仮想戦記 『国防戦記』
第37話 1978年 『金の亡者と僻み亡者』
ソビエト共産主義の思想的優位がアメリカ国民の思想的な自信を喪失させ、
疑心暗鬼と反体制勢力を増大させていた。
前ニクソン大統領の犯した政治不信は、モラルと労働意欲を低下させ犯罪を誘発させる、
賃上げゼネストがアメリカ企業の利潤を目減りさせ、追い打ちをかけ、
後進国の工業力がアメリカ産業を圧迫し、
製造業不振のマイナス成長は、アメリカの失業者を増大させていた。
トムキャット亡命事件は、軍部と資本家の相互不信と不安を増大させ、
資本家を保身に走らせていた。
アメリカを辛うじて超大国として保たせたのは、第二次世界大戦の備蓄資産。
フランス、イタリアから逃げ出してきた富豪の流動資産。
それらも貧富の拡大を広げるだけであり、状況は、さらに悪化していた。
ソビエト共産主義の株が上がると、アメリカ合衆国の株価が落ちた。
前年、ソビエト連邦コスイギンのクリスマスプレゼントは、アメリカ合衆国にとって深刻なものだった。
自由資本主義と共産主義は、万能ではなかった。
自由資本主義の中にも共産主義的な要素が存在し、
共産主義の中にも自由資本主義的な要素が求められた。
アメリカ合衆国を支える理念は、法の下での自由と正義。
しかし、負のスパイラル連鎖が始まると見方も変わる。
自由を金に換算すれば拝金主義でしかなくなる。
正義を失えば、タダの利己主義。
アメリカ合衆国国民は混乱のさなかにあった。
一部は “それがどうしたと” 開き直る。
一部は、逆にソビエト連邦に嫉妬、憎み始める。
しかし、大多数のアメリカ国民は、暴利を貪る醜悪なアメリカ社会を憎みだした。
立場と貧富の違いは軋轢となって、アメリカ社会を憎悪と下剋上の渦中へと追いやってしまう。
群衆がプラカードを持って首都を行進していた。
就任式後のパレードで議事堂からホワイトハウスまで歩いた初めての大統領は苦笑する。
可能な限り予算の民政に回し力を注いでいた。
しかし、当時の期待は薄れ、歓迎が失われて久しい。
ワシントン 白い家
「群衆は、随分と集まってるな」
「5万から6万人だそうです」
「日本のように保守が強く大人しい民族社会が羨ましい」
「アメリカは、全てが揃っている上に成功し過ぎた」
「欲に際限がない事も足を引っ張ってる」
「資産家は損を恐れて保身に走って、民衆が怒っても仕方がないかもしれんな」
「他人事のように言われても・・・」
「なんとか、群衆を散らしたいものだな」
「軍を投入しますか?」
「まさか、敷地内に入れなければ良い」
「いまのところ、凶暴でもないようですし、警察だけで守れそうです」
「まったく、まるで資産家が悪人みたいじゃないか」
「もちろん、資産家は悪人ではないよ。彼らは正当に利益を上げたに過ぎない」
「反体制派は妬みや嫉妬で成功者の正当な権利を奪おうとしている」
「資産家は被害者といえるだろう」
「そう言えないこともない」
「ファーストクラスは、エコノミーの十倍以上だが床面積は十倍もないぞ」
「資産家が航空会社の料金を引き下げているのだ」
「まぁ 一側面はそうだが・・・」
「資本がなければスターウォーズだって作れないのだ。アメリカ国民も、それくらいわかれ!」
「感情的になっている時は、言わない方が・・・」
「なぜ、これほどまで田舎者のロシア人に追い詰められなければならん」
「国務省は日本人が関わっている可能性があると」
「日本人は視点が低い。視野も狭い。日本天動説級の意識で外交下手だ。井戸の中の蛙だ」
「ええ、戦場しか認識できない。その程度の人種と思われますが・・・現実は・・・」
「“昭和の改新” で意識が変わったのか?」
「大型の省を警戒する程度でしょうか」
「土建屋は海外発注に市場を伸ばし、自主的に縮小気味のようですし」
「我田引水を遠慮している?」
「まぁ ニュアンスは、そんなところでしょう」
「本人たちは穴熊引き籠り戦略で、のらりくらりやっているつもりでしょう」
「たまたま、それが時勢にハマっているだけか」
「そう言えます」
「とにかく、アメリカの国内問題を何としないと、スクルージおじさんたちが困る」
「日本製アニメは、それなりに効果がありそうです」
「無性に腹が立ってきたぞ。日本に原爆を落とす映画を作らせろ」
「それでは、貧富問題など解決できませんし、我々が悪者に・・・」
「そ、そうだったな。なんとかソビエト共産主義の幻想を崩したい」
「ソビエト経済の第二次、第三次産業は増大しています」
「日本とロシアマフィアが手を組んでいるのだろう」
「はい、中央アジアの砂漠の緑化も進んでいるようです」
「軍事的圧力をかけ、ソビエトの軍事費を増大させて経済を破綻させるんだ」
「アメリカ国民は貧富の格差による労働意欲の低下とゼネストによる不況です」
「それに国民は軍事費増大を望まなくなっています」
「何と言うことだ。どいつもこいつも・・・」
「とりあえず金を作るには、西ドイツからの撤収しか」
「確かにこれ以上、統合ドイツ国民の反感を買えば、アメリカの立場は、ますます悪くなる」
「本当なら、西ドイツ駐留は、大ドイツ復活の牽制のためと称するところでしたが・・・」
「・・・税収が低下して、金がないか」
「後進国の製造業拡大は増大していますし、ゼネストは貧富の格差に対して行われています」
「・・・・」
「大統領・・・アメリカ合衆国は資本主義国家でもありますが民主主義国家でもあります」
「わかってる・・・」
アメリカ国民は、政府に自由と公平を求めていた。
しかし、自由資本主義は、弱肉強食の一面があり資産家の存在を許していた。
政府は憲法上、公平より公正を優先し、
そして、誰しも自由と公平が相克であることに気付く。
ソビエト連邦の偽善に幻想を抱く者は急増し、
アメリカ合衆国国民は、自由資本主義と制限資本主義の思想戦の渦中へと追い込まれていた。
アメリカ合衆国は、容共運動、ゼネスト、不況と抜け出せないジレンマに陥っていく。
南太平洋
小さな島に世界各国の別荘が立ち並ぶ。
資産隠しを小さな島で行う。
正当に引き継いだ資産であり、働いて得た金だった。
誰かに文句を言われる所以はない。
しかし、現実は違う。
容共運動が急速に強まり、白い目で見られる。
かって、これほど屈辱的な扱いをされた資産家がいるだろうか。
とはいえ、世界各地に富裕層の財産組合ネットワークが構築される。
忌々しい事にアントノフAn12カブが滑走路に着陸し、日本人が御用聞きでやってくる。
不足な設備があれば、彼らに発注すると早く、間違いも少ない。
聞けば我々富裕層の避難所建設で日本経済は助かっているという。
もし、ソビエト連邦の裏で日本人が手を引いていたとしたら、首を絞めてやりたいが証拠もない。
どちらにしろ、日本とチリ(飛鳥)の間で航路があり、
彼ら以上に効率良く事を進めてくれる連中はいない。
「フランスは、どんな状況かね」
「はい、解散総選挙後、制限資本主義を継続しています、経済状況は、悪くないようです」
「それはまずい」
「制限資本主義が馴染んできているようです」
「やっぱりあの時、軍を出して反体制派どもを踏み潰しておけばよかったのだ」
「そんな事をすれば、逆効果になったのでは?」
「もういい。シベリアルートは?」
「確保できました」
「生活の状態は?」
「労働意欲は低く、役人、店員、工員の仕事ぶりも受け身で横柄です」
「共産主義とは本来そういうものだ」
「日本とマフィア系の商店は比較的サービスが良いようです」
「そうか。客車の安全は、保障されているのだろうな」
「はい、日本ではもちろん。シベリアルートでも各国の要人、資産家を確認しております」
「日本人を経由して手続きすると安全とも聞いている」
「いえ、目録受領証と引き換えで、銀行の金庫に資産目録を保管しているだけですから」
「それだけなのか?」
「はい。資産を保証するものではありません。銀行に現物を預ける方が安全かもしれません」
「なるほど・・・信義保険みたいなものか」
「そう、とられてます」
「どうも、ソビエトは信用ならん」
「税収と地域経済の活性化につながっていますから」
「客車は、軍も警察も手だししない事になっています」
「まぁいい、とにかく、後5年は、シベリアで不貞腐れるとしよう。セキュリティシステムの追加は?」
「はい。持ってきました」
「すぐに頼むよ」
「はい」
Su7J2フィッターが着陸態勢に入っていた。
Mig21J2パラライカより機体が一回り大きく、アビオニックスの積載も余裕があり、
貧乏国は将来性で注目していた。
ターボファンエンジン(推力11000kg)の音は、安定している。
機体下部に空気取り入れ口を移動させ、
機首にレドームとカナード翼を配置したフィッターは、旧式機と違って尖鋭的に見えた。
アレスティング・フックがワイヤーを引っ掛けて、フィッターを制動させる。
飛行場が爆撃された場合を考慮し、予算の範囲で訓練していた。
「やはり、フックは技量がいるよ。パラシュートが安全かな」
「トムキャットのせいで忙しなくなったな」
「早期警戒管制機型のベアがなかったら、ヤバかったよ」
「ベアで負けそうだからAn22アンチスを使うらしいよ」
「あのでかいやつか」
「電子機器の電力用発電機をどうするかで騒いでたな」
「あの大きさだと本当に空中司令室だな」
「早期警戒管制機で電子戦で負けなければ格闘戦に持ち込んで勝機があることだけは、わかったよ」
「数で押し切られてくるとヤバくないか」
「まぁ ソビエトのウラジオーナがアメリカの主力部隊を引き付けてくれれば・・・・」
厚岸港
訓練用のT72戦車、歩兵戦闘車BMP1、装甲兵員輸送車BTR70が降ろされる。
ソビエト国営テレビがカメラを回していた。
「別にいらないのに・・・」
世界最強のT72戦車をことも投げに言う軍人たちがいた。
「T80戦車が完成したから惜しげもないのだろう」
「他の国に売れないから、訓練用で置いて欲しいらしい」
「新型のPG7VLは、良さそうだ」
「重量2.2kg。口径85mm。貫通能力330mmから重量2.6kg。口径93mm。貫通能力600mmか。良いねぇ」
「狙うとしたら上か下か」
「いざとなったら戦車師団ごと孤立させたり地盤沈下させられる」
「まぁ どっちでも良いというか捕獲できそうだな」
「何か地下施設が勿体無いな。気化爆弾なら戦車以外を片付けられる」
「もう、たいていの場所は粉塵爆発でやれるからね」
「あ、敵が気化爆弾を使った場合の対処は?」
「んん・・・化学・細菌兵器と同じかな圧縮窒素で吹き飛ばす」
「拡散する前の火炎放射でも良いけど」
「そういえば、アメリカの戦車はM60A2だったか、152mmガンランチャーって、どうなんだろう」
「普通にM60A1で51口径105mm砲が使いやすくないか」
「それだと42口径125mm滑空砲が上になる。滑空砲は重量を稼げるからな」
「これから滑空砲装備の戦車が主流になるんじゃないかな」
「そういえば、戦車で儲けようとかしていたな」
「T55とT54は、10万両だったっけ」
「目聡いね。死の商人だよ」
6日間戦争とも呼ばれる第四次中東戦争(1973年10月6日〜1973年10月26日)
スエズ運河の対岸側シナイ半島がイスラエル領となり、スエズ運河は使えない。
イスラエルとイスラムの世界の対立はオイルショックを起こした。
燃料の高騰は製造原価や交通費を跳ね上げる。
それまで採算ベースだった産業の利潤を損なわせ、
グローバルな意味でも世界経済を悪化させていた。
世界経済に対する反逆で、どうにかしたいのだが日本経済は緩やかに成長していた。
ユーラシア大陸鉄道があるからともいえる。
そして、エジプトとイスラエルの和平機運が近付くと、
戦争協力に消極的だった日本人がエジプトにいる。
反共を国是とする日本と赤ではなく緑というアラブは、それなりに関係が良かった。
また両国ともソ連製兵器を使っているため、日本人も入り込み易かった。
MiG21バラライカとSu7フィッターの改良を直接行う。
日本は、ターボファンエンジンに換装し、その単純な構造をチタンで軽量化させていく。
ソビエト製は基本的に単純な構造でアメリカ製だと、こう簡単にはいかない。
そして、浮かした重量をアビオニクスで強化していく。
兵器を買い替えることもなく、強化できるのならとバラライカ、フィッターは、ますます人気が出る。
もう一つの競合、Su7J2フィッターとMiG23フロッガーは、どちらもソ連生まれで似たような機体だった。
Su7J2フィッターは、55年にスホーイが開発し、
本家スホーイが諦めた機体を日本航空産業がしつこく改良しまくった機体だった。
MiG23は、67年にミグが新機軸満載で開発した機体で可変翼STOL機だった。
日本がターボファンエンジンに換装させた時点でSu7J2がMiG23に競り勝ち、
Su7の生産は、MiG23を抜いていた。
量産機が増えるにしたがい部品供給力で勝り、
チタン部品と繊維樹脂など複合強化材の比率も増し、性能差が開いていく。
たまたま、戦闘爆撃機の開発でスホーイ系がミグ系より早かっただけでしかなかった。
日本がスホーイ社に対し発言力があるのもSu7フィッターの成功があったからと言える。
この砂漠地帯でも戦闘機MiG21J2バラライカと戦闘爆撃機Su7J2フィッターが翼を並べる。
「良く来られた日本人。これほど改装の成果があるとは、正直、驚きだ」 アラブの偉い人
「テロに巻き込まれたくなくて、これまで足が向きませんでしたよ」
「ペルシャ側と違って油田もありませんからな」
「あはは・・・」
「お約束のナイル川遊覧とピラミッドに案内しますよ」
「それは楽しみです」
「時に日本は戦車の改良などなさるので?」
「そういえば造っていましたね。本土ではありませんが・・・」
「島国ですからそうでしょうな」
「ソビエトは、モンキーモデルを輸出している節があるのですよ」
「なるほど」
「日本に助けていただければ助かるのですが・・・」
「・・・本当にイスラエルとの和平は進めるのでしょうな」
「無論ですよ。戦わずに済むのならアラーも喜ばれるでしょう」
戦ってシナイ半島を奪い返すか。
戦わず和解してシナイ半島を回復するのか。
この頃のエジプトは二つの選択肢があり、意見が分かれていたと言える。
日本政府は油田のあるアラブイスラム側といえた。
しかし、テロに遭いたくないため、一線引いていただけだった。
イルクーツク
シベリア鉄道の複々線化は、個人所有車両の台頭を許し、
ユーラシア鉄道網は、一大産業の兆しを見せていた。
南北に636km、東西は14〜80kmの三日月型の淡水湖があった。
バイカル湖で日本人、白人、アラブ、華僑の外国人観光客が戯れる。
深度1637mは世界最深で透明度が高く、固有種の魚釣りも好まれた。
漁業を営むより、観光客に釣りをさせる方が金になるとソビエト連邦に教えたのは日本人だった。
あとは穏健融和政策を進めるフルシチョフ・コスイギンとロシアマフィアの圧力でそうなっていく。
周囲には温泉があり、日本人は、そこを目指した。
現地ロシアマフィアは、金持ち目当ての出店産業を興し、
日本・欧米のブランド物が小売専用の車両に陳列されてさえいた。
欧米の資産家を攻撃しているソビエト連邦の線路をお金持ちの客車とテナント車両が走る。
矛盾していても金の力。
ソビエト連邦の国庫に入る税収にもなのだから、コスイギンの時代になってもやめられない。
お金持ちに媚びているのは実は、ソビエト連邦だったりする。
お金持ちがばら撒く資本を効率良く日本商店が回収しているのであり、
その収益の一部がソビエト連邦の国庫に納められた。
利益の得られない場所に人は集まらず。
利益が得られる場所に人は集まる。
人間の本性は利己主義だった。
当然、共産圏では、私有財産も認められない。
そんなに働いてどうするが本音。
しかし、日本人に感化されたのか、ロシア人も、ちょっとだけ余計に働き、産業が復興していく。
ソビエト政府の公共投資誘導がロシア人に希望を持たせ、労働意欲を掻き立てていた。
日本人とロシアマフィア
「やはり、ロシア人の労働意欲が低いようです」
「上限を決めても私有財産を認めるべきでは?」
「んん・・・いまボルシェビキどもに圧力をかけている」
「しかし、アメリカより先に折れるのが癪に障る」
一番、話しが分かるのは主義者でなく、目聡いロシアマフィアだった。
「アメリカより後に制限資本主義に移行しても癪に障るのでは?」
「まぁ それもあるがね」
「本音はソビエト政府に失策が見られないことだ」
「それでは、民主化運動をしても潰されるだけだ」
「なるほど、フルシチョフ、コスイギンは上手くやっているというわけですな」
「そういうこと、共産党は妥協し融和政策を行って脆弱になっているように見える」
「しかし、ロシア人はアメリカ合衆国の内情を知っている」
「ソビエト連邦に自信を持ち、いまのソビエト社会も悪くないと思い始めている」
「ソビエトで、性急な民主化行動を起こせば、逆に民衆の反感を買い敵に回して潰される」
「なるほど・・・」
「ロシアマフィアといっても、民衆の力を利用しなければ、どうにもならない事がある」
「それに民衆を動かすだけの資本を出しても回収できるとは限らないわけだ」
「それならば、ファミリーだけでも利益をあげる方が安全だよ」
キエフ型航空巡洋艦3番艦ノボロシスク就役
呉で建造された3番艦ノボロシスクがソビエト本国へと回航されていく。
対潜哨戒Ka27ヘリックス。対空哨戒Ka28ヘリックスが甲板に並ぶ。
日本に配備しない大型航空巡洋艦をソビエト海軍に建造してやるのはおかしいという声もあった。
一方で別の意見も出る。
F14トムキャット亡命事件は、ウラジオーナに配備されたソビエト艦隊がなければ、別の顛末で終わった、とも言われる。
アメリカ海軍は、主力機動部隊を北大西洋に張り付けなければならず。
ソビエト北大西洋艦隊の増強は、日本の国防にとって好ましく思われていた。
呉
赤レンガの住人たちが3番艦ノボロシスクをお見送りしていた。
4番艦バクーの日本建造も決まっている。
「やはり、キーロフ型巡洋艦は、日本で建造しないようだ」
「工作機械と資材を輸出しているので、だいたいの仕様は掴んでいるのですが・・・」
「まぁ 秘密は持っておきたいのだろう」
「超大国の権利でしょうね」
「軍事力より、フランスに1520mm鉄道が伸びるかを気にすべきだろうがね」
「やはり、そういう動きがあるので?」
「ユーラシア大陸は日本まで続く鉄道だぞ、フランス人も常識的な判断をするよ」
「やはり、総選挙で制限資本主義の継続が決まった事が大きいと?」
「さらに制限資本主義が5年延長だからな。鉄道の狭軌問題は避けられない」
「そして、制限資本主義政府で1520mm施設だと資産家は困るわけだ」
「邪魔をして自分たちで1520mmを敷きたい、ですか・・・」
「ふっ 所詮、我が身かわいさの権力闘争。他人事とはいえ、エゴだな」
「日本政府は、何か介在すると?」
「さぁな。どっちの勢力で施設されてもユーラシア大陸鉄道は拡大できる」
「肝心なのは1520mmで建設することだろうよ」
「しかし、意外でしたね。まさか西欧まで1520mmが伸びてしまうとは?」
「1520mmと1435mmでゲージ戦争になると思っていたらしいからな」
「外務省のお手柄と思いたくないがね」
「本当に暗躍していたので?」
「わからん、まぁ 外交機密文書や外交工作をペラペラ話されても困るが」
「だからと言って、好都合な世界情勢を全部手柄にされたら、かないませんよ」
「複合的なものだろうな。既に日本と繋がって、インド大陸にもつながる」
「そう思えば、ドイツだけでなく、フランスもという気になりますね」
「ドイツは、本決まりで?」
「とりあえず。西ドイツ側も伸ばすらしい」
「意外に伸びるものなんですね」
「統合ドイツとフランスに伸びればイタリアも伸びるだろうな」
「そうなれば、イギリスだって・・・」
「アメリカ合衆国は、青くなるでしょうね」
「トムキャットショックで、日ソは軍事的に敗北しているのに」
「なぜか、国際情勢は押してるな」
「しかし、共産主義が強くなるとまずいのでは?」
「まぁ 今のところ、日本の労使関係は悪くないし、政府の調整は、機能しているらしいよ」
「だといいのですが・・・」
北大西洋
アメリカ原子力潜水艦ロサンゼルス 艦橋
「艦長・・・右舷、艦尾方向より音源」
「機関停止」
原子力潜水艦は、原子炉を止められないため、
減速ギアと冷却循環ポンプが常時、音を出していた。
騒音を誤魔化すため遮音タイルを張り、マスカー(泡)で艦体を覆う。
これが通常型潜水艦であれば、機関を停止するだけで機械音は、ほぼ消えてしまう。
ディーゼル機関と蓄電池の通常型潜水艦は、限定された海域で強く。
ここは限定された海域だった。
ウラジオーナ
2500トン級通常型潜水艦フォックストロットは、ウラジオーナの近海に配備されていた。
アメリカ海軍は、原子力潜水艦より静粛性が良く、発見し難い通常型潜水艦に振り回される。
ウラジオーナの存在がソビエト海軍戦略を根底から変えたとも言われ。
新型の3100トン級キロ型通常型潜水艦の建造も、そういった風潮の中で建造されていた。
キロ型潜水艦トゥルン 艦橋
「見つかったのか?」
「そのようです」
「原子力潜水艦とは思えないな」
「よほど優れたショックアブソーバー、遮音タイル・・・」
「急に音が小さくなったのはマスカーか。気泡が小さいのだろうな」
「細かい泡が有利なので?」
「泡が海上に上がるまで時間がかかる」
「そして、海上に泡が上がっても分かり難い」
「なるほど」
「規模次第では、短信を撃ち込んでも音を跳ね返さないかもしれないな」
「そこまで、凄いのですか?」
「さぁ 少なくも平時では使わないだろうが・・・デコイは?」
「200m先です」
「デコイを、ぶつけてやろうか」
「面白そうです」
「音源のあった方向にこの艦の音紋で、12ノットで進ませろ」
「はっ!」
この艦を真似た聞き覚えのあるスクリュー音が遠ざかり、
・・・不意に雑音が入ると急速に音源が離れていった。
中国連邦ウィグル自治区
満天に星々が瞬き地平の先まで広がっていた。
高原の湖水を囲むようにゲル。
または、パオ、または、ユルトと呼ばれる円形コテージが群れをなしていた。
ランプが灯す淡い光が点々と白いゲルを浮き上がらせ。
キャンプファイアが大地を揺らいで照らしていた。
ユーラシア大陸鉄道の乗客は、お金持ちが多かった。
彼らの望みは、一時を寛ぐこと。珍しい観光をしたいだけだった。
漢民族が増え、ウィグル人は少数派になっていた。
しかし、漢民族に会いたければウィグルに来る必要はなく、少数民族の珍しさが客を呼ぶ。
そして、外国人の目の数と無言の圧力が公平性を保つこともあった。
民族主義を振りかざすような暴力を見せれば、お金持ちは去っていく。
外国人用のゲルは、庶民のモノより一際大きく、上下水設備完備、電力が通っていた。
そういう意味だと、本物のゲルではない。
無論、客が電灯よりランプを望んでも自由。
外でリクライニングシートを倒せば、天の川が掴めそうなのに電灯を付ける人間はいない。
ウィグル人のコックが羊を焼き、
ラグメン(つけ麺)がバイキング形式で調理されテーブルに並べられる。
「・・・次の駅に行けば、チベットへも飛行機で行けるってよ」
「チベットか。酸素マスクがいるんだろう。大丈夫か?」
「チベットは、中華合衆国と仲が悪いらしくてな。結構、良くしてくれるらしいよ」
「戦争とかないだろうな」
「んん・・チベット自治州が直接外資で開発したいんじゃないかな」
「中華合衆国は、それが面白くない」
「そりゃ 面白くないわ。大丈夫か?」
「まぁ 高山地帯だろう。チベット自治軍有利だし」
「中国も戦争しても良いことないから交渉中だそうだ」
「ふ〜ん 高山病がなければ悪くないな」
「しかし、生活費が滅茶苦茶安いんだな」
「星空も綺麗だし、もう年だし、俺、ここで余生送ろうかな」
「日本は生活が大変だからな。せせこましいし。そういえば墓も作ってくれるらしいよ」
「すげぇ なんか、こういう大地に眠るのも悪くないよ」
「でも、中国人って、墓穴掘り返す時があるからな」
「げっ!」
統合ドイツ
ドイツ・オーストリア協定
ドイツとオーストリアの統合は、段階的に進んでいた。
ドイツ連邦制は元々自治権が強く。
統合後、いくつかの権限がベルリンに移るだけで地域政治は、それほど変わらない。
とはいえ、周辺国の反応を見ながら段階的に行われていく。
アメリカ、ソビエト双方の圧力で大ドイツが復活するのであり、
周辺国の反発をよそに進んでいく。
もっとも、東西欧州大陸を制限資本主義で連合しようという画策もあり、
欧州各国とも水面下で動いていた。
ベルリン
「アメリカが西ドイツから撤収?」
「ええ、それで・・・」
「まぁ 相応の負担は仕方がないでしょうな・・・」
国防の要は戦闘機。
後進国は、運用可能な単純な構造と安さを求めた。
そして、ソビエト製兵器はマーケッティングで成功し、世界最大の輸出国となり、
世界3大戦闘機をソビエト製が占めてしまう、
そのソビエト製戦闘機の数的優位を日本のターボファンエンジンと部品で価値を高めていた。
アメリカは、高性能戦闘機F14、F15を開発後、
勢力圏を確保するため後進国に輸出可能な戦闘機を模索する。
そして、開発されたのがF5ノースロップであり、
質的向上の目覚ましいMiG19、MiG21、Su7に対する答えが
F16ファイティングファルコンであり、
この日、F18ホーネットが初飛行する。
そして、アメリカの新型軽戦闘機に対するソビエトの回答がMiG29といえた。
推力 | 重量 | 全長×全幅×全高 | 翼面積 | 最大速度 | 航続距離 | M・爆 | ||
MiG19J1ファーマー | 3200×2 | 4800/7600 | 12.54×9.00×3.89 | 25 | 1452 | 2200km | 23mm×1 | 2000kg |
MiG21J2バラライカ | 7200×1 | 5000/8500 | 14.70×7.15×4.70 | 23.13 | M2.1 | 2000km | 23mm×1 | 2000kg |
Su7J2フィッター | 11000×1 | 8000/16000 | 17.07×9.31×4.99 | 34u | M2.1 | 2300km | 23mm×1 | 4200kg |
F16ファイティングファルコン | 13199×1 | 8627/19187 | 15.03×9.5×5.90 | 27.87 | M2 | 3300km | 20mm×1 | 5443kg |
F18ホーネット | 7258× 2 | 12973/21888 | 17.07×11.43×4.66 | 37.2u | M1.7 | 3700km | 20mm×1 | 6200kg |
MiG29ラーストチュカ | 8300×2 | 10900/18100 | 17.32×11.36×4.73 | 38u | M2.3 | 1565km | 30mm×1 | 4000kg |
F16、F18、MiG29の3機種は、次世代を担う主力戦闘機の簡易型で、
質より数を優先した戦闘機だった。
それでも先端技術の集合体であり、高価なことに変わりなく、
電子部品は、設備投資を回収するため、年々、価格が高騰していく、
そして、回収する前に電子機器の更なる高品質、高性能品を求められた。
「どうだね。これならMiG21バラライカに勝てるだろう」
「まぁ 勝てるでしょうが」
「歯切れが悪いな」
「バラライカもフィッターも数がモノを言いますからね」
「ちっ 10000機か・・・」
「チタンはキログラム3000円。安くても1000円ですからね。数を作れるなら安くなりますよ」
「なんで円なんだ?」
「日本が一番、チタンを作っているからですよ。あそこまで行くと資源ですかね」
「ちっ! 便乗商法で儲けやがって・・・」
「旧式ですがチタンと複合強化材で軽量化された分だけ、アビオニクスが強化されているそうです」
「日本は、耐久年数が切れた部分からチタンへ変えていくマーケティングを出してますし」
「各国とも新型機を買うよりターボファンエンジンに換装、軽量化か。最終的にJ2化だな」
「アビオニクスはどの程度、強化されているのだ?」
「ソビエトで進んでいるのは、ヘルメット搭載型照準装置と空対空ミサイルの高性能化でしょうか」
「日本は、ターボファンエンジン、チタンと炭素繊維強化樹脂の加工です」
「索敵は?」
「索敵範囲も距離も小さいと思われますし、ロックオン能力は、まだ単数のようです」
「電子技術の差か、戦略の違いだな」
「はい。開発力は想像力、柔軟性、度量、資本、蓄積された総合技術がモノを言います」
「アメリカ有利か・・・」
「ソビエトと日本はリスクの大きな冒険は、できないと思われます」
「日本とソ連の新型機は?」
「旧式機の維持とメンテナンスで稼いでいますから、少しずつ新型機に換装していく気でしょうか」
「もっとも新型機は、チタンと炭素繊維強化樹脂ともアメリカと同じ状況と思われます」
「個数が少ないから部品当たりの単価は、アメリカの方が高いということか」
「ええ」
「アメリカは、国防費の削減を言い渡されているのに・・・」
「それでも、西ドイツ撤収がなければ、とても得られない予算だそうです」
「アメリカ合衆国は、そんなに酷いのか」
「マイナス成長で、その上、公共福祉に予算を盗られてますからね・・・」
「ニクソン以降、ロクな事がない・・・」
日本連邦
金に目が眩んだ男たちがいた。
押さえ付けられた日本の国防産業が生き残ろうとしたためともいえる。
道義的責任とか、社会的責任とか、色々取りださされる。
しかし、それは、その国と政府と軍部の責任であり、
兵器と武器に道徳的な責任を追及することがおかしいのである。
生産台数10万両を誇るT54/T55戦車に責任はない。
というわけで、日本で生産された機材が世界中に船出されていく。
重量 | 全長×車体長×全幅×全高 | HP | 最大速度 | 航続距離 | 武装 | 乗員 | ||
T55 | 36 | 9.2×6.45×3.27×2.35 | 580 | 50 | 460 | 56口径100mm×1 | 7.62mm×1 | 4人 |
T55J | 36 | 9.2×6.45×3.27×2.35 | 720 | 55 | 280 | 56口径100mm×1 | 7.62mm×1 | 4人 |
数値上の変化はディーゼルエンジンの換装で馬力が増えて速度が向上。
航続距離が低下していた。
卵を割って載せたような砲塔が外され、
角ばった大型砲塔が載せられる。
複合装甲であり、広げられたスペースにパッシブ式暗視装置、レーザー警戒機が装備された。
初速887m/sだった56口径100mmライフル砲から、
初速1420m/s56口径100mm滑空砲となっていた。
T55Jは、無骨な砲塔と曲線的な車両となり、
アンバランスな姿のためNH(ニュー・ハーフ)型戦車と皮肉られた。
全て改装されなかった理由は3つ。
初期生産T54式戦車の耐久年数、減価償却が少なかったこと。
滑空砲で使いにくい徹甲弾、粘着榴弾(HESH)が多量に余ること。
兵士がニューハーフな外見を嫌ったこと。
滑空砲用の砲弾はだいたい二つだった。
この時期、貫通力に優れた装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)。
回転させると貫通力が低下する対戦車榴弾(HEAT)の二つの弾頭が生産され、
滑空砲弾用の砲弾がNH型戦車に搭載されていく。
さらに車体前面に薄い追加複合装甲とサイドスカートを付ければ完成だった。
イラク
日本から運び込んだ機材がイラク軍駐留地に運ばれていく。
「56口径100mm砲で1200m/s以上の高速弾を撃ち出すのには苦労させられたよ」
「まぁ あまり改造しても元が取れなくなるしね。砲塔のおかげで少し広くなったか」
「元々狭いからね。パッシブ式暗視装置、レーザー警戒機が上手く働けばいいが」
「イラク軍は、燃料が減らされて面白くなさそうだけど」
「新型が現れ、旧式化したら機能の取捨選択は必要だよ」
「燃料タンクを減らしても装備を更新すべきだろうな」
「でも砲弾を回転させられないから被帽付徹甲弾の威力は、落ちると思うよ」
「全部改造するわけじゃないから」
「威力は、どんなものかな」
「滑空砲ならM60戦車を貫通できると思うよ」
「それに複合装甲の砲塔ならM60の51口径105mm砲弾をなんとか防ぐだろう」
「車両の防御は爆発反応装甲か。複合装甲を前部装甲に足すことになりそうだ」
「イラクがいい気なって戦争始めなきゃいいけどね」
「燃料タンクを減らしたのは、戦争を防ぐためでもあるよ」
ディーゼルエンジンは、大型となり耐久時間を伸ばした。
燃料タンクを小さくした事でスペース上の釣り合いを取ることができた。
新たに装備されるパッシブ式暗視装置、レーザー警戒機、サイドスカート・・・
この改装でT54/T55戦車は、寿命が伸びてしまう。
ソビエト連邦は新型車両の売れ行きが低下し、渋顔だったものの、
ソビエト製兵器の信頼性向上をソビエト連邦自身で妨害出来るわけもなかった。
そして、外された砲塔がコンクリートで固められた国境近くのトーチカに載せられていく。
「こっちのトーチカの方が良いね。広くて涼しそうで・・・」
「こんなんじゃ 爆弾一発だよ」
「戦争する予定でもあるのか?」
「さぁ 油田があるから神経過敏になってるんだよ」
「おかげで売れるんだけどね」
「でもトーチカなら戦車砲置くよりAK630を置いた方が良いよね」
「そうそう。固定されて、しかも地表なんて、まな板のコイ」
「イラン側は?」
「イスラム教同士だから。でも、あっちは、西側だから不安だな」
イタリア半島
快楽主義が支配する国、貧富の差は激しく、
南北の地域格差も問題となっていた。
欧州のお荷物とも言われ、
この国も一時的に制限資本主義(共産化)して、私有制限が課せられ、
土地を分配、最低限の生活を送っていた貧民層を底上げし、
私有財産5億リラ(100万ドル相当)を限度として、経済活動が行われていた。
当然、資本家たちの逃亡で海外に持ち出された資産も少なくなかった。
しかし、農地転売が経済を少しばかり活性化させ、国内経済を回していた。
モダンなイタリアで、ショボ過ぎる旧東ドイツ製トラバント車が走っていた。
(600kg、594cc、最大出力23HP/3800rpm。最高速度105km/h)
インドネシア系日本人は、内地の日本人よりガソリン車に馴染んでおり、
好きモノの二人は、貧相なトラバント車を改造し、峠の道を楽しんでいた。
「イタリアは来年か、どうする気かな」
「制限資本主義か。ブランド物が日本に流れやすくなって嬉しいね」
「問題は、もう一期、制限資本主義が続くことかな」
「どっちも失望してそうだな」
「イタリア人は資質の問題が多いからね」
「観光は良いぞ」
「歴史が深いからね。見どころ満載」
「トラバントじゃなくて、もう少し洒落た車で回りたいが・・・」
「なにを言う。丹精込めて改造したのに・・・」
「繊維強化プラスチックで車体を作るなんて、面白いな」
「意外とありなんじゃないか、炭素繊維複合材は有望株だろう」
「戦闘機と違って、加工費掛けたくないんじゃないの」
「・・・ん・・やっぱ、加速とか吹き上がりにムラがあってアナログな感じがいい」
「ガソリン車は面白いね」
「ピストンの振動とか、エンジンとか興味深い。人間の差が強く出て面白いと思うよ」
「人間の差が出るね。電気自動車はスムーズ過ぎる」
「それはそれで、慣れじゃないの」
「んん・・・しかし、子供が少ない国だな?」
「自発的じゃないの。子供の面倒をみるより自分の面倒をみる方が楽しいからね」
「でも資産の再配分で少し子供が増えたってよ」
「5年前だろう。まだ小さいよ」
「少しくらいの余裕があっても子供なんて作れないからね」
「それに人身売買も多いからどうなるやら」
「進学率が低いと成功率がどうもね。イタリアの成長は怪しいよ」
「問題は、制限共産主義が続くか、やめるか、だと思うよ。それと1520mm鉄道」
「資本はな・・・お金持ちが握っても、国が握っても、国民のためになるとは限らないからな・・・」
「国民のために働こうなんて、奇特なやつは滅多にいないからね」
「他人のテリトリーを侵害して自分のテリトリーを拡大させるのが資本主義じゃないの」
「共産主義だって一国一城の欲望を抑制するから、老人ホームか、刑務所だろう」
「テリトリーを制限したからって、経済が良くなるとは限らないからな」
「無能な奴の嫉妬が少しばかり収まるよ」
「でも、足を引っ張って気を紛らすのは変わらないか」
「しかし、売春婦が減ったのは、ちょっとな」
「土地の再配分が効果を出しているんだろう」
「金があるのなら嫌な爺相手に体を売ることもないだろう」
「だけど大金持ちが減ったし、イタリア車も高級スポーツ車から大衆車に切り替えかな」
「貧富の格差が大きいと、日用品より利潤の大きな高級品で稼ぎたくなるからな」
「期待して来たんだぞ。売春婦」
「トラバントじゃな」
「さっきフィアットを抜いたぞ。峠の下りなら勝てる」
「人も車も見かけだよ」
「人は見かけでも、車は速い方がモテる」
「インホイールモーターなんて、改造し過ぎだよ」
「よっしゃ! いけぇ〜!」
トラバントがドラフトをかけながらアルファロメオの小型車アルファスッドを抜いていく。
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月夜裏 野々香です。
そういえば、むかし、
74式戦車の51口径105mmライフル砲を
51口径105mm滑空砲に換装した戦記を考えたことがありました。
しかし、史実でも仮想でも戦争の可能性が少なく、
無理やり戦争させようとするとSFになる。
また900両足らずの74式戦車を改良してもうまみがない。
というわけで、10万両オーバーのT55/T54戦車でやることにします。
ソビエトママに生み出され、日本パパに鍛えられたT54/55。
最強戦車M60パットン戦車。M1エイブラムス戦車に勝てるでしょうか。
それとも史実通りT55/54は蹂躙されてしまうのでしょうか。
「パダワンT55よ。共和国は危機に瀕している」
「マスター。我々は、M60パットン、M1エイブラムスに勝てるでしょうか」
「パダワンT55よ。フォースを使うのだ」
「フォース?」
「そうだ。心を財欲に支配されてはならない」
「暗黒面に精神を奪われてはならないのだ」
「フォースとは?」
「地球の全人民の公平は、パダワンT55とT54の双肩にかかっておる。戦うのだパダワンT55」
「はい・・・」
『てか、フォースって、なに?』
前年 1977/05/25 スターウォーズ公開。
この戦記では、アメリカ政府もスターウォーズに期待するという感じでしょうか。
第36話 1977年 『クリスマスプレゼントは?』 |
第37話 1978年 『金の亡者と僻み亡者』 |
第38話 1979年 『あー うー』 |