月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第11話 1951年 『規制という名の関所』

 極東アメリカ権益地

 人口の過半数を漢民族が占めていた。

 国境は封鎖されており、出て行くことが自由でも入ることは困難だった。

 犯罪を犯せば、中国大陸へ奴隷として売却されてしまうのだった。

 なので中国人・朝鮮人は、急成長のアメリカ権益地に残ろうと必死になり、

 必然的にモラルが高くなっていく。

 アメリカの農場主によって広大な耕作地帯が管理され、

 そこでも日本・台湾人と漢民族が巨大な農業機械を動かして働いていた。

 アメリカ資本と中国資源と日本・台湾の労働力が極東権益地で結びつき、

 大豆、トウモロコシ、小麦、リンゴ、ブドウ、アワ、キャベツ、コーリャン。

 これらの作物が地平線の果てまで開発されていく、

 日本の穀物生産の十数倍の規模で生産されており、単価は日本より安かった。

 これらの作物が日本に流れ込めば、日本の第一次産業は壊滅的な打撃を受けた。

 

 大慶油田、撫順石炭、遼寧鉄鉱石。

 設備投資と比例するように鉱物資源の産出が増加していく。

 そして、鉱山に併設されるように発電所が建設され、鉄道が結ばれ、

 石油化学工業、天然ガス化学工業、石炭化学工業、油脂工業などの工場群が建設されていく。

 無論、これらの穀物生産、鉱物採掘、建設事業の発注は、日本が受けており、

 それらの需要だけで日本産業は毎年GDP(国内総生産)の記録を更新していた。

 しかし、アメリカ権益地の近代化と生産が軌道に乗れば、逆転する可能性を秘めていた。

 フォード工場。

 「ここでは最新の自動車生産設備で自動車を作っています」

 「アメリカの自動車がアジアの道を走ることになるでしょう」

 「日本人労働者が来れば、もっと工場を大きくできますし、安定した収入になるはずです」

 「中国の分割はどうでしょう?」

 「た、確かに不利な条件ですが、揚子江は国際河川なので大丈夫です。心配ありません」 汗々

 「「「「・・・・」」」」

 日本の見学者たちは、アメリカ企業の底力に青くなる。

 日本・台湾労働者が働く事で、自分の祖国のクビを占めていた。

 労働条件は、アメリカ企業の方が当然良く、

 日本・台湾人の社宅群は、広がっていく。

 ファーストフード店

 日本人労働者が働いているため、日本語が使えた。

 ハンバーガーは人気があり、ポテトチップも山の様に載せられ、

 日本より安かった。

 日本人たち

 「ヤバいよ。満州産業が軌道に乗ったら、日本への発注が減って、日本産業は大打撃だよ」

 「だけど、日本産業の再建は、満州開発で成り立っているんだぞ」

 「日本が満州帝国でやろうとしていたことがアメリカ資本によってやられているだけだろう」

 「日本資本でやってたら赤字だったよ。それにもっと年月がかかった」

 「どの道、日本は駄目じゃん」

 「労働条件で張り合うと負けだよ」

 「だから、日本人労働者の労働移民を規制しようよ」

 「極東権益地からの外資がないと、日本産業は立ちいかないよ」

 「そうそう、海峡トンネル建設も日本縦断鉄道建設もアウト」

 「極東権益地から日本人労働者が戻ってこなかったら、そんな鉄道は、採算性でアウトだよ」

 「だから、海外就労の規制・・・」

 「アホか、規制したら日本産業は、いま潰れる」

 「こうなったら日本の労働条件と利便性を高めて、里帰りした時、引き抜こう」

 「アメリカ企業は年俸制で、ドルは高値安定、美味し過ぎるよ」

 「それにアメリカ資本並みに労働条件を良くしたら、日本企業が軒並みつぶれるよ」

 「そうそう、小資本家が騙し騙しやってるんだから」

 「「「「・・・・・」」」」 むっすぅうう〜

 

 

 国民党は、不正腐敗による民衆の離反。軍閥の離脱。

 中国少数民族・朝鮮人の流入と麻薬と武器の武器密輸による犯罪増加により崩壊。

 中国軍閥は、保身と利権を守るため国境線を敷いて独立してしまう。

中国大陸   面積 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437  
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 中立
(成都) 四川 48万5000 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 中立
 
ウルムチ ウイグル 166万0000 中立
ラサ チベット 122万8400 中立

 中国大陸は分裂しても一つ一つが中型以上の国家群であり、

 こじんまりとしたことで、下々まで目が届きやすくなり、不正腐敗の負担が軽減する。

 また、有力な人材や労働力を集めようと条件を良くしたり、

 約束を守りやすくなるという現象も見られた。

 アメリカ資本をバックにした中国少数民族は勢いがあった。

 特に穂と大理は、アメリカ資本から支援され、麻薬と武器密売で力を付けた少数民族が多く。

 穂と大理は、民主主義国家に移行することで、少数民族の取り込みに成功する、

 民衆は、統治と関係のないサービス、人権と衣食住の確保を望むのであり、

 それを政府が整えるのであれば少数民族も構わないのだった。

 穂国 広西チワン族自治区

 総人口の半分が漢民族であり、

 残り半分がチワン族といくつかの少数民族だった。

 日本人たちが歩き回る。

 「横文字の看板に少数民族の店主ばかり。随分、アメリカ資本が入り込んでいるじゃないか」

 「しかし、大したものだ。ロクな道もないというのに・・・」

 「馬車と馬だな。アメリカ資本の誘い水と甘い汁を吸った豪商は、やめられないのだろうな」

 「武器を持っているのはチワン族ばかり、別個に独立しなかったのは何故だ?」

 「チワン族が穂国に取り込まれたのは通商ルートと集客の確保。経済的な理由だよ」

 「けっ 他所に武器と麻薬を売りまくって、自分のところじゃ 日用品か、良い御身分だ」

 「漢民族が同族に麻薬を売り捌いているのを見たら、売っても良いんじゃないかと思っても仕方ないよ」

 「日本が大陸から撤収しても、相変わらずか」

 「いや、日本と違ってアメリカ資本は大きいからね。みんな麻薬と武器密輸をやりたがるよ」

 「漢民族は数が多過ぎて危機感が足りないんじゃないか」

 「少数民族の方が存亡の危機で結束しやすいよ」

 「そういや、元はモンゴル。清は満州族だっけ」

 「不正腐敗が増えると簡単に足元をすくわれるってことかな」

 

 

 燕(北京)

 紫禁城、天安門広場にM4戦車が並び、

 アメリカ軍事顧問団の将校が歩き回る。

 アメリカ軍は、戦場での実戦経験者の絶対数が不足しており、

 情報処理、組織構造、装備の質と量で総合トップにもかかわらず、

 ペーパードライバーとか、ボーイスカウト軍と揶揄されるほどだった。

 実戦経験のないアメリカ軍事顧問団の正体は、元義勇軍、元ドイツ軍の移民者だった。

 総合でアメリカ軍が優勢でも、中国軍の方が実戦経験で勝っており、

 中国軍将兵のアメリカ軍事顧問団に対する視線は、蔑視に近い。

 「共産主義の浸透を防ぎながら民主化を進めていく実験か、上手くいくのか?」

 「国民党を空中分解させて、軍閥ごと独立させる方が共産主義の浸透を防げるよ」

 「市場が分散して、さらにいくつかの軍閥が敵対勢力へ靡く。意見の分かれるところだね」

 「終わってしまった事を悔やんでもしょうがないよ」

 「毛沢東の涼(蘭州)国がどう出るかな」

 「この泰(北京)か、楚(重慶)、蜀(成都)、新(ウルムチ)、蔵(ラサ)への浸透だろう」

 「初期の資本家がやることは決まってる」

 「設備投資と収奪」

 「投資回収と雇用」

 「価格競争と搾取」

 「再生産によるサービス向上と恩恵の波及まで年月が必要だからね」

 「中間管理者が多ければ採算効率は悪化。貧富の格差が広がれば労働者は我慢できなくなるな」

 「後続組の追い上げは辛いな」

 「共産主義者は、当然、生活苦を利用するだろうね」

 「盲目的に共産主義を信奉する教条主義者を大量に作り出す事は出来るよ」

 「しかし、問題は・・・」

 「日本か?」

 「まったく、あの国はどうかしてるよ」

 「あれだけ、国民を酷使しているのに、もう少し、共産主義が強くなると思ったがね」

 「今じゃ 軍部台頭による最悪の経済破綻を乗り切って、高度経済成長中だ」

 「斜陽のイギリスの片棒を担いで利益を吸い上げている、運が良いな」

 

 

 呉(上海)

 揚子江は国際河川であり、列強各国の船舶が行き来していた。

 もっとも国際色が豊かであり、華僑資本のアジトになろうとしていた。

 そして、中流層のもっとも多い国だった。

 この国がドイツと組んだのは、アメリカ合衆国が燕(北京)との関係を深め、

 日英同盟が穂(広州)と友好を深めたため、対抗したに過ぎない。

 イギリス人の工作員がホテルから港湾を見ていた。

 ドイツ製兵器が上海の港に降ろされ、戦略物資がドイツへと輸出されていく。

 「ドイツも気前が良いな新型のヴァイス・パンター(白豹)戦車だ」

 「モンキー・モデルじゃないのか?」

 「ドイツ・呉(上海)、アメリカ・燕(北京)、日英同盟・穂(広州)、ソビエト・涼(蘭州)で代理戦争かもね」

 「まさか、軍閥同士を張り合わせて武器売却で儲けたいだけさ」

 「楚(重慶)、蜀(成都)への工作は?」

 「各国の投資は公平に受け入れるらしいがね。先に基盤を作ったアメリカ資本は強い」

 「どいつもこいつも利権に溺れやがって」

 「どちらにしろ、イギリスは落ち目だね」

 「植民地の利権に溺れて安楽な生活水準を落としたくない連中が多過ぎるんだよ」

 「その植民地の利権も日本抜きじゃ維持できないのが厳しいよ」

 「そういえば、日本人が言ってたな、驕れる者も久しからず」

 

 

 楚(重慶)

 外港を揚子江のみに頼った楚国は、列強に対し市場を開放することで国防を図る。

 この政策は、楚(重慶)だけでなく、蜀(成都)、大理(昆明)も同様だった。

 政府は、国内開発と経済基盤の大半を国外資本に依存し、

 大家としてテナント収入に徹する。

 亜熱帯で濃霧に包まれた世界だった。

 重慶の波止場に商船が到着すると日本の代理人が降りる。

 「あじぃいい〜!」

 「8年ぶりだけど。こんなに暑苦しかったかな」

 「市場開放のおかげで、ようやく直接交易ができるようになったけどね」

 「ルートの大半をアメリカに押さえられているのが辛いね」

 「やれやれ、人脈も販路も作り直しか、先行している台湾商人と合流しよう」

 「日本料理店、東倭(とうわ)楼だっけ」

 「もう少し、自尊心を保てる名前にすれば良いのに」

 「中国人の自尊心の方が大切なんだと」

 「アホくさ」

 「蜀(成都)にも支店を出すのか?」

 「ここで成功すればね」

 「蜀(成都)がチベットやウィグルを攻めようと思わなければ良いがね」

 「アメリカ資本が退くと蜀(成都)は潰れるよ」

 「それに涼(蘭州)、楚(重慶)、大理(昆明)にも背を向けることになる」

 「なるほど、アメリカは全て計算しながら軍閥を支援したわけか」

 「内戦。そして、麻薬と武器密輸で億単位は死んでないか」

 「ふっ 欧州大戦が小競り合いに思えるよ」

 「利益誘導だけで中国人同士を殺し合わせるなんて、お金持ちじゃないとできないよね」

 「利権やお金が絡んだら日本人同士だって殺し合うよ」

 「日本は、欧米列強に対し脆弱だから目立たないだけだ」

 「じゃ バラバラにされて脆弱になった中国大陸は、軍閥内で結束し始めるな」

 「・・・しかし、随分アメリカ人が多いじゃないか」

 「三峡ダムを建設するらしい」

 「へぇ アメリカもやるねぇ」

 「いや、楚(重慶)の生き残り政策だろうよ」

 「じゃ 思いっきり、資源をアメリカに取られるじゃないか」

 「だけど、建設労働力は、日本・台湾に頼るらしいけど」

 「ふっ さっすがホワイトカラー。発想がスマートで違うねぇ」

 

 

 日本の土木建設技術の急成長と向上は、国内需要だけが理由ではなかった。

 積極財政の赤字先送り分を海外需要が補填していた。

 アメリカ極東権益地、中国、オランダ(インドネシア)、バルカン・カフカス、イギリス植民地、

 これらの需要と外資が日本産業を発展させ、

 土木建設会社の技術を世界一に押し上げてしまう。

 また、土木建設以外の需要も大きく、日本の工業生産は毎年の如く記録を更新していた。

 しかし、いろいろ内政問題も出てくる。

 法律や規制は、国家の安定を保ち、不正腐敗と無法な犯罪を防止し、

 公平性を維持することで倫理道徳を維持するために存在する。

 なのであるが使用上の注意を誤ると国民を殺し、弱者を追い詰める劇薬にもなった。

 官僚は、二種類がいる。

 規制を作って税金を吸い上げる官僚。

 税金で吸い上げた予算を使う官僚。

 規制外は犯罪者にされて罰金を支払せられる。

 必要経費はともかく、

 やり過ぎると国家権力のぼったくりで、社会全体が動脈硬化を起こしてしまう。

 資格制度がそうであり、資格を一つ作るだけで左団扇く暮らせる政官財が生まれる。

 例えば裁判を利用できる者は、資本のある法人か個人のみであり、

 貧民層は、犯罪に巻き込まれない限り縁がなく、

 加害者にしろ被害者にしろ、費用で吸い取られてしまう。

 そのため、賠償金は税金を含めて、とんでもない額となり、

 まともに支払える加害者は少なくなる。

 規制が煩わしくなれば、権力者、官僚、資本家、法律使い、富裕層、アウトローの暴力団が有利になり。

 規制が弱ければ、無軌道で無法インチキ商法が乱立する。

 線引きをどうするかも政府の仕事だった。

 日本 首相官邸

 政府閣僚と官僚代表たちがいた。

 「現段階の日本の成長率は、アメリカ極東権益地の2.6倍・・・」

 「取引する方が得ということか、随分、楽観的な数字だな」

 「貧富の格差が小さい部分でプラスアルファされているのだろう」

 「将来的に不安はあるが・・・」

 「渡航就労の規制は、取り敢えず代案がないので見送ろう」

 「「「「「・・・・・」」」」」 渋々

 「深度50m以下の大深度開発は、国防上の都合で良しとすべきだろう」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「イギリス自動車会社との提携も進めるべきだろうな」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「他は・・・国内は、価格競争が激しくなれば、潰れるか生き残るかだ。インチキする企業も出るだろう」

 「規制を作って最低ラインの水準を保つべきじゃないか、国民の不信感と不安は高まっている」

 「確かに不正する企業もあるがね」

 「しかし、規制を作って排他的特権を認めれば、不公平感と不満を持つ者も出るよ」

 「どっちも良い所取りはないのかね?」

 「そんなご都合主義。聞いたことないね」

 「規制は、関所みたいなものですよ。酷いと社会全体が動脈硬化を起こす」

 「しかし、排他的な規制を作ること無法者を排斥できる」

 「安定が生まれる代わり競争がなくなり聖域が生まれ、左団扇な特権階級が誕生する」

 「び、微妙なところですね」

 「不正腐敗が起こるたびに規制を作ると、胡坐を掻く特権階級が量産されるよ」

 「はぁ 業種が増えてきたからな、先行するモノが官僚と組んで垣根を作りたがるのも分かるが・・・」

 「信長のように簡単に規制を廃止できる世の中じゃありませんからね」

 「単に権利力が分散し過ぎたということだろう」

 「そうとも言えますがね。どこの国でも利権団体は強大ですから」

 「んん・・・国内は下手をすると殺される。少し保留して、海外は?」

 「中国大陸の分割が大きいです。アメリカも予想外のようですが自業自得ですね」

 「単一市場の利権は大きいからね」

 「武器と麻薬を密輸させるくらいなら国境を作る方がマシなのだろう」

 「理屈は、我々の規制と同じですよ。内側の独占と安寧のため、排他的になる」

 「どちらにせよ。治安が安定すれば、日英同盟で穂国投資はリスクが小さく、お勧めです」

 「アメリカを後押ししながら、仲介で中国資源を得ていたのが直接取引か・・・」

 「対米政策が補完関係から競合関係に変わるな」

 「アメリカで反日が育たなければ良いがね」

 「まだアメリカ権益地需要は大きいよ」

 「オランダ(インドシナ)需要もね」

 「とにかく、舵取りとしては、中国から資源だけ得るという事で、武力干渉はしない方が良い」

 「穂国へのセンチュリオン戦車売却は?」

 「500両は欲しいらしい」

 「あと、楚(重慶)、蜀(成都)、大理(昆明)も売り込みをかけられれば大きい」

 「ふっ 中国大陸はバラバラの方が儲かるな」

 「イギリスは、ライセンス料だけでホクホクだな。羨ましい話しだ」

 「しかし、中国は、近代化が進んでいる、工業基盤が完成すれば日本逆輸入もあるよ」

 「じゃ それまで、稼がせてもらおう。どの道、タングステンがないと工業が立ち行かない」

 「工業力も大切だけどね。労働者不足を青田買いで何とかしようというのは駄目だろう」

 「そうそう、教育課程中の若者を金に任せて取っちゃいかんよ」

 「識字率が高いだけでは、欧米諸国には勝てないよ」

 「彼らは、企業を創造する力があるからね。発明発見でも負けている」

 「我々は、彼らの考えたモノをライセンス料を支払い、応用しながら働かなければならない」

 「この構造を変えるためには、もう少し、教育に力を入れるべきでは?」

 「まだ、欧米諸国のモノを翻訳して、それから教育陣を揃えているのだから当分、無理では?」

 「だから、基礎教育に力を入れるべきだろう」

 「投機的な開発は余剰資金がないと無理だよ」

 「しばらく、後塵について、様子を見るべきだ」

 「だけど、中国軍閥国に追い上げられると辛くなるよ」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 瑞樹州

 発電所、製鉄所、鉄道、造船所、工場群、街の建設が進んでいく。

 当初、就労人口ばかりだった社会に学校が建設されて、家族が増えていく。

 ステンレス鋼のブラインド屋根は、いろんな穀倉地帯の表土を守るだけでなく、

 工業地帯、商業地帯、住宅地に作られ、直射日光をと土砂降りの雨を防ぎ始まる。

 

 日本軍守備隊が各国の小銃を撃ち比べていた。

    弾薬 重量 銃身長/全長 装弾 初速 発射速度 射程
日英 FN FAL 7mm×43 3.5kg 623/889 20 771 600発/分 700
独伊 StG44 7.92mm×33 5.21kg 419/940 30 685 500発/分 300
AK47 7.62mm×39 4.3kg 415/870 30 730 600発/分 600
M1ガーランド 7.62mm×63 4.5kg 610/1108 8 848   1500
M1カービン 7.62mm×33 2.49kg 458/904 15・30 600 850発/分  

 「実弾は久しぶりだな」

 「毎日毎日、走ったり歩いたり、教練本と真似ごとばかりだからね」

 「たまに穴掘りさせられるじゃないか」

 「あの穴はなんだろうね。シャベルとバケツで掘れて、周りが物凄く堅いなんて・・・」

 「それ、緘口令が出てるだろう、滅多なこと言うなよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「はぁ〜 毎日たらふく食ってるのに、血税使って、こんなんで良いのかな」

 「実弾撃ってたら、あっという間に予算がなくなるんだと」

 「相変わらずガーランドは、凄い威力だな」

 「ハルは、小粒だけど弾数も多いし、良い銃だと思うよ」

 「それは救いだけどね」

 「移動させられやすい瑞樹州の師団が戦うとしたら、StG44だろうか」

 「StG44も小粒だねぇ」

 「似たモノ同士の方が戦いやすいのかな」

 「バルカン連邦なんて行ったことないから分からんよ」

 「そういえば、最近、所内でルーマニア語とか併記してるけど、人事異動が来るかも」

 「バルカンか、カフカスは給与が良いけど、戦争になったら、異国で骨だよ」

 「あ〜 なんか、士気低下するよ」

 「プラス、1階級上がるんじゃないの?」

 「「「んん・・・」」」

 「向こうに居ついた民間の日本人もいるらしいよ」

 「蛮勇だねぇ」

 「軍隊が国境を超えると戦場だからね。商人は海賊みたいなもんだよ」

 「なんか、民間の方が勇敢じゃん」

 「軍隊は命令待ちだからね。民間はプラスアルファで想像力を発揮しないと負ける」

 己を知り、敵を知れば危うからずであり、

 実戦でいきなり、敵軍の火力と相見えるのは心理的に危険だった。

 なので基礎体力訓練、戦闘訓練だけでなく、デスク教育も行われる。

 資格制度、階級制度が整いはじめると、

 軍人も実戦向きから昇級思考な意識に変貌し、

 実戦面が低下し、訓練課程に移行しつつあった。

 もっとも、ほとんどの列強軍が戦場での立身出世がなくなり、

 兵器の更新に伴い、実戦経験のない兵器運用と戦術が変更されていく、

 頭でっかちの独り善がりになりやすい傾向はいがめないな。

 

 

 アメリカは、極東権益地防衛のため日本の工業力を利用し、

 欧州各国は、戦後再建のため資源を放出しても必要なモノを得ようとする。

 また中国大陸は、軍閥間抗争に勝ち残るため日本への発注を競争する

 もっとも恩恵を受けたのは、発展途上で無資源国家の日本であり、

 日本産業は積極財政と合わせ、急速に産業を拡大していく。

 首相官邸

 「瑞樹州、アメリカ権益地、バルカン・カフカスの投資と移民が日本産業の足を引っ張っている」

 「瑞樹州と日本で双頭の龍。日本の将来と安全保障上の要だよ」

 「それをいうなら、アメリカ権益地の需要は、現在の最大の外貨取引で大きな収益じゃないか」

 「バルカン・カフカスは、国際協定だろう」

 「過去の遺物、既得権益だな」

 「バクー油田は、大きな権益だよ。それだけでロードス島は近代化させられる」

 「問題は、権益地の分離で有能な人材、消費者、市場、労働力の分散を招いていることだ」

 「欧米列強の画策じゃないの、バルカン・カフカス利権に乗るからだ」

 「それを言うなら、借款で瑞樹州を買った時から選択肢が決まっていただろう」

 「こうなることが予測できるわけもなし、現状からすると、産めよ増えよだけど」

 「子供が邪魔で働けないだろう」

 「幼稚園とか、保育施設を作って雇用を増やそうよ」

 「古き良き家族制度が崩れるぞ」

 「だいたい、自分の子供でさえまともに育てられないのに他人の子供を養育できる資質があると思えんな」

 「だから資格制度を作ろうって話しだろう」

 「就労人口を増やさないと話しにならんよ」

 「農業機械を増やして、農民から土地を奪わないと労働人口は増えないよね」

 「税金をかけるか?」

 「法人優遇社会って、本当に良いのか?」

 「良い悪いじゃないだろう。近代化させるための取捨選択はすべきだよ」

 「なんか、拝金主義的で嫌な世の中になりそうだな」

 「それを言うなら、いまだって、日本は、権威主義と年功序列で動脈硬化を起こした社会だよ」

 「だからって、拝金主義をガス抜きにしていいのか?」

 「格調高く、自由資本主義と言えよ」

 「「「あははは・・・」」」

 

 

 ドデカネス諸島 ロードス島

 イギリス領キプロスと並んで日英同盟の地中海戦略の要であり、

 バルカン・カフカス権益の集積場でもあった。

 子供たちが15mほどの巨大な台座の上に乗って遊んでいた。

 世界の七不思議のひとつであるロードス島の巨像の台座だけが再建設されていた。

 大理石の台座は、港の入口を挟んで二つ作られており、そこで工事が終わっていた。

 像自体を建設するつもりはなく、台座の中央に縮小したモニュメントが飾ってあるだけだった。

 観光客は、台座に上ってエーゲ海の風景を楽しむだけだった。

 白人たち

 「まさか、ここまで古代遺跡を復元させられるとはね」

 「バクー油田の権益でやったことだろう」

 「少なくとも、日本人は古代遺跡を発掘してるし、保存も丁寧で行き届いている」

 「多少、違和感を感じるがね」

 「日本風の城郭・神社仏閣は、仕方がないよ。彼らの文化を否定するのは良くない」

 「問題は、古代遺跡をピンポイントで発掘させている事で、上手く都市建設をしていることだ」

 「そうだな・・・必然的に見えて、不自然だな」

 「子供たちがダウジングをやってたらしいけど?」

 「ダウジングねぇ」

 「日本は、学校で生徒に杖を持たせて “ライト” と叫ばせて、反応を見ているらしいが」

 「それで、何か反応があれば、ダウジングの名人になれるのかね?」

 「それでダウジングの才能のある人間が資源開発関連企業で働いている」

 「どんな杖だ。そんな便利な杖があれば、是非、輸入したいものだ」

 「さぁ 日本の魔法社に問い合わせたところ、企業秘密だから駄目らしい」

 「詐欺っぽいな」

 「実に詐欺っぽい所長がやってるらしいよ」

 「我々の目を欺こうとしているとしか思えないが」

 「だが日本政府がバックについているらしい」

 「んん・・・」

 白人たちが振り返ると、

 発掘された古代遺跡、近代的な日本の町並みと日本風城郭・神社仏閣が作られていた。

 

 

 

 パラオ沖で発生した台風195119号 (WANDA) は、南シナ海へと向かい西進していた。

 11/18  〜 11/26  (8日間・192)

 最低気圧985hPa

 南沙群礁に将校たちと少年少女たちが集まっていた。

 「森雄君。上手くいきそうかね?」

 「ええ、少し、離れていますが上空を通過しそうです、台風のエネルギーを魔力に変換します」

 「台風と有望な魔法使いが揃っても、潜水艦がやっとですからね」

 「まさか、君もやってくれるとはな」

 「私も覚悟を決めましたよ」

 「済まんな・・・」

 

 

 南沙群礁沖

伊400、伊401
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 3530 122×12×7.02 7700 18.7 14kt/37500海里 40+40
海中 6560 2400 6.5 3kt/60海里
45口径114mm砲 60口径40mm連装砲2基   晴嵐改1機

 2式大艇が港湾に着水すると伊400のそばにやってくる。

 そして、工作艦明石が横に張り付き、

 輸送船が何隻も伊400、伊401の周りに集まり始めた。

 「長官。どういうことです?」

 「済まんな。この艦は召し上げだ」

 「では・・・」

 「台風が来る。ついに来る時が来たということだ」

 「「・・・・」」

 「伊400と伊401号を連結を急がせろ」

 「はっ!」

 「人員は?」

 「男子80名、女子80名の160人で、こちらに向かっています」

 「人員整理は急がせろよ、最優先だ」

 「反対を押し切って、女性を入隊させて正解だったよ」

 「詳細を説明する。明石で話そう。副長も来たまえ」

 「「・・・・」」

 「飛鳥参謀。後は頼んだよ」

 「はっ」

 

 

 長官と伊400号、伊401号の艦長と副長が明石へと行く。

 明石

 「やれやれ、たった3日の準備で何ができるというのかね」

 「少なくとも、この伊400と伊401が出航できる状態だっただけマシでは?」

 「本当なら3隻ぐらい連結させたいよ」

 「本当に怪しまれませんかね。大型潜水艦が2隻も消えてしまうなんて」

 「潜水艦が海上から消えたからっておかしいことじゃない」

 「それに乗員が生存していれば潜水艦が消えたと思わないはず」

 「いざとなったら、同型艦を日本海溝に沈めて魚雷の誘爆とか、改装ミスという事にしよう」

 「あそこなら行方不明者のつじつまも合わせられる。海底に人がいなくても確認できないからな」

 「その手だと何人かクビが飛ぶよ」

 「我々は、覚悟の上ですが、覚悟していない関係者や将兵もいますよ」

 「なるべく退役させたことにして、爆沈は、使わないようにしたいがね」

 「しかし、緘口令だけでは不安だな」

 「仕方がないよ。この旧式で大型潜水艦であれば良いだけで、この艦と決まっていたわけじゃないからね」

 「余剰物資を載せられただけでも良いか・・・」

 「問題は潜水艦2隻を連結させたことで起こる不利益でしょうか」

 「魔法使いたちは、1隻に集中しなければならない。それなら2隻を連結させるべきだろうな」

 「まず、伊400に同調しながら現場海域までシュノーケルだけで行く」

 「その後は、台風に合わせ、森雄に従って、入口に向かって潜航してくれ」

 「「・・・・」」

 「ガイアについた後は、君たちに任せるしかない」

 「可能な限りの資金と生活物資は載せている」

 「日本は、飛行石を欲している。それだけは、理解してくれ」

 「「はっ」」 敬礼

 

 

 巨大なスポンジを伊400号と伊401号の間に挟み込み、

 ピアノ線を束ねたロープで潜水艦2隻を束ねる。

 最初から想定していたことだった。

 既に法務大臣の印とサインが押されており、条件待ちだった。

 魔法使いたちが交替で潜水艦の補強を始めていた。

 伊400 甲板

 南沙基地常駐の海軍特務機関の将兵たちが箱を覗き込む。

 「しかし、刀剣類を使う羽目になるなんてな」

 「ガイアは、鉄が希少資源。武器は銅の合金製で、鉄の刀剣類なら有利だそうだ」

 「銃器は銃身命数が尽きれば使えなくなるし、刀剣類も役に立つ」

 「最大の理由は、刀剣類は高く売れて脅威にならず、贈答品で友人を作りやすいらしい」

 「相手は魔法使いだろう」

 「そんなに多いわけじゃないよ」

 「それに魔法使いは寿命を縮めることを躊躇する」

 「だから弓兵の矢を加速させたり、後方支援に徹する」

 「つまり我々の銃機は、魔法代わりか」

 「戦争するために行くわけじゃないよ」

 「それは言われたがね・・・」

 日本刀を抜くと黒光りした刃が現れる。

 「鉄とタングステン、ニッケル、クロム。冶金技術の結晶らしいよ」

 「やっぱり、少し軽いな」

 「軽い方が持ち上げやすいだろう」

 「結局、剣は振り上げて振り下ろさなければ斬れないからね」

 「振り下ろす方が、左右にはらうより速いし」

 「そして、軽ければ日本刀を持ち上げる状態から斬りに行ける」

 「剣術も変わるな」

 「錆びは?」

 「魔法をかけてるから、しばらく持つだろう」

 「このクロスボウも悪くないがね」

 「クロスボウか、音はしないし、擲弾筒を撃ち込むのには良いがね」

 「矢尻なら鉄じゃなくても良いよ」

 「弾薬だって、徹甲弾以外は、銅で、銅ならガイアにもあるよ」

 「工作機械が軌道に乗るか分からないだろう」

 「それは言える」

 「伊161号の乗員と合流できれば良いけどな」

 「あれは・・・」

 水中排水量60トン。全長26m×直径2mの葉巻型タンクがカタパルトに載せられようとしていた。

 「ディーゼル船に蓋をして、燃料、工作機械、その他諸々積み込んでいる」

 「燃料のディーゼル油を使えば吃水が上がるから、蓋を切り離せば、立派な船になるよ」

 「随分、容易が良いな」

 「危なくないのか」

 「工作機械ねぇ・・・」

 「鉄が希少資源の世界の工作機械なんて、たかが知れているからね」

 「自立しようと思えば工作機械だよ。積み込んだ工作機械だけでガイアの工場だ」

 「燃料が尽きたら発電は起こせないよ」

 「蒸気機関ならディーゼル油、重油に拘らなくていいさ」

 「残されて、責任を押し付けられる人間も災難だな」

 「あははは・・・この世界で死んだことにされる俺たちもね」

 「帰還は望めないか・・・」

 「人の寿命を縮めてまで帰還したとは思わないよ」

 「ガイアには人間がいるんだろう?」

 「鬼族の話しだと。いるらしいよ」

 「き、緊張するな」

 「「「「・・・・」」」」 こくん

 

 格納庫

 航空機用エンジンとプロペラが運び入れられてくる。

 「向こうの言葉を覚えたか?」

 「まだだよ。8つ以上もあるんじゃな・・・」

 「地球より少ないじゃないか」

 「慰めになってないよ」

 「しかし、本当に伊号を空中浮揚させるのか」

 「伊161号は飛行石をバラストタンクに積んで浮遊させているらしい」

 「飛行石があれば空中浮揚させた方が錆びが少なくて良いよ」

 「艦尾のスクリューを改造してプロペラ代わりに使っているらしいが効率が悪いそうだ」

 「それで艦尾機関を改装しやすくして、艦尾にプロペラを取り付けるわけか」

 「伊161号の分もある。ディーゼル機関電気推進というところかな」

 「五月蠅そうだな」

 「海中ほどじゃないさ。それにガイアは油も乏しいらしいから、帆走を主にすべきだな」

 「翼は?」

 「取り敢えず、やっつけで造ったがね。上手く溶接してくれ」

 「んん・・・微妙だな」

 「済まんな。次の便を待っててくれ」

 「来るのか、次の便?」

 「ガイアへの出入口がある限り、努力するそうだ」

 「飛行石のためか?」

 「まぁ あとこれもな」

 「なんだ?」

 「桜の苗木だよ」

 「桜ねぇ」

 

 

 伊401号 司令塔

 艦長と副長を除けば、ほとんどが20代で男女混合だった。

 潜水艦の勤務だけでなく、

 それぞれが何かのスペシャリストだった。

 乗員定数175人の潜水艦に80人は、広いようでも、水上艦に比べて狭い。

 狭い空間に若い男女が80人も密集しているのは辛かったり、恥ずかしかったり。

 戦闘は考えておらず。異世界ガイアへの移民に近かった。

 とはいえ、安全な場所の飛行石は掘り尽くされているらしく、

 飛行石の炭鉱は、未知の巨大生物や魔物の多い危険な場所らしかった。

 誰も動かしていないのに操縦桿が動いていた。

 技術者が有線で外と連絡を取っていた。

 確認するのは、伊400号と伊401号の同調だった。

 伊400の操縦桿に合わせて、2隻の潜水艦の舵が動かなければならず。

 ディーゼルやモーターの回転もあっていなければならなかった。

 ずれが大きければ、連結部が破損するだけでなく艦も破損する可能性もあった。

 現地ガイアに到着すれば分離して、行動することができた。

 

 

 11/24

 風速15m、高波6mが荒れ狂うなか、数隻の軍艦が艦首を波に向ける。

 14500トン級重巡洋艦ボルチモア 艦橋

 「どうした。相手は、旧式の12200トン級巡洋艦 最上だ。なぜ追いつけん」

 「耐波性は、最上側の方が良いようです」

 「イギリス巡洋艦ニューファンドランドが後退します」

 「日本海軍め、台風に突っ込むなど、何を考えているんだ」

 「疑いのある海域に向かってますね。こっちが本命かもしれません」

 「囮に引っ掛かったか。アラスカ級なら何とかなったものを・・・」

 「呼び戻しますか?」

 「んん、台風が通過す海域はどうなっている」

 艦長と副長が海図を覗き込む。

 「・・・何もないよな」

 「ええ・・・」

 「台風を利用して、何かやろうとしているわけか」

 「そういえば、伊号が先行していると連絡がありました」

 「そいつらはどうした?」

 「北上した後、台風接近で45時間前に見失ったそうです」

 「くっそぉ 囮に引っ掛からなければ、偵察機は?」

 「台風を避けて後退したそうです」

 

 弾薬を全て降ろした巡洋艦 最上は台風に飛び込むと、大時化の中を突破していく、

 台風の目の中心にが到着する。

 最上は伊400・401号と有線を繋ぐと、

 伊400・401号は、所定の海中に向かって潜航していく。

 最上の甲板の上に4人の魔法使い。

 楠 道瑠 (くすのき みちる) (13歳)

 紅 炎矢 (くれない えんや) (13歳)

 漣 蒼乃 (さざなみ あおの) (13歳)

 鳳 葉月 (おおとり はづき) (13歳)

 が魔法の杖を持ち立っていた。

 最上 艦橋

 長官がマイクを取っていた。

 「森雄君みんなを頼む」

 『はい、長官もお元気で』

 「・・・伊400号、伊402号の諸君」

 「もうすぐ、お別れになると思うが、しっかり、やって欲しい」

 『『はっ!』』

 「潜水艦は?」

 「伊400・401号をソナーで確認、定位置についています」

 「いよいよか・・・」

 「金貨・銀貨はともかく、異世界ガイアに160人の若い男女。大きな投資ですね」

 「そうだな」

 「・・・長官。有線途絶。ソナーで伊400・401号の消失を確認」

 「なに?」

 「長官・・・台風が低気圧に変わったそうです」

 「ず、随分、あっさりだな。何の兆候もないぞ」

 「長官。レーダーにアメリカ巡洋艦を確認」

 「魔法使いに助けられたとはいえ、随分と引き離せたものだ」

 「波の抵抗が弱かったように思います・・・」

 「南沙基地に引き揚げるぞ」

 「はっ」

 

 

 南シナ海

 アメリカ大型巡洋艦アラスカとイギリス軽巡洋艦トリニダードが離れ付かずで遊弋していた。

 何もなかったことから捜索範囲は広げられ、

 アメリカ、イギリス、ドイツの駆逐艦、掃海艇、潜水艦が水平線上に現れては消えていく。

 そして、数時間ごと、日本のランカスター爆撃機が現れ、

 南沙基地とベトナムの権益地を往復していた、

 アラスカ 艦橋

 「・・・大尉。台風が消えたというのは、本当かね」

 給油で帰還したボルチモアの副長に訪ねる。

 「はい」

 「はぁ〜 わからんなぁ 海底を探ったが何もない」

 「爆発音のようなものは、あったかね? 他に異常現象は?」

 「台風の中を突破中でした。ソナーは当てになりませんし、爆発音のようなものは聞こえませんでした」

 「低気圧に変わったのも不意の事で風速15m/sの風が凪いで、6mの高波も収まりました

 「エンターテインメントは無しか・・・」

 「分かったのは、先に気圧計が上がった後、風が凪ぎ、波が静まった順番ですね」 アラスカの副長

 「ええ、そうです」

 「んん・・・不自然だな」

 「日本が天候を操るような兵器を開発したのでは?」

 「まさか、10月中旬にルース台風で大被害を受けたばかりだ」

 「・・・この南シナ海に何かあるのかもしれませんね」

 「そういえば、時折、未知の生物が打ち上げられることがあるようですが関連性があるのでしょうか?」

 「そんなものは君。まだ研究されていない希少種が存在するだけのことだよ」

 「どちらかというと、伊号2隻の先行、最上の台風突入は、周到性を感じます」

 「台風の進路を予測していたというのかね。そんな事が出来るものか」

 「気圧計の変化で見当がつくのでは?」

 「航空機ならともかく、軍艦が速くなったといっても、台風を先回りできるわけがなかろう」

 「ええ・・・」

 

 

 ロンドン テムズ川

 さざれ石ウォータフロント

 日本庭園のモミの木にランプが付けられ輝いていた。

 大半が仏教徒の日本人がクリスマスを祝うのをイギリス人は不思議に見つめる。

 日本は織田信長の比叡山焼き討ちと豊臣の刀狩りで僧兵が消滅していた。

 それ以後、日本で宗教を背景とした軍事衝突は、ほどんどなく、

 元々、一進今日でなかったこともあり宗教間の合戦もなく、

 宗教の違いによる敵愾心が弱かったと言える。

 「イギリスが最上の作戦行動を聞いてきたよ」

 「それと伊400号と伊401号の安否もだ」

 「耐波性の確認だよ。潜水艦は無事だ。同型艦を使って作戦中という事にしている」

 「あと、最上が台風の目に入った後、最低気圧985hPaの台風が高気圧の1015hPaになった理由もだ」

 「さぁ 自然現象だと上手く説明してくれ」

 「信じると思うか?」

 「日本に上陸した台風15号(ルース)の被害は大きい。信じるしかなかろう。まさか天候を操れるなど思うまい」

 「台風の力を利用したとしても閉じた扉を無理やり開いている。リスクはあるのだろう?」

 「鬼族の支援があっても、多少、寿命が縮まっただろうな」

 「森雄君は、無事だろうか?」

 「召魂術で伊400・伊401号の無事を確認したらしい」

 「どちらにせよ。日本人のガイア移民は成功したと思っていいのかな」

 「さぁ 日本人が異境ガイアで上手くやっていけるかどうか、不明だよ」

 「地球とガイア、昔から何度か、接触した事があるのではないか」

 「あっても不思議ではないよ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 伊400・401号が浮上する。

 将兵たちが甲板に出ると、夜空を紅い星雲が横切っているのが見えた。

 「「「「・・・・・」」」」

 地球でないことが分かる。

 「太陽系の外なのかな」

 「星空が違うからと言って、異世界の宇宙じゃないと言えないだろう」

 「まぁ しかし、太陽系を見つけられれば一大発見だな」

 「そうだな」

 伊400 艦橋

 「伊161号との交信を急げ」

 「伊401号と切り離して、カタパルト上の船を降ろして曳航準備だ」

 「木梨艦長。水上機を使えるようにですか?」

 「ええ、近代的な軍隊は存在しないようですが、用心に越したことはありません」

 『木梨艦長。伊401号は、貴艦の500m後方につくよ』 敬礼

 「田辺艦長。了解した」 敬礼

 「森雄卿。バミューダトライアングルで行方不明になった人間と出会いますかね?」

 「あそこは南シナ海より特殊な気がしますね。ですが連結されている可能性もあります」

 「ドラゴントライアングルと同じでは?」

 「だとすれば次元の狭間。迷路のようなものでしょう。無事に辿り付ける確証はないですね」

 「我々が合流すれば、伊400号、伊401号、伊161号で3隻。何とかやっていけるでしょうか?」

 「これだけの若者がいれば町くらい、作れるかもしれませんね・・・」

 伊号の近くで巨大な生物が浮上。

 一瞬にして、緊張感に包まれる。

 「クジラ?」

 「いや、違うな・・・」

 「戦闘準備」

 艦尾の114mm砲と艦橋の40mm機関砲が向けられる。

 巨大海洋生物は、静かに浪間に消えていく。

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 軍閥国7雄は、脆弱が故に結束が強まり、危機感で不正腐敗も縮小、

 軍閥同士で競合しなければならないが故に中華思想も軽減。

 内戦による人口減と一人当たりの資源増加。

 外資急増。

 麻薬・武器密輸犯罪による社会不安はありますが中華維新は史実より早く、近代化しそうです。

 史実の台湾(35980km²)×領土・人口・資源(台湾比%)÷大陸気質(3〜5)くらいで考えています。

 

 

 掲示板の指摘により、中国軍閥の国名を変更しました。

 作者の不明不備です。

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437    
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 台湾級がいっぱいという感じです。

 

 いよいよ、ガイアに軍艦を送ります。

 海中しか出入り口がなく、異動は1隻のみ、

 なので潜水艦2隻を連結しました。

 

 

 

 

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第10話 1950年 『驕れる者も久しからず』
第11話 1951年 『規制という名の関所』
第12話 1952年 『お引っ越し先は・・・』