月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第05話 1945年 『底知れぬ処の・・・』

 東部戦線のソビエト軍はドイツ軍の3倍以上の兵力だった。

 そして、南のバルカン戦線の日英印土連合軍の兵力もドイツ軍の2倍以上で突き上げていた。

 もっとも兵力差が、そのまま戦力差になりえないのは近代戦であり、

 ドイツ軍は、頑強に抵抗する。

 スペインに配備されていたアメリカ製兵器の練達訓練が進むにつれ、

 その姿を前線に現わし、時に痛烈な反撃で東部戦線・バルカン戦線を粉砕する。

 戦況は、表面上、膠着状態にあった。

 しかし、精強に見えるドイツ軍も振り返れば国民生活を犠牲にしていた。

 軍需生産に民需生産力とサービスが奪われ、

 利便性の良い近代生活は損なわれ、生活物資が底を尽いていく、

 ドイツ軍は、戦闘で戦場を好転させても、戦線を前進させる侵攻能力が失われていた。

 瓦解しつつある社会基盤により、国家運営が苦境に立たされていたのである。

 ドイツ第3帝国から攻勢力を奪っていたのは戦略資源の不足だった。

 たとえば、工業用ダイヤがなければ工業製品の研磨が困難になる。

 たとえ、開戦前に大量に仕入れても工業製品を大量生産すれば消耗してしまう。

 科学技術工業力を駆使して代用品を使っても神の創造に至らないのである。

 どんなに優れた兵器でも弾薬の生産が滞れば、攻められないのだった。

 もっとも、イギリスもスペイン参戦で戦略物資を国内工場に運び込む余裕がなくなり、

 安全な国外で製造するようになっていく。

 イギリスもフランス艦隊とUボートの通商破壊で海上輸送が困難となり、

 苦境に追い込まれており、兵站基地としての機能も失いかけていた。

 イギリス本土

 カナダから来る船団だけがイギリスの継戦能力を保たせていた。

 アメリカの中立海域がアイスランドまで広がっており、

 その外海では、ドイツ海軍の無制限潜水艦作戦が行われていた。

 イギリスが戦前保有していた商船は4000隻2100万トンあまり、

 イギリス商船隊は1500万トンを失っており、

 年間建造分100万トンと日本商船隊600万トンを足しても戦況は悪かった。

 イギリスは、悪化する戦況に備え、

 生産と生活の拠点をカナダに移動させていた。

 この状況は、生産の拠点をウラル山脈側に移していたソビエトと同じであり、

 選択肢の一つだった。

 イギリス本土は国家としてより、対独兵站基地の性格が強まっていく。

 そうしなければ大規模な輸送船団で民間需要品まで輸送しなければならず。

 さらに苦戦を強いられる、

 イギリスは、危険を冒して女子供をカナダへと移民させていた。

 そして、避難民をカナダに移送させた後、

 イギリスは、商船隊をインド洋へと移動させていた。

 北大西洋

 軽空母ハーミーズ 艦橋

 「もう少し日本に生産拠点を依存するらしい」

 「やはり、アメリカも信用できないと?」

 「アメリカは強大だ。カナダごと人質にとられているようなものだからな」

 「アメリカより、日本が信用できると?」

 「いや、バルカン・カフカスの権益を日本に与えたところで些事に過ぎない」

 「日本本土から遠過ぎて管理人や人質に過ぎんよ」

 「どこまでもイギリスの傀儡だと?」

 「そんなところだ」

 「日本は、戦争より瑞樹州開発に力を入れているようで・・・」

 「ちっ オランダも国家基盤をインドネシアに移しつつあるし」

 「どいつもこいつも生存圏の拡大と生殺与奪を握る事ばかり考えやがる」

 「しかし、いまアメリカに宣戦布告されたら、イギリスは、一巻の終わり」

 「アメリカは外交戦略で経済的に追い詰めても自ら宣戦布告はせんよ」

 「国益を追求しなければならない国家としては不便ですな」

 「だが権利や私財が国益に搾取されないのなら産業も興しやすいだろうよ」

 「道理で移民急増なはずです」

 

 イギリスは、アメリカ合衆国に国力を付けさせたくないのか日本の発注を増大させる。

 日本の生産力は、アメリカの発注騒ぎに邪魔をされ。

 日本の内需に吸い取られていく。

 そして、日本でようやく生産した分がイギリスとソビエトに流れていく。

 日本の生産力限界の発注でも希望より一桁足らず。

 イギリス国民の大半がカナダへと移民させられ、

 工業生産もカナダと日本に移転していく。

 

 アメリカの中立海域に邪魔をされたドイツUボート艦隊のイギリス封鎖は効率が悪かった。

 Uボートを大型化させてのインド洋進出も費用対効果で悪かった。

 日本からバルカン半島までのインド洋航路は、圧倒的にイギリス船舶が多かった。

 日英商船隊は、日本で製造された小銃と機関銃を載せ、

 インド軍2000万をバルカン半島に輸送し、

 巨大な兵站線を構築しつつ、インド軍を前線へ送り出していく。

 最高峰の兵装を装備した精鋭ドイツ軍を苦境に陥れていたのは兵力差であり、

 ドイツ軍は、一国の総人口に匹敵するような兵力と交戦させられ消耗していく。

 どれほど精強であっても兵数の差に押し切られていくのだった。

 夜間のドイツ軍陣地。

 「風下になったぞ。総員戦闘準備!」

 ドイツ軍の間に緊張が走る。

 最初、日英空軍の戦術爆撃、火力支援が起こり、

 煙幕、

 そして、パンジャンドラムの夜襲によってドイツ軍陣地は混乱していく、

 その後、インド軍の数に任せた浸透戦術で、砲弾と銃弾を消耗させられていく、

 ドイツ東欧軍は、じりじりと後退を余儀なくされていた。

 

 

 森林の街道に日本軍補給部隊のトラック数十台が到着し。

 日英軍基地に積み荷が降ろされていく。

 「ただいま到着しました」

 「御苦労」

 日英軍基地上空

 数十ものエンジンが苦しげに自己主張の爆音を轟かせ、

 機銃が耳障りな連続音を響かせる。

 不意にエンジンが不協和音を起こし、ゼロ戦E型が燃え落ち始める、

 火達磨になりながら大地に激突すると盛大に木々を撒き散らしながら爆発する。

 Me262の編隊は、日英防空戦闘機を次々に撃墜、

 一時の勝韻に酔い、対空砲火に追いかけられながら去っていく。

 「あれがMe262か、ジェット戦闘機には勝てんなぁ」

 「まったく、最近の航空戦は、負けてばかりだ」

 「総司令部は?」

 「こっちだ。例のモノは、それか?」

 「そうだ」

 「そうか・・・」 にやり

 

 日英共同総司令部。

 「このまま戦線が北に伸びるとまずい・・・」

 「日英将兵全員が管理輸送部門になっても足りないな」

 「インド軍の進軍と交通整理、兵站も維持できなくなるよ」

 「近代国家になるほど補給品や補充品の種類が増していく」

 「当然、管理部門が増える。しかし、例外もあるな」

 「人海戦術は専守防衛向きだよ。本来、侵攻作戦に向かない」

 「このままだと、バルカン半島の住民相手に内戦必至だ」

 「とりあえず、インド軍に小銃と小銃と機関銃を持たせて前線へ送るべきだ」

 「問題は衣食住」

 「前線まで行くキャンプ地を整備させている」

 「鉄道も増設させているから、何とかなるだろう」

 「秘密兵器は?」

 「作ったよ」

 「そうか、これで我々は勝てる」

 インド・カレーの絵柄と “Made In Japan” と書かれた缶詰が出される。

 司令部全体に歓声が上がる。

 その日、カレー8種類とナンが最前線にあると聞いた牛歩インド軍の足は速まり、

 ドイツ軍は、さらに苦境に陥っていく。

 

 

 東部戦線

 前線で剥き出しの将兵の消耗は早い、

 ベテランの将兵でさえ、あっさり負傷し戦死する。

 補充の新兵が死傷者を埋めていく。

 兵力が多ければ戦果がなくても練度が高まり、

 兵力が少ないと戦果が多くてもベテランが痩せ細っていく。

 同じ人海戦術でもソビエト軍は、地の利があり頑強だった。

 そして、占領されているレーニングラードとドイツを繋ぐ輸送路を分断するため

 ソビエト軍は、徐々に巻き返し、エストニア方面へと大攻勢をかけていた。

 夜間、

 ドイツ軍陣地に煙幕が流れ込んでいく、

 ドイツ軍は、事前の偵察で化学兵器や細菌兵器でないと気付いていた。

 そんな国際法違反なモノでなくてもいいといえた。

 数千門の30口径152mm砲から砲弾が撃ち出され。

 数千のパンジャンドラムが突入して爆発を起こし、爆炎が吹き上がる。

 ソビエト軍の浸透戦術が始まり、

 ドイツ軍陣地から機銃掃射が始まる。

 イギリス軍発明のパンジャンドラムは、煙幕と兵力差を利用した浸透戦術の過程の一つとして完成されていた。

 ソビエト軍の浸透戦術によって、ドイツ軍陣地は次々と寸断され、

 煙幕の中で敵味方入り乱れ、兵力差がモノを言う独ソ白兵戦が始まる。

 混乱する戦場、

 翌朝、シュトルモビクの編隊が爆弾を投下し、

 T34戦車と新たなソビエト将兵の突撃が始まる。

 噴煙の中、ドイツ軍陣地から砲撃が始まり、T34戦車が次々と吹き飛ばされていく、

 そして、ドイツ軍陣地で生き残ったM42機関銃の掃射が始まり、ソビエト軍将兵が倒されていく。

 「将軍! サルバ湖に突入していた部隊がドイツ艦隊の砲撃で攻撃を中止したそうです」

 「ちっ バルト海沿岸の守護者か」

 「沿岸部はドイツ艦隊を配置して、陸軍戦力で手抜きしてますからね」

 「ドイツ艦隊も弾切れのはず。いまのうちに戦線を突破しろ」

 「将軍! タイガー戦車1両撃破。まだ9両が残っています」

 「撃破した区画に予備の戦車部隊と囚人部隊を突撃させろ」

 噴煙の中に突入したT34戦車群が撃破されていく、

 そして、囚人兵が地雷原にはまり込み、機銃掃射で薙ぎ倒されていく。

 「将軍! パンツァーファウストが配置されているようです」

 「くっそぉ〜 狙撃兵は何をしている、狙い撃て」

 「弾薬が少ないようです」

 「日本からの補給物資はどうした?」

 「まだです」

 「あいつら〜 要求している武器弾薬の10分の1も作れんのか」

 「ひょっとして、いま頃、武器弾薬工場を建設しているのでは?」

 「ちっ 日本人め、戦争を舐めてやがる」

 ソビエトも、イギリスもアメリカ合衆国に求めるような補給物資を日本に要求していた。

 不意に今まで聞いたことがない発射音が聞こえ、

 放物線を描いて黒いモノがソビエト軍陣地に向かってくる。

 爆発が起こると大隊司令部が吹き飛ばされた。

 野営テントだった布切れと機材が辺り一面に散らばり、

 ソビエト軍将校数十人がバラバラにされ、血塗れで倒れていた。

 ランチェスターの法則を覆す方法はあった。

 敵司令部をピンポイントで破壊してしまう方法であり、

 ドイツ軍は、それを可能にする車両があった。

 突撃臼砲ティーガー(シュツルムティーガー)

 380mmロケット砲弾の最大射程は5000mほどであり、

 要衝に配置して待ち構え、敵陣の拠点と思われそうな地点を狙い撃ちする。

 指揮系統を失った軍隊は攻勢から防戦に移行していく。

 

 

 津軽海峡

 朝鮮半島のアメリカ軍増強に合わせ、

 連合艦隊の引っ越しが検討されていた。

 総額50憶以上の資金の投入であり、

 基地だけでなく、横須賀、呉に並ぶ巨大工廠の建設も検討されていた。

 イギリス潜水艦が大湊港に入港する。

イギリス A型潜水艦
排水量 全長×全幅×吃水(m) hp 速力 航続距離 魚雷 大砲 深度 乗員
水上 1385 89.5×6.8×5.5 4300 18.5 11kt/10500海里 4×2×20 40口径101.6mm 110 60
水中 1620 1250 8 3kt/90海里

 最新型のイギリス潜水艦であり。

 日英同盟の一環として、建造してもらい、技術供与されたモノだった。

 「呉の引っ越しとはね」

 「もっとも、引っ越しが決まっているだけで、どこというのがな」

 「アメリカのせいでいい迷惑だ」

 「航空機の時代なんだから、いつまでも危ない呉に艦隊基地を置いとくのは駄目だろう」

 「半島を売るからだ」

 「でも経済再建しただろう」

 「ここだってソビエト領に近い」

 「ソビエト空軍が怖いか?」

 「まぁ ソビエトとは借款同盟だけどね」

 「無節操な。子供には言えんな」

 「それはともかく、陸奥湾は選択肢の一つだよ」

 「同時に太平洋と日本海に睨みを利かせられて悪くない」

 「だが津軽海峡は、ソビエトとアメリカ商船の通り道になって面白くない」

 「陸中海岸にブンカー型の軍港を建設する話しは?」

 「厚さ160mの天井は魅力的だけどね。建設費と電気代がな・・・」

 「基地防空システムをケチられるだろう」

 「バンカーバスターだってあるぞ」

 「バンカーバスターも原爆も150mの厚みを破壊できるようにはできてないよ」

 「凝固剤で固めて、鉄筋コンクリートで補強すればもっと強くなる」

 「だけど、津波対策がまだだし、建設が魔法使いたちの寿命と直結じゃな〜」

 「景観がどうとか言ってた連中もいる」

 「初期投資は大きいけど、後で割安になるよ」

 「民間船も漁業関係者も、海軍艦艇は人気のない軍港に行って欲しがってるけど」

 「いろんな意味で、寒いぃ」

 「寒いくらい我慢しろよ」

 「田舎なのも嫌だ」

 「設備投資は、これからだけどね」

 「青森って言う名前が田舎っぽくて気に入らねぇ」

 「そういや、海軍基地を陸奥湾に変えるなら、青宮県って改名するんじゃなかったけ」

 「寒いのは変わらねぇ」

 「安全なのはトラックか、瑞樹州の方だろうね。大型艦はそっちに行くんじゃないか」

 「それが嫌だから、安全そうな陸中にブンカー軍港を建設するって話しだろう」

 「もう、大型艦を造る予定ないだろう」

 潜水艦から技術者が出てくる。

 「・・・どうだ。イギリスのA型潜水艦は?」

 「いいと思うよ。T型より完成度が高く。エアコンの音も小さい」

 「エアコンか・・・よっぽどじゃないと潜水艦じゃ使えないからね」

 「潜水艦は、除湿だけでも何とかすべきじゃないか?」

 「海中まで送電線を引っ張りこめよ。給電さえ受けられれば、いくらでも作戦が出来る」

 「そうだなぁ 半島のアメリカ軍も近いしな・・・」

 「どうせ通過するのは、久米島と宮古島の間だろう。海中に送電線を敷けよ」

 「いくらでも撃沈してやる」

 「そうだなぁ〜」

 電力さえあれば、シャワーも浴びれるし、水も造ることができた。

 

 

 日本、

 とある工事現場工員の証言

 “・・・それが全員休みをもらって5日間旅館へ”

 “いい会社ですね”

 “ええ、あり得ないと思いましたよ、もっと酷い会社だと思ってたんですけどね”

 “それで?”

 “現場を5日離れたんですよ”

 “それで、現場に戻ってみると。堅くてしょうがなかった坑内の先端部が砂みたいに柔らかくて・・・”

 “ほお・・・”

 “周りは物凄くかたいんですよ。1kmほどそういうのが続いてまして・・・”

 “んん・・・”

 “それで、全員が肝を潰したのですが・・・”

 “現場責任者も、監督も何食わぬ顔で、平然としているんですよ”

 “そういう事が度々あって、抗議・・・というと変ですけどね”

 “責任者を問い詰めたんですよ”

 “それで?”

 “いや、休む前と何も変わらない、お前らの勘違いだと、1点張りで・・・”

 “本当に?”

 “毎日毎日、坑内を自分の足で歩いたんですよ”

 “5日離れたからって、忘れるわけないでしょう。冗談じゃないですよ”

 “だいたい、発破かけて掘っていたんですよ”

 “それが急に砂のトンネルになるし”

 “周りだけ堅いなんて変でしょう。そんなあり得ませんよ”

 “それで?”

 “次の休みは10日連続ですよ。そんな会社あるわけがないですよ”

 “確かに・・・”

 “それで戻ったら、さらに1km先まで砂ですよ”

 “勘違いは?”

 “全員がそう感じたのに勘違いのわけないですよ”

 “そんな工事現場、あり得ませんって”

 

 

 瑞樹州(ニューギニア島)

 大型ガントリークレーンが並び、ドックが建造されていた。

 湾の中の中小船が忙しそうに行き来していた。

 その中の一隻が上流まで上っていき、停泊場に到着。

 業者関係の男たちが降りてくる。

 「・・・優良重油燃焼船が大西洋に移動して、石炭船や機帆船がこんな南に来るとはね」

 「世の中金ってことだよ。敢えて危険を冒しても一回の航海で荒稼ぎしたいものさ」

 「それで・・・このトンネルは、いつの間に建設したのかな?」

 「あ、ああ・・・軍事機密だ」

 「本当に軍事機密なのか?」

 「そうだ」

 「全長60kmの山脈をぶち抜いて、ラエとポートモレスビーのを繋ぐトンネルをか?」

 「まぁな」

 「あり得んだろう。国家予算に計上されてないぞ」

 「まぁあ、この世界では良くあることだよ」

 「いや、絶対にないと思うぞ」

 「なるべく直線で水平になってると思うが・・・」

 「・・・これなら標準軌2本を往復させられそうだな・・・」

 専門家が側壁を叩いて強度を確認する。

 「そういえば、水力ダム建設や鉄道建設が異常な進捗率だと聞いたが・・・」

 「きっと、日英同盟のおかげだろう」

 「本当にそうなのか?」

 「まぁ・・・こうやって、現に掘られているし・・・」

 「じゃ どうやって建設したのか言ってみろ」

 「あはは・・・」

 「日本国民にどう説明するつもりだ」

 「あはは・・・」

 「まぁ こっちは鉄道を施設できればいいがね・・・」

 

 

 日本で修復したばかりの日英艦隊がインドシナの港に入港していた。

 長門、陸奥、キングジョージ5世、ハウ、ウォースパイト。

 ヴィシーフランスが宣戦布告したという事は、ヴィシー側の植民地も敵となっていた。

 ヴィシーフランスにとって計算外と言えるのがトルコ参戦だった。

 トルコにシリアとレバノンが占領され、

 インドシナ・フランス軍も武装解除させられていた。

 インドシナが戦わず武装放棄したのは、フランス指揮官が降伏したからであり。

 たまたま日本軍が砲撃した砲弾と爆弾がフランス植民地軍の指揮系統を喪失させ、

 抵抗力を一掃したに過ぎなかった。

 

 飛行船というより、ひしゃげた潜水艦に翼を付けたような物体が空中に浮いていた。

 表向き日本海軍の索敵飛行船という事になっていた。

 機動は飛行船より重爆撃機に近く、同型艦は建造されていない。

 ドイツのツェッペリン飛行船は全長245m、直径41m、積載量100トン。

 比較すると異様さが伺える。

 何より飛行船として必要とされる機具類が等閑にされており、

 本来載せないと思われている物が載せられている節があり、

 なにより海軍長官が大和、武蔵でなく塞凰に搭乗していた。

 インドシナ沖上空

航空装甲艦 塞凰(さいおう)
重量(t) 全長×全幅×全高 主翼幅 装甲 グリフォン 25mm連装砲 速度 レーダー
4000/5000 140m×20m×5m 40m 40mm 2035hp×8 4基 500km/h 4基
80mm 4基

 装甲飛行艦 要凰 艦橋

 「インドシナか・・・」

 「アメリカを写真で脅迫して押さえたとしても、どうしたものかな」

 「日本の陸戦隊が足りませんね」

 「んん・・・」

 「利権を少し貰って、インドシナを独立させるしかないのでは?」

 「それが一番、金がかからなそうだな」

 「んん・・・・しかし、この艦も随分と居心地が良くなったな」

 「チタン製が増えて機体を広くできたためでしょう」

 「格納庫ごと載せ変えで補給も楽になりましたし」

 「伊161の帰還が楽しみだ」

 「飛行石を500トンも載せ帰れば大きな戦力となるでしょう」

 「もう一隻欲しいものだな。というより、もっと大きくしてもいいな」

 「ツェッペリン飛行船くらいですか?」

 「そうだな」

 「産業界は魔法の杖を喜びそうですが」

 「だがアレは、人の命を削るそうじゃないか」

 「ええ」

 「社会基盤や基礎工業力を向上させること以外で使いたくないな」

 「確かに・・・」

 「魔法使いの選抜は?」

 「現在、天然と修練した者を含め74人を発見しています」

 「そうか・・・可能な限り分子を増やして負担を減らしそう」

 「そして、可能な限り、報いてやることしかできないな」

 各国とも航空機と飛行船の中間のような塞凰の異常さに薄々気が付いていた。

 周囲に艦船・航空機がないことを確認すると、輸送機が塞凰とドッキングする。

 同じ速度で飛べばいいだけであり、腕の問題だった。

 「御苦労だったね」

 少年と少女たちは長官に労われて喜ぶ。

 「次の日程は日本だ」

 「宗谷海峡と津軽海峡トンネルは、列強に意識されている」

 「間者もいるだろう。目立たないようにやって欲しい」

 「「「「はい」」」」

 魔法使いたちが交替で水力発電ダム、海峡トンネルの工事を底支えしていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黙示録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 第五の御使がラッパを吹き鳴らした。

 底知れぬ処の穴を開く鍵が与えられた星が、天から地に落ちて来るのを見た。

 底知れぬ処の穴が開かれると、大きな炉から立ち登る煙で太陽と空気が暗くなり。

 煙の中から地のサソリが持つような力が与えられたイナゴの群れが地上に這い出てきた、

 イナゴは、地の全ての草、青草、木を損なってはならない、

 しかし、額に神の印がない人たちに害を加えてもよいと言い渡された。

 彼らは人間を殺すことはせず、五か月のあいだ苦しめることだけが許された。

 彼らの与える苦痛は人がサソリに刺された時のような苦痛であり。

 人々は死を求めても与えられず、死にたいと願っても死は逃げて行くのである。

 イナゴは底知れぬ処の使いを王にいただいており、

 出陣の用意の整えられた馬に似ていた。

 頭に金の冠のようなものが付けられ、

 人間の顔のようであり、女の髪のようであり、獅子の歯のようでもあった。

 また、鉄の胸当てのようなものをつけており、

 その羽音は、戦場に急ぐ馬に引かれた戦車の大群の響きであった。

 サソリのような尾と針を持ち。尾は、五か月のあいだ人を損なう力があった。

 その名をヘブル語でアバドンと言い、ギリシャ語ではアポルオンと言う。

 第五の禍は、過ぎ去った。

 見よ、この後、なお二つの禍が来る。

 第六の御使がラッパを吹き鳴らした。

 神のみまえに金の祭壇に四つの角があり、

 ラッパを持つ第六の御使に呼びかけるのを聞いた。

 「大ユウフラテ川のほとりにつながれている四人の御使を解いてやれ」

 “その年” “その月” “その日” “その時”

 四人の御使が人間の三分の一を殺すため解き放された。

 わたしは、騎兵隊の数が二億であると数を聞いた。

 ベオグラードの教会

 「・・・皆さん、この美しきベオグラードに災厄が訪れようとしています」

 「天から落ちる星は人の事です」

 「人は内なる闇の誘惑に負けたとき落ちるのです」

 「奪う者が人の気持ちを理解できなくなれば社会全体が暗く覆われるでしょう」

 「底知れぬ処の使いを王に頂くイナゴは、金のような冠を被った強欲な者たちです」

 「すなわち、多くが欲に駆られた者であり、財欲、支配欲に突き動かされた者たちであり」

 「その様相から権力者、資本家、軍部で、彼らが引き起こす恐慌です」

 「財欲の暴走により引き起こされた世界恐慌による民衆の苦痛は大きく」

 「破産した者たちは、死を望んでも得られないほどです」

 「また貧しさは、増大する軍隊の負担を象徴するものです」

 「この中にも多くの財を税で取られた者がいるでしょう」

 「しかし、第五のラッパは吹きならされており」

 「既に第六のラッパも吹きならされました」

 「その年、その月、その日、その時の4つの御使いは、私たちの寿命です」

 「もうじき、わたしも含め、あなたの、そばにも近付くでしょう」

 「私たちのうち、3人に1人は命が失われるかもしれません」

 「予言は、額に神の印がない人たちに害を加えてもよいと言い渡された。のです」

 「ですが死は誰にでも訪れます」

 「本当に恐れるべきは、不公平な死でなく、肉体の死でもないのです」

 「額に神の印がある者は、死が迫り、死ぬ事があっても救われるのです」

 「神の人として歩み、神の人として逝くべきです」

 「己の地位、名誉、財産のためだけ生き」

 「己の保身ためだけに死んで逝くことが怖いのです」

 「それは、この世での価値であって、自身の身を悪魔に手渡している生なのです」

 「では、皆さん、時間が迫っています」

 「悔い改めるべきは、それぞれに悔い改めてください」

 「説教を終わります。心安きに避難してください」

 信者たちがぞろぞろと去っていく。

 武器を持つ者はいない、

 それでも戦う者は、北と南のどっちと戦うか惑い、

 逃れる者も、北と南のどちらに逃げるのか惑う、

 誰も彼も、どうしていいのか分からず途方に暮れる。

 巨大な大国の争いに巻き込まれた弱小国は哀れであり。

 どちらが勝っても支配されるのだった。

 !?

 神父の裾を引っ張る子供がいた。

 「なんだね、ぼうや」

 「神父様。ねぇ ラッパの話しはもう終わり?」

 「最後のラッパは?」

 「まぼろしの中・・・」

 「馬に乗る者たちは火の色、青玉色、硫黄の色の胸当てを身に着けていた」

 「馬の頭はししの頭のようであり」

 「口から火、煙、硫黄の三つの災害を出して、人の三分の一は殺される」

 「馬は、口と尾に力あり」

 「蛇に似た尾の頭。国益や権力を嵩に着た者が人に害を加えるのである」

 「災害で殺されず残った人々は、自分の手で造ったものを悔い改めようとせず」

 「悪霊の類と」

 「見ること、聞くこと、歩くこともできない金、銀、銅、石、木で造られた偶像を礼拝し」

 「やめようともしなかった」

 「生き残った者は、その犯した殺人、まじない、不品行、盗みを悔い改めようとしなかった・・・」

 「ぼうや。救いがないので言うのをやめたよ」

 「そう・・・」

 「だけどね。第七の御使がラッパを吹き鳴らす時」

 「神がその僕、預言者たちにお告げになった通り、神の奥義は成就される」

 「だから、ぼうや、元気を出すんだ」

 少年はトボトボと教会を出ていく。

 「幸運を・・・」

 

 

 

 戦艦リシュリュー、大和、武蔵は、インド洋から喜望峰を回り、南大西洋を北上していた。

 後方に商船隊が並び

 周囲を護衛艦、掃海艇、駆潜艇が守っていた。

 420トン級駆潜艇 58号 艦橋

 「やれやれ、戦艦をお守りするためにわざわざ喜望峰を回らないといかんのかね」

 「Uボートが襲撃して来たら戦艦でなく商船を守っていいのかな」

 「戦略的に正しくても出世できないような気がしますよ」

 「冗談じゃないよ。大和と武蔵を往復させるために何隻のタンカーがいるのやら」

 「ニューギニア開発の機材を送った方が長い目でマシかも知れませんね」

 「運用できないのに、何で建造したんでしょうね」

 「まぁ 日本近海専用の砲艦かな」

 「理性的に作られた戦艦じゃなく、浪花節で造られた戦艦だよ」

 「能力の無駄使いしやがって」

 

 

 大和 艦橋

 政府外交特使がブスくれる。

 この頃の日本は、背広組が制服組の上位者であり、

 少し勇ましかった。

 「リシュリューが先頭なのが気に入らん」

 「リシュリューは、艦首砲しかないのですから理にかなっているのでは?」

 「射程距離は大和、武蔵の方が長いと聞いてる」

 「射程距離は命中距離ではありませんよ」

 「大和、武蔵の主砲散布界は怪しいですからね」

 「もっと訓練をすればいいのだ」

 「砲身命数250発です。そんなに訓練できるわけないでしょう」

 「長門の410mm砲に合わせておけばよかったのだ」

 「八八艦隊の大砲が余っていたのだ」

 「410mm砲3連装4基なら、もっとスリムに出来て燃費が良く、砲弾もたくさん撃てた」

 「イギリス配備なんて誰も考えませんでしたからね」

 「それでも、ああいう小さい戦艦の後ろなのが気に入らん」

 「本艦は活躍できますかね。先遣隊は艦砲射撃ばかりだったと剥れてましたよ」

 「空母ばかりが格好つけているそうだな。戦艦の方が強そうなのに・・・」

 「イギリス海軍は、大和、武蔵の回航で目を回したそうですよ」

 「この威容だ、さもあろう?」

 「いえ、運用経費です」

 「・・・・」

 イギリス戦艦部隊と日本派遣戦艦部隊が修理改装中で、

 ドイツ・イタリア・フランス艦隊に対応できなければ、大和、武蔵の回航はなかった。

 「・・・大和も、武蔵も、例の者たちの技で燃料効率が良くなったはずだ」

 「缶圧は蒸気温度も15パーセント増し。過負荷全力だと30ノット出せました」

 「燃費は5パーセント減です」

 「ですが建造時の諸表を見せたら、そのまま信じましたよ」

 「上乗せ分が日本の懐に入るのか、せこいな」

 「現象として、あり得ない部類の範囲ですし、いまの燃費を教える方が疑われます」

 「それでも大和、武蔵が最高機密でなくなっているとはな」

 「長官は沈没しても惜しくないと」

 「やれやれ、そんなにマリーンとグリフォンのライセンス生産が良いかね」

 戦艦大和と武蔵は、人の正気を失わせられるだけの威容を誇っていた。

 

 

 バクーの油田で生成された重油とガソリンが陸路を通りタンカーに乗せられていく。

 燃料があれば、武器弾薬を製造するエネルギーとなり、

 輸送を増大させ前線の兵力を増やすこともできた。

 黒海からカスピ海に至る旧ソビエト領をドイツ軍から回復したのは日本の上陸部隊であり、

 日本は3つの国の権益を持っていた。

 グルジア(69700ku)

 アゼルバイジャン(86600ku)

 アルメニア(29800ku)

 その他係争地(4400ku)

 合計面積190500ku

 なぜこれらの権益が日本に・・・

 これは、厄介な事にトルコの参戦理由が大カフカス山脈以南の領有であり、

 ソビエトの主権放棄の了承事項が全権益の日本引き渡しだったのである。

 こうして、トルコの国内でありながら、完全自治のカフカス連邦が誕生してしまう。

 日本の政府関係者が何人もの通訳を介し、現地民と交渉して利権分けを行う。

 日本政府も現地有力者を味方につけなければ何もできず。

 事情さえ、伝えれば、一定の協力は得られた。

 日本の権益がなければ、カフカス連邦の国際法的な保障もなくなり、

 北のソビエトと南のトルコに挟まれた小国の集まりに過ぎないのである。

 自治を保てるのならと不承不承に3ヵ国が集まり、

 カフカス連邦共和国となっていく。

 カフカス連邦軍とは日本軍の事であり、

 連邦をまとめる連邦警察も日本警察だった。

 グルジア ゴリ

 「ここがスターリンの祖国で、生家?」

 「靴屋だったらしいよ」

 「整地して観光名所にしないと・・・」

 「うんうん」

 通信兵が来る。

 「おい、ドイツ軍がスターリングラードから後退を始めたらしい」

 「バクー油田のうまみが消えて戦意を落としたかな」

 「トルコ参戦で戦線の縮小だろう」

 「じゃ カフカス山脈の北側までソビエト軍が押し返してくるな」

 「ああ・・・」

 

 

 アルメニア エレバン

 イギリス空軍の派遣観測機15機が並んでいた。

ブリティッシュ・テイラークラフト オースター観測機
hp 自重/全備重 全長×全幅×全高 速度 航続距離
130 500/840kg 10.92×8×2.43 240km/h 402km

 戦争中に何をしているのだろうと日本軍でさえ、いぶかる。

 しかし、戦略的な意義もあるのか、イギリス空軍の観測機は飛び立って行く。

 日本人たち

 「何しに行くの?」

 「ノアの箱舟探し」

 「何で?」

 「ソビエト連邦に対し優位になれるのと、キリスト教世界に対する伯付け」

 「アホくさ」

 「高度が足りないから飛行艇も出すらしいけど、戦争中に何やってるんだか」

 「・・・とりあえず、バクー油田をパイプラインで黒海まで届けることだろうな」

 「あとは発電ダムを起こして、工業を発達させて、自衛させられればいいか」

 「まぁ 産業が大きくなれば日本軍、日本警察の駐留費用ぐらい出せるだろう」

 

 

 

 バルカン戦線

 カレー缶詰の載った列車を追いかけるように、インド軍の行進は早まっていく。

 戦線から硝煙に混じってカレーの匂いが漂っていた。

 インド軍将兵は前線にカレーの缶詰があると知ると、早駆けとなって前線に押し寄せる。

 キングタイガー戦車、パンター戦車は世界最強であり、いかなる敵戦車も撃破できた。

 そして、Me262戦闘機、Ta152戦闘機は、いかなる米英ソ連合機も撃墜できた。

 しかし、ドイツ軍陣地は、何本かの長い線に過ぎず、

 押し寄せるインド軍の波に沈められそうになるたび、後退しなければならなかった。

 ドイツ軍陣地

 「おい、パンジャンドラムを攻撃するな」

 「司令。無茶言わないでください」

 「パンジャンドラムにカレーの缶詰が入ってる」

 「えっ!」

 「カレーの匂いが撒き散らされ、味方の補給基地と勘違いしたインド軍の前進が早まるぞ」

 「司令、地平線の向こうまで、インド兵がいますよ」

 「まるで軍隊アリだな」

 「ええ・・・」

 「弾薬の補給は?」

 「まだです」

 「・・・川の対岸まで後退だ。火力支援を急げ」

 ドイツ軍は、反撃しながら橋を渡り切ると、鉄橋を爆破。

 この日、ベオグラードが陥落する。

 その後、日英印土軍の目標は、二つに分かれ、

 ドナウ川・トランシルバニア山脈戦線が構築されていく。

 カルパティア山脈に沿って北上してロシア軍と合流する北東方向と。

 ドナウ川沿いに北西に進み、ウィーンに至る方向に分かれていく。

 

 カルパティア山脈(450m〜1800m)は、冷え冷えとした空気を吹き降ろしていた。

 日英土連合軍

 「ルーマニアは、金、銀、銅、鉛、鉄鉱石、水銀、石油、石炭、岩塩が豊かだそうだ」

 「凄いですねぇ それだけあれば戦争しなくてもよさそうなのに」

 「どうかな、民衆が力を付けると権力者が脅え、国家が弱いと国民が怯える」

 「結果的に資源があっても不道徳が多いと国家は発展し難い。そんなところだ」

 「後進性の強い国は、どこも、そうなんでしょうね」

 

 

 

 中国大陸

 アメリカ信託統治領 朝鮮・満州と租界地の流通機構の利権は大きく。

 アメリカは、中国全域にアメリカ製品を流通させる。

 中国大陸は、麻薬が蔓延し、

 軍属と少数民族たちが力を付け、

 保身と権益を守らんと資源を採掘し武器弾薬と交換し私兵を強大化させていく。

 結果的に中華民国の統制から離れ、バラバラにされていた。

 中国社会は、治安の悪化で民衆の間にも護身用の拳銃が売れ出し、

 それがさらに治安を悪化させる負の連鎖に入っていた。

 「モンロー主義は、欧州の悪癖からの決別だからね」

 「戦争なんて野蛮だし。人が死なないのが良いねぇ」

 「ところで欧州戦争は、どうなってるのかな」

 「両陣営とも消耗し切ってるし、もう限界じゃないかな」

 「じゃ 戦争が終わる頃には、アメリカがトップか」

 「日本の工業力が伸びてるよ」

 「いまのうちだよ。どうせ、資源なんてないし、日英同盟なんて、状況次第だし」

 「カフカス連邦の権益を押さえているみたいだけど?」

 「バクー油田か・・・」

 「あと中東油田も権益分けされているみたいだし、ちょっと厄介かもしれないな」

 「日英同盟は邪魔だな」

 「しかし、朝鮮半島を押さえている。日本は、いつでも潰せるよ」

 

 

 

 日英同盟海軍の艦隊は、7つの事情により、稼働率を低下させていた。

  1) Uボートの通商破壊による運用物資、運用効率の低下。

  2) アメリカ合衆国の極東権益防衛のための親独反ソ政策。

  3) 2度にわたるギリシャ上陸作戦による破損。

  4) スペイン参戦によるジブラルタル陥落と大西洋・地中海の分断。

  5) ヴィシー・フランスの参戦とヴィシーフランス艦隊の通商破壊作戦。

  6) トルコ参戦と黒海からのルーマニア・グルジア同時上陸作戦による破損。

  7) 日本回航による修復と往復の遅延。

 無論、アイスランドとイギリス間の輸送は容易であっても高い買い物であり、

 フランス艦隊は大西洋全域で植民地からイギリスに向かう船舶の臨検拿捕と撃沈をしていた。

 イギリス海軍は制海権を失いつつあり、苦境に立たされていた。

 イギリス救出作戦は、イギリス本土封鎖の解放とフランス艦隊撃滅を目的としていた。

 戦略的価値の高い作戦といえた。

 それでも、7つの海を支配するイギリス人の豪胆さなのか、

 バルカン戦線輸送よりイギリス救出の優先順位は小さかった。

 そのためバルカン輸送作戦で支障のない限度で最大、

 動かせる艦船で適当な艦隊の全力という自己矛盾起こしそうな戦力を持って行われた。

 アフリカ大陸 セネガル フリータウン

 イギリスがフリータウン軍港に拠点を置くのは南アメリカ大陸まで3000kmもないからであり、

 ここを押さえれば、北大西洋と南大西洋を行き来する艦船に対し睨みになるからだった。

 戦艦 クイーン・エリザベス、ウォースパイト

 戦艦 ラミリーズ

 戦艦 金剛、榛名。扶桑、伊勢

 戦艦 リシュリュー

 戦艦 大和、武蔵

 空母 加賀、大鳳、瑞鶴、翔鶴

 空母 インドミタブル、フォーミタブル

 巡洋艦8隻

 駆逐艦30隻

 1号輸送艦15隻、2号輸送艦40隻、

 イギリス大型客船30隻が並んでいた。

 

 大和 艦橋

 「随分、集まったじゃないか」

 「同型艦同士で食い合いさせて、必死に集めたんじゃないか」

 「どこをやるって?」

 「ダカールとカナリア諸島」

 「本格的にUボート基地が建設されるとイギリスが死活問題だそうだ」

 「はぁ〜 ダカールなんてここから900kmも離れてないだろう」

 「インド軍を地上部隊で押し進める余裕がないようだ」

 「自由フランスに交渉させろよ。ヴィシーやめて、自由フランスに来いってさ」

 「自由フランスは、ドゴールの意地だけって感じかな。戦意低いよ」

 「よく戦意が落ちないな」

 「ダカールを落とせばフランス西アフリカ領の半分は押さえたようなものらしい」

 「また、艦砲射撃かよ。それも大和、武蔵で?」

 「今度は、ヴィシー・フランス戦艦とイタリア戦艦が出てくるかもしれないらしい」

 「ほぉ・・・」

 「権益やるから戦艦を捨てる気でやって欲しいそうだ」

 「ドゴールが怒るだろう」

 「自由フランスも国益より、保身と生存圏確保のために戦い始めてるからな」

 「やれやれ・・・」

 

 

 アメリカ極東信託領(朝鮮・満州)

 ソウル 朝鮮総督府

 「もうすぐ、戦争が終わるらしい、いまのうちに朝鮮民族の居留地を縮小した方が良いな」

 「それは確かですか?」

 「もちろん居留地は全部潰して、朝鮮人を満州追いやるのだ」

 「い、いえ、戦争の方・・・」

 「まぁ 上からの話しだ。およその調整が付いているのだろう」

 「・・・第二次世界大戦が終わりだと、何とも寂しいですね」

 「第二次世界大戦?」

 「どこの国がそんな厚かましいことを言ってるのだ」

 「えっ」

 「アメリカが参戦していないのだから欧州大戦だよ」

 「ええ、まぁ そうでしょうが・・・」

 「朝鮮人がいなければこの半島をアメリカのステーツにしても良いだろう」

 「アメリカ人が極東の半島に移民されるので?」

 「んん・・・人口が足りなければ日本人に家と土地を貸してやっても良いだろう」

 「我がアメリカ合衆国国民は左団扇の打ち出の小槌。金の生る木」

 「勤勉で従順な労働者を欲している」

 「じ、実に壮大な計画で・・・」

 

 

 

 カナリア諸島沖海戦

 自由フランス戦艦リシュリューがスペイン領カナリア諸島を攻撃する、

 日英同盟の作戦は、ヴィシー・フランスとスペインの関係を悪化させるためであり、

 ドイツ第3帝国を主軸とした同盟関係を崩す策略だった。

 そして、ヴィシー・フランス戦艦ジャン・バールがカナリア諸島を守る。

 これは、ヴィシー・フランスがスペインとの関係を良好を保つためであり、

 国際外交政治上における予定調和と言える。

 ドゴール・フランス艦隊とペタン・フランス艦隊の海軍将兵は、その予定調和に則り。

 カナリア諸島沖海戦は、戦略・戦術的な艦隊機動が制限されており、

 不自然な法則に支配されて始められる。

 戦艦リシュリュー VS 戦艦ジャン・バール

 相対距離33000m。

 両艦とも50口径381mm4連装砲2基を艦首に配置した同型艦であり、

 T字戦はあり得ない。

 互いに艦首を相手に向け、まっすぐ進んでいく。

 正面の敵戦艦との相対距離に合わせ、

 互いの砲塔が微妙に仰角を落としていた。

 戦艦リシュリュー 艦橋

 観測員が刻々と変化する相対距離を伝えていた。

 「・・・どうやら、単艦同士の戦いになりそうです」

 「ここまでお膳立てして、邪魔をする無粋な海軍将兵はいないだろうな」

 「では期待通り、戦わざるを得ませんね」

 「艦長。撃ちますか?」

 「距離は?」

 「・・・距離28300m」

 「砲弾の初速は785m/s、舵を切って艦が回頭し離脱するまで約40秒」

 「つまり、砲声と同時に回頭して避けられる距離は31400m」

 「この距離まで来たら砲声が聞こえて回頭しても間に合わない」

 「ですが増速は、もっと早く効き始めます。あと危険ですが逆進も・・・」

 「その通りだ。いつでも撃てるようにしておけ、初弾を撃ってから正念場になる」

 「ふっ しかし、まるで、昔の馬上槍試合だな」

 「向こうもそう思っているかもしれませんね」

 「フランスの主力艦は戦艦でなく、戦列艦だ」

 「戦列艦の戦い様を列強海軍に教えてやろう」

 「副長。ジャン・バールの艦橋指揮所は狙うな」

 「はっ よろしいので・・・」

 「悔いはない」

 「艦長。お供します」 敬礼

 

 「最大戦速、面舵6度!・・・・・撃て!」 戦艦リシュリュー

 「最大戦速、取舵7度!・・・・・撃て!」 戦艦ジャン・バール

 第1斉射は、相対距離20000mからであり。

 双方とも距離20000mを狙っていたように砲弾を発射する。

 そして、両艦とも舵が利き始める直前に主砲を撃ち、

 互いの初弾の砲弾は、回頭する前の海域に水柱を立ち登らせた。

 リシュリューとジャン・バールは、僅かに蛇行を繰り返し、

 砲撃しながら高速で接近する。

 第2斉射

 第3斉射

 時に砲弾が命中し、衝撃で艦を震わせ、爆炎を上げさせる。

 第6斉射

 リシュリューとジャン・バールは、炎上し満身創痍となりながら砲撃を続け・・・

 第8斉射

 相対距離12000m。

 第9斉射

 ほぼ同時に放った8発の砲弾は、785m/sの速度で弾道を描き、砲弾16発が擦れ違う。

 砲撃から15.3秒後、互いの砲弾が艦首砲塔から構造物まで根こそぎ破壊し・・・

 「「総員退艦!」」

 リシュリューとジャン・バールは、艦橋ごと崩れ落ち、制御不能に陥っていた。

 両艦とも機関と舵は、健在であり直進する。

 救命胴衣を付けた将兵は、スクリューに巻き込まれないよう、遠くに飛び込んでいく、

 そして、双方の将兵は、海面に浮かぶと、接近していく2隻の戦艦を見守る、

 2隻の戦艦は、艦首左舷と艦首右舷が衝突、

 金属同士が衝撃と軋轢で削り切り裂かれ爆砕し、大音響を響かせていく、

 両艦とも浮力を保っていた最後の郭壁が破られたのか、

 反発するように擦れ違い、燃え朽ちるように沈没していく。

 この時の映像は、フランス国民に最も衝撃を与えた映像として残されることになった。

 一定の年月だけ国益を守る戦艦が何か大きな別の価値に変換されていた。

 この戦いは、フランス国民の精神的な支柱となり。

 直接フランス人と相対すれば、騎士道的な背景と尊敬を感じさせる。

 脆弱なはずのヴィシーフランス、自由フランスは、外交で有利な材料を得てしまう。

 

 

 戦艦 大和、武蔵 (45口径460mm×9) × 2

      VS

        戦艦リットリオ (50口径381mm×9)

        戦艦ストラスブール、ダンケルク (52口径330mm×8)×2

        旧式戦艦ジュリオ・チェザーレ、コンテ・デ・カブール (44口径320mm×10)×2

 フランス海軍とイタリア海軍は、大和、武蔵に対する情報に欠けていた。

 リシュリューとジャン・バールは、同型艦同士の一騎打ちだったのに対し、

 大和、武蔵とリットリオの砲撃戦は、不公平を絵にかいたような戦いになった。

 救いがあるとすれば、フランス、イタリア戦艦が高速艦であり、

 ラパルマ島の陰から現れることで、相対距離を縮める事が出来ただけであり、

 相対距離20000mから大和、武蔵を射程内へ入れたことによる。

 もっとも、もちろん、これは、悲劇以外の何物でもなく。

 自らの死刑判決に自分で署名してしまったに過ぎない。

 とはいえ、射程内での砲撃戦で砲数は力であり、砲力と別の加点要素と言えた。

 20000mの距離から撃たれた50口径381mm砲弾は大和を直撃し、

 バイタルパートを撃ち破って破壊する。

 しかし、装甲を破壊したのみで艦内に被害を及ぼせず、致命傷に至らない、

 大和の反撃の砲撃がリットリオに命中すると装甲を撃ち抜き、郭壁を撃ち破り、

 艦中央で大爆発を起こした。

 3つの砲塔はそれぞれ、豪快に吹き飛ばされ、

 いきなり戦闘・航行不能で沈黙する。

 フランス戦艦2隻とイタリア戦艦2隻は必死に大和、武蔵に砲撃を加える。

 しかし、大和、武蔵に爆炎を起こさせるだけで致命傷に至らず。

 大和、武蔵の強大な砲塔がゆっくりと動いて行く。

 「「「「艦橋だ。艦橋に砲撃を集中せよ」」」」 仏伊戦艦4隻。

 仏伊戦艦部隊に当然の命令が発せられた。

 1分30秒の間隔で砲撃が始まる。

 武蔵の460mm砲弾が戦艦ストラスブールに命中した途端、

 バイタルパートが突き破られ、弾薬庫が誘爆を起こして爆沈する。

 武蔵 艦橋

 「第2砲塔、測距儀破損!」

 「第1砲塔と伝導させろ、目測でも良いから撃て」

 「艦首、艦尾とも浸水大! 注排水を急がせろ!」

 「まずな。いきなり射程内に入り込まれるとは」

 「15000m以内だったら、砲数で、こっちが負けていたな」

 「バイタルパート以外は、大損害です」

 「大和は?」

 「4度ほど、傾いているようです」

 「50口径381mm砲弾の威力か、命中弾が少なくて幸いだったな」

 「20000mの距離からですから、バイタルパートも撃ち抜かれますよ」

 大和の460mm砲弾が立て続けに戦艦ダンケルクの第1砲塔と第2砲塔を破壊し、

 そのまま、艦橋まで炎上させる。

 そして、大音響を立てて崩れ落ちるように海に沈んでいく。 

 今度は、武蔵の460mm砲弾がコンテ・デ・カブールを文字通り粉砕し、轟沈。

 大和 艦橋

 「艦長。弾薬庫直上、空が丸見えだそうです

 「装甲が破壊されても内部が無事なら、十分、役目を果たしたといえるな」

 「もう一発、飛び込んだら、大変ですよ」

 「その前に撃沈しよう。残りは、1隻だ。当てろよ」

 武蔵の砲撃がジュリオ・チェザーレを貫き、瞬時に轟沈させてしまう。

 「あとは、上陸部隊に任せて引き揚げよう。雷撃でもされたら本当に沈没させられる」

 大和、武蔵は、それぞれ、50発以上の主砲弾を受けて大破しており。

 吃水14m。

 区画を注水することで水平を保っていた。

 浸水していないのはバイタルパートだけであり、海面は甲板に迫っていた。

 バイタルパートを守り、水没しなかったのは計算通りと言えなくもない。

 その後、日英印軍の上陸作戦によりカナリア諸島は、次々と陥落していく。

 

 

 ダカール

 艦隊が海上を走り回り、爆雷を投射していく。

 海面が吹き上がったかと思うと爆発して、海水を巻き上げさせた。

 あたり一面に爆薬と重油の燃える匂いが混ざった潮風が流れ、

 砲声が空と海に響き渡り、水平線の彼方にまで広がっていく。

 ダカール上陸作戦は支障なく行われつつあった。

 しかし、Uボートの襲撃で上陸作戦艦隊は苦境に陥る。

 そして、ダカール上空を飛ぶ、Me262戦闘機は最強であり、

 Do217爆撃機が投下するフリッツX誘導爆弾は、着実に艦隊戦力を削いでいく。

 戦艦 クイーン・エリザベス、ウォースパイト

 戦艦 ラミリーズ

 戦艦 金剛、榛名。扶桑、伊勢

 Uボートの雷撃とDo217爆撃機の空爆で戦艦は、次々と被弾し、

 大破した戦艦群は沈没を避けるためダカールの海岸線に乗り上げた。

 しかし、ドイツ・フランス軍の反撃は、それまでだった。

 枢軸国の海上輸送力は乏しく、

 この地に日英上陸作戦艦隊を敗退させられるだけの戦力を運ぶことができなかった。

 ダカールに上陸した日英印軍は、独仏軍の頑強な抵抗に出会い消耗していく。

 扶桑 艦橋

 「艦長、火災を消火しました」

 「生き残った第2、第3、第4砲塔をダカールに向けろ。全弾撃ち尽くせ」

 「関係のない部署の者は、負傷者の救助だ」

 「くっそぉ〜 これだけの損失。割に合うんだろうな」

 「損失補償は、ニューギニア・北樺太の代金から天引きだとか」

 「ふっ 損失は込み済みか」

 「何か空しいですね。代金前払いなんて、政治家の掌で踊らされているようで・・・」

 「伸るか反るかの暴走で、獲らぬ皮算用で戦うより、はるかにマシだろう」

 「まぁ そうではありますがね」

 「少なくとも軍は作戦行動以外の責任を取らされなくて済む」

 

 

 バルカン戦線

 日英機甲師団は初期の上陸作戦と続く侵攻作戦によって疲弊しており、

 インド軍の人海戦術を主力とした浸透戦術が基本戦略だった。

 そして、ドイツ軍は人海戦術用に備えた戦線へと移行していく。

 4号戦車以上の戦車は、ほとんどが東部戦線へと送られ、

 バルカン方面の主力戦車は3号戦車であり、2号戦車でさえ配備されていた。

 強力な4号戦車は、僅かしか配備されていなかった。

 一方、イギリスは戦略爆撃より、バルカン戦線からの侵攻作戦を主としていた。

 そのため陸軍装備の比重は開戦前より、高くなっていた。

 そして、日英機甲師団20個師団が再建され温存されており、

 バルカン半島の山道を秘密裏に抜けたのである、

  重量 馬力 全長×全幅×全高 速度 航続力    
チャーチル 38.5 350 7.3×3.2×2.4 25km/h 90km 31口径87.6mm 7.92mm×2
クロムウェル 27.5 600 6.35×2.91×2.49 64km/h 278km 40口径75mm砲 7.92mm×2
チャレンジャー 33 600 8.71×2.90×2.77 56km/h 260km 58.4口径76.2mm 7.92mm×1
コメット 33 600 7.77×3.04×2.67 50km/h 250km 60口径76.2mm 7.92mm×2
センチュリオン 52 650 7.60×3.39×3.01 34km/h 450km 58.3口径76.2mm 7.92mm×2
 
3号戦車 22.7 300 6.41×2.95×22.7 40km/h 155km 60口径50mm 7.92mm×2

 日英機甲師団は、バルカンの山岳地帯を抜けるとハンガリー大平原を疾走し、

 ドイツ軍陣地へ大攻勢を開始する。

 ドイツ軍陣地

 「ばかな。夜襲ではないのか」

 「火力支援、煙幕、パンジャンドラムのあと、浸透戦術のはず」

 3号戦車は次々と撃破され、

 反撃してくる4号戦車、M4戦車は、多勢に無勢で破壊されていく。

 緊急輸送で送られてきたパンツァーファウスト部隊を相当すると、

 日英機甲師団はブタペストとウィーンを制圧してしまったのである。

 バルカン戦線が崩壊したドイツは、戦線を守るための戦力を喪失し、

 日英同盟軍も戦力が枯渇したのだった。

 ドイツ帝国は、広がり過ぎた戦線を維持できなくなっていた。

 本土を守るには東部戦線で大幅に後退するしかなく。

 東部戦線を維持しようと思えば・・・

 日英軍はウィーン・ブタペスト占領。

 「・・・将軍。ドイツ陣地から白旗が近付いています」

 3台の重装甲偵察車SdKfz234が白旗を掲げてウィーンに入る。

 日英ソ土連合と独伊西東欧同盟は、停戦交渉に入り、

 

 

 ユーゴスラビア、ルーマニア、ブルガリア、アルバニア、ギリシャ。

 日英土同盟が占領している5ヵ国の権益圏が形成されていく。

 もっとも、インド人は撤収しなければ、内戦必至であり、

 バルカン連邦の調整が始まる。

 

 

 モスクワ

 勝っても負けてもソビエトは粛清だった。

 日英土軍のカフカス上陸とバルカン攻勢で東部戦線の反攻は目処がついていた。

 スターリングラードのドイツ軍の後退が始まっている。

 しかし、ソビエト軍は、数に任せてドイツ軍を押し切りたくても簡単にいかない。

 スペイン参戦で枢軸同盟が得たM4戦車が東部戦線を支えていた。

 アメリカは、スペイン参戦に関与していないという。

 大嘘だった。

 どんなにお人好しでも信じないだろう。

 ドイツは、ウクライナとベラルーシの独立でアメリカと取引している。

 スターリンは、直観的に悟っていた。

 しかし、日英土軍は、バルカン攻防戦で優位な地歩を確保して講和を欲し始める。

 日英同盟は講和に前向きになっており、単独でドイツと戦うのは危険だった。

 そして、日英土・独伊西が講和を結べば、アメリカ参戦を躊躇させるモノは減る。

 いくら民主主義が戦争を望まなくても、資本家の強い誘導もあった。

 天秤が傾けばレーニングラードにアメリカ軍の上陸もありえた。

 ソビエト連邦は、妥協し講和を結ぶよりなく。

 スターリンは、自らの権力を維持するため粛清を続けなければならなかった。

 どの道、東欧、極東の防衛強化は必要だったのだ。

 東部戦線

 ベラルーシ、ウクライナ独立、

 フィンランドのカレリア、レーニングラード併合。

 ドイツのエストニア、ラトビア、リトアニア併合が決まっていく。

 

 

 イギリス北アイルランド

 ベルファスト港はノース海峡を挟んでイギリス本土の対岸にあった。

 ハーランド&ウルフ社は巨大な乾ドックを持っており。

 オリンピック号、タイタニック号、ブリタニック号を建造した造船所であり、

 造船業界で有名な会社だった。

 イギリス海軍将校と技術者たち。

 フィルムが回り、映像が映し出されていた。

 大和、武蔵がイタリア・フランス艦隊を砲撃していた。

 彼らが見ているのは、大和の艦砲でも装甲でもなかった。

 艦首波の大きさと煙突から出る煤煙だった。

 「・・・たぶん、30ノット出てるよ」

 「使われている機関は、初春型駆逐艦艦本式高低圧タービン」

 「1軸当り21000馬力。長期信頼性向上のため約90%落としている」

 「1軸2組なので18750馬力×2=37500馬力になり」

 「これを4軸を合わせると12缶搭載で合計150000馬力となる」

 「バルバス・バウと過負荷全力時出力を差し引いてもあり得ない速度だ」

 「そもそも、煤煙をみれば過負荷全力時出力を出していない事は明白だよ」

 「機関室には入れたかね?」

 「確認のため一回りしただけで、この速度を出せるようなものは何一つ無い」

 「熱と圧力に耐えられるように補強しているのでは?」

 「艦本式の複製元はトリプルフロー系だ。日本人より、我々の方が理解している」

 「圧力限界の想像はつくよ」

 「それにバイタルパートは、副砲など一部を除いて被害を受けてなかったからね」

 「遠征と砲撃で燃料、食糧、弾薬を消費して、艦体が軽かったのでは?」

 「吃水線を含めて異常だと思うね」

 「それにフルの165000馬力でもこの速度は出ないだろう」

 「風は?」

 「旗を見ると右舷後方から当たっている。それほど強い風ではないな」

 「取り敢えずだ。この秘密がわかるまで日本との関係を良好にすべきだと思うね」

 「んん・・・」

 

 建造途上の船舶が引き出され、損傷した大和、武蔵が入坑する。

 海水が抜かれ、防錆作業と修理改装が行われていく。

 日本軍将兵は、他の日本軍艦艇に見られないほど神経質にイギリス人の工員を見守る。

 「素材を調べられるとばれるのでは?」

 「魔法は、機関、溶接、リベットの補強だけ、装甲は行っていないはずだ」

 「不幸中の幸いですね」

 「一番魔法が掛けられている機関も無事のはずだ」

 「日本の鋼材で5パーセント増しなら、イギリスの鋼材といい勝負なのでは?」

 「それなら構わんがね、元々の鋼材でイギリスを追い抜いていたらことだぞ」

 「魔業が勘ぐられたら、ヤバ過ぎますね」

 「いっそのこと、沈んでくれたら良かったがな」

 「Uボートのヘタレが肝心な時に出て来ん」

 「イギリスが護衛艦で周囲を囲んでくれましたからね」

 「沈むと天引き分が大きくなるからな」

 「そ、それだけじゃないと思いますがね」

 「まぁ この戦争で金剛型と扶桑型の8隻だけでも使い潰せて良かったよ」

 「補償付きの戦争がこれほど気が楽だとは思いませんでしたよ」

 「イギリス工員が溶接個所とリベットを持ってきて、これはなんだと聞かれたら、なんて応えれば良いんだ」

 「そんなに凄いんですか?」

 「説明できないくらいな」

 イギリス人たちが入室してくる。

 「いや、素晴らしい大戦艦ですな。我が国が完全に元に戻せますよ」

 「い、いや、応急処置だけでも・・・帰還すれば補修部品もありますし」

 「いやいや、我が大英帝国は恩知らずではありませんよ」

 「ハーランド&ウルフ社もね。完璧に元に戻してみせますよ」

 「45口径460mm砲も近いモノを製造した事があるので、命数が伸びることになるでしょう」

 「・・・・」 たら〜

 「時に・・・かなり歪な・・・」

 「そう・・・新旧合わせた技術が使われているようですな」

 「そ、そうでしょうか、2回に分けて作った記録はありませんが・・・」

 「そうでしょうとも、艦底に近い側の接合は神業」

 「しかし、吃水線より上は、そうでもない」

 「新しい技術が先に使われ、古い技術が後から使われることなどないはず」

 「是非とも製造のコツをお教えいただきたいものですな」

 「い、いやあ、きっと、砲撃戦の衝撃のショックでしょう」

 「普通は衝撃で結合部の離脱が始まるのですがね・・・」

 「あははは・・・」

 「・・・まぁ 良いでしょう。可能な限り元以上にして見せますよ」

 「あっ 対空砲なら45口径114mm砲か、50口径94mm砲」

 「あとボフォース60口径40mm機関砲なんてどうです?」

 「サービスしますよ」

 「そ、それは是非・・・」

 『いいんですか?』

 『イギリス製艦砲なら問題ない、上甲板より上なら構わん』

 「あと、護衛していた駆逐艦の報告ですが・・・」

 「カナリア沖海戦の砲撃戦中・・・」

 「大和、武蔵は30ノット以上を出し・・・」

 「煙突の煤煙は、それほど黒くなかったそうですが?」

 「ま、まさか」

 「き、きっと、大きいので観測を間違ったのでは?」

 「まぁ 確かに海流のせいかもしれませんし」

 「せ、戦闘中の勘違いは良くあることですから・・・」

 「そ、そうですよ。大和と武蔵が海流に逆らって30ノットなんて、出せるわけがない」

 「そうでしょうな・・・」

 「それで・・・最高、何ノットでしたかな?」

 「え! ・・・あ・・・2・・・28ノット以下ですよ。たしか・・・な・・」

 「そ、そうでした。たしか、少しだけ28ノット出したかもしれません」

 「そ、そうですか・・・そうでしょうな・・」

 「「そうですよぉ」」

 「「「「あははは・・・」」」」 疑惑 & 誤魔化し

 

 

 

 オランダ領インドネシア

 オランダ領イリア州売却の対価の半分が戦争でなく、

 オランダ人のインドネシア移民事業に投資されている事は知られていた。

 ジャカルタ港

 日本商船が物資を下ろし、土木建設事業が拡張されていた。

 「日本じゃなく、アメリカにイリア州を売却すべきだったかな」

 「アメリカは不参戦に軌道修正してましたし、極東権益を得てましたからね」

 「参戦してオランダ本国を回復させる戦力としては日本しかありませんでした」

 「ちっ 恥知らずな成り上がりの国だ」

 「生産力小さな国が、よく大日本帝国など名付けられる」

 「問題は、その恥知らずな成り上がり者に助けられないと移民が進まないことにあるな」

 「独伊との講和については何と?」

 「オランダ本国の国防は、ドイツが担う。代わりにインドシナ権益には触れないそうだ」

 「ちっ 本国を人質か」

 「インドシナをドイツにくれてやっても、オランダの完全主権を望みたいがな」

 「そんな事をすれば、日本とイギリスにインドネシアを奪われてしまう」

 「仕方がないか、インドネシアにオランダの基盤を移して再起を待とう」

 「まぁ オランダの旗が日本の出島とアフリカ西海岸のエルミナ要塞しか立っていなかったこともある」

 「その頃よりもはるかにマシだ」

 

 

 1945/08/15

 ウィーン ホーフブルク宮殿

 日英ソ土印諸国 と 独伊西東欧諸国の講和条約調印。

 ウィーンのドイツ返還とオランダ中立化は対だった。

 オランダは、軍事力以外の主権と国土が返還されてしまう。

 軍事力で独立していない国に主権があるのかというと怪しく。

 しかし、国防以外の内政不干渉が定義されていく。

 日本女性が日本軍を前に話していた。

 日本海衛軍 邪馬 ひみこ局長

 “みなさん、御苦労さまでした”

 “戦争は終わりましたがバルカン・カフカス両連邦は、混乱しており”

 “もうしばらく・・・50年間ですが皆さまのお力を必要とすることになりました”

 “国家間の約束です”

 “皆さんは日本軍であると同時に日本国を代表する日本人である事を忘れないでください”

 “では、今後とも、よろしくお願いします” ペコリ

 日本軍将兵は、俺たちがいない間、日本を好きにするつもりだなとか、

 なんで俺たちが居残りなんだよ、とか思いつつ、

 バカ女に言っても仕方がないと従う。

 

 

 赤レンガの住人たち

 「やっと終わったよ」

 「日本は海軍、空軍、陸軍もボロボロ。同盟内の処理もあれこれ残ってるし、これからだよ」

 「そうだった」

 「しかし、大和と武蔵。バイタルパートが助かったからって、良く沈まなかったな」

 「まぁ たぶん、例のやつが効いたんじゃないか」

 「・・・それにしたって、総力戦に巻き込まれて、あの使い方はどうかと思うよ」

 「戦果と損害賠償を含めて、相当な返済になったんじゃないか」

 「ったくぅ〜 ニューギニアと北樺太の購入代金で死んだなんて、大声じゃ言えないよ」

 「だいたい、あれは、軍艦売却で利益を得ようとしたからじゃないか」

 「それがニューギニアと北樺太の売却で逆に借金背負わされてどうするんだよ」

 「欲の掻き過ぎで見境なくしやがって見っとも無い」

 「いま、アメリカが戦争しかけてきたらヤバいだろう」

 「どうだろう。朝鮮・満州利権で詰まってんじゃないの、あそこ不良債権だから」

 「あははは・・・」

 

 

 戦後処理で取り残されたのはフランスだった。

 自由フランス戦艦リシュリューとヴィシー・フランス戦艦ジャン・バールの戦功は大きく。

 ヴィシーフランスも参戦し戦った一点でドイツ帝国から独立を保ち、

 フランス海外領は、独伊同盟の支援を受けたヴィシー・フランスのアルジェリアを残し、

 日英ソの支援を受けた自由フランスの支配圏に入っていた。

 日英連合・独伊同盟とも第三勢力のアメリカ合衆国の介入を恐れ、

 英日ソ連合は、海外フランス領が独伊同盟の勢力圏に入ることを好まず。

 独伊同盟もヴィシー・フランスが敵勢力と連携しないよう妥協を迫られてしまう。

 フランスが実質失ったのはインドシナ(日本)、シリア・レバノン(トルコ)であり、

 参戦したときヴィシー・フランス側に付いた海外領地だけだった。

 フランス領西アフリカとマダガスカルは、自由フランスの戦功が承認され、

 二つのフランスに分かれていることで、

 第一次世界大戦のドイツ帝国のように全ての植民地を失う事はなくなる。

自由フランス (ドゴール) ヴィシー・フランス (ペタン)
南米ギアナ ヴィシー・フランス
アフリカ

フランス領西アフリカ

アルジェリア

 ベナン、ギニア、コートジボワール、

 

 マリ、モーリタニア

 

 ニジェール、セネガル、ブルキナファソ

 
カメルーン、仏領赤道アフリカ  
マダガスカル  
南米

南米ギアナ、マルティニク、グアドループ

 

南太平洋

ニュー・カレドニア、仏領ポリネシア、  
ニューヘブリデス諸島、サンピエール島・ミクロン島  

 

 タイ王国バンコク

 フランス領インドシナに日本軍が上陸するとタイ王国は、ラオス王国の主権の返還。

 そして、カンボジア王国バッタンバン・シエムリアプ両州の返還を求める。

 インドシナ最大勢力はバオ・ダイ大帝であり、

 民衆側で力を付けていたのはホーチミンといえた。

 戦後の日本は、経済と軍事的で余裕がなく、

 インドシナを占領しても維持は、困難になると試算しており・・・

 日泰協議の合間

 「御苦労だったね。君たち」

 「向こうにトムヤムクンを準備しているから行ってきなさい」

 「「は〜い」」

 魔法で心は変えられない。

 しかし、ちょっとしたイタズラで代表を気落ちさせたりはできた。

 結局、アメリカもタイ王国がごねなければ、付け入る隙もなかった。

 「あまり露骨にやると、疑われないか?」

 「まぁ 日本人が少し運が良いくらいに思われるなら良いよ」

 「それくらいで済めばいいけどね」

 「しかし、インドシナなんて、他にも大きな利権があるのに・・・」

 「まぁ 放置したかったんだけどね。ヴィシーフランスが宣戦布告してくるから」

 「宣戦布告した相手はイギリスじゃなかったっけ」

 「同盟国だし、参戦義務はあるよ」

 「タイ王国は、アメリカからM4戦車を購入し始めているからまずいよ」

 「センチュリオン戦車の方が強い」

 「そういう問題じゃないよ。金の問題だよ」

 「だから、インドシナにセンチュリオン戦車を売って、荒稼ぎ」

 「そっちかよ」

 インドシナ連邦独立。

 日本は、独立させてやるから土地よこせというやつで、

 ベトナム半島南端の島(800ku)の譲渡で済ませてしまう。

 

 

 

 インド

 インドの独立とインド(ダリット)軍は、二律背反の対だった。

 日英同盟の派遣軍募集に応じたのは、多くがダリットであり、

 武装しているインド軍最強の欧州派遣(ダリット)軍500万が帰還すると、

 カースト制はたちまち崩壊していく、

 なにしろ搾取する相手が武装していては、搾取できず。

 イスラム教の強いパキスタン、バングラディッシュが反旗を翻していく。

 イギリスは約束通り、インドの独立を承認。

 インドを混乱の渦に陥れていく。

 インド サーシュティー島 ムンバイ港

 戦艦 デューク・オブ・ヨーク。

 重巡洋艦 那智

 那智 艦橋

 「随分と荒れているじゃないか」

 「藩王国は、日本でいうと藩主みたいなものだ」

 「徳川に幕府に当たるイギリスが引けば当然混乱するよ」

 「じゃ ガンジーは日本で言うと坂本龍馬か、暗殺されそうだな」

 「問題は、ダリットの武装放棄で階級闘争も同時に起きてることかな」

 「イギリスはどうする気かな」

 「自滅するのを待っているんだよ」

 「イギリス支配じゃなければインドは駄目だって?」

 「イギリスにとってインドは大英帝国の生命線。金の生る木だからね」

 「それで、独立させるくらいなら、ダリットを武装させて階級闘争でインド社会を転覆かよ」

 「酷い話しだね」

 「オランダのインドネシアだって同じだよ」

 「オランダ王族とオランダ人は、インドネシアに移転中だからね」

 「主権は回復したんじゃなかったっけ」

 「軍事力をドイツ軍に頼って独立じゃ面白くないらしい」

 「それなら国家基盤をインドネシアに移した後、軍事的な独立を果たそうとしているんだよ」

 「まぁ 金になるのなら、何でもいいや」

 「それより、ビルマの方は大丈夫なのか?」

 「なんで?」

 「アメリカがチョッカイ掛けて独立させようとしているんじゃないの」

 「やろう、さっさとフィリピンを独立させりゃいいものを・・・」

 

 

 09/09

 米独相互安全保障条約調印

 第二次世界大戦を終わらせたのは、アメリカ合衆国の外交圧力と言えた。

 人工需要を求め、欧州戦争が起こるように誘導する。

 無論、陰謀を行使できる構想、財力、権力があるだけであり、

 確率的に可能性が高いだけであって、

 陰謀は、絶対的なものでなく、相対的に過ぎない。

 日本が大陸権益をアメリカ合衆国に転売した時、当初のシナリオは狂わされていた、

 欧州戦争による戦争需要も必要なものでなくなっており。

 収拾を付けるために要した年月は、陰謀が絶対的なものでないことを証明していた。

 アメリカとドイツ第3帝国が同盟条約を結んだのは、極東権益防衛のためだった。

 日英ソ連合の結束は強まり、反発するように米独同盟の結束も強まっていく。

 主義主張を異にする呉越同舟が戦線を同じくし、

 主義主張を共感し合う者同士が同属嫌悪する。

 戦後、国際情勢が組み立てられていく。

 識者は、歪で捻じれた国際関係を利権が良識に勝ったと嘆き、

 捻くれ者は “むかしから” と応えた。

 調印後、ヒットラー総統は引退していく。

 米独同盟の条件がヒットラー総統の引退であり、

 それがなければ、米独同盟と日英ソ連合の関係はもっと緊張関係になっていた。

 少なくとも米独同盟と日英ソ連合は、勢力均衡であり、

 国際緊張は緩やかに後退していく。

 

 

 戦後の日本は、イギリス、ソビエト、トルコと良好な関係を結びながら発展していく。

 中国大陸の利権を全て失ったものの、アメリカとの交易は拡大しており、

 ドイツとイタリアとも関係を修復しつつあった。

 日英同盟が最大の問題としていたのは、バルカン半島であり、

 日英同盟は、ウィーンをドイツに返還したものの背後に広大な地平が広がっていた、

 ユーゴ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、アルバニア、ギリシャ・・・

 どの地域もインド軍の撤収を願っており、

 イギリス、トルコ、ソビエト、ドイツの支配を望んでいない。

 しかし、大国に翻弄され、容易に侵略された事は生々しく、

 ドイツ軍の強制も、トルコの宗教も、ロシアの恐怖も、ごめんだった。

 弱小国群が残されればもう一度、欧州の火薬庫となってしまう事は明白だった。

 そして、各国・諸民族が嫌なモノを消去法で消していくと日本が残されるのであり。

 この結果は、カフカス連邦と同じ、

 他勢力に取られるよりマシと日英ソ土で不承不承に承認され、

 50年間のバルカン安全保障協定が調印される。

 法律は基本的人権など個人の権利が大まか認められていた。

   1) バルカン諸国防衛は、日本軍18個師団により統合管理される。

   2) 各国の国境は開戦以前とし、差別は撤廃される。

   3) 交戦権は、国境侵犯に対してのみ発動される。

   4) 国防費は、バルカン諸国の負担とする。

   5) 日本・イギリス・トルコへの独立保障金は、別項に置いて定められる。

   6) 50年後、バルカン諸国議会で反対多数でなければ協定は5年延長とする。

   7) ハプスブルク皇帝の立憲君主制とする。

   8) 各国は、バルカン共通紙幣を発行する。

   

 そして、日本軍がバルカン半島に駐留することになった。

 ハンガリー

 ブタペストからインド軍が撤収していく。

 彼らは戦功により、階級が上がることが約束されていた。

 そして、駐留日本軍の主力戦車が入れ替わるように入ってくる。

 ドイツ軍をして、バルカン反攻を挫かせたイギリス重戦車。

センチュリオン戦車
重量 馬力 全長×全幅×全高 速度 航続力    
52 650 7.60×3.39×3.01 34km/h 450km 58.3口径76.2mm 7.92mm×2

 センチュリオンは、日本でさえ正式採用になっていない戦車だった。

 しかし、逆襲してきたタイガー戦車を数に任せて葬った瞬間の光景は記憶に新しく。

 日本軍将兵に安心感を与える。

 「インド兵がいきなり帰っていくけど、大丈夫かな」

 「まさか、講和条約を結んでいきなり、戦争はないよ」

 「取り敢えず、バルカン諸国の負担は、駐留費と日本・イギリス・トルコの利権だっけ」

 「自治権は、いいとして、防衛ポスト利権は大きいから、バルカン諸国もかなり悲惨だよね」

 「というか、居残りの俺らが悲惨だよ」

 

 

 キプロス (9250ku)

 地中海を支配する勢力によって翻弄された島だった。

 そして、住民たちは、トルコとギリシャの民族・宗教・言語的狭間にある島であり。

 第一次世界大戦後、オスマントルコからイギリスに支配圏が移り、

 トルコが参戦の代償で求めた島でもあった。

 もっとも思惑通り戦争が進むはずもなく。

 トルコは、シリアとレバノンの制圧と併合で勢力を削がれてしまう。

 そして、キプロスを実行支配しているイギリスもジブラルタル喪失とインド独立を控え、

 採算効率を悪化させていた。

 イギリス、トルコとも単独では、キプロスを押さえるうまみが低下していた。

 キプロス・イギリス軍基地デケリア

 「・・・それでどうしろと?」

 「トルコは、シリアとレバノンに治安部隊を送らなければならず」

 「イギリスもキプロスの維持は、負担が大きい」

 「では、キプロスを独立させるので?」

 「独立させた場合、地中海は、イタリアの海になってしまう公算が強い」

 「トルコ海軍や出来たてのバルカン連邦海軍では、イタリア海軍に劣るだろう」

 「無論、ヴィシーフランス海軍も再建されつつある」

 「難しいですな」

 「そこで、キプロスのアクロティリ基地か、デケリア基地のどちらかを日本で負担してくれまいか」

 「日英同盟でキプロスを維持すると?」

 「日英同盟の両方を相手にケンカを売る国は、少ないと思わないかね」

 「そりゃ まぁ そうでしょうがトルコがどう出るでしょうか」

 「トルコは、シリア、レバノンの治安維持用車両で手を打てそうだ」

 「トルコも自ら不安定要素を抱え込むなんて余裕ですな」

 「おかげで助かっているという部分もある」

 「ほう」

 「イギリスの影響圏縮小で、アラブ・イスラムで前向きなアラブ協力者を得られている」

 「ギリシャにキプロスを取るか、クレタを取るか選択させてやろう」

 

 

 

 アメリカは、中国大陸権益を守るため日本の工業力を利用していた。

 イギリスとソビエトも戦後復興のため日本への発注は増え続けていた。

 莫大な資源が日本へ送られ、

 日本で加工された製品がイギリス、ソビエト、アメリカ権益地に流れ込む。

 日本は空前の戦後再建需要によって産業が拡大していく。

 1940年 東京オリンピック。中止

 1944年 ロンドンオリンピック。中止

 次期開催は1948年であり12年ぶりになる、

 日本はオリンピックの準備が進んでおり、

 ロンドンと取り合いになると思われていた。

 もっとも、戦後すぐでは、海外集客は望めず、日本政府を迷わせる。

 とはいえ、東京オリンピックは、急げば、間に合いそうだった。

 イギリス ロンドン

 カナダに避難していたイギリス人が戻ってくる。

 そのままカナダに移民する者も少なくなく、イギリスとカナダの絆も強まっていた。

 日本は、ロンドンの一等地にいくつか地歩を構えて、外交政治で有利と言えた。

 もっとも地理的な足場があっても、交渉ごとが上手く行くとは限らない。

 引き籠り気味の日本人が海千山千のイギリス人と渡り合えるか怪しかったりする。

 「御主人様。セント・ジェームズ宮殿から招待状です」

 セント・ジェームズ宮殿は、バッキンガム宮殿から500mも離れていない。

 イギリス王族の所有で歴史も古く由緒ある宮殿だった。

 しかし、それだけであり、イギリスと日本との文化的な距離が500mであり、

 本丸と二の丸ほど違う。

 「女王様からの招待状なんて、素晴らしいことですわ」

 「そうかね。メアリ」

 「わたしには、日本は、まだイギリスの傀儡だぞ、と言ってるような気がするね」

 「そ、そんな・・・」

 「まぁ ケンジントン宮殿より近いし構わんさ、時間は、たっぷりとある」

 「本丸に行く前に社交界慣れしておこう」

 1948年 東京オリンピック開催が決定する。

 

 

 フィンランド

 スオミヘイム(レーニングラード)港

 アメリカ艦船が入港していた。

 フィンランドの戦後復興を目的としていた。

 しかし、アメリカがフィンランドに拠点を建設するためであり、

 極東権益と合わせて、ソビエト連邦を縛る軍事拠点と言えた。

 スオミヘイム空軍基地

 P47サンダーボルト戦闘機、

 P38ライトニング戦闘機、

 F8Fベアキャット艦上戦闘機、

 B17フライングフォートレス爆撃機、

 A26インベーダー軽爆撃機、

 「欧州に駐留展開なんて、モンロー主義に反しそうだな」

 「しかし、欧州需要の多くが日本に取られたし、戦争需要は中途半端だったし」

 「まぁ 兵器は売れなかったけどね」

 「せっかく、兵器を作れても大量生産できなきゃ意味がない」

 「リバティー船は売れたし、穀物と部品も売れたから悪くないよ」

 「財界は軍需主導で財政を立て直したかったらしいよ」

 「バカが中国権益に飛びつくから支離滅裂になったじゃないか、自業自得だよ」

 「最初から失業対策、欧州権益、中国権益の一石三鳥が目的だったから、ついじゃないの?」

 「とりあえず、ドイツ帝国は、社会基盤がノックダウン寸前だし」

 「アメリカは、ドイツとフィンランドに地歩を気付けて良かったと思うよ」

 「戦争貧乏ってやつかな。バカな連中だ」

 「もうちょっと戦争してくれても良かったけどな。もっと大きな権益が転がり込んだ」

 「まさか、だから、そうなる前に講和したんだろう」

 「M26戦車は、まだ?」

 「ああ、次の便で着くはずだ」

 

 

 スペインは、ジブラルタル(6.5ku)を奪い返し、

 カナリア諸島(7273ku)を日本・イギリスに奪われてしまう。

 スペインは、大損なのだがイギリスの勢力は地中海から一掃されていた。

 イギリスは、カナリア諸島の西側を領有し、

 日本は、カナリア諸島の東側二つの島と付随する島々を領土としていた。

 大和(フエルテベントゥラ)島 (1660ku)

 武蔵(ランサローテ)島 (845kmu)

 「大和、武蔵を撃沈させられそうになって、島二つだけなのがずるい」

 「スペインから島を守らないと駄目だし」

 「イギリスの支援がなければ維持できないでしょ」

 「なんか、ヨーロッパ人という感じだな」

 「ここ、アフリカ大陸だよ。見たまんま・・・」

 草木の少ない乾燥した大地が広がっていた。

 「夢を見させてくれよ」

 「イギリスは、スペイン領サハラを渡したかったはずだけど」

 「いやだよ。占領もしていない。あんなわけのわからない場所」

 「バルカン半島戦とカフカス戦で力尽きちゃったからね」

 「だいたい、あんな孤立した場所で日本軍がいること自体問題だよ」

 「バルカン連邦とカフカス連邦が力を付けたら追い出されそうだな」

 「まぁ 50年後のことだよ」

 

 

 霞が関 海軍局

 風系統 帆乃風 隼人 (ほのかぜ はやと) 18歳 AB型

 土系統 野伏裏 弥生 (のぶせり やよい) 18歳 O型

 火系統 不知火 剛太 (しらぬい ごうた) 18歳 B型

 水系統 水無月 有紀 (みなづき ゆうき) 18歳 A型

 4人は久しぶりに出会い。久しぶりに魔法の杖を振る。

 短いはずの老後までの年金が振り込まれていることになっており、

 これを最後に予備役になりそうだった。

 ガイアの魔法使いを介せば、伊161号と連絡が可能になっていた。

 「帆乃風君。大丈夫だろうな?」

 「身に呼び寄せると言っても、支配するような力ではありませんし」

 「そういう気持ちがあれば切れるはずです」

 召魂(しょうこん) 情報・意識・精神を身に呼び寄せる。の儀が行われていた。

 「」

 「」

 「つまり・・・・」

 「地球とガイアの黄道(太陽)と白道(月)の関係によって偶発的に行き来できたのであって・・・」

 「いまは、向こうに行くことは、困難になったそうです」

 「では、もう・・・」

 「ただ、向こう側とこちら側の魔法を同調させれば小さなものを交換させることができそうです」

 伊161号の帰還が不可能になった事が告げられる。

 しかし、細々とした相互交流は、可能らしく。

 召魄(しょうはく)  無機質な物体を呼び寄せる。

 までは可能だった。

 しかし、召喚(しょうかん)

 精神+物体で生命(人間)を呼び寄せる。

 これは、より高位レベル魔法使いでなければならなかった。

 地球から武器弾薬がガイアに送られ、

 ガイアから飛行石、魔法の杖(風・火・土・水)4本と記録が送られてくる。

 日本軍将校たちは喜び、報告しに行く。

 

 魔法使いたち

 「・・・鬼のおじさん。魔法を使い過ぎると寿命縮むから気をつけろだって」

 「俺たち、もう、あまり長くないよね」

 「魔法が使えるなんて、道理で上手い話しだと思ったよ」

 「でも貧乏な日本で随分いい思いしたじゃない」

 「最近は日本も豊かになってるみたいだね」

 「たぶん、魔法使いたちのおかげじゃないの」

 「命削ってるんだから、もっとお金を貰うべきじゃない」

 「そうだよね。鬼のおじさん、両方から4分の1、半分は取ってるよ」

 「伊161号の人たちも地球に帰って来れないなんて災難だよね」

 「18個師団の半分が補充で入れ替わったらしいよ。戦争で戦死するより良かったかも」

 「どっちもやだ」

 「犠牲の上に胡坐をかいて平平凡凡と生きるのに一票」

 「のうのうと踏ん反り返って生きて畳の上で死ぬのに一票」

 「権力闘争で成り上がって、我が世の春を謳歌するのに一票」

 「利権を握って左団扇で面白おかしく生きるのに一票」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「おーぃ! お前たち、長官がみたらし団子振る舞ってくれるそうだぞ」

 「「「「はーい♪」」」」

 

 

    

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 日英ソ連合軍は第二次世界大戦で辛勝しました。

 日英連合軍の勝因

 人海戦術 + パンジャンドラム + カレー&ナンの缶詰です。

 

 この戦記では、青森県を改名しました。

 名前が田舎っぽいと艦隊基地に合わなそうなので、青宮県です。

 

 

 三つの災害とはなんだろう。

 火、煙、硫黄を適当に当てはめてみる。

地位 軍隊 暴力 権力
名誉 経済 情報操作
硫黄 財産 資源 産業 化学物質

 って、身を守るものじゃん。

 

 とりあえず、戦後の厭戦機運は高く、民需需要も大きく、

 当分の間、底知れぬ処の・・・は、蓋をされました。

 

 

 

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第04話 1944年 『支配は、奪うこと』
第05話 1945年 『底知れぬ処の・・・』
第06話 1946年 『戦後、始まりの終わり』