月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第03話 1943年 『疑心暗鬼』

 アメリカ議会図書館。

 日本人が本を借りては、ノートに書き写していた。

 一人の白人女性が近付いて、興味深そうに見つめる。

 「学生さんね、何をしてらっしゃるの?」

 図書館ではヒソヒソと話さなければならないため、自然と近付く。

 「あ、調べ物を頼まれまして・・・」

 「魔術関係ですか?」

 「え、ええ、ちょっと?」

 「わたしもこの手の書物が好きですの」

 「専門用語でわからないことがあれば、答えられるかもしれなせん事よ」

 日英・英日・英英辞典があると、隠しようもない。

 「そ、それは助かりますね」

 「でも、珍しいですのね、日本の方がこんなところまで・・」

 「ここが一番大きいですからね」

 「でも、一番、重要な書物があるとは限りませんわ」

 「わたしの家には、ここにない魔術書が2冊ありますわ」

 「他にも個人の蔵書で、ここにない魔術書も、たくさん」

 「人類の本好きにも困ったものです」

 「人類の英知ですわ。魔術書もね」

 「本当は苦手なんですがね。お役所に留学費の代わりに頼まれて・・・」

 「まぁ わたし、スパイ事件に巻き込まれるのかしら」

 「まさか、役所の埒もない調べ物ですから」

 「どんな調べ物かしら、魔術関係は得意ですわ」

 「魔法・魔術が存在しないことを調べてこいと・・・」

 「くすくす くすくす」 女性の肩が震える。

 ゴホン!

 睨まれる

 

 01/02

 日本人入植者がニューギニアのブナに到着。  

 

 01/03

 ドイツ軍がカフカスを制圧する。

 

 01/04

 日本製の武器弾薬を満載した機関車が東進していた。

 日本人観戦武官と岡田嘉子がモスクワ行きの列車に同乗していた。

 「まさか亡命者に案内させられるとはね」

 「わたしも驚きです」

 「ソビエトの生活は?」

 「悪くないですよ」

 「日本の生活も随分と生ぬるくなりましたよ」

 「軍縮されたそうですね。噂は聞いてます。東部戦線に日本の師団を送り込むのですか」

 「軍縮といっても、お金を払っている国がイギリスになっただけで傭兵軍は多いのですよ」

 「まぁ」

 「都市一つを占領すれば、100億単位の金が動くのでね」

 「まぁ」

 「もっとも、小国の師団が活躍できるような戦場ではなさそうですが確認は必要ですから」

 

 

 日本人のガダルカナル島入植が始まる。

 

 

 01/06

 ドイツ海軍最高司令官がレーダー提督からディーニッツ提督に変わる。

 

 三菱重工業長崎造船所

 武蔵が建造された後、自由フランス海軍戦艦リシュリューがドック入りする。

 アメリカ合衆国が極東権益に取り付いたことで参戦が遠ざかり、

 ドイツに利する動きを見せたためであり、

 イギリスの造船所まで行くのが危険で空きがなかったからであり、

 日本で修理になったという、

 修理改装費は、イギリス保証で自由フランス払いだった。

 日本で護衛艦と輸送船の建造が急増し、

 大型艦建造が軒並み中止しているため、良い小遣い稼ぎといえた。

 戦艦リシュリュー 艦橋

 「大丈夫ですかね?」

 「メートル法ならなんとか」

 「日本がメートル法とは知りませんでしたよ」

 「まだ、度量衡、尺貫法混在ですがね。おいおい、メートル法になっていきますよ・・・」

 そう簡単にメートル法に切り替えられないと知っているのか、苦笑い

 「まぁ 大和を見たので安心していますがね」

 「年内には修復改装できるでしょう」

 

 

 01/09

 汪兆銘の南京国民政府が解体。

 蒋介石の国民党がアメリカに人種差別撤廃と揚子江の自由航行を要求。

 

 01/10

 ソ連軍がアストラハン周辺で攻勢を開始する。

 

 01/11

 ルーズベルトは、極東統治にため議会に予算投資1000億ドルを求める。

 

 01/14

 東京

 近衛・チャーチル・スターリン会談。

 独伊攻勢計画を討議する。

 「小銃と機関銃はともかく・・・」

 「45口径114mm、50口径94mm砲、60口径40mm砲のラインが遅れているようですな」

 「対空砲は命数が・・・」

 「野砲も命数が怪しいですな」

 「はぁ〜」

 「いっそ弾薬だけ造るというのもありそうですな」

 「い、いや、それはちょっと・・・」

 「あと、もっと日本軍を動員してもらいたいものですな」

 「国内産業優先ですよ」

 「それにしては、武器弾薬とも供給が少な過ぎますな」

 「まぁ 小国の産業ですから」

 「日本は、命を消費するのが一番効率的な産業ですよ」

 「そんな身も蓋もない」

 「日本人は、もっと好戦的な民族のはず、出し惜しみしても良いことありませんよ」

 「せ、政府も日本国民の力を信じたいですし、近代化もしたいという事で・・・」

 「識字率が高いだけで小学校卒程度じゃないですか」

 「この際、不良民を一掃処分しなさい」

 「た、建前上、政府は、国民を保護しないと」

 「とにかく、早急にハンガリー、ルーマニアを押さえたい」

 イギリスは、通商破壊で苦戦し、

 ソビエトも軍事物資が足りず苦戦していた。

 イギリスとソビエトは、余裕のある日本政府になにかと押し付けてくる。

 

 

 01/15

 ヴァージニア州アーリントン 国防省ペンタゴン完成

 

 01/16

 イギリス空軍がベルリンを空爆する。

 

 

 

 アメリカの中立海域はアイスランドにまで及び。

 枢軸国は、完全な無制限通商破壊作戦ができないでいた。

 アメリカの物資はレイキャビックに山積みとなり、

 イギリスのグラスゴーまでなら実質1700km弱の航路でしかなく。

 対潜哨戒を厳重にすればアイスランドとイギリスまで容易に届くのだった。

 もっとも、深刻なのがアメリカの親独反ソ政策による疎遠な協力と物資高騰であり、

 国際外交政治上、縛りがかけられていることだった。

 北大西洋

 ハインケル社設計の94式艦上爆撃機(460馬力)が急降下しつつ、30kg爆弾を投下。

 放物線を描いた二つの爆弾が水柱を吹き上げ、

 海中に潜むUボートを二つにへし折り沈めていく。

 「直撃だ!」

 「やった♪」

 「写真を撮れよ。ボーナス、ボーナス♪」

 「おー」

 ドイツ製ライカは敵にも味方にも人気があった。

 7470トン級軽空母 “鳳翔”、

 10850トン級軽空母 “ハーミーズ”

 2隻の小型空母が船団を護衛していた。

 世界初と世界第二位に建造された正規空母といえば聞こえがいい。

 しかし、第一線から引導を渡されてボロだった。

 機械にとって時の流れは人間以上に冷酷であり、

 どちらの空母の甲板にも複葉機が載せられていた。

 13式艦上攻撃機(450馬力)、89式艦上攻撃機(650馬力)、

 92式艦上攻撃機(750馬力)、

 94式艦上爆撃機(460馬力)、96式艦上攻撃機(840馬力)、

 10式艦上偵察機(300馬力)・・・

 とりあえず、対潜哨戒に使えるのなら何でも良いと載せられた機体だった。

 イギリス空母主力艦載機フェアリー・ソードフィッシュ(690馬力)と良い勝負だったりする。

 ギリギリまで切り詰めていないオーソドックスな機体は、対潜哨戒で好都合だった。

 燃費が良く、ゆっくりと海上を観察できた、

 単純な機体は整備が容易であり、

 複葉機であれば夜が近付いても離発着艦も容易であり、

 対潜哨戒に限れば良いこと尽くめだった。

 鳳翔 艦橋

 「海上輸送でイギリスの勝敗が決してしまうとはな・・・」

 「日本も通商破壊されたら・・・」

 「イギリス海軍は、大鷹、雲鷹、冲鷹、海鷹も隷下させたいらしい」

 「金に任せて・・・しかし、航空機の輸送だけで精一杯なのでは?」

 「まぁ スポンサーなのだから、ちゃんと働いているのか、監視したいのだろう」

 「取り分がきっちりしていれば働きますよ」

 「・・・索敵より無線です。雷跡二つ、3時方向から本艦に向かってます」

 艦長が慌てて右舷を見つめる。

 「・・最大戦速、面舵一杯!」

 一瞬の判断で、艦と魚雷の相対距離とベクトルを計算・・・

 左舷側の紅灯、右舷側の緑灯は海上航行の優先権を現わしていた。

 つまり紅灯が見えれば回避義務があり、

 緑灯が見えれば回避義務は相手にあり、

 つい習慣に従ったりもする。

 しかし、戦時下では、ギリギリの線で破棄される。

 右舷側にいた護衛艦が異常に気付き、艦隊が乱れる。

 雷跡が艦尾をすり抜けていく。

 「本艦の前方にUボートだ。護衛艦に伝えろ!」

 「・・・1時より、雷跡2!」

 「面舵10!」

 艦首両舷側を雷跡が抜けていく。

 「艦長。空母で攻撃する気ですか?」

 「腹を見せればやられるだけだ」

 「艦長。イギリス護衛艦3隻が後方より接近」

 鳳翔の甲板から89式艦上攻撃機(650馬力)が発艦していく。

 戦場は、外交政治上の利害や思惑と別の慣性が働く、

 勇敢である事実だけが日英同盟軍の結束を強化させた。

 Uボートは海底にまで潜り、

 イギリス護衛艦が鳳翔を守るように爆雷を投資し、

 哨戒機が上空を警戒する。

 日英の護衛艦が雷撃された艦船の救出活動をおこない。

 共同してUボート艦隊を追い払っていく。

 

 

 01/23

 イギリス第8軍がトリポリ占領。

 

 01/30

 イギリスのチャーチル首相とトルコのイノニュ大統領が会議、トルコ参戦を要請する。

 

 

 ワシントン 白い家

 日本の信じ難い政策軌道修正。

 不可思議な事象が日本経済を底支えしていた。

 情報が交錯し、急速な財政立て直しと国家基盤再建の根拠が掴めず。

 いくつかの証拠が信じがたい方向に舵を切ろうとし。

 独り善がりで無理な推測で常識へと引き戻していく。

 アメリカ人は、手段として誹謗中傷を利用するのであり、基本的に合理的な判断をした。

 「裏切り者が輸出しているのか?」

 「確認しましたが密輸では、あり得ない量です」

 「日本で精油所付きの油田でも発見されたのか?」

 「いえ」

 「工業用ダイヤ鉱山が発見されたという話しは?」

 「いいえ」

 「工業用油は? 機械油は?」

 「どちらの出所不明で日本海軍から工場に搬入されているようです」

 「産地がないのに、どうして “それ” があるのだ?」

 「イギリスから輸入した以上のモノは不明です」

 「じゃ 工作機械の精度が向上しているのは?」

 「歩留まりが向上している理由は?」

 「・・・イギリスの援助だけでは足りません」

 「とにかくだ」

 「アメリカが満州・中国大陸を押さえ、日本の生殺与奪を握っているにもかかわらず」

 「満州にB17爆撃機、ライトニング戦闘機を配備しているにもかかわらず」

 「アメリカが南シナ海、東シナ海の制海権を押さえているにもかかわらず」

 「日本海軍が軍縮中で艦隊の半分が売られているにもかかわらず」

 「日本は、対独伊参戦。陸海軍を地中海に遠征させている」

 「表向き半分はイギリスの傭兵部隊です」

 ごほん!

 「・・・小心者の日本人が、心臓に毛が生えたような決断力は異常だ」

 「1941年以降、日本の行動は不自然であり、不明な事が多過ぎます」

 「日本の暗号がアメリカ太平洋艦隊の位置を確認しているのは?」

 「不明です」

 「暗号を変える準備をすべきろうな」

 「暗号が解読されているとしたら、その出所の確認をしなければ・・・」

 「それを確認させるため、日本に何組の医療奉仕団を送ったと思ってる」

 「それが・・・噂で流れてくるのは魔法使いだと」

 「君ぃ ファンタジー作家に転向してはどうかね、止めんぞ」

 「アメリカ合衆国は、圧倒的な国力と軍事力で日本の生殺与奪権を奪っているはずだ」

 アメリカ合衆国は、スペックで比較でき、ランチェスターの法則で対応できるなら日本支配を行使できた。

 しかし、人知を越えた未知の恐怖に直面すると世界最強のアメリカも躊躇する。

 「・・・日本は、我々の知らないモノを知っている」

 「日本人の大卒者は少ないはず」

 「部分的に後れを取っても、知的な総力で劣ることなどありません」

 「遅れているだけなら、すぐ追いつくよ」

 「我々の国力であれば、どんな分野でも2年あれば十分だ」

 「日本が作れるもので我々が作れないものなど何一つ無い。その逆はあるがね」

 「しかし、こちらが無知では追いつきようがないだろう」

 「日本人の自信の根拠がどこにあるのか解明しない限り、対日作戦は不可能だ」

 「日本人が調べている事と何か関係があるのか?」

 「“魔法・魔術が存在しないことを調べる” ですか?」

 「そういえば、イギリスの図書館でも日本人が調べているみたいだぞ」

 「なんじゃそりゃ 魔法がないのは当り前だろう」

 「なにか、国家的な詐欺のような気がしますね」

 「日本でなにか、異常な話しでもあるのか?」

 「55年間行方不明だった巡洋艦 畝傍が無人のまま何らかの現象で高雄港に入港したとか」

 「そんな話しがあるのか?」

 「55年間なら、錆びて浮かないだろう」

 「というよりフランス製でなくてもバラバラになる」

 「報告書は、届いてるはずです」

 「追跡調査は?」

 「保険金124.53万円を支払ったロイド保険の職員が確認のため畝傍の艦内に入ったそうです」

 「以降、日本海軍は畝傍を秘蔵したので・・・」

 「ロイド保険の報告は?」

 「沈没期間は、数日から数週間ほどであり、55年間沈没していたとは思えないと」

 「しかし、一度、沈没したのは事実であり、浮上したのは謎であると」

 「あと、異常といえば、畝傍の艦体が・・・」

 「天井が上に向かって押し上げられている節があると・・・」

 「乗員は?」

 「無人だったそうです」

 「「「「・・・・・」」」」 首が捻られる

 「あと強硬派軍人を黙らせるのに腹を切らせたとか」

 「はぁ?」

 「つまり、軍縮反対で強硬派が乗り込むと、代表者たちがとある場所に案内され」

 「戻ってくると、全員が私心なければ大本営に従うように伝え、腹を切って、果てたとか」

 「ますますわからん」

 「もっと情報を調査しろ」

 「そう言えば、飛行船 塞凰は、屋根付きの造船所で建造されているのですが・・・」

 「桁違いの装甲・機械類が運び込まれている節があり、アルミ材の搬入が曖昧で・・・」

 「桁違いとは?」

 「総量にすると3000から4000トンほど・・・」

 「宙に浮かんだろう」

 「潜水艦を建造しているのではないか、3000トンから4000トン級なら不可能ではない」

 「ふっ 合理的ではないよ」

 「日本人に合理性を求めてはいけないよ。彼らは感傷で動くからね」

 「ですよね・・・」

 「魔法じゃないだろうな」

 「だから、国家的詐欺に遭ってるような、と・・・」

 「んん・・・」

 

 

 

 02/04

 ドイツが国家総動員令を布告する。

 

 02/05

 ムッソリーニがチアーノ外相ら11人を罷免し、内閣改造を行う。

 

 航空装甲艦 塞凰(さいおう)の建造工場。

 風系統 帆乃風 隼人。土系統 野伏裏 弥生。

 火系統 不知火 剛太。水系統 水無月 有紀。

 鉄加工の常識は、リベット、溶接、鋳造・・・

 この時代、シームレス(継ぎ目無し)は、もっとも先進的な夢の加工技術だった。

 機械の精度が向上し、規格品質を向上させ、装甲を強化させる。

 リベットが不要になり、溶接した跡が消えて、継ぎ目がなくなる。

 製造関係者が見ると製造不可能な代物が出来上がる。

 海軍将校が38式小銃で5mmの装甲板を狙い撃つと金属の炸裂音が響いた。

 「大したものだ。チタンとはいえ、魔力が込められると傷一つない」

 「チタン精製はハンター法が1910年に確立されましたが、これほど容易に製造してしまうとは・・・」

 「4人がかりで1日かけたのだ、容易とは言えまい」

 「しかし、日本は、肝心のチタンがありませんな」

 「南アフリカで取れるらしい。チタンの輸入くらいできるだろう」

 「あまり派手にやると、イギリスに勘ぐられるのでは?」

 「いまのところはVH甲鉄でもジュラルミンでも良いだろう」

 「しかし、飛行石を最高の状態で生かすことが最善の国益だ」

 

 

 

 02/08

 日本の豪華客船“竜田丸”が日本・アメリカ・極東アメリカの定期運航で建造費を回収。

 

 02/08

 東部戦線南方面軍

 戦力が消耗したソ連軍がアストラハンへ後退する。

 

 02/08

 イギリス第8軍がチュニジアに侵入する。

 

 とある旅館

 「お兄さん、今日は羽振りがいいのね」

 「ああ、大日本帝国の仕事ニダ」

 「まぁ 軍人さんでしたの?」

 「まさか、朝鮮をアメリカに売り払ってくれたお礼をするニダ」

 「義理堅いお兄さんね」

 「そうニダ。お金を出すのは日本陸軍ニダ」

 「まぁ 愛国者ですの?」

 「おお、一当地を買って、パチンコ屋を始めるニダ」

 「素敵〜!」

 

 

 02/09

 中国蒋介石国民党が人種差別撤廃と揚子江自由航行をアメリカに要求。

 

 02/10

 イギリス当局に投獄されたインドのガンジーが無条件釈放を要求して3週間の断食を始める。

 

 02/11

 理化学研究所が200トン級大型サイクロトロンの組み立てを完了する。

 

 02/18

 蒋介石夫人の宋美齢がアメリカ議会で演説、

 人種差別撤廃と揚子江自由航行を訴える。

 

 02/19

 アメリカのルーズベルト大統領は中国が民主的国家でないと非難。

 

 02/21

 アメリカ軍が広州湾のフランス租借地へ進駐する。

 

 東京駅

 風系統の杖を持った帆乃風 隼人が邪馬陸軍局長一行を見ていた。

 ばぁ〜〜ん!

 ばちっ!

 「きゃ!」

 ばぁ〜〜ん! ばぁ〜〜ん! ばぁ〜〜ん! ばぁ〜〜ん!

 東京駅 邪馬ひみこ狙撃未遂事件。

 「放せ、あの女は、天皇を貶めている国賊ニダ!」

 「悔しいニダ! 何で当たらないニダ」

 「あの女は、陸軍を滅ぼして国を売り渡そうとしているニダ!」

 「あの女は売国奴ニダ!」

 38式小銃を持った右翼青年が捕らえられる。

 “ぐっすん ぐっすん 酷いです”

 “政敵を売国と不敬罪を口実に殺そうとするなんて、あんまりです”

 “陛下が仰ってました”

 “右翼は、いつも売国と不敬罪を口実に政敵を殺すんだって”

 “でも本当は、権力が欲しくて天皇を利用しているだけだって”

 “忠誠心なんかないのに愛国心を利用しているだけだって”

 “歴代天皇家が国家運営で税を集めていることが不思議なのに”

 “あの人たちは、当たり前のように血税を絞りとって、思いのまま私腹を肥やしているって”

 “当たり前のように派閥を作って、人を殺せるのが不思議でならないって”

 “ぐっすん どうしてそんな酷いことができるんですか・・・”

 “ぐっすん ぐっすん ぐっすん!”

 邪馬ひみこ陸軍局長の泣いて悲しんでいる写真と談話が掲載される。

 『将兵百万の職場を奪って社会に放りだしたら、普通殺されるよ・・・』 ポツリ

 魔法の杖を持った元右翼の惣領息子が呟く。

 

 

 02/23

 陸軍局が “安心して眠るために” の標語ポスター5万枚を配布する。

 

 02/24

 インド政庁がマハトマ・ガンジー(74)の釈放要求を拒否。

 この後インド全土に釈放要求運動と反英運動が拡大する。

 

 02/24

 ロンメルがアフリカ軍団の司令官に任命される。

 インド政庁は、インド独立連盟と国民会議派のガンジー釈放要求を拒否する。

 

 02/28

 グデーリアンがドイツ機甲部隊を再編成する。

 

 02/28

 ノルウェー・ヴェモルクの重水工場をコマンド部隊が破壊する。

 

 

 欧州戦線は、イタリア艦隊の3分の2が撃沈。

 地中海の制海権は、イギリス海軍が支配していた。

 ベルリン

 「日英同盟の次の上陸作戦をどう思う?」

 「サルジニア、シチリア、ギリシャのどれかと」

 「予備戦力は残しているだろうな?」

 「推測される上陸地点の後方に師団を配置しております」

 「やはり、戦艦の艦砲射撃は、大きいか」

 「恐怖心を植え付けられますので、主砲の届かぬところで戦う方が士気が保てます」

 「そうか、上陸作戦地点の情報を収集させろ」

 「予備の戦力を早めに移動させておく方がよい」

 「はい」

 日英 VS 独伊の間で激しい諜報戦が展開される。

 もっとも、日本の諜報は当てにされていない・・・

 

 

 03/11

 アメリカが武器貸与協定を1年間延長する。

 

 日本が会得したガダルカナル島に飛行場を建設していた。

 「日本人の半分をニューギニアに移住させるのか?」

 「なんか、アメリカみたいに独立しそうだな、日本ニューギニア合衆国」

 「いいよ、それでも、ガス抜きが出来るなら清々する」

 「日本より大きな発電ダムが作れるし、農地も大きい」

 「問題は、人食い人種がいることだな」

 「・・・まぁ おいおい解決していけばいいだろう」

 「しかし、戦争しているとは思えないほどのんびりだな」

 「ドイツは遠いし。イギリスが負けてくれたら借金踏み倒せるのにな」

 「英蘭ソの共同名義借款になってるから無理だろう」

 「一国でも残っていたらそこに払い続けなければならないか・・・」

 「随分、貢献したと思うがな」

 「損失か戦功で支払うか、金か、物資で支払うしかないからね」

 「国の借款のために人殺しをさせられるとは理不尽だな」

 「T34戦車を製造しないのか?」

 「即効性の強い部品の生産が先じゃないのか」

 「東部戦線から参戦もありじゃないか」

 「あんな平地でまともに戦えるのは大国だけ、小国は山岳戦でお茶を濁すべきだね」

 「陸軍を減らし過ぎたんじゃないの」

 「あの邪馬陸軍局長じゃな」

 「か、かわいいんだけどねぇ」

 「海軍の言いなりだろう」

 「元陸軍も面子潰されて腹に据えかねているからな」

 「もう暴走しないのか?」

 「んん・・・暗殺に失敗したのがいけない。背後関係を探らないことで妥協させられたとか」

 「そういえば、陸軍のウルサ型が何十人も前線に送られたとか」

 

 

 03/15

 物理学者ロバート・オッペンハイマーがロス・アラモス原子力研究所の所長就任。

 

 イギリス ロンドン

 イギリスは、バトルオブブリテン(1940/07〜1941/05)で勝利した。

 しかし、戦災は残されており、復興作業より、交戦が優先されていた。

 そして、ドイツ空軍による夜間爆撃は時折行われており、

 イギリス空軍は、イギリス本土防空より、バルカン航空戦に主戦力を向けていた。

 バトルオブブリテンで生き残った瓦礫の中の館。

 イギリス人の避難が始まると土地を売る者が現れる。

 そして、それを買う者が現れる。

 ロンドンは、ドイツ軍に爆撃され、瓦礫となっていた。

 中には、まだ形をとどめている家屋も残っており、

 日本の役人が土地家屋ごと購入する。

 戦争が終われば、土地と家屋は高騰すると考えられ、

 日本人の工作員は、テムズ川沿いの敷地で良い買い物をしたと思っていたりする。

 ウォーターフロントを有する巨大な日本商業地帯になりそうだった。

 その気になれば敷地内の泊地から船で外洋まで出ることもできた。

 工作員と言っても非合法ばかりでなく、

 合法的な範囲の国益誘導を目的としていた。

 国が一等地を区画ごと購入し、日本人町を建設すれば日本企業も投資しやすく。

 ビジネスチャンスを得やすければ、有力企業に貸しても、実入りが良いと思えた。

 日本空軍が使用している空軍基地も戦後は、日本の商用地になることになっていた。

 「・・・御主人様。終わりました」

 ノートがテーブルの上に置かれる。

 「ありがとう、メアリ」

 メイドに魔術書を読ませ、

 5W1H “いつ” “どこで” “だれが” “何を” “どうした”

 で、一覧表を作らせていた。

 彼女は、一般にメイド・オブ・オール・ワークと呼ばれ、いくつもの役をこなした。

 実力的にハウスキーパーだと聞いていた。

 「代わりのレモネードをお持ちしましょうか?」

 「いや・・・今日は休んでも良いよ」

 「はい、失礼いたします」

 家と一緒に付いてきたメイド(23)も質が良かった。

 なにを言われなくても家のこと全般をやり、

 イギリス料理にしては上手かった。

 気力体力とも余力があり、調べ物も丁寧にしてくれる。

 イギリスで良いメイドを探すのは大変らしい。

 とはいえ、日本人がメイドを雇っていいものかどうか、

 公的な仕事で人を使う事があっても、私的なことで人を煩わせないのが日本人といえる。

 人が人を私的に使えさせるなど傲慢で甚だしい気もする。

 しかし、イギリス貴族が生活を気にかけず仕事に専念できれば成功しやすく。

 そうでなければ、傲慢、横柄、怠惰な人種になるだろう。

 一通りイギリス貴族社会を見ると、前者より後者の方が大きいように思え。

 社会構造的に弊害と思われる。

 ヴィクトリア朝のイギリス貴族は、見栄のため、

 植民地経営で得た利益で大量の使用人を抱え込み、

 社会構造に必要な労力を削ぎ。

 庶民を巻き込みながらイギリスから勢いを失わせつつあった。

 イギリス貴族社会の損益収支はマイナスとなり、全盛期も終わっていた。

 カントリーハウスも所領も維持困難になって手放しつつあり、

 今回の戦争でも多くが手放される。

 貴族が戦争に出陣しなければ名誉が失われた、

 第一次世界大戦でも、今度の大戦でも、持ち主不明の所領が増えて整理される。

 不良貴族一掃処分ならともかく、清濁合わせて処分してしまうのが戦争であり。

 数の縮小による整理統合が行われるなら、日本の割り込める余地があった。

 貴族から打診のあった所領とメアリの作った一覧表を確認する。

 魔法などくだらないと思いつつ、

 指示通り、一石二鳥で近場のカントリーハウスに狙いを定める。

 良地を購入できれば、戦後の対英政策、対英経済活動で有利になった。

 

 

 03/18

 ドイツ軍がアストラハン方面を攻撃する。

 

 

 ジブラルタル

 護衛艦に改造された日本艦隊が遊弋していた。

 護衛艦 若竹、呉竹、早苗、朝顔、夕顔、芙蓉、刈萱、

 護衛艦 峯風、沢風、沖風、島風、灘風、矢風、羽風、汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風、

 峯風 艦橋

 「イギリス製ソナーとレーダーは優れているな」

 「連合艦隊にも装備されるそうですよ」

 「それは助かるね」

 「代わりのイギリス軍将兵は、いつ来るんですかね」

 「まぁ 日本も宣戦布告したし、イギリスに売られた艦艇だし」

 「俺たちも傭兵みたいなものだし、金が払えるなら、このままじゃないか」

 イギリスが購入した700トン級の元日本商船が脇を進んでいた。

 一定の性能があれば、レーダーとソナーと爆雷を載せ、対潜護衛艦にしてしまう。

 「日本もニューギニアの開発があるのに船を売るんだからな」

 「沈んでも惜しくないような船を売ってるんじゃないですか」

 「札束で頬を叩かれやがって、下衆どもが・・・」

 「少なくとも老後を気にしなくていい程度の退職金が入るとか」

 「ぅ・・・日本国民の血税で払わせるより、イギリスの予算で払ってもらう方がいいか」

 「イギリスって、金持ちですからね」

 「うん、日本軍で死ぬよりマシ」

 「しかし、欧州大陸反攻作戦と言われてもな・・・」

 「平地でドイツ軍と正面から向き合うなんて気が進みませんね・・・」

 「まともにぶつかると殲滅させられる」

 

 

 04/01

 樺太全島(面積74078ku)が内地に編入される。

 「北海道より、少し小さいだけか」

  ※北海道(面積83456.38ku)

 「寒いが北に油田があって、海産資源は大きいらしい。」

 「なんか、大変そうだな。住みつくやつがいるのかな」

 「工兵師団が、ここに計画都市を作るらしいよ」

 「計画都市ね。杓子定規とか、お役所仕事が嫌いな人間は多いからね」

 「斜に構えて踏ん反り返ってしまう公僕は、不良債権みたいなものだからな」

 「加点制にしろよ」

 「加点制は、年功序列と権威主義が崩れる。投機出来るだけの資本もない」

 「投機的にアメリカと戦争しそうだっただろう」

 「投機というか、面子のためって感じだったからな」

 「ドイツ相手なら遠いし、勝ちを拾えそうな投資だな」

 「うん」

 

 

 04/01

 日英ソ連合がヨーロッパ進攻立案を開始する。

 

 04/12

 政府は、不敬罪を適正な範囲に納めるべきと各省庁に通達。

 日本国憲法は村八分の味方をしないと言明。

 

 04/12

 ドイツ軍がアストラハン攻撃を再開ヴォルガ川西岸に達する。

 

 イギリス

 ギリシャのペロポネソス半島及びクレタ島上陸作戦後、

 日本戦艦部隊は、砲身の交換、艦隊整備をしなければならなかった。

 金剛、比叡、榛名、霧島、伊勢、日向、扶桑、山城、

 日本人とイギリス人が並んで操船する。

 操艦を覚えてしまえば、イギリス人だけで運航できた。

 もっとも、金剛、比叡、榛名、霧島はボロボロ。

 イギリス人は愛着のないボロボロ戦艦を容赦なく使い切る気になっていた。

 金剛 艦橋

 イギリス海軍将校たちが海上を眺めていた。

 「日本水雷戦隊の夜襲でイタリア海軍の3分の2が海の底とはね」

 「ローテーション限界で戦艦を買ったかと思えば、活躍の場所もないのか」

 「艦砲射撃でギリシャとクレタに上陸できたじゃありませんか」

 「艦隊戦じゃないな」

 「ビスマルクとティルピッツに日本戦艦をぶつけてやりますよ」

 「しかし、大英帝国がソビエトと組むなどと。この戦争は、どうも面白くない」

 「チャーチルは、日本にシベリア経由で対ソ支援を発注してるらしい」

 「どうせなら、英日独でソ連を潰したかったですけどね」

 「まぁ しょうがないよ。アメリカの様子が変わってから、どうも雲行きが怪しいからな」

 「日本も、我を張ってアメリカに噛みつくと思ったのですが退くとは・・・」

 「良かったような、残念なような良く分からないですな」

 「日本軍将兵はアメリカ軍将兵より安い」

 「確かに」

 「次の作戦は?」

 「整備が終わったら、だな」

 「日本に権益を渡すのは、まずくないですか?」

 「アメリカに権益を渡すよりバランスを保てる」

 「それに日本軍将兵の命って、本当に安いからな・・・」

 

 

 05/09

 ドイツ潜水艦が鹿児島を砲撃する。

 

 05/12

 近衛・チャーチルの東京会談が行われる。

 「ダリットをバルカン半島に大量に上陸させるしかないでしょう」

 「士気が保てないだろう。一旦逃亡されれば、手が付けられなくなり戦線が崩壊する」

 「階級上げと地位名誉財産を補償すれば戦うのでは?」

 「それだけのモノを誰が払うのかね」

 「たぶん、ほとんど死ぬはず。宝くじより当たるかもしれませんが」

 「まぁ ダリットは生き地獄だ」

 「生存圏を確保できる可能性があるなら戦うかもしれないがな」

 

 

 05/16

 イギリス空軍が跳飛爆弾でメーネとエーデル・ダムを破壊する。

 

 

 ドイツ軍はスターリングラードを占領していた。

 ソビエト軍は、対岸に集結しつつあったが、ボルガ川の橋は破壊されていた。

 川が凍りつくまでは、舟艇による渡河しかなかった。

 背後はドン川によって背水の陣と言えるもので、好まれた戦線とは言えない。

 少数のタイガー戦車が南北の要衝に配置されるようになり、3号戦車が側面を守る。

 ソビエト軍はモスクワ側か、南側にT34戦車を集めて機会を伺っていた。

 ドイツ軍将校たち

 「いまのところ、ドイツ軍は、ソビエト軍の攻勢を撃退しているが兵站は伸び切っている」

 「キエフとミンスクの工場が軌道に乗れば戦えるそうです」

 「兵站として活用できるまで、年月がかかるよ」

 「それまで持ち堪えるには、少々、不利な地勢条件ですな」

 「日英軍がバルカン半島に上陸しているのがまずいな。戦力が取られる」

 「イタリアは思ったより脆弱なのに、日本軍は思ったより強いらしい」

 「ダリットを弾避けに使っているのだ。ソビエト軍の囚人部隊と同じだよ」

 

 

 ウィルヘルムスハーフェン軍港

 ドイツ海軍は、世界第1位と第3位の日英連合海軍を相手に戦っていた。

 日本の金剛型高速戦艦4隻のイギリス売却と参戦は大きく、

 イタリア海軍はアレクサンドリア沖海戦後、怖気付いて引き籠り、

 ドイツ水上艦隊もドイツ沿岸に閉じ籠もっていた。

 ヒットラーは、大西洋での通商破壊を諦め、

 第6軍のスターリングラード防衛を確認するとレーニングラードで反撃を試みた。

 戦艦 ビスマルク、ティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 装甲艦 リュッツォウ、アドミラル・シェーア、

 重巡 アドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン

 軽巡 エムデン、ケーニヒスベルグ、ケルン、ライプチヒ、ニュルンベルグ

 戦艦4隻、装甲艦2隻、重巡2隻、軽巡5隻は、レーニングラード沖のコトリン島要塞を砲撃。

 クロンシタットを無力化するまで艦砲射撃を繰り返した。

 ビスマルク 艦橋

 「シュトルモビクです」

 雲間からソビエト軍機が降下してくるのが見えた。

 「メッサーシュミットはどうした? 20機以上を上空に付けておく約束だぞ」

 「陸軍側の要請で動いたようです」

 「ちぃ!」

 「対空砲火だ」

 ソビエト空軍の対艦攻撃は、ドイツ艦隊の弾幕を恐れたのか、遠近感が掴めないのか、

 海で泳ぎたくないのか、お粗末で稚拙な空襲だった。

 ドイツ艦隊に数百発の爆弾が投下され、水柱が吹き上がり、時折、爆発音が響く。

 しかし、ドイツ艦艇は、小中破ばかり、沈没に至らない。

 その後、ドイツ軍はコトリン島に上陸、要塞クロンシタットを占領する。

 ドイツ軍とフィンランド連合軍は、丸裸となったレーニングラードを陥落してしまう。

 ドイツとフィンランド軍の合流は、フィンランドの兵站を利用できることであり。

 北方作戦の成功を意味した。

 スターリングラードのような反攻作戦を受けてもフィンランド側に後退できた。

 包囲される心配もなかった。

 ドイツは、輸送船でレーニングラードに輸送物資を供給し、

 北からソビエト攻略の作戦を試みることができた。

 

 06/04

 アルゼンチン、軍事クーデターにより、カスティーリョ政権が倒れる。

 

 

 06/04

 イギリス本土で日本空軍第2戦術航空軍が編成される。

 日本人ばかりの基地であり、任された空域を守るゾーンディフェンスだった。

 戦争が終われば区画ごと日本資本の商用地になる予定だった。

 英語が苦手でも護送船団方式だと、それなりに利益があげられるだろうか。

 日本空軍のパイロット総数は、6000人ほどであり、

 戦線を支えるパイロット、

 新兵を育てる後方の教官パイロット、

 哨戒・輸送・連絡機のパイロットが必要だった、

 既にバルカン半島戦線で600人を消耗しており。

 新兵を増やして数を揃えられても、

 車にも乗ったことのないパイロット1人を育てるには飛行時間500時間ほど欲しく。

 あとは、機体の耐久時間と燃料を掛ければ良かった。

 ベテランが減って総合で弱体化している。

 どこの部署もパイロットを欲しがり収支計算は悪化。

 台所事情も良くなかった。

 イギリスがアメリカから燃料と部品を購入、

 あるいは、中東、インドネシアから供給された原油を精油したものが送られてくる。

 日本だけで耐えられないほどの消耗戦であり、

 ジリ貧なのだが他人のフンドシ。イギリスのおかげで助かっていた。

 もちろん、機体性能もある、

 しかし、500時間以上のパイロットを何人戦線に送り、

 同じ空域で敵に、ぶつけられるかで勝敗も決まってくる、

 「やっぱり、スピットファイアだよ」 頬ずり頬ずり

 「うんうん」

 「ランカスター爆撃機だぁ」

 「かっこいい〜」 すりすり

 「壊すな」

 「「わかってるよ」」

 「あと、代わりが来るまで、死ぬな、負傷するな」

 「おい!」 × 2

 

 

 06/07

 アルゼンチンでラミレス将軍が大統領に就任する。

 

 

 この頃、日本艦艇のイギリス売却で日本の海軍戦力は大幅に縮小していた。

 海軍艦艇が減るとポストが減り、

 地位と職場を失うエリート高級将校があぶれ出す。

 将兵の不満たらたらな事を国益のため、敢えて断行されたと言える。

 もっとも、海軍乗員は2交替制となり、余暇と余裕が増え、稼働率が増していく。

 06/08

 日本海軍の戦艦 “陸奥” が爆発炎上中破する。

 最初、ドイツ諜報機関による破壊工作と思われた。

 しかし、調査が進むにつれて、日本海軍内部の問題に突き当る。

 戦艦陸奥の火災は、戦艦を巻き込んだ乗員の無理心中だった。

 そして、発見が早く、対処が敏速だったことで爆沈だけは免れ中破で済んだ。

 「いったいなんだって?」

 「死亡したので詳しく分かりません」

 「心身症を病んだ士官が艦を道連れに心中しようとしたようです」

 「けっ 自分たちで証拠隠滅しやがったな」

 「何と言うことを・・・」

 「ローテーションの関係で事無きを得ましたが爆沈するところだったそうです」

 「今度は、精神、財産が安定している者を乗員として残そう」

 「というより海軍いじめですよ」

 「まぁ 程々になるように調整してくれ」

 「熟練搭乗員は傲慢ですからね」

 「無能な部下だけでなく、自分の地位を脅かす有能な部下も潰しにかかりますからね」

 「不当な扱いをする士官・下士官は熟練搭乗員でも飛ばすしかないな」

 「調査は厳罰にしよう。陸奥を沈没させる要因など、非国民だ」

 「慣れ合いでなあなあで済ませるな」

 「はっ しかし、戦争になると下士官が強くなりますし、統制が悪くなるのでは?」

 「兵卒が傲慢になって統制がとれなくなるよりマシだがね」

 「士官・下士官がイジメで大量処分される前例も必要だよ。引き締めになる」

 「性根の腐った卑怯者が多いですからね」

 「どちらにしろ人間の人心掌握は苦労させられますよ」

 「とにかく、戦艦が人災で爆沈させられては泣くに泣けんよ」

 

 

 06/11

 ドネツ炭田がドイツ第3帝国の産業を活性化させ

 ミンスクとキエフの工場でドイツの武器弾薬が製造される。

 

 

 06/20

 デトロイトで人種紛争が起こり、34人が死亡する。

 

 

 地中海

 独伊同盟軍は北アフリカ戦線で勝ち地中海の制海権戦で敗北。

 結局、北アフリカのドイツ・イタリア軍はチュニスに集結後、北アフリカから撤退しつつあった。

 イギリスから装備を供給された日本軍、

 別名、借款返済部隊がギリシャのペロポネソス半島、クレタ東部に集結。

 巡航戦車クロムウェル(27.5トン、40口径75mm砲)

 歩兵戦車チャーチル(38.5トン、50口径57mm砲)

 2種類のイギリス製戦車が日本軍の主力戦車となっていた。

 

 ギリシャのペロポネソス半島

 山下奉文中将率いる第25軍35000は、イタリア軍守備隊を駆逐し、

 日本軍は、ギリシャのペロポネソス半島制圧後、

 ユリント地峡コリントス運河を挟んで対岸に陣取るドイツ・イタリア軍と対峙していた。

 コリントス運河は、幅24.6mほどあり、標高60m弱の断崖絶壁が地峡を分断している。

 日独両軍とも鉄橋を破壊しておらず、睨んだままの状態が続いていた。

 日本軍の上陸作戦成功の裏には、エジプトで入手したドイツ・イギリス製兵器があり。

 これらを巧み活用して得た戦果ともいえた。

 双方とも、これ以上、攻め込む事ができず。

 日英 VS 独伊の航空戦となっていく。

 日本軍陣地

 イギリスも戦闘能力の高い日本兵に渡す方が効率がいいと兵装の供給を優先する。

 「アテナを落とせなかったのが痛かったな」

 「あそこはドイツ軍がいましたからね、上陸作戦でも動きませんでしたし」

 「ドイツ軍が橋頭堡に向かえば、アテナに上陸したのだが」

 「クレタ島西部は?」

 「あそこもドイツ軍占領地ですからね。粘られていますよ」

 「戦艦の主砲弾をあれだけ撃ち込んだのに粘るのだから大したものだ」

 「しかしな、戦艦を売ってイギリスに借金を背負わせるはずだったのに、日本が借金背負って、どうするんだよ」

 「北樺太とニューギニアは大きかった・・・」

 「それで、ドイツ軍を攻撃しろって?」

 「まだクレタ島西部のドイツ軍は粘っているが、時間の問題だろう」

 「ドイツ・イタリア軍の置き土産もあるし、なんとかなるだろう。たぶん」

 東地中海からバルカン半島の拠点に値札が付いていた。

 「拠点を押さえてイギリス軍に引き渡せば借金返済か・・・」

 「いい気なもんだ。大航海時代の拾い物で一国を扱き使うんだから」

 アレクサンドリアから来たスピットファイアが滑走路に着陸する。

 「イギリス製戦闘機も使えるか」

 「日本製は?」

 「正気な人間はイギリス製かドイツ製を使いたがるよ」

 日本人パイロットも機械的な信頼性の高いメッサーシュミットやスピットファイアに乗りたがる。

 しかし、ゼロ戦51型、ゼロ戦E型が揃うと意識が変わり始めた。

 機械的な信頼性が確認され、安心して搭乗するようになっていく。

 航続距離が低下したゼロ戦は、欧州の平均的な戦闘機と同じ足の短い迎撃機でしかなかった。

 ゼロ戦51型がボロボロになりながらも滑走路に進入し、不時着する。

 整備兵が駆け寄り、パイロットが救出され、直後、51型が炎上する。

 「どうした?」

 「はっ 4機でドイツ魚雷艇を掃討中、メッサーシュミット4機と接触しました」

 「残りは?」

 「撃墜されました」

 「ちっ 上手くないな」

 「ドイツ機は上下の機動も良く、ロールレイト(横転性能)も機敏ですし、日本機は苦戦しますよ」

 日本戦闘機とドイツ戦闘機を迎撃機として比較すると日本機は分が悪かった。

 

 東の空から機影が近付いてくる。

 日本の蒼龍、飛龍は、吃水が浅く、スエズ運河を渡って、航空機を輸送することができた。

 新型の飛燕と鷹虎が滑走路に着陸すると歓声が上がる。

 「ようやく、新型機のお出ましか」

 「エンジンは、まだイギリス製だそうです」

 「航空戦力といい、陸軍戦力といい日本は、将兵だけだな」

 「戦闘民族ですから」

 「・・・ライセンス生産は?」

 「まだです」

 「農地改革で将兵が集まらなくなってきているらしい」

 「地主制なら小作人が消えても代わりを見つけるだけですからね」

 「土地持ち百姓を引き抜いたら、米が作れませんよ」

 「次男坊、三男坊に頑張ってもらうさ、元々、そういう徴兵だ」

 そして、目立たないのだが99式襲撃機も着陸した。

  HP 重量 全長×全幅 翼面積 航続距離 速度 武装 爆弾 離着
99式襲撃機 940 1873/2798kg 9.21×12.10× 24.20 1060km 424km/h 7.7mm×5 200kg 165/276
Ju 87スツーカ 1420 2810/5720kg 11.5×15×3.84 31.90 1500km 408km/h 7.92mm×3 1800kg  

 99式襲撃機は、優れた機体ではない。

 しかし、歩兵直協の襲撃機は、平らで広い場所があれば離着陸ができた。

 手軽に敵を銃撃し爆弾を投下する。

 それだけの機体だった。

 とはいえ、歩兵は、いつ来るかわからない後方の戦闘機、爆撃機を待つより頼もしい機体だったのである。

 この機体が空母によって運搬されたのは、離陸距離が短く、空母からでも発艦で来た。

 それだけだった。

 

 07/05

 ソビエト軍がモスクワ前面の都市スモレンスクに対し総攻撃を行い独ソ激戦となる。

 

 07/24

 日英連合空軍がハンブルクに無差別爆撃。

 「ランカスター爆撃機は最高だな」 惚れ惚れ

 「日本でも雷撃機仕様でライセンス生産するらしいよ」

ランカスター爆撃機
自重/最大重量 hp 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続距離 武装 爆弾 乗員
16783/28576kg 1280hp×4 21.18×31.09×5.97 120u 450km/h 4300km 7.7mm×8  6400〜10000kg 7

 「やっぱり、質と数の両方で敵を圧倒して押し潰すが、王道だよ」

 「これならアメリカ機動部隊なんて、全然怖くないな」

 「うんうん」

 

 

 07/27

 インド(ダリット)軍が陽動でバルカン半島に上陸

 「みんな! ブタペスト、ブカレストを占領して、シュードラ(スードラ)になるぞ〜!!」

 「「「「「おー!!!!」」」」」

 ひゅるるるるる〜〜〜〜ぅ!!!

 どかあ〜ん!

 ぎゃー!

 殲滅される

 

 07/27

 イギリス空軍がハンブルクを爆撃する。

 

 

 空母イラストリアス

 飛行甲板にマーリンを装備した彗星が並んでいた。

 最初、奇異に感じられた機体も慣れてしまえば、卒なくこなせる。

 少なくともスピットファイアより安全に離着艦する事が出来た。

 そして、天山、彗星ともソードフィッシュより、いくつかの点でマシな性能だった。

 しかし、天山、彗星とも北大西洋戦線の主力となり得ず、次第に降ろされていく。

 機体性能でソードフィッシュの後塵を拝したのだった。

  hp 自重 燃料・弾薬 全長×全幅×全高 翼面積 速度 航続距離 武装
ソードフィッシュ 690 2350/4100kg 1750kg 10.90×13.9×3.80 56.39 246km/h 1600 7.7mm×2
天山 1445 3200/5200kg 2000kg 10.89×14.89×3.80 37.2 480km/h 1500 7.7mm×3
彗星 1445 2600/4000kg 1400kg 10.22×11.50×3.17 31.3 580km/h 1400 7.7mm×3

 ソードフィッシュは、彗星、天山より優れていた。

 そのいくつかの点の一つは、洋上哨戒能力であり、

 対Uボート戦で、もっとも有益だった。

 飛行プランでローテーションを考えても稼働率、燃費、信頼性が高く、

 ソードフィッシュの比重は大きくなり搭載機の比率で実力を証明する。

 まだ日本の旧型複葉機が戦力となった。

 飛行甲板に長距離哨戒に出ていた彗星が着艦する。

 「・・・日本機も少しはマシになったか」

 「イギリス製エンジンじゃないですか。それに規格は、まだまだのようです」

 「多少、機体性能が落ちても規格品質と安全性を保ちたいものだ」

 「空母同士の戦いでは良いかもしれませんがね」

 「北大西洋は、ソードフィッシュだよ。敵はUボートだ」

 

 

 08/13

 ソ連軍がスモレンスク地区で攻勢を中止。

 

 08/14

 ケベック

 近衛・チャーチル会談、第2次戦線バルカン半島を協議する。

 「もっと多くのダリット(インド)軍をバルカン半島に上陸させるしかないでしょうね」

 「それはインド独立と密接にかかわってくる」

 「ロンドンの窮乏を見るとそれどころではないかと」

 「・・・仕方があるまい」

 「当面は、戦いに勝つことを考えるべきでは?」

 

 

 08/20

 日本、閣議で科学研究を平和7割、戦争3割と決定する。

 「兵器関係はイギリスにおんぶに抱っこですか?」

 「日本は、列強と張り合ってたら、いつまでたっても後進国のままだ」

 

 08/23

 イギリス・日本空軍がベルリンを爆撃する。

 

 08/25

 新幹線用の日本坂トンネルが貫通する。

 

 

 満州帝国

 アメリカは利権の拡大を着実に進めていく。

 アメリカは、支配欲が満たされ、失業者を減らせるのであればなんでも良かったといえた。

 アメリカ合衆国は、対アジア需要と対欧州大戦需要で潤っていた。

 ハルピン

 アメリカン・ホテル

 アメリカ人たちが集まっていた。

 「産業で即効性の高いのは、単価が高く利潤の良い軍需産業だ」

 「古き良きアメリカ産業界は、軍需産業拡大を嫌っていたぞ」

 「昔の話しだ」

 「しかし、健全で安定的な需要は、アジア貿易で民需産業だよ」

 「日本が満州と朝鮮を放棄してくれて助かったよ」

 「日本より、満州の方が住み良いですかな」

 「というより、そうでなかったら軍需一色だったよ」

 「取り敢えず、日本は湿気が多過ぎて、夏はいかない方がいいでしょうな」

 「ところで、日本に怪しげなモノがあるとか?」

 「やはり、白人よりアジア人の方が日本の情報を集めやすいようだ。おい、頼むよ」

 部屋の隅に男たちがいた。

 「日本語は随分、仕込まれたニダ。日本人より速く話せるニダ」

 「日本は、大きな秘密を隠していると思われる。先ほど説明した通りだ、探ってきてくれ」

 「わかったニダ。金さえもらえるなら何でもするニダ」

 「それと例の物ニダ」

 「ああ、ここにある」

 白い粉の入った袋が渡される。

 アヘンが静の幻覚剤とすれば、覚醒剤は動の幻覚剤だった。

 即効性があり、これがないと戦争ができない将兵も多い。

 日本では、ヒロポンと呼ばれ。

 煙草や酒と同様、倫理観や感覚を麻痺させ、戦意を高める薬剤として利用されていた。

 「日本人も同じ目に合わせてやるニダ」

 そういうと男たちの一部が部屋から出ていく。

 「役に立ちそうかね?」

 「さぁね」

 「どちらにしろ、極東権益でアメリカの事情は急転した」

 「独ソ戦争はこのままでいいとして、英独戦争を早く終わらせてもらいたいものだ」

 「この英独戦争はチャーチルの意地で続いているようなものだ」

 「チャーチル暗殺はまだかな」

 「それらしい状況に追い込んでいるがね。イギリスの有力者は、まだ動いてないらしい」

 「日英同盟を破綻させ、イギリスを戦線から脱落させればいい」

 「そうすれば米独同盟でソビエト連邦を挟撃できる」

 「中国の方は?」

 「やはり、中国は、弱体化させるべきだろうな。おい!」

 部屋の隅にいる男たちが現れる。

 「中国の工作を頼むよ」

 「わかったニダ」

 アメリカがアヘンだけでなく、覚醒剤も流し始めた。

 これは、中毒による暴走で発砲を誘うためだった。

 少数部族に流れ込んだアヘンが中国大陸全域に広がってく。

 アヘン中毒に犯された漢民族と朝鮮民族は拡大の一途をたどり、

 中国大陸全域が廃人と化していく。

 ソビエトは、独ソ戦にかかわっており、中国大陸も国共内戦で混乱。

 日本は財政立て直しの真っ最中であり、国土開発と軍縮。

 対独伊参戦、クレタ上陸とニューギニア開発で余力を使い果たしていた。

 

 

 中国人と朝鮮人の反日運動は、より強大で強靭な世界最強の魔王呼び寄せる。

 同じ黄色人種の日本人を同属嫌悪で否定してしまった事により、

 中国大陸は、まったく異質な人種、文化に支配されていく。

 漢民族と朝鮮民族は、自らが犯した取り返しのつかない失態にようやく気付く。

 漢民族と朝鮮人は、個人で日本に浸透することができた。

 日本人になり済ますこともできた。

 しかし、白人に成り済ますことはできなかった。

 日本は、列強の緩衝で使えそうな手駒だった。

 日本を大陸に引き摺り込むことで保たれていた均衡と反攻の機会は消え失せていた。

 国民軍と共産軍の内戦は、アメリカにコントロールされており。

 失われた黄色人種の土地は、もはや、戻ることがなかった。

 アメリカの満州支配を緩和させる勢力はなく。

 アメリカの中国大陸対する覇権を妨害する勢力も皆無だったのである。

 中国大陸は、凶暴な覚醒剤中毒患者が彷徨い。

 同族同士がコルト・ガバメントとグリースガンで傷つけ奪い合う世界になり果てていく。

 裏切り、不信、後悔、絶望が中国大陸を押し包み自壊させようとしていた。

 アメリカ合衆国は、それを可能にするだけの財力と生産力を有していたのである。

 満州里

 マッカーサー将軍は、含み笑いをしつつソビエト国境を見つめる。

 ドイツがモスクワを落とせば、ソビエト連邦は崩壊する。

 このまま、ロシア人を取り込みながら極東アメリカ合衆国が形成されるのではないかと・・・

 対中国国境は閉鎖され、漢民族の流入はなかった。

 極東経済植民地が軌道に乗れば南米諸国より利益になりそうであり。

 目標は、アメリカ極東信託統治領 (極東アメリカ合衆国) を完全支配することだった。

 「元帥。東部戦線は消耗戦になっているそうです」

 「冬季明けはどうなるかな」

 「質のドイツと量のソビエトで拮抗しているので動いた方が負けと思われますが」

 「動いてもらわねば消耗戦にならん、困るな」

 「モスクワ陥落で日英・独伊の講和が望ましいのですがね」

 「フランスがドイツのままというのが気に入らないがね」

 「ですが、極東アメリカ権益はフランスより大きいですよ」

 「まぁな」

 「しかし、独立戦争と自由の女神像の件もあるし、なるべくフランスを助けたいものだ」

 「確かに」

 

 09/05

 インドネシアでスカルノ率いる独立民兵が組織された。

 

 09/07

 V号兵器発射基地が爆撃される。

 

 山口多聞中将

 空母 (瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍)、(龍驤、祥鳳、瑞鳳)

 重巡 利根、筑摩、最上、三隈、鈴谷、熊野

 重巡 古鷹、加古、青葉、衣笠

 駆逐艦 朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰

 瑞鶴 艦橋

 「日本を空っぽにして大丈夫でしょうか?」

 「塞凰だけで守れるそうだ」

 「本当ですか?」

 「まぁ ハッタリ半分としてもだ。我が機動部隊の精鋭でも塞凰は落とせん」

 「た、確かに落とせそうにありませんが・・・」

 「あれを20隻ほど揃えたいものだな」

 「じゃ 伊161号は・・・」

 「たぶんな・・・」

 離れた場所に片言日本語のイギリス軍将校がいることに気付いて会話が中断される。

 バカと思わせて優秀だったり、片言と思わせて、その実、ペラペラだったり、

 この世界で良くある事で油断できなかった。

 

 

 

 ジェームズ・サマヴィル中将

 空母 (イラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアス、インドミタブル)、(ハーミーズ)

 戦艦 伊勢、日向、扶桑、山城

 戦艦 ロドネー、ネルソン

 戦艦 クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マレーヤ

 戦艦 レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソブリン、リヴェンジ

 重巡洋艦 コーンウォール、ドーセットシャー

 軽巡洋艦 エンタープライズ、エメラルド、ダナエ、ドラゴン

 オランダ軽巡 ヒームスカーク

 駆逐艦 テネドス、他14隻

 ロドネー 艦橋

 「低速戦艦ばかり集まったな」

 「高速戦艦は上陸作戦に必要ないですからね」

 「イタリア戦艦が出てくると楽しいがね」

 「戦艦14隻の艦砲射撃か、楽しみだな」

 「ええ、まぁ」

 

 ベルリン

 ドイツ軍参謀本部で日英軍の反攻作戦が検討されていた。

 「現在、独伊東欧軍は、東部戦線で3倍のソビエト軍と対峙している」

 「ドイツ軍はベテラン将兵になる以前に死傷者を出して、予備兵力に余裕がない」

 「対するソビエト軍将兵は我が軍より死傷者が多い」

 「しかし、ベテラン将兵が増えている」

 「これは、3倍以上の兵力があるためであり、容易に推測できる現象である」

 「このままでは、ソビエト軍将兵の方がベテラン兵士が増えてしまうだろう」

 「ベテラン将兵と新兵の交戦は割の良いモノではないから、将来的には逆転される」

 「ここで問題になるのは、日英軍の反攻作戦である」

 「現在、クレタ島とギリシャの一角ペロポネソス半島で攻防戦が繰り広げられている」

 「日英軍のさらなる反攻がギリシャ上陸作戦であれば・・・」

 「東部戦線と呼応しながら日英ソが連合しやすい」

 「またイギリス本国から遠くなるが、日本の支援は受けやすくなる」

 「シチリア島上陸作戦であれば、イタリアは脱落する可能性が高くなる」

 「サルジニア上陸作戦であれば、イタリア半島全域が爆撃圏内となり」

 「ジブラルタルに近く、イギリスの支援を受けやすいだろう」

 「負傷兵は我が国の余力を奪っており」

 「日英同盟軍の南方からの突き上げは、対処を越えたモノになろうとしている」

 「可能な限り、日英軍の上陸地点を予測し、効率のよい戦力を配置し、陣地を構築すべきである」

 「そして、上陸作戦が冬季であれば、航空戦力を本土防空と南方戦線に向けられる」

 「冬季戦になれば、やや有利になると考えて良いだろう」

 「しかし、夏季に反攻作戦が行われれば、日英ソと全面的な攻防となる」

 「どちらにしろ。状況は良くないのでは?」

 「外交戦略は、イギリスの専売特許ではない。ドイツでも出来る」

 「最大の敵はソビエトとイギリスだ。それさえ倒せば、日本など、どうにでもなる」

 ドイツ・イタリアは、日英軍の上陸地点を知ろうと様々な諜報戦を繰り広げる。

 死んだ兵士に士官の軍服を着せ、嘘の命令書を持たせて撃墜させたり。

 物資の移動を誤魔化し、二重スパイに意図的に漏らしたり、

 秘密裏に師団を移動させ、日英軍の作戦変更を強要したり、

 暗号がどう変わっていくか、聞き耳を立てたり、虚々実々、

 

 ロンドン

 「ドイツはギリシャ、イタリア半島、サルジニア島に師団を不規則に移動させている」

 「練度の低そうな師団だが敵前上陸で1個師団が加算は辛い」

 「問題は、こちらの戦力が都合できるかじゃないか、上陸作戦で失敗したくないぞ」

 「日本は追加の戦力を出せるのかね?」

 「2個師団は、何とか・・・」

 ドイツ軍は、東部戦線に300万程度の戦力しか派遣できなかった。

 これは、戦力がないのではなく輸送力のためだった。

 敵地で敵民族に拠出は、利益もあり不利益もあった。

 解決策があるとすれば食糧を自給するため農業生産者も前進させなければならなかった。

 とはいえ、何もないところに農業生産者を送っても維持費がかかりすぎる。

 開発は戦後の話であり、

 自動的に輸送力が戦力となって表れてしまう。

 

東部戦線

 

イタリア

フィンランド

VS

ソビエト連邦

ハンガリー
ルーマニア
航空機 2000     2400
戦車 4000     4600
歩兵 250万 50万 45万 950万

 そして、日英同盟は、イギリス30万、日本15万と実に海軍国らしい兵力であり。

 主力兵力のインド兵100万と東部戦線がなければ、小うるさいハエと殲滅できた。

 「アメリカの参戦は?」

 「いまのところ・・・」

 「アメリカは満州権益を守るため独ソ共倒れを狙っているでしょうな」

 「貸与法で借款する兵器の値段は高くなるばかりだ」

 「やはり、日本人の造る兵器が安そうですな」

 「まったく・・・」

 

 

ドイツ軍 IV号戦車H型 後期生産型 (1943年4月〜1944年2月)

 09/08

 日英豪印軍の支配地ペロポネソス半島。

 膨大な兵力のインド軍のキャンプによって、半島は文字通り禿山にされていた、

 イギリス軍将兵はドイツに勝つため、手段を選ぶつもりがなく。

 死活問題のギリシャ人は、インド軍将兵に対し、ぶち切れ。

 人の良い日本軍将兵は、植樹を始めたり、

 「植樹していく先から抜いて行くなよ」 日本軍将兵 ガッカリ・・・

 「もう、なに言っても無駄だから・・・」 イギリス軍将校

 ナンの香ばしい香りとスパイスの利いたカレーの匂いが立ち昇る。

 コリントス運河

 ペロポネソス半島とギリシャの地峡を分ける運河は、1893年に完成していた。

 全長6343mに及び、両岸は川幅は24.6m。

 高さ79mから60mほどの絶壁が地峡をほぼ垂直に割いていた。

 深夜、ドイツ軍陣地からペロポネソス半島を見ると無数の赤い光点が朧に照らされる。

 ドイツ軍陣地

 「ペロポネソス半島側で、大量のタバコ、ヒロポンが使用されているようです」

 「では、数日以内に始まるな。迎撃準備だ」

 「はっ」

 「本国にも攻撃の恐れありと報告しろ」

 「はっ」

 そして、日英軍の攻撃が始まる。

 日英豪印軍は、支援砲撃の中、北岸ギリシャ側へ大規模な渡河作戦をかけた。

 日英軍の攻勢は、ドイツ軍の虚を突いたわけでない。

 禿山のペロポネソス半島で起こす豪印軍の作戦は見え見えだったのである。

 イナゴのように押し寄せるインド軍が30mほどの中空の棒を向こう岸にまで押し出し、

 凹凸に合わせて寄り集め、梯子を組み立てていく。

 ドイツ軍陣地から砲撃が始まる。

 28口径105mm砲(射程10000m)、

 30口径149.1mm(射程13000m)

 砲弾が降り注ぎインド軍が吹き飛ばされていく。

 さらに豪印軍陣地に対しスツーカが援護爆撃を敢行する。

 その上空をメッサーシュミットとフォッケウルフが高空を駆け抜け、

 スピットファイア、ゼロ戦改と航空戦を展開する。

 日英印軍陣地から支援砲撃が始まる。

 日本軍の火砲は早々に弾が切れるか、砲身命数が切れ破砕していく。

 そして、イギリス製の火砲に取って代わられていく。

 20口径87.6mm砲(射程12000m)、

 41口径114mm砲(射程18000m)、

 30口径140mm砲(射程14000m)、

 インド軍は人海戦術で押し寄せ、ドイツ・イタリア軍を呆れさせる。

 ドイツ軍陣地

 「ちっ! 弾薬が勿体ねぇ インド軍を弾避けにするつもりだな」

 「将軍、予備機を出さなければ数で圧倒されます」

 「日英空軍は、まだ本気ではない」

 「敵の下士官を狙撃しろ、砲撃は士官を狙え」

 「空軍は、日英軍の中枢を狙って爆撃しろ、このままでは消耗戦になるぞ」

 独伊軍の予測を越えてインド軍の数が多かっただけだった。

 イギリスにとってインド軍は、被害を度外視できる潰しの利く手駒だったのである。

 ドイツ空軍の制空能力と支援爆撃もインド軍の数に圧倒されていく、

 ドイツ空軍のローテーション狂い始めた頃。

 スピットファイア、ゼロ戦改、飛燕、虎鷹がコリントス運河を越えて反攻、

 ドイツ軍戦闘機を押し返して、日英空軍が制空権を一時的に支配したとき、

 99艦爆と99式襲撃機がドイツ軍陣地を爆撃、インド軍の渡河作戦が始める。

 685ヨーク輸送機がバルカン半島の山岳地帯に空挺作戦を強行。

 救援に駆け付けたドイツ軍の後方、山岳地帯へ最強のグルカ兵士を降下させていく。

 

 アコレイド作戦

 日英機動部隊は夜間の間にエーゲ海の内側。

 北端へと侵入していく。

 日英上陸艦隊の移動がドイツ陸軍の移動より早かっただけだった。

 ドイツ空軍が日英艦艇の移動に合わせ、爆撃を行うものの、

 上陸作戦部隊上空で航空戦が始まっていた。

 メッサーシュミット、フォッケウルフとゼロ戦改、隼改、飛燕、鷹虎が乱舞する。

 日英戦艦部隊は、距離にしてアレクサンドリアから1300kmを長躯。

 戦艦 伊勢、日向、扶桑、山城

 戦艦 ロドネー、ネルソン

 戦艦 クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マレーヤ

 戦艦 レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソブリン、リヴェンジ

 テルマイコス湾に集結した日英戦艦14隻の砲撃がテッサロニキに降り注ぐ、

 大口径砲弾は、町並みを破壊し、大地ごとドイツ軍を粉砕し吹き飛ばした。

 日英軍の上陸用舟艇が次々に岸辺に着岸しては歩兵部隊と戦車が降ろしていく。

 巡航戦車クロムウェル(27.5トン、40口径75mm砲)

 歩兵戦車チャーチル(38.5トン、50口径57mm砲)

 日英軍の勝機は、ドイツ軍より先に山道を押さえることであり、

 失敗すれば敗北が待つばかりだった。

 成功すればギリシャの独伊軍は、輸送ルートを失い。

 山岳地帯を通り、マケドニアまで後退しなければならなった。

 「タイガー戦車だ!」

 4号戦車であれば、クロムウェル、チャーチルで戦いようがあった。

 しかし、相手がタイガー戦車では屠殺されるだけ、戦えない。

 ソビエトから借り受けたT34戦車は少なく。

 手持ちの兵器でタイガー戦車を撃破できる武器はなかった。

 救いがあるとすればドイツ軍の大半は、イタリア占領地側の平野部ラリサに移動しており。

 テッサロニキのドイツ軍は内陸ではなく。沿岸の平野部に配置されていた。

 これはテルマイコス湾に上陸作戦が無謀と考えられていたからであり、

 ドイツの師団が居住性の良い街に配置されていたためといえる。

 日英軍は後退しながらタイガー戦車を防壁から誘き出し、艦砲射撃。

 あるいは、急降下爆撃機が発艦した爆撃機が始末していく。

 250kg爆弾がタイガー戦車の近くに着弾。

 命中しなくても破壊力だけで、ひっくり返った。

 日英機動部隊は、魚雷艇や航空機の迎撃のため離発艦を繰り返し、

 陸海空の戦場で、獅子奮迅の攻防戦を続けなければならなかった。

 ドイツ空軍Do 17爆撃機は、海上が闇に包まれる前に海岸線を越え、

 日英機動部隊へと向かう、

 着艦しなければならないゼロ戦改の迎撃を掻い潜り、

 フリッツX、Hs293を投下、

 無線誘導で日英戦艦7隻に命中していく。

 戦艦ロドネー、ヴァリアント、マレーヤ、レゾリューション、ラミリーズ、扶桑、山城が炎上。

 戦艦群の主砲弾は、毎分1.5発で砲撃しており、

 1門で100発を撃ち尽くすのに2時間もかからなかった。

 フリッツX、Hs293は、戦艦7隻に命中した時点で弾薬庫が空っぽになっており、

 長躯で燃料も3分の1になっていた。

 3時間後には角材と防水作業で沈没を食い止め、

 7隻とも延焼が収まっていた。

 そして、給油しながらアレクサンドリアへと撤収したのだった。

 

 戦艦 伊勢、日向、

 戦艦 ネルソン

 戦艦 クイーン・エリザベス、ウォースパイト、

 戦艦 ロイヤル・ソブリン、リヴェンジ

 生き残っている戦艦7隻は給油と給弾を続け、

 砲身が命数切れを起こすまでドイツ軍陣地に砲撃を続け。

 日英上陸部隊は山道を押さえることに成功していた。

 

 ここに至って反ドイツ勢力のセルビア人が蜂起、クロアチア人と内戦を開始する。

 チトー率いるパルチザンは独力でドイツ軍を撃退し、

 ユーゴスラビアを統一したまま、独立させようとしていた。

 その目論見が日英軍の上陸作戦によって揺らぎ、

 パルチザン内部で不協和音が起こり、

 セルビア人とクロアチア人の内戦になっていく。

 

 

 戦艦ネルソン 艦橋

 「艦隊も酷い有様だが豪印軍の被害も酷いらしい」

 「特にクレタ島東部の防衛を任されたインド軍は、大打撃だそうだ」

 「孤立しているクレタ島のドイツ軍がインド軍を打倒しても消耗して死期を早めるだけだよ」

 「テッサロニキの占領と山道を押さえれば何とかなると思うが」

 「そうなれば、南側のドイツ軍も後退するだろう」

 「南側はテンビ谷の攻防を制し」

 「北はマケドニアの山道で援軍を押さえれば戦えそうです」

 「しかし、日本軍は勇敢だな」

 「ええ、流石に中国大陸で戦っていた将兵だ」

 「問題は言語だろうな」

 「日本軍との連携は難しいですからね」

 「下手に複雑な命令を出すと機能停止というか、思考停止するからな」

 「犬並みの単純な命令しか出せんよ」

 「問題はアテナのドイツ軍がどう動くか、ですかね」

 「撤退してくれればいいがね」

 「提督、あと5時間で到着するそうです」

 「そうか、アレクサンドリアに引き揚げるぞ」

 ギリシャ南部のドイツ軍は、戦艦部隊が去ったと安心し、総反撃に転じた。

 ドイツ軍は、イギリス軍を撃退しつつ、テンビ谷を突破していく。

 勢い勇んで追撃戦に移行したとたん、海上から砲撃を受けた。

 戦艦 キングジョージ5世、デューク・オブ・ヨーク、アンソン、ハウ

 戦艦 金剛、比叡、榛名、霧島、

 巡洋戦艦 レパルス、レナウン、

 北大西洋に配備していた戦艦10隻がギリシャ上陸作戦に合流する。

 日英同盟は、このギリシャ上陸作戦を正念場と考えており、総力を掛けていた。

 特に日本軍は、金と利権目当てで20万の戦力を繰り出していたのだった。

 そして、高速戦艦部隊がエーゲ海に進入し上陸作戦を支援する。

 沿岸に近づき過ぎたドイツ軍主力軍に戦艦の主砲弾が降り注ぎ粉砕されていく、

 

 キングジョージ5世 艦橋

 「やれやれ、ようやく、エーゲ海に来たと思ったら、もう砲弾を撃ち尽くしだな」

 「北大西洋は、大丈夫でしょうか?」

 「ドイツ艦隊は、バルト上陸作戦で消耗している。すぐ北大西洋に出られないだろう」

 そして、豪印軍は、ペロポネソス半島への渡河作戦とコリントス地峡を突破して北上。

 ドイツ軍は、ギリシャからの後退を決めてしまう。

 ギリシャの独伊同盟軍は、大打撃を受けて山岳地帯を通り、

 アルバニア、マケドニア側へ後退する。

 

 

 クレタ島西部

 ドイツ軍は、次から次へと輸送されてくるインド軍に弾薬を消耗し、戦意を喪失し、

 日英同盟軍に降伏してしまう。

 

 09/09

 イランがドイツに宣戦布告する。

 

 

 09/10

 鳥取地震。マグニチュード7.2、死者行方不明者1083、家屋全半壊1万3643。

 

 09/13

 中国、国民党の蒋介石(56)が国民政府の主席に就任する。

 

 09/16

 ビルマで独立運動組織が組織される。

 

 09/18

 20日にかけて九州・中国地方に台風が襲い、

 死者768人、行方不明者202人、負傷者491人、家屋破損2万5803戸。

 

 09/20

 西日本に台風が襲う。

 島根県を中心に死者、行方不明者970人、全半壊2万1000戸。

 

 

 09/26

 ドイツが軍需省を設置する。

 

 スペインが日英ソに宣戦布告。

 ドイツに武器弾薬を供給されたスペイン軍がジブラルタル要塞に侵攻する。

 ジブラルタル攻防戦

 戦艦 伊勢、日向、

 戦艦 ネルソン

 戦艦3隻が絶望的なジブラルタルに向けて艦砲射撃を行っていた。

 ドイツ軍兵装装備のスペイン軍は強力であり、

 ジブラルタル要塞は陥落寸前だった。

 戦艦ネルソン 艦橋

 「地峡だ! 地峡に向かって砲撃しろ! これ以上スペイン軍を要塞に取り付かせるな」

 「やれやれ、ギリシャ反攻上陸作戦で傾いたバランスがスペイン参戦で引っ繰り返された」

 「アメリカがスペインにM4戦車3000両、P40ウォーホーク3000機を輸出していたはず」

 「ほかにも武器弾薬を輸出していはずだ。まずいな」

 「いや、まだ、陸揚げされて間がない。上手く使いこなせてないようだ」

 「・・・ドイツ軍の兵装の方が上手く使われている」

 「やはり、アメリカが背後で動いてるのかな」

 「あいつら議会が戦争に反対しているからって、死の商人で戦ってやがる」

 「しかし、イギリスは、完全に北大西洋に孤立させられたぞ」

 「このままだとバルカン半島どころか、インド洋の支配権すら危ない」

 「日本に頑張ってもらうしかないな」

 「日本は、裏切らないだろうな」

 「いまのところ約束は守っている」

 「艦長! スーツカ爆撃機です」

 「・・・撤収する!」

 日英艦隊は、空襲に晒されながらジブラルタルから撤収していく。

 

 

 スペイン領カナリア諸島

 スペイン艦隊が港に停泊し、Uボートが浮上する、

 飛行場には、メッサーシュミット、フォッケウルフが配備され、

 大型飛行艇が着水していた。

 スペイン参戦により、このカナリア諸島と

 スペイン領サハラ(ダフラ)がドイツ海軍Uボート基地となっていく。

 

 

 

 津軽海峡

 「おい、野伏裏、水無月。本当にこのルートが良いんだろうな」

 「ええ・・・半分くらい早く建設できそうです。安全そうですし」

 軍人たちがブスくれる。

 人の世は、利害関係で成り立っている。

 当然、ルートが変われば利害関係も変わる。

 一度結んだ利害関係を崩して、もう一度、組み直すのは骨が折れる。

 「ちょっと、そこで、待っててくれ」

 コソコソ、コソコソ

 “どうするんだよ。約束してんだぞ”

 “地方豪族たちに、こっちだけはやめてくれと言われるじゃないか?”

 “しかし、経費が半分以上浮くなら、こっちだろう・・・”

 “だけど、土地だって、こっちが・・・”

 ““あ、おまえ!””

 “えっへへへ〜”

 ““てめぇ 土地買うなよ””

 “ここは、ひとまず津軽海峡を後回しにして、仕切り直しにしよう”

 “まぁ いくら権益が欲しくても無駄な浪費で国庫を食い潰すことはできないか”

 “ったくぅ〜”

 少年少女たちは魔法使いであり、

 大人たちの会話とえげつない利害関係と考え方をほとんど掴んでいた。

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 10/03

 インドネシアで、郷土防衛義勇軍が創設される。

 

 

 10/05

 沖ノ島沖

 関釜連絡船“崑崙丸”がドイツ潜水艦に雷撃され沈没する。

 乗員176人 乗客479人のうち583人が死亡する。

 

 

 10/09

 北ボルネオで、中国人の反英蜂起が起こる。

 「裏でアメリカが動いているのか?」

 「ええ、アメリカは日英ソ連合も独伊東欧同盟も弱体化させたがってますからね」

 

 

 10/14

 フィリピンで反米独立運動が開始される。

 「鎮圧しろ」

 「どうやら、イギリスが裏で動いてるようです」

 「バカめ、植民地で独立運動を起こされたらどっちが損をするか、教育してやらんといかんな」

 

 

 10/19

 東部戦線は停滞。

 日英軍のバルカン戦線は、インド(ダリット)軍の大量参戦で優位に戦っていた。

 日英ソ連合軍は有利になりかけ・・・

 しかし、独伊東欧諸国の外交戦略でスペインが参戦。

 スペイン軍はジブラルタルを占領し、

 イベリア半島にUボート・イタリア艦隊が配置されつつあった。

 スペイン参戦で日英ソ連合は苦境に陥いる。

 日本は、地中海・バルカン半島を担当しなければならず。

 イギリスは、北大西洋に追い詰められる。

 モスクワで日英ソの外相会談。

 「トルコの利権を認めなければ、バルカン半島もカフカス戦域も維持できません」 日本代表

 イギリスは北大西洋で孤立しており、

 ソビエトは極東アメリカ軍の動きに神経をとがらせ、

 東部戦線で攻勢が挫かれていた。

 「「・・・・・」」 ぶっすぅううう〜 × 2

 

 

 日本で縦横比1対4の平べったい飛行船が屋根付きの造船所で建造される。

 余剰積載量は1000トン。

 底部にワイヤーがあり、その気になれば、単発機6機を吊り下げることができた。

 燃料・消費物資を除くと、ジェット気流に乗り日本とアメリカ本土を往復。

 500トン近い爆弾を落とす事も出来た。

航空装甲艦 塞凰(さいおう)
重量(t) 全長×全幅×全高 主翼幅 装甲 グリフォン 25mm連装砲 速度 レーダー
4000/5000 140m×20m×5m 40m 40mm 2035hp×8 4基 500km/h 4基
80mm 4基

 要塞戦車を建造しよう。

 大型爆撃機が良い。

 いや戦闘機だろう。

 戦艦が良いよ・・・etcetc

 喧々囂々あった。

 しかし、機密厳守のため個数制限となり、

 あとの確執は省く。

 それは、まるで重爆撃機のような質量感でありながら悠然と浮かび。

 エンジンが回転すると速度を上げていく。

 「しかし、周囲300kmが丸見えとは、イギリス製レーダーの優れていること・・・」

 「レーダーは8トン。艦船用だけはあるよ」

 「発電機を新調しなければならなかったがね」

 「地上からの対空砲火を考えると葉巻型の方が良いんだけどね」

 「階段が少ない方が融通が利くんだよ」

 「どちらにしろ、爆弾を満載した爆撃機が体当たりしない限り撃墜不可だな」

 「無敵の要塞戦車でも良かったけどね」

 「秘密兵器を爆撃や砲火に晒すのは面白くないよ。こいつなら陸海空のどこでも叩ける」

 「空挺部隊を乗せれば、直接ホワイトハウスだって・・・」

 「それより、飛行石の解明は?」

 「全然、駄目だ。製造不可能で、地球上の物質ではないそうだ」

 「杖は?」

 「それも地球のモノと素材が違うらしい」

 「わかったのは光の屈折率が違う事、生体電気のみ吸収していることだな」

 「溜めこんだ生体電気何らかの条件で発動させるらしいが理屈が皆目わからん」

 「その、異世界への入り口は見つかったのか?」

 「南沙群礁に基地を建設して、巡洋艦と潜水艦を派遣したがね。まだ見つからん」

 「とりあえず、南沙群礁の占領をアメリカに黙認させただけでも良しとするかな」

 「アメリカも満州に手を付けているからいまさら利権のないサンゴ礁でゴネたりしないだろうよ」

 「しかし、畝傍が転覆した後に異世界に引き込まれたのだとしたら・・・」

 「やはり、潜水艦で海中をくまなく探すべきだろうな」

 「異世界に行ったとしても、帰還できるかわからないのに?」

 「可能性はあるだろう。飛行石を追加で得られれば、軍事的な主導権は有したままだ」

 

 11/05

 アメリカ上院が戦後国際平和機構の設立を求める決議を採択する。

 

 11/09

 ワシントンで、難民救済機構(RRA)が設立される。

 日英ソ連合国・独伊東欧枢軸国の双方、中立国に難民救済の拠点を設置。

 表向き、赤十字系の難民救済事業だった。

 しかし、実態は軍事バランスを保ちながら消耗させていく機関だった。

 

 11/22

 日米対中会談

 「日本の物資が中国に流れている節がある」

 「生活物資の事ですか?」

 「彼らに生活物資を輸出するのは、彼らの生活を支える事であり、彼らに賛成しているのと同じだ」

 「しかし、我が国の企業も輸出しなければ、生きていけませんが」

 「アメリカが買う」

 「ほお〜」

 「ただし、規格品質は、こちらで指定する」

 『規格をイギリス、ソ連と共有させなければ、日本の生産力を食える』

 「・・・し、しかし、日本は主権国家、アメリカが輸出規制をするのなら相応の対価を貰わないと・・・」

 「「んん・・・・」」 憮然

 

 

 11/27

 日英ソ3ヵ国カイロ宣言が発表される。

 

 三菱重工業長崎造船所

 自由フランス海軍戦艦リシュリュー 艦橋

 「立派なモノです。改修までしていただけて、感謝ですよ」

 「同盟国ですから」

 「・・・将軍。同型艦ジャン・バールがカサブランカを立ちツーロンへ入港したそうです」

 「なんだと!」

 「スペイン参戦が戦艦ジャン・バールをヴィシー政府側に付かせたようですね」

 「バカどもが・・・」

 日本海軍が同じ目にあったら。

 大和、武蔵が仇同士になったら・・・

 そう思うと日本海軍将校たちは同情を隠せず・・・

 

 ギリシャ上陸作戦で傷ついた艦船が日本に辿り着いていた。

 大破した戦艦ロドネー、ヴァリアント、マレーヤ、レゾリューション、ラミリーズ、扶桑、山城。

 中破した赤城、加賀、キングジョージ5世、デューク・オブ・ヨーク、金剛、比叡・・・

 「酷いものだな」

 「中破以上は日本で修理改装。小破以下は、イギリス領で修復できるそうだ」

 「スペイン参戦で大型艦は怖くて大西洋に行けないな」

 「大和、武蔵、長門、陸奥も出して欲しいらしいよ」

 「まさか」

 「同型艦同士を食い合わせても良いから、速く前線に出して欲しいそうだ」

 「やれやれ」

 

 

 

 南シナ海

伊161・162・163型潜水艦(海大4型)
排水量 全長×全幅×吃水(m) hp 速力 航続距離 魚雷 大砲 乗員
1635 97.70×7.80×4.83 6000 20.0 10kt/10800海里 6×4 45口径120mm 30
2300 1800 8.5 3kt/60海里

 伊161号 司令塔

 海図に航路が記されていた。

 「だいたい、この辺になるんだが・・・」

 「で、艦長、何を探しているのですか?」

 「んん・・・命令書は “20円、10円、5円金貨、50銭銀貨” と一緒に金庫にあるんだがな・・・」

 「まだ秘密なんですか?」

 「いくら2線級潜水艦でも乗員半分で魚雷4本。作物の苗を積んで、非常識過ぎませんか」

 「ま、まぁな〜」

 

 

 南沙群礁

 1300m級滑走路を有する飛行場と砲台が建設されていた。

 何でこんなところに?

 と諸外国が、そう思うほどの軍事施設、港湾設備が増設されていく。

 司令塔

 「やはり、魔法使いを呼び寄せて、探すしかないかな」

 「それはまずいでしょう。情報、燃料、機械は彼らに頼っているのですから」

 「偶発的に時空が混線して起こった、一過性の特異現象ではないのか」

 「ですが回帰呪文とかで、戻ってきたというのは・・・」

 「それなら尚更、魔法使いたちに・・・」

 通信兵が戻ってくる。

 「大変です。伊161号が行方不明になりました」

 「位置は?」

 「僚艦の伊162号が最後に確認したのが北緯9度。東経112度付近です」

 「意外に離れていないな」

 「沈んだらすぐわかる水深です」

 「近くの艦船をすぐに向かわせろ」

 高給軍官僚たちが、にやりとほくそ笑む。

 

 

 この時期 戦線は4つ

 イギリス本土 VS 大陸(オランダ・フランス・スペイン)沿岸。航空戦・海上戦

 東部戦線 (独伊東欧諸国 VS ソビエト連邦) 地上戦・航空戦

 ギリシャのペロポネソス半島(日・豪・印) VS ギリシャ半島(独・伊) 地上戦・航空戦・海上戦

 クレタ島東部(日・豪・印) VS クレタ島西部(独・伊) 航空戦・海上戦

 カイロ 日英ソ会談

 「ギリシャ上陸作戦でイギリス戦艦部隊は消耗している」

 「日本艦隊を出して欲しい」

 「日本艦隊も消耗し切ってる。商船隊も対潜戦闘で疲弊している」

 「もう、大和、武蔵、長門、陸奥の4隻しか残っていない」

 「レーニングラードのドイツ艦隊が北大西洋に出たら、イギリスの制海権は失われる」

 「し、しかし・・・」

 「それとソビエトは、ドイツ艦隊が北大西洋に出ないよう、レーニングラードに攻勢をかけてくれ」

 「それなら、イギリス・日本は、西欧州大陸で、第二戦線を構築して欲しい」 ソビエト代表

 ソビエトは、苦戦しており、

 日本とイギリスも難色を示す。

 平地でドイツ軍と戦線と構築して対峙するなど御免蒙る、なのである。

 独ソで潰し合ってくれたら嬉しいくらいなのだが共闘している、しがらみもあったりする。

 「・・・血を流せないのであれば金を出して欲しい」

 「日本でT34戦車を製造して、極東シベリアに輸送してくれないか」

 『また、難儀な事を・・・』

 日本の公共設備投資は始まったばかり。

 道路・架橋・港湾設備事情を考えると32トン戦車など、運用できる道理がなく。

 極東シベリアに日本製T34が配備されれば、アメリカに反日運動が起こると予想が付いた。

 T34戦車国産でプラス1、国際外交戦略でマイナス10では、割が合わない。

 「設計図も渡すし、製造のノウハウも進呈しよう」

 「戦車は、すぐにラインに乗るとは思えないので、もっと軽い物はどうでしょうか」

 「日本は、後進国ですので17トン以上の車両は、生産まで年月が必要です」

 「では航空機で良い」

 「それくらいでしたら、しかし、たどり着く前にエンジンが消耗してしまうかもしれませんね」

 「部品を製造してシベリア鉄道で運び、その後、組み立てるというのはどうでしょう」

 「んん・・・」

 ソビエト製エンジンは耐久性を減らして数で勝負していた。

 不時着しても地上だと割り切った戦略も可能だった。

 日本が、すぐに対応できるのは38式改6.5mm小銃と擲弾筒・・・

 しかし、東部戦線で要求される武器弾薬は二桁ほど違い。

 日本の生産力は英ソ両国と比べ、はるかに格下と思い知らされる。

 日本を防衛する軍事力。

 欧州へ派遣できる軍事力。

 さらに武器弾薬支援では、洒落にならず。

 そして、アメリカは、満州利権を確保することに夢中になっていた。

 英ソ支援は等閑どころか、逆にスイス銀行を通じ、ドイツ軍に資金援助している節すらあった。

 お陰で、東部戦線は錯綜する。

 ソビエト軍は、3倍近い兵力と物量による攻勢を行い、

 ドイツ軍は、卓越した機動防御で戦線を維持していた。

 

 

  

 水系統 水無月 有紀 少尉。A型 才女・メガネ

 子供たちに少尉の階級を与えたのは、大本営直属だと海軍所属をはっきりさせ、

 他所の下層下士官に余計な命令をさせたくないため。

 「・・・ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこな〜〜!」

 「「「おおお〜!!!」」

 廃油が高級オイルに練成。

 高級将校たち

 “なぁ なんで、巫女の服装なんだ”

 “その方が気分が出るとか、ある意味、巫女ですからね”

 “軍属のはずだろう”

 “しかし、品質と生産量が20パーセントも違えば・・・”

 “軍の体面を考えろよ”

 “何分、魔法はメンタルな部分が多いですから”

 “それより、欧米の魔法使いに関する記述は?”

 “欧米諸国に魔法使いがいるか、ですか?”

 “まるっきり否定はできんだろう、少なくとも日本は異世界の宝物で政策を変えた”

 “少なくとも大量の飛行石を有しているのは日本だけのようですが”

 “ドイツのトゥーレ協会とか、イギリスのドルイド教が独占しているのでは?”

 “異世界からの宝物ですか?”

 “白人世界の優位性が人種的優位性だけとは思えんが”

 “国家でなく、個人が隠匿し特権を得ている可能性は、あるかもしれませんね”

 “宗教は善を志向しているが、秘密結社だと特典がなければ成り立ちにくいはず”

 “んん・・・確かに日本の権力者層も魔法に関心を寄せている”

 “私物化したいのでは”

 “まぁな”

 “そういえば、魔術関連の記述だと、魔法使いは箒で飛んでいたと”

 “それなら、杖と7、8kgの飛行石があれば体温で・・・”

 

 

 太平洋上 航空装甲艦 塞凰

 高高度を飛び、長大な航続距離を有し、強力な通信機を搭載し、

 レーダーは300km周囲を索敵する。

 そして、風魔法の目と耳を持つ司令塔になっていた。

 ゼロ戦4機編隊が塞凰に向かって突っ込んでくる。

 風系統 帆乃風 隼人 少尉がゼロ戦に集中。

 「・・・はよも行きたや このざいしょ越えて 向うに見えるは 親のうち〜」

 帆乃風隼人が杖を向けるとゼロ戦4機が次々と失速。

 300mほど降下して、ようやく機体を立て直した。

 「こりゃまた凄いな」

 「揚力を一時的に消すぐらいならなんとか」

 「低空でこれをやれば、撃墜できるな」

 「ええ」

 「砲弾は?」

 「間に合えば何とかなりそうです、小さくて速いと自信ありませんね」

 「防御の方は?」

 「塞凰の周囲に風速5mくらいの気流を起こせそうです」

 「ですが、ピンポイントと違って長い時間は無理です」

 「んん・・・塞凰が直接、戦場に出ることはまずない」

 「しかし、長躯してくる敵機はいるかもしれない」

 「その時は頼むぞ」

 「はい」

 「では、演習は終わりだ。引き続き。アメリカ艦隊の策敵を行う」

 魔法使いが集中していく。

 日本艦隊の駒が動かされ、アメリカ太平洋艦隊の駒が動かされていく。

 リアルタイムで敵艦隊の位置が分かれば、作戦は容易になった。

 

 

 某工場

 土系統 野伏裏 弥生 (のぶせり やよい) 少尉。O型 夢想家

 「地震雷火事親父 地震雷火事親父 地震雷火事親父 地震雷火事親父」

 

 火系統 不知火 剛太 (しらぬい ごうた) 少尉。B型 メンコ収集オタク

 「はぎ すすき くず なでしこ おみなえし ふじばかま ききょう〜〜」

 工作機械の振動が小さくなり、動きが滑らかになっていく。

 「「「「おおお〜!!!」」」」

 “なんで、こいつら、魔法使いの格好をしているんだ”

 “気分が出るとか”

 “こいつらもか?”

 “ったくぅ”

 “陸奥延焼のショックは大きい”

 “生産量が増えて最終的に軍艦を造れるのなら、どうでも良いや”

 製造したもので規格外、不良品が増えると資源が無駄になった。

 当然、個数当たりの単価が跳ね上がる。

 土系統と火系統は一緒に練成することが多く。

 魔法使いが手を加えるだけで、工作機械の精度が上がり。

 歩留まりが向上し、生産性が高くなっていく。

 日本産業の国際競争力を魔法使いたちが底支えしていた。

 そして、黒部ダム、関門海峡海底トンネル、東海道新幹線だけでなく。

 津軽海峡トンネル建設まで魔法使いが使われていく。

 「多少、能力で歪だが25人でローテーションを組めば、24時間フル稼働でいける」

 「単純な労働力換算だと10000人分だな」

 「採算性だけなら大黒字だよ」

 「あははは・・・」

 日本の国民総生産はイギリス・ソビエトの発注需要。

 そして、アメリカの極東開発の発注需要で潤っていた。

 

 

 ワシントン 白い家

 「飛行船 塞凰を目撃したパイロットの話しだと奇妙過ぎると報告を受けている」

 「だが塞凰は、島に配置しているせいか、詳しい状況が掴めんよ」

 「しかし、使われた資材は、確かに怪しい気がするな・・・」

 「だいたい、水素を使ってるなら、それらしい、機材があるはずなのにそれがない」

 「事実なら浮かぶはずがない。浮かんでいるとしたら、事実ではないからでは?」

 「そう言えば、ガソリン供給ホースも軍艦に使うような太さですね」

 「給油が速いという問題じゃないでしょう」

 「再調査が必要かね」

 「疑惑が多過ぎます。あと、これですが・・・」

 「機械部品が出される」

 「これは・・・」

 「日本で製造されたらしい部品です」

 「削りだし、溶接、圧延のどれも該当しないモノです」

 「・・・まさか」

 「あと、南シナ海で行方不明になった伊161号ですが。日本海軍の捜索が奇妙なのです」

 「奇妙?」

 「沈没地点らしき海底は浅いのにもかかわらず発見されていません」

 「さらに海流を考えて動くと行ったことをせず。ゾーンを決めて、ひたすら行き来しているだけ」

 「それと南沙群礁の基地ですが、潜水艦が多数、配備されています」

 「・・・妙だな。畝傍となにか、係わりがあるのだろうか」

 「引き続き調査の必要性を感じます」

 「・・・日本の軍事力が削減されたというのに、気がかりな事ばかりだ」

 「戦争の方は?」

 「いまのところ、ランチェスターの法則を大きく逸脱したのは、アレクサンドリア海戦くらいです」

 「タイミングの問題で日英軍にバルカン半島に食い込まれたのも枢軸国に不利ですね」

 「消耗戦なら好都合なんだが、バランスを崩されると調整に困る」

 「あとバトル・オブ・ブリテンですが日本製の機体が配備されているようです」

 「機体を調べられるな?」

 「はい、機材の品質が向上しているようですが速度が遅いので予備機扱いですが・・・」

 「我々、合衆国が恐れているのは、表面に出てくるモノではない」

 「脈絡もなく表面に浮き出させる根源的な力。原因だ」

 

 

 

 航空装甲艦 塞凰がニューギニア上空を飛ぶ。

 飛行船型の塞凰は、最大5000トンの質量があるせいか、横風に強かった。

 テーブルに巨大な地図が広げられている。

 マレー山脈、ビスマルク山脈、オーエンスタンリー山脈を南北に分断する点線が引かれている。

 計画だけは進んでいた。

 しかし、何ぶん、杖は四本のみ。

 それでも、風、土、火、水の魔法使いは、次第に能力を高めていた。

 印を記入していくと、そこには、金、石油、銅、天然ガス・・・

 無知は金にならず。

 知識は金になった。

 宝の山さえ、押さえれば、あとは、開発費と採算性の問題となり資金を捻出するだけだった。

 塞凰から工兵部隊が空き地に降りると、整地され、拠点が作られていく。

 「野伏裏君。最重要で欲しいのは、鉄鉱石、アルミ、ニッケルなんだがね」

 土系統は、期待されている。

 「水無月君、もっと深度の低い石油を頼むよ」

 水系統も期待されている。

 「帆乃風君。豪州域の航空戦力はどうかね?」

 「小さいのは、近付かないと、まだ・・・」

 「そうか」

 風系統も、期待されている。

 「不知火君。火を頼む」

 魔法で煙草に火を付ける。

 「ふぅ〜 不知火君。3人のサポートを頼むよ」

 「はい」

 火系統の魔法使いは戦闘力で最強だった。

 しかし、戦争にならないと、いや戦争は始まっている。

 戦場に行かなければサポーター。

 そこに行けばホワイトハウスでも、クレムリンでも、丸焼けなのだが・・・

 「司令。行かなくてもいいのですか?」

 「ん?」

 「クレタ島です」

 「はぁ?」

 「まさか。君らを前線に出すわけがなかろう」

 そう、航空装甲艦 塞凰。

 そして、4人の魔法使いは、イギリスに叩き売った海軍戦力と軍縮した戦力を埋めており、

 大日本帝国の切り札だった。

 それに比べれば、大和と武蔵は玩具も同然・・・

 

 

 日本の山裾

 とある村にアメリカ人がやってくる。

 道中の道は15〜6トンのローラー車(約2万円)で押し潰されたように堅く、道幅も広い。

 舗装はこれからなのだろうか。

 村人が集まっている光景にアメリカ人は関心を持った、

 「どうしたんです?」

 白人が日本語で話しかけると驚かれたりする。

 「い、いやな。トンネルができているんで、いつの間にできたのかと思うてな」

 微妙なアクセントだったが意味は伝わる。

 「近くの村人なら分かるのでは?」

 「い、いや、1か月前はなかったの」

 「うんだ、うんだ」

 村人たちが頷く。

 「いくらなんでも村人を雇わないで、この工事を?」

 「土地は売ったが誰も雇われんかったのぅ」

 「うんだ、うんだ」

 鉄筋コンクリートで4車線確保された全長700m近いトンネル。

 それが1ヵ月前になかったなどあり得ない。

 工事をしている業者はいた。

 しかし、別段、優れた土木建設機械を持っていない。

 白人は日本の流通が良くなっていると聞いて歩きまわっていた。

 「このトンネルを1ヵ月で建設したというのか」

 一番、新しい地図を広げ、地図に載っていないトンネルと道を確認する。

 このトンネルがあれば都市と都市の間は、これまでの15分の1で繋がる。

 後ろを見ると特高が隠れる。

 自分の寿命が縮まっている気がする・・・

 しかし、日本はアメリカの資源と工業製品を欲しており。

 アメリカは情報収集しなければならず・・・日本の “何か” を得ようとしている、

 結果的に新日米通商条約が結ばれ、貿易は拡大していた。

 日本は空前の軍需と民需で潤い、アメリカと貿易を継続する方が得だった。

 相手を怒らせる気などないと見当が付く、怖がらせて情報収集を邪魔しているだけと思えた。

 この報告がアメリカに届けば、さらに十数人のエージェントが送り込まれるだろう。

 アメリカと日本、どちらの利害が競り勝つか、まだ錯綜していた。

 

 12/17

 チトーの指揮するパルチザン部隊がインド(ダリット)軍と交戦。

 「インド軍は、侵略者だ」 チトー

 「通過するだけですよ」 イギリス軍将校

 「ふざけるな。インド軍が通過した後は、ペンペン草も生えていない」

 「インド人は、寒さに弱いので・・・」

 ぶちっ!

 「ふざけんな!!」

 

 

 アメリカで中国人移民禁止法の継続が決まる

 

 12/20

 ボリビアで軍事クーデター。ビリャロエル政権を擁立する。

 

 12/24

 インドで、ムスリム連盟第31回大会が開かれる。

 

 

 

 

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 どこかの海

伊161型潜水艦(海大4型)
水中排水量 全長×全幅×吃水(m) hp 速力 航続距離 魚雷 大砲 乗員
2300 97.70×7.80×4.83 6000 20.0 10kt/10800海里 6×4 45口径120mm 30
1800 8.5 3kt/60海里

 伊161号 司令塔

 「どこだ? ここは? 太陽の位置が違うぞ」

 「僚艦の伊162、伊163と連絡をとれ!」

 海の男たちは潮風だけで異常に気付く。

 「通信。反応がありません」

 「呼び続けろ」

 「地球ではなさそうです」

 夕暮れ、コンパスと羅針盤で星空を確認する航海士が泣きそうに応えた。

 「冗談じゃ なかったのだな・・・」

 「艦長・・・」

 「命令書に従って行動するしかないだろう。

 「航海長、何人か集めて出現海域の星図を作っておけ、計測を間違うな」

 「はっ!」

 「砲術長。手が開いた者を何人か集めて、釣りでもしてろ」

 「はっ」

 「最低限の人間、種もみ、金塊。食糧と燃料で異世界か、国も理不尽な事をしやがる・・・」

 「副長。命令書を確認しよう」

 「はっ!」

   

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 この種のファンタジーは、やっぱり、黒マントと巫女姿でしょう。

 こういうのは、形から入らなければ、なりません。

 

 史実の陸奥爆沈は、2交代制を取り入れたせいか延焼、小破で済みました。

 艦隊縮小で整備効率が向上しそうです。

 

イギリス売却艦隊 戦艦8隻、軽巡17隻、駆逐艦43隻。 赤は沈没

戦艦

32000トン級 4隻 金剛、比叡、榛名、霧島
39150トン級 2隻 扶桑、山城、
40000トン級 2隻 伊勢、日向
軽巡洋艦
3230トン級 2隻 天龍、龍田
5100トン級 5隻 球磨、多摩、北上、大井木曾
5170トン級 6隻 長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈、
5195トン級 3隻 川内、神通、那珂
2890トン級 1隻 夕張
駆逐艦
1315トン級 12隻 睦月、如月、弥生、卯月皐月、水無月、文月、長月、菊月、三日月、望月、夕月、
1270トン級 12隻 神風、朝風、春風、松風、旗風、追風、疾風、朝凪、夕凪野風、波風、沼風、
820トン級 7隻 若竹、呉竹、早苗、朝顔、夕顔、芙蓉、刈萱、
1215トン級 12隻 峯風、沢風、沖風、島風灘風、矢風、羽風、汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風、
     

 

 

 

  

 

 

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第02話 1942年 『軍需バブル崩壊』
第03話 1943年 『疑心暗鬼』
第04話 1944年 『支配は、奪うこと』