月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第12話 1952年 『お引っ越し先は・・・』

 日本は、もう一つの日本を瑞樹州に造ることで対日参戦を躊躇させる。

 日本と瑞樹州の “双頭の龍” 計画は国防指針であり。

 そのため、大規模な瑞樹州開発が求められたのである。

 欧米列強は、日本の目論見を傍観する気などなく、

 同盟国のイギリスでさえ、植民地権益維持を日本に補填させることで国力分散を試み。

 バルカン・カフカス権益で日本の “双頭の龍” 計画を失速させようとする。

 アメリカも、極東権益需要で日本労働力を削ぐ。

 日本の工業力で、その需要に応えられるはずもなく、

 双頭の龍どころか、両手両足を引き摺られていた。

 これが国際外交戦略の醍醐味と言えなくもなく、

 日本は、何度もその洗礼を受けながらタフになっていくのである。

 

 日本の土木建設需要は、余剰資金を作り、大規模な開発を可能にしていく。

 その一つが日本海軍基地の引っ越しだった。

 魔法による開発は、必要最小限に抑えられつつも土木建設事業の採算性を押し上げていた。

 赤レンガの住人たちが三陸海岸の建設現場を眺めていた。

 「長門、陸奥の記念艦は決まった。大和、武蔵も記念艦にされる予定だ」

 「それでも代艦は無しか・・・」

 「代艦は、大型潜水艦らしい」

 「けっ 考えてることが見え見えだな」

 「次を送れるか、微妙なのに・・・」

 「やはり、欧米諸国の監視が厳しくなるな」

 「それもあるが法務大臣が渋ってる」

 「あんの野郎、自分の番になった途端に掌を変えしやがって」

 「そういえば異動前にトーンダウンしてたっけ・・・」

 「アメリカは対空ミサイルを開発している、塞凰も落とされるぞ」

 「魔法使いが乗っていれば弾道を変えさせる、何とかなるよ」

 「しかし、撃墜可能になった事は確かだ」

 「やはり、装備の更新をしないとな・・・」

 「しかし、随分、魔法を使っているとはいえ、速く掘り進めるものだな」

 「結局、土木建設も冶金技術なのかね」

 「魔法収益分を放漫財政で散財かと思いきや、そうでもないか」

 「上が引き締めているのなら、下も忍従するだろうね」

 「シールド工法は悪くないよ。魔力でメタルジェットとロールカッターが強化された場合は特に・・・」

 「ちっ 国産のジェット戦闘機と戦車開発を潰して、あんなモノを・・・」

 「まぁ 魔法と塞凰のせいで、軍事は10年遅れたな」

 「しかし、軍機じゃなくても人には言えんな、日本産業が魔力で底上げされているなんて」

 「科学万能が持てはやされているから、キチガイ扱いされるだろうね」

 「しかし、随分、余剰資本を溜め込んだものだ」

 「アレだけ渋っていた三陸海岸に艦隊基地を建設する気になるんだからな」

 「例のアレのせいだよ。潜水艦隠しで、屋根付き海軍基地が必要になるんだと」

 「ガイア行きか・・・」

 「無事なんだろうか」

 「伊161号の日本人と合流したらしいよ」

 「それは良かった」

 「それで人間のいる地域にも行くらしいがね」

 「どんな人間かな」

 「巨石文明の直系らしい。バミューダー消失者もいるかもしれないが何ヵ所か分散している」

 「へぇ 日本人は?」

 「そこまでは、まだだ」

 「星座とか、どうなっているのかな?」

 「紅い星雲が天空を横切ってるらしいよ」

 「へぇ〜 ミルキー・ウェーじゃなく、チェリー・ウェーか、ティー・ウェーか・・・」

 「お、面白そうだな」

 「なんか、日本人が住んでいると行きたくなるな」

 「だから日本産業界も潜水艦を隠せる基地建設に前向きというわけだ」

 「けっ ガイアに日本人を送った途端に、お調子者が、絞殺したくなってきた」

 エレベーターから老人が降りてくる。

 「やぁ みなさん、どうもどうも、作業は、順調に進んでいますよ」

 「あっ これはこれは、会長。この度は、ありがとうございます」 ごますり、ごますり

 「なぁあに、日本海軍は国防の要であると同時に、国威を体現しますから等閑にはできませんよ」

 「そうでしょう、そうでしょう。会長は、きっと、御理解されていると思っていましたよ」

 「「「「あははは・・・」」」」

 

 

 日本自動車産業は、イギリス自動車会社との提携を進めていた。

 ロールスロイス、ジャガー、ロータス、

 ヴォクゾール、ランドローバー、TVR、

 モーガン、英国フォード、ミニ。

 イギリスとイギリス系植民地への部品輸出は、日本自動車会社の実力を伸ばす良い機会と言える。

 しかし、アメリカ自動車需要にも引っ張られる。

 アメリカ本土とアメリカ極東権益地への部品供給は、アメリカ本土と中国大陸市場を含んだ巨大需要であり、

 中国大陸は、分割したといえ、アメリカ極東権益地の地の利は大きかった。

 なのでここでも日本の生産資源は、裂かれようとしていた。

 長期的な国益に反しても、利潤の大きい方になびき易いのが経済だった。

 

 

 赤レンガの住人たち

 原子力機関の検討が進んでいた。

 重要なのは予算であり、それがなければ何もできなかった。

 日本国民は飲み食いしながら国家の威信を損なわせていた。

 見栄と虚勢のための浪費は増え、慎みと謙虚が薄まっていく。

 しかし、高度成長に酔い、

 個人が大切に思うモノが増えれば、慰労と権益を守ろうとするため戦うのだった。

 それが快楽であり、私利私欲で不毛に見えても生活を守るため最大限に力を発揮できた。

 逆に国家が個人の快楽を奪おうとするのであれば国家に対し戦いを挑むのである。

 とはいえ、日本の国防を支えていたのは経済活動から生まれる税金であり、

 税金を取り過ぎれば国防費を引き上げても経済の落ち込みで、じり貧になっていく。

 恒久的な経済成長を維持しながら、国防をしようと思えばGDPの3パーセント以下に抑えたいところ、

 非再生産比率が低ければ低いほど、国土を富ませ、経済を再建させやすいのである。

 なので国防将校は、苦々しくも憂々しくも、与えられた分量で試算する。

 「イギリスは原子力潜水艦の建造を凍結したらしい」

 「やれやれ、ガイアで使いたかったのに期待が裏切られたな」

 「原子力発電は、保険整備制御不能だと思うよ。難しいんじゃないの?」

 「しかしなぁ 伊161号は、飛行石をバラストに載せて、帆走になってるそうじゃないか」

 「ガイアは燃料が少ないらしいし、飛行石を使えば、空中に浮かべさせられるからね」

 「問題は、推進力だよ。帆走じゃな」

 「ガイアなら古き良き機帆船とプロペラでやっていくのでは?」

 「機帆船は現役だよ」

 「そういえば、石油依存は、アメリカ依存だからって機帆船に補助金を出してたっけ」

 「帆を畳んだり広げたり動かしたり、風を計算するのも煩わしいけどね」

 「だから補助金を出して支えているのだろう」

 「その金こっちに寄越せ、と言いたいね」

 「まぁ 国防を軍事力だけで計算するものじゃないさ」

 「しかし、チタン製潜水艦建造は欲しかったけどね」

 「魔力を兵器そのものより、製造に使うようになったからな」

 「そりゃ 工業力だけで、いくつかの規格部品をチタン製にできるのは嬉しいがね・・・」

 「嗜好品に流れる金が増えているのが嘆かわしい」

 「兵器こそ最高の嗜好品なのにな」

 「きっと、思考の多様化が進んでいるんだよ」

 

 

 イギリス テムズ川

 エリザベス2世の戴冠式に戦艦長門が出席していた。

 戦艦 長門 艦橋

 日本の武官とイギリスの水先案内将校。

 「長門最後の任務が戴冠式の参席というのは嬉しいね」

 「大砲は撃たないでくださいよ」

 「陸軍省の保身、我田引水、責任転嫁、馴れ合い、事勿れを許せる状況でありませんでしたから」

 「思えば、あの砲撃で日本の政策が変わったのでしたな」

 「戦争になれば数十万の将兵を無駄死にさせるだけは済みません」

 「高騰するインフレで遺族年金は足りず、将兵の家族は家と田畑を失い」

 「未亡人と娘を守ろうとした国民に売春をさせ、幼子を餓死させる事になりかねませんから」

 「そういえば、あの後、日本軍の軍紀が引き締まったとか」

 「軍人は銃口に曝されているくらいが冴えます、聖域は作らぬ方がよいでしょうな」

 「サムライですな」

 「ダモクレスの剣ですよ」

 「聖域といえば、瑞樹州にイギリスが知り得ていない街があるとか?」

 「さ、さぁ 恥ずかしながら国内開発の方は、ちょっと・・・」

 「あと、瑞樹州に小さな魔女が何人も住んでいるとか」

 「ま、まさかぁ あははは・・・」

 「・・・・」 じーー

 

 

 

 バミューダ海域

 海上保安庁4000トン級巡視船 でわ

 45口径114mm砲1基、40mm機関砲2基装備。

 商船構造のディーゼル機関電気推進の大型巡視船であり、

 日本国領海と航路の警備が任務だった。

 バミューダ海域に到達したのは、航路調査だった。

 艦橋

 「周りを囲まれているのは気持ちのいいものじゃないな」

 「先に反応を見に来て正解でしたね」

 「お客さんたちは?」

 「船内を一回りして帰って行きましたよ」

 「アメリカ空母の見学と日本の巡視船の見学なら得したな」

 「しかし、バミューダ海域。何があるんだろうな」

 「異世界の出入り口では?」

 「出入り口か・・・まだ、早急に決めつけることもないだろう」

 「アメリカ軍が出入り口を利用している可能性はあるのでしょうか」

 「アメリカは、個人主義の国だ」

 「日本のように国家資産とせず、個人でインチキ使用しているかもしれない」

 「個人的でもアメリカの急成長を考えると、異世界の力を借りている可能性も否定できませんね」

 「異世界からの出戻りがいるのかもしれないな」

 「やはり、異世界の扉があるのなら魔法使いを連れてくるべきでは?」

 「んん・・・まだ子供たちだし、軍属になってからでも遅くないだろう」

 「それまで長生きできれば良いのですがね」

 「はぁ〜 なるべく、魔法使いの利用を最小限にしてるらしいよ」

 「そういえば、法務大臣がまた辞任したそうですよ」

 「死刑囚の決裁でも苦痛らしいからね。その上、功績者の寿命搾取じゃな」

 「当然、次の大臣候補は・・・」 じー

 「ば、馬鹿言うな。次は土建系で、第一、序列表じゃまだ、先だ」

 

 

 瑞樹州

 人口増加に従い、産業も大きくなっていく。

 最大の顧客は日本・豪州・オランダ(インドネシア)になっており、

 少しずつ、日本産業と利害を異にしていく。

 日本と競争関係でないプラス面と、

 日本の危機が瑞樹州の危機と直結しないというマイナス面も表面化する。

 その瑞樹州で鉄道が建設されていく。

 鉄道を通さないと孤立した高原に発電用ダムと町が建設されている理由が説明できなかった。

 

 「アメリカ極東権益地の産業が大きくなると、日本経済は体質を変えなければならなくなる」

 「日本経済が伸びれば日本に労働力が戻ってくるのでは?」

 「それはどうかな、極東権益地はアメリカ国内の労働運動を押さえる切り札だし」

 「アメリカ資本にすれば労働運動の激しくない日本人は、アメリカ人より使いやすい」

 「日本人より台湾人の方が好まれてないか?」

 「中国大陸は、その傾向が強いけど、極東権益地は日本人の方が優遇されているよ」

 「あまり優秀な人間を外地に取られると、瑞樹州の人材が減るな」

 「日本人がアメリカ資本主義に取り込まれるのは、まずいと思うよ」

 「一部、権威主義と年功序列のワクチンみたいに言われてるけど?」

 「限度があるよ。拝金主義は、家族をばらばらにするし、身内同士いがみ合わせることもある」

 「それに自分さえ良ければいい金の亡者と奴隷を作るからね。程々にしないと」

 「しかし、貧富の格差を広げないと、投機的な開発はできないよ」

 「そういうのは国がやるべきでは?」

 「国が投機するといえば、特定権益者を作るか、戦争じゃないか」

 「福祉とかも力を入れ始めてないか?」

 「老害を起こすと思うよ」

 「人間は優越感と安楽な生活を欲している、公平性を追求しても競争力が失われるよ」

 「子供たちの寿命を奪って福祉は不味くないか?」

 「まぁ それを言われると辛いものがあるがね」

 「しかし、繁華街を歩くと擲弾筒を投げつけたくなるような若者も増えてるぞ」

 「俺らも、むかしも、そんなこと言われたっけな」

 「そうか? 俺は、もう少し分別があったぞ」

 「・・・・」 苦笑い

 

 カフカス連邦

 アゼルバイジャン共和国、アルメニア共和国、グルジア

 3つの国を膠のように繋げていたのは満足に現地語を話せないはずの日本人だった。

 決められた通り公平にやっているだけなので、

 ソビエトやトルコに支配されるより、

 ほかの民族が出しゃばるよりマシなだけと言える。

 日本のバルカン・カフカス権益は、バクー・コンビナートに集まり、

 収益の多くは、コンビナートの増設か、

 ドデカネス諸島とカナリア2島と日本人街に注ぎ込まれていた。

 そのため日本駐留軍だけでなく、利権に誘われるように日本人居留者も増加していく、

 日本人街建設の目的は対ソ、対トルコの要害都市であり、

 師団の保養も兼ね、

 大カフカス山脈側の対ソ側に “霧の谷” “風の谷” が建設され、

 小カフカス山脈側の対トルコ側に “緑の谷” が建設されていた。

 3つの要害都市は、不便な高原地帯に発電用ダムと一緒に建設されていた。

 カフカス連邦は、降水量の少ない地域であり、

 発電用ダムは、日本人街の保身のためであり、

 敵軍の侵攻に対して放水する口実で造られたモノだった。

 こういった投機的な予算を組めるのであれば不便をモノともせず開発できるのであり、

 それがバクー油田権益25パーセントの力であり、

 併設される石油化学工場を核にした工業地帯から生み出される収益の力だった。

 そして、日本人街の建設をドイツのツェッペリン飛行船が助けたのも歴史の皮肉だった。

 ドイツにとってもバクー油田がソビエトの手にあるより、日本の手にある方がマシだったのである。

 “霧の谷” “風の谷” “緑の谷” は、バクー権益の財力に任せて、徐々に近代的な都市風景を造り、

 増え始める日本人は、カフカス連邦第4民族と呼ばれていた。

 永久凍土の残る大カフカス山脈から草原に沿うように風が吹き降ろして風車を回し、

 “霧の谷” に電力を供給していた。

 日本人たちが栗、リンゴ、柿の植樹をしていた。

 元々、カフカスがリンゴ原産地と言われるほど、馴染み深い果樹でもある。

 「さぶぅい〜」

 「アケビ、キウイ、ラズベリー、ザクロ、ブドウは根付くかな」

 「あの子達次第かな」

 「本当に味が良くなるのかね」

 「瑞樹州で確認済みらしいよ」

 「米を自給自足したいな」

 「この標高だと水田は辛いよ」

 「まぁ 小麦だね」

 「米を食うから日本人じゃないのか」

 「低地で作ってるだろう」

 「何でこんな高地に都市を作ろうと思ったのやら」

 「守りやすいからじゃないの?」

 「山岳部に風車を作って、低地まで送電すのか?」

 「降雨量が少ないからね。しょうがないよ」

 「せっかく発電用ダムを作ったのに」

 「本音を言うとダムは “霧の谷” の貯水池だと」

 「水の一人占めね」

 「何か不安だな 霧の谷 は大丈夫かな」

 「日本軍駐留がソビエトやトルコ支配よりマシなら、我慢するんじゃないの?」

 「そんなに理性的なら先進国になってると思うよ」

 「強硬派は、神の意志とやらで自重してもらってるよ」

 「あ、あれ頼りか・・・」

 少年少女たちは、植樹した果樹園に魔力を注ぎ込むと帰っていく。

 

 

 

 バルカン連邦 ギリシャ

 内陸からミネラルに富んだ土壌が運び込まれ、

 植樹が少しずつ進んで緑が回復していた。

 土壌が回復するとエメラルドグリーンのエーゲ海が濁るという結果をもたらす、

 しかし、作地面積当たりの穀物生産が増えれば、生活は楽になっていく。

 日本の連邦警察とギリシャ警察が犬を連れて徘徊していた。

 訓練された犬は、脅威であり、犯罪を抑止しやすかった。

 アメリカ人たちが市場を練り歩く。

 バザールは、日本人が時間、期限、場所をくじ引きで管理していた。

 運不運だけで決まってしまうため、失望や不満は、あっても神の思し召しであり、

 不公平感は少なく諦めるよりなかった。

 多様な人種が多様な言語で取引していた。

 「バルカン市場の様子は?」

 「日本商店が定額販売を始めて、バルカン紙幣は安定している」

 「ボッタクリが減るのは嬉しいね」

 「値切りで半日潰していた時代は過去のモノになろうとしているな」

 「・・・随分、平穏な弾薬庫だな」

 「もっと民族紛争が起こってもいいはずなのだがね」

 「奇跡続きで、火薬が湿ったかな」

 「利潤の良い兵器関連を売りたいのだが」

 「それには、アメリカ国内の良識派をどうにかしないとね」

 「あの馬鹿どもが、人件費が上がっているから利潤の低い商売じゃ 設備更新ができんだろう」

 「こうなったら、もう一度、世界恐慌を・・・」

 「いや、日本とドイツは国力が上がり過ぎてる、大恐慌を起こすとアメリカが不利だ」

 「日本は、脆弱な割に権益が安定しているな。エアスポットに入っているかのようだ」

 「んん・・・やっぱり、インチキしているのではないか?」

 市場の外れまで来ると、エーゲ海の沖に浮かぶギリシャ艦隊が見えた。

 バルカン海軍は、ギリシャ海軍であり、

 日英海軍の旧型艦を運用していた。

 日本、イギリス、トルコ、ギリシャ艦隊は、マルタ島、チュニスにまで達し、

 東地中海を押さえ、

 西地中海側で対するのはイタリア、ヴィシー・フランス、スペイン、ドイツ海軍であり、

 アメリカ海軍もイスラエルを建国したパレスチナに基地を作り、艦隊を配備していた。

 「バルカン連邦は、オーストリア・ハンガリー帝国より結束が強そうだな」

 「単一市場がいいよ」

 「各地の代理人に渡せば、商品を流通させて捌きやすい」

 「そのうまみがバルカン連邦の結束に繋がっているわけだ」

 「日本も上手くやったものだな」

 「誰もバルカン連邦が安定すると思っていなかったよ」

 「消耗させ疲弊させるのが目的だったからね」

 「しかし、このまま日本人をバルカン・カフカス権益に執着させても良いだろう」

 「我々は、エジプトを押さえれば、日本も、イギリスも、トルコも孤立させられる」

 「しかし、バルカンがドイツに取り込まれるのは危険だ」

 「欧州がドイツによって統一させられると、アメリカ合衆国を超える大国になるな」

 「つまりこのままか」

 「ちっ 国際情勢は、どこまでも日本の味方をしやがる」

 

 

 イタリアは、欧州大戦で地中海の北アフリカの権益を失い、半島に閉じ込められてしまう。

 イタリアは貿易収支で負けており国家資財が国外に流れるばかり。

 貿易収支で収益を上げているとすれば服飾関係、

 ベネトン、グッチ、ブルガリ、プラダ、ジョルジオ・アルマーニ、

 ジャンニ・ヴェルサーチ、ジャンフランコ・フェレ、

 靴のサルヴァトーレ・フェラガモ、トッズ

 そして、観光資源だった。

 しかし、バルカン・カフカス連邦の治安が安定し、観光が増えるとイタリア観光も陰りを見せ始める。

 そのイタリアンマフィアは、縄張りを広げ、目減りした国家資財を奪い合い。

 弱者貧民層は、平等と資産の再分配を求めて立ち上がる。

 労働者の意志統一で思想的に体系化された共産主義を利用しているに過ぎず。

 衣食住さえ、豊かになれば簡単に脱ぎ棄てられる思想でしかなく。

 中身は、一揆とか、下剋上であり、歴史上、珍しいことではない。

 政府と資本層も十把一絡で共産主義とダーティイメージでレッテルを張ったり、

 分断工作をしたりだった。

 イタリア人の常識に従えば真に命を賭けるべきは金、ファミリー、女、誇り以外になく。

 純粋な私利私欲であり、

 国家のために死ぬのは馬鹿なら、

 思想のために死ぬのも馬鹿なのである。

 一部、特権階級の保身や権益団体の利益のため死ぬのも、

 くだらない自己満足で美学を押し付けられ、国に殺されるのも真っ平御免だった。

 自由奔放、唯我独尊、自堕落といった信念がイタリア人であり。

 黙示録に出てくるバビロンを敢えて上げるならイタリアの都市と思うほどであり。

 日本人たちも昼間っから飲んだくれるイタリア人を面白がる。

 

 バルカン連邦トリエステ州は、イタリアが未回収としている領地の一つだった。

 この地に日英印軍が突入したのは、1945年の初めだった。

 その後、日英印軍は、水の都ベネチアに軍を進めようとし、

 窮地に陥ったイタリアは、独伊同盟の脱退を仄めかし、

 日英と独伊の講和を推し進めた顛末があった。

 バルカン連邦側に取り残されたトリエステは、自治を認められて現在に至る。

 人口の8割はイタリア人であり、

 残りは雑多なバルカン諸国民と、駐留日本軍を除けば少数の日本人とイギリス人だった。

 トリエステのイタリア人のイタリア本土行きは、自由に認められており、

 帰属問題は起きたり、沈静化したりだった。

 酒場

 イタリア人たちが飲んでいた。

 「トリエステをイタリアに帰属させてしまうと、バルカン連邦との通商で支障をきたすだろう」

 「だからって、このままでいいのか?」

 「いいか、バルカン連邦は、イタリアとの貿易でトリエステを使う」

 「イタリアもバルカン連邦との貿易でトリエステを使う」

 「つまり、ここがイタリアになれば、バルカン連邦は国境の向こう側になる」

 「イタリア人の名誉と誇りはどうする」

 「我々の収入はイタリア本土の人間より1.5倍は大きい。そんな自尊心なんか捨てちまえ」

 「金で魂を売れというのか、この売国奴が」

 「頭を覚ませ、イタリア人に売国奴は褒め言葉だ」

 「イタリアの国境になれば、トリエステは、タダの通過点に過ぎなくなるぞ」

 「当然、金も落ちない、わかってるのか」

 「「・・・・」」 むっすぅうう〜

 

 ベネチア カフェテラス

 「昼間から良く飲むな」

 「水よりワインが安くて安全だからね、フランスと似ているよ」

 「水道は?」

 「ワイン収入が減るからマフィアがゴネてるよ」

 「フランスも似てるけど、フランスのマフィアは目立たないぞ」

 「国民性じゃないの?」

 「取り敢えず、バルカン・カフカスの富裕層の観光を取り込みたいらしいよ」

 「列強のイタリアがバルカン・カフカスの観光を求めるなんて時代の流れだね」

 「でも危なそうだな。観光客がマフィア抗争に巻き込まれると困る」

 「だから観光客で収入を増やして、治安を立て直したいんだよ」

 「少なくとも日本人観光を増やしたいのなら、日本人にホテルをやらせることだね」

 「せめて租界を作らせてくれなきゃな」

 「まぁ マフィアと組むというてもあるけど」

 「マフィアか・・・麻薬の運び屋やらされたら、まずいだろう」

 「それは言えるけど、イタリアに進出するならマフィアとの提携は鉄則だよ」

 「「「んん・・・・」」」

 

 

 ドイツ第3帝国

 ドイツ圏拡大は不協和音を広げながら終息しつつあった。

 アメリカとの交易拡大により国際的孤立は防がれ、国力も増強していた。

 しかし、ヒットラー総統の退任で膨張主義は成りを潜め、

 中央集権から地方分権に移行していくと毒気も薄まっていく。

 ドイツ人の富裕層は増大し、持てる者争わずという意識が広がる。

 そして、ドイツ人がドイツ人たる所以は、カント、ヘーゲルの哲学に代表され、

 非人間的で冷酷ともいえる理性に起因する。

 イタリアの欲望や感情を優先する意識と真逆ともいえる。

 恋愛感情をスルーという暴挙により、ジーンリッチ(遺伝子改良人種)は大成し、

 その人口を増やしていた。

 彼らはドイツ人の才覚を押し上げていた。

 総人口における比重が増せば、自動的にドイツ第3帝国の国力は増強される、

 無論、ドイツ人らしい個性的な側面から来る弱点も押し上げていた。

 ドイツ帝国首都ゲルマニア

 巨大なドームが高くそびえ、

 質実剛健、大理石で造られた建物が並んでいた。

 ティアガルテン区ヒロシマ・シュトラーセ(通り)

 日本大使館

 戦争が終わると閉鎖されていた日本大使館が日本に引き渡され、

 日本の国会議事堂と最高裁判所の間にあるドイツ大使館もドイツ帝国に返還される。

 日本は極東にあれど、バルカン・カフカス連邦の利権を有し、

 ドイツも中国軍閥国の呉(上海)に利権を有していた。

 日独関係は、疎遠ながらも相互に利権保障するため次第に回復していく、

 日本軍は、他人のフンドシで相撲を取っただけといえた。

 しかし、その勇戦は、ソビエト軍、イギリス軍に並んで実証されており、

 敵ながら尊敬を勝ち得ていた。

 結局、戦線で対峙し、

 直接、血を流して戦った者同士で共感するモノが強いのである。

 日本大使館

 「ドイツ国民の視線が痛いねぇ」

 「まぁ 金に目が眩んで裏切ったからね。かなり後ろめたいかな」

 「ったくぅ〜 独り善がりに国益を押し通すから外交で苦労させられる」

 「取り敢えず、偽善事業で日独関係を改善しよう」

 「慈善事業です。大使」

 「そうだった」

 

 

 ドイツ海軍ヴィルヘルムスハーフェン港

U4500
  排水量 全長×全幅×吃水 速度 hp 航続距離 魚雷 乗員
水上 3200t 120×9.5×6.2 28.0kt 4000 12.0kt/20600海里 6管 26本 20mm×2 90
水中 4000t 18.0kt 4000 7.0kt/500海里  

 艦橋

 「艦長。上海行きの準備が整いました」

 「上海か・・・日本海軍を翻弄してやろう」

 「ドイツの駐留基地は小さいので、せいぜい、5隻を運用できる程度だそうです」

 「バルカン・カフカスの日本軍に比べれば、些細なものだな」

 「呉国のドイツ利権はまだ小さく、アメリカに負けているくらいです」

 「だが呉国は、我々、ドイツ帝国との関係強化を望んでいる」

 「南シナ海の調査がメインになるので?」

 「らしいな」

 「日本が何かを隠しているとか」

 「例え何を隠していたとしても、ドイツの科学を越えられるものか・・・」

 大型輸送船がUボートの脇を通り過ぎていく。

 「呉国投資も羽振りが良くなりましたね」

 「あれは、ベネズエラ行きだ」

 「ベネズエラ・・・」

 「アメリカの次期仮想敵国だそうだ」

 「何でアメリカの次期仮想敵国ベネズエラをドイツが支援するんです」

 「アメリカが、お金を貸してくれたらしい」

 

 

 

 

 アメリカ 白い家

 男たちが集まっていた。

 「極東権益地の生産品で労働者に圧力をかけ」

 「赤狩りのレッテル貼りで労働運動を潰したものの、これ以上は、まずい」

 「貧富の格差を誤魔化せるだけの敵国が欲しいな」

 「仮想敵国第一候補のソビエトは、引き籠ってるよ、国民に対する危機意識は弱い」

 「それどころか、一般労働者がソビエトを解放者だと認識したらまずい」

 「ドイツも日本も膨張政策を執ってないからな」

 「無理やり、経済封鎖は?」

 「アメリカ合衆国が極東権益地の利権を守ろうとすれば日本の工業力に依存しなければならないよ」

 「そうなれば、ますます日本の国力が大きくなり、日本との敵対関係を執ることが困難になっていくな」

 「ドイツだって、対ソ戦上の観点で同盟関係だ」

 「労働運動を抑えたいが、これだけ貧富の格差が広がるとな」

 「日本は、何であんなに成長するんだ」

 「日本の政官財は、着服率が非常に低いようだが」

 「ええ、一番貧乏そうな法務大臣に賄賂を匂わせたら、速攻で弾かれましたよ」

 「旧家の財界はともかく、権力者や富裕層が貧相に家に住んでいたりしますからね」

 「まだ庶民の方が拝金主義的ですがね。しかし、上に倣えで、どこかセーブされているようです」

 「普通、世の中、金だよな」

 「何か自己犠牲的なモデルでもあるのかね」

 「いえ、談合と権力闘争の歴史ですよ。まぁ いくつか美談染みた話しもありますがね」

 「もっと、留学生を増やすべきだろうか?」

 「そうですねぇ その方が良いでしょう」

 「ところで、南シナ海で台風が急に消失した話しは?」

 「巡洋艦3隻、航空機2機、潜水艦1隻が確認しています」

 「いったい何があるのだ?」

 「フィリピンを超えると、台風は弱まります、急という事はないのでは?」

 「それを含んでも急というレベルなんだがね」

 「バミューダー海域じゃ 日常じゃないのか?」

 「そういえば、日本の探査船が何度かバミューダー海域に来てますよ」

 「カナリア諸島配備の探査船か?」

 「ええ」

 「日本もグローバルになったものだ」

 「まぁ 稼がせてもらってますし、バルカン・カフカスは、いつでも遮断できますよ」

 「我々の極東権益地もな」

 「戦後軍縮を考えると、権益地防衛は厳しいですからね」

 「やはり、先制攻撃してもらえなかったせいか、平和勢力が強いか」

 「民主主義ですからね。アメリカ国民も馬鹿ではないよ」

 「しかし、日本の妙な動きは掴まないと」

 「無知は死の影だ。我々は無知であってはならない」

 「我々も、そういった異常現象を調査すべきだろうか」

 「そうですね、日本が何かを隠している節もありますし、異常現象を調査すれば・・・」

 「日本は、南沙群礁に何か隠しているのかね。僻地の基地としては大き過ぎるようだが」

 「イギリス海軍艦艇が何度か、寄港していますがね。異常は確認されてないそうです」

 「塞凰の基地があるのでは?」

 「格納庫はあるようですが、それだけです」

 「日本は台風消失について何か言ってるかね」

 「原因不明としか」

 「・・・日本は国際物理協定違反をしている可能性があるな」

 「そんな協定ありましたっけ?」

 「言ってみただけだ」

 「んん・・・日本を責めるより、バミューダ海域をもう一度、調査してみるか」

 「そうですね。利害が一致し過ぎてますし、しかし・・・」

 

 

 ベネズエラ (916445ku)

 カリブ海に面した人口600万ほどの国家だった。

 1821年スペインから独立したものの、人口が少なく近代国家になりえないでいた。

 しかし、ベネズエラの強国化と覇権膨張政策を望む勢力が現れる。

 第三国を経由した投資が進み、人口が急速に増加していく。

 元々、天然資源は豊かであり、

 原油、天然ガス、石炭、

 ボーキサイト、鉄鉱石、ニッケル、金、ダイヤモンド、リンが産出。

 工業国としての資源は十分だった。

 とはいえ、近代化させるのはベネズエラ人の力であり、

 明らかに問題ありな上に力不足だった。

 首都カラカス

 日本、ドイツ、イギリスの企業が進出し、発電所、製鉄所、港湾が造られていた。

 白人と日本人たちがホテルでくつろいでいた。

 トウモロコシのパンに食材を挟んだ料理アレパが皿に盛られており、

 各種の果物ジュースが並んでいた。

 「ベネズエラは広い。豊かな資源もある」

 「歳老いても生きていけるだけの資産を十分に作れそうだ」

 「地主に土地を手放させれば、移民も増えるだろう」

 「治安が安定してればね」

 「しかし、アメリカは本気なのかな?」

 「さぁ 覇権戦争をするかは、ベネズエラ次第じゃないの」

 「いまの人口なら、アメリカの期待に応えられないな。膨張主義にならないと思うよ」

 「ラテン系にインディオが混ざってたら戦意低いよね」

 「でもアメリカがアメリカの敵を欲するってどうなんだろうね」

 「アメリカの資本家は、吸い上げ過ぎだ」

 「それだけじゃ足りず、金融飢餓を作り、国民に借金まで背負わせている」

 「元々、アメリカ憲法で人種のモザイクを統制しているだけの国だ」

 「内憂を誤魔化すために外患を作らないと結束が失われてバラバラという事もあるよ」

 「自由資本主義は民衆でなく、金持ちが支配する国であり」

 「自分たちが金に吸い寄せられた亡者である事を知れば社会が自壊するかもね」

 「アメリカ合衆国に近いベネズエラは、アメリカ国民に直接脅威を与えられるわけか」

 「そりゃ ソビエトより脅威だろうね」

 「じゃ せいぜい、機械や兵器を売り込みますか」

 「「うんうん」」

 

 

 

 太平洋上

 ウルシー環礁は、ファラロップ島、アソール島、モグモグ島、フェダライ島、

 ほか36余りの小島(4.5ku)で囲まれた環礁で548kuの巨大泊地を誇っていた。

 この環礁が整備されたのは、島が小さく列強の潜入を防ぎやすく、

 南北30km×東西15kmの泊地に船舶を並べられ、

 塞凰の隠し場所としても適当だったことがあげられる。

 塞凰は、列強や一般の日本人の目を避けるように船舶から物資を積載し、

 瑞樹州まで空輸する。

 一度に1000トン以上の物資を降ろせる航空機は存在せず。

 それが日本産業の発展に寄与していた。

 ウルシー レーダー基地

 「アメリカのB24が接近。あと北東3.6kmに所属不明の潜水艦です」

 「また来たか。台風消失以降、懲りないね」

 「スクランブル発進。警報を出せ」

 「輸送物資と船舶の帰還率で疑われているのでは?」

 「そりゃ 船舶から数百万トンの機材や物資がどこかに消えていたら怪しまれるよね」

 「そういえば、アメリカ、イギリス、ドイツの日本留学が異常に増えてますよ」

 「インチキに興味深々なんだろうな」

 「国際物理協定違反ってやつですか?」

 「大国は後出しのゴリ押しで協定を作ろうとするからな」

 「物理的な法則を無視したモノの占有独占って、なんですかね」

 「日本のことだろう」

 「どうするんですかね。反対すると日本は疑われそうだし、賛成すると発覚した場合ヤバい」

 「列強は国民の手前、冗談半分に受け止めているようだけどな」

 「そりゃ 証拠もないのに非科学的な国際協定を作ろうなんて正気を疑われますよ」

 「司令。烈風がB24を捕捉しました」

 「領空から追い返せ」

 『了解』

 B24爆撃機は、烈風と並行しながら南沙群礁の領空スレスレを横切り、

 グアムへと返っていく。

 

 

 その日のロンドンは特に寒く。

 寒冷高気圧によって密度の大きな冷気の層がロンドンを覆っていた。

 テムズ川は凍り、

 家々の煙突から煤煙が立ち昇り、上空に薄黒い雲を作っていた。

 カナダ移民でイギリスの総人口が減ってもロンドンの都市人口は、ほとんど変わらなかったのである。

 都市需要とサービスは、雇用を呼び、広がり過ぎていた貧富の格差が僅かに縮まり、

 石炭を使える富裕層の比重が押し上げ、石炭を燃やす人口も変わらなかったのである。

 さざれ石ウォータフロント

 日本人代表が薄汚れた窓から外を見下ろしていた。

 薄汚れているのは内側のガラスではなく、外側のガラスだった。

 ゴホン! ゴホン! 

 「・・・なんだぁ 今日は特に真っ白じゃないか」

 メアリが午後の紅茶とアップルパイをデスクに並べていく。

 「御主人様。今日は、窓を開けない方がよろしゅうございますね」

 「んん・・・石炭の使い過ぎだな」

 「さざれ石は、都心からも工業地帯からも少し離れていて、庭園が広いので、まだいいようです」

 「それにしても・・・ん? 人が倒れたぞ」

 ドーバーの沿岸側の工業・港湾地帯のスモッグは、足元が見えず、運転も出来ないほど酷く、

 人々は、次々と目、鼻、喉を痛め、咳が止まらず病院に担ぎ込まれていく。

 病名は、気管支炎、気管支肺炎、心臓病。

 世に言うロンドン・スモッグ事件の始まりだった。

 その週だけで4000人もの人間が死亡。

 さらに数週間かけて8000人が死亡する参事を起こした。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ヒルコ(鬼ヶ島)

 鬼族の支配する地域はヒルコの10分の1にも満たない。

 それだけ、魔物・怪物の力が強いといえた。

 伊400・伊401号は、伊161号と交信しながら川を遡上し、

 伊161号と合流。歓呼で迎えられた。

 木梨艦長、田辺艦長と将兵たちは、宙に浮く伊161号を呆然と見上げ、

 一緒にいる鬼族に驚く。

 「自分は、日阪少尉であります」

 既に伊161号の艦長は亡くなっており、

 将兵で生き残りは12人ほど、合流で感涙する者も多い。

 「御苦労、日阪少尉。良く、将兵と艦を守ってくれた」 木梨艦長

 「はっ! ありがとうございます!」

 伊161号は、地表に着地ししており縄梯子で乗り降りしていた。

 即席の木材で潜水艦にマストが造られ、白幕が畳まれていた。

 「申し訳ありません、海軍の潜水艦を改造しました」

 「いや、前任の艦長から報告を受け、大本営の裁可は降りている」

 「ありがとうございます」

 「早速だが伊400・伊401号に飛行石を積み込んで、宙に浮かせたい」

 「はっ!」

 「それと、部品を持って来た。伊161号も改造する」

 「はっ!」

 潜水艦の構造は、外からの水圧に耐えられるように造られており、

 内側から外に向かっての内圧に耐えられるようには造られていなかった。

 なので、飛行石で艦体を持ち上げる場合、構造上の強度計算が必要だった。

 伊161号が自壊せず浮いていられるのは、魔法による強化と、

 木材による補強によるところが大きかった。

 伊400・401号は、大本営で事前に改造案が計算されているため、

 補強機材の一部が準備されており、不足分の補強材も計算されていた。

 将兵は、すぐに決められた通り、伊号から不要な機材を取り除き、

 艦体を補強していく。

 森雄と何人かの将兵は、鬼族の言葉を試し、相互理解を深めていた。

 人数分の日本刀が鬼たちに渡されると喜ばれる。

 鉄製の剣は、ガイアの王侯貴族しか持てないほどの貴重品であり、

 特殊鋼で造られた剣は、さらにその上を行く一財産と言えた。

 

 

 木梨艦長、田辺艦長

 「ガイアの状況は、聞いていた通りのようだ」

 「飛行石鉱山は、10人の鬼族と伊161号の将兵で守られている」

 「村は、小屋が7つか」

 川を木造船が遡上してきていた。

 「日阪少尉。あれは?」

 「鬼族の船です。飛行石を購入に来たようです」

 「飛行石は、十分にあるのかね」

 「最近は、先細りですが、伊号2隻を浮かべるくらいは十分あります」

 「そうか・・・では新しい鉱山を発掘するか、人間の住む世界に行くべきだろうか」

 「鬼族の話しでは、ここから20kmほど奥地にもう一つ鉱山があるかもしれないそうです」

 「魔物が住んでいるのだろう?」

 「はっ」

 「勝てるかな?」

 「ええ、これだけの火力があれば・・・」

 日阪少尉は、珍しそうに将兵たちの持っているFN FALを見つめる。

 

 

晴嵐改(ターボプロップ装備) × 2機
飛行石 HP 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最大速度 航続距離 機銃 爆弾 乗員
無し 1381 3200/4250 10.64×12.26×4.58 27u 520km/h 1640km 12.7mm×2 800kg 2
240kg 1381 800/4250 620km/h 3740km 3000kg

 飛行石を装備すれば、光と熱を加えるだけで10倍の質量を宙に浮かせることができた。

 晴嵐がエンジンを回転させて、川を容易に離着水する光景は、鬼族を驚かせ、

 日本軍将兵に時代の変化を明確に伝える。

 「どうだね」

 「はい、多少バランスを後ろに移せばいいでしょう」

 「三式指揮連絡機より軽量ですからね、楽しいですよ」

 「陸地への着陸はできそうかね」

 「はい、フロートに車輪内蔵なので可能だと思います。どちらかというと横風で引っくり返る方が怖いですよ」

 「そうだなぁ・・・」

 

 新しい居留者、男80人、女80人の中には、慰安婦も4人ほどいた。

 しかし、若い女性が別に76人もいると慰安婦のところに行く者は少数派で我慢したりする。

 飛行石の鉱山村は、円形状の砦で、内側に井戸と耕作地があった。

 人口が増えると円形状の砦は、川を挟んで、伊号3隻を着地させられるほどの広さに広げられ、

 二重城壁の隙間が部屋になっていく、

 葉巻型艇(全長26m×全幅2m)2隻は、30トン級ジュラルミン製であり、

 最初から連結させられるようになっていた。

 小型のためバランスを取ることも簡単で、あっさりと双胴帆船(26m×4m)となり。

 飛行石の力で川から浮き上がり、地表に着地する。

 その後、“飛龍” と命名されて晴嵐の予備主翼が両側に取り付けられ、

 600馬力のディーゼル機関2基で艦尾の大型プロペラを回し、空中に浮かぶと帆走試験を始めていた。

飛龍
飛行石 HP 排水量 全長×幅×全高 全幅 翼面積 最大速度 航続距離 機銃 爆弾 乗員
3t 600×2 30t 26×4×5 14 27u 120km/h 3740km 20mm×2 3000kg 10

 艇長 紀野宮 曹長は、飛行石の熱量を計算する、

 飛行石の熱量を大きくすれば、高度を上げることができ、

 熱量を落とせば高度が下がる。

 発進後、ディーゼル機関を止め、気流に合わせて帆を操作していく。

 「いつまであると思うなディーゼル油〜♪」

 「油はあるようですが、なぜ、ちゃんとしたディーゼル油がないんですかね」

 「鉄がないと特殊鋼の加工も難しいし、ピストンの熱に耐えられないからだろうな」

 「な、なるほど・・・」

 

 

 伊400・伊401号、

 伊号は、ディーゼル機関電気推進の駆動軸を艦尾中心に移動させ、

 巨大なプロペラを推進力にすることができた。

 伊400号 甲板

 「あとは、艦首・艦尾側の飛行石の熱量を均等にすれば、宙に浮くわけか」

 「これで、伊400、伊401、伊161の3隻と飛龍。晴嵐2機」

 「鉄の少ない世界では、強力な空中艦隊なんだろうな」

 「伊400と伊401号を連結させるかは、微妙ですね」

 「んん・・・強度が悪いと空中分解もあり得る、あと、熱量のバランスを上手く計算しないと傾くからな」

 「晴嵐の着艦を考えると有利ですがね」

 「鬼族たちは、もう一組日本刀をくれるなら潜水艦を連結させてもいいそうです」

 「帰還を考えると微妙だな」

 「飛行石がバラスト変わりなら熱量を変えるだけで、海中の潜らせようと思えば潜らせられますよ」

 「そうだな。いざとなったら飛行石積み込ませて伊161号だけ帰還させる方法もあるか」

 「伊161を中央に連結させて3胴型にしては?」 日阪少尉

 「んん・・・伊161は戦前の艦。ますます、強度の問題が大きくなる」

 「しかし、強度はともかく、鋼材が不足することはなくなるな。伊400と伊401を無駄に削らずに済む」

 「検討すると、統一指揮では、好都合だが作戦行動は、選択肢が減る」

 「砦の留守を守る上で不利だろう」

 「どの道、172人しかいないのだ。統一行動も良いような気もするがね」

 「日阪少尉。鬼族の町に入ったかね」

 「二人ほど行きましたが二人とも2カ月ほど前、魔物の襲撃で亡くなりました」

 「そうか、話しを聞きたかったが、誰か行ってもらう事にしよう」

 「こうなると、もう少し、人材が欲しいところですね」

 「地球から持ってきた作物が根付かせるのも、これからで、生活物資も少ない」

 「これくらいの人数が限度だろう」

 「それに帰還の望みのない世界に来る無鉄砲な人間は、そういないだろうな」

 「わたしたちは、ガイアに来ることさえ、知らせられませんでしたよ」

 「済まなかった」

 「もう慣れましたがね」

 

伊400、伊401
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 3530 122×12×7.02 7700 18.7 14kt/37500海里 40+40
海中 6560 2400 6.5 3kt/60海里
45口径114mm砲 60口径40mm連装砲2基   晴嵐改1機

 

伊161型潜水艦(海大4型)
  排水量 全長×全幅×吃水(m) hp 速力 航続距離 乗員
水上 1635 97.70×7.80×4.83 6000 20.0 10kt/10800海里 12
水中 2300 1800 8.5 3kt/60海里
45口径120mm砲 60口径25mm連装砲1基

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 日本海軍のお引っ越し先は三陸海岸になりそうです。

 もう一つ、ガイアへのお引っ越しも160人だけ人口が増えて移民が進みます。

 

 

 

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第11話 1951年 『規制という名の関所』
第12話 1952年 『お引っ越し先は・・・』
第13話 1953年 『オーダ〜! 悪魔の帝国』