月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第06話 1946年 『戦後、始まりの終わり』

 戦後日本経済は、ニューギニア・北樺太の借款返済に追われていた。

 多少、返せても、まだ終わらないのである。

 もっともイギリス・オランダ・ソビエトとも戦争期間を10年以上と考えており、

 その借款返済期限もその5倍で計算していた。

 インフレ傾向が進めば借款の返済がしやすいだけであり、

 戦功で得た天引き分は、元金を大幅に崩し、返済を容易にしていた。

 日本経済の主軸が生糸産業から重工業、軽工業全般への移行もこれからといえた。

 日本車がガタガタの路上で止まり、運転手が降りると車に蹴りを入れる。

 「せっかく恩給で買ったというのに、このボロ国産車が!」

 「良くこんな車しか作れないような国が飛行機を飛ばせたわね」

 「内心ヒヤヒヤで飛んでたんだよ」

 「イギリスの技術供与がなかったらパイロット死亡原因の大半は戦死じゃなくて事故死だ」

 「で、どうする?」

 「街まで1kmか・・・中古でもロールスロイス車を買えば良かったな」

 「えっらそうに遠くの海外に権益地があるとか言って、国内は、まともに舗装もされてないじゃない」

 「あのなぁ 貧乏だから国外の利権で金を作って、その利幅で舗装しているんだ」

 「日本は、いつになったら生存圏を確保できるのかしら」

 「ふん、生存圏を確保したら、怠惰になるし、不正腐敗が大きくなるだろうよ」

 「なに? そういう上官ばっかりだったの?」

 「まぁ そうだったり、そうでなかったり、いろいろだな」

 イギリスが日英同盟堅持を続けるのは、北大西洋での孤立気味があった。

 戦後とはいえ、ドイツ、イタリアとの交易は、第三国を経由してであり、

 日本との同盟維持は、イギリスの国防とも直結しており、

 イギリスがそう思っている間は、日本産業も成長が見込めた。

 首相官邸。

 「・・・魔法の杖は、いまのところ8本で、飛行石は4010トンだけかね?」

 「はい、召喚魔法は寿命を奪うらしく、ガイアでも好まれないようです」

 「まぁ 余程の利益がなければ、自分の命を削ろうとは思わないだろうな」

 「いまの魔法使いは?」

 「12人が亡くなったので、残り総勢75人です」

 「・・・金を積んで遺族を黙らせてくれ」

 「わかっています」

 「もう、戦後だろう。魔法の杖が8本でも寿命と交換だ」

 「いくら、なんでも金の問題じゃ済まされなくなる、まずくないかね」

 「いえ、ほとんど、戦時中の魔力発生が原因かと・・・」

 「秘密厳守はともかく、魔法使い本人に承諾を得るべきだろう」

 「それだと、魔力消失にも繋がりかねませんし・・・」

 「んん・・・しかし・・・いくら公益性があってもな・・・」

 「魔法使いたちには可能な限り、幸福なひと時を与えるようにしております」

 「だがな。自分の身になって考えると嫌だぞ」

 「実を咲かせる木を育てても他人が食べて、自分が食べられないのだからな」

 「可能な限り、幸福な一時を送らせられるように最善を尽くします」

 「どちらにしろ、自分の身内を審査に出せない人間は、このグループから排斥すべきだろうね」

 「ごもっともで・・・しかし、不心得者が身内の魔法使いを利用する可能性もありますし」

 「まぁ そうなるとは思いたくはないがね」

 「・・・それで、ガイア側の日本人たちは?」

 「現在の生存者は23名」

 「鬼族と共闘して妖魔を撃退。飛行石の鉱山を防衛しているそうです」

 「つまり、その収益の一部が武器弾薬と交換で召喚されているわけか」

 「正確には、無機質な物体を呼び寄せる召魄(しょうはく)魔法と呼ばれています」

 「有機物の召喚は、次の地球とガイアの黄道・白道が合った時」

 「あるいは、地球とガイアの両方にAクラスの魔術師がいないと・・・」

 「次の地球とガイアの黄道・白道が合う時は、いつなのかね。」

 「まだ不明です」

 「地球の武器は役に立つのかね?」

 「ガイアは鉄が希少金属のようです」

 「なので重機、狙撃銃、短機関銃、拳銃、擲弾筒は人気があるようです」

 「確かに鉄が少なければ武器は不便になる」

 「というより文明の発達も制限されるはずです、一部、江戸並みかと」

 「鉄が少なければ産業革命は、難しいだろうな・・・では、ガイアの武器は?」

 「鉄が高価なので、剣や弓で銅、ニッケル、亜鉛、錫、アルミの合金が多いようです」

 「それじゃ 貨幣じゃないか」

 「そのようです」

 「鉄と飛行石ならいくらでも交換してやれるのだが・・・」

 「飛行石は、鉄の半分ほど希少なので、携行兵器が好まれています」

 「なるほど・・・」

 「もし、陛下や総理がガイアに軍を派遣したいと思ったとして、軍は行ってくれるだろうか」

 「誰が行かなくても私が行きます」

 「行き来で人の命を削るのだ。帰還は望めないぞ」

 「構いません」 敬礼。

 「・・・あとの面倒は国がみよう。時が来たら志願を募ってくれ。しかし、最高軍機と思って欲しい」

 「はっ!」

 

 

 

 第二次世界大戦前と戦後の違い。

 イギリスが大航海以来蓄積してきた資財は失われ。

 アメリカで生産した莫大な軍需品と交換されていた。

 無論、日本に流れたにしても些細な規模であり、

 食料輸出一つ取るだけで日本の戦争協力分すべてを越える額だったのである。

 戦後世界秩序は、イギリスとドイツが共謀し、アメリカの発言権を封じることで始まる、

 もっとも、金の力は大きく、

 いつの間にか、イギリスとドイツは、アメリカの代弁者にさせられていくのだった。

 人々の世界に対する認識は、イギリス、ソビエト、フランスの衰退。

 ドイツの誇り回復。

 日本の興隆。

 真に急成長したのはアメリカだった。

 ワシントン 白い家

 世界を望んでいる男たちが集まっていた。

 「現在の世界情勢は、不満ではないが満足ではない」

 「参戦できなかったのが痛いな」

 「慌てることはないだろう。欧州と極東権益圏は大きい」

 「重要なのは国内の気運が外征向きでないこと、そして、いまだに軍事的な成長がないことだ」

 「慌てることはあるまい。国内の資源は大きく未開地も残されている」

 「もっと “金” を集めなければ、大規模な開発はできないね」

 「それは、それとして、日本が気になる」

 「盗人猛々しく逆切れして暴発すると思ったがね」

 「ああ、大陸利権を利権を奪われまいと奇襲して自爆するかと思ったら潔く手放したからな」

 「屋根に登らせて梯子を外してやったのに、どうして飛び降りる気になったのやら」

 「だが今度はもっと、大変な場所に権益を持ったようだが」

 「バルカンもカフカスは地歩が弱いどころか、孤立している」

 「だが地歩が弱い分だけ日英同盟の絆が強まっている。危険だな」

 「イギリスはインドを失ってる。いずれ、失速するはずだ」

 「バルカン連邦、カフカス連邦は、いずれ、民族運動が台頭する」

 「追い詰めて疲弊した日英同盟を支配下に置く事が出来るだろう」

 「しかし・・・日本は何かを隠しているな」

 「ブラフか、フェイクか・・・」

 「んん・・・ヘリウムを売ってやるから戦中完成した塞凰を見せろというと見せない」

 「しかし、ジェットエンジンを売ってやるから最新の烈風を見せろというと見せる」

 「これは、普通じゃない」

 「管轄が違うのでは?」

 「役所は多少歪だよ。しかし、どっちも長官の裁可が降りなければ不可能だろう」

 「問題は、不可思議な現象が減りつつあることかな」

 「危機的な状況で目を覚ます日本特有の “カミカゼ” なのか?」

 「確かに日本は危機的な状態だったよ。そして、乗り切った。しかし、自然現象ではない」

 「だいたい、塞凰2番艦を建造する途端にドイツで調べ物をするのは怪しいだろう」

 「新技術を取り入れようとするのは、当然じゃないか?」

 「ドイツは、塞凰とツェッペリンLZ130の技術交換を申し入れたが断られたらしい」

 「あり得んだろう」

 「出所不明の希少資源、高品質オイルとの関係は? 魔法みたいに出したのか?」

 「何としても東洋の神秘を探りたい。この前のような奇襲はまずい」

 「政治的に足元をすくわれかけたからな」

 「とりあえず何でも良いから、似たような構図で映画でも撮ってくれ、同型艦同士でな」

 「あれは偶然の産物か、秘匿は万全だったんじゃないか?」

 「当たり前だ」

 「とにかく、ドイツの技術、日本の不可思議な現象は探ってくれ、奇襲は困る」

 「了解だ」

 

 

 ドイツ第3帝国 ベルリン

 爆撃された後は、主要都市ばかりであり、

 身内を殺された民間人も少なくなく。

 軍人となった父、夫、息子、兄、弟を殺された子供、妻、父母、兄弟姉妹もいた。

 身内を殺された悔しさはあるものの、

 戦争継続は、さらに生活を追い詰めてしまう。

 しかし、瓦礫にされた都市は少なく。

 その事が敵に対するドイツ国民の敵愾心を弱めさせ、

 ヒットラー総統と軍部の心理を切り離し、講和を進めさせたと言える。

 戦後のドイツ復興、ドイツ再建は、アメリカ資本からの借款から始まる。

 東部国境は、大きく広げることができたものの、

 敵対する日英土権益は、バルカン半島諸国を統合させていた。

 イギリス権益は、ジブラルタルで切り離しており、

 策源地のインドは独立しつつあった。

 採算は悪化し、イギリス植民地帝国は破壊されていた。

 しかし、それがイギリス、日本、トルコ、エジプトの結束を強めさせ、

 バルカン連邦、カフカス連邦の治安を落ち着かせる。

 イギリスの植民地が対立を利用することで成り立っていたのに対し、

 日本のそれは、融和の楔となることで成り立っていた。

 通訳がいなければ、相互理解できないはず、

 それが公平に法律を順守することで不協和音を縮小させていた。

 バルカン紙幣とカフカス紙幣は、一つの経済圏として成り立ちつつあり、

 かってなかった脅威となっていく。

 ドイツ軍参謀本部

 「バルカン連邦は、日本軍14個師団と4個航空兵団か。厄介だな」

 「どの道、ドイツ国民は厭戦機運が高まっている」

 「それに火薬庫でしかなく、ドイツ帝国に対する攻勢能力はないよ」

 「バルカン連邦の貨幣共有化とルーマニア語の第二言語化による緩やかな統合か」

 「そんなものでバルカン半島が治まるものか」

 「急速な近代化を望まないのであれば、諸国民の公平は保ちやすい」

 「そして、いまのところ、特権にあるのは日本、イギリス、トルコだけだ」

 「代表は日本人だろう。舵取りは?」

 「悪くなさそうだ」

 「総面積83万kuで人口5000万弱だ。公平に分配されれば生きていける広さだよ」

 「法や貧富の公平を望まないから争いが起こるのだ」

 「それでも日本が支配者の特権とドイツ帝国に対する恐怖で当面の生活を支えられれば問題ないさ」

 「どう対応していくべきかな」

 「間諜を送り込んでいるらしいが?」

 「不安定要素が大き過ぎて、バルカン連邦の未来像が掴みにくいらしいよ」

 「じゃ その場、その場で対応するしかないだろう」

 「それより、日本が不自然だそうだ?」

 「不自然?」

 「対独開戦の前から怪しげ素振りをしていたから調べたがね。何かを隠している」

 「ブラフとか、フェイクだろう。オリジナリティのない国が必死に虚勢を張っているだけさ」

 「まぁ 怪しげな噂に乗るのもアレだがね。アメリカもイギリスも第一級の諜報機関を送ろうとしている」

 「本当に?」

 「そういうわけで、ドイツ帝国も無視できないということだ」

 「あんな、サルに毛が生えたような連中に本気になれって言ってるのか?」

 「その日本にバルカン連邦とカフカスを取られただろう」

 「まぁな・・・」

 

 

 イギリス ロンドン

 対独伊西戦争を勝ち抜くため、大航海以降の蓄財を食い潰した国があった。

 特権階級にあった人々でさえ多くの財産を消失する。

 資本の集約に伴う再建事業は、ままならず。

 復興事業でさえ、貧民層や弱者をさらに押し潰すような政策も執られ、

 全ての財産を失った者は、生きる道さえ閉ざされる。

 列強同士のパワー・ゲームの果てと納得する者もいる。

 しかし、多くの者は、愚かな行為と戦争を憎み始める。

 テムズ川 日本人街

 京都御所・二条城に似せた景観が建設されていく。

 ロンドンっ子が珍しい風景を面白げに眺め散策する。

 まだ完成までほど遠く。

 利益回収の地というより、日英同盟の象徴とも言えた。

 イギリスの戦後は厳しかった。

 既に再建を補償するインドは独立し。

 カナダに移民したイギリス人の帰還は半分以下だった。

 オランダは、インドネシア保全の代償で国防をドイツ軍に頼らざるをえず。

 ドーバー海峡の向こう側はドイツ軍管区だった。

 面白いのは、日本人街の建設にイギリスの方が積極的なことだった。

 戦争が終われば、横柄な態度になるかと思えば、逆に親密になろうとし、

 植民地の共同防衛と一部、権益付与も含まれていた。

 瓦礫の中の館

 「御主人さま、朝食と新聞をお持ちいたしましたわ」

 「ありがとう」

 「これが日本人街の区画ですの?」

 メアリーが模型を覗き込む。

 「まぁ 珍しい憩いの場みたいなものだね」

 「木で造るのですか?」

 「まぁ そうなるね」

 「観光名所になりますわ」

 「イギリス国民感情次第だと思うがね」

 「大戦中の日本の活躍は知られていますから、嫌われたりはしませんわ」

 そんものは、利害関係が変わればすぐ変わるのだった。

 「あ・・・」

 「どうされました。ご主人さま?」

 「満州で油田が見つかったそうだ」

 「まぁ 日本の近くですの?」

 「極東アメリカ信託統治領だ」

 「アメリカですの」

 「まぁ これでアメリカも極東権益から抜け出せなくなったな・・・」

 「良いことですの?」

 「わからんがアメリカが極東権益から自由の身になれないなら好都合だね」

 

 

 

 日本

 赤レンガの住人たち

 日本近海の地図を見れば、国防の重心が日本海、半島側に移っていることが分かる。

 半島に配置されているアメリカ戦略空軍は、極東全域を爆撃圏内に入れており、

 国防予算も海軍から空軍に比重を移行していた。

 図上演習をすれば、相手の考えは、だいたい読める。

 戦争が始まれば相手の作戦も予測がついた。

 空軍戦力は、民間人を守る都市防空、重要拠点を守る要衝防空で揺さぶりをかけられる、

 どちらも守ることは不可能であり可能な限りの防空しかできなかった。

 海軍基地防空に消耗することを嫌い。

 日本海軍は、呉の艦隊基地からの引っ越しを検討していた。

 釜山から400kmでは、迎撃もままならない。

 その行き先候補は、太平洋岸に沿って宮城、岩手、青森、北海道にまで及んでいた。

 半島からの距離にして1200kmほどあり、迎撃も容易になった。

 艦隊基地が移動すれば付随する施設が移動し、

 いくつかの民間企業も採算効率が増せば北方に移設する動きを見せていた。

 それが難しければトラックか、瑞穂州まで行ってしまう。

 その候補地の一つ、

 陸中の風光明媚なリアス式海岸は、200mほどの断崖で何キロも続いていた。

 資本で余裕があれば基地を作りたいと考えてもおかしくない。

 

 「敵に後ろを見せているようだが空軍の防空が楽になればいいだろう」

 「北海道だと、内浦湾か、厚岸湾だっけ」

 「寒いな」

 「あぁぁ〜 海軍の伝統が・・・」

 「呉を生活基盤にしている連中には気の毒だけどね」

 「先人から受け継いだ伝統が・・・」

 「うぜぇ」

 「どうせなら、青森を青宮県にして陸奥湾引っ越しじゃなかったっけ?」

 「確認のためだよ」

 「リアス式海岸か、確かに掘れば爆撃に強くなる」

 「バンカーバスターにも耐えられるし、原子爆弾とやらにも強いだろうね」

 「防御はともかく、採算低い〜」

 「まぁ 海軍工廠っていっても海軍だけの建造で使うわけじゃないし・・・」

 「民間海運や漁船に邪魔者扱いされて北へ行くのが辛いな」

 「民間船が増えたからね。国防上、ルールに縛られたくない海軍艦船は邪魔だろうよ」

 少年少女たちが魔法の杖を持ち、断崖の前に立っていた。

 この頃から、少年少女をまともに正視できる将校は次第に少なくなっていく。

 

 

 日本とアメリカ極東権益圏との交易は大きく、

 商業上の収益を考えれば西日本に産業基盤を置きたいと社長は考え。

 社員も北日本へ移動は御免蒙りたいと重い腰を上げない。

 国防と産業基盤の利害は一致せず、与野党も混乱していた。

 国会議会

 「・・・先ほど国防省次官のお言葉ですが・・・」

 「国益を考えれば西日本に産業基盤を置く方が採算効率が高まるのであり」

 「北日本側に産業基盤を移動させるというのは、採算効率を無視した暴挙である」

 「しかし、一旦、戦争になった場合、国防軍は、重要施設、産業、居住区を守りながら戦う事になる」

 「戦わないような外交を行えば宜しかろう」

 「それとも軍が産業に補助金を出せるというのか?」

 「い、いや、確かに産業効率を考えればそうではある」

 「しかし、独立国家の日本産業がアメリカ極東権益に頼るのはどうであろうか?」

 「アメリカ産業の言いなりになるのは、日英同盟に対する背信では?」

 「お上から食わせて貰ってる人間には、わからないだろうがね」

 「日本の産業が日本国の礎なんですよ」

 「お待ちいただきたい。国内産業の制約は本意でないのです」

 「軍政しようとしたくせに」

 「当時と今は違うでしょう」

 「国防省で言いたいのは、大企業は北方に行けるだけの財政的な余力があると言ってるのですよ」

 「はぁ? ハッキリ言うがね。大企業というのは、アメリカ資本を言うんですよ」

 「連中は、気分次第で三井、三菱、住友規模の会社を極東権益地に作れるんですよ」

 「採算性で負けたら日本の市場も連中に持って行かれるんだよ」

 「そうそう、朝鮮・満州は、日本よりはるかに安い労働力がある」

 「それと連中の資本、技術が結び付いたら日本経済なんていちころなんですよ」

 「そ、そこは、関税で・・・」

 「買わなきゃいけないのは日本なんですよ」

 ドン!

 「売らなきゃいけないのは日本なんですよ」

 ドン!

 「では、節制してスリム化を」

 ば〜ん!

 「それはそっちも同じでしょ! 軍事力だけで考えなさんな!」

 「しかし、いざ、戦争になったら・・・」

 「死ぬ気で守れ」

 軍のおじさんは泣きたくなった。

 

 

 赤レンガの住人たち

 慌ただしく、状況が整理されていく。

 「代わりの魔法使いは?」

 「まだだ」

 「だいたい、自分の縁戚を意図的に検査から外そうとしている将校が多いのが気に入らない」

 「そりゃ 戦争終わったし、当たったら人身御供だし、嫌だよね」

 「そういう問題か?」

 「まぁ 表向きは、身内で魔法を悪用する可能性とか言ってるが・・・本音はどうかな〜」

 「まぁ そういう人間の子供なら当たらないとは思いますがね」

 「どうせなら軍需というより、恒久で建設的な事業に魔法を使いたい」

 「いままでも、十分そうしているだろう」

 「十分というか、まだ3割くらいは軍装品と情報・・・」

 「いまの飛行石は?」

 「新規は、10トンだから、だいたい100トンくらい浮かせられる」

 「まぁ 塞凰の足しになるかな」

 「どちらにしろ、ガイア側も寿命が縮む制約があるからね」

 「よほど金を積むか武器を送らない限り動いてくれないそうだ」

 「ガイアは、鉄が希少資源か・・・面白い世界だな」

 「センチュリオン戦車でも送ってやるか?」

 「そうだなぁ 向こうに燃料があったっけなぁ」

 「どちらにしてもガイアも寿命を縮めても良いくらいのモノが欲しがられるね」

 「んん・・・」

 

 

 東京港

 船から十数人の白人たちがパラパラと降りてくる。

 そして、入れ替わるように日本の憲兵に連れられた数人の白人たちが船に乗せられようとしていた。

 「君たちの地位と日本での功績に免じて、穏便に済ませているんだぞ。わかってるだろうな」

 「「「「「・・・・」」」」」 こくり × 5

 「だいたい、夜中に工場に忍び込んで何をしようとしていたんだ?」

 「「「「「・・・・」」」」」 黙秘 × 5

 「ったくぅ〜」

 「お前らに造れて日本人に造れないモノならたくさんある」

 「しかし、日本人に造れて、お前らに造れないモノなんかないだろう」

 「「「「「・・・・」」」」」 じ〜! × 5

 「日本とドイツを間違えてんのか、なにを探ろうとしてるんだ?」

 「「「「「・・・・」」」」」 じ〜! × 5

 「な、なに疑ってるんだよ、アフォか!」

 しっ! しっ! しっ!

 「「「「「・・・・」」」」」 とぼとぼ とぼとぼ とぼとぼ

 

 

 オランダ領インドネシア

 ジャカルタ港

 戦争が終わっても日本商船のジャカルタ港行きは増えていた。

 インドネシア領は、戦時需要から民需重要に切り替わったと言える。

 日本では、おさんどん輸送とか、丁稚稼業とか、

 白人様に対する身の程を知れ的な状況と言える。

 もっとも、軍属系が金寄越せ的な方便を使おうと、

 お客様は神様より、我が侭な人間であり、

 受注側が発注側に対し、唯々諾々と従うのは、当たり前なのだった。

 需要と供給のルールに従えば、日本経済は安定成長が見込めた。

 多少、遠周りでも交易で利潤で国内産業を活性化させていたのだった。

 オランダ人は、本国で失った国防をこの地で発揮する。

 日本で製造したセンチュリオン戦車が配備され、

 現地民を餓死に追い込んでいく。

 日本人は、オランダ人の手先となり、

 インドネシア人の殲滅を手伝わされていたのだった。

 「日本で配備されていないセンチュリオン戦車がねぇ」

 「まぁ 日本も鉄道・道路事業と港湾事業が軌道に乗れば配備していけるよ」

 「センチュリオン戦車って52トンだぜ、洒落にならないよ」

 「例のやつで、それなりに土木建設は進んでいるんだと」

 「例のやつは、リスクが大きいから、気が退けて嫌だな」

 「俺たちのやってる事は地獄行きの切符を買っているようなものだろうな」

 「このインドネシアだって、そうだよ」

 「インドネシアも・・・いくら金になるからって、気が退けるよね」

 「インドネシア人の自由ため、日本国民を犠牲にするよりマシだよ」

 「それで数百万の日本人が豊かに生活できるのなら悪くはないがね」

 「じゃ 見ざる、言わざる、聞かざるという事で・・・」

 「うん・・・」

 インドネシアのジャングルの奥で銃声が木霊していた。

 オランダ軍の輸送トラックが港に積み下ろされた弾薬を載せ、

 もう一度、ジャングルへと走っていく。

 

 

 戦後の欧州利権は、あっさりと分けられてしまう。

 カフカスのバクー油田。(日本、トルコ、カフカス、ソビエト、イギリス 1/5)

 バルカン半島の鉱物・油田資源。(日本、イギリス、トルコ、バルカン 1/4)

日本軍 バルカン連邦・カフカス・その他の駐留軍
  総面積(ku) 師団 人員
バルカン連邦 838387 14 168000
トルコ完全自治 カフカス連邦 190500 3 36000
ドデカニソス諸島 (エーゲ海) 2663 0.5 6000
カナリア諸島 (北大西洋) 2505 0.5 6000
    18 216000

   

 日本軍駐留軍は、イギリス軍の置き去り兵器を払い下げられ、

 日本の1個師団の定数は機械化が進み12000にまで縮小していた。

 もっとも外地である事から戦時増兵も出来ず、

 また、保安のため要衝に造られ、兵舎も要塞化されていた。

 日本・イギリスは安定供給が望ましく、

 トルコもソビエトと事を構えることを望まず、

 ソビエトも対独戦で疲弊しており、いまのところ大人しかった。

 

 バルカン連邦(838387ku)

 (ルーマニア、ハンガリー、ユーゴスラビア、

 ブルガリア、ギリシャ、アルバニア)

 単一国家であれば大国だった。

 しかし、バルカン会議をすれば荒れるのであり、

 残念ながら民族、言語、宗教、文字ともバラバラだったりする。

 これらの国々を曲がりなりにも連邦として成り立たせたモノ。

 それは、ドイツ、ソビエトの恐怖心と地中海覇権以外の何物でもなかった。

 イギリスは、ジブラルタルを失い地中海の覇権を消失していた。

 戦後地中海は、各国とも海軍力が壊滅的なほど低下しており、

 地中海で覇権を握れるのは、5ヵ国ヴィシー・フランス、イタリア、トルコ、スペイン。

 そして、バルカン連邦に絞られていた。

 早期に国家基盤を確立できれば、地中海の雄になれる可能性もあった。

 

 サラエボの町に偉そうな男たちが集まっていた。

 日本、イギリス、バルカン、トルコの代表たちであり、

 バルカン連邦の運命も分ける重大な取り決めが行われていた。

 人権の尊重、交通と物流と貨幣の自由共有化で商業上の利益は増す。

 一つの場所で売れなくても需要のある場所に国境を越えて移動させることができた。

 世界各国とも5000万を超える単一市場になるバルカン連邦に注目しており、

 サラエボという場所柄、多くの報道が集まっていた。

 銃声が響きわたり、

 銃口を向けている一人の男に視線が集まり、

 その銃口の対象にも視線が集まる。

 「キリストは右の頬を打たれたら左の頬も打たせと言った」

 「もう1度撃ってみたらどうだ」

 男の日本語は、日本人と通訳者以外に分かる者はいなかった。

 しかし、銃口で狙われている男が腰に手を当て、一歩迫り、

 暗殺者を睨み付ける様子は異様であり、

 余りの落ち着きように周りは、蛇を見たかのように見つめる。

 そうして、僅か5mの距離から、もう一発が撃たれる。

 銃声が轟いても男は、平然としていた。

 「・・・それで終わりかね」

 暗殺者は捕らえられ、日本人の男は悠々と歩いて行く。

 『代表。やり過ぎです。少しは驚かないと・・・』 付き人。

 『これぐらいやらないと、この国は収まらんよ』 男

 少し離れた場所から、若い魔法使いたちが見ていた。

 この日、暗殺事件が起こると強い予兆があり、対処可能だった。

 

 

 ギリシャがトルコに奪われたくないため日本にゆだねた地域。

 そして、トルコがギリシャに奪われたくないため日本にゆだねた地域

 日本のドデカニソス諸島 (総面積2663ku)。

 ロードス島(1400ku)、コス島、カルパトス島、カリムノス島。

 レロス島、ニシロス島、パトモス島、カステロリゾン島、

 アスティパレア島、カソス島、カルキ島、

 ティロス島、リプソス島など50の島々だった。

 もっともこれらの島々は、日本から遠く孤立しており、

 地の利がなく、不利だからこそ日本にバルカン連邦の管理人にさせられたともいえた。

 一番近い日本領は、北大西洋のカナリア諸島日本領であり、

 それもスペインに遮られていた。

 バルカン連邦の法律は、アメリカ合衆国憲法を模倣し、

 日本風にアレンジされ、基本的に個人の人権は認められていた。

 もっとも個人の人権に価値を見出さない勢力も存在する。

 無論、自分の人権を認められるべきであって、

 あいつらの人権は認めるべきでないという認識から来るものであり。

 理不尽とはいえ、人権を認めると社会体制そのものが崩壊するのであり、

 だからバルカンが火薬庫と言われる所以だった。

 そのため公平を帰そうとすれば日本人が利権を牛耳らざるをえず。

 言語など、真に厄介な問題が持ち上がってしまう。

 ロードス島(1400ku)

 この島は、バルカン連邦、カフカス連邦に対する日本の拠点だった。

 イギリスの拠点はクレタ島に集まり、

 日英共同の拠点はアレクサンドリアだったものの、

 日本が自由にできるのはドデカニソス諸島しかなかった。

 8本しかない魔法の杖のうち、4本が利権維持のため、ここで管理されていた。

 「やっぱり、最大言語ルーマニア語が良いと思うけどね」

 「反発すると思うよ」

 「まぁ 日本も、アジア最大だからって中国語はいやだし」

 「取り敢えず、バルカン紙幣の発行と鉄道、交通の移動を自由にしないと・・・」

 「副言語としてルーマニア語を共通言語にしてしまえばいいじゃないの」

 「あとは、50年後だよ」

 「それまでにロードス島を何とかしないとね」

 「歴史のある島だからなぁ」

 「いざとなったら、日本に総退却だね」

 「イギリスの影響力が小さくなると、イタリアとヴィシーフランスが強くなりそうだな」

 「いまのところアレクサンドリアの日英艦隊の方が優勢だよ」

 「エジプトもイタリア軍が怖くて、日英同盟側だし」

 「問題は、維持費かな」

 「バルカン連邦は、言語問題がある程度軌道に乗れば、経済成長が見込めるんだけどね」

 「それには、通信、交通、物流を押さえて風通しを良くしないと・・・」

 「このままだとイタリアが地中海を支配しそうだけどね」

 「そういえば、ユダヤ人のパレスチナ入植は、どうなったんだっけ」

 「一応、入植しているみたいだけど、イギリスがジブラルタルの向こう側じゃな」

 日本酒、焼酎がバルカン連邦、カフカス連邦の市場に並び、

 カフカス連邦 (アルメニア・ワイン、グルジア・ワイン)

 バルカン連邦 (ギリシャワイン、オーストリアワイン、ブルガリアワイン、ハンガリーワイン、ルーマニアワイン)

 これらのワインが一旦、日本領となったロードス島に送られ。

 そこから諸外国へと輸出されていく。

 利権を得るは、そういう事だった。

 損益分岐点を超える範囲内で市場が大きくなれば、貿易量の拡大が見込めた。

 

 

 

ソビエト
黒海 大カフカス山脈 カスピ海
カフカス連邦 (190500ku)
グルジア アルメニア アゼルバイジャン
小カフカス山脈
トルコ イラン

 

 北のソビエト側のと南のトルコ側のに挟まれた地域であり、

 西は黒海、東はカスピ海に挟まれていた。

 グルジア。アルメニア共和国。アゼルバイジャン共和国、

 三つの共和国から構成されており、

 厄介な事に三つの言語がつかわれており、

 不和が生じて民族抗争も少ない。

 トルコに対し、完全自治権を持ったのは、ソビエトとトルコとの抗争の結果であり、

 日本が管理人になったのはイギリスの後押しとカフカス現地民とソビエトとトルコの妥協だった。

 カフカス連邦最大の収入源は、バクー油田であり。

 日本、イギリス、カフカス、ソビエト、トルコが5分の1ずつ権利を持つことで争いが終息していた。

 日本は、カフカス分の油田を購入し対価で水力発電の建設を開始していた。

 日本軍が現地人に妨害されなかったのは、軍事的な背景より、

 何もなかった場所が灌漑され、設備が増え。

 学校が建設され、職場が増え、物資が増えていったからに他ならない。

 また日本軍は、粗野なソビエト軍より、モラルが高かっただけといえる。

 要衝に駐留基地が建設され、飛行場に三式指揮連絡機が並び、

 センチュリオン戦車が並んでいた。

 そして、基地であると同時に各国の免税商品が並ぶ商用地であり。

 各国の共同租界地のような役割も果たしていた。

 日本軍は、カフカス連邦内の交通と流通を自由にさせ、

 商業を活性化させようとしていた。

 「現地民が意外と協力的なのが嬉しいね」

 「オスマン帝国のアルメニア人虐殺。ソビエト軍の民族浄化とか、物騒だから協力的にもなるよ」

 「アルメニア人の場合、気質から自業自得な気もするね」

 「自己中は、朝鮮人といい勝負だな」

 「商売は上手いぞ」

 「人に損をさせることが上手いだけだ。警戒されて孤立していくよ」

 「カフカスも傀儡とか、独立していない方が発展しそうだな」

 「だけど、アルメニアの女性は美人だなぁ」

 「うん、それは言える」

 「連中がいまの状態を維持したいのなら助かる」

 「だけど、なんか、最近、土木建設機械ばっかりだな」

 「戦車を動かすよりブルドーザーを動かす方が多い」

 「ドイツとイタリアも発電ダム建設の対価で石油を欲しがっているからね」

 「経済って正直だよな。採算が合うと国境を越えやがる」

 「働いて金を集めなければ生きていけないからね」

 「蓄財で、そんなに長生きしたいかね」

 「蓄財で長生きしたいと思うのは人情だよ」

 「たとえ、積極財政で子孫に借金を残してもね」

 「開発は金がかかるから」

 「特定の業界だけ儲かるな」

 「治安が守られているのなら、投資する気にもなるよ」

 「朝鮮の二の舞にならなければ良いけどね」

 「3ヵ国が一致すれば、守りやすいような気もするがね」

 「それが出来れば苦労はないよ」

 「それにイギリスは民族対立を利用して植民地支配したんだぞ。融和させてどうするんだ?」

 「治安維持に金をかけたくないし、植民地抱え込みは流行らないよ」

 「免税区画があればいいや」

 「免税区画だけじゃ 師団維持費用を賄えない」

 「あれ? カフカスの国家予算から出ているんじゃないの?」

 「3個師団と2個飛行師団分だろう。油売れば足りるけど、開発費よこせだと」

 「そんなにダムが大切かね」

 「それだけ油が欲しいってことじゃないの?」

 

 

 カナリア諸島

 大和(フエルテベントゥラ)島 (1660ku)

 武蔵(ランサローテ)島 (845kmu)

 日本の分け前は、東側の2島だった。

 日英同盟でいうところの相互補償担保物件であり、

 物件の大きさでいうと、イギリスの我田引水で割得、日本は割損していた。

 バルカン連邦とカフカス連邦の日本権益が緩衝地域で生じたたなぼたであり、

 これが国家間の力関係であり日本とイギリスの実力差といえた。

 国際関係の辞書に公平という文字はないのである。

 日本政府は、イギリスに逆らっても良いことないので唯々諾々と従っていた。

 修理改装を終えた大和、武蔵が洋上に停泊していた。

大和型戦艦 (注、速度・公式) 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
65000 263×38.9×10.4 153000 27 16kt/7200海里
45口径460mm砲3連装3基 45口径114mm連装14基 60口径40mm連装砲40基
大和、武蔵

 大和 艦橋

 「50口径133mm砲でも良かったんじゃないか?」

 「対空砲だからね。45口径114mm砲の方がたくさん載せられる」

 「まぁ いいかぁ 戦艦の時代という気はしないからな」

 「だが空母は戦艦を撃沈していないだろう」

 「上陸作戦の度に空襲されて大破炎上じゃ 主力艦と言えないよ」

 「だけどイギリスでは、バンガード型戦艦が建造されてるらしいよ」

 「強力なのか?」

 「大和より劣る」

 「それならいいけど、設置された新型レーダーは?」

 「艦橋と副砲のあった場所に警戒用、対空用、レーダー射撃用と一通り」

 「副砲がないと寂しい」

 「破壊されただろう。もう、いらないよ」

 「それに最新鋭のレーダーとソナーの方が嬉しいね」

 「あいつら新型ソナーを餌に艦底まで行きやがって」

 「バルバス・バウは褒めてたよ」

 「取り敢えず、イギリスの修理改装能力は高いようだな」

 「余り見て欲しくない場所も見られたがね」

 「砲撃が集中したのは、水線長から上、魔法が施されたのは水線長から下だ」

 「バイタルパートはほぼ無傷。怪しいと思われても、何もできなかったはず」

 「でも、かなり焦りましたよ」

 「とりあえず、二つの島は、大和、武蔵と命名されるそうです。交替で乗員を遊ばせましょう」

 「そうだな」

 「いざとなれば、魔法使いに強化してもらえるだろう」

 「なんか、魔法使いが10人ほど寝込んでるみたいだけど」

 「げっ!」

 「いま、他の魔法使いを探しているけど、なかなか見つからないらしいね」

 「まずいぃ〜」

 カナリア諸島 大和島

 子供たちが集まり、荒涼とした台地に向かって魔法の杖を振っている。

 赤レンガの住人たち

 「どうだい、新人たちは?」

 「そうだねぇ ちょっと魔力不足だね」

 「それだけ長生きしやすいってことかな」

 「可能な限り魔力を消耗しないように効率良くやらないと・・・」

 「穴は?」

 「ぼちぼちかな、火薬を使わなくても手掘りできるくらいだ」

 「あと、少年たちにも良くしてやらないとな」

 「しかし、もう少し緑化したいが、どうしたものかな」

 「イギリスが取ってる島々は山岳地帯でもっと森林が多いんだよな」

 「ずるい。こっちは基礎から負けてるじゃないか」

 「日本人が行った事のない島だから、地図で示されて、いいよって言ったんじゃ・・・l

 「ちっ」

 「・・・なぁ 魔法は、もうちょっと、遠慮した方がいいよな」

 「んん・・・だよねぇ〜」

 

 

 トルコ (780580ku)

 第二次世界大戦は、トルコにとって失地回復の好機と言えた。

 とはいえ、シリア(185180ku) レバノン(10400ku)は近代化に反対するアラブ・イスラム世界であり、

 カフカス連邦 (190500ku) は名目だけトルコ領の完全自治であり、

 バクー油田利権は5分の1しかなかった。

 それは、それとして、バルカン連邦の権益の4分の1もあり、

 トルコは、余剰資金を使って近代化を進めていく。

 欧州諸国はオスマン帝国の恐怖を覚えており、警戒していた。

 しかし、日本にとってトルコは遠方であり、脅威の対象として弱く、

 利害の一致と採算さえ合えば取引が加速する。

 イスタンブールに日本人たちがいた。

 「市場は2300万くらいかな」

 「日本製は人気があるのか?」

 「さぁ 重複するモノを売ろうとすると排斥され、重複しないモノを売ると喜ばれる」

 「取り敢えずロードス島に商品を集めて、様子見かな」

 「だけど、インド独立とジブラルタル喪失じゃ スエズ運河の価値も半減じゃないか?」

 「だからスエズ運河の株をイギリス、日本、エジプトで3分の1ずつ分けたんだろう」

 「どうせイギリスも単独じゃ維持不能だよ」

 「エジプトに奪われる前に3分割したのは正解だと思うよ」

 「ギリシャは、クレタとキプロスをどうするのかな?」

 「トルコは参戦でキプロスの利権を得てんじゃないの?」

 「シリアとレバノンを押さえるのでそれどころじゃないよ」

 「シリアとダマスカスを押さえれば、キプロスは後回しでも良いか」

 「しかし、そうなると、ギリシャは、キプロスをイギリスに渡して、クレタ島を確保が良いよな」

 「まぁ トルコもキプロスのトルコ人をシリアとレバノンに回したいくらいだろうね」

 「まぁ 現地民の感情だからね」

 「それにトルコに半包囲されているキプロスにイギリス人が入植するかな」

 「場所的に不利だよな」

 「ドデカネス諸島もね。とてもじゃないけど、孤立したら存続不能だな」

 「ババ抜きのババだな」

 「イギリスは、パックス・ブリタニカの終焉をどうするかな」

 「欧州の勢力均衡の原則だとバルカン連邦、カフカス連邦の権益は守ると思うよ」

 「その勢力均衡の原則をポーランドでやろうとして、ボロボロにされたんじゃなかったっけ」

 「日本・カナダ・イギリスで巻き返すんじゃないか」

 「単純な国家間覇権抗争ならそうだろうけどね」

 「そうそう、日本の船団は、サンフランシスコ港じゃなく。バンクーバー港に並んでいるよ」

 「カナダも白人至上主義は強いからな」

 「日本人と組むくらいなら、アメリカ人と組むに決まっている」

 「イギリスが日本と組んでいるのも植民地権益のためだからね」

 「まだ、アメリカ人の方が有色人種慣れしているよ」

 「問題は、ジブラルタルを失い。インド洋防衛を考えなくなったイギリスが日本との関係をどうするかだろう」

 「まだ、植民地はあるよ。豪州防衛だってある」

 「だけど、価値が低下している。金の切れ目が縁の切れ目ってこともあるしね」

 「ドイツに負けないために破産するなんて、ポーランド独立にそれだけの価値があるのかね」

 「タダの覇権ゲームだろう。ないと思うよ」

 「それで、国力磨り減らしてジブラルタルからインドまで失うなんて馬鹿だねぇ」

 「日本だって彼らがいなかったら、危なく暴走暴発するところだっただろう」

 「近場の朝鮮半島より、南太平洋の瑞樹州や北大西洋の小島、地中海の小島が良いという合理的な説明が欲しいね」

 「んん・・・朝鮮人がいない」

 「あ、そう」

 

 

 瑞樹州(ニューギニア)

 ブーゲンビル島、テンバガプラ金・銅山

 膨大な鉱物資源(金、銀、銅)が瑞樹州経済と自立を支え始める。

 潤沢な資源は採算性を高め、投機や実験を加速させ、新規開発を誘発させる。

 科学技術を産業レベルにまで展開させるには、資源と資本が必要であり、

 技術者を育てるのにも産業を育てなければならなかった。

 欧米の新聞記者たちが鉱山から帰っていく。

 「この道路状況とトラックの台数であの規模の鉱山になるのが不自然過ぎる」

 「鉄道もまだ通っていないし、一度に降ろしたトン数も気になるな」

 「あと、資金の動きも資材の流れも不明確過ぎる」

 「イギリス、アメリカから土木建設機械を輸入しているのは確かだけどね」

 「それでも工期自体が早過ぎておかしいじゃないか、試作抜きで始まってるし」

 「工期の進捗率も異常に速過ぎるだろう」

 「だいたい、試作掘削もしていないのにピンポイントで鉱物資源を掘り当てるなんてあり得ん」

 「飛行船の塞凰の配備場所は?」

 「南洋のどこかの島らしい」

 「現地民に写真を見せると、空を指をさして教えてくれたよ」

 「鉱山上空を飛んでるのを見てるのは確かだな」

 「塞凰は、同盟国のイギリスに見せないらしい」

 「怪しい・・・」

 「アメリカがヘリウム売ってやるから塞凰に乗せろというと、逃げるんだぞ、信じられるか?」

 「しかし、そこそこ優秀と思われているのに同型船が建造されていないのはなぜだ?」

 「ですが塞凰が通過していないところも、資源開発が進んでいる。関連はないのか?」

 「だが空中から鉱山に物資を降ろしたのは、確認してるらしい」

 「回数は?」

 「現地民は、数の概念がないからね。まぁ たくさんだそうだ」

 「ちっ 回数が分かれば、一回に降ろしたトン数が割り出せるのに」

 鉱山

 「アメリカの新聞記者は帰ったのか?」

 「ええ、まったく、どうやって嗅ぎつけたのやら・・・」

 「あいつら、どうやって鉱山を見つけたのか?」

 「どうして投機しようと思ったのか? しつこく聞いてきたよ」

 「だよな。日本人って担保、堅実が好きで山師嫌いだし」

 「っで?」

 「まぁ 上からの指示としか言えんだろう」

 「あいつら・・・どうして、結果じゃなく原因を探りたがるんだ?」

 「枝葉末節なんて、どうでも良いんだよ」

 「頭いてぇ〜」

 「ほかにも鉱物資源を見つけてるの、バレたら大変だろう」

 「そりゃ 試作抜きのピンポイントなんて洒落にならねぇ」

 「あっ! どっか適当に掘っとけ」

 「そんな、いまさらとって付けたように掘ってばれないのかよ」

 「何もせんよりマシ」

 「もう、鎖国してぇ〜」

 「国際協定の数からして無理だし、もっと疑われるだろう」

 

 

 アメリカ領 釜山

 ベアキャットが並ぶ滑走路に真新しい戦闘機と攻撃機が着陸する。

ボーイング P70スーパーキャノン艦上戦闘/攻撃機 (XF8B)

重量/全備重 hp 全長×全幅×全高 最高速 航続距離 機銃 爆弾/魚雷 乗員
6100/9300kg 3000 13.1×16.5×5.0 695km/h 5630km 20mm×6 2.9トン 1

 

ダグラス XTB2Dスカイパイレート艦上攻撃機

重量/全備重 hp 全長×全幅×全高 最高速 航続距離 機銃 爆弾/魚雷 乗員
8348/12948kg 3000 14.02×21.34×6.88 547km/h 4635km 20mm×2 3.8トン 3

 「ほぉ〜 カッコいいじゃないか」

 「戦闘機は、その気になれば雷撃が出来る」

 「何でも屋だな」

 「普通は燃料を積んで、B17爆撃機、A26インベーダーの護衛だけどね」

 「スカイパイレートの護衛もか・・・」

 「対日戦は余裕だな」

 「日本はグリフォン2340馬力をライセンス生産している。たぶん、新型戦闘機に搭載されるはず」

 「あと、ブリストルのセントーラスIX空冷18気筒は2500馬力もだ」

 「じゃ 航空戦は良い勝負なのか?」

 「パイロットの数はアメリカ空軍が10倍くらい多い」

 「しかし、実戦経験者は、日本人パイロットの方が多いだろうな」

 「まぁ 10倍もあれば勝てる」

 「まさか、欧州に半分以上取られているから。満州・朝鮮と日本なら1対1だよ」

 「それは、まずい」

 「だいたい、必要以上に駐屯させると議会が五月蠅いからね」

 「モンロー主義者か。どこかの国が攻撃してくれれば、吹っ切れるのに・・・」

 「正気でアメリカの生産力を計算できる人間なら攻撃してくるわけがない」

 「じゃ スペイン戦争とか、ハワイ占領みたいにやるのか?」

 「アメリカ本土に未開地がまだ残ってるから、資本を海外に送りたくないんだよ」

 「アメリカは、満たされ過ぎて需要が足りないと思うよ」

 「というより、資本家が、お金を吸い上げ過ぎているのに貧富の格差を縮めたくなくて・・・」

 「国民生活を破綻させてまで権力が欲しいものかな」

 「まぁ 国家経済を考えると、ドルを手放すか、ドルを増刷した方が良いような気もするけど」

 「それができるのなら大恐慌は起きないかな」

 「まぁ 連邦準備制度(FRS)がアメリカ政府を脅迫して勝手できるからな」

 「とても民主主義国家と思えん」

 「資本主義国家だから」

 「んん・・・自浄能力無しか。一度滅ぼして貰うしかないかな」

 「一番強い国だから、それも無理でしょう」

 

 

日本海軍
戦艦 4 大和、武蔵、長門、陸奥
空母 7 大鳳、赤城、加賀、(蒼龍、飛龍)、(瑞鶴、翔鶴)、
重巡 20 (古鷹、加古、青葉、衣笠)
(妙高、那智、足柄、羽黒)、(高雄、愛宕、摩耶、鳥海)
(最上、三隈、鈴谷、熊野)、(利根、筑摩)
伊吹、阿蘇

駆逐艦

68 (吹雪、白雪、初雪、叢雲) (東雲、薄雲、白雲、磯波)
(浦波、綾波、敷波、朝霧) (天霧、狭霧、夕霧、朧)
(曙、漣、潮、暁、響、雷、電)
(初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮)
(白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風)
(朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰)
(陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、天津風、時津風)
(浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、荻風、舞風、秋雲)
潜水艦 80  

 赤レンガの住人たち

 「金がなくて代艦建造できねぇ・・・」

 「工場と基地建設に取られてる」

 「北樺太とニューギニア権益のため旧式艦艇は売却されたし」

 「新造の護衛艦も輸送船も小型艦艇も売却したからね」

 「だいたい、塞凰二番艦の建造って何?」

 「いや、欧米が乗りたがって、とんでもない条件を出してきそうだから」

 「ダミーか?」

 「そういうこと」

 「やれやれ・・・」

 「グリフォンエンジンは?」

 「何とか軌道に乗った。アメリカのF8Fベアキャットと戦えるはず」

 

 

 

 アメリカ極東信託統治領(朝鮮・満州)

 フィリピン独立後の朝鮮・満州は、独立機運が高まっていた。

 アメリカは特に鎮圧せず、ある程度の自治を認める。

 すると朝鮮人の主導層が金に目が眩み、

 不正腐敗が発覚すると切り崩されていく。

 これは一種のゲームといえた。

 朝鮮人も漢民族も全体より個が強かった。

 個が強ければ、その分だけ力関係を大きくして捻じ伏せなければならず、

 当然、不正をしなければ権力を得られず、民衆を糾合できない。

 アメリカ資本は代表を助けて民衆を糾合させ、

 売国を強要し、利権が売り渡されたのち、梯子を外す。

 代表は、不正が発覚して糾弾される。

 不正を行った代表は、私腹を肥やした金を持ってアメリカに亡命するしかなかった。

 暴動は日増しに大きくなり、反自治議会運動も大きくなっていく。

 満州の某ホテル

 「日本人と違って、朝鮮人と漢民族はすぐ怒るし激しいな♪」

 白人が面白がって、日本人に自慢していた。

 「植民地人の人間不信が強まれば、アメリカ資本の思うがままですかね」

 「そうそう、対抗馬を焚きつけて、トップを貶めさせて、バラバラにする」

 「その繰り返しで民族的な求心力と自信を喪失させ、白人の優越性を信じ込ませる」

 「極東権益地は、独立させないので?」

 「フィリピン人は、我も利己主義も少し弱くてね。付け込みにくかった」

 「しかし、極東は、人を陥れて成り上がろうとする者が多くて助かるよ」

 「偽証ですな」

 「そうそう、人間不信でまともな組織が作れず、すぐに信頼関係が崩れる」

 「極東に来て、神が十戒で偽証を禁じた有難味が良く分かるよ」

 「・・・」

 「あ・・・日本は偽証は少ないようだね」

 「我々の送り込んだ工作員をご丁寧に送り返してきたくらいだ」

 「それは、どうも」

 「どうやって見つけたのか、お教え願いたいくらいだがね」

 「まさか」

 「まぁ 良いでしょう」

 「どちらにしろ、王のいない国は、個人が正道だ」

 「権益をチラつかせればすぐなびく」

 「あと中国大陸の方がまだ酷いからね。我々、外資系の方が信頼されている」

 「それで、御用向きは?」

 「実はだねぇ 日本人は、朝鮮人、漢民族と見かけが似てる」

 「それに共感しやすいだろう」

 「なので、彼らの一般的な動向を探りたいんだが」

 「つまり、暴動が起こる前に知らせろと?」

 「まぁ そんなところだ」

 「アメリカが暴動を起こしているとばかり思っていましたが?」

 「まさか、誘発しているだけで扇動した事はないよ」

 「見れば分かるが、白人は暴動に参加していないだろう」

 「なるほど、何人か、それらしい位置に付けてくれれば情報を収集できるでしょう」

 「何人か、よりもっと多いかもしれないな」

 「きっと、たくさんの日本人が良い老後を送れるでしょう」

 「はて?」

 「大統領に不意打ちをしなかった日本国政府に、大統領からのお礼ですよ」

 「前大統領の時代の話しですよ。日本に極東支配の片棒を担がせる気では?」

 「まぁ 極東権益地の渉外もあるので、日本国内も少しばかり風通し良くしもらえれば・・・」

 「・・・」

 「アメリカ人は将校で優れ、日本人は下士官で優れている」

 「定説なら、きっと素晴らしい利権体制になるでしょう」

 「・・・なるほど、だから今後も不意打ちはやめて欲しいと?」

 「あ、日本人を下士官では勿体無かったですかね」

 「日本人は外交官でしたかな? それともマジシャン?」

 どっきぃいい〜!

 「いえ、定説通りです」 きっぱり

 

 

     

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 戦後国際情勢は、欧州・ソビエト諸国の凋落とアメリカ合衆国の勃興。

 日本の膨張拡大でしょうか。

 ただし、日本から遠いからこそ得られる権益地であり、

 日本は、まだまだ生きていくのが大変な国、単独で戦争なんてもってのほか、

 官僚、軍部、企業、労働者、農民、消費者、

 どこがズルして楽していくことになるやらの聖域なしの戦後日本、

 ストレス溜まり捲くりの戦後戦記になりそう。

 神経質 & 小心者の日本民族は辛い明日です。

 

 

 ガイアの世界は鉄不足です。

 魔法物資がある代わりに鉄が希少金属。

 なので、近代化が制限され、鉄鋼船が建造できず、中世的です。

  

 

 

 

NEWVEL投票

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第05話 1945年 『底知れぬ処の・・・』
第06話 1946年 『戦後、始まりの終わり』
第07話 1947年 『ここは御国を・・・』