月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

 

第21話 1961年 『金の生る木の寄生虫』

 この頃、アメリカ合衆国は、大戦不参加で平和を愛する大国といった世論が強かった。

 パレスチナの足場を拡大した中東戦争後も、慎重な対応が求められ、

 アメリカ軍が盾、イスラエル軍が矛といった穏便な国際分業がなされた。

 アメリカ国民も、モンロー主義の指向を強め、偽善で控えめな外交が行われていた。

 

 アメリカ大統領アイゼンハワーの離任演説がテレビから流れていた。

 “・・・軍産複合体から、我々の自由と民主主義を守らなければなりません”

 “何ごとも確かなものはありません”

 “見識と警戒心のある市民が軍事力を適切な国家安全保障のため運用できます”

 “その結果、国家間の安全と自由が維持され発展して行くのです・・・”

 シカゴのカフェテラス

 日本人たち

 「・・・へぇ〜 平和主義の大国は、良いこと言うねぇ」

 「どこが? スエズ運河が閉じられたんだぞ」

 「日本もアメリカも、株価は下がらず、安定してるだろう」

 「市場が鈍感なんだよ」

 「あり得ないよ。日本は、最初からスエズ封鎖込みで投資していた」

 「15年で、そこまでバルカンとカフカスが成長するんだろうか」

 「まぁ 天災、戦争で物価が上がる場合もあるし、株価なんて思い込みで上下することもある」

 「日本の場合、どちらかというと、魔法効果じゃないか?」

 「あんなの白人の思い込みだろう」

 「アメリカは、イスラエルとエジプトで分け、スエズ運河の4分の1の利権を得る気かな」

 「どちらにしろ、スエズ運河は不通。運賃は上がるよ」

 「しかし、大統領の国民向けのリップサービスは、カッコ良くていいねぇ」

 「資本家を味方に付けて勝率を上げられても、大統領を選ぶのは国民だからね」

 「理性と感情の綱引きじゃないかな。理屈ではその通りだからね」

 「軍事力で国家の枠組みを保てても、国家を発展させるのは健全な産業の大きさだ」

 「離任だから言いたい事を云ってるんだろう」

 「国民に意識を向ける大統領制は悪くないね」

 「どうだろう、国民の欲望が正しいとは言えないよ」

 「むしろ国民の要求をすべて聞いたら、国は滅ぶね」

 「そんなのどの階層が専制しても悲惨な事になるよ」

 「まぁ 日本もね。議員の離合集散、党高政低の派閥抗争も、うんざりだ」

 「戦争に巻き込まれたアメリカはどうするだろう」

 「大統領の演説の通りじゃないかな」

 「軍隊は殺し合う必要性から、鉄の意志を求められ、統制と忠誠が重んじられる」

 「しかし、科学技術など産業の発展は、自由な意志と行動と柔軟な発想が求められる」

 「求めるところが違うのだから、平時に過剰な軍事力を求めるのはばかげているよ」

 「だけど、中東戦争で、アメリカの軍事力は増えているよ」

 「中東戦争より、ドイツの宇宙開発が先行しているから焦っている気がする」

 「宇宙開発か、急進的な進歩は犠牲を伴うのでは?」

 「ドイツと日本は、特定産業に傾倒して、需要に合わない時があるからね」

 「アメリカは統制より自由と権利を望むから世論を誘導しないと戦争に集中できないな」

 「国情もパラメーターかな」

 「上層階級が軍警察と結んで凶悪的になったり」

 「中間管理層が私腹を肥やして、暴虐無人に振る舞ったり」

 「庶民から統制が失われ、無軌道に走って、首が回らなくなったり」

 「突き詰めるとそうなるがね。人間は矛盾してるから結果は不確定だよ」

 「ケネディ大統領は、どうするだろう」

 「パレスチナのアメリカ駐留軍が巻き込まれたぐらいじゃ モンロー主義は消えないよ」

 「とりあえず、アメリカ軍は実戦経験を得たんじゃないか?」

 「実戦経験だけでは足りない。軍備を整えるのにも時間がかかるし」

 「アメリカ駐留軍が国境線で止まったのは、ソフトランディングで良いというところか」

 「中東全域に波及させたくないのだろう」

 「極東権益地防衛が懸念材料じゃないかな」

 「しかし、余裕だね。政治的に統制された軍隊は知的で清々しいよ」

 「戦友が殺されたら収まらないはず、アメリカ駐留軍は冷静だな」

 「しかし、イスラエル軍にシナイ半島を占領された。どうしたものか」

 

 01/20 アメリカ大統領ジョン・F・ケネディ就任

 

 中東戦争

 イスラエル軍は、シナイ半島に侵攻し、スエズ運河東岸を占領。

 さらにスエズ運河西岸に橋頭堡を構築し、

 イスラエル軍は、カイロまで侵攻しようと、部隊を集結させていた。

 ここで、ようやく、イギリス、自由フランス、日本は、講和を斡旋。

 スエズ運河を国際中立地帯とする交渉を開始しする。

 エルサレム 講和会議

 日本人たち

 「この状況で権利を主張するとは、イギリス人も腹だねぇ」

 「イスラエルの一方的な勝ちは、利権を握るアメリカも面白くないからね」

 「しかし、戦力も無いのに権利だけを主張するなんて」

 「まぁ 極東権益地、ウクライナ、ベラルーシのアメリカ資本を支えているのは日本だからね」

 「アメリカもイスラエルも、国際的な批判を避けるため適当なところで利権分けかな」

 「急激な膨張政策は暴走と反発を招きやすいからね」

 「イスラエルが欲に目を眩ませず、引き際を心得ているなら良いけどね」

 「戦勝している軍は増長しているし、立身出世でさらなる戦果拡大を求める」

 「分別をなくした軍を退かせるには反逆罪の適用だし、軍部による下剋上もあるよ」

 「ユダヤ人は、いろんな国から集まった移民によって構成されている」

 「国民自身が国外情報を知ってるし、情報の重要性は認識している」

 「井戸の中の蛙の日本人と違って、退くときは退くと思うよ」

 「だと良いけどね」

 エルサレム会議で中東の領土が確定する。

 イスラエルはシナイ半島から撤収。

 パレスチナ人は、強制的にシナイ半島に移民させられることが決まる。

 

 

 瑞樹州

 赤道に近い土地でありながらも、基幹産業が興り。

 エネルギー需要のほとんどを水力発電で補う事が出来た。

 初期開発の輸送と造成を反重力石を使って行い。

 段階的に民間業者へと移行させて手掛けさせていった。

 過酷な労働も近代化した土木建設機械によって緩和され、

 標高1500m以上の平野に近代的な街並みが広がっていた。

 上下水施設

 「低地行きの下水管で発電か・・・」

 「人口が増えているからね。使えるものは何でも使うだろう」

 「しかし、これだけ高い所に住んでも、もっと高いところがあるなんてな」

 見上げると4000m級の山々が見下ろしていた。

 「今度、宇宙開発の基地を造るらしいよ」

 「へぇ〜」

 「ここに来る白人は、これだけ近代化が進んでいるのに魔法がどうか、言ってるからな」

 「白人は、合理的な思考と思っていたけど、意外とファンタジーなんだな」

 「いや、最初に重機をどうやって山頂に上げたか気にしているみたいだったぞ」

 「線路を造って、山頂までもって行ったんじゃないか」

 「いや、山頂にいきなり平地を造成して、下に向かって、線路を伸ばしたとか」

 「あははは、まさか、うんなわけねぇ」

 

 凶悪犯用刑務所

 囚人の刑期を瑞樹州開発に投入されることは、よくあることであり、

 日本で犯罪を起こしても瑞樹州の刑務所に入り、

 刑期後は、そのまま、瑞樹州で更生し、生活する。

 医療室

 「その新薬の注射を打てば、15年の刑期短縮なのか」

 「まぁ あと15年ありますがね」

 「すぐ出られるんなら、2本打っても良いぞ」

 「まさか、新薬の研究は、危険ですからね」

 「死ぬかもしれないかのか・・・」

 「副作用の方が怖いですが可能な限り治療をしますよ」

 「・・・・」

 「ではサインを」

 「・・・・」 ごっくん!

 かきかき かきかき

 

 

 マジックミラーの向こう側。

 法務省の役人たちとエルフ族ハミハラがいた。

 「タダの栄養剤と睡眠薬なんだけどな」

 「ハミハラ君。彼で大丈夫か?」

 『更生しているようですし、外を歩いている人族とあまり変わりませんよ』

 「改心していると少し気が退けるね」

 『犯罪未満か、犯罪者の違いだけだ』

 『外を歩いている人間の方が極悪な場合もあるし。犯罪者もいるがね』

 「あ、そう・・・」

 「眠ったようだ」

 「本当に15年だけなんだろうね」

 『だいたいそのくらいだ。君らと違って長生きだし』

 『寿命を奪える限度もある。嘘ついても良いことないだろう』

 「・・・わかった。信用しよう」

 役人たちとエルフ族ハミハラが病室に入っていく。

 ハミハラの召喚によって、日本は、安定して魔力を消耗出来ることになった。

 

 

 法務省

 関係者が大臣室の前に行列を作る。

 予算折衝の大蔵詣でと並んで法務詣は有名であり、

 法務詣では、時期に関係なく、並ばれ、

 しかもエンドレスだった。

 彼がサインすれば、寿命と交換に産業の採算効率が増した。

 大臣室

 「いい加減、自浄能力、自助能力で業界を立て直そうとか思わないのかね」

 「ああ、大臣、もちろん、関係者は節制しつつ、懸命に働いています」

 「君が魔業に頼るという事は、誰かの寿命を奪うということだ。理解していると思うが」

 「も、もちろんですとも、しかし、国家基盤で手抜きがあってはいけませんし・・・」

 「君の前に来た国防省の中将も、国家防衛は、一大事といってたがね」

 「いえ、彼らは、中東危機をダシに魔法を使いたいと考えているだけで・・・」

 「ふっ 昔は陳情側で “国益のため” と言ってたがね」

 「いざ、陳情される側に回るとな」

 「国益のために国民の寿命を奪う事の空しさで辞めたくなるよ」

 「そ、そんなぁ 大臣になったばかりで困ります」

 「国民の生命と財産を守る政府がこういう事をやらねばならんとはね・・・」

 「はぁ・・・自殺志願者とか・・・」

 「・・・・」 じー

 「い、いえ、何も・・・」

 大企業であれば、大量雇用大量解雇で意図的に自殺に追い込むこともできた。

 法務詣ではエンドレス。

 

 

 

 

日本人 バルカン連邦 83万8387ku   カフカス連邦 19万0500ku
ドデカネス諸島 2663ku 220万 ハンガリー 1039万 アゼルバイジャン 378万
カナリア諸島 2505ku 55万 ルーマニア 1890万 グルジア 409万
キプロス 9250ku 275万 ブルガリア 798万 アルメニア 168万
    アルバニア 157万    
    ユーゴスラビア 1911万    
    ギリシャ 840万    
    合計 6635万 合計 910万
  550万 日本人 1100万 日本人 330万
    総人口 7735万 総人口 1210万

 

 バルカン連邦クロアチア共和国

 共和国の連合体。連邦制でありながら都市の自治権は強くされていた。

 都市の自治権強化は、権限を分散することで、

 民族間、宗教間、言語間、文化間の摩擦、軋轢、差別を軽減するためであり。

 日本人が各共和国の要衝で基幹産業を押さえ、

 国家を機能させていたからに過ぎない。

 この手法はギリシャのポリス(都市国家)主義で、バルカン連邦創成期から流用されていた。

 都市国家群は、それぞれの民族、宗教、言語、文化の勢力図に従って、

 独自の風土を作り、全体としてバルカン連邦が機能していた。

 中東講和調印され、

 スエズ運河の利権はそのまま、イギリス、自由フランス、日本に残された。

 バルカン・カフカスの日本人社会は、スエズ運河が再開されると、落ち着きを取り戻していく。

 日本資本とともに進出した日本人は、戦後、16年ほどでようやく馴染み、

 戦中に進軍した日本軍将兵もようやく、日本本土に帰還するか。

 退役した後、民間企業に移って、働いていた。

 日本人は各共和国に分散して住み、バルカン産業の基幹産業を運用していた。

 そのおかげで、日本語は、連邦共和国第二公用語のルーマニア語と並んで使われ、

 看板の漢字表記も珍しくない。

 とはいえ、日本語は各共和国の第二公用語ではなく、

 各共和国は、第一外国語の一つにしていた。

 そして、実利的な用件で日本語の習得率は高く、日本語圏が広がっていく。

 カフカスの日本人街が “×の谷” と付けられ、

 バルカン連邦の日本人街は “×の丘” と付けられていた。

 “楠の丘”

 鉄鉱石が採掘される鉱山自治都市で人口30万で都市人口の9割が日本人だった。

 バルカン連邦 大蔵省

 「国債を発行し、バルカン連邦に押し付け、日本がバルカン連邦の労力、資産、機材を搾取しよう」

 「それはまずくないか」

 「アメリカが極東権益地でやっている事じゃないか」

 「初期のアメリカ資本だって、イギリス資本だし」

 「公共設備の建設費の数十倍の借債を極東権益地に押し付けて利権にしている」

 「極東権益地の収益が大きくなれば大きくなるほど、懐が大きくなり」

 「不況になっても、懐は痛まないようになっている」

 「それに、どうせ、利権は、権益地の公共設備で水増しされていくから」

 「住民たちは気付きもしない。濡れてに粟で、やめられないよ」

 「ふっ まるで、打ち出の小槌だな」

 「戦争で日本がアメリカに負けていたら同じことをやられていたかもしれないな」

 「アメリカが、えげつないのは、自国の不良国債を権益地名義で買わせていることだな」

 「日本も、バルカン・カフカス連邦で出来なくはないだろう」

 「いや、一応独立国だろう。やり過ぎはまずいよ」

 「なぁにどうせ、大して、元手もかかっていない国債だからね」

 「水増し利権の国債をバルカン連邦とカフカスに押し付ければいいさ」

 「どうせ働いて稼ぐのは労働者だし」

 「国債なんて金を絞るための手綱みたいなものだから、いくらでも調整が利くよ」

 「利権でバルカン・カフカスの首根っこ押さえるのは良いけどなぁ」

 「バルカン・カフカス連邦在住の日本人が多過ぎるだろう」

 「ぅぅ・・そうだったぁ〜」

 「在住日本人にバルカン・カフカスの国債を買わせておくか」

 「水増しで膨れ上がって後で楽ができるよ」

 「不公平感が大きくなるとまずくないか?」

 「んん・・・ちょっとくらいなら良いかも、どうせ後から買うやつは、ババを引くんだし」

 「どちらかというと、金の生る木の寄生虫になりそうで嫌だけどね」

 「基本的に差別はないよ」

 「だと良いけど」

 

 

 ドイツ第3帝国 世界首都ゲルマニア

 ドイツ第3帝国は、資本主義アメリカ、共産主義ソビエトと思想を異にする勢力の雄であり。

 反個人主義、反自由主義、反民主主義、

 反議会主義、反社会主義、反共産主義の牙城だった。

 もっとも戦後、緩和され、国民の自由は幾分か拡大していく。

 ジーンリッチ親衛隊は、統制された国家主義、民族主義、全体主義世界を象徴する部隊だった。

 窓から外を見ると国民服を着た青年・女性が規律正しく行進し。

 日本人の外交官たちが擦れ違っていく。

 「気候と良い。息が詰まりそうですね」

 「・・・アメリカとソビエトの中間的な国と言えるな」

 「それを言うなら日本も当てはまるのでは?」

 「アメリカが個人主義なら、ソビエトは共産主義」

 「ドイツが国家主義なら日本の国家主義はかわいいモノだし」

 「まだ国民主義とか、民族主義に分類できるよ」

 「国家主義も、上には上がいるものです」

 「日本は、老人や心身障害者を抹殺するといった事は無理ですからね」

 「だがドイツ帝国は、就労人口の占める割合が大きい」

 「日本は、このままだと人口に占める就労人口は減少。国際競争力で不利になりそうです」

 「日本は、沿線を広げれば、人口を増やせて、もう少し、就労人口を増やせるのでは?」

 「忠孝を国体の指針においていると、ドイツ第3帝国に負けるな」

 「しかし、最近は、権威主義だけでなく、拝金主義も蔓延していて忠孝を捨てるわけには・・・」

 「五箇條の御誓文も、教育勅語も悪くないんだけどね」

 「富国強兵で無視して、軍国主義化したから・・・」

 「五箇條の御誓文と教育勅語は建前。富国強兵が本音だよ」

 「教育勅語が理想的で偽善で押し付けがまし過ぎたのかも・・・」

 「反動で逆方向に行ったのかもしれないな」

 「老害は改革の足枷になりやすいのも弱点だな」

 「だいたい、年長者や権力者が有能で善良と決めつけるのが問題だよ」

 「まぁ 国民だって、小学6年生の就学率が100パーセントに近付いたのは1905年頃」

 「逆算すれば51歳以上はまともに小学校を出ていない人間も少なくない」

 「小学生じゃ 近代化に足る資質には足りないよ」

 「戦後になってからかな、中学、高校が増えたのは」

 「青田買いが増えてそうでもなさそうだけどね」

 「・・・ここかい?」

 酒場の看板が飾ってあり、

 「ええ」

 日本人たちが入っていく。

 「まぁ 酒場、役所、学校、警察署、博物館、売春宿、スラム、刑務所、軍隊を一周りで国か分かるからね」

 「ジーンリッチ世代が増えても、酒場は、あまり変わらないように思えるが」

 「どんな体制でも、酒場は残るよ。外壁が石造りだと入り難いけどね」

 「旧北フランスを押さえているからワインは、増えているじゃないか」

 「地ビールが主流なのは変わらない気がするね」

 「しかし、亡きヒットラーの総統の禁酒・菜食主義も、民間まで浸透していないみたいだな」

 頬を赤らめたドイツ人が騒いでいた。

 「政府に対する不満は、どのくらいだろう?」

 「んん・・・まぁ 自由は欲するが、自由がもたらす弊害も知ってるような感じかな」

 「ドイツは、宇宙開発と軍事力。どっちに力を入れるつもりだろう?」

 「アメリカは中東戦争の小競り合いに巻き込まれて、揚陸艦の建造を決めたからね」

 「ドイツも軍事的に対抗するんじゃないかな。軍に予算が回るかもしれない」

 「日本も揚陸艦を建造したいね」

 「揚陸艦か・・・今のところ、旧式艦艇を使い潰しながらって感じかな」

 「だいたい。センチュリオンが重過ぎるからね。建造を躊躇するんだ」

 「揚陸艦より、最初から現地配備の方が良いような気もするがね」

 「揚陸艦の方が外交的な圧力をかけられるんだよ」

 「圧力ねぇ ドイツもそう思ってるのかな」

 「アメリカが建造したらドイツも建造するだろうよ」

 「そうなったらイギリスが建造して、日本もお付き合いじゃないかな」

 「潜水艦部隊の反発が大きそうだな」

 

 

 三陸海岸 海軍基地

 日本軍将校が潜水艦の出航を見守る。

 「中東戦争の影響で、アメリカは強襲揚陸艦を建造するらしい」

 「国防省は対抗すると?」

 「現地基地の拡張と人材の空輸で誤魔化したがっている」

 「まぁ ドック式ローリー型輸送揚陸艦、ニューポート型戦車揚陸艦の数次第だろうけど」

 「攻略する能力が外交能力になると思わないのかね」

 「どの道、将兵の数が少な過ぎるよ」

 「もっと待遇を良くして志願兵を募らないと。有能な人間は集まらないよ」

 「むかしの反動で、軍部の禊ぎが終わるまで年月がかかるし」

 「産業は、労働力を手放さたがらないよ」

 「将兵の予備兵力が足りなさ過ぎて、戦争不可だな」

 「ちっ 民間も合理化させろよ」

 

 

 伊421号潜水艦が出港する。

 飛行石への光の掃射によって航行し、艦体を浮き沈みさせる。

 光を掃射しなければ基本的に沈む艦である事から装甲の厚みは推して知れる。

 特異な機構の潜水艦は、通常型潜水艦と原子力潜水艦の中間種でもあり。

 その気になれば空中浮遊させることも出来ることから、最強の艦艇ともいえた。

 もっとも飛行石自体が最高機密であり。

 浮上航行中は、ディーゼル偽装音を響かせ、外に漏らしていた。

 また、最近の対空ミサイル誘導技術の発達から空中浮遊のメリットはあまりないといえた。

 しかし、エルフ族ハミハラの参画により、

 出撃中の潜水艦に魔法使いが常駐するようになり。

 刑務所内でどれほど多くの寿命が奪われているのか、推測できなくもない。

 潜水艦内に魔法使いが座す一角があり、周囲の海中を認識していた。

 魔法使いたちは、接近する魚雷や爆雷の軌道を変えることができ、

 敵艦の発見を容易にする。

 魔法使いが探知した外界イメージを投影する直径1mほどの全天球水晶があり、

 ソナーに頼らなくても、海底と海上。潜水艦の座標を視覚認識できるようになっていた。

 もっとも法務省から使用時間が制限されており、常時使用できない弱点があった。

 司令塔

 「もっと大きな全天球水晶が欲しいな」

 「魔法使いが小さな水晶を融合させて造るそうですよ」

 「相当な寿命を消費するとか」

 「喰命鬼のおかげで、ようやく、この大きさになったわけか」

 「・・前方に反応です」

 全天球水晶に接近する潜水艦の位置が明確に映し出される。

 「艦長。ソナーでも前方に感度を確認しました」

 「魔法と全天球水晶とソナーシステムを統合させたいね」

 「研究はしてるようです」

 「・・・艦長。やはり基地の近くに張り付いていたようです」

 「はぁ〜 港の外でわざわざ張っていたわけか、御苦労なこった」

 「大陸間弾道ミサイルは搭載されていないというのに、なに考えているんだか」

 「準原子力潜水艦の性能と疑われているのでは?」

 「欧米諸国の情報収集能力の高さは、危険だな」

 「国内に欧米系資本を受け入れるからでは?」

 「尊王攘夷だけではやっていけないよ。経済成長中の中国軍閥に負ける」

 「ガイアとの交易でも不足なのですか?」

 「魔業は、機密区域限定で、一般区域は、採算率の形でしか表面化しない」

 「欧米諸国の開発力と市場の大きさも無視できないからな」

 「それに孤立主義は、国家の統制強化に繋がり、日本国民も嫌っている」

 「戦前は、世相が暗かったですから反動ですかね」

 「いまは富国強兵より、勢力均衡だよ」

 「魔業独占の余裕ですか?」

 「魔業で日本の工作機械、精密機器の品質と精度を押し上げているのが実情だ」

 「しかし、魔業ばかりに頼っていられないか」

 「命を消費しての産業ですからね」

 「ドイツと違って、有効な安楽死と言えなくもないがね」

 「今回も、沖縄与那国島の海底遺跡へ?」

 「ガイアとの扉と関係があれば、大きいし、それ以外の扉であっても良いからね」

 

 

 

 富士山上空

イングリッシュ・エレクトリック ライトニング戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
12719/18915 16.84×10.61×5.97 44.1 5886kg×2 2415km/h 2500km 2 4 1

 ライトニング戦闘機の4機編隊が天空を駆け抜ける。

 赤レンガの住人たち

 「ようやく、ロールス・ロイス エイヴォン301Rのライセンス生産にこぎつけたか」

 「嬉しいねぇ 配備数が少ないのが残念だ」

 「アメリカがF4ファントムを配備し始めた。勝てるか不安だな」

 「F4ファントムは、戦闘爆撃機だ。同数なら勝てるよ」

 「レドームで劣って、少し不安だが?」

 「トランジスター技術はアメリカと互角以上だ」

 「イギリスの開発力と日本の生産力で、対米バランスは保たれているよ。たぶんね」

 「その “たぶん” というのが、不安を増すね」

 「例のモノは?」

 「飛行石の精製は、進んでいる。しかし、戦闘機の外板に使うのは却下されたよ」

 「機密が守れないか。飛行石を潜水艦に集中するのはどうかと思うね」

 「管理上の問題じゃないか」

 「潜水艦教育は、ディーゼル潜水艦なのに、配備されたら全く違う機構じゃ 予算の浪費だろう」

 「就役まで時間がかかるし。そうしないとばれちゃうからね」

 「予算の浪費は、潜水艦だけにしたいわけか」

 「戦闘機にまで、それをしたくないわけか」

 「質的向上が得られないのなら、数を揃えて欲しいモノだ」

 「日本と瑞樹州とバルカン・カフカス連邦配備だぞ。数なんて揃えられるものか」

 「独立採算が進んでいるし。予算上の負担は、低いはずなんだがな」

 「予算は、あれに使ったじゃないか・・・」

 新幹線が通過していく。

 「いや、日本人の人的負担は、大き過ぎるよ」

 

 

 瑞樹州

 格差社会は、労働力、資本、土地を集約させ、近代化を足し、

 巨大産業を維持する上で必要と言えた。

 就労人口が減少すれば、その格差の負担は、さらに重くなっていく。

 未開地の増大に伴う、人口の気薄化は、集客が得られず。

 巨大産業を維持する上で不利であり。

 既得権益資本は、新規参入資本を妨害する傾向もあった。

 日本連邦経済が沿線集約経済になったのは、経済的な理由であり。

 自動車産業を短距離用の電気自動車に制限したのも、そういった背景があった。

 豪雨が瑞樹州の大地を激しく叩く。

 ジャングルに降る事で緩和される衝撃で土壌が守られており。

 町の建設は、コンクリートで大地を覆い、雨水を誘導しなければならなかった。

 膨大な雨量から発生する発電は、瑞樹州経済を押し上げ、

 錆びに強いチタン、ステンレス、セラミック、プラスチックの生産が増し、

 産業基盤も拡大していく。

 そして、瑞樹州の都市建設の高度が高くなると状況も変わる。

 雨雲は乱層雲(10000m以下)、積乱雲(12000m以下)であり、

 都市の標高が高くなるにつれ、雲に包まれたり、

 雨雲を上から見下ろす状況も作られる。

 産業関係者たち

 「権益地の作物、牛肉が日本に流れやすく」

 「瑞樹州の作物と牛肉の日本輸出は距離的に不利だな」

 「内陸経済に集中し過ぎてないか」

 「高原地帯の方が涼しいからね。雨量も減るし、しょうがないよ」

 「本当はもう少し瑞樹州に人口が欲しいところだけど」

 「内地の産業が困るからやめて欲しいらしいよ」

 「ちっ 産業のピラミッド構造を小さくするのがそんなに嫌かね」

 「そりゃ 嫌だろう。誰だって大きなピラミッド構造の上層部で楽をしたいからね」

 「人口が増えれば、もう少し、瑞樹州の産業も大きくできるんだがね」

 「どこもそうだろうよ」

 「ところで欧米諸国の工作員が入ってきてるようだけど」

 「たしか、蝶の収集家じゃなかったか?」

 「蝶の収集を口実にして、機密区域に入り込んでいるんだよ」

 「ったくぅ〜 証拠にもなく」

 「まぁ こっちも珍しい蝶を標本にして外貨を稼げて良いけどね」

 「あまり売り過ぎると、暴落するよ」

 「ガイアの蝶とかは、高値で売れそうだな」

 「生態系の問題で、まずいかもしれんぞ」

 「地球とガイアの相方向扉を安定して繋ぎたいが・・・」

 「周期的に扉が結ばれるのであれば、次の扉がどこに作られるのかも気になりますね」

 「できれば国内であって欲しいね」

 

 

 

 魔業研究所 人体錬金局

 日本軍関係者とエルフ。

 そして、被験者がベットに横たわっていた。

 エルフ族ハミハラは、200に及ぶ骨格をチタン内骨格へと練成していく。

 生体金属による骨格強化は、検証段階に入っており。

 志願者の指から手、手から腕へと練成が進む。

 「上手く行きそうかね?」

 「チタン骨格強化は、対ジーンリッチの一つだからね。成功させたい」

 「魔法使いと生体金属強化は、ジーンリッチと違って、一般的と言えないよ」

 「遺伝子改良のジーンリッチだってドイツ帝国だけで、一般的とは言えないだろう」

 「アメリカは宗教上、躊躇しているし。日本は、自然志向が強くで難しい」

 「こうやって、志願者を募るしかないな」

 「老化による収縮の影響は?」

 「チタン骨格は、にかわ質とカルシウム骨格と違って溶けません」

 「筋肉・神経の関係で差異が生じるかもしれませんね」

 「骨格筋との適合は?」

 「現段階では、大丈夫です」

 「骨髄の赤血球、白血球、血小板の造血機能は、失われていないだろうか?」

 「いまのところ・・・問題ありません」

 「電解質カルシウム、リン、ナトリウム、カリウムは?」

 「やはり、チタン骨格では、不自然ですね。注射で補う方が良いかもしれません」

 「とりあえず。チタン骨格は、両腕だけでやめておこう」

 「臨床試験は年月がかかりそうですね」

 「まぁ 医学の進歩なんて、そんなモノだ」

 「死刑囚を死刑にした事にして、一度にやってしまう方が早いのですがね」

 「倫理上の問題で、法務省に却下されたよ」

 「やっぱり・・・」

 「ボディアーマーの研究の方が速いかもしれませんね」

 「外骨格なら、臨床を気にしなくていいからね」

 「ですが、兵士が持てる携帯重量は25kg〜30kgがせいぜい」

 「武器弾薬、食糧を除くと、防弾は、ちょっと不足ですが」

 「戦時下の死傷者の大半は破片創による致命傷だ」

 「軽量であれば、拳銃、破片、爆風から身を守るだけでも十分でね」

 「問題は、身に付けるといっても重量は、5kg以下にすべきだろうな」

 「それでも重い気がする。内骨格を強化したくなるよ」

 「拠点防衛に徹するのならハイテン鋼のボディーアーマーで多少重くても大丈夫だがね」

 「ボディーアーマーなら、強化ナイロンの方が良いような気もするが」

 「柔軟性ならそうだけどね。アメリカの方が進んでいそうだな」

 「もっと資本を集中して、化学工場を建設しろよ」

 「それと、青田買いをやめて大卒を増やせ」

 「社会資本を吸い上げて貧富の格差を大きくし過ぎると、大戦前夜並みに貧困層が増えるよ」

 「資本主義も抑制しないと、非人間的な社会になりそうだね」

 

 

 エルフ族のハミハラは、麦藁帽子を深々とかぶり、長耳を隠していた。

 法務省の役人と日本軍将兵に囲まれて、瑞樹州の町を歩く。

 『本当に人族の世界があるのか・・・』

 『地球は、人族しかいないので、エルフ族が見つかると拒絶反応を起こしますよ』

 『まぁ 寿命も安定して得られるし、生活も安全も確保されている』

 『日本語も覚えていないし、契約には従うよ』

 『心身を支配する使い魔がいないと寂しいかね?』

 『最大5人の目と耳、手足を失ったようなものだから、寂しいのは確かだ』

 『6つの視野、6つの耳、6人分の手足か、羨ましいね』

 『6人分の頭脳と意識もだよ。しかし、サービスが良くて、金で補える社会は、悪くない』

 『ところで未開地は、本当にないのか?』

 『ないよ』

 『そりゃすごい』

 『どうだろう。欧米諸国のスパイを使い魔にして情報を収集するのは?』

 『女性ならね。免疫抗体がなくて、相手がエルフが好きならいいけど』

 『女性のスパイは多いよ。彼女たちがエルフを好きかは不明だけど』

 『非合法のスパイなんだぞ。好き嫌いじゃないだろう』

 『軍人は、強引だな。まず、犯行を実証しないとね』

 『はぁ また法律かよ。これだから法務省は・・・』

 『軍人は法律に従う気持ちがないのか?』

 『従わないと言ってないだろう』

 『違法している相手を追いかける時に制限速度を守れないだろう』

 『まぁ 魔法を使えば捕らえられるが・・・』

 『そ、それで、そのスパイというのは?』

 『彼女たちは優秀だぞ。頭脳明晰。日本語、英語、ドイツ語もペラペラだ』

 『当然。使い魔の情報を得られる君も優秀になれて、ペラペラだな』

 『なるほど。それは便利だ。君たちに信頼されて嬉しいね』

 『君の情報が彼女たちから、敵国に流れないだろうね』

 『流れないようにできるよ。僕の使い魔なのだからね』

 『君は、外をウロウロ出来ない代わりに彼女たちを通して、気晴らしが出来るかも知れないね』

 『それはストレスの解消になるね』

 

 

 

 中南米 イギリス領ベリーズ

 日本人研究者たち、

 マヤ暦は、2012/12/21で終わっていた。

 ガイアでマヤ人の存在が確認されると、

 次の地球=ガイアの扉が大きな影響を与えると推測される。

 「終末観なんて、宗教染みてるけどね」

 「たまたま、2012年で暦を止めただけじゃないの」

 「だけど、扉との関連性は否定できないよ」

 「大気圏内だろうな。大気圏外で扉が作られると洒落にならないよ」

 「知的生命体の存在=認識論でいうなら、それはないと思うがね」

 「存在=認識論で言うと未知への恐怖は、引力にもなれば、斥力にもなるよ」

 「確かにガイアは、喰命鬼など、恐怖すべき存在も確認されている」

 「地球産の喰命鬼の存在は?」

 「未確認だ」

 「まぁ いたとしても、隠れ潜むだろうね」

 「少なくとも媒体になる魔法の杖を持っていないなら。恐怖は軽減されるよ」

 「どちらかというと、現実的な脅威の方が心配だな」

 「ベネゼエラか・・・」

 「アメリカはそんなに戦争したいのかね。良くやるよ」

 「アメリカ人は、日本人と違って、単一民族ではない」

 「アメリカ人の構成は移民の人口比によって左右されやすく」

 「ドイツ系の移民が減少して、規律が劣化している」

 「戦争でアメリカ国民の歴史認識を共有させたいのでは?」

 「中東戦争で、揚陸艦建造を承認させて」

 「軍事力増強と軍需産業増強を目指してベネゼエラの反米戦争の画策かも」

 「戦争なんて儲からない気がするけどね」

 「軍需産業が考えていることは産業を維持するための予算取り」

 「それと自分の年俸と利権だ。彼らが言葉通り、国益を考えているなんて幻想だよ」

 「昔の日本軍と軍属と同じで、信じる奴が馬鹿だ」

 「じゃ 中東戦争に巻き込まれてアメリカ国防省は、予算増額か」

 「ベネゼエラと戦争になれば、アメリカ軍需産業と国防省の年俸アップは確実だな」

 「どうかな。中東の巻き込まれは、ともかく」

 「アメリカ国民は、基本的にアメリカ政府と軍産複合体の良いなりにはならないし」

 「民衆は武器を持って自衛しているし。戦争に駆り出されることを好まない」

 「軍人に主導権を渡したりしないだろう」

 「しかし、アメリカ軍産複合体は、巧妙に危機を招こうとしているじゃないか」

 「民主主義は、戦争に至る手続きが複雑だからね。宇宙人まで引っ張り出してたな」

 「・・・アメリカはマヤとUFOとの関わりをあげているようだけど」

 「ガイア研究所は、仮にUFOが存在するとしたら平行次元空間を行き来して」

 「飛行石を探索している可能性があると聞いたが?」

 「いまのところ、コンタクト無しだと判断し難いね」

 「日本政府はベネゼエラをどうするって?」

 「ベネゼエラと心中する気にはなれないと思うよ」

 「だけど、アメリカが負ければ良いと思っているのは確かだね」

 「確かにアメリカ権益地のくびきがなくなると、楽だけどね」

 「それに極東権益地を日本が取れるとは限らないよ」

 「だいたい、アメリカ権益地の生産力は、日本経済にとって、脅威だ」

 「じゃ 漁夫の利かな」

 

 

 

 イスラエル

 中東戦争後、スエズ運河は英・日・自由フランスの共同管理で中立地帯とされ。

 シナイ半島は、イスラエル領にされてしまい、パレスチナ人の入植が進んでいた。

 シナイ半島のエジプト返還は、棚上げにされ、アメリカの利権も増大していく。

 先に攻勢をかけたのは、アラブ・イスラム勢力だった。

 しかし、アラブ・イスラムは、ユダヤ人のパレスチナ入植に異議を唱えていたのであり。

 そういった経緯からすれば、起こるべくして起こった衝突と言えた。

 イギリス人 & 日本人たち

 「運河の掃除が大変だな」

 「ユダヤとアラブの戦争を利用して、スエズ権益を守る手法では、えげつない気もするね」

 「仕掛け人はアメリカだよ。実行犯はアラブ・イスラム」

 「どうして、中東に傀儡を作りたがるかね」

 「他国を貶めて、同時に自国の繁栄を図る。至極当然の行為だと思うよ」

 「アメリカは新大陸だけでなく、旧大陸に対しても野心を持っている」

 「アメリカ極東権益地は、最大の権益だし」

 「欧州側にも傀儡が欲しいのさ」

 「特に中東は石油利権が大きいからね」

 「だけど、イスラエルへの駐留は、中東の反発を買いそうだな」

 「だから、日英同盟に旨みが転がりやすいんだ」

 「スエズ運河権益が確保しやすくなったのは認めるけどね」

 「しかし、掃除をしても戦争が始まれば不通。不安が尽きないね」

 日本の建設会社による運河の清掃が始まっていた。

 

 

 

 ワシントン 白い家

 F4ファントムの模型があり。

 建造中の18300トン級LPHハンコック型強襲揚陸艦の模型があった。

 どちらも完成されつつあり、期待されている。

 男たちが世界地図を見つめていた。

 「アメリカ極東権益地の防衛費が不足な気がするな」

 「戦力比で言うと、許容範囲です」

 「日本の魔法を含めていないだろう。日本軍の戦力を1.4倍にすべきだね」

 「魔法は、推測だろう」

 「少なくとも、新設された新幹線と魔法に関連性はなさそうだけど」

 「そうは思えないな。日本の採算率は、異常だ」

 「安い賃金のせいじゃないか」

 「だいたい、日本の上層部の取り分が少な過ぎる。修道僧じゃあるまいし」

 「法務省のスパイは?」

 「干されたよ。どうやら、見破られたらしい」

 「少なくとも魔法に人の精神を支配できる。力はないわけだ」

 「むしろ、怖いのは、日本より、ドイツ帝国だな。ジーンリッチ人口は増加している」

 「アメリカ人は、平均的なジーンリッチ人に対し、知能指数も運動能力でも負けている」

 「それにオリンピックでジーンリッチ種は、大活躍している」

 「財閥も遺伝子改良を研究しているがドイツに比べて遅れている」

 「遅れているどころか、自由恋愛抜きで、子供を作れるドイツ帝国は基礎で上だな」

 「どうかな、ドイツ人同士の優生遺伝なら、ドイツ人の悪癖も過剰に遺伝される」

 「アメリカ人の雑種交配による優生遺伝が上だよ」

 「だと良いがね。アメリカの人的劣勢は危険だ」

 「アメリカの教育は自由を尊ぶ、飛び級上等で代償の知的格差は大きい」

 「ドイツのような人工的な遺伝子改良も、日本のような超自然的な横並びもない」

 「ふっ 国民を型にはめるなんて、不自然じゃないのか」

 「アメリカ人の一般的な概念だと、唾棄すべき事柄だ」

 「歴史、文化、国民性の経緯でそうなっているだけだ」

 「本当に望んでいるわけじゃない」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ヒルコ(鬼ヶ島)島

 人鬼村

 日本人たちは、妊婦で弱り、子育てに追われ、脆弱な状態にあった。

 村の主導権は、利権によって辛うじて日本人に保たれていた。

 無理をしても、軍事的な優位性を誇示する必要性があった。

 「魔法で矢による飽和攻撃が散らされるだけでなく。FN FALの軌道まで狂わされるとはね」

 「狙撃は効果あるよ。曳航弾抜きだと、より効果的だ」

 「弾薬の不足を考えると辛いな」

    弾薬 重量 銃身長/全長 装弾 初速 発射速度 射程
日英 FN FAL 7mm×43 3.5kg 623/889 20 771 600発/分 700

 「魔法剣で叩き斬るのが有用な戦法とはね」

 「魔法剣は、FN FALより高い。費用対効果だと、いただけないね」

 魔法剣の柄からルビー・レーザーの赤色線が伸びていた。

 高価なルビー結晶だったものの、喰命鬼対策では、有用と考えられていた。

 「しかし、魔法の杖とルビー・レーザーの組み合わせは悪くない」

 「後天的な訓練で得た魔力の弱い俺たちでも、魔法使いと戦える」

 「二世の魔力の強さに期待したいよ」

 「できるなら、次の移民を受け入れたいね」

 「扉が開くか、喰命鬼をあと5人くらい送らないと定期便は無理だ」

 「日本は好景気だそうじゃないか」

 「片道移民なんてしたがる酔狂者なんか、ほとんどいないだろう」

 「公募すれば・・・」

 「できるわけがない。まさに棄民だよ」

 

 

 

 ガイア世界、最強のアルフヘイム国は、エルフ族の支配する世界だった。

 その最大勢力の世界でさえ、

 ガイアの15分の1の支配圏を握っているに過ぎない。

 アルフヘイム国 ビフレスト

 未開地から外郭が攻撃された場合の被害は、大きく。

 被災者が中央に流れ込めば、犯罪も増えた。

 そのため、被災者用のスラム街があったりする。

 その近くに人鬼村の商館があって、交易を足し、情報を収集していた。

 主要種族のエルフの群れの中、人族が混じっていた。

 ヒルコ島の人族は、羽振りが良く、有名なのか、意識されやすい傾向にあった。

 「さすが、ガイア世界、最大のアルフヘイム国だ。賑やかな町だね」

 「エルフ族が彼らの主惑星との扉を開いている可能性は?」

 「ガイアの盟主族だからって、扉との行き来が確保されているとは思えないが」

 「だけど、ここ数十年で、アルフヘイム国の鉄の取引量が増えていると聞いてるし」

 「数十年前に流れていなかった穀物も増えているらしい」

 「それと珍しい貴金属も・・・」

 数人の人族が店先の宝石を覗き込む。

 紫に輝くダイヤが並んでいた。

 「数十年前といったらエルフ族の生存圏拡大と重なる」

 「人族の拡大は今一つだね」

 「そりゃ 扉次第じゃないか」

 「魔力を消耗しなくても行き来できる場合もあれば」

 「魔力を相当量消耗しないと行き来できない場合もある」

 「しかし、扉だけとは限らない気もするね・・・」

 エルフ族の子供たちが糸を操って遊んでいた。

 エルフの学校は、魔力を鍛えるカリキュラムが存在し、

 糸で空中に絵を描いている生徒までいる。

 「種族間における魔力の平均値は、最大だと思うよ」

 「寿命を減らす教育をするとはね」

 「糸くらいなら消耗は小さいよ。しかし、技巧を学ぶには効果がある」

 「人鬼村でも取り入れるべきだね」

 「・・・エルフの主星があるのなら行きたいね」

 「平行次元の先の宇宙は、地球が存在する宇宙の可能性が大だし」

 「エルフ族がガイア原種の可能性は?」

 「ガイアは最大公約数的なハブ惑星で。原種は、未開地種の可能性が大だね」

 「どちらにしろ、彼らも飛行石をエルフ本星に輸出しているとしたらライバルになるぞ」

 「彼らは鉄の精製能力が低い。質的優位は、上だ」

 日本人たちは、エルフが精製した剣を見つめる。

 鋼の剣は、人鬼村で精製したモノより劣っていた。

 「いまのところね。飛行石の精製力は、エルフが進んでいる可能性が高い」

 「飛行石の精製は、魔力を干渉させた方が向上する」

 「飛行石精製で、反重力エンジンは夢だからね」

 「質的な向上を求めるには、資本、資材、研究員を増やし。貧富の格差を広げなければ・・・」

 「人鬼村に人的余裕はないよ」

 「しかし、エルフは、支配地拡大で、大和の派遣を要求している」

 「すぐは、難しいな。この前の派遣で弾薬を消耗しているからね」

 「それに利権は十分で、血を流してまで戦う必要はない」

 「ちょっと弛み気味かな」

 「やっぱり、日本人の召喚は、必要だな」

 

 

 

EE ライトニング F Mk.3

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 月夜裏 野々香です。

 なんと、1961年まで来てしまいました。

 だらだらです。

 そろそろ、オチを付けて終わらせようかと、

 

 日本潜水艦は、エルフ族のハミハラのおかげで、魔法使いを常駐させられそうです。

 いったい、どの程度の囚人の寿命が・・・

 

 

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第20話 1960年 『長いモノに巻かれて事勿れ』
第21話 1961年 『金の生る木の寄生虫』
第22話 1962年 『根源は生体素粒子』