みですから」

 「アメリカの原子力潜水艦は静かだぞ」

 「アメリカは、質でも量でもズルしてますから」

 「科学技術に対する金の掛け方が違うからな」

 「アメリカ方式を採用するなら、日本も億万長者の科学者が、わんさか現れるかもしれませんね」

 「日本の開発費は年々増大してますし」

 「国際化が進むと、日本人の頭脳流出は時間の問題かもしれませんね」

 「収入が100倍も違うなら、アメリカに移民するのも悪くないからな」

 「しかし、日ソ潜水艦の共同訓練とは・・・隔世の観ですかね」

 「潜水艦だけは、分けていたからな。少なくとも技術は別だそうだ」

 「新造のロサンゼルス型潜水艦は、連携しないとお手上げ、は、本当なんですか?」

 「さぁな。ソビエトの原子力潜水艦は発見できる」

 「しかし、アメリカ原子力潜水艦は、なかなか発見できない。十分な理由になるよ」

 

 

 アメリカ合衆国で共産主義の幻想が強まり、資本主義の優越感が崩れていた。

 労働者は貧富の格差に我慢できなくなり、モラルが低下し頻繁にゼネストが起こる。

 資本家層は、人件費の高騰で中級品以下の工員の保護から退きはじめていく。

 政府・資本家層も、金融・情報産業による採算で国家経済に活路を見出していた。

 そして、中級品以下の海外生産で利潤を得ようとしていた。

 ワシントン

 「南部は、制限資本主義派が急増している。ヤバいぞ」

 「北部は、自由資本主義が強い。このままだと悪夢の再現だな」

 「危険な兆候だな」

 「フランス、イタリアの制限資本主義を妨害し失敗させるべきだ」

 「だが、フランス人とイタリア人の反米感情が高まる」

 「わからないように制限資本主義を失敗させてやれば」

 「フランス人は土人か?」

 「イタリア人は未開人か?」

 「アメリカの工作だと、わからないはずがなかろう」

 「フランス、イタリアの足を引っ張れば、有名無実、薄氷化した同盟が崩れるな」

 「フランス、イタリアの制限資本主義が成功すれば、アメリカ国民にアメリカ資本家が潰されるぞ」

 「・・・いっその事・・・この際、財界を解体、国営化して、制限資本主義を・・・」

 「バカを言うな。もう一度、南北戦争をするつもりか」

 「上限1000万ドルくらいなら・・・」

 「ふざけるな。我々、自由資本主義が共産主義に負けることがあってはならんのだ」

 「しかし・・・」

 「もっと、日本のアニメを流して、国民を誤魔化せ」

 

 

 ソビエト連邦

 人が働く動機はいろいろ。

 主義主張のため。国家のため。地域のため。仕事のため。権力者のため。

 保身のため。自分のため。家族のため。成功のため。金のため。立身出世のため。

 そして、愛のため。

 生存競争で勝ち抜くため、大は国際関係から、小は家族内まで派閥が作られる。

 ソビエト連邦は、恐怖政治が出来なくなっていた。

 中央集権が薄まり、地域間の主導権争いも起る。

 極東ウラジオストック共和国の経済力は、欧州ソビエトの経済力と並んでいた。

 コスイギンは苦々しい表情で議決を待つ。

 「・・・IOC議会は、全会一致で、次期1980年オリンピック開催をハルピニスクに決定しました」

 「・・・・」 ため息

 忌々しい事にアメリカの後押し。

 最悪の状況になれば、日本もウラジオストック共和国の味方になる憶測も成り立つ。

 ソビエト連邦は次期ハルピニスク・オリンピック開催を反対もできず、賛成もできず。

 「スターリンの粛清時代が懐かしいな」 ポツリ

 「権威主義や恐怖政治は、想像力低下、組織の柔軟性低下、潜在能力の縮小など考えられます。いまさら・・・」

 「わかっている。わかっているからこそ、腹が立つ」

 「穏健政策は、対資本主義で効果的な戦略だと・・・」

 「アメリカ合衆国の荒れようから推測すれば当たりだな」

 「もっとも、日本から物資を輸入してなかったら危なかったよ」

 「それにいまさら、連邦の統制は、利かないのでは?」

 「無理に強行しようとすれば、ウラジオストック共和国に全部持っていかれる」

 「ロシア人の動きは?」

 「民主運動は嵐の前の静けさといったところです」

 「盤石だったソビエト連邦も浮き雲に流れるような連合体でしかなくなったな」

 

 

 オーストリア ウィーン

 大荒れの欧州大陸

 政治的な理由で、永世中立国となったオーストリアも変化の兆しを見せていた。

 酒場

 「はぁ? ドイツとオーストリアの統合で。アメリカと西欧。ソビエトと東欧は同盟関係を強化?」

 「そうだ」

 「統合ドイツは、アメリカと同じ体制だろう」

 「統合ドイツは、荒れている。東欧もだろう?」

 「それは、そうだがね」

 「私有財産を認められて自分の城を作れるから、少しばかり沈静化している」

 「ドイツ脅威が高まれば、国家間の軍事的緊張が高まり。同盟は我々米ソを当てにする」

 「なるほどねぇ」

 欧州政変劇の渦中、

 北大西洋条約機構(NATO)軍とワルシャワ条約機構(WTO)軍は身動きがとれない。

 そして、アメリカが欧州自由主義圏で唯一頼りとするところとなった統合ドイツも新しい体制で伸び悩んでいた。

 政治的にフリーとなったオーストリアは、民族回帰問題が持ち上がり始める。

 元々、オーストリア人は、ドイツ語圏であり、ドイツ民族と言える。

 オーストリア・ハンガリー二重帝国の宗主国だったが、いまは、それもない。

 ナチスドイツに統合されてしまった事もあったが無茶でも無理ではない併合といえた。

 再燃する再統合は、オーストリア側からであり。

 アメリカ合衆国とソビエト連邦も国内問題の方が大きく。

 ドイツ・オーストリア統合で周辺国の軍事費支出が伸びれば儲かる程度しか考えていなかった。

 実のところ、ドイツ脅威で離脱気味だった同盟国と結束強化を狙っているのが本音だったりする。

 

 

 

 南米大陸第二位の大国アルゼンチン

 人口約2600万の希薄な世界が広がっていた。

 外国人数人がマテ茶を飲みながらメルカード(市場)を散策していた。

 白人国家アルゼンチンだと、日本人は白い目で見られやすい。

 「ちっ 朝と値段が違うじゃねぇか」 日本人

 「やれやれ、ペソに両替したばかりだというのに・・・」 アメリカ人

 ブラジル陸軍のジープ数台がメルカード(市場)沿いの路地に入っていく。

 そして、兵隊たちが酒場を包囲し、反体制派を狩り出していく。

 「赤狩りか・・・」

 「赤狩り? 反体制狩りだろう。言葉は正確に使わないとな」

 「ふっ」

 オイルショック後、経済不況は、南アメリカ大陸にも及んでいた。

 原油価格高騰で採算割れした企業は次々と傾き、

 倒産するか、経費と雇用を減らすか選択を迫られていた。

 アルゼンチンは、300パーセントのインフレーションを起こしていた。

 ホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍がクーデターを起こし、

 イサベル・ペロン大統領を逮捕。

 軍は軍政に反発するペロニスタ党、労働組合関係者、左翼、民間人に対し白色テロを行使。

 世間一般で国家権力による反体制殺戮 “汚い戦争” が始まっていた。

 外交特権を持つ外国人は、他人事でもある。

 「・・・不況打開でクーデター起こして、軍国主義か。嫌な国だ」

 「厭味ですか?」

 「共産化よりマシかな」

 「共産化したチリは、粛清が行われていませんよ」

 「支持率の差だな。少数派が暴力で政権を奪うと粛清が始まる」

 「軍による民間人の殺戮がマシとはね」

 「ブラジルも軍と地主が結託して、ついに軍政か・・・」

 「懐かしいだろう。日本もむかし、そうやって、開明派を殺していた」

 「万単位で殺してないと思うよ」

 「自給自足できる国と自給自足できなかった国では、白色テロの方法も違うよ」

 「良いよな村八分で反体制派を根絶やしにできるんだから」

 「なんとでも・・・」

 「アメリカは、南米の共産化を防ぎたいあまり、軍部と結託し、貧富を拡大させている」

 「貧富を拡大させているのではなく、自由を守ろうとしているんですよ」

 「自由ね。軍政に反発する気持ちも、自由ですかな?」

 「軍のクーデターは、政府と国民の自己責任だよ。遺憾の意だねぇ」

 「無法は、クーデター以前からだったよ」

 「後進国は、みなそうだ」

 「しかし、アミーゴ社会も考えものだよ」

 「アミーゴじゃないは、敵ってことだろう。日本人には不利だな」

 「どちらにしろ、これだけ広い国土で希薄な人口。もっと平和でも良さそうなのに」

 「利便性の良い生活をするためには、ピラミッド構造を構築して御山の大将になるしかない」

 「南米諸国は、人口密度、モラル、基礎教育が低く」

 「信頼関係がアミーゴという狭い単位で、小さなピラミッドしか作れない」

 「しかし、無理に近代化しようとすると、外国から高い買い物をしなければならず」

 「余計、国民を虐げ、外資に奪われる」

 「欧米資本は、南米から撤収気味では?」

 「構わないよ。南米諸国が高い買い物をするだけだろう」

 「代価は、弱者への皺寄せで払うだろうね」

 「懲りないねぇ 南米諸国を富裕層のヘソクリ代わりに、と思ってましたが」

 「ヘソクリですよ」

 「ブラジルが国内生産できなければ外国製品に頼る。アメリカの製造業も少しは守れる」

 「それに金庫なら小島でも良いからね。私有島なら私兵でも十分に守れる」

 「民衆がいくら怒っても小島を包囲できまい」

 「欧米諸国の富裕層が、お得意様で嬉しいよ」

 「日本の土木建設能力で地下施設を建設すれば、ソ連製の安い兵装で守れるからね」

 「欧米の富裕層は、アメリカ合衆国の共産化を見込んでいるので?」

 「まさか、最悪に備えてだよ」

 「アメリカ合衆国の貧富の格差を守るため、南米諸国に軍政をさせるなんて酷い話しだねぇ」

 「宮仕えは、仕事をするだけ。外交工作に乗るやつが馬鹿なのさ」

 「やれやれ」

 「それはそうと、チリ、ペルーに続いて」

 「今回も日本人が工作すると思ったが何もないとは意外だね」

 「心外な事を言うなよ。日本は、穏健な国家で通しているんだから」

 「あははは・・・」

 

 

 統合ドイツ

 駐留ソビエト軍は、ソビエト本国へと撤収していく。

 ソ連軍が国境線の向こう側へと消えていくと、アメリカ駐留軍の意味も失われやすくなる。

 ドイツ放送局

 「ソビエト軍が撤収しているにもかかわらず、アメリカ軍は、NATO軍で居座り続けている」

 「これは、侵略行為以外の何物でもない」

 「NATO軍は、民主主義を守るため必要不可欠な集団防衛です」

 「集団防衛? ドイツの資産家を守りたいだけではないのかね」

 「いえ、国民の生命と財産を守るためのNATO軍です」

 「ほお いったい。どこの軍隊がドイツを攻撃するというのです?」

 「ご、ご存じのようにドイツは、共産系国家に取り囲まれている」

 「アメリカとの防衛は現体制を維持するため必要な処置と言えます」

 「おやおや、フランス、イタリアもNATO軍のはず」

 「いつの間に敵対勢力になったのですかな」

 「い、いまの世界情勢は過渡期でもありますし、万が一のこともあります」

 「万が一より、我がドイツ国民を食い物にしているアメリカ軍を叩きだすべきでは?」

 「現状の安全保障ではアメリカ軍との同盟は必要です」

 「それは、あなたの勘違いでは?」

 「我がドイツは、駐留ソビエト軍の撤収費として莫大な経費を払っている」

 「それを負担するためには、どうしても、資本主義国家であるべきです」

 「アメリカ軍の撤収費用も、払ってはどうです?」

 「いつまで祖国ドイツを他国軍に占領させているのです?」

 「」

 「」

 共産党系の議員が我が物顔で、与党議員を責める。

 資本主義国家を選択したドイツに欧州各国から隠し資産が集まり、

 貧富の格差が広がっていた。

 需要と社会資本が増え、失業率が低下し、貧民層の不満を軽減してしまう。

 もちろん、野党の追及は、私有財産250万マルク(約100万ドル相当)以下制への移行。

 実のところ、貧富の格差が広がっても、景気が良くなっていると実感できるらしく、

 ドイツ国民も迷っていた。

 統合ドイツ軍基地

 旧東ドイツのMiG21SPSバラライカと、

 旧西ドイツのF104Gスターファイターが航空戦を展開していた。

 純粋な戦闘機と戦闘爆撃機の航空戦では、MiG21が優位だった。

 F104Gスターファイターは、戦闘爆撃機であり。

 “空飛ぶ棺桶” “未亡人作成機” と陰口を叩かれるほど事故多数機。

 「ぁぁ・・・やっぱり、負けちゃったよ」

 「でも、レーダーは、スターファイターが良いと思うよ」

 「このさい、MiG21に乗り換えようよ。パイロットがそうしたがってるし」

 「でも、部品は日本製が多そうだな」

 「だけど、アメリカが剥れるぞ」

 「F15とか、F16を売ってくれるなら、考えても良いけどね」

 「F15は高過ぎるよ」

 「F4ファントムとMiG21は、どっちが良いかな」

 「先制発見ならF4ファントムだけど。MiG21バラライカも悪くない」

 「ブラックボックスとか制約ないし」

 「なにより、部品が安いよな」

 「・・・ドイツも、地下で防衛しようかな」

 「島国と内陸国を一緒にするなよ。陸軍は、どうするって?」

 「40トン級レオパルドの51口径105mm砲は、36トン級T55戦車56口径100mm砲より良さそうだけどね」

 「レオパルド戦車2400両と東ドイツ軍とソビエト駐留軍残したT55戦車5800か。戦車大国だな」

 「しかし、余剰兵器は、どうするんだ?」

 「中黄連邦にでも売るさ。いまは、あそこが一番欲しがっている」

 「新型は持ち去ったけど。ソビエトは、あっさり、東ドイツから退いたからね」

 「ここで固執すると、資本主義圏が結束してしまうから退いたのだろう」

 「国家財政が傾くほどの撤収費だったよ」

 「撤収費で済むならアメリカ軍のも払うよ」

 「アメリカ軍も撤収しないと、侵略国扱いで悪者だな」

 「ちっ コスイギンの偽善者やろう」

 「アメリカは、羊の皮を被った狼にされちまったな」

 「おかげで、ドイツ国内の共産党は勢いが付いてるし」

 「アメリカ合衆国では、南部州が左翼化らしいよ」

 「ソビエト共産党が退けば、アメリカ資本家が逃亡とはな」

 「・・・ソビエトは、共産主義を捨てようとしているんじゃないだろうな」

 「まさか。いくらコスイギンでも、資本主義と道連れに共産主義を捨てたりはしないだろう」

 「だが、時勢は軍事力をイルミネーションか何かのような扱いだ」

 「ソビエトの軍事力は、アメリカと比べると、それほど、強くないはずだが」

 「本音は、ソビエト連邦の東西を結束させるため。アメリカ軍に攻めて来て欲しいのだろう」

 「第二次世界大戦と同じで、モスクワまで届かないという判断だな」

 「ドイツもそんな感じかな。外敵がないと、自由と共産で荒れ気味だ」

 「その件で、どうやら、ドイツとオーストリアを統合させようという動きがあるらしい」

 「はぁ?」

 「ドイツ強化で、周辺国の軍事的緊張を高めて、米ソは同盟強化を狙っている」

 「なるほどドイツ再軍備の恐怖で、それで、暴走気味の民衆を黙らせるわけか」

 「アメリカとソビエトが外圧に頼るようになったら終わりだな」

 「国民が我が儘になり過ぎたのさ」

 「生活水準を落とすことを死ぬほど嫌う」

 「そして、所有している権利を手放すまいと他人の権利すら侵害する」

 「平民も、お金持ちと変わらんよ」

 「国民を我慢強くさせる方法は他国の脅威か。人は救われんな」

 「ドイツ・オーストリア統合なら半包囲されるチェコは、ソビエトにべったりになるだろうな」

 「それが目的か」

 「フランス、イタリアも、アメリカに靡くしかなく。孤立するドイツもアメリカとの結束を深める」

 「よくもまぁ・・・」

 「それが国際政治ってやつさ」

 

 

 

 モントリオール・オリンピック開催

 

 

 07/28 唐山地震

 中黄連邦 河北省唐山市付近を直下型地震マグニチュード7.8が襲う。

 震災による住宅全壊率94パーセント。死者だけで24万。

 関東大震災の死者・行方不明者14万2800人を超えていた。

 

 北京西北部

 南北40km、東西8km、平均水深5.5m、面積297kuの昆明湖があった。

 標高1886mの高原にあり、夏は涼しく、冬は暖かい。

 万寿山の湖畔を囲う大庭園は史上空前だった。

 大小273の宮殿と3000以上の各種殿堂楼閣が点在。

 余りの壮大さに他国にやっかまれ、

 アヘン戦争(1860年)英仏連合軍。義和団の乱(1900年)の折、8カ国連合軍。

 二度破壊されていた。

 西太后は、頤和園(えわえん)と呼び、海軍予算を削減させて再建させる。

 彼女は、清国を滅ぼしたおぞましい内患と言えなくもない。

 支配欲に溺れた婆さんは、歴史上、珍しくても “いる” のであり。

 中国史上の不運。日本史上の好運といえる。

 しかし、頤和園は、争いより文化を好んだとして評価すべきともいえる。

 文化より戦争を好み易い野暮な日本人は、この場所に良く訪れる。

 入園費とそれなりのお金を払えば、豪勢な1日を送ることができた。

 満漢全席

 日本の政府及び建設関係者が招待されていた。

 「地震のおかげで、中国需要が増えたらしい」

 「助かるねぇ これで日本の公共投資も進む」

 「なぜ、中国の公共投資が日本の公共投資になるのです?」

 「日本は生産力があるけど、無限に経済力があるわけじゃない」

 「国債を発行すれば?」

 「結局、国民が肩代わりすることになる」

 「さらに社会資本が失われて民間活力を削いでしまう」

 「だから、外国の公共投資参入で利益を開発資金にして、国内開発に向ける?」

 「そういうこと。そうでなければ、いくら国防が絡んでも、穴掘りなんて浪費はできないよ」

 中国腐敗官僚たちが、やってくると、日本人たちが挨拶。

 そして、仕事の話しが始まる。

 「・・・日本の住宅公団に復興発注して、私腹を肥やすある」

 「そうニダ。耐震構造では、日本が優れているニダ。一杯、私腹を肥やせるニダ」

 「やはり、都市計画で?」

 「どんどん、やるある。どうせ、国民が働いて資源で支払うある」

 「いまのうちに沿線を押さえて区画整理ニダ」

 「耐震構造の高級家屋で土地価格も数十倍ニダ」

 「良いんですか? 貧富の格差が膨れ上がりますよ」

 「建設資材を手抜きすれば、丸儲けある」

 「それ良いニダ」

 『こいつら、聞いてないだろう』

 「・・・そんなぁ 信用問題になりますよ」

 「大丈夫ニダ。同じ場所で二回も地震は起きないニダ」

 「そんな無責任な・・・」

 「壊れたらまた造るある。どうせ忘れたころある。それで、また儲けるある」

 「それなら、壊れやすく造った方が良いニダ」

 『こいつらと組むと危険だな・・・』

 「メイドインジャパンと刻印彫って国産で製造すると、もっと良いある」

 「それ、良いニダ。世界中のブランド物をいっぱい作って売ると、さらに大儲けニダ」

 『いかん、分別無しで暴走してやがる』

 「販売ルートは日本ある。新幹線を使えば、世界販売ある♪」

 「日本も、おいしい思いさせてやるニダ♪」

 「「「「・・・・」」」」 呆れ

 

 

 モスクワの町並みは、華やいで見えた。

 統合ドイツから受領した撤収費用は莫大だった。

 東ドイツからの帰還は、総勢50万人に及び、移動と居住の負担費。

 さらに東ドイツに置き去りにした基地設備、兵器・武器弾薬の代価。

 それは、中規模国家の軍事力を丸ごと新型に入れ替えることができるほどの歳入となった。

 もっとも、ソビエト連邦の国家基盤は、盤石ではなくなっていた。

 民主化を押さえるため設備投資や福祉も検討しなければならず・・・

 スホーイ 工場

 ソビエトは、国土が広大過ぎて。

 日本は地下施設が巨大過ぎて。

 日ソ両国とも戦闘機の戦略価値は低かった。

 特に日本は、制空権、制海権を失っても継戦能力を失わないと、

 アメリカ空海軍をして言わしめるほど・・・

 そして、日ソ両国は、アメリカに対しアビオニクスで劣ると認識しており。

 総力を挙げて共同開発しても、F15イーグルに対し劣勢と考えていた。

 日ソ共同開発中のスホーイSu27ジュラーヴリク(フランカー)

 基礎開発は日ソとも同じ、その後、細部で変更されたりする。

 日本は、細部変更が少ない方が利益が大きく、可能な限り共有部品を採用していた。

 飛行場

 「日本は、航空戦力に拘っていないからね」

 「羨ましいですな」

 「もっとも、ソビエト連邦も稼働率を維持するため日本と共有部品を強いられますがね」

 CCVを装備したSu7フィッターが、これまでの常識ではありえない機体制御で上空を舞う。

 「・・・対ECM性と運動能力向上機(CCV)は、相反する部分があるよ」

 「重量軽減でフライ・バイ・ワイヤとか、フライ・バイ・ライトは有益だよ」

 「使えそうな部分は、使うべきだろうけど」

 「対ECM対策で機外カメラは良いと思うよ」

 「んん・・・後方に死角がなくても高速飛行での機体表面温度を考えると、微妙だな」

 「空対空ミサイルでさえ、対ECM機能を付けるだろうから、気休めでも機外カメラを付けたいね」

 「日本製のカメラかい?」

 「もちろん」

 「まぁ どの道、ソビエトで開発しても、日本製の部品になりそうだけどね」

 「共同開発も順調だな。ところで、この酒、美味いな」

 「スピオトフォズっていうんだ」

 「名前が微妙だけど、日本でも十分売れそうだな」

 「そ、そうなのか。んん・・・ミグのだけど、何とか都合を付けてみるか・・・」

 その後、日本の酒場でドヴァーッツァチ・ピャーチ(25)というロシア酒が流され始める。

 

 

 揚子江 漢口

 中黄連邦と中華合衆国は、国力を増大させていた。

 空軍では、MiG21バラライカ、Su7フィッターとF4ファントム、F104スターファイターが睨み合い。

 地上では、T55戦車とM48戦車が睨み合う。

 米ソ両国にとっては、旧式兵器の売却先であり、資源獲得地であり、巨大市場だった。

 KGB秘密工作室

 南中国合衆国の秘密部隊が集まっていた。

 「諸君らの聞いている通り、毛沢東が亡くなった」

 「この混乱に乗じれば、作戦は成功するだろう」

 「君たちの目標は山に囲まれた盆地、この長治にある」

 「必要な情報と行程までの手順は、こちらで準備している」

 「現地に到着後は、君たち次第だ。あと、北京語の発音に気をつけてくれ」

 「それと、作戦後の逃避ルートも、いくつか、準備している」

 「・・・わかったある」

 「それと、現地到着まで寄り道はしないでくれたまえ、基本的に我々は、敵同士なのだ」

 「了解ある。米英ソ日が中黄連邦と中華合衆国の原爆開発阻止で組んでいる事は有名ある」

 「君らの行為は、南北の中国発展に寄与すると、考えても良いだろう」

 「こちらは、北の原爆開発を防ぎたいだけある」

 

 

 北太平洋

 空母キティホークから発艦したF14Aトムキャットが哨戒任務中にロスト。

 数時間後、ミグ21バラライカ2機が低空を飛ぶF14トムキャットの後方に付き、

 その上空をさらにバラライカ2機が飛ぶ。

 そのはるか上空をベアが飛んでいた。

 F14トムキャットが北海道の厚岸飛行場に着陸すると、パイロットは、武装放棄させられる。

 慌てて来た日本の外務省の担当は、迷惑そうな表情で儀礼的に握手し、亡命を認める。

 厚岸飛行場

 格納庫にF14Aトムキャットが駐機していた。

 日本人将校、議員、技術者、その他数名。

 「デイブ・クリーマン中佐の亡命動機は、アメリカの資産家に対する抗議らしい」

 「心がけの良い事で、子供が立派な志だと親が泣くよ」

 「取り調べだと、親、いないらしいよ。恋人もいないんじゃないかな」

 「共産圏だと、そういう人間は、新鋭機に乗れないけどな」

 「マリファナは?」

 「検出されたけど、微量だな」

 「正気だとしたら、アメリカ社会も相当弱ってるな」

 「亡命ならボーイングに乗ってくればいいのに同僚に睡眠薬入りガムを噛ませてまでやるかね」

 「中佐なんだから将来、安泰じゃないの?」

 「大義名分より事勿れの日本人じゃ できないよね」

 「NATO軍解体も話題になっているから。安泰なのは大佐以上じゃないかな」

 「アメリカは正義の国だから、不正を感じると怒るんだよ」

 「金儲けは不浄かもしれないけど、不正じゃないと思うけどね」

 「日本じゃ 臭いモノに蓋だよ。親方日の丸に抗議なんて・・・」

 「だけど、こういう軍事的緊張を高められると、困るんだよね」

 「実は、F15が優位で、F14の廃棄が目的だったりして」

 「そこまでやるかな」

 「もう一人、ヘンリー・ベンレット大尉は、帰国を望んでいる」

 「米ソ絡みの皺寄せが、なんで日本に来るかな」

 「とりあえず。調べるか。新鋭機の参考になるし、防空作戦行動も変わってくる」

 

 

 北太平洋 北海道沖 公海 上空

 日本・ソビエト空軍のベア編隊が巡回し、

 ミグ21バラライカが空中給油を受けていた。

 B52爆撃機。アメリカ機動部隊の艦載機E2ホークアイ。F14トムキャットが飛び交う。

 両陣営とも一定の距離を保って、鍔迫り合いを繰り広げていた。

 F14トムキャットの逃亡が、日本・ソビエトの画策ではなかったこと。

 アメリカ軍将校の政治亡命と知れると軍事的緊張が僅かに緩む。

 実権は、現場から国際外交交渉に移されていた。

 空母キティホーク 艦橋

 「ソビエト空軍のベアまでしゃしゃり出てきたか」

 「第二次日ソ協商だと、救難目的で日本側の認可があれば特定の空路で通過できるそうです」

 「何の救難だ?」

 「救難訓練だそうです」

 「20機もベアを飛ばして、何が救難だ。嘘つきが」

 「対艦ミサイルを積んでいるでしょうね」

 「核ミサイルじゃなければ良いがな」

 

 

 自由資本主義社会は、勝ち負けがはっきりとしている。

 アメリカ合衆国の資本主義は、投機的であり、積極的であり、男性的だった。

 想像力、クリエイティブ、プラスアルファを求められる。

 アメリカの強さ発展の原動力は、弱肉強食にあった。

 もちろん、負け犬も現れる。

 青海戦後、ホームレスは増加している。

 低級品、中級品の生産では、労働者の求めるような賃金を払えなくなっていた。

 もちろん、資本家の求めるような利潤が得られない。

 資産家が労働運動、反体制運動に嫌気がさしたとも、

 低級品、中級品の生産拠点を利潤を得られる海外に移したためともいえる。

 当然、資本家と労働者は、どちらにも言い分がある。

 しかし、結果的に私有財産の限度額を規制しようとする風潮は強まっていく。

 南部州では、私有財産規制の声が強くなろうとしていた。

 

 フォード大統領は、就任から苦境に立たされていた。

 ウォーターゲート事件後の大統領不信は根強く。犯罪と反体制派が急増。

 どこからかの圧力を受けたらしく “公正は大統領の威信より上である” と宣言。

 ニクソン元大統領を恩赦を行わず、ニクソンを弾劾し、裁判にかけてしまう。

 容共機運が高まりを見せていく世情にあっても自由を貫き、

 失墜する大統領の威信を必死に回復しようとしていた。

 そして・・・

 ワシントン 白い家

 イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ

 イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ

 「機体の返還は、背後関係の確認、BC兵器など危険性の確認が済んでからとか」

 「けっ! 上手いこと言いやがる」

 「パイロットの亡命は認め。同乗者は、明日の便で帰還させるそうです」

 「では、F14トムキャットの逃亡は個人的なものなのか?」

 「・・・報告では、デイブ・クリーマン中佐個人の貧富の格差に対する反発とか」

 「何と言うことだ。ウォーターゲート事件に続いて、こんな不祥事を・・・」

 「全軍を引き絞めていますので、このような事は・・・」

 「当たり前だ! 将校がまつりごとに意見するなど、あってはならん」

 「問題は、軍の最高責任者がジェラルド・R・フォード大統領という事に・・・」

 「わしか!」

 大統領政治の不信を必死に立て直したフォード大統領も落選は決定的となっていく。

 ソビエトが東西問題と民主化で揺れている頃、

 アメリカも南北問題と貧富の格差で揺れていた。

 

 

 インドネシア連邦 ボルネオ州

 雨が多く、湿気も多い。

 しかし、標高1500m以上は日中でも25度以下。過ごしやすかった。

 当初、30万都市50市で開発されたボルネオ州も、

 歳月を経ると過ごしやすい高原に移り住む者が増える。

 標高1500mを境に線路が敷かれ、

 近代的な生活ができる環境が整備されていた。

 この地に欧米諸国の富豪が別荘を構え始めたのも、

 資産隠しで生活環境が既に造られていたからといえた。

 そして、いつの間にか、フランス語、イタリア語、英語看板が増え、

 白人たちが歩きまわる。

 購買力のある彼らが好みそうな媚び産業が興り、

 外国人の避暑地のようになっていく。

 ボルネオ州は自治州権限で、富豪の資産隠しを手伝っていたりする。

 「アメリカ資本も、掌を返したように来るよね」

 「アメリカ合衆国も、反共、地域格差、人種差別で貧富の格差を紛らわせていたらしいけど状況が悪いらしい」

 「アメリカの財閥は、信じられないくらいお金持ちだからねぇ」

 「ジャワ島、スマトラ島も、作っているけど、ボルネオ島が主流になりつつあるな」

 「社会的信用というやつだろう」

 「でも、この分ならボルネオ州で、オリンピックが出来るんじゃないか」

 「まぁ ボルネオ州ならできそうだな」

 「そうだなぁ もうちょっと、虫を減らした方が良くないか」

 「この標高なら虫は、少ないだろう」

 「もう少し、高いところを整地して、準備すれば白人も住みやすいかもしれん」

 「固有種を殺すと、問題にならないか」

 「分かると、問題になると思うよ」

 

 

 東シナ海で海底油田が発掘される。

 メガフロート 信濃 (全長4000m×全幅380m) 500万トン

 メガフロートは、東シナ海の中央付近を押さえ、

 日本海空軍の制海能力を飛躍的に高めていた。

 海底油田は、オイルショック後、高騰していた原油価格を引き下げ、

 日本を石油輸出国にしてしまう。

 メガフロートの石油精製能力は高く、信濃で給油して外洋に行くこともできた。

 配備された早期警戒管制機型ベア、MiG21バラライカ、Su7フィッターが次々と着艦する。

 F14トムキャットの亡命事件で日米の緊張関係が高まっており。

 メガフロート信濃は、脆弱性から、日本の弱点と言われていた。

 第二次日ソ協商条約後、ソビエト艦船も給油が可能で、

 赤い星マークの巡洋艦と潜水艦が停泊していた。

 「ソビエト連邦海軍の6200トン級クレスタ型と2500トン級フォックストロット型潜水艦か・・・」

 「ソビエトも、ここで給油できるのなら文句はないだろうさ。油質は、満州油田より良い」

 「問題ありじゃないのか」

 「ソビエト共産党が暴力革命を否定なら悪くはないさ」

 「暴力革命の否定に日本の外務省が関わっているというのは?」

 「さぁ どこまで関わっているか、わからんな」

 「少なくとも、メガフロートの給油だと条件になっていた」

 「巷じゃ 冷戦から凍戦らしいがね」

 「米ソ政治外交戦略戦だと権力構造を賭けた無理心中。チキンレースの真っ最中だ」

 「将兵や国民を死なせないデッドヒートなら立派だよ」

 「まぁ たいていの人間は衣食住が満たされれば想像力が発揮できなくても、嘘塗れでも体制に拘らないからね」

 「仁川の海軍工廠では、ソビエトが軍艦を建造しているんじゃないか?」

 「ウラジオストック共和国が陸海空軍で自立だと、ソビエト連邦も気が気ではないだろうな」

 「まぁ 日本としたら微妙だけどね」

 「ウラジオストック共和国が恐れるとしたら、日本より中黄連邦だと思うよ」

 「それは言える」

 「それより、F14トムキャットのおかげで日米の緊張が高まっているんじゃないか?」

 「ソビエト軍将兵が物欲しげに見てるからな。F14の情報が余程欲しいのだろう」

 「情報は教えるんだろう」

 「まぁ 新型戦闘機開発もあるし、第二次日ソ協商に沿って、だろうね」

 

 

 南米 ペルー・チリ沖

 全長4km、全幅1kmの氷山が飛鳥沖200kmに浮かんでいた。

 南極からペルー海流(フンボルト海流)が北上しているため、

 氷山を移動させること自体、困難ではなかった。

 目的は、飛鳥の給水・緑化のため。

 巨大滑走路が整地され、ベア、ミグ戦闘機が配備されて、飛鳥防衛も兼ねていた。

 あまりにも巨大なため、氷山ホテルが建設され、

 日本や南米の富裕層が泊まっていたりもする。

 そして、本隊から離れた戦艦シベリアが氷山の簡易港湾に停泊していた。

 シベリア 艦橋

 海軍士官とKGB士官

 「チリ、ペルーに続いて、ボリビアでも私有財産100万ドル上限制を採用する動きがあるようだ」

 「代わりにブラジルとアルゼンチンの軍政で逆らう者は手当たり次第、赤扱いで狩られている」

 「民衆のやっかみと、お金持ちの傲慢か、怖いねぇ」

 「ソビエトにとっては、痛し痒しだな」

 「アメリカにとっては、13階段を登っているような気分だろう」

 「だからと言って、資本主義を道連れに共産主義が無理心中することはあるまい」

 「実のところ、日本製品が共産圏に流れ込んでなければ共産圏の方が危なかったと言えるよ」

 「それで、KGBの決定は?」

 「干渉しない事になった。しかし、結果には介在している」

 「何もしていなくても結果にKGBが介在するって? そりゃ給料泥棒だろう」

 「どっちに転んでも、米ソとも大弱りするか。安堵するか、の違いでしかないよ。CIAも様子見だし」

 「CIAもチリ工作で懲りたかな」

 「国連で、あれだけ悪者扱いされたら懲りるだろう」

 「しかし、アメリカのF14亡命事件は、痛手だろうな」

 「ふ ソビエト連邦軍じゃ 貧困で新幹線経由で日本に亡命してるぞ」

 「尉官の貧困亡命と佐官の政治亡命では、次元が違うだろう」

 「だから、日本企業を進出させて、雇用を確保しながら兵力を削減しているじゃないか」

 「それで、軍人の平均賃金も引き上げている」

 「第二次日ソ協商で雇用確保か。日本資本で国内に私兵を作られたら防諜がズタズタだな」

 「お互い様だろう」

 「社会資本で劣るソビエトが圧倒的に不利だろう。それに日本の機密は地下だ」

 「そうだった。ソビエトも私有財産100万ドル以下制に移行するのかな」

 「それくらいやらないと、太刀打ちできないだろうな」

 

 

 

 航空巡洋艦キエフ 艦橋

 ソビエト軍は電子作戦能力で劣っている。

 それでも、Ka28ヘリが飛べば、全周180kmをレーダー網に組み込むことができた。

 Ka28ヘリの底部からマイクロ波がキエフに向けて発信されていた。

 解析されたデーターがモニター画面に映し出される。

 「どうです? お客さん」

 「結構ですな」

 「それは良かった。発艦は、いつでも結構ですよ」

 「そうですか。では、準備をしますので・・・」

 ソビエト海軍兵士でない男たちが艦橋を去っていく

 「・・・結構ですな・・・か・・・」

 「白々しいですね」

 「アメリカのECMがどの程度か、わからんからな、ミリ波での双方向通信も検討すべきだろうか」

 「情報伝達力ならマイクロ波よりミリ波の方が優れています」

 「ですがデーターリンクは、一朝一夕ではいきません」

 「細々とした部品のおかげで、随分と便利になったものだ」

 「正面戦力縮小は痛いですが、稼働率が向上していますからね」

 「しかし、アメリカ相手だと日ソが組んでも辛いな」

 「ソビエトは、国内に戦力を奪われ過ぎでは?」

 「ウラジオストック共和国の独立を牽制せねばな。しょうがあるまい・・・」

 「提督。レーダーで、島を確認」

 「・・・あれか? 例の島は?」

 「お金持ちの避難所です」

 「そこまでして、私財を守りたいものかね」

 「ポケットマネーで中小国の国家予算並みです」

 「設備投資も含めても、地上の楽園を作れますね」

 「私財を国に奪われるくらいなら、と思っても仕方がないか」

 「しかし、こんな僻地の島に・・・」

 「アメリカの反体制運動で焙り出されてきたのだろう」

 「アメリカの南部州が独立する噂は、本当ですかね」

 「まだそこまでは、いってないだろう。ソビエトのウラジオストックといい勝負だ」

 「お金持ちには、少し不便かもしれませんね」

 「パナマ船籍で大型客船も持ってる。悠々自適だよ」

 「資産家組合ネットワークで国家を超えた相互協力機構ですか・・・」

 「提督。Ka27ヘリ5機、Ka28ヘリ5機。発艦していきます」

 「お金持ちたちの私兵部隊か。アメリカ製を使うと思ったがね」

 「アメリカ人を刺激したくないのでしょう。島ではハインドも組み立てられているはずです」

 「小さな国なら簡単に制圧できそうだな部隊だな」

 

 

 北太平洋

 空母キティホーク 艦橋

 「潜水艦は?」

 「ロシアの原潜は見つけられますが、日本の潜水艦は、近付かなければ・・・」

 「日本潜水艦の遮音タイルは優れている」

 「気泡も小さく規模も大きい、探信の跳ね返りも正確に測定できなくなる」

 「デコイも良いのを持っているそうです」

 「地雷原に踏み込むようなものか・・・」

 「アメリカ国民がみれば、消極的ととられますね」

 「どいつも、こいつも、わたしの職歴に傷を付けさせやがって・・・」

 「わたしも、駄目でしょうね」

 「空対地ミサイルを厚岸飛行場に撃ち込んでやりたい」

 「これ以上、接近するのは危険です」

 「それにトムキャットは地下格納庫に移されているそうです」

 「民間飛行場にも地下格納施設があるとはな」

 「格納庫にエレベーターが付いているなんて、サンダーバードじゃないですか」

 「地下格納施設の規模が知りたいな。戦闘機も隠しているのだろうか」

 「空でしょう。たぶん、資材さえ運び込めば、民間飛行場も軍事施設にできるということでしょうね」

 「高速道路を緊急滑走路として使うのと、どっちが良いかな」

 「運用のしやすさでは、民間飛行場だと思います」

 「しかし、高速道路の建設も進んでいる」

 「いくつかの区画をコンクリートで補強すれば、緊急用の滑走路になるだろう」

 「そういえば、宗谷・津軽海底トンネル完成後は、ガソリン・ディーゼル車解禁でしたね」

 「ふん! 電気自動車なら海底トンネルを通過できるのにガソリン車を買うものか」

 

 

 

 はるか後方、高高度を飛ぶベアに誘導されたSu7J2フィッター8機編隊が目標海域に向かう。

 低空で飛ぶ理由は、艦艇からのレーダーを掻い潜るため。

 敵艦隊が早期警戒機や戦闘機を飛ばしていれば、見つかる可能性は高くなる。

 それでも、敵艦隊から直接、対空ミサイルを受ける事は避けたい。

 可能な限り海面に近い低空で進入が生き残りやすいかった。

 日本は、MiG21J2より大型で翼面積が大きいSu7J2フィッターを戦闘爆撃機として扱っていた。

 編隊の隊形によってベアに見せかけたり、艦船に見せかけることもできた。

 レーダーに探知されれば、チェフ、フレア、ECM、デコイなど、いくつかの防衛手段もあった。

 機体が大きければ、ECM装備を余計に搭載できて生存率も高まる。

 編隊は、水平線のかなたに現れた黒い艦影を発見すると散開。

 フレア、チェフを撒き散らしながら、

 それぞれロックオンした目標に向け対艦ミサイル発射する。

 白煙16本が目標に向かって突き進んでいく。

 標的艦からフレア、チェフが打ち上げられ。

 偽装のため艦艇から吹き上げられた海水が艦隊上空を覆う。

 対艦ミサイルの何本かが外れ、何本かが標的艦に命中する。

 

 得撫島

 風が冷たく小雪が降り始めていた。

 人通りはなく、上空も洋上も、不信なモノはない。

 監視されているとしたら衛星だけといえる。

 薄曇った空の下、関係者ばかりが集まっていた。

 元々、霧の多い場所でもあり、実験場で適当だった。

 カナード(前翼)の付いたフィッターJ2が次々と滑走路に着陸する。

 日本は、ソビエトが62年に開発したMiG21を改造したYe8の機体設計を入手していた。

 ソビエトのYe8は、機体性能で優れていたがエンジントラブルで開発を中止。

 日本は、カナード翼が短距離離着陸機(STOL)で効果があると開発を継続。

 日本の航空産業はYe8を模倣し、

 バラライカとフィッターの空気取り入れ口を機体下部に移動させ

 機首に大型レドームを装備させていた。

 カナード付きMiG21J2、Su7J2の開発は、ターボファンエンジンの成功と軽量化で軌道に乗る。

  推力(kg) 重量(kg) 全長×全幅×全高 翼面積 最大速度 航続距離 武装 ミ・爆
MiG21J2バラライカ 7200 5200/9300 15.76×7.15×4.98 23.13 M2以上 1800 23mm×1 4000kg
Su7j2フィッター 11000 8000/15000 18.07×9.31×4.99 34 M2以上 2000 23mm×1 6000kg
F16ファイティング・ファルコン 13199 8627/19187 15.03×9.5×5.09 27.87+5.58 M2以上 2300 20mm×1 5443kg
サーブ37ビゲン 7200 11800/20450 16.04×10.06×5.6 46 M2以上 2000 30mm×1 6000kg

 スウェーデンがカナード方式でSTOL戦闘機の座を勝ち得ていた。

 ビゲンの半分の重量のバラライカであれば、カナード翼の効果は、より見込める。

 フィッターは、翼面積が元々大きいことから、

 エンジン換装と軽量化が進めば、短距離離着陸効果も高いと思われていた。

 もっとも、最初からSTOL機として開発されていな事から問題も起こる。

 「どうだね?」

 「バラライカとフィッターは、アビオニクスが向上。整備能力も向上、旋回も良いです」

 「しかし、離着陸距離が短くて良いですが、コクピットの前にカナード翼ではね」

 「んん・・・視界が悪くなるな」

 「無理やり着陸距離を縮める方法なら使い捨ての逆噴射ロケット、パラシュート、フックもありますからね」

 「MiGは、元々、視界が悪い機体だからな」

 「コクピットを迫り上げて視界を良くすると速度が落ちる」

 「ターボファンエンジンで速度が上がっている」

 「少しくらい落ちてもマッハ2を越えるならあまり関係ないよ」

 「カナード翼を小型にしてエアブレーキも兼ねるか。最悪、離着陸だけは向上させたい」

 「しかし、あまり改造し過ぎると、他国のバラライカと共有性を失いませんか?」

 「んん・・・バラライカは、ドル箱だからね。残念だ」

 「もっとも、レドーム付けてもアメリカ製レーダに勝てる気はしないが」

 「早期警戒管制機と飛べば、有視界戦に持ち込めそうですがね」

 「旋回能力が向上するのならカナードは良いですよ」

 「レーダは、ベアに任せて、ECM、電波妨害装置、チャフ、フレア、デコイミサイルでも良いですがね」

 「んん・・・とりあえず。カナードをバラライカj1とフィッターJ1に付けて誤魔化して」

 「新型機開発まで、新造機のバラライカJ2とフィッターJ2で繋ぐか」

 「日ソ開発中の新型機は見込みがあるそうですよ」

 「嬉しいねぇ アメリカがF14、F15、F16と開発してから不安ばかりが増すよ」

 「F14トムキャットは、調査したのだろう」

 「空母の防空なら十分な性能だ。機動部隊への突入は自殺だな」

 「そんなに凄いのか?」

 「凄いよ。格闘戦に持ち込めれば撃墜できそうだが、その前に壊滅だな」

 「参謀本部は、地下防衛戦に力を入れている。空軍も海軍も、示威以上の事は出来ないだろうよ」

 「そういえば、ソビエトは、RPK74軽機関銃、AK74突撃銃を採用したんだったな」

 「おかげでRPK軽機関銃、AKM突撃銃を大量に入荷できたらしい」

 「小口径5.45mmは、そんなにいいのか?」

 「さぁ 展開の利かない地下だと、どうでも良いという感じだが」

 「攻める側は、弾数が多い方が安心じゃないの」

  弾薬 全長/銃身長 重量 初速 装弾
RPK74軽機関銃 5.45mm×39 106/59 5 880m/s 45/75
AK74突撃銃 5.45mm×39 94/47.5 3.415 880m/s 30
 
RPK軽機関銃 7.62mm×39 104/59.1 5 735m/s 40/75
AKM突撃銃 7.62mm×39 89.8/43.6 3.290 710m/s 30
シュパーギンPPSh41短機関銃 7.62mm×25 82.8/26.5 3.5 488m/s 35/71

 「日本は、AK47から、ようやくAKMに更新ですか? 本当に手抜きしますね」

 「穴掘りに夢中なんだろう。要衝には装甲した対人CIWSを配置してるらしい。守備隊はオマケだな」

 「地下だとまともに散開できませんから、攻める方は、泣きたくなりますね」

 「少しぐらいの性能差なら地の利で、はね返せるよ」

 「ぶっちゃけた話し、地下を守るだけならRPG7、シュパーギン、トカレフでも十分」

 「RPK、AKMは、地表奪還用ですかね」

 「まぁ 安心を買ってる、じゃないか」

 「国力からすると、もう少し空軍と海軍に力を入れても良いような気がしますけどね」

 「外国の脅威に接していないと人間は慢心に走りやすく、内部でニワトリの突きが始まる」

 「軋轢は社会の歪みになりやすいし、身内に殺されない程度の健全性が必要だよ」

 「日本の再建も、それによるところが大かもしれませんがね」

 「社会のためには、空軍も海軍も、あまり目立たない方が良いのかもしれないな」

 カナード付きの旧式のSu7J1フィッターが滑走路に降りてくる。

 旧式J1は、機首に空気取り入れ口があった。

 フィッターJ1は着地と同時に制動ロケットが噴射すると急速に速度を落としながら停止していく。

 「・・・被弾した時の事を思うとパラシュートが良くないか?」

 「被弾しやすい場所というものもあるから・・・かといって、フックは技能が問われるからな」

 「平時で使いやすくても戦時はカタパルト射出と合わせて無理やり短距離離着陸させますから微妙ですかね」

 「一番良い方法と言われても推測は立つけど、こればっかりは戦争してみないとな」

 「大型のフィッターはアビオニクス追加装備でも将来性があるんだが・・・」

 「しかし、小型のバラライカの方が需要が大きいからね」

 

 

 厚岸港

 F14トムキャットが船積みされ、アメリカ本国へと出航していく。

 「やれやれ、随分粘ったけど、行っちゃったな」

 「最新鋭戦闘機だから、一時は、日米開戦かと思ったよ」

 「一応、全部、調べたんだろう」

 「新型機の参考になったよ。しかし、ソビエト経由の情報と似てたな」

 「KGBも凄い情報網だな」

 「白人同士だと侵入しやすいよ」

 「まぁ 技術差と噂のキルレートを追認できただけでも、めっけものかな」

 「機体設計が優れている。素材の構成とバランスも芸術的でさえある」

 「CAD設計と加工能力の差だな」

 「日本より精度が高度で、バラライカJ2、フィッターJ2もやっつけに見える」

 「特に20パーセント以上がチタニウムで加工能力も高い。比率も増えるだろう」

 「あと、一部使われている炭素繊維、強化複合材も日本より質が良い」

 「はっきりと、総合全般で負けてると言えよ」

 「あはは・・・」

 「チタンなら、日本でも作れるだろう」

 「単純な構造ならね。それにアメリカより安く作れる」

 「同じモノを10000個以上造れるのと、新型機じゃ 単価も違ってくるよ」

 

 

 満州平原

 公団住宅は、国が大規模な開発を行い、低価格の住居を国民に提供する。

 資本主義国家で、これをやると民間企業や大家が太刀打ちできず困ったりする。

 共産主義国家でやると、それほど困らない、というより必須の国家事業。

 日本の建設会社が兵舎を建設していた。

 最初、民間限定だった公共事業参入も、

 日本の建設会社が作る住宅が住みやすいと分かると状況が変わる。

 第二次日ソ協商調印は、生活苦に喘ぐソビエト軍が政府に圧力を掛けたからといえる。

 兵舎群の中央付近に30両編成の装甲列車が5列で並んでいた。

 ソビエト連邦は、恐怖政治が困難になり、中央集権が弱体化していく。

 その中にあって、ソビエト連邦装甲列車兵団は、クレムリン直属であり。

 軍管区に依存していなかった。

 装甲列車にはレドーム、CICの車両があった。

 そして、対空ミサイル、対地ミサイル、AK630対空機関砲も装備されていた。

 列車の周囲にMi24ハインド。Mi8ヒップが駐機。

 列車は、ヘリ運用能力を有し、さながら陸走する巡洋艦のようでもあった。

 T72戦車、歩兵戦闘車BMP1、装甲兵員輸送車BTR60、装甲偵察哨戒車BRDM2

 各種の車両に搭載されており、載車、降車も容易に行うことができた。

 軌道が決まった装甲列車は、誘導兵器の発達で戦略的価値が低下していた。

 しかし、ソビエト連邦の共和国を繋ぎのため最新鋭の兵装が優先されていた。

 装甲列車ハリコフ

 「東ドイツ駐留軍の3分の2は、こっちに来るのか?」

 「はい。極東ソビエト軍の一部がモスクワ側に移動になるそうです」

 「・・・一安心といえば、一安心か」

 「オリンピックのせいで、ハルピニスクは、随分と華やいでいるようです」

 「中央集権で統制すると膠着化し停滞する」

 「地方分権を強化すると統制を失うが活性化しやすい。どうしたものか」

 「極東軍管区どころか。ソビエト連邦軍の半分は、ウラジオストック共和国の経済力で支えられていますからね」

 「司令! 買って来ました」

 「「「「おお〜!!」」」」

 まいにち まいにち ぼくらは鉄板の 上で 焼かれて〜

 「こ、これが、日本人の心境を一番表わしているという、話題のタイヤキか」

 ごくんっ!

 パク パク パク パク

 「・・・何で、タイヤキなんだ?」

 パク パク パク パク

 「焼かれているのが、問題なのだろうか?」

 パク パク パク パク

 「タイヤキは、焼いた方が美味いと思うぞ」

 パク パク パク パク

 「「「んん・・・日本人は謎だ・・・」」」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 東西冷戦は、共産圏の融和政策のため、資本主義の価値観が崩壊していきます。

 政府は、資産100万ドルを越える資産家と、

 私有財産100万ドル上限自由主義を求める国民の間で揺れます。

 アメリカでは1000万ドルの声が大きくなりそうです。

 上限を越える資産家は、戦々恐々としながら、私財を守るため画策します。

 

 

 F14トムキャットの政治亡命。

 史実のMiG25亡命と違って、本物の政治亡命です。

 

 

 温度境界層

 海中は、混合層、水温躍層、深海等温層などいくつか海層があり、

 温度境界層は混合層のひとつ。

 

 

 

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第34話 1975年 『暴力反対』
第35話 1976年 『東西と南北』
第36話 1977年 『クリスマスプレゼントは?』