月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第25話 1965年 『国境線に異常なし』

 江戸幕府、人口2500〜3000万。

 士農工商の階級は、ほぼ固定され、

 才覚は埋もれ、努力も徒労に朽ちていく。

 76〜83パーセントの農民

 武士階級7パーセントが搾取し、

 工人は4〜7パーセント、

 商人6〜10パーセントの資本・流通を握っていた。

 享保の改革、寛政の改革、天保の改革が行われても根本的な解決に至らず、

 農村で一揆、都市で打ち壊しが起こった。

 欲に目が眩んだ藩は、飢饉が起こるほど高騰を見込んで米を大阪の商人へと送り餓死者を増やした。

 人の情けは消え、貧富の格差は、限界を越えて大きくなり、

 明治維新は、破綻する幕府行政と、圧倒的な脅威を押し付ける列強によって誘発する、

 幕府は、内圧と外圧に屈し、西洋近代兵器も幕府軍を圧倒した。

 明治維新後、武士の特権は消し去られ、困窮する士族を救う算段は征韓論であり、

 それが内政優先に変えられると、士族は生き場を求めて反乱を起こした。

 農民を徴兵した政府軍の近代的な軍隊は、支配階級だった士族軍を西南戦争で破り、

 その後、士族の特権を剥奪し、士族の抵抗を削いでしまう。

 「征韓論か、豊臣が朝鮮出兵した理由と変わらないな」

 「西南戦争は、内政優先で国内の不満を押し潰した徳川幕府のやり方か、歴史は繰り返すだね」

 

 江戸幕府を潰した明治新政府は太政官制を敷いたものの権力体制を維持しなければならず。

 支配層・被支配層の比率は基本的に変わらないのだった。

 それまで支配層だった階級に薩長藩閥志士が潜り込み、権力構造を確立していく。

 しかし、支配層だった士族の一時的な弱体化は、別の動きを引き起こした。

 豪農を中心に農民層が士族と結びつつ、地租改正の改革を要求し一揆をおこした。

 そして、労働力を奪う学制、徴兵でも反発。

 「けっ 武士の特権剥奪で支配体制の間隙を突かれたか」

 「農民どもめ、武士階層を潰しても、エタ・ヒニンを残したがるような連中が偉そうに自由だと」

 「差別されるのは劣等感に苛まれて嫌でも、差別するのは優越感に浸れて好きだからね」

 「軍隊で、一揆を沈めろよ」

 「農民を徴兵して軍隊を作っているのに、どうやって鎮圧するんだよ」

 「「「「・・・・」」」」 が〜ん!

 「軍属将兵が豪農から独立するのは一世代以上かかるよ」

 「「「「しまったぁ〜」」」」 が〜ん!

 時代を作った維新志士は、半士半農の下級武士が占めていた。

 豪農、富裕層の子弟が政府と軍の中核を占め、

 豪農と富裕層は、減税を望み、

 自らの権利を守ろうと自由民権運動を起こしていった。

 統制は自由を削ぎ、自由は統制を失わせた。

 政府が軍事的な圧力を行使できなくなると、国権と民権の綱引きは民権が強くなった。

 地方議会の自治権は拡大し、

 民権が強まると薩長藩閥政治だった太政官制は、あっさり崩され帝国議会を作らせていく。

 しかし、日本は、鉄鉱石と石炭が不足しており、

 近代化に必要な生殺与奪権は、他国に握られていた。

 日本は、対外的な利権を求めて日清戦争を起こし、

 日露戦争を経て日本は列強の末席についた。

 軍部は、大陸利権を利用しながら権力を増大させ、政府を圧倒していく、

 歴史の歯車は、新たな士族階級である軍部の台頭を許し、

 日本を右翼化していく。

 しかし、第二次世界大戦を前後して、未知の力が出現。

 陸海軍の亀裂は未知の力を巡って、決定的なモノになって、分裂。

 陸軍の失墜と陸海軍統合。対米不参戦と大陸利権売却によって、

 欧州に参戦しながらも急速に軍部の力は弱まり、

 「大陸権益を売却して、外征を潰して権力構造を破壊したと思ったと思ったら、瑞樹州行きか」

 「そして、遠くバルカン・カフカスの地だよ。なにを考えているのやら」

 軍の暴走を牽制できる未知の力は、公共投資を増大させ、

 軍民の力関係を決定的に変えてしまう。

 「なんで、イギリス植民地やアメリカ極東権益地で働かされるんだ」

 「お金・・・」

 日本連邦は、内外とも大きく変わり、日本の国際的な地位も変えていく。

 

 国際情勢は、日英同盟、独伊同盟、アメリカ合衆国、ソビエト連邦の勢力圏と、

 成長するバルカン連邦、中国7軍閥、オランダ(インドネシア)、

 インド、ベネゼエラ、ブラジルが注目される。

 国民の生きる力は、協調と闘争を経て、経済力となり、

 国家、資本家、国民との協調と闘争を経て国力に反映され、

 各国とも国情と国家目標とするところの妥協の末、国家予算の一部を軍事力に転換できた。

 

 

 日本 羽田飛行場

 捨てる神あれば拾う神あり。

 高性能でありながら財政負担に耐えられず、消えていく兵器は少なくない。

 日本は、その消え去りそうだった戦闘機アブロ・カナダ CF105に目を付けて、ライセンス生産してしまう。

イングリッシュ・エレクトリック ライトニング戦闘機 (初飛行1957年)
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
12719/18915 16.84×10.61×5.97 44.1 7277kg×2 2415km/h 2500km 2 4 1
アブロ・カナダ CF105アロー戦闘機 (初飛行1958年)
22245/31120 23.71×15.24×6.25 113.8 10453kg×2 3062km/h 660km 1 8+4 2

 「開発が1年遅れるだけで偉い違いだな」

 「エンジン開発で手間取ったからだろう。戦闘機は、日進月歩だからね」

 「しかし、随分でかいデルタ翼だな。大き過ぎないか?」

 「元々、対爆撃機用だからね」

 「対戦闘機だと、半分くらいでも良さそうだが・・・」

 「まぁ その辺は改良の余地がある」

 「チタンを増やせば、15000kgくらいにまで重量を落とせて航続距離も伸ばせるだろう」

 「チタンを使えば、ライトニングでも重量を落とせそうだが」

 「二人乗りだと後ろに魔法使いを乗せられるだろう。防御力は数倍に跳ね上がる」

 「パイロットと魔法使いの資質は違うから、魔法使いが気絶しなければな」

 「科学技術の粋と魔法技術の粋か、気付かれたくないな」

 「飛行石と違って、敵の手に渡っても、ばれる心配はないよ」

 「どちらにしても大型レドームを搭載できるし、全天候型迎撃機なのが気に行ったよ」

 「燃料の消費は気に入らないな」

 「いま、ターボファンエンジンを検討しているよ」

 

 

ブリストル 4発旅客機 ブリタニア
重量 ベイロード 全長×全幅×全高 翼面積 hp 速度 航続距離 乗員 乗客
37400/84000 29000 37.9×43.6×11.4 192.7 4440×4 639km/h 6870km 5 133

 「へぇ こういうのは良いねぇ」

 「まぁね」

 金髪碧眼の乗客たちは、おしぼりのサービスを面白がった。

 欧米諸国の知識人たちは、経済的な相乗効果を確認するため来日する。

 「これも日本産業の秘密の一旦だろうか」

 「ふっ サービスの有用性は認めるわ、でもそれだけ」

 「産業の足しにはなるがね。些細なことだ」

 「今回の旅行で、日本に魔法があるという君の考えを払拭して見せるよ」

 「しかし、日本が常識的な成長でないことは確かだ」

 「わたしたちは、科学の信徒よ。魔法の類は信じていない」

 「日本産業の成長の秘密は、合理的に判断できる」

 「日本の殖産興業は、1872年からの官営鉄道、汽船から始まっている」

 「採算上のリスクを避けるため、政府主導の官営から財閥へと払い下げられ」

 「日本産業は、少しずつ、すそ野を広げていった」

 「しかし、貧しい日本社会において、熟練工の技能は、保身の武器であり」

 「一子相伝の資産は、簡単に広がるものではない」

 「でも、権威主義的な慣習で日本国民を滅私奉公で働かせているに過ぎないよ」

 「1965年の今でさえ、世代を越えて蓄積された技術とノウハウも100年未満でしかない」

 「常識的に考えても工作機械やエンジンなど心臓部は、いまだ模倣の域を出ないはずだ」

 「しかし、日本の資源開発力は、異常だと思うが?」

 「ダウジング能力の域を出ていない、たまたまダウジングの才能がある民族なのだろう」

 「それに外地の日本人は、ダウジング能力で開発した資源より、詐欺的に集めた外貨によるところが多いわ」

 と、欧米諸国の知識人たちは、容易に日本産業の程度を推測し、

 タラップを降りると、

 「「「「あれ・・・・・」」」」

 科学者の信徒たちは、日本に来ると一様にショックを受けた。

 「「「「・・・・・・・・」」」」 呆然

 異常に採算率が高くなければ、あり得ない世界が広がっていた。

 

 

 イギリスは、植民地防衛のため大型飛行場を建設し、

 緊急展開部隊は、1日で植民地に到達することを目標に戦略を構築する。

 52年に初飛行したブリストル ブリタニアは、一時、少量生産で終わるかと思われた。

 しかし、日本航空が採用すると採算が良くなり、

 バルカン、カフカス、穂国、インド、オランダ(インドネシア)で採用されていく。

 とはいえ、旅客機仕様のブリタニアは、軍用で力不足であり、

 エンジンを強化した機体が開発され、

CL44ユーコン
重量 ベイロード 全長×全幅×全高 翼面積 hp 速度 航続距離 乗員 乗客
40348/95000 29959 41.73×43.37×11.18 192.7 5730×4 639km/h 8990km 3 160

 対潜哨戒機と対空哨戒機に改造されていく。

 そして、ブリタニアは、兵力の輸送で役立ったものの前線への輸送で不安だったため、

ショート 4発輸送機 ベルファースト
重量 ベイロード 全長×全幅×全高 翼面積 hp 速度 航続距離 乗員 兵員
59020/104300 36288 41.7×48.1×14.32 229.1 5730×4 576km/h 8368km 4 150〜250

 ベルファースト輸送機が開発される。

 

 ロンドン 飛行場

 「素晴らしい輸送機だ」

 「植民地側に駐屯部隊と兵器と武器弾薬を置いておけば、兵隊だけを空輸すれば良いことになる」

 「おや、日本は、このベルファーストの30倍上の積載力を誇る飛行機をお持ちなのでは?」

 「ま、まさか、そんなもの、この世にありませんよ」

 「そう考えないと瑞樹州の高原都市群は腑に落ちないものがありますからね」

 「た、高いところが好きなんですよ。きっと・・・い、いやだなぁ」

 「まぁ いいでしょう。日本が購入してくれるのなら・・・」

 イギリス単独では、需要が足りず、

 大型ターボプロップ4発機は少量生産で立ち消えるはずだった。

 しかし、各国は、日本が既存の科学技術から成り立つ産業と、

 不可思議な力を根源とする産業の二重構造であると考えており。

 日本は、欧米諸国の疑惑を払拭しようとイギリス製のライセンス生産を多用する。

 日本がイギリス製の4発ターボプロップを採用したことで量産化が進み、

 量産化は、治具と整備を有利にし、採算ベースを押し下げ、

 イギリス連邦、バルカン、カフカス、穂国、オランダ(インドネシア)でも採用が検討される。

 

 

 三陸海軍基地

 高感度双眼鏡を覗けば基地の外縁部からでも出入りする日本の潜水艦を視認できた。

 自称、作家、芸術家の白人たち

 「本当にディーゼル潜水艦なのか?」

 「水中で6500トン級は、原子力潜水艦レベルと言えるがね」

 「戦力は大きい。しかし、待ち伏せ用潜水艦で6500トンは大き過ぎる」

 「日本の潜水艦は、異世界に行くため大型になったという話しは?」

 「どうやって?」

 「俺に聞くな、局でも疑心暗鬼になって、俺たちに御はちが回ってきたんだ」

 「どっち付かずで傍観者を決め込むから、中立性を取られたんですよ」

 「俺は、コネがないから・・・」

 「俺は、上司とスポンサーの狭間で大変なんだよ」

 「このまま、手柄がないとCIAから真っ先に放り出されますね」

 「ピッグス湾事件の失態で、大統領に解体されそうになったしな」

 「シナリオの粗とか、危険性とか、他力本願の不確定要素を考えないから、あんな事になるんですよ」

 「思慮の浅いお馬鹿な上司が悦にってるのに代替案を出して興ざめさせたりできるか」

 「コネだけの奴や頭だけの奴に、お前は、馬鹿だと言い難いんだよ」

 「まぁ その件は、ソフトランディングしたよ」

 「・・・・」

 「しかし、何とか内部に入り込みたいが単一民族は入り難いなぁ」

 「一番信頼できる日系人工作員を使っての諜報で得ているのが魔法だよ」

 「わたしは言いたくありませんからね。魔法使いがいるなんて」

 「俺だって精神病院はいやだ」

 「命懸けでも、まだ、ソビエトやドイツに行く方がマシだな」

 「そういえば、日本の諜報で死ぬって、あまりないですね」

 「良いところまで行って、国外追放だからね」

 

 

 4頭のイルカが伊421号と並走していた。

 使い魔の運用は、寿命を保つ上で有用であり、

 潜水艦戦においても、大きな進歩をもたらした。

 そして、アホウドリが潜水艦上空を飛んで警戒する。

 魔法使いは、海上と海中の様子を巨大な水晶に投影させ、

 魔法+科学技術は、ソナーから得られた情報も合わせて投影させる。

 「んん、いままでより探知外が多い。しかし、ムラがあるな」

 「ですが消耗する寿命が小さいので、法務省は、この方式に切り替えることを望んでますよ」

 「魔法使いは、法務省の管轄か・・・」

 「あまり強く言ううと、自分の首を絞めることにもなりかねんな」

 「少しくらいなら、献命しても良いですが、やはり、気分のいいものじゃないですね」

 「そうだな。いままでより運行時間が増えただけも良しとするか」

 「敵潜水艦を追跡させたり、発信器を付けさせたり出来るそうです」

 「しかし、アホウドリの目とイルカの耳で外界を見れるとは羨ましい限りだ」

 「だが使い魔は、一種類だけ。能力に応じて頭数に制限がある」

 「アホウドリは良いとして、潜水艦の発する深信音は、イルカの感覚を狂わせてしまうとか」

 「・・・いざ、海中戦になればソナーを発信する」

 「そのたびにイルカの感覚が狂わされるとかなわんな」

 「時々、浜辺に打ち上げられるイルカとクジラは、それですかね」

 「ソナーは漁船の魚群探知機でも使ってる。全部と言えないが。たぶんな」

 「使い魔は、アシカ、アザラシ、オットセイも可能なのでは?」

 「渡洋能力ならイルカか、シャチ、クジラだよ」

 「クジラは、知能が高過ぎるのか、遠隔操作が難しく」

 「視覚と聴覚を感応できる程度だそうです」

 「マッコウクジラは小型で行動範囲が広く、良さそうですが」

 「25m級のクジラなら、敵潜水艦に体当たりさせられるのだが・・・」

 「クジラは回遊するので、農林水産省が海洋調査で狙っているそうです」

 「それにイルカを使った海底農場も計画していますからね」

 「ちっ どいつもこいつも魔法使いを欲しがりやがる」

 「農林水産省に予算取りで負けそうなのが辛いですね」

 「そんなにアメリカ権益地から輸入するのがいやなのかね」

 「!?・・・艦長。9時方向、2000mに潜水艦です」

 水晶にイルカと潜水艦が並んで投影される。

 「・・594・・アメリカの4311トン級原子力潜水艦パーミットです」

 「追いかけっこは無理でも、いまのところ、勝てそうだな」

 「ジェットポンプ式推進機にされると静粛性が増して、不利になるかもしれませんね」

 「反重力加速推進が完成すれば海中から宇宙にまで行けそうだ」

 「飛行石の精製次第でしょうか」

 「魔法の杖の精製もだ」

 「もっとも、喰命鬼が何人いるかわかったものじゃないが」

 「国民の寿命を考えると、流石に気が進みませんね」

 「そうだな」

 

 

 

 戦後世界、不況はなく、好景気が続き。生産力は向上していた。

 “白人なら高給・高待遇” そういう世界が4つあった。

 イギリス連邦植民地。オランダ(インドネシア)。フリー・フランス。ヴィシー・フランス。

 人種差別的であっても貧しい白人にとって好ましく、

 欧米諸国の低層階級の職業移民は増加していた。

 そして、ドイツ帝国の心身障害者・老人の逃亡先であり。非ドイツ人も移動し、

 バルカン連邦、カフカス連邦など、日本人嫌いな白人の移民も増していく。

 オランダ(インドネシア)

 欧州領土をドイツに軍事的に支配されているオランダだった。

 しかし、インドネシアで徐々に国力を再建させていた。

 オランダ人の望みは、欧州オランダの復権であり、

 欧州オランダが人質になっているのと同じように、

 タングステンを必要とするドイツの中国航路を塞ぐことができた。

 バンドン

 支配階級の白人たちが車に乗り、

 被支配階級のインドネシア人らは、白人に敵意を向け、荷物を持って歩いていた。

 オランダ人たち

 「欧州オランダ軍復権のためには、欧州まで行くことができる大型原子力潜水艦が必要だ」

 「水上艦艇はともかく、大型潜水艦は、産業不足だよ」

 「産業か。もっと白人を移民させて、白人の権力構造を安定させるべきだろうな」

 「発注するか」

 「最先端兵器は門外不出。民間企業の技術でさえそうだ」

 「特に国外に圧力を掛けられる軍艦は厳しい」

 「その中でも潜水艦は、秘中の秘だよ」

 「軍工廠ならそうでも、民間部門の造船所なら何とかなるのでは?」

 「二流の潜水艦では勝てないぞ」

 「重要なのは、潜水艦乗りを育てることだよ」

 「まぁ それは、そうだがね」

 「問題は、対価だ」

 「日本は資源採掘権で潜水艦くらい作ってくれそうだがね」

 「資源を低価格で持って行かれると日本産業はさらに強くなるぞ」

 「んん・・・資源持ちのアメリカみたいに高飛車に高く売りつけないのならいいよ」

 「結局、日本製品が安くなるのなら買いやすいから」

 「日本のハイテン鋼技術は世界最高峰だそうだ」

 「日本の経済成長は、賃金格差だけじゃないよな」

 「ダウジング詐欺だろう」

 「いや、日本人が買おうとすると、周りが勝手に地価を吊り上げてるだけだよ」

 「海外在住の日本人が増えるわけだ」

 「魔法社のダウジング社員は本物だがね」

 「杖を持って叫ぶだけで、何でダウジングの才能があると分かるのか、まったくわからんだな」

 「ふっ まったく」

 「まぁ 日本がどうあれ、オランダは欧州復権のため大型原子力潜水艦が欲しい」

 

 

 どこかの射撃場

 FN ブローニング・ハイパワー(9mm×19)の銃声がしていた。

 ケネディ暗殺未遂事件以降、銃器の信頼性が低下していた。

 「身体能力で優れたジーンリッチといえどドイツ人だ」

 「状況を作りだす能力より、対処能力を重んじている気質に変わりない」

 「優位な状況で3対1ならジーンリッチにも勝てるだろう」

 「しかし、問題は、日本の魔法使いだな」

 「拳銃どころか、ライフル弾の弾道を変えられたら、戦争は変わる」

 「弾道を変えられる魔法使いは少ないはずだ」

 「少ないことは問題じゃない。問題は銃の信頼性が揺らいでいることだよ」

 「不安は、人を消極的にさせる」

 「調べたところ天性は、10万人に1人が魔法使いと呼ばれて特別学校に行き」

 「次点の者が10万人に20人ほどで訓練され、修練所に行って魔法使いになり」

 「その次の者たちが10万人に100人ほどで魔法社の社員になるらしい」

 「日本民族の総人口1億からすると・・・」

 「推定。魔法使い1000人。準魔法使い2万人。ダウジング社員が10万だ」

 「ジーンリッチほどではないが。大変な数だ」

 「いや、年齢とともに適性が失われて、実数は10分の1くらいになるらしい」

 「準魔法使いも修練に堪えられず、モノにならない場合が多くて、さらに目減りする」

 「それに始まったのが1941年頃からで、全国規模の選出になったのは、最近だ」

 「世代が一巡しても3分の1にならないね」

 「たとえそうでも、異常な存在が大変な数だ」

 「実態調査が難しいのが問題だな」

 「留学させてるし、国際結婚も増えているのにかすりもしない」

 「やはり単一民族だと入り込み難いのか」

 「日本の魔法疑惑か。実体が大きいくせに、あるのは噂だけだな」

 「それに各界のVIP・著名人は魔除け代わりに日本人を護衛に付けたがる」

 「その日本人に大した技能はなくても、この効果も大きいらしい」

 「暗殺防止要員か、そいつが日本の犬なら情報は筒抜け」

 「日本の諜報機関は大儲けだな」

 「上は、情報漏えいより命か、やれやれ」

 「それで、国防省は魔法の秘密を掴んだのか?」

 「光の負の屈折率を利用したメタマテリアルかもしれないそうだ」

 「よく分からん」

 「まだ理論すら成り立ってないそうだ」

 「そんなモノ日本の科学技術で作れるのか?」

 「無理だと思うがな」

 「それより、日本の魔法使いをテロに巻き込ませる作戦を本当にやるのか?」

 「んん・・・誰が魔法使いなのか、良く分からないのが問題だ」

 「魔法の杖を持っているんじゃないのか?」

 「学校で発掘する時はな」

 「しかし、大統領暗殺未遂事件の折、近くにいた日本人は杖らしきモノを持っていなかった」

 「問題は、魔法使いが撃った弾は長距離でも当たって」

 「こちらの弾は至近距離でも当たらないことだな」

 「・・・絶対に勝てねぇ」

 「問題は、魔法使いの存在を疑っている勢力が多いことだ」

 「まぁ 大っぴらに仲間入りしたくないと思うのが普通だな」

 

 

 バルカン連邦 (83万8387ku)

 基幹産業に関わる生産は、日本人街で行われ、

 経済力は年ごとに高まり、日英同盟規格のグローバル化の一端を担っていく。

 バルカン連邦は83万8387kuの国土を有し、総人口8000万に達していた。

 欧米諸国の研究者が仕事・観光で訪れるカオスの国、

 西洋と東洋の文化を融合させた歴史的な意義で、マケドニア王国アレクサンダー大王であり。

 版図的な意味では、オスマントルコ帝国に続いて2度目と言えた。

 バルカン連邦は、都市行政単位でバラバラにされ、

 1300万の日本民族は、バルカン連邦の基幹産業を担いつつ、膠の役割もはたしていた。

   「曰く、バルカン連邦は、イギリスの策略とドイツ帝国の妥協によって興り、

   日本の摩訶不思議な手段によって運営され。

   アメリカの勢力均衡策と利権によって保たれている」

 アメリカは、極東権益地防衛のため対ソ連合でドイツと組みつつ、ドイツ帝国の欧州統一を望んでおらず。

 バルカン連邦は、日英同盟だけでなく。アメリカ、ソビエトにとっても反独伊勢力の拠点だった。

 もっとも、戦後経済の一環として需要に従い、民間の路線、航路、空路は次々と開かれ、

 宿敵だった日英同盟と独伊同盟の相互交通が確立される。

 アメリカ外資系ファーストフード店

 「日本民族支配が、オスマントルコ帝国実行支配150年を超えるかを賭けようか?」

 「パックスジャパンか? 越えそうだな」

 「何でだ?」

 「軍だけでなく、基幹産業を押さえているだろう」

 「それも奪うより原野から都市建設しているから恨みも、ほとんど買っていない」

 「治安は安定しているし。独立しても国民をケンカさせずに養えない」

 「何より、他の諸民族に牛耳られるより益しだと考えている」

 「それに統合性に欠け、侵略性が低く。誰もバルカン崩壊を望んでいない」

 「それに貿易上の得点は大きいよ。積み荷を一旦運び込めば、重要に従って広まる」

 「いまでは、イタリアやヴィシー・フランスより国力があるし」

 「カフカス連邦とも行き来が自由で利権も大きい」

 「日本は投資だけして、回収をしていないのが不思議だね」

 「公共投資で、国債という形でやっているだろう」

 「一般のバルカン諸民は、税金という形で払い続け、日本民族は受取人だな」

 「近代化の代償とはいえ、良い手だな」

 「まるで、アメリカ極東権益地だ」

 「極東権益地より、ゆるいがね」

 「日本がバルカン、カフカスで真似しているのは確かだね」

 「お互いに人質に取られているのが痛いね」

 「そう言うが日本民族にバルカンを安定できると誰が思う」

 「俺は5年で破綻すると思っていたよ」

 「各共和国の第二言語はルーマニア語だがね。それほど広がっていない」

 「実態は、公文書でもない日本語が強くなっている」

 「ああ、看板は、漢字、ひらがな、カタカナが多い」

 「都市法で日本語に制限を加えても、基幹産業の恩恵が受けられなり、日本語を使い始める」

 「日本のマンガ、アニメも大人気だな」

 「このままで推移すると、基幹産業を押さえ、文化的優位な日本語が圧倒的に大きくなっていくぞ」

 「面白くないな」

 「だが、いくつもの言語を覚えるのは困難だ」

 「別の科目に時間を割けられず、科学技術上の不利も大きい」

 「日本の都市要塞は?」

 「資源の上に乗っているよ。大半は、高台にあって、防衛力も高い」

 「治安が良いから、そこに住みたがる諸民族も多い」

 「ますます、日本民族が有利か」

 「ああ・・・」

 

 

 星の丘  軍需工場

 日本人とイギリス人

 センチュリオン戦車からチーフテン戦車への更新が行われていた。

 「今度はチーフテン戦車か」

 「やっとセンチュリオン戦車のライセンス生産率100パーセントまで行ったと思ったのに・・・」

 「ライトニングといい、ハリアーといい。チーフテンといい。イギリスも気前がいい」

 「ドイツ第3帝国からイギリス本土を守るためだ」

 「バルカン連邦は、イギリスの欧州大陸唯一の同盟国であり、ドイツ第3帝国に対する楔だからね」

 「連邦軍は、ドイツ第3帝国に侵攻する戦力はないよ」

 「ドイツ第3帝国の不安定要素になれば良い」

 「ドイツの新型レオパルド戦車は、65口径105mm砲装備でバランスが取れてるらしいけど」

 「数を揃えられて、120mm砲より、弾数も多い。対ソ戦向きだな」

 「アメリカの新型M95戦車は、チーフテンより大きいぞ」

 「アメリカはお金持ちだから、大きくても、たくさん作れるんじゃないか」

 「羨ましい」

 「日本人もバルカン連邦で妬まれてるだろう」

 「結局、日本人の利権が大きいほど近代化していくと分かっている」

 「言語も、日本語とルーマニア語が強くなりそうだ」

 「日本人にとって、良い傾向だね」

 

 

 

 中国大陸は、官僚機構の不正腐敗が減ったものの、

 華僑資本、日欧米資本と結託していることに変わりなく。

 貧富の格差は広がり、

 民衆はモラルを保てず財欲に蝕まれていた。

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 3.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 涼(蘭州)

 中国大陸で唯一の共産主義、

 最大の国家、涼は、資本主義の悪癖から身を守ろうと文化大革命を起こした。

 事実、中国軍閥の資本主義は、初期の資本主義特有の歯止めのない搾取であり、

 法的な制約が整備されない限り、労働者は使い捨ての奴隷でしかなく。

 奴隷でなければ、市場を得られず、他の軍閥国に敗北してしまうのだった。

 そして、涼の文化大革命もまた、反体制主義者抹殺だけでなく、

 資産の再配分を目的とした間引き要素があり、地獄だったのである。

 歯止めをなくした民衆は、富裕層を次々と抹殺していったのだった。

 その中には、村のまとめ役、医者、科学者、技術者など含まれており、

 歴史的建造物まで破壊されていく。

 狂気に駆られた民衆は互いに殺し合うようになり、

 国家基盤を支える根幹を文字通り潰してしまったのだった。

 周辺国は、巻き込まれまいと国境を閉ざし、

 涼民衆の狂気と暴力が自然に収まるままに任せたのだった。

 

 

 

 アメリカ合衆国が生産する機材と商品を全て押し付けられる大地。

 アメリカ極東権益地 (135万2437ku)

 魅せ掛けの富と自由の幻想に労働者が飛び込む大地。

 欲に駆られた労働者が虫のように火中に飛び込む大地。

 非人間的な労働と低賃金で生産する資源が奪われ、

 生産品が世界へと輸出される大地。

 アメリカ企業群が支配する経済植民地世界が広がっていた。

 多くが非自由・非民主のモノポリー以下の人生であり、

 利害関係による支配体制は、牧農の如くだった。

 膨大な借款のツケは、税金として労働者に押し付けられ、重く圧し掛かっていた。

 アメリカ合衆国をはるかに凌駕する経済システムが構築され、

 労働者が尽きないのは、高度なサービス。利便性。莫大な商品のなせる技だった。

 ハルピン

 幅の広い凍った道路をアメリカ車が縦横に走る。

 英語表記の看板とネオンサインが煌めき、集金を目的とした牙城が建ち並ぶ。

 毛皮を着た黒人が寒そうに身を縮めながら歩き、

 服装で中間管理職である事を証明していた。

 北の白人世界と南の黄色人種に囲まれ、

 生存を脅かされた黒人は、アメリカ資本に忠誠を誓う集金人か収税人だった。

 全ての商品がここに一旦集まり、配送されていく。

 労働者の財布の中の半分は、企業の発行する商品券であり、

 企業は、前金で資金を集めて投資する、

 固定客を作る事で優れ、現金収入管理が問われた。

 日本人街

 赤ちょうちんの日本人技能者たち

 「そろそろ、潰しの効かない仕事は、潮時かな」

 「仕事を細分化させて独立させない技があるんだよ」

 「アメリカ権益地ほど拝金主義が支配するは珍しいな」

 「資本家は似たり寄ったりだ。世界中の資本家が極東権益地に寄ってきやがる」

 「真逆の共産主義国家と国境を接しているから尚更そう感じるね」

 「日本資本が資源を押さえている日本人街は、住み良さそうだけど?」

 「例のダウジングか、俺もそういう才能が欲しかったな」

 「でも、あの魔法社の親父。なんか子供を食い物にしてるみたいで、胡散くさいよ」

 「そうそう」

 「取り敢えず、権益地で30まで働いて、小金を貯めたら日本で土地を買ってコツコツとやっていくか」

 「だけど、30から年俸が上がりそうなんだよな」

 「アメリカ資本は、実力があるやつとないやつは、年俸で差がついちゃうからな」

 「毎年、実績で再就職のようなものか。日本の年功序列と違って気が休まらないよ」

 「自己主張も鍛えられるし、喋れないやつはバカだし」

 「日本人街の区画がもっと増えれば、バルカン以上に有利になるよ」

 「それはどうかな。バルカンと違って、基幹産業はアメリカ資本に押さえられている」

 「バルカン連邦と逆だな」

 「そういえば、アメリカ軍の日本人募集が来てたな」

 「無節操〜」

 「本当に多国籍企業連合国家を作るつもりなんだな」

 「何か日本に帰ると村八分に合いそうだな」

 「日本企業が斡旋してる」

 「無節操〜」

 「日米貿易とも深くかかわっているし、貴重な外貨収入だから、日本政府も規制なしだそうだ」

 「アメリカ軍も悪くないかのな」

 「アメリカ企業群の番犬か」

 「日本企業だって、アメリカの生産力と市場に依存してるじゃないか」

 「つまり職業として成り立っている」

 「アメリカ極東権益地が潰れると困る人口も多いし、得する人口も多いからね」

 

 

 駐留アメリカ軍基地

 「空軍がピリピリしてないか?」

 「日本がCF105アローのライセンス生産を始めたからだろう」 

 「強いのか?」

 「さぁ ライトニングが軽戦闘機なら、アローは重戦闘機という感じだな」

 「負けそうなのか?」

 「いや、航続距離が短くて、迎撃機という感じだな」

 「それなら気にしなくても良いだろう」

 「まぁな」

 「しかし、でかい戦車だな」

 「コンパクトさに欠ける」

 「コンカラー重戦車より大きいじゃないか」

 「狭い道を走れないのは戦術機動で不利だな」

 「原野向きで、市街戦や穀倉地帯で戦わせたくない」

 「廃品流用でケチって、戦車にM1高射砲を載せるなんて」

 「60口径120mm高射砲なら長距離からでも敵戦車を破壊できる」

 「当たればね」

 「キャタピラは広いから、速度はともかく、射撃は安定しているはずだよ」

M95戦車
重量 hp 全長 車体長×全幅×全高 速度 航続距離 兵装  乗員
70トン 750×2 12.8 8×4.2×3.4 56km/h 350km 60口径120mm×1 4
7mm×2

 「イギリスのL11か、L7を買えば良かったのに」

 「でも、戦車で双発エンジンは、贅沢な気がするな」

 「アメリカの資本力と中国人の低賃金のなせる技だよ」

 「ていうか、アメリカ本土で余っていたM1高射砲をこっちに持ってきただけでは?」

 「結局、民間も、軍も同じ発想だな」

 「ソビエトの新型T62戦車は、41.5トン級のくせに55口径115m滑空砲だぞ」

 「タングステンがないと装弾筒付翼安定徹甲弾を作れない」

 「成形炸薬弾はライフル弾より射程が短くなる。滑空砲は面白くない」

 「日本人が穂国、カナダ、オーストリアでタングステン鉱山を開発したらしいが」

 「チタンも押さえてる」

 「くっそぉ〜 日本人は一気に資源メジャーか」

 「結局、日本資本の利権を認めて資源開発するか。否定して貧乏な思いをするかだ」

 「日本資本の掌で踊っているようで面白くない」

 「日本が高熱を使わずチタンを精製している節もあるし、情報部は、なにをやってんだか」

 「インチキしやがって」

 「だから参戦して主導権を握れば良かったんだ」

 

 

 カナリア諸島

 イギリス領テネリフェ島(2034ku)

 ティデ山(3718m)に登ると、緑の山岳地帯が広がる。

 「荒れた平地ばかりの大和、武蔵と違って水も多い、有利だな」

 「戦艦大和と武蔵の活躍でカナリア諸島を取れたのにイギリス。ずるい」

 「有利な島を取ったんじゃないか」

 「軍事的には小さいようだ」

 「イギリスに近いからいらないのだろう」

 「西サハラのドイツ・スペイン軍は、脅威だよ」

 「まだ戦争未満だ。それなら国力を付けるべきだろうね」

 

 

 大和・武蔵。

 アジアでの国で唯一、北大西洋に国土を持つ国、日本。

 とはいえ、カナリア諸島で降雨量の少ない、小さな島であり、

 ハズレの島でありながら人口が少なかったことが幸いし、

 日本人の移民が進み、バルカン・カフカス連邦の経済力が増すにつれ、

 北大西洋交易上の拠点となってしまう。

 日本軍駐留基地。

 ライトニング戦闘機12機、

 バルカン爆撃機6機、

 ハリアー戦闘機4機、

 CL44ユーコン対潜哨戒機4機、

 CL44ユーコン対空哨戒機4機、

 飛行艇4機

 センチュリオン戦車40両、

 日本軍将校たち

 「アメリカ機動部隊の攻撃を受けるとひとたまりもない戦力だ」

 「潜水艦によって、バランスを取っていると言えます」

 「人材は限られているというのに、機材整備人員を減らさないと、実働部隊で不安だな」

 「機体が高度になるほど、整備要員が増えますから」

 「中途半端な新兵器より、地下施設を拡張した方が防衛力で良さそうだ」

 「水がないので籠城戦は不利かと・・・」

 「そうだった。まるで火星みたいな光景だな」

 「火星に行ったことないだろう」

 「ドイツ帝国が撮った火星の写真が入ったよ」

 「気前良く、公開してくれるじゃないか」

 「画像を落としているようだが、見せびらかしたいだけだ」

 「お陰で日本人ばかりで良いよ」

 「民間機の航路が確保できて、イギリス、バルカンからの直行便も増えれば、住み易くなるだろう」

 「相互乗り入れで、ドイツからの直行便も来る」

 「物好きなやつだ」

 「連中は、日本の秘密を欲しがっているんですよ」

 「秘密か、ミサイルと銃弾を逸らせる程度の魔法使いはいるがね」

 「魔法使いの寿命を考えると戦争は避けたいですが」

 「使い魔を使うと寿命を消耗し難いと聞いたが?」

 「索敵と諜報で有利ですが実戦力で微妙ですね」

 「戦争で最優先は、情報と索敵だよ」

 イギリスのレーダー・ドーム・SOSUSとリンクしたレーダー・ソナースクリーンがカナリア諸島全域を映し、

 それとは別に巨大な水晶に大和島、武蔵島の周辺が投影されていた。

 「しかし、使い魔の索敵範囲は安上がりなのが良いが歪だな」

 「アホウドリは優れた偵察能力がありますよ」

 「下手な巡視船よりマシに使える」

 「目や耳になっても、手足がないのが辛いがね」

 

 

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 人鬼村 交響楽団

 ショパンの小犬のワルツが奏でる音色が転がるように流れ響き渡っていく。

 ピアノに合わせて、バイオリン、チェロ、フルートの共演が続き、

 エルフ、鬼族、ドワーフらを楽しませた。

 それまでガイアになかった繊細なメロディは、新しい文化を誕生させる。

 「ようやく、お披露目できる腕になったか」

 「レコードの方がまだマシな気がする・・・」

 「そのうち上手くなるよ」

 「芸術って、談合とか、和じゃなくて、自己感性の主張なんだよな。日本人に向かない」

 「組み立てるのに何ヵ月も掛けただけあったよ」

 「どうせなら職人と音楽家を召喚すればいいのに」

 「喰命鬼を5、6人送らないとな。召喚は当分無理そうだ」

 「喰命鬼に目星は、付いているのか?」

 「捜索はしているがね。法務省も渋っているらしい」

 「そりゃ 寿命を奪う化け物を国内に住まわせるんだからな」

 「だけど、魔法使いだけが寿命を搾取されるのは、公平とは言えないよ」

 「いくら贅沢ができても、だよねぇ」

 「・・・音楽か。野球、サッカー、バレーと、どっちが人気になるだろうか」

 「スポーツは鬼族に独占されたよ」

 「あいつらパワーあるからな」

 「芸術は、エルフ向きだな」

 主婦となり母親になった元将兵は、安全地帯で文化的なモノを育てていく。

 演奏後、出されるコーヒーとケーキのセットが喜ばれ、

 地球産の伝統が受けいられていく。

 

 

 国家は鉄なり、

 鉄が採れないのであれば国家足りえない。

 ガイア世界は、鉄は希少資源であり、

 銅が工業の中心になっていた。

 透明な防弾シリコン外板とカーボン内板に飛行石を挟みこんだ20m級スカイボートが宙に浮かぶ。

 光を使った飛行石外燃機関でプロペラを回し、徐々に速度を上げていく。

 諸外国が帆走である事に比べ、圧倒的に有利であり。

 科学技術上の優位性は保たれていた。

 「咸臨丸か・・・」

 「もう、アルミか、チタンで作りたい」

 「アルミはともかく、チタンの生産は鉄がないと難しいよ」

 「地球とガイアの扉を確実に繋げられれば、日本は最強の国になれそうなのだが」

 「アルフヘイムもエルフ本星の扉があるんじゃないか?」

 「調べているが不定期に繋がっている印象だな。さすがガイア最大の世界」

 「エルフ本星に行ってみたいものだ」

 「とりあえず。空輸業の開始だ」

 「積み荷は、全部載せたか?」

 「水と生鮮食品をこれから載せるよ」

 「ん? まてよ。何か足りない・・・あ・・・蒼乃。塩の袋を持ってきてくれ」

 「うん」

 蒼乃ツバキは、10歳だった。

 ガイア生まれの魔法使いとして期待されていた。

 と同時に重荷もあった。

 20分の4の確率で当たりくじを引いて、カルザン茨を被ることを強いられる。

 10年間も、この痛みに耐えるのは辛い。

 もっとも、成功すれば使い魔を所有できて、身の安全は格段に高まる。

 !?

 「・・・なんだ。こいつ」

 目の前をぼんやりと白い影が漂う。

 『わたしが見えるのか』

 中性的な女性の明瞭な声に声が出ない。

 「・・・・」 コクリ

 『魔法使いか。わたしと契約を結べば、使い魔になってやっても良いぞ』

 「使い魔・・・」

 『宿木を探していた。人間でもいいのだ』

 「何でここに?」

 『ヒルコ島に珍しげな種族が現れたと聞いて興味を持ったのだ』

 「・・・危ない気がする」

 『わたしは、肉体に間借りすることで生体素粒子の保存を確実にしたいだけだ』

 『固定された宿木より、動きやすい人間が面白い』

 「支配したり、寿命を奪ったりしないだろうな」

 『おまえ、それが簡単なことだと思えるのか』

 「いや、喰命鬼でないのなら無理だ」

 『喰命鬼ではないよ』

 『生体素粒子が近いことは確かだがね。普通の使い魔と変わらない』

 「得な事はないの?」

 『生体素粒子が倍になれば、知恵も使える能力も大きくなる』

 「ふ〜ん・・・」

 『時間があまりない。嫌なら、ほかを探そう」

 「・・・不利な部分は?」

 『プライバシーが少し減るだけで、寝床が欲しいだけ』

 「いつまで?」

 『そうねぇ 5年ごとの契約で良いわ』

 「・・・じゃ いいよ」

 『そうか・・・』

 彼女の名は、鬼碧(きみどり)

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 バルカン連邦、カフカス連邦は、ギリシャのような都市国家連合体になっていきそうです。

 国権発動で不利でも、日本人街も独立性を維持できて、

 利権を細分化させることで軋轢や差別を軽減できそうです。

 

 ガイアは、2世の時代に入っていきます。

 

 

 

 

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第24話 1964年 『虹の向こう』
第25話 1965年 『国境線に異常なし』
第26話 1966年 『権力の行方』