月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第14話 1954年 『ジャパンルール』

 日本人の総人口は9000万ほどであり、

 2000万が瑞樹州へ移民。

 1000万が欧州、バルカン、カフカス連邦で就労。

 500万がアメリカ極東権益地で就労していた。

 100万がイギリス植民地で就労していた。

 旧来の日本に住んでいるのは、5400万だった。

 5400万だからといって安心できず、

 瑞樹州でさえ、8割が就労人口であり、

 就労人口1600万人を海外に引き抜かれれば、老人と子供の比重は多くなり、

 国内産業の牽引者がいなくなる。

 また、海外で働いても日本国内に居場所を確保しているのであり、

 日本国内はスポンジのようにカスカスだった。

 区画整理は進む。

 しかし、肝心の土木建設工事は人手不足であり、

 青田買いの横行で学業レベルは落ちていく。

 首相官邸

 経済予測の報告書が積み上げられていた。

 「積極財政で土木建設を推し進めても赤字財政が増えるばかりか」

 「機械化のおかげで高度成長を保てていますが人口比重が歪だと成長も鈍りがちです」

 「んん・・・」

 「官僚の報告が信用できるか、判断に窮するところですけどね」

 「あいつら平気で安く見積もって、厚顔無恥に上乗せしやがるからな」

 「上乗せ分が私腹のポケットに入っていないと言い切れませんからね」

 「魔業で子供たち命をすり減らしているというのに吸血鬼どもが」

 「それでも、諸外国に比べれば少ない方らしいですが・・・」

 「まぁ 分け知りの上層部が引き締めていると思いたいがね」

 「やはり、就労人口を外地に奪われると産業構造そのものが辛いな」

 「外資だけは溜まりっぱなしですが、人口減で消費が追い付きませんから」

 「赤字財政は持続的に補填しなければならないからな」

 「ボディブローのように効いてきますね」

 「こうなったら、一部、猟官制度を取り入れるか」

 「学閥聖域を作ってますからね。大臣ごと干されるだけでは?」

 「ありうる・・・」

 「こうなったら、もう少し、機械化して農業人口を減らさないとまずいか」

 「農業の機械化は、資本が必要ですから、難しいのでは?」

 「いっそ、農業の企業化経営で・・・」

 「農政も農民も既得権があるので、露骨にやると集票が・・・」

 「利権に誘われて空中分解しそうだな」

 「円高になれば、もう少し是正されるかもしれませんが・・・」

 「利権に誘われて歪な国情にさせられるとはね。欧米列強の罠だな」

 「この際、外地の日本人を棄民として、追い立てる方が良いという意見も・・・」

 「骨肉の家督争いか、日本人が日本圏に引っ張られやすいわけだ」

 「国内居住地を一定の期間確保しないと移民は進み難いですからね」

 「もっと海外予算を増やすか」

 「満州・朝鮮の利権転売の件もありますからね。予算の投資は渋られてますよ」

 「ちっ 民需が強くなると狡すっからい民意に引っ張られるな」

 「民間は、目先の短絡的な私利私欲しかありませんから・・・」

 「ますます、高度な政治的判断ができなくなるな」

 「人の気も知らんで、派閥抗争しやがるし」

 「馬鹿野党も足を引っ張りやがるし・・・」

 「官僚も排他的な聖域を作ろうとするし」

 「民間企業は節操無いし」

 「魔業をスッパ抜こうとする記者も出てきますからね」

 「処分しただろうな」

 「はい」

 「ったくぅ〜 独裁してぇ〜」

 「ま、まずいでしょう」

 「だよなぁ」

 「みんなそう思ってますけどね」

 「だよなぁ」

 

 

 某高校

 戦後日本、急成長しているせいか、白人系留学生は少なくない。

 噂だと、10分の1がスパイらしい。

 欧米各国は、情報戦略に対する価値が高く、

 亡国レベルの白人男子、売国レベルの白人美人の留学生を送ることも珍しくない、らしい。

 一方、日本人は情報収集をケチる上に情報より、面子、体面で、

 親方日の丸や権威を背景にしない限り駄目なのである。

 正確な情報が高飛車に無視したり、

 優れた構想も事勿れに貶したり、

 可能性の高い発案があっても罵倒したり空気重視が日本人の標準。

 しかし、欧米諸国と日本の都市・工場の比較写真は、教科書に載せられており。

 これでもかと思うほど比較され、落胆させられるのである。

 なので留学生スパイ説は信じられていない。

 もちろん、持てはやされるのは舶来物であり。

 軍用品は、イギリス製をライセンスした兵器が多いのである。

 明らかに日本は後進国であり、スパイはないが常識。

 日本攻略の噂も、資源がない国を苦労して攻め、

 反抗する人口9000万を支配しようと思う酔狂な国は存在しない、が一般的見解である。

 どうせならもっと資源が多く、人口が少なく、費用対効果で楽な国で獲物を探す。

 むかしの右翼の言うような危機感は少なく、

 いじけた一部右翼は、アメリカの属国にされた未来像 “犬日本帝国” を漫画に描くが、

 左翼同様、8割以上の過半数を占める中庸層を無視した発想は、相手にされないのである。

 この日、同盟国イギリスから来た転校生が黒板の前に立った。

 お、おぉおおおお〜!!!

 と外なる歓声と、数倍の内なる歓声に教室内が沸き立った。

 同級生男子全員の煩悩を逆撫で、

 ケダモノに変貌させ兼ねないほど凶惑な金髪・八頭身・足長美人・・・

 同級生女子は絶望的な視線を意中の人に投げかけ、文字通り玉砕。

 黒板にハーティ・ハーミスと書かれ、

 「タダの人間には興味ありません」

 「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、魔法使いがいたら、私のところに来なさい。以上!」

 と奇天烈な内容を上手な日本語で宣言して、

 「「「「「・・・・」」」」」

 教室の空気を一変させてしまった白人美少女の高校生活はいかに・・・

 大多数の日本人はナイーブなのである。

 戦争が終わって10年も経つと変なのが現れるのだろう、戦後は怖い。

 確かに為政者の背徳は、目に余るモノがあり、

 巷で、老後を焦る中年の偽善とばばぁのヒステリーは若い世代を白けさせる。

 平和ボケした社会と詰まらなく平穏な机の間を一塵の香水の香りが通り過ぎ、

 授業の合間の休憩、何を思ったか、

 「で、何で宇宙人なの?」

 「・・・・」 にや

 と、後ろに座った白人美少女に聞いたのが運の尽き。

 まさか、まさか・・・

 この転校してきた白人娘は、生まれ持っての性格か、

 「ミラクル大日本の探検よ!」

 たちまち、ネルソン・ケリー、藤木ナナミ、古鷹ヤクモと共に舎弟にされてしまい。

 東京湾環状線を環状線にさせた浦賀海底トンネル建設の調査に付き合わされ・・・

 図書館で建設予算を調べ、海底トンネル1km当たりの建設費を割り出して・・・

 建設原価を調べるのである。

 浦賀海底トンネル完成が新聞の一面に書かれているものの実に淡々と書かれていたり、

 世界的なニュースになってもおかしくないが、実に慎ましく発表されていたり、

 日本人の主観でそう思うのだろうか、

 調べてみると、欧米各国とも日本以上に評価されていたり、

 これは、日本人の特有の美徳なのだろうかとネオンサインを見比べたり、

 「・・・・」

 国営なのだから宣伝はいらないのだろうと思ったり。

 「・・・グレーゾーンが多過ぎるし、チグハグね」

 「企業秘密なんじゃないかな」

 「じゃ こっちは?」

 別の建設簿記が広げられる。

 「・・・・」

 「河川堤防工事の建設簿記はしっかり書かれているじゃない」

 「・・・・」

 「シールド工法の電力をほとんど使わなかったか」

 「カッターヘッドをほとんど消耗していないか・・・」

 「工事中に水漏れがなかったか・・・」

 「ま、まさか」

 浦賀海底トンネルの海底、最水深は70m。

 トンネルは、さらに50mほど地下で-130mほど、

 浦賀トンネル10kmは上段の歩道、中段の電気自動車道、下段の地下鉄があり。

 鉄道は、60トン戦車を積載して行き来できるらしい。

 一定の間隔で隙間が作られ、2時間で歩いて渡ることもできた。

 「なかなか、綺麗じゃない。歩いている人も多い」

 水漏れが無く、送風機で湿気が飛ばされる。

 「じゃ・・・凝固剤やコンクリートをケチった手抜き工事?」

 「そ、そうは見えないけど」

 「言っとくけど、二連複合三段海底トンネルなんて、イギリス本国だってないのよ」

 「し、首都に近いからじゃないかな」

 「これと同じ規模の海底トンネルを本州、四国、九州の間で作ってる」

 「あと、本州、北海道、樺太道の間もね」

 「そ、それは、島が大きくて近いからじゃないかな」

 「これだけの規模の工事をしているのって、日本だけよ」

 「一体いくら使ってるのかしら」

 「・・・赤字のはず・・・それとも赤字じゃない?」

 「きっと、賃金が安いから・・・」

 教科書に書いてある。

 「国債で借金押し付けか、強制的にインフレ起こして弱者を餓死させる気かしら」

 「きっと中東から安い原油とか、ほかの国から安い資材が入ってきてるからかな」

 教科書に書いてある。

 「あんたの、その頭、教科書しか入ってないわけぇ」

 ぐしゃ ぐしゃ ぐしゃ

 「ぐぁ だ、だって現に造られてるし」

 「あ〜! もう〜 ちったぁ! 現状に疑問を持て!」

 「もうすぐ、出入り口・・・」

 たん、たん、たん、

 不意の銃声、

 そして、騒然とした空気に包まれる。

 「な、なに?」

 「銃を持っている人たちがいる」

 「なんで?」

 “我々は、パレスチナ解放師団である。日本に要求するモノがあり”

 “お前たちは、我々の捕虜となった。反対側も我々の仲間が封鎖している”

 “大人しくしていれば、殺しはしない”

 スピーカーから流れてくる音響がトンネル内に木霊する。

 そして、トンネル内にも武器を持った外国人がいた。

 「うそぉ」

 「マジ?」

 「お、犯されちゃう?」

 「なんで、そうなるんだよ」

 パレスチナ解放師団は、浦賀海底歩道トンネルを封鎖。

 日本の機密を要求していた。

 

 

 首相官邸

 「はぁ パレスチナ解放師団が浦賀海底歩道トンネルを封鎖だとぉ」

 「犯人総数は50人ほど、出入り口側に30人。通路内に20人ほど」

 「歩道橋内は、約360人ほど」

 「ほかにも犯人グループが隠れている可能性もあります」

 「武装した50人というのは大変な数だ。いつ流れ込んだんだ?」

 「現在、入国管理を問い合わせています」

 「しかし、変ですね。ハイジャックならともかく、逃げ道のないトンネルジャック・・・」

 「列強が裏で手を引いているんじゃないだろうな」

 「あり得ますね」

 「どうする?」

 「魔法使いを出して、処分するのが良いかと」

 「だがバレると困る」

 扉が開く

 「総理。これは警察の仕事、警察省で処分しますので」

 「総理。日本国防省に任せていただきたい」

 顔に予算と書いていた。

 「とりあえず。警察で対処。国防省は、警察省の管轄下で行動という事で・・・」

 「はっ!」 お〜し!

 「・・・・・・」 ちっ!

 そして、血相を変えた法務大臣が執務室に入ってくる。

 「御苦労、法務大臣」

 「どうします?」

 「対処を検討中だ。君はサインするだけだよ」

 多数の人間を助けるため数人の子供の寿命を削る・・・

 「・・・わかりました。ですが可能な限り、消耗を最小限にしていただきたい」

 『『『倒閣はごめんなんだよ・・・』』』

 「分かっってる。彼らの寿命を守っているのは、君だ」

 「我々も可能な限り、子供たちの寿命を守りたい」

 「しかし、人質に死傷者を出さず、ばれないように上手くやることを優先したい」

 扉が開く。

 「総理! 犯行グループが保持している武器は、旧日本軍のモノです」

 「なんだと?」

 「38式か、99式・・・保管されているものを除けば、個人で売買されているものかもしれません」

 「そういえば、バルカン・カフカスで大量に取りこぼしがでて、国際市場に流れていたか・・・」

 「いや、国内の管理を調べよう」

 「日本軍の旧式武器。ならば、国防省の管轄」

 「それは、違うだろう。ていうか、弾薬庫管理。洗い浚い、吐いてもらうからな・・・」

 「ぅ・・・」

 扉が開く。

 「犯行グループは、5時間以内に返答がなければ、一人ずつ銃殺していくと」

 「ま、まずぃ〜」

 「魔法使いたちは?」

 「浦賀側に4人、宮津側に4人。配置に着きました」

 「では、5時間以内に対処を・・・」

 

 

 4時間後

 トンネルの中、

 パレスチナ人の4人が近付き。

 一人が拳銃を抜く。

 「死刑執行の時間だ。恨むんなら機密を公開しない日本政府を恨むんだな」

 「「「「・・・・」」」」

 「まずは、イギリス人から・・・」

 銃口がハーティ・ハーミスに突き付けられる。

 「やめろ!」

 「!?」

 少年がハーティ・ハーミスの前に出て庇う。

 「勇敢だな・・・」

 「しかし、イギリスと組んでパレスチナをユダヤに叩き売った日本人も・・・」

 「・・・・・」 ごくん!

 銃口が目の前に突きつけられ、

 後悔

 不意に目の前が真っ暗になっていく、

 ば〜ん! ば〜ん! ば〜ん!

 銃声がトンネル内に木霊し、

 

 トンネルの出入り口

 担架に乗せられた人が次々と出てきて、救急車と軍用トラックに収容され、運び出されていく。

 キャスター

 “事件は、催眠導入剤の大量使用と鉄道トンネルからの警察官の突入により無事解決しました”

 “現在、犯行グループと人質を含め、病院に収容されています”

 “今回、作戦指揮は、警察省であり、日本国国防省は支援を行いました”

 “では、現場指揮官のコメントを・・・・”

 

 

 目を覚ますとハーティ・ハーミスの顔が目の前。

 か、かわいいぃ

 つか、白人って、本当に白いんだぁ。。。

 「・・・あんたって、勇敢なのに撃たれる前に気絶するのね」

 「あれ? 撃たれたんじゃ・・・」

 「はぁ! あんた、気ぃ失って倒れたじゃない」

 「でもハーティって、凄かったね」 藤木ナナミ

 気付くと、他の仲間も見守っていた。

 「カッコ付け君が倒れて、あっけにとられた犯人の顎にパンチ」 ネルソン・ケリー

 「アレは、掌底突きだよ」 古鷹ヤクモ

 「その後、突然、電気が落ちて・・・ あと、良くわかんないけど・・・」

 「誰か、回し蹴りで隣の犯人を倒してた気がする」

 「金蹴りもいたんじゃないか」

 「お、俺だけかっこわりぃ」

 「いや、一番カッコ良かったよ。切っ掛けになったし」

 「でも、なぜ、当たらなかったのかしら。3発も撃ったのに・・・」

 「そうそう。物凄く緊張してたのに、その後、急に眠くなって、良く分からなかったよな」

 「」

 「」

 「・・・・」

 そう、この後、僕は、社会が誰かの望む願望で構築されていると疑い始め。

 虚飾に彩られた現実を見つめ直し始める。

 

 

 厚木飛行場

 零式輸送機が退役していくに従い、

 アブロ・ヨーク旅客機が主力旅客機になっていく。

 しかし、時代の進歩は、エンジンの馬力を向上させ、

 ターボプロップという変化をもたらせた。

 日本は、アブロ・ヨーク旅客機を改良し向上させた機体を開発し。

 ターボプロップエンジンの国産化とともに新型54式旅客機 (綾風) が就航した。

現用機 自重/全備重 hp 全長×全幅×全高 翼面積 巡航速/最高速 航続距離 乗員/乗客
アブロ・ヨーク 18150/29480 1280×4 23.9×31×5 120.5 /479 4800 4/〜60
綾風 18000/30000 3667×2 32×32×9 96 /640 3000 2/〜74

 日本空軍

 54式旅客機、(民間、綾風)、(軍用、蒼鳳)

 「綾風を改造するとして、対潜哨戒機型と対空哨戒機型はどうしたものかな」

 「P2ネプチューンより上なら良いがね」

 「ネプチューンの3750馬力エンジンは大きいがレシプロだ」

 「しかし、ネプチューンは、最初から対潜哨戒機として開発されている」

 「良いところ互角かな」

 「やっぱり、4発機を開発しないと」

 「民間は採算重視だから。4発機は資本が溜まってからじゃないか」

 「やっぱり、貧富の格差を広げないと旅客機の開発すらできないか」

 「三陸海岸に海軍基地を建設しなければそれくらいの金はできたんだ」

 「ちっ 海軍め、ガイア行きで予算枠を広げやがって」

 「基地に屋根をかぶせればガイア行きを隠せるためだろう」

 「ガイア行きで元取れるのか?」

 「標高1500m以上の高原30ヵ所に街を建設。瑞樹州の開発を考えると元が取れていると思うよ」

 「しかし、アメリカがいくら金を持っていても分散し過ぎだ」

 「日本に設備建設を発注してるなら、日本有利だろう」

 「金で分散されているのが日本の労働力じゃなければね」

 時代を経るに従い、高賃金と高待遇で日本人労働者の海外渡航が増えていた。

 青田買いは横行し、日本人の高学歴者の比率を引き下げる。

 

 

 バルカン連邦

 日本軍の駐留で民族、宗教、言語、文化紛争が強制的に押さえられつつあった。

 紛争の最大抑止は軍事力より、バルカン紙幣と単一巨大市場による利益の拡大だった。

 紛争を再開して利益を捨てる者は、少数派であり、

 少数派の強硬派は、次々と不慮の奇跡で崩れていく。

 警察のモラルが高まると、犯罪が縮小、治安が安定し、

 外資を呼び込んで経済が活性化していた。

 

 青い空、起伏の激しい緑の高原に美しい湖水が広がる。

 頂きに沿って、風力発電機が回り、

 水力発電機が建設されていた。

 日本空軍基地が人里離れた高原地帯に建設され。

 孤立しているゆえか、発電用ダムと風力発電機も併設される。

 しかし、基地直下で油田が開発されると、石油ポンプが回り始め、

 日本人の入植が増えて、駐留基地を中心に石油精製所と要害都市が形成されていく。

 海外投資が増えて石油化学工場が建設され、発展し始める。

 グロスター・ジャベリンが滑走路を滑空して上昇していく。

 「センチュリオン戦車は我慢するけど、イギリスの航空機は、どうも微妙だな」

 「尾翼が大きいな」

 「機動が良さそうだけど、スタイルと安定性が微妙だよ」

 「烈風の方がかっこいい」

 「まぁ ターボプロップ型烈風は後退翼で、その気になれば時速900kmは出せるからね」

 「200km/h差くらいなら我慢したくなる」

 「音速機が開発されているのだから、いつまでも烈風じゃ駄目だろう」

 「烈風は、スエズを封鎖されたら補給で苦しくなる」

 「現地生産を進める方が良いけどね」

 戦争が始まれば孤立無援のバルカン駐留師団は、正面戦力軽視。

 いくつかの師団は人里離れた山岳地帯に設営される、

 なぜか、原油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、銅、ボーキサイト、クロム、マンガン、鉛、亜鉛などなど、

 鉱物資源が偶然に開発されて経済基盤と共に駐留し、

 日本人の入植者が要塞工業地を広げ、長期戦向きの装備を求めた。

 そして、バルカ連邦を守る軍隊からバルカン国際市場を守るガーディアン軍の側面が強まってくる。

 民族資本を鉄壁の国防力で守るのも国防なら、

 他国資本を誘致(人質に)して保護することも国防だった。

 

 人は自由を求める。

 しかし、自由を奪う制約を自ら定め、自ら規制を課してしまう。

 そこには、排他的な世界があり、

 人は、望んで奪われた自由に向かって飛び込んでいく。

 白人の大柄な男が日本の力士にぶつかり、力士の顔を歪ませる。

 幕内平力士でも、一般的な日本人なら鎧袖一触、畳みかけることができた。

 しかし、バルカン連邦遠征の力士たちは、そうもいかない。

 東欧の白人は、体格的に近く、気を抜くと足元をすくわれることがあり、

 追い詰められた形相になっていく。

 重鎮たち

 「・・あ・・・今のあぶねぇ〜」

 「素人相手に何やってんだよ〜」

 「なんか、日本の相撲界も黄昏って感じだな」

 「でもドイツ人より、バルカン諸民族の方が好感度高い」

 「ドイツ行くと、人種的な劣等動物扱いされるからな」

 「そりゃ 誰だって、学歴、家柄、品性で差別するよ。だからって、人種単位でアレはないよ」

 「お呼びじゃないのよって感じは、いただけないぞ」

 「でも新人類かぁ 理想的な人間像が群れをなして歩き回ってるのは良いよね」

 「でも、ジーンリッチが同じドイツ人を見る目も、ちょっと世代の隔絶かな」

 「日本の世代の隔絶とかなり違うよね」

 「日本だって、昔は、親の権威とか、目上の者に対して、もう少し、礼を見せたがな」

 「真剣に相撲に取り込んでくれるのが自分の子より、他人の子って悲し過ぎるよ」

 「やっぱり、好まれるのは、勝敗が速いってことかな」

 「まぁ 10秒以内で勝敗が決まるからね。スピーディさが受けてるかも」

 「だけど、相撲賭博みたいなのが困る」

 「野球と相撲は、会社に胴元がいて仲間内で賭けることが良くあるから。やるなっていっても、やるんじゃないかな」

 「胴元は、手数料が入るからやめられねぇ」

 「賭博は、人生破綻する奴や社会不安も招くけど、公営でやらないと東欧ヤクザが仕切るからね」

 「監督官庁で味方を付けないとね」

 「競馬は農林水産省。競艇は国土交通省。競輪・オートレースは経済産業省か、いいなぁ」

 「日本が駄目でも、バルカン・カフカスだけでも公営に出来ないのかな?」

 「純粋な観客だけじゃ 燃えないし、力士を育てられないし、バルカン・カフカスは、これからだからね」

 「やっぱり、賭けの上限を付けても、バルカン・カフカスルールで・・・」

 「駐留町の周辺にも金が落ちるし、バルカン相撲も勢いがつくし、相撲の世界も華やかになるし」

 「「「うんうん」」」

 

 日本人の案内人が欧米列強の資本家に土地を紹介する。

 「ほぅ〜 相撲の公演もあるのか」

 「最近、人気が出てきて、基地内の公開を兼ね、遠征試合が行われるようです」

 「ふむぅ なかなか、規律の高い駐留軍ですな」

 「バルカン諸国民に対し、公平を務めています」

 「それにバルカン・カフカス駐留基地のほとんどが鉱物資源の真上なんて・・・」

 「た、たまたまですよ。たまたま」

 「よく、ピンポイントで資源開発できましたな」

 「ま、まさか、民族感情を和らげるため、人里離れた場所に移動しただけで」

 『『『『・・・・』』』』 疑惑

 「あ・・ほら、あそこに試掘した跡がありますよ」

 『『『『何で試掘? こいつ、分別無くして矛盾してやがる・・・・』』』』

 「ど、どうでしょう。バルカン連邦投資は?」

 「治安は良いようですが、火薬庫のイメージが強い気がしますね」

 「バルカン連邦はエアーポケットのように安全地帯に入っていますよ」

 「んん・・・国内産業もまだ・・・弱い部分がありますからね・・・」

 「これからは、税対策で、高額配当が求められるバルカン市場が大きいですよ」

 「国家的な補償が欲しいですな」

 「いえいえ、政府は、国民の手前、資本家からも税を取るじゃありませんか」

 「バルカン市場は、資本家の味方、契約第一、信用第一で安全です」

 「「「「んん・・・」」」」

 「自国軍に安全補償を求めても、国防費で毟り取られるだけです」

 「これからは思想対立や地域対立でなく、グローバルな国際資本家連合同好クラブですよ」

 『『『『・・・・』』』』 疑惑

 

 

 

 トルコ完全自治領カフカス連邦

 カフカス連邦もバルカン連邦と事情が似ていた。

 違いがあるとすれば、利権の5分の1がソビエトに流れていることと言える。

 カフカス連邦の取り分が5分の1なので不公平極まりない。

 しかし、カフカスに住む日本女性は、別の意味で不公平を感じやすい。

 余りにも美人平均値の係数が高く、日本女性が、ちんちくりんに見えてしまう。

 日本人男性は、バルカン連邦で公共事業を起こして職を作り、観光客を招き入れ、

 生活が安定しているのか、モテたりする。

 タネ明かしをすれば何の事はない。

 日本政府は、カフカス紙幣を印刷して、現地雇用を確保しているだけであり、

 雇用で、ばら撒いたお金を商品やサービスを流通させて、噴水効果で資本を吸い上げ、

 あるいは、貯蓄で口座に預けられた資本で産業投資をしていた。

 公共事業で雇用確保を繰り返し、経済を回しているだけと言える。

 怖いのは、ニセ札でなく、本物だったこと、

 さらに怖いのは、カフカスの経済基盤が急速に経済成長している事と言えた。

 本来、カフカス連邦の共和国政府と官僚がしなければならないことであり。

 それを日本政府が代行していたのだった。

 実のところ、朝鮮経営で経験済みで同じことをしていただけともいえる。

 本来なら民衆が怒って暴動を起こす、

 しかし、雇用が作られ、

 それまでなかった衣食住とサービスがあれば良しと考え始め。

 日本語学校に生徒が集まり始めていた。

 白人たちが日本の農園にやってくる。

 「どう思う?」

 「痩せた大地の割に元気なリンゴ園だな」

 「原産地より、一周り大きく美味しい」

 「木の成長も早いと聞いてる。品種改良かね」

 「苗木が瑞樹産までは掴んだがね。それ以上は不明だ」

 「高級食材で欧州で引っ張りだこだが、元が分からんな・・・」

 「栗も一回り大きいらしいから、そっちも見に行くか」

 「日本産作物が、これほど強くなるなんて・・・」

 「何か怪しいな。バイオ関連は、アメリカの方が強いはずだ」

 「瑞樹州に諜報員は送っているのか?」

 「んん・・・上手く行ってないらしい」

 「日本本土より、瑞樹州の方が怪しいのか?」

 「かもしれないな」

 欧米列強の観光と資本参入が進むと円、ドル、マルク、ポンド、ルーブルが流れ始める。

 外資が入るようになれば、海外就労も容易くなり、

 グルジア人、アルメニア人、アゼルバイジャン人も保守層になりやすい富裕層が作られ、

 保身で親日が形成され、日本人支配を容認し始めていた。

 日本人たち

 「中東の石油のおかげで、バクー油田の価格が下落し始めてる」

 「ドリルビットが強くなったからな。まずいような嬉しいような」

 「化学燃料をふんだんに使った産業と国防ができるからね」

 「どこかの国が中東の石油を押さえに来たら不味くないか?」

 「普通は採算の合わない戦争はしたくないけどね」

 「採算を合わせるんだよ」

 「石油資源単体で考えず、高騰分で産業を生かすも殺すも自由自在」

 「世界中の産業を人質にすると考えるのさ」

 「やっぱり、石油依存は、まずいか・・・」

 「日本国内で石油が採れないとねぇ」

 

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437    
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 呉(上海)

 分裂した中国軍閥の中では、小さかった。

 しかし、中国内陸部交通の要衝揚子江を押さえており、

 沿岸国である事から外資を得やすく、成長している国でもあった。

 既存のアメリカ資本に加えて、独伊資本が参入し、徐々に地場を拡大していく。

 そして、軍閥国の民衆は、労働条件の良い軍閥国へ移動して行くため、

 人口移動が起こりやすく、人口の移動は国力の変化に直結する。

 軍閥国は、法律を整備し、

 外資を誘致し、労働者の待遇改善を進めていた。

 満漢全席

 日本経済連の人たちが中国資本家に招待されていた。

 「日本も安心して呉国に投資するアル」

 「しかし、外国勢力に組み込まれているので、少し不安ですな」

 「それ、違うアル。中国軍閥は総じて独裁的アル」

 「軍閥政府と中国民衆も、自国軍閥軍を信用しないアル」

 「軍閥政府は、軍事クーデター防止のアンチ軍として外国軍の駐留を認めてるアル」

 「そうアル。むしろ単一政府、単一軍は日本は、軍事クーデターを起こしやすくて危険アル」

 「独善的な日本政府単独支配に日本資本家と日本国民は搾取されてるある」

 「不信感一杯アル」

 「中国民衆は、軍閥一党支配に対する野党代わりで外国軍駐留を容認しているアル」

 「穂(広州)投資ばかりは、危険分散できないアル」

 「そうアル。危険分散なら沿岸部で安心な呉アル」

 「だから、日本人は、日本政府に搾取されないように、呉国に投資するアル」

 「「「「んん・・・」」」」

 「抑制のない日本政府単独支配は右翼化しやすく危険アル」

 「呉経済は “富める者はますます富み、貧しき者は、ますます貧しくなる” 世界標準アル」

 「資本家にとぅお〜っても優しくて安心アル」

 「その証拠に日本が駐留しているバルカン・カフカスの海外投資は進んでるアル」

 「日本は、閉鎖的で信頼性がなく海外投資がされない貧相な政治体制で貧弱な閉鎖経済アル」

 「そうアル。アンチ政府勢力を有する国家は安心。雑種型資本こそ信用できるアル」

 「孤立した経済圏は、世界から価値を否定されるアル」

 「「「「んん・・・」」」」

 「皮被り経済は惨めアル。半植民経済こそ国際常識アル」

 「「「「んん・・・」」」」

 「経済に国境はないアル。民族純血型資本経済は駄目駄目アル」

 「「「「んん・・・」」」」

 「童貞政府は情けないアル〜♪ 処女経済は、今時恥ずかしいアル〜♪」

 「「「「んん・・・」」」」

 「「「「だから左団扇の呉投資アル。ぜったい儲かるアル〜♪」」」」

 「「「「んん・・・」」」」

 

 

 

 上海港

 ドイツ潜水艦隊が駐留していた。

U4500
  排水量 全長×全幅×吃水 速度 hp 航続距離 魚雷 乗員
水上 3200t 120×9.5×6.2 28.0kt 4000 12.0kt/20600海里 6管 26本 20mm×2 90
水中 4000t 18.0kt 4000 7.0kt/500海里  

 艦橋

 駐留艦隊司令がUボートに乗り込むと、艦長と副艦長がドイツ式の敬礼する。

 そして、ドイツ本国からの命令書が渡される。

 「艦長、もう一度、南シナ海行きだよ」

 「はっ 了解です」

 軍隊で命令に異を唱えることは許されない。

 なので先に了承を復唱し、

 私的に疑問を口にしたりする。

 「やはり、浦賀トンネル事件も?」

 「もちろん、疑ってるよ」

 「ですが司令。何度行っても無駄な気がしますが」

 「今度は緯度と経度を指定して来たよ。ドイツ本国は、何か掴んだのかもしれないな」

 「・・・副長。ここは、台風消滅の中心付近だからと、通過した事があるのでは?」

 「・・・ええ、近い場所を通過しましたね。というか、何度も行ったり来たりさせられましたよ」

 「とにかく、代わりが来るまで、この場所に居座ってくれ、頼むよ」

 「了解」

 

 

 アメリカ極東権益地

 独裁資本主義の牙城とと言える世界が広がっていた。

 アムール川を挟んで、資本主義と共産主義の異質な世界が造られると予想しえた者はいない。

 アメリカ資本は、極東権益地を資本主義の生命線であり、資本主義を守る牙城として投資していた。

 そして、アメリカ資本は、アメリカ国民を移民させることで、共産主義に対する危機感を強めさせるように画策。

 極東権益地投資は、高配当となり、株価は上がり続け、

 アメリカ経済もアメリカ国民も高配当口座を守るため極東権益地投機依存が進み、

 高給に惹かれたアメリカ人系移民も増大していた。

  重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 機銃 ミサイル 乗員
F100 スーパーセイバー 9500/13085 15.2×11.81×4.95 37 4500kg/7100kg 1390km/h 3210km 20mm×4 6 3190kg 1
B47ストラトジェット 35700/56700 32.9×35.4×8.5 132 3265×6 945km/h 6437km 12.7mm×2 4540〜9980 3

 白い星マークを付けた戦闘機と爆撃機が編隊を組みながら満州上空を滞空する。

 いざ戦争が始まれば、ただちにシベリア、

 あるいは日本、

 あるいは、中国諸国に向かって侵攻し、核爆弾を投下する戦略爆撃機部隊だった。

 F100 スーパーセイバー戦闘機は、戦闘爆撃機だった。

 爆弾を減らし、燃料を増やすことで、B47爆撃機を護衛しながら侵攻することも可能であり、

 攻守に使い分けられる戦闘機であり、

 強力な戦略爆撃部隊を編成することもできた。

 この時期のソビエト空軍は、ミグ15からミグ17。そして、ミグ19が開発されつつあった。

 そして、日本は、イギリス戦闘機グロスター ジャベリンがようやく採用され始め、

  重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
グロスター・ジャベリン 10886/19580 17.15×15.85×4.88 86 3765kg×2 1141km/h 1530km 4 4 2

 ターボプロップ機の烈風が、いまだに主力で使われていたのだった。

 アメリカ空軍 ハルピン基地

 「F100 スーパーセイバーとB47ストラトジェット爆撃機は良いけど、数がな・・・」

 「参戦しなかったからな。質は揃えられても数が不足する」

 「他の列強が軍拡を進めない限り、国防予算の拡大は低いよ」

 「モンロー主義も再燃しつつあるしな」

 「そりゃ 失業者は、海外投資より国内投資を望むさ」

 「国内投資しても労働者の賃上げに食われてしまうんだよ」

 「民間も軍も同じか、給料が上がると労働に対する採算率が悪化する」

 「だから、やめさせないとね」

 「老後や社会保障をするのは無理があるよ」

 「だから土地を取り上げるから、負け犬は生きていけないよ」

 「逃げ道アリの等閑な仕事じゃな。土地を取り上げないと近代化できない」

 「権益地は、犠牲にできる労働者がいるからね。老後も安心かな」

 「アメリカ人の移民がそれで増えるかな」

 「黒人が支配者になりたくて、権益地に来るんだよ」

 「しかし、日本投資が増えては、せっかくの利益も活用できなくなるのでは?」

 「んん・・・上は、浦賀トンネル事件を疑っている。情報収集で投資を増やしたいらしい」

 「未知の力が使われていると?」

 「トンネルジャックなどバカなことをするんだ。未知の力を使わなくても解決できそうだがね」

 「しかし、疑わしい動きも確かにあったらしい」

 

 

 南シナ海

 伊402号が出入り口に向かって潜航していく。

 大量の召魄を行う場合、出入り口近くまで行く方が寿命の減りが少ない。

 潜水艦の出動は、それだけの理由だった。

 艦内

 鳳 葉月 (おおとり はづき) (16歳)

 漣 蒼乃 (さざなみ あおの) (16歳)

 紅 炎矢 (くれない えんや) (16歳)

 楠 道瑠 (くすのき みちる) (16歳)

 「時間は、良いですか?」 艦長

 「はい、向こうは、待機しています、こちらが出入口を通過した時点で、召魄で物資を交換します」 鳳 葉月

 「100トン規模の飛行石は、久しぶりだな」

 「格納庫の温度を落として、照明を消してください」

 「大丈夫だ確認している。伊号ごと空中に飛び出したくないからな」

 「それより、こちらの物資は向こうに届くのだろうな」

 「はい、交換出来るはずです」

 「艦長。前方の左舷側と右舷側から潜水艦が接近してる」 漣 蒼乃

 「何?」

 

 南沙基地

 慌ただしく警報が鳴り響き、

 乗員たちが600トン級掃海艇 さんご に乗船。

 出航準備を整える。

 「艇長。潜水艦同士の衝突事故が起こったそうです」

 「どこと、どこだ?」

 「まだ、分かりません」

 「爆雷を降ろして、防潜網をもっと積み込め」

 「潜水夫は?」

 「あと5分待って欲しいそうです」

 「まさか、402号じゃないだろうな」

 「いえ、衝突事故の通報は、伊402号からです」

 「そうか、自力浮上が難しいなら、こちらでサルベージを手伝わないとな」

 「どうやら、例の海域ですよ」

 「・・・なるほど、鉢合わせしたわけか」

 「伊号が追いかけられたのでは?」

 「それとも正確な座標を知っていたか・・・」

 「出入口は閉じていて、魔力を消費しないと行けないのに・・・」

 「どこまで知っているのだろうな」

 「場所を特定しているという事は、かなり知られているのでは?」

 「魔法か・・・直に見ても信じられないのだ。疑心暗鬼なんじゃないかな」

 

 

 イギリス保護領クェート

 この小さな国は、世界第二位のブルガン油田を有していた。

 日本も、その権益のお零れに預かっていた。

 因みに世界第一位はサウジアラビアのガワール油田であり。

 石油のほとんどは中東から産出する。

 こういった大英帝国権益のお零れは、世界各地にあり、

 日本は、御多聞に漏れず、イギリスのクェート保護領化を助けていた。

 もっとも軍事的にであり、

 経済的には、既にアメリカはクェート石油の大株主であり、

 アメリカの後塵に甘んじていたりする。

 そして、イラクの圧力が強まるにつれて、クェート防衛を負担してくれとなる。

 全長420kmの防衛線の構築は、石油の利益から支払われた。

 国境沿いに10m幅で溝を掘ってコンクリートで固め、鉄板で蓋をしていく。

 これなら砂で埋まる事もなく、人は渡れても、自動車類は越えられない。

 0.5km置きに840ヶ所に強靭な堡塁砲台を構築しておけば、気休めになりそうだった。

 員数で100人を掛けても84000人。

 しかし、クェート軍は、サバーハ王家が信用する私兵軍が2000人足らず。

 軍事力の増大は、軍部支配の可能性を招くため躊躇させていたのである。

 クェートの酒場。

 銀行家のアメリカ人のアンクル・サム、

 大家のイギリス人のジョン・ブル、

 左団扇のクェート人。

 管理人・警備員・土木作業員の日本人の姿が落書きされていた。

 遊んで暮らしているクェート人を横目に自嘲気味の日本人たちが酒を飲んで憂さ晴らし。

 そこには、人種の壁よりも高い貧富の壁があった。

 「ったくぅ〜 いつまでたっても風下だな」

 「だけど、アメリカは、問題を起こしたがってるみたいだぞ」

 「何で?」

 「国力の割に軍事力が小さい」

 「冗談、実戦経験がないだけで、質と量で世界一位だろう」

 「しかし、良いよなぁ 左団扇の生活って」

 「俺たち働けど働けどってやつだよ」

 「アメリカも、イギリスも、日本を手足扱いだな、それ以上になろうとすれば圧力を加える」

 「チクショウ。嫌がらせばっかりしやがって」

 「結局、身を粉にして働かせられる国民を持つ国は怖いんだよ」

 「ドイツもそういうところがあるからね」

 「堅実な人間ほど脅威であり、警戒されて駆逐される。悪化良貨を駆逐するだな」

 「まともな権益があるのは、バルカン・カフカスか・・・」

 「あそこは本当にまともなのか、スエズを封鎖されたら、一巻の終わりだよ」

 「ドデカネス諸島に権益収益を集中で開発させているだろう。あそこだけでも十分に日本だよ」

 「だと良いがね。小さな島で、戦乱に巻き込まれたら独立を維持できないよ」

 「事情は、イギリスのキプロス。アメリカのパレスチナと同じだろう」

 「そこでも日本人は扱き使われているな」

 「賃金が安いからね」

 「白人同士は結束しているような気がしないでもないよ」

 「このまま、働きアリが続くのかな・・・」

 ボーイが4つのワイングラスをテーブルに載せ、片隅の席を目くばせする。

 4人の白人女性がほほ笑んでいた。

 モテそうな顔をした日本人は一人もいないのだが、

 たまにこういう事があると先任に聞いたことがあった。

 

 

 瑞樹州

 機密を守りやすい瑞樹州は、魔業のメッカ。

 魔法で底上げされたマザーマシンのメッカ、バイオ技術のメッカになろうとしていた。

 そして、熱帯雨林のためか、錆びに強いステンレス、チタン、セラミックが注目される。

 「ステンレス製の自動車か、瑞樹州の人口が増えると、機密を隠せなくなるよ」

 「本当はチタン製が良いくらいだよ」

 「速攻で疑われるよ」

 「初期投資が大きければ維持費は減らせる」

 「初期投資が小さいと頻繁に修復しなければならなくなる」

 「だから設備が大きくなるほど維持費を減らすために初期投資を大きくする方がいい」

 「だからって、宿舎にステンレスを増やすのって大丈夫か」

 「地球で使うと思いっきり疑われるけど、比較的、製造できる価格だからね」

 「隠れてる部分に使う方が良いんだよ」

 「まともに使えるのは、ガイアだけか」

 「だけど、ガイアは、送るのが大変だからな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 鬼ヶ島(ヒルコ島)

大和
飛行石 重量 全長×幅×吃水 全幅 hp 最大速度 航続力 乗員
1000t 8000t 122×48×7.02 60 15400+6000 600km/h 37500海里 172
45口径114mm砲×2 60口径40mm連装砲×2基 60口径25mm連装砲×2基 飛龍 晴嵐改×2機

 帆走の飛行戦艦 大和が114mm砲と40mm連装機銃が火を吹いて妖魔、翼龍を制圧していく。

 帆走推進を多用するのは、ディーゼル油の補給の見通しつかないことにあった。

 中州に作られた人鬼村は、次第に両岸へと支配圏を広げられていく。

 「いまの人口を支えるだけなら十分な広さなんだけどね」

 「しばらく留守にするから、安全保障のためだよ」

 「やはり、人間のコロニーに向かうのか」

 「人数も揃ったことだし、人の道として、畝傍の生き残りを庇護すべきだろう」

 「それはそうだけどね」

 「飛龍と晴嵐を置いて行くから、人鬼村を守れない事もないだろう」

 「まぁ なんとかね」

 

 日本軍将兵たちが召魄で新たに入手した得物を弄ぶ。

 剣の鞘の部分から刃先に沿ってルビー・レーザー光が伸びていた。

 「ああ・・・俺の貴重な寿命が・・・」

 「そんなこと言ってるから魔力が弱いんだよ」

 「悪かったな」

 「だけど、この剣は面白いよ。魔力の弱い俺たちでも使えるなんて」

 「役に立つの?」

 「電力源が魔法の杖を改良したものだから、魔力の強さ次第かな」

 「魔法剣ってやつか?」

 「魔力の電力変換でルビー・レーザーに使ってるから魔力の消費は小さくて済むよ」

 赤い光剣が一閃すると木材が寸断される。

 「へぇ〜 細いのに残像で赤っぽく見えるんだ」

 「この剣と打ち合ったら、横からルビーレーザーが当たるから焼き折れるね」

 「弱い魔法使いでも、この剣なら十分な戦力になるよ」

 「どっちかって言うと、薙刀型の方が威力が大きいよ」

 「銃の時代なのに何やってるんだか」

 「売っても大丈夫な武器って、こういう刀剣類だからね」

 「こっちの新型FN FAL(7mm×43)は?」

 「魔力を利用したレーザーポインタとチタンフレームと飛行石が増えただけ」

 「機構上、魔法による加速は駄目だった」

 「弾切れを考えるとこっちの剣の方が良くないか?」

 「んん・・・ルビーレーザーは、魔力次第で伸ばせるからね」

 「こっちの魔法使いが使うと100m先から真っ二つとか・・・」

 「森雄先生!」

 「なんだ」

 「これなんですが、この世界の魔法使いだと、どのくらいの射程になりそうですか?」

 「ほぉ・・・」

 森雄御堂(50)は、剣を一閃。

 歳老いても、その実力は、弟子に勝り、

 魔力は、後天的な鍛練がら、この世界で一流。

 30m先の大木の幹を10cmほど斬り、枝を切り落としてしまう。

 「「「「・・・・・」」」」 ごっくん

 「こ、これは売らない方が良いよな」

 「うん」

 弟子たちのルビーレーザーの射程が3m〜5mで、

 切り裂くだけのエネルギーもなく、突き専用だったのである。

 薙刀は、さらに強力なルビー結晶と増幅用の魔法の杖が仕込まれていた。

 

 

 

 エンキドゥ大陸

 タナ村で、一番多い種族は1200人のドワーフであり、

 2番目は、エルフ族の500人

 人族は3番目に多い200人ほど、

 総人口2000人ほどがコロニーを作っていた。

 ウネビ・キズナ(15歳)は、貧しい家の出だった。

 丸太小屋は、ヒルコ島から祖父が流れて来て作ったらしく。

 言葉がほとんど分からず、人族の間でも除け者にされることが多く、苦労したらしい。

 祖母は魔物の襲撃で没落農家となった娘、

 一人息子の父カズサと母ヒュリッタが結ばれ、キズナが生まれる。

 祖父母と両親が妖魔の襲撃で亡くなった後、

 孤児となったキズナは、農家や商家の手伝いをしながら生活していた。

 生活環境が変わったのは、土系統魔法で才能がある事だった。

 魔法の才能があれば、寿命と引き換えに高収入を得られた。

 魔法は遺伝し易く、遺伝しない場合、

 性格的に保身が強過ぎるといった傾向があった。

 無論これは、伝承に過ぎず、

 もう一つの伝承だと異世界の人間同士が結ばれると魔力が生まれる話しもあった。

 田畑を銅製のクワで耕し、種を植え、作物を育てるのも生きるため、

 食べるのは命を保つためであり、

 食べるために魔力を消費し、寿命を縮めたくないと誰もが思う。

 「キズナ、今日もお願いね」

 「やぁ クロエ。おはよう」

 赤髪の一本角のクロエは、鬼族と人間のハーフで、

 14歳と思えないほどナイスバディで背も高い。

 いつも卵を入れた籠を持って、キュウリと交換にやってくる。

 こういった物々交換は買わずに済み、

 お金を消費せずともモノが手に入る。

 「クロエ。午後は釣りでもしないか」

 「釣り・・・うん、やるやる」

 鬼族は意外に紳士淑女が多く、無駄な争いを嫌う傾向があり、

 祖父の思い込みを否定していた。

 もっとも、いざ戦いに臨んだ時は、ドワーフ異常に凶暴だったりする。

 そして、クロエも年下である事と合わせて基本的に大人しい。

 『そうそう 何事も平穏平穏、天下太平が一番』

 「キズナ〜!」

 そして、丘の向こうから同じ年頃の幼馴染、

 蒼髪で長耳のハーフ・エルフ娘ラシェル(16歳)がやって来るので仕方なく手を振る。

 人間と鬼、人間とエルフの交配は可能であり、

 ハーフ鬼、ハーフエルフが生まれることもあった。

 優生遺伝を起こせば、魔力が1.3倍になるという疑わしい伝承があった。

 もっとも、ラシェルは、見事、伝承を証明し、強い魔力を持っていた。

 エルフ族は、唯我独尊な部分があり、

 ハーフエルフになると、人族の気質を併せ持って、独善的な側面も現れる。

 「おはよう、キズナ」

 「やあ、ラシェル。今日も生きてたね」

 「あのねぇ いつもいつも危ないことしてるわけじゃないのよ」

 「へぇ〜 それで・・・」 疑い

 「村の人がコモンドランを見つけたって、みんなで、やっつけに行こう」

 「ええ〜」

 魔法を使うのはかなり躊躇する。

 しかし、食肉獣コモンドランと人間は、喰うか喰われるかの関係であり、

 髭の部分は、魔法の杖になる特典付き。

 さらにコモンドランの肉は、飛行石を上手く昇華しており、

 肉を食べれば、数ヶ月間、体を軽くすることができた。

 人肉を食っているかもしれないのだが、仇討ちなのだろう。

 肉も人気があった。

 もっとも、懸命に食べても10kg〜25kgの軽量化であり、

 上手く食べないと逆に太ってしまう。

 「どうしようかな〜」

 「キズナ。行こうよ」

 「クロエも槍使えるでしょ」

 「・・・・」 こくん

 「弓師と槍師は何人?」

 「6人と・・・クロエが入ると7人かな」

 「・・・まぁ いいか」

 「・・・・」 こくん

 「よ〜し! 勝った〜♪」

 何日寿命を縮め、何十日分の稼ぎになるのやら概算する。

 死ぬ段になって、魔法を使った事を後悔するかもしれない。

 しかし、醜く老衰で死ぬより、すぅ〜と生命力が尽きてしまうため安楽死的でもある。

 魔法使いは、死を恐れなければ、総じて安楽な生活が約束されていた。

 そして、総じて食うか食われるかの戦いは賭けであり、練金より金になった。

 「来たな、キズナ」

 「アルディか」

 アルディはハーフエルフと鬼のハーフで希少種だった。

 「今日は稼ぐぞ」

 ハーフエルフ、ハーフ鬼は、仲間外れされやすく、

 少年少女ばかりで、14人ともハーフエルフか、ハーフ鬼だった。

 そして、人族の中で余所者扱いされているウネビ・キズナも賞金稼ぎになりやすく。

 社会的な差別意識の流れに乗るとこうなるという見本だった。

 

 コモンドランは、巨大な黒豹に似て、4つの角を持っていた。

 全高4m、全長20m級コモンドランが村に向かう。

 飛行石を食っているのか、あの大きさで驚くほど身が軽い。

 村を襲い、十数人ほど食えば数週間生きていける。

 ただそれだけの関係だった。

 魔法使い2人、弓師6人、槍師7人いれば何とかなるレベルだった。

 土系統のキズナが矢じりと槍先の銅を数十本ほど強化し、

 風系統のラシェルは弓師が撃ち放った矢を誘導しつつ加速させる。

 左右の目に3本ずつ矢が命中すると、コモンドランが暴れ、

 槍師7人が槍を後ろ脚に突き立て、動きを封じる。

 後は暴れるコモンドランを闇雲に攻撃するだけだった。

 キズナは、海軍短剣を抜くと、ヒットエンドランで筋を狙って刺し、

 巨大な前足の反撃を受ける前に離脱する。

 戦闘は、20分ほど続き、

 暴れる前足が岩を粉砕。

 「危ない!」

 キズナは、コモンドランの爪を掻い潜り、

 岩に潰されかけたハーフエルフ娘のラシェルと鬼娘のクロエを押し倒した。

 岩が地響きを立てて掠めていく。

 なので、一応の恩人。

 「「「・・・・」」」 ごっくん!

 「・・お・・・ちゃ〜んす♪」

 「てめぇ〜 キズナ〜」 ラシェル

 「キズナ君・・・」 クロエ

 「むふっ♪ このまま、恩着せがましく・・・」

 「おまえぇ〜 1対2でやる気か?」

 「大丈夫。3人までなら相手できる・・・と思う」

 「と思う・・・って、実績じゃないだろう」

 「やだぁ〜 こんなところで・・・」

 槍師たちが動けなくなったコモンドランの心臓に槍を突き刺して終わる。

 「やれやれ、終わったな・・・何やってんだ。お前ら・・・」 アルディ

 「え、いや」

 「「・・・・」」 ぽっ

 寿命が縮む魔法使いの取り分は大きく。二人だけで半分を占める。

 それだけの収益がなければ寿命を縮めたくないと言える。

 「槍4本、矢じり6本は駄目だな」

 「キズナ。治せるか?」

 「地銅があればね。高いよ」

 「ちっ しょうがないか」

 「しかし、キズナ相変わらず、良い鉄の短剣だな。刃こぼれもほとんどない」

 「お爺ちゃんの形見だよ」

 「やっぱり、異世界から来たって本当なのかな」

 「さぁ 他に金髪が10人ほど、一緒に来たらしいけど、黒髪は彼らとも違うからね」

 「キズナ。それ俺たちの祖父のことだろう」 アルディ

 「とりあえず、コモンドランを解体して、町へ持って行こうぜ」

 「ああ・・・」

 「そういえば、南のヒルコ島に人族が現れたらしいよ」

 「へぇ〜 何だろう」

 「町に行ったら情報が仕入れられるかもしれないな」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 畝傍の生き残りの孫ウネビ・キズナ登場。

 

 あと、ハルヒネタもやっちゃいました。

 あの冒頭は、そう書けるものじゃありません。

 

 キズナ保有の海軍短刀は、明治の廃刀令を軍刀という形で潜り抜けたモノのようです。

 魔力で強化されているので錆びずに1.3倍ほど強靭という事にしてください。

 

 

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第13話 1953年 『オーダ〜! 悪魔の帝国』
第14話 1954年 『ジャパンルール』
第15話 1955年 『ノーガードの行方』