月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第18話 1958年 『神の名は・・・・』

 戦後の国際情勢は勢力均衡であり、

 主要各国とも国民の厭戦機運に圧されて、国防費は、1〜3パーセントを推移。

 世界最強のアメリカでさえ、世界警察といった負担を避けていた。

 各国とも国内処理に明け暮れ、表向き、穏やかな時が流れる。

 一見、穏やかでも戦争未満、内戦未満の闘争は日常行われていた。

 社会全般は、既得権益で成り立っており、

 コネがなければ、権威的で理不尽な扱い、独善的な差別に晒される。

 本来ならば自らを自浄努力と自助努力で高め、

 収益を上げることで利権とテリトリーを拡大し、全体に利益を帰すものである。

 しかし、派閥争いがあり、ライバル同士の確執があり、

 権力構造がコネも込みで辛うじて派閥均衡が成り立っていることもあった。

 人は不当な扱い、不利益を避けようとし、保身のため処世術を発揮する。

 自尊心を満足させるため、他者より優位な地位と収入を望む傾向もあった。

 自己の確立と生存圏の拡大のため、他者の立身出世を牽制し、生存圏を蝕むのである。

 権謀術数を駆使し、下剋上を画策し、所属する利権団体を守ろうとする。

 思慮のない暴論が正論を押し潰してしまうこともよくある。

 ただ、勝つことに喜びを見出す人間によって、練達された計画が潰され、

 誠実な人間が排斥されることも珍しくない、

 たとえ、全体にとって不利益でも、意にそぐわない者を排斥していくのある。

 もちろん、独断で群れの総意を押し切って決められるわけもなく、

 権力構造は、利害が一致する集団によって先鋭化される。

 支配層と組みする利権団体が権力構造の主流派になり。

 反主流派と血生臭い抗争になっていく。

 サル山のサルでも同様の傾向が見られるため、人間社会のみの行為でなく、

 強者が弱者を支配し搾取する傾向は、本能的なものと言える。

 

 どんな強大な帝国も国内に格差、差別などの軋轢や歪な問題を内包していた。

 国内問題の誤魔化しや軋轢解消のための外交も少なくない。

 たいていの国は、貧富、階級、地域格差の利権争いがあり、

 人種、男女差別の軋轢が存在した。

 また共有と私有の比重があり、

 共有であれば特定利権団体と他の利権団体の利権抗争。

 私有であれば特権階級、富裕層と大多数の国民の階級抗争も存在した。

 勝者は、貪り喰うようにテリトリーを広げ、

 利権と富を集め敗者の生殺与奪を奪って支配し、己の聖域を構築ていく。

 敗者は、財を奪われ生きる力を失い、魔天楼の路地に転がることもあった。

 

 上層階層は、保身と権力安定を望み、多少の無茶をしても勢力圏の下層再編成を行い。

 下層階層は、自由と公平を広がる格差の中で願い、団結しつつ富の再配分を画策する。

 社会構造のバランスが良ければ軋轢は小さく、バランスが悪ければ軋轢が大きくなる。

 既得権の拡大を押さえ、軋轢を減らし、バランスを安定した状態に戻す、

 これは、有力階層に対し、暗殺覚悟で命がけの大英断を行わなければならず。

 バランスの悪化を放置すれば軋轢は拡大し続け、クラッシュを起こし、

 戦争、内乱、クーデター、革命など取り返しのつかないことにもなった。

 とはいえ、国家の近代化と工業化は、大規模な資本、労力、資材を必要とし、

 自給自足の農家を潰し、貧富の格差を大きくしない限り得られない。

 なので、こういった現象は、古今東西のどこでも起こるのである。

 

 アメリカ合衆国

 アメリカ型資本主義は商品経済を拡大させ、消費を誘い煽っていく。

 人々は、より良い商品とサービスを望み、

 需要に沿って商品は増え、サービスは向上し、価格も高騰していく。

 そして、より高い商品・サービスの供給を受けるため、競って高い利潤を求めていく。

 権力者は税を引き上げて、懐を温め、

 官僚は、一時の特権を利用し、不正で私腹を画策。

 商人は利潤を得るため物価とサービスを高騰させていく。

 困るのは農民、労働者などの庶民だった。

 弱者は、昇給昇格を望むが利潤を求める強者との力関係に大きな壁があった。

 勝者は常に敗者の生殺与奪の権限を握ろうとし、

 敗者は、非合法な手段でも生きようと考え始める。

 これが消費経済が進んだ結果と言える。

 

 この頃、地価と賃金の高騰を避け、

 資本家の一部は、都市から地価、賃金の低い田舎に向かう、

 また世界最高水準の賃金昇給に耐えられなくなり、

 より低賃金で利潤の大きな国外投資に向かう。

 諸外国、特に後進国は、アメリカ投資を得ようと外資優位の税制にする傾向があり。

 アメリカ国民の大多数は、広がる貧富の格差に対し、

 唯一、政治的権利である選挙に賭けようとしていた。

 つまり選挙の焦点を “賃上げ” とすることである。

 そして、資本家層は、特権維持のため選挙の焦点を “仮想敵” とすることを願い、

 いまだ危機感を与えられない仮想敵にやきもきするのである。

 あるいは対処法である “治安の安定” “人種差別” とすることだった。

 無論、貧富のバランスが悪いことが良いわけでなく、

 バランスを崩すことで権力と富と人材を結集させ、大事業が成せるのである。

 なのでアメリカ資本は、日本資本より強い資本力を持っていた。

 

 アメリカ資本は、人材、資材、土地の取捨選択が可能であり、

 絞り込んだエキスのみを得て、負の搾りカスを捨てる。

 大財閥ともなれば、その財力は、優に一国を超え、

 その権勢は、大統領、議員、軍、警察まで影響力が及ぶ、

 アメリカ資本は、株主のための企業であり、労働者に対する道義的な責任は薄く、

 冷徹で独善的な資本王国の集まりといえた。

 国家が負わなければならない負の負担をアメリカ政府に押し付けることもできた。

 彼らは政府、官僚の使っているような小遣い帳ではなく、

 貸借対照表、損益計算書で考え、

 無駄な出費を押さえて利潤を上げる事を最優先に考える。

 彼らは往々にして、常に最新、最高、最大の情報力を保持し、

 高い勝率を上げる傾向があった。

 優れた着想、豊富な想像力、

 高い視点、広い視野、展望、見切り、実力が求められ、

 己の利と愚かさを知り、敵の利と愚かを知ろうとする。

 国際情勢の流れを掴み、無手で敵対勢力と獲物を追い詰めていく。

 アメリカ合衆国は、自由競争の国であり、

 あらゆる階層が能動的な資本主義の洗礼を受けており。

 その政府要人も小遣い帳以上の成果を求められた。

 

 南ジョージア州沿岸の小島 ジキル島

 お金持ちたち

 「我々にとっての不確定要素は拡大中だな」

 「一つは、ドイツ第3帝国だ」

 「宇宙ロケットで先行しており、ジーンリッチ人種も人為的に規格外だ」

 「もう一つは日本。不自然なイカサマで、我田引水で安定している」

 「不自然といえば不自然だが低賃金、過剰労働で、全く裏付けがないわけでもない」

 「不自然なのはマイナス要因が消され、プラス分を自力でやってることかな」

 「日本が年間10パーセント台で成長しているのは間違いないよ」

 「本来ならバルカン・カフカスは内戦になり。日本は消耗し切っているのでは?」

 「計算上は、そうなるはず」

 「そこまで傲慢になることはない。傲慢は最悪の敵だ」

 「我々は、勝率を高くできるが未知を否定しなくてもよかろう」

 「まぁ 我々のシナリオが全て成功していないのは認めるよ」

 「しかし、だいたい、成功しているだろう。バルカン・カフカスは分が良かったはず」

 「我々の知らない未知のパラメーターがあるのかね」

 「それとも、我々の見立て違いかな」

 「どちらにしろ、バルカン・カフカス諸民族の感情は、無機質な日本人に慣れたようだ」

 「まぁ 杓子定規だが公平だからかね」

 「そんなモノ、独り善がりな人間は分からんよ」

 「被害妄想だから?」

 「順番は自己防衛、保身、幸福の追求の過程で他者を利用し、排斥するのだ」

 「被害妄想が攻撃的になるのは、アレルギー反応に過ぎないよ」

 「少なくとも今日より明日、希望が持てるのなら生きていけるでしょうな」

 「日本は、不可解ですな」

 「1941年以前の日本は、狂犬か、鞘のない抜き刃の様だった。これは間違いない」

 「突然の方向転換の秘密は?」

 「まだ皆目・・・」

 「その後も幸運が日本を助けている」

 「本当に幸運なのか?」

 「「「「「「・・・・」」」」」」 疑惑

 「地中海という木の穴の中にバルカン・カフカス利権という実を入れる」

 「猿が実を取ろうとすると腕が抜けなくなる」

 「今の日本だと誰かが言ったのでは?」

 「戦後、イギリス大使が我々に耳打ちしたんだよ」

 「残念ながら、バルカンもカフカスも、腕の先が抜けてもやっていける規模だが」

 「移民先は、日本本国と違って民権が強いからね」

 「むしろ日本資本の支配する資本主義に近いな」

 「そうでなければ移民などしない」

 「穴に入れたのが “腕” でなく “別のモノ” だったのが問題なのでしょう」

 「とはいえ、このまま平和な勢力均衡が続くと、アメリカは軍縮を余儀なくされるが?」

 「ベネゼエラに戦艦ビスマルクとティルピッツが配備されただろう」

 「あんな骨董品・・・」

 「ベネゼエラ国民はそう思いませんよ」

 「アメリカに攻撃してこないのならベネゼエラ国民なんぞ、知ったことか」

 「アメリカ国民がどう思うかだ」

 「戦艦の価値は相対的に低下しているからね」

 「戦艦を配備しているのはアメリカを除けば、フランスとイギリスだけだ」

 「民主主義は平和攻勢に弱い、ジワリジワリと詰め寄られ喉元に短刀を突き付けられる」

 「不味いですな。アメリカは軍務について他国と戦った者が少ない」

 「軍産複合体の予算は、やはり縮小ですか?」

 「野党は国内投資切り替えと雇用拡大を要求している」

 「与党も大統領も、表向き、逆らえないだろう」

 「民間雇用できなければ、次の選挙で負ける」

 「雇用できる賃金があるまい、一気に社会資本が増える」

 「もう一度、回収しては?」

 「アメリカ極東権益地は10分の1で商品生産できるのだぞ」

 「国内産業だと赤字だな。赤字で資本を回収出来るわけなかろう」

 「誰が金を払うのだ?」

 「輸出しやすいようにドルを引き下げては?」

 「海外商品を安く買えんだろう」

 「それに誰であれ、自分の資本も労働も大きくしたいものだ」

 「アメリカ人の素晴らしい自己主張の結果だな」

 「自業自得だ」

 「では、赤字財政で雇用か」

 「財政破綻は困るよ。紙幣価値が守れなくなる」

 「貿易赤字と財政赤字の状態で大恐慌は反発が大き過ぎて面白くない」

 「いまアメリカ経済を失速させるのはまずい」

 「アメリカは、元々、移民国家で民族的な血の繋がりもなく弱肉強食」

 「同じアメリカ国民だからって、貧民層を助ける義務はないのだ」

 「日本のような水田管理とは違う」

 「日本だって、間引きして米粒を大きくしているよ」

 「間引き先は、瑞樹州とバルカン・カフカスか、中東がキナ臭いのに勇気がある」

 「西洋諸国は大航海で勇気をした。アメリカ人も西部開拓で勇気を示した」

 「日本もそういう勢いがある時期なのだろう」

 「アメリカ国民も極東権益地に勇気を見せて欲しいものだ」

 「資本が集まっているがね。フロンティアスピリットは消えたよ」

 「アメリカ政府が権益地で無理強いすれば、さらに国外に資本が流れていくだろうな」

 「しかし、雇用を何とかしないと・・・」

 「だから中東戦争だよ」

 「スエズが止められ、バルカン・カフカスも採算割れを起こせば自滅するのでは?」

 「ウクライナ、ベラルーシ投資をどうするつもりだ?」

 「あと、我々もバルカン・カフカスに投資している」

 「ひょっとすると、我々の方が日本に見切られているのでは?」

 「「「「・・・・・」」」」

 「日本軍は政治的中立を保ってる」

 「右翼は、日米ソの戦力差を知りながらも、斜に構えている節もある」

 「右翼は、傲慢になって恐喝するか、卑屈自虐に喚くと思ったが?」

 「ふっ 勝つか負けるか、中間のない短絡単細胞は、どこにでもいるからな」

 「日本の風潮は、戦前とかなり違うようです」

 「日本人は、もっと視点が低く、視野も狭く、近視眼で権威主義だと聞いたぞ」

 「土建屋勢力に合わせて、中庸勢力が増しているようですな」

 「それに産業全般で生産力が増している」

 「移民と海外労働で過疎化が進み、都市密集型でもないのに?」

 「自働車も、まだ少ないはず、集客や採算性は?」

 「沿線集約型ですかね」

 「あと中国大陸需要、アメリカ需要、イギリス権益需要などの外需でしょう」

 「利潤を国内基盤開発に向けているようだ」

 「もう一つ、バルカン・カフカス、瑞樹州の出戻りが日本で地位を占めている」

 「実地を知っている連中か・・・」

 「別にどっちの派が良いというわけでもなかろう」

 「他人を蹴落とすことで成り上がろうとする疫病神は、どこにでもいる」

 「終いには組織そのものをバラバラにしてしまうからね」

 「日本の弱点は、上意下達、教条的になりやすく、減点制で膠着化しやすい」

 「我々からすると、実に羨ましい国民だな。労働運動も小さかろう」

 「加点制による自己主張、想像性も両刃の剣だよ」

 「アメリカ官僚は日本の官僚より、能力が低く腐敗してますがね」

 「誰にでも欠点はある。要は、上手くしのげるかだ」

 「国力と軍事力は、ともかく、内政は日本有利ですよ」

 「どこかの国がアメリカに攻めてこなければ、貧富の格差で空中分解もありえる」

 「人種差別と治安の悪化も・・・」

 「それは、貧富の格差のための口実と現れた現象に過ぎんよ」

 「アメリカは、極東権益地の維持を国力と財力に任せてやっている」

 「しかし、日本のバルカン・カフカス支配は、多様な要素で成り立っている」

 「バルカン・カフカスの反日勢力は結束する前に霧散霧消、トーンダウンだよ」

 「どうやっているのやら・・・」

 「奇跡の種明かしは?」

 「既に調査済みだろう。種も仕掛けもないから奇跡認定なのだよ」

 「では神の御心と?」

 「まさか。しかし、何者か、神の名によってなされた事と思えば思えなくもない」

 「神の名? ヤハウェ? エホバ?」

 「名は体を表わすという、神は自分の名を発音だけでなく、意味を持たせるはず」

 「意味? 愛とか、希望とか」

 「“私は在りて在るものである” なら “存在” になるな」

 「神の願うところだと “秩序” “公正” じゃないのか」

 「あと “支配” とか」

 「まず、神は最初に発した言葉が “光あれ” だ」

 「それに “私はオメガであり、アルファである” と紹介している」

 「あと、創造の神、父なる神、嘆きの神、憤る神、ねたむ神・・・」

 「これらの特性を総合的に解釈すると “The name of God is a Greed”」

 「グリード」

 「神の名が “欲望” では、宗教が成り立たない」

 「宗教が成り立たないから、名前を言う事を禁じたのだよ」

 「人類は神に呪われている気がするね」

 「幸福の延長は、欲望を満たすことにあるよ」

 「欲望が満たされなければ、不幸にもなる」

 「神は、自分の形に人を創造したのだ」

 「それなら人の形は、神の形となる」

 「神は人の様に醜くないだろう?」

 「どうかな、欲望の大きさが違うのだ」

 「欲望が小さい小者は、目先の利益に惑わされ、些事で犯罪を犯す」

 「欲望が大きな我々の方が美しく紳士的に見えるだろう。近付いて来る者も多い」

 「そういえば、欲の小さないバカが我々の大望の邪魔をしてくれるな」

 「じゃ 堕落は、神の大きな欲望を台無しにした事になるわけか」

 「どちらにしろ、我々、資産家は、神の名によって認められた存在だな」

 「自制しなくていいのかね」

 「我々は次元の低い犯罪者ではない」

 「ここにいる者たちも、より大きな欲望のために小さな欲望は捨てているだろう」

 「「「「「・・・・・」」」」」 頷く

 「まぁ 大欲、小欲を制すよ。そうでない小者は多いがね」

 「自制しなければならない知識があり、自制したい欲望があればな」

 「では、堕落は、究極の欲望を失った事にあるわけか」

 「有体に云えば望んでも得られないモノ、永遠の命だろうね」

 「もっとも、神は、我々より大欲かもしれないが」

 「それは、あるかもしれないがね」

 「熟れた実は、他に取られる前に食べたいからね」

 

 ウクライナ

 独ソの緩衝地帯であり、

 地勢的中立を保つためアメリカ型の自由資本主義を導入していた。

 そして、この国の兵装は、アメリカ製だった。

 黒海に面し、アメリカ資本を取り込みにも成功していた。

 ドイツ帝国とソビエト連邦は、直接の交戦を避けたがり、

 ウクライナの民主化を見て見ぬ振りを決め込む。

 そして、ウクライナ独立は、日本のバルカン・カフカス支配に依存しており、

 アメリカは、国内的な軋轢を解消するため、開戦を望んでいながら、

 パワーゲーム上、日本のバルカン・カフカス支配を認めなければならず。

 歪な勢力均衡状態は、内陸国ベラルーシへの資本投資によって加速され、

 アメリカは、ウクライナ、ベラルーシの木の穴の実(利権)を取ろうとし、

 引き抜けなくなった姿を現した。

 利権に溺れたアメリカ国内国外の自己矛盾の象徴でもあった。

 

 

 日本

 アメリカは資本家への規制が弱く、王のような支配力を発揮する、

 莫大な資本で独善的で柔軟な投機が可能だった。

 一方、日本は政官財縦割りコンボであり、

 複雑に絡んだ人脈・金脈のネットワークを構築することで力を発揮する。

 権力者たちは主導権を争い、派閥抗争と権謀術数の果て、ようやくの投資だった。

 もっとも、日本は、元々、公共設備が脆弱で乏しかったことから、

 砂地に水を撒くが如く需要があった。

 貿易収支で黒字であり、海外資源と外資さえあれば、社会基盤が一気に整備されていく。

 日本は、年率10パーセントを超える経済成長を示していた。

 その成長は、列強と比べ、低賃金、過労、薄利多売に原因があり、

 市場の大きさの割に利潤が少なく、体力が小さい。

 

 貿易黒字の利益の一部は、設備投資に向けられていく。

 日本の貧富の格差は、アメリカのピラミッドより低く、

 アメリカの自由放牧社会と日本の管理農耕社会の違いであり、

 穂先は綺麗に並んでいると米粒にバラツキがなくて良いのである。

 しかし、大量生産と消費経済は、徐々に日本国民に波及し、

 勝ち負けが明確になれば、貧富の格差も広がっていく。

 日本でさえ、賃金昇給が問題となり、

 徐々に地価の高い都市から地価の低い田舎、

 さらに田舎から、さらに賃金の低い国外投資が増えていく。

 拝金主義が強まれば、利害重視となり、人と人との信頼関係が崩れやすくなり、

 権威主義が強まれば、上意下達となり、傲慢と卑屈が生まれやすくなる。

 悪徳が蔓延れば権力者と資本家の保身で、悪化良貨を駆逐する風潮が作られた。

 社会全般が利権の横暴と軋轢に押し潰される傾向が生まれるのである。

 首相官邸

 「やはり、日本本土は政官財で統制し。外地は、民権強化、資本家任せが良いだろうな」

 「その方が国民も動きやすいかと思います」

 「では、内地を直接累進所得課税の高税率。外地を間接税の低税率で移民を加速させよう」

 「お金持ちが別荘を作りそうですな」

 「構わんよ。基幹産業、通信交通、区画整理、安全保障、治安維持は政府の仕事だがね」

 「経済にはあまり介入すべきではなかろう」

 「土建屋は、引き続き積極財政を狙ってますが」

 「あの吸血鬼どもは、子供たちの寿命を吸い尽くす気じゃないだろうな」

 「やはり、喰命鬼を雇って、土建屋に人身御供の代価を払わせますか」

 「むふっ♪ 似非愛国者どもに自分の寿命を差し出せるか、聞いてみるか?」

 「囚人を使えとか、言いそうですよ」

 「ふん、なんの権利があって・・・」

 「基本的人権をなんだと思って、むしろ、そんな土建屋を安楽死させたい」

 

 日英同盟規格は、民族的自尊心と高揚を得られず、

 体格に合わないなどの不備があった。

 しかし、同盟規格は、共有部品により同盟の継続価値を高めた。

 スエズ封鎖でも、ジブラルタルからバルカン・カフカス輸送が可能であり、

 ジブラルタル封鎖でも、スエズからのバルカン・カフカス輸送が可能になった。

 その二つが封鎖されても、シベリアからの輸送ルートも残されていたのだった。

 その最大の利点は共有性だった。

 錯綜する急場の戦場で、武器が破損し、破壊される事はよくあることであり、

 日本製であれ、イギリス製であれ、武器を共食いで組み立てることができ、

 その場にあるマガジンを取り付ければ、敵軍に反撃できた。

 反日運動と孤立することを恐れるバルカン・カフカスは、規格派であり、

 FN FAL(7mm×43)は、体格的な問題を抱えながらも日本軍で使われ、

 ブレンL4機関銃(7mm×43)もFN系L7汎用機関銃(7mm×43)に切り替わりつつあった。

 もう一つ、新型戦車砲のロイヤル・オードナンスL7 (51口径105mm砲)が注目されていた。

 某大臣邸宅。

 「銃器類と戦車・装甲車の国産化の件、よろしくお願いします」

 「・・・しかし、国産規格はバルカン・カフカス防衛上良くないのでは?」

 「日本国を守るが大事、日本人とイギリス人では戦い方が違いますし」

 「何より、日本国の工業力を世界に知らしめねば」

 「同じモノを作れるのは、同じ工業水準なのでは?」

 「日本国民の誇りは、日本国民の手で得られるもの、模倣では得られません」

 「んん・・・」

 「愛国のため国産化の件、なにとぞよしなに」 平伏

 箱が大臣の前に出される。

 「中身は?」

 「ピーナッツでございます」

 「ほぅ・・・」

 大臣が箱を開けるとピーナッツの下に札束が入っていた。

 大臣はピーナッツだけを抜き取る。

 「お金は、引き取ってくれ」

 !?

 「ばれたのだよ。これまでの事、全てな」

 「ま、まさか!」

 不意に襖が開けられ、刑事が現れる。

 「贈収賄未遂で逮捕する」

 「そ、そんな・・・」 が〜ん

 「日本の警察は、思っていたより、優秀だった。どうして、わかったね」

 「機密です」

 「ふっ まるで狐に化かされたようだ」

 「大臣。あなたは贈収賄金の返却と、移民事業推進に票を投じていただきたい」

 「そして、約束さえ守っていただければ、あなたは金を受け取らなかった」

 「大臣、今後は、バルカン・カフカスに行っていただきたいものですな」

 「・・・家族は?」

 「連れていくべきでしょうな」

 「そして、あなたの企業もだ」

 「そ、そんな・・・」

 「社会的に抹殺されたいですかな」

 「ぅ・・・・」

 「では、贈収賄事件は、未遂事件として処理」

 「わかった・・・」

 「・・・・」 しょんぼり

 

 刑事たち

 「選挙上がりの大臣は、なにも知らずか」

 「新興企業もだよ。中枢に入り込まない限り教えられない」

 「知らない連中は不正がばれると、瑞樹州か、バルカン・カフカス行きか」

 「だけど、国産化も良いが贈収賄はまずいよな」

 「センチュリオン戦車は、悪くないらしいぞ」

 「重いから移動や活動が制限されるだろう」

 「まぁ 破壊された舗装道路なんか見たくもないがね」

 「どちらにしろ、バルカン・カフカスに住めば国産なんて言い出さないだろうよ」

 

 

 日本某所

 ゴミ収集車の職員たち、

 「こういうかっこ悪い仕事はしたくないよな」

 「そうそう、金を貯めたら抜け出したいね」

 「そういうなよ。重要な仕事なんだから」 先輩

 「住民はそう思っていないだろう。ゴミ置き場の汚さを見たらわかるよ」

 「そうそう、家と家まで離れてるし、軽蔑し切ったような視線、いやだねぇ」

 「将兵の方がまだ尊敬されるよ。やってらんねぇ」

 「俺たちは国を守って、お前たちはゴミ拾いか、いやだねぇ」

 「目は口ほどにモノを言うからね、官同士結束するし、いやだ、いやだ」

 「そうだな。もっと給与が良くないとな。誰もやりたくないよな」

 「指定のビニール袋に入れないと持って行かないようにして、その収入で給与を上げる」

 「んん・・・我々より、中間業者の取り分の方が多そうだな」

 「だいたい、庭付きの家が多いし、焼却炉を置いてるところも珍しくないじゃないか」

 「そうだよ。生ゴミだって、ミキサーで砕いて、菜園にぶちまけてるし、つまんえぇ」

 「いや、生ゴミはそうして欲しい・・・」

 大型トラックが大邸宅に付けられ、荷物が運び出されていく。

 「瑞樹州に引っ越す連中が増えているのかな」

 「そういや、年金の一部が瑞樹州の土地ってなによ」

 「大規模開発したいから、家の売却金と年金持って瑞樹州に行って欲しいんじゃないの」

 「金にしてくれ〜」

 「バルカン・カフカス連邦の土地は、もっと広いらしいよ」

 「言葉わかんないし、あぶねぇ」

 「でも結構、行ってるよねぇ」

 「利権の山に住んでるらしいよ」

 「行くとしたら若いうちかな」

 「でも引き籠りのドメ派が強いんじゃない。国際派は、負け犬」

 「会社だって本社が栄転。支社行きは左遷」

 「警察だって、本庁が栄転。警察署が左遷」

 「日本軍だって、大本営が栄転。軍管区が左遷」

 「それに親元にいる奴が後を継げる決まりだろう」

 「どうかな、予算的に国際派が大きくなってるらしいけど」

 「やっぱ、講和条約で縛られているから?」

 「でも飲み屋で、外人の知り合いが言ってたぞ」

 「日本人はズルしているから、日本のバルカン・カフカス権益は大丈夫だって」

 「本当かよ〜 ただ運が良いだけじゃないか」

 「どんなズルだよ。説得力ねぇ」

 

 

 三陸海岸

 防波堤が建設され、内側は、静かな海が広がっていた。

 新造艦の建造を押さえつつ、退役艦を増やし、海軍基地を建設していた。

 事実上、海軍軍縮であり、

 日本海軍艦艇は、電子装備の近代化と重量増しに合わせて兵装を半減させていた。

 空母は対空哨戒、対潜哨戒用の護衛空母。

 巡洋艦は駆逐艦。

 駆逐艦は護衛艦のような扱いにされていく。

 まともに活動しているのは、海上保安庁の商船構造の巡視船とも言われていた。

 日本海軍将校たち

 「ようやく、三陸の海軍司令基地も形になってきたか、やれやれだ」

 「伝統ある呉から引っ越しとはな・・・」

 「呉の屋台の親父が泣いてたな」

 「それどころじゃね」

 「単身赴任は子供がぐれるとか、妻が浮気すると家庭崩壊とか大騒ぎだったよ」

 「ふん、尻に苔を作りやがって、ざまぁみやがれ」

 「一人もんは良いよなぁ」 ぼそ

 「軍艦の性能に響いたらどうするんだよ」

 「大丈夫だよ。当分、潜水艦以外は、造らないから」

 「建造ノウハウの相伝に支障があってヤバいよ」

 「相変わらず、保身絡みの秘伝か。マニュアル化しろよ」

 「熟練工に語学力や文書力があると限らないだろう」

 「言葉で伝えられない感覚的なモノがあるんだよ」

 「感覚ねぇ・・・」

 「工業も新規一転した方が良くないか?」

 「青田買いで学業が低下していること忘れてんのか」

 「そ、そうだったぁ」

 「だいたい、官の軍工廠はともかく、民間に工作機械が入ったのって1900年前後だぞ」

 「58年かけて水増した産業や蓄積した技術なんて高が知れてるよ」

 「もうしばらく、習うより慣れろが続くな」

 「民間船で慣れれば良い、どうせ、重装甲艦の建造はないよ」

 

 

 アメリカ極東権益地

 ハルピン

 白人使用者と日本人労務者が睨み合う。

 こういった事態は、あまりない、

 しかし、日本への穀物輸出で、徐々に増えていく農薬と新薬が問題になり、

 過剰農薬使用となると話しは変わる。

 農薬を多用すれば、作物は大きくなり収穫量も増える。

 しかし、過剰過ぎれば、害毒となって人体を害した。

 アメリカ資本家の前に日本の大学で作成された農薬の所見レポートが置かれていた。

 「アメリカ本国でも認められていない新薬を使うのは反対であり」

 「農薬の使用量においても一定の制限を設けるべきだ」

 「我々は、新薬の安全を確信しており。量も安全を満たしていると判断じている」

 「日本ではあり得ない量の農薬投与だ」

 「日本人は、神経質なのだ。我々は、同じ物を食しているし、安全だと思っている」

 「とにかく、新薬の使用をやめ、農薬を日本並みに落として欲しい」

 「そうでなければ、これ以上、ここでは働けない」

 「待ってくれ、それは契約違反だ」

 「あなた方の社則は、食品の安全を謳っているはずでは?」

 「そ、それは、労働契約とは関係ないだろう」

 「我々は、社則を信じるからこそ、働いているのだが?」

 「と、とにかく、日本と同じ農薬では、利潤が得られない、君たちも困るのではないか」

 「我々は、日本国民だ。日本と日本人を害するモノを生産する気はない!」

 バ〜ン!!

 「「「「・・・・・」」」」

 「・・・話しは、わかった。善後策を考えるから、その間、待って欲しい」

 「その間、新薬と農薬の量は、以前に戻そう」

 日本人たちが不承不承に出ていく。

 「やれやれ、強気で来られましたよ」

 「珍しいですな」

 「大陸側は、新薬と農薬を増やして。日本向けは、日本に近づけては?」

 「日本人は、それで妥協しますかね」

 「あまり怒らせない方が良いのでは、瑞樹州移民を本国に打診している労務者もいますよ」

 「日本本国も人手不足のようですし、日本の受け入れは進んでいるはず」

 「少なくとも、日本は、農薬について、ある程度の蓄積があるのがわかったよ」

 「そういえば医療技術も進んでいるらしい、まだ10年ほど遅れていると思ったが」

 「日本の遺伝子学に関して、目新しい所見があったと聞いたな」

 「アレか、イギリスから聞いてドイツにも問い合わせたっけ、日本初だそうだ」

 「労務者が提示したレポート。この部分、真新しい着眼点があるぞ」

 「「「「・・・・」」」」

 「・・・実証まで行ってるのを隠して、推論を立ててるような・・・」

 「知識のある者が無知な人間の真似をしようとして、ボロを出したって感じかな」

 「あいつら、絶対に何か隠してやがる」

 「新薬は本当に大丈夫だろうね。我々は、一度食べたが?」

 「まぁ 綺麗に洗えば、問題ないかと」

 「倍以上に大きな穀物で、日本の食卓を占領しようと思ったのに・・・」

 棚には現物が置かれ、日本産の作物と比較されていた。

 「同じ値段で、この大きさ、絶対に勝てるのにな」

 「そういえば、日本は、一家一品菜園を提唱しているとか、我々の種と新薬が売れるのでは?」

 「日本の農林水産省もここにきて、安全性を理由に輸出規制を考えているようですよ」

 「ちっ 負けつつある工業製品を農産物で巻き返そうとしたのに・・・」

 「とりあえず、牛にでも喰わせるか」

 「そういえば、日本は肉類も疑い始めているようですが」

 「タダでさえ、捕鯨が邪魔で肉の売れが悪いというのに」

 「捕鯨反対でも、出せばいいのでは?」

 「んん・・・国際的に歩調が合うかどうか・・・」

 「だいたい日本の味方は多過ぎますよ」

 「味方といっても我々の資金力なら押し返せる」

 「まぁ 日本がいくら経済力が付いたといっても底上げでピラミッドは低い」

 「我々が使う資本とは比べモノにはならんよ」

 「貧富のピラミッドが低過ぎれば、労働意欲も減退していくはずだ」

 「日本が普通で我々の貧富の高低差が大き過ぎるという意見もあるぞ」

 「日本人は、欲望に対し、無理していると思うね」

 「それは言えるが、アメリカ本国は、良くない方向に向かっているぞ」

 「自由資本主義経済の敵か」

 「民主主義者だろう」

 「どちらにしろ、日本や権益地の低価格品がアメリカ人労働者の賃上げを押さえているのだ」

 「しかし、日本人労働者を失えば、アジアのバランスが狂いかねん」

 「当面の問題は、農薬の線引きをどこにするかだね・・・」

 アメリカ人たちは、日本の大学で作成されたレポートに魅入る。

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 列強国も周辺国も望んで強大な敵国を育てたりはしない。

 燕、呉、楚、蜀、穂、涼、大理の七軍閥国は、分かれた事によって利害調整が進み、

 他軍閥との競争により取引は、契約履行と清浄化も進む。

 各国とも社会資本が増え、貧富の格差で近代化が加速し、

 それまでなかったビル群が建ち始める。

 穂国

 日本人たちがビルを見上げる。

 日本にあるどのビルよりも高く、どのビルよりも大きかった。

 日本に流れ込むタングステンなどの希少金属は多く。

 経済への波及効果も期待できるため、建設するしかなかったともいえる。

 「凄いものだな」

 「不正腐敗率が低下しているらしい」

 「昔はあからさまに手を差し出してきたのに、いまでは、掴ませなければ受け取らない」

 「秘密警察も10分の1の確率で挙げられてアウトだ」

 「頭いてぇ 中国は、どうしちゃったんだ。むかしはもっと性根が腐っていたじゃないか」

 「ちっ 偽善ぶりやがって」

 

 

 

 瑞樹州

 ガイア研究所

 論文 シナリオB22

 “異境ガイアの人鬼村で、自らの大陸をムー、アトランティスと呼称する人族と接触する”

 “これは、興味深い、事実を推測させる”

 “一夜にして沈んだムー大陸、アトランティス大陸は、地球において沈んだのでなく”

 “ムー大陸、アトランティス大陸の民が何らかの現象に巻き込まれ”

 “地球に流れ着いた可能性を示唆する”

 “彼らは、見知らぬ地球に出現し”

 “自らが生活していたムー、アトランティスを捜索するが見つからず”

 “一夜にして大陸が失われたと伝承を残したのである”

 “彼らは巨石文明を興した種族であるとすれば、エジプト、アッシリア、マヤなど関連がある”

 “人族の発祥が地球なのか、ガイアなのかは、いまだ不明”

 “であるが太古より、偶発的な行き来があったと考えられる”

 “これは、欲望という名の引力エネルギーを利用した平行宇宙往復移動説を裏付けるものであり”

 “ガイアの生態系異常は、いくつかの宇宙からの来訪者を集める “存在” を裏付ける”

 “存在は、ガイア自生生命体、あるいは、魔法の杖、飛行石であり”

 “異種惑星生命を引き付けさせる、平行次元移動現象の源であると仮定するものである”

 

 演習場

 センチュリオン戦車が砲口を150m先の少女、魔法使いに向ける。

 天幕の将校たちは、緊張した面持ちで見守る。

 「・・・ようやく実験が認められましたね」

 「戦車砲の初速が高くなっているというのに、後回しでしたからね」

 「まったく、数十万の将兵の命と関わっているというのに、法務大臣の頑迷さにも呆れるよ」

 「まぁ 子供の寿命を削ってのことだ。わかる気もするがね・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 少し離れた場所で法務省の役人が目を光らせていた。

 当然、気が退けて、あれもこれもというわけにいかず、

 裁可された実験以上の要求はできない。

 数十秒後、魔法使いが頷き。

 無線による砲弾が発射、同時に砲身が炸裂、

 千切れた砲身と砲弾が辺りに散らばる。

 将校たちが魔法使いに近付いて行く。

 「どうだね?」

 「気付かれないよう、砲身に砂を詰めていくだけです」

 「時間がかかりますし、破片が散らばるので一つの砲弾より危険ですね」

 「それに発射音を聞いて魔法を発動させるわけじゃないので緊張します」

 「直接、炸薬に火を付ける方法は?」

 「場所が分からないと駄目ですし、仮にわかっても高密度なので延焼させにくいようです」

 「小さな銃器類はどうだろうか?」

 「銃口が見える距離でなければ難しく、銃声を聞いて、弾道を変える方が楽です」

 「双眼鏡で見ながらでも可能かね」

 「ええ、電子顕微鏡で似た様な事をしてますから、でも魔力消費はもっと大きくなります」

 「発射する前に銃弾を押さえて、後発の銃弾にぶつけるのは?」

 「出来ない事はありません」

 「ですが銃弾は、銃身によって包まれていますし」

 「いつ撃つか分からないですし。発射まで魔力を持続させなければなりません」

 「あと、銃弾や砲弾を正面から止めるのは、消耗が大き過ぎます」

 「なるほど・・・魔法使いの立場から、戦車のガイア輸出をどう思うね?」

 「魔法使いが搭乗するのであれば、筒内暴発は防げそうです」

 「ですが魔力で砲弾の軌道が変えられるのは変わりません」

 「んん・・・わかった。参考になったよ。次は、魔法剣の実験だ」

 「はい」

 魔法剣が魔法使いに渡され、

 魔法使いが鞘から剣を抜く、

 鞘の付け根から刃に沿って赤い光線が伸びていく。

 スタンバイ状態で後天的な訓練で発揮できる総量を超えている。

 剣を戦車の装甲に当てるとルビーレーザーによって、装甲が燻ぶり、

 ゆっくりと融けだしていく。

 「・・・わかった。この辺で良いだろう」

 「宿舎に戻って休んでくれ」

 少女は頭を垂れ、

 法務省の役人は批判気味に魔法使いを連れていく。

 法務省は内閣、外務省、警察省、通産省と組むことが多く、

 紛争と犯罪の芽を次々と潰し、微細加工で成果を上げていた。

 彼の目線だと、くだらない実験なのだろう。

 とはいえ、戦場で直接、敵兵士と対する一般将兵にとって、大きなことであり、

 携行装備から兵器体系を積み上げていかなければ、志願将兵は支持しない。

 徴兵制であれば、兵器体系がチグハグで、規格が違っても我慢させられるだろう。

 しかし、戦場では、小さな不信が大きくなり全軍に波及しやすくなる。

 将兵の自信確保は、最悪の全軍崩壊を防ぐためであり、規律のためでもあった。

 「・・・新型結晶のルビー・レーザーでも装甲を焼き切るのは、時間がかかりそうだな」

 「物理的な優位性は、確保されているわけか」

 「対魔法は、集中できず、対処の難しい散弾が良いのか・・・」

 「どちらにしろ、敵軍に喰命鬼、魔法使いがいる可能性は少ない」

 「そりゃ 余程のお人好しでなければ、上流階層に居座るだろうからね」

 「気質的に魔法使いも、喰命鬼も “人の良い” の延長だそうだ」

 「それでも、戦場は避けると思うな。寿命の関係で戸籍も怪しくなるだろうし」

 「まず、直接交戦を交える可能性は低いと考えて良いだろう」

 「しかし、地球はともかく、ガイアは対魔力戦術を留意しなければならないだろう」

 「飛行石と魔法の杖は日本国防の要だ。どうしても確保したいからな」

 「隠し産業でもな」

 「戦車を送るのはやめておくとして、装甲車はどうだろう」

 
  重量 全長×全幅×全高 装甲 hp 速度 航続距離 主砲 機銃 乗員
FV601 サラディン 11.6t 4.93×2.54×2.39 32mm 170 72km 400km 23口径76.2mm×1 L7(7mm×43)×2 3
FV603 サラセン 11t 4.8×2.54×2.46 16mm 170 72km 400km L7(7mm×43)×2 2+9

 「鋼材だけ送って、向こうで造らせるのは?」

 「それは、向こうで判断することでは?」

 「現物は人気あるぞ、現物を製造するには大規模な製鉄所が必要だ」

 「それなのに鉄がないから造れないでいる」

 「鉄は国家なりか・・・」

 「しかし、飛行石と合わせれば飛行戦車も、飛行戦闘艦も可能なんだよな」

 「現地は飛行輸送船で良いらしいよ」

 「敵らしい敵がいないと、費用対効果で、そうなるのか」

 「どちらにしろ、人口が増えないと、身動きが取れないんじゃないかな」

 「もっと有効な出入口はないのだろうか」

 「一番大きくて安定してる出入口は、南シナ海のあそこらしいよ」

 「ほかは不定期だったり、どこ行くか分からなかったり・・・」

 

 

 

 イギリス

 戦後、戦時の経緯で、日本の拠点が二つ作られていた。

 テムズ川

 さざれ石ウォーターフロント

 日本の外交、文化交流、商館など集まり、もっとも華やかな場所だった。

 そして、もう一つ、日本空軍の八千代駐留飛行場があった、

 戦後、八千代飛行場は、日本資本に払い下げられ、

 商品サービスを補修する支店群や工場群になっていた。

 日本人たち

 「新人研修がイギリスかぁ〜」

 「どうしよう。早口で言われると翻訳が追い付かねぇ」

 「反日とか、ないのかな」

 「さあ、日本料理は好かれているみたいだぞ」

 「たしかにイギリス料理には一言いいたい」

 新人教育で、日本製商品の修理補修を行っていたため、

 日本製の評価は高まり売れ行きが伸びていく。

 

 ロンドン ダウニング街10番地

 男たちが集まっていた。

 中東情報は全て集められ、ここで検討されていた。

 エジプトとヨルダンの対パレスチナ挟撃計画は、演習段階に入っており、

 ソビエト製の兵器・武器弾薬は、次第に集積され、山積みにされていく。

 「イスラエルの戦力的優位も、これまでか」

 「いよいよ、戦雲は高まっていくな」

 「・・・今度という今度は、奇跡もなさそうだ」

 「ソビエトの武器輸出まで相当年月がかかったようだが」

 「欧州・極東とも簡単には戦力を割けない、共産主義の膨張は困難だろうな」

 「キューバは急進的に共産化しそうだが、ベネゼエラは微妙だな」

 「ふっ アメリカ資本の落胆が目に浮かぶよ」

 「しかし、アメリカの労働運動激化は、どっちに転んでも微妙だな」

 「ああ」

 「少し休むか」

 午後の紅茶が回って来ると紳士然とダージリンの香りを楽しみ。

 酸味のあるアップルパイを頬張り、紅茶を流し込む。

 「そうだ。気晴らしなら、これがあったな」

 「民間の意見か・・・」

 箱から1枚とって読み始める。

 「・・・日本人の自己主張の低さ、勤労意欲の高さは、催眠術に操られており」

 「日本国民は、国家のため働かされている・・・」

 「んん・・・もう少し・・・説得力のある論拠を構築して欲しいね」

 「一般イギリス国民の直観的な意見に論拠を求めてもねぇ」

 「しかし、催眠術とはね」

 「強いモノに巻かれる従属的な気質は、日本の歴史的、文化的背景でしょう」

 「多少、変わりつつあるようだがね」

 「確かに瑞樹州とバルカン・カフカスの日本人は、官僚の強い日本に反発している」

 「それに本土以上の民権が保障されなければ行かないだろう」

 「追い出された反動だけではアイディンティティを構築できないからね」

 「変わる動機にはなるよ」

 「日本もようやく世界史に名乗りを上げる気になったかね」

 「問題は、何か特別な力を隠していることかな」

 「いまだに掴めないのが変だろう」

 「変というより、信じられていない場合もある」

 「催眠術かね?」

 「異世界のことでは?」

 「「「「・・・・」」」」

 「それと、瑞樹州の高原、30以上に町が出現しているのは、どういうことかね」

 「たまたま、高原に飛行機が着陸できる平地があったとかで・・・」

 「それを信じろと、そんなモノを信じるのは知能障害だけだ」

 「だいたい、高原に町を建設って、採算が合わないだろう」

 「もっと、日本にスパイを送り込むべきだ」

 「我々は、無知な木偶の坊であってはならない」

 「イギリス領ガイアナ防衛で日本の投資を募ってるからな・・・」

 「そういえば、ベネゼエラ投資で、ガイアナ防衛が怪しかったっけ」

 「ベネゼエラ開発に投資するからだ」

 「投資してるのはアメリカだよ。イギリス企業は発注されてるだけ」

 「ちっ」

 

 

 ドイツ第3帝国は、第一次世界大戦の雪辱が終わり、

 国民はジーンリッチ人種の優位性を確信しており。

 政府も憑きモノが落ちたかのように穏健外交に舵を切っていた。

 ドイツ帝国陸軍演習場

 ドイツ軍は、パンジャンドラムを自作し同じ条件で走らせる。

 結果的に山の斜面を利用しても直線的に走り難く、

 起伏のある大地で蛇行し、鉄条網、塹壕に邪魔をされて、戦果に結び付かない。

 「んん・・・やっぱり運なのだろうか」

 「当時のパンジャンドラムで、最も陣地の内側に潜り込んだモノを持ち帰ってますし」

 「実験体は、それと寸分たがわぬものです」

 「もう少し、絶妙のタイミングで鉄条網を破壊し、乗り上げたな」

 「ああ、煙幕を巻きながら的確に塹壕に迫ってきた気がする」

 「少なくとも実験の3倍は脅威だった気がするな・・・」

 「まぁ 数倍のインド兵の浸透戦術によって押し切られたのは確かだけどね」

 「しかし、パンジャンドラムが、その切っ掛けを与えたのも確かだ」

 「小賢しい日本人が改良を加えて直進性を良くした。まぁ モノにしたといえる」

 「だが当時のような迫力はないな」

 「日英軍のパンジャンドラムは、戦線の数ヵ所において役割を果たした。それは確かだ」

 「我々の手で実証できなければ、正確な戦訓にならないぞ」

 「我々、ドイツ帝国軍人は、ランチェスターの法則以上の苦戦を強いられてはならないし」

 「確率以上の理由で負けてはならん」

 「もう少し、現地にあるモノ、日本にあるモノを使って改良してみてくれ」

 「はっ」

 

 

 ドイツ帝国ノルウェー州

 ガルフピッゲン宇宙ロケット基地。

 宇宙ロケットは、カタパルトを走り、

 山脈に沿って北極の大気圏へと打ち出されていく。

 ロケット点火によって、加速し、大気圏を突破、

 人類初の有人宇宙ロケットは、北極から南極の地球軌道を2度回り、

 ナイトハルト・ビッテンフェルト少佐は、人類初の宇宙飛行を成し遂げ、

 大気圏突入カプセルは大西洋に着水。

 15000トン級ドイツ巡洋艦ブリュッヒャーに救助される。

 「地表に何か異常は見えたかね?」

 「宇宙を見るのではなかったのですか?」

 「もちろんだとも、しかし、気になることがあってね」

 「南シナ海の写真なら撮りましたよ」

 「そうか、異常はなかったかね」

 「映画にあるような特異点はありませんでしたね」

 「ふん、あんなハリウッド病。視覚化の弊害だよ」

 「ですが、異世界の扉ですか、眉唾だと思いましたが」

 「いまの日本を日本人の実力と思うほど、わたしはロマンチストじゃない」

 「そう言われるのなら、確かに疑わしいと思いますがね」

 「より、特殊なレンズが必要なのだろうか」

 「さぁ わたしは、パイロットであって学者ではありませんから」

 「取り敢えず、ネガをドイツ本国に送ろう」

 

 

日本軍 バルカン連邦・カフカス・その他の駐留軍
  総面積(ku) 師団 人員
バルカン連邦 838387 14 168000
トルコ完全自治 カフカス連邦 190500 3 36000
ドデカニソス諸島 (エーゲ海) 2663 0.5 6000
カナリア諸島 (北大西洋) 2505 0.5 6000
    18 216000

 バルカン連邦は、イギリス規格の兵装で固めた日本軍駐留軍であり、

 装備の半分をドイツ製規格としたイタリア軍(22万)は劣勢と考えられていた。

 戦後、13年、バルカン連邦とイタリアは、国力だけでなく、

 軍事バランスでも逆転していたのだった。

 イタリア ローマ

 独伊合同司令部

 「バルカン連邦は平時、日本駐留空軍3個と駐留軍14個師団で守られている」

 「総兵力は、16万8000だが、日本の後備旅団と任期交替があり、練度は若干怪しい」

 「バルカン連邦は、諸民族の人口に対し1000分の2の予備役を持っており」

 「国境に面した諸民族の予備役は練度が高いらしい」

 「バルカン連邦の総人口6000万で計算すると12万人が予備役と考えて良い」

 「バルカン連邦は、侵略を受けた場合、予備役で自衛教導旅団を編成」

 「日本駐留軍指揮下で新兵教育を開始する」

 「その分の武器弾薬は、事前に揃えており、数週間で動員可能だ」

 「第二次徴兵以降の新兵と武器の生産は比例する」

 「これも国力、軍需工場の大きさで逆算すれば、毎年1個師団を増設できる規模だ」

 ごっくん!

 「・・・もっとも、訓練期間を要する空軍と海軍の増設は遅れ気味となる・・・」

 じ・・・・・

 「!? な、なあぁに大丈夫だ」

 「我がイタリア軍は世界最強、バルカン連邦軍など恐れるに足らん」

 「・・・・」

 「あんな後進国、どうってことはない・・・」

 「もし、バルカン軍に侵略されたら、すぐに救援を要請しろ」

 「取り返しのつかなくなる前にな」

 

 

 バルカン連邦

 第二次世界(欧州)大戦後、

 統一バルカン連邦は、交通と物流が整備されるにつれ国力が増していく、

 しかし、異種族、異文字、異宗教、異文化の不一致は、近代化の障害でしかなく。

 多言語に至っては、ルーマニア語、ハンガリー語、ブルガリア語、ギリシャ語、アルバニア語、

 スロベニア語、セルビア語、クロアチア語、マケドニア語、

 そして、日本語の10ヵ国語が話されていた。

 言語は、生存圏であり既得権だった。

 これを絶やすのは困難であり、

 マルチバイリンガルは生きる可能性を広げる、

 とはいえ、多言語世界は、国家にとって不利益でしかなく、

 国家は、生存圏、既得権を破壊しても言語を統一することを願い、

 数学、科学、文学、哲学を一言語で現わし、

 国民全体の読解力と理解力を増す方が有利だった。

 バルカン連邦は、最大多数のルーマニア語を第二国語としているだけであり、

 ほとんどの諸民族は、親の話す言葉を話し、慣れ親しんでいた。

 シャイな日本人は、せいぜい一つの言語(バイリンガル)、

 あるいは、二つの言語(トライリンガル)を覚える程度で、

 語学より仕事に集中したがり、贔屓にしている異文化交流に集中していく。

 

 連邦諸都市の巨大ホールにステンレス製の専用商品が売られる箱が並び、

 客は、ガラス越しに品物を確認し、

 代金を入れ、出てきた作物を袋に入れて持って行く。

 自動販売機と定額制は、人を介さず済み、人件費と時間の節約になった。

 値切りの上手は諦め、

 値切り下手はホッとしつつ必要なモノを揃えると家路についた。

 言語、宗教、民族、文化が入り乱れると、無機質な自動販売機が好まれ、

 日本人は、この種の自動券売機の技術を持ち、サービスのノウハウを有しており、

 自動販売機ホール店は急速に増えていた。

 鉄道などの自動販売機は導入が早く、

 社会生活の隅々で機械化が進み、

 言語上の煩わしさを減らしていく。

 

 

 演習場

 ロイヤル・オードナンスL7 (51口径105mm砲)

 試作生産ながら新型戦車砲がバルカン・カフカス連邦に回され、

 センチュリオンの砲塔に載せられる。

 砲声と衝撃がセンチュリオン戦車と周囲を揺るがせ、

 砲弾が弾道を描いて目標を破壊する。

 日本軍将校たち

 「へぇ 凄いじゃないか」

 「イギリスも落ち目めの割りに良いモノを作る」

 「所得税で貧富の格差を埋めているから民間活力が失われているのに・・・」

 「イギリス資本も国外に逃げていくな、特に日本に・・・」

 「というか、日本は、産業に占める軍需部門が低過ぎる」

 「潜水艦を除くと、イギリス任せが多いからな」

 「国防費を増やせばこのくらいの大砲国産で造れる」

 「中東がキナ臭いというのに平和ボケしてるな」

 「キナ臭いからイギリス規格派が優位なんだろう」

 「んん・・・ドイツ帝国は?」

 「新人類と旧人類の世代間ギャップで、戦争する気はないらしい」

 「イタリアは?」

 「不況続きで共産化しそうだな」

 「ソビエトは?」

 「米独に挟撃されて萎縮している」

 「敵がいないじゃないか」

 「危うそうなのになぜか安定」

 「虎穴に入って虎児を得てるのか、つまんねぇ〜」

 「当分、立身栄達はないな」

 「軍人が出世するには戦争だからね」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 人鬼村

 鉄、銅、鉛、ボーキサイトの資源ルートの確保に成功し、加工貿易が拡大していた。

 各大陸、各島から飛行帆船、帆船が来航し、商人が降り取引が増えていく。

 小型製鉄所で、高品質の鉄、銅、鉛、アルミのインゴットが造られていた。

 セラミック加工技術も高いレベルに達しており、取引先も広がっていく。

 しかし、ガイアの資源で作れる剣は、せいぜい銅・ニッケルの合剣に過ぎない。

 それでも人鬼村で製造される銅剣と銅槍は、異境ガイアで最高品質だった。

 

 日本人同士で結婚し、子供が生まれると人口も少しづつ増えていく。

 この時期、日本民族は、出産と子育てで脆弱な状態ともいえた。

 もっとも、取引が進むにつれ、それ以上の規模で人口が増えていく。

 鬼族が増え、エルフ族、ドワーフ族、異種族ハーフも増えて、

 人族は、次第に少数派になっていく。

 中州を中心にした人鬼街は、拡大して中心部の安全性は増し。

 飛行戦艦 大和は、ガイア最強であり続けた。

 喰命鬼を除けば、物量で魔物、妖魔の類を追い立て、

 巨大生物も押し返すことができた。

 日本人たちが銅を核にした合金剣を手に取った。

 「・・・とはいえ、地球製より劣る剣だな」

 「取引が増えればもう少しマシになるだろう」

 「良い製鉄所があると違うね」

 「クロム鉱、マンガン鉱、鉄鉱を採掘できる町から持ってきてくれるらしい」

 「それで製品の一部が流れて行くわけか」

 「その代りに鋼の剣を製造できるよ」

 「農耕機具、工作機具、

 「魔法剣も作って欲しいらしいぞ」

 「ルビー結晶は最先端技術でしかも魔法が使われている」

 「金を作れる工業品ならともかく、そう簡単に武器を作れるものか」

 「それに魔法剣が強い魔法使いに手渡ると危ない気がする」

 「それと、こちらで生まれた子供に魔力反応が出たぞ」

 「訓練で無理やり力を得た俺らと違って、先天性の適格者か、羨ましいな」

 「だが寿命の消耗は桁違いだ」

 「そうだなぁ 喰命鬼が羨ましいねぇ」

 「だが人鬼村に入り込まれると困る」

 「それより、地球から惑星ガイア原種を探せってよ」

 「ガイア原種?」

 「どうやら地球系の平行次元宇宙のいくつかの世界に対し、扉があるらしい」

 「つまり、ガイア惑星は、次元トンネルのハブ世界ということか」

 「ここを押さえれば、数ヵ所の天体へのルートを確保できるわけか、楽しいねぇ」

 「ほかの異世界と繋がっている異種族がいるのだろうか?」

 「いま、最大最強の勢力はエルフ族だけど」

 「エルフ族の近代化は?」

 「自給自足が強くて、大資本が育ちにくい、微妙だな」

 「どちらかというと同族相争うで貧富の格差を広げて近代化しやすいのは人族だね」

 

 

 森の中の家

 「ハミハラ、もう少しで来るわ」

 「わかってるよ。リュエリット」

 自分の使い魔同士は、相互感応型だった。

 なので上意下達だけでなく、連携作戦も上手く行きやすい。

 5人限定なのだからそれくらいの特典は欲しい。

 「君の方は駄目だったみたいだね」

 「男たちは途中で帰って行ったわ、でも町で面白いモノを見つけた」

 チラシだった。

 「“ヒルコ島 人鬼村 求む喰命鬼 雇用条件相談応” へぇ〜 時代は変わったな」

 時々、こういう、誘いがあった。

 命を喰うだけでなく、命を与える喰命鬼もいるという。

 普通は、但し書があり、このチラシにはなかった。

 無論、罠の可能性も高く、交渉がうまくい事は限らなかった。

 

 若い娘が山道を歩くのは危険だった。

 同族の場合、暴行される可能性が高まる。

 もっとも相手が魔法使いか、確認を取る場合が多い。

 相手が年若い娘でも、魔法使いだと形勢が逆転する。

 なので娘は、わざと怖がってみせ、おどおどしたり、よろけてみせたり、

 3人の男たちを山の奥まで誘導する。

 がさっ!

 「だれ?」

 「「「・・・・」」」 にたぁ〜

 「そう・・・連れて来たわ」

 !?

 がさっ!

 「だれだ!」

 「御苦労、テレシア」

 男たちは、剣を抜き、脅えたように一人の少年から後退りする。

 娘を使って誘き出し、まだ若い少年が面白げに背後の道を塞げば、最悪。

 人間に化けた魔物、魔法使い、喰命鬼しかいない。

 男たちは、戦うか、大人しくするかで、躊躇する。

 もし魔物であれば、殺されて食われるか、ゾンビ。

 もし、喰命鬼であれば、寿命を奪うため魔力を消耗させると、

 その分だけ余計に寿命を奪われる。

 もし、魔法使いであれば、強盗で奪われるのは金ものモノで済んだ。

 ハミハラは、手に握った小石を魔力で加速させるだけで良かった。

 男たちは倒れて戦闘不能に陥る。

 エルフ族ハミハラ

 喰命鬼は、誤解されている。

 というより、自尊心を保つため、保身で歪曲して伝えている。

 喰命鬼は “命” を奪い取っているのではない。

 “命” が、みすぼらしい器の宿主を見限り、

 喰命鬼の器へ望んで移動して来る、が正しい。

 誰でも住み心地の良い場所を求めて移動する。

 それと同じであり、

 “命” も受け入れてくれる優れた器があればそこに移動する。

 もっとも、義理堅く宿主に従って短命を生きようとする命もあったり、

 ケースバイケースだった。

 右手を倒した男の胸に置くと、ゆっくりと命を吸収していく。

 彼は、どの程度の命を奪われるのか、怖いのだろう、引き攣っている。

 喰命鬼といっても、寿命と食事が一緒という者もいる。

 ハミハラは、寿命と食事が少し重複しているだけに過ぎず、食事は別に摂った。

 魔法を使って消耗した寿命を補充するのも、最大20年分ほどでしかなく、

 3人だと、かなり余る。

 「・・・何かまずい命だなぁ 魂の純潔が汚れるというか」

 「俺、最近、グルメだから困るんだよねぇ」

 「あ、そうだ。君たちの寿命を使って、君たちを女の体にしてやろう」

 「そ、そんな」

 「楽しいぞ、女の喜びを味わえる。まぁ 相手がいればだけど・・・」

 「ば、ばか、やめろ!」

 「な、テレシアも、そう思うだろう」

 「ええ、そうね」 ふっ

 「やめてくれ!」

 「何年分の寿命を消費したら女になるか。楽しみだな」 にゃ〜

 うぅああああああ〜〜!!!

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 今回は、社会全般の話しです。

 史実も戦記も、あまり変わらないような気がします。

 他の戦記との違いは、魔法運用の裁可権のある法務省が強い、でしょうか。

 日本は、浪花節の通用しない、遊び無しの厳格な法治国家になってしまうのでしょうか。

 それは、ちょっと、いや、かも・・・

 

 

 神の名 “欲望”

 英語にする時、ちょっと、悩みました。

 “Greed (グリード)” にしようか

 “Desire (ディザイア)” にしようか、

 ヘブライ語だと、どうなるんだろう。

 

 

 

 

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第17話 1957年 『利害調和』
第18話 1958年 『神の名は・・・・』
第19話 1959年 『衣食住足りて礼節を失う』