月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第10話 1950年 『驕れる者も久しからず』

 欧州大陸は、バルカン連邦を除けば、ドイツが支配する帝国だった。

 バルカン連邦-ドイツ帝国 国境

 警戒されながらもドイツ帝国の鉄道とバルカン連邦の鉄道は連結し、交通が始まる。

 元仇敵、独伊仏と日英土を結び付けたのは、お金だった。

 国境線を封鎖し、

 特定の鉄道による輸送権益の方が独伊仏西も日英土・バルカン連邦も美味しいのである。

 特に資本家に吸い上げられた金を庶民層に還元させるオリエンタル急行は有益であり、

 ポルトガル(マドリッド)からいくつもの支線で分かれ、終点のエジプト(カイロ)まで繋いでいた。

 乗客は、国際色豊かな富裕層が競って金を浪費するため、商売が活性化していく。

 暗闇の中を明るく照らされる窓の列が走り抜けていく。

 カイロを出発したオリエンタル急行は、終点のマドリッドに向かって走っていた。

 星空に隠れて、箒にまたがった少女が宙を飛び、

 オリエンタル急行の列車の屋根に着地する。

 「503号室の伏見少尉と合流せよか」

 「この列車に契約の箱が載っているのかしら・・・」

 とある個室

 男たち、そして、女性が一人が乗っていた。

 「ジンとウォッカが生きていたら、どの列車に載せられたか、わかったものを・・・」

 「契約の箱は、本当にオリエンタル列車に載せられたのだろうな?」

 老紳士は、水晶を見つめる女性に聞いた。

 「残念ですが私たち魔術師は、契約の箱、そのモノに対し、盲目も同然です」

 「不思議なベールで隠され、国家魔術師たちでも透過できないとは不便だな」

 「おかげで、これまで発見できなかったのです」

 「問題は、契約の箱が載せられてしまったことだよ」

 「よりによってマドリッド行き国際間オリエンタル急行にな」

 「ジンもウォッカも焦っていたのでしょう」

 「各国の魔術師たちに海路も空路も塞がれていましたから」

 「それで、各国の魔術師たちの動きは?」

 「大丈夫だ。彼らも、どの列車に載せられているのか、わからないらしい」

 「日本の魔術師の動きは?」

 「・・・影のようなものが近付いてますが、そちらも上手く掴めません」

 「日本は、最強の魔術師を4人も抱えている、

 帆乃風 隼人 (ほのかぜ はやと)。

 野伏裏 弥生 (のぶせり やよい)。

 不知火 剛太 (しらぬい ごうた)。

 水無月 有紀 (みなづき ゆうき)。

 「畝傍帰還以降の日本の国際的な地位向上と急成長も、その4人の魔術によるところ大だ」

 「ここにいる魔術師だけでは勝てないぞ」

 「日本は同盟国ですよ」

 「だからと言って史上最強の魔道具を日本にくれてやることはない」

 「魔道具というより神具では?」

 「まぁ 特別である事に変わりないな」

 「ここで契約の箱まで日本に取られては、一気に差が開いてしまう・・・」

 カット〜!!!!

 カメラが回り、国境線を越えたアドベンチャー映画が繰り広げられる。

 戦後、ドイツ帝国とバルカン連邦の友好と交易を促進させるための映画だった。

 日本人スタッフたち

 「ちっ 日本人は映像で負けしてやがる」

 「なんか、日本人は平面的な顔だから映像向きじゃないよね」

 「顔が裏方向きなんだよ、きっと、性格的にもね」

 「何で日本人の子供が準主役級なんだ。それも敵役」

 「ミステリアスなんじゃないの?」

 「でも、ほとんどの人種、民族が撮られてるよ」

 「戦後仲良し、お祭り系の映画だよ」

 「しかし、何で魔法なんだ?」

 「さぁ 暗殺未遂事件とか、不可解な現象があるから、きっと、それと結びつけているんだよ」

 「なるほどねぇ」

 

 

 カフカス連邦

 起伏の緩やかな大地とともに空が広がっていた。

 風が湖面を波立たせ、

 真っ青な空に所々、雲が浮かび流れていく、

 人がいない大自然もドラマが綴られていた。

 雲間の小さな黒い点が大きくなっていく、

 涼しげな大地に急降下した鷹は、ウサギを捕え、急上昇していく。

 弱肉強食の世界で嘘、泥棒、奪い合いは日常であり、

 無慈悲な死と隣り合わせの生態系といえた。

 同族同士のテリトリーの奪い合い。

 生存圏を巡って排斥し合うことは珍しくない。

 まして、生物界の頂点に立つ人類の生存競争は、複雑多岐となり、

 利己的な抗争は、個人の腕力、知力、才覚にとどまらない、

 利害が一致する集団同士の死力を尽くした殺し合いにまで至る。

 そして、集団が大きくなれば、集団内での権力抗争が激しくなり、

 集団の統制が強くなりすぎれば、個人の利益まで損なわれる。

 人間社会そのものが損益分岐点の最大公約数によって釣り合っており、

 不正腐敗が横行すると悪化良貨を駆逐し、モラルが低下していく、

 一旦、負のスパイラル現象に陥ると、人間不信は、組織を膠着化させていく、

 欲望の果てに社会構造のバランスが崩れると内乱、反乱に至る。

 集団に所属することの利益より不利益が大きくなれば反社会的な犯罪も増加していく。

 社会不安が強まれば、社会を構築できず、近代化も阻害した。

 結局、人間性の差が国家基盤の根底に存在し、国力として反映されるのだった。

 ソビエト、トルコ、日英同盟の勢力均衡で軍事的な安定が構築されると治安の比重が大きくなっていく。

 戦争の危機が遠ざかり火事場泥棒的なドサクサが減ると、

 国内は争いの火種は尽きないと再認させられる。

 社会一般で建前的な偽善は看板に過ぎず、

 合法ギリギリの生存競争は行われており、

 非合法な強盗、泥棒、詐欺師は、獲物を探して徘徊している。

 アゼルバイジャンの商店が強盗に襲撃され、

 日本人のカフカス連邦警察が地元アゼルバイジャン警察と行動する。

 日常会話すら事欠く日本人警官は、いくつかの単語を覚え、

 監視しているだけでも不正が減る。

 そう、警察が正義の味方とは限らない。

 「最近になって、ようやく民族衣装の違いに気付くようになったよ」

 「宗教の違いもね。アゼルバイジャンはイスラム教シーア派」

 「アルメニアとグルジアはキリスト教系のアルメニア正教とグルジア正教・・」

 「ったく、言語が違えば価値観も違う、ストレスがたまる世界だ」

 「日本の着物は、どう見られるかな」

 「布を巻いてるように見られたりして」

 「あれはあれで、清楚で気品のあるものなんだぞ・・・」

 アゼルバイジャン人の店主がワインを持って近付いてくる。

 日本人警察は突き出されるワインとワインに隠れた紙幣に手を振って断る。

 「・・・有り難い」 戸惑いと失望。

 警察と有力者の癒着は珍しくなく、

 国からの給与と国民からのリベートが警官の意欲を高め犯罪者を捕らえる。

 警官は、リベートがなければ、まともに仕事すらしない。

 警官がリベートを断れば、有力者は警察官が仕事をしないと感じ失望する。

 「仕事はしますよ」

 「日本人警官がいると警察の暴行、窃盗、恐喝、冤罪、捏造、不正が減るのが助かるよ・・・」

 「最悪でも、金を貰って犯罪者を捏造する警察官だけでも防ごうと思ってますよ・・・」

 「日本ではどうなんです。みなモラルが高いのですか?」

 「まぁ 悪徳警官は、どこにでもいますがね。日本は、もっと少ない方だと思うよ」

 「実に羨ましい・・・」

 アゼルバイジャンの店主はペコペコ頭を下げながらワインを持って帰っていく。

 背中にタダほど怖いものはないと書かれているような気にもなる。

 日本警察のやっている事は、非常識に分類される。

 そう日本の連邦警察は、調査費用の要求、地元警官の盗み、

 不正をチェックするために同行していた。

 日本連邦警察官たち

 外地の日本警察官は、防弾チョッキを着て、ステン短機関銃を肩から掛けていた。

ステン短機関銃
重量 弾薬 銃身長/全長 初速 発射速度 装弾薬 射程
3.18 9mm×19 196/760 365m/s 〜500発/分 32発 46m

 「・・・日本警察も戦前戦中より、待遇が良くなってきたからね」

 「脅すわけじゃないけど、公僕の待遇や給与が低過ぎるとモラルが保てなくなるからな」

 「だけど、こっちは、公僕の概念すらないんじゃないか」

 「二重取り当たり前って感じで恨まれてるぞ」

 「もう慣れた」

 「後進国は、権力側の特権階級という感じかな」

 「まぁ 地元警官に睨まれるのも慣れたかな」

 「泥棒されて、警察を呼ぶと警察に泥棒され。さらに調査費用を要求される」

 「有力者と組んだ警官は、平気で冤罪を造る」

 「文句を言うと警官に暴行されて、犯人にされてでは、治安もへったくれもないからね」

 「なんか、傍若無人で怖いな。正道を通すと癒着勢力に、こっちが殺されちゃうかもね」

 「怖い怖い」

 「そういえば、むかしは日本の憲兵も、お金持ちやヤクザと組んで、やってたよな」

 「邪魔者消し?」

 「共産主義者狩りとか、反軍狩りとか、民主主義者狩りとか・・・」

 「ふ どんな人間も非国民とか、売国奴で孤立させれば隣人も村八分が怖くて黙り込むからね」

 「いま思えば日本も酷い時代だったねぇ」

 「日本でもだいぶ減ったんじゃないか」

 「だけど、そういうのは、よっぽどだろう」

 「まぁ ここまで露骨じゃなかったし、通常の民事じゃ珍しいよ」

 「後進国じゃ 日常茶飯事でやるから国家権力は怖い」

 「治安を回復させて国力をつけさせたものか、治安を悪化させて弱体化させたものか、悩むねぇ」

 「朝鮮半島で国力を付けさせてやって、失敗しただろう」

 「台湾の同化政策は悪くなさそうだけど」

 「少なくとも今の中国人と同系族と思われるのは嫌だろうな」

 「だけどカフカス連邦は近代化できるか微妙だね」

 「バクー油田は有利じゃないか」

 「ソビエトが大人しければね」

 「地続きは怖いからな」

 

 

 

 明治維新(1868年 3402万人)以降、

 日本の近代化は、国家資源の集約によってなされた。

 資本、資源、労働者、消費者を集約できた理由の一つは、国土が狭かったことが挙げられ、

 急速な人口増加は、近代化を加速させる原動力でもあった。

 戦後、日本の国土の増大は、就労者を含めた国家資源の分散を招き、

 内地の就労者減少は、高齢人口と年少人口の比率を押し上げ、

 日本国経済は国民総生産を押し上げながらも陰りを見せ始める。

 首相官邸

 「総人口8600万の半分が国外に出ると、経済力が半分に落ちるんじゃないか」

 「総生産を維持しようと思ったら輸出主導の経済機構にしないとな」

 「だいたい、アメリカ権益地に就労人口を取られているのが面白くない」

 「アメリカ守備隊へのサービスや維持費のために働かされているような気分ですね」

 「円安で労働を搾取しやがって」

 「しかし、輸出型経済では工業生産を伸ばせて好都合では?」

 「んん・・・確かに円高だと内需に頼らざるをえず、土木建設一辺倒になる」

 「アメリカ権益地との経済戦争は?」

 「やはり、アメリカ権益地は経済的な潜在力が高いな」

 「大慶油田、石炭、鉄鉱石は大きいからね」

 「労働搾取できる漢民族・朝鮮族もいる」

 「そして、大規模なプランテーションも牧場も思いのままで強いよ」

 「アメリカ資本の巨大な集金場か、左団扇で羨ましい話しだ」

 「しかし、アメリカ資本の番犬アメリカ駐留軍も御苦労なこった」

 「日本だって、アメリカ権益地の管理人か、御用聞きじゃないか」

 「かっこ悪いな」

 

 

 ロンドン テムズ川

 さざれ石ウォーターフロント

 日本大使館

 日本の大使が試写会のチケットを受け取っていた。

 「・・・どこまで知られているのだろうな」

 「どうやら日本を牽制する映画だと思われます」

 「牽制ねぇ・・・しかし・・・」

 「主流はM資金と呼ばれる金塊発掘が最大の原動力だそうです」

 「まともに対応する方が不利かと」

 「M資金ねぇ〜 また上手い具合に文字を当てやがる」

 「合理的に説明を付けようとしたのでしょう」

 「日本は黄金の国と呼ばれていたこともありますから」

 「では、観客に徹する方がいいのかな」

 「はい」

 「しかし、ここまで近付いているとは驚きだな」

 「映画で揺さぶりをかけているのは、確証を掴んでいない証拠です」

 「だと良いがね・・・」

 

 

 

 中国大陸

 アメリカの浸食、干渉、利益誘導によって軍閥の軍事的独立が高まり。

 少数民族を経由した麻薬、武器の密輸による犯罪と社会不安は、限界に達していた。

 袁世凱(中華民国)は日本の大陸撤退と共に崩れ去り、

 蒋介石(国民党)の不正腐敗は中国民衆の離反を招き。

 毛沢東率いる共産党に民意が集まろうとしていた。

 アメリカ資本に支援された中国軍閥群は、国民党の統制から離脱し、

 国境を封鎖して麻薬と武器の武器密輸を防ぐため独立。

 アメリカ資本の手先となった少数民族・朝鮮人の流入を食い止めてしまう。

 ハルピン

 男たちが薄暗い部屋に集まっていた。

 「やり過ぎたのじゃないかね」

 「確かに大陸の混沌は望んでいたよ。しかし、分裂独立は望んでいなかった」

 「我々が考えていたより乱立してしまったのは、中国人が分裂していたということじゃないか」

 「自己責任というのかね。市場の分割は、採算効率を悪化するよ」

 「問題は、軍閥間の対立から我々でなく、ドイツ、ソビエト、日本・イギリスと組み始めたことだろう」

 「困ったことになったな」

 「麻薬と武器密輸に対する当然の反応で帰結だと思うがね」

 「ともかく不利な事態に移行したものの、権益はまだ残っている」

 「それにバラバラに独立しなければ、国民党が崩れたと同時に大陸ごと赤化してしまう可能性もあった」

 「より悲観的な推測で、現状の利権が崩壊した事を慰められてもね・・・」

 「まぁ いまさら、元の状態に戻る可能性はない」

 「では、現状で最大限の利益を得るよう、シナリオの修正を検討しよう」

 「「「「・・・・」」」」

 中国大陸は、

中国大陸   面積 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437  
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 中立
(成都) 四川 48万5000 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 中立
 
ウィグル ウルムチ ウイグル 166万0000 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 中立

 に分裂、

 燕(北京)はアメリカ。呉(上海)はドイツ。穂(広州)はイギリス。涼(蘭州)はソビエトとの同盟に偏り。

 欧米列強と独自の関係を築き強化していく。

 欧米列強は、分裂した軍閥群を夏冬軍閥時代と呼んで面白がり、

 あるいは、分割縮小された大陸市場にため息をついた。

 香港

 日英同盟の巡洋艦 高雄、コーンウォールが入港していた。

 高雄 艦橋

 「穂(広州)は、イギリスと同盟か・・・」

 「内陸の楚(重慶)、蜀(成都)は非同盟の八方美人でやっていくようだ」

 「まぁ それも一つの選択。政策だろうね。日本資本が参入できるのなら悪くない」

 「だけど、アメリカ資本が強過ぎる」

 「中国は広いから新規参入場所はあるよ」

 「中国人は信用できないよ」

 「産業界は、タングステンがどうしても欲しいんだと」

 「ちっ 我が侭言いやがって」

 「代用が利かないのならしょうがないよ」

 「しかし、当面、センチュリオン戦車の売却先ができて良かったじゃないか」

 「穂国との同盟関係は台湾防衛で悪くないよ」

 「ウィグルとチベットはどうかな」

 「ソビエトの方が影響力が強そうだが、ドイツとアメリカから警告を受けてるらしい」

 「さぁて、中国は第二のインドになるかな」

 「んん・・・中国は、分裂して独立している方が競争力がついてしまうかもしれないな」

 「それはまずい・・・」

 

 

 

 インドシナ 日本領

 ヴィシーフランス参戦後、

 インドシナを占領した日本軍は、半島の先端部の権益を会得し、

 インドシナを独立させてしまう。

 独立後、インドシナは、ベトナム帝国、カンボジア王国、ラオス王国に分裂して独立していた。

 日本がこの地を会得したのは、経済的な理由が主であり。

 東南アジアに交易用の拠点を欲しただけだった。

 この地に進出したのは日本資本の代理店であり、東南アジア貿易を睨んでいた。

 某大手企業

 「随分な低地じゃないか」

 「国内の人口需要が減少しているから、生産量を増やして海外の販路で補わないと」

 「せっかく公共設備に設投資してるのに移民で人口減らすから苦労させられる」

 「アメリカ権益地との競争も激しいから、市場を確保しないと・・・」

 「だよねぇ 鉄道建設しても設備投資を回収する前に乗客が減ったら悲惨」

 「取り敢えず、一旦、ここに物資を集積した後、日本と東南アジアに持って行けば有利かな」

 「ハブ港、ハブ空港になればね」

 「空港はともかく、港は浚渫しないと駄目だろう」

 「あと鉄道も伸びてないとね」

 「設備を最初から作って、シンガポールや広州の真似しようと思っても難しいのでは?」

 「まだシンガポールや広州を使った方が楽そうだな」

 「代用可能な土地があるというだけで、シンガポールと広州の高騰を防げるよ」

 「初期投資がな」

 「南沙群礁の方が開発されてないか」

 「あそこ、政府直轄で特別らしいから一般投資は受け付けないよ」

 「あんな何にもない場所を開発したって、収益にならないのに・・・」

 「なんか・・・不自然で不明瞭な投資がされているな」

 「そういえば会計記録にないM資金が動いていると聞いたことある」

 「予算以上の工費? M資金? ああ、推定金額800憶円の・・・」

 「欧米の諜報機関も探ってるらしいよ」

 「海軍を新調できる資金じゃないか。そんな資金があるわけないと思うけどな」

 「そうそう、そんな金があるなら大戦で使ってる」

 「出所不明な謎のM資金で詐欺でも働こうとしてんじゃないの?」

 「でも、それくらいの金が動いていなと、物理学的にあり得ない規模の工事らしいよ」

 「あり得ない規模というより。あり得ないモノだろう」

 「うん。普通、工事費水増しはあるけど、費用以上の水増し工事はないよな」

 「知ってるの?」

 「その手の依頼が知り合いの興信所に来てるって聞いたことがる」

 「モノ好きな依頼人だな」

 「まぁ 確かに怪しいな」

 

 

 

 瑞樹州

 熱帯雨林地帯の土壌は大量に降る雨水で表土が流れてしまうため意外に痩せている。

 どんなに工夫しても農業用水は、養分とともに排水されてしまう。

 田畑に三角屋根を作って雨量を調整する試みがなされていた。

 土砂降りの雨水が雨どいを伝って一部が水槽タンク、一部が用水路に流れ落ちていく。

 農協と通産省の役人たち。

 「よう、松平っち、どうだ?」

 「田沼っちか、少し振動が大きいな」

 「もう少し、ステンレスの厚みを大きくするか、凹みを大きくするか・・・」

 「厚みを大きくすると値段が変わるからね」

 「ステンレス製は軽量で錆びに強い、悪くないけど太陽光を塞ぐからな」

 「ステンレスはクロム、ニッケルの比率が大きいし、製造原価も高いよ」

 「クロムは南アフリカ。ニッケルはニューカレドニアとカナダから入る価格的には何とかなりそうだよ」

 「セラミックはいま一つだからな」

 「素材はともかく、ブラインド風にして、雨が降ると水量で自動的に閉まるようにすべきだろうね」

 「適当に隙間を作れば、雨量を調整できるし、雨が降っていないときは日光も得られる」

 「まぁ 養分の喪失さえ防げば、季節を問わず田植えと稲刈りができる。豊作は可能だろうけどね」

 「だけど、大規模農家とはいかないし、屋根付きの田畑なんて、そうそうできないと思うよ」

 「だよねぇ」

 「でも、これなら一般家庭でも売れないかな。雨の日でも庭に出られるし」

 「まぁ ステンレスの屋根で家を覆っていたら涼しさも増すかな」

 「でも屋根が落ちたりすると危ないよね。雷とかは?」

 「避雷針代わりになるようにはするけど、それも、これから確認かな」

 「やっぱり木材の方が安全じゃないかな」

 「木材の方が重くなると思うよ」

 「あと、トラクターと田植え機の出入りの兼ね合いもあるね」

 「これからの農業で機械化は避けられないよ。他の産業は人材を欲しがってるし」

 「工業・サービスの生産力を上げながら、農業人口を減らしたいわけか」

 「人が欲しいなら戦車なんか作らず、トラクターと刈り入れ機を量産すればいいんだ」

 「国防は、そういう理屈じゃないんだよ」

 「しかし、日本と違って田植えと刈り入れが自由ならトラクターと田植え機を持つ業者で安定収入じゃないか」

 「まぁ それは言えるね・・・」

 役人が水槽タンクに溜まった雨水を味見する。

 味に支障がなければ優れた軟水として飲料水から工業用水にまで流用で来た。

 「・・・悪くないね」

 「ステンレスだからね。使えなきゃ泣きたくなるよ」

 雨がやみ始めると、雨どいの水が全て用水路に流れ落ちていく、

 水量の重みがなくなるとブラインドが開いて、太陽光が田畑に注ぎ込んだ。

 日本産業で錆びないステンレス鋼の需要が高まったのは、高温多湿の瑞樹州開発が大きかった。

 

 瑞樹州 某高原

 空輸のみで町を建設できるはずもなく、

 孤立した高原に町を建設する事は容易ではない。

 なので瑞樹州の孤立した高原町群は、異様な世界と言える。

 熱帯雨林気候特有のスコールに包まれるかのように空港が建設されて、

 零式輸送機、三指揮連絡機が離着陸する。

 そして、飛行場上空の巨大な航空装甲艦 塞凰 は、その姿を変貌させていた。

 チタン製が増え、全長、全幅、全高とも一回り大きくなっていた。

 なのでダミーで建造した2番艦が1番艦として見られ、

 1番艦が2番艦に見られてしまう。

 飛行船と違うのは、艦内空間を全て有効に使えることであり、

 艦内容積の多くは、格納庫にされ、今では運び屋稼業に専念していた。

 塞凰が浮上すると、格納庫ごと物資が飛行場に降ろされていた。

 周辺に大量の物資が集積され、整地と区画整理が進み、

 発電、舗装、上下水道が整い始めると、需要と供給が作られ、

 町は次第に大きくなっていく。

 標高1500m以上であれば赤道近辺と思えないほど涼しく、過ごしやすかった。

 全寮制の農業学校で銃声が響いた。

FN ブローニング・ハイパワー
弾薬 銃身長/全長 重量 装弾数 初速 射程
9mm×19 118/200 810/986g 13・20発 360m/s 50m

 魔法使いが前線に出ることは、ほとんどない。

 しかし、忍び寄る列強の影に射撃場が作られ、子供たちにも銃を持たさせられる。

 手首の1kgの錘バンドを外すと、だいたい、銃を持っているのと変わらなくなる。

 筋力と制動力、動体視力をバランス良く鍛えていくと拳銃の命中率が上がっていく。

 後は、慣れだった。

 拳銃に似せた標的に銃弾が命中すると弾け飛ぶ。

 火墨、水戸、トウコ、4人がテーブルで拳銃を組み立てていた。

 発砲による衝撃は大きく、拳銃の命中率は自然に低下していく。

 なのでテイクダウンラッチを操作して分解。綺麗に吹き上げて組み立て直す。

 こういった銃の手入れは重要だった。

 「・・トウコ。上手」

 「へへへ、カゲハちゃんは、もう少し頑張らないとね」

 「俺が一番速く組み立てるかな」

 「でも火墨君は、動きが粗いからヤラレ役かも」

 「そういえば水鉄砲でやると水戸が勝ち残るわね」

 「水戸〜 そういうのは、本物を一発当ててから言えよ」

 「衝撃で少しブレちゃうんだよ」

 「引き金を引く時、微妙に揺れてしまうと反動で余計に狂ってしまうんだよ」

 「あと肘かな」

 何人かの子供は、30m離れた木製の拳銃を破壊していく。

 教官たち

 「少年たちは、どうです?」

 「上手いものだ。特に人型でない標的は、良く当たる」

 「人型の標的は?」

 「駄目だな。命中率が異常に下がる」

 「・・・なるほど、予想通り魔法使いは戦闘向きでない、ですね」

 「保身より自己犠牲的な意識が強いというのは本当だったようですね」

 「あまり意味がないのでは?」

 「魔法の杖は12本。生徒は154人。いざとなったら拳銃くらい持たせたくなりますよ」

 「だから拳銃型の目標ですか。人が持っていたら当たらないでは?」

 「賭けだよ。賭け。それにストレス解消になるからね」

 「拳銃射撃でストレス解消ですか?」

 「まだ娯楽が少ないからな」

 

 

 戦後の日本は、軍部の予算が縮小すると権力と権威が低下し、

 予算が土木建設や民間企業に振り分けられていく。

 競争原理により営利企業が伸びて行くと国民の意識も変わり、

 愛国心より利己主義がもてはやされるようになっていく。

 軍国主義、愛国心、国益を同一視され、勘違いされたのか、

 母親が “御国のために・・・” と言わなくなって久しい。

 権利の主張が強くなり、採算性が重視され、利害抗争も激しさを増していた。

 非営利の公益性が軽んじられ義務と自己犠牲が忌み嫌われるようになり。

 有望な人材が営利企業に行けば、公平性と公益性が削がれるため公僕の人件費も増していく。

 赤レンガの住人たち

 お役所仕事は鉄則がある。

 予算があること、前例があること、制度があること、時間があること。

 減点方式は、失敗さえしなければ成功であり、投機的な成果を必要としなかった。

 なので予算がなければ無為に時間を潰すよりない。

 「志願制は定数を維持できないよ」

 「人件費が高くなると兵装も目減りしちゃうな」

 「対米戦だと、いきなり本土決戦だ。奇襲を受けると主戦力の壊滅もありえる」

 「F86とB47は圧倒的だな」

 「試験配備中で、まだ実用配備じゃないだろう」

 「日本側は、試作すら進んでないよ」

 「塞凰で勝てるだろうか?」

 「魔法使いを乗せれば、防御も容易で爆弾を落とすだけじゃないか」

 「いくら魔法使いでも飽和攻撃されると対応できなくなるよ」

 「それにつまらない事で寿命を失わせたくない」

 「だから、もう少し軍事費が欲しいんじゃないか」

 「だよねぇ」

 

 

 南沙群礁

 対潜哨戒機 “東海” がUボート上空を旋回した後、去っていく。

 水中2400トン級U4000号 艦橋

 「・・・行ったな」

 「ええ、もうすぐ、日本の哨戒艇が来るのでは?」

 「それはどうかな。アメリカ、イギリスも、この海域に哨戒艇や潜水艦を配置している」

 「日本も、いちいち、対応していられないだろう」

 「しかし、南シナ海に何かあるので?」

 「さぁな。しかし、海洋調査潜水艇だけでは足りず、我々まで駆り出された」

 「艦底に探照灯と窓を付けさせられたのだ。なにもないでは済まされんだろう」

 「ですが日本艦船の方が少ないほどですよ」

 「そのようだな」

 「やはり、ブラフだったのでは?」

 「ブラフだとしたら日本は第一級の策士だろうな」

 「これだけの米英独艦艇を駆り出させたのだから尊敬に値するよ」

 「日本は、水中6500トン級潜水艦を建造しているそうですが?」

 「無制限潜水艦作戦をしないのなら、潜水艦の価値は半減以下だ」

 「第二次大戦ではドイツは、無制限潜水艦作戦をしなかった」

 「無制限潜水艦作戦をするにせよ。しないにせよ。潜水艦を大型化するのは限度があるはず」

 「そういえば、塞凰が潜水艦構造という噂は?」

 「調査によるとタダの観測飛行船だそうだ。だいたい、潜水艦が空を飛ぶわけがない」

 「アメリカとイギリスは、まだ疑っているようですが」

 「・・・楚(上海)国で、もう少し日本の情報を集められればいいのに」

 「国際河川の揚子江を封鎖しない限り、無理では?」

 「そんな事をすれば楚(上海)国は袋叩きにあって、潰されるよ」

 

 

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 傷病兵を抱えた家族は悲惨と言える。

 イギリスから支払われる恩給も、為替相場の変動と次第に大きくなるインフレで目減りしていた。

 国家は、遺族年金だけでは足りないと、特別恩給を出していた。

 負担ではあるが残された遺族を支えなければ、志願兵を維持できなくなる。

 戦争で利益を上げようとしても無理があり、

 結局、庶民にしわ寄せがいくのだった。

 鳳 葉月 (おおとり はづき) (12歳)は学校から戻ると右足を失った父親の面倒を診ていた、

 舗装されている場所は少なく、車椅子を押して散歩に出かけるのも一苦労と言えた。

 「お父さん、今日はどこに行く?」

 「そうだな。葉月はどこに行きたい?」

 「んん・・・御父さんは、囲碁クラブに行きたいんでしょう」

 「この時間は、相手がいなくてね」

 「みんな忙しそう」

 「みんな競って働くから、時間が奪われていくな」

 「お父さんも時間が奪われたの?」

 「そうだな、昔の方が、もう少しのんびりしていたかもしれないな」

 「昔の方が良かった?」

 「昔か・・・結局、人は働いて自立することが大切なんだよ」

 「人の世話になっていることほど惨めな事はないからね」

 「お父さんは、十分に働いたんでしょ」

 「どうかな、戦場は、運不運もあるからな。戦争せず働いていた方がいいだろうな」

 「うん」

 

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 この時代、労働基準法は緩やかで、孤児も逞しい。

 12歳の子供でも、木賃宿で寝泊まりしながら公共事業を追いかけて働いて生きていける。

 もちろん、子供だと搾取されやすく、生かさず殺さずという不憫な目に遭いやすかった。

 しかし、公共事業が増え、人手不足になると売り手市場。

 労働者は好条件に誘われて異動してしまうため、

 子供でさえ、職場を選びやすくなり、搾取も難しくなる。

 そう、戦中から始まる青田買いが孤児の生活を助けていた。

 孤児院は、ほとんどが女の子ばかりという事もあった。

 漣 蒼乃 (さざなみ あおの) (12歳)は、両親を亡くし、

 親戚の伝手を頼っていたが次第に居辛くなり、

 紹介された職場を転々としながら発電所建設現場まで来ていた。

 少なくとも木賃宿に泊まり、

 銀行に貯金ができる程度の賃金をもらえた。

 とはいえ、12歳の子供ができることは少ない。

 現場に縦に切ったドラム缶が凹・凹で備え付けられており、

 その一つには、木炭が並べられ、

 もう一つには、砂と玉石が敷き詰められていた。

 漣はイモを並べ、余った木材で火を起こし、火箸で焼け具合を見ていた。

 労働者が多いと安上がりな間食が好まれ、3時には大量の芋が焼かれていた。

 冬場は、石焼きイモが人気があり、美味しさにも秘訣があった。

 強火で焚きつけた後、65度から85度の温度で時間をかけて水分を飛ばすこと。

 「おやっさん、焼けたよ」

 「おお、漣。みんなに配ってくれ」

 工員たちに石焼きイモが配られていく。

 「漣、上手に作れるようになったじゃないか、石焼きイモ屋になれるぞ」

 「そうかな」

 「いや、漣は、結構、モテそうだから、良い後家をみつけて跡目取っちゃえよ」

 「あははは・・・」

 「夜食は、味噌汁と焼き飯と干物だから頼むよ」

 「はい」

 「あ、そういえば、漣、今度の月曜日、役場に来いと云ってたぞ」

 「え〜 何だろう」

 「おまえ、職場の顔を潰すようなことしてないだろうな」

 「そんなぁ、それなら役場じゃなくて警察が来るよ」

 「そりゃそうだ」

 

 

 

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 樺太州は比較的新しい日本であり、取り立てて伝統らしい伝統もない。

 吹雪が吹き荒べば対岸のソビエト領は、霞んでしまう。

 とはいえ、ソビエト領がもっとも近付くのは冬であり、

 凍った間宮海峡を歩いてソビエト領に行くことができた。

 紅 炎矢 (くれない えんや) (12歳)は、親が対ソ監視員をしているため、

 この寒い樺太に住んでいた。

 時折、亡命者が現れては、日本の国境警備隊に捕まる、

 日本は、基本的に亡命を受け入れていない。

 代わりに希望する亡命国へ受け入れられれば、そちらに移送させられる。

 亡命を受け入れないというのは、ソビエト側へのリップサービスであり、

 亡命者の希望する亡命国に引き渡すは、欧米諸国に対し人道的な配慮をしているという宣伝。

 吹雪が収まると外の板が外され窓から光が差し込む、

 家の壁は、驚くほど厚く、部屋の中は、庵の放射熱によって暖が取れていた。

 炭火を上手く燃やさないと二酸化炭素中毒という場合もあって、慎重に炭をくべていく。

 オハの石油で発電は起こせたものの、白樺から作られた木炭は人気があった。

 そして、樺太島を縦断するように掘られている地下道は、人二人が並んで歩ける幅しかなかった。

 それでも、冬季でも安全に移動ができて、

 石油パイプラインを樺太の南端まで通し、樺太産業を安定させていた。

 いつの間に掘られたのか分からないと、大人たちのヒソヒソ話が聞こえてくる、

 そんな事はないだろうと思うと、実は樺太守備隊が掘っていたのであり、

 よくよく聞き耳を立てると掘削機も使わず簡単に掘れたのがおかしいという事になっていた。

 いまは、掘削機を使って、拡張工事を進め、地下鉄を通す予定らしい。

 「炎矢。来年は、千島のウルップで温泉に浸かれるぞ」

 「へぇ 御父さん、仕事クビになったの?」

 「まさか、異動だよ」

 「じゃ 学校も転校だね」

 「そうなるな」

 「でも学校で仕事の斡旋が来てたよ」

 「子供は勉強するモノだ」

 「そうかな」

 「日本の科学技術は遅れている。欧米諸国と対等になりたいのなら、もっと勉強することだ」

 「先生は、誠実な人間が増えれば、すぐ追いつけるって言ってたよ」

 「じゃ 誠実に勉強しなさい」

 「は〜い」

 

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 台湾道

 島の西側に平地が南北に広がっていた。

 島の東側は、何重にも山脈が南北を連なっていた。

 最高峰の新高山(3952m)は、富士山(3776m)より高く、

 瑞樹州を編入する以前は日本最高峰だった。

 台湾人は中国語を話せるものが少なくなく、

 英語を覚えるとアメリカ資本で大陸で働けるため、羽振りが良くなっていく。

 外資は急速に増え、同化政策を兼ねた公共投資が進み、近代化が進んでいく。

 台湾人は、まだ日本人という意識が小さく、

 アメリカ資本の影響下で働くため、欧米諸国の工作員になりやすく、

 特に穂(広州)が独立すると、日穂関係が強まり、大陸人が入り込み易くなっていた。

 なので、日本政府も警戒する。

 とはいえ、人を育てるのにも、味方を作るのにも飴と鞭が必要であり、

 鞭だけでは捻くれた敵になった。

 飴ばかりでは怠惰な腐った人間になってしまう。

 自分自身が希望になれない人間は、どの世界でも絶望するしかなく、

 他人の足を引っ張るだけであり、人を絶望させる。

 そして、台湾人の気質は大陸より島国の日本人に近いことが幸いし、

 識字率が高まるにつれ、自助能力と自浄能力を発揮しつつ、生きる力を付けていた。

 そして、諜報戦は、教育的な基盤の上で行われており、

 強圧的な制度に至らなかった。

 大戦後、台湾人の過半数は日本との同化を望み始め、非大陸化していた。

 楠 道瑠 (くすのき みちる) (12歳)は、日本人だったが台湾生まれ、台湾育ちだった。

 なので日本語、中国語のどちらも話せた。

 先に卒業した従姉から貰ったセーラー服のスカートが風に靡くのが好きだった。

 高度成長にあったものの勿体無いことをする人間は白い目で見られる時代であり、

 まだ人と人の繋がりは強く、人から古着を貰う事は良くある事だった。

 日本の城郭風に建設された新高学校は、扇状にそそり立つ一際高い山を背にしていた。

 生徒の3分の1は台湾人で、3分の1は日本人。3分の1は混血だった。

 「楠、おはよ」

 「おはよ、王君」

 「算数の宿題した?」

 「国語の宿題見せてくれたら、算数の宿題見せてあげる」

 「日本人なのになんで国語が苦手なんだよ」

 「算数こそ、世界の共通語よ」

 「算数じゃ会話にならないじゃないか」

 「王君は台湾人なのに、なんで国語が得意なのよ」

 「国語の教科書を毎日、3回は読んでるよ。一か月で90回は読んでるね」

 「す、凄い〜 道理で頭が良いと思った」

 「頭の良し悪しは関係ないよ」

 「教科書を正確に読んでるか、読んでないかの差だけだよ」

 「家の工場でアルバイトしながら、良くそんな事できるわね。とても真似できないわ」

 「まだ、4時間くらいしか働いてないから」

 「王君は、学校を卒業したら家の工場で働くの?」

 「んん・・・どうかな」

 「はぁ 来月社員が二人辞められるから代わりが来ないと、わたしも手伝わされちゃうのよね」

 「工場も大変そうだね」

 「人手不足で、このままだと穂の人を雇わないといけなくなるって」

 「穂か・・・英語を覚えた方がお金になるから、どうかな・・・」

 「そんなにお金になるの?」

 「倍くらい違うらしいよ」

 「ぅ・・・私も中国語だいたい話せるから、英語覚えようかな」

 

 

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 某学校の外に白人たちが立っていた。

 「怪しいといえば怪しい」

 「しかし・・・魔法社なんて露骨過ぎるよ」

 「だいたい赤字だろう。詐欺じゃないか、どこのバカが投資してるんだ」

 「いくつかの口座を経由して入金されているらしいけど、たぶん、日本政府だろうな」

 「となると、やっぱり怪しい」

 「会社には忍び込んだんだろう」

 「・・・ああ、魔法の杖は、ただの木だったよ」

 「本物の魔法の杖が別にあるんじゃないか」

 「いろいろな意味で、まさかな」

 「そして、ある確率で少年少女が全寮制の学校に引き抜かれていく」

 「全寮制の学校は8つ、うち4つを確認しているが質の高い学校でしかない」

 「特別学校生徒の一般選出法としては、適当と言えないね」

 「特異能力を持つ人間を判別する機械でもあるのか?」

 「日本の政策変更と経済の急成長を考えると何かあるような気がするな」

 「怪しいのは6つだ」

  1、沈没して55年ぶりに出現した巡洋艦畝傍。

  2、物理を無視した暗殺未遂事件。

  3、出所不明の希少資源。

  4、製造不可な部品。

  5、塞凰。

  6、採算度外視の水増し工事と不可能な土木建設。

 「それを全て結びつけて解決するモノが魔法社にあるというのか?」

 「疑わしいというだけかな」

 「特別学校に入った少年少女の早死にも怪しくないか?」

 「あと法務省詣でだ」

 「大蔵省の予算折衝で関係者が行くのは分かるが法務省詣では変だ」

 「くっそぉ〜 閉鎖的過ぎて良く分からん機構だ」

 「もっと、我々に解放してもらいたいものだな」

 「郷に入れば郷に従えじゃないか」

 「ちっ タダでさえ、日本に不利な投資しているというのに・・・」

 「留学生をもっと増やそう。何人か潜り込ませれば、何を隠しているか探れるだろう」

 

 

 某小学校

 情緒教育は、人として好ましく成長し、社会生活を営めるように生きる心を強め、

 人との繋がり、因果律、道理、各位、好奇心、

 道徳、公私の分別を刻みつけていく。

 家庭でやるべきでも、国家も並々ならぬ関心を持つ部分であり、

 幼少期の成長を足す人材を育てる国家機関の重要性も高い。

 通路で私服の男たちが監視する。

 「へぇ 青っぱな垂らした子供は、随分減ったじゃないか?」

 「食い物が良くなったんじゃないかな」

 「あれだけ公共事業で金をばら撒けばな」

 「後先考えずやりやがる」

 「軍需バブルとデジャブだな」

 「ふん、どうせ、親方日の丸で踏ん反り返って赤字にするに決まってる」

 「・・・ん・・外を見ろよ。張られてるぞ」

 「ついに魔法社に目を付けたか」

 「法外だし怪しまれても仕方ないかな・・・」

 「どこまで掴んでいるんだろう?」

 「さぁ 結構、いい加減だからな」

 教室内

 「さぁ みんな〜 これから、ちょっとした実験を始める」

 「我が日本魔法社が秘密裏に開発した。この杖を持って “ライト” と叫ぶんだ」

 「日本の将来がかかっているから真剣に集中してやるんだぞ〜」

 「「「「・・・・・・」」」」 し〜ん

 『嘘くせぇ』

 『良い大人が恥ずかしくないのかよ』

 『腹空いた・・・』

 『バカか』

 『夢見てんのか、おっさん』

 『自然認識に欠けてんじゃないのか』

 『欠けてるの、常識の方だと思うよ』

 「さぁ みんな、順番に一人ずつ、隣の教室に来るんだ」

 『『『『やれやれ・・・』』』』

 そして 学校は “それはそれ、これはこれ” という、

 社会の屁理屈と歪に直面させられる場でもある。

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 副題は、平家物語の冒頭の一節からです。

   祇園総社の鐘の声 諸行無常の響きあり

   紗羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す

   驕れる者も久しからず ただ春の世の夢のごとし

   武き者もつひには滅びぬ ひとえに風の前の塵に同じ

 いや懐かしい。

 学生時代に覚えさせられました。

 いま思えば、即時的で平面的な文でなく、

 人種言語文化宗教を問わず、古今東西の歴史を含んだ良文と言えるでしょう。

 こういう深みのある日本文化を誇りとすべきでしょう。

 では、ちょっとだけ視点を変えて、雰囲気を変えてみましょう。

   祇園総社の鐘の声 諸行欲望の響きあり

   沙羅双樹の土の色 貧者必現の理を表す

   妬む者は求めやまず ただ冬の世の息のごとし

   逃き者も迷い窮す ひとえに風の前の塵に同じ

 くら〜〜〜い!

 現実はかくも暗いものかと思ったりです。

 

 中国大陸は国民軍と共産軍の戦いから、夏冬軍閥時代に移行しました。

 7軍閥国は、当初、封建主義の強い軍事独裁体制です、

 しかし、諸行無常、徐々に民意を取り入れていくことになりそうです。

 分裂すると、労働力得とくのため、労働法が改善されたり、

 切磋琢磨とか競争社会になりやすく、史実より安定成長するかもです。

 

 さて、魔業の黎明も、そろそろ異境ガイア世界を書かないと、この先に進めなさそうです。

 次は、召喚魔法レベルの魔法使い4人が揃います。

 

 

 

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第09話 1949年 『富国強兵病かな』
第10話 1950年 『驕れる者も久しからず』
第11話 1951年 『規制という名の関所』