月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第19話 1959年 『衣食住足りて礼節を失う』

異境世界ガリア

ウェスト世界は繁栄を誇っていた。

その中で、ハルカス連合諸国は、多様な民族国家の集まりであり。

繁栄から取り残され、

ホルツ帝国と反ホルツ帝国の覇権戦争に巻き込まれる。

ホルツ帝国の圧倒的な軍事力によってハルカスは、制圧された。

しかし、遠き東方の国ハポンの参戦により、

ウェスト世界は一時の均衡を得る。

ハルカス世界は、ハポン国の軍事力によって統合され、

一時の平和を保っていた。

戦後の均衡の中、ハルカスは、順調に再建しつつあった。

しかし、民族主義、分離派は依然として・・・

 ハン・ガリー共和国。

 暗闇の中、白人たちの集まり、

 「あの平面顔の黄色いサルの支配には、うんざりだ」

 「だが安定している」

 「しがらみや特別な恨みがないだけだ」

 「しかし、総統は、本当にハン・ガリーの独立を認めてくれるので?」

 「もちろん」

 「「「「・・・・」」」」 疑惑

 「白人世界が有色人種に後れを取ってはならない」

 「「「「・・・・」」」」 同意

 「我々は、ハポン人など怖くはない」

 「だが、ハポン人には、ウチッチ・バスター(魔忍者)がいる」

 「特にウィザード・バスター(魔忍師)は危険だ」

 「総統は、ニュー・マン(人造人間)軍団を出してくれるそうだ」

 「ニュー・マンは、ウィッチ・バスターに勝てるのか」

 「ホルツ帝国のニュー・マンは、部隊として編成されつつある」

 「だがウィッチ・バスターは、大戦中、赤く光る剣で縦横無尽に戦い」

 「ハルカス連合世界を統合してしまった」

 「彼らの働きは影と闇に潜み、噂に過ぎない」

 「その噂は、魔力を操り、機関銃の弾丸さえ、剣で弾くというぞ」

 「ふん、子供騙しに決まってる」

 「だといいが・・・」

 「君たちの意志次第では?」

 「我々の意志は固い。しかし、民族の総意でないことはわかっている」

 「だがどうしても民族の誇りを取り戻さなければならない」

 「民族総意は歴史の歯車を切り替えれば済むことだ」

 「そういう意味では、歴史は造るモノの意志によって決まる」

 「そして、我々は、切り替える力がある」

 「・・・ニュー・マンの力を見せてくれないか?」

 暗幕が引かれると、中庭にギリシャ彫刻のような男たちが集まっていた。

 彼らは、柔術、剣術、射撃の成果を見せ、白人たちを頷かせる。

 「ハポンの武術かね」

 「柔道、合気道、空手、柔術」

 「そして、念流、一刀流、神道流、陰流、東軍流、二天一流を習得させている」

 「ハルカスでは、ハポン本国より武術が盛んだ」

 「各国ともハポンの武術習得に真剣になっている」

 「武術の延長に魔法があると?」

 「そうは思えないが・・・」

 

 

 

 キューバ

 バハマがカストロ軍によって制圧されていく。

 グァンタナモ米軍基地 (116ku)

 「キューバ革命か、資本家の傲慢が生んだ結果だな」

 「アメリカ人の労働運動を勢い付かせるのでは?」

 「キューバがアメリカに届くミサイルを置けば、アメリカ人労働者も反発するだろうよ」

 「それで、軍需拡大か、そう都合良くいくものだろうか」

 「戦争に乗り遅れたせいか、国防費は、GDPの1.6パーセント以下だ」

 「数値的に悪くないと思うぞ」

 「平和より、利潤が欲しい資本家もいるからね」

 「このままだと、来年は、もっと下がるかも・・・」

 

 

 ベネゼエラ カラカス

 青い空、エメラルドグリーンの海が広がり。

 多様な木々と多彩な花々が咲き誇る中、ペンションが点々と立ち並ぶ、

 アメリカ合衆国の次期仮想敵国ベネゼエラは、急速に工業化が進み、

 その余波で、レジャー施設も雪だるま式に大きくなっていく。

 

 

 日本、イギリス、ドイツ、イタリア、ソビエトの企業が投資していた。

 もっとも、アメリカが5ヵ国の外資企業に投資しているので、

 アメリカの投資である事に変わりない。

 日本人たちが、白い入り江でまどろんでいた。

 「いいねぇ 平和で・・・」

 「しかし、随分、人口が増えた気がする」

 「スペイン語圏で一番伸びているんじゃないかな」

 「メキシコ人もアメリカに行くより、ベネゼエラで働くんじゃないかな」

 「じゃ キューバも共産化したし、ベネゼエラも、いよいよかな・・・」

 「それには、もっと傲慢にならないとね」

 「ベネゼエラ人は、傲慢より、怠惰の方が強い気がする」

 「それはどうかな。アメリカがベネゼエラ投資を止めるだろう」

 「ベネゼエラ人も経済的に行き詰まれば、キレるんじゃないか?」

 「経済的に追い詰められれば、既得権を破壊するか、戦争」

 「あと、下剋上で内戦だ」

 「日本は大丈夫だろうな」

 「日本の軍国主義が崩れて、はや、19年。もうしばらく持つんじゃないかな」

 「こうして外から日本を見ると、粗が見えてくるねぇ」

 「欧州戦争のおかげで経済的にソフトランディングできたものの、あちらこちらで軋んでるな」

 「既得権益者は相変わらずか」

 「デパート経営者は、近くにデパートが建設されることを嫌がる」

 「ホテル経営者は近くにホテルが建つことを嫌がる」

 「当然といえば当然で、あれこれ妨害したくなる気もするがね」

 「移民が進んでいるから、人口増加と社会整備がちぐはぐになることはあるよ」

 「しかし、足を引っ張り合うようじゃな」

 「結局、自分の首を絞めていることに変わりないね」

 「やっぱり、瑞樹移民は増えているのか」

 「バルカン・カフカス移民も勢いは落ちてるけど、増加傾向にあるよ」

 「中東が危ないのに?」

 「危なくても日本人の利権が根付いてるし、拡大しているからね」

 「資源を押さえるから雪ダルマ式に増えるんだ」

 「それにアメリカ資本の投資拡大も弾みになってる」

 「アメリカも相変わらず目敏い」

 「もう一つの理由は、バルカン・カフカスの大地が綺麗だからだろうな」

 「へぇ〜」

 

 

 カリブ海

戦艦アマソナス (ビスマルク型改) 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
45000 263×36×9.3 160000 32 16kt/10000海里
47口径381mm砲連装2基 65口径105mm連装4基 60口径37mm連装砲4基
対空誘導ミサイル40発 対潜ミサイル魚雷20発 対艦誘導ミサイル20発
アマソナス (ビスマルク) 、 ボリーバル (ティルピッツ)

 戦艦アマソナス 見張り甲板

 士官たちの首筋から冷汗が流れる。

 「危なかった・・・」

 「いまのはサービスだよ。艦長は、いくら貰うのやら・・・」

 「いや、どう見ても今のは、ヤバかっただろう」

 「客船から30mは離れてたよ」

 「10mの間違いだろう。客は、喜んでたけどね」

 「カリブ海に戦艦は大き過ぎるよ」

 「特に下手っぴが乗るとね」

 「まぁ 客船の方も戦艦の傍を通過できれば次の客に繋がる」

 「客船は、金を払ってでも戦艦の傍を通過したいだろうね」

 「いいなぁ しがない士官は、戦争でも起きなきゃ 退役後は潰しが利かないよ」

 「軍を大きくするって噂はあるけどね」

 「へぇ 戦争でもするの?」

 「最近は、対コロンビア戦、対イギリス領ガイアナ戦の図上演習が増えてるらしいよ」

 「じゃ 出世できるかもしれないわけか・・・」

 

 

 イギリス領ガイアナ (21万4970ku)

 イギリスは、急成長を遂げるベネゼエラに危機感を持ち始めていた。

 イギリスは、インド人・日本人の入植を誘い、安上がりな防衛を検討する。

 イギリス駐留守備隊

 「ベネゼエラのT54戦車は、我が方の15倍の数だ。攻めてこられたらお終いだな」

 「イギリス資本も、どうせ投資するならイギリス領のガイアナに投資すれば良いのに」

 「大元の投資家がベネゼエラ投資を要求してるんだよ」

 「おかげで、ガイアナ防衛は、危機的状況だな」

 「もっと戦車並べないと駄目だな」

 「東隣のオランダ領スリナム (16万3270ku)も戦車を並べ始めたらどうするんだ」

 「軍事的緊張を煽ってるのはベネゼエラだよ」

 「アメリカは高みの見物か」

 「アメリカは正義の味方で現れるのが好きなんだよ」

 「ちっ 軍事的緊張を高めて、金の流れを止めてしまえば、自動的に戦争か・・・」

 「自由フランス領ギアナ (8万3534ku)も、いまのところ高みの見物だろうな」

 「イギリス領ガイアナは、風前の灯だよ」

 「日本の支援は?」

 「日本の支援って言っても、カナリア諸島にある二つの島だけだろう」

 「日本もガイアナに直接投資しない限り、防衛支援する気にはなれないだろうな」

 「また日本の利権を増やすのか」

 「もう、経済的に日本が上だよ」

 「なに? 日本って、そんなに経済力があったの?」

 「イギリスがハングリー精神を失って落ち目なのさ」

 「どいつもこいつも、庭園で午後の紅茶を飲む事を考え始めたら終わりだよ」

 「まぁ “ゆりかごから墓場まで” だからね」

 「日本人は人口が増えているし、平均年齢も若いから潰しが利くのは今のうちだよ」

 「日本人だって、小金が貯まり始めたら、縁側でお茶でも啜りたくなるだろうよ」

 「そのうち老害化していくんだ。ざまぁみろ」

 「その前にイギリスがヤバい」

 「いっそ独立させてしまえよ」

 「反米拠点だろう」

 「防衛不能の拠点なら、ない方が良いような気がする」

 「まぁ それもハングリーな日本次第かな」

 

 

 

 アメリカ極東権益地

 戦力比において、ソビエトに対し、軍事的な脅威こそあった。

 しかし、大国アメリカと事を構えるような酔狂な国はなく、

 アメリカ資本の搾取場と化した極東権益地は発展を続けていた。

 働いている人間で日本・台湾人は多く、

 各地に日本人街が作られ、白人、黒人、フィリピン人と一緒に働いていた。

 アメリカ資本も不正腐敗の少ない几帳面な日本人に働いてもらう方が収益が安定し。

 日本人も本土で働くより1.5倍も賃金が良ければ玄界灘をわたりやすく。

 若いうちは、アメリカ権益地で働き、小金を溜めるのが良いと、勇んでいく。

 日本にすれば貿易と並んで、貴重な外資獲得であり、

 やめるにやめられないのである。

 B47爆撃機ストラトジェットが滑走路から飛び立って行く。

 東シベリア全域、日本列島も爆撃圏に入れており、

 アメリカ極東権益地の存在は、大型爆撃機の必要性を低下させていた。

 アメリカ軍将校たちが図上演習をしていた。

 ソビエト軍の侵攻によって、戦線は崩壊。

 「ちっ! ピロシキ野郎」

 ハルビンが落ちていた。

 3つのサイコロが転がされ、判定が下される。

 「シット!」

 日本の対米参戦が告げられ、数人が舌打ちする。

 「日本の三陸海軍基地は、難攻不落らしいじゃないか」

 数枚の写真がテーブルに置かれた。

 「バンカーバスターでも、核の直撃でも破壊不能だ」

 「もっと大型爆撃機を開発しないとな」

 「ペンタゴンは、戦争が始まったら、基地以外を爆撃する、で結論を付けたらしいよ」

 「まぁ 秘密基地の生産力なんて、たかが知れているからね」

 「秘密基地で戦争なんて、近代戦争を知らない、漫画チックで、お子様の発想だよ」

 「だが機密を守ることには成功しているな」

 「良くあんな大きな穴を掘り抜いたものだ」

 「空軍力をケチる事が出来るからじゃないのか」

 「普通、軍人は、動く玩具を欲しがるものだが」

 「日本の戦力配備を見れば、正面から戦う気がないのは分かるよ」

 「むかしは軍部のため宿主の日本帝国を食い潰すところだったのに」

 「いまでは、日本帝国の番犬か」

 「日本軍も随分変わったな」

 「日本の政府と国民は、軍拡の副作用に気付いたのだろう」

 「軍官僚機構だけではなく、特定の官僚機構も同じだと気付いているのかね」

 「少なくとも軍国主義の恐怖よりマシだろうよ。反対する者は殺されるからね」

 「まぁ 正常な人間は、暴力や恐怖が支配する世界を嫌うものだ」

 「日本人がそれに気付くとは思わなかったがね」

 「日英同盟で外交戦略上の選択が決まっているだけで、気付いていないと思うね」

 「日英同盟がなければ、日本軍は兵站無しで突撃する軍隊という噂もある」

 「そういえば、日本の右翼勢力は、精神性ばかり強調して、兵站を知らない者が多い」

 「いくらなんでも野蛮人じゃあるまいし」

 「日本の右翼は、正面戦力しか見てないし、威勢が良いからね」

 「軍隊が衣食住を含めた管理部門、輸送部門の総合戦力で押し出すと理解していない」

 「日本軍は、ヤクザではない。そこまで酷くないと思うが」

 「どうかな、日本は、魔法使いを隠しているらしいぞ」

 「噂だと魔法使いは致命的なリスクをしょっているらしい」

 「日本は魔法使いで、ドイツ帝国は超人ジーンリッチか・・・」

 「イギリスは、お化けだったっけ?」

 「そういえば、ソビエトは超能力に凝り始めていたな」

 「アメリカ合衆国は、47年後半から宇宙人のロズウェル事件だろう」

 「宇宙人は、恐怖で挙国一致を画策してのことじゃないのか?」

 「さぁ 実態はつかめてない」

 「ふっ 5ヵ国とも間抜け振りで、いい勝負だ」

 「なんにせよ。魔法使いも人間に違いないよ」

 「ん? 日本軍の移動が早いくないか、魔法は抜きだろう?」

 「性急な日本人の発想だよ」

 「いくらなんでも武器弾薬、燃料、食糧、衣食住無しで部隊を前進させたりしないだろう」

 「どうかな。日本官僚は聖域だ」

 「利権は癒着で肥大化しやすく、人件費も膨らみやすい」

 「予算争奪は命懸け、限られたポストを巡る権謀術数も熾烈」

 「派閥の利権抗争も全てを失うまで暴走しやすい傾向にある」

 「自己正当化と組織防衛で正直者は嘘付きにされていくだろう」

 「まぁ 潤滑油のような嘘は仕方ないよ」

 「だが責任を問われない組織は、権威主義と年功序列で膠着しやすく」

 「一部の部署が権力維持するため社会全体を狂わせ、破壊してしまう構造になる」

 「組織の機構上、人でなしになりやすく、無謀な突撃もあるよ」

 「アメリカにも聖域はあるだろう」

 「資本家だよ、少なくとも採算は考える」

 「採算さえ合えば、資本家に殺されそうだな」

 「採算で殺されるのと、大義名分で殺されるのと、どっちがマシかだろうか」

 「どちらでも、殺されるのは御免だがね」

 「日本は、自らの無知を暴露する機会がありますかね」

 「日本産業は大きくなり過ぎた」

 「軍需の比重が15パーセント増しただけで、形勢が変わる」

 「軍民の転換は、この早さで良いのか?」

 「妥当だと思うよ」

 「魔法のプラスアルファ抜きでこれか」

 「戦況が悪過ぎる」

 「アメリカも、欧州大戦に参戦していたら、もう少し余力があったのに」

 「・・・米ソ戦争が起きても、日本は中立でいて欲しいね」

 「「「「・・・・」」」」

 アメリカ軍将校たちが頷く。

 

 

 三陸海岸

 赤レンガの住人たち

 標高200mの岸壁にドーム状の穴が空き、人工的な壁が奥まで続いていた。

 強靭な防御力と最新の海軍工廠のためか、

 海軍司令基地の移動は、スムーズに進んでいた。

 もっとも過去の栄光は薄れ、

 将兵は、入隊から退役までのローテーションが見込みの予算内で計算され、

 兵器は、生産・運用・廃棄までのローテーションも見込みの予算内で計算されていた。

 軍人人口は肥大化しておらず、

 軍は政治的な野心を見せず、飼い犬に徹し、

 戦前と違い、出世分を含め、退役までの一人当たりの満足度が確保されていた。

 トンネルの中、

 13000トン級妙高型巡洋艦 羽黒が浮かび、出航準備を進めていた。

 戦後の改装で、レーダーと対空兵器・ソナーと対潜兵器が増え、

 復原性の関係で、魚雷が減らされ、

 それまでの主兵装だった50口径203mm連装砲4基はさらに削減。

 砲口兵器は、60口径155mm連装4基、40mm連装6基となっていた。

 将兵も志願兵であり、訓練が厳しくなれば退職する事も多く、

 練度向上は、比較的ゆっくりとなっていく。

 「アメリカ海軍は原子力巡洋艦ロングビーチを建造するというのに、日本海軍は過去の遺物か・・・」

 「飛行石が使えれば、圧倒できるのに・・・」

 「水上艦は、外交武官を乗せることもあるし、救助しなければならない時もある」

 「飛行石が使えるのは、潜水艦だけだろうな」

 「しかし、潜水艦を主力にするのは、問題じゃないか」

 「通常考えられる性能の10倍以上は、大きいからね」

 「魔法使いが乗ればさらに無敵だろうな」

 「問題は魔法使いの絶対数が不足している」

 「向こうで生まれた子供は、生まれつきの魔法使いらしいじゃないか」

 「確率が高いだけで全員というわけじゃないよ」

 「まぁ 魔法使いといっても、寿命をすり減らされながら、うまみが小さいからね」

 「なんか、子供たちの顔をまともに見れなくなってなぁ」

 「ていうか、喰命鬼を雇うって言う話しは、本気なのか?」

 「国益を特別な人間に集中させず、全員で負担すべきって考えは反対しないよ」

 「9000万もいれば難しくないけどね」

 「どうだろう。魔法関連は、白紙票を出したがる偽善者が多いからね」

 「問題は、喰命鬼をコントロールできるか、らしいけどね」

 「問題は、人身御供をどうするかじゃないの?」

 「んん・・・囚人を使うかで、もめてる」

 「機密を教えるのか?」

 「いや、寿命が15年くらい縮む実験という事で減刑を・・・」

 「ふっ まさか本当に縮むとは思わないだろうな」

 「どちらにしろ、軍部は、飛行石だけで戦略を考えるよ」

 「その飛行石を入手するだけでも魔力を消耗するよ」

 「そう・・・だった・・・」

 「そういえば、煮詰める段階でトーンダウンするよな」

 「というより、決断を出す地位に立つと意気地がなくなるんだよ・・・」

 そして、帽ふれ

 出航の様子は、昔も今も変わらない。

 

 

 

 アメリカ合衆国

 高めに設定されたドル為替は、資産家の国外事業を助け、莫大な収益をもたらせる。

 そして、アメリカ資本の思い通りになる極東権益地はドル箱であり、

 同時に国内労働運動に対する牽制にも使う事ができた。

 アメリカ社会は、金の亡者の欲望に翻弄され、貧富の格差は広がり続けていた。

 しかし、戦後、各国で復興が進むにつれ、

 極東権益地、日本と欧州の低価格商品がアメリカに流れ込み、

 失業者は増大の一途を辿っていた。

 北アメリカで敵なしの大国も自らの欲望には勝てず。

 低級品から中級品までの生産を国外に頼り始め、

 アメリカ国民の労働者の多くは、資本家によって生かされ、

 反発する者は生き場を失わされていく。

 群衆が職を求めて立ち上がりストリートを行進していく。

 別の通りでは、賃上げ、

 別の通りでは、人種差別撤廃・・・

 ニューヨーク

 カフェテラス

 日本人たちがアメリカ資本主義帝国を見つめていた。

 「豊な資本主義の正体は、貧富の格差が激しく」

 「一部の層だけが自由を謳歌できる世界か」

 「こういうのは江戸時代にもあったらしい」

 「あの頃の商人より、いまのアメリカ資本の方が理性的だよ」

 「それにアメリカ社会の方が圧倒的に豊かだ」

 「日本はもともと貧しかったからね」

 「農民が飢餓で飢え死にしているのに、米を大阪に持ってたからな」

 「持って行ったのは藩だろう。大阪で米相場が決まるからね」

 「誰だって大阪に持って行って、小判に変えたくなるさ」

 「良い家、良い服、良い酒、良い嗜好品のために?」

 「自分の生活を守って、残りを蓄財に回すのは知恵だよ。誰でもそうする」

 「飢饉の正体見たり、か」

 「ふっ 米の買い占めで利潤を上げて、じゃ 一揆、打ち壊しは当たり前だな」

 「人の弱みに付け込んでの金儲け、良くあることだよ」

 「しかし、アメリカ政府も、もう少し、資本家を押さえれば良いのに・・・」

 「資本家に選出されているんじゃないか」

 「というか、労働者も強いねぇ 生活水準は日本の一般的な労働者より上じゃないのか」

 「個人主義が強いからね、生活水準を落としたくないし、当たり前の反応と言えるね」

 「まぁ 金持ちが貧乏人を破滅させて若い娘を買っていくのも手だね」

 「日本もそうなっていくんだろうか」

 「中国七軍閥国の追い上げは本物だよ」

 「日本は、そこまで資本家が強くないだろう」

 「だけどねぇ 移民が増えて、日本の公共投資は回収不能」

 「生産力と維持費を支える資源も市場も、このアメリカ大陸と中国大陸にあるんだよ」

 「まぁ 誰でも賃上げで貧富の格差を縮めるより、中国の安い商品を買って売る方がマシと思うようになるか」

 「驕れる者久しからずだな・・・」

 「いつの世も人間は変わらないねぇ」

 「人口が増えて行けば、内需は拡大するし、国内生産も安定するだろうけど」

 「いつになるんだか」

 「コンピューター関連でアメリカに追いついているのが救いだね」

 「気薄な人口、市場で良く追いついているものだ」

 「軽薄短小は、時代の流れだよ。トン当たりの価格が高いから資源の少ない日本向きだ」

 「そういえば、薬も良いのができてるそうじゃないか?」

 「穀物の品種改良もね」

 「いつの間にか、アメリカと並んでいるのが不思議だよ」

 

 

 瑞樹州

 飛行船 船橋

 「周囲に人は?」

 「・・・いません」 魔法使い

 「御苦労」

 飛行船が着陸すると特殊建設部隊と巨大なコンテナを置いて上昇していく。

 「相変わらず、輸送機が降りられるような場所はないな」

 「これから造るんだよ」

 「もう完全に疑われているのに今度は3500m級の高原都市か・・・」

 「銅山の近くだよ」

 「銅山は採掘するところで住むところじゃないだろう」

 「まぁ そういえなくもないが、これだけの広さだ。精製までやっても悪くない」

 「相変わらず、土建屋は羽振りが良いな」

 「四国の室戸岬からメタンハイドレート層までトンネルを掘れば、もっと羽振りが良くなるらしい」

 「すくい上げるのが大変そうだ」

 「下に落して、気化させると164倍のメタンガスになって、地上に送られるらしい」

 「実に好都合な理屈だな」

 「予算が大きいから希望的観測も含めてんじゃないかな」

 「中東の油田が危なくても大丈夫ということか」

 「まぁ 瑞樹州の国力が増していけば、日本の国防を助けることもできるかもしれない」

 「こっちで生まれた日本人は、日本が危なくても見殺しにしそうだな」

 「基本的に侵略されなきゃ 銃を取る気にならないだろうね」

 「日本も大陸から退いて毒気がなくなっちまったな」

 「バルカン・カフカスも、日本の本土国防と直結してないから、平和ボケかな」

 「飛行石装備の飛行兵団は?」

 「飛行石の使用は、特定産業と潜水艦限定で変わらないらしいよ」

 「バルカン爆撃機に1トンの飛行石を載せられれば重量はほぼゼロ、無敵なのにな」

 「潜水艦も無敵だよ。その気になれば宙に浮かせられる」

 

 

 魔業の総本山は、列強の目が届きにくい瑞樹州にあった。

 しかし、それも鉄道や道路が高原都市に到達するまでであり、

 ロープウェーが観光客を集めると状況も変わる、

 列強のエージェントは、次々にやって来て宿泊し、

 探りを入れて行く。

 スコールが降ると雨の重みでステンレスのブラインドーの蓋が閉まり、

 土砂降りの雨が大地に叩きつけられ、

 屋根に落ちた水は勢いよく、水路に向かって流れ落ちて行く。

 瑞樹州は、この方法で、土壌の養分を保存し、豊かな穀物を育てていた。

 屋根付きの田畑など、採算で怪しい、

 しかし、国が本気で補助金を出せば不可能ではなかった。

 不可解なのは日本政府が弱者である農家の味方をしていることにある。

 もっとも、政府の土地収用のための代替用地であり、

 退職金の一部と考えれば、それなりに納得もする。

 「へぇ〜 確かに涼しいな」

 「しかし、良くもまぁ こんな高原に町を建設したもんだ」

 蛇口を捻ると透明な水が出てくる。

 給水塔に溜まった雨水を飲む事もできた。

 ミネラル分がなく、工業用水で最適と言える。

 「最初から平原があったという話しは?」

 「最初から大型ブルドーザーがあったと思う方が合理的だな」

 「どうやって、ブルドーザーを運び、燃料、食料、人手に伴う衣食住を維持したか・・・」

 「表向き、日本軍の建設大隊が造成と整地した後、民間に払い下げたことになってる」

 「軍でも民でも同じだよ。線路も道路もなかったのにどうやって物資を運んだ?」

 「しかし、産業は自立しつつあるし、瑞樹州の南と北を山脈トンネルで結んでいる」

 「瑞樹州攻略は、ほぼ不可能に近い」

 「オーストラリア大陸に水と食料を輸出できるのも瑞樹州の力だな」

 「瑞樹州が水の輸出を止めれば、オーストラリアを破滅させることができるわけか」

 「経済支配か、軍事支配より性質が悪いな」

 「瑞樹の軍事力はどうだろう」

 「規模は小さいが自立している」

 「特に錆びに強いステンレス生産が強く。セラミック、チタンにも力を入れ始めている」

 「石油化学でプラスチックにも予算が行くらしいぞ」

 「そういえば、プラスチックも妙に良いのが作れてたな」

 「中東の利権を認めるからだ」

 「アメリカ国民は中東にアメリカ軍を派遣することなんて良しとしないよ」

 「やっぱり、挙国一致で不利か」

 「瑞樹州の方はどうなんだ? 根腐れしてないだろうか」

 「そうだなぁ できたてホヤホヤだからね」

 「まだ政府主導の官営が大きい。しかし、民間に払い下げていく節もある」

 「聖域が作られると腐るだろうよ」

 「平均年齢低いし、老害化はまだ先だと思うよ」

 「ところで、飛行船は?」

 「ああ、日本国防省所属の瑞翔、瑞雲か」

 「ヘリウムガスを売ってやってルートを押さえたが瑞雲はダミーだな」

 「じゃ 瑞翔は、水素で飛んでいるのか?」

 「さぁね。規模だけならツェッペリン飛行船の方が大きい」

 「本来なら、あまり気にする事もないはずだがどうも怪しい」

 「怪しいといえば、日本の潜水艦も怪しいぞ」

 「潜水艦乗員が一般から隔離、制限されている点で特にね」

 「伊401、402号の喪失の件は?」

 「あれも乗員がそっくり残ってるから微妙だし、特殊部隊と交替した話しも不自然だ」

 「チャンバラ部隊の噂は?」

 「ルビーレーザー剣を装備した部隊? あれもどこまで本当なのか微妙だな」

 「銃の方が強いからね」

 「それにルビー・レーザーのエネルギー源が得られないだろう」

 「そうなんだよねぇ どうして、この手の噂が出てくるかな」

 「ドイツのジーンリッチの方が推測しやすいね」

 「ペンタゴンでは、ジーンリッチの能力比を1.25倍で計算しているんだっけ」

 「もう負け犬だな」

 「知能指数だけならそれ以上開いてるよ」

 「日本の宇宙開発は?」

 「まだ、打ち上げの実験段階らしいよ」

 「思ったより進んでいないじゃないか」

 「だが、その気になれば赤道近くで、標高3500mから打ち上げられる」

 「空気も薄く、抵抗力も近いからその分、積載量は大きくなる」

 「じゃ 遅れているようでも、追い付きやすいわけか」

 「打ち上げ弾道軌道上に大型の町がないことが前提だけどね」

 「日本と瑞樹州の利権構造を拗らせれば独立運動が起きるのでは?」

 「投資が多いから独立はなさそうだ」

 「逆にカリフォルニア州の方が日本、権益地、中国軍閥との取引で成り立っている」

 「じゃ 太平洋側との取引がなくなるとカリフォルニアの方が落ち込むのか」

 「かなりね」

 「アメリカ人の高い賃金が足かせになるとはな」

 「資本家が貧富の格差を無理やり維持しようとしているのが問題では?」

 「無理やりじゃなく、合理的な判断だろう」

 「大多数のアメリカ人は合理的な判断で苦しめられているわけか」

 

 

 

 アメリカ資本の楔、パレスチナは、中東のアラブ・イスラム世界に波紋を投げかける。

 火種は既に存在し、武器弾薬が揃えば、火災になった。

 そして、ソビエト製の武器弾薬が流れ込むと、戦争は時間の問題となった。

 エジプト

 エジプト軍が行進していた。

 行進する将兵の目付き、足並みで軍隊の力が推し量ることができた。

 非人間的で機械のように動いていれば精強であり。

 あとは兵站能力、指揮官の想像力、士官の統率力、下士官の強制力・・・

 などで決まってくる。

 「敵味方識別で怪しそうだな。つまり、味方を撃ちそうだ」

 「準備不足という気がするね。つまり、前進すると補給不足に陥る」

 「まぁ 侵攻作戦より、攻撃させて慣れさせ、その後に反撃だね」

 各国の外交武官は、ほぼ、似たような結論に到達する。

 

 熱砂が古代遺跡のスフィンクスに吹きつけていた。

 日本人たち

 「・・・鼻が欠けてるのが間抜けだな」

 「修復すれば良いのに・・・」

 「エジプトは、パレスチナを攻める気だろうか?」

 「ヨルダンと足並みを揃えないとね。単独じゃ戦わないだろう」

 「街を歩いたところ、どうも戦争という雰囲気でもなさそうだが」

 「ユダヤ人は憎い。しかし、銃を持って前線に立つでは違いがあり過ぎるからね」

 「スエズ運河が使えるのなら、どうでも良いが」

 「アメリカは、どこまでパレスチナを支援するだろうか」

 「さぁ 同盟に足るだけの戦果を上げないと、足手まといと組まないと思うよ」

 「しかし、金に任せて、中東に足場を作るなんて、アメリカも無茶をする」

 「パレスチナの正統継承者は、聖書に遡るらしいけど」

 「白人はユダヤ人じゃないよ」

 「神は石ころからでもユダヤ人を起こせる。つまり、預言通りだ」

 「この際、ユダヤ云々より、魔法関連の調査をすべきでは?」

 「モーセの時代は、魔法使い、あるいは魔術師の類がいた」

 「しかし、いまはいない」

 「魔法使いはいるよ。しかし、魔法の杖と出会っていないのでは?」

 「まぁ 資質がなければ、継承したくても出来ないからね」

 「それに命を縮めるてまで魔力を使いたくないだろう」

 「喰命鬼の可能性だってあるだろう」

 「怪しいのは常識外れの魔力を見せたモーセだろうな」

 「喰命鬼は、奇跡を起こす必要性があったのだろうか」

 「使い魔の力を流用できる喰命鬼は、使い魔の質に拘るらしい」

 「それなら命の質に拘る喰命鬼がいてもおかしくないよ」

 「喰命鬼も、上質の糧を得たいか・・・」

 「他人の命で生きるのだから、中にはそういうのもいるだろうけど」

 「つまり、敬虔な人間を餌にしたいから宗教人の近くにいる可能性もあるか」

 「宗教人が上質の餌とは限らないだろう」

 「喰命鬼も暗中模索なんじゃないかな」

 「地球原産の喰命鬼と取引したいねぇ」

 「国益だからって、特定個人の命を食い潰すのは気が退けてきた」

 「どちらにしろ、民意は得られそうにないね」

 「何でもかんでも選挙でやることはないだろう」

 「国民だって、こういう決断を押し付けられたら迷惑だし」

 「国家機密をばらして国益を損なわせるような政府は用済みだろう」

 「まぁな」

 

 

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 燕(北京)

 中国人民は、軍閥国政府を信用していない。

 元々、地方の有力者か、

 清朝から、あるいはそれ以前、中央から派遣された軍管区の長官であり、

 国民が民主的に選択した政権ではない。

 もちろん、民主主義で選択された政権が優れているとは限らず、

 現時点での軍閥政府のあり方が問われる。

 もっとも、民主化しても誰かわからない人間より、既得権の強い人間が選ばれやすい。

 そして、七軍閥政府は、隣国と適度な緊張感を抱え、

 それなりに機能していた。

 北京ヒルトンホテル

 ロビー

 「燕(北京)投資で、最大の魅力は、燕政府が暴走できないことアル」

 「半植民状態で国益を優先できない事が日本の利権を守る最大の魅力アル」

 「しかし、楚国で反欧米日が強くなったら?」

 「それはないアル」

 「燕国民は、欧米日勢力を利用して楚政府を押さえ。民権拡大を狙ってるアル」

 「特に燕国は、アメリカ駐留軍が燕政府を牽制して、民主的アル」

 「日本は国益中心でリスクが大きく投資が集まり難いアル」

 「これからの時代は、燕投資アル」

 「しかし、規制の問題は?」

 「大丈夫アル。燕のバイオ米と新農薬は世界最強アル」

 「アメリカから権利を買って、いまでは、世界で燕国だけしか作れないアル」

 「しかし、食料は、アメリカ権益地が近く規制も強いので・・・」

 「日本人。アメリカと張り合う良くないアル」

 「アメリカは、人口も多く、市場も大きく、金もある」

 「サイバー医療も食糧バイオもアメリカ有利アル」

 「無駄な努力するより利用する宜し」

 「し、しかし、アメリカが善意とは限らないですし・・・」

 「ふっ 善意? 悪意に決まってるアル」

 「張り合うより、儲けることを考えるアル。燕と日本国民の両方から稼ぐアル」

 「な、なるほど、しかし、国民が不利益を蒙るのでは?」

 「人口減る方が良いアル。中国大陸全域に売り捌くアル。儲かるアル」

 「そして、中国大陸から良質の食料を得て、特権階級だけで食べるアル」

 「きっと儲かるから、日本も投資するアル」

 「んん・・・」

 「ほかの列強国は、みんな投資したアル」

 「えっ じゃ 日本も投資だけなら・・・」

 「それが一番アル〜♪」

 

 

 ヨルダン王国

 戦後、イギリスの委任統治領から独立する。

 イギリスは、インドの資金源と人的資源を失い、

 日本を頼って植民地の維持を画策。

 しかし、長くは持たなかった。

 アメリカ・ユダヤ資本を味方につけたユダヤ人は、パレスチナに上陸、

 着々と力を付けていた。

 アラブ・イスラム圏は、二枚舌のイギリスに対し抗議。

 しかし、国際的な主導権は、富めるアメリカにあった。

 とはいえ、戦争に至る条件を揃えても現実に戦争を始めるのは、その国の意志であり。

 列強各国は、ヨルダンの攻勢時期を知ろうと工作員を潜入させる。

 「ヨルダンとエジプトは、T54戦車とミグ17で兵装を固めている」

 「トルコが怖くて動けないのでは?」

 「トルコ軍3個師団がシリア・レバノン州に配備されているからな」

 「アラブ・イスラム軍も動きにくいか」

 「イスラエル軍もでしょうね」

 「見てみたいな。センチュリオン戦車、M47戦車、T54戦車の三つ巴・・・」

 「結局、実戦じゃないと戦訓は得られないから・・・」

 「でも、スエズが封鎖されても、日本は、大丈夫なの?」

 「治安が安定してるからな。でもバルカン・カフカスがどうなるか、試してみたい」

 

 

 トルコ・自治領カフカス連邦

 バクー油田権益は、巨大で安定していた。

 安定は、日本がバクー油田の収益を権益維持のため消費している他ならない。

 カフカスの日本駐留軍は、日本やバルカン連邦の支援を最初から諦め、

 孤立上等で、民族防衛上のため高原の資源地帯を押さえていた。

 日本人街は、霧の谷、緑の谷、風の谷のほか、

 雪の谷、栗の谷、雲の谷、梅の谷など増えていた。

 民間防衛は日本人の中でもっとも意識され、

 要衝には、ドーム状のトーチカが配置されていた。

 黄色いスイス人と言われたり、カフカス第4民族と言われたり、

 確固たる地位を築いていた。

 またバクー油田だけでなく、

 これらの街は、鉄鉱石、マンガン、銅、ニッケル、ダイヤ、金の鉱山を押さえ。

 地価は、数千倍に跳ね上がる。

 農業、工業、商業、流通、金融産業も独立していた。

 城郭・神社仏閣が作られると、日本人が居付き易くなり、

 現地のキリスト教と小さな摩擦を起こしていた。

 もっとも形式化し冠婚葬祭に特化した日本の神道・仏教にキリスト教と戦う気などなく、

 現地のキリスト教も、民宗分離の進んだ日本の宗教の内情が伝わると静観する。

 

 新型のトーチカ群が配置される。

 外見上は、家屋の一部、モニュメント、墓石のように見せられていた。

 クレーンで下ろされたドーム状トーチカは、地の利があり、

 監視カメラ、L7機関銃と連動した小型トーチカは、小型ながら300mm厚の装甲を持ち、

 その数倍の厚みのコンクリートによって巨大な覆われ、

 大岩のように埋められていた。

 これらトーチカ群は、地下施設のオペレーターとコンピューターによって一括管理され。

 高原都市を守っていた。

 地下シェルター 管制室

 テレビ画像に演習場の光景が映る。

 「こら! B22区の予備役は、トーチカの前に出るな、射線の邪魔だ」

 “は、はい、済みません”

 「やれやれ・・・有人トーチカとどっちが良いかな」

 「柔軟性なら有人だけど、人命と補給を考えなくていいのは、無人トーチカ群だよ」

 「しかし、カメラの掃除は、やってもらわないと」

 「トーチカは、戦車以上の装甲だ。戦車より小さいく命中も破壊も難しい」

 「対人トーチカは3mでも、60口径114mm砲のトーチカだと直径10mあるよ」

 「初期投資も高いけどね」

 「だけど、トーチカを家屋に併設するのは、どうかな」

 「ん・・・家が破壊されると瓦礫に邪魔されて撃ちにくいかもしれない」

 「土台がしっかりしてる方が喜ばれるし、無人と有人で相乗効果もあるよ」

 「安心ってやつかな」

 「敵しかいない方が敵味方識別で後れを取らないから、むしろ無人だけの方が良い」

 「味方殺しは後ろめたいからな」

 

 

 刀を背負った黒装束の男たちが草原を駆け抜け、

 ジープに乗った特殊部隊が追いかけ、機関銃を乱射していく、

 黒装束の男たちが、印を結び、気合いを言えれると、機銃の弾道が逸れ、

 一人の男が剣を抜くと赤い光が空を斬り裂き、ジープを寸断する。

 「へぇ〜 映画って、タネがあるのか、ちょっと興醒め」 アゼルバイジャン人

 「魔法忍者だって、ケイジロー。演劇の時みたいに、やってみせてよ」 グルジア人

 「レイラー。無理だってわかってるだろう」

 「日本人なら拳銃の弾道を逸らせるんじゃないの?」 アルメニア人

 「メデア。ありえないから」

 「でも、あれは? おじさんがケイジローに頼んでたやつ」

 「呪って殺しなんか無理だから」

 「でも日本人なら藁人形と五寸釘で確実って」

 「ぜったいにねぇ ていうか、大安祈願より、呪詛依頼が多いってどういうこと?」

 「もう、引き受けて、金取っちゃえば?」

 「アフォ」

 ハリウッド映画が形だけの梅の谷神社で魔法忍者映画を作っていた。

 

 

綾風
自重/全備重 hp 全長×全幅×全高 翼面積 巡航速/最高速 航続距離 乗員/乗客
18000/30000 3667×2 32×32×9 96 /640 3000 2/〜74

 カフカス連邦の飛行場に貨客機“綾風”が離着陸していた。

 「綾風は、どうです?」

 「悪くない、我が国の旅客機ほどではないが・・・」

 「綾風は、西太平洋、バルカン・カフカス連邦の航路で活躍しており」

 「二十数地域を結んで活躍して、補修関連も安定しております」

 「ドイツ帝国の乗り入れでも、十分、期待に添えられるかと・・・」

 「んん・・・なるほど、時に日本には、魔力に長けた忍者と呼ばれる部隊が存在するとか?」

 「は、はて?」

 「映画で見ましたよ、魔法を使い、光の剣を抜いて戦場を縦横無尽に駆け巡るとか」

 「あれは、アメリカのプロパガンダですよ」

 「仮にいたとしても、ジーンリッチ部隊には遠く及びませんよ」

 

 

 緑の谷

 万年雪の頂きは、神聖に見えた。

 山岳から吹き下ろす風が風車を回し、発電を起こして産業を支えている。

 薄い霧が薄れて行くと桃の香りが漂い、

 観光客は桃をもぎ取って食べていた。

 「のどかだねぇ」

 「中東がキナ臭いのに・・・」

 「カフカスが孤立して、ソビエト軍が攻撃してきたら、どうするんだろう」

 「女子供も増えているのに」

 「混血も増えてるんじゃないか」

 「美人が多いからね、わかる気がする」

 「日本語話してるし」

 「日本人は産業を押さえているし、日本語で教育を受けた方が有利だからね」

 「しかし、日本人の範囲も広くなりそうだ」

 「古い日本人は、多様に広がった日本人を信用できないだろうね」

 「単一民族の意識の限界ってやつか」

 「やっぱり、混血児の立身出世はないかな」

 「ムラ社会は世間の目を気にするからね。小心者は小さな違いでも村八分にするしね」

 「そういう人種差別は、後々、高く付きそうだな」

 「外地にいると内地の粗が目につくからね」

 「そして、外地で無能だと権威が失墜するから、威信を保つため民族主義の壁を作るんだよ」

 「内地が民族主義の壁に閉じ籠もって、攘夷劣化しなきゃいいけどね」

 「怖くて国境の壁から出られない連中は、国境ごと生存圏を押し広げようとするからね」

 「そういう意識の連中が国家中枢に集まると危険だよ」

 「国は国民の意識以上に広がらないからね」

 「だけど、こうやって、国外に意識が広がって良かったんじゃないか」

 「イギリスに騙されて、バルカン・カフカス権益を押し付けられたおかげだろう」

 「まぁ 怪我の功名だけど、この先も上手くいくかは、別だろう」

 「スエズがいつまでもつか分からないし」

 「だけど、シベリア鉄道で日本とカフカスを往復できるよ」

 「ソビエトは、アメリカとドイツに挟撃されている。日英同盟まで敵に回したくないんだよ」

 「だからといって、楽観としてられないと思うがね」

 「まぁ 国は軍事力だけで守れるわけじゃないだろう」

 「インチキが過ぎて、妬まれていないか?」

 「日本人は、特別な力があると、畏怖の目で見られてるよ」

 「神通力が消えた時が怖いね」

 

 

 厚木飛行場

 後退翼を持った戦闘機と、デルタ翼の爆撃機が滑走路の脇に並んでいた。

イングリッシュ・エレクトリック ライトニング戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
12719/18915 16.84×10.61×5.97 44.1 5886kg×2 2415km/h 2500km 2 4 1

 大きな後退翼の機体が地上を滑走し、急角度で上昇していく。

 日本空軍将校たち、

 「ロールス・ロイス エイヴォン301Rのライセンス生産は?」

 「これからだな」

 「アメリカのゼネラル・エレクトリックJ79より劣ってないか?」

 「J79は、推力5253kg。アフターバーナーは、推力7962kg」

 「エイヴォン301Rは、推力5886kg。アフターバーナーは、推力7277kg」

 「通常飛行ならエイヴィンの方が上だよ。エンジンに無理がない方が良い」

 「しかし、機首の空気取り入れ口は、古さを感じさせる」

 「機体サイド空気取り入れ口のF104スター・ファイター、Me800は設計で優れてる気がする」

 「レーダー・ドームで少し不利だけど、ミグより新しい感じがするぞ」

 「この機体で防空できるか」

 「数が揃えられればね」

 「数を揃えられないのが問題だよ」

 「バルカン爆撃機を作るから、戦闘機の数が制限されるんだ」

 「爆撃機は、爆撃機で、役に立つんだよ。アメリカ機動部隊に対する牽制にもなるし」

 「だけどねぇ アメリカと戦力を競う事もないだろう」

 「そうなんだけどねぇ B47と張り合いたいじゃないか」

  重量(kg) 推力 全長×全幅×全高 翼面積 最大速 航続力 武器 爆弾 乗員
バルカン /90720 9070kg×4 30.45×33.83×8.28 368.26 1038km/h 7403km 9525kg 5
B47 35867/100000 3200kg×6 32.6×35.4×8.5 132.7 945km/h 6437km 12.7mm×2 9980kg 3

 

 

 オランダ (インドネシア)

 日本の船舶が物資を降ろし、資源を乗せると日本へと向かう。

 需要が生まれると供給が生まれる。

 供給する力があれば需要が起こる。

 無分別な自由は、無責任な世界を作り、

 無能な支配は、抑圧とを生んだ。

 少数民族が多数派の人種を支配する恐怖が生んだ需要が起こり。

 資源の叩き売りは、日本産業に供給を起こした。

 日本商船

 日本人たちが甲板で銃声の連続音を聞いていた。

 「有利なのは、オランダ軍か、白人の神通力は圧倒的だな」

 「華僑が力を付けているようだが」

 「華僑は、どっちにも武器弾薬を売ってるからね」

 「華僑資本は、ようやく、自前の工場を建設したとはいえ、無節操だな」

 「力の付け始めは、分別をなくしても生存圏を拡大して、ぶつかるからね」

 「デジャブ・・・」

 「華僑は、インドネシア人の次が自分たちだと思ってるんだよ」

 「日本と存亡の恐怖のレベルが違うわけか、道理だな」

 「日本は最低限の存続圏を確保しているからね」

 「敵味方はっきり、冒険せず本命で安定収入ってか」

 「はっきりしてないだろう。総理大臣は、遺憾の意だと」

 「口で曖昧にしてるだけだよ。民族殲滅戦に加担してるなんて、集票に響く」

 「・・・だけど、部族ごと餓死なんて熱帯雨林じゃ 中々、起きないよね」

 「食料を買い占めて、兵糧攻めか、殺意丸出しだな」

 「東欧の白人を引っ張り込んで白人の比率を増やしてるらしい」

 「フランス領でもやってるから白人の業かな」

 「いやいや、抑圧し始めると、復讐を恐れてやめられなくなるのが人間の本質」

 「争いは刺激があるからね。人は刺激を求めて争うんだよ」

 「お陰で儲かるのが良いね」

 「片棒担いでるのが気が退ける」

 「同情するな。家に鬼を引き入れる方が悪い」

 「福は家。鬼は外ってやつ?」

 「まぁ 権謀術数で官僚を利用したり外戚を利用したり」

 「派閥抗争で外国勢力を引き入れたりだから、家や国家存続は大変な労力だよ」

 「白人は、キリスト教も利用しているな。部族社会は不利だ」

 「虐げられやすい主婦や二男、次女以降を味方に付けることができるな」

 「教会の虎の威を借りた主婦と二男、次女以降に下剋上をさせて長子制度破壊か」

 「さらに家族崩壊させれば、身分差別社会は滅びやすい」

 「キリシタンを禁止して、鎖国したくなるのも分かるね」

 「だけど、外圧を利用した開国は、日本にとってプラスだよ」

 「日本は、封建社会が確立されていたし、民族的に熟成できた後だからだろう」

 「熟成? 醗酵し過ぎて根腐れするところだったんじゃないか」

 「過保護で子供を腐らせる親もいるからね」

 「開国で武士、戦後に華族が衰えたのも道理だよ」

 「だけど、部族世界のインドネシア人は封建社会も確立していないから辛いだろう」

 「彼らは、国の保護を受けられない変わりに剥き出しの個人で世界と向き合ってる」

 「感覚的にはバルカン・カフカスの日本人と似てる」

 「そういえば、バルカン・カフカスの日本人は、どことなく日本人と感性が違うな」

 「まぁ 内地は、針小棒大でいがみ合い易いからね」

 「外から冷静に内地を見れる人間は貴重だよ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 魔力の発動は、土、火、水、風の特性で現われる。

 統計上、血液型の影響が強く、

 土系統がO型。火系統がB型。水系統がA型。風系統がAB型になっていた。

 また、強弱のランク付けも多様だった。

 風系統を大まかに分けると弓矢を誘導し加速させることができた。

 その本数で力量を把握できた。

 Aクラスで100本〜、Bクラスで70本〜、

 Cクラスで40本〜、Dクラスで1本〜 を

 もちろん、命を削ってのことであり、Aクラスの方がより寿命を削られる。

 そのため、より効率的な魔法運用が心がけられた。

 

 矢がそばを掠めていく。

 喰命鬼(狼)が魔法使い(犬)約3人と鬼族(羊)約50人に追われていた。

 というより、人鬼村製飛行帆船3隻が戦力比を決定的なモノに変え、

 喰命鬼狩りをリスクの少ないモノにさせる。

 「リュエリット、テレシア、もっと近づけ、矢を逸らせなくなる」

 「「はい」」

 矢は可能な限り近づけさせた後、逸らす方が魔力(寿命)を保てる。

 そして、寿命のストックは残り二人分、

 喰命鬼は、基本的に掛け捨ての魔法使いより有利だった。

 しかし、敵の群れが多いと事情も変わる。

 喰命鬼エルフ族ハミハラは、寿命を収奪できる特性があるだけであり、

 ハミハラの魔力の総量は、Bレベル下位。

 あるいは、Cレベル上位に過ぎない。

 圧倒的多数に追い詰められると、どうしても不利であり。

 計算上、逃げなければ殺される。

 「ったく、人鬼村ができてからロクな事がねぇ」

 「飛行帆船も剣も強くなりましたからね」

 「特にあのクロスボウはヤバい。魔力で加速させていないのにあの速度では・・・・」

 銃声や砲声と同時に防御壁を張れる銃器、大砲より、

 無音に近いクロスボウは魔法使いの誘導加速無しに長距離を飛ばせて危険だった。

 絶えず、周囲に気を配らなければならず、

 油断をすれば喰命鬼でさえ致命傷は避けられない。

 「撃て」

 リュエリットとテレシアが後ろを向き、同時にクロスボウを放った。

 ハミハラによって加速した矢は、一直線に飛行帆船の射手に向かい、

 ぎりぎりで、魔法使いの魔力によって逸らされる。

 やはり射下ろすのと、射上げるのでは、元々の勢いが違った。

 「狩りが慣れてやがる」

 「ハミハラ! この先は、未開地よ」

 「・・・行くしかない」

 喰命鬼でさえ前人未到の未開地は脅える。

 

 

 

 

 

大和
飛行石 重量 全長×幅×吃水 全幅 hp 最大速度 航続力 乗員
1000t 8000t 122×48×7.02 60 15400+6000 600km/h 37500km 172
45口径114mm砲×2 60口径40mm連装砲×2基 60口径25mm連装砲×2基 飛龍 晴嵐改×2機

 大和は、アルフヘイム国の飛行帆船艦隊20隻と未開地開拓に向かう。

 元々、人口の少ない人鬼村であり、

 未開地を開拓したとしても維持することはできない。

 この未開地開拓に派兵したのは、製鉄所に必要な金属を安定して得るためであり、

 飛行石採掘権を得るためだった。

 装甲飛行帆船 大和 (伊400号+伊161号+伊401号) 艦橋

 「人鬼村は、大丈夫でしょうか?」

 「飛龍と晴嵐改2機を置いてきた。大丈夫だろう」

 「ベビーラッシュで不安なのですが・・・」

 「養育費だと思いたまえ」

 「養育費ですか、日本へ召魄費用を含めても、たくさん産めそうですな」

 「喰命鬼を一人か二人、日本に送り込めれば、安定して飛行石を召魄できるのだがね」

 「喰命鬼は、危険では?」

 「危険だとも、しかし、確認した使い魔の最大総数は、20人以下と聞く」

 「日本側は準備できているし」

 「それに使い魔限度が20人以下なら、日本を支配することなどできんよ」

 「もう少し、喰命鬼抗体の研究を進めてからにしたいですね」

 「万全なんてあるものか、勝率が良ければ、思いっきりじゃないかね」

 「もちろん、戦端を開けば思いっきりやります」

 「しかし、戦端は、慎重にしたいものです」

 「君は政治家向きかも知れないな」

 「そうですか?」

 「まともな議会を作るなら、あと、一万ほど人口が欲しいな」

 「ええ・・・」

 地平線上に黒い巨大生物が現れる。

 全長30mほどで、ドラゴンに似たバケモノだった。

 「全長122mの大和の方が大きいな」

 「気休めにはなりますね」

 「砲雷撃戦用意!」

 魔法の杖と連動したルビー・レーザー砲座に将兵が配置について行く。

 両翼の主翼にも赤い光線が走って、その気になれば主翼で焼き切ることもできた。

 「砲撃準備完了しました」

 「可能な限り近付いた方が良いだろうか」

 「魔力があれば、逸らされますから、近付いた方が無難です」

 「ルビーレーザーの射程が長ければ、こんなラム戦モドキをせず、済むものを・・・」

 巨大生物の放電が大和の艦体をバチバチと叩く。

 艦の内側にゴムを敷き詰め、避雷針を垂らしてなければ、危険だった。

 「雷・・・噂通りか」

 「大気中に氷結層を作って、放電を誘導しているのだろう」

 「乗艦している魔法使いに雷の道を外させます」

 「ああ、だが、これだけ大きな鉄の塊だ。そう簡単にいかないだろうな」

 「はい」

 「雷帝トール。こんな生物がいるなんて・・・」

 「この世界の者が勝手に付けた名前で、トールが自己紹介したわけじゃあるまい」

 「トールと意思疎通ができるのでしょうか?」

 「魔法使いが試みた事があるらしい、知性は高いようだが意志の伝達が違うそうだ」

 「少し残念ですね」

 バツィ!

 アルフヘイムの空中帆船のマストが破壊され、炎上する。

 「3番艦被弾。火災起こしました!」

 「ちっ! まだ遠い、114mm砲で援護する」

 「撃て!」

 114mm砲弾は、命中する直前に逸らされ、大地を吹き飛ばして噴煙を上げる。

 「・・・距離300m!」

 「ルビー・レーザー発射!」

 ルビー・レーザー砲が大気を切り裂いて、巨大生物に突き刺さる。

 咆哮が大気を震わせ、さらに雷が落ちて、びりびりと大和が震える。

 帆船群が両翼からトールを囲み、攻城弓から放たれた矢が雷帝トールを襲い。

 逸らされていく。

 「・・・こりゃ 未開地開拓が大変なわけだ」

 「命懸けですね」

 「だな。左舷翼、最大出力!」

 「総員、耐衝撃、掴まれ!」

 大和にブレーキがかかり軋みを立てていく、

 左翼に沿ったルビーレーザーが雷帝トールの体を焼き、灰色の血が噴き出していく。

 そして、衝撃とともに大和とトールが逸れていく。

 「何てやつだ。この8000トン級の大和を魔力で跳ね返そうとしてやがる」

 「アルフヘイム5番艦と8番艦が本艦に接近!」

 「後進! 面舵一杯、降下!」

 左舷の5番艦と右舷の8番艦が大和を上下に挟むように近付き、離れていく。

 「なんて、魔力だ」

 「速度最大、取舵。大和を中心に隊形を立て直せ!」

 大和と生き残った17隻の飛行帆船は、物量作戦で、雷帝トールを駆逐し、

 未開地を制圧していく。

 

 

 大和

 医務室にエルフが寝かされていた。

 「このエルフが喰命鬼かね」

 「はい、湿原に倒れていました」

 「どうして、喰命鬼と分かる?」

 「この未開地の奥地で生きているだけで、喰命鬼の証明ですよ」

 「弱っているようだが、レベルはどの程度だろう」

 「魔法使いで言うと、中レベル以上でなければ喰命鬼になれないかと」

 「日本にとっては踏み絵だな」

 「特定個人だけでなく、一般人の寿命も、ですか?」

 「いままで、特定個人を犠牲にして国益を保ってきたのだ」

 「喰命鬼の力で、公平にする点は意義があるよ」

 「仮に中レベルの魔法使いであったとしても、召魂、召魄が限度では?」

 「生命の召喚は、中レベルの魔法使い5人以上欲しですね」

 「召魂、召魄でも十分だよ」

 「これ以上、国家のエゴで子供たちの寿命を食い潰すのは気が退ける」

 「確かに・・・」

 「問題は喰命鬼の危険性か・・・」

 「彼の抗体は?」

 「培養中です」

 「話が通じれば良いがね」

 「ええ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 戦後、日本の防空は、ライトニング戦闘機とバルカン爆撃機です。

 あと、綾風の対空哨戒機、対潜哨戒機。

 

 

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第18話 1958年 『神の名は・・・・』
第19話 1959年 『衣食住足りて礼節を失う』
第20話 1960年 『長いモノに巻かれて事勿れ』