月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第20話 1960年 『長いモノに巻かれて事勿れ』

 15世紀以降、

 西欧諸国は、大航海で海外に足場を構築し、

 王族と政府は、支配と富の誘惑に抗しきれず植民地政策を始める。

 官僚、軍組織、企業体も盤石な権力の座と豊かな生活を求めて海外覇権を要求した。

 近代化は膨大な資本、資源、労働力の大規模な投資によってなされ、

 資本、労働力、資源の集約は進んでいく。

 初期の資本家は財力に取り憑かれ、さらに富を求め、

 権力者たちは、さらに権力を求めた。

 富も権力も競争しなければ保てず、

 常に後進に追われる事から利益誘導を止める事ができなかった。

 その代償として、富の集約は少数の勝者と多数の敗者を作り、貧困層も生んだ。

 生殺与奪権を奪われた貧困層は、搾取され、

 あるいは、差別の重圧に押し潰されていた。

 列強国内でさえ、貧富と階級差別が広がり、

 植民地は、上層部を白人に占められ、何重にも搾取され、さらに悲惨だった。

 しかし、時が流れるに従い状況も変化していく。

 現地の白人人口は増え、同化も進み、植民地を故郷とする白人の比率も増していく。

 列強間の資源・市場獲とく戦は、ますます負担が大きくなり、

 資源の売却益で民族資本も徐々に作られ、

 白人のやり口を身を持って悟っていた。

 近代化の下地が植民地に造られるようになると費用対効果が悪化し。

 欧州戦争後、列強は、国力を弱体化させ、植民地を維持できず崩れていく。

 植民地の単独支配を困難にさせ、

 同盟国、あるいは友好国との利権分けによる権益維持に移行していた。

 

 一方、植民地側も困難な問題があった。

 粗野な原始社会から文明を興すには、文字と法律と階級社会を作らなければならず、

 国民は忍従を積み重ね、

 高度な知性、練熟した理性、豊な感情、経験とノウハウを育まなければならない、

 20世紀後半、植民地民の識字率が増し、

 独立気運が高まっていくと、反白気運も高まっていく、

 支配欲と憎しみを内に秘め、自己満足な正義を振りかざす者たちが現れる。

 彼らは、一様に自らの欲望のため、口々に黒人解放を叫び、

 民衆の不満を駆りたて、立ち上がらせ、人民を煽り掌握していく。

 しかし、粗野な者たちに武器を手渡し惑わせる。

 白人を排斥する植民地は、近代化のノウハウが失われ、

 奴隷を労働力にした生産力すら失われ、飢餓と紛争が起こり、黒人同士で争う。

 解放を叫びながらも、白人以上に同胞の黒人を奴隷にし、酷使しなければ餓死が蔓延した。

 これも一つの側面だった。

 

 一方、独立運動の高まりに合わせ、

 資本家も、政府の統制や税逃れを目論み、

 現地独立勢力と結託試みる資本家層も現れる。

 資本家も、より大きな利権になびく傾向にあった。

 利権の大きさに惹かれ、自らの王国を構築しようと考える資産家も現れる。

 これらの現象は予測され、想定の範囲ともいえた。

 

 南アフリカ共和国

 日英同盟と自由フランス植民地は、状況の変化に戸惑い。

 植民地の治安維持で必要なのは、高性能な兵器でなくても良く。

 費用対効果で言うと程度の低い飛行機と装甲車で良かった。

 それでも黒人解放のうねりは大きく、植民地の維持費用は嵩んでいく。

 飛行場に日英の機体が並び、

 イギリス人のパイロットだけでなく、

 賃金が安い日本人パイロットも任務についていた。

  自重/全備重 hp 全長×全幅×全高 翼面積 最高速 航続距離 乗員 武装 爆弾
ライサンダー 1834/2866 870 9.29×15.24×3.5 24.2 341 966 2 7.7mm×3  
三式指揮連絡機 1110/1540 280 9.56×15×3.30 29.40 178 750 3 7.7mm×1 100kg

 イギリス人パイロットは、墨色で文字が描かれたTシャツを見せて自慢げ。

 「・・・なぁ 良いだろう。財布が重くなるまじないが描かれているんだ」

 “へそくり”

 「この文字に魔力があるんだろう?」

 「・・・かもね」 脱力

 日本語の漢字、ひらがな、カタカナが描かれたシャツは良く売れる。

 「今日も日本人街で、一杯やるか」

 「最近、よく行くじゃないか」

 「日本町が大きくなってるからな。もう何でもあるんじゃないか」

 「日本人は、よく移民出来るな」

 「人は石垣ってやつかな」

 「単一日本民族の特性か。阿吽の呼吸は羨ましいねぇ」

 「ムラ社会の因習とか、国家の枠組みに隷属した意識だよ」

 「民族主義者は、倫理、規範、思想を考慮しないからね」

 「それに比べて、欧米諸国民は市民革命で、意識が国家から独立してるし」

 「政府、地域、資本、銀行、家族を並列的に認識している」

 「自立した意識が利敵行為になる場合もあるからね」

 「資本家は、イギリス連邦から植民地を離脱させても権益を守りたがっている」

 「資本家に対する政府の反発がアパルトヘイト政策(人種隔離政策)の非難だろう」

 「そういえば資本家と政府の鍔迫り合いに巻き込まれてる気がする」

 「軍隊は、むかしから利権の駆け引きに使われやすいからな」

 「いまでも同じだ」

 「なぁ 日本人、魔法でイギリス連邦を維持してくれよ」

 「うんなものねぇよ」

 

 

 アフリカ大陸 イギリス領

 植民地支配に強力な兵器は必要ない。

 費用対効果であり、採算割れなら植民地放棄もありえた。

ブリストル ベルヴェデア
重量/全備重 全長×全幅(ローター)×全高 hp 速度 航続距離 乗員 積載
5028/8600kg 16.56×14.9×5.18 1092×2 222 720km 3 18人
2700kg

 ヘリからイギリス人と日本人たちが降りてくる。

 喋るのはイギリス人が多く、日本人は聞き役になることが多かった。

 「黒人が独立したい意欲は分かるがね。ほとんどが土民だ」

 「統一した言語のない部族社会で、共有する歴史も知識を蓄積した書籍ない」

 「封建社会を通過しておらず、官僚機構もない」

 「近代国家が必要とする最小限度の文明すらない」

 「当然、知識、想像力、経験、忍耐、公益、鍛練、規範とも不足している」

 「表も裏と知って、高い視点と広い視野。あと、下積みな経験も欲しいところだ」

 「知的水準は中学生以下だ」

 「中学生? 掛け算を知ってる部族がいたかな」

 「権力を握ろうとしている勢力も大して変わらないよ」

 「彼らは正義の味方を気取って戦う力があるだけで、なんのビジョンはない」

 「仮に独立しても独裁になるだけだろう」

 「独立したところで生産力を失って餓死するか、利権と資源を巡って殺し合うだけだ」

 「彼らは身贔屓でそう思ってないようだが」

 「まぁ こちらだって、確証があるわけじゃない」

 「断片的な事実の集まりを推測で繋げただけだからね」

 「後先考えない解放勢力の熱情よりマシだよ」

 「扇動家に言わせれば民衆は感情で動くよ」

 「我々もそうしてるし、敵もそうしてる」

 「いい加減に理性の時代になっていい頃だが」

 「理性は人を動かす原動力になれないからね」

 

 

 インド

 暗殺を乗り切ったガンジーも歳に勝てず亡くなる。

 ヒンズー教徒とイスラム教徒は、同等の権利が認められており、

 相互議員選出により、不和は広がらず、

 インド・パキスタン連邦のまま呉越同舟が続き、

 世にも不幸な同居離婚といえなくもない。

 カースト制に対するアンチテーゼがイスラム教であるともいえる。

 そして、力を付け始めたダリットを中心に仏教の復権も起こる。

 これは、日本の魔業効果とも言われ、

 日本圏の浸透は、経済波及効果だけでなく、

 政治外交文化宗教など多岐に及ぶ。

 日本人たちが本場のカレーを堪能していた。

 「もっと日本人好みのカレーにすべきだろうか」

 「いや、本場カレーも捨てがたい」

 「ナンでカレーを食べるのも良いねぇ」

 「ナンは、フライパンで作れないのか?」

 「まぁ 作れそうだけど日本人は米が好きだからな」

 「電化製品が増えて、めんどくさがりで向上心のない女が増えてきたからね・・・」

 「いくら掃除洗濯炊事が便利になっても、それ以上に妻が怠惰になったら、どうしようもないよ」

 「世の中が便利になって存在価値が低下で精神病だからな」

 「だから家電に反対したんだ」

 「まぁ 見栄ってやつかな、わかってても買っちゃうのさ」

 「インドの近代化はどんなものだろう」

 「カースト制が癌だな」

 「植民地になる前のインドは、ヒンズー教とイスラム教で憎しみ合っていたのかね」

 「憎しみ合っていたからイギリスに植民地にされたのだろう」

 「戦国時代に黒船が来なくて良かったよ」

 「鎖国は、対外勢力を排斥して武士の権力構造を維持する政策だよ」

 「鎖国が日本にとって良かったかと言われると微妙だな」

 「引き籠っていたのと同じだからね」

 「なには、ともわれ、幕府は260年以上も支配体制を維持できたわけだ」

 「封建社会を熟成させたと言えなくもないし、外交能力を喪失したと言えなくもない」

 「通訳者があと3倍いればもう少し有利だったかな」

 「どうだろう。貧しかったから売国奴続出だったかも」

 「いや、1600年なら、ハングリー精神でアジア太平洋沿岸からアメリカ西海岸まで頑張れた」

 「だったらいいがね・・・」

 

 

 日本の近代化は、農地の収奪、零細手工業の接収により進む。

 これは、産業革命以降、どの国も国民も通過した儀礼であり、

 これなしに国家の工業化は成し得ない。

 初期の資本主義は資本家同士の歯止めのない競争であり、

 労働者をギリギリまで酷使しなければ、採算率から工場は潰れ、

 他の資本家に負けるのである。

 労働者は、子供でさえ、繊維工場で18時間以上も働かされ、

 5分も遅刻すれば、賃金は4分の1に落とされる、

 資本家は、労働環境をいたわる余裕もなく、

 労働者は、工業廃水、生活排水の流れる川水を飲料水として使い、

 結果的に伝染病が広がっていく。

 弱者の労働者が団結し、労働運動を起こすことで、社会主義が育ち、

 議員は集票欲しさに労働者の味方をすることで、政府が法整備を行い、

 資本家同士も、徐々に足並みを揃え、

 ようやく、過酷な労働を低減させていくのである。

 イギリス、アメリカ、フランスは近代化で先行し、

 個人の権利が強く、競争力を落としても、労働環境を改善。

 ドイツ、日本は、工業化で後塵を踏み、

 海外領土、市場のないことから労働環境の改善を後回しにしたのである。

 しかし、アメリカ資本主義の極東権益地が軌道に乗り、

 後進の中国七軍閥、インドが近代化しつつ、国際市場に参入すると状況も変わる。

 日本の移民事業で起こった人口減は、青田買いを呼び、

 労働者の売り手市場で労働環境が改善されていく。

 議員の集票稼ぎは、法整備を進ませ、

 労働環境は足並みを揃えながら改善されていく。

 某工場

 所長と役人が睨み合う。

 「お前ら、日本資本が外国から稼いでいることを知っているのか?」

 「労働者が働いた税金で食っているのに、労働基準法だと?」

 「自分で自分の首を絞めて、なに考えているんだ?」

 「いや、法律で決まったことだから・・・」

 「外国からの収益が落ちても良いのか?」

 「中国資本に追い上げられるぞ」

 「まぁ そうなんだけどね」

 「けっ 労働者も古女房も実権を与えると怠けるし突け上がるんだよ」

 「ほら、だけど、先進国らしい労働環境ってあるだろう?」

 「どうやって、先進国になったか言ってみろ」

 「か、環境が良くなって、給与を上げれば、外地の日本人労働者も戻ってくるし」

 「・・・・・」 むっすぅううう〜

 「ほかの同業他社も横並びだし、ここは頼むよ」

 「・・・・・」 むっすぅううう〜

 当然、国際競争力も低減していくのである。

 また、この時期、行われていた積極財政は、人工的な強制供給であり、

 即興的な市場の需要に追随できず、

 特定の利権産業のみが甘い汁を吸うのである。

 晴れているのに傘を売り、

 雨が降っているのに帽子を売る、

 無理な国家運営、不自然な経済活動と言えなくもない。

 とはいえ、国家基幹産業形成は、大規模な投機を必要とし、

 状況に応じて、再生産や波及効果も認められ、

 放漫財政、赤字運営で私腹を肥やし、浪費しなければ有効に思われた。

 津軽海峡トンネル。

 高台で白人たちが双眼鏡で工事現場を覗いていた。

 「工期が早いな」

 「上が電気自動車道で下が鉄道の併設らしい」

 「やはり、日本はインチキしているのだろうか」

 「電気自動車という事は、アメリカの石油戦略には乗らないということかな」

 「日本は、政治外交軍事でイギリスだから、アメリカと中国の経済依存を下げたいのだろう」

 「相互依存が進んでいるから、どっちが優位とは言えないがね」

 「どちらにしろ、日本は、外交戦略上の自由を得るために国民を酷使しているわけだ」

 「ケインズ経済だよ」

 「移民で人口が増えていないというのに資本の回収を考えずにやってるな」

 「資本家と官僚の懐を肥やすだけだ」

 「むしろ、それが目的だろう、」

 「日本は、農家と零細手工業者を減らして労働者を作らないと経済が回らないかもしれないな」

 「掛け捨て国防費よりマシだよ」

 「赤字じゃなければね」

 「たぶん、中東の石油が高くなる前に掘れるだけ掘るつもりだな」

 「しかし、国防費を顧みず、これだけの公共投資は心臓だな」

 「どうせ、日本は、燃料も鉄も海外に頼っている」

 「軍事的な覇権を望んでも息切れする」

 「どうかな双頭龍と七頭虎が結べば、形勢が逆転しかねんよ」

 「中国は分裂した事で、対日憎悪が弱まっているだけだ」

 「七頭虎の国力が増せば日中の不信感は大きくなっていくよ」

 「まぁ 道理ではあるがね、肝心なことを忘れてないか」

 「アメリカ極東権益地は、七頭虎を合わせたより生産力があるだろう」

 「中国の資本主義は、初期のものだ。地下資源は豊富」

 「我々の人口の5倍以上で、中国民衆は、飲まず食わずで3倍以上の時間を働かされる」

 「華僑資本同士の競争で、中国労働者は虫の息だな」

 「だが7ヵ国に分裂している事で競争が起こり、不正腐敗は減っている」

 「そして、無理、むら、無駄は、日本より多い。しかし、総量の差は圧倒的だ」

 「極東権益地が七頭虎に追い抜かれるのも長くない」

 「そして、産業が大きくなれば軍事力は捻出される」

 「アメリカ国民は国防費の増加を拒んでるがね」

 「贅沢なのさ。アメリカ人の一人当たりのエネルギー消費量を知らないんだ」

 「アジアで戦争が起きれば、大儲けなんだがね」

 「どうせなら呉と穂で戦争して欲しいね。日本が巻き込まれたら最高だ」

 「どうかな。日本は、法務省が優位で、民需と国民が強くなってる」

 「どうせ、戦争が始まっても我々と同じだ。高見の見物で荒稼ぎするよ」

 「なぁなぁ長いモノに巻かれて事勿れの日本で法務省が力を付けるとは意外だね」

 「歴史的は、鎌倉時代の室町時代のに移行して地域色が強くなってる状況に近いよ」

 「守護制から守護大名制か。中央で跡目争いが起これば戦国大名が現れて、日本分裂もありかな」

 「どうかな、当時と違って、アメリカの圧力で内輪もめは起こり難いし」

 「民主化も進んで内圧も低い。日本で分裂は起こり難い」

 「外地の独立採算が進んでいるから、内地と外地の分離の方が可能性として大きいか」

 「日本の中央は、外地の利権を手放しつつあるわけか」

 「外地にのめり込んでの軍部台頭を防ぎたいのだろう」

 「朝鮮と満州の経験則ってやつかな、日本にしては、良い判断だ」

 「まぁ 外地の権限を認めてる形だが手放しても惜しくないという感じだな」

 「どちらかというと、アメリカの方が極東権益地に執着しているよ」

 「みっともないねぇ」

 「資本家が割安の労働者を手放すものか」

 

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 涼(蘭州)は、中国七軍閥国の中で唯一共産主義国家だった。

 ソビエト連邦の支援によって、軍事的な独立は維持されていた。

 労働者、団結、革命などの看板と、無機質な街並みが建設されていく。

 日本領事館

 「1億5000万総奴隷だったのが涼も変わってきている」

 「一部、資本主義を取り入れ、近代化が始まっているようだ」

 「涼が本家ソビエトと衝突するのなら良い傾向じゃないかな」

 「平等という言葉が好きな連中もいる。彼らは、共産主義の味方さ」

 「この世界を見せてやりたいね」

 「一党独裁の共産主義に自由はない。政治的な聖域は監獄を作るよ」

 「しかし、資本主義取り入れは、思想的自殺だね」

 「言う事と、やっていることが違うから中国人も無茶する」

 「白ネコでも黒ネコでも、ネズミを捕るネコが良い猫だよ」

 「ロシア人が思想かぶれで頑固なんだよ」

 「中国人は、元々、利己主義者で、共産主義も、民主主義も信じていないよ」

 「自分に正直で羨ましいねぇ」

 「伝統的に強制されているから自制する必要はないんだよ」

 「教条主義は人を殺すことがあるからね」

 「国民性だな・・・」

 「日本も政官財誘導の統制型資本主義じゃないかな」

 「それぞれの政体には、それぞれ問題があるし、弱点がある」

 「それぞれの政体の持つ弱点を国民が知っていることが重要と言えるね」

 「政府は、他国政体の悪口は言えても、自国政体の弱点を正直に国民に言えるかな」

 「まぁ 言えないな」

 

 

 イギリス空軍基地

 日英の軍関係者が集まっていた。

 「「「「うぉおおおお〜」」」」 関係者

 「すげぇ〜」

 「本当に飛んだよ」

ホーカー・シドレー ハリアー戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
5530/11500 13.90×7.70×3.45 18.5 8450kg 1185km/h 2580km 1 4 1

 垂直に離着陸をするジェット戦闘機は、世界初だった。

 日本人技術者たち

 「チタン部品を納入した甲斐があったね」

 「規格品のチタン化は進んでいたからね」

 「でも、嗜好品からチタン化って、微妙だな」

 「嗜好品は、高くても金を出すから市場原理でしょ」

 「チタンで戦車を作るより、チタンでゴルフのドライバーやメガネフレームを作った方が捌ける」

 「儲かるから産業も強くなるね」

 「試行錯誤するなら嗜好品からって言うのが経済の流れか」

 「どちらにしろ、空母建造は決まりかな」

 「ん・・・飛行甲板が熱で焼けるんじゃないか」

 「というか、日本国防省は、ハリアーを買うかな。計画通り哨戒ヘリ空母になりそう」

 「あいつら、渋ちんだからな。必要ならどこかを削れってなるよ」

 「三陸に海軍基地を引っ越しただけで軍民合わせて、自殺モノの大騒ぎだったんだぞ、削れねぇかも」

 「民間企業は、採算で部署切りをやってる」

 「軍部が部署切りが忍びないって、甘えて良いわけじゃないよ」

 「産業が増大して国家予算は増えているのに、物価高騰で人件費も大きくなってるからな」

 「結局、私腹を肥やして貯金している庶民が広がってるだけじゃないか」

 「日本みたいに貧富の格差が小さいと大規模な開発は国家主導になってしまう」

 「当然、アメリカ資本の方が強くなるし、日本資本は太刀打ちできない」

 「だから国家統制が強くなり、権威主義で国内法で日本資本を守っているのだろう」

 「そんなことばっかりやってるから、体質が膠着化するんだ」

 「貧富の格差を広げて労働者を追い詰めれば、効率が高まって、ハリアーも配備しやすいよ」

 「もっと、資本を集約させ、巨大資本を自由にさせれば自由で採算性の執れた効率的な産業になるのに」

 「アメリカみたいにか」

 「あそこは貧富の格差に耐えきれなくなっている。ヤバいな」

 「中東で戦争を起こして、貧富の格差を誤魔化そうとしてるんじゃないか」

 「モンロー主義が強いから、中東じゃ アメリカの世論は動かないよ」

 「ベネゼエラはまだ無理そうだ」

 

 

 三陸海岸に津波が押し寄せ、防波堤を乗り越えた波が海軍基地に流れ込んでいく。

 海軍基地

 海軍将校たち

 「魔法使いは宿命的なモノがあるけど、自分に回ってくると躊躇するよね」

 「一般人は、宿命的なモノを感じないから、心情的に辛いよ」

 「散々、子供たちの寿命を奪っておきながら自分の命を惜しむか・・・」

 「自ら自身を鍛錬して才能を開花させたエリート官僚には、辛い選択だね」

 「・・・あ・・来た・・」

 直接、太平洋岸に向いていないドック口に。うねりが押し寄せ。

 艦船がゆっくりと上下していく。

 「「「「「・・・・・」」」」」 ごくんっ!

 そして、静かに収まっていく。

 「チリの地震から22時間で、6メートルの高波が日本に到達か」

 「救援は?」

 「順調だよ。人的被害はほとんどないはず」

 「軍は防波堤と魔法使いの警告で事無きを得たが、民間は後回しか」

 「なかなか、民間の盾になれないモノだ」

 「軍機を守るため民間を犠牲にするってどんなものかな」

 「法務大臣が良いというのなら良いんだろう」

 「それに敏速な救助活動で政府、官僚とも信任されている」

 「しかし、善悪の指標を法務省に求めるのはどんなもんだろう」

 「情報を握ってるのは、法務大臣だから怖いよ」

 「こちらに来る喰命鬼は、法務省と国防省。どっちの所属かな」

 「他人の寿命を削るのだから法務省だよ」

 「確かに軍内部だけで寿命のやりとりは、まずいか・・・」

 「志願者はいるよ。だけど数が少ないだろう。負担が大き過ぎる」

 「軍刑務所だけじゃ無理だし」

 「魔力の代償が寿命以外なら楽なんだが」

 「軍だけじゃ駄目か」

 「やっぱり囚人を?」

 「人体実験で、刑期短縮という形だろうね」

 「日本は治安が良いから微妙だな。情状酌量があると気が退けるし」

 「やっぱり、法務大臣に押し付けるしかないか」

 「そういや、法務大臣が辞めたがってるらしいぞ」

 「またかよ」

 「喰命鬼が来ればもう少し、マシになるのかな」

 「どうだろう。聞いた話しだと犯罪者とか、質の悪い寿命は敬遠したがるらしい」

 「グルメかよ。吸血鬼にあるまじき行為だ」

 「いや、映画の吸血鬼も美女しか襲わないから、あれは、整合性あるよ」

 「ビジュアル効果だけと思ったが」

 「美人の気質が良いと限らないらしいよ」

 「なるほど、じゃ 喰命鬼が好みそうな娘と結婚するのが良いのか」

 「まぁ 悪妻に散々利用されて、ボロ雑巾のように呪い殺されるより、良いかも・・・」

 「女も怖いからねぇ」

 「というか、火に飛び込んでいく男もどうかと思うよ」

 「本能だからな・・・」

 「問題は、喰命鬼を管理下に置く事が出来るかだろう?」

 「レベル的には中級レベルだそうだ」

 「こちらには上級レベル5人、中級レベル16人がいる」

 「喰命鬼は、寿命を吸収するからね」

 「好きなだけ魔力を使える喰命鬼と、魔力で寿命を消耗させる魔法使いでは格が違うよ」

 「抗体はできてるから大丈夫だよ。たぶん」

 

 

 国家基盤は人である。

 国民の衣食住で危機的状態になれば、国家体制の破壊につながった。

 また、教育レベルと人的資源の総量で劣っても他国に太刀打ちできないのである。

 犯罪率が高く、人間不信が大きいと社会生活もままならず、

 国家基盤すら形成できない。

 階級、地域、貧富の間で相克が大きければ内戦に至る可能性は高まり、

 国体すら危ぶまれるのである。

 軍事力は、国土、国民を守る手段の一つでしかなく、

 軍事力に傾倒することで国家財政が破綻し、

 国民の政府離反を招き、国家体制が破壊されるのでは本末転倒と言えた。

 戦後15年

 日本とアメリカ極東権益地の工業力は、国内国外を問わず。

 産業基盤の脆弱な地域から原料と資本を根こそぎ奪い、

 アジア太平洋経済覇権の中心だった。

 アメリカ極東権益地はアメリカ資本のドル箱であり。アメリカの植民地だった。

 漢民族、朝鮮民族、日本人、台湾人は労働者であり、

 外資を得る契約就労者でしかなく、自らの生活を守る以上の忠誠はない。

 もっとも、日本人街が作られ、生活基盤が大きくなっていくと事情も変わる、

 利権が大きい者は、郷土心が生まれ、自衛する気持ちになりやすく、

 虐げられる者は、他力本願で解放者を望んだ。

 欲に目が眩めば、金次第で敵を引き込んだ。

 アメリカ極東権益地は、内憂外患無ながら、アメリカ資本の切り札であり続けた。

 それは、アメリカと戦争したい国が存在しないからであり・・・

 経済企画関係の研究所

 「いまのところ日本は、利権で余裕があるよ」

 「利権のパイが一杯になれば、豊臣秀吉みたいに海外に領地を求めたくなるだろう」

 「欲望のまま量の拡大か、果ては見えてるな」

 「徳川家康みたいに外国勢力を排斥して、取り潰しで収めることもできるよ」

 「重商主義を執れば拝金主義が強くなり、重農主義だと権威主義が強くなるからね」

 「階級制度はないし、自由競争なら生産効率が高くなるよ」

 「競争は潰し合いに近い」

 「努力して自らを高めるより、ライバルを貶める方が楽だからね」

 「貧富の格差が小さいと大規模な投資が難しくなる」

 「貧富の格差を広げれば余剰資本で近代化できるが、貧民層は離反する」

 「だからって、積極財政で借金先送りでやるのは、問題じゃないか」

 「平均年齢が低い間は大丈夫だろう」

 「平均年齢が高くなるとヤバくなる」

 「日本も、ドイツみたいに老人・心身障害者の安楽死を制度化すれば・・・」

 「ドイツ民族にしかできん」

 「人口以上の産業と国益を求めるには、貿易収支を黒字にするしかないよ」

 多くの国は危険の伴う覇権主義を避け、

 特定の勢力が益をえ、特定の勢力が損を被り。

 あるいは、放置。

 あるいは、国内の既存権益潰しと資産の再分配で軋轢を解消していた。

 

 

 バルカン連邦

 中東の戦雲が高まると居留してる日本人の不安も増していく。

 日本とバルカン連邦の関係は、日米修好条約の裏返しに近い。

 日本に関税自主権と治外法権を牛耳られた不平等条約といえた。

 関税自主権を設定できないと、どうなるか。

 商人は、安いところから仕入れ、高く買ってくれるところに売るのである。

 外国から安い商品を仕入、国内で販売すると国内産業が大打撃を受けた。

 国内生産品を高く買う外国に輸出すると利益は上がり、

 国内は不作・品不足と似た状況で物価が上がり、二重・四重の利益になった。

 商人にすれば、嬉しい状況であり、

 国内の生産者が潰れ、物価が上がり、庶民が生活苦でも、やめられないのである。

 開国時の日本がそうであったようにバルカン連邦も生活苦となった。

 もっとも、連邦の紙幣共有、交通、通信、法律が整備されると状況が変わる、

 また日本人の移民人口も増えたことでも、好景気の下地が作られ、

 日本、イギリス、アメリカの資本投資が増えると、地元の労働力を吸収。

 産業が大きくなるにつれ、欧州、アメリカ、ソビエトへ輸出が増え、

 生活苦も改善されていた。

 

 もう一つ、治外法権。

 法律は、外国人を排斥、搾取する方法でも用いられる。

 なので信頼の置けない後進地域は、投資し難く。

 一定の治外法権を求められやすかった。

 この効果は、開国時の日本でも起こり、

 アメリカ極東権益地、中国軍閥国でも現役だった。

 とはいえ、日本側で裁かれるより・・・

 連邦警察のパトカー3台がベンツを追いかけていた、

 「急げ、逃げられるぞ」

 「内定していたのがばれたのでしょうか」

 「まさか、こんなに早く、動くとはな」

 ベンツは、地元警察署の敷地内に飛び込むと、

 日本の連邦警察と地元警察の押し問答が始まる。

 賄賂の通用する現地法で裁かれる方がマシなこともあった。

 特に有力者は、贈収賄が発覚しそうになると現地警察に自首。

 金に任せて、判決を受け、出所してしまうのである。

 一度、裁かれ、判決が出されると、今度は日本側で裁判できず。

 物々と呟きながら日本警察が戻ってくる。

 「くっそぉ〜 最初っから地元警察と話しを付けてやがったな」

 「日本の量刑より、わざと低くしてますからね」

 「現地警察の資金源か」

 「交通違反の罰金も日本より少ないですからね」

 「公文書の日付まで変えるなんて、どうかしてるよ」

 不正腐敗は、次の不正腐敗の温床になるのであり、

 不正を正すために犯罪を取り締まらなければならないのである。

 杓子定規な日本警察と、金次第で身贔屓する地元警察の関係は摩擦の種でもあった。

 また、ルーマニアで逮捕されそうなギリシャ人が法の公正を求め、日本の連邦警察に自首。

 その逆もあった。

 なので強かなのは、現地諸民族と言えなくもない。

 

 とある家

 新しいテレビが届くと箱が開けられ、設置される。

 映像が映ると歓声があがる。

 「良いねぇ トランジスタテレビか」

 「バルカン連邦で生産して、欧州全域に売るそうだ」

 「ロードス島では駄目なのか?」

 「あんな小さな島じゃ無理だ」

 「キプロスの方が安全かも」

 「もうバルカン利権に居座る覚悟を決めろよ」

 「バルカン連邦も近代化かな」

 「中東で戦争が起こりそうだというのに」

 「踏ん張りどころだな」

 

 

 演習場

 センチュリオン戦車の群れが砲撃しつつ、標的を破壊していく。

 機能性を追求した組織力と感情的に相克矛盾する将兵の展開。

 統制と作戦行動、個々に前進する速度、砲撃、補給、連携など、

 動きを見れば、戦闘能力の高さをうかがい知ることができた。

 「久しぶりの演習だが悪くない」

 「もう少し、燃料と武器弾薬と予算があれば練度を高められるのですが」

 「それはそうだが、これ以上、正面装備を減らすのは危険だ」

 「ドイツ帝国陸軍は、バルカン駐留軍の戦力比で5倍以上」

 「演習時間に換算して練度差は、1.2倍」

 「日独戦力差は6倍か、周辺国との均衡勢力がないと危ないな」

 「ジーンリッチ将兵は1.25倍で計算しているから、年々 比率が悪化する」

 「ジーンリッチ将兵の比重が最大なら、戦力差はおよそ7.5倍になる」

 「差を縮めたい、国防費を増やさないと無理だな」

 「もっと、機能的な編成を考えた方がよいのでは?」

 「これ以上、重複分がなくなると、被害を受けると機能障害を起こしてしまうよ」

 「それにバルカン連邦は、国防費より、統一と産業拡大に集中したいらしい」

 「言語がバラバラだから経済成長率は、いま一つか」

 「ドイツ帝国に厭戦機運があって落ち着いているのが救いだな」

 「国家指導者は権力を誇示したいのであって、権力を賭けたいわけじゃない」

 「戦争を仕組んでも、戦争を仕掛けられるような指導者は少ないよ・・・」

 「おい、第21小隊は、先行し過ぎだ。隊形を乱さないように伝えろ」

 「はっ」

 「やっぱり、実地で演習しないと練度が安定しないな」

 「個人プレーに走る将兵をチェックしておいてくれ」

 「はい」

 「利己主義者は向上心が強いが野心で部隊全体を危険にさらしやすい」

 「また、戦友を犠牲にしやすい癌でもある」

 「利己主義の強いタイプは、特殊部隊候補にしますか?」

 「精鋭部隊を作ると平均値が下がる」

 「しかし、実力のある特殊部隊は使いやすいのでは?」

 「確かにそうだが、いつの時代にも掃溜めで部隊を作ることはあるからね」

 「小規模なら構わないだろう。攻勢防御に蛮勇は不要だ」

 「ヘリの使い道が微妙だな。敵の後方に空挺作戦は簡単に撃墜されそうだ」

 「空挺作戦が可能というだけで、敵に予備兵力を強要できるよ」

 「しかし、ヘリの性能が低過ぎるし、大量に配備も出来ない」

 「高台に人材や物資を降ろして、拠点防衛の強化が無難だろうな」

 「例のアレは?」

 「アレは駄目だろう。法務省が手放さない」

 「まぁ 地下施設の規模は大きいですがね」

 「地下施設ならドイツの衛星に見られずに済む」

 「そりゃ 丸見えよりは良いですが」

 

 

 

 トルコ領レバノン州

 エジプト、ヨルダン・イラク連合軍の侵攻は、事前に予測されていた。

 これは現実的なデーターに基づく予測ではなく。

 アラブ・イスラム民衆の気持ちと国策も見抜かれていたのである。

 動機があれば条件があれば攻撃するのであり、

 状況を作りだした者たち、

 あるいは、情勢を見ていた者たちにすれば、起こるべくして起こったのであり、

 表面張力一杯のコップの水が “いつ” 零れるか、でしかない。

 イギリス人と日本人が国境を覗き込んでいた。

 「散々、日本人のマジックに邪魔されたがね・・・」 にやり

 「なんのことやら・・・スエズ運河の権益はどうするつもり?」

 「スエズ運河権益は、イギリス、自由フランス、日本、エジプトのままだよ」

 「戦争で変わる可能性は?」

 「国有化されそうなスエズ運河権益を他力本願で守る。深慮遠望な計画なのだよ」

 「獲らぬ何とか、じゃなきゃいいけど」

 「戦争が始まると、どう収拾がつくか分からないというのに・・・」

 イギリス人は、腕時計を見つめる。

 「いよいよだ」 にんまり

 「戦争が始まっても、バルカン・カフカスに波及しなければ良いけど」

 「天変地異と不幸は物価が上がる、お金持ちになれるんだよ」

 「日本が不幸な状態になっても、アヘンは売りつけないでくれよ」

 「し、心配性だな。来月までに対独、対ソ戦争が起きるか、賭けようか?」

 「ぅぅ・・・戦争を賭けるのはタブーじゃないのか?」

 「いやいや、タブーもまた刺激的なんだよ」

 「アメリカがアラブ・イスラムに参戦するかも賭けようか?」

 「・・・やめとくよ」

 「ったくぅ〜 腹が据わってねぇな」

 「少しは賭け慣れしろよ。情報の価値が分かるぞ」

 「・・・・」

 「石油輸出国機構(OPEC)結成で限定的な戦争になるかもしれないな・・・」

 ヨルダンからパレスチナがらに向かって爆音が過ぎ去っていく。

 なぜか、右手に指揮棒を持っているイギリス人は、ほくそ笑み、指図する。

 「カメラ回せ!」

 砲声が轟くと、無数の砲弾がパレスチナに降り注ぎ、爆炎を吹き上げる。

 「よっしゃ〜!」

 「「・・・・」」

 日本人とトルコ人はブスくれ、イギリス人に掛け金を渡す。

 情報量と情報操作で勝率が左右する。

 ブック・メーカーで賭け慣れしているイギリス人は、この種の賭けに強く、

 日本人は国民性から情報に対する認識が甘く不利だった。

 「アラブ・イスラムの侵攻か、早かったような、遅かったような・・・」

 「まぁ 動機は見え見え、起ることは分かり切っていたからね」

 「武器が揃っても、士気を上げるには相応のプロパガンダも必要だし」

 「むかしと違って、王様の一存で戦争できなくなった」

 「情報をキチンと揃えれば、戦争が近いはわかるよ」

 「おみそれ致しました」

 「しかし、41年の日本は、分からなかったな」

 「フィリピンか、ハワイを攻撃すると思ってたのに」

 「ま、まさか」

 「いや、外交官と将官は、みんな日本の対米参戦に賭けていたくらいだよ」

 「俺の親父は大負け、いまだにあの時の損失から家計が立ち直れねぇ」

 「あははは・・・」

 「スエズ運河は?」

 「イスラエル空軍は防空ばかり。いまのところは通過できるよ」

 「でも何で指揮棒を振ってんの?」

 「だって、戦争を操ってる神様みたいじゃないか」

 「「・・・・」」

 

 エジプト軍とヨルダン・イラク軍がパレスチナにパレスチナに侵攻した。

 人は誰でも死ぬ、

 では、最後は、どのように死にたいか、

 死ぬまで何を思い、何を考え、

 何をしたいか、どんな経験をしたいか、である。

 人の生を推し測る指標が個人個人に問われた。

 身体の寿命が尽きるまで生きることに意義があるなら、

 途上で命尽きる者は意義を失うのであり、

 生きる目的を達成することに人生の意義を求めるなら、

 生きる目的のない者は、意義のない人生と言えなくもない。

 利己的に生き長らえ、看取られていく方が良いか、

 国家覇権を巡る戦いに身を投じ、志半ばで散っていく方が良いか、である。

 最初の空襲と部隊の衝突で数万の生命が失われた。

 将兵たちは、死の恐怖に脅え、命懸けで戦い、

 押し付けられる無慈悲な運命に血を流して、もがき、

 肢体を失っても死にあがらう光景がいたる所で見られた。

 M47戦車、M26戦車とT54戦車、T34戦車の砲撃戦。

 侵攻と機動防御、反攻と対峙、消耗戦、迂回戦術が繰り広げられ、

 死傷者は増大していく、

 予備役はただちに駆り出され、新兵も一時の戦線を守るため磨り潰された。

 一旦、後退したイスラエル軍は、巧みな攻勢防御で戦線を立て直し、

 温存されていたアメリカ駐留軍と共に失地を奪い返していく。

 

 

 カナリア諸島沖

 6000トン級潜水艦 伊416号 艦橋

 「艦長。来ました」

 水平線上にアメリカの船団が現れる。

 「・・・パレスチナ救援艦隊か」

 「随分、早い到着です」

 「準備していたのだろう」

 「アメリカは参戦するでしょうか?」

 「大統領は、イスラエル国境内の迎撃に徹すると公表している」

 「やぱり、アラブの石油利権の大きさですかね」

 「エネルギーを押さえれば、燃料で利益を上げることができる」

 「さらに列強の製造単価をあげさせ、アメリカ製品売却でも利鞘を稼げる」

 「欲の皮を突っ張らせてますね」

 「アンクル・サムは悪党面だよ」

 「アメリカは、強襲揚陸艦を建造するでしょうか?」

 「議会の反発を食らっていたからな、今回のパレスチナ侵攻で強襲揚陸艦建造のはずだ」

 「という事は、強襲揚陸艦建造のための戦争かな」

 「まさか・・・」

 「日本、ドイツ、イギリスは、アメリカを刺激することを恐れて強襲揚陸艦の建造を見送っていた」

 「アメリカが強襲揚陸艦を建造したら、日本も強襲揚陸艦を建造するよりないな」

 「来期の予算が楽しみですね」

 「そうだな・・・潜水艦部隊にしわ寄せが来なければ良いがね」

 「最近、物価が高騰してますからね・・・」

 アメリカ護送船団は白波を蹴立て、浮上している伊416号の脇を通過していく。

 

 トルコ完全自治領カフカス連邦

 トルコ、日本、ソビエト、イギリスの権益が集まっていた。

 中東戦争が始まると日本軍1個航空兵団と3個師団は、警戒体制に以降、

 キプロスとイギリス駐留軍、トルコ軍も警戒体制に移行する。

 雪の中をイギリスの工作員たちが潜んでいた。

 「ソビエト側は?」

 「あの山小屋に潜んでいるようです」

 「日本側は気付いていないのか、相変わらずのんびりしてるやつだ」

 「だが我々が気付かなかった工作員を脈絡もなく捕まえる事があるからな」

 「例の魔法だろうか」

 「魔法は噂だろう」

 「それが微妙なところらしい」

 「ソビエト軍の方は?」

 「いまのところ、コーカサスのソビエト軍に動きはないようです」

 「やれやれ」

 「カフカスの自治軍が予備役の招集を検討するそうです」

 「予備役か・・・現地住人に武器を渡すのはまずいよ」

 「経済損失も大き過ぎる」

 「まだ、動員はかかっていませんが、ソビエト軍の動き次第でしょうか」

 「ドイツ帝国もな。どちらが動いても、日本の権益は脅かされる」

 「イギリス、トルコもだ」

 「あと、バルカン・カフカスに投資してるアメリカ資本も大打撃だろうな」

 「戦争なんかしたくはないが、カフカス連邦の油田は大きい」

 「石油化学工業と付随する工場・商業群も育っているよ」

 「しかし、教育・産業・社会の効率は悪い」

 「日本人、アゼルバイジャン人、グルジア人、アルメニア人のごった煮だからね」

 「だがカフカス連邦は、総人口2000万。バルカン連邦も総人口6000万を超えてる」

 「それに、ちょっとした工業国で国力は、イタリアや二つのフランスより上だ」

 「それにオーストリア・ハンガリー帝国時代よりはるかに安定してる」

 「両国が工業国なのは、ニカワ役を務めている日本人のおかげだよ」

 「エアポケットに入ったように投資しやすいからな」

 

 

 南シナ海

 伊420号 艦橋

 艦内が緊張感に包まれていた。

 「艦長、座標が空きました。ドイツ潜水艦が座標から離脱していきます」

 「伊419の陽動に引っ掛かったな、位置を占めろ」

 「艦長! 5時1500m後方に潜水艦です」

 「ったくぅ〜 今度はどこだ?」

 「・・・イギリスです」 魔法使い

 「あいつら同盟国なんだから、もう少し手加減しろよ」

 「なにか嗅ぎつけたようですね」

 「こちらも機密を隠してるからな」

 「お互い様でも紳士協定ぐらい守って欲しいです」

 「12ノットで本艦に接近しています」

 「とにかく、この位置を守れ」

 

 艦内

 魔法使い8人の中央にエルフ族ハミハラが召喚される。

 そして、才能+鍛錬で、ギリギリ召魂術を使える政府官僚と将校もいたりする、

 『・・・少し、息苦しい』

 『大気成分がガイアと少し違う、しかし、調整できるだろう』

 『ここは?』

 『人族の世界で、潜水艦の中だ』

 『目的地は、いつ着く?』

 『南沙群礁まで3日だ。その後、時機を見て、瑞樹に行くことになる』

 『契約内容は覚えているかね』

 『契約通りで良いよ』

 『しかし、王族の寿命を保つ以外に喰命鬼の仕事があるとはね』

 『安全な海域に達したら、夜空を見せよう。違う世界に来たことが分かる』

 『ミルキー・ウェーか』

 『チェリー・ウェーと違って、少し明るい』

 『それは楽しみだ・・・』

 『『『『『・・・・』』』』』

 ハミハラが含み笑いをすると、

 肉食獣を前にした草食獣の気分になっていく。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ヒルコ(鬼ヶ島)島

 人鬼村

 電気、通信、上下水道などが整えられ、町が広がっていく。

 鬼族、エルフ族、ドワーフ族、人族がファンタジーに歩きまわっていた。

 「人族は少数派か」

 「喰命鬼を地球に召喚するには財力が必要ですから、しょうがないですよ」

 「地球とガイアの相互召喚を行うにも喰命鬼が必要だよ」

 「中級レベルなら6人。上級レベルなら2人を送らないと定期便は難しいそうです」

 「それに扉は公海上だからな」

 「喰命鬼なら扉の近くじゃなくても召喚できるのでは?」

 「魔法使いだって魔力消費を渋る。一般人だって寿命を浪費されたくないと思うよ」

 「法務省は腰が重いらしいですから」

 「容易に使う方が怖いよ」

 「違う扉を見つけないと不味いのでは?」

 「扉は、不規則に開くときもあれば、不安定な場所もあるらしい」

 「しかし、安定しているのは南シナ海の扉だけだ」

 「それだって扉は閉まっているし、いつ扉が消えてもおかしくない」

 「ガイアと地球の相互認知が扉を開く鍵になると論文が出ていますが?」

 「平行次元世界を結びつける力が相互認識というのかね」

 「それがガイア研究のトレンドだそうです」

 「そればかりに偏るのは危険な気もするな」

 「相互認識が進んで扉が閉まったのは何故だ」

 「相互認識が進むことで消えるはずだった扉が残っているのかもしれませんよ」

 「できれば日本の領海に扉を移したいものだ」

 「一番新しい情報では、沖縄に海底遺跡らしきモノがあって、探索中だそうです」

 「沖縄か・・・もう、行くことはないだろうな」

 「ですが喰命鬼が揃えば、あるいは・・・」

 「どうかな、後ろ向きに変な希望を持たない方がいいだろう」

 

 赤子の泣き声が聞こえ、母親のヒステリーが高まる。

 祖父祖母のいる大家族でさえ、孫の世話を拒み、

 生活苦と不自由なことを忌み嫌い、利己的に孫を処分するのである。

 助け手である祖父祖母のいない核家族は、さらに自由が利かない。

 家族の中でも主導権の奪い合いの家庭内闘争が起こりやすいのである、

 ガイア世界における人鬼村の利権の大きさが人族の生活を助けていた、

 魔法使いで、選出された人材は、理性的であり、才能があり、訓練されており。

 若く柔軟で環境の変化に対処できる程度、健康で若い娘だった。

 それがなければ、さらに重度のマリッジブルーだったと言える。

 母親たちが公園を掃除し、子供たちが走り回る。

 「もう、なんで、家のこの子は、泣いてばかりなのかしら」

 「無力、無能、無知、無策だと泣きたくなるわね」

 「まだ小さいわよ」

 「大人だって、それで泣くんだから子供は、なおさらでしょ」

 「なおさらか・・・」

 「この子は、自分が順調に成長していないと感じてるのかしら」

 「大きくなってるわよ」

 「人は肉体的なことより、心理的な事で泣くもの」

 「神経質にならないように家事手伝いを雇ったら?」

 「なに? 私、母親としての資質を疑われてるの」

 「だって、私たち、専門的なことばかり突出しているじゃない」

 「仕事もあるし。こんな場所で良妻賢母なんて求められてもね・・・」

 「そうねぇ 子供の面倒も煩わしいけど、一番難しいのは良妻かな」

 「家族って、利己主義を誤魔化してばかりだと劣化しやすいもの」

 「鬼族、エルフ族、ドワーフ族、人族。誰が良いかしら」

 「料理が上手いのは、ドワーフ族」

 「洗濯が上手いのはエルフ族」

 「掃除が上手いのは鬼族ね」

 「感覚が近いのは、人族か」

 「自分が不得意な部分を補うのね」

 「でも固有の言語もあるし、言葉がちょっとねぇ」

 「召魂術で意志は伝えられるわ」

 「子供が生まれると寿命を削るのが気が進まないもの」

 「魔法使いの死は、安楽死に近いけど、唐突だから・・・」

 「でも、こういうところに住むとタフになるわ」

 「4本指、6本指、尻尾が生えてるとか、些細に思えてくるから不思議よね」

 

 

 装甲飛行戦艦 大和

 大和が未開地の開発で力を発揮できても、

 200人もいない人族人口のうち、非生産人口が常時30人。

 それも最優秀な就労者ばかりは問題ありといえなくもない。

 とはいえ、未開地からの恐怖に晒されるガイアで安心を買うは、必要であり、

 大和の火力のおかげで、防人の兵は、少数で済んだとも言える。

 時に学術的な案件でも運用される。

 そういう時は、開発より、員数は少なくて済むが、それでも人は割かれるのである。

 日が沈み始めると、天空を紅い天の川が横切っているのがわかる。

 異世界ガイアの天体観測は飛行石を使った空中天体観測が可能であり、

 ある意味、地球より進み易い。

 大和は飛行石をたんまり載せると上昇していく。

 高度、8000m

 大和 艦橋

 「航海長。地球側から届いたレンズの調整は?」

 「何とか上手くいきました。これで、もう少しこの世界の事がわかるでしょう」

 「紅い銀河か・・・」

 「この銀河は、赤色矮星。太陽の10分の1ほどの大きさが多いようです」

 「赤色巨星ではなく?」

 「赤色巨星がこれだけの規模で広がっていると超新星が怖いですよ」

 「といっても、確率的なモノでガス雲が赤色矮星照らし出され易い結果でしょう」

 「光が弱いのに?」

 「その程度多いだけでしょう。無論、赤色巨星も存在しています」

 「ガイアの太陽は?」

 「地球の太陽と似てますね」

 「太陽の同士の同時性、同調性も一つの可能性なるのかもしれませんね」

 「黄道、白道の関わりより、あり得るよ」

 「ガイア星系内の天体は?」

 「惑星ガイアは3番惑星。内惑星が4つ、外惑星が3つ」

 「衛星が4つ増えましたが惑星の追加はありません」

 「地球は宇宙開発がはばかれる、だがガイアだとできそうだな」

 「反重力石は、大きな発見ですからね」

 「問題は、鉄がなくて宇宙開発が困難なことだ」

 「鉄がなければ宇宙開発どころか、国家すら作れませんよ」

 「地球から送らせれば良い。需要と供給は十分、成り立つよ」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 魔業最大の功績は、0.1パーセントの魔法より、

 99.9パーセントのハッタリ・インチキ・まがいモノ商法でしょうか。

 喰命鬼がいよいよ地球で活動です。

 これから、日本とガイアは、どうなっていくのでしょう。

 

 

 ガイア世界は、多様な種族によって、多様な呼ばれ方をしています。

 日本人の人口が増えると、日本名も少しずつ増えていきます。

恒星 内惑星   外惑星
第1惑星 第2惑星 第3惑星 第4惑星 第5惑星 第6惑星 第7惑星
  墨星 雲星 ガイア(瑞星) 雪星 橙星 灰星 蒼星

 

 

 

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第19話 1959年 『衣食住足りて礼節を失う』
第20話 1960年 『長いモノに巻かれて事勿れ』
第21話 1961年 『金の生る木の寄生虫』