月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第13話 1953年 『オーダ〜! 悪魔の帝国』

 アメリカ合衆国は、第二次世界大戦の不参戦で、国民の国威高揚に失敗していた。

 元々、個人主義の国であり、挙国一致で敵国と戦った意識が弱く、

 アメリカ政府、官僚、資本家、国民の絆は低かった。

 アメリカ合衆国 南ジョージア州ジキル島

 資本家たちが集まっていた。

 「日本、ドイツ、ソビエトも軍事的な増強率が低過ぎるな」

 「アメリカは、軍縮を要求されている」

 「バルカン・カフカスで唯神復興が進んでいるせいじゃないか?」

 「不意に現れた少女がエーデルワイスを強硬派に渡して警告して消える話しか?」

 「そのうち、3つがバチカンで奇跡と認定されたらしい」

 「神の存在は困るよ、我々が欲しているのはアメリカ国民を結束させられる悪魔の恐怖なんだが」

 「そういえば、ドイツと日本は、我々のシナリオを書き変えて、民族資本の聖域を作ろうとしている」

 「それなら、ほかにもあるだろう。華僑資本、アラブ資本、印橋資本も増大しつつある」

 「確かにそれらの資本は増大しているがね」

 「日本とドイツは、拝金主義に対するアンチテーゼな要素が強いからね」

 「非資本主義的というべきではないか」

 「ふっ 日本が近代的な産業を有して軍事的に対抗可能なのも面白くない」

 「面白くないのは、ドイツの技術水準が我々より高い事だな」

 「そして、日本が我々のルールブックにない隠し技を持っていることだ」

 「日本は低賃金もあるが採算性がアメリカの3分の1も有利らしい」

 「それで金持ちが少ないのはどういうことかね」

 「不明だよ」

 「積極財政を行えば特定産業は肥大化する」

 「普通は特権階層に資本が集中する」

 「あるいは、特定組織や産業をコレステロールの如く肥大化させ、採算率を低下させるはず」

 「無知は死の影。我々の知らない特殊ルールは困るよ」

 「そうだ。我々は無知であってはならないのだ」

 「工作員をもっと日本に送り込もう」

 「もう一つ気になるのは、ドイツのジーンリッチだ。これも不確定要素が大き過ぎる」

 「新人類か。確かに人外は困る」

 「我々の志向は、私利私欲を求め体の外に向かいやすい」

 「ドイツ人は、心身そのものを高める志向が強く、欲望や私利私欲を殺す節がある」

 「アメリカ人は、恋愛感情抜きで機能優先の交配を大規模に行える資質が少ない。負けるな」

 「やはり、自由資本主義のアンチテーゼで危険なのは、共産主義でなく、日本とドイツでは?」

 「不戦による挙国不一致と国民の離反は大きいよ」

 「参戦権を議会でなく大統領に持たせるべきだな」

 「それは難しいだろう。それに大統領の独裁は困るよ」

 「共産主義的な方法で強制的に資産を再分配されるより、妥協すべきだろうか」

 「自己主張の強い贅沢な労働者と妥協してみろ、やつらは、さらに要求してくるに決まってる」

 「フランス革命を起こしたフランス人は、名誉革命を起こしたイギリス人より豊かだったからね」

 「このままだと、アメリカ合衆国は破綻するよ」

 「いや、南米大陸を共産化させてでも、アメリカ国民に共産主義の恐怖を伝えるべきだ」

 「んん・・・中レベルの工業品を日本に依存するのはまずいのではないか」

 「アメリカ人の賃金は高い。安い製品の輸入はしょうがないだろう」

 「輸入規制して、アメリカ国民に高い商品を買えというのかね」

 「権益地と日本の安い商品をこのまま買い続ければアメリカ産業は空洞化してしまうぞ」

 「駄目な奴はさっさとクビにして工場の競争力を高めろよ。それがアメリカ式」

 「それに権益地で収益を上げながら、本土の機械設備を更新できる」

 「日本の工業は、競争力の高いアメリカ権益地の工業より上だ」

 「元々、日本産業は、権益地の産業より大きく単一民族である利点があるからね」

 「極東権益地に鉱物資源と巨大な穀倉地帯があるのにかね」

 「極東権益地は、設備投資が進めば、日本との経済競争に勝てるよ」

 「だと良いがね」

 「それより、アメリカ国内産業を維持すべきだ」

 「そんなこと言ってると会社が潰されるぞ」

 「妥協案として、アメリカ極東権益地をアメリカ資本だけでなく、アメリカ国民の生命線にしてはどうだろうか」

 「そのためには、もっと予算を投資し、アメリカ人の移民を増やすべきだが・・・」

 「アメリカ極東権益口座を高配当にすればどうだろう?」

 「なるほど、それなら共産主義に対する危機感は強まりそうだ」

 「南米の共産主義化と合わせれば相乗効果を認められるかもしれないな」

 「「「「・・・・・」」」」 男たちが頷く。

 アメリカ資本にとって、アメリカ極東権益地はドル箱利権であり利潤は大きく、

 国内の労働運動に対し妥協しなくても良くなっていく、

 拝金主義なアメリカ資本家は、国内労働者を見限り、

 利潤の大きなアメリカ極東権益地の生産力で私腹を肥やしていく。

 穏健良識派のアメリカ資本も価格競争と薄まる利潤に焦り、

 高まる労働運動を見限り、賃上げ昇給を渋りだしていた。

 アメリカ社会は、失業者が増え、貧富の格差が広がり、モラル低下による犯罪が増加。

 アメリカ合衆国の大半の人口を占める労働者の資本家離反が強まり、

 さらに拝金主義を是正できないアメリカ政府への不信任も強まっていく・・・

 

 

 アメリカの新聞社が暗殺未遂事件を上げて、

 論評で出した国際物理協定は、日本に疑いを向けていた列強各国の関心を買う。

 しかし、真っ先に反応したのは日本でなく、別の勢力だった。

 “無知なアメリカ新聞社が載せた国際物理協定は、神の摂理と神聖に対する冒涜であり”

 “ソビエト共産主義者によって毒された唯物主義、悪魔の意識である”

 “バチカンは、国家による明確な魔女狩りを断固として反対する” だった。

 これにより、様子見で新聞に掲載された国際物理協定は、神の摂理と神聖に対する敵として認識され、胡散霧消してしまう。

 ニューヨーク

 エンパイア・ステート・ビルディングは、1931年に完成させていた。

 最高点448.7mは、世界最高の建造物であり、アメリカの国力を各国代表に見せつける。

 ここで核兵器の兵器使用に対する国際協議が行われていた。

 議場

 小休止のロビー

 「アメリカが核兵器の兵器使用禁止に消極的なのは先行しているからか」

 「金がないというのになに考えているんだか」

 「金のあるのはアメリカ。ないのは、我々」

 「核の脅威で貧富の格差と人種差別を誤魔化して、国民に挙国一致を強いているんだよ」

 「くっそぉ〜 付き合いきれん」

 「ソビエトは作ってるみたいだけど、核爆弾」

 「アメリカが核技術をソビエトに流したって本当か?」

 「ローゼンバーグ事件か。本当のところは、どうなんだろうな」

 「ベネズエラを意図的に増強させている節もあるからね」

 「当て馬作りか」

 「メキシコ、キューバも対立候補になっているんじゃないか」

 「まぁ 世界最強の軍事力を維持するには、敵がいるからね」

 「ったくぅ〜 こっちは、戦後再建中だっていうのに空気読めよ」

 

 

 アメリカは極東権益地を守りたいため日本と友好関係を維持しようし、

 日本も収入のある極東権益地と取引を望んでいた。

 そして、日本とアメリカ本土の直接取引も増大していく。

 諜報をスパイ映画と同じようなモノと思ったら大間違い。

 公共設備、企業、役場、市場、警察署、スラム街、教会を見て回るだけで十分だった。

 某業界の日本人たちが新聞に目を通しつつ、カフェテラスのテーブルについていた。

 「正直なところ、アメリカ社会は、どうだい?」

 「戦争特需が終わって経済が落ち込み気味だ。戦争特需で高騰した賃金は、もう払えなくなるだろう」

 「しかし、国内需要は伸び悩み、極東権益地に借金を押し付けている状態かな」

 「まぁ 海外に販路を求めたがるだろうね」

 「だけど、労働運動も強くなってるよ」

 「国内の労働運動を押さえるためのアメリカ極東権益地だよ。資本家のドル箱だ」

 「人権が認められて自由だけど、それだけに貧富の格差が広がりそうだな」

 「資本主義は、弱肉強食、暴虐無人だよ」

 「日本のような遠慮とか、歯止めがないね」

 「ドル箱があるなら国内の労働者と妥協しなくてもいいし、外から安い商品を購入して利益が上がるな」

 「個人主義も危険だよ。拝金主義が進めば、保険金目当てで夫婦が殺し合うかもしれない」

 「まぁ 人間は生活水準を落としたくないからね、昔の日本軍もそうだったな」

 「階級が上がれば給料の増加を望む、兵士の賃金では結婚も出来ない」

 「元々、何の資産も楽しみもなく。ロクな女も寄り付かなかったからね」

 「刹那主義は横行し、将兵の犯罪も増えるし、自暴自棄に暴走してでも階級を上げたくなる」

 「まぁ 民間だって平社員のままじゃ 結婚も出来ないからね」

 「自己満足な美学と虚飾で迎合させて、犯罪ギリギリ、詐欺紛いの事もしたくなるさ」

 「アメリカの倫理観とか、道徳心は?」

 「キリスト教と・・まぁ 個人の良心に頼ってるよ。いまのところ軍需より民需が強い」

 「戦争が終わってモンロー主義は増加している。例外は極東権益地くらいかな」

 「人種差別も悪化の傾向だ。権益地へ移民させるためだろうな」

 「ヒスパニック系も権益地に向かいつつあるよ」

 「犯罪件数は?」

 「失業者の増加と比例してる。モラルも低下気味かな」

 「スラム街は?」

 「アメリカの賞金稼ぎと一回りしたが危険地帯と言えるね」

 「民意が低下すれば社会の軋轢も増す、アメリカ合衆国の空中分解もあり得ないか?」

 「そうだなぁ 戦争に参戦していないから国威、国家高揚より日々の生活かな」

 「平等な自由民主主義が弱肉強食で貧富の格差が多いだけの国と知った時、アメリカ国民はどうするだろうか」

 「当然、資本家と戦おうとするだろうね」

 「そして、資本家は労働運動を弱体化させ、国民を結束させるため・・・」

 「利権を放棄するか、戦争で糾合するかの選択を強いられる」

 「アメリカが5年以内に敵国を作って貧富の格差を誤魔化す確率は?」

 「7割・・・以上・・・?」

 「アメリカ極東権益地がある。6割と見た」

 「5割」

 「6割半」

 「相手になる国がかわいそうだな」

 「相手が日本じゃないと、どうして言い切れる?」 

 「最大の客で利害が絡み過ぎてる。アメリカと戦争はしたくないよ」

 某業界のアメリカ人たちがテーブルに近付いてくる。

 「お待たせ」

 「どうぞ、どうぞ」

 日本人が合図をすると山盛りのムール貝が運ばれて来る。

 「やはり日本から部品を購入することにしたよ」

 「審査は、通ったので?」

 「ええ、じっくりと、日本の工場を確認させてもらいましたからね」

 「アメリカの企業に保障されたのでしたら安心ですね」

 「ええ、保証しますよ。アメリカより優れたマザーマシンを持っているのですか?」

 「まさか」

 「極東権益地はアメリカの工作機械と日本人が働いている」

 「そして、安い中国朝鮮人労働者を使っているのですが不思議ですね」

 「安い人件費で必死に作っているだけですよ」

 「「「「・・・・」」」」 疑惑

 「まぁ 良いでしょう。現地で確認していますし、規格も品質も価格も十分ですから」

 「時に日本のトンネル掘削技術は、かなり進んでいるようですが?」

 「ええ、まぁ 後進国は、国土開発を進めなければ近代化できませんから」

 「時に・・・日本は採算を度外視したトンネル建設を行っていませんか?」

 「まぁ トータルで利益になるならと、国家的な思惑に乗ることはありますよ」

 「国民へのサービスですし、大手企業の・・・」

 「公益性というか、広告費みたいなものですから」

 「「「「・・・・」」」」 うんうん

 「随分と大きな広告費ですな。アメリカならテレビ広告やネオンサインに使うところだ」

 「日本スタイルというやつでしょう。国民性の違いですよ」

 「瑞樹州の東西に延びてる山脈をトンネルで南北にぶち抜いている噂も広告ですか?」

 「ま、まさか、噂ですよ。噂」

 「でしょうな。瑞樹州の人口を考えれば、採算不能ですからね」

 「そ、そうですよ、そうですよ」

 「瑞樹州の空中都市の噂は?」

 「あははは・・都市が浮かぶわけないじゃないですか」

 「「「「・・・・」」」」 微妙

 

 

 日本 帝都東京

 広がった国土に対する投資は、既得権益と利益を損なわせる。

 税金が既得権益地から離れた場所に使われてしまうからだ。

 しかし、アメリカ極東権益地との交易は、西日本・日本海沿岸への投資を拡大させ、

 日本国民の移動を足す。

 移動後は、政府の肝煎りで大規模な開発が行われる。

 とはいえ、その間、数年から十数年という年月を要した。

 それもアメリカ極東権益地の高賃金、高待遇の就労によって移動が助けられた。

 東京都の区画整理は、徐々に進むがそれを加速させるため遷都も計画された。

 通産省

 「絨毯爆撃でもされていれば設備更新も早かったのにな」

 「どいつもこいつも引っ越し後の跡目を狙ってやがる」

 「まぁ 生存圏を拡大できるのなら誰でも大家で左団扇を狙うさ」

 「取り敢えず、公共用地・施設を確保しないとな」

 「利害直結で、アグレッシブで抜け目のない民間には、どうしても後れを取るねぇ」

 「自動車が増えているんだ。最悪でも道路幅だけは確保しないとね」

 「2.7m〜3.5mは、ちょっと狭いな」

 「4mは欲しいな」

 「規制反対も強いよ。法律を盾に家、田畑、工場、店を取られたら嫌だろうからね」

 「田畑を買うくらいなら良いとしても、都市の近くはさすがに・・・」

 「よほど大きな土地と交換しないと駄目だろう」

 「平安京の大路は24m。小路でさえ12mあったというのに・・・」

 「集客を考えると道路幅も狭めたいんだよ」

 「瑞樹州移民、アメリカ権益地の就労需要、バルカン・カフカスの利権」

 「あと北方・日本海・西日本需要で追い風なんだけどね」

 「もっと公債をばら撒かないとね」

 「左団扇の土地成金を作るとGDPが落ちる」

 「そこはインフレで・・・」

 「貧民層が増えると倒閣ものだよ」

 行政や政策では、誰かが損をし、誰かが得をした。

 強い者に媚びると社会は不透明で歪になりやすく、

 弱者を助け過ぎると、生活水準を落とせなくなることから政府主導の戦争など無理が利かず、

 首が回らなくなっていく。

 

 

 三陸海岸

 標高200mの断崖。

 トンネルが掘られていた。

 高張力鋼鉄(マンガン、シリコン、ニッケル、モリブデンの合金)で枠組みが作られ、

 強化コンクリートによって10メートルの厚みの半ドームが大中小20連ほど並ぼうとしていた。

 軍用は民間と違い予算の枠外で、採算度外視で建造される傾向にあり、

 この基地は、その代表と言えた。

 天井はガントリークレーンが併設されつつあり、

 内部に爆弾を仕込まない限り破壊不能と思える規模だった。

 その中のいくつかは、修復だけでなく、

 中型巡洋艦クラスの建造も可能なドック工廠として建設されつつあった。

 湾の外に防波堤が建設され、港湾内の波は静まっていた。

 赤レンガの住人たち、

 「完成すれば、主力艦艇は呉から追い出されてしまうな」

 「船舶が増えて邪魔モノにされていたからね」

 「空襲で先制攻撃を防げるのなら悪くないさ」

 「空軍も海軍艦艇のために作戦行動を制約されると困るだろうし」

 「空軍は、グロスター・ジャベリンを採用するのか?」

 「一応全天候で防空可能だよ」

 「予算があれば国産で開発できるのに」

 「バルカン・カフカスでも使うんだから共有機が良いよ」

 「ちっ 日本が経済主導になって、ますます肩身が狭くなりやがる」

 「だいたい、海軍に女を入れるなんて、なに考えているんだか」

 「ガイア行きを前提にしているんだよ」

 「俺は軍刀持った元海軍少将の爺さんに追いかけられそうになったんだぞ」

 「あははは・・・」

 「制度的にもう少し何とかしろよ」

 「生死を前提にした仕事は軍だけだよ。他は潰しが気かねぇ」

 「次のガイア行きの潜水艦は?」

 「6500トン級を計画しているが最新型潜水艦が消えるとまずいだろうな」

 「では、旧式潜水艦から順番に行くか」

 「さすがに新型が消えるとまずい」

 「だけど、森雄クラスの魔法使いはいないぞ」

 「森雄の弟子たちは?」

 「まぁ ・・・微妙らしい」

 「ガイア。行けないじゃん」

 「もっと、対米恐怖心を煽って予算を獲得しては?」

 「知識人は、大半のアメリカ国民が国益のために戦わされることを望んでない事も」

 「アメリカ議会が参戦権を握っている事も知っているよ」

 「右翼の口車に乗っての戦争は嫌だけど、国防費増大のためなら無知な右翼に期待したいね」

 「右翼は、大和の全長を知ってても、国情の違いも政治体制の違いも知らないからな」

 「しかし、平和だと、出世の見込みも薄いし、給与も上がらないよ」

 「もう、昔のような軍国主義化は無理かな」

 「いやな思い出が多いから、2世代くらい後じゃないと、無理そうだよ」

 

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437    
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 蜀(成都)

 小さな独立行政になった事で中華思想が薄れ、郷土心が芽生えていた。

 列強の代理人は、内憂外患。

 欧米諸国との取引で私腹を肥やし、中国人労働者を食い物にする官僚は少なくない。

 しかし、国が小さくなったことで、脆弱な国を犠牲にし、私腹を貪ろうとする者は相対的に減り、

 蜀国は、ようやくまともな取引が可能になっていた。

 紀元前206年、奏滅亡後、劉邦がこの蜀の地で力を付け、項羽を打倒し、漢王朝を建て、

 三国時代は、劉備が蜀の地で力を付けて、魏、呉と中国の覇権を争った地だった。

 その頃の思い出しているのか、中国人の表情に気概が表れていた。

 列強の代理人たちは、蒸し暑い濃霧の中を泳ぐように資源と市場を求めて町を徘徊し。

 日本人たちが四川料理(麻婆豆腐、担担麺、回鍋肉、青椒肉絲、麻婆茄子、棒棒鶏)を懐かしむ。

 「15年ぶりだな」

 「ああ、しかし、成都も随分変わったな。官僚が袖の下を要求しなくなっている」

 「むかしは、もっと露骨だったのに・・・」

 「国民のモラルが高まれば、取引は安定する。飛行機の直行便が欲しいな」

 「この霧じゃ 無理だろう」

 「しかし、河川商船や鉄道じゃな」

 「アメリカが楚(重慶)に三峡ダムを建設している。完成すればもっと大型船が乗り入れられるよ」

 「三峡ダムで働いているのは、日本人とか、台湾人だろう」

 「アメリカ人はホワイトカラーだからな」

 「しかし、アメリカは、いつまでドル高を維持する気なんだ」

 「輸入ばかり強くなって工業を維持できなくなるぞ。輸出品の競争力を失う」

 「自分の労働価値を高めに設定したがっているんだよ」

 「そんな高いだけの商品なんか、買いたくもないがね」

 「日本人もホワイトカラーを気取りたい連中が出てくるのかね」

 「まぁ 賃金が上がっていけば、楽して稼ぎたがる連中は増えるだろうな」

 「そういう連中に限ってエンタテイメントとか、艦隊決戦とか、華やか思考で足元すくわれるんだ」

 「地道でコツコツが日本人の真骨頂だからね」

 「蜀は、どこの国の戦車を選ぶだろうか」

 「センチュリオン戦車だと嬉しいがね。アメリカ資本の方が食い込んでる」

 「医療品で有力者に圧力をかけられるアメリカとドイツは有利だ」

 「それにドイツは、パンツァーファウスト、パンツァーシュレックという安くて効果的なモノもある」

 「重慶は正面が山岳地帯で、成都も霧が多い。形態兵器でも十分に戦力になるな」

 「ちっ 41年に大陸利権を売却したツケがこれか」

 「最初からやり直しというのが辛いよ」

 「九寨溝の渓谷、黄龍風景、峨眉山と楽山大仏、青城山と都江堰は、絶景で観光向きだな」

 「日本人の金を蜀に落とすのか?」

 「蜀で日本の利権を拡大しょうと思えば、それくらいやらないとな」

 「医療で欧米に競えるのなら、軍閥の権力層と富裕層に付け入る事が出来るのに」

 「医療で負けてるからな」

 「んん・・・パンダはいくらかな?」

 「そうだなぁ 高く付くかも」

 

 

 

 バミューダー海域

 日本の潜水艦は、海底を映すための探照灯とカメラが艦底に装備されていた。

 「タダの海底だな」

 「深海まで潜らないと珍しいものなんて、そうそうありませんよ」

 「まったく、航路保全とか、近海からやっていけばいいのに、これじゃ 敵対する気ありと思われてもしょうがないな」

 「海上10kmに駆逐艦4隻です」

 「司令塔備え付けの画面に空撮映像が撮られていた。

 日本の潜水艦が浮上する。

伊40
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 2230 108.7×9.3×5.2 6000 17.5 14kt/24000海里 70
水中 3700 6000 15 6kt/200海里
45口径114mm砲1基 60口径25mm連装砲2基 6菅×17 無人偵察機

 艦長が艦橋に上って、周囲を見渡す、

 10kmほど離れた場所にアメリカ駆逐艦4隻が浮いており、伊40を監視していた。

 異世界の存在が日本で確認されてから、潜水艦は、水上より海中性能が重視される。

 ディーゼル機関は軒並み減らされ、

 海中速度と移動できる距離に力が注ぎ込まれる。

 そして、無人偵察機は、全長8m×全幅10m×全高3m、主翼面積19u。

 340馬力、速度250km/h、航続距離1000km。

 潜水艦は、海中に潜み、

 有線で海上に浮かせた通信ブイで無人偵察機を操縦して、

 海上の様子が海中の伊40に映される。

 この方法は、無線が傍受されて逆に潜水艦の位置が発見されたり、

 妨害電波で操縦不能になったりと不利益も多かった。

 しかし、平時であれば、運用に支障がなく、

 異世界において、役に立つであろうと、開発されていた。

 「トランジスターは、上手く機能してるようですね。上手く巡回してきたようです」

 「無線でなく、決められたコースを飛ぶように出来れば、潜水艦は発見されにくくはなるがね」

 「離着水は操作しなければなりませんし、回収する時には、浮上しなければなりません」

 「しかし、100件を超える飛行機と航空機の消失と1000人の行方不明の調査と言われてもな・・・」

 青い空が広がり、波の音と僅かに流れる風だけだった。

 「見事に平穏ですね」

 「ああ・・・」

 

 

 カナリア諸島

 大和島

 非地球的なクレーターが処々あった。

 日本の植樹は、珍しげな自然と調和させつつ、程々の成果を見せていた。

 荒々しくも剥き出しの地表の地下に日本国防省の基地があった。

 基地を建設した理由は、スペインに対する恐怖。

 そして、欧州貿易に対する拠点としての価値。

 大西洋沿岸国に対しても航路を開ける価値があるからに過ぎない。

 大西洋の地図が広げられていた。

 「リシュリューとジャン・バールの海戦さえなければ、名実ともにダカールを押さえていたのにな・・・」

 ダカールの付け根、地峡に日英戦艦が破壊され、野晒しに乗り上げていた。

 イギリス戦艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ラミリーズ

 日本の戦艦 金剛、榛名。扶桑、伊勢。

 日英戦艦7隻は、自由フランスの権益に深く入り込んでいる象徴ともいえた。

 「自由フランスが同盟国であると証明したような戦いだからね。無下にできないよ」

 「それより、バミューダー海域の調査は?」

 「魔法使いの話しだと、いくつかの出入り口が干渉し合ってる」

 「出入口として安定していないから、命の保証も出来ず、どこに行くかわからないらしい」

 「んん・・・巨石文明は、ガイアの魔法使いが作ろうとしたコロニーなのだろうか」

 「何とも言えないが出入り口を安定させようとしていた節はあるよ」

 「ピラミッドとか、バベルの塔?」

 「むかしは、空中に出入り口があったということじゃないか」

 「完成した頃には出入り口が閉じていたとか、移動したとか」

 「地球とガイアの黄道と白道がどうとか言ってたから、そんなところだろう」

 「とにかく、インチキは、日本で独占したいね」

 「うん」

 

 

 

 大国の恐怖が小国の国民の貧富の格差や不平不満を軽減させる。

 恐怖は強過ぎると裏切りを出現させ、弱過ぎれば内紛を防げ得ない。

 日本国は、太平洋側のアメリカ合衆国と東シナ海・日本海側のアメリカ極東権益地という脅威が存在し、

 ソビエト連邦が北方に存在した。

 この状況は多少不満があっても、日本国民に我慢を強いさせることができた。

 無論、貧富の格差があり、

 不公平感が大きければ、倒閣を目指して裏切りもの者も現れ、

 また、不正腐敗、脱税などインチキする者が多くてもモラルが低下する。

 この頃の日本は、軍事的脅威に晒されていながら国際外交政治上、安定していた。

 逆に大国アメリカの方が広がる貧富の格差に対し、国内問題が大きくなっていく。

 特に費用対効果利潤の大きな日本・台湾人を手駒にしたアメリカ資本家は強気であり、

 アメリカ人労働者に対し、強い態度で臨む、

 もう一つ、人種差別があり、こちらは違法だった。

 白い家

 男たちが集まっていた。

 「・・・財産の半分を捨てて状況を鎮静化させるか、共産化で全てを失うかだ」

 「もう一つ、国内問題を安定させるには、敵が必要だな」

 「国内問題の安定ではなく、貧富の格差を維持するためにだろう」

 「そうとも言う」

 「悪魔と思えるほどの人類最悪の敵だ」

 「ソビエト共産主義が相応しいがね」

 「ソビエト共産主義は、アムール川の向こう側だ」

 「それにソビエトは膨張主義を執ってない」

 「もっと近場で、アメリカ合衆国国民を締め上げるような敵が必要だよ」

 「南米は、いま一つ近代化できてないぞ」

 「近代化できないのは国民性だな」

 「嘘付きや泥棒は近代国家を作れんよ」

 「このままだと、アメリカ国内の労働運動が高まって共産化という事も起こり得るよ」

 「何とか、自尊心ばかりが強くて厚顔無恥で反米暴走する国を作らねば・・・」

 「アメリカ国民をまとめるため、貧富の格差と人種差別を誤魔化せる悪魔の国を作るべきだ」

 

 

 ベネズエラ (91万6445ku)

 ソビエト航空機、ドイツ戦車が配備され、日本が住宅地や工場を建設する。

 金を出しているのはアメリカ資本であり、その辺の経緯は、不明だった。

 アメリカ人たちが日本の工事現場と船舶を見ていた。

 「ここでインチキの正体を探るのか?」

 「地の利でアメリカが圧倒的に有利だからボロが出るかもしれないな」

 「日本は非物理的なインチキを使うだろうか」

 「投資額が多いからね、利潤を上げようと思えば、インチキしたくなるだろう」

 「またインチキしている部品を探って、出処を探るのか」

 「過剰反応なんじゃないか、精度の良い部品の出所を探ったらドイツ製工作機械なんて多いだろう」

 「ほかにもあるだろう。ピンポイントの資源開発」

 「なるほど、それで、日本にベネズエラ資源開発の資本を貸したのか・・・」

 「タネと仕掛けさえ分かれば楽に追い抜けるよ」

 「まず、我々の想像の範囲を超えている点で負けじゃないのか」

 「異世界とか、魔法使いとか、大枚叩いているのにロクな情報しか流れてこないからな」

 「金の問題じゃないのか?」

 「日本は、フェイクに予算を賭けているんじゃないか、我々が騙されているんだ」

 「ふっ ここまで来るとアンノンウン・コンプレックスだな」

 

 飛行場が建設されていた。

 日本人、イギリス人、ドイツ人、ロシア人・・・

 「これだけ投資して、大丈夫なんだろうか?」

 「金持ちは大家だからね、損をしないようなルールを作るのさ」

 「ショバを牛耳っていれば、地場が大きくなれば大きくなるほど副収入が増える」

 「独立しょうとすれば叩き潰して、親の総取りだ」

 「本当は、敵を作って、貧富の格差を誤魔化そうとしているんだよ」

 「軍事費も増やせるからね」

 「国家や国民に損をさせてまで、やることかね」

 「金に目が眩んで正気を失えば、なんだってするだろう」

 

 

 

 ソビエト連邦 モスクワ

 連綿と続く強圧的な人民への圧政は、ロシアの伝統といえた。

 膨大な人民の人心を集め、資本を絞り上げる勢力が現れるだけで王朝や政府を圧倒する、

 王朝政府を安定させようと思えば可能な限り地主を味方につけ、資本を絞り上げることだった。

 天候不順一発餓死者多数の国土であり、流通機構の発達とともに軽減されたにせよ。

 権力を維持するため、人民に対し強圧的にならざるを得ない国情だった。

 そのロシア王朝が倒れた後も、人民圧政の負の病巣は残り、

 恐怖政治は、人間の神性を否定する共産主義下で拡大継承される。

 ドイツとの戦争は、ロシア人の心境に変化を与えていた。

 戦勝した時より、敗戦の方が意識が変わりやすい。

 広大な国土で国を守ってきたロシア人もドイツとの戦訓は大きく。

 科学技術の向上と産業の近代化に対する意識が変わり、 

 人口と産業が中央アジア側に移動すると予算の重心も東に向かう。

 この日、ロシア人の精神を恐怖で蝕み、心を捻じ曲げていた空気が和らいだ。

 03/05 スターリンの死去、

 そして、共産主義に対し恐怖する各国代表と、恐怖に期待している各国代表たちがいた。

 戦災跡をアメリカ製の重機が片付け、

 日本人やイギリス人たちが歩いていた。

 「小春日和かな」

 「どこが・・・」

 氷の結晶が白い光を反射しながら広がり、息をする度に体から体温を奪っていく。

 「気持ちの問題だよ。気持ちの・・・」

 「アメリカはソビエトに肩入れしているようだ」

 「アメリカ資本の権謀術数は、国内労働者を殺して、敵国民を助け、か、良くやるよ」

 「核戦争の恐怖で貧富の格差を増大させたがっているのだろう」

 「日英同盟や独伊同盟も標的になっているのだろうか?」

 「さぁ 欧州大戦でアメリカ合衆国は財力を付け過ぎた」

 「人より良い生活をしたい、生存圏の拡大は、他者に犠牲を強いる」

 「当然、慢心は、権力抗争と分裂を引き起こしやすくする」

 「そして、貧富の格差は、富の再分配を望むものを増加させる」

 「アメリカ合衆国が貧富の格差を是正できなければ、敵国を育てるしかないな」

 「ソビエトの核兵器開発と軍拡は、アメリカが望んでるとしたら立派なマッチポンプだな」

 「日本は、統一中国でそれをやられるより、マシだったよ」

 「日本に近過ぎるからね」

 「しかし、分裂した中国でも十分な脅威だろう」

 「むしろ、近代化が促進されて脅威が増している」

 「燕(北京)だけでも106万kuの国土。潜在的な国力は日本を超えるからね」

 「高みの見物で、後から正義の味方で現れ、美味しいところをとる事も出来るか」

 「欧州でそれに当たるのが独伊か、資本投資を見るとソビエトも大きい」

 「イギリスだってアメリカに借金しているし、日本も間接的に借金しているだろう」

 「まぁ それはそうですがね」

 「日本の経済成長ぶりを見ると、そうでもないかな」

 「権益地も人口もバラバラにされているので不利ですよ」

 「・・・アメリカは南アメリカ大陸の共産浸透による脅威で、貧富の格差維持を考えているらしい」

 「まさか」

 「アメリカ資本家は、特権を失いたくないということかな」

 「やれやれ」

 

 

 瑞樹州

 塞凰は、高原の町にコンテナごと物資を降ろすとすぐに浮上する。

 そして、何もしならない人足がヨーク輸送機、零式輸送機から降りてくる。

 「「「「!? なんで?」」」」

 異様な光景に驚く。

 上から下へ、設備を建設していく方が楽だった。

 しかし、常識的な判断をすれば、港湾から平地。

 平地から河川、鉄道を利用して高原に向かって建設が伸びていくのであり、

 頂きから麓に向かって建設が行われるのが異常なのである。

 

 瑞樹州

 ステンレス製ブラインド型の屋根が各地に作られていく。

 雨が降れば水圧で自動的に閉まり、雨水を貯水タンクに溜めていく。

 「これで土壌の養分を守るわけか、豊かになりそうだねぇ」

 「豊かになって、ニューギニアタイパンが増えなきゃいいけどね」

 「蛇か・・・怖いんだよねぇ 咬まれると死ぬから」

 「やっぱり機械化を進めないと、怖くて借り入れで田畑に入れないな」

 「虫を何とかしないとね。カエルが虫を追いかけて、蛇がカエルを追いかけるから」

 「しかし、補助金出してまでステンレス製の屋根を作らせなくても・・・」

 「だよねぇ カッコいいジェット戦闘機を開発すれば良いのに・・・」

 瑞樹州の発電ダムの電力は大きく、

 雨水(軟水)を大量に使う工業製品の量産も有利だった。

 そして、カーボン、シリコン、ゲルマニウムの微細加工は、寿命の消耗が少なく。

 天候で不利でも基幹産業が整えば、大きく近代化できる要素は多分にあった。

 そして、現時点でも魔力、飛行石を応用した産業は集中しており、

 精密加工技術は、日本本土を超えようとしていた。

 

 第12瑞樹農林学校

 自分の寿命を削るといった凶行に対し抑制の無い人間は少なく。

 さらに保身が弱く、魔法の資質のある人間は日本人の中でも少数派に当たる。

 その中でも、強い魔力を使える者は、さらに少ない。

 そして、

 鳳 葉月 (おおとり はづき) (15歳)

 漣 蒼乃 (さざなみ あおの) (15歳)

 紅 炎矢 (くれない えんや) (15歳)

 楠 道瑠 (くすのき みちる) (15歳)

 の4人は、魔力が強く、

 地球とガイアとの召魂(交信)、召魄(物質移動)だけでなく、

 召喚(人間・生物の移動)も可能にさせた。

 潜水艦で出入り口を通過しながら召魂、召魄、召喚を行うと寿命の消耗が少ない。

 また森雄と4人の魔法使いの召喚だと鬼族に手数料を抜かれず割が良かった。

 とはいえ、召喚が可能になっただけであり、

 多くの寿命を削るため、容易にできることではなく、

 通常は召魂、召魄など難易度の低い交換が行われるだけだった。

 地下の広い室内に、地球に存在しないモノが召魄され、研究されていた。

 特に進んでいたのは、飛行石と魔法の杖であり。

 そして、未知の鉱物、ガス、化学物質も研究されていた。

 地球の技術とガイアのモノを効率良く組み合わせることで可能性が広がる。

 しかし、地球は、未知のモノを可能な限り知られない工夫が必要だった。

 魔法要素を減らし、基礎工業力の押し上げに魔力を消費していた。

 4人は電子顕微鏡(加速電圧5万ボルト、分解能3nm)を覗きながら魔力を使う。

 重厚長大の時代でありながら、軽薄短小産業の黎明でもあった。

 「カーボンとシリコンの加工って面白い」

 ルビー結晶(直径20mm×全長300mm)の赤く細い光線がチタン板を切っていく。

 「へぇ〜 かっこいい」

 「ルビーレーザーって、微細加工とか、医療用らしいよ」

 「これで新しく飛行船を建造して、飛行石を載せ変えるのかな」

 「今度は、疑われないようにツェッペリン型にするかも」

 「塞凰は、15年くらい持つことにしているらしいから、もう少し使うんじゃないかな」

 「飛行船は目立つから潜水艦で建造するかも、ガイアにも行けるし」

 「飛行船は、山頂に物資を降ろす時は便利だよ」

 「鉄道を敷けたら、使わなくなると思うけど」

 「確かに物を積み下ろしているところが見られると危ないよね」

 「山脈の北側と南側に街を作って、トンネルで繋ぐまでやるかも」

 「仕事は尽きないねぇ」

 「うん」

 

 異境ガイア研究所。

 研究員がデーターを集め、理論を構築していく、

 この時代、鉛筆で簡単に下書きをして、推敲加筆を進め、ペンで本書きする。

 論書

 ビックバンと平行次元世界の関連。

 宇宙が拡大している科学的根拠は証明されており、

 逆にたどれば、ビックバンに辿り着くという発想に辿り着く。

 ビックバン以前は、虚無、あるいは、混沌(カオス)であったと考えられる。

 異世界ガイアと関連性で、宇宙創造の新理論が推測される。

 ビックバンは単一宇宙の自爆によって引き起こされたものでなく、

 ±相対反転現象による相乗爆発。

 あるいは、多重反転現象による複合爆発で創造されたという結論に辿り着く。

 反同位性宇宙は、互いに表裏一体であり、

 相互不可侵なディラックの海の向こう側に存在すると推測される。

 平行次元世界は、通常宇宙より遠くにありながらも表裏一体であるが故に近く、

 偶発的な事故、あるいは、周期的な歪によって、接触事故が起こり得る。

 大はブラックホールとホワイトホールの超重力的な関係で推測され、

 反同位性宇宙同士の絆といえる。

 また小は、異世界ガイアとの平穏な形でのホールと考えられる。

 なぜ、地球とガイア世界が相対的な平行次元世界関係にあるのかは不明であり、

 無機質な天体。あるいは宇宙空間と接触がない理由も不明である。

 強引な推論をすれば “我思うが故に我あり”

 という矛盾する集合意識体が二つの異世界を繋ぐ境界であり、

 平行次元世界の出入口を引き寄せる根源であるなら、無慈悲な宇宙空間とは繋がらないのである。

 召喚、召魂、召魄など高度な精神次元での近似値が平穏な出入り口を発生させると推測する。

 異なる反同位性宇宙世界環境にありながら相互生存が可能なのか、

 資源分布における違い、非物理的な物質の存在は、今後の研究による。

 この研究が日本の独占・占有で行われている事が残念といえる。

 しかし、他国が先に知っていれば、同じように独占・占有するであろうと推測される。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 異世界ガイアは、地球の巨石文明と相互関連のある文明が存在した。

 ヌン族(エジプト文明)、ウルク族(シュメール文明)、ククルカン族(マヤ)などが存在する。

 またアポロンのカラス。中国の金烏に当たる飛行石を使った銅製飛行機は存在する。

 鬼族と日本・中国の神話との関連性も曖昧であり、関連性も不明だった。

 またガイアの銅製飛行機は3本脚のためか、八咫烏との関連性も否定できない。

 総じてガイア諸文明と地球諸文明との関連性は、神話の彼方であり、

 ガイア側も曖昧なもので公式的な記録は残されていない。

 ガイアは、鉄量が少なく、銅を中心にした手工業世界だった。

 ランプとロウソクがガイアの照明であり、

 地球とガイアの出入口の発生は、平行次元的な天体規模の歪で起こる偶発現象と考えられた。

 また聖書系・異生物など、ガイア以外の異世界との接触。

 または、混在もあると考えられた。

 

 

 鬼ヶ島(ヒルコ島)

 “人鬼村” を蛍光灯の光が 照らす。

 日本のガイア研究機関で飛行石を利用した発電機関が検討されており、

 “人鬼村” で小型の発電機と製鉄所が建設されて、ガイアの新しい産業になっていた。

 鉄は貴重品であり、日本潜水艦は貴重品の塊だった。

 鋼材は、鬼族との取引や日常生活に応用され、

 鬼族も優良な鋼材を得るため、寿命を縮めても魔力を消費する。

 

 結局、日阪少尉の意見が取り入れられ、

 伊号3隻は、伊400号+伊161号+伊401号の3胴艦になってしまう。

 これは、伊400と伊401号を無駄に削って脆弱にするより、

 伊161号の鋼材をマスト、主翼として思い切って流用した方が良いとなった。

 魔法改造の対価で多くの鋼材が鬼族に持って行かれると予想してのことだった。

伊400、伊401
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 3530 122×12×7.02 7700 18.7 14kt/37500海里 40+40
海中 6560 2400 6.5 3kt/60海里
45口径114mm砲 60口径40mm連装砲2基   晴嵐改1機

伊161型潜水艦(海大4型)
  排水量 全長×全幅×吃水(m) hp 速力 航続距離 乗員
水上 1635 97.70×7.80×4.83 6000 20.0 10kt/10800海里 12
水中 2300 1800 8.5 3kt/60海里
45口径120mm砲 60口径25mm連装砲1基

↓ ↓ ↓

大和
飛行石 重量 全長×幅×吃水 全幅 hp 最大速度 航続力 乗員
1000t 8000t 122×48×7.02 60 15400+6000 600km/h 37500km 172
45口径114mm砲×2 60口径40mm連装砲×2基 60口径25mm連装砲×2基 飛龍 晴嵐改×2機

 そして、その推測は的中してしまい。

 大和が完成した頃、

 余剰鋼材の大半が対価として鬼族に持って行かれたのだった。

 大和 艦内

 木梨艦長と田辺艦長と将兵たち

 「塞凰並みだな」

 「塞凰はチタン製に変わりつつあるよ」

 「軽量化した方が塞凰の体積を稼げて、飛行石当たりの積載量も増やせるからね」

 「しかし、3隻を連結させると広々とするな」

 「潜水艦で不要なモノを引っぺがしたからね」

 「問題はこれからどうするかだ」

 「地球とガイアの次の周期を待って、地球に飛行石を供給するか」

 「その時は、出入り口が変わるかも」

 「じゃ 細々と命を削らせながら僅かな飛行石を地球に供給するかだな」

 「人口を増やして、生存圏を広げたいものだ」

 「80人もいるというのに、森雄の弟子たちがもう少し魔力が強ければな・・・」

 「微量な魔力の持ち主を訓練で、少しだけ強化しただけだからね」

 「鬼族の噂だと、畝傍の生き残りは鉱山を売却、人の住んでいる北の大陸に行ったらしい」

 「その後は、生死不明だな」

 「人族は、北の大陸に2つ。東の大陸に1つのコロニーに住んで、商人もいるようだ」

 「合流したいですね」

 「んん・・・人族は利己主義的で評判が良くないらしいからな・・・」

 「異種族間は一度でも裏切ると敵扱いだ。人間同士のような騙し騙されは危険なのだろう」

 「畝傍の生き残りか、子孫がいれば、早急に庇護するのが人の道だな」

 「伊161号の将兵が何度か捜索活動をしたらしいが反応はない」

 「飛龍を捜索に向かわせるか」

 「この人鬼村が、もう少し安定してからにしたいな」

 ガイア世界で最強のアルフヘイム国は、エルフ族の支配する王国であり、

 その王国でさえ、異世界ガイアの15分の1の支配圏を握っているに過ぎない。

 その王国の飛行戦艦群は、全長50m級の銅を主とした合金製の蒸気機帆船でしかなく。

 青銅製の球状砲弾を撃ち出す大砲であり、

 大和は、ガイア最強の飛行戦艦と言えた。

 もっとも、エルフの魔法使いの数は圧倒的であり、

 戦っても勝ち目はないと考えられていた。

 

 

 鬼族の町

 町の中で少し開けた場所に飛龍は着地する。

飛龍
飛行石 HP 重量 全長×幅×全高 全幅 翼面積 最大速度 航続距離 機銃 爆弾 乗員
3t 600×2 30t 26×4×5 14 27u 120km/h 3740km 20mm×2 3000kg 10

 人間が注目されるのは鋼材資源と武器が原因であり、それ以上ではない。

 鬼ヶ島(ヒルコ島)と言われていても、鬼族の支配地は10分の1でしなかなく。

 鬼族、ドワーフ、エルフ族も居留している。

 それ以外は、凶暴で無慈悲な未開地が広がっていた。

 幸福になる為、テリトリーを広げるが人の常であるなら、

 命を削りながら拡大できる未開地は十分だった。

 人は、幸福を追求するとき他人を犠牲にする。

 社会も、私利私欲の追求で派閥抗争、我田引水で権力闘争が起こる、

 犯罪や国益を失わせる事すら珍しくない。

 ガイアの問答無用の恐怖は、異種族さえも結束させる。

 話しが分かり取引可能な種族間の抗争は少なく、連合して未開地開発も少なくなかった。

 「紀野宮 曹長、これからどうします?」

 「田川 兵長、取り敢えず、3人残って艦を守るから、先任と一緒に7人で街の探索と買い物をしてくれ」

 「はっ」

 「いいか、鬼族とは良好な関係にある、気を許さず、問題を起こさずだ」

 「はっ」

 比較的、語学慣れしている伊161号の先任将兵を含めた7人が鬼族の町を歩きまわる

 角が生えた鬼族は、日本人より30cmほど体格が大きかった。

 彼らは異世界からの訪問者と強力な武器を持つ巨大な鉄船を知っており注目される。

 そして、訪問者との取引で急激に増えた鋼材と金貨・銀貨は、鬼族の町を潤わせるのに十分だった。

 「建物は、体格分だけ大きいですね」

 「ああ、飛行石を使うと建物も大きくできるのか、少し勿体無い使い方だな」

 宙に浮かぶ透明なガラス船を馬に曳かせている鬼たちがいた。

 「光だけを使って持ち上げる方が飛行石の寿命が長いのは本当のようですね」

 「天井窓を作って正解だったな」

 「田川 兵長。魔法の杖を売ってますよ」

 「ああ・・・」

 『いらっしゃい、お客さん。コモンドランの魔法の杖はどうです?』 鬼語

 『その銃なら2本と交換しますよ』

 寿命を消費しないで済む武器は人気があった。

 『生憎、魔法を使える人間は、一人しかいなくて、いまのところ、必要ないんだよ』

 『知ってますよ。Mr.森雄は、強い魔法使いだ』

 『あれほど強い魔法使いは、この町に10人もいない』

 『それは頼もしい。武器を作っている場所を教えてくれないか?』

 『右の道を100m行った先に2軒。左の道を50m行った先に1軒あるよ。大きいのは左の道だ』

 『ありがとう』

 

 武器屋

 取引で持って行かれた鋼材は、銅製の武器の加工に使われていた。

 『お客さん。鉄材なら、店で買うよ。素晴らしい鉄だ』 鬼語

 『いやいや、あなたこそ、鋼をこれほど変形させられるとは、脅威だな』

 『それと銃弾も見様見真似で作ったよ』

 『ほぉ 上手いものだ。しかし、銃弾のサイズが変わってね』

 新しい114mm砲弾、40mm砲弾、12.7mm弾、7mm弾が見本で店主に渡される。

 『いまある分だけの銃弾は、買わせてもらうよ』

 『それはありがたい。値段はいくらくらいになりそうかね』

 『』

 『』

 日本将兵が銅製の剣や槍を試すがえす見ていた。

 「こりゃまた酷いな」

 「ええ、銅剣、銅矛なんて、弥生時代ですからね」

 「剣の中心線に沿って飛行石が並んでなければ、重くて弱くて使い難いですよ」

 「我々が対価で払った剣は、飛行石を埋められて箱詰めてですよ」

 「へぇ〜 意外と商才があるんだな。鬼族も侮れん」

 「しかし、鬼族は意外と社交的なんですね。驚きです」

 「魔物や怪物に問答無用で襲撃されているから、話しの分かる相手なら話そうとするのだろうな」

 「魔力で寿命を縮めてまで戦いたくないですか」

 「そんなところだろう」

 

 

 

晴嵐改(ターボプロップ装備) × 2機
飛行石 HP 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最大速度 航続距離 機銃 爆弾 乗員
240kg 1381 800/4250 10.64×12.26×4.58 27u 620km/h 3740km 12.7mm×2 3000kg 2

 晴嵐改はガイア使用を前提としたカスタム機だった。

 人鬼村で飛行石を装備して軽量化すると高性能を発揮できた。

 「森雄先生。晴嵐に仕込んだ魔法の杖はどうです?」

 「んん・・・風魔法で少しは、加速と機動がプラスアルファできそうだ」

 「な、なるべく、魔法を使わないように操縦します」

 「そうしてもらえると嬉しいがね。君らももう少し訓練しないとな」

 「申し訳ありません、先天的な資質の持ち主には勝てません」

 「んん・・・やはり、保身だけの問題じゃないのか」

 「ですが、こんな世界に本当に人族がいるのでしょうか」

 「いるな。言葉が良く分からなかったが、人族二人と召魂術で話した」

 「本当ですか?」

 「北の大陸に2つ、500人と200人ほど。東の大陸に1000人ほどのコロニーがあるようだ」

 「合流したいですね」

 「んん・・・異種族から厄介者扱いされている節もあるな」

 「わ、わかるような気がしますね。かなり排他的ですから」

 「まぁ 慌てることはないだろう」

 「子供たちを連れてこなくて良かったのでしょうか?」

 「異境に子供を連れてくるほど人で無しではない」

 「申し訳ありません」

 「しかし、地球のあの4人とガイアにいる俺とで召喚魔法は使える。寿命は減るがね」

 「寿命の問題さえなければ気が楽なんですがね」

 「インチキには、それくらいの代価が必要なのだろう」

 「・・・そろそろ、撮影に入ります」

 「そうしてくれ」

 高々度まで来ると、ガン・カメラで地表を空撮する。

 鬼ヶ島(ヒルコ島)の全容が写され、

 その後、森雄の誘導に従って、要衝を写していく。

 太陽の中から小さな黒点が現れる。

 「翼龍だ。降下しながら逃げろ!」

 「はっ」

 途中、翼龍に追撃されたが振り切って離脱する。

 晴嵐の方が速かったが空中戦になると小回りの利く翼龍の方が内側に回り込む、

 また12.7mm弾は貴重であり、命の危険に晒されない限り、相手にしない方が賢明だった。

 そう、ガイアに着いた日本軍将兵は、戦う軍人ではなく、

 異境ガイアで生き残っていこうとする生命体になろうとしていた。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 アメリカ合衆国は、貧富の格差を誤魔化し、国民を結束差するため、悪魔の帝国を欲します。

 列強は、アメリカの挑発に乗らず、

 南米に白羽の矢を建てますが肝心の国力が上がらないかも、

 

 

 異世界ガイアで日本人たちは基盤を広げます。

 未開地は多く、さながらRPGの世界を楽しめそうです。

 ですが魔法は寿命が短くなるため多用しない方が良いと思われます。

 

 

 

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第12話 1952年 『お引っ越し先は・・・』
第13話 1953年 『オーダ〜! 悪魔の帝国』
第14話 1954年 『ジャパンルール』