月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第08話 1948年 『獣=666=人間』

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 インドは、ヒンズーとイスラムの間で激しい抗争が繰り広げられていた。

 日本人たちもイギリスに利用された結果、インドにいる機会が増えていた。

 群衆が集まり、一人の老人が家から出てくる。

 個人のハンストで世界が変われば苦労はないのだ。

 しかし、とある勢力がそれを利用しようとすれば、さざ波くらい起こせる。

 というより、矛先が変えられるのであればなんでも良かったと言える。

 「そろそろなのか?」

 「ええ」

 ニューデリーのビルラー邸

 狂信的なヒンズー教徒ナートゥーラーム・ゴードセーが銃口をガンジーに向けた時、

 ガンジーは、額に手を当てる。

 これは、イスラム教で、あなたを許すという意味であり、

 ヒンズー教徒のゴードセーには通用しない。

 しかし、発射された3発の弾丸はいずれも外れ。

 ゴードセーは捕らえられてしまう。

 「・・・よし、逃げよう。イギリス人に見つかると面倒だ」

 「はい」

 ガンジー暗殺は、魔法使いが著名人を霊視中、たまたま、判明したのだった。

 日本政府は、欧米列強の疑惑の矛先を変えようとガンジー暗殺を利用する。

 インド議会は、イスラム教徒にも公平で民主的な選挙権が与えられ、

 少なくとも多数決以外の暴力は、減退していく。

 同時にインド・パキスタンの対立も鎮静化していた。

 

 

 アメリカ 極東権益地

 大慶油田にコンビナートが建設され、最新の精油所と発電所が動いていた。

 広大な大地に街が広がり、

 ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ダイムラー・クライスラーの工場が建設されていた。

 日本から部品の一部が供給され、

 工場で生産された自動車は、中国市場を席巻し、

 日本へも圧力をかけようとしていた。

 そして、アメリカの工場で働いている労働者は、日本・台湾人が多かったりする。

 アメリカ資本主義の方が高い給与、労働環境に優れ働きやすいと言えた。

 実のところ、外資が入るため日本政府も反対せず、見過ごし。

 日本国産自動車会社群は、アメリカ車の輸入制限を条件に妥協している。

 アメリカは、ここで生産した自動車を中国の軍閥を通じて売却させ、

 さらに日本・台湾人の整備員をそれぞれの軍閥の整備工場に配置していたのだった。

 軍閥は自動車を押さえることで、安定した利益を受けようとする。

 フォード工場

 日本人代表者たちの視察

 「日本人の労働を安く買い叩いてるって感じか」

 「んん・・・とういうより、人材と消費者を奪っている」

 「はら立つ〜」

 「しかし、随分と合理的だな、中国だけでなく、アメリカにも逆輸出するのかな」

 「人件費が安いからね」

 「日本より高いんだぞ」

 「賃金は、日本の製造会社の3割増し。労働環境は2割増しってとこか」

 「意図的にせよ厳しいな」

 「裏切り者〜」

 「外資が入ってくる。それでアメリカ製の工作機械が買えるんだ。そうとばかりは言えんよ」

 「はら立つ〜」

 「それは言える」

 

 白人の監督の下、日本・台湾人が土木建設機械を動かし、

 漢民族・朝鮮人たちが細かい作業でコンクリートの舗装を建設していた。

 そして、少し離れた場所に処刑場があった。

 そこからは、啜り泣き、喚き声、叫び声が木霊する。

 犯罪を犯した者たちが目隠しをされ、杭に縛られていた。

 神父が聖書。黙示録の聖句を朗読する。

  “この刻印は、その獣の名、または、その名の数字のことである”

  “ここに、知恵が必要である”

  “思慮のある者は、獣の数字を解くがよい”

  “その数字とは、人間をさすものである”

  “そして、その数字は666である”

 「・・・獣は数字であり、数字は人間をさすものであり、その数字は666である」

 「人間は666であり、獣も666である」

 「つまり、ヨハネの黙示録に書かれている通り、666。獣の正体は、人間なのである・・・」

 「親・隣人の愛に応え、病める時には助け合うのが第一の死であり、復活に授かるのである」

 「親・隣人の愛に媚びを売り、己が利権と錯覚し」

 「愛を減らすと歯噛みしながら盗みを働き。大切なモノを奪い破壊するのは第二の死である」

 「己の理性と愛と善意を成長させない人間は、獣なのである」

 「さようなら」

 「最後くらい、許すって言うニダ!!!」

 ぷぃ!

 神父の目に同情はなかった。

 ばぁ〜ん!

 銃声音が鳴り響いていた。

 

 朝鮮人は、遠い昔から座ってダダ泣きじゃくっているだけであり。

 時々、火病を起こして爆発するだけだった。

 アメリカ軍によって書籍が燃やされ、煙が立ち上っていく。

 朝鮮人は居留地へと追い込まれ、

 家主のアメリカ人、テナント管理人の日本人、居留地の朝鮮人という構図が作られつつあった。

 遂には、朝鮮人の投石が始まる。

 「やれやれ、日本人も、ここまではしなかったけどな」

 「まぁ 誰だって利権に頼りたくなるよ。だいたい、人のこと言えないし」

 「だけど、せっかく教科書作ったのに酷いことする・・・」

 「サボタージュしたり、暴行したりするからだよ」

 「しかし、サボタージュって本当に機械を壊すんだな」

 「想像力がないのに破壊するなよ」

 「朝鮮人はハングル文字考えたぞ」

 「阿比留文字が先ってことはないよな」

 「ハングル文字をあいうえおに並べただけじゃないの?」

 「昔の話しだからね」

 「でも・・・本気でハングルを消すつもりかな」

 「せっかく教科書作ったのに・・・」

 「アメリカ人は、朝鮮語が火病の原因だってよ」

 「やろうぅ〜 医学が進んでいるからって適当なこと言いやがって」

 「医者と法律家が人を騙し始めたら世も、お終いだな」

 「無知は死の影だよ、世の中のルールを知らない奴が馬鹿を見る」

 「そんなこと言ってたら人間不信が強くなるばかりで、経済成長しないよ」

 「まぁ 才能や経験を伸ばそうと思うと、いろいろ、歪になってしまうからね」

 「・・・白人の奴隷にされないように、もう一遍、契約書を見直すか」

 

 

 

 アメリカ極東権益地に配備された陸海軍戦力は、一撃で西日本の産業に打撃を与える。

 軍事的にそうであっても経済的には、極東権益地との貿易で近い方が有利であり、

 アメリカも極東権益地の労働者で日本人を雇い始めていた。

 これが進むと戦いどころではなくなり、

 むしろ、戦い以前に日本と極東権益地の産業が市場を求め、

 日本人の労働者同士で、食い合い潰し合いになってしまうこと必定だった。

 軍事的に脆弱である方が安心して資源を共有し合い、

 交易出来るという二律背反な現実が横たわる。

 日本軍主力が遠く欧州にあるのに極東で戦争など御免蒙りたいであり、

 アメリカは、極東権益地を守るため、その歪な状態を後押しする。

 軍事的脆弱性が政治外交経済において、貿易を拡大させたのであり、

 日本国防省も引き裂かれた半身で戦いたくないと、

 多様多彩なシミュレーションを経ながら防衛的な国防大綱へと移行していく。

日本海軍
戦艦 4 大和、武蔵、長門、陸奥
空母 7 大鳳、赤城、加賀、(蒼龍、飛龍)、(瑞鶴、翔鶴)、
重巡 20 (古鷹、加古、青葉、衣笠)
(妙高、那智、足柄、羽黒)、(高雄、愛宕、摩耶、鳥海)
(最上、三隈、鈴谷、熊野)、(利根、筑摩)
伊吹、阿蘇

駆逐艦

68 (吹雪、白雪、初雪、叢雲) (東雲、薄雲、白雲、磯波)
(浦波、綾波、敷波、朝霧) (天霧、狭霧、夕霧、朧)
(曙、漣、潮、暁、響、雷、電)
(初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮)
(白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風)
(朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰)
(陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、天津風、時津風)
(浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、荻風、舞風、秋雲)
潜水艦 80  

 赤レンガの住人たち

 戦後軍縮、反軍国意識、厭戦機運などの要素で、産業再建の犠牲になる日本国防軍だった。

 新聞を読む手が震える。

 “軍が国民を犠牲を強いることが正しいことか。国民が軍に犠牲を強いることが正しいか”

 国民の世論調査は、国防省にショックを与える。

 無論、国家防衛で死ぬ事は厭わなくても、毛嫌いされるのは悲し過ぎる。

 「まぁ 確かに軍部も悪い部分もあったよ」

 「だからって、国民が善良だと言い切れるのか」

 「自分が性悪じゃなく、聖人というのなら石を投げてみろと言いたいよ」

 「性悪以前に予算欲しがってるから石投げそうで怖いな」

 「・・・国民だって無理、無駄、ムラで、潰し合いの食い合いじゃないか」

 「まぁ 政府も国民のためとか言ってるけどね・・・」

 「国民のため?」

 「土建官僚と結託企業のためのような行政しやがって・・・」

 「予算の比率が変わっただけで、戦前と同じかな・・・」

 「今度は東京オリンピックだからねぇ」

 「なんか邪魔してぇ」

 「いくらなんでも不味いっしょ」

 ぶつぶつ ぶつぶつ ぶつぶつ

 “塞凰” と魔法使いたちに頼った国防である事に変わりなく。

 戦後、日本の国防大綱は、欧米各国とも注目される。

 「・・・しかし、質はともかくとして、不自然な陣容ではあるな」

 「囮の塞凰2番艦は?」

 「なんとか、配備したよ。見かけだけは同じだ」

 「それで誤魔化せればいいがね」

 「問題は引っ越し先かな。陸中を調べたけどね。40隻分のバンカーを掘るなら・・・」

 「いまの予算だと、ざっと、魔法使い10人分くらい死ぬかな」

 「・・・パス・・・したい・・・」

 「じゃ 室蘭の内浦湾か・・・」

 「逆に沿海州に近付いてしまう。満州にも近い」

 「ソビエト空軍はそんなに強くないのでは?」

 「相手が強くないことに期待するのか?」

 「本土以外なら・・・」

 「日本と瑞穂の両方で覇を利かせられるのはトラックなんだけどな」

 「安全性ならラバウルだね」

 「それは、海軍統制が執りにくくなるし、まずい」

 「人口の半分くらい瑞樹州に行っても良いかな」

 「重要な産業施設は安全な瑞樹州というのが正解じゃないの?」

 「業者は加工貿易に有利な西日本が良いんだと」

 「業者は、電力を得やすい瑞樹州の方が良いだろう」

 「自分の資金で負担したくないのが普通だろう」

 「やれやれ」

 

 

 パレスチナ

 元々、二枚舌のイギリスに責任があった。

 もっとも、参戦不履行はユダヤ・アメリカ資本も同じであり、

 同じ穴のムジナと言えなくもない。

 しかし、アメリカは、対英債券と財力にモノを言わせることができた。

 様々な国が札束に頷き、ユダヤ人のイスラエル建国に手を貸したと言える。

 アメリカは、中東で言いなりになる手下を欲しただけであり、

 イスラエル建国は、進んでいたのだった。

 ゴラン高原トルコ側

 日英土同盟は利権によって補強されており、利害は一致していた。

 実のところバルカン連邦とカフカス利権が対独伊西に対する楔であり。

 それが失われれば、日英土同盟は実質負けと言えた。

 イスラエル建国はアメリカのゴリ押しであり、ドイツと利害が近いため、日英土とも警戒していた。

 トルコに配備されていたのは日英土同盟のセンチュリオン統合戦車であり。

 そして、イスラエル側に並んでいるのはM26パーシング戦車だった。

  hp 重量 全長×全幅×全高 速度 航続距離    
センチュリオン 650 52トン 7.60×3.39×3.01 34km/h 450km 66.7口径83.4mm×1 7.7mm×1
 
M26パーシング 500 41.9トン 8.65×3.51×2.78 40km/h 161km 50口径90mm×1 12.7mm×1
7.62mm×2

 日本人とイギリス人

 「イスラエルは、M26パーシングか・・・強敵だな」

 「同数ならセンチュリオンで勝てるよ」

 「トルコ側は、シリアとレバノンのアラブ人が荒れ気味で国内がな」

 「イスラエルだって、パレスチナ人と内戦必至だ」

 「アメリカはアラブと敵対してまでイスラエルを建国したけど、どんな利益があるんだ?」

 「単に拠点が欲しかっただけだろう。アラブの油に依存していないから出来る荒業だね」

 「まぁ どっちに転んでも悪くないのかな」

 「それは、アラブの反トルコと反ユダヤのどっちが強いかじゃないの」

 「どちらも国内の独立運動を押さえるだけで疲労困憊ならいいけど」

 「アメリカがドイツとイスラエルの両方を支援しているのが面白いね」

 「トルコもいい加減に諦めれば良いのに・・・」

 「キプロスを諦めたのだ。どうしてもシリアとレバノンは取るだろうね」

 「なるほど・・・他人事で済めばいいが・・・」

 「トルコとの同盟は、バルカン・カフカス権益と直結しているよ」

 「そうだった」

 「ところで、パレスチナに入っている日本人は、契約の箱を探しているのかい?」

 「ま、まさか。酔狂な学者の道楽だよ」

 「・・・・」 じ〜

 「ほ、ほら、欧州に地盤ができたら一般常識でキリスト教を調べているんじゃないかな」

 「なるほどね・・・」

 

 

 

 バルカン連邦

 バルカン連邦は、各国の陰謀と謀略の海に浮かんでいた。

 日本がバルカンの主要都市を鉄道で結び運行させていた、

 流通と交通の公平を図るためであり、

 列強の都合が良い単一の市場を造るためと言える。

 列強各国とも売れ残り余剰商品をバルカン、カフカス連邦に送り込み、

 企業倒産を防いでいた。

 民族資本の少ないバルカン・カフカスで、

 それをやられては、たちまち資源が奪われ、借款で首が回らなくなってしまう。

 とはいえ、対独橋頭堡最有力はバルカン連邦であり、

 単純に経済的に追い込んで良いわけでもなく。

 アメリカでさえ、ドイツの欧州制服を望んでおらず、

 バルカン連邦の後ろ盾にもなっていた。

 経済支配と反独の橋頭堡は、まだ両立できないのである。

 バルカン反攻は、反独戦略として正しく、

 戦後を睨んだ外交政略においては、歪なほど不利と言えた。

 とはいえ、脆弱な側面がドイツ脅威を増大させ、

 バルカン連邦の結束を強めさせたのも事実だった。

 そして、バルカン連邦は搾取されながらも国力を増大させていた、

 これは、日本が無理やり通信、流通、交通の利権を奪って統合できたからであり、

 バルカンの要である日本軍守備隊は、有形無形の支援を列強から受けていた。

 無論、独伊西以外の列強からだった。

 12000人の日本師団に200両のセンチュリオン戦車が配備されることになっており。

 18個師団で配備されるセンチュリオン戦車の目標は3600両に及び。

 撤収するインド軍の代わりにセンチュリオン戦車が荷揚げされてくる。

 「住み難くて不便だが生活は楽になったな・・・」

 ルーマニア人が無機質な日本軍の行軍を見てぼんやりと呟く。

 日本人が無機質なのは言語上の問題と、

 地政学的に日本から孤立していることがあげられる。

 その事がモラルを維持させる最大の犯罪抑止ともいえた。

 駐留日本軍は、棄軍とか、貴軍とか言われながらも黙々と役割を果たし、

 他国軍はもとより、民族自衛軍や民族警察よりも犯罪件数が少なく。

 特筆すべきような犯罪はほぼゼロといえた。

 また、バルカン海軍をギリシャ海軍に統合した事でギリシャからも支持されていた。

 もっとも日本軍の駐留は、全面的に支持されていたわけでもなく、

 恐怖に対する妥協の産物であり、

 ドイツ帝国の脅威が低下すれば、邪魔モノになる要素は多分にあった。

 なので治安に足る戦力以上、バルカン連邦の結束が緩まない戦力以下が求められる。

 バルカン連邦在留日本軍将兵は、少しばかり土地に慣れ、

 空と大地が刻々と色鮮やかに変化する風光明媚な大自然に魅せられた。

 数人の日本軍将兵は、平服に着替え、

 釣り具を手に馬に乗ると駐屯地から出てくる。

 モルドバの街道を歩けば人々の混沌とした調和に目を見張る。

 バイリンガルでさえ不便な世界であり、トライリンガルでようやく社会を泳ぎ回れた。

 当然、日本軍駐留軍は、現地最大人数の言語をまともに話せず。

 そして、第二言語のルーマニア語を挨拶くらいしか知らないため困った現象にもなった。

 もっとも、通訳者は給与上優位であり、

 邦人会社への天下りを見込んでか、率先して覚える将兵たちもいた。

 「久しぶりの休みだって言うのに釣りか・・・」

 「休みは釣りだよ、釣り」

 「だけど、綺麗な世界だな。なんで火薬庫なんだろう」

 「殺しても奪いたいモノと殺しても守りたいモノが、あるからじゃないの」

 「利権か?」

 「だよねぇ」

 「一度甘い汁を吸うと中毒するからな。列強もあっちこっち進出しているし、俺たちヤバいかも・・・」

 「その割には、静かだね」

 日本人たちは、道中、片言のセルビア語で愛想を振り、

 目的地の川で釣竿を立てた。

 サラエボ暗殺未遂以降、

 日本軍も災害支援も功を奏し、少しばかり治安が増していた。

 日本軍将兵に対する現地の敵対心は僅かに低下しており。

 数人であれば駐屯地の外で過ごせるようになっていた。

 国境の向こう側はウクライナであり、

 ウクライナとは、疎遠ながら外交関係が樹立されており、

 国境をまたいで、ロシア人、アメリカ人、ドイツ人、イギリス人の工作員が出入りしていた。

 そして、単一民族の日本と違い、工作員は容易に溶け込んでしまう。

 

 

 イギリス

 労働党の政策は “ゆりかごから墓場まで” だった。

 政府が国民の人生を面倒見るというものだった、

 イギリスが全盛期であれば可能な政策も今となっては遅かりしといえる、

 戦後不況に喘ぐ現状のイギリスは、問題ありな政策と言える。

 とはいえ、勢力均衡の原則に従って参戦したツケは、天文学的なほど重く、

 イギリス国民の厭戦機運も強かった。

 イギリスの斜陽は、二国標準が困難になった1900年に始まっており、

 国家戦略の基本方針が国家基盤を削いだ結果になっていた。

 大航海時代の勢いはハングリー精神とともに失われ、

 お気に入りの庭弄りで紳士然と振る舞う傲慢で尊大な国民を大量生産してしまう。

 結果的に国家基盤と生産力をインドに頼るようになり、足元をすくわれたと言える。

 戦後、サービス精神旺盛な日本人業者が路地を徘徊するようになると、

 暗い影がイギリスを覆っていく

 “ゆりかごから墓場まで” は、想像と労働意欲を削ぐ可能性を秘めながらも、

 安楽なことからイギリス国民から支持されていたのだった。

 そして、もう一つの流れもあった。

 イギリス本土は、幾分かのイギリス人がカナダに行ったきりになると尊大な反面教師が減り、

 日本人に刺激されたり、オランダ人に影響されたり、

 新しい新興勢力の芽も育ち始めていた。

 イギリス テムズ川

 さざれ石ウォーターフロント。

 日本大使館

 「オランダ人がイギリスに別荘を持ち始めているらしい」

 「ドイツ軍に支配されたオランダをみたくないのでしょう」

 「それでいて、インドネシアにも行きたくない、ですね」

 「んん・・・モナコ化もあるかもしれないが・・・お金持ちは最後にテープカットをするものだ」

 「インドネシアでは、環境の変化に耐えられないかもしれませんね」

 「オランダもインドネシアにしがみ付くだけで勢いを失ってるよ」

 「オランダを支援しているようで心苦しいですが日本としては助かりますね」

 「どちらにしろ、オランダが威信を回復するには、インドネシアの完全支配しかない」

 「人口的に困難なのでは?」

 「オランダに居座りながらインドネシアの完全支配か、難しいだろうな」

 「二兎追う者は一兎も追えずという事もあります」

 「インド独立で植民地独立は勢い付いている、伸るか反るかの大博打だな」

 「軍以外の自治は確保している。このままドイツの自治州で満足するかもしれないな」

 「今後、オランダのインドネシア支配。アメリカの極東権益地支配は山場を迎えます」

 「日本がイギリス、アメリカ、オランダの植民地支配を後ろ支えしている間は、利害一致で平和かな」

 「大多数の不幸で平和が成り立っているのが悲しいですがね」

 「このままだと日本も労働力が分散させられて、悲しいことになりそうだな」

 「産業は生産力と市場の奪い合いですから・・・客のようです」

 日本大使の玄関に紳士と若く美しい女性が立っていた。

 「これは、クレメント・アトリー首相。ようこそ」

 「Mr.重光葵。年代物のワインが手に入ったもので、一緒に飲みたいと思ってな」

 「どうぞ」

 「彼女はソムリエのジョンヌ。それと珍しいフィルムを入手してね」

 「そうですか」

 「一緒に見て感想など聞きたいですな」

 「わかりました」

 若く綺麗なソムリエは作法通り、ワインの封を切り。

 透明なデキャンターに赤い液体が速くもなく、遅くもなく、注がれ、器で舞う、

 長い間眠っているワインに新鮮な空気を当てて一度目を覚まさせるらしい。

 その後、デキャンターからワイングラスに注ぎ込まれていく。

 若くて美しく有能なソムリエ。

 天は二物を与える時がある。

 そして、相手が若く美しい女性であれば、三物を与えるとまでは思わない。

 暗幕の中、映写機が回り始め・・・

 クレメント首相が持って来たフィルムが映像として流れ始める。

 インドの風景という事はすぐに分かり、

 老人の正体もすぐに分かる。

 群衆は見守り、

 あるいは、頭を垂れ、尊敬されている人物だと一見しただけで分かる。

 首相は、重光と一緒に映像を見ており、

 時々、重光の顔を窺うので美人ソムリエばかり見ていられず。

 美人ソムリエは重光の顔色と赤い液体が満たされたグラスを注視していた。

 じーーーっ

 映像の中で銃声が響き、群衆が慌て不自然な映像が流れ始める。

 「2発目の方が分かりやすいですな」

 どきどき どきどき どきどき

 「・・・く、空砲ですか?」

 「いえ、調べた限り、実砲のはずです」

 「妙ですな」

 「そうですか? イギリスは身に覚えがありますよ」

 「そ、そういえば、そうでしたな。こういう現象があるのでしょうか?」

 「神が何らかの介入をしているか・・・それとも誰か・・・」

 「ズルしているか」

 どっきぃいいいいい〜!!!!

 「ズ、ズル、何を目的として?」

 「まだ分かりません、国家を背景としているようでもあり・・・」

 どっきぃいいいいい〜!!!!

 「一結社を背景としているようでもあり・・・」

 どきどき どきどき どきどき

 「個人の偽善を背景にしているようであり・・・」

 ごっくん!

 「・・・なるほど・・・神技でなければ不自然ですな」

 「オーパーツとかは?」

 「なるほど、不思議な現象ですからオーパーツの関連も考えられますね」

 「・・・日英共同研究機関を作っては?」

 「そ、そうですな。有意義かもしれません」

 「そういえば、日本は戦時中、魔法関係の書物を調べていたとか」

 「え、あぁあ・・・きっとフェイクですよ」

 「独裁者は、そういうのに敏感と聞いていますし」

 「ヒ、ヒットラーもその種の研究をしていたそうです」

 「なるほど・・・日本の諜報も深淵ですな」

 「あはは、真似ごとですよ。イギリスの外交工作には及びもつきませんから」

 「・・・まぁ 良いでしょう」

 「このフィルムは置いていきますので、何か気付かれたら、お聞かせください」

 「あ、は、はい!」

 「・・・・」

 

 

 ダウニング街10番地 イギリス首相官邸

 窓からジェームスパークを挟んでバッキンガム宮殿が見えていた。

 イギリス人が、さざれ石ウォーターフロントに出かけるように、

 日本人街から外に出た日本人観光客は、ジェームスパークを歩いていた。

 「・・・怪しいな。素人目でも怪しいと思ったぞ」

 「・・・・」

 「専門家はどう思うね?」

 「そうですね。ズルという言葉に反応していましたし」

 「国家が背景になっている様子も、わざとらしいほど伺えました」

 「下手に隠しているより難しく、高度なミス・ディレクションかもしれません」

 「わざとらしくか・・・そういう人物だったかな・・・」

 「しかし・・・失墜しつつあるイギリスを何とか再建させたい」

 「インチキの秘密を知りたいものだ」

 

 

 東京オリンピック 国立霞ヶ丘陸上競技場

 日本の経済成長に関心を持ち始めた各国の要人たちが訪れていた。

 まだ、発展途上と思われていたはずの日本は、近代的な基幹産業を育て上げ、

 欧米諸国の観光客の認識を変えてしまう。

 白人の要人の耳元に秘書が囁く。

 「疑わしい場所に工作員を送り込みました」

 「上手く、調査しているのか?」

 「はい、オリンピック期間にかけて情報収集を行います」

 「そうか」

 日本の政府機関の多くは、オリンピックに忙殺されるため、

 地方に監視が行きとどかない。

 観光客はオリンピックに集まり、

 そうでない白人たちは、ドサクサに紛れ地図を片手に疑わしい場所に現れる。

 公共投資が行われると雇用以外にも需要が生まれる。

 その需要に惹き付けられるように人々が集まり、

 公共投資で金を集めた利権者が大きな家を建て、

 それ以外の家々もそれなりに羽振りが良くなり、

 店頭の商品も種類が増えていた。

 安い木賃宿が多く生まれ、

 公共工事が終息して需要が減ると木賃宿も減っていく。

 その木賃宿から数人の外国人が出てくると、宿屋の女主人が追いかけてくる。

 「あ、留学生さんたち、これ持って行きな」

 木賃宿の主婦が柿の入った袋を手渡す。

 「あ、ありがとうございます、女将さん」

 「あはは、いやだよ。旅館じゃないよ」

 日本語の流暢な白人だと知ると不器用ながら、なんとなく良くしてくれる。

 「・・・こんな地方にまでトンネルか」

 「どうやら、生糸売って生計立てながら戦艦を買っていた頃の日本と違うな」

 「しかし、純粋な土木建設と言える節もあるし、そうでないという節もある」

 「土木建設機械も物流も増えているからインチキ無しでも掘れるのでは?」

 「近くの金鉱の試掘が少な過ぎる」

 「軍用バスが何度か来た事があるらしい、日本軍にダウジングの名人がいるんじゃないか」

 「子供が何人か乗っていたのは何でだ?」

 「子供にダウジングをやらせているんじゃないか」

 「んん・・・」

 「あと、金山がある事を知っていたかのように全部同時期に計画が始まっているのも変だな」

 「確かにこんな田舎、舗装の優先順位も妙だな」

 「それと、工期開始と工期の終わり、総延長を計算すれば、1日の進捗度が分かる・・・」

 市役所の広報もそれなりに役に立った。

 「「「・・・・」」」

 「んん・・・超常現象の一種だろうか、超能力とか」

 擦れ違う日本人が珍しそうに白人観光客を見つめる。

 「超能力ねぇ・・・何か目立ってないか」

 「ちっ 朝鮮人がもう少し役に立てばいいモノを・・・」

 「あいつら声が大き過ぎるし、自己主張の塊だし、裏切るし、スパイに向かないよ」

 「日米戦争で漁夫の利を狙ってるしな」

 「まぁ 動機が見え見え過ぎて見抜けない方が馬鹿だけどね」

 「それに比べて日本人の気質の良いこと・・・」

 善意に対し悪意を返すのは気が退ける。

 日本人に良くされるたびに工作員の士気が低下するのも良くある話しだった。

 「ちっ 渋ガキだったら、もっと気合が入ったのに・・・」

 

 

 

 生産力の統計で総人口に対する老人の比率を気にする層があった。

 ドイツ第3帝国が過度に反応を示し、

 それ以外の国々も少なからず意識する。

 総人口が多くても老人(65歳以上)の占める割合が多いと勢いが削がれた。

 日本の総人口は8000万。65歳以上の老人は400万以下。20パーセントであり。

 就業人口の一部を日本本土から遠い外地。

 欧州バルカン・カフカス。アメリカ極東権益地。瑞樹州に引き抜かれていた。

 また、大規模な公共投資で少なからず利殖生活者が生まれる、

 多用すれば利殖生活者の内、怠慢な貯蓄資産が増大し、

 貧富のバランスが狂い、管理通貨制度が揺らぐ。

 職場が増え、生産量が大きくなれば産業は拡大し、労働者の負担も大きくなっていく、

 利殖生活者を制限し、労働意欲を保たせ、加速させる程度。

 “富ませず、飢えさせず” で適度な資本不足が求められた。

 戦後、流通、交通、通信、資財が増え、

 多角的に拡大する貿易は、それまでなかった新興企業を増大させ、

 それまで貧層貧弱だった日本を多様化させ競争社会に変えていた。

 日本 首相官邸

 「各国とも金本位制を確保できるだけの “金” がないか」

 「アメリカも “金” は持っていますが少し躊躇しているようです」

 「為替変動制は国際収支が曖昧で困るよ」

 「円でも買えるようですよ」

 「円紙幣が紙くずにならなくて良かったよ」

 「どうも、日本に秘密があると疑われているようです」

 「あるよ。あるがね。あれは使いたくないな」

 「ええ、飛行石の効率的な運用が良いかと」

 「魔法のリスクがよりによって寿命とはな。自分の寿命なら少しくらい使っても良いのだが」

 「適正ありませんでしたね」

 「寿命を惜しんでいるとは思いたくないな。モーセの杖の秘密は?」

 「正確にはアロンの杖と呼ばれて、契約の箱とともに失われています」

 「我々の杖と同種のものかね」

 「わかりませんが聖書に書かれているような類の奇跡は困難だそうです」

 「そのまま、発見されなければ良いな」

 「魔法で探査したところ、靄がかかっているようで、見つからなかったそうです」

 「同時代のエジプトの魔術師も似た様な事が出来たというじゃないか」

 「だとすれば、我々の持っている杖は、エジプトの魔術師の持っているモノに近いかもしれません」

 「・・・己の死を恐れ、わざと負けた」

 「そう思われます」

 「何かの拍子で異世界と繋がってしまうのだろうか」

 「そうですね。ガイアとの生態系と一部似ているそうなので、可能性はあるかと」

 「どちらにしろ、死さえ、避けることができれば・・・」

 「ガイアからの情報では、それはないとのことです」

 「はぁ〜 とにかく、国際貿易を安定させるには金本位制が好ましいが」

 「内需は管理通貨制度が好ましく、貿易では、金本位制が好ましい状況です」

 また、各国とも貨幣価値の安定のため金本位制への復帰を模索していた。

 戦後最大の債権国は、アメリカであり、

 戦争需要と列強権益維持需要で儲かっていると思われている日本でさえ、

 ニューギニア・北樺太購入で国際収支はマイナスだった。

 “金” もアメリカに集中していた。

 

 

 第一次世界大戦以前、白人は、神人とも言えるほど畏敬の念で見られていた。

 第一次世界大戦後、白人は、選民に格下げされたにせよ、威勢を誇れるほど強大だった。

 第二次世界大戦後、白人は、二度も同士撃ちをする強く愚かな優良人種と矛盾する視線を向けられる。

 人間自体矛盾した生き物であり、

 それは、それとして、白人諸国は列強である事に変わりなく、

 金メッキは剥がれていたが溺れるオランダは藁(インドネシア)をも掴むであり、

 インドネシアのオランダ化は、本腰を入れて行われていた。

 排斥絶滅計画は、オランダ人にとって不幸であり、

 インドネシア人にとっては、さらに不幸なことだった。

 そして、オランダの注文に応じて物資を供給する日本人も良心の呵責に堪えながらである。

 どういう風に商品が使われるにせよ。

 顧客の要求に従えば会社は利益を上げ、

 社長は会社を守れ、社員は家族を養えるのだった。

 日本人たちがホテルから銃声の聞こえるジャングルの方を見つめる。

 「結局、共産主義の正反合は正しいということかな」

 「家の中に持ち込まなければね」

 「あははは、父親が正で、妻が反で、子供が合だと、かなり不幸な家だな」

 「共産主義がなくてもそうなりやすい傾向なんだから、ソビエトも押し付けないで欲しいね」

 「自分が不幸だと他人を巻き込みたくなるんだよ。ここみたいに・・・」

 「まぁ それで儲かってるんだけどね」

 「しかし、オランダ人も災難だな。国土を奪われて人殺しまでさせられるなんて」

 「お父さん今日は何人殺したの、っていうのは辛過ぎるよね」

 「戦国時代はそんな感じじゃないの?」

 「どうかな。滅多な理由じゃ戦えないよね」

 「やっぱり、食べていけるのなら平和が良いよねぇ」

 「うんうん」

 

 

 塞凰が高原地帯の平地にコンテナを降ろしていく。

 1000トンの物資を空輸し、

 ホバーリングで降ろす事が出来る飛行船は地球上に1隻だけだった。

 1500m以上の高原に近代的な施設を建設できるのも塞凰だった。

 無論、どうやって運び建設したのか最高機密であり、

 零式輸送機で飛行場に降りた設営隊は、現地に山積みされた大量の物資に驚き、

 どうやって運んだのか、頭を捻るばかりだった。

 もっとも瑞穂州の困難は、標高で涼しくても、搬出搬入で上手く行っても別の問題が残される。

 5月から11月まで乾季でも、12月から3月まで雨季であり、

 年間降雨量8000mmだった。

 人類が文明を起こせなかっただけの条件が十分整っていたのである。

 その前人未到の高原にマチュ・ピチュ(325.92ku)以上の規模で、

 1000kuに渡って整地され、近代的な建築物と飛行場が作られていた。

 不自然極まりなくても、

 設営部隊が上手く平地を見つけて切り開いたことになっていた。

 そして、遅ればせながら麓に向かって、連絡用通路が建設されていく。

 石造りの水路も麓に向かって真っすぐ建設されていく。

 前後の水車が回れば、土手に乗った回転軸が頂きに向かって回り斜面を台車が上がっていく。

 水車を止めれば、水圧に負けてゆっくりと台車が降りて行く。

 動植物が青々と茂って、壮大な風景が広がっている。

 魔法使いの子供たちが水車の台車に乗って遊んでいた。

 「・・あ・・・カゲハちゃん、雲が近付いてくるよ」

 「うっそぉ〜 はや〜」

 「げっ! 火墨。水車、水車」

 かたっ! 水車が回り始めると土手に乗った回転軸が回り、

 台車が高台に向かって登り始める。

 「はやく、はやく」

 「また、天然シャワーかな」

 「冗談。まだ、服乾いてないのに・・・」

 「乾燥器がぼろいから・・・」

 「もう、アメリカ製の乾燥器を買えばいいのに」

 「乾燥してる国だから、また錆びるんじゃない」

 「魔法でやればオールステンレスで作れるのにな」

 「最近、有名人の観測とか、資源開発とかばっかりだよ」

 「生徒が少し人数増えたからかな、順番が少なくなったんだよ」

 「モノを動かすのって、水戸君がおじいさんを助けたのが最後だっけ?」

 「うん、カゲハちゃんも一緒にインドに行ったよ。人がウジャウジャいて暑かった」

 「わたしも穴掘りが多かったのに最近は、資源開発ばっかり」

 「もっと、魔力属性を考えてくれればいいのに」

 「なんか、塞凰だけで良いみたいな感じだね」

 「でも飛行石が消失してるらしいよ」

 「誰かが盗んでいるんじゃないの?」

 「この前、犯人あげてから、盗む奴いなくなったと思ったけど」

 「人間って、つまんない借金工作に引っ掛かるんだな」

 「騙されて追い詰められると、やっちゃうんだよ」

 「いま、僕たち、追い詰められてる、間に合いそうにない」

 大粒の雨粒が瀑布の壁を造り押し迫ってくる。

 「この台車の屋根じゃ 無理だよ」

 「・・・あ〜ん、濡れちゃう〜」

 「よし、ジャンケンで負けた奴が服を傘代わりに使う」

 「えぇ〜」

 「火墨と水戸。ジャンケン」

 「何で俺たちの服なんだよ」

 「そうだそうだ」

 「なに? 火墨、水戸。私たちに服を脱げってか?」

 「ていうか、この屋根と服じゃ あのスコールから濡れないようにできるわけないよ」

 「いいから脱げ」

 「トウコちゃん・・・」

 「理不尽だ・・・」

 「そう思うからいけない」

 「いたいけな少女が濡れないように庇っているという自己満足に浸ればよし」

 「へいへい」

 『いたいけって誰のことだ』

 台車が瀑布に包まれ、爆発するような音に包まれる。

 雨が上から降ってくるとは限らない、

 屋根に当たった大粒の雨粒が乱反射し、

 大地に叩き付けられた雨粒が1メートルほど跳ね、

 上から落ちる雨粒とぶつかって水塵の海があっという間に斜面を覆う。

 「・・・見飽きたけど、なんか、天地創造って感じね」

 「ていうか、びしょ濡れで、ほとんど効いてないじゃないか」

 「まぁ まぁ 水も滴るいい男に成れて良かったじゃない」

 「水路の水嵩が増すとまずくない?」

 「んん・・・川の上澄みを水路に流しているけど、ちょっとヤバいかも・・・」

 頂上付近から濁流の様に水塵が降り、街から固められていない泥水が流れてくる。

 芝生がきちんと根付いておりらず、

 さらに小動物、蛇、昆虫、カエルまで流されてくる。

 「げっ」

 水車の上にも大粒の雨が当たると水車が回れなくなり、台車が止まってしまう。

 4人は台車を降り、比較的、高い土手から残りの斜面を登っていく。

 「・・・大丈夫か、トウコ。足元、気をつけろ」

 「服脱いで良かったでしょう」 

 「手だって同じだろう」

 「土砂降りの中で手をつないだって、滑ってすぐ離れるよ」

 「俺の服が・・・」

 「何心配してんのよ」

 「俺の服」

 「おい!」

 「ごめんね。水戸君」

 「大丈夫だよ。カゲハちゃん」

 4人がようやく学校内に辿り着くと先生に助けられ、

 「火墨、水戸。よくやったぞ。さすが日本男児だ」

 校舎に避難する。

 「日本男児だって、火墨、かっこいい〜」

 「ち、ちゃんと引っ張ったじゃないか」

 「水戸君、何度も転んでごめんね」

 「大丈夫だよ。カゲハちゃん。僕も一回転んで流されそうになったし」

 

 

 カナリア諸島

 アフリカの島々であり、降雨量は少なく、火山島だった。

 気候は、温暖。

 しかし、寒暖の落差が地域・時間帯とも不順で3〜5度ほど小刻みに変わるという形容し難く。

 その大地も日本とかけ離れていた。

 特に日本が領有する大和、武蔵は降雨量が少なく、乾燥しており。

 もっともアフリカらしいといえる。

 その大地に潮風に強く、痩せた大地でも育てやすい松の木が植林されていく。

 大型クレーターに人工貯水池が作られ、

 地熱や間欠泉を利用したバーベキューが行われたりする。

 荒野に陽が沈む光景は壮大で気分を変えさせる。

 3667馬力ターボプロップエンジンの爆音を響かせた烈風2機編隊が夕陽に向かって飛んで行く。

 日本人たちがビールを片手にラウンジチェアでくつろいでいた。

 「烈風の音が変わったんじゃないか?」

 「グリフォンからイギリス製ターボプロップエンジンに変えたってよ」

 「国産?」

 「いや、試作配備らしい」

 「・・・なんか、緑化させないでこの景色を楽しみたい気分だね」

 「まぁ そうなんだろうけどね。緑も欲しいと思うのが日本人じゃないの」

 「やっぱり、外国で暮らしていると国内にいるという安心感が欲しいと思うよ」

 「問題は、拠点として弱いということかな」

 「確かに大西洋の拠点は嬉しいけど、水が少ないと産業を起こせない」

 「だけど、こうしてると、産業より、日々、豊かな人生というか、こうしていると意識が変わるね」

 「そうだねぇ 自然と向き合っている時が一番、生き甲斐を感じるかな」

 「しかし、こういう大地に眠るって、どうなんだろう」

 「ここなら土葬でも良いんじゃない?」

 「土葬か・・・大地の肥やしになるの?」

 「化けて出てきたらどうするの?」

 「まぁ それが嫌で火葬しているようなものか」

 「でも、ここだと、何かお化けが出るって感じじゃないな」

 「もっと小川と柳がないとね」

 「でも、先祖代々、大地に血肉が融け込んでいるって、大地との絆っていうか、悪くないと思うけどね」

 「火葬は、場所の節約じゃないの?」

 「そうなんだけどね」

 「でも、この島は、人口密度少ないし、地熱で速そう出し、土葬もいいかも・・・」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 史実の戦後は、45年の焼け野原、まっさらから再建が始まりました。

 戦記の戦後は、42年から他人のフンドシで相撲を取り、

 既存の家屋が邪魔で資本・資材・人材・市場が分散しますが外地あり、です。

 

 

 バルカンとカフカスの日本軍は、鼻ぺちゃ短足タイタニア状態です。

 どうなっていくのでしょう。

 

 

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第07話 1947年 『ここは御国を・・・』
第08話 1948年 『獣=666=人間』
第09話 1949年 『富国強兵病かな』