月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第17話 1957年 『利害調和』

 政府・官僚・国民の権限の移譲・集約の比重で、国の模様も変わっていく。

 自由資本主義、アメリカ合衆国、

 国家主義、ドイツ、日本、イギリス、イタリア、ヴィシーフランス、バルカン、カフカス、

 共産主義、ソビエト、

 それぞれの政体は、それぞれの長短があった。

 国民が強ければ、個人の権利、競争原理、民間活力を最大限に利用でき、

 利害関係のみで、ダイナミックな成長を試みることができた。

 官僚が強ければ、派閥が強くなり、個人の権利が抑圧され、

 統制された枠組みと方向性をある程度、決めることができた。

 政府主導や民意主導より政策変更が困難であり、

 改善も改悪も一旦、決まると惰性で続く傾向にあった。

 政府の統制が強ければ、さらに全体的な統制が執れ、

 国力を集約することができた。

 代償は、保身と権威主義、組織の膠着化など、成長が制約される。

 床屋政談ができる床屋は、特定客が着いた。

 国境の近い巨済島、北樺太は、外国が近く、

 政治に対しても気がかりになりやすかった。

 北樺太

 外は極寒の吹雪。

 しかし、国防上の理由からビルとビルの間は、地下通路が張り巡らされており。

 一般家屋でも地下通路へ抜ける地下通路を作ると商店街に抜けることができた。

 小さな蛍光灯が点々と通路を照らし、ビルの近くまで行くと地下商店街があった。

 床屋

 「・・・最近の社会は、自由だの、権利だの、愛だの、頽廃的でいかんよ」

 「戦争が終わると綺麗事ばっかりで、どこでもそんな感じですかね」

 「愛なんて突き詰めれば、保身と独占欲、支配欲、性欲みたいなものにな」

 「最小単位が個人。利害が一致しなければ夫婦だって離婚ですし、親子だって断絶ですからね」

 「自分正義を言いだすと夫婦だってバラバラ、親子も憎み合う」

 「でも、法律が女の味方をするみたいですよ」

 「衆議院で女性参政権の条件付きで通って、女が強くなりましたからね」

 「けっ 集票に負けやがって」

 「傲慢で怠惰で出しゃばりな豚女なんか養いたくもない」

 「男を支配しようとする女は醜いですし、女に支配される男は惨めですからねぇ」

 「そうそう、見たくもない」

 「戦前でさえ、潮らしいのは最初だけですからね」

 「結局、財産の奪い合いかな」

 「民主主義が強くなると、良かったのか、悪かったのか、こんなものですかね」

 「主戦派を押さえる抑止にはなるがね」

 「我が侭に付き合わされて奴隷にされるくらいなら、戦争の方が良いね」

 「あははは・・・」

 「まぁ 昔みたいに思想統制されてないけど、隣組の縛りは残ってるからな」

 「最近は、ドブ掃除も道端の掃除も金で済ませるんですかね」

 「業者に任せたら、もっと高く付くし、近隣との連帯とか労働奉仕分が多いんだよな」

 「若いやつは、金で済ませて籠もり始めですかね、公共物が汚れるとみっともないですよ」

 「いや、会社と繋がりを強めていた方が生活の足しになるから、煩わされたくないんだよ」

 「それに金の卵で外の田舎の人間が入ってきましたからね」

 「それで、今度は、地方の開発だろう、どうなっていくのやら」

 「都心の開発は既得権益が絡んで余計に予算食うから田舎に流れてるのでは?」

 「そういや、その延長で海外投資が増えて来て、金回りが悪くて困るよ」

 「税金に取られたくないんでしょうかね」

 「国も、そう誘導している節があるけどね。それならそれで言えばいいじゃないか」

 「日本人は大人しいですから、無理がきくと思ってるんでしょう」

 「左団扇で高みの見物を決め込んでる連中から税金を取れば良いのに」

 「むかしと比べると、随分と豊になってきましたがね」

 「日露戦争が終わって、民需主導に切り替えてたら、もっと豊かだったよ」

 「だけど、お金持ちが増え過ぎて、分別無くしてきてるからな」

 「そういや、むかしは、もっと、ゆっくり時間が流れてましたね」

 「そうだな、いまはコマネズミみたいに地下やビルの中をチョロチョロ、チョロチョロ・・・」

 「樺太は寒いですからね」

 

 

 南極大陸

 科学技術の向上により、氷の世界に対し基盤を構築することが可能になる。

 アメリカは極東権益地の開発で忙しく。

 日本もまた、瑞樹州、バルカン・カフカス、イギリス植民地の投資など余力がなく。

 イギリスも余力なし、

 ドイツ帝国も広がった国土開発と宇宙開発で後回しだった。

 しかし、各国とも戦後再建が進み、辛うじて、予算がつく頃が重なり、

 南極大陸協議が行われる。

 協議といっても内容は、一言で説明できた。

 “お互い苦しいから、抜け駆けしないで、上手く分け合おうじゃないか”

 なのである。

 主権、領土権、所有権の凍結が決まり、

 各国とも予算を押さえることができた。

 南氷洋

2980トン級ノーチラス原子力潜水艦 1隻
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 2980 97.5×8.5×7.9 1680 22 62562海里 105
海中 3520 15000 23.3 1381海里
ソナー レーダー   533mm魚雷菅×6×22本

 2980トン級アメリカ原子力潜水艦ノーチラス 艦橋

 艦長が潜望鏡で氷上を覗いていた。

 「5250トン級南極観測船 “宗谷” か」

 「何かインチキをしている節があるのですか?」

 「いや、ごく普通のディーゼル機関電気推進船だな。砕氷音も特に異常はない」

 「宗谷が空を飛ぶ噂でもあったのですか?」

 「あははは」

 「日本の潜水艦を追撃する方が面白いですがね」

 「命令だからしょうがないよ」

 「衝突した潜水艦が日本に助けられてから、冴えがありませんな」

 「んん・・・あれから何度か、当時の状況を実験をしてるがね」

 「前方方向から向かってくる潜水艦2隻を避けるため最大速で抜けるというのがな」

 「敵艦の相対位置と方向を3次元的に知覚していない限り、あり得ませんね」

 「それだけじゃない、相手の動きも把握していなければ無理だ」

 「おかげで、騒音とスクリューに乱され」

 「アメリカとドイツの潜水艦は、衝突ですか」

 「余程のベテランなのでしょう」

 「確かに伊402号の艦長ベテランだよ。しかし、危険な行為だ」

 「通常出来ない事が出来るのなら、何か確証があるという事でしょうか?」

 「そう思えなくもない」

 「しかし、解せないのは、日本の新型潜水艦が6000トン級なことだな」

 「通商破壊なら中型潜水艦をまんべんなく配置する方が良いはずです」

 「原子力潜水艦なら、潜航しながら狩りができる」

 「しかし、通常型潜水艦だと不自然だ」

 「せいぜい、4500トン級のドイツ潜水艦止まりです」

 「一見、日本潜水艦は、人数を最小限にし、艦体を大きくすることで水中航行を伸ばしていると考えられるがね」

 「日本の新型潜水艦の潜航時の排水音に疑いを感じますね」

 「確かに排出してる空気が少な過ぎる気がするな」

 「ペンタゴンは、空気の微粒子化と再圧縮吸引で考えているらしい」

 「電力を余計使うのでは?」

 「排出時、何かの装置を使っているのかもしれんが検証中だ」

 「あと、空気の微粒子化に意味があるので?」

 「気泡の上昇が遅く、音響探査を誤魔化せるらしい」

 「取って付けたような常識的な帰結は、ペンタゴンらしいですね」

 「まずわかってるのは、海水をタンクに入れない限り潜水艦は潜航しないことだ」

 「外燃機関を使っている噂があるようですが?」

 「静粛性からすると納得できるよ。だが確証もない」

 「ワルターエンジンでは?」

 「どうかな、ドイツ海軍も開発中止で原子力潜水艦に切り替えてる」

 「ですが日本が原子力技術で遅れているのは、事実だそうですよ」

 「予算上は、そうらしいが、どうも不可解過ぎるな・・・」

 宗谷が氷を打ち砕く音だけが海の中に響いていた。

 

 

 アメリカ極東権益地

 アムール・黒竜江をアメリカ商船が通過し、

 アメリカ側とソビエト側の双方に積み荷を降ろしていく。

 アメリカがソビエト連邦に戦略物資を輸出しているのは資源との交換であり。

 極東ソビエトが力を付ければ、それだけ軍事力を増大させられる目算があった。

 アメリカ軍駐屯地にM48戦車が並んでいた。

 「ソビエト軍の様子は?」

 「大人しいものですよ」

 アメリカ軍将校たちが双眼鏡を覗き込む。

 「巨済島の日本軍守備隊の方がピリピリしてるな」

 「元々、日本人は島国で神経過敏、神経質で小心者といえば小心者だったな」

 「だからストレスに耐えきれなくなり暴走しやすい」

 「国境線のストレスに耐えられるような図太さなんて持ち合わせていませんよ」

 「しかし、大和、武蔵、長門、陸奥がモスボールで、赤城、加賀が解体なのでは?」

 「ちっ おかげで海軍増強計画がパァだ」

 「その場の空気で考える国民性なのにどう転んでそうなるのやら」

 「アメリカ海軍も軍縮ですかね」

 「ドイツがビスマルク、ティルピッツをミサイル戦艦に改造してベネゼエラに輸出するらしい」

 「というより、アメリカがベネゼエラに買わせているのでは?」

 「そうとも言う」

 「どちらにしろ、日本は、いまの国境線が一番と言えますよ」

 「バルカン・カフカスの日本人は、そうでもなさそうだが」

 「場所柄、日本本土の支援は受けらられないですからね」

 「本土の日本人と覚悟が違うのでしょう」

 「覚悟ねぇ・・・」

 「フロンティアスピリットを喪失させたアメリカ人も変わらんな」

 「それにしては随分と開けてきたのでは?」

 「フロンティアスピリットじゃなく、アメリカ国内支配の要、財欲の捌け口だよ」

 「やれやれ、子供の食べ物を犬に与えるとはね」

 「アメリカの労働者は、権利ばかり主張する」

 「それを押さえ込むためには極東権益地の生産力は重要だ」

 「日本・台湾人を入植させて働かせた方が金になる」

 「貧富の格差を維持するために?」

 「珍しくないよ。家を掃除しないで咳止め薬を買いに来る母親がいる」

 「薬屋は、掃除すれば咳が治まると知っていても言わない、金になるから」

 「医者も言わない、金になるから」

 「客だって家を掃除しない怠け者の母やだと聞きたくないし」

 「それで子供が咳を出しているなんて聞きなくない、面子があるから」

 「かくして、無知で愚かで壮大な社会構造が出来上がるわけだ、子供は不憫だがね」

 「世の中、無知で愚かなやつは、損するようになっているのさ」

 「アメリカ国民だって極東権益地口座の高配当は嬉しいだろう」

 「リスクは大きいがね」

 「世の中はハイリスク・ハイリターンだよ。だから情報第一・・・」

 「バルカン・カフカスは、日本資本に負けてないか?」

 「列強各国とも日本の利権保持で結束してるから、地の利以上に負けてるな」

 「その方が公平に利権にありつけるのでしょう」

 「公平なものか、日本資本だけがズルしてやがる」

 「やはり特別な力を隠し持っていると?」

 「・・・たぶんな」

 「我々、アメリカは支配や採算を考えて戦争する」

 「しかし、日本は、面子や雰囲気で戦争する」

 「つまり、日本は、面子を潰し、雰囲気を変えられるだけのモノを得たことになる」

 「情報はまだ?」

 「魔法とか、異世界とか、愚にもつかないモノばかりだ」

 「怪奇映画の見過ぎだな。確かに面白かったがね」

 

 

 中国大陸は分裂した事により急速に発展の兆しを見せ、

 バルカン半島、カフカスは統合することで安定成長を見せた。

 そして、中東で不穏な動きが見られながらも投資は増えていた。

 バルカン・カフカス連邦

 交通、物流、金融、販路を押さえた日本人は、朝鮮経営と同じ轍を踏む。

 公共投資で急速に膨れ上がる基幹産業の地位に日本人が入り込み、

 日本人人口が増えていた。

 反応は、賄賂攻勢が割に合わないと分かると、ギブアンドテイクに終始。

 親近感が薄く、朝鮮人より疎遠で痛みのない距離関係を取り始める。

 サラエボ 日本総督府

 「セルビアとクロアチアの民族資本に鉄橋を発注したって?」

 「まぁ 民族資本の技術力を知りたいからね。大々的に公表するよ」

 「独立機運にならないだろうな」

 「それなりに競争しないとな。日本資本が豚並みに醜く肥え太るよ」

 「あと、ここはバルカン連邦であって日本じゃないと言われるのも御免だ」

 「センチュリオン戦車が落ちたらどうするんだ?」

 「そん時は、民族資本が力不足という事で嬉しいね」

 「センチュリオンの乗員が聞いたら泣いて喜ぶだろうよ」

 「反日が大きくなって日本女性が孕まされるよりマシ」

 「最初は、無線で通すか・・・」

 「中東情勢は?」

 「エジプト、ヨルダンにアラブ・イスラムが結集しつつあるよ」

 「アメリカもロクな事をしないな」

 「戦争になったらバルカン・カフカスは孤立化するね」

 「日本が管理しているとはいえ。バルカン連邦の権益は、日本、イギリス、トルコ保障」

 「カフカス連邦は名目上、トルコ領であり、権益は日本、イギリス、トルコ、ソビエト保障」

 「地勢的に孤立しても、外交的に孤立することはないはずだがね」

 「他の国が信用できるならだろう」

 「いざとなったら、極東権益と同じで、権益を転売する方法もあるさ」

 「アメリカとドイツが色めき立つな」

 「実のところ、日本政府もそうしたがってるがね。50年契約で、まだ10年だ」

 「あと40年間欧州に縛られるわけか」

 「それもバルカン・カフカス次第で5年の自動延長もある」

 「それに契約外の民間契約も次々と結ばれているから、どうなる事やら」

 「バルカン・カフカスを安定させてしまった代償か」

 「バルカン・カフカスは、日本にとっての欧州の地盤。中国なのかもしれないな」

 「地政学的に不利だ」

 「だが安定している」

 「奇跡認定が増えているだろう、安定させているのでは?」

 「そうとも言う」

 「アメリカが神の意志に逆らわなければ良いのですが」

 「その神の意志が疑われているのが問題だがね」

 「パックスジャパンの平和が気に入らないのかも」

 「どちらにしろ、神の顕現で困るのは、神の名を利用してきた者たちだろうな」

 「我々も入ってるよ、騙っているのだから」

 「そうだった」

 

 

 瑞樹州

 鉄道と高原都市が結ばれると急速に街が開け始める。

 なぜ、線路を敷く前に町ができたのか、

 たまたま、滑走路に使える平原があったと苦しい言い訳をする。

 民間業者が入る頃、先任業者は別の場所に移って、知る者はいないのである。

 基本的に高原都市開発の経緯は曖昧で謎であり、

 古代遺跡があったのではないかと疑われたり、

 表向き、官営の払い下げという事になっていた。

 なにはともわれ、涼しげな高原に都市が建設され、瑞樹州の人口は増えていく。

 そして、山岳列車が蛇行しながら山を登って行く。

 「いやぁ 日本と違って、瑞樹州は圧迫感がなくて良い」

 「日本列島は、地政学上、妥協させられやすいですからね」

 「人を育てるに飴と鞭は必要だよ。鈍らじゃ駄目だ」

 「矛盾が大き過ぎて、性格が歪にならなければ良いのですが」

 「権威主義、年功序列、拝金主義、実力主義、能力主義、機能主義・・・」

 「適当に混ざってればいい、民主主義が進めば、切磋琢磨していくだろう」

 「瑞樹州はどうなる事やら」

 「雨が多いのは困るが亜熱帯雨林に近代都市を作ろうじゃないか」

 「国防上は有利ですかね」

 「1500m級の高原地帯に主要都市圏のある国を制圧しようなんて国があったらお目にかかりたいね」

 「やはり、経済基盤を高原地域へ?」

 「涼しいだろう」

 「確かに・・・」

 「まったく違う日本民族の姿が生まれてくるかもしれないな」

 「それには、高原同士のネットワークも構築しないと」

 「塞凰で積み荷を運べれば、何とかなるだろう」

 「国防省が輸送機代わりに使われていると怒ってますよ」

 「構うものか。誘導ミサイルのせいで塞凰の価値も相対的に落ちている」

 「それなら恒久的な都市を建設し、日本圏を拡大する方が良い」

 「日本と瑞樹が補完し合い国力が大きくなれば、外交戦略でも有利になっていく」

 「山岳域が聖域にならなければ良いのですが・・・」

 「謙虚は知恵だよ。無知な奴ほど尊大で怠慢で馬鹿になる」

 「日本と瑞樹が不和にならず、相乗効果で伸びれば良し」

 「不和が広がって分離独立しても、戦争にならなければ良い」

 「日本圏である事に変わりない」

 

 

 

 瑞樹州 ガイア研究所

 喰命鬼の論文

 “喰命鬼が寿命を奪う方法は、経口接触、経気道接触、経皮接触”

 “創傷接触、尿路接触、粘膜接触、胎盤接触など、個体差がある”

 “使い魔にする方法も、食物感染、水系感染、空気感染、飛沫感染”

 “血液感染、母乳感染、産道感染、相互契約など、個体差があるとされている”

 “魔力の容量と性質、使役出来る使い魔の数も個体差がある”

 “喰命鬼最大の脅威は、他者、あるいは使い魔から寿命を得ることにある”

 “寿命と魔力の容量に制限があれど、寿命も魔力も無尽蔵に補充可能な生物である”

 “もっとも、その恐怖は、新人類と旧人類の戦いとはいえず”

 “人類にとって、食物連鎖上、弱肉強食で喰われる側になる恐怖であり”

 “喰命鬼の気質から決して、多数派の人類に執って代わるものではない”

 “排他排斥する方が凶暴性が増し”

 “支配するか支配されるかの不毛な抗争となるのである”

 “ガイア世界を見れば、喰命鬼は子供が生まれにくい”

 “寿命を喰って永続するのであって、リセットによる新生連続性でないからといえる”

 “さらに自らの意思を完全に統制できる使い魔がいる”

 “なのでテリトリーを脅かす子供は、競合関係ともいえる”

 “無論、子供を統制下に置けるのであれば悪くない”

 “しかし、使い魔数は制限があり、イザという時の餌であるとされ”

 “ガイアでは、子供の寿命を食らう事を良しとする喰命鬼は少数派だとされ”

 “二世を保有する喰命鬼も少数派と考えられている”

 “もう一つの問題は、保身の弱い魔法使いの延長に喰命鬼が存在することである”

 “この理由は、逆説的であると推測される”

 “彼ら魔法使いは総じて素直であり。他者の意見に対し、柔和である”

 “排他的な攻撃性が弱い故に他者の寿命を受け入れるだけの下地が育ち”

 “生命を受け入れられる資質に変換されたと思われる・・・”

 “中級の喰命鬼は寿命のストック分で、戦艦1隻分の艦砲射撃を逸らせる力を内包し”

 “寿命が尽きるまで、優に戦艦2隻分の精密砲撃を必要と推測される”

 “かような攻撃は、不可能であるばかりでなく無駄であり、浪費とも言える”

 “また、銃器類の構造を知られれば、筒内爆発を引き起こせられる可能性もある”

 “しかし、喰命鬼に転じてみれば、彼らなりの事情があるのであり”

 “喰命鬼の気質も、発生に至る経緯から、野心的な側面が少ないと考えられる”

 “彼らとの妥協と協定は、ある意味、可能であり、ある意味不可能であると言える”

 “管理が可能であれば9000万人口は、それを可能とするのであり”

 “喰命鬼と人類の共生共栄も考えられるのである”

 “囚人限定で刑期分の寿命減であれば即釈放で予算削減となり”

 “喰命鬼の取り分を2分の1としても、その仕事量だけでも国防が賄えるのである”

 “国民が一人1年の寿命を譲渡することで得られる仕事量も大きく”

 “2分の1で計算しても国際力学を引っ繰り返すのである”

 “また、喰命鬼の奪った寿命は、安楽死的な傾向が強く”

 “不意であり、苦痛がないことが知られる・・・”

 “無論、ドイツ帝国以外の国では、民意で集票を得られない案件であり”

 “この文書も見識的な側面を書いたものでしかない”

 

 対喰命鬼対策室の研究者たちが電子顕微鏡を覗き込んでいた。

 「ガイアでは喰命鬼の使い魔免疫抗体のある者が生まれるらしい」

 「使い魔免疫抗体の研究が進まないことにはどうにもならんね」

 「免疫抗体といっても蛇のワクチンのように多様だよ」

 「抗体力を減らせば時間は制限されるけど副作用はなさそうだ」

 「それより喰命鬼になりたがる者も出てきそうだな」

 「他人の命を奪って、永遠の命か。偶発的になるのでなければ微妙だな」

 「しかし、魅力のある存在だ」

 「総じて魔法使いより魔力が強く、銃弾どころか、砲弾の軌道も変える」

 「魔法使いも暗殺の時、銃声と同時に弾道を逸らしているからね」

 「距離が離れて弾道が目で追えるなら、なおさらだな」

 「魔力で砲弾や銃弾を加速させて命中率を上げることができるなら、その逆も可か」

 「砲弾と銃弾を逸らすだけで、止めるわけじゃないから寿命の消費も小さい」

 「厄介だな」

 「逃げられるならともかく。相手が喰命鬼だと、逆に懐に入り込まれて、殺されるかもしれないな」

 「もっと弾丸や砲弾の回転を増やすべきだろうか」

 「発射速度を増やして飽和攻撃が良いような気がする」

 「曳航弾を減らすか」

 「射手が困るだろう」

 「じゃ 狙撃だな、常に防壁で守っているわけにもいかないだろう」

 「あと、スコープと消音で命が尽きるまで弾薬を撃ちまくるか」

 「魔法使いならレーザーポインターも使える」

 「弾の方が尽きる可能性もある。剣と槍で身を守るか」

 「剣や槍なら、身を守れるってか?」

 「生命に直接魔力を加えるのは消耗が激しい、命を吸収できる喰命鬼以外は躊躇するよ」

 「じゃ 剣と槍なら軌道を変えられにくいだけか」

 「ルビー・レーザーは?」

 「魔法剣は威力に個人差があり過ぎて微妙だな」

 「だが光速だ。軌道を変える前に攻撃できるなら、喰命鬼に効果的と報告もある」

 「ルビー・レーザーの軌道歪曲は?」

 「報告はまだないがね。寿命を惜しまなければあるいは・・・」

 「んん・・・やはり喰命鬼は危険だな」

 「ガイアで剣や槍が使えるのが意外だよ」

 「そういえばモーゼとアロンが喰命鬼なら寿命を消費してもユダヤ人から補充で来るな」

 「まず、なぜ、ああいう行動を取ったかもわからんね」

 「自分を生んだユダヤ人を保護しようと思ったのでは?」

 「エジプト王を支配する方がマシな気がする」

 「邪魔な魔法使いがいたのでは?」

 「んん・・それでは、死んだ理由は?」

 「・・・死んだことにして、どこかにいるのかも」

 「ただ生きているだけならともかく、野心を持っていたら勝ち目がない」

 「問題は、聖書の歴史的な一貫性とか連綿性じゃないか」

 「まぁ 喰命鬼にキリストの必要性はないな」

 「だがキリストは死んだ人間を生き返らせている」

 「死んだ後も遺体がなかったそうだ」

 「上質の生体エネルギーを得るため、一芝居打ったのでは?」

 「まぁ 強盗、泥棒、人殺しの知性、感性を流用できても面白くないからな」

 「日本風に言うと “ケガレ” るのが嫌ってことか」

 「仮に美食家の喰命鬼が、いるとしたらどこだろう?」

 「上質のキリスト教徒なら、アメリカじゃないか?」

 「別にキリスト教に拘らなくても上質の生命エネルギーならアメリカじゃなくてもいい」

 「いまなら奇跡大奮発のバルカンかもね」

 「まずい・・・いまの魔法使いだと勝ち目がない」

 「もう一つの問題は、魔法使いの延長線上に喰命鬼が存在することじゃないか・・・」

 「地球に喰命鬼が生まれてもおかしくないか・・・」

 校庭で子供たちがベレーボールを楽しんでいた。

 「愛国心を口実に散々、子供たちの命を削ってきた我々が、いざ命を奪われると恐れ始める」

 「人族というのは勝手なものですね」

 「自分を卑怯と思いたくはないが、卑怯なのかもしれんな・・・」

 「ですが、映画に啓発されて、対抗処置を考えさせられるなんて・・・」

 「映画は想像の産物でも、我々はガイアで存在を確認している」

 「確かに地球に喰命鬼が紛れ込んでいる可能性も否定できませんね」

 「予算はともかく、対処が遅いとも言えるね」

 「仮にいたとしても敵対的な行動をとらないのであれば無視しても良いがね」

 「それが一番、楽ですがね」

 「問題は予算では?」

 「問題は、こちらが魔法剣が有効でも、喰命鬼に銃器を使われると負けることだよ」

 「ぶ、分が悪うぅ」

 「そういえば、支配してる使い魔の知識、技能も活用できたんだっけ」

 「日本人を使い魔にすれば日本語もペラペラだろうな」

 「・・・勝てねぇ」

 

 

 3800トン級潜水艦 伊411号 就役

 伊400号級は、名称を継承したに過ぎず、

 見かけは葉巻型、

 機関室

 飛行石のピストンに光が当たると浮かび、光が消えると沈む。

 発電充電用のディーゼル機関は1000馬力だけであり、

 それ以外は、ディーゼル機関電気推進に見せ掛けていた。

 もう一つ、艦首魚雷室の後ろに近い部分からスクリュー軸棒が艦尾まで伸びていた。

 軸棒直結の羽に飛行石が取り付けられ、

 下方から光を当てれば水車のように回るロータリーエンジンに似た構造だった。

 逆進なら反対側から光を当てれば良かった。

 飛行石光子力機関は16000馬力に達し、再充電率は7割を超える、

 蓄電力による飛行石光子力機関推進は一軸であり、

 畜電力が尽きるまでなら原子力潜水艦に近い戦闘力を発揮した。

 複殻式の内側は飛行石のバラストと蓄電池で覆われ、

 通常の潜水艦より空間を取れた。

 強靭な高張力鋼の内郭壁と外殻に覆われ、静粛性に優れていた。

 それではまずいと、意図的にディーゼル機関の音を流していたりもする。

 そして、飛行石700トンの加光による潜航・浮上する別次元の潜水艦でもあった。

 最大加光熱、-500トン差で空中に浮くため、二重のリミッターが掛けてあり。

 ガイア行きも視野に入れて建造されていた。

伊410
  排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 乗員
水上 3800 122×12×7.02 1000+16000 18 16kt/37500海里 80
海中 6500 28 16kt/1200海里
レーダー ソナー 533mm魚雷発射管×6菅 30本

 もっとも、表向きディーゼル機関電気推進であるため、

 ディーゼル潜水艦らしくみせるため、機動制限があり、

 短い時間で浮上・潜航を繰り返した。

 久米島沖

 伊410号 艦橋

 飛行石光子力機関の試運転

 「・・・地上試験と同じ、艦体が斜めになると推進力が不調になりますね」

 「光を下から当てて片方の羽を浮かせているだけだから斜めになるとパワーダウンするだろうな」

 「あと熱を可能な限り遮断すべきでしょうか」

 「熱か・・・」

 「モーターで補っているはずですが制御が安定していないのかもしれません」

 「電力の消耗は?」

 「電子機器、淡水装置、生活電力の消費電力は予測範囲です」

 「浮上中の淡水化処理比率を増やした方が良いような気がするな」

 不意に探信音が艦体に当たり、艦内を木霊する。

 「ちっ 見つかった、速度そのまま、深度140、右舷20度」

 艦長と副艦長が海図と定規、コンパスを使って位置を特定していく。

 「探信の発信源は、右舷3時 深度120m。距離約1400mです」 音響

 「・・・やはり、この距離でアメリカ潜水艦に見つかったようです」

 「位置と信音から推測すると、1540トン級のアルバコアと考えられます」

 「伊400号の10パーセントダウンの騒音だと、この程度だろう」

 「ソナーの感度は負けてますね」

 「船殻に金を掛け過ぎてるのかな」

 「トランジスターは、特注品で最高峰のはずですがね」

 「電子機器はトランジスターだけではないよ。潜水艦の場合、音響機器全般まで絡む」

 「とりあえず、地の利を生かそう」

 「160まで深度を下げて、海底台地を左回りに回り込む」

 「魔法使いによるダウジング探索をしなくなって、後れを取りやすくなりましたね」

 「政治、外交、治安優先で使いやがるからな・・・」

 「犯人即逮捕で治安は良くなっていますがね・・・」

 「法務大臣の直下になって後回しにされっぱなしだな」

 「せめて新鋭艦ぐらい、イザという時のため、魔法使いを常駐させたいですね」

 「魔法使い用の部屋を開けても艦内は狭い、有事か、召魄でなければ難しだろうな・・・」

 「まぁ 現状でも優位ではありそうだが」

 

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島 135万2437    
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 燕(北京)

 燕の官僚は、こぞって、アメリカ自動車に乗って走り回る。

 代金は税金であったり、資源であったり、

 これは、別段、珍しいことではなく、どこの世界でも、よくある光景であり、

 多いか少ないか、費用対効果で国益にかなっているか、

 聖域など既得権益と社会資本の比重でしかない。

 大陸分割によって、燕(北京)の官僚は僅かに健全化、

 しかし、列強の平均的な官僚よりモラルが劣る、

 それでも賄賂の件数と量は減り、

 数パーセント上乗せ仕事をする燕(北京)軍閥官僚となっていく、

 そして、アメリカ資本と組みながら教育、産業、社会設備を整備、

 燕(北京)を近代化させていく。

 元々、素地が大きい国であれば、数パーセントの成長率でも国力に大きく反映する。

 日本人たちが北京郊外、近衛軍管区駐屯地の近くを歩き回る。

 「舗装が増えてるじゃないか、流石に資源と労力が豊富だな」

 「の割にキャタピラわだちとか、割れがあるからムラがありそうだな」

 「んん・・・・買収すれば、コンクリートを横流ししてくれそうだな」

 「厚みはどのくらいだろうか?」

 「基礎の砕石。アスファルト・コンクリートの粗粒、密粒の比率が日本と微妙に違うような・・・」

 「お得意の人海戦術と大慶油田のおかげだろうな。表面が平らならいいんじゃないか」

 「でも割れているとしたら薄いよね」

 「コンクリートの厚さと舗装面積が国力差で出るけど」

 「この厚みの道路だとイザ戦争になったら、戦車の移動だけで大損害かな」

 「日本だって幹線主要道路以外の舗装は、まず駄目だろう」

 「センチュリオンが重すぎるんだよ」

 「装甲を軽量化しないと部品を軽量化しても焼け石に水か」

 「燕の住民の方はどうだろう?」

 「官僚と華僑資本、アメリカ資本を中心に大型の家が増えている」

 「新しく家を建てたら自分の家を借家にして大きな家に引っ越していくようだ」

 「金持ちは金持ちのまま、貧乏は貧乏なまま少しずつ生活向上か」

 「貧富の格差より、利便性が勝っていれば、反発は低いかもしれないがね」

 「匪賊は減っているみたいだな。正確には強盗を働く匪賊が減っている、かな」

 「税金と収獲が安定すれば、その中で生活していくだろうよ」

 駐屯基地が見えた。

 「・・・戦車はM26を使っているのか、M47は、まだ近衛だけかな」

 「軍の統制はどうだろうな、クーデターを起こす可能性はあるだろうか」

 「軍部は、師団ごとに細分化されて中央の近衛師団で統制されているようだ」

 「兵站も弱いから下剋上するだけの基盤はないな」

 「宣戦布告は無理でも防衛なら何とかなるのか」

 「周りも似たようなものだからな」

 「戦争になれば統制が崩れやすく、権力基盤も崩されやすい」

 「信用できる将校と強い将校は違うからね」

 「信頼できる最強装備の師団を出すと、クーデターの確率が高まるだろうな」

 「軍全体の軍紀が高くないと怖くて戦争できないよ」

 「秘密警察は?」

 「秘密警察もそこそこ強いが、軍の中にどの程度、入り込んでるか不明だ」

 「軍も秘密警察にスパイを送り込んでいるんじゃないのか?」

 「まぁ 日本の国防省と特務警察も似たような関係かな」

 「一旦、縦割が決まってしまうと横に繋がりが切れやすいのは、予算の取り合いが原因だけどね」

 「敵対関係にまでなるかな」

 「予算枠で無理が出来なければ、相手の予算へ減らして自分の予算を増やすのが一番手っ取り早い」

 「粗探ししたくなる気持ちもわからん事もないけどね」

 「士気はどうかな。M26戦車のプラグを売ってくれと言ったら売るだろうか」

 「さぁ 試してみたい気もするが銃殺刑だから、どうかな」

 

 

 バルカン連邦

 日本人とバルカン諸国民は、最初、無機質な法律、行政、業務だけの関係だった。

 しかし、バルカンの諸民族は、ドイツ帝国のジーンリッチに反発するように日本の神秘に惹かれ、

 キリスト教が古代欧州原始宗教の影響を受けたように日本の伝統と結びついて行く。

 人間関係が深まるにつれ絆が作られ、需要に応えるように供給が生まれる。

 キリスト教の教義は、教会の保身と不動の口実となり、

 同時に奇跡は、神の意志となり、変革の口実にもなった。

 バルカン諸民族文化に日本文化の服を着せたモノが現れ、

 あるいは、日本文化にバルカン諸民族文化の服を着せたモノが現れる。

 文化交流は国境、人種、民族、言語、宗教、文化の壁を少しずつ崩していく。

 紅葉広がるバルカンの山岳地帯、

 錫杖を持った白装束の行列が山道を蛇行していた。

 その中に日本人の工作員がおり、後ろを気にしている。

 「日本が買おうとする山の地価をアメリカ資本が釣り上げているらしい」

 「それで空山をアメリカ資本に買わせるのか」

 「情報を知る者は有利だからね。アメリカ資本も損をすれば懲りるだろうよ」

 「それで、この空山を買う振りを?」

 「そういうこと・・・」

 「しかし、綺麗な山だ。観光地ならここだろうな」

 「まったく」

 

 日本の連邦警察と現地警察がとある家を囲み、

 日本の連邦警察官が室内で一人の若者に自首を勧める。

 彼は殺人犯であり、証拠もほとんどない。

 しかし、容疑者は家宅捜査で証拠を上げられ、捕らえられるより、

 減刑を条件に自首に応じる方が得であると説得に応じる。

 犯罪検挙率の高さは治安維持に繋がる。治安が良くなれば内政も安定し。

 日本支配に反発の口実を与えずに済んだ。

 

 そして、バルカン・カフカスの日本人が増えるに従い混血の問題が大きくなり。

 なにを持って日本国民とするのかという命題が付き付けられていく。

日本人 バルカン連邦 83万8387ku   カフカス連邦 19万0500ku
ドデカネス諸島 2663ku 200万 ハンガリー 990万 アゼルバイジャン 360万
カナリア諸島 2505ku 50万 ルーマニア 1800万 グルジア 390万
キプロス 9250ku 250万 ブルガリア 760万 アルメニア 160万
    アルバニア 150万    
    ユーゴスラビア 1820万    
    ギリシャ 800万    
    合計 6320万 合計 910万
  500万 日本人 1000万 日本人 300万
    総人口 7320万 総人口 1210万

 日本領ドデカネス諸島 ロードス島

 「バルカン連邦だけで総人口6320万人。ユーゴスラビアの最大民族はセルビアの800万弱」

 「それ以外も雑多な民族の集合か・・・」

 「最大人口は、ルーマニア人の1800万で、日本は第二位だな」

 「バルカンに1000万とカフカスに300万なら大したものだ」

 「民族問題じゃないの?」

 「かなりね。だけど、国土は広い」

 「それに山岳資源、工業、金融、防衛、警察も押さえている」

 「しかし、資源は、もう、たまたまと言えないレベルで、疑われてもしょうがない次元だな」

 「日本人のダウジング成功率は、魔法を使わなくても世界一だよ」

 「まぁ ちょっとした魔力テストの副産物だね」

 「経済基盤は大きいし、日本人同士のネットワークも強い」

 「移民人口も多いから、最悪、行き場を失うと大問題だよ」

 「買ったのは山岳地帯ばかりだろう」

 「問題は混血が進んでいることかな」

 「下手をすると日本連邦から切り離されるな」

 「それでも良いという気概があれば良いけどね」

 「微妙だな」

 「日本語を話す東欧人も増えてるぞ。日本語を話せない日本人もね」

 「金脈を押さえているから強いといえば強いけどね」

 「一度、手にした利権は死に物狂いで守ろうとするからな」

 「格差を広げ過ぎると革命が起きるよ」

 「自制できれば良いんだけどね」

 

 

 日本

 極東権益地から流れ込もうとする格安食糧物資に対し、

 政府は、関税障壁を維持できなくなると踏み、

 農作物の品質向上を狙ったが客観的に価格差で負けていると判断、

 庭付き一軒家による作物一品生産で対応しようとする。

 一時、アパート経営の左団扇など考えていた家主も、親方日の丸運動には弱く、

 事勿れ式に果樹を植えたり、作物を植え始める。

 一般家庭

 「アパート経営の方が儲かるのに戦時下って感じかな」

 「んん、アパートは、地方開発が進んでるし、移民も増えているから微妙・・・」

 「2階建ての菜園にしちゃうか」

 「・・・もっと高く付きそう」

 「ったくぅ〜 密集型都市は便利だし経済効率が良いのに・・・」

 「土地持ちの既得権益者は有利なんだけどね」

 「最近の候補者は浮動票よりで、有力者を縛るからな」

 「瑞樹州は、屋根付き農地が増えてると聞いたけど?」

 「雨が多くて洪水で表土が流れやすいらしいからね」

 「水路に落とさないと駄目になる」

 「日本は干ばつが怖いから逆か・・・」

 

 

 赤レンガの住人たち

 一個師団(12000)が守備する戦線距離を6kmとすれば、1mに2人。

 しかし、戦後、多様な兵装の管理部門が増え、純粋な歩兵戦力は半分以下であり、

 広範囲を掃討制圧出来る機関銃がなければ戦線は守れず。

 FN FALがなければ考えたくもない薄っぺらな戦線となってしまう。

 無理をすれば、もう少し、戦線距離を伸ばす事も出来る。

 しかし、薄い戦線は突破されやすく、攻勢でも不利。

 なので通常は、攻勢用、機動防御の予備戦力を後方配置する。

 ここで問題は、1個師団の戦線距離幅であり、

 日本・瑞穂の後備旅団(8000人)18個(144000人)は、師団より少ないこと、

 戦線幅は、さらに短い。

 日本全体の国防で18個後備旅団は、まったく不足している。

 しかし、国防は相対的なものであり、

 攻撃側は、守備側の3倍以上の戦力を求める。

 故に情勢さえよければ敵性国家の戦力2分の1で足りる計算も成り立った。

 厳密に言うと米ソ極東戦力の主力を向け合っているはアムール・黒竜江戦線であり。

 対日作戦用の戦力が割り振られていないだけといえる。

 この少ない戦力でも、アメリカ上陸作戦用艦船に対する戦力2分の1が維持されており、

 ソビエト正面に対する2分の1戦力も維持されていたのである。

 気になるのは個体兵器優劣と連携、練度だった。

 「イギリスの次期戦車はディーゼルエンジンだろうな」

 「たぶん、その方向で進めていくらしい」

 「やれやれ、戦車くらい国産で開発したいものだ」

 「バルカン・カフカス防衛を考えると、そうもいかないよ」

 「バルカン・カフカス権益を転売してぇ」

 「ライセンス生産で、独自にパワーアップするしかないか」

 「日本製部品も一部採用する気らしいよ」

 「だと良いけど、秘密を探りに来たんじゃないの?」

 「当然だね」

 「瑞樹州配備を考えるとチタン・ステンレス製を増やしたいね」

 「チタンは、価格が高いから民間の規格部品で大量生産じゃないと採算に合わないよ」

 「チタンは硬いけど脆さが気になる」

 「錆びないのなら、それくらい我慢するよ。軽くなれば稼働率も高く無理も利く」

 「少数の兵力で国防を行おうとすると、機動力が問われるからね」

 「しかし、戦車より穴を掘る方がマシという話しもあるがね」

 「マシなのか?」

 「さぁ 戦車は必要だよ。少なくとも敵国に3倍以上の戦車を強制できるからね」

 「戦車1両分でどの程度の地下を掘れ、どの程度の効果が見込めるかが問題だよ」

 「そりゃ 戦車をやるなら上部か下部だろうけどね」

 「しかし ・・・医療でもチタンを使うのか・・・」

 「体に優しいんだと」

 「高ぇ〜 頭いてぇ」

 「医療に力を入れてないと安心して戦わないだろうね」

 「死傷者を減らすのは、患部を削り落し、洗って消毒し、清潔にすること」

 「病室も清潔にする。ナイチンゲールの時代からの鉄則だよ」

 「まぁ そういうのもあるというだけで、将兵は安心するんだよ」

 「高く付く安心だなぁ」

 「予算の配分もますます厳しいな」

 「政府は、アムール・黒竜江戦線の米ソ対立で手抜きしたがってるからね」

 「日本は、本当にエアポケットに入っているのか?」

 「国境線の内側で考えるより、第三国から冷静に情勢を見る方が良いらしい」

 「外務省の言う事を信じればね」

 「ちっ どいつもこいつも結託しやがって」

 「戦前みたいになるのが怖がられているんだよ」

 「いまは、魔法使いを握ってる法務省が怖いね」

 「寿命さえ縮まなければ、法務省なんぞんに取られなかったものを・・・」

 

 

 

 ベネゼエラ

 非米勢力のソ日英独伊がアメリカ資本で建設を進めていく。

 国境からブラジル人が流入し、ベネゼエラは急速に近代化していく。

 経済活力で並ぶもののない自由資本主義、民主主義だったが弱点も内包する。

 他国が当たり前にできても、アメリカで出来ない事もあった。

 モンロー主義は根強く、国民の権利も強い、

 経済は世界有数で熊のように強大。

 なのに国政は民意頼り、爬虫類のように鈍い。

 どこかの国が攻撃してこない限り、

 権利を主張する民意を結束させることができず、国家がまとまらない。

 ベネゼエラを仮想敵国に選択したのは、アメリカ国民を恐怖させるためであり、

 もし第一撃が弱ければ、アメリカ国民の戦意が高まらず妥協する恐れさえあった。

 しかし、アメリカ本土が近ければ、一撃が弱くても防衛本能から軍拡が可能であり、

 利潤の大きな国防産業を高められた。

 アメリカ人観光客たち、

 上空をミグ17が編隊を組んで飛び。

 地上にはT54戦車が並ぶ。

 そして、洋上にはドイツから購入したミサイル戦艦2隻が浮かんでいた。

 「日本人は、まだユカタン半島のマヤ文明跡を歩き回っているのか?」

 「考古学者だろう」

 「考古学者金を払ってるのは国だよ。国の意志だよ」

 「ロードス島の遺跡発掘は見事だったがね。遺跡に興味があるのかな」

 「まさか、道楽できるほど金があるわけでもないだろう」

 「ちっ 日本が宣戦布告してくれれば今頃、軍産複合体は安泰」

 「アメリカは世界最強の国だったのに・・・」

 「いまだって最強だよ。2位とあまり差がないだけだがね」

 「日本には期待していたんだがね。そこまで馬鹿じゃなかったのだろう」

 「ベネゼエラは、もっと期待にそえない気がするがね」

 「しかし、ベネゼエラ産業は、大きくなってるじゃないか」

 「アメリカ国内の労働運動が激しさを増して」

 「財界は、貧富の格差が限界に達しつつあると考えている」

 「だから国防を口実に資本を集約できる敵国がいる」

 「投資が奪われないのか?」

 「ソ連、日本、イギリス、ドイツ、イタリアを経由して、アメリカに戻ってくることになってる」

 「見事なマッチポンプだね」

 「恐怖で貧富の支配を維持するための戦争か」

 「恐怖が大きければ戦争未満でも良い、戦争で勝っても南米に橋頭堡」

 「投資は戦利品で譲渡され、借金だけがベネゼエラに残る」

 「ぷっ 笑いが止まらん」

 「しかし、公共設備が近代化で充実しても、ベネゼエラ人の近代化がな・・・」

 「問題は、ベネゼエラ人の気質かな」

 「パナマ運河やアメリカ艦隊を無事攻撃できるだろうか」

 「ラテン系ですからね・・・」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 ドイツ帝国海軍から売却されたビスマルクは、12mほど延長され、

 球状艦首となっていた。

 さらに各種の近代装置を搭載したミサイル戦艦になっていた。

戦艦アマソナス(ビスマルク改) 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
45000 263×36×9.3 160000 32 16kt/10000海里
47口径381mm砲連装2基 65口径105mm連装4基 60口径37mm連装砲4基
対空誘導ミサイル40発 対潜ミサイル魚雷20発 対艦誘導ミサイル20発
アマソナス (ビスマルク) 、 ボリーバル (ティルピッツ)

 

 ベネゼエラ国防省

 ラテンの防人たち、

 誰でも戦艦を配備すると夢を見る。

 そう国産でなくても、どういう思惑で売られ、どういう経緯で買われたか、

 購入費のためにどれだけの権益がベネゼエラから失われたか、

 そして回収する手持ちの手段が軍事力であっても、

 一旦、利権体制が出来上がると、そんなものは、どうでもいい。

 そう、ラテンの人でも、そう思う・・・

 「対米防衛はミグ17とT54でいいと思うがね」

 「海軍は戦艦2隻で守れるのだろうか?」

 「まともに戦うと負けそうだな」

 「ベネゼエラが勝てるとしたら、パナマ運河の破壊だろうな」

 「近付いたら反撃されて沈められるのでは?」

 「反撃されない日があるだろう」

 「えっ」

 「4月1日だ」

 「「「「おぉおおおお〜」」」」

 「4月1日なら、移動して発見され報告が司令基地にっても嘘」

 「パナマ運河が攻撃されてアメリカ本土に連絡しても嘘だと思ってくれる」

 「「「「おぉおおおお〜」」」」

 「アメリカ軍の攻撃を4月1日まで守り切り、作戦を開始する」

 「うんうん」

 「時速57km/hでパナマまで1000km」

 「うんうん」

 「18時間でパナマ運河到達なら。移動から到達まで、4月1日24時間圏内で攻撃可能だ」

 「「「「おぉおおおお〜 ヴィーヴァ! ヴィーヴァ!! ヴィーヴァ!!!」」」」

 「・・・でも、我々の四月バカ作戦をベネゼエラ海軍将兵が信じるだろうか」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ムー大陸 バタ村

 そのエルフの少年をハミハラといい、

 物心付く頃、自分の魔力に気付く。

 魔法使いとして生き、仲間とともに狩猟や採掘を行って生活費を稼ぐ毎日、

 力が発現したのは、喰命鬼の襲撃を受けた時だった。

 魔力を全て使って、喰命鬼に襲撃を防ぎ、倒れた。

 仲間に助けられたとき、

 仲間の体から芳香が漂い、

 その芳香を吸い尽くし、仲間は倒れた。

 始めて他人の命を削り、寿命を永らえてしまう。

 奪える寿命は最大20年分ほど、これも魔力の大きさと関係があるらしい。

 使い魔の使役は、粘膜接触に限られ、寿命を奪うより不便だった。

 その事に気付いたのは、異性に興味を持ち、

 機会があった時で18歳の頃であり、

 好むと好まざるに関わらず、使い魔は情報と知識の拡大、

 ハーレムと生活の糧であり、防御壁でもあった。

 その後、同時支配可能な人数が5人と気付かされ、

 選択し6人目を失う時の喪失感はかなり大きい。

 5人とも魔力で強化されたのか身体能力が高くなり、

 ハミハラにとっては、約250年分の寿命であり頭脳だった。

 「もう少し、良質の使い魔が欲しいな・・・」

 その後、喰命鬼抗体を持つ者と接触し、町から逃亡しなければならなくなる。

 誰でも自分の寿命を取られたくないのであり、

 狼が羊の園にいたのだから当然だろうか。

 自分が恐怖の対象から恐怖の実態になった時、別の意識が持ち上がる。

 そう、自分が肉食動物であり、

 エルフ、人間、ドワーフ、鬼族は餌だった。

 特に魔法使いは最上の餌と言える。

 とはいえ、吸収しやすいのは、エルフであり、

 人間、ドワーフ、鬼族の順で寿命の摂取は困難になり。

 使い魔の使役も同様に思えた。

 狼に成り切れない半端な犬の魔法使いと羊の町民から逃亡し、

 街から逃れ、森の中。

 女5人の使役でも相互に知識を共有し、

 連携して働くので効率が良く、小さな家を作り、

 そこに収まった。

 農作業をしながら何なとなく、狼の気持ちが分かる。

 近くに銀杏の木の実があるがそれだけであり、

 食べるためには、作物を植えなければならない。

 「喰命鬼も意外に不便だね」

 「御主人様は、雑食性ですから、エルフの食べるモノも食べれますよ」

 「魔力に比例するからな。良いような悪いような」

 「噂だと20人近い使い魔を使役する喰命鬼がいるそうです」

 「僕の魔力は、中の下、潰しの効かない零細喰命鬼は辛いよ」

 「上手く立ち回れば、ばれずに町にいられたかもしれませんね」

 「もっと賢い使い魔の知恵を使えてたらね」

 そう、個人の見識など知れている、

 さらに若気の至りもある。

 美人ばかり選ぶより、有能で賢そうな女を狙うべきだった。

 また健康な女。

 もっとも使い魔抗体のある女は支配できなかったりする。

 男の使い魔も欲しいが、こればっかりは考えたくもない。

 他の方法で使い魔にできる喰命鬼が羨ましい。

 ハミハラは、女たちの知識を利用し、いくつかの配分を頭に浮かべる、

 言葉に出さなくても会話ができた。

 しかし、会話を求めたのは、孤立して寂しいからであり、

 喰命鬼が自分の使い魔と口頭で話す事は珍しくない。

 そして、喰命鬼同士は、ライバル同士であり、

 テリトリーを巡って縄張り争いしやすかった。

 もっとも、喰命鬼同士は滅多に会えるわけでなく、

 魔獣・妖魔の類の方と出やすかった。

 喰命鬼は恐れられていても、吸収できる寿命も一定限度以下で、

 お腹が一杯であれば、それ以上、寿命を奪えるわけもなく、

 女たちを使って、まっとうな取引もしたいのである。

 

 

 

 人鬼村

 高度な工作機械と加工技術により、木造空中帆船が量産されていた。

 鉄でさえ切れるのだから、木の加工は容易だった。

 無論、木工用の刃があり、ノウハウとコツがある、

 しかし、技術上はクリアされていた。

 ガイアコイアの木は、軽量強靭で有名であり、

 木造帆船は、このガイアコイア木材とアルミが用いられる。

 飛行石を利用した外燃機関は高圧高熱でなくてもよく、

 アルミ製でも可能であり。

 人鬼村は、採算効率の良い飛行機帆船を建造し、

 蓄えた余剰資本で開発を進めていく。

 

 

EE ライトニング F Mk.3

 

 

F-8J クルセイダー

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 宗谷は、二番艦の富士と同じ項目という事にしてください。

 いよいよ、南極大陸です、

 日本も含め各国とも、他で忙しいのか、スロー・スタート。

 

 

 エルフの少年ハミハラは、やった女を完全に支配できる。

 男の願望、夢の象徴でしょうか、

 喰命鬼側の事情も書かないと不公平なので・・・

 

 

HONなび投票  NEWVEL投票

 

 

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第16話 1956年 『悪徳は地の塩 正義は天の蜜』
第17話 1957年 『利害調和』
第18話 1958年 『神の名は・・・・』